Journal of Japan Academy of Nursing Science
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The Growth Process of Nurses Who Requested Job Rotation From the Operating Room to Surgical Wards by Making Use of Their Operative Nursing Experience
Naoko TakechiYasuko Maekawa
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2024 Volume 44 Pages 199-207

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Abstract

目的:手術室から外科系病棟へ配置転換を希望した看護師が手術看護の経験を活かし成長していくプロセスを明らかにする.

方法:新卒で手術室勤務5年以上の経験を経て,外科系病棟を希望し配置転換した看護師10名に半構造化面接を行いM-GTAを用いて分析した.

結果:配置転換した看護師は【手術室で習得できなかった看護の未熟さを痛感】し【看護師経験年数とのギャップを埋める努力】を行った.そして【手術看護の専門的なスキルが活きる経験】を通して【手術看護経験者としての存在価値を実感】し【自己の看護観の深化】を感じ,手術室と病棟の両方の経験により【強みを活かした自己のキャリアを思い描く】へと至った.

結論:手術室から配置転換した看護師は,手術看護の専門性を活かし患者,看護スタッフと相互作用しながら周術期看護が実践できる看護師へ成長していく.その過程は手術室看護師に対するキャリア形成モデルとなることが示唆された.

Translated Abstract

Purpose: To clarify the growth process of nurses who requested job rotation from the operating room to surgical wards by making use of their operative nursing experience.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with 10 nurses, who had been assigned to the operating room for more than 5 years immediately after graduation, and then reassigned to the surgical wards due to job rotation upon their request. The obtained data were analyzed using the M-GTA.

Results: The nurses after job rotation from the operating room were [realizing that they could not acquire sufficient nursing skills in the operating room] and made [efforts to resolve the gap between their years of nursing experience and current situation]. And through [experience of making use of specialized operative nursing skills], they came to [realizing the value of their own existence as a person with operative nursing experience] and developed [a deeper nursing perspective]. The experience in both the operating room and the hospital ward led to [visualization of a career in which they can leverage their strengths].

Conclusions: After job rotation from the operating room, the nurse utilize their specialized skills in operative nursing to grew into nurses with the ability to practice perioperative nursing with interacting with patients and nursing staff. This growth process may be a useful career development model for operating room nurses.

Ⅰ. 緒言

近年,手術看護は手術を受ける患者の入院から退院まで周術期全体の看護実践を見据え(日本手術看護学会,2020),手術室看護師にも質の高い周術期看護を提供するための役割拡大が求められている.それに対して,日本の中・大規模の医療施設では,新卒看護師が手術室に配属する施設が8割以上という報告がある(日本手術看護学会,2019).手術室に配属となった看護師は,手術看護の専門的実践能力を獲得し一人前になるまでには5年以上の経験が必要とされ(佐藤ら,2000),加えて,手術チームをマネジメントするためには2~3年のキャリアが求められる(土藏,2001).つまり,手術看護の質の維持,向上には,経験を重ねた手術室看護師の定着を図ることが重要であり,一早く手術看護のスペシャリストになるためには,配置転換などを一定期間行わない状態が望ましい一面がある.一方で,周術期看護の専門性を高めていくためには,手術室看護師の病棟への配転転換を積極的に行う必要性が検討されている(山田,2008).しかし現状,手術室看護師が一般病棟での看護実践も含めたキャリアを積むために他部署への配置転換を考える際,手術室の経験が長期になるにつれ「病棟へ出る自信がない」,「これまでの経験は手術室でしか活かされない」など,手術看護の継続と他部署への配置転換に迷い,異動後の困難を想像し配置転換に至らない現状もある(井尻・深堀,2016).特に卒後すぐに手術室に配属された看護師は,手術室と病棟の看護実践の違いに戸惑い(土藏,2012Eriksson et al., 2020),配置転換を積極的にできない理由にもなっている.この様な状況は,自らのキャリア発達の機会を逃し,手術室勤務の長期化によるキャリアの停滞(関,2015)を招くことにつながる恐れがある.看護師の配置転換はキャリア発達の手段の一つとして行われる(境・前田,2011)が,配置転換先での職場不適応など離職につながる場合もあり,配置転換後のキャリアイメージは重要であると考える.

これまでの手術室看護師の配置転換に関する先行研究は,病棟から手術室へ配置転換となった看護師が抱える困難やストレス(伊藤・矢島,2004水谷ら,2009小野ら,2016蔵本ら,2019Eriksson et al., 2020)や,手術室に配置転換した看護師の教育と支援方法(斉藤・萩野,2012Stephens et al., 2017),手術室での就業継続に影響する要因(相川,2007)など,病棟から手術室に配置転換した看護師を対象とした研究報告が多い.手術室から配置転換した看護師の国内外の研究については,小林・グレッグ(2020)による手術看護を経験した看護師のキャリア発達に及ぼす影響に関する研究が1件であった.国外の先行研究が殆ど見当たらない理由について,欧米諸国では日本と違って,手術看護は専門領域として確立されており,看護師は手術室専属で採用され(Mary, 2008柄本,2017Martha, 2017Job, 2019),他部署への配置転換の機会自体が少ない背景がある.

本研究は,小林・グレッグ(2020)が既に明らかにした研究成果に対して,さらに手術室経験のみであった看護師がその経験を活かすことのできる外科病棟に配置転換し,社会のニーズに沿って,より専門的な周術期看護師として患者,看護スタッフと相互作用しながら成長するプロセスに着目した.本研究成果は,特に,手術室経験のみの看護師が病棟に配置転換した際に経験する様々な戸惑い(土藏,2012)などの課題に対して,キャリア形成のイメージ化が図れるとともに,周術期看護を見据えた継続教育支援の検討に繋がると考える.

Ⅱ. 用語の定義

手術看護の経験:手術室における看護実践において見たり,聞いたり,感じたり,考えたこと(福田・中村,2019)に加え,そこで培われた知識や技能とする.

手術看護の専門的スキル:「手術看護の経験」を通して獲得した熟練した技術,専門的な実践能力とする.

外科系病棟:外科的治療(手術)を目的とした周術期医療に関わる部署(集中治療室含む)とする.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Grounded Theory Approach:以下M-GTA)(木下,2003, 2007, 2020)を用いた質的帰納的研究である.M-GTAは,プロセス性と社会相互作用を含む現象に関する理論生成とその応用のしやすさの重視を特徴とする.本研究は,手術室経験のみの看護師が外科系病棟へ自ら配置転換を希望した後に,手術看護の経験を活かし,患者,看護スタッフと相互作用しながら成長していくプロセスを明らかにすることで,キャリア形成支援への活用を目的としていることから,M-GTAが適していると判断した.

2. 研究参加者

特定機能病院に勤務する看護師で,手術室に新卒で配属され,5年以上の手術室経験を経て,外科系病棟へ配置転換し1年以上経過した者とした.先行研究(佐藤ら,2000土藏,2001)から,手術室看護師の専門性を発揮するには,5年目以上の経験が必要とされている.また,看護師の配置転換後の職場適応(吉田ら,2011大谷・中澤,2013)は,配置転換後の不安や困難を乗り越え成長したと実感できるようになる1年以上とし,多くの診療科に応じる豊富な手術介助の経験,幅広い知識,技術を備えた看護師とした.

3. 調査方法

四国圏内全ての特定機能病院4施設を対象に,看護部長へ研究依頼書を郵送し,承諾の得られた2施設において選定条件に該当する研究参加者の紹介を受け研究依頼を行った.面接は,研究参加者と相談の上,プライバシーの保持できる面接場所で実施した.データ収集は,面接ガイドを用いて半構造化的面接を行った.面接内容は,手術室から配置転換に至る経緯,配置転換後の状況やその時々の思い,これまでの手術看護の経験がどのように活かされたか,その場面やその時の思い,今後手術看護の経験をどのように活かしていきたいかなどである.なお,面接の際は手術室と配置転換先での経験が混同する可能性があるため,逐次どの段階での経験であるかを確認しながら行った.面接は1回約60分程度とし,面接内容は参加者の同意を得た上で録音した.調査期間は2018年5月~2021年6月であった.

4. 分析方法

M-GTAを用いて分析した.分析焦点者を「手術室から外科系病棟へ配置転換を希望した看護師」,分析テーマを「手術看護の経験を活かし成長していくプロセス」と設定し,以下の手順で分析した.概念生成時には分析ワークシートを用いた.分析焦点者と分析テーマに照らして,データの中から関連箇所に着目した箇所を抽出し,分析ワークシートの理論メモ,定義,概念名を記載しながらデータの背後にある意味の流れを読みとるように解釈し概念を生成した.概念を生成する際,他のバリエーションの類似例や対極例と比較して解釈の偏向を防ぎ概念を精緻化した.分析ワークシートは概念ごとに作成し,複数の概念が生成された段階から概念間の関係を相互比較し,概念の統廃合を繰り返しながらカテゴリ,中心的カテゴリを生成した.その際,カテゴリと同等の説明力のある概念はカテゴリに昇格させた.8人目のデータ分析以降は新たな概念が生成されなくなり,さらに2人分のデータを追加して分析を行ったが,それ以上新たな概念が生成されないことを確認した.本研究は10人分のデータ範囲でのプロセスを説明し,生成した概念とカテゴリを用いて分析テーマの現象を結果図とストーリーラインで説明できることで全体の理論的飽和化とした(木下,2003, 2020).データの分析過程において,主研究者1名で概念の検討を行い,質的研究経験のある研究者2名とともに概念名,定義,具体例の検討を行った.カテゴリ生成,結果図,ストーリーラインの作成は主研究者が作成した後に研究者全員で検討を重ね確証性の確保に努めた.分析後,研究参加者によるメンバーチェッキングを行い,分析結果の厳密性を確保した.またM-GTA専門家によるスーパーバイズを受け,分析をすすめた.

5. 倫理的配慮

本研究は,香川大学医学部倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号29-169).研究参加者には,自由意思による研究協力,研究撤回の権利,個人情報の保護,データの取り扱い,結果の公表,面接時の録音について口頭および説明書で説明し,文書で同意を得た.

Ⅳ. 結果

1. 研究参加者の概要

本研究への同意が得られた参加者は10名で,男性5名,女性5名であった.平均年齢は36.8 ± 5.4歳,看護師経験年数は,平均13.6年,手術室経験年数は,平均9.8年であった.配置転換先での経験年数は,平均4.0年,配置転換先の部署は,循環器内科・心臓血管外科,整形外科,脳神経外科,消化器外科,集中治療室であった.配置転換の希望の有無は,10名全員が自らの希望で配置転換していた(表1).1人あたりの面接時間は40~70分であった.

表1 参加者の概要

参加者 年齢 性別 看護師経験年数 手術室経験年数 配置転換希望の有無 配置転換部署 他部署での経験年数
A 30歳代前半 男性 13年 10年 消化器外科 3年3ヶ月
B 30歳代前半 男性 9年 7年 循環器内科・外科 2年1ヶ月
C 30歳代前半 女性 8年 5年 消化器外科 3年2ヶ月
D 40歳代前半 女性 25年 19年 ICU 6年2ヶ月
E 30歳代前半 女性 10年 9年 循環器内科・外科 1年3ヶ月
F 40歳代前半 男性 16年 8年 ①整形外科
②放射線科
8年3ヶ月
G 30歳代前半 女性 10年 7年 ①ICU
②脳神経外科
③外来
3年2ヶ月
H 40歳代前半 女性 17年 9年 ①脳神経外科
②看護教員
8年
I 30歳代後半 男性 18年 16年 ICU 1年3ヶ月
J 30歳代前半 男性 10年 8年 循環器内科・外科 3年8ヶ月

2. 分析結果

分析の結果,手術室から外科系病棟へ配置転換を希望した看護師が手術看護の経験を活かし成長していくプロセスには,《手術室から配置転換後の困難を経験する時期》を経て《手術看護の経験の強みを活かして外科系病棟で適応する時期》《手術看護と病棟看護の経験を重ね看護師として成長できる時期》の3つの時期があり,20概念が生成され,うち1概念はカテゴリと同等の説明力を持つことからカテゴリに昇格し,7カテゴリ(中心的カテゴリを含む)が抽出された.以下本稿では,時期《 》,カテゴリを【 】,概念を〈 〉,研究参加者の語りを『 』で記述する.

1) ストーリーライン(図1

手術室経験のみの看護師が自ら外科系病棟へ配置転換を希望したきっかけは,【手術看護だけの経験の狭さに対する不完全感】を自覚したことであった.その後,《手術室から配置転換後の困難を経験する時期》では,【手術室で習得できなかった看護の未熟さを痛感】し,病棟スタッフの一員として〈中堅なのに即戦力になれない不甲斐なさ〉を感じ,〈「新人と一緒」と割り切って努力する〉ことで【看護師経験年数とのギャップを埋める努力】により困難な状況を乗り越えていた.そして《手術看護の経験の強みを活かして外科系病棟で適応する時期》には,【手術看護の専門的なスキルが活きる経験】を通して自己の強みに気づき,手術室で習得した臨床実践能力を看護師長,病棟スタッフに認められ,求められる相互作用により組織に適応し【手術看護経験者としての存在価値を実感】でき,自己の強みに自信を持てることが,自己の成長に繋っていた.さらに《手術看護と病棟看護の経験を重ね看護師として成長できる時期》では,術中だけではわからなかった〈周術期一連の看護を通した患者理解〉から〈患者を生活者として尊重〉した周術期看護へ【自己の看護観の深化】を感じていた.【手術看護の専門的なスキルが活きる経験】から【手術看護経験者としての存在価値を実感】,【自己の看護観の深化】への変化のプロセスは,手術室と病棟の両方の経験により【強みを活かした自己のキャリアを思い描く】へ至るプロセスでもあり,【手術看護の専門的なスキルが活きる経験】は,手術看護の経験を活かし成長していくうえで中心的カテゴリであった.

図1  「手術室から外科系病棟へ配置転換を希望した看護師が手術看護の経験を活かし成長していくプロセス」結果図

2) 各カテゴリの説明

(1) 【手術看護だけの経験の狭さに対する不完全感】

このカテゴリは,手術室のみの経験に対する焦りや将来のキャリアを見据え経験の幅の狭さを自覚し配置転換に至ったことを示しており,〈手術看護だけの経験の狭さに対する不完全感〉の概念で構成された.実際には,『手術室の看護だけでは今後の自分のキャリアを考えた時に何ができるのか考えたら,かなり道の幅が狭いと思った.』『看護技術も全然わからないじゃないですか.清拭もしたことないし,リリーフに出ても何もできないなっていうのがあってかなり焦った.』などがあった.

(2) 【手術室で習得できなかった看護の未熟さを痛感】

このカテゴリは,手術室では実践できない看護技術や病棟での対象者への関わり方や状況判断,システムの違いに直面することを示しており,〈手術室で行わない生活援助は新人レベル〉〈対話での引き出しのなさを痛感〉〈意識のある複数患者の多重課題に精一杯〉〈医師がそばにいない環境で患者を看る怖さ〉〈入退院支援は未知の世界〉の概念で構成された.実際には,『困った事…基礎技術.清拭,洗髪,陰洗した事がなかったし.』『シビアな話題であればあるほどどう返していいかわからず,てん,てん,てんって感じで.自分の引き出しがなくて…』『患者さんに合わせて動くのが初めてっていうか,オペ室では自分のペースですることが多かったけど,患者さんに合わせるのに慣れなくて,動いてる人が何人もいるから,あらゆるところに注意が必要だった.』『ちょっと血圧高いなとか,レートが早いなとかあってもすぐにオペ室は麻酔科が対応してくれたので,先生がそばにいない状況でどうしたらいいのか不安だった.』などがあった.

(3) 【看護師経験年数とのギャップを埋める努力】

このカテゴリは,看護師経験があるにもかかわらず病棟スタッフの一員として即戦力になれない状況の中,手術室では実践してこなかった看護は,新人同様であると割り切った姿勢で業務を習得していることを示しており,〈中堅なのに即戦力になれない不甲斐なさ〉を感じ〈「新人と一緒」と割り切って努力する〉の概念間の関係性で構成された.実際には,『なんとなく迷惑だろうなと思いながら,それもできないの?って感じでしたね.』『私の場合10年の経験があるけど一から新人みたいな感じだったから,他のスタッフは扱いにくかったと思う.』『新人と一緒だと思って,一回見せてもらって,見守りで見てもらってOKだったら一人でするっていうルールを作って,初めてなのでついてきてくださいって.』『清拭,シャワー浴とかケアひとつするにしても,ただもう,素直にオペ室だったので,それはした事がないって自分から言ってました.』などがあった.

(4) 【手術看護の専門的なスキルが活きる経験】

このカテゴリは,手術看護で培った実践能力を,手術室以外の場所でも発揮することができた経験を示しており,〈手術・麻酔の専門的な情報提供〉〈解剖を理解した術後ケア〉〈手術体位による合併症への的確な対応〉〈外科的処置に難なく対応〉〈術前・術中・術後が繋がる実習指導〉の概念で構成された.実際には,『手術室の中に入ってからどんなことするのか,手術終わった後はどうなるのかとか.病棟スタッフは軽く説明するだけだと思います.』『ドレーン管理とか,ここに入ってるからこの向きに止める,ここに入ってるからこの性状でいつ頃に抜くとか,いろんな症例を見てきて自分の中で手術中の解剖とつなげてイメージして納得してます.』『拘縮が強い患者さんがいて,麻酔科の先生が来たときに体位固定が難しいかもしれませんって話したら,麻酔かける前に実際に体位とってみたっていう記録があって,術前(訪問)も来てくれますけど,話せない患者さんだったので,言えてよかったです.』『病棟で処置するにしても,ぱっと準備して1人でできていた.』『全身麻酔のこととか,術中の様子って学生さんも授業で習っているけど,やっぱりイメージが病棟の看護師さんもないように,学生はもっとないわけだから継続看護の必要性を詳しく説明できているかな.』などがあった.

(5) 【手術看護経験者としての存在価値を実感】

このカテゴリは,手術室での経験を活かした看護実践やスタッフ教育などの活動が配置転換先のスタッフに承認され,自信に繋がっていることを示しており,〈同僚から手術看護の専門的知識を求められる〉〈病棟と手術室の橋渡し的存在〉〈看護師長からの役割期待に応えられる〉の概念で構成された.実際には,『術後膵管チューブを抜く時って,抜いても漏れないの?PDって吻合どうなってるの?人工肛門クローズする時に,今ここに腸が出てるのにどうつなぐの?とか聞かれたりしました.』『オペ室の人が術前訪問に来たら,オペ室で必要な情報とか,この人肌が弱いから柔らかめのマット敷いてとか積極的に伝えるようにしていました.』『師長さんが教育的なことをさせてくれるポジションを作ってくれたのがすごくよかった.自分が変わるきっかけになったと思う.』『病棟のスタッフが,術式も手術体位での影響も全くわからないっていうので,手術と術後を結びつけるカンファレンスを提案したんです.術式も解剖がわかるのは自分の強みだと思うし.』『シバリングがなぜ悪いのとか,全麻の影響とか,局麻と腰麻の勉強会して欲しいって言われて勉強会しました.』などがあった.

(6) 【自己の看護観の深化】

このカテゴリは,術前・術中・術後の一連の看護経験から,患者・家族の全体像を捉えた看護実践により,術中だけではわからなかった看護に気づき自らの看護観に変化をもたらしたことを示しており,〈周術期一連の看護を通した患者理解〉から〈患者を生活者として尊重〉の概念間の関係性で構成された.実際には,『患者さんが手術室に入室される時,怖いだろうな,緊張してるだろうな,そのレベルはわかるけど実際はそんな簡単な言葉で片付けられなくて,病棟とオペ室を知っているからこそ,本当に適切な声かけとか,寄り添うことができるのかなと思う.』『手術中に患者さんの術後合併症が起こるかもしれないことは術後訪問で一時的に見ることはできるけど,空想でしかなくて,ちゃんと考えることは無理だったと思う.手術室と病棟と両方働いたからこそ継続看護の必要性を強く学ぶことができたと思う.』『オペ室の中だけだと手術したからよくなった感じだけど,病棟だと患者さんにとっては術後これからがスタートなんだって病棟経験を通して気づくことができた.』『オペ室だと手術をスムーズになるべく早く安全に問題なく終わるっていう目標でやってたけど,病棟に出て患者さんを生活者という目で見るようになった.手術は,患者さんにとっては一生もので,すごい決断して…看護を展開する上で患者さんの背景を含め,入院から退院までの一連のストーリーを知るってことは,看護をする上ですごく意味があったなって,今になって思います.』などがあった.

(7) 【強みを活かした自己のキャリアを思い描く】

このカテゴリは,手術看護と病棟看護の経験を活かした自らの新たな目標,将来像を見出すことを示しており,〈手術室に戻り新たな目標を見出す〉〈周術期看護経験を活かし活躍の場を広げる〉の概念で構成された.実際には,『もともと,病棟で経験積んで手術室に戻るつもりだったので.手術室に戻ったら,病棟での経験が多分活きてくるはずです.病棟のことも知ったので,手術の術前術後を含めたところの看護に力入れていけたらいいな.』『入院する期間もどんどん短縮されるし,外来の部分にも力入れて行けばもっと合併症も少なくなると思ってるけど,そういう活動するためにも病棟経験で術前術後を知ってる人がもっと増えればいいなと思います.』『処置が多いところにいるので,手術室の経験を自分の長所として活かしていきたい.』などがあった.

Ⅴ. 考察

1. 《手術室から配置転換後の困難を経験する時期》

この時期は,【手術室で習得できなかった看護の未熟さを痛感】【看護師経験年数とのギャップを埋める努力】にあたる.土藏(2012)は,手術室から配置転換した看護師は,病棟の看護実践との相違に戸惑いが生じる可能性があると指摘している.本研究の全ての参加者も,実際に配置転換後に戸惑いがあったことが確認された.診療の補助業務を多く占める手術室では,病棟での看護実践に比べると偏りがある.特に,食事や清潔などの〈手術室で行わない生活援助は新人レベル〉である状況や,〈対話での引き出しのなさを痛感〉〈意識のある複数患者の多重課題に精一杯〉である状況は,手術室から配置転換した看護師の特徴といえる.また,病棟で〈医師がそばにいない環境で患者を看る怖さ〉があったこともわかった.手術室では医師と一緒に患者を観察することが多く,看護師が主体的にアセスメントし状況判断する経験が少ないことが影響していると考えられる.研究参加者は,新卒時から手術室勤務であることから,【手術看護だけの経験の狭さに対する不完全感】を自覚し,【手術室で習得できなかった看護の未熟さを痛感】していた.このような看護職としての臨床実践の内容の違いから,手術室経験のみの看護師が病棟に配置転換した際には,本人の希望による異動であっても,看護経験の未熟さを自覚しているため,新人同様の基本的な看護業務への支援が必要であるとともに,「手術看護だけの経験の狭さ」に対するネガティブな感情へのサポートが必要である.こうした病棟看護との乖離が生じないよう,院内のリリーフ体制やローテーション研修などを用いて,病棟での看護技術を定期的に経験できる機会を作るなど,手術室と病棟間を連携する教育プログラムが必要と考える.また,周術期看護を見据えた場合,手術看護経験のある看護師は,自らの経験が患者にどう影響するのか,その意味や価値を理解することで自信を持つことができ,配置転換を前向きに捉えることに繋がる.そのための教育的支援として,自己の看護実践について内省を深めることができるリフレクションの機会や,ナラティヴ・アプローチなどを取り入れた現場での教育方法の検討が必要と考える.

また研究参加者は,配置転換後【看護師経験年数とのギャップを埋める努力】をしていた.Benner(2005)は,「どんなナースでも経験した事のない場面では実践レベルは初心者の段階である」と述べている.本研究参加者は経験年数では中堅看護師だが,配置転換先では初心者(新人)の段階といえる.配置転換後,全てが初めての状況に対して,予め「初めてなのでお願いします」と〈「新人と一緒」と割り切って努力する〉姿勢で困難な状況を乗り越えていた.その行動は,【手術室で習得できなかった看護の未熟さを痛感】する経験から,それを原動力として捉え(中村,2010),職場適応の促進に繋がっていたと考える.一方で,病棟スタッフから一般的な中堅看護師の配置転換とは違う感覚を抱かれることに,〈中堅なのに即戦力になれない不甲斐なさ〉を感じていた.これは現在の看護基礎教育において,手術室実習が減少し手術室看護師の役割や業務内容を理解する機会が少ないことや,閉鎖的な環境により手術室の看護実践が見えない,病棟業務との違いが理解されにくいことも要因となっていると考えられる.本研究の結果から,配置転換先で自分が思うように動けず即戦力になれない状況は,初心者(新人)への逆戻りの経験に捉えられ,心理的負担となる可能性がある.手術室看護師の異動を受け入れる側は,中堅看護師の実績に対する配慮とともに,手術室の看護実践内容の違いの理解と,手術室で経験できない生活援助技術などに対しては,新人同様のサポート体制を整えることが必須といえる.

2. 《手術室経験の強みを活かして外科系病棟で適応する時期》

この時期は,【手術看護の専門的なスキルが活きる経験】【手術看護経験者としての存在価値を実感】にあたる.手術室から配置転換した看護師は,〈手術・麻酔の専門的な情報提供〉〈解剖を理解した術後ケア〉〈手術体位による合併症への的確な対応〉など,手術室で培った実践能力を発揮していた.井尻・深堀(2016)による手術看護の継続と他部署への異動の意思決定に関する研究において,どんなに手術介助の技術を磨いても病棟へ異動した時にできることが少なく,経験が手術室でしか活かされないと考え異動を拒むという報告に対して,本研究参加者は配置転換先で,手術看護の経験が手術室の中だけでなく場所が変わっても活かされることを語っていた.【手術看護の専門的なスキルが活きる経験】を通して自己の強みを認識し,配置転換先のスタッフから手術室で習得した臨床実践能力を認められ,求められる相互作用によって【手術看護経験者としての存在価値を実感】し自信へと繋げていた.グレッグ(2005)は,臨床看護師の組織コミットメントを促す経験として,自分自身が組織にとって重要と感じられるためには自己に有用感を持ち,自分の努力・成長を実感できることが必要であると述べている.本研究参加者も同様に,〈同僚から手術看護の専門的知識を求められる〉ことや〈病棟と手術室との橋渡し的存在〉となり,周術期患者の継続看護の強化に携わっていた.そして,配置転換先のスタッフの手術への関心が高まるなどの行動変容により,自分自身が組織にとって重要な存在と感じられることで自己肯定感を高め,組織での適応を促進し,看護師としてのキャリア発達に繋がる重要な体験となっていたといえる.また,配置転換先の〈看護師長からの役割期待に応えられる〉ことは,手術看護の実践能力が看護師長に承認され,発揮できるようにマネジメントされたことにより,仕事へのモチベーションが高まり,自己のキャリアアップや成長に繋がっていたと考えられる.本研究参加者の背景として,全員,外科系病棟に配置転換した看護師であり,語りの内容から病棟看護師長も手術室の業務や看護への理解があった.そのため手術看護の経験が発揮される機会が多く,適応を促進する結果に大きく影響したと考える.以上のことから,自己の積み上げた経験や能力に適した部署への配置転換は,個人のキャリア発達を促進することに繋がる.併せて,手術看護を理解し,人材育成を考慮した関わりができる看護管理者からのサポートおよび,看護管理者の育成も重要な課題と考える.

3. 《手術看護と病棟看護の経験を重ね看護師として成長できる時期》

この時期は,【自己の看護観の深化】【強みを活かした自己のキャリアを思い描く】にあたる.研究参加者は,周術期患者への一連の看護経験を通して患者の全体像を理解することで,手術看護から周術期看護へ【自己の看護観の深化】を感じとり,術中だけではわからなかった患者に寄り添う看護を見出し,自らの看護への思いが変化していた.

畑中・伊藤(2016)は,体験から看護観が変化するプロセスには,「自己の看護がゆらぐ体験に直面」し,新しい気づきを得ることで,「自己の看護の考え方の広がり」が起き,「目指す看護の定まり」の変化となると報告している.本研究参加者は,周術期一連の看護の経験から,手術看護だけでわからなかった〈患者を生活者として尊重〉する重要性に気づき,自らの看護の視野の狭さを自覚していた.そして,〈周術期一連の看護による患者理解〉を深め,周術期患者に必要な看護を見出していた.つまり,手術看護の経験のみでは足りなかった看護に気付き,看護の幅が広がることで自己の看護観に変化をもたらし成長できた経験となっていたといえる.

また,研究参加者の中には,〈手術室に戻り新たな目標を見出す〉ものもおり,手術室に戻った際には,病棟での看護経験を活かして,患者の全体像を理解し,術後の患者の生活をイメージした術前・術中の看護実践が可能となる.

本研究結果から,手術室から配置転換した看護師は,周術期一連の看護を実践できる看護師であることを強みとして,手術室,集中治療室,病棟,外来など周術期に関わる部署との連携の中心に活躍の場を広げることができ,自己のキャリア形成において,その能力を存分に発揮できる場で貢献できる存在となりうるといえる.

その継続教育支援として,活躍できる場の確保と人材を育成するための教育プログラムの検討も必要と考える.本研究結果から,質の高い周術期看護の実現には,手術室と病棟両方の経験知をもつ看護師が,その能力を十分に発揮できる場で活躍できることが重要と考える.その先駆的人材として,周術期看護のスペシャリストの育成も必要と考える.将来的に,周術期看護師のラダーなど,その内容整備において,手術看護に加え,その経験を合理的に活かせる外科系病棟へのスムーズな配置転換を組み入れるなどの検討も望まれる.

以上,本研究の結果,手術室から外科系病棟に配置転換した看護師が,経験のない看護の未熟さに直面しながらも,手術看護の専門性を活かし患者,看護スタッフと相互作用しながら周術期看護が実践できる看護師へ成長していくプロセスを明らかにしたことは,自らのキャリアを考えて配置転換する看護師のキャリア形成モデルとなり,継続教育支援の検討にも活用できると考える.

Ⅵ. 本研究の限界と課題

本研究の結果は,2施設の特定機能病院に勤務する看護師を対象としたものであり,各施設の特徴がデータに反映された可能性がある.また,研究参加者の経験年数や,配置転換後の経験年数に幅がありデータに影響があった可能性がある.手術室から外科系病棟に配置転換を希望した看護師に限定していたため,今後は,対象施設の規模を広げて対象者を増やし,様々な部署で手術看護の経験が自己のキャリア形成プロセスにどう影響しているのかさらなる研究の積み重ねが必要である.

付記:本論文の一部は第33回日本手術看護学会年次大会において発表した.また,本研究は,香川大学大学院医学系研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.本研究は,JSPS科研費JP21K10543の助成を受けたものである.

謝辞:本研究の実施にあたり,ご協力いただいた各施設の看護師の皆様に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:NTは研究の着想およびデザイン,データ収集,分析,解釈,原稿の作成までの研究プロセス全体に貢献した.YMは,分析,解釈,原稿への示唆および研究プロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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