Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Competencies of Public Health Nurses in Community Development at Community Comprehensive Support Centers in Japan—Focus Group Interviews With Three Professions at Community Comprehensive Support Centers and Public Health Nurses From Supervising Departments in Municipalities—
Yuko TanakaAyako Asano
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2024 Volume 44 Pages 1135-1145

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Abstract

目的:地域包括支援センター(以下,地域包括)保健師の地域づくりの専門能力を明らかにする.

方法:地域包括の保健師,社会福祉士,主任介護支援専門員及び市町村主管部門の保健師,10グループ,34名にフォーカス・グループ・インタビューを実施した.データはSandelowski(2000)を参考に質的記述的分析を行った.

結果:地域包括保健師の地域づくりの専門能力は,日常生活圏域を対象とした【地区活動により地域の課題を解決する基盤をつくる能力】,ステークホルダーとの関係を捉えて協働するなど【地域の課題解決に向けて地域包括内外をマネジメントする能力】,日常的に三職種協働で業務を遂行する職場環境において【地域包括保健師としてアイデンティティを構築する能力】であった.

結論:地域包括という同職種が少ない職場環境において,地域包括保健師として地域づくりの専門能力を高める人材育成やプログラム開発が急務である.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to clarify the competencies of public health nurses in community development at Community Comprehensive Support Centers in Japan.

Methods: Focus group interviews were conducted with public health nurses, social workers, and senior certified care managers of the three professions at Community Comprehensive Support Centers, as well as public health nurses from supervisory departments within municipalities. A qualitative descriptive analysis was performed as described by Sandelowski (2000).

Results: The competencies of public health nurses in community development included: the ability to address community problems through community activities in target areas of daily life; The ability to manage inside and outside Community Comprehensive Support Centers to solve community issues by understanding and collaborating with stakeholders; and the ability to establish an identity as a public health nurse in a Community Comprehensive Support Center within a work environment where daily tasks involve collaboration among the three professions.

Conclusion: In work environments lacking within the same profession, there is an urgent need to develop human resources and programs to enhance the professional competencies of public health nurses in community development.

Ⅰ. 緒言

人口の高齢化は世界的な課題であり,WHO(2020)はDecade of Healthy Ageing Baseline Reportで,Healthy Ageingの目標と戦略を示し,各国では高齢化対策を推進している.日本においては,高齢者の尊厳保持と自立支援を目的とした地域包括ケアシステムの構築が推進されてきた.地域包括ケアは,統合型ケアであるintegrated careと地域を基盤としたケアである community-based careの2つの独立したコンセプトを内包しており,地域包括ケアシステムの本質は,地域住民を中心に行政,関係団体,あらゆる社会資源を用いて構築する総力戦としての地域づくり(田城ら,2022)を意味している.

地域包括ケアシステムを構築する中核機関である地域包括支援センター(以下,地域包括)は市町村によって設置され,専門職である保健師,社会福祉士,主任介護支援専門員の配置が義務づけられている.とりわけ,保健師は,予防的にかつ健康に影響を与える環境や保健医療福祉システムに働きかける専門性をもつことから(麻原,2022),地域包括ケアシステムの構築に貢献し,健康の社会的決定要因を考慮したコミュニティづくりを可能とする重要な職種である(川崎,2018).

地域包括の設置数は年々増加し,2023年には5,431か所に上り(厚生労働省,2023),1地域包括当たりの平均保健師配置数は1.1人であることから(三菱UFJリサーチ&コンサルティング,2018),いわゆる“一人職場”で専門性を発揮しながら三職種協働で地域づくりを推進することが期待されている.

地域包括保健師の地域づくりにおいては,「地域ケア会議」などの地域づくり活動とコーディネーションに関連があり(岡野,2022),高齢者の個別支援から地域づくりを展開している(小路,2021大高ら,2012).一方で,地域づくりの活動が十分にできておらず(川原ら,2014),保健師の地域づくりの実施状況の認識は,地域包括内の他の専門職よりも低い(保母,2022).

地域包括保健師の専門能力は,能力全般を明らかにした研究がいくつかあるが(宮本・柳澤,2018宮本・柳澤,2023古賀ら,2020),地域づくりに焦点化した研究は見当たらない.また,三職種の協働が求められる地域包括において,職員は専門性を強調する以前に地域包括の職員として共同活動を重視し(大沼ら,2017),専門性が発揮されていても,専門性の自覚やプライドが高められない(小山,2016)ことから,保健師が専門能力を認識する困難さが推察される.

そこで,本調査は,日常的に協働で業務を遂行する地域包括の三職種及び地域包括の人材育成や活動評価を担う市町村主管部門の保健師の視点から,地域包括保健師の地域づくりの専門能力を明らかにすることを目的とした.これにより,地域包括保健師の地域づくりに必要な専門能力が可視化され,三職種の専門性を生かした連携・協働に貢献し,ひいては高齢者が生き生きと暮らす地域づくりに寄与できると考えた.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン

質的記述的デザイン

2. 用語の定義

地域包括保健師:地域包括支援センターで働く保健師とした.

地域包括保健師の地域づくり永井ら(2021)の定義を参考に,「地域包括保健師が地域の人々の暮らしや健康を守り,人々が望む生活を目指して行われる諸活動であり,そのプロセス.地域に生活する人々,行政,民間団体等が協働すること,地域への愛着や関心,強みを育むことを通して推進される.」と操作的に定義した.

地域づくりの専門能力:専門性の構成概念と専門性の向上の観点(山本,2023)から専門性を捉え,Spencer & Spencer(1993/2011)のコンピテンシーモデルを参考とし,「地域づくりの職務に対し,効果的あるいは卓越した業績を生む原因としてかかわっている個人の特性であり,地域づくりの知識,スキル,態度,価値観,問題解決行動などの能力として知覚される専門性,専門性の意識である主観的専門性.」と定義した.

3. 研究参加者

研究参加者は,A県内,地域包括に所属する保健師,社会福祉士,主任介護支援専門員に加え,市町村主管部門の保健師とした.地域包括の専門職は,個別のケアマネジメントから地域づくりに至る多様な業務を三職種協働で遂行し,自立した実践能力が求められることから,地域包括での経験年数は5年以上を目安とし,職位は問わなかった.市町村主管部門の保健師はジョブローテーションを考慮し,主管部門での経験年数は問わなかった.研究者は,A県内の地域包括一覧を用い,管理者に電話及び文書にて研究の協力を依頼し,管理者から推薦を得た者に研究の協力を依頼した.経験年数が5年未満の場合は,本研究テーマについて語ることが可能な者を管理者に推薦してもらった.さらに機縁法を用いて,本研究対象者に該当する者の紹介を得て,管理者及び対象者に研究協力の依頼を行った.

A県は,人口約500万人(2023年1月現在)の地域であり,高齢化率は2023年1月1日現在約33.0%(全国平均29.0%(総務省,2024))である.地域包括の設置数は約300あり,運営形態は50%が直営型となっている(全国,直営型20%,2023年4月末現在(厚生労働省,2023)).

4. データ収集方法

データ収集方法は,相互作用により新たな発想や気づきを生み出しやすいフォーカス・グループ・インタビューを採用した.インタビューは各グループ90分とし,インタビューガイドに従い,「地域包括保健師の地域づくりとはどのような活動か」「地域づくりを行うためにどのような能力が必要か」について,半構造化面接を1回実施した.面接はオンラインとし,参加者の了解を得て録音した.グループメンバーは,異なる所属を原則とし,地域包括の保健師,社会福祉士,主任介護支援専門員,委託関係がない主管部門の保健師を研究者がマッチングし,3~4名で構成した.インタビューアーは,10年以上行政保健師の実務経験を持ち,修士号を取得した質的研究の経験をもつ教育・研究者2名であった.インタビュー前に書籍(Vaughn et al., 1996/1999)でグループ・インタビューの技法を学習し,プレテストを1回経て,インタビューガイド及びインタビュー技法の改善を図った.データ収集期間は,2023年8月~12月であった.

5. 分析方法

分析方法は,Sandelowski(2000)を参考に,質的記述的分析とした.質的記述的分析は,自然主義的探求の一般的な考え方に基づき,出来事を日常の言葉で包括的に要約し(Sandelowski et al., 2013),率直な記述をするのに適している(Sandelowski, 2000).研究参加者は,地域包括保健師の地域づくりの専門能力をどのように認識しているのか,推論の少ない解釈で率直に記述することで,地域包括という日常的に三職種協働で業務を遂行する職場環境において,地域づくりに必要な保健師の専門能力の基本的な特性を明らかにできると考えた.

具体的な分析は次の手順で行った.①筆頭著者は逐語録を作成し,データ全体を精読し,文脈の理解に努めた.②グループごとに,地域包括保健師の地域づくりの専門能力と捉えられるデータを抜き出した.③意味内容を損なわないように要約し,一次コードを抽出し,類似性,相違性を比較検討しながら抽象度を高め,二次コード,最終コードを抽出した.④10グループのうち,7グループの分析をし,最終コードまで抽出した後,3グループのデータを追加し,新たな最終コードの出現がないことを確認した.⑤すべてのデータを統合して,サブカテゴリー,カテゴリーを検討した⑥カテゴリー抽出後,共著者は全ての分析結果を確認し,結果の合意を図った.

6. 真実性の確保

明解性は,研究の分析過程で詳細を述べるように努め,質的研究に精通した研究者と分析結果を検討した.信用可能性は,研究結果が語られた内容に相違がないか研究参加者全員に確認してもらい,承認を得た.確認可能性を確保するために,分析結果の丁寧な記述に努めた.

7. 倫理的配慮

本研究は,北海道医療大学看護福祉学部・看護福祉学研究科倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号N23013014,承認年月日2023年6月1日).研究参加者には,口頭及び文書にて研究協力を依頼し,本研究の意義,目的,方法を説明し,参加は任意であること,不参加や途中辞退によって不利益をもたらされることはないこと,収集したデータはプライバシーの保護と匿名性を確保したうえで,学会や論文で公表する場合があることを説明し,同意書にて同意を得た.

Ⅲ. 研究結果

1. 研究参加者の概要

研究参加者の概要を表1に示す.研究参加者は34名であった.地域包括保健師14名,社会福祉士9名,主任介護支援専門員8名,市町村主管部門保健師3名であった.地域包括での経験は平均9.9年であり,市町村主管部門での経験は平均4年であった.運営形態は,直営型8名,委託型23名であった.管理者は10名であった.

表1 研究参加者の概要

G N0 職種 年代 包括経験 主管経験 運営形態 管理者
直営 委託
A 1 保健師 40 12
2 社会福祉士 20 7
3 主任ケアマネ 50 12
4 主管部門保健師 30 3
B 5 保健師 30 9
6 社会福祉士 50 6
7 主任ケアマネ 40 13
8 主管部門保健師 30 2
C 9 保健師 40 8
10 社会福祉士 30 11
11 主任ケアマネ 50 12
12 主管部門保健師 30 7
D 13 保健師 40 6
14 保健師 50 10
15 社会福祉士 50 7
16 主任ケアマネ 50 16
E 17 保健師 60 17
18 社会福祉士 30 3
19 主任ケアマネ 70 3
F 20 保健師 60 5
21 社会福祉士 50 10
22 主任ケアマネ 60 11
G 23 保健師 50 9
24 主任ケアマネ 40 5
25 主任ケアマネ 40 14
H 26 保健師 40 17
27 保健師 40 4
28 社会福祉士 40 17
I 29 保健師 50 10
30 保健師 50 11
31 社会福祉士 40 11
J 32 保健師 40 9
33 保健師 30 6
34 主任ケアマネ 60 16

※主任ケアマネ(主任介護支援専門員)

2. 地域包括保健師の地域づくりの専門能力のカテゴリーの概要

地域包括保健師の地域づくりの専門能力は,422一次コード,90二次コード,20最終コード,10サブカテゴリー,3カテゴリーで構成された(表2).カテゴリーは【 】,サブカテゴリーは《 》,最終コードは〈 〉,語りは「 」で示す.

表2 地域包括支援センター保健師の地域づくりの専門能力

カテゴリー サブカテゴリー 最終コード 代表的な二次コード
地区活動により地域の課題を解決する基盤をつくる能力 地域に根ざす 地域に出向くきっかけをつかみ,意欲的に地域に入る 意欲的に地域に出て活動をする
まずは行動してみようと思える
各種事業を通じて担当する地区に関わる
住民や関係者と打ち解ける 住民が話しやすい身近な存在になる
住民や関係者と打ち解け,信頼を得る
地区活動により高齢者の自助と互助を育みながら地域の基盤をつくる 地域の資源と高齢者の暮らしをアセスメントし,強みを生かして自立を支援する 高齢者を取り巻く家族全体を包括してみる
家族全体の過去,現在,長く続く未来を想定して支援をする
上手なコミュニケーションで高齢者の強みを引き出し,地域とのつながりを生かした支援を提供する
短期集中型予防サービスの終了を見越して高齢者を地域のサービスにつなぐ
保健医療の視点をもって住民の生命と安全を守る 拒否的な高齢者であっても,健康の切り口からきっかけをつくり,信頼関係を育みながら支援の土台を構築する
支援を求めていない人に関わることに意義を見出す
生命の危機がある高齢者の緊急性を判断してすぐに対処する
高齢者の健康意識を高め,健康づくりに取り組む 血圧測定や体力測定を介して健康相談を継続的に行い,効果的に健康意識を高める
健康教育を通じて高齢者を支える民生委員の健康向上を図る
住民が活動する多様な場で認知症予防や介護予防など健康づくりに取り組む
地域の高齢者に合わせたポピュレーションアプローチで働きかける フレイル予防をポピュレーションアプローチで地域全体に浸透させる
地域の高齢者に合わせたツールを用いて情報を発信する
住み慣れた地域で最期に備えられるように高齢者の認識を育む
住民の主体性を引き出し,地域での活動に働きかける 住民が地域の課題を自分ごととして捉え,解決に向けて何ができるのかを話し合う
地域での主体的な活動となるように住民の思いにそって丁寧に力を育む
住民ボランティアなどのキーパーソンと信頼関係を構築し,地域での主体的な活動の立ち上げや運営を後押しする
住民や関係者とネットワークを構築し,助け合いを育む 民生委員やご近所とのつながりを高齢者の支援に生かす
家庭訪問や健康教育などの地区活動でのつながりから住民と一緒に地域の課題に対応する
住民団体,学校,企業などに認知症サポータ養成講座や介護予防の普及啓発をし,高齢者への理解と協力を促す
地域の課題解決に向けて地域包括内外をマネジメントする能力 多様な視点を統合し,地域の強みや課題を特定する 地区活動から捉えた情報を統合し,地域の課題を特定する 高齢期になる前からの介入の重要性に気づく
普段の業務から住民の声を拾い上げ,地域のニーズを特定する
中長期的に予測される地域の課題や潜在化している地域の課題を特定する
地域のケアシステムや上位システムの情報を統合し,地域の強みや課題を明確にする 日常生活圏域の社会資源やケアシステムの情報をまとめ,地域の強みや課題を明確にする
法令,制度,自治体の状況と担当する日常生活圏域の実態を捉えて地域の課題を特定する
地域の課題解決に向けて施策や資源に働きかける 地域の課題を解決するために地区活動,事業,施策を展開する 日常業務を通じて地域の困りごとの解決を図る
予算の根拠を示し事業化に向けて段取りをする
地域の変化を捉えて既存の取り組みを見直す
先進している地域の情報を把握して,自分達の地域の活動に取り込む
地域の課題を解決するために社会資源を創出する 地域にない資源を生み出して個人の問題に対処する
地域に健康づくりの拠点をつくる
地域の課題解決を意図して地域ケア会議を運営する 地域の課題から施策化を意図して運営する
迷惑行為のある高齢者を健康の視点から理解を促し,地域で支援できるよう働きかける
介護保険を利用せずに地域とつながりながら自立を支援する事例を取り上げる
医療と介護の連携を支援する スムーズな多職種連携による個別支援を展開するために医療と介護の橋渡しをする 各種会議では医療職の専門用語を通訳し参加者全員の理解による連携を促す
各種会議でもらった医療職からの助言を生かして支援できるよう地域包括内他の職種や地域関係者の調整を図る
医療的な判断を不得手とする介護支援専門員に医療職との連携構築に向けて手助けを助言する
地域で医療と介護の連携を促進する仕組みを構築する 看護職として医療職の思考を理解し,地域での多職種連携のあり方を検討する
ICTを用いたネットワークツールを導入し,医療と介護のタイムリーな連携を促進する
地域包括とステークホルダーとの関係を捉えて協働する 地域の課題を解決するために多分野,多職種と協働して活動する 多分野協働による事業展開となるよう土壌をつくる
多職種・多機関と共通する健康課題を見出し,協働で対策を決める
行政の保健部門保健師と連携を図って住民を支援する
行政の事務職の力を借りて協働で事業に取り組む
地域包括と意思決定権者との関係を捉えて活動に取り組む 委託元である市町村と共通認識をもって取り組む
意思決定権者に情報提供や提案を行い,活動を委ねる
市町村直営の地域包括であるため地域関係者と活動しやすい
高齢者を支援する地域の専門職を育成する 保健医療の観点から地域の専門職を育成し,高齢者への支援の質を高める 支援を必要とする介護支援専門員や専門職を見極め,個別支援での多様な実践を踏まえて援助する
医療職として地域包括内外の関係者に精神疾患の学習を促し,理解と対応力を高める
ライフステージを捉えて高齢者を理解し,より良い支援ができるように専門職を援助する 介護支援専門員にライフステージの観点から高齢者への理解を促す
地域包括内外の関係者に看取りの学習を促し,看取りを支援する能力を高める
看取りを住民と一緒に考えることがより良い生き方につながる視点を多職種に教示する
地域包括内で効果的に業務を遂行できるように調整する 地域包括内で協働して業務を遂行する 業務を遂行するために地域包括の三職種で学び合う
地域包括内で合意形成を図り業務を遂行する
地域包括内のメンバーが効果的に力を発揮できるよう調整する 地域包括内の他職種の専門性を理解し,力を発揮できるように調整する
事業の成果を通じて職員のポジティブな思考を生み出す
業務の効率化や適正配置を図り,地域づくりを推進する稼働を生み出す
地域包括保健師としてアイデンティティを構築する能力 地域包括の保健師であることを認識して活動する 保健師マインドを発揮する地域づくりの活動方法を見出す 同一市内包括の保健師間で地域の課題や活動の方向性を検討し,共通認識をもって活動する
保健師の地域づくり活動の軌跡と成果を評価する
保健医療の視点をもって介護保険関係者の機運があるうちに防災としての地域づくりを推進する
保健師という職種を認識して活動する 住民の保健師という職種への信頼感を受け止めて活動する
保健医療の専門性を基盤にしながら保健師としてブレずに地域で活動する
地域包括の職員として活動する 保健師という職種にとらわれずに地域包括の職員として活動する

1) 【地区活動により地域の課題を解決する基盤をつくる能力】

地域包括保健師の地域づくりの専門能力は,担当する日常生活圏域を対象に《地域に根ざす》姿勢をもち,《地区活動により高齢者の自助と互助を育みながら地域の基盤をつくる》ことで,地域の課題を解決する能力であった.

(1) 《地域に根ざす》

地域包括保健師は,アウトリーチを重視し,“まずは行動してみよう”と,〈地域に出向くきっかけをつかみ,意欲的に地域に入る〉特性があった.また,住民の懐に上手に入り,住民が話しやすい身近な存在になり,信頼を得るなど,〈住民や関係者と打ち解ける〉特性があった.

「地域包括が開設した当時,訪問しても保険勧誘に間違われて….(住民の)集まりがあるって聞けば顔を出したし,何か困ったっていったら,まずはアウトリーチを大事にしてて…地域の人が相談に来るっていうよりは,自分たちが行くみたいな,そんな感じで活動してました.(H,保健師)」

(2) 《地区活動により高齢者の自助と互助を育みながら地域の基盤をつくる》

地域包括保健師は,〈地域の資源と高齢者の暮らしをアセスメントし,強みを生かして自立を支援(する)〉し,拒否的な高齢者であっても健康の切り口から支援のきっかけをつくり,信頼関係を構築しながら支援の土台を構築するなど,〈保健医療の視点をもって住民の生命と安全を守る〉特性があった.また,健康教育を通じて高齢者を支える民生委員の健康向上を図るなど,〈高齢者の健康意識を高め,健康づくりに取り組む〉こと,フレイル予防をポピュレーションアプローチで地域全体に浸透させるなど,〈地域の高齢者に合わせたポピュレーションアプローチで働きかける〉特性があった.さらに,地域包括保健師は,〈住民の主体性を引き出し,地域での活動に働きかけ(る)〉,家庭訪問や健康教育などの地区活動でのつながりから住民と一緒に地域の課題に対応するなど,〈住民や関係者とネットワークを構築し,助け合いを育む〉特性があった.

「やっぱり予防とか健康にすごく,重点を置いていて,地域住民さん(は)もちろん,その人たちを支えてくれる民生委員さんも健康でいないと,他の高齢者の方も見守れないねって,民生委員さんの例会に行って,定期的にお話しさせてもらっているっていう,お互い様というか,win-winというか,そんなお手伝いが出来てるのかな.(C,保健師)」

「この地域のこういう人たちが今困ってて,その人たちにどうアプローチしていけば,ここの地域の人たちが立ち上がってくれるのかなとか,意識しながら,地域の方と話してます.(H,保健師)」

2) 【地域の課題解決に向けて地域包括内外をマネジメントする能力】

地域包括保健師の地域づくりの専門能力は,高齢者支援を軸として,《多様な視点を統合し,地域の強みや課題を特定する》,《地域の課題解決に向けて施策や資源に働きかける》能力だった.また,多職種・多機関との連携を意図して,《医療と介護の連携を支援する》,《地域包括とステークホルダーとの関係を捉えて協働する》専門能力が見出され,《高齢者を支援する地域の専門職を育成する》ことで高齢者への支援の質を高めていた.さらに,《地域包括内で効果的に業務を遂行できるように調整する》といった組織内をマネジメントする専門能力であった.

(1) 《多様な視点を統合し,地域の強みや課題を特定する》

地域包括保健師は,高齢期になる前から介入の重要性に気づき,中長期的に予測される地域の課題や潜在化している地域の課題など,〈地区活動から捉えた情報を統合し,地域の課題を特定(する)〉していた.また,地域の社会資源やケアシステムの情報,法令や制度,自治体の状況と担当する日常生活圏域の実態を捉え,〈地域のケアシステムや上位システムの情報を統合し,地域の課題を明確にする〉特性があった.

「制度理解とか,国で示される法令関係と町の実情との比較ができて,その辺りの知識は,地域の中で一番知ってるのが保健師さんだと思ってて,現状を基に地域診断とかアンケート調査など行って分析をして,表面に見えている課題だけじゃなく,その裏に隠されている課題も見る力がすごくある職種が保健師さんと思っているんです.(E,社会福祉士)」

(2) 《地域の課題解決に向けて施策や資源に働きかける》

地域包括保健師は,日常業務を通じて地域の困りごとの解決を図っていた.また,予算の根拠を示し事業化に向けて段取りをする,先進している地域の情報を把握して,自分達の地域の活動に取り込むなど,〈地域の課題を解決するために地区活動,事業,施策を展開する〉特性があった.さらに,地域包括保健師は,地域にない資源を生み出して個人の問題に対処するなど,〈地域の課題を解決するために社会資源を創出する〉特性があった.加えて,地域包括保健師は,迷惑行為のある高齢者を健康の視点から理解を促し,地域で支援をできるように働きかけるなど,〈地域の課題解決を意図して地域ケア会議を運営する〉特性があった.

「重層(重層的支援体制整備事業)の準備事業の関係で商業施設に居場所っていうか,カフェスペースみたいなのを去年から(商業施設を)借りて出張相談とかやってたんですよ.だけどそれだけじゃ人が来ないし.地域の課題の中で,軽度の段階で認知症の相談があっても,なかなか通所とかに結び付かない…要はMCI(軽度認知障害)に対する対策がずっと課題になってたんですね.せっかく今,商業施設を借りいろんな相談とかをやってるんだから,週2回,その時間に合わせて(地域)包括で一回カフェやろうっていうことになって.(D,保健師)」

(3) 《医療と介護の連携を支援する》

地域包括保健師は,各種会議で医療職の専門用語を通訳し参加者全員の理解による連携を促していた.また,医療的な判断を不得手とする介護支援専門員に医療職との連携構築に向けて助言するなど,〈スムーズな多職種連携による個別支援を展開するために医療と介護の橋渡しをする〉特性があった.さらに,看護職として医療職の思考を理解し,地域での多職種連携のあり方を検討し,ICTを用いたネットワークを導入するなど,〈地域で医療と介護の連携を促進する仕組みを構築する〉特性があった.

「医療職の強みを生かすっていうところでは,うちの包括では介護医療連携で,…お医者さんとか医療用語ってやっぱり特殊なものが多いので,共通言語(を)話せるのは,医療職の強みかな…(B,保健師).」

「ここ数年で医療介護連携(が)進んだんじゃないかなと思っているんです…1番頑張ったのはバイタルリンク導入.何が保健師と関係するかっていうと,地域住民のためにICTツールで医療介護連携するってなったときに,間に入れるのは保健師なのかなと思って.保健師って立場の人間が進めてきたからこそ,地域の事業者の方たちも乗ってきてくれたのかな.地域住民を囲む支援者をまとめるっていうところです.(J,保健師)」

(4) 《地域包括とステークホルダーとの関係を捉えて協働する》

地域包括保健師は,高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施に関する事業など,行政の保健部門保健師や事務職と連携を図り,〈地域の課題を解決するために多分野,多職種と協働して活動する〉特性があった.さらに,地域包括保健師は,委託型では委託元である市町村との関係,直営型では支所と本所の関係など,意思決定権者に情報提供や提案を行い,活動を委ねていた.一方で,直営型の地域包括であるために地域関係者と活動しやすいと捉えており,〈地域包括と意思決定権者との関係を捉えて活動に取り組む〉特性があった.

「(地域包括の)保健師は(異動で)変わらないんですけど(市町村主管部門の)事務系の人たちはやっぱり異動で変わっていくので,同じ熱量で進めていけない.地域ケア会議なんか特にそうなんですけど.行政,地域課題から政策形成ってなったときにやっぱり自分たちの背負うものってすごく大きいので,私も10年の中で勇み足で逆に距離を置かれたり,本当に難しいんです.…相手が新人であろうと…一緒に同じ歩みで行かなきゃいけないので,そこは本当に歩み寄りながら,後ろから支えて.それも結局地域のためなので,回り回って.だからそこをうまくやりながら事業を進めていくっていうことは常日ごろ心がけているところです.(I,保健師)」

(5) 《高齢者を支援する地域の専門職を育成する》

地域包括保健師は,医療職として地域包括内外の関係者に精神疾患の学習を促し,理解と対応力を高めるなど,〈保健医療の観点から地域の専門職の人材育成を図り,高齢者への支援の質を高める〉特性があった.また,介護支援専門員にライフステージの観点から高齢者への理解を促し,地域包括内外の関係者の看取りを支援する能力を高めるなど,〈ライフステージを捉えて高齢者を理解し,より良い支援ができるように専門職を援助する〉特性があった.

「精神疾患の方に対する関わり方とか,悩むっていうケアマネさん(介護支援専門員)が多いから,精神疾患についての勉強会を開催してくれるのが多いので…(A,社会福祉士)」

(6) 《地域包括内で効果的に業務を遂行できるように調整する》

地域包括保健師は,運営形態に関係なく,地域包括の三職種で学び合い,合意形成を図るなど〈地域包括内で協働して業務を遂行する〉特性があった.また,地域包括内メンバーの専門性を理解し,力を発揮できるように調整し,地域づくりを推進するなど,〈地域包括内のメンバーが効果的に力を発揮できるよう調整する〉特性があった.

「他の職種,私のような社会福祉士であったり,主任介護支援専門員さんに動いてもらったほうがいいっていうところをちゃんとコーディネートすることができるのが保健師さんかと思ってまして,割り振りをしたり,自分自身の得意をちゃんと発揮できる環境を作って,ファシリテーションに近いのかもしれないんですけども,そういう能力を発揮してくれているんじゃないか(E,社会福祉士)」

「組織の仕組みとして,役割を発揮できるような仕組みづくりというか,みんなで業務を見直した経過の中で,保健師のグループの中で認知症や介護予防事業を中心にやってもらって,その中で何か保健師らしさというか,地域づくりみたいなものをすごい一生懸命推進していけるようになってきてるというか.(D,保健師)」

3) 【地域包括保健師としてアイデンティティを構築する能力】

地域包括保健師の地域づくりにおいて,保健師という職種を認識して活動する一方では,地域包括の職員として活動しており,《地域包括保健師であることを認識して活動する》能力が必要であった.

(1) 《地域包括保健師であることを認識して活動する》

地域包括保健師は,同一市内包括の保健師間で地域の課題や活動の方向性を検討し,共通認識をもって活動していた.また,保健師の地域づくり活動の軌跡と成果を評価するなど,〈保健師マインドを発揮する地域づくりの活動方法を見出す〉特性があった.さらに,住民の保健師という職種への信頼感を受け止めて活動し,保健医療の専門性を基盤にしながら保健師としてブレずに地域で活動をするなど,〈保健師という職種を認識して活動する〉特性があった.一方では,“地域包括保健師の役割が迷走している”,“保健師という職種を名乗らない”という語りもみられ,保健師という職種にとらわれずに,〈地域包括の職員として活動する〉特性があった.

「介護予防頑張ろうって言って,私は(地域の)介護認定率が低いし,頑張ってるってふうに思うけど,誰も褒めてくれませんから.それでも平気って.自分でやってきたことの軌跡を自分で褒められる能力かな(E,保健師).」

「(地域)包括の保健師の役割って,(地域)包括の中では迷走してるんじゃないかって思っていて.特に保健師だからっていうような活動はなくなってしまってるんじゃないかなって思ってるんですよね.(H,保健師)」

Ⅳ. 考察

1. 【地区活動により地域の課題を解決する基盤をつくる能力】

保健師による地区活動は,「訪問指導,健康相談,健康教育及び地区組織活動の育成等を通じて地区を把握し,住民が主体的かつ継続的に健康な生活を送れるよう地域住民や関係機関等と協働して行う保健活動.」と定義され(永井ら,2021),地区活動を通じて健康づくりを推進する(厚生労働省,2013).従来から保健師は,地区活動を通して住民個人の健康問題の把握から地域の課題につなげ,解決に向けて他機関と連携しながら,住民の主体的な活動を推進し,地域特性に応じたまちづくりにつなげてきた(高橋,2014).つまり,保健師による地区活動は地域づくりに連続的に発展する活動であると考えられる.

行政保健師においては,地域保健法施行後,分散配置により地区活動が減少し(佐伯,2011),ネットワーク構築や個人と地域を関連付ける能力の脆弱化(中板,2009)が指摘されてきた.業務委託の進展や住民と対面しない業務が増加し(真山,2020),地区担当制を導入しても,「地域把握ができていない」(佐川ら,2015)などの課題がある.地域における保健師の保健師活動に関する指針(厚生労働省,2013)に基づく保健師活動の展開に関する自治体を対象とした調査(井伊ら,2022)では,自治体種別や人口規模に差はなく,「地区活動に立脚した活動の強化」は取り組み状況が最も低かった.

一方,地域包括保健師は,業務時間の42.3%を総合相談支援業務や介護予防プラン作成業務など個別対応が最も多くを占め(三菱UFJリサーチ&コンサルディング,2019a),地域ケア会議や地域でのネットワークが必要となる支援困難事例(吉岡,2019)など,豊富な相談や家庭訪問を日常業務としている.そのため,地域包括保健師は個別支援をしながら,住民や関係者とのつながりを生かして一緒に地域の課題に対応するなど,《地区活動により高齢者の自助と互助を育みながら地域の基盤をつくる》専門能力を発揮していたと考えられた.

また,本調査の結果から〈地域の高齢者に合ったポピュレーションアプローチで働きかける〉特性が見出された.ポピュレーションアプローチは,社会的規範や健康の社会的決定要因を変化させ,個人や集団の健康を高める(日本看護協会,2018)手法であり,健康意識の底上げとヘルスリテラシーの向上をもたらし,健康な“まちづくり”の手段となる活動(日本看護協会,2018)である.そのため,地域包括の保健師の地域づくりの専門能力は,日常生活圏域を対象とした個別支援やポピュレーションアプローチを通じて【地区活動により地域の課題を解決する基盤をつくる能力】であったと考えられた.

2. 【地域の課題解決に向けて地域包括内外をマネジメントする能力】

健康なコミュニティづくりのマネジメントは,保健師のコアコンピテンシー(岡本ら,2024)に位置付けられている.また,地域保健活動における「地域づくり」の概念には,住民・関係者・行政の協働の関係を育む属性(山谷,2019)が含まれている.そのため,保健師の地域づくりにおいて,マネジメントする能力,協働する能力は不可欠な専門能力だと考えられる.本調査の結果である《地域包括とステークホルダーとの関係を捉えて協働する能力》には,委託型では行政との関係,直営型では本所と支所の関係など,意思決定権者と組織間の関係が反映されていた.この結果は,市町村が介護保険制度の保険者であり,地域包括の設置主体であることが影響したと考えられ,行政保健師の地域づくりの特徴には(野村,2023),見出されていなかった.意思決定権者との協働をマネジメントする能力は,地域のケアサービスの質向上につながる地域包括保健師の地域づくりの専門能力だと考えられた.

また,《地域包括内で効果的に業務を遂行できるように調整する》特性は,組織内をマネジメントする能力であった.地域包括の業務のうち,個別支援が占める割合は最も高く(三菱UFJリサーチ&コンサルディング,2019a),個別支援から地域の課題を見出しやすいと推察されるが,個別支援を丸抱えした状態では地域づくりを推進する地域マネジメントの役割を果たすことに困難さが生じる(三菱UFJリサーチ&コンサルディング,2019b).地域包括保健師は,管理者であるかに限らず,地域包括内のメンバーの専門性を捉え,効果的に業務を遂行するためにマネジメントする能力を発揮していた.地域包括保健師が地域づくりを実践するためには,組織内をマネジメントする能力を発揮することがより求められていると考えられた.

3. 【地域包括保健師としてアイデンティティを構築する能力】

山本(2023)は,専門性を高めるためには,知識,スキルなどの能力として知覚される専門性に加え,本人が意識する専門性である専門性意識の双方を検討する重要性を指摘している.近年,看護職においても,チーム医療が重視され,互いの専門性を尊重し,1つのチームとして治療にあたることから,専門性の拡大を求められる場面が多くなっており(山本,2023),主観的専門性から能力を捉えることが重要である.

地域包括保健師は,福祉と対比しなら保健を意識し(小路・西原,2022),個別的に対象に関わりながら集団・組織,地域住民全体に向けた同時的・複眼的な視点(平野,2002)に加え,福祉的視点を合わせ持つ重層的視点が独自に養われている(小路・西原,2022).地域包括の職員は,職種間協働により,職種間の専門性が融合し,専門職としての役割だけではなく,役割を拡大させて他の職種に変容する特性がある(小山,2016).そのため,地域包括保健師が,保健師マインドを発揮する地域づくりの活動方法を見出すなど,〈保健師という職種を認識して活動する〉,一方で保健師であることにとらわれずに〈地域包括の職員として活動する〉特性は,他の職種の視点や役割を合わせ持つ独自性のある能力を獲得したことが影響した可能性が考えられた.

専門職種間の連携協働を円滑に機能させるためには,他の専門職と区別できる専門職能力(Complementary)が必要だとされる(Barr, 1998).しかし,保健師は名称独占の国家資格であり,保健師と社会福祉士の活動が近接していることから(内山,2014),能力の共通性があり,地域包括保健師は他の専門職と区別できる専門能力を認識しづらい特徴があると考えられる.自身の専門性を認識する能力は,チームやグループ,組織レベルでの業績に影響があることから(Argote & Ingram, 2000),地域包括保健師が効果的な地域づくりを実践するためには,自身の専門性を認識する能力を獲得することが重要である.

常に保健師であるという職業に対する意識は,職業アイデンティであり(根岸ら,2010小路,2020),職業アイデンティティの確立は質の高い業務の遂行につながる(グレッグ,2002).行政保健師の職業アイデンティティは,住民と共に問題解決した経験を自身の知識や能力とすることで高めていると推察され(根岸ら,2010),個から集団・地域へと地区活動を発展させる経験に影響がある(小路,2020).地域包括保健師のアイデンティティは,他職種からの問いかけや自らの活動を内省することで目覚めていくとされ(小路・西原,2022),行政保健師とは異なるプロセスや関連要因が存在する可能性がある.職業アイデンティティの構築は,プロフェッショナルとしての成熟に不可欠である(Pratt et al., 2006)ことから,地域包括保健師が地域づくりの専門能力として,【地域包括保健師としてアイデンティティを構築する能力】を高める必要があると考えられた.

Ⅴ. 結論

地域包括保健師の地域づくりの専門能力は,日常生活圏域を対象とした【地区活動により地域の課題を解決する基盤をつくる能力】,高齢者支援を軸として【地域の課題解決に向けて地域包括内外をマネジメントする能力】,日常的に三職種協働で業務を遂行する職場環境において【地域包括保健師としてアイデンティティを構築する能力】であった.地域包括という同職種が少ない職場環境において,地域包括保健師として地域づくりの専門能力を高める人材育成体制やプログラム開発が急務である.

Ⅵ. 研究の限界と今後の課題

フォーカス・グループ・インタビューは,必ずしも三職種及び主管部門保健師を同人数でマッチングすることができず,データに偏りが生じた可能性がある.また,今回の結果である地域包括保健師の地域づくりの専門能力は,地域包括内の他の職種にも共通する能力も含まれている可能性がある.しかし,地域包括の三職種及び主管部門の保健師の主観的認識から,地域包括保健師の地域づくりの専門能力を明らかにしたことに意義がある.今後は,圏域の人口規模や運営形態に着目した分析により,地域づくりの専門能力を明らかにする必要がある.

付記:本研究の一部は,第12回,第13回日本公衆衛生看護学会学術集会で発表した.本研究は北海道大学大学院教育学院の博士論文の一部である.

謝辞:本研究にご協力いただきました地域包括の職員のみなさま,市町村主管部門の保健師のみなさまに心より感謝申し上げます.

本研究はJSPS 科研費20K19217 の助成を受けて実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:YTは研究の着想,デザイン,データ収集,分析,論文作成を行った.AAはデータ収集,解釈に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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