Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Reviews
A Process for Identifying Studies in Evidence-Based Practice and Adjacent Areas and the Characteristics of the Studies Among Nurses, Nursing Students, and Nursing Faculty in Japan: An Exploratory Scoping Review
Ai TomotakiYoshimi KodamaAsako Futami
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2024 Volume 44 Pages 117-128

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Abstract

目的:Evidence-based practice(EBP)とその隣接領域の研究を特定し,研究の特徴を明らかにすること.

方法:2022年8月に医中誌WebとPubMedで,日本の看護師・看護学生・教員のEBPに関する研究結果を含む文献を検索した.文献のタイトル・抄録等に含まれるEBP関連用語を抽出・集計し,EBP関連研究と判定されなかった文献の具体例を記述した.

結果:タイトル・抄録等にEBP関連用語を含む文献は745件で,EBP関連研究の可能性がある文献は186件であった.最も多く含まれたEBP関連用語は「エビデンス」に関する用語であった.また,「エビデンス」の意味が未記載,「エビデンスに基づく」はEBP以外の文脈で使われる文献もあった.

結論:日本の看護師・看護学生・教員に関するEBP関連研究の文献は限られていた.EBP関連研究の文献を特定できるよう,論文報告の質改善が求められる.

Translated Abstract

Aim: To identify research articles on evidence-based practice (EBP) and its adjacent areas to reveal the characteristics of the studies

Methods: In August 2022, a literature search was conducted in Ichushi Web and PubMed for studies containing research results on EBP among Japanese nurses, nursing students, and nursing faculty. EBP-related terms from these literature titles and/or abstracts were extracted, tabulated, and also described examples that were not judged to be EBP-related studies.

Results: Of the 745 articles that included EBP-related terms in the title or abstract, 186 were potentially EBP-related studies, including research findings with EBP. The most frequently included EBP-related terms were those related to “evidence.” However, some articles did not state the meaning of “evidence” or have used “evidence” in a context that is different from its definition in EBP.

Conclusion: Published EBP-related studies among Japanese nurses, nursing students, and nursing faculty are lacking. Thus, the quality of reporting EBP-related studies needs further improvement to identify such studies.

Ⅰ. 背景

エビデンスに基づく医療(Evidence-based Medicine,以下,「EBM」)とは,患者固有の問題に焦点をあて,利用可能な最良のエビデンスを,医療者の経験と患者の価値観に統合して,最善の医療を行うことである(Sackett et al., 1996).この考え方は現代医療の基盤で,ヘルスケアの専門職に求められるコンピテンシーの1つである(Albarqouni et al., 2018b).日本でも,看護師のエビデンスに基づいた実践(Evidence-based Practice,以下「EBP」)について,保健師・助産師・看護師国家試験の出題基準(厚生労働省,2022)や学士課程のコア・カリキュラム(大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会,2017),看護師の生涯学習(公益財団法人 日本看護協会,2023)や高度実践看護師の教育課程基準(一般社団法人 日本看護系大学協議会,2023)で,研究成果の活用や根拠に基づいた看護について言及されている.

国際的にも,看護師によるEBPへの期待は高い(Institute of Medicine (US) Roundtable on Evidence-Based Medicine, 2009Institute of Medicine (US) Committee on the Robert Wood Johnson Foundation Initiative on the Future of Nursing, 2021World Health Organization, 2020/国立研究開発法人国立国際医療研究センター国際医療協力局,2020).多くの看護師はEBPに肯定的である一方で,EBPに取り組む頻度やEBPに必要な知識スキルの自己評価,EBPのコンピテンシーが低く(Melnyk et al., 2018Saunders & Vehviläinen-Julkunen, 2016Tomotaki et al., 2020),EBPは容易ではない.EBPの阻害要因を取り除き,EBPを促すための様々な研究が行われ,文献レビューが発表されている.例えば,EBP教育の介入研究では,文献検索や文献の批判的吟味に関する内容が多く,実践や評価に関する内容が少ないこと(Albarqouni et al., 2018aHecht L et al., 2016),大学・大学院におけるEvidence-based Health Careの教育は知識やスキルを改善する傾向はあるが,ケアのプロセスや患者アウトカムへの長期的な影響の評価に関するエビデンスが不足していること(Bala et al., 2021),EBPに関する知識・スキルには教育レベル,EBP教育への参加,研究の経験,EBPへの組織的な支援や資源が関連していること(Furuki et al., 2023),エビデンスに基づくガイドラインの実装に対する阻害要因(時間・人材,費用・リソース,チームワークや組織的な支援の不足)や促進要因(リーダーシップ,よくデザインされた戦略,プロトコル,リソース,適切なサービス)(McArthur et al., 2021)等について報告されている.

しかし,EBPに関する研究の既存の文献レビューは,しばしば英語で記述された文献が対象となり(Kien et al., 2018),海外の研究者による文献レビューで日本の文献検索データベースは使われていない.EBPの促進や阻害には,個人,組織,文化,介入の性質等が複雑に関与する(Damschroder et al., 2022)ため,日本におけるEBP研究の知見を体系化することは,本邦のEBPの促進に加え,EBPの課題をグローバルに捉えるために重要である.しかし日本の看護師等のEBPについて,どのような研究が蓄積されているかわかっていない.

文献レビューでは,まず関連する文献を特定するが,EBPに関する研究に特有の課題がある.まず,EBPに関する専門用語の多様性である.EBPの起源となる用語はEvidence-based Medicineであるが,他にもEvidence-based NursingやEvidence-based Intervention(以下,「EBI」)のように‘Evidence-based’なケアや医療を示す用語は多数ある.また,EBPの知見をより網羅的に検索する場合,EBPの隣接領域の研究(Polit & Beck, 2021)も考慮しなければならない.例えば,「Knowledge translation (KT)」(Canadian Institutes of Health Research, 2016)や「研究成果の活用(Research utilization)」(Gennaro, 1994),「エビデンスに基づいた介入(EBI)の普及・実装(Dissemination & Implementation)」(Stetler et al., 2008)等である.

これまでに,日本語の文献検索データベースを用いて行われたEBP関連研究の文献レビューは,日本語で利用可能なEBP関連尺度のレビュー(Tomotaki et al., 2022)や褥瘡ケアの普及に関する文献検討(佐々木,2014)等に限られている.日本で行われているEBP関連研究の候補研究を特定し,そのプロセスを明らかにすることは,EBP関連研究の検索戦略を構築し,EBPの知見を体系化するための基盤となり,EBPによる最善の医療が社会に行きわたるための学術的な発展に寄与すると考えられる.

Ⅱ. 目的

本研究は,日本の看護師・看護学生・看護教員等の看護系人材を対象としたEBP関連研究を特定するプロセスから,以下を明らかにする.

1)文献検索の各プロセスで特定された文献集合に含まれるEBP関連用語の出現頻度・含有割合

2)EBP関連研究の候補文献の出版の傾向および含まれていたEBP関連用語の傾向

3)EBP関連研究ではない,または,EBP関連研究の可能性があると判断される文献の具体例

Ⅲ. 方法

1. 研究デザイン

本研究では,これまでに報告されたEBP関連研究の範囲や頻度等を明らかにするため,スコーピングレビューの手法を用いた(Arksey & O’Malley, 2005).本研究は,the PRISMA extension for scoping reviewsに準じて報告した(Tricco et al., 2018).なお,レビュープロトコルの登録はない.

2. 組み入れ基準

本研究では,Sackettらが定義するEBMとその5 stepsである「臨床疑問の定式化」,「文献検索」,「文献の批判的吟味」,「適用」,「評価」を基本として(Straus et al., 2018),レビューの対象とするEBPとその隣接領域を定めた(付録1).適格基準は次の5つで,①「エビデンスに基づく」,「研究成果・活用」,「普及・実装」,「ガイドライン」に関する用語を,タイトル,抄録,キーワード(シソーラスの統制語,MeSH用語を含む)に含む文献,②EBP,研究成果の活用,EBIの普及・実装,ガイドラインの活用に関する研究結果について言及されている文献,③研究対象者に日本の看護系人材(看護学生,看護系大学院生,看護師・保健師・助産師,看護系教員)を含む研究,④研究として行われたものが報告されている文献(学会発表の抄録を含む),⑤日本語または英語で書かれた文献,という条件を全て満たすものとした.

除外基準は,①タイトル・抄録・本文に「根拠」,「エビデンス」という用語を含むが,これらの用語が具体的に何を意味するか記述がない,または,エビデンスが研究に基づくものではないことを判別できる場合,②看護師等の実践のエビデンスとなる知見を創出することを目的とした研究,③自ら取り組んだ研究の知見の活用について焦点を当てた研究とした.

3. 文献検索データベース

本研究では,医中誌WebとPubMedを採用した.選定理由は,シソーラス機能・書誌情報等のダウンロード機能を有すること,EBP関連研究の検索戦略は未確立であり,まずは代表的な日本語と英語の文献検索データベースを各1つ用いることとしたためである.

文献検索は2022年8月1日(医中誌Web)と2022年8月3日(PubMed)に実施した.文献検索データベースで特定された文献の書誌情報を文献管理ソフトRayyanにインポートし,文献の重複はRayyanの重複抽出機能,研究者による目視確認,PubMedで特定された文献を医中誌Webで再検索することで特定した.

4. 文献検索

検索式は,IIIの2で示した組み入れ基準に準じて構築した(付録2).

5. 文献のスクリーニング

2人の研究者が独立して,文献検索データベースで特定された文献のタイトル・抄録のレビュー,本研究の組み入れ基準に合致しない文献の除外,全文レビュー対象の文献の特定を行った.次に,本研究の対象となった文献の全文を入手し,2人の研究者が独立してレビューを行い,「EBP関連文献である」,「EBP関連文献ではない」,「EBP関連文献の可能性がある」に分類した.そして,「EBP関連文献である」,「EBP関連文献の可能性がある」に分類された研究を,EBPに関連する研究結果を含む可能性がある「EBP関連研究の候補文献」とした.2人の研究者間で判断が一致しない場合は話し合いで決定し,合意に達しない場合はもう1人の研究者が判断した.また,文献の著者に本研究の研究者が含まれる場合は,著者ではない研究者がレビューを担当した.

なお,本研究のデータ分析の単位は,組み入れ基準に合致する文献の「文献数」とし,学会抄録と論文の両方に同一内容の研究が含まれているかの特定・除外はしていない.

6. データ抽出

文献の出版年・文献の種類は,文献検索データベースより出力したファイルから自動的に取得した.文献の概要に関する情報は,「研究方法」,「研究が実施された年(複数年にまたがる場合は最初の年)」,「研究対象者の属性(看護師,助産師,保健師,看護学生,看護教員,その他の医療従事者も含む)」,「研究対象者数(有効回答数)」,「EBPの測定・評価で使われていたデータ収集方法」を,全文をレビューする過程で抽出した.ただし,「文献レビュー」の研究のうち,メタ・アナリシスではない場合は,「研究が実施された年」,「研究対象者数(有効回答数)」は非該当とした.また「事例研究」で,実践事例に看護師等が関与しているが,看護師等がその研究で調査等に回答していない研究では,「研究対象者数(有効回答数)」は「非該当」とした.

EBP関連用語は,タイトル・抄録・キーワード(シソーラスの統制語,MeSH用語を含む)に「エビデンス/根拠/Evidence」,「研究成果・活用/Research utilization」,「ガイドライン/Guidelines」,「実装/Implementation」,「普及/Dissemination」等の単語が含まれるかを判定した(付録3).さらに,EBPとその隣接領域の分類(付録1)は,文献のタイトル・抄録・キーワードに含まれたEBP関連用語に基づいて,「エビデンス」,「研究成果の活用」,「ガイドライン」,「実装・普及」の4つに分類した(付録3).これらのデータ化は,統計解析ソフトSAS 9.4を用いた(SAS Institute Inc, Cary, NC, USA).

7. データ分析

1) 文献検索データベースで特定された文献の出版数

文献検索データベースで特定された文献について,文献データベース別,論文が記述された言語別,医中誌Webで特定された文献の種類(会議録,論文)別に出版数・割合を算出し,1年あたりの出版数は四分位を算出した.なお,医中誌WebとPubMedの両方に文献が含まれた場合は,PubMedの収載情報を分析対象レコードとした.

2) 文献検索の各プロセスで特定された文献集合に含まれるEBP関連用語の出現頻度

文献を特定・スクリーニングする各プロセスの文献集合について,EBP関連用語の含有割合を算出した.さらに各EBP関連用語について,文献検索データベースで特定された文献に占める,EBP関連研究の候補文献が占める割合とその四分位範囲を算出した.

3) EBP関連研究の候補文献に含まれたEBPとその隣接領域の傾向

EBP関連研究の候補文献について,EBPおよびその隣接領域の4つの分類(エビデンス,研究成果の活用,実装・普及,ガイドライン)ごとの文献数・割合を算出し,出版年の推移を図で示した.

4) 「EBP関連研究ではない」,「EBP関連研究の可能性がある」と判断した文献の具体例

文献検索データベースで特定された文献のうち,「EBP関連研究ではない」,「EBP関連研究の可能性がある」と判断した文献の具体例を,①「タイトル・抄録・キーワード」の情報に基づくスクリーニングの段階,②本文のレビューの段階について,それぞれ記述した.

なお,本研究における定量的な分析には,SAS 9.4およびMicrosoft Excel®を使用した.

Ⅳ. 結果

1. 文献検索のフローダイアグラムと文献を特定するプロセス

文献検索データベースを用いた検索で747件の文献が特定され,このうち医中誌WebとPubMedの重複は2文献であった.タイトルと抄録のスクリーニングで,組み入れ基準に合致しなかった297件を除いた448件(60.1%)の本文を入手し,全文レビューを行った.このうちEBP関連研究ではないと判断した262件(全文レビューの対象の58.4%)を除外した186件(重複文献を除く全745件の25.0%)を,「EBP関連研究の候補文献」とした(図1).

図1  スコーピングレビューのフローダイアグラム

文献検索データベースで特定された745件の内訳は,医中誌Web 672件(90.2%),PubMed 73件(9.8%)で,論文が記述された言語は,日本語が646件(86.7%),英語が99件(13.3%)であった.医中誌Webで特定された文献の種類は,会議録が149件(22.2%),論文が523件(77.8%)であった.出版年は1989年が最も古く,研究成果の活用に関する解説記事であった.その後1996年以降,毎年1件以上が出版され,1996年以降の744件における1年あたりの文献数の中央値は30(第1四分位13,第3四分位42)であった.

2. 文献選定プロセスの各文献集合におけるEBP関連用語の含有割合

文献検索データベースで特定された全文献([A]745件),タイトル・抄録レビューで除外後に全文レビューの対象となった文献([B]448件),全文レビュー後に採用されたEBP関連研究の候補文献([C]186件)について,各文献集合に含まれたEBP関連用語を表1に示す.

表1 文献を特定する過程の各文献集合におけるEBP関連用語の含有割合

EBP関連用語 [A]文献検索データベースで特定された文献(N = 745) [B]全文レビューの文献(n = 448) [C]EBP関連研究の候補文献(n = 186) 文献検索データベースで特定された文献[A]のうち,EBP関連研究の候補文献[C]の割合
n % n % n % %
エビデンス エビデンス 153 20.5% 89 19.9% 34 18.3% 22.2%
根拠 242 32.5% 142 31.7% 43 23.1% 17.8%
科学的根拠 59 7.9% 31 6.9% 12 6.5% 20.3%
Evidence/Evidence-based 229 30.7% 146 32.6% 76 40.9% 33.2%
EBP/EBM/EBN 74 9.9% 54 12.1% 39 21.0% 52.7%
研究成果の活用 研究成果 119 16.0% 86 19.2% 46 24.7% 38.7%
研究and成果 128 17.2% 93 20.8% 48 25.8% 37.5%
Research utilization 5 0.7% 4 0.9% 3 1.6% 60.0%
Research and Utilization 2 0.3% 2 0.4% 1 0.5% 50.0%
実装 実装 2 0.3% 1 0.2% 1 0.5% 50.0%
Implementation 10 1.3% 7 1.6% 4 2.2% 40.0%
普及 普及 49 6.6% 25 5.6% 18 9.7% 36.7%
Dissemination 4 0.5% 2 0.4% 2 1.1% 50.0%
ガイドライン ガイドライン 131 17.6% 93 20.8% 49 26.3% 37.4%
Guideline 15 2.0% 10 2.2% 3 1.6% 20.0%

脚注:1件の文献に複数の用語が含まれる場合や,タイトル・抄録以外の情報(シソーラス・キーワード・著者の所属名等)にのみこれらの用語が含まれる場合もあり,各文献集合のEBP関連用語の割合の合計は100%とはならない

文献検索データベースで特定された全文献の文献集合[A]において,最も多く含まれた用語は,「根拠」,次いで「Evidence/Evidence-based」,「エビデンス」,「ガイドライン」,「研究and成果」であった.文献数が5件未満の用語は,「Research Utilization」,「Research and Utilization」,「実装」,「Implementation」,「Dissemination」,「Guideline」であった.次に,全文レビューを行った文献集合[B]で多く含まれた用語は,「Evidence/Evidence-based」,次いで「根拠」,「ガイドライン」,「ガイドライン」,「エビデンス」で,文献数が5件未満の用語は文献集合[A]と同様であった.また,EBP関連研究の候補文献の文献集合[C]で最も多く含まれた用語は,「Evidence/Evidence-based」で,次いで「ガイドライン」,「研究 and 成果」,「研究成果」,「根拠」であった.

また,各EBP関連用語について,文献検索データベースで特定された文献[A]のうち,EBP関連研究の候補文献[C]が占める割合の範囲は,17.8%(「根拠」)~60.0%(「Research Utilization」)で,中央値は37.9%であった.

3. EBP関連研究の候補文献(n = 186)に含まれていたEBP関連用語の特徴

EBP関連研究の候補文献では,1996年に出版された文献が最も古く,その後2001年以降に毎年1件以上の文献が出版されていた(図2).2001年以降の1年間あたりの文献数の中央値は8(第1四分位5,第3四分位13)であった.

図2  EBP関連研究の候補文献に含まれていたEBP関連用語の内訳と出版年の推移(n = 186)

EBP関連研究の候補文献に含まれていたEBP関連用語の4分類の内訳は,多い順に「エビデンス」(62.4%),「ガイドライン」・「研究成果・活用」(26.9%),「実装・普及」(13.4%)であった.年次推移では,1996年に「研究成果の活用」に関する研究が報告され,その後2005年頃から「エビデンスに基づく実践」に関する研究報告が増加していた.「実装・普及」に関する研究の半数は2015年以降,「ガイドライン」に関する研究の半数は2016年以降に出版されていた.

EBP関連研究の候補文献の概要を表2に示す.研究対象者に看護師を含む研究が最も多く(79.0%),次いで看護学生(8.6%),保健師・助産師(いずれも4.8%)であった.研究方法で最も多いのは観察研究(43.5%),次いで,質的研究(30.1%),介入研究(15.6%)であった.研究が実施された時期については,2005年以降,5年おきに約40件実施されているが,研究実施時期について明確な記述のない文献が29.6%あった.研究の有効回答数は全体の44.1%が100人未満で,100~500人未満が約26.8%,500人以上が39.2%であった.EBPに関するデータの収集方法は,EBPの自己評価尺度が使われた研究の文献数が3件以上であった尺度は日本語版BARRIERS Scale(n = 9),研究成果活用力自己評価尺度―臨床看護師用―(n = 8),Evidence-based practice questionnaire 日本語版(n = 4)であった(表3).

表2 EBP関連研究の候補文献の研究概要

n = 186)

研究の概要 カテゴリ n (%)
研究に含まれた対象者の属性(複数選択) 看護学生 16 8.6%
看護師 147 79.0%
保健師 9 4.8%
助産師 9 4.8%
大学院生 3 1.6%
看護系教員 4 2.2%
その他の医療従事者も含む 32 17.2%
研究実施年(複数年の場合は研究開始年) ~1999年 2 1.1%
2000~2004年 14 7.5%
2005~2009年 42 22.6%
2010~2014年 35 18.8%
2015~2019年 37 19.9%
2020年~ 4 2.2%
記述なし 55 29.6%
非該当 7 3.8%
有効回答者数 10人未満 22 11.8%
10~20人 28 15.1%
20~50人 23 12.4%
50~100人 9 4.8%
100~500人 50 26.9%
500~1,000人 14 7.5%
1,000人以上 9 4.8%
その他 10 5.4%
記述なし 13 7.0%
非該当 9 4.8%
研究方法 文献レビュー 7 3.8%
介入研究 29 15.6%
観察研究 81 43.5%
尺度開発 11 5.9%
質的研究 56 30.1%
混合研究法 1 0.5%
事例研究 4 2.2%
記述なし 8 4.3%
表3 EBP関連研究の候補文献の研究で使われていたEBPの自己評価尺度

n = 186)

尺度名 n %
研究成果活用力自己評価尺度―臨床看護師用― 8 4.3%
Research Awareness Scale for Nurses in Japanese 2 1.1%
保健師の研究成果活用力尺度 2 1.1%
日本語版BARRIERS Scale 9 4.8%
専門実践尺度 1 0.5%
看護研究への態度尺度 2 1.1%
科学的根拠に基づく実践を適用することへの態度尺度日本語版 2 1.1%
Evidence-based Practice Questionnaire 日本語版(EBPQ-J) 4 2.2%
Implementation Degree Assessment Sheet for Health Program in Japan by Customizing CFIR 1 0.5%
The Health Sciences Evidence-based Practice Questionnaire into Japanese 2 1.1%
Evidence Based and Innovative Nursing practice Questionnaire(EBINPQ) 2 1.1%
Information Literacy for Evidence Based Nursing Practice 1 0.5%

4. 「EBP関連研究ではない」,「EBP関連研究の可能性がある」と判断した文献の具体例

1) タイトル・抄録等に基づくスクリーニングの段階

EBP関連研究ではないと判断した文献は,以下であった.

(1)適格基準「①エビデンス/EBP,研究成果の活用,普及・実装,ガイドラインに関する用語がタイトル,抄録,キーワード(シソーラスの統制語,MeSH用語を含む)のいずれかに含まれる文献」であるが,「②EBP,研究成果の活用,EBIの普及・実装,ガイドラインの活用に関する研究結果について言及されている文献」に該当しない,EBP関連用語が,抄録の「緒言」や「考察」のみに含まれており,EBP関連研究の結果を報告していない場合であった.

(2)著者の所属機関の中に日本が含まれているが,適格基準「③研究対象者に,日本の看護系人材(看護学生,看護系大学院生,看護師・保健師・助産師,看護系教員)を含む研究」ではない,PubMedによる検索で,著者所属のLocationに「Japan」が含まれた文献であった.

2) 全文のレビューの段階

(1) 「EBP関連研究ではない」に分類された文献の具体例

「エビデンス」,「研究成果の活用」,「普及・実装」,「ガイドライン」の用語が,本研究で定義した概念とは異なると判断した文献の例を,以下に示す.

・エビデンス:「エビデンス」という用語が,マニュアル,手順書,患者の言動,検査データ等のみを指しており,人を対象とした臨床研究に基づく研究の知見について言及されていなかった.また,根拠という用語は「理論的根拠」,「力学的根拠」,「法的根拠」,「判断根拠」といった用語と共に用いられ,EBPに関連する研究結果が含まれていなかった.

・研究成果の活用:活用する研究成果が,文献の著者自らが過去に行った研究成果に基づいて,新たに実施した活動・研究に限定されていた.

・文献のタイトルまたは抄録にEBP関連用語が含まれず,シソーラスにのみ含まれる場合で,さらに,全文レビューによって本研究で定義する概念には該当しない場合が含まれた.

(2) 「EBP関連研究の可能性がある」に分類された文献の具体例

「EBP関連研究の可能性がある」に分類された文献は,ガイドラインの名称や作成者,作成の目的等について記述があるものの,本研究で定義する「文献の検索・批判的吟味によるエビデンスの評価を,臨床疑問にあわせて,実践における意思決定の根拠として位置付けられている文書」か判別できる情報が記述されていない文献が該当した.「ガイドライン」という用語は,医療機関や団体が独自に作成した実践の手順書や指針の総称として使われており,必ずしも,文献の検索・批判的吟味,エビデンスが評価されているとは限らない.この場合,「EBP関連研究である」,「EBP関連研究ではない」のいずれにも判断できず,「EBP関連研究の可能性がある」とした.

Ⅴ. 考察

日本の看護系人材を対象としたEBP関連用語を含む文献を検索した結果,タイトル・抄録等に「エビデンス」,「研究成果・活用」,「ガイドライン」,「実装・普及」を含む文献は多数あるが,EBPに関連する研究結果が報告されている文献は限られた.1年あたりの出版数の最大値は20件に満たず,出版数の年次推移に顕著な増加はなかった.世界的には看護師のEBPに関する研究は増加傾向(Unal & Teskereci, 2022)だが,日本ではEBP関連研究は活発ではない可能性が示唆された.

文献レビューの過程から,EBP関連研究の文献検索は容易ではなく,EBPに関連する用語はEBP以外の様々な文脈で用いられ,同一定義で使われていないこと,EBP関連研究に該当するか判別可能な情報が記述されているとは限らないことが明らかとなった.EBP関連研究の検索では,検索対象にEBPとその隣接領域をどこまで含めるか検討し,EBPの「エビデンス」の範囲を明確にすることが重要である.さらに,事前に検討した定義に合致するか判別可能な情報が記述されていない場合も念頭において,文献の検索戦略やレビューの手順を検討する必要性が明らかとなった.

1. EBP関連研究の検索戦略

文献検索データベースで最初に特定された文献のうち,最終的にEBP関連研究の候補文献が少なかった理由は,まず系統的な文献検索では,関連する論文の検索漏れを最小限にするために,関連する用語を網羅的に含むよう検索式を組んでいたことが考えられた.

タイトル・抄録のスクリーニングを経て全文レビューを行った文献の半数以上がEBP関連研究に該当しなかった.例えば,EBPの隣接領域であるKnowledge Translationの研究で用いられる用語は約100語あり(McKibbon et al., 2010),薬剤名のように一意に定まる用語がない研究領域であるといえる.また一般的に,医療者は研究の知見以外に,患者の反応,検査データ,マニュアル等の様々な情報を意思決定のために用いる.本研究で文献を特定する過程でも,これらの総称として「根拠」が使われていたことは,「根拠」という用語が,文献検索データベースで特定された文献の中で最も多く,さらに,そのうちEBP関連研究の候補文献の割合が最も少なかったことからも裏付けられる.EBP関連研究のレビューでは,「根拠(エビデンス)に基づく」というフレーズの使われ方の相違に留意する必要がある.

EBPの隣接領域に関する文献数については,EBIを効果的・効率的に社会に組み込み定着させるという普及・実装の用語を含む研究は少なかった.これは,EBIの普及・実装に関する研究分野の確立が比較的最近であることも背景として考えられる.文献の検索戦略は,学問領域の発展とともに更新する必要がある.また「ガイドライン」という用語を含むもののEBP関連研究か判別が困難な場合は,研究の組み入れ基準を詳細に設定し,当該文献で参照されていたガイドラインをさらにレビューすることができれば判別可能であると考えられた.

2. EBP関連研究の動向

EBPおよびその隣接領域の概念は,海外で1970年代から「研究成果の活用」について言及され(Polit & Beck, 2019),1990年代に「エビデンスに基づく医療」(Guyatt, 1991),2000年代に「普及・実装」という概念が研究分野として体系化されてきた(Brownson et al., 2012).並行して,エビデンスに基づく「Clinical Guidelines(臨床ガイドライン)」が整備され(青木,2002),日本では2004年度からウェブサイトを通じた診療ガイドラインの公開が始まっている(公益財団法人日本医療機能評価機構,n.d.).日本の看護系人材を対象としたEBP関連用語を含む研究の報告は,海外でこれらの概念が言及されはじめてから約10~20年のタイムラグがあることが示唆された.

また,研究でよく用いられる研究デザインは,研究テーマによっても異なるが(藤井・揚野,2022山下・中澤,2019石川ら,2010),本研究で特定されたEBP関連研究の候補文献の多くが観察研究や質的研究で,介入研究が少なかったことは,日本の研究はEBPの実態の記述に留まり,EBPを促す介入的なアプローチの開発が進んでいないことが示唆された.EBP関連研究の候補文献で用いられていたEBPに関する自己評価尺度は,従来の研究で国際的にも使用頻度が高い尺度(Kajermo et al., 2010Khadjesari et al., 2020)の日本語版や,研究成果の活用に関して日本で最も早く開発された尺度(亀岡ら,2012)であった.ただし,国際的には,EBPに関する尺度は100以上あり(Shaneyfelt et al., 2006),日本語で利用可能なEBPの自己評価尺度はEBPの多面的な側面のごく一部である(Tomotaki et al., 2022).また,研究者自身が作成した調査票は,研究間の比較・統合が容易ではない.これらのことから,日本で行われているEBPの自己評価に基づく調査結果は,評価や統合に課題があることが示唆された.

3. 本研究の強みと限界

本研究で明らかにしたEBP関連研究の系統的な検索とレビューの過程は,日本でEBP関連研究に取り組むとき,日本の研究の知見を考慮した研究を計画・実施するとき,あるいは,EBP関連研究の結果を解釈するときの検索戦略として活用されることで,EBP関連研究の学術的な知見の体系化に寄与することが期待される.

本研究により,日本の看護系人材を対象としたEBP関連研究と考えられる文献をある程度特定できたと考えられるが,いくつかの限界がある.一点目は検索式に含めた用語の網羅性である.本研究では,検索用語に「Evidence-based Medicine」,「EBM」,「Knowledge translation」,「transrational research」の用語,および,医中誌Webの統制語(PubMedのMeSH)である「エビデンスギャップ(Evidence Gap)」,「ガイドラインの遵守(Guideline Adherence)」,「実装科学(Implementation Science)」,および,「実装科学」の上位概念である「技術革新の伝播(Diffusion of Innovation)」を含めていなかった.二点目は,EBPやその隣接領域の概念に準ずる研究であっても,本研究の検索で用いた用語が文献のタイトル・抄録・キーワードに含まれなければ,検索できていない可能性がある.三点目は,本研究の「EBP関連研究の候補文献」には,「EBP関連研究の可能性がある」に分類された文献も含めたこと,学術集会における研究発表の抄録は全文レビューが可能な原著論文と比較して情報量が少なかったことから,本研究で含めた文献数は過大または過少評価の可能性がある.四点目は,今回の検索では,CiNii Research,Google Scholar,CINAHL等の検索エンジンや文献検索データベースは使用しなかった.今後はこれらも加えた文献レビューを行い,本研究結果の妥当性の検証や,文献の検索戦略の確立が求められる.最後に,日本ではすでに出版されているEBP関連研究の文献レビューが限られ,検索式の評価に参照可能な文献集合がない.そのため,本研究では文献検索の感度・特異度等の評価(森實,2015)は行わなかった.

4. 今後の研究への示唆

EBP関連研究の発展には,既存の研究から,日本の看護系人材におけるEBPの準備状況やEBPの必要性に対する認識,EBPを促す・阻害を除去するための介入研究の効果等の知見を体系的に分析し,統合することが求められる.EBP関連研究の知見を迅速に体系化するには,EBP関連研究の文献レビューを行うときの推奨を策定することも重要である.とくに文献の検索戦略において,特異度が低くNumber Needed to Readが大きい場合は,文献の選定作業でヒューマンエラーが高くなる可能性が指摘されている(森實ら,2015).また,システマティックレビューは非常に時間を要する(Borah et al., 2017).文献レビューは,例えばテキストマイニングを用いた方法の検討(森實,2017)もあるが,人工知能の技術を併用する方法も検討されている(Blaizot et al., 2022).本研究で明らかになったEBP関連研究の文献を特定するときの問題点は,人工知能を併用して検索する場合も同様に,文献検索の限界となる可能性がある.加えて,文献レビューの結果は,組み入れ基準の相違等,様々な要因の影響を受ける(Marshall et al., 2019).EBP関連研究の文献レビューの質の管理・担保の観点からも,文献の検索戦略の構築と検証が必要である.

さらに,EBP関連研究の論文報告の質向上は,EBP関連研究の知見の統合にも重要な課題の1つである.現在,EBPに特化した研究の報告ガイドラインは,EBP教育介入研究の報告ガイドライン(Phillips et al., 2016)のみである.EBP研究の概念,定義,EBP関連用語の標準化,EBP研究の論文に含めるべき用語の規定や推奨等のコンセンサスを得ることが求められる.

今後は,EBP関連研究が行われている専門分野,研究で扱われていたアウトカムの内容,当該研究で焦点をあてていたEBPのステップ等を明らかにすることで,日本のEBP関連研究を詳細に把握し,明らかになっていない課題の特定が求められる.また,文献のタイトル・抄録・キーワードに,本研究の検索で用いた用語を含まない文献については,個別の臨床疑問にあわせたEBPのスコーピングレビューを設定し,目的に合致する用語を検索式に含める必要がある.これにより,本研究で行ったEBP関連研究の包括的な評価だけではなく,専門分野に特異的なEBP関連研究の現状と課題の評価に寄与することが期待される.

Ⅵ. 結論

医中誌WebとPubMedを用いて,日本の看護師・看護学生・看護教員等の看護系人材を対象としたEBP関連研究の文献レビューを行った結果,タイトル・抄録・キーワード等にEBP関連用語を含む文献数は745件であった.ただし,全文レビューによって,EBP関連研究の可能性があるEBP関連研究の候補文献として特定された文献数は186件で,1年あたりの出版数は多くなかった.

文献検索のプロセスでは,「エビデンス」に関連する用語が最も多く含まれ,「普及・実装」に関する用語の含有割合が低い傾向がみられた.「エビデンス」の意味が未記載,EBPの定義とは異なる文脈でEBP関連用語が用いられている文献もあり,文献レビューではEBPおよび隣接領域の用語の定義や多義性に留意する必要がある.

付記:本研究は,26th East Asia Forum of Nursing Scholarsで発表した内容をもとに,データ分析を追加したものである.なお本研究の対象となった文献集合の文献リストは,ウェブサイト(https://researchmap.jp/aitomotaki/works)にて公開する.

謝辞:本研究は科研費(JSPS-JP-18K17452)の助成を受けて実施した.本研究にあたり,検索式の構築にご助言くださった鈴木俊也様(図書司書),文献管理業務をご支援くださった藤村知恵子様に,深く感謝申し上げます.また本研究は,筆頭著者が取り組んだ博士論文より着想を得て行ったものであり,酒井郁子先生に感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:AT,AFは研究の着想に貢献;AT,YKは研究デザインに貢献;すべての著者は文献レビューを実施;AT,YKはデータ抽出を実施;ATは分析データの作成,統計解析の実施,草稿を作成;すべての著者は,分析結果の解釈,草稿の推敲を行い,最終原稿を読み承認した.

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