Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Reviews
Life of Japanese Older Parents of Persons With Disabilities: A Scoping Review
Akemi MatsuzawaNaho SatoAya Nakazuru
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2024 Volume 44 Pages 1072-1082

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Abstract

目的:わが国における障がいのある人の親の向老期・高齢期の生活に関する研究を概観し,これらの親の生活の現状を明らかにし,今後の研究上の課題を検討する.

方法:Arksey & O’malleyが提示するスコーピングレビューを実施した.医学中央雑誌Web版とCiNii Researchを用いて,2000年以降の障がいのある人の向老期・高齢期の親の生活に関する文献を選定し,PRISMA-ScRに基づき報告した.

結果:21論文を分析した結果,これらの親は向老期・高齢期の生活において,わが子のケアを担い続けており,その中でわが子のケア・生活場所の移行の困難を経験し,自身の生活と健康への影響を受けていた.またわが子の将来の不安に加え,自身や配偶者の高齢化や健康障害が重なり合う複合的な不安を抱えていた.

結論:親の生活と健康への支援が必要であり,わが子へのケアの移行を含めた親自身の生活と健康に関する研究の蓄積が課題であることが示唆された.

Translated Abstract

Objective: This study conducts a comprehensive review of the living conditions and experiences of older parents of people with disabilities in Japan to better understand their lives.

Methods: Following Arksey & O’Malley (2005), this study conducted a scoping review based on the Preferred Reporting Items for Systematic reviews and Meta-Analyses extension for Scoping Reviews (PRISMA-ScR) guidelines using the following keywords: children or persons with disabilities, family, parents, mothers, fathers, and life. Literature on the living conditions of parents of persons with disabilities, published starting in 2000, was selected using the Ichushi Web and CiNii Research.

Results: A total of 21 articles were included in the review. The results showed that older parents of persons with disabilities continue to take on a caring role for their children, even if their children live in different places, such as institutions, impacting their lives and health. Parents also had psychological difficulties associated with the transition of their children’s care and living arrangements. In addition, these parents experienced anxiety about their children’s future, which was compounded by their own experiences of aging and overlapping health problems and family issues.

Conclusion: The results suggest the need for increased support for older parents of persons with disabilities to improve their lives and health.

Ⅰ. はじめに

わが国では,障がいのある人とその親,双方の高齢化が進んでいる.65歳以上の障がいのある人の割合は,身体障害者では平成18年の62%から平成28年には74%,知的障害者では平成17年の4%から平成28年には16%へと増加している(厚生労働省,2021).一方,障がいのある人のうち,65歳未満の人では,約8割が「同居者有」と答えており,そのうち障害者手帳保持者の65.6%,療育手帳保持者の92.0%が親と生活している(厚生労働省,2018).

このような障がいのある人とその親の状況は,親のケア期間の長期化を意味する.子どもは成長発達し,通常の場合,自然に親から分離して自立へと向かう.しかし,わが子に障がいがある場合,その子どもなりの成長発達を遂げつつも,永続的に何らかのケアを要する.それゆえにこれらの親は,上述したように,成人したわが子と長期間に渡って同居するなど,障がいのない子どもの親とは異なるライフコースを辿っている.このような状況は「老障介護」や「親なき後」など,家族によるケアの社会化をめぐり,社会的関心を集めてはいるが,いまなお未解決の社会課題のひとつである.

この問題の解決が難しい背景には,障がいのある人のケアが育児の延長線上にあるだけではなく,複数の要因があり,家族のケアを社会化する障壁となっていると考えられる.特にわが国では,障がいのある子どものケアは,第一義的に家族がみるという社会認識の存在があり,家族のことは家族でみるという意識が未だ根強い.また子育ての主たるケア役割を担うのは,9割以上が母親であり(小沢ら,2007),母親がわが子をケアすることを当然とするジェンダー観がある(鍛治,2016藤原,2006).そのうえ,障がいのある子どもの母親は,わが子への罪悪感や強いケア責任を感じるなど,特有の母性意識をもっており(中川,2003),障がいのある人と親の母子一体化,抱え込みなどの密着した親子関係も指摘されている(植戸,2012).一方で,このような障がいのある子どもの家族を取り巻く文化的な価値観を背景に,わが国の福祉制度は家族を含み資産として設計され(田中,2013),家族のケアを前提に公的,社会的に支援する姿勢がとられており,サービスの質・量が充分ではないなど,制度的な要因がある.さらに親と別居するには,障がいのある人本人と家族の経済的基盤の弱さもある(鍛治,2014田中,2020).これらにみるように,この問題は単なる親子関係の問題ではなく,障がいのある子どもの家族の子育てに内在/外在する特有の要因が,親がわが子のケアを社会に託すことを阻んでいると考えられる.

またこの問題は,わが国では障がいのある人の親が抱える養育上の関心事に注目され,問題として認識されている傾向がある.これらの親自身の関心もまた,わが子の自立やケアに強い関心が置かれている場合も多いが,これらの親への支援を検討する際には,親自身が高齢化に向かい,長期に養育役割を遂行しているという点に着目し,親自身の向老期・高齢期の発達課題に伴う生活への影響を勘案する必要があると考えられる.そこで本研究は,障がいのある人の親の向老期・高齢期における生活に関する研究をスコーピングレビューにより概観し,これらの親の生活の現状を明らかにし,今後の研究上の課題を検討する.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,障がいのある人の向老期・高齢期の親の生活に関する既存の知見を概観し,研究上のギャップを特定する.これを達成するため,研究デザインとして,Arksey & O’Malley(2005)が提示するScoping Reviewのフレームワークを採用し,研究疑問の特定,重要な研究の特定,研究の選定,データの抽出,結果の収集・要約・報告,結論の6つのステップを踏まえて実施した.またすべての作業の具体的内容は,Preferred Reporting Items for Systematic Review and Meta-analyses extension for Scoping Reviews(PRISMA-ScR)ガイドラインに基づき(McGowan et al., 2020),本スコーピングレビューの全段階を網羅するプロトコルを作成した.本プロトコルは検索実施前に作成され,複数回の討議を経て最終的に合意され,UMIN臨床試験へ登録した(UMIN000053968,登録日2024年3月25日).

2. 用語の定義

向老期・高齢期:向老期を50~64歳の人(中原・藤田,2007),高齢期を65歳以上と考え,50歳以上の時期とする.

生活:居住環境における社会・文化・地理的特性や個々人の病状・ADL・価値観・習慣によって影響を受ける関係的存在である人間の日常生活活動や日常的な姿勢や動きを規定するもの(中木ら,2007).

3. 文献検索と対象文献の選定方法

本研究対象文献の抽出は,医学中央雑誌Web版Ver. 5(以下,医中誌)と国立情報学研究所データベースCiNii Research(以下,CiNii)を用いた.検索範囲は2000年以降とし,医中誌の検索では(障害者/TH or障害者AL)AND(両親/TH or親/TH)AND(生活/AL)の検索式を用いた.またCiNiiでは(障害者OR障がい者)AND(親OR両親)AND生活のキーワードを用いた検索式にて実施した(2024年1月検索).

PRISMA-ScRガイドラインによれば,スコーピングレビューのタイトルおよび研究疑問は,Population(対象者),Concept(概念),Context(文脈)の略であるPCCに基づいた表記が推奨されている.したがって,本研究対象論文の選定基準は以下のPCCを満たすものとした.P(Population)は,障がいのある人をわが子にもつ親,C(Concept)は生活,C(Context)は向老期・高齢期とした.なお,対象文献における調査対象者の親の年齢については,本研究で対象となる論文をある一定数,確保することを目的として,本研究で定義する向老期・高齢期の人が研究対象者全体の80%以上を占めることを選定基準とした.

一次スクリーニングでは,以下の3つの基準に該当する場合を除外した.除外基準は,1)障がいのある子をもつ向老期・高齢期の親以外が研究対象者である場合,2)子の障害が精神疾患の場合,3)解説・総説・レビュー・学会抄録を除外した.上記の基準に基づき,分析対象予定の論文の書誌情報と本文を,文献管理ソフトEndNoteに集約し,共有したうえで,研究者間で選定基準に従い,表題・抄録の内容を確認した.各論文がこれらの除外基準に該当している論文かどうかの確認を,1論文につき研究者2名により独立して実施した.表題・抄録で除外する判断が難しい論文は論文の全文を確認し,判断に迷う場合は全員で検討した.

二次スクリーニングでは,抽出した論文の全文を精読して検討し,上述した適格性に欠ける文献は除外した.なかでも各文献の研究成果が,これらの親の向老期・高齢期の生活に関連するかどうかの判断が難しい場合は対象から除外し,各文献における研究方法や論文の記述内容から,研究成果が向老期・高齢期の親の生活に関すると認められるものは文献対象として,該当するデータを抽出した.

4. データの抽出と結果の統合

分析対象論文は発行年順に整理し,論文の内容を精読したうえで,予め作成したマトリックスの項目に該当する内容を抽出し,意味内容ごとに記述した.マトリックスの項目は,著者・発行年,研究対象者の基本属性(親の年齢・続柄・人数・子の生活場所など),研究方法,研究の主なアウトカム,親の生活に関する主要な研究知見である.これらの項目の内容については,研究者間で分析対象論文から抽出する記述内容に漏れや誤りがないか確認した.そのうえで,論文の内容を再度繰り返し精読し,上述したマトリックスの項目を研究者間で確認した.分析対象文献から抽出したデータについては発行年順に整理し,これらの親の生活の特徴ごとにまとめた.

Ⅲ. 結果

1. 分析対象論文の概要

合計2,778論文が検索され,2つのデータベースの重複32論文を除外した2,746論文をスクリーニングの対象とした.一次スクリーニングにて2,746論文のうち,2,672論文が除外され,74論文が抽出された.さらに,二次スクリーニングにて55論文が除外され,ハンドサーチで抽出された2論文を追加し,最終的に21論文が分析対象論文となった(図1表1).二次スクリーニングにおける文献の除外理由は,研究対象者が向老期・高齢期の親以外24論文,解説・総説他13論文,親の年齢が不詳12論文,向老期・高齢期の親の経験の判別が不可能3論文,親の生活に関連しない3論文であった.

図1  PRISMAフローチャート
表1 障がいのある人の向老期・高齢期の親の生活に関する研究(n = 21)

著者(発行年) 研究対象者 研究方法 研究の主なアウトカム 親の生活に関する主な研究知見
子の属性 親の属性・人数 場所
望月・秋山(2000)

重症心身障害者

平均年齢38.2歳

父親・母親10人

平均年齢 父親69.1歳 母親68.1歳

在宅 親と子の生活・健康状態・心理・生活への意識 ・子の現状を肯定的に捉え,成長を見逃さず,喜びとしている姿が見受けられた.
・父母とも健康な人もいたが,持病で通院・自己管理しており,健康不安を感じている人もいる他,死亡もあった.
・精神的負担のある2例は,配偶者の認知症の症状や,配偶者死亡によって精神的不安定であった.
・子の今後の状態像や将来の処遇について心配していた.
藤原(2003)

知的・重複障害者

20~39歳

概ね50歳以上の親13組・30・40代の親1組 施設 子の生活,自分や家族の加齢への意識 ・家族の高齢化により,母親役割に第2の変化が起き,子が施設に入所し,適応するかどうか,落ち着いて生活できるかどうかを見守りつつ,母親自身も年を重ねていく.
・施設への面会や行事への参加が,従来通りできなくなることによるジレンマが高じてくる.
・きょうだいの存在を意識し,親のやってきたことをそのままではなく,一定の枠を決めて託していた.
三原ら(2007)

知的障害者

20~60歳代

親368人

50代以上86.7%

在宅 子の老後への不安 ・親は将来の子どもの老後に不安を抱え,その理由は親自身が高齢となり,世話が困難なためであった.
施設 ・親達が期待する障害者の生活場所や人生の終罵場所は,主に現在の生活場所,自宅,GHであり,子の住み慣れた生活環境で人生を終えることを望んでいた.多くの親はきょうだいへ期待していなかった.
西村(2009)

知的障害者

20~30歳代

親5人

50代3人・60代2人

在宅 親役割 ・自身の病気や入院経験により親亡き後を実感し,親離れ・子離れの機会を意図的につくっていた.
・子が成人しても自分自身の時間がない状態が継続していた.
・いつまで世話が続けられるかわからない不安を抱えていた.
佐鹿ら(2009)

重症心身障害者

享年27歳・32歳

子を亡くした母親2人

50代・60代

在宅 子の死の受容過程 ・子の死の受容過程は,喪失感・親としての自責の念・わが子への感謝・自分の人生を肯定的に振り返る・自己の体調悪化を受け止める・子との生活(介護)を思い出と持続的な悲しみ・生活の再建・趣味を再開・支える家族がいない辛さ・わが子との生活を忘れたくない思いであった.
牛尾(2010)

重症心身障害者

30~50歳代

父親6人

71~81歳

在宅 子への養育態度・心情 ・退職後,子の世話を積極的に行い,子の世話の負担を認識し,妻への詫びの気持ちをもっていた.
・子への愛情が深まる一方,親亡き後の子の生活の不安や現行の社会福祉制度に不満をもっていた.
三原・松本(2010)

知的障害者

未就学~59歳

施設・育成会の父親341人

50代以上80.7%

在宅 子や家族,社会への意識 ・約8割の父親は育児について妻とよく話をし,半数は家事の手伝いをしていた.
施設 ・約7割の父親は死後,知的障害児の世話を心配し,社会に対する援助を期待していた.
・約9割の父親は行政に対する経済的保障や,親亡き後の施設の知的障害者の生活の充実を期待していた.
三原・松本(2012)

知的障害者

未就学~59歳

施設・育成会の父親341人

50代以上80.7%

在宅 生活意識 ・父親の生活意識は,障がいのある子の年齢・出生順位・妻の仕事の有無による影響を受けていた.
施設 ・子の年齢別の比較では,19歳以上は「障害者の働く場の確保を期待する」が最も有意な差があった.
・父親のストレス解消方法は「妻との会話」「趣味に没頭する」「お酒を飲む」が順に多かった.
佐鹿ら(2012)

重度障害者

享年27~36歳

母親5人

60代

在宅 子の死の受容過程 ・母親は子との人生のふり返りを行いながら,子の死を意味づけ,受けとめ,子の死後,悲嘆とともにある日常生活を送り,死後の大切な癒しの場として施設の訪問を続け,新たな自己実現を構築していた.
山田(2012)

知的障がい者

27~40歳

両親11人

50~70代

在宅 質/GTA 子を親元から離すことの心理的プロセス ・準備期:将来の不安,親元から離す躊躇,踏ん切りをつけ,利用開始期では子どもと離れる戸惑い,継続利用に対する迷いを感じていた.
施設 ・安定期:子のいない生活に慣れ,母親の活動範囲が広がり,時間のゆとりができ,高齢の親は具体的に親亡き後を考え,子の加齢から迫る将来の不安を感じ,親亡き後に備えたいと考えていた.
田中(2013)

知的障害者

平均年齢35.1歳

親16人(母親15人・父親1人)

平均年齢63.9歳

在宅 質/TEM 親役割の変容 ・ケア役割遂行期のあり様が,わが子の生活の場の移行の契機を規定し,それが親役割の変容を規定する.
施設 ・親役割を変容させる親・変容させない親が存在し,親役割を変容させない親では,移行後もそれまでと変わらない親子の距離感をもっていた.
中山(2014)

知的障害者

10~80歳代

入所/通所利用の保護者66人

40~80歳代

在宅 子の施設利用に関する意識 ・子が入所の保護者の不安の理由は,自分や家族の健康不安・制度の変化・老後の生活の順であった.
施設 ・子が通所の保護者の不安の理由は,制度の変化・自分や家族の健康不安・老後の生活の順であった.
山田(2015)

知的障がい者

30~40代

緊急に子を親元から離す選択をした親4人

50~80代

在宅 質/TEM 緊急に子を親元から離す選択をした親の心理的プロセス ・緊急期:子と家庭生活する中,いずれ預けると考えつつ,将来はまだ考えなくていいと思っていた.
施設 ・葛藤期:子と生活が別になった後,子のケアから解放されるが,母親が不安定になる心理的困難を体験していた.親が面会に行き,子に良い変化が起きたと気付くことで安定していた.
・安定期:母親は子のいない生活が日常になり,親子別の生活リズムに慣れ,その後,子のケアから離れ,自身の人生を生き,物理的に子はいないから仕方がないと今の状況を諦めていた.
古谷ら(2016) 18歳以上の重症心身障害者18~40歳代

母親122人

50代以上81.2%

在宅 子の将来への期待や願望/QOL ・子の将来に対しては,単なる居場所の快適さではなく,人に対する期待が高く,期待の中でも医療の担い手と医療施設への期待が高かった.親のQOLは全体的に低く,配偶者・周囲のサポートがQOL向上の要因であった.
・配偶者が存在しない場合,居宅ヘルパーなどの社会資源が対象者の支えとなっていた.
本田・斉藤(2016)

18歳以上の発達障害者

平均28.9歳

親64人

50代以上89.1%

在宅 介護負担感 ・発達障害者の親の介護負担感の平均値は12.8であり,先行研究の精神障害者等の介護する家族の負担感とほぼ同様であった.
・子どもに二次障害があり,また日常生活の状況として援助が必要であるほど親の負担感が高かった.
田中・佐島(2016)

18歳以上の重症者

平均 28.2歳

主介護者626人

50代以上84.8%

在宅 子の将来の生活場所希望・必要な支援 ・介護者の約半数は将来的にも在宅介護の継続を希望し,地域性,重症児の年齢が低い,医療的ケアの必要性が高い場合,その傾向が強かった.
・在宅介護継続には短期入所・生活介護・居宅介護などのサービスが必要とされていた.
佐々木ら(2016)

知的障がい者

全員40代

母親6人

60代後半2人・70代前半4人

在宅 親亡き後の子の生活場所を決断する渦中の母親の思い ・母親は,親・子離れの必要性・親子の精神的なつながり・施設入所への不安・きょうだいへの罪悪感・生活管理への不安・仲間の存在の安心を感じていた.
・入所を継続させたい・短期入所し将来は完全入所させたい・将来の生活場所を迷う・将来,きょうだいに託したい母親という4群それぞれに母親の特徴的な思いがあった.
福田(2017)

知的障害者

20代前半~30代後半

60歳を過ぎて子が自立した母親11人

60代9人・70代2人

施設 質/TEM 子をGHに送り出す経験プロセス ・母親は違和感に気付き,窮地に追い込まれ,焦燥し決断に踏み切り,子をGHに送り出していた.
・子をGHへ送り出した後,罪悪感を抱く・運営に不安が募る・やっぱり親が必要などの思いを経て,肩の荷が降りホッとする母親,二重生活で大変さは変わらない母親の2類型があり,将来を再考していた.
鍛治(2017)

知的障害者

20~40代

母親5人(50代2人・60代3人)

全員配偶者と死別・離別

施設 親子の自立意識 ・GH入居後は,主に週末を中心に定期的に親元に戻り,GHと親元を組み合わせて生活していた.
・子どものGH入居によって,子どもの変化だけではなく,自分の変化を感じ,自らの生活上の変化では「楽になった」「ルーズになったというか,一人だから気楽」と語った.
西原・山崎(2019)

青年期以降の重症心身障害児者

30~34歳

母親6人

50代2人・60代4人

在宅 質/ライフ・ライン・インタビュー 主観的QOLの変化と関連要因 ・主観的QOLを下げる要因は,自己の介護力低下への不安・最後まで子を守る母親としての使命感とそれが果たせるかという不安・これからの生活に思いを巡らす・きょうだいへの謝罪の気持ちであった.
施設 ・主観的QOLを上げる要因は,夫の定年退職後に伴う家族内役割への変化・現在の安定した暮らしの継続重視・母親の人生の意味づけ・経験を活かした社会貢献・人とのつながりによる安心感・社会活動の原動力となっている福祉制度への要望であった.
松澤・山口(2021)

障がい者

46歳・29歳

母親2人

60代・70代

施設 高齢期の体験 ・わが子に最期まで会えることを維持するなど,わが子の権利や生活の豊かさを守るよう努めていた.
・わが子の将来の不安に直面し,自身と夫の老いに伴う家族全体の変化を案じていた.
・わが子を託すことのできる信じられる人や社会を求めていた.

QOL,Quality of Life;GH,グループホーム;TEM,複線径路・等至性モデル;GTA,グラウンデッドセオリーアプローチ

これらの論文の研究デザインは,質的研究14件,量的研究7件であった.質的研究では,複線径路・等至性モデル(Trajectory Equifinality Model: TEM)を用いた研究が3件,グラウンデッドセオリーアプローチ(Grounded Theory Approach: GTA)を用いた研究が1件であった.また量的研究では分析的研究が2件であり,それ以外はすべて記述研究であった.研究対象者は,父親を対象とした研究が3件,それ以外は親・保護者・主養育者が対象であった.また子の障害種別は知的障害11件,重症心身障害7件,知的・重症心身障害等2件,発達障害1件であり,子の生活場所は在宅9件,施設4件のほか,在宅・施設双方8件であった.

これらの親の向老期・高齢期の生活に関する研究について,研究の主なアウトカムを中心に大別すると,1)わが子のケアに関する研究として,親としての親・ケア役割や体験に関する研究3件,子のケア・生活場所の移行に関する研究4件,親のケアに関する意識(子の生活やケア,親子の自立,子の老後や将来への不安・期待,親や家族の加齢など)に関する研究9件,2)親自身の生活に関する研究として,親の健康に関する研究3件(健康状態,主観的Quality of Life(以下QOL)の変化,介護負担感),子の死の受容に関する研究2件が報告されていた.

2. 障がいのある人の親の向老期・高齢期における生活

1) 障がいのある人の親の向老期・高齢期の生活におけるわが子のケア

本研究の結果,障がいのある人の親は,向老期・高齢期の生活において,わが子のケアを担い続けており,在宅,グループホーム(以下,GH)や重症心身障害児者施設など,わが子の生活場所に限らず,ケアを行っていたことが明らかにされていた.GHで生活する知的障害者の親を対象とした研究では,これらの親は,わが子のGH入居後も,週末を中心に定期的に親元に戻り,GHと親元での生活を組み合わせて生活することを支えていた(鍛治,2017).また,わが子が長期間,GHや重症心身障害者施設において生活している場合も,親はわが子の権利や生活の豊かさを守るよう努めており,具体的にはわが子の余暇や楽しみを大切にし,金銭や人間関係のトラブルに対応するなど,権利擁護に努めていた(松澤・山口,2021).また知的障害者・重複障害者の加齢期の母親では,子が施設に入所し,適応して生活できることを見守りつつ,母親自身も年を重ね,また施設への面会や行事への参加が,従来通りできなくなることによるジレンマが高じることが報告されていた(藤原,2003).一方で,在宅で生活する知的障害のある人の親では,子が成人しても親自身の時間がない状態が継続していた(西村,2009).その他,高齢の父親を対象とした研究においては,退職後,子の世話を積極的に行い,子の世話の負担を認識し,妻への詫びの気持ちをもっていたことが報告されていた(牛尾,2010).

本研究の結果,障がいのある人の親は,向老期・高齢期の生活において,わが子のケア・生活場所の移行を体験していた.知的障害者のわが子を親元から離す親の心理的プロセスでは,親は親なき後の不安や親が子離れできなくなる不安を抱え,わが子と分離した後は戸惑いや施設利用への迷いを感じながらも,その後に子の加齢から迫る将来の不安を感じ,親亡き後に備えたいと考えていた(山田,2012).またTEMを用いた知的障害のある人の親の親役割の変容のプロセスに関する研究では,親役割を変容させる親と変容させない親がおり,ケア役割遂行期のありようが親役割の変容を規定することが明らかにされていた(田中,2013).同じくTEMを用いて,60歳以降にわが子が自立した母親の子をGHに送り出す経験プロセスに関する研究では,母親は違和感に気付く経験から,窮地に追い込まれ焦燥し決断に踏み切り,わが子をGHに送り出していること,その後は肩の荷が降りホッとする母親と,GHの運営に不安が募り,やはり親が必要と考え,二重生活で大変さは変わらない母親の2類型に分かれていた(福田,2017).またわが子の生活場所の移行が緊急に必要になった場合,母親は親子と生活が別になった直後,面会に行けない状況が続き,わが子のケアから解放される一方,心理的困難を体験していた.その後は子のいない生活が日常になり,親子別の生活リズムに慣れ,自身の人生を生き,物理的に子はいないから仕方がないと今の状況を諦めていた(山田,2015).

また本研究の結果,これらの親は,自らの生活にかかわるわが子のケア・生活場所への希望をもっており,知的障害のある人の親はGHや特別養護老人ホーム,自宅,現在の生活場所などを希望し(三原ら,2007),また知的障害者の母親では,入所を継続させたい,短期入所し,将来は完全入所させたい,将来の生活場所を迷う,きょうだいに託したいという4類型があることが明らかにされていた(佐々木ら,2016).また重症心身障害者の介護者を対象とした将来的な生活場所の希望に関する全国調査では,介護者の約半数は,将来的にも在宅介護の継続を希望し,重症児の年齢が低い,医療的ケアの必要性が高い場合などその傾向が強かった(田中・佐島,2016).また18歳以上の重症心身障害者の主介護者は,単なる居場所の快適さよりも人への期待,特に医療の担い手と医療施設に期待していた(古谷ら,2016).

2) 障がいのある人の親自身の向老期・高齢期における生活

本研究の結果,障がいのある人の親は,向老期・高齢期の生活のなかで不安を抱えていた.これらの親の不安について,知的障害のある人の親では,わが子の高齢化に伴う不安(三原ら,2007),自己の介護力低下への不安,最後まで子を守る母親としての使命感とそれが果たせるかといった不安(西原・山崎,2019),いつまで世話が続けられるかわからない不安(西村,2009),自分の死後のわが子の世話に関する不安(望月・秋山,2000)が明らかにされていた.これらの親では,配偶者・家族の健康や老後の生活への不安(中山,2014),親自身の健康への不安,配偶者の死を経験していた親もおり(望月・秋山,2000),複合的な不安を抱えていた.わが子の生活場所が施設の場合においても親亡き後,誰がわが子を看取ってくれるのかという心配を抱えていた(松澤・山口,2021).その他,父親もまた親亡き後の不安を抱えているほか,現行の社会福祉制度への不満や社会への援助の期待をもっていたことが明らかにされていた(牛尾,2010三原・松本,2010).またこれらの父親が,日常生活上のストレスの対処方法として「妻との会話」「趣味に没頭する」「お酒を飲む」が順に多かったことが報告されていた(三原・松本,2012).

これらの親のQOLについては,重症者の親のQOLは全体的に低く,配偶者のサポートをはじめとする周囲のサポートの手厚さがQOLを向上させる要因であったことが報告されていた(古谷ら,2016).重症心身障害者の母親の主観的QOLの変化を調査した研究では,子の機能減退期からターミナル期における親の介護力低下への不安があり,最後まで子を守る母親としての使命感とそれが果たせるかなどの不安を感じていた.青年期以降の重症心身障害児と暮らす母親に対する研究では,わが子が中学部卒業以降に徐々にQOLが低下する事例が報告されており,この背景には,実母の介護負担,義母の死亡,子の状態悪化があった(西原・山崎,2019).

これらの親の身体的健康では,重症児の高齢の父親と母親10例への面接調査において,父親3例,母親5例が体調不良を抱えていたこと,父親2例,母親3例が持病があり,通院や自己管理をしていた(望月・秋山,2000).その他,発達障害者の親は介護負担感が高く,わが子の二次障害が重く,日常生活の状況として援助を必要とするほど負担が高かったことが報告されていた(本田・斉藤,2016).

その他,重症心身障害者や重複障害者のわが子を亡くした向老期・高齢期の母親を対象として,わが子の死の受容に関する報告がなされていた.重症心身障害者の母親は,喪失と悲嘆,自責とともに,感謝やわが子との生活を忘れないなどの思いを経験し,わが子の人生を肯定的に思う気持ちと子どもの死後もわが子が生きた証を求め,周りの人々や専門職などの支えにより,子どもの死を徐々に受け入れていた(佐鹿ら,2009).また重度の障害者の母親では死後,悲嘆とともにある日常生活を送っており,死後の大切な癒しの場として,わが子が通所・入所していた施設への訪問を続けたり,また新たな社会的役割を担うことで自己実現を構築していたことが報告されていた(佐鹿ら,2012).

Ⅳ. 考察

1. 障がいのある人の親の向老期・高齢期における生活

本研究の結果,障がいのある人の親は,向老期・高齢期の生活において,在宅,GHや施設など,わが子の生活の場は異なっていてもケアを継続して担っていた.また自らの体力的,時間的限界から,わが子の将来の生活やケアに対する不安を感じ,ケアをいつどのように誰に託していくかを逡巡し,親としてのわが子のケア役割の移行の困難,特に心理的な困難を経験していた.このように,障がいのある人の親は,向老期・高齢期の生活において,この時期に担うには重いケア役割を引き受けていたことが明らかにされていた.

障がいのある人の親が向老期・高齢期の生活において,わが子の親がケア役割を担う背景には,一つにこれらの親の子どもの障がい種別が,言語による意思の表出や意思決定が難しい知的障害や重症心身障害のある人であることが起因していると考えられる.さらに,これらの障がいの場合において,親の担う親/ケア役割は,本人の意思を汲み取るという権利擁護を含んでおり,これらの親は長期的にわが子のアドボケイターとして存在していることが挙げられる(Kruithof et al., 2022藤原,2003).それゆえに,これらの親が担っている役割を,親が安心して誰かに託せるかどうかは,単なる親子の自立の問題というだけではなく,それらの役割を移行する先のケア・サービスの質やケア・サービスの提供者を親がどのくらい信頼できるかという点が関わっていると考えられる.本研究の結果においても,在宅重症心身障害者の母親は単なる居場所の快適さではなく,「人」に対する期待が高かったことが明らかにされていた(古谷ら,2016).また重症心身障害のある人の母親である児玉(2017)は,親亡き後問題とは「残して逝けるだけ,自分は社会を,ひいては総体としての人間を信じることができるか」という自問であり続けると述べている.

さらに,本研究の結果において注目されるのは,60歳を過ぎてわが子をGHに送り出した知的障がいのある人の母親においても,子をGHへ送り出した後,罪悪感や運営への不安を経て,一部,二重生活で大変さは変わらない母親がおり(福田,2017),また緊急に子を親元から離す決断をした母親では,わが子が施設入所後においても,様々な心理的困難を経験していた(山田,2015).このように,障がいのあるわが子の生活場所を移行した後も,親はケアの負担,心理的な困難を経験することがあり,障がいのある人の生活やケアの移行は,障がいのある人の生活場所をいつどのように誰に移すかという視点のみでは解決が難しいことを示唆している.この点について,田中(2013)は,生活の場を移行しても,子育て期の終了とはならず,移行前と変わらない親役割を自認させることへとつながり,このことが障害者と親双方の自立を考えるうえで重要な視点と指摘している.

さらに本研究の結果,これらの親は配偶者の加齢や健康障害,時に死別,また親の介護との二重介護など,配偶者や家族に関するライフイベントの重なり合う経験をしており,わが子のケア,配偶者やその他の家族員のケア,自身の健康問題や不安などの複合的な不安を経験していた.このような状況が生じてくる背景には,障がいのある人の場合,比較的早期に高齢化が進むことや,二次障害や重症化に伴い,ケア負担が増大していく一方,親自身は加齢に伴う体力の低下や,健康障害が出現するなど,障がいがある人とケアする親の関係が双方の高齢化に伴い,相反する状況になっていくことが挙げられる.向老期はライフサイクルの転換期であり,身体的変化を迎えて老いを意識し,高齢期への準備を行うことが求められる時期である(中原・藤田,2007).また高齢期は発達の最終段階であり,さまざまな老いのなかにその人らしさを結集していく時期である(服部,2011).しかしながら,このような親のライフコースという視点から,障がいのある人の親の生活をみると,親は自分自身の発達課題に向き合うことが難しい状況に置かれていると考えられた.

このような障がいのある人の親の向老期・高齢期における生活の現状から,これらの親が重い親/ケア役割を担い続けることにより,自身の生活や健康への影響を受けることを踏まえると,親自身により目を向けて,親の生活や健康を支援することが必要と考えられる.具体的には,障がいのある人のケアについて,親と専門職などの関係者が,障がいのある人とその家族がそれぞれの意向に基づきながら,ともに多面的かつ段階的に検討し,移行する準備を行うことが必要と考えられる.またこのようなわが子の将来のケアのための準備の過程のなかで培われる地域や人との関係性が,親が安心してわが子のケアを託すために必要であり,これらのプロセスが親への支援として重要と考えられる.

さらに,本研究の結果,重度の障がいのある人の母親のわが子の死の受容の経験が報告されていた.障がいのある子どもの養育を長期間に渡って行ってきた母親にとって,わが子を看取り,その死を受容する体験は想像を超えた深い喪失体験である.それゆえに,簡単には受け入れがたい喪失体験をした親に対して,わが子の死を受け止めていくことへの積極的な支援が必要と考えられる.特にこれらの母親では,自責の思いを抱く可能性もあるゆえ,わが子と死別する/死別した向老期・高齢期の親に対して,精神面へのケアを考慮し,提供していくことが必要と考えられる.

2. 障がいのある人の親の向老期・高齢期における生活に関する研究の現状と課題

本研究の結果,障がいのある人の親の向老期・高齢期における生活に関する研究では,わが子へのケア・生活,将来への不安などの親の意識や,わが子のケア・生活場所の移行に焦点をあてた研究が多く,親自身の生活の質に焦点を充てる研究は少なかった.またこれらの親は,わが子のケアや将来に関する不安を抱えており,親自身の健康,特に精神的健康度やQOLが低いことが明らかにされていた.これらの結果から,障がいのある人の親が長期的にわが子のケア役割を担うことで受けている自身の生活や健康への影響は,重要な社会課題であり,親自身に焦点をあてた生活や健康に関する研究がより必要と考えられる.また本研究の結果,障がいのある人の生活場所の移行に伴う親の心理的プロセスや困難,経験などが明らかにされていたが,これらの親のケアの移行に関して,介入的な視点での研究はみられなかった.そのため,障がいのある人の親がわが子のケアを第三者に託すプロセスにおいては,積極的な家族へのケアの必要性があり,段階的,かつ計画的な移行に向けた介入,そして社会実装に関する研究が必要と考えられる.

また本研究の結果,障がいのある人の在宅もしくは在宅から施設への移行の時期に焦点を充てた研究が多く,施設入所後の親の生活に関する研究は少なかった.しかし,わが子が施設生活に移行した後も,これらの親のわが子の将来の不安が継続していたことに鑑みると,施設入所後の親の生活や心理に焦点を充てた研究が必要と考えられる.さらに,本研究の結果においても,施設に生活拠点を移した障がいのある人が週末は定期的に親元に戻る,または親が定期的に面会に訪れるなど,在宅か施設かという二者択一ではない生活の例が複数あり,このことは子と親,双方にとって重要な意味をもつと考えられた.Jokinen & Brown(2005)は,高齢の家族を積極的に対話に参加させ,成人した子どもの生活における役割を継続するよう支援する可能性を提示している.わが子が施設入所した後も子どもにかかわりたい親の行動に対して,子どもへの愛着が残っている,つまり子どもと未分化な状態ととらえる見方がある一方(Baker et al., 1993),これをひとつの対処行動とする見方がある(山田,2012).これらを踏まえて親への支援を考えると,親の負担軽減への配慮だけではなく,ケアし合う関係に基づく視点からのアプローチも有用と考えられ,このようなケアの相互関係性の解明も支援の検討に向けて,ひとつの可能性をもつと考えられる.

3. 本研究の限界と今後の課題

本研究は,わが国の障がいのある人の親の向老期・高齢期の親の生活に関する研究を概観し,これらの親の生活に関する現状と課題を明らかにすることを目的として国内2つのデータベースを用いてスコーピングレビューを実施したが,以下の限界をもつと考えられる.まず国内における2000年以降の文献を対象として検討したため,レビューの網羅性という点における限界がある.またこれらの親の生活やその根底にある意識は,社会との相互作用によって変化する可能性がある.そのため,福祉サービスの整備状況が変革する昨今において,親の生活や価値観は変化していく可能性がある.今後はこれらの視点も含めて,障がいのある人の親の生活を詳細にとらえ,必要な支援のあり方を検討する必要がある.さらに,これらの親の向老期・高齢期の生活に影響を与える,障がいのある人のケアの移行に関しては,きょうだいの存在も影響していると考えられるが,本研究ではその点については考慮できていない.本研究の結果,これらの親は障がいのある人の将来のケアについて,きょうだいに期待していない(三原ら,2007),一方,きょうだいに託したい母親がいたことが明らかにされていた(佐々木ら,2016).このように,これらの親は,きょうだいへの過度な負担がかからないことを強く願いつつ,きょうだいへの期待をもつ場合もあり,このような親の意向は,きょうだいの意向に影響を受ける可能性がある.今後,これらの親の支援として,障がいがある人の将来のケアや生活の移行を考えていく際には,きょうだいの意向も視点として重要な意味をもつと考えられる.

Ⅴ. 結論

わが国の障がいのある人の親の向老期・高齢期における生活に関する研究について,スコーピングレビューを実施し,21論文が対象文献として特定された.本研究の結果,障がいのある人の親は,向老期・高齢期の生活において,子の生活場所に関わらず,わが子のケアを担い続けており,その中でわが子のケア・生活場所の移行に伴う困難,特に心理的困難を経験していた.また,わが子のケアや将来への不安に加えて,自身や配偶者の高齢化や健康障害が重なり合う複合的な不安を抱えていた.これらのことを踏まえると,障がいのある人のみではなく,ライフコースの視点から,これらの親の生活や健康への支援が急務の課題と考えられる.そのため,障がいのある人の向老期・高齢期の親への支援に向けて,わが子へのケアの移行を含め,親自身に焦点をあてた生活と健康に関する研究の蓄積が課題であることが示唆された.

付記:本研究は日本看護科学学会第41回学術集会において発表した.

謝辞:本発表は,JSPS科研費JP 19K10973の助成を受けた研究成果の一部である.本研究の着想にあたり,ご助言をいただきましたルーテル学院大学総合人間学部 山口麻衣教授に心からお礼申し上げます.

利益相反:本研究において開示すべきCOI関係にある企業・組織・団体等はありません.

著者資格:AMは研究の着想およびデザイン,データ収集/・分析,論文執筆のすべてを実施した.NSは研究デザインへの貢献,データ収集・分析,原稿,研究プロセス全体への助言を行った.ANはデータ収集・分析,原稿への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み承認した.

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