Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Conceptual Analysis of Cooperative Learning in Fundamental Nursing Education
Atsuko KitamuraTomoko MatsubaraKozo Fujimoto
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2024 Volume 44 Pages 99-107

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Abstract

目的:看護基礎教育における協同学習の概念を明確化し,看護基礎教育の教育方法としての有効性について検討すること.

方法:Walker & Avant(2005/2008)の概念分析手法を用いた.

結果:41文献を対象とした.概念の属性は【学習を促進させる互恵的な協力関係】【学習者と他者の相互交流】【個人が学習成果に責任を持つ】【社会的技能の学習】【改善の過程】の5つ,先行要件は【看護基礎教育技法の希求】【看護教員による授業設計】の2つ,帰結は【学習の深まり】【学習スキルの向上】【主体的な態度形成の促進】の3つが導き出された.

結論:本概念は「学習者と他者の相互交流をもとに学習を促進させる互恵的な協力関係を構築するプロセスであり,社会的技能の学習や,個人が学習成果に責任を持つこと,改善の過程が重要とされる教育活動である」と定義した.看護基礎教育において,学習の深まりや態度教育についての有効性が示唆された.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to clarify the concept of “collaborative learning in fundamental nursing education” and examine effectiveness of educational method in it.

Method: We used Walker & Avant’s (2005/2008) concept analysis method for this study.

Results: From 41 original papers and books are researched, the following five attributes were identified: “Mutually beneficial cooperation that facilitates learning,” “Interaction between learners and others,” “Individuals take responsibility for learning outcomes,” “Learning social skills” and “Process of improvement.” Furthermore, two antecedents that were found, were: “Desire for cooperative learning” and “Planning by teachers.” Three consequences were: “Deepening of learning,” “Improving learning skills,” and “Promotion of independent attitude formation.”

Conclusion: This study found that the concept of collaborative learning in fundamental nursing education is “a process of building mutually beneficial working relationships that promote learning based on interaction between learners and others, promoting learning of social skills and encouraging individuals to take responsibility for learning outcomes, and an educational activity in which the process of improvement is important.” It was suggested that collaborative learning is a useful educational method for an in-depth learning and educating attitudes in nursing education in Japan.

Ⅰ. 緒言

2012年中央教育審議会答申(中央教育審議会,2012)において「生涯にわたって学び続ける力,主体的に考える力を持った人材」の育成を目指し,「学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換」の必要性が述べられ,大学教育の質的転換が求められた.一方,わが国の看護基礎教育は,従来から講義,演習,実習を組み合わせて行われており,これらの学習形態の中では,学生間の討議を中心としたグループ学習が多用されてきた.このグループ学習は,学習者間の意見交換や相互の協力,連携などにより生じる相互作用を活用する授業形態であり(舟島,2020),その効果として,学生の主体性やコミュニケーション能力の育成,相互扶助の精神を形成するなどが報告されている(舟島,2020)が,学生がディスカッションの進め方や積極的な学習への意欲が不足している場合や,教授方法として十分な計画性が不足している場合などは,時間を浪費してしまうことや,平等性への不満,学習が深まらないなどのデメリットも報告されている(舟島,2020).

これらのグループ学習について,緒方(2016)Johnsonら(1984/2010)が開発した協同学習を基盤として,「協同して学び合うことで,学ぶ内容の理解・習得を目指すとともに,協同の意義に気づき,協同の技能を磨き,協同の価値を学ぶ(内化する)ことが意図される教育活動(安永,2019a)」を目的とし,看護基礎教育に導入した.この「協同学習」では,協同について,「同じ目的に向かい心と力を合わせて取り組むことであり,さらに,協働と協同とは極めて類似した概念でありながら,協同が心理的側面に重点をおいた表現であるのに対して,協働は働くという身体的活動を強調したもの(関田・安永,2005)」とし,「協同学習」する体験は,看護学生が将来就く看護専門職の看護・医療チームの中で協働する貴重なトレーニングの機会(米田ら,2006)を提供し,協同できる能力を必要とする看護職に不可欠な資質(コンピテンシー)の育成にも繋がるとされている(緒方,2016).

以上のように,看護基礎教育においてグループ学習の方法とし「協同学習」が試みられているが,「協同学習」と従来から行われているグループ学習が混同されている(杉江,2011)問題が指摘され,「協同学習」の効果が十分得られていないと報告されている.これは,看護基礎教育における「協同学習」の概念が明確化されていないことや,その為に教育方法としての構築が不十分になっていることが考えられる.

そこで,本研究では看護基礎教育における「協同学習」の概念を明確化し,グループ学習における「協同学習」をより効果的な看護基礎教育方法論として位置付けることを目指すための示唆を得ることを目的とした.

Ⅱ. 方法

1. 研究方法

概念分析にはWalker & Avant(2005/2008)の分析方法を用いて,概念の明確化を図った.

2. 分析対象文献の選定基準と除外基準

選定基準は以下の通りである.

1)学問領域:看護学,教育学

本研究における協同学習は,アメリカの協同学習関連の理論や技法が日本の教育界で注目され始めたことにより,小・中学校や高校のみならず,大学や専門学校などの高等教育機関において,教育学で発展してきた経緯(福嶋,2021)がある.その影響により看護学の教育においても協同学習を授業に多く用いるようになった.このような背景から,学問領域は教育学と看護学を対象とした.

2)使用データベース:日本語論文の検索には医学中央雑誌Web版とCiNiiを用いた.英語論文の検索にはCINAHLを用いた.米国教育学論文の検索にはERICを用いた.対象期間は,各データベースの検索可能な最も古い年から2021年1月までの期間で文献収集を行った.

3)ハンドサーチ:基本的な語義を検討するために辞典を用いた.「協同学習」についてのリファレンスの引用回数の多い書籍,看護学,教育学以外でも「協同学習」について基本的な内容や概念について報告された学術論文を対象とした.

4)除外基準は以下の通りである.

(1)日本語・英語以外の言語で記述された文献

(2)学会発表抄録

(3)タイトルや要約,本文の内容が研究目的と合致しない.

(4)看護学領域の論文では,研究対象者が看護学生ではない.

3. 分析方法

本研究は,看護基礎教育の「協同学習」の先行要件,属性,帰結という概念の基礎となる要素を明らかにし定義することを目的としたため,概念の構造を明らかにし概念間の類似点や相違点を説明することが可能なWalker & Avant(2005/2008)の概念分析の方法を用いた.Walker & Avantの方法では,概念の定義づける属性を決定することが概念分析の中心(Walker & Avant, 2005/2008)とされ,分析のプロセスは1)概念の属性,2)属性についての典型例と相反例,境界例,3)先行要件,4)帰結,5)経験的指標を明らかにする5つの段階を反復的に検討し分析を行った.先行要件とは,その概念の発生に先立って生じる出来事や例である(Walker & Avant, 2005/2008).また,帰結とは,概念が発生した結果として生じる出来事や状況である(Walker & Avant, 2005/2008).本研究では,「協同学習」に着目し,対象文献を精読し,属性,先行要件,帰結の意味内容に該当する箇所を抽出した.それらを簡略化したコードとし,類似した特徴をまとめてそれぞれを命名し(表1)構造的に示した(図1).さらに,すべての定義属性を例示する用例として典型例,定義属性が使用されない用例として相反例,部分的な定義属性の用例として境界例を作成した.以上の分析にあたっては,研究者3名で検討を行い同意が得られるまで修正の作業を行った.

表1 概念分析の各要素・コード・対象文献一覧表

属性 コード 文献
学習を促進させる互恵的な協力関係 少人数の学生集団が相互に援助しながら学習課題に取り組むクラス指導の一つの方略 Grant et al., 2002, p. 67
自分一人では成り立たず,学習仲間が必要 Grant et al., 2002, p. 67
自己と他者がどのような関係性であるかが重要 Grant et al., 2002, p. 67
互恵的な協力関係 Johnson, Johnson, & Holubec. 1984/2010, p. 14
学習活動を通じて個人と集団の成長をめざす 関田,2019
共通目標,報酬,資料の共有,役割の分担などの手法を用いる Johnson, Johnson, & Smith. 1991/2015, p. 85,Johnson, Johnson, & Holubec,1984/2010, pp. 14–15
互恵的な相互協力関係なくしては,協同はあり得ない Johnson, Johnson, & Smith. 1991/2015, p. 85,Johnson, Johnson, & Holubec, 1984/2010, pp. 14–15
学習者と他者の相互交流 学習者が他者と相互に関わり,影響を与えながら学んでいく学習 山崎・片上,2003
助けあい,共有しあい,学ぶことに対する取り組みを励ましあうことによって,互いの学習を増進 Johnson, Johnson, & Smith, 1991/2015, p. 85
学生たちをグループにして学習させれば協同学習になるというわけではない 関田,2013
活発な相互交流の中で情報を共有する 関田,2019
お互いの学びへの貢献を称え合う態度 Johnson, Johnson, & Holubec, 1984/2010, p. 15
人として認め合うことができる仲間がいるというパーソナルな支援 福嶋,2021, p. 74
個人が学習成果に責任を持つ 個人としての責任とグループとしての責任の両方が組み込まれなければならない Johnson, Johnson, & Holubec, 1984/2010, p. 15
グループの目的達成には,仲間が目標を達成できるようサポートすることが必要 福嶋,2021, p. 74
個人はグループの学習成果に責任を持つ Billings & Halstead, 2020, p. 291
社会的技能の学習 学習することを求められるだけでなく,グループの一員としての役目を果たす Johnson, Johnson, &Smith, 1991/2015, p. 85
対人関係技能や小集団技能(チームワーク)を学習する Johnson, Johnson, & Holubec, 1984/2010, pp. 15–16
改善の過程 活動の締めくくりに行う振り返り 福嶋,2021, p. 74
継続させるべき行動と改善すべき行動について判別する Johnson, Johnson, & Holubec, 1984/2010, p. 16
学生たちがいかにうまく作業しているかをグループとクラス全体に返す Johnson, Johnson, & Smith, 1991/2015, p. 85
先行要件 コード 文献
看護基礎教育技法の希求 知識や技術を高め合っていくねらいをもった授業づくり 五畿田・桐生・増山,2016
コミュニケーション技術の訓練や学びを得る体験が重要 島田,2015
従来の教員主導型演習では技術習得が困難 米田・伊丹・松宮ら,2012
コミュニケーションのプロセスを促進することを目的 Cate Gibson, 2018
学習達成度と定着度の深まり Gumbs, 2001
学習態度の変化に及ぼす影響を意図 Beck, 1992
看護教員による授業設計 協同学習の導入にあたっては,事前に授業計画を入念に練らねばならない Barkley, Cross, & Major, 2005/2009, p. 21
今のカリキュラムや学生,指導の目標を分析 Beck, 1992Johnson, Johnson, & Smith, 1991/2015, p. 89
自身の指導目標や学生の年齢や能力,背景に適合するような協同学習の環境を計画 Beck, 1992Johnson, Johnson, & Smith, 1991/2015, p. 89
クラス全体として共通の目標に向かっていく機会を提供 Jacobs, Power, & Loh., 2002/2005, pp. 12–16
学習空間の共有 有田,2019
協同学習の観点を入れて設計 Cobb, 1999;Leite Funchal Camacho, Feliciano, & Silva Leite, 2016
学生の関心を引きつける構造化された具体的なアクティビティの設計 Smith-Stoner & Molle, 2010
帰結 コード 文献
学習の深まり 学習の深まりは,協同学習の成功のための大切な要素 北村,2020
協同学習のジグソー学習法を取り入れることで学生同士が話し合い学び合う機会 McWilliams & Lee, 2020新屋,2018
自身の不足するスキルを自覚し自分の成長を実感できる 本田・五十嵐・木村ら,2018
学習能力,知能能力の向上 Loke & Chow, 2007
自己の学びが深化 榎本他,2020
学習スキル向上 学習技能の習熟,コミュニケーションの基礎が確立 Uno & Yamamoto, 2017
コミュニケーション・スキルの獲得や向上 古角,2017;Baghcheghi, Koohestani, & Rezaei, 2011;Cate Gibson, 2018
対人関係スキル,学習スキル,読解スキル,対話スキルの向上 安永,2019a, p. 54
自分を客観視して適切な自己表現ができる 島田,2016
主体的な態度形成の促進 学生自身の学習に責任を持つように促す学習法 Huff, 1997
主体的で能動的な深い学び 安永,2019b, p. 62
他者との相互依存関係の中で課題解決を図る協同作業を価値あるものと認識する 會田他,2017
対人関係の態度形成の促進 Diflorio, 1995
学生の社会化を促進 米田・川端・伊丹ら,2015
相互関係の構築 片岡,2013
知識・技術のみならず態度面でも成長する 橋本・平井・飯塚,2016
図1  看護基礎教育における「協同学習」概念図

Ⅲ. 結果

1. 分析対象文献の検索結果

データベースごとの検索語および検索式

1)医学中央雑誌Web版:シソーラス用語「看護学生」&「協同学習」で検索を行った結果は43件であった.選定基準に沿って13件を対象とした.

2)CiNii:「看護学生」&「協同学習」で検索を行った結果は17件で,選定基準に沿って7件を対象とした.

3)CINAHL:「Nursing Students」&「Cooperative learning」で検索を行った結果32件で,選定基準に沿って11件を対象とした.

4)ERIC米国教育学研究論文データベース:「Nursing Students」&「Cooperative learning」で検索を行った結果38件が検索されたが,選定基準に合致する文献は得られなかった.

5)ハンドサーチ:協同学習に関する書籍8件,辞典2件,学術論文4件を対象に加え,総対象文献数45文献のうち重複している4件を除き,最終的に41文献を分析の対象とした.

2. 概念分析結果

Walker & Avant(2005/2008)の分析方法を用いて看護基礎教育における「協同学習」の概念分析を行った.分析対象の文献から,概念についての記述内容を抽出し,簡略化してコードとした(本文中[ ]で記した).それらをまとめ,属性,先行要件,帰結の各要素とした(本文中【 】で記した).その結果,属性として【学習を促進させる互恵的な協力関係】,【学習者と他者の相互交流】,【個人が学習成果に責任を持つ】,【社会的技能の学習】,【改善の過程】,先行要件として【看護基礎教育技法の希求】,【看護教員による授業設計】が,帰結として【学習の深まり】,【学習スキルの向上】,【主体的な態度形成の促進】の各要素が得られた.

3. 概念の属性

1) 【学習を促進させる互恵的な協力関係】

協同学習は[少人数の学生集団が相互に援助しながら学習課題に取り組むクラス指導の一つの方略](Grant et al., 2002)であると説明されている.協同学習では[自分一人では成り立たず,学習仲間が必要](Grant et al., 2002)であり,[自己と他者がどのような関係性であるのかが重要](Grant et al., 2002)である.その関係性については,[互恵的な協力関係](Johnson et al., 1984/2010)と説明される.この互恵的な協力関係を基盤とした協同学習では,[学習活動を通じた個人と集団の成長をめざす](関田,2019)ことが可能である.学生はグループ課題の遂行のために互いを必要とすることを自覚しており,この関係を構築するには,[共通目標,報酬,資料の共有,役割の分担などの手法を用いる](Johnson et al., 1991/2015),[互恵的な相互協力関係なくしては,協同はあり得ない](Johnson et al., 1984/2010)とされている.

2) 【学習者と他者の相互交流】

協同学習は,同一の目標や分担した目標を達成するために[学習者が他者と相互に関わり,影響を与えながら学んでいく学習](山崎・片上,2003)であると説明される.協同学習のプロセスでは,学生は[助けあい,共有しあい,学ぶことに対する取り組みを励ましあうことによって,互いの学習を増進](Johnson et al., 1991/2015)することが必要であり,[学生たちをグループにして学習させれば協同学習になるというわけではない](関田,2013).協同学習のプロセスを支えるのは,学生たちが,[活発な相互交流の中で情報を共有する](関田,2019)とともに,助け合い,支え合い,励まし合い,[お互いの学びへの貢献を称え合う態度](Johnson et al., 1984/2010)である.助け合い・励まし合いには,自分の学習を支えてくれる仲間がいるというアカデミックな支援だけでなく,[人として認め合うことができる仲間がいるというパーソナルな支援](福嶋,2021)も含まれることが指摘されている.

3) 【個人が学習成果に責任を持つ】

協同学習には,[個人としての責任とグループとしての責任の両方が組み込まれなければならない](Johnson et al., 1984/2010).責任を果たすためには,[グループの中で自分の目標を達成するのはもちろんのこと,仲間が目標を達成できるようサポートすることが必要](福嶋,2021)である.このように,[個人はグループの学習成果に責任を持つ](Billings & Halstead, 2020)ことが要求される.

4) 【社会的技能の学習】

学生は教科内容について[学習することを求められるだけでなく,グループの一員としての役目を果たす](Johnson et al., 1984/2010)ために必要な,[対人的技能や小集団技能(チームワーク)を学習する](Johnson et al., 1984/2010)ことが同時に期待される.

5) 【改善の過程】

グループの改善手続きとは,[活動の締めくくりに行う振り返り](福嶋,2021)と,それによる改善の過程を指す.グループは,[継続させるべき行動と改善すべき行動について判別する](Johnson et al., 1984/2010).さらに,教員はグループの観察を通し,[学生たちがいかにうまく作業しているかをグループとクラス全体に返す](Johnson et al., 1991/2015)手続きが必要とされる.

4. 属性についての典型例と相反例,境界例

次に上記で得られた属性についての典型例,相反例,境界例を示す.

1) 典型例

基礎看護学担当の教員Aは,基礎看護学技術「清潔の援助」の教授活動において,技術的な修得を通して主体的に学習し,看護専門職としての知識や技術を追究する態度形成を学習目標とした.清潔援助の目的や解剖生理学的な基礎知識を授業形態で教授した後に,協同学習のジグソー法(杉江,2016)【学習者と他者の相互交流】を使用したグループ学習形態とした.グループ内では互いに質疑や返礼が十分行われるようにコミュニケーション方法について教示【社会的技能の学習】した.さらに学習課題について全員の学生が分担し責任をもって教え合うことや,メンバーのどのような教え方が効果的であったのか等についても討議しながら学習を進めるように教示した【改善の過程】.授業終了後の学生から「教える立場になり責任をもって自分で調べた【個人が学習成果に責任を持つ】.教えてあげた後にありがとうと感謝され,自分でも達成できたとの実感があり【学習を促進させる互恵的な協力関係】,これからも自分から学んでゆこうと思った.」との感想があった.学習目標の到達評価において,昨年度より技術習得得点の上昇が見られた.

2) 相反例

基礎看護学担当の教員Aは,基礎看護技術「清潔の援助」の教授活動において,看護技術を習得することを学習目標とした.清潔援助の目的や解剖生理学的な基礎知識を教授した後,グループ学習とした.グループには,各グループの学習成果として実技の実施をすることを課題とした.グループ学習の方法については各グループに任せることにした.教員は,個人の学習活動は評価の対象とせずグループの成果を成績評価とすることにした.グループ学習が始まると学生から,グループ内で課題を分担したがやってこない無責任なメンバーがいることや,不十分な内容でも平気で発表するメンバーに対してだれも手助けしないことなどに学生から不満が出された.技術習得度の評価として模擬場面での実施を課した.評価結果は,グループ間でばらつきがあり全体の平均値は昨年度より下降していた.

3) 境界例

基礎看護学担当の教員Aは,基礎看護技術「清潔の援助」の教授活動において,看護技術の習得を学習目標とし,併せてグループ内で協力する参加度を評価することとした.グループ学習には協同学習のジグソー法を用い,互いに協力し情報共有を十分すること【学習者と他者の相互交流】,各メンバーが項目を分担し責任をもって互いに学習することを促した【個人が学習成果に責任をもつ】.グループ学習の過程では学習項目の把握や教え合う技術にメンバー間の差(【社会技能の学習】の不足)があり協力関係を構築できなかった(【学習を促進させる互恵的協力関係】の不足)ことが分かり,評価結果では獲得知識や技術程度に差が出たことはしょうがないこと(【改善の過程】の不足)として,次年度の授業計画が作成された.

5. 先行要件

協同学習の先行要件の要素は【看護基礎教育技法の希求】,【看護教員による授業設計】の2つにまとめられた.

1) 【看護基礎教育技法の希求】

五畿田ら(2016)の報告では,[知識や技術を高め合っていくとのねらいをもった授業づくり]に加えてさらに,[コミュニケーション技術の訓練や学びを得る体験が重要](島田,2015)であるとの考えに基づき協同学習が実施されていた.また,米田ら(2012)は,[従来の教員主導型演習では技術習得が困難]から,基礎看護技術演習に協同学習を取り入れていた.さらに,[コミュニケーションのプロセスを促進することを目的](Cate Gibson, 2018)とし,[学習達成度と定着度の深まり](Gumbs, 2001),[学習態度の変化に及ぼす影響を意図](Beck, 1992)して協同学習を授業デザインに取り入れていた.

2) 【看護教員による授業設計】

[協同学習の導入にあたっては,事前に授業計画を入念に練らねばならない](Barkley et al., 2005/2009)と述べられており,この教員による授業計画とは[今のカリキュラムや学生,指導の目標を分析](Beck, 1992Johnson et al., 1991/2015)し,[自身の指導目標や学生の年齢や能力,背景に適合するように協同学習の環境を計画](Beck, 1992Johnson et al., 1991/2015)することである.学生にさまざまなことを単に小グループとして行う機会を提供するだけでなく,[クラス全体として共通の目標に向かっていく機会を提供](Jacobs et al., 2002/2005)し,協同作業場面を意図的に創り出すことが,協同学習に先立って必要である.互恵的関係を生み出すための仕掛けとして,[学習空間の共有](有田,2019)を行っていた.インタラクティブな取組みやコンテンツの作成には,[協同学習の観点を入れて設計](Cobb, 1999Leite Funchal Camacho et al., 2016)することが教員に求められる.したがって,看護教育者が,授業に協同学習を用いる際は,[学生の関心を引きつける構造化された具体的なアクティビティの設計](Smith-Stoner & Molle, 2010)を意味する.

6. 帰結

看護基礎教育の協同学習の帰結は【学習の深まり】,【学習スキルの向上】,【主体的な態度形成の促進】の3つ要素が得られた.

1) 【学習の深まり】

協同学習による[学習の深まりは,協同学習の成功のための大切な要素](北村,2020)である.[協同学習のジグソー学習法を取り入れることで学生同士が話し合い学び合う機会](McWilliams & Lee, 2020新屋,2018)につながっていた.[自身の不足するスキルを自覚し自分の成長を実感できる](本田ら,2018)ように変化することが報告されている.協同学習の結果,[学習能力や知的能力の向上](Loke & Chow, 2007)を通して[自己の学びが深化](榎本ら,2020)が得られている.

2) 【学習スキルの向上】

協同学習により[学習技能の習熟,コミュニケーションの基礎が確立](Uno & Yamamoto, 2017)され,他者との交流や話し合いを肯定的に捉える対人関係を円滑にする[コミュニケーション・スキルの獲得や向上](古角,2017Baghcheghi et al., 2011Cate Gibson, 2018)もみられた.協同学習の効果として期待できる技能とは,協同技能[対人関係スキル,学習スキル,読解スキル,対話スキルの向上](安永,2019b)と,[自分を客観視して適切な自己表現ができる](島田,2016)を指す.

3) 【主体的な態度形成の促進】

協同学習は,[学生自身の学習に責任を持つように促す学習法](Huff, 1997)とされ,[主体的で能動的な深い学び](安永,2019b)が成立する.[他者との相互依存関係の中で課題解決を図る協同作業を価値あるものと認識する](會田ら,2017)こと,学生間の関係性と他人を助けたいという責任感を高めることは,[対人関係の態度形成の促進](Diflorio, 1995)につながる事象である.また,促進的な相互依存関係を維持し協同する経験を積み重ねることが[学生の社会化を促進](米田ら,2015)し,[相互関係の構築](片岡,2013)につながった.学年の進行に伴い,[知識・技術のみならず態度面でも成長する](橋本ら,2016)ことも報告されている.

7. 経験的指標

看護基礎教育における協同学習では経験的指標として次の2つの尺度が使われていた.依存欲求尺度(田中,2003)は,メンバー間の関係性でもある互恵的相互関係について測定するものであり,有田(2019)は,2年間の老年看護学援助論の授業評価として使用している.

協同作業認識の測定には,協同作業認識尺度(長濱ら,2009)により数値化が可能である.協同作業認識尺度は,協同効用,個人志向,互恵懸念の3因子構造で18の質問項目より構成され,古角(2017)により看護基礎教育の授業において互恵的な協力関係についての評価手法として使用されている.現在のところ,協同学習における協同作業面についての評価では,この協同作業認識尺度が主要な従属変数,つまり達成されるべきゴールの指標として使われている(日本協同教育学会,2019).

さらに,協同学習の条件が,学生の「チームの特性」に焦点を当てているのではなく,課題を達成するための学生同士の「働き方」の学習プロセスに重きを置いていることから,チーミング理論と共通する視点があると考えられ,會田ら(2018)は,「ルーブリックTEAM-P2016v試作版」を開発しているが看護基礎教育では使用報告はない.

Ⅳ. 考察

1. 概念分析から得られた定義

本研究では看護基礎教育における「協同学習」は「学習者と他者の相互交流をもとに学習を促進させる互恵的な協力関係を構築するプロセスであり,社会的技能の学習や,個人が学習成果に責任を持つこと,改善の過程が重要とされる教育活動である」と定義する.

以上の定義から協同学習では,グループとしての形態に加え学習者間の関係性が主要な特徴であり,それらの関係性の変化を即させるプロセスへの教育的な介入が学習目標達成への効果となることが明確にされた.これらは,先行要件で明らかとなったように【看護基礎教育技法の希求】,【看護教員による授業設計】について,教員の学習プロセスへの具体的な計画が必要となり,帰結で得られた【学習の深まり】,【学習スキルの向上】,【主体的な態度形成の促進】のように,知識・技術についての学習効果を上げるばかりではなく,主体的に学ぶ学習スキルの向上を通して,主体的に責任をもって学習を続ける看護専門職において効果的な教育方法であると考えられる.

さらに,協同学習についての研究は,教育技法としての理論的な研究にとどまらず,実践への有効性について実際の看護基礎教育場面によって検証が図られてきた(杉江,2011).これらにより協同学習は,理論と実践が有機的に結びつくことができた最良の事例(杉江,2011)とされる.つまり,看護基礎教育における協同学習は実践を通して実証研究を重ねた教育活動であり,実践する上では要となる属性の5要素を全て含有していることが必要と考える.

2. グループ学習と協同学習についての方法論と効果

グループ学習は学習者たちが少人数の集団で学ぶ学習形式に対する最も広義な名称(関田・安永,2005)とされている.グループ学習の特徴は,共通する目的の達成を目指すとともに,メンバーがお互いに影響を及ぼし合うことを期待する小集団での学習形態である(小林・鈴木,2018).以上のグループ学習では,グループ内での議論の時間に沈黙が続き議論が深まらないなどの課題がある(小林・鈴木,2018).一方,協同学習は学習を進めるにあたり学習者が共通の積極的な意図を持ち,相互に影響を与えながら学習を展開する授業形態であり,学習者の協調的な行動を強調されている(舟島,2020).協同学習においては,本研究で明らかとなった属性の【学習を促進させる互恵的な協力関係】により,学習活動を通じて自身と他者がともに成長を目指すことが可能である.属性の【個人が学習成果に責任を持つ】ことにより,メンバーの成果物に対する「ただ乗り」を防ぎ,リフレクションにより属性の【改善の過程】を経て,個人とチームの成長を図っていくプロセスを経る.属性の【学習者と他者の相互交流】,【社会的技能の学習】についてはグループ学習でもみられるが,協同学習における【学習を促進させる互恵的な協力関係】,【個人が学習成果に責任を持つ】,【改善の過程】の属性がグループ学習に加えられる特徴であると考える.

以上の属性を踏まえた協同学習は,看護専門職の自己教育力の育成や自己の知識や技術をアップデートし,創造することを目指す専門職の主体的な態度を育む看護基礎教育としての効果が得られると考えられる.

3. 「協同学習」の看護基礎教育への活用

本研究で明らかになった先行要件は,看護学教育者の求める,看護師の積極的な対人関係スキルの習得と成長を促す革新的な指導方法の探究(Diflorio, 1995)に応えるものであり,看護学教育者に求められる授業の計画をすることで,より効果的な協同学習にするために必要な要件を満たすものと考えられる.さらに,本研究で得られた帰結は,看護学生の知識,技術の修得,表現力,コミュニケーション力の向上に加えて,学習への主体性,学習意欲の向上,協同学習で身につけた責任感の強化は,看護専門職としての態度育成に有用な看護学教育の理論的基盤をもつと考えられる.

協同学習の帰結は,看護学教育における学習の深まりに留まらず,看護学学習者として基礎的な態度形成に加えて,医療専門職業人として学び続ける看護師としての態度形成の促進に繋がるものであると考えられる.以上のように自己を見つめつつも,自己に完結せずに他者と互恵的な協力関係を築くプログラムである協同学習は看護専門職を育成する看護基礎教育において有用であると考える.

Ⅴ. 結語

本研究では看護基礎教育の「協同学習」を「学習者と他者の相互交流をもとに学習を促進させる互恵的な協力関係を構築するプロセスであり,社会的技能の学習や,個人が学習成果に責任を持つこと,改善の過程が重要とされる教育活動である」と定義した.

この定義に基づき看護基礎教育における協同学習は,知識,技術の教育方法として有効であるばかりではなく,主体的に責任をもって学習を続ける看護専門職において効果的な教育方法であると考えられる.

付記:本稿の一部は26th EAFONS(East Asian forum of nursing scholars)にて発表した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:A.Kは研究の着想およびデータ収集と分析,原稿作成のプロセス全体に貢献,T.Mは研究のデザインおよびデータ分析,原稿作成のプロセス全体に貢献,K.Fはデータ収集と分析および原稿作成のプロセス全体に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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