Journal of Japan Academy of Nursing Science
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A Randomized Controlled Trial of the Effectiveness of the Program of End-Of-Life Care for Home Visiting Nurses Training (PENUT)
Masako HamataniYumi HiraharaEri OnumaHanako NumataMaiko Noguchi-WatanabeKazue HishidaYuko OkamotoShiho TakemoriTomoko ArahataKayoko KuritaNoriko Yamamoto-Mitani
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2024 Volume 44 Pages 218-227

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Abstract

目的:訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(PENUT)を開発し,その有効性を検討した.

方法:訪問看護師を介入(I)群とwait list control(C)群に無作為に割り付け比較した.PENUTは講義20項目(2日間)と演習2項目(1日間)で構成した.属性,在宅看取りケア態度,在宅看取りケア件数の質問紙調査をベースラインと各群研修後に行った.

結果:I群62名,C群59名を分析した.I群はC群より有意に死にゆく患者へのケアの前向きさ(3.2 ± 5.1, 0.5 ± 4.1),終末期ケアに対する自信(0.63 ± 0.78,0.28 ± 0.79),医師とのコミュニケーションへの自信(0.52 ± 0.72, 0.04 ± 0.60)が増加し,症状緩和の困難感(–0.43 ± 0.92, 0.07 ± 0.75)は減少した.

結論:PENUTは訪問看護師の在宅看取りケア知識および態度の向上に有効である.

Translated Abstract

Objective: We developed a training program for home-visiting nurses caring for terminal patients, called Program of End-of-life care for home visiting NUrses Training (PENUT). We therefore sought to examine the effectiveness of this program in a randomized controlled trial.

Methods: We randomly assigned home-visiting nurses to either an intervention group or a wait-list control group. PENUT consists of 20 lectures (two days) and 2 exercises (one day). Questionnaires regarding attributes, attitudes toward terminal care, and the number of home end-of-life care cases were administered at baseline and after each group training session.

Results: There were 62 participants in the intervention group and 59 in the wait-list control group who participated in all programs and surveys. After the training sessions, nurses in the intervention group were significantly more positive about caring for dying patients (3.2 ± 5.1 vs 0.5 ± 4.1), more confident in terminal care (0.63 ± 0.78 vs 0.28 ± 0.79), and more confident in communicating with physicians (0.52 ± 0.72 vs 0.04 ± 0.60) and having less difficulty in symptom palliation (–0.43 ± 0.92 vs 0.07 ± 0.75) than were those in the wait-list control groups.

Conclusions: PENUT was found to be effective in improving home-visiting nurses’ knowledge and attitudes in end-of-life care.

Ⅰ. 背景

日本における年間死亡者数は2020年に約137万人であったが,2040年には約168万人に増えると推測されている(内閣府,2022).一般国民の43.8%は自宅で最期を迎えることを希望している(厚生労働省,2023).親を介護する世代においても,58.1%が自宅で最期を迎えさせたいと考えている一方,その半数近くは介護に対する不安を抱えており(日本財団,2021),2021年の自宅死の割合は17.2%であった(厚生労働省,2022).このように今後急増する看取りに対応し,国民の希望を実現するためには,自宅における看取り(以下,在宅看取り)の推進が必要である.厚生労働省(2017)のデータによると,人口当たりの訪問看護利用者数が多い地域ほど自宅死の割合は大きい.つまり,訪問看護の利用は在宅死を可能にする1つの要因であり(Hayashi et al., 2011),在宅看取りの推進において訪問看護に期待される役割は大きいといえる.

橋本ら(2021)は,終末期ケアにおける看護師個人に起因する困難感として,自分の知識や技術に対する自信のなさと死への恐怖を報告している.そして訪問看護事業所による在宅看取りの実施には,初めて在宅看取りを実践する看護師への支援が関連し,在宅看取り初心者に対する教育が在宅看取りの推進に繋がることが示唆されている(濱谷ら,2022).このように,経験も知識も浅い在宅看取り初心者の訪問看護師が在宅看取り(ターミナルケア)について学ぶ意義は大きく,その学びは訪問看護師による在宅看取りの推進に繋がると考えられる.

エンドオブライフ・ケアを実践する看護師に必要な知識を教育するための系統的・包括的なプログラムとして国内外で最も広く用いられているのは,ELNEC(The End-of-Life Nursing Education Consortium)が提供するプログラムである(Ferrell et al., 2015).ELNECによるプログラムは主に医療施設における成人がん患者を対象としたケアを想定し開発された.その日本版プログラム(ELNEC-Jコアカリキュラム)は,痛み・症状のマネジメント,倫理的課題,コミュニケーション,高齢者のエンドオブライフ・ケアなど,10のモジュールから構成され,2022年度までに46,559名が修了している(日本緩和医療学会,2023).さらにその上位のプログラムとして,ELNEC-Jコアカリキュラム指導者養成プログラムと専門的緩和ケア看護師教育プログラム(SPACE-N)が位置づけられている(竹之内,2012田村,2012).また,特別養護老人ホーム(以下,特養)の看護師を対象としたプログラムとして,山地ら(2013)はグループワークなどを通して,スタッフ間で日々のケアを振り返りながら,看取りケアの課題解決に向けた取り組みを促進・実践するプログラムを開発した.さらに,特養の看護職が入居高齢者の特性を踏まえ,施設内外の多職種連携や入居者を看取る家族への支援について学べるプログラムも報告されている(橋本,2018).他方,訪問看護師を対象としたプログラムとして,看護倫理に焦点を当てた終末期ケアプログラムは報告されているが(平山ら,2015),訪問看護師による在宅看取りに特化した包括的なプログラムは存在しない.

在宅看取りは対象や多職種連携において,施設の看取りとは異なるいくつかの特徴がある.緩和ケア病棟など医療施設は主にがん患者を対象とし,特養などの介護施設は高齢者を対象とした看取りを実施している.他方,訪問看護は全ての年代に実施されており,その対象疾患はがんのみならず,心疾患,神経系難病など多岐に渡っている(松田ら,2021).また,自宅では終末期療養者のケアを家族が担うケースも多く,そのような家族も支援の対象である(菊池,2015).そして在宅看取りは訪問看護師だけで実現できるものではない.つまり,在宅看取りを実践する訪問看護師には,他施設に所属する医師や訪問介護員,介護支援専門員との連携など,施設とは異なる多職種連携が求められる(菊池,2015).

このような背景から,本研究では訪問看護師による在宅看取りの推進を目的に,在宅看取り初心者の訪問看護師が在宅における看取りを包括的に学べる教育プログラムを開発した.

Ⅱ. 目的

本研究の目的は,訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(Program of End-of-life care for home visiting NUrses Training: PENUT)を開発し,その有効性を検討することである.

Ⅲ. 方法

1. 研究デザインと調査の流れ

本研究はwait list control群を用いた無作為化比較試験である.

調査の流れを図1に示す.参加者160名を施設看護経験年数と在宅看取りケア件数で層別化した後,2021年11月に研修を受講する介入群(以下,I群)と,2022年1月に研修を受講するwait list control群(以下,C群)にランダムに割り付けた(図1).准看護師2名については,演習に訪問看護計画の立案が含まれることを説明した上で講義のみを受講してもらい,分析対象からは除外した(図1).Web質問紙調査をベースライン(T0),I群研修直後(T1),C群研修直後(T2)に実施した.全てのプログラムと調査に参加したのはI群62名,C群59名であった(図1).

図1  調査の流れ

サンプルサイズは先行研究(近藤・久保川,2016)を参考に,T1における両群のFrommeltのターミナルケア態度尺度日本語版(FATCOD-FormB-J)の変化量の差を平均5,その標準偏差を9.5,有意水準0.05,検出力80%,両側検定とした結果,各群57名であった.

2. PENUT作成の手順

はじめに,訪問診療,訪問看護,訪問介護,エンドオブライフ・ケアの有識者10名で構成される検討委員会と,在宅看護学および教育学の大学教員と大学院生9名で構成されるワーキング委員会(以下,WG)を設置した.次にWGで看取りに関連する国内外の教育プログラムの文献検討(Ferrell et al., 2015橋本,2018Hospice Foundation of America, 2018木澤,2009庄司ら,2018山地ら,2013)を行い,プログラムの骨子を作成した.その骨子をもとに検討委員会で議論を重ね,講義と演習のシラバスを作成した.「エンドオブライフの症状と治療」の講義は訪問診療医に,それ以外の講義は在宅看取りを指導的立場で実践している訪問看護師に依頼し,講師の作成したテキストをWGで校正した.最後に,在宅看取りに精通した専門家(医師,看護師,薬剤師,介護支援専門員,介護福祉士)5名にテキストのレビューを依頼し,再度修正してテキストを完成させた.演習については,シラバスをもとにWGで内容案を作成し,検討委員会で議論を重ねて完成させた.

図2  訪問看護師向け在宅看取り教育プログラムの構造(グラフィックシラバス)

3. PENUTの内容と研修実施の方法

在宅看取り初心者の訪問看護師が,在宅看取りに必要な知識や技術,療養者・家族・関係職種とのかかわり方を身につけ,「在宅看取りができそう!」「在宅看取りをやってみよう!」という気持ちになれることを到達目標とした.PENUTは20項目の講義(連続した2日間)と2項目の演習(講義約1週間後の1日間)で構成される(図2).受講者が具体的なイメージをもって研修に臨めるよう,在宅看取りの事例に関する講義を最初に配置した.そして例えば,「エンドオブライフの症状と治療」で症状が出現するメカニズムや治療法に関する基礎的知識を学び,その知識を「在宅看取りにおける臨床推論」で統合し,「エンドオブライフにおける生活支援」へ応用するといったように,知識を順番に積み上げ,後半でその統合・応用が図れるよう工夫した.知識統合の講義として位置づけられる「在宅看取りにおける臨床推論」では,知識を臨床で活用するスキルの1つとして,臨床推論の基本となる問題表象をSQ(Sematic Qualifier)に置き換えるという思考プロセスなどを学習する.また,各講義では講師が経験した様々な事例(年代,疾患,家族,多職種連携)に対する支援が紹介され,療養者や家族とのコミュニケーションの様子などが再現された.そして講師はその事例紹介のなかで,時には困難に直面し,療養者・家族にとってよりよいケアとは何か,日々模索しながら実践していることを受講者に伝えていた.演習は訪問看護計画の立案とコミュニケーション技術の習得で構成した.2日目の講義の後に仮想事例の訪問看護指示書と看護サマリーが配布され,受講者は自身が作成した初回訪問の訪問看護計画書をもとに,計画書作成のプロセスについてグループで議論した.そしてコミュニケーション技術演習では,初回訪問におけるシナリオを用意し,受講者は訪問看護師役,療養者役,家族役,観察者役に分かれ,ロールプレイを4回実施した.グループは4~8名で構成し,各グループに講義の講師,訪問看護認定看護師,在宅看護専門看護師のいずれかをファシリテーターとして配置した.ファシリテーターに対しては,PENUTの目的および演習の手順等に関する事前説明会を実施した.なお,本研修はコロナ禍で実施したため,参加者の安全性を考慮し,オンライン実習の取り組み(川上ら,2021)などを参考に全てオンラインで実施した.講義はリアルタイムまたは事前収録した動画をライブで配信した.演習はオンライン会議システムのブレイクアウトセッション機能を利用して実施した.

4. 調査方法

1) 対象

訪問看護事業所1年間のターミナルケア加算と訪問看護ターミナルケア療養費(病院・診療所は在宅ターミナルケア加算)の合計件数(報酬上の在宅看取り件数)は平均5.3件である(濱谷ら,2022).これらのデータを基に,在宅看取り初心者を「在宅看取りケア件数が未経験もしくは数例程度」とし,本研究の対象とした.さらに参加要件を訪問看護経験6か月以上4年未満で,訪問看護師養成講習会や訪問看護eラーニング(訪問看護基礎講座)などの外部基礎研修を修了しており,所属部署の管理者の推薦が得られ,全ての質問紙調査に回答できる者と設定し,全てに該当する者を募集した.これらの参加要件は,臨床経験5年以上を中堅看護師とした先行研究(辻ら,2007)や東京都訪問看護師キャリアラダー(東京都訪問看護ステーション協会,2019)などを参考に,検討委員会およびWGの議論を経て決定した.

2) リクルート方法

日本訪問看護財団のホームページおよび会員通信サービスに,参加者募集案内ページのURLを掲載し,200名を上限に募集した.なお,参加者は1事業所あたり1名とした.募集期間は2021年9月6日~22日であった.

3) 調査項目

(1) 参加者の属性

T0における参加者の属性として,就業場所(訪問看護事業所,病院,診療所,その他),年代(20代,30代,40代,50代,60歳以上),職位(スタッフ,主任・副所長,管理者・所長,その他),最終学歴(専門学校,短期大学,大学,大学院),取得資格(保健師,助産師,看護師,准看護師),施設および訪問看護の経験年月を収集した.所属施設の属性では,看護職員の常勤換算数,2020年度1年間の報酬上の在宅看取り件数を収集した.

(2) 在宅看取りケアへの態度

在宅看取りケアに対する考え方や自信,困難感を測定する尺度として,1つ目にFATCOD-FormB-JをT0とT1で収集した.FATCOD-FormB-Jは30項目から構成される5件法のリッカート尺度(30~150点)であり,ターミナルケア態度が積極的であるほど点数が高くなる.下位尺度は「死にゆく患者へのケアの前向きさ」(16~80点),「患者・家族を中心とするケアの認識」(13~65点),「死の考え方」(1~5点)の3つである.なお,日本語版の信頼性と妥当性は既に検証されている(中井ら,2006).

T0とT1では,2つ目に緩和ケアに関する医療者の自信・意欲尺度(訪問看護バージョン)の「終末期ケアに対する自信」(3項目),「医師とのコミュニケーションへの自信」(3項目),「終末期ケアに対する意欲」(3項目),3つ目に緩和ケアに関する医療者の困難感尺度(訪問看護バージョン)の「症状緩和」(3項目),「医療者間のコミュニケーション」(3項目),「患者・家族とのコミュニケーション」(3項目),「地域連携」(3項目),「看取りと家族ケア」(6項目)を収集した.これらも全て5件法のリッカート尺度であり,ドメインごとの項目の平均点(1~5点)を算出した.自信・意欲尺度は点数が高いほど自信・意欲が高いことを,困難感尺度は困難感が強いことを示し,いずれも信頼性と妥当性は既に検証されている(Shimizu et al., 2016).

(3) 在宅看取りケア件数

在宅看取りケアを「臨死期(予後1か月から亡くなるまでの時期)にある方のケア」と定義し,T0とT2において,訪問看護師になってからの在宅看取りケア件数を収集した.

5. 分析方法

全てのプログラムと調査に参加した121名(I群62名,C群59名)について,T0における属性を両群間で比較した.次に,FATCOD-FormB-Jとその下位尺度の合計点,緩和ケアに関する医療者の自信・意欲尺度および困難感尺度の各項目の平均点について,T0からT1への変化量を両群間で比較した.在宅看取りケア件数に対する効果は研修直後には検証できないため,T0からT2(I群研修約2か月後,C群研修直後)への変化量を両群間で比較した.

属性の比較にはt検定またはカイ二乗検定,変化量の比較にはt検定を用いた.有意水準は5%とし,分析にはSPSS Ver. 28を用いた.

6. 倫理的配慮

参加者募集案内ページには,本事業の目的および内容,研修受講日程は無作為に割り当てられ自ら選択できないことを明記した.質問紙調査では受付番号を入力してもらい,個人が特定されないよう配慮した.本研究は公益財団法人日本訪問看護財団研究倫理委員会の承認を得て実施した(No. 2021-01).

Ⅳ. 結果

1. 対象者の属性

有効回答率は100%であった.分析対象者121名は全員看護師であり,そのうち12名は保健師,3名は助産師を保有していた.T0における属性を表1に示す.40代が38.0%と最も多く,訪問看護経験は平均19.7 ± 11.5か月であった.対象者が所属する施設の看護職員の常勤換算数は平均8.1 ± 14.3人であった.また,対象者の在宅看取りケア件数は平均7.7 ± 8.3件(I群:6.8 ± 5.4件,C群:8.7 ± 10.5件)であった.表1の通り,T0における属性に両群間の有意差はなかった.

表1 ベースライン(T0)における対象者の属性,在宅看取りケアへの態度,在宅看取りケア件数の群間比較

介入群
n = 62)
wait list control群(n = 59) 全体
n = 121)
P
個人属性 就業場所,n(%) 訪問看護事業所 58(93.5%) 54(91.5%) 112(92.6%) 0.785 a
病院 1(1.6%) 2(3.4%) 3(2.5%)
診療所 1(1.6%) 2(3.4%) 3(2.5%)
その他 2(3.2%) 1(1.7%) 3(2.5%)
年代,n(%) 20代 6(9.7%) 8(13.6%) 14(11.6%) 0.797 a
30代 17(27.4%) 16(27.1%) 33(27.3%)
40代 22(35.5%) 24(40.7%) 46(38.0%)
50代 15(24.2%) 10(16.9%) 25(20.7%)
60歳以上 2(3.2%) 1(1.7%) 3(2.5%)
職位,n(%) スタッフ 55(88.7%) 46(78.0%) 101(83.5%) 0.228 a
主任・副所長 1(1.6%) 1(1.7%) 2(1.7%)
管理職・所長 6(9.7%) 9(15.3%) 15(12.4%)
その他 0(0.0%) 3(5.1%) 3(2.5%)
最終学歴,n(%) 専門学校 42(67.7%) 39(66.1%) 81(66.9%) 0.776 a
短期大学 4(6.5%) 6(10.2%) 10(8.3%)
大学 12(19.4%) 12(20.3%) 24(19.8%)
大学院 4(6.5%) 2(3.4%) 6(5.0%)
看護経験(か月),平均(標準偏差) 施設 161.2(96.8) 173.2(96.2) 167.1(96.3) 0.494 b
訪問看護 21.1(12.6) 18.3(10.1) 19.7(11.5) 0.190 b
所属施設の属性 看護職員の常勤換算数(人),平均(標準偏差) 9.8(19.3) 6.2(5.0) 8.1(14.3) 0.166 b
報酬上の在宅看取り件数(人),平均(標準偏差) 14.1(13.9) 12.9(16.3) 13.5(15.1) 0.647 b
在宅看取りケアへの態度 FATCOD-FormB-J,平均(標準偏差) 合計点 117.7(7.3) 117.4(9.1) 117.6(8.2) 0.857 b
死にゆく患者へのケアの前向きさ 62.2(5.2) 62.0(6.9) 62.1(6.1) 0.873 b
患者・家族を中心とするケアの認識 51.8(4.2) 51.5(4.4) 51.7(4.3) 0.754 b
死の考え方 3.7(0.7) 3.9(0.6) 3.8(0.6) 0.180 b
緩和ケアに関する医療者の自信・意欲尺度,平均(標準偏差) 終末期ケアに対する自信 2.27(0.94) 2.15(0.91) 2.21(0.92) 0.490 b
医師とのコミュニケーションへの自信 2.37(0.80) 2.45(0.85) 2.40(0.82) 0.590 b
終末期ケアに対する意欲 4.01(0.85) 4.15(0.68) 4.08(0.77) 0.313 b
緩和ケアに関する医療者の困難感尺度,平均(標準偏差) 症状緩和 3.80(0.84) 3.90(0.92) 3.85(0.88) 0.544 b
医療者間のコミュニケーション 2.78(0.98) 2.61(0.95) 2.70(0.96) 0.321 b
患者・家族とのコミュニケーション 3.24(0.86) 3.24(0.92) 3.24(0.89) 0.977 b
地域連携 2.41(0.87) 2.45(0.77) 2.43(0.82) 0.772 b
看取りと家族ケア 2.92(0.66) 2.82(0.70) 2.87(0.68) 0.383 b
在宅看取りケア件数(人),平均(標準偏差) 6.8(5.4) 8.7(10.5) 7.7(8.3) 0.212 b

a:カイ二乗検定,b:t検定

※報酬上の在宅看取り数とは,2020年度1年間のターミナルケア加算と訪問看護ターミナルケア療養費(病院・診療所は在宅ターミナルケア加算)の合計件数である

2. 在宅看取りケアへの態度

在宅看取りケアへの態度に関する全ての項目で,T0における両群間の有意差はなかった(表1).T0からT1への増加量では,FATCOD-FormB-J合計点(I群:5.2 ± 8.1,C群:1.3 ± 5.7,p < 0.01)および「死にゆく患者へのケアの前向きさ」(I群:3.2 ± 5.1,C群:0.5 ± 4.1,p < 0.01)はI群がC群より有意に大きかった(表2).他方,「患者・家族を中心とするケアの認識」(I群:2.0 ± 4.3,C群:0.7 ± 3.6,p = 0.081)および「死の考え方」(I群:0.1 ± 0.7,C群:0.0 ± 0.6,p = 0.600)は両群間の有意差はなかった(表2).

表2 在宅看取りケアへの態度(T0→T1)および在宅看取りケア件数(T0→T2)変化量の群間比較

介入群(n = 62) wait list control群(n = 59) P
T0 T1 変化量
(T0→T1)
T0 T1 変化量
(T0→T1)
在宅看取りケアへの態度,平均(標準偏差)
FATCOD-FormB-J 合計点 117.7(7.3) 122.9(7.6) 5.2(8.1) 117.6(8.2) 118.7(9.2) 1.3(5.7) <0.01 *
死にゆく患者へのケアの前向きさ 62.2(5.2) 65.4(5.2) 3.2(5.1) 62.1(6.1) 62.5(7.1) 0.5(4.1) <0.01 *
患者・家族を中心とするケアの認識 51.8(4.2) 53.8(3.8) 2.0(4.3) 51.7(4.3) 52.2(4.0) 0.7(3.6) 0.081
死の考え方 3.7(0.7) 3.8(0.7) 0.1(0.7) 3.8(0.6) 3.9(0.5) 0.0(0.6) 0.600
緩和ケアに関する医療者の自信・意欲尺度 終末期ケアに対する自信 2.27(0.94) 2.90(0.85) 0.63(0.78) 2.21(0.92) 2.43(1.08) 0.28(0.79) <0.05 *
医師とのコミュニケーションへの自信 2.37(0.80) 2.89(0.85) 0.52(0.72) 2.40(0.82) 2.49(0.94) 0.04(0.60) <0.001 *
終末期ケアに対する意欲 4.01(0.85) 4.08(0.70) 0.06(0.61) 4.08(0.77) 4.04(0.67) –0.11(0.56) 0.097
緩和ケアに関する医療者の困難感尺度 症状緩和 3.80(0.84) 3.37(0.87) –0.43(0.92) 3.85(0.88) 3.97(0.93) 0.07(0.75) <0.01 *
医療者間のコミュニケーション 2.78(0.98) 2.79(0.85) 0.01(0.98) 2.70(0.96) 2.79(1.01) 0.18(0.79) 0.283
患者・家族とのコミュニケーション 3.24(0.86) 3.00(0.97) –0.24(0.79) 3.24(0.89) 3.19(0.97) –0.05(0.77) 0.180
地域連携 2.41(0.87) 2.70(0.82) 0.29(0.91) 2.43(0.82) 2.53(0.84) 0.07(0.84) 0.176
看取りと家族ケア 2.92(0.66) 2.74(0.76) –0.18(0.66) 2.87(0.68) 2.75(0.76) –0.07(0.67) 0.367
介入群(n = 62) wait list control群(n = 59) P
T0 T2 変化量
(T0→T2)
T0 T2 変化量
(T0→T2)
在宅看取りケア件数(人),平均(標準偏差) 6.8(5.4) 7.7(6.2) 0.9(4.8) 7.7(8.3) 11.6(13.4) 2.9(6.1) <0.05 *

t検定

* p < 0.05

緩和ケアに関する医療者の自信・意欲尺度のT0からT1への増加量では,「終末期ケアに対する自信」(I群:0.63 ± 0.78,C群:0.28 ± 0.79,p < 0.05)および「医師とのコミュニケーションへの自信」(I群:0.52 ± 0.72,C群:0.04 ± 0.60,p < 0.001)はI群がC群より有意に大きかった(表2).他方,「終末期ケアに対する意欲」のT0における平均値は4.08 ± 0.77であり(表1),その変化量(I群:0.06 ± 0.61,C群:–0.11 ± 0.56,p = 0.097)に両群間の有意差はなかった(表2).困難感尺度のT0からT1への減少量では「症状緩和」(I群:–0.43 ± 0.92,C群:0.07 ± 0.75,p < 0.01)はI群がC群より有意に大きかった(表2).他方,「患者・家族とのコミュニケーション」(I群:–0.24 ± 0.79,C群:–0.05 ± 0.77,p = 0.180)および「看取りと家族ケア」(I群:–0.18 ± 0.66,C群:–0.07 ± 0.67,p = 0.367)の困難感はI群がC群よりやや減少していたが,その変化量に有意差はなかった(表2).また,「医療者間のコミュニケーション」(I群:0.01 ± 0.98,C群:0.18 ± 0.79,p = 0.283)および「地域連携」(I群:0.29 ± 0.91,C群:0.07 ± 0.84,p = 0.176)については,C群がI群よりやや減少していたが,その変化量に有意差はなかった(表2).

3. 在宅看取りケア件数

在宅看取りケア件数のT0からT2への増加量はC群がI群より有意に大きかった(I群:0.9 ± 4.8,C群:2.9 ± 6.1,p < 0.05)(表2).

Ⅴ. 考察

PENUTを受講した訪問看護師は,症状緩和の困難感が減少して,終末期ケアに対する自信が高まり,死にゆく患者のケアにより前向きになることが明らかとなった.これらの結果には,PENUTの2つの特徴が関係していると考える.1つ目は,症状緩和をはじめとした在宅看取りに関する知識の統合・応用を通して,知識の定着や向上を重視した点である.症状緩和に関する困難感の減少は,がん性疼痛や呼吸困難,消化器症状の緩和に関する知識の向上を受講者が自覚したことを意味している.吉岡・森山(2011)は,一般病棟の看護師による看取りケア実践に関連する要因の1つとして,症状緩和などの基本的知識があることを報告している.訪問看護においても,疼痛緩和や身体症状などの知識を有する看護師ほど,看取りケアを実施していた(栗生ら,2017).したがって,訪問看護師はPENUTを受講することによって,症状緩和をはじめとした在宅看取りに関する知識が向上し,それが終末期ケアに対する自信や在宅看取り実施への前向きな姿勢に繋がったと考えられる.

PENUT2つ目の特徴は,講義に多様で豊かな事例が盛り込まれた点である.看護実践において対象を具体的にイメージできないことは不安や恐怖心に繋がる(鬼頭ら,2017).對馬ら(2023)は,新人看護師は看取りに対し未知だから怖いという感情を抱いており,初めて患者を看取った看護師は「家族になんと声をかければよいのか,何を準備して,次は何をしなければならないのか,どんな流れで見送るのか,一連のイメージがつかなかった」という体験をしていたと報告している.在宅看取り初心者の看護師も同様に,療養者が自宅で亡くなるとき,療養者や家族がどのような様子であるのか,それに対し自身はどのように対応すればよいのか,イメージできないと考えられる.PENUTでは在宅看取りの事例に関する講義を最初に配置した.さらに各講義では講師が経験した様々な事例に対する支援が紹介され,療養者や家族とのコミュニケーションの様子などが再現された.つまり,在宅看取りをイメージできず不安を抱いていた受講者が,講義を通して対象や自身の実践をイメージできるようになり,それが終末期ケアに対する不安の軽減と自信の向上に繋がったと考えられる.さらに講師は事例紹介のなかで,時には困難に直面し,療養者・家族にとってよりよいケアとは何か,日々模索しながら実践していることをありのままに伝えていた.受講者はそのような講義を通し,経験豊富な訪問看護師であっても迷いや葛藤があることを知り,悩みながら実践することは間違っていないのだと安心できたことも,終末期ケアに対する自信の向上に繋がったと考える.

さらに,PENUTは医師とのコミュニケーションへの自信を向上させることが明らかとなった.米澤ら(2014)は,訪問看護師は医師と連携し,必要な薬剤処方を含めた緩和ケアなどについて協議を行うことによって,適切な症状コントロールを行っていたと報告している.また,医師は訪問看護師が安定から悪化への変化をより早く見出す情報を獲得することを期待しており,そのような能力のある看護師の報告を求めている(平松,2013).つまり,療養者の状態が刻々と変化する終末期に症状を上手にコントロールするためには,比較的訪問回数の多い看護師が療養者の状態を的確にアセスメントし,医師へ説明することが求められる.しかし,経験が浅い看護師は知識や経験不足に基づく自信のなさから医師に対する遠慮がある(森・古川,2020).PENUTにおいて例えば「エンドオブライフの症状と治療」で受講者は,症状が出現するメカニズムや治療法について学習する.さらに「在宅看取りにおける臨床推論」の講義では,臨床推論の基本となる問題表象をSQ(Sematic Qualifier)に置き換えるというプロセスを学習する.受講者はこれらの講義を通して,医師とのコミュニケーションを円滑にする知識や思考プロセスを習得できたことで,医師とのコミュニケーションへの自信を高めたと考えられる.医師と十分に話し合いができないことは,訪問看護師が在宅ターミナルケアで感じる困難の1つであり(吉田ら,2010),その困難感を軽減させるプログラムは,訪問看護師による在宅看取りを促進する要因になり得ると考える.

PENUTの演習は訪問看護計画の立案と,療養者・家族とのコミュニケーションで構成されていた.訪問看護計画の立案は,講義で学習した知識を応用・統合する位置づけであり,知識の向上に寄与したと考えられる.他方,「患者・家族とのコミュニケーション」の困難感は,I群がC群よりもやや減少していたが,両群間に有意差はみられなかった.講義で学んだコミュニケーション技術を実践してみるという体験と療養者や家族の立場になって得られた実感は,「患者・家族とのコミュニケーション」の困難感を軽減されたかもしれない.その一方で,受講者全員が訪問看護師役,療養者役,家族役の全てを体験できなかったことは結果に影響を与えた可能性がある.さらに,ファシリテーターに対し,演習手順等については事前に説明した一方で,演習におけるファシリテーターの役割を十分に明確化できていなかった点も結果に影響を与えた可能性がある.今後はファシリテーターの役割を明示していく必要があるだろう.そしてファシリテーターを多く養成し,1グループあたりの人数を減らしていくことで,患者・家族とのコミュニケーションの向上により有用な演習が実施可能になると考えている.

PENUTの到達目標は「在宅看取りができそう!」「在宅看取りをやってみよう!」という気持ちになれることであるにも関わらず,「終末期ケアに対する意欲」のT0からT1への変化量については両群間の有意差がみられなかった.その要因としてT0における「終末期ケアに対する意欲」の平均値は4.08であり,他の項目と比較し高かったことが考えられる.また,T0における在宅看取りケア件数はI群研修後2か月間で両群ともに増加していた一方で,その増加量はC群がI群より有意に大きく,PENUTの在宅看取りケア件数への効果は示せなかった.T0における在宅看取りケア件数は平均7.7件であり,本研究の対象者には在宅看取りをある程度経験してきた訪問看護師も含まれていた.そしてT0でのケア件数は,有意差はみられなかったがC群がI群よりやや多かった.このようなT0における経験値の差が在宅看取りケア件数の変化量に影響を与えた可能性がある.また,受講者の在宅看取り実施には,受講者個人の能力や姿勢だけでなく,所属施設や地域連携の体制など受講者を取り巻く環境も大きく影響する.さらに,ケア知識や態度の向上がケアの実施に繋がるまでにはタイムラグがあることも考えられる.したがって今後は在宅看取りケアを全く経験したことのない訪問看護師なども対象に,所属施設や地域連携の体制などの影響も検討しながら,PENUTの有効性を中長期的に評価していく必要があるだろう.

Ⅶ. 結論

訪問看護師はPENUTを受講することによって,症状緩和の困難感が減少し,終末期ケアおよび医師とのコミュニケーションへの自信が高まり,死にゆく患者のケアに前向きになることが明らかとなった.受講者は知識が向上したことで終末期ケアに対する自信を高め,在宅看取りの実施に前向きになったと考えられる.また,講師が経験した多様で豊かな事例を通して,在宅看取りを具体的にイメージできたことが,終末期ケアに対する不安の軽減と自信の向上に繋がったのではないだろうか.他方,PENUTのケア件数への効果は示せなかった.ケア知識や態度の向上がケアの実施に繋がるまでにはタイムラグがある可能性があり,PENUTによるケア件数の変化については中長期的に評価していく必要がある.

付記:本研究の内容の一部は,第43回日本看護科学学会学術集会で発表した.

謝辞:本研究にご協力いただきました,研究参加者の皆様に心より感謝申し上げます.そしてPENUT作成および研修実施にあたり,講師および演習のファシリテーターには多大なるご尽力を賜りました.心より感謝申し上げます.研究プロセス全体に対し,様々なご助言をいただきました検討委員の先生方,講義資料のレビューを快く引き受けてくださいました専門家の皆様にも感謝申し上げます.本研究は公益財団法人日本財団の助成を受け実施しました.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MHは研究のデザイン,データの収集・分析,原稿の作成;YHおよびEOは研究のデザイン,データの収集・分析,原稿の作成に貢献;HN,MNW,KH,YO,ST,TAは研究のデザイン,データ分析,原稿の作成に貢献;KKおよびNYMは研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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