Journal of Japan Academy of Nursing Science
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The Mental Health of Parents Caring for Technology-Dependent Children at Home: A Scoping Review
Fumitaka SatoSatoshi YagoShoko KatsumotoYuko AsamiKayoko SuzukiAi MatsuzakiMotoko Okamitsu
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2024 Volume 44 Pages 1005-1017

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Abstract

目的:在宅で医療的ケア児を養育する親のメンタルヘルスに関する定量的エビデンスを概観すること,研究ギャップを明らかにすることを目的とした.

方法:Arksey & O’Malleyのフレームワーク及びPRISMA-ScRのガイドラインに従ってスコーピングレビューを実施した.包含基準は在宅で18歳以下の医療的ケア児を養育する親のメンタルヘルスに関する定量的データを含む原著論文とした.

結果:17件の論文を分析対象とした.親のメンタルヘルスに関して,抑うつ,不安,介護負担感,ストレス,心理的苦痛,QOL,睡眠障害,燃え尽き症候群,肯定的感情,生活満足度,自尊心,ウェルビーイングなど多様なメンタルヘルスの問題が報告されていた.

結論:本研究の結果から,在宅で医療的ケア児を養育する親が,複合的なメンタルヘルスの問題を経験していることが明らかとなり,更なる支援及び研究拡大の必要性が示唆された.

Translated Abstract

Purposes: This scoping review aimed to systematically map quantitative evidence regarding the mental health of parents caring for technology-dependent children at home and to identify research gaps.

Methods: This review was conducted following the Arksey & O’Malley framework and PRISMA Extension for scoping reviews. The original articles regarding the mental health of parents caring for technology-dependent children up to 18 years old at home, written in English or Japanese, were selected.

Results: Seventeen articles were included. Parental mental health problems, such as depression, anxiety, caregiver burden, stress, decreased quality of life, sleep disturbances, and burnout were reported.

Conclusions: This review suggested that parents caring for technology-dependent children at home experienced various mental health problems. Therefore, it is required to expand research regarding the mental health of parents caring for technology-dependent children.

Ⅰ. 緒言

新生児及び小児医療の進歩により,重度の障害を抱える子どもが増えている(Cohen et al., 2011).また,そうした障害を抱える子どもの中で,医療的ケアに依存しながら生活をしている医療的ケア児の数が世界的に増加している(Wallis et al., 2011Weiss et al., 2016Caicedo, 2014).日本においても,医療的ケア児の数は年々増加傾向であり,全国総数は約2万人と推定され,過去10年で約2倍に増加している(厚生労働省,2021).そして,その数は今後も増加していくことが予測されている.また,医療的ケア児の急激な増加,医療技術の進歩に伴い,医療施設から在宅療養環境への移行が推進されている(厚生労働省,2019).2021年には「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が成立するなど,社会的関心が高まっている.こうした様々な障害を有し,医療的ケアを必要とする子ども達の多くは,主に親によってケアが行われている(Caicedo, 2014).医療的ケア児の親は,通常の養育に加え,経管栄養,人工呼吸器管理など様々な医療的ケアを日常的に行い,身体的,精神的な負担が生じることだけでなく,日常生活においても就業など社会生活の制限が生じる.しかし,その支援は未だ十分に整っているとは言えず,医療的ケア児とその家族に対する更なる支援の充実が今後の社会的課題である.

医療的ケア児の親は,抑うつ,不安(Gong et al., 2019Mah et al., 2008),ストレス(Meyer-Macaulay et al., 2021Carnevale et al., 2006),社会的孤立(Gong et al., 2019Carnevale et al., 2006)などの様々なメンタルヘルスの問題を経験することが,これまでの質的研究において報告されている.親のメンタルヘルスは養育行動の重要な予測因子(Taraban & Shaw, 2018)である.支援の方向性を検討するためには,質的研究だけでなく,在宅で生活する医療的ケア児の親のメンタルヘルスに焦点を当てた量的研究の充実が必要であり,それらは今後の具体的な看護支援,介入支援プログラム開発などの方向性の明確化に繋がることが期待できる.しかしながら,医療的ケア児の親の心理社会的側面に関しては,小規模サンプルの研究や質的研究に偏り,定量的に評価した研究が少ないことが指摘されている(Mesman et al., 2013).今後,医療的ケア児を養育する親のメンタルヘルスに関する定量的エビデンスをさらに蓄積していく上では,既存研究の結果を網羅的に概観および整理し,研究ギャップを特定することが有用である.

そこで,本研究では,1)在宅で医療的ケア児を養育する親のメンタルヘルスに関する定量的エビデンスを概観し,医療的ケア児の親が経験するメンタルヘルスの実態,対象の特性,アウトカム指標,使用尺度,結果,関連要因について知見を整理すること,2)関連する既存の研究におけるギャップを特定することを目的としスコーピングレビューを実施した.

Ⅱ. 用語の操作的定義

1. 医療的ケア児

Office of Technology Assessment(Office of Technology Assessment, 1987)の定める定義を参考に,以下のいずれかのグループに属する子どもと操作的に定義した.①毎日少なくとも生活の一部で人工呼吸器に依存している子ども,②栄養剤や薬剤の長期的な静脈内投与を必要とする子ども,③他の医療機器による呼吸器ケアまたは栄養補給に毎日依存している子ども,④毎日またはほぼ毎日看護を必要とし,身体機能を補うために他の医療機器に長期に渡って依存している子ども.

2. メンタルヘルス

World Health Organization(WHO, 2022)の定める定義及び先行研究(Keyes, 2002)を参考に「情緒的,心理的,社会的幸福を含む,精神面の健康状態」と操作的に定義した.

3. 親

「医療的ケア児を在宅で養育する父親,母親」と操作的に定義した.

Ⅲ. 方法

本研究では,研究領域の基盤となる主要な概念や利用可能なエビデンスを概観することを目的とする方法であるスコーピングレビューの手法を用いた.レビュープロセスはArksey & O’Malleyにより発案されたフレームワーク(Arksey & O’Malley, 2005)及びPRISMA-ScRのガイドライン(Tricco et al., 2018)に準拠して行った.

本研究におけるPCC(Patient, Concept, Context)は以下のように設定した.Patientは「18歳以下の医療的ケア児を在宅で養育する親」,Conceptは「医療的ケア児の親が経験するメンタルヘルスの実態,対象の特性,アウトカム指標,使用尺度,結果,関連要因」,Contextは「在宅療養環境」とした.

1. 文献検索

データベース検索はPubMed,CINAHL,医学中央雑誌Web版(ver. 5)を用いて,2022年8月8日に実施した.検索用語は複数の研究者及び図書館司書と協議した上で決定した.各データベースにおける文献検索式を表1に示す.

表1 各データベースの文献検索式

PubMed (child OR infant OR adolescence) AND (“disabled children”[mh] OR “technology depend*” OR “medical complex*” OR “special health care needs” OR “medically fragile” OR “complex care needs” OR “biomedical technology”[mh] OR (enteral nutrition) OR (parenteral nutrition) OR (oxygen inhalation therapy) OR “home oxygen therapy” OR tracheostomy OR ventilator OR “respiration, artificial”[mh] OR (surgical stomas) OR (intermittent urethral catheterization) OR suction OR (peritoneal dialysis)) AND (family OR “parent-child relations”[mh] OR caregivers OR mother OR father OR parent) AND ((mental health) OR (well-being) OR “stress, psychological”[mh] OR depression OR “adaptation, psychological”[mh] OR (quality of life) OR emotions OR caregiver-health OR family-health OR “resilience, psychological”[mh] OR “psychological distress”[mh] OR “parenting stress” OR (caregiver burden)) AND (home OR community OR home-nursing) NOT (“neurodevelopmental disorders”[mh] OR “terminal care”[mh] OR “terminally ill”[mh] OR “neoplasms”[mh]) Filter:English
CINAHL ( (“Child”) OR (“Infant”) OR (“Adolescence”) ) AND ( (MH “Child, Medically Fragile”) OR (MH “children with disabled”) OR “technology depend*” OR “medical complex*” OR “special health care needs” OR “complex care needs” OR (MM “Technology, Medical+”) OR (“Enteral Nutrition”) OR (“Parenteral Nutrition”) OR (“Home Oxygen Therapy”) OR (“Tracheostomy”) OR ventilator OR (“Ventilators, Mechanical”) OR (“Surgical Stoma”) OR (“Urinary Catheterization, Intermittent”) OR (“Suction”) OR (“Home Dialysis”) OR (“Peritoneal Dialysis”) ) AND ( (“parents”) OR (“family”) OR (“caregivers”) OR (mother) OR (father) OR (MM “Parent-Child Relations+”) ) AND ( (“mental health”) OR (well-being) OR (MH “stress, psychological+”) OR (MH “adaptation, psychological+”) OR (“emotions”) OR (“quality of life”) OR “caregiver-health” OR (“Depression”) OR (“Family Health”) OR (MH “Psychological Distress”) OR (“Caregiver Burden”) OR (parenting stress) ) AND ( home OR community OR (MH “home nursing”) ) NOT ( (MH “Mental Disorders Diagnosed in Childhood+”) OR (MH “Terminally Ill Patients”) OR (MH “Childhood Neoplasms”) ) ) Filter:English
医中誌 (((小児/TH or 小児/AL) or (青年/TH or 青年/AL)) and ((医療的ケア/TH or 医療的ケア/AL) or (障害児/TH or 障害児/AL) or (経腸栄養/TH or 経腸栄養/AL) or (在宅経腸栄養/TH or 在宅経腸栄養/AL) or (中心静脈栄養/TH or 中心静脈栄養/AL) or (在宅中心静脈栄養/TH or 在宅中心静脈栄養/AL) or (在宅酸素療法/TH or 在宅酸素療法/AL) or (気管切開術/TH or 気管切開/AL) or (人工呼吸器/TH or 人工呼吸器/AL) or (酸素吸入療法/TH or 酸素吸入療法/AL) or (在宅人工呼吸療法/TH or 在宅人工呼吸療法/AL) or (間欠的導尿/TH or 間欠的導尿/AL) or (腹膜透析/TH or 腹膜透析/AL) or (吸引術/TH or 吸引術/AL)) and ((家族/TH or 家族/AL) or (介護者/TH or 介護者/AL) or (親子関係/TH or 親子関係/AL) or (母/TH or 母親/AL) or (父/TH or 父親/AL) or (両親/TH or 両親/AL)) and ((精神保健/TH or 精神保健/AL) or (心理的ストレス/TH or 心理的ストレス/AL) or (心理的適応/TH or 心理的適応/AL) or (生活の質/TH or 生活の質/AL) or (感情/TH or 感情/AL) or (抑うつ/TH or 抑うつ/AL) or ((育児/TH and 心理的ストレス/TH) or 育児ストレス/AL) or (“レジリエンス(心理学)”/TH or レジリエンス/AL) or (介護負担/TH or 介護負担/AL) or (家族の健康/TH or 家族の健康/AL) or (苦痛/TH or 苦痛/AL) or ((個人的満足/TH or ウェルビーイング/AL) or (患者の満足度/TH or ウェルビーイング/AL))) and (在宅/AL or (在宅介護/TH or 在宅介護/AL)) not ((神経発達症/TH or 神経発達症/AL) or (末期患者/TH or 末期患者/AL) or (ターミナルケア/TH or ターミナルケア/AL) or (腫瘍/TH or 腫瘍/AL) or (小児癌/TH or 小児がん/AL))) and (PT=原著論文,会議録除く)

2. 文献選定

包含基準は,①在宅で18歳以下の医療的ケア児を養育する親のメンタルヘルスに関する論文,②量的研究もしくはメンタルヘルスに関連するアウトカムを量的に測定している混合研究法の論文,③原著論文,④英語もしくは日本語で書かれた論文とした.両親以外を対象に含む文献,灰色文献,パイロットスタディ,レビュー文献,ケーススタディは除外した.先行研究において,医療的ケア児の年齢の定義は,研究によって異なるが,高等学校卒業後は,子どもの社会生活や利用できる社会資源が変化し,親のメンタルヘルスにも影響を及ぼす可能性があることから,本研究では,医療的ケア児の年齢を,高等学校卒業相当に当たる18歳以下とした.また,研究対象が小児がんの子どもの親である場合,小児がんは,治療過程において中心静脈カテーテルや経管栄養などの医療的ケアが必要な場合もあるが,必ずしも全ての子どもに医療的ケアを必要とするわけではなく,個々の医療ニーズに依存するため本研究から除外した.さらに,終末期の子どもを対象としている場合,子どもの死に対する親の予期悲嘆は,深刻な心理的負担を生じ,親のメンタルヘルスが特異的な様相を呈することが考えられるため,本研究では除外した.検索した文献は,タイトルとアブストラクトから選定する一次スクリーニング,フルテキストから選定する二次スクリーニングを2名の研究者が独立して行った.研究者間で意見が異なる場合には,第三者を交えて協議を行い,判断した.文献選定のフローダイアグラムは図1に示す.

図1  PRISMA 2020 flow diagram

3. データ抽出

選定した文献から一人の研究者がタイトル,著者,発表年,研究実施国,対象者,子どもの疾患,医療的ケア,使用尺度,主な結果に関するデータを抽出し,他の研究者が抽出したデータを確認した.

4. 論文の質評価

量的研究の文献はThe Joanna Briggs Instituteのcritical appraisal tools(JBI)のうち,Checklist for Analytical Cross Sectional StudiesもしくはChecklist for Case Series,混合研究法の文献はMixed Methods Appraisal Tool(Hong et al., 2018)を用いて,研究者2名が独立して論文の質を評価した.それぞれの評価ツールの項目の半数以上を満たす文献を分析対象として採用した.

Ⅳ. 倫理的配慮

データの抽出および分析に当たっては,著者の意味や意図が損なわれないよう配慮した.また,著作権の侵害に当たらないよう,文献情報を明確に記述した.

Ⅴ. 結果

1. 文献の概要

文献検索の結果,2818件が抽出され,包含基準に従って,最終的に17文献を分析対象とした.分析対象となった研究が報告された国の内訳は,アメリカが5件(Thyen et al., 1998Thyen et al., 1999Stephenson, 1999Johnson et al., 2021Levy Erez et al., 2022),イタリアが2件(Zanardo & Freato, 2001Paddeu et al., 2015),スペインが2件(Calderón et al., 2011Pedrón-Giner et al., 2014),トルコが2件(Ergenekon et al., 2021Gursoy et al., 2022),カナダ(Ray & Ritchie, 1993),日本(Suzuki et al., 2017),スウェーデン(Israelsson-Skogsberg et al., 2020),オランダ(van Oers et al., 2019),シンガポール(Chan et al., 2019),イギリス(Halsey et al., 2020)がそれぞれ1件であった.

研究デザインは,対照群との比較を行なっていない記述的研究が10件,対照群との比較を行っている横断的研究が5件,混合研究法が2件であった.出版年は1993年から2022年であった.対象文献は主に母親を対象としていた文献が12件であった.サンプルの一部に父親を含んでいた研究もあったが,多くは両親を家族介護者といったように同一のサンプルとして扱っていた.父親を対象に含み両親間の比較を行っていた文献は5件のみであった.対象文献に含まれた医療的ケア児が依存する医療的ケアは,経管栄養,気管切開,在宅酸素療法,人工呼吸器,中心静脈カテーテル,腹膜透析,経鼻エアウェイ,導尿,ストマ,ウロストミー,吸引などであった.対象文献のうち11件は特定の疾患もしくは医療的ケアに限定して調査をしていた研究であった.対象文献において,医療的ケア児の親のメンタルヘルスを測定するために使用された尺度は全部で26尺度であった.そのうち,子どもを持つ親のメンタルヘルスの測定に特化して開発された尺度は4尺度であった.測定されたメンタルヘルスの指標は,抑うつ,不安,介護負担感,ストレス,心理的苦痛,QOL,睡眠障害,燃え尽き症候群,肯定的感情,生活満足度,自尊心,ウェルビーイングであった(表23).

表2 分析対象文献の概要

No 著者
出版年
研究対象者 子どもの疾患 医療的ケア メンタルヘルスを測定した尺度 主な結果
1

Ray et al., 1993

カナダ

在宅で医療的ケアを必要とする3か月から16歳までの子どもの母親(n = 29)平均年齢:6.2歳 詳細な記載なし 経管栄養,気管切開,在宅酸素,中心静脈カテーテル,腹膜透析,無呼吸モニター

・The Clinician’s Overall Burden Index

・The Coping Health Inventory for Parents

・Visual analogue scales

・介護負担は,ストレスの有意な予測因子であり,介護負担増加は,ストレス増加と有意に関連していた(F = 4.51, df = 1.26, p = .04).

・介護負担の増加は,親のストレスコーピングのネガティブな変化(F = 7.03, df = 1.26, p = .01)と,子どもの年齢の増加は,親のストレスコーピングのポジティブな変化と有意に関連していた(F = 8.74, df = 1.26, p = .01).

2

Thyen et al., 1998

アメリカ

・研究群

6か月以上の慢性疾患を有し,この入院中にOffice of Technology Assessmentによって定義された医療的ケアが導入された子どもの母親(n = 65)

・対照群

同時期に急性期疾患で短期入院した子どもの母親(n = 54)

平均年齢:3.8歳

範囲(0~16歳)

先天性疾患

未熟児

脳性麻痺

てんかん

閉塞性腸疾患

腎臓疾患

重度の気道疾患

気管切開,人工呼吸器,吸引,ネブライザー,モニター,経管栄養,ストマ,ウロストミー,透析,中心静脈カテーテル,輸液ポンプ

・SF-36 Health Survey

・The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale

・研究群の親は対照群と比較し,抑うつ症状が大幅に高く(p < .001),約半数が臨床的うつ病を示唆するスコアを有していた.

・子どもの重症度が高さ(p < .01),家族のサポートの欠如(p = .05),ソーシャルサポートの評価が低いこと(p < .01),高いソーシャルサポートニーズ(p < .01)は,研究群の母親の高い抑うつ症状と関連していた.

3

Thyen et al., 1999

アメリカ

・研究群

6か月以上の慢性疾患を有し,この入院中にOffice of Technology Assessmentによって定義された医療的ケアが導入された子どもの母親(n = 70)

平均年齢:3.8歳(標準偏差=4.2)

・対照群

同時期に急性期疾患で短期入院した子どもの母親(n = 58)

平均年齢:3.7歳(標準偏差=4.7)

先天性疾患

未熟児

脳性麻痺

てんかん

閉塞性腸疾患

腎臓疾患

重度の気道疾患

気管切開,在宅酸素,ネブライザー,吸引,人工呼吸器,モニター,経管栄養,ストマ,ウロストミー,中心静脈カテーテル,輸液ポンプ ・SF-36 Health Survey

・健康関連QOLに関して,対照群の母親の平均値50.3と比較して,医療的ケア児の母親は41.6と有意に低かった(p < .01).

・医療的ケア児の母親の3分の1は,家で子供の世話をするために仕事をやめたと報告した.

・雇用されていない母親と比較して,雇用されている研究群の母親の心理的幸福度が高く,雇用が保護因子として作用していた.

4

Stephenson, 1999

アメリカ

・研究群

(1)家族による技術管理が必要,(2)出生後に集中治療が必要,(3)在宅期間が2週間以上6か月未満の乳児を持つ家族(n = 85)

・対照群

技術的支援を必要としない在宅期間が2週間以上6か月未満の乳児の家族(n = 87)

年齢:乳児

詳細な記載なし モニター,在宅酸素,気管切開,吸引,人工呼吸器,ネブライザー,静脈注射

・Family Crisis Oriented Personal Evaluation Scale

・Family Well-Being Assessment Scale

・研究群の親は,対照群の家族よりも,より多くのストレス要因と緊張を経験し,ウェルビーイングが有意に低かった.(p < .001)

・ストレスコーピングスコアとウェルビーイングは有意な負の相関があることが報告されていた(r = –.30).

5

Zanardo et al., 2001

イタリア

NICUから自宅退院し,在宅酸素を必要とする未熟児の両親(n = 20)

平均年齢:酸素中止時6.9か月

(範囲:3~14.7か月)

未熟児 在宅酸素 ・The State Trait Anxiety Inventory ・両親共に退院前に最も高いレベルの不安を報告したが,父親と比較し,母親が高いスコアを報告した.特に母親は在宅移行後の呼吸状態の改善,在宅酸素療法停止に伴い不安レベルが有意に減少した(p < .05).
6

Calderón et al., 2011

スペイン

長期の在宅経腸栄養を必要とする慢性疾患の小児患者の母親(n = 56)

平均年齢:6.8歳,標準偏差=5.1,

範囲=0.6~18.5

神経疾患

心疾患

消化器疾患

代謝性疾患

嚥下障害

経管栄養

・Zarit Caregiver Burden Interview

・SCL-90-R

・State-Trait Anxiety Inventory

・介護者の負担感は,心理的苦痛(r = .52, p < .001)および不安(r = .38, p = .01)と関連していた.回帰分析により,心理的苦痛は,不安と介護者の負担との関係において部分的な媒介効果を有することが示された.
7

Pedrón-Giner et al., 2014

スペイン

神経疾患を有し,胃瘻からの経管栄養を行っている小児の母親(n = 58)

年齢:0.3~18歳

神経疾患 経管栄養

・SCL-90-R

・Zarit Caregiver Burden Interview

・うつ病の症状を示すリスクの高い母親は,介護負担感で有意に高いスコアを示した(p = .01).

・母親の不安,抑うつ症状のリスクの高さと子どもの特徴や栄養サポート状況に有意な差はみられなかった.

8

Paddeu et al., 2015

イタリア

・研究群

先天性中枢性低換気症候群のため人工呼吸に依存する子どもの両親(n = 23)

平均年齢:9.2歳(標準偏差=6.9)

・対照群

外来にて健康診断を受診した同年齢の健常児(n = 23)

平均年齢:8.2歳(標準偏差=6.4)

先天性中枢低換気症候群 人工呼吸器(侵襲的陽圧換気,非侵襲的陽圧換気)

・Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI)

・Epworth Sleepiness Scale(ESS)

・Beck Depression Inventory II(BDI-II)

・Beck Anxiety Inventory

・全体の比較では,研究群の親は対照群の親と比較し,有意に睡眠の質が低下し(p = .01),眠気が増強し(p = .04),BDI-II スコアが高かった(p = .02)(それぞれ,PSQI スコア 6.5 vs 3.8,ESS スコア 6.2 vs 4.3,BDI-II スコア 8.4 vs 5.7 ).

・特に,研究群の母親は対照群の母親と比較して,睡眠の質が悪く,BDI-IIスコアが高かった(それぞれ,PSQIスコア 7.5 vs 3.8,BDI-IIスコア 9.3 vs 5.9 ).一方で,父親は眠気のスコア以外では対照群と有意差がなかった.

・上記の差は,特に低年齢の子どもを持つ親で顕著であった.

9

Suzuki et al., 2017

日本

医療的ケアを必要としている18歳以下の子どもの親(n = 246)

そのうちn = 242は母親

平均年齢:9.0歳(標準偏差=4.7)

脳性麻痺

染色体異常

脳症

てんかん

神経筋疾患

呼吸器疾患

脳血管疾患など

経管栄養,吸引,気管切開,在宅酸素,人工呼吸器,導尿,経鼻エアウェイ,十二指腸チューブ,ストマ,中心静脈栄養,腹膜透析 ・Zarit Burden Interview

・看護支援を受けた親と子どもは,看護支援を受けなかった親と比較して,有意に年齢が低く,医療ケアの必要性が高く,親の役割負担が大きかった.

・看護師によるケアコーディネートは,親の負担(β = –0.25, p < .01),役割負担(β = –0.28, p < .01),個人的負担の軽減(β = –0.22, p < .01)を予測した.

10

Chan et al., 2019

シンガポール

毎日1つ以上の医療技術を必要とする18歳以下の子どもの世話をしている母親(n = 80),父親(n = 8)

平均年齢:7.1歳(標準偏差=5.3)

詳細な記載なし 人工呼吸器,気管切開,酸素療法,吸引,経管栄養,導尿

・CES-D

・PedsQL Family Impact Module

・医療的ケア児を介護する親の合計44.5%が臨床的うつ病の高リスクであった.

・子どもの機能状態が中程度に悪いことは,介護者の抑うつ症状が多いことと関連していた.認識された社会的支援はこの関連を緩和した.

11

van Oers et al., 2019

オランダ

在宅経腸栄養に依存している子どもの母親(n = 37)と父親(n = 25)

平均年齢:5.1歳(標準偏差=4.6,

範囲=3~17.4)

慢性偽性腸閉塞症

短腸症候群

ヒルシュスプルング病

微絨毛封入体病など

経管栄養

・TNO-AZL Questionnaire

・Hospital Anxiety and Depression Scale

・Distress Thermometer for Parents

・研究群の母親は,対照群の母親と比較して,より高いレベルの抑うつを報告した(p = .001).

・研究群の母親と父親は,対照群の母親(p = .001)および対照群の父親(p = .03)と比較して,より高いレベルの心理的苦痛を報告した.

12

Israelsson-Skogsberg et al., 2020

スウェーデン

在宅で人工呼吸療法を受けた子どもの母親(n = 45),父親(n = 40)

平均年齢:8.5歳(標準偏差=4)

神経筋疾患

睡眠時無呼吸症候群

中枢性無呼吸症候群

染色体異常

人工呼吸器(侵襲的陽圧換気,非侵襲的陽圧換気)

・PedsQL Family Impact Module

・Insomnia Severity Index

・母親と父親との間で身体機能(p < 0.04)と認知機能(p < 0.01)には差がみられたが,全体的な健康関連QOLや家族機能に差はみられなかった.

・親の4人のうち1人が中等度から重度の不眠症を報告した.

・健康関連QOLの変動は,在宅人工呼吸療法のモードと睡眠の質によって,約45%の範囲で予測された(R2 = .45).

13

Halsey et al., 2020

イギリス

在宅経腸栄養に依存する合計14名の子どもを対象とし,その母親(n = 13),父親(n = 7),子ども自身(n = 4)がアンケートに回答

年齢:1~14 歳

短腸症候群

神経筋疾患

腸疾患

経管栄養

・Hospital Anxiety and Depression Scale

・Pediatric Inventory for Parents

・医療的ケア児の親は,他の慢性疾患をもつ子どもの保護者と比較して高いスコアを報告し,親の65%は不安のスコア,30%が抑うつのスコアにおいて境界域以上のスコアを報告した.抑うつと不安のスコアは両親間の有意差はみられなかった.

・医療的ケア児の親は炎症性腸疾患,がん,糖尿病,鎌状赤血球などの他の慢性疾患の親と比較し,高い育児ストレスを報告した.

14

Ergenekon et al., 2021

トルコ

・研究群

在宅人工呼吸療法に依存する子どもの母親(n = 21)

平均月齢:128.5か月

・対照群

健常児の母親(n = 32)

平均月齢:128.5か月

神経筋疾患

慢性肺疾患

脳性麻痺

代謝性疾患

ダウン症

中枢性低換気症候群

人工呼吸器(IPPV,NPPV),経管栄養

・Beck Depression Inventory

・State Trait Anxiety Inventory

・パンデミック期間中,うつ病の兆候は研究群8名(38.1%),対照群8名(25%)にみられた.

・パンデミック前とパンデミック中の抑うつスコアの比較では,研究群の母親の間に有意差はみられなかった(p = .09).

・研究群における不安のスコアは,対照群より高かったが,状態不安のスコアには有意差はみられず,特性不安のスコアのみ有意差(p = .04)がみられた.

15

Johnson et al., 2021

アメリカ

気管切開を受けた子どもを持つ親(n = 98)

年齢(気管切開時):1.6(SD = 3.5)

気道閉塞

呼吸不全

神経疾患

気管切開 ・PedsQL Family Impact Module ・親のPedsQLスコアの平均は76であった.先行研究における医学的に脆弱な子どもの親のスコアとは有意差はないものの,健常児の親のデータと比較すると低値を示した(p = .01).
16

Levy Erez et al., 2022

アメリカ

3か月以上透析を受けた18歳未満の子どもの親

腹膜透析(PD)患者の母親(n = 12),父親(n = 6)

平均年齢:8歳(範囲=2~17)

血液透析(HD)患者の母親(n = 5),父親(n = 2)

平均年齢:12歳(範囲=3~17)

腎疾患 腹膜透析

PROMISツールから以下を使用

・modified Sleep Disturbance Short Form 8a version 1.0

・Positive Affect Short 15a version 1.0

・General Life Satisfaction Short Form version 1.0

・透析を必要とする子どもの親の肯定的感情(平均±標準偏差=43.4 ± 10)および一般的生活満足度(平均±標準偏差=45.1 ± 11.5)は,一般成人集団と比較し,有意に低値であった.
17

Gursoy et al., 2022

トルコ

気管切開を受けた子どもの母親(n = 85)

平均年齢:4歳(範囲=2~13)

神経疾患

慢性肺疾患

心疾患

代謝性疾患

染色体異常

頭部顔面奇形

気管切開,在宅酸素,人工呼吸器

・Beck Depression Inventory

・MaslachBurnout Inventory

・Zarit Caregiver Burden Scale

・Rosenberg Self-esteem Scale

・母親の抑うつの平均スコアは15.5 ± 14.1であった.サンプルの55.2%(47人)の母親は軽度~重度のうつ病を示唆するスコアであった.

・母親の抑うつ得点は,情緒的消耗感(r = .52),脱人格化(r = .54),介護負担(r = .36),自尊心(r = –.30)得点と有意に相関していた.

・介護負担と自尊心は,情緒的消耗感(それぞれr = .43,r = –0.35)および脱人格化(それぞれr = .26,r = –.46)に有意な相関が見られた.

・情緒的消耗感と脱人格化のスコアは,過去6か月の入院回数(r = .35, r =.24),入院期間(r = .24, r = .26)と有意な相関がみられた.

表3 測定された親のメンタルヘルスの概要

抑うつ 不安 介護負担感 ストレス 心理的苦痛 QOL 睡眠障害 燃え尽き症候群 肯定的感情 生活満足度 自尊心 ウェルビーイング 両親間での比較
Ray et al., 1993
Thyen et al., 1998
Thyen et al., 1999
Stephenson, 1999
Zanardo et al., 2001
Calderón et al., 2011
Pedrón-Giner et al., 2014
Paddeu et al., 2015
Suzuki et al., 2017
Chan et al., 2019
van Oers et al., 2019
Israelsson-Skogsberg et al., 2020
Halsey et al., 2020
Ergenekon et al., 2021
Johnson et al., 2021
Levy Erez et al., 2022
Gursoy et al., 2022

2. 医療的ケア児を養育する親のメンタルヘルス

1) 抑うつ

抑うつは最も多く報告されていたメンタルヘルスの不調であり,サンプルの30%~55%が基準値を超えるスコアを報告していた(Thyen et al., 1998Ergenekon et al., 2021Gursoy et al., 2022Chan et al., 2019).抑うつに関連する要因としては,子どもの重症度の高さ(p < .01),家族のサポートの欠如(p = .05),ソーシャルサポートの評価が低いこと(p < .01),高いソーシャルサポートニーズ(p < .01)(Thyen et al., 1998),介護負担感(r = .36)(Pedrón-Giner et al., 2014Gursoy et al., 2022),過去の6か月の間の入院期間(r = .28)(Gursoy et al., 2022)などが挙げられた.一方で父親をサンプルに含む2件の研究(Paddeu et al., 2015van Oers et al., 2019)では,父親の抑うつ症状に関して,対照群との有意差はみられなかったが,それぞれ対象者数23名,25名と小規模サンプルによる調査であった.また,両親間で抑うつのレベルを比較した研究においても有意差は検出されなかったが,こちらも対象者数7名と小規模サンプルによる調査であった.

2) 不安

不安を測定した2件の研究(Pedrón-Giner et al., 2014Halsey et al., 2020)において,サンプルの53~65%が基準値を超える不安のスコアを報告していた.また,在宅移行期 から縦断的に調査した研究(Zanardo & Freato, 2001)では,在宅移行期に医療的ケア児の両親は不安の高まりを報告し,在宅療養中の医療的ケア中止に伴い,特に母親において不安レベルが低下したことが報告されていた(p < .05).一方で,新型コロナウイルスのパンデミック時に調査した研究(Ergenekon et al., 2021)では対照群と比較し,不安のスコアは高いものの,状態不安のスコアには有意差はみられず,特性不安のスコアでのみ有意差(p = .04)がみられた.

3) 介護負担感

親の介護負担感は,5件の研究において測定され,介護負担感は抑うつ(r = .37),バーンアウトスコアの下位尺度である情緒的消耗感(r = .43)および脱人格化(r = .26)(Gursoy et al., 2022),不安(r = .38),心理的苦痛(r = .52)(Calderón et al., 2011)と有意な正の相関関係があることが報告された.また,看護師が行うケアコーディネーションとの関連を調査した研究(Suzuki et al., 2017)では,看護師のケアコーディネートが親の介護負担感を軽減させることが報告された.

4) ストレス

医療的ケア児の親は,炎症性腸疾患,がん,糖尿病,鎌状赤血球症などの他の慢性疾患の親と比較し,有意に高い育児ストレスを報告した(Halsey et al., 2020).また,介護負担の増加が,ストレスの増加(F = 4.51, df = 1.26, p = .04),ストレスコーピングのネガティブな変化(F = 7.03, df = 1.26, p = .01),子どもの年齢の増加がストレスコーピングのポジティブな変化(F = 8.74, df = 1.26, p = .01)にそれぞれ有意に関連していたことが報告されていた(Ray & Ritchie, 1993).

5) 心理的苦痛

医療的ケア児の母親と父親は,健常児の両親と比較し,有意に高い心理的苦痛に関するスコアを報告していた(それぞれp = .001,p = .03)(van Oers et al., 2019).また,心理的苦痛は親の介護負担感と正の相関を示すこと(r = .52)や,不安と介護負担感の関係において媒介効果をもたらすことが報告された(Calderón et al., 2011).

6) Quality of life(QOL)

医療的ケア児の親は健常児の親と比較し,QOLが有意に低下していることが報告されていた(p = .01)(Johnson et al., 2021).また,人工呼吸器を必要とする子どもの親を対象とした研究では,子どもが気管切開を行い侵襲的換気を行っていること,親の夜間の睡眠の質が低いことは,QOLの変動を約45%の範囲で予測することが報告されていた(R2 = .45).一方で両親間の比較では,母親と父親との間でQOLに有意な差はみられなかった(Israelsson-Skogsberg et al., 2020).

7) 睡眠障害

人工呼吸器を必要とする子どもの親を対象とした研究(Israelsson-Skogsberg et al., 2020)では,対象者の4人に1人が中程度から重度の不眠症を報告した.また,別の研究では,医療的ケア児の親は,健常児の親と比較し,有意に睡眠の質が低下し(p = .01),眠気が増強(p = .04)したことを報告していた(Paddeu et al., 2015).

8) 燃え尽き症候群

気管切開を行った子どもの親を対象とした研究(Gursoy et al., 2022)では,バーンアウトスコアのうち,下位尺度である情緒的消耗感は抑うつ(r = .52),介護負担感(r = .43),過去6か月の入院回数(r = .35)および期間(r = .24),下位尺度の脱人格化は抑うつ(r = .54),介護負担感(r = .26),過去6か月の入院回数(r = .24)および期間(r = .26)との間にそれぞれ有意な相関関係があることが報告されていた.

9) 肯定的感情および生活満足度

透析を必要とする子どもの親を対象とした研究では,一般成人と比較して,肯定的感情(平均値±標準偏差=43.8 ± 8.5)や生活満足度(平均値±標準偏差=44.8 ± 9.7)のスコアが低いことが報告されていた(Levy Erez et al., 2022).

10) 自尊心

気管切開を行った子どもの親を対象とした研究(Gursoy et al., 2022)では,親の自尊心は抑うつ(r = –.30),バーンアウトスコアの下位尺度のうち情緒的消耗感(r = –.35)と脱人格化(r = –.55)と有意な負の相関関係にあることが報告されていていた.

11) ウェルビーイング

医療的ケア児の親は対照群の親と比較して,ウェルビーイングが有意に低下することが報告されていた(p < .001)(Thyen et al., 1998, 1999).また,ウェルビーイングは抑うつ症状と有意な負の相関があること(r = –.82)(Thyen et al., 1998),ストレスコーピングスコアとウェルビーイングとの間には有意な負の相関があることが報告されていた(r = –.30)(Stephenson, 1999).

Ⅵ. 考察

1. 医療的ケア児を養育する親のメンタルヘルスの実態,アウトカム指標および関連要因

本研究の結果より,医療的ケア児を養育する親は,抑うつ,不安,ストレス,心理的苦痛,睡眠障害などの多様なメンタルヘルスの問題を抱え,QOL,肯定的感情,生活満足度,自尊心,ウェルビーイングにおいても,対照群として比較して,有意に低いことが明らかとなった.医療的ケア児の親は,在宅移行前の入院環境においても,抑うつやストレスなどのメンタルヘルスの問題を経験していることが明らかになっているが(Mackay et al., 2020),在宅移行後も,多様なメンタルヘルスの問題を経験していることが示唆された.特に,30~55%の親が高い抑うつのスコアを報告し,医療的ケア児の親はうつ病のリスクが極めて高いことが明らかとなった.

対象文献で報告された親のメンタルヘルスの不調に関して特徴的であったのは,それらが子どもの重症度,介護負担感,ソーシャルサポート,医療依存度,侵襲的な医療的ケアなどと関連していた点である.医療的ケア児の親は,ケア技術の習得,生活に適応するために努力を必要とし(Nishigaki et al., 2016),在宅での生活において,親であると同時にケア提供者としてケアの実践や調整など,多様な役割を担っている(Kirk et al., 2005).また,医療的ケア児の親は多様な役割負担のみならず,在宅で医療的ケア児を養育する上で,子どもの体調不良や,医療機器の不具合発生等のトラブルに備え,必要時に対処しなければならない困難,物品調達や在宅療養環境調整等のための経済的な負担に直面している(Pitch et al., 2023Mitchell et al., 2022).そうした負担は,一時的なものではなく,在宅で医療的ケア児を養育する上で常に直面しなければならない問題の一つであり,結果としてメンタルヘルスにも影響を及ぼす可能性が考えられる.さらに,医療的ケア児は他の慢性疾患児と比較し,予期せぬ入院や,救急外来受診が多いことが明らかとなっており(Matsuzawa et al., 2022),医療的ケア児は医学的に不安定であり,医療依存度が高い対象であると言える.子どもの医学的な複雑さは,養育者の心理社会的負担の増加につながるため(Raina et al., 2004),子どもが医療的ケアに依存することは,親の様々な負担につながり,それらが抑うつや不安などといった複合的な親のメンタルヘルスの不調へと繋がっている可能性が考えられる.医療への依存度が高いため,在宅療養環境における十分なサポートが必要であるが,サポートが不十分であった場合はケア負担が増加し,メンタルヘルスの不調へとつながる可能性が考えられる.そのため,直接的なケアサポートだけでなく,看護師によるケア負担軽減のためのケアコーディネーション(Suzuki et al., 2017)など,在宅療養環境における適切な介入支援が必要である.

一方で,医療的ケア児の父親を対象とした研究では,小規模サンプルではあるものの,抑うつのスコアに関して,対照群との有意差はみられなかった.対象文献における主養育者のほとんどが母親であったことに表れているように,母親が子どものケアの多くを担うことにより,母親にケア負担が集中することが影響している可能性が考えられる.

親のメンタルヘルスの不調は子どもの養育における重要な予測因子(Taraban & Shaw, 2018)であり,親の養育行動に影響を及ぼすだけでなく,親子相互作用の質の低下(De Falco et al., 2014)や,子どもの成長発達(Giallo et al., 2014),夫婦関係(Kouros & Cummings, 2011)にも影響を及ぼす可能性がある.そのため,在宅で医療的ケア児を養育する親のメンタルヘルスへの支援を充実させることは,親のメンタルヘルスを改善させるだけでなく,パートナーや子どもとの関係性においても肯定的な影響を及ぼし,家族全体のウェルビーイング向上に繋がると考えられる.したがって,在宅療養環境においても,親のメンタルヘルスを継続的に評価するだけでなく,親子の関係性支援など,親子双方に焦点を当て,家族の強みを引き出す支持的なサポートを継続的に提供していく必要がある.

2. 対象文献の特徴,研究におけるギャップと今後の課題

対象文献の多くは欧米で報告されたものであり,日本を含むアジアで実施された研究は2件に留まっていた.日本においても医療的ケア児が増加し,社会的関心が高まっているが,医療的ケア児を養育する親のメンタルヘルスに関するエビデンスは不足しており,更なる研究が求められる.

また,対象文献では26種類の異なる尺度が用いられていた.同一のメンタルヘルス指標を測定する場合でも,用いられた尺度や対象の特徴が研究間で異なる場合が多く,単純な結果の比較は困難であった.使用された尺度の多くは一般成人集団などを対象として開発されたものであり,子どもを養育する親に特化して開発された尺度は4種類のみであった.医療的ケア児は,疾患,依存する医療的ケアなどの特徴的な属性を有するため,一般集団を対象として開発された尺度では,実態を反映した適切な測定が難しい可能性がある.そのため,今後の研究では,使用尺度の妥当性を十分に検討しながら,医療的ケア児を養育する親に特化した測定尺度の開発も必要である.

分析対象となった研究には,特定の疾患や医療的ケアに依存する子どもの親を対象に含む研究,特定のメンタルヘルスの側面のみに焦点を当てた研究,小規模サンプルを調査した研究が半数以上含まれていた.そのため,医療的ケアに依存する子どもの親のメンタルヘルスに関して,子どもの特徴が親のメンタルヘルスにどのように影響を及ぼすか,複数のメンタルヘルスの問題がどのように相互に影響し合っているかなどを明らかにするためには,更なるエビデンスの蓄積が必要であり,多様な子どもの属性間での比較,複数の調査項目を含めた大規模なサンプルでの調査など,研究拡大が求められる.

対象文献の多くが親のメンタルヘルスを横断的に調査した研究であり,縦断的デザインの研究は少数のみであった.また,メンタルヘルスの改善を目的とした介入研究は含まれなかった.医療的ケア児の養育においては,就園・就学など児のライフステージや,同胞の出産など家族のライフイベントに応じて親の負担が大きく変化し,特有の課題が生じる可能性がある.そのため,児の発達段階やライフステージを考慮した親のメンタルヘルスの経時的変化や,ライフイベントとの関連など,縦断的な研究が求められる.また,対象文献はメンタルヘルスの不調に関して報告したものが多くを占めた.自尊心やウェルビーイングなど,ポジティブなメンタルヘルスの測定を目的とした研究もあったが,いずれもネガティブな結果が報告されていた.親のポジティブなメンタルヘルスは支持的な養育に影響を及ぼすことが明らかとなっており(Rueger et al., 2011),養育においても重要な要素である.そのため,ポジティブなメンタルヘルスの関連要因の探索や,それらの推進に焦点を当てた介入研究およびその効果検証などの研究拡大が求められる.

分析対象となった研究は,対象が主に母親であることが多く,両親間で比較を行っていた研究は少数であった.先行研究において,両親間のメンタルヘルスは相互に影響すること(Ramchandani et al., 2011),父親のメンタルヘルスは養育態度(Wilson & Durbin, 2010)や養育関与(岐部,2016)に影響を及ぼすこと,親のメンタルヘルスが子どもの発達に影響を及ぼすこと(Giallo et al., 2014)が報告されているが,こうした関連性が医療的ケア児および医療的ケア児を養育する親においても同様の傾向を示すかどうかは明らかになっていない.医療的ケア児を在宅で養育する親,特に母親は社会および家庭内で孤立感を抱く可能性があること(Gong et al., 2019Falkson et al., 2017),医療的ケア児の主養育者は子どもの養育のために二人目の家族養育者の必要性を感じていることが報告されている(Tolomeo & Bazzy-Asaad, 2010).そのため,医療的ケア児においても父親の養育への参加を促進するための支援が重要であるが,父親を対象とした支援や研究はいまだ充実しているとは言えない.医療的ケア児の父親を対象とした質的研究では,父親は子どもへの尽きない不安,生きづらさ,新たな生活を構築するための戸惑いを抱えていること(上杉・前田,2021),仕事から家庭内において様々な役割調整を担っていることが報告されており(藤岡 et al., 2015),父親には母親とは異なる特有のメンタルヘルスの問題が生じる可能性がある.以上より,父親を対象に含む研究,子どものアウトカムを含む研究に関しては,今後更なる研究が必要である.

Ⅶ. 研究の限界

本研究では3つのデータベースのみを使用したため,関連する研究全体の網羅性に関しては課題を残した.対象文献は欧米で報告されたものが多数を占めたが,多様な文化圏で研究が実施されていた.メンタルヘルスの問題は,その国の文化,医療,制度などによって強く影響を受けることが予測される.しかしながら,本研究では,定量的エビデンスを概観し,研究ギャップを明らかにすることを目的としたため,そうした観点からの分析は行なっておらず,今後検討が必要である.

また,本研究では対象を18歳以下の医療的ケア児を養育する親に限定したため,19歳以上の医療的ケア者を含む研究,対象が主養育者であっても,祖父母,里親,同胞など親以外の者が主養育者であった文献は除外した.医療的ケア児の養育者のメンタルヘルスを網羅的に検討する上では,今回除外された文献を含めた検討も必要である.

本研究で採用された文献は研究実施国,対象の属性および子どもが依存する医療的ケアなどに偏りがあること,小規模なサンプルの研究が多かったことなどから,本研究の結果の一般化には限界がある.

Ⅷ. 結論

在宅で医療的ケア児を養育する親のメンタルヘルスに関する17件の文献を対象にスコーピングレビューを実施した.分析対象となった文献では,抑うつ,不安,介護負担感,ストレス,心理的苦痛,QOL,睡眠障害,燃え尽き症候群,肯定的感情,生活満足度,自尊心,ウェルビーイングが測定され,医療的ケア児を養育する親は複合的なメンタルヘルスの問題を経験すること,メンタルヘルスの不調のリスクが高いことが明らかとなった.そのため,看護師は,入院中だけでなく,在宅療養に移行した後も親のメンタルヘルスを継続的に評価し,親子双方に焦点を当てた家族の強みを引き出す支持的で適切なサポートを提供する必要がある.また,研究ギャップとして,縦断研究,メンタルヘルスの改善に焦点を当てた介入研究及びその効果検証,父親を対象に含む研究,子どものアウトカムを含む研究などの不足が明らかとなり,今後更なる研究拡大が必要である.

付記:本研究は,東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科5年一貫制博士課程におけるQualifying Examinationの発表論文(2022年度)に加筆,修正を加えたものである.また,本研究の一部は26th East Asian Forum of Nursing Scholars 2023において発表した.

謝辞:東京医科歯科大学大学院小児・家族発達看護学分野研究室の皆様はじめ,本研究に関してご指導賜りました皆様に深く感謝申し上げます.

利益相反:本研究に関する利益相反は存在しない.

著者資格:FSは研究の着想及びデザイン,データ収集と分析,草稿の作成;MO,SYはデザイン及びデータ分析と解釈,研究プロセス全体への助言;SK,YA,KS,AMはデータ収集と分析,解釈に貢献した.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.

文献
 
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