2024 Volume 44 Pages 328-337
目的:本研究の目的は,美容整形手術を検討した背景からダウンタイム後までの心理過程を明らかにすることである.
方法:目元の美容整形手術を行った10名にインタビュー調査を行い,その内容を修正版グラウンデット・セオリー・アプローチを参考に分析を行った.
結果:【不満】【葛藤】【辛抱】【絶望】【待望】【満足】の6つのカテゴリで構成され,不満から満足へと至る心理過程を辿った.
結論:対象者は,美容整形手術に対してすべての過程で不満と満足,不安と期待といった対照的な感情を抱きながら過ごしていた.また,常に世間の目を気にしている気持ちが含まれていたため,美容医療に関わる看護師は美容整形手術を行う人へ肯定的な姿勢で関わる必要がある.また,美容整形手術による侵襲の大きさは対象者の心理へ大きく影響するため,アフターフォローの重要性が示唆された.
Objective: To clarify the psychological process from the background of considering cosmetic surgery to after downtime.
Methods: Ten patients who had undergone cosmetic eyelid surgery were interviewed and analyzed using a modified version of the grounded theory approach.
Results: The results consisted of six categories: “dissatisfaction” “conflict” “patience” “disappointment” “long-awaited”and “satisfaction”. We traced the development process from dissatisfaction to satisfaction to an increase in mood.
Conclusion: The subjects spent all periods of time with contrasting feelings of satisfaction and dissatisfaction, anxiety, and expectation. In addition, since they always included feelings of concern about the public’s view, the nurses involved in cosmetic surgery need to approach them with a positive attitude. In addition, the importance of follow-up care was suggested because the degree of invasiveness of cosmetic surgery has a significant psychological impact on the subject.
昨今,日本における美容医療の需要は増加傾向にある.日本の2022年美容整形施術数は,アメリカ,ブラジルに次いで第3位となっており(ISAPS, 2022)美容整形に対する関心の高さがうかがえる.国内における美容医療施術数調査(JSAPS, 2022)では,外科的手術のうち眼瞼手術(重瞼術,眼瞼形成,脱脂術など)の割合が65%を占めており目元の施術数が最も多い.大慈弥(2023)は,東アジア人の上眼瞼は西欧人と比較し平面的で組織が厚く,一重瞼や二重瞼など上眼瞼の形態が多様であることに加え,その形態は個人を印象づけ,美しさや若さ,表情に影響を与えると述べている.つまり,目元は外観の第一印象を大きく左右するパーツであるともいえ,近年,コロナ禍でマスク着用を義務づけられ,目元の印象が強調されることも施術数増加に繋がっていることが推測される.
美容整形手術には,身体イメージの改善を通し幸福感や自尊心を高める効果がある(Grossbart & Sarwer, 2003)一方で,美容整形手術を受けたことにより期待通りにいかなかった場合,身体に対する不安の増強(Polonijo & Carpiano, 2008)や,恐怖,羞恥心,苦痛,動揺,怒り,被害者意識に苦しむといった現状(Kim & Chung, 2018),うつ状態やうつ病などの問題が生じる(林ら,2002)ことが明らかになっている.つまり,美容整形手術後の容貌が期待通りか否か,容貌への満足度は手術を受けた人の心理状態を左右させる重要な要因であるといえる.
その他に,美容整形手術は身体侵襲を伴う施術であり,術後は創傷治癒過程を辿るため,術後即時に期待していた外観へ変化しないという特徴がある.一般的に,創傷の治癒過程は炎症期,増殖期,成熟・再構築期の3期に分類され,成熟・再構築期に至るまで2週間~数ヶ月かかる(林,2023).この期間を美容医療用語では「ダウンタイム」と表現されており(高須,2019)手術部位やその周辺の疼痛や腫脹,皮下出血など外観が一時的に変化する時期である.この時期は,理想と現実の容貌に乖離が生じる時期であるといえ,ダウンタイムが長期化することは不安の増強につながり,心身のバランスを崩しやすいと考えられる.
それに加えて,日本の美容整形手術に対する文化的価値観も対象者の心理状態に影響を与える可能性が高い.近年日本は美容クリニックが増加し,以前より認知度は上がっているが,日本では長らく「身体は神によって与えられたものであり簡単に加工してはいけないもの」という観点から美容整形をタブー視する歴史があり(谷本,2020),世間の美容整形に対する認識は様々である.そのため,美容整形手術を行うことについて他者に容易に相談できる環境ではないことや,ダウンタイム中は人と接することに消極的になり,悩みを表出できず孤独を感じやすくなる可能性がある.
つまり,美容整形手術を行い満足な容貌となった人であっても,美容整形手術を検討してからダウンタイムを過ぎて生活をしていく過程において不安や悩みを抱えている可能性が高い.そのため,美容医療に携わる看護師は,美容整形手術を受ける人を理解した上で支援を行う必要があり,美容整形手術を検討した時期からの長期的な心理的支援を行うことが求められる.
美容整形手術を受ける人の心理に関する研究は,海外論文では美容整形手術を希望する人の心理や性格的特徴(Cheraghian et al., 2020),精神疾患との関連(Joseph et al., 2017;Wever et al., 2020),術前心理やスクリーニング(Thomas et al., 2001;Honigman et al., 2010)など美容整形手術を受ける対象者の特徴が明らかにされている.また,有害事象に対する心理(Kim & Chung, 2018;Xie et al., 2021),や美容整形後の自尊心や社会的幸福度,満足度,QOLの変化(Meningaud et al., 2003;Litner et al., 2008;Yin et al., 2016;Jacono et al., 2016;Hibler et al., 2016)など美容整形手術を受けた対象者の心理的変化が明らかにされている.これらは,いずれも美容整形手術を受ける人の術前や術後に限定した時期での研究であるため,術前からダウンタイムを終えるまでの長い期間の心理過程を調査した研究は未だみられていない.
国内の先行研究はごくわずかであり,美容医療への「意識」という社会学や文化人類学の分野で多くみられ(谷本,2020;鈴木,2017;川添,2013),看護学での研究はあまりみられていない.
そのため,本研究で美容整形手術を検討した背景からダウンタイム後までの心理過程を明らかにすることを目的とした.本研究により,美容整形手術を検討した背景からダウンタイム後までの心理過程が明らかとなり,美容医療に携わる看護師は心理過程に合わせた適切な支援が明確になるため,美容整形手術を受ける人の心理的負担の軽減につながることが期待される.
美容整形手術を検討した背景からダウンタイム後までの心理過程を明らかにすること.
高須(2019)の美容整形の定義に準拠し,健康な体に切る・縫うなどの「侵襲」を加えることで形を変え,その人の理想とする美しさを叶える治療とする.
2. ダウンタイム高須(2019)の美容整形の定義に準拠し,治療後,腫れやあざが回復し,生活に支障がなくなる状態に回復するまでの期間のことをダウンタイムとする.
本研究では,美容整形手術を受けた人に対して美容整形手術を検討した背景から,ダウンタイム後までの心理過程を記述する.
海外の美容整形手術に対する先行研究では,美容整形手術を受けるという行為は,コンプレックスなどを改善するための手段として捉えられていたり,アイデンティティの再確立という概念が用いられている.また,国内の先行研究でも,美容整形手術は劣等感や自己満足に対する問題解決の手段として捉えられており,美容整形手術前または手術後の心理といった一時点での研究であるため,美容整形手術前から手術後の経過に沿った心理過程として捉えられていない.そのため,本研究では日本の文化的価値観および看護学の視点を考慮した美容整形手術の心理過程を明らかにするために,木下(2007)によって開発された修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下,M-GTAとする)を用いた.M-GTAは,得られたデータを切片化せずに文章やプロセスを重視し,そこに反映されている認識や行為,要因などを丁寧に検討・分析が可能である.本研究の美容整形手術を受けた人の心理過程を捉えることに適していると考えた.
2. 研究対象者本研究の研究対象者は,目元の美容整形手術を受けて満足な容貌となった人とした.
3. データ収集 1) 調査期間2021年9月~2022年1月
2) 収集方法都内の美容クリニックのうち,同等の規模をもつクリニックの院長に本研究の趣旨の説明と研究対象者となる人の紹介を依頼する文書を送付し,研究協力の同意が得られた2施設より研究の対象となる条件に適した人を紹介してもらった.また,その他にソーシャルネットワーク(以下,SNSとする)上で研究対象者を集い,研究内容について文書と口頭にて説明を行った.その後,研究承諾を得られた人に対し1時間程度のインタビューを実施した.インタビュー日程は対象者の都合に合わせ,プライバシーの保てる個室でオンラインを通して実施した.面接内容は,対象者の許可を得てICレコーダーに録音をした.質問内容は,美容整形手術を受けようと決めた背景や治療に対し期待していたことをはじめとし,美容整形手術を受けてからダウンタイムを過ぎるまでの気持ちを中心にインタビューを行った.なお,インタビューでは語り手の話の流れに沿いながら,その時どのように感じ,どのように考えたのかを常に対象者に質問するようにした.
4. 分析方法本研究では,分析テーマを「美容整形手術を受けた人の心理過程」と設定し,分析焦点者は「目元の美容整形手術を受けて満足な容貌となった人」とした.
インタビュー内容を逐語録に起こし,美容整形手術を検討した背景からダウンタイム後までの思いを抜粋して分析ワークシートを作成した.次に分析ワークシートを用いてプロセスの文脈を意識しながら,概念を生成し複数の概念が生成された段階で概念間の関係を検討した.さらに,概念の取捨選択を繰り返し,カテゴリー生成も同時に検討した.最終的に,概念とカテゴリーの関係を図式化しストーリーラインをまとめた.精神看護学,周術期看護学,心理学を専門としている共同研究者とM-GTA研究会に所属した経験があり数多くの論文を作成し指導経験が豊富な研究者間の検討により結果の信憑性を確保した.
5. 倫理的配慮本研究は,筆者の所属する帝京科学大学「人を対象とする研究」に関する倫理委員会の審査を受け承認を得た(承認番号21A010).対象者の権利を保護するために,研究への参加は自由意思であり,いつでも研究を辞退でき,研究参加による利益・不利益,個人情報の保護,研究結果の開示,研究成果の公表,データの保管などについて,文書と口頭にて説明を行い,承諾書を取得した.未成年の対象者に対しては,保護者へも同様に説明を行い承諾書も取得した.インタビュー内容については,話したくないことは無理に話さなくても良いこと,またインタビュー中に心理的苦痛が生じた場合は,一旦休憩をとる,または中止とすることを伝えた.万が一,心理的苦痛が継続するようであればカウンセラーの資格を持つ共同研究者がフォローすることも伝え,同意を得た.
本研究の対象者は,17歳から35歳(平均25.4歳)の女性10名で,いずれも目元の美容整形手術を受けて満足した人であった.対象者の概要については,術式を含めて[表1]にまとめた.
ID | 年齢 | 性別 | 職業 | 術式 |
---|---|---|---|---|
A氏 | 22 | 女性 | 看護師 | 埋没法 |
B氏 | 17 | 女性 | 高校生 | 埋没法 |
C氏 | 31 | 女性 | 主婦 | 埋没法 |
D氏 | 35 | 女性 | 主婦 | 切開法 |
E氏 | 29 | 女性 | 自営業 | 埋没法・切開法・目頭切開 |
F氏 | 29 | 女性 | 会社員 | 目頭切開 |
G氏 | 24 | 女性 | 接客業 | 埋没法・目頭切開 |
H氏 | 23 | 女性 | 美容師 | 埋没法 |
I氏 | 22 | 女性 | 学生 | 埋没法 |
J氏 | 22 | 女性 | 学生 | 埋没法 |
分析の結果,美容整形を受けた人が抱く心理として,6個の【カテゴリ】,14個の《サブカテゴリ》31個の〈概念〉が生成された.以下に,美容整形手術を受けて満足な容貌となった人の心理の【カテゴリ】の内容について,記述した.なお,カテゴリは【 】,サブカテゴリは《 》,概念は〈 〉で表す.概念の定義および逐語録から抜粋した具体例を[表2]に示した.
カテゴリ | サブカテゴリ | 概念一覧 | 概念の定義と具体例 |
---|---|---|---|
不満 | 容貌に対する願望 | 憧れの顔に近づきたい | 他者と比較して自分の顔を認識し,憧れの顔に自分を変化させたいという思い.G:最近やっぱり芸能人とか,可愛いなって思う子は並行二重の子ばっかりだったので,そうなりたいなと思いました. |
「普通」になりたい | 他者から指摘されたことがきっかけでみんなより劣っているいう劣等感がある.また,その部分を美容整形手術によって補いたいという気持ち.F:「目が離れてるよね.」みたいな感じで言われて.自分はそうなんだ,みたいな.とにかく自分のコンプレックスをなくして,いわゆる普通にもっていきたくて. | ||
素顔を否認 | 整形メイクした顔が自分の顔 | 整形メイクをしていない自分は自分ではないという認識のため,人前に出られないという思い.H:お風呂上がってアイプチがとれた顔は,自分の顔じゃない!って感じで.スッピンが本来自分の顔なんですけど,公の場で見せている顔が自分の顔!っていう感じになっちゃっているので. | |
メイクには限界がある | 水に弱く持続性に欠けたり,メイクに時間がかかること,また皮膚がかぶれたり伸びるということからメイクで維持することへの限界を感じている.C:やはりだんだんまぶたも伸びて,一重がきつくなっている感じがして,むしろ二重ではないままは行けないと思って.けっこうかぶれたまま無理やりつけたりとかもして. | ||
葛藤 | 手術侵襲への恐怖 | 麻酔や侵襲は不安 | 吸入麻酔をしないと痛いのか,局所麻酔の痛みや侵襲による痛みに耐えられるか不安な気持ち.B:とにかくネットで調べました.当日手術をした後の過ごし方や,痛みはどんな感じなのか,麻酔は怖いのかということも調べました.とにかく痛みが不安だったので. |
失敗や合併症が心配 | 明らかに失敗と分かるような不自然な容貌,自分の理想と異なる容貌になることを心配する気持ち.J:ずっと(整形を)したいなと思っていたのですが,なかなか勇気が出なくて.怖いというか,SNSなどを見ていても,失敗されたという話がとても多かったので. | ||
グロテスクな顔になりたくない | 術後経過は把握したいけど,グロテスクな状態に自分がなるということを受け入れられない気持ち.F:教科書に載るような,それこそ大学の医学生とかが使うような本格的なグロテスクな写真を見てしまったので,(手術することに)ちょっとたじろいでしまって. | ||
美容整形に対する罪悪感 | ひっそりと整形したい | 術後の腫れや皮下出血した顔で人前に出られない,また美容整形手術をしたことを隠すためにも侵襲が落ち着くまでの期間を取りたいという気持ち.F:術後は腫れたり内出血があったりするので,その状態で人前に出れないですし.整形したと気づかれないためには最低1週間の休暇は重要です. | |
世間は美容整形に否定的 | 日本の社会的背景に,美容整形手術を否定的に考える思考があると感じている気持ち.H:やっぱり整形に対して否定的な人が多いと思います.お客さんと話をしていても,「整形は良くないこと」みたいな感覚で話をされるので. | ||
自己決定を認めて欲しい | 世間では美容整形手術に対する偏見があると感じているからこそ,美容クリニックの看護師には整形する人に対して共感の気持ちで接して欲しいという思い.F:結構悩んで施術を決めているので.行くこと自体どう思われているのかが怖かったりするので.看護師さんには一緒にきれいになろうという気持ちでいて欲しいですね. | ||
美容整形への期待 | 綺麗な顔になりたい | SNSや身近な人の実際の整形後の仕上がりをみて,自分も憧れの顔になれると期待する気持ち.I:(アプリで)体験を見て,写真もみて,イメージをつけた感じです.不自然ではないのときれいな仕上がりだったので.こんな仕上がりになりたいなって. | |
周囲も美容整形している肯定感 | 身近に美容整形手術をしている人がいるため,みんなもしているからという集団心理から罪悪感が薄まるような気持ち.G:結構みんな(整形を)やっているので.普通のことなのかなって.私でも大丈夫かな,と. | ||
辛抱 | 理想的な容貌への希望 | 手術を乗り切りたい | 手術に対して不安や緊張もあるが,理想のために頑張って乗り切ろうという気持ち.B:緊張していましたけど,二重になれるなら手術を頑張ろうという気持ちでした.これが終わったら二重だ!と思って頑張って乗り切ろうとういう気持ちで. |
不安を軽減してほしい | 術前~術後まで緊張や不安でいっぱいの時に看護師から声かけをされると安心感につながる.J:手術の時は,(看護師さんは)ドクターの方よりも先に入ってきて,「大丈夫だよ.」みたいに声を掛けてもらって,ずっと隣でいろいろとささやいてくれていました.手術中も意識はあるので,「リラックスしてくださいね.」と言われてとても安心しました. | ||
ダウンタイムを最小限にしたい | 手術中にできるだけリラックスすることで,術後の皮下出血や腫れを起こさないようにしたいという気持ち.D:手術が始まって「あれ,痛いじゃん.全然痛くないって書いてあったのに.」と思いながら,でも内出血しないように目に力を入れないようにと思ったり. | ||
手術侵襲による苦痛 | 説明されても頭に入らない | 手術の直前は,緊張が高まっているため説明を受けても理解することが難しいという気持ち.A:麻酔を吸う前に,流れの説明は受けました.正直,一気に説明されてもこの後手術をするという緊張が強過ぎて頭に入りませんでした. | |
痛みで気が回らない恐怖 | 事前に経験者からの情報で痛みについてイメージしていたが,想像以上の痛みに耐えられず気が回らなくなった.A:まぶたに直接針を刺す麻酔だと聞いていませんでした.最初に酸素マスクのようなものを着けたので,それで緩和されるのだと私は思ってしまいました.なので,刺し始めたときに「え?ここに刺すの?これが手術なの?」と思って,すごく痛くて.次にもう片方の目もあると思って,結構その時は気が回っていない状態でした. | ||
絶望 | 容貌に対する困惑 | 自分の顔を受け入れられない | 術直後,侵襲による腫れも含めて美容整形手術をした自分の顔に違和感を感じ受け入れられない気持ち.C:(整形直後の顔を)受け入れられていなかったのかもしれないです.ちょっと気持ち悪いかなとか,こんなに目がぱっちりしてしまってもしかしたら気持ち悪いかなとか. |
失敗なのではないか | ダウンタイム中は侵襲によって一時的に変化する時期ではあるが,感染症や後遺症も含め失敗なのではないかと不安な気持ち.D:これは失敗かなという思いはしました.夜寝るときに「このまま腫れがひかなかったらどうしよう.」と考えすぎて眠れなくなったというのは1日2日くらいはありました. | ||
美容整形への自責 | 美容整形に対する罪悪感 | 美容整形手術への偏見を感じているからこそ,自分自身にも後ろめたさを感じている.C:「あ,(整形を)してしまった.」みたいな感覚が.初日はそのような感じだったかもしれないです.罪悪感が若干そこで感じるのかもしれないです. | |
美容整形後の顔を否定されて後悔 | 美容整形手術をした直後の顔を見た他者から,美容整形手術前の方がよかったと否定するような発言をされ,手術したことを後悔する気持ち.J:「前のほうが良かったと.」一番身近にいた人に言われて辛かったです.本当にやらないほうが良かったのではないかと後悔しました. | ||
世間の目に対する懸念 | 腫れが引かないと困る | ダウンタイムが長引いてしまった場合は,美容整形手術をしたことを気づかれてしまう可能性があるためできるだけ早期に治ってほしいという気持ち.A:腫れが引いたのは3週間後で,内出血はまだ残っていたので絶対にばれると思って.どうやって隠すか悩みました. | |
批判的な視線が気になる | 世間は,美容整形手術に対して否定的な人もいるため美容整形手術をしていることを批判的な目で見られるのではないか,という思い.C:勝手に見られている感じがしてしまって.その終わった後の顔とか,誰も見ていないのですけれども,そういう視線とかが気になってしまって. | ||
待望 | 創傷への受容 | 想定内の腫れで安堵 | 思ったよりも痛みや腫れが少なくダウンタイムが長引かないことに安心したという気持ち.E:埋没はあまり腫れなくて,泣いた次の日の目くらい.(内出血も)起こさなかったんです.運がよかったのかもしれないんですが安心しました. |
腫れるのは当然 | 予想以上の腫れであったが,正常な生体反応だと受け止めている気持ち.B:予想よりもすごく腫れてびっくりしたんですけど,腫れが引かないことはないし当たり前の経過だなって思っていたので,落ち込みはしなかったです. | ||
理想へ近づく高揚感 | 理想的な容貌が待ち遠しい | 腫れや皮下出血が治まり,理想的な顔となることを楽しみに待っている気持ち.I:(ダウンタイム中は)ワクワクの気持ちで.まだかまだか,と.腫れが引くのが楽しみでした. | |
全てにおいて前向き | 美容整形手術を終えて,理想的な容貌に近づけていることを確信し,すべてのことに対し前向きになれているという気持ち.C:腫れが引いてきてからは,理想に近づいているのを実感したので「この際ダイエットもしようかな」とか全てにおいてポジティブな気持ちしかなかったです. | ||
満足 | 精神的な解放感 | もっと自分を表現したい | 美容整形手術前はコンプレックスをカバーするためのメイクしかできなかったが,新しいメイクに挑戦することができるようになりもっと自分を表現したいという気持ち.G:アイシャドウを乗せるのが楽しくなりましたね.アイプチを気にせずにグラデーションも楽しめるようになったので化粧の幅が広がったという感じ. |
コンプレックスからの解放 | コンプレックス解消や今より可愛くなりたいという思いで美容整形手術を決意したため,周囲から可愛いと言われて自己肯定感が上がったという気持ち.H:結構そこまでアイプチしていたときと幅をガラッと変えたわけではないのですが,友達に可愛いって言われて嬉しかったです.自信がつきますね. | ||
自己に対する肯定感 | 理想とする顔になれて満足 | 術後,侵襲による皮下出血や腫脹が治ると理想的な容貌となったため,現在の容貌に満足している気持ち.E:(腫れが引いたら)理想的な感じで満足しました.(手術して)よかったと思いました. | |
自信が持てるようになった | 美容整形手術を行なったことで,自分に自信を持てるようになったという気持ち.B:今までは,周りの友達と比べて自信がなかったりしたのですけれども,自信を持って写真に写ることができるようになりました. |
美容整形手術を検討した背景として,幼少期に指摘された一言から劣等感を抱き,みんなのように〈「普通」になりたい〉という気持ちを持ち続けていた.また,他者と自分を比較するようになり,自分とは異なる他者の顔に憧れ〈憧れの顔に近づきたい〉と《容貌に対する願望》を抱くようになっていた.その結果,コンプレックスをカバーするための整形メイク(アイプチ等)を行い理想の顔に近づく努力をし,〈整形メイクした顔が自分の顔〉であると公で見せている顔こそが自己であるという認識に変わっていった.整形メイクをした自分にはある程度満足していたが,毎日メイクをしなければ理想の顔を保持できないことに対し,メイクに時間がかかることや皮膚トラブルが生じること,持久性に欠けるといった〈メイクには限界がある〉ことに不満が生じていった.また,整形メイクで日々過ごしていたため,メイクをしていない本来の自分の顔とのギャップを受け入れられなくなり《素顔を否認》するような思いが生まれている.このカテゴリは,《容貌に対する願望》と《素顔を否認》という理想と現実の間で自己の容貌に対する【不満】が生じ,その気持ちが美容整形手術を検討する気持ちへ移行していた.
2) 美容整形手術を施行するまでの心理美容整形手術では,侵襲を伴うものが多いため〈麻酔や侵襲は不安〉という思いや〈失敗や合併症が心配〉という気持ちを抱いていた.また,手術侵襲を受けると正常な身体の生体反応として一時的に皮下出血や腫張が生じる.そのことに対し〈グロテスクな顔になりたくない〉と,生体反応を受け入れられないという思いがあり《手術侵襲への恐怖》というネガティブな思いが生じていた.また,〈世間は整形に否定的〉という思いがあるからこそ誰にも気づかれずに〈ひっそりと整形したい〉という気持ちが生まれると同時に〈自己決定を認めて欲しい〉という思いも抱いており《美容整形に対する罪悪感》もまた美容整形手術を意思決定する際の抵抗感へと繋がっていた.しかし,SNS情報で他者の仕上がりを見ることによって〈綺麗な顔になりたい〉という気持ちが高まっていった.また,身近に美容整形手術をした人がいると〈周囲も整形している肯定感〉から,美容整形手術に対する抵抗感が下がり《美容整形への期待》が高まっていった.このカテゴリ内は,《手術侵襲への恐怖》や《美容整形に対する罪悪感》といったネガティブな気持ちと《美容整形への期待》というポジティブな気持ちの間で【葛藤】があり,最終的に期待感が高まることで美容整形手術を受けることを決意していた.
3) 美容整形手術中の心理今回の美容整形に対し,〈手術を乗り切りたい〉という思いで手術に臨んでいた.また,医療者に対して〈不安を軽減してほしい〉といった思いを抱いており,看護師からの声掛けや対応を期待していた.手術中,術後の皮下出血や腫張を軽減させるために疼痛が生じても力まずリラックスを心がけるなど〈ダウンタイムを最小限にしたい〉と術後の容貌までも考えており,《理想的な容貌への希望》を持っていた.それと同時に,手術直前となると極度の緊張から〈説明されても頭に入らない〉状態に陥っていた.また,手術中は麻酔導入時の注射や術中の疼痛から〈痛みで気が回らない恐怖〉を感じており,想像以上の痛みに耐えなければならない《手術侵襲による苦痛》を感じていた.そのためこのカテゴリ内は,手術中で逃げられない状況の中,《手術侵襲による苦痛》と《理想的な容貌への希望》という思いの中で【辛抱】しながら手術を乗り切っていた.
4) 美容整形手術後の心理美容整形手術後,皮下出血や腫張などの創傷治癒が回復するまでのダウンタイムの時期の気持ちは,創傷に対する対象者の受け止め方や美容整形手術に対する偏見によって変化が生じていた.
美容整形手術における目元の手術侵襲の程度は,メスを用いて切除手術をするもの(切開法)が侵襲が大きく,切除手術を行わず糸などで結んで仕上げるもの(埋没法)の方が侵襲は小さい.しかしながら,創傷に対する受け止め方は個人の主観によって左右されていた.
侵襲によって気分が落ち込んでしまった人は,一時的な皮下出血や腫張により,見慣れない自身の顔に〈自分の顔を受け入れられない〉と手術後の容貌を不快に感じたり,皮下出血や腫張が改善されずダウンタイムが長引くと〈失敗なのではないか〉と不安を感じており,考えすぎて不眠症状が生じるなど《容貌に対する困惑》がみられており,創傷に対する受け入れができていなかった.また,美容整形手術を決意したにもかかわらず世間に否定されている美容整形手術を行なってしまったという後ろめたさから〈美容整形に対する罪悪感〉が生じていた.加えて,他者からの言葉に〈美容整形後の顔を否定されて後悔〉している人もおり,《美容整形に対する自責》から自分の意思決定を否定的に捉え気持ちが落ち込んでいた.また,周囲に美容整形手術を行なったと知られてしまうことに対し批判的な目を向けられるのではないかと〈腫れが引かないと困る〉といった焦りの気持ちや〈批判的な視線が気になる〉という《世間の目に対する懸念》を抱き【絶望】な気持ちで過ごしていた.しかし,このような気持ちの落ち込みは,創傷治癒の兆しが見えてから〈理想的な容貌が待ち遠しい〉という気持ちが生まれ,【絶望】と【待望】という対照的な気持ちの中,徐々に【待望】の気持ちへ変化していた.
侵襲後も気分が落ち込まなかった人は,創傷が小さかったため〈想定内の腫れで安堵〉した気持ちであり,また創傷が大きくても侵襲後の一般的な生体反応として認識していた人も〈腫れるのは当然〉と《創傷への受容》ができていた.このように,腫れや皮下出血が少なくダウンタイム後の容貌がイメージしやすい場合や創傷に対する受け入れができている人は,早期に〈理想的な容貌が待ち遠しい〉という気持ちへと至っていた.その結果,術前に抱いていた恐怖からも解放され〈全てにおいて前向き〉な気持ちとなり,《理想へ近づく高揚感》を感じ,【待望】の気持ちを持って過ごしていた.
この【絶望】と【待望】の2つのカテゴリは,創傷に対する受け止め方によって二極化され創傷に対して受容ができていない人ほど,【絶望】の期間が長く,【満足】という気持ちに辿り着くまで時間を要していた.
5) ダウンタイム後の心理美容整形手術後,皮下出血や腫張が落ち着くと理想的な自分の容貌に満足しコンプレックスを解消するための整形メイクではなく〈もっと自分を表現したい〉と新しいメイクに挑戦するなど更なる自己表現をしたいという思いに変化していた.また,美容整形手術を検討したきっかけとなった〈コンプレックスからの解放〉という劣等感に対しても解消する気持ちであり,《精神的な解放感》を感じていた.また,〈理想とする顔になれて満足〉といった気持ちから〈自信が持てるようになった〉と《自己に対する肯定感》が上がっており【満足】という気持ちに至った.
3. ストーリーライン(図1)本研究の対象者の美容整形手術を検討した背景からダウンタイム後の心理過程は,満足と不満足,期待と不安といった対照的な感情を抱きながら過ごしており,不満足から満足へと気分の上昇へつながるものであった.また,すべての期間に世間の目を気にしている気持ちが含まれていた.
美容整形手術を検討していた時期は,憧れの容貌と自分の素顔の間のギャップがあり,整形メイクを行っていたが,持続性に欠けるといったメイクへの限界を感じる中で【不満】という思いを抱き,美容整形手術を検討するようになっていった.手術に対しては,失敗や麻酔に対する恐怖や,世間が否定的に捉えている美容整形手術を行うという罪悪感というネガティブな気持ちと綺麗な容貌となることへの期待というポジティブな気持ちが生じ,美容整形手術を決意するべきか,それぞれの気持ちの【葛藤】から最終的に美容整形手術に希望を見出し手術に臨んでいた.また,手術中は,理想な容貌となれることへの希望の気持ちも巡らせていたが,想像以上の疼痛を感じた場合は苦痛を強く感じており,希望と苦痛の対照的な気持ちを行ったり来たりし【辛抱】していた.
術後は,手術侵襲による創傷に対する受け止め方に個人差が生じるため心理は二極化された.創傷が小さいと感じた場合や創傷が生じることが当然であると受け入れができている場合は,【待望】の気持ちで過ごし,早期に【満足】という気持ちに達している.しかし,創傷に対する受け入れができなかった場合,ダウンタイムが続くことへの先の見えない不安が大きく,【待望】よりも落ち込みが強まり【絶望】的な気持ちであった.しかし,正常な創傷治癒過程を辿ることで,徐々に【待望】という気持ちを抱くようになり【絶望】と【待望】を行ったり来たりしながら【絶望】の気持ちを脱し【待望】へと気分は変化していった.最終的にダウンタイムが過ぎ,腫れや皮下出血が落ち着くと理想的な容貌へ【満足】という気持ちへと展開していく過程を辿った.
本研究の対象者は,美容整形手術を検討した時からダウンタイムが明けるまでの期間,常に世間の目を気にしている気持ちが表れていた.日本は,長きにわたって身体を加工することをタブーとしてきた(谷本,2020).しかしながら,現在では美容クリニックも増え,SNS上で美容整形に関する情報を掲げるなど美容整形に寛容な時代になってきている.そのため,世間の偏見というよりも,対象者自身が美容整形手術に対して否定的な認識があると考えられる.美容整形に対して罪悪感や後ろめたさがあるからこそ,美容整形をしたことを周囲に隠したいという心理が生まれる.自分が美容整形を公表した場合,批判的な印象を持たれるのではないかという恐怖と闘いながら,手術に挑んだともいえる.つまり,対象者はこれらの経験を誰にも知られたくないという心理がある.美容整形手術を決意し,手術を行い,ダウンタイムを終えて満足な容貌に至ったという経験は,対象者だけの閉ざされた世界であり,美容整形手術を経て新しい自分を認められるのは自分だけである.鈴木(2017)は,美容医療の経験を経て,自己の姿が本来の自己と認識している状態に変化することによって,自分に満足すると述べている.つまり,この経験を踏むことが,自己肯定感を高めることにつながると言える.だからこそ,他者承認よりも自分が美容整形手術を行い,容貌に満足したという主観的願望の自己承認が重要であるといえる.何度も手術を繰り返す人は,その自己承認が行えていないと考えられる.自己承認するためには,主観的願望を詳細に汲みとり,納得のいく治療に向けてのインフォームド・コンセント(以下,I.Cとする)のあり方を再検討する必要があるといえる.
2) 創傷治癒過程における心理への影響本研究で心理過程を辿る中で,創傷に対する受け入れが術後の心理過程に大きな影響を与えることが明らかとなった.大慈弥(2023)は,仕上がりへの影響として創傷治癒による変化も関連し,変化の程度は腫張や瘢痕の程度など組織反応の強さにより異なり,また形が安定するまでに数ヶ月から1年程度の時間がかかると述べている.つまり,手術後の創傷治癒に長い期間を要するため,創傷治癒過程を辿ることを理解できていない人にとっては不安が増強する要因であったと言える.また,SNSでの情報は,皆が皆,同様の回復過程を辿るとは限らないため,時として対象者の不安を増強する危険性を孕んでいる.手術侵襲には個人差があり,術中の血管や皮膚損傷,脂肪剥離操作によって出血量が増加し腫張や皮下出血につながるケースもあれば,対象者がアレルギー体質であったり浮腫になりやすい体質であること,術中の力みや術後の激しい運動や飲酒など対象者本人の行動によっても左右される(久次米,2020).本研究において,埋没法で手術を行なった人であっても術後の皮下出血や腫脹が強くダウンタイムが長期化したケースがあり,術式により侵襲の程度は予測されるが個人差も大きい.また,創傷の大きさに対する受け止め方は個人の主観によって左右されるため,たとえ小さな創傷であっても本人が受け入れられなければ,術後は自宅に引きこもり,外界との交流を絶ったり,誰にも相談できず孤立する危険性がある.対象者の中にも失敗なのかと不安になり不眠になったと身体症状が出現している人もいた.幸い,回復に伴い不安は軽減していったが,最悪な場合うつ状態に陥ることもあると考えられる.SNS上では,そのような状況を「ダウンタイム鬱」と表現されており,社会生活に大きな支障をきたすといえる.また,林ら(2002)は,術後に精神医学障害が表面化してくる背景に,手術の結果があまりにも自分の希望とかけ離れたものとなってしまったために,反応性に精神的ダメージを生じたものがあるという.つまり,手術を行なった後もまだ不安要素を抱えながら生活していくことになり,創傷治癒過程を終えて初めて成功か失敗かが判明する.ダウンタイムの時期は,美容整形手術を検討した時期からダウンタイム後までの期間において一番理想と現実がかけ離れる時期であるといえ,手術方法による創傷の大きさだけでなく,その創傷を受け入れられない場合に心理的負担が大きくなると考えられる.
2. 美容医療に携わる看護師に求められる役割美容整形手術を受けた人へのインタビューを通して,看護師の介入場面が少ないことが明らかとなった.看護師が対象者と関わる場面は,手術中が主であり,その後は術後管理の説明をする場面だけであった.対象者が,どのような主観的願望を抱いているのか共有するような場面はなく,手術介助者として看護師は存在している現状が伺えた.しかしながら,看護師は術前・術中・術後と直接対象者に関わる機会はある.そのため,それぞれの時期に応じた看護が必要であり,対象者を理解することが大前提である.
美容整形手術を受ける人は少なからず後ろめたさを感じており,できれば誰にも気付かれずにダウンタイムを終えたいと思っている.実際の美容クリニックでは,対象者がなぜ美容整形を受けようと決意したのかという背景を聞くことはない.しかし,世間の目を気にしながら,また麻酔や手術,失敗や後遺症といった不安を抱えながらも美容整形手術を決意したことを理解する必要がある.対象者が,現状に満足できず今よりも良くなろうとする意思は「エンパワーメント」と捉えることができるのではないだろうか.対象者が自身で問題を乗り越えようとしたその意思決定を受け入れ,肯定的な姿勢で関わる必要がある.
具体的に術前の看護では,美容整形手術に対する意思決定を支える役割がある.美容クリニックにおけるI.Cは,対象者の主観的願望を叶えるため,また不安を軽減させるために重要である.しかしながら,現状ではI.Cが不十分な施設が多いことが指摘されており,厚生労働省と消費者庁は,納得した治療を受けられるために美容医療注意喚起を促すパンフレットを作成している(消費者庁,2020).本研究では,対象者からのインタビューにおいて看護師がI.Cに同席したという事実はなく,対象者の微細な主観的願望を看護師は直接聞く機会がないことが伺えた.しかしながら,美容クリニックを受診してから手術後まで対象者の主観的願望や気持ちを共有できるようチーム間で情報共有を密にする必要がある.美容医療に携わる看護師は,対象者の意思決定を支えるにあたり,主観的願望も勿論のこと,本当にリスクを理解しているのか,不安な要素はないかなど確認するよう関わる機会が必要である.
術中の看護では,手術室看護の役割として,緊張や不安の軽減を図ることは美容整形外科手術に限らず重要である(三澤ら,2014).美容整形手術における看護では,不安の軽減にとどまらず術後の炎症への影響も考慮した看護が求められると言える.美容整形手術を受けた人は,ダウンタイムの期間が長引くことに懸念を抱いている.局所麻酔薬の投与時の疼痛から術中に目元に力を入れることで,術後の腫脹や皮下出血が生じダウンタイムが長期化することにつながる.そのため,リラックスできるようなタッチングや目元に力を入れないようになど術後の創傷治癒が長引かないように声掛けを行うことも重要である.
術後の看護では,ダウンタイム中の気分の落ち込みを回避できるような説明が求められる.本研究において,創傷の受け入れができていない場合,心理的負担が大きくなることが明らかになった.しかし,看護師は対象者から連絡がない限り手術後の状況を知り得ることができない.看護師は,対象者に関われる時間が非常に短いため,その中で十分な説明を行う必要がある.ダウンタイムの長さは,個人差が大きいが,術中操作が大きく影響する場合がある.そのため,予測できる範囲で術後経過を説明する必要があり,一般的な創傷治癒過程を説明することが重要である.また,美容整形手術を受けた人は手術後に失敗なのかという不安な気持ちを発しづらい状況にあることを理解したうえで,医療者側からの介入の余地があるのではないだろうか.そのため,美容医療に携わる看護師は,侵襲の大きさだけでなく,術直後の受け入れ状況などを加味して手術を受けた人にアフターフォローを行う重要性が極めて高いと言える.
本研究の対象者は美容整形手術を検討し,手術を行い,ダウンタイムを終えて満足な容貌に至ったという経験を得て自己肯定感の向上につながっている.その事実を承認できる存在として看護師が対象者の一番近い存在となるべきであり,この自己肯定感を高めるためのプロセスを促すことこそが看護師の役割であるといえる.美容整形手術を検討する時期からの気持ちを理解し,不安の軽減につとめ,理想な容貌までのプロセスをスムーズに進めるよう介入していく必要がある.
3. 本研究の限界と展望本研究は,美容整形手術を受けて満足な容貌だった人の心理過程を明らかにしたものの,対象者数が少なく理論的飽和まで至らなかったため研究の限界であると言える.また,性差や年齢の偏りがあることとメイク習慣の有無や長期休暇の取りやすさなど時間的制約から本研究のプロセスに沿った経過となるとは限らない.手術部位に関しても目元のみであり,大きな侵襲の術式は含まれていないため,一般化は困難であると考える.そのため,対象者を増やし理論的飽和を目指していく必要がある.また,今回の対象者は手術後の容貌に満足している人のみであったため,今後は満足な容貌に至らなかった人の心理的過程に関しても明らかすることで,美容医療に携わる看護師の役割がさらに明確化されると考える.
1.美容整形手術を受けて満足な容貌となった人の心理過程は,【不満】【葛藤】【辛抱】【絶望】【待望】【満足】という6つの過程を辿った.
2.美容整形手術を検討した時から,全ての過程において満足と不満足,期待と不安といった対象的な感情を抱きながら過ごしていた.
3.美容整形手術後の創傷に対する受け入れは対象者の心理に大きな影響を与えるため,ダウンタイムの時期にフォローする重要性が極めて高いことが示唆された.
4.美容整形手術を受けた人は,自分自身の中に美容整形に対して否定的な認識があるため,世間の目を気にしたり,気分の落ち込みの要因となることが示唆された.そのため,看護師は対象者の意思決定を認め,肯定的な姿勢で関わる必要がある.
謝辞:本研究を行うにあたり協力いただきました対象者の方々に感謝申し上げます.加えて,対象者をご紹介いただきました美容クリニックの院長ならびに関係者の方々にも感謝申し上げます.本研究は,令和3年度JSPS科研費21K10812(代表者 川副樹)の助成を受けて実施しました.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:MI,JM,JSは研究の分析,解釈,研究全体への助言に貢献;IKは研究の着想,デザイン,データの入手,分析,解釈,草稿のすベてにおいて貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.