Journal of Japan Academy of Nursing Science
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
Original Articles
Efficacy of a Nursing Program on Patients’ Eating Behaviors After Surgery for Esophageal Cancer: A Single-Center Non-randomized Controlled Trial
Junko FukadaYayoi KamakuraYutaka YaegashiKoji KitagawaHiroko NishiokaHisaaki AoyamaTetsuya Abe
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML
Supplementary material

2024 Volume 44 Pages 164-176

Details
Abstract

目的:食道がん術後患者の食行動に関する看護プログラムの有効性を検討した.

方法:食道がんで食道亜全摘術予定の患者を対象とし,病棟にプログラムを導入する前を対照群,導入後を介入群とした.プログラムは,フローチャートによる嚥下訓練の実施と,患者が食後の不快症状を予防し食事摂取量を調整するための指導で構成された.術前・退院時に嚥下機能検査を,術前から術後3か月間に体重,食事摂取量,食事回数およびQOLを調査し分析した.

結果:対照群26名と介入群25名の反回神経麻痺は各4名であった.介入群は,対照群と比較し食事摂取量にあわせて食事回数を調整できたが,食事摂取量や術前体重比に有意差はなかった.しかし,介入群は,術後3か月には嚥下時のむせの症状スコアが有意に低下し,精神機能のQOLが有意に高くなった.

結論:プログラムは,嚥下時のむせを減少させ,精神機能のQOLを高めることが示唆された.

Translated Abstract

Purpose: We examined the efficacy of a nursing program on patients’ eating behaviors after surgery for esophageal cancer.

Methods: The subjects were patients who had undergone subtotal esophagectomy under right thoracotomy/laparotomy for esophageal cancer and gastric tube reconstruction. Patients before the introduction of this program were assigned to a control group, and those after its introduction to an intervention group. This program consisted of swallowing training for postoperative dysphagia according to a flow chart, and patient guidance to prevent postprandial discomfort and adjust dietary intake. Swallowing function tests were performed before surgery and on discharge. The body weight, dietary intake, daily number of meals, and EORTC QLQ-C30/QLQ-OES18 from the preoperative baseline until 3 months after surgery were investigated and analyzed.

Results: Of 26 subjects in the control group and 25 in the intervention group, recurrent laryngeal nerve paralysis was observed after surgery in 4 each. The intervention group was able to control the number of meals in accordance with food intake compared to the control group, but there was no significant difference in dietary intake and preoperative weight ratio. However, 3 months after surgery, the QLQ-OES18 scores for choking when swallowing significantly decreased and the QLQ-C30 scores for mental functions significantly increased.

Conclusion: These results suggest that this program reduces symptoms, such as choking when swallowing, improving mental functions of quality of life.

Ⅰ. 緒言

食道がんは,高齢化に伴い罹患率が増加傾向にあり(国立がん研究センター,2019),根治治療には手術療法が第一に選択され,基本の術式は右開胸開腹,食道亜全摘,胃管再建,3領域リンパ節郭清である.近年,低侵襲手術として胸腔鏡や腹腔鏡下補助手術,さらには手術支援ロボット下手術が選択されることが多くなっているが,食道を切除し再建臓器として胃管を形成する術式は変わらない.術後患者は,食道切除や胃管形成によって食道蠕動運動や噴門部の逆流防止機能の喪失,胃の貯留機能や消化機能の低下等,食べる上での重要な機能が障害される.その結果,逆流,ダンピング症状等の不快症状が出現し(綿貫ら,2014),術後12か月以上経過後も各々37%,60%の患者が症状を有する(Soriano et al., 2018).これらの不快症状等によって食事摂取量の低下,体重減少(Baker et al., 2016Soriano et al., 2018),さらにはQuality of Life(QOL)に影響する(Martin et al., 2007).

また,リンパ節郭清時の反回神経損傷による一側性反回神経麻痺の発生率は4.2~29.3%(Koyanagi et al., 2015丹黒ら,2018)と報告され,咽頭期の嚥下障害のリスクが高く,術後12か月以上経過後でも51%の患者が嚥下障害を有する(Soriano et al., 2018).この嚥下障害に,加齢による嚥下機能の低下,創部痛や全身麻酔や開胸術による呼吸機能等の低下が加わると誤嚥性肺炎に発展する可能性を高める.術後肺炎の発生率は7.5~22.5%(Booka et al., 2015丹黒ら,2018)と報告され,生命危機のリスクがある.

さらに,食道がん術後患者は,「予想をはるかに超えて苦痛と化した摂食行動」(森・秋元,2005)や「嚥下・消化・吸収のすべてに苦労する」「不快な症状により生活に影響が生じる」(三浦・井上,2007)等の困難を体験する.しかし,これらの困難に対する援助について先行研究を概観すると,国内では「がんや治療の有害事象を伴っても安全に食べることを支える」「嚥下体験を重視して口で食べることを支える」等の質的研究(田中・藤田,2019)に留まる.国外では,退院後の運動と看護情報アプリケーションの連動によるプログラムを受けた群(Chang et al., 2020)や,パンフレットやグループディスカッション等の教育プログラムを受けた群(Pool et al., 2012)は,対照群と比較して術後3か月ではQOL,嘔気・嘔吐,嚥下障害の症状等の改善が報告されていた.しかし,前者の報告ではbody mass index(BMI)は介入群と対照群ともに低下し(Chang et al., 2020),食事摂取量の増加等の直接的な効果は示されていなかった.

以上から,食道がん術後患者のQOLに影響する体重減少を抑えるためには,嚥下障害を含む不快症状を抑え,食事摂取量を増加させる看護プログラムが必要であると考える.そのためには,まず,術後に嚥下障害のリスクをアセスメントした結果から早期に訓練を開始できる仕組みが必要であり,食道がん術後患者が,指示された嚥下訓練(間接訓練,直接訓練)を遂行することで誤嚥を予防する.そして,食道切除・胃管再建に伴う不快な症状を予防しながら,食事前後の体重測定によって即時に食事摂取量を評価・調整する食行動を入院中に獲得し,退院後も継続して体重減少を抑えることを目標としたプログラムが必要であると考えた.

そこで,本研究では,食道がん術後患者が,誤嚥や不快症状を予防しながら食事摂取量を調整できる看護プログラムを作成し,その有効性を検討することを目的とした.

Ⅱ. 用語の操作的定義

食行動とは,食道切除・胃管再建・リンパ節郭清によって変化した機能から生じる不快症状を最小限にして食事摂取量を自律的に調節して安全に食べる行動とする.

Ⅲ. 看護プログラムの作成方法と内容

1. 看護プログラムの作成(図1

プログラムは,研究者のうち日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士資格がある2名,摂食嚥下障害看護認定看護師(以下,認定看護師)の資格がある1名および食道外科医師を中心に作成した.食道切除・胃管再建・リンパ節郭清によって生じる問題には「食事摂取量の低下」がある.これを助長するのは,「ダンピング症状,逆流,つかえ感・停滞感,むせ・嗄声」といった「不快症状」である.また,不快症状には誤嚥性肺炎につがなる嚥下障害の症状がある.そのため,嚥下障害を含む「不快症状」を予防ないし最小限にし「食事摂取量を維持・増加する」ための援助内容および目標を,文献や摂食嚥下リハビリテーションに関する書籍等から検討し作成した.

図1  食道切除術・胃管再建術後患者の食行動の問題と結果

図内の囲み数字はプログラムとの関係を示す.

2. 看護プログラムの目標

目標は,入院中に①患者が,食事中や食後の不快症状を最小限にして,②食事摂取量や食事回数を調整する方法を学習する,③術後の嚥下障害に応じた嚥下方法を学習することとした.目標を達成することで,患者が退院後に不快症状に応じて食事回数と食事摂取量を調整することができ,体重減少が抑えられ,QOLが向上すると考えた.

3. 看護プログラムの内容

目標①②を達成するために,山口ら(2006)の幽門側胃切除術後患者における食事摂取量自律的調整プログラムをもとに作成した.このプログラムは,患者が入院時から「不快症状の出現」に合わせて食事摂取量と食事回数の調整を学習し,退院後も継続することで,退院後の体重減少を抑える有効性が確認されている.また,幽門側胃切除と胃管形成に伴う胃の機能変化は類似しているため,同様の有効性が得られると考えた.不快症状には逆流性食道炎・誤嚥の症状を追加した.

具体的には,食事指導を術前,食事開始時,退院時の3段階に分け,認定看護師や病棟看護師が患者に統一して教示できるようにパンフレットを作成した.食事指導①として,術前に,1日1回昼食前後に体重を測定し,その増加量を食事摂取量として把握し,退院後の目標値にする.体重およびダンピング症状・逆流性食道炎・誤嚥等の不快症状と上腹部の張りを記録することを教示する.

食事指導②として,術後の食事開始時に,不快症状を最小限にするために,手術による機能変化および不快症状の出現の機序,変化した機能を補う食事方法を指導する.初回の食事摂取量(200 g程度/回),退院時の目標食事摂取量(250~300 g/回),1日の食事回数,脱水予防のために1日に必要な水分量1,000 mLの摂取,不快症状の予防と症状出現時の対処方法を指導する.誤嚥予防には,頸部前屈位での嚥下,嚥下に集中(嚥下の意識化)することを含めた.また,不快症状に合わせて食事摂取量を調整するために上腹部の張りや不快症状がなければ翌日の昼食では食事摂取量を50 g増やし,上腹部の張りや不快症状があれば次の食事摂取量を同量あるいは50 g減らすことを教示する.1日に必要な水分量(35 mL×体重kg)は,代謝水や食事からの水分量600 mLを考慮し1,000 mに設定した.

食事指導③として退院時に,食事摂取量と食事回数を調整するために食事回数を減らす目安として術前の2/3,3/4,4/5食べることができれば,食事回数を各々5回,4回,3回にすることおよび目標体重を教示し,高蛋白質・高カロリー食品等を紹介する.

目標③を達成するために,術後に嚥下障害のリスクをアセスメントし,術後早期に食物を用いない間接訓練と食物を用いる直接訓練を開始する仕組みが必要である.認定看護師と病棟看護師が各々介入する患者基準・方法を示した「食道がん術後嚥下障害のアセスメント・介入のためのフローチャート(以下,フローチャート)」(付録)を作成した.具体的には,術後7~8日頃に認定看護師が改訂水飲みテスト(modified water swallowing test: MWST)と食道造影・嚥下造影(videofluoroscopic examination of swallowing: VF)の結果から嚥下障害をアセスメントする.その結果,「MWSTでむせがなく」「縫合不全・誤嚥がない」場合は,病棟看護師が介入(食事指導②)を開始する.「反回神経麻痺・嗄声がある」「MWSTでむせがある」および「VFで誤嚥がある」場合は,認定看護師が介入を開始する.認定看護師の介入には,VF等の結果から検討した食形態の調整,間接訓練,直接訓練(姿勢,嚥下方法),薬剤の形態およびとろみ調整剤による水分の粘度を調整することが含まれる.また,頭部挙上訓練,声門内転訓練,頸部回旋等の間接訓練・直接訓練のパンフレットを作成し,必要時指導に用いた.

Ⅳ. 方法

1. 研究デザイン

単一施設における非ランダム化比較試験である.

2. 対象

対象の適格基準は,がん診療連携拠点病院1施設の消化器外科病棟に入院し,食道がんで右開胸開腹(胸腔鏡・腹腔鏡下補助等も含む),食道亜全摘術,胃管再建術予定で,研究参加に同意が得られた者とした.除外基準は,一人で体重測定や記録ができない者とした.

対象者数は,対応のない因子と対応のある因子の二元配置分散分析に必要な人数を,Gpower 3.1(効果量中,α = 0.05,1 – β = 0.8)で算出した.1群につき対応のある因子では24名,対応のない因子では46名であったため,研究参加の中止等追跡不能となる人数を考慮して50名を想定した.看護プログラム導入前の2013年3月から2014年1月に手術予定患者50名を対照群,看護プログラム導入後の2014年11月から2016年3月に手術予定患者47名を介入群とした(図2).

図2  対照群と介入群の割振り・追跡・データ解析の過程

対照群と介入群ともに,術前および術後急性期には免疫調整栄養剤としてインパクト®とGFO®が投与された.術後に経口摂取が50~70%程度摂取できるまで手術中に造設された空腸瘻からの半消化態栄養剤(ラコール®)等を用いた経管栄養が併用された.逆流性食道炎を予防するためにプロトンポンプ阻害薬(タケプロン®)が投与された.退院後に外来で,看護師が食道がん術後患者の食行動に対して積極的に介入するシステムはなかった.

3. 手続き

対照群では,病棟に所属し認定看護師資格を有する研究者1名が,入院後手術を受けるまで(術前)および術後の食事開始時から術後3か月まで毎日,食事前後の体重,不快症状,上腹部の張り等を所定用紙へ記録することを対象者に依頼した.術後7~8日頃に食道造影等で縫合不全がないことが確認され,食事が開始される際に病棟看護師によって従来法として「食後・就寝時にはセミファーラー位をとる」「6回に分けて食事する」「良く噛む」「1回の食事は30分かける」ことが教示された.不快症状の予防や対処方法,食事摂取量や食事回数の調整は,指導されなかった.反回神経麻痺等の明らかに嚥下障害がある患者には,医師が認定看護師に介入を指示し,認定看護師が間接・直接訓練を実施した.

介入群では,病棟に所属し認定看護師資格を有する研究者2名が,従来法に代わり作成した看護プログラムを導入した.認定看護師は,術前に対象者に食事指導①について指導するとともに,対照群と同様に術前から術後3か月まで毎日,食事前後の体重,不快症状,上腹部の張り等を記録することを依頼した.術後7~8日頃に医師からの指示のほか,認定看護師が,フローチャートに基づきMWSTやVF等の結果から認定看護師による介入が必要かどうかを判断し,病棟看護師による介入が妥当である場合には,病棟看護師にその旨を伝え,むせ,発熱,不快症状,上腹部の張り,食事摂取量等の確認を依頼した.認定看護師は,対象者に対し不快症状の予防や対処方法,食事摂取量や食事回数の調整などの食事指導②③および必要な間接・直接訓練を指導し,対象者が指導内容を実施しているかを勤務時に確認した.認定看護師2名が看護プログラムを統一して提供できるように,介入前にプログラム内容について注意深く確認を行った.

4. データの測定・収集

プログラムの目標をふまえ,プログラムの有効性を確認するために,主要評価項目を体重および食事摂取量,副次評価項目を不快症状およびQOLとし(図1),以下に示す方法でデータを測定・収集した.

1) 主要評価項目:体重および1回の食事摂取量

体重変化の把握および食事前後の体重増加量を食事摂取量とするために,対象者に入院後手術を受けるまで(術前)および術後の食事開始時から術後3か月まで毎日,食事前後の体重の測定および所定用紙への記録を依頼した.体重は,入院中は昼食前後に精密デジタル重量計(A&D社製FG-150KA)を用いて,退院後は夕食前後に50 g単位体重計(タニタBC-312)を貸し出し測定された.また,毎日,1日の食事回数と水分摂取量を記録すること,退院後には複写式の所定用紙の1枚を,1か月毎に研究者に郵送することを依頼した.

2) 副次評価項目:不快症状およびQOL

不快症状およびQOLは,術前,術後1か月,術後3か月にEuropean Organization for Research and Treatment of Cancer(EORTC)のOesophageal Cancer-specific Quality of Life Questionnaire Module(QLQ-OES18)とQuality of Life Questionnaire(QLQ-C30)を用いて調査された.術後の調査は郵送法で実施された.

QLQ-C30は,国際的に癌領域で汎用されているがん特異的QOL尺度で,5つの機能スケール(身体・役割・精神・認知・社会面)と9つの症状スケール(嘔気・嘔吐,下痢,食欲低下等)および総括的QOLスケールで構成されている(平,2021).QLQ-OES18は,QLQ-C30を補完する疾病・症状特異的尺度で,10の症状スケールで構成されている(Fujita et al., 2016).

3) 嚥下機能

食行動に影響する嚥下機能は,術前と退院時に,反復唾液嚥下テスト(repetitive saliva swallowing test: RSST)とMWSTを認定看護師資格のある研究者が各2回測定した.同時に身体診査(嗄声・湿性声の有無,頸部聴診)を実施した.認定看護師資格がある研究者2名が,対照群に対し同日に別々に身体診査を行い,評定者間一致率は100%であった.術後7~8日頃に実施されたMWSTおよび食道造影・VFの結果を電子カルテから収集した.

4) 属性

年齢,性,身長,体重,呼吸機能検査,病期,術前補助化学療法の有無,術式,麻酔時間,手術時間,出血量,食事開始術後日数,排ガス確認術後日数,空腸瘻の抜去日,退院術後日数,術後合併症の有無等を電子カルテから収集した.

5. 分析方法

1) 分析対象

追跡可能であった対照群38名,介入群46名のうち,まず合併症によって経口摂取の開始が遅延した者を除外した.次いで主要評価項目である食事前の体重のデータがない者を除外し,対照群26名,介入群25名となった(図2).体重以外のデータには欠損値があり,項目によって分析対象数は異なった.

2) 解析方法

対照群と介入群の属性の同質性をデータの尺度,正規性に応じて,χ2検定,Fisherの正確確率検定,t検定,Mann-Whitney検定にて確認した.

毎日測定された記録から,術後12週までの食事前の体重について,術前値および目標体重(入院時BMIが22 kg/m2以上の方は22 kg/m2となる体重,BMIが22 kg/m2未満の方は入院時体重)に対する比率として,術前体重比,目標体重比を算出した.また,術前から術後12週までの食事前後の体重増加量(食事摂取量)を求めた.術後食事摂取量については,術前摂取量および標準摂取量(600 g)(山口ら,2006)に対する比率として,各々術前摂取量比,標準摂取量比を算出した.また,さらに術前体重比,目標体重比,食事摂取量,術前摂取量比,標準摂取量比,食事回数,水分摂取量について1週間毎の平均値を算出した.

QLQ-OES18とQLQ-C30のスコア化は,EORTCのスコアリングマニュアルに従い,0~100となるように変換した.スコアが高値ほどQLQ-OES18とQLQ-C30の症状スケールでは不良な状態を,QLQ-C30の機能スケールと総括的QOLスケールでは良好な状態を示す.症状スケールのうち本研究で不快症状とした12の症状スケールだけを分析に用いた.

まず,対応のない因子(介入の有無)と対応のある因子(時間経過)の二元配置分散分析の前提条件となるデータの正規分布と等分散性を確認したが,術前体重比,術前摂取量比以外はその条件を満たさなかった.そのため介入の有無の検定には,データの正規性に応じて各時間経過においてt検定またはMann-Whitney検定を行った.時間経過の検定には,主要評価項目では術前,術後4週(術後1か月),術後8週(術後2か月),術後12週(術後3か月),副次評価項目では術前,術後1か月,術後3か月のデータを用いて,データの正規性に応じて反復測定一元配置分散分析またはFriedman検定を行った.多重比較法には各々Bonferroni法,Bonferroniによる補正を用いた.

RSSTとMWSTは2回測定したうち悪い評定を用いた.RSST,MWST,嗄声・湿性嗄声の有無および食道造影・VFの所見(誤嚥,不顕性誤嚥,咽頭残留)に対する介入の有無の検定にはFisherの正確確率検定を行った.なお,頸部聴診は咽頭残留を確認する身体診査のため,VFにおける咽頭残留の結果のみを分析した.

すべての統計処理には,統計解析用ソフトSPSS(Ver.29.0 for Windows)を使用し,有意水準は5%とした.

6. 倫理的配慮

研究実施施設の研究倫理審査委員会の承認(承認番号4-127)を得て実施した.対象者には,書面と口頭で本研究の目的・方法,参加は自由意志であり,参加せずとも不利益はないこと,匿名性の確保等を説明し,同意が得られた者を研究対象者とした.QLQ-OES18とQLQ-C30は,EORTCの承認を得て使用した.

Ⅴ. 結果

1. 属性(表1)と嚥下機能(表2

対照群と介入群では,病期,食事開始術後日数,空腸瘻留置期間,退院術後日数に有意差を認めたが(各p = .015,.006,<.001,.011),それ以外は有意差がなかった.

表1 対照群と介入群における属性

対照群(N = 26) 介入群(N = 25) p 注)
mean SD mean SD
属性
 年齢 63.8 8.5 63.8 8.5 .548 a
 性別 男/女 23/3 24/1 .610 d
 術前BMI 21.4 2.5 22.2 3.0 .280 a
 %VC(%肺活量) 110.5 12.9 104.9 12.4 .123 a
 FEV1.0%(一秒率) 79.4 6.9 78.1 4.9 .473 a
病期・治療
 病期 0/IA/IB/IIA/IIB/IIIA/IIIB/IIIC/IV 0/5/1/0/6/11/2/1/0 2/8/2/3/1/2/5/2/0 .015 c
 術前補助化学療法 なし/あり 4/22 6/19 .499 d
 合併切除 なし/あり 13/13 14/11 .781 d
 合併切除部位※1 右気管支動脈/胸管/横隔膜/左反回神経 7/3/1/1 5/6/1/0
 吻合部位 頸部/胸腔内(高位) 24/2 24/1 1.000 d
 再建経路 胸骨後/胸腔内(後縦隔) 25/1 24/1 1.000 d
 リンパ節郭清術の種類 1領域/2領域/3領域 1/3/22 0/6/19 .333 c
 リンパ節郭清の程度 D0/D1/D2/D3 0/0/4/22 1/0/10/14 .070 c
 麻酔時間(分) 555.0 113.0 551.2 86.1 .895 a
 手術時間(分) 471.2 112.1 480.0 78.7 .746 a
 出血量(g) 244.8 226.1 351.2 326.5 .193 b
術後経過
 食事開始術後日数 (日) 11.3 3.3 9.8 2.6 .006 b
 排ガス確認術後日数 (日) 2.8 1.2 2.9 0.9 .478 b
 空腸瘻留置期間※2 (日) 19.5 5.8 31.6 6.4 <.001 b
 退院術後日数 (日) 23.6 6.3 19.1 5.9 .011 b
術後合併症
 肺炎 なし/あり 24/2 25/0 .490 d
 反回神経麻痺 なし/あり 22/4 21/4 1.000 d
 吻合部狭窄 なし/あり 25/1 24/1 1.000 d
 創感染 なし/あり 22/4 24/1 .350 d
 縫合不全 なし/あり 26/0 24/1 .490 d
 無気肺 なし/あり 25/1 19/6 .050 d
 乳び胸 なし/あり 25/1 25/0 1.000 d
 乳び瘻 なし/あり 24/2 24/1 1.000 d

注)対照群と介入群の同質性を確認するために,a:t検定,b:Mann-Whitney検定,c:χ2検定,d:Fisherの正確確率検定を行い,そのp値を示す.

※1 合併切除部位は,複数部位を合併切除された患者がいたため,統計解析はしていない.

※2 対照群 n = 26,介入群n = 24

表2 対照群と介入群における術前・術後の嚥下機能

嚥下機能 対照群(N = 26) 介入群(N = 25) p注1)
反復唾液嚥下テスト 3回以上/3回未満 術前 25/1 24/1 1.000
(RSST)注2) 退院時 26/0 23/2 .235
改訂水飲みテスト 5点/4点/3点/2点/1点 術前 23/0/3/0/0 24/0/1/0/0 .610
(MWST)注3) 退院時 20/0/6/0/0 24/0/1/0/0 .099
嗄声 なし/あり 術前 20/6 24/1 .099
退院時 15/11 20/5 .132
湿性嗄声 なし/あり 術前 25/1 25/0 1.000
退院時 24/2 25/0 .490
食道造影・嚥下造影の結果
 誤嚥・不顕性誤嚥 なし/あり 術後 18/8 22/3 .173
 咽頭残留 なし/あり 術後 21/5 20/5 1.000
認定看護師の介入注4) なし/あり 術後 18/8 15/10 .565

注1)対照群と介入群の嚥下機能を比較するためにFisherの正確確率検定を行い,そのp値を示す.

注2)反復唾液嚥下テスト(Repetitive Saliva Swallowing Test: RSST):3回未満を陽性「誤嚥あり」と判断する.

注3)改訂水飲みテスト(Modified Water Swallowing Test: MWST):3点以下を陽性「誤嚥あり」と判断する.

注4)認定看護師:摂食嚥下障害看護認定看護師を示す.

嚥下機能は,術前と退院時の両時期とも2群間で有意差がなかった.退院時のMWSTでは,対照群に3点以下の「誤嚥あり」の割合が多かったが有意差がなかった(p = .099).両群ともに術後には,必要な内服薬を水で嚥下できていた.

2. 体重と食事摂取量

1) 術前体重比,目標体重比(表3

術前体重比,目標体重比は,対照群と介入群では有意差がなかったが,両群とも時間経過による有意差を認め(p < .001),術前体重比では時間経過とともに有意に減少した(p < .01).目標体重比は,介入群では術前と比較して,術後2か月と術後3か月では有意に減少し(p < .001),術後2か月と比較して術後3か月では有意差がなかった(p = .375).

表3 対照群と介入群における術前,術後1か月,2か月,3か月の体重・食事摂取量の結果

【QLQ-OES18】 時間の検定注2) 多重比較法注2)
対照群(N = 26) 介入群(N = 25) 対照群(N = 26) 介入群(N = 25) 対照群 介入群
n mean SD n mean SD p注1) n mean SD p n mean SD p 術前と比較
p
術後1か月と比較
p
術後2か月と比較
p
術前と比較
p
術後1か月と比較
p
術後2か月と比較
p
術前体重比c
(%)
術後1か月 26 97.0 3.0 25 96.7 2.9 .752 a 26 97.0 3.0 <.001 a 25 96.7 2.9 <.001 a
術後2か月 26 93.7 4.6 25 93.6 4.0 .926 a 26 93.7 4.6 25 93.6 4.0 <.001 <.001
術後3か月 26 91.6 4.6 25 91.5 4.4 .948 a 26 91.6 4.6 25 91.5 4.4 <.001 <.001 <.001 .001
目標体重比d
(%)
術前 26 104.0 5.4 25 104.6 10.4 .644 b 26 104.0 5.4 <.001 b 25 104.6 10.4 <.001 b
術後1か月 26 99.9 5.1 25 102.3 7.7 .376 b 26 99.9 5.1 25 102.3 7.7 .043 .927
術後2か月 26 96.5 5.9 25 98.9 7.2 .228 b 26 96.5 5.9 25 98.9 7.2 <.001 .081 <.001 .019
術後3か月 26 94.3 6.5 25 96.7 7.2 .221 b 26 94.3 6.5 25 96.7 7.2 <.001 <.001 .081 <.001 <.001 .375
食事摂取量
(g)
術前 21 615.6 161.1 19 513.6 139.2 .039 b 21 615.6 161.1 <.001 b 19 513.6 139.2 <.001 b
術後1か月 26 280.1 104.5 25 311.1 130.0 .386 b 21 278.1 108.9 19 322.7 143.8 <.001 <.001
術後2か月 26 381.5 123.7 25 345.1 140.7 .351 a 21 380.9 122.5 19 365.0 149.6 .001 .101 .019 1.000
術後3か月 26 473.2 147.0 25 401.7 136.1 .331 a 21 468.4 154.7 19 422.8 132.4 .335 <.001 .438 .142 .411 1.000
術前摂取量比e
(%)
術後1か月 21 48.1 22.1 19 62.7 22.7 .046 a 21 48.1 22.1 <.001 a 19 62.7 22.7 .006 a
術後2か月 21 64.2 23.9 19 70.7 25.0 .401 a 21 64.2 23.9 19 70.7 25.0 <.001 .579
術後3か月 21 78.1 24.8 19 82.7 21.6 .544 a 21 78.1 24.8 19 82.7 21.6 <.001 .004 .028 .048
標準摂取量比f
(%)
術前 21 101.9 27.5 19 84.1 24.2 .037 b 21 101.9 27.5 <.001 b 19 84.1 24.2 .063 b
術後1か月 26 46.5 17.5 25 51.9 21.7 .341 b 21 46.1 18.3 19 53.8 24.0 <.001
術後2か月 26 63.6 20.6 25 57.5 23.4 .331 a 21 63.5 20.4 19 60.8 24.9 .002 .061
術後3か月 26 76.8 23.1 25 67.0 22.7 .129 a 21 75.6 24.0 19 70.5 22.1 .384 <.001 .438
食事回数
(回/日)
術前 16 3.0 0.1 12 3.3 0.9 .664 b 15 3.0 0.1 <.001 b 11 3.3 1.0 <.001 b
術後1か月 25 4.2 1.3 22 5.0 0.8 .031 b 15 4.2 1.2 11 5.2 0.7 .011 .002
術後2か月 25 3.9 1.1 22 4.9 0.8 .002 b 15 4.0 1.1 11 4.9 1.0 .242 1.000 .010 1.000
術後3か月 25 3.9 1.1 22 4.5 0.8 .039 b 15 4.0 1.2 11 4.4 0.9 .337 1.000 1.000 .345 .592 1.000
水分摂取量
(mL)
術前 17 1,266.4 527.7 11 957.4 480.7 .285 b 17 1,266.4 527.7 <.001 b 10 929.8 497.4 .701 b
術後1か月 25 619.2 406.0 19 599.3 276.0 .855 a 17 558.1 305.2 10 690.9 317.1 <.001
術後2か月 25 760.8 404.1 20 670.3 279.5 .399 a 17 741.1 321.9 10 698.8 294.5 .001 .278
術後3か月 25 859.0 419.9 20 711.9 294.7 .334 b 17 833.4 375.4 10 736.6 307.9 .070 .005 1.000

注1)対照群と介入群を比較するために,a:t検定,b:Mann-Whitney検定を行い,そのp値を示す.

注2)各群で時間による差を検定するために,a:反復測定一元配置分散分析,b:Friedman検定を行い,そのp値を示す.多重比較法には,各々Bonferroni法,Bonferroniによる補正を用い,術前,術後1か月,術後2か月と比較したp値を示す.術後1か月,術後2か月,術後3か月の値は各々術後4週目,術後8週目,術後12週目の1週間の平均値を分析に用いた.

c:術前体重比=実測値/術前体重比×100

d:目標体重比=実測値/目標体重比×100(BMIが22.0 kg/m2未満の場合は術前体重を,BMIが22.0 kg/m2以上であればBMI22.0 kg/m2の体重を目標体重とした)

e:術前摂取量比=摂取量/術前摂取量×100

f:標準摂取量比=摂取量/600g×100

2) 食事摂取量(表3

介入群では,対照群と比較して術前の食事摂取量,術前摂取量比,標準摂取量比が有意に少なく(p < .05),術後1か月から3か月の食事回数が有意に多かった(p < .05).

時間経過による変化を群別にみると,対照群では,食事摂取量,標準摂取量比,術前摂取量比,食事回数,水分摂取量に有意差を認めた(p < .001).食事摂取量,標準摂取量比は術前と比較して術後1か月,2か月では有意に減少した(p < .01).術前摂取量比は術後1か月・2か月と比較して3か月では有意に増加した(p < .01).食事回数は,術前と比較して術後1か月で有意に増加した(p = .011)が,その後に有意差はなかった.水分摂取量は術前と比較して術後1か月・2か月では有意に減少し(p < .01),術後3か月では術後1か月と比較して有意に増加した(p < .01).

介入群では,食事摂取量,術前摂取量比,食事回数に有意差を認めた(p < .01)が,標準摂取量比,水分摂取量に有意差がなかった.食事摂取量は,対照群と同様に術前と比較して術後1か月・2か月では有意に減少した(p < .05),術前摂取量比は,術後1か月・2か月と比較して,術後3か月では有意に増加した(p < .05).食事回数は術前と比較して術後1か月・2か月で有意に増加した(p < .05).

3. 不快症状とQOL(表4

不快症状を示すQLQ-OES18とQLQ-C30の症状スケールにおいて術前に2群間で有意差がなかった症状のうち,介入群では,対照群と比較して術後1か月には嚥下障害,術後3か月では嚥下時のむせスコアが有意に低かった(p < .05).

表4 対照群と介入群における術前,術後1か月,術後3か月のQLQ-OES18とQOQ-C30の結果

【QLQ-OES18】 時間の検定注2) 多重比較法注2)
対照群(N = 26) 介入群(N = 25) 対照群(N = 26) 介入群(N = 25) 対照群 介入群
n mean SD n mean SD p注1) n mean SD p n mean SD p 術前値と比較
p
術後1か月と比較
p
術前値と比較
p
術後1か月と比較
p
嚥下障害
Dysphagia
術前 18 13.0 15.8 25 7.1 10.6 .215 18 13.0 15.8 <.001 22 7.1 11.1 .001
術後1か月 19 33.3 17.8 24 23.1 18.2 .042 18 34.0 18.1 22 23.7 18.9 <.001 .003
術後3か月 19 24.0 12.4 23 16.4 20.9 .063 18 24.7 12.4 22 16.2 21.3 .112 .200 .456 .179
摂食の支障
Eating
術前 19 18.9 14.7 25 9.3 12.3 .021 19 18.9 14.7 <.001 22 10.2 12.8 <.001
術後1か月 19 52.6 20.4 24 37.2 19.5 .020 19 52.6 20.4 22 37.1 20.4 <.001 <.001
術後3か月 19 36.0 15.5 23 26.1 21.2 .071 19 36.0 15.5 22 26.5 21.6 .045 .155 .249 .025
逆流
Reflux
術前 19 1.8 5.3 25 2.0 7.3 .812 18 1.9 5.4 .042 22 2.3 7.8 <.001
術後1か月 19 12.3 13.4 24 18.1 15.5 .228 18 11.1 12.8 22 18.2 16.2 .340 .008
術後3か月 18 20.4 40.6 23 12.3 17.6 .838 18 20.4 40.6 22 10.6 15.9 .287 1.000 .395 .395
痛み
Pain
術前 19 11.1 26.2 25 5.8 9.7 .874 19 11.1 26.2 .097 22 6.6 10.1 .030
術後1か月 19 21.1 19.9 24 15.7 13.5 .505 19 21.1 19.9 22 16.2 13.6 .086
術後3か月 19 14.0 13.8 23 10.1 11.1 .395 19 14.0 13.8 22 10.1 11.3 1.000 .456
唾液の嚥下困難
Trouble swallowing saliva
術前 19 5.3 12.5 25 2.7 9.2 .425 18 5.6 12.8 .325 21 3.2 10.0 .015
術後1か月 18 14.8 26.1 23 8.7 15.0 .550 18 14.8 26.1 21 9.5 15.4 1.000
術後3か月 19 5.3 12.5 23 1.4 7.0 .214 18 5.6 12.8 21 1.6 7.3 1.000 .741
嚥下時のむせ
Choked when swallowing
術前 19 7.0 14.0 25 1.3 6.7 .081 19 7.0 14.0 .004 22 1.5 7.1 .001
術後1か月 19 24.6 21.8 24 18.1 19.6 .324 19 24.6 21.8 22 18.2 19.9 .069 .071
術後3か月 19 21.1 16.5 23 8.7 15.0 .017 19 21.1 16.5 22 9.1 15.2 .186 1.000 .775 .775
口腔乾燥
Dry mouth
術前 19 5.3 12.5 25 8.0 14.5 .509 19 5.3 12.5 .016 22 7.6 14.3 .017
術後1か月 19 22.8 27.3 24 22.2 23.4 .914 19 22.8 27.3 22 19.7 22.2 .186 .456
術後3か月 19 12.3 16.5 23 7.2 14.1 .287 19 12.3 16.5 22 7.6 14.3 1.000 .875 1.000 .395
味覚障害
Trouble with taste
術前 19 15.8 20.4 25 4.0 11.1 .022 19 15.8 20.4 .794 22 4.5 11.7 .020
術後1か月 19 15.8 20.4 24 20.8 25.7 .572 19 15.8 20.4 22 19.7 26.5 .340
術後3か月 19 12.3 19.9 23 8.7 18.0 .489 19 12.3 19.9 22 9.1 18.3 1.000 .775
咳嗽
Trouble with coughing
術前 19 1.8 7.6 25 1.3 6.7 .844 18 0.0 0.0 <.001 22 1.5 7.1 .004
術後1か月 18 27.8 28.6 24 26.4 31.1 .752 18 27.8 28.6 22 24.2 31.2 .023 .104
術後3か月 19 24.6 24.4 23 14.5 26.3 .098 18 24.1 25.1 22 15.2 26.7 .029 1.000 .395 1.000
【QOQ-C30】
吐気・嘔吐
Nausea and vomiting
術前 19 2.6 11.5 25 1.3 6.7 .818 18 2.8 11.8 .053 22 1.5 7.1 .002
術後1か月 19 12.3 17.4 24 13.9 16.8 .642 18 12.0 17.9 22 14.4 17.3 .048
術後3か月 18 11.1 15.1 23 7.2 18.7 .207 18 11.1 15.1 22 7.6 19.1 .981 .456
食欲低下
Appetite loss
術前 19 12.3 16.5 25 5.3 15.8 .071 18 11.1 16.2 <.001 22 6.1 16.7 <.001
術後1か月 19 56.1 27.3 24 47.2 36.7 .398 18 55.6 28.0 22 48.5 38.1 <.001 .001
術後3か月 18 33.3 30.2 23 26.1 28.3 .450 18 33.3 30.2 22 25.8 29.0 .112 .112 .340 .125
下痢
Diarrhoea
術前 18 13.0 20.3 25 5.3 12.5 .169 16 12.5 20.6 .023 22 6.1 13.2 <.001
術後1か月 19 29.8 27.0 24 29.2 24.7 .958 16 33.3 27.2 22 30.3 25.0 .065 .013
術後3か月 17 25.5 27.7 23 21.7 16.2 .957 16 22.9 26.4 22 21.2 16.4 .752 .752 .104 1.000
身体機能
Physical functioning
術前 19 90.5 8.4 23 98.0 5.1 <.001 17 91.0 8.5 <.001 21 97.8 5.3 <.001
術後1か月 18 74.8 14.4 24 84.4 7.8 .009 17 74.5 14.8 21 84.4 8.3 <.001 <.001
術後3か月 18 80.7 12.9 23 89.3 8.0 .015 17 80.0 12.9 21 89.2 8.3 .049 .310 .005 .569
役割機能
Role functioning
術前 19 83.3 17.6 25 96.7 8.3 .005 18 85.2 16.1 <.001 22 96.2 8.8 <.001
術後1か月 19 59.6 22.4 24 67.4 19.3 .116 18 60.2 23.0 22 66.7 19.9 .003 <.001
術後3か月 18 63.9 28.2 23 80.4 18.6 .039 18 63.9 28.2 22 80.3 19.0 .073 .952 .071 .125
精神機能
Emotion functioning
術前 19 79.4 13.4 25 89.0 12.4 .019 18 80.6 12.8 .072 22 87.5 12.5 <.001
術後1か月 19 78.1 15.5 24 83.3 12.5 .269 18 78.2 16.0 22 83.3 13.1 .292
術後3か月 18 85.2 12.0 23 93.8 8.8 .011 18 85.2 12.0 22 93.6 8.9 .292 .003
認知機能
Cognitive functioning
術前 19 84.2 14.1 25 92.7 11.9 .036 18 85.2 13.9 .815 22 91.7 12.3 .035
術後1か月 19 81.6 17.5 24 85.4 14.2 .552 18 81.5 18.0 22 84.1 14.1 .249
術後3か月 18 82.4 17.6 23 89.9 12.0 .157 18 82.4 17.6 22 89.4 12.1 1.000 .456
社会機能
Social functioning
術前 19 76.3 18.7 25 90.0 16.0 .011 18 77.8 18.1 .005 22 88.6 16.6 .011
術後1か月 19 64.9 16.6 24 77.8 16.1 .021 18 65.7 16.6 22 76.5 16.0 .023 .086
術後3か月 18 67.6 21.0 23 86.2 17.9 .003 18 67.6 21.0 22 85.6 18.0 .340 .836 1.000 .292
総括的QOL
Global health status
術前 19 66.7 16.0 25 72.0 20.0 .233 18 68.1 15.2 <.001 22 70.8 20.7 .002
術後1か月 19 45.2 17.2 24 53.5 15.3 .158 18 45.8 17.4 22 53.4 15.6 .002 .013
術後3か月 18 61.1 17.4 23 67.8 19.0 .247 18 61.1 17.4 22 67.8 19.5 .836 .059 1.000 .016

注1)対照群と介入群を比較するためにMann-Whitney検定を行い,そのp値を示す.

注2)各群で時間による差を検定するためにFriedman検定を行い,そのp値を示す.多重比較法には,Bonferroniによる補正を用い,術前,術後1か月と比較したp値を示す.

QLQ-OES18:Oesophageal Cancer-specific Quality of Life Questionnaire Module

QOQ-C30:Quality of Life Questionnaire

時間経過による変化を群別にみると,対照群では,嚥下障害,摂食の支障,逆流,嚥下時のむせ,口腔乾燥,咳嗽,食欲低下,下痢に有意差を認めた(p < .05)が,多重比較法の結果,嚥下障害,摂食の支障,咳嗽,食欲低下が術前と比較して術後1か月に有意にスコアが高く(p < .05),摂食の支障,咳嗽は術前と比較して術後3か月まで有意にスコアが高かった(p < .05)

介入群では,すべての症状に有意差を認めた(p < .05)が,多重比較法の結果,嚥下障害,摂食の支障,逆流,嘔気・嘔吐,食欲低下,下痢が術前と比較して術後1か月に有意にスコアが高くなった(p < .05).摂食の支障は,術後1か月と比較して術後3か月に有意にスコアが低く,改善していた(p = .025).

QLQ-C30の機能スケールスコアは,介入群では,対照群と比較して術前の5つの機能スケールと,術後1か月の身体機能と社会機能,術後3か月の身体機能,役割機能,精神機能,社会機能のスコアが有意に高かった(p < .05).

時間経過による変化を群別にみると,対照群では,身体機能,役割機能,社会機能,総括的QOLにおいて有意差を認め(p < .01),多重比較法の結果,術前と比較して術後1か月でスコアが有意に低下した(p < .05).身体機能スコアでは,術前と比較して術後3か月のスコアも有意に低下した(p = .049).

介入群では,5つの機能スケールスコアと総括的QOLにおいて有意差を認めたが(p < .05),多重比較法の結果,身体機能,役割機能,総括的QOLが術前と比較して術後1か月では有意にスコアが低下した(p < .05).一方,精神機能と総括的QOLは術後1か月と比較して術後3か月では有意にスコアが高くなった(p < .05).

Ⅵ. 考察

本研究では,入院中に食道がん患者が本看護プログラムによって新たな食行動を学習することで,退院後に誤嚥や不快症状を減少させ,食事摂取量や食事回数を安全に調整・摂取することで食事摂取量を増加させ,それに伴い体重減少が軽減,QOLが向上することを仮説として有効性を検討した.ただし,単一施設での介入比較試験であり,十分な標本数が得られず,介入群と対照群の比較が2変量解析に留まった限界があった.

1. 看護プログラムの有効性

対象者の属性を概観すると,対照群と介入群ともに60歳代の男性が多く,食道がんの患者の特徴を呈した.介入群の方が病期がIII期以上の割合が少なかったが,両群間で術前・術後の嚥下機能,嚥下機能に影響する術後反回神経麻痺や吻合部狭窄の合併症を有する患者数,食道造影・VFの結果,認定看護師が介入する患者数に有意差がなく,ほぼ同質であったと考える.

看護プログラムの有効性を2変量解析の結果からみると,2群間で術後1か月から術後3か月では主要評価項目とした術前体重比,目標体重比,食事摂取量,術前摂取量比,標準摂取量比では有意差を認めなかったが,体重に影響する食事回数が介入群で有意に増加した.また,副次評価項目とした不快症状の嚥下時のむせや精神機能のQOLでは術後3か月では対照群と比較して介入群では有意に改善した.

食事回数と体重・食事摂取量との関係について検討する.対照群と介入群ともに,食事摂取量が術前と比較して術後2か月まで有意に減少し,術前体重比は術後3か月まで減少した.しかし,術後1か月の術前摂取量比をみると対照群では47%と,Fujitaら(2017)の研究で示された術前摂取量比が50%未満の者が79.2%であった結果と類似していたが,介入群では62.7%と多かった.術前摂取量比と食事回数の関係を見ると,対照群では術後1・2か月の術前摂取量比が48.1%,64.2%,術前の2/3未満であるのに対して食事回数が約4回で推移した.一方,介入群では術後1・2か月の術前摂取量比が62.7%,70.7%に対して食事回数を各々5.2回,4.9回と食事指導③で指導した術前の2/3,3/4食べることができれば,食事回数を各々5回,4回にするに従って調整していることが窺えた.そして,術後1か月の食事回数が5.2回の介入群では,多重比較法の結果を見ると術後1か月の目標体重比は,術前と比較して有意差がない程度に減少し,対照群と異っていた.ただし,介入群は,術前の標準摂取量比が対照群101%と比較して84.1%と少なかったため,山口ら(2006)の報告と違って術前体重比の減少の抑制の一助とならなかったと考えられる.

水分摂取量では,介入群は対照群と比較して有意差がなく,時間経過の推移をみると術後1~3か月では700 mL/日前後で推移し,目標の1,000 mL/日以下であった.脱水とならないように水分摂取量を増やす方法を検討する必要がある.また,今回の対象には水分摂取量が制限される腎不全や心不全患者が含まれなかったが,既往歴に応じた水分摂取量の設定が必要である.

次に食事摂取量に影響する嚥下機能に関連する不快症状について検討する.術前に2群間で有意差がない症状のうち,介入群では対照群と比較して術後1か月では嚥下障害,術後3か月では嚥下時のむせのスコアが有意に低かった.さらに介入群では,多重比較法の結果をみると対照群と異なり,術後3か月の摂食の支障のスコアが術後1か月と比較して有意に低下していた.これらは,フローチャートに基づいた介入,すなわち嚥下障害の疑いのある患者に対して認定看護師が,VF等の結果から誤嚥等の原因・誘因をアセスメントし,安全に嚥下できる食形態や嚥下方法を指導していたこと,それに加え,嚥下障害の疑いがない患者に対して病棟看護師が,誤嚥予防として頸部前屈位,嚥下の意識化を指導した効果とも考えられる.頸部前屈位は先行研究(Kumai et al., 2017Kaneoka et al., 2018)で誤嚥を減少させる効果があると報告されている.

食事摂取量に影響するダンピング症状である嘔気・嘔吐,下痢は,介入群では,対照群と比較して有意な差がなかった.多重比較法の結果をみると,介入群では術前と比較して術後1か月では有意に症状スコアが高くなったが,術後3か月では有意な差がなかった.これは,食事指導②の内容を遵守するとともに,不快症状が出現した際には食事摂取量を同量または減量させることにより,症状が抑えられたとも考えられる.しかし,対照群も有意差はなかったが同様な推移であったため,食行動について詳細に検討する必要がある.

最後に機能的QOLについて検討すると,両群ともに機能スケールと総括的QOLスケールのスコアはWang et al.(2010)の研究結果と同様に,術前と比較して術後1か月で低下し,術後3か月に増加していた.2群間を比較してみると介入群は,術前では5つの機能スケールが有意に高かったが,術後1か月では役割・精神・認知機能は2群間で有意差がなくなり,術後3か月では役割・精神機能が有意に高くなった.多重比較法の結果をみると介入群では,対照群の推移と異なり術後3か月では術後1か月と比較して精神機能,総括的QOLスケールのスコアが有意に高くなり,術前値に近くなっていた.これは,前述した嚥下時のむせ等の症状の軽減等が影響し,精神機能の向上につながったと考えられる.

2. 今後の課題

本看護プログラムは,退院後の体重減少を抑えることができなかったことから入院中に誤嚥やダンピング症状を予防しながら食事摂取量を増やし,かつ退院後もプログラムを継続して実施できる仕組みの検討が必要である.退院後に継続して実施できた嚥下訓練と実施できなかった嚥下訓練,食事摂取量を増加させることができなかった患者の要因等詳細な調査が必要であると考える.

Ⅶ. 結論

食道がん術後患者に対する食行動に関する看護プログラムは,食事摂取量にあわせて食事回数を調整できたが,食事摂取量を増加させ体重減少を抑えるまでに至らなかった.しかし,介入群では,対照群と比較して術後1か月の嚥下障害,術後3か月の嚥下時のむせの症状スコアが有意に少なく,術後3か月の精神機能のスコアは有意に高くなった.

謝辞:本研究の実施にあたり手術前から手術後までの長期間にわたり本研究にご協力いただいた患者様に感謝いたします.本研究は,科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)基盤研究(C)(一般)(課題番号24593318)の助成を受け実施したものです.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:JFは研究の着想,デザイン,統計解析,草稿の作成;YKは研究の着想,デザイン,原稿への示唆,研究プロセスの全体への助言;YYは研究デザイン,データの入手,原稿への示唆;KK,HN,HAはデータの入手,原稿への示唆;TAはデザイン,原稿への示唆,研究プロセスの全体への助言.すべての著者は,最終原稿を読み,承認した.

文献
 
© 2024 Japan Academy of Nursing Science
feedback
Top