Journal of Japan Academy of Nursing Science
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The Challenges Faced by Chinese Nurses Who Changed Their Workplace After 3 Years of Working in Japan in the Process of New Workplace Adaptation
Xiujie JiangManami NozakiMitsuko Nagano
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2024 Volume 44 Pages 348-357

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Abstract

目的:在日勤務3年後に職場変更した中国人看護師において新たに職場適応する際に抱える困難を明らかにすることである.

方法:来日を斡旋した受け入れ病院で3年間勤務した後に職場変更した中国人看護師13名を研究対象者とし,半構造化面接で得られたデータを質的記述的に分析した.

結果:職場変更した中国人看護師において新たに職場適応する際に抱える困難として,【求められる日本語のレベルが高く適切に意思疎通を図れない】【既卒看護師としてのキャリアは認められず職業的な自己肯定感が低下する】【急性期看護の高いワークロードに効率的に対処できない】等7つのカテゴリーが抽出された.

結論:在日勤務3年後に職場変更した中国人看護師の医療現場適応における困難はコミュニケーション能力の不足および職場による教育的支援の不足が根底にある.職場による切れ目のない教育的支援の必要性が示唆された.

Translated Abstract

Purpose: The purpose of this study is to clarify the challenges faced by Chinese nurses who changed their workplace after 3 years of working in Japan in the process of new workplace adaptation.

Method: We conducted a qualitative and descriptive analysis of the data obtained in a semi-structured interview with 13 Chinese nurses who changed their workplace after having worked in Japan for three years.

Result: Seven core categories were extracted as challenges of new workplace adaptation faced by Chinese nurses who changed their workplace, such as “The level of Japanese required is high and it is difficult to communicate properly,” “The career of a second-career nurse is not recognized, leading to a decrease in professional self-esteem,” “Cannot efficiently cope with the high workload of acute care nursing.” etc.

Conclusion: The difficulties in adapting to the medical practice for Chinese nurses who changed workplaces after working in Japan for three years were due to a lack of communication skills and insufficient educational support from the workplace. This suggests the need for seamless educational support from the workplace.

Ⅰ. 緒言

看護師の国際移動については1990年頃から,看護師人材不足を背景に米国,英国を中心として活発化し始めた(小田,2017).日本では,2008年から,インドネシア,フィリピン,ベトナム各国との間で締結した経済連携協定(以下EPAと省略する)に基づくEPA看護師の受入れが開始した(国際厚生事業団,2023).別ルートで来日する中国人看護師の受け入れも急速に進んでいる(卜,2017).2018年12月の法務省の在留資格統計では『医療』で滞在している中国人は約1,500人であり,大半が看護師として就労していると推測される(石川,2019).2020年10月の国籍別・産業別外国人労働者数では,「医療・福祉」で滞在している中国人は8,327人である(厚生労働省,2021).在日中国人看護師数は徐々に増えていると言える.

中国人看護師は同じ漢字圏であり,日本語を修得しやすく,国家試験の合格率は70~90%と,日本人に迫る(神元,2013).中国人看護師の国家試験平均合格率は96.5%と報告している支援団体もあり(国際看護師育英会,2023),日本看護師国家試験の合格率は高い.

中国人看護師は日本語能力試験N2以上に合格し,中国の看護師免許を取得後に来日する.来日後,NPO法人と受け入れ予定の医療機関のサポートで日本語学校・国家試験受験ゼミ校に通い,日本語能力試験N1検定と日本の看護師免許を取得し,看護師として病院に配属される(龔,2018).NPO法人により,外国における提携学校の発掘,来日後国家試験受験までの受験対策から生活支援,日本文化の習熟,最終的な受入れ施設の認定まで,一貫した看護師育成プログラムを整備している(国際看護師育英会,2023).日本では,いくつかの中国人看護師を対象とした人材斡旋事業団体が存在している.就職後,主任が1年間マンツーマンで指導する制度もあり(渡辺,2021),定期的に研修,勉強会や交流会を行っている(IMSグループ看護部,2017).中国人看護師は職場と看護業務に馴れるのもEPA関係国の看護師より遥かに早く,一人前の看護師になるにあたっての心配も少ない(卜,2017)と言える.NPO法人のサポートを受け,日本の看護師国家試験に高い合格率で合格し,看護師免許取得後,受け入れの医療機関の教育的支援のもと早期に職場になじみ,看護業務の遂行が順調にできているように見える.

しかし,実際には,異文化職場への適応に戸惑うことが多い(卜・青柳,2015).まず,言語スキルの不足では,敬語ができず,患者家族と会話するのが怖い,看護記録の記入が難しい(石原,2012),医療現場で使われる口語表現等による日本語の問題(林,2017)は,日本語が母国語でない看護師にとって,患者とのコミュニケーションや医療記録の記入など,看護業務において大きな課題となる.日中の文化の違いについて,中国人看護師は日本人患者に対して文化的な違いに敏感である必要があるが,文化理解の難しさ(森ら,2021)や日中のコミュニケーションスタイルの相違がある(卜,2017)と報告されている.また,在日中国人看護師が日中の看護の違いを理解できないことや職場の価値観に馴染めないこと(Zhang, 2020)などにより,異なる文化や環境で看護を学んできた中国人看護師が日本の医療現場に適応する際に,様々な課題を抱えるようになる.北島・細田(2019)は職場適応について「職場に新たに加わることにより内的・外的な均衡の崩れを経験した個人の新たな均衡状態を獲得するために自ら変容したり環境へ働きかけたりする行動と,その結果としての個人と職場との間の調和した均衡状態である」と述べている.在日中国人看護師は中国で看護学を学び,日本という異文化環境で看護実践を行い,新たな均衡状態を獲得するために自ら変容したり環境へ働きかけたりする行動が必要である.本研究において,在日中国人看護師が日本語で支障なく患者・患者家族・同僚とコミュニケーションを取り,良好な人間関係を維持し,自ら仕事を評価しながら自律して職務を遂行できる状態を職場適応と捉える.

在日中国人看護師の就労について,医療機関との契約は3~5年間に規定されることが多い.しかし,3~5年間の雇用契約の終了を機に,帰国するか日本で看護師を続けるか決断しなければならない.契約期間が過ぎれば帰国する予定であった看護師達は,中国と日本の看護の違いに触れ,さらに看護を深めたいと日本に残る(高野,2021).職場変更する中国人看護師は,自分の望む看護実践ができる病院を希望する者もいれば,結婚や転居等を機に職場変更せざるを得ない者もいる.

職場変更を選択した中国人看護師は,受け入れ窓口であるNPO法人と受け入れ医療機関の全面的なサポートから離脱した後,中国人看護師の指導に慣れていない職場に就職し,日本人看護師と同様に働くことが求められる.しかし,指導者の「外国人看護師は直ぐに離職する」という偏見から,日本人と同等の指導を得られないという差別を体験した者もいた(Zhang, 2020).職場を変更する場合,一度は独り立ちした中国人看護師が新たな職場への適応に多大な困難を抱えていると考えられる.しかし,中国人看護師の職場変更に伴う医療現場への適応困難に関する先行研究は見当たらない.本研究を通して,中国人看護師が職場を変えた後に新しい職場に適応するために直面している困難は何かを明らかにしたいと考えた.

在日中国人看護師は日本の医療サービスを受ける中国人患者にも対応できる国際看護の視点を持つ人材であり,職場の看護職者のダイバーシティの実現に可能性を持っている.このように,中国人看護師を単なる労働力の確保のためだけではなく,看護の質の向上につながると期待できる.本研究を通して,在日中国人看護師が雇用契約期間終了後でも,日本に定着して働き続けられるように,職場変更した中国人看護師に対して切れ目のない支援のあり方について示唆を得られると考える.

Ⅱ. 目的

本研究の目的は,在日中国人看護師が来日時の受け入れ窓口である医療機関に3年間勤務し,雇用契約期間満了後に職場変更した際に,新たに職場適応するために抱える困難は何かを明らかにすることである.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,質的記述的研究である(グレッグら,2007).質的記述的研究は人間の経験したことを注意深く記述し,複数の現実を明らかにすることができるため,中国人看護師が経験した困難を知るために適していると考えた.

2. 用語の操作的定義

在日中国人看護師の職場適応状態:日本語で支障なく患者・患者家族・同僚とコミュニケーションを取り,良好な人間関係を維持し,自ら仕事を評価しながら自律して職務を遂行できる状態を指す.

3. 研究参加者

NPO法人と医療機関の全面的なサポートを離脱し,在日勤務3年後職場変更した中国人看護師である.職場変更した後の経験年数,職場変更した回数,医療機関の規模を問わず,特別な支援がなく日本人看護師と同等の条件で働いていることを選定条件とした.

4. 調査方法

機縁法によって研究者が紹介を受けた在日中国人看護師交流会を通して,研究参加者を募集した.調査期間は2020年4月1日~8月31日である.インタビューガイドに沿って,同意を得られた研究参加者に対して,対面あるいはオンラインによる半構造化面接を実施した.インタビューに先立ち,研究参加者の属性(性別,年齢,日本語教育年数,看護基礎教育年数,職場変更する理由,職場による個別支援の有無など)をフェイスシートに記入してもらった.インタビューガイドに基づいて,「現在所属している職場に変更した当初に,この医療現場に適応するために,中国人看護師として,どういう困難がありましたか?」と尋ねた.日本語で語るのに困難を感じた際は中国語で表現してもらった.研究者の母語は中国語であり,日本語能力はN1レベルである.研究者は日本の医療機関で10年間勤務し,中国語と日本語の両方を理解できる.面接内容は参加者の許可を得て録音し,逐語録に起こして文字データを作成した.

5. 分析方法

グレッグら(2007)が示した質的記述的分析の方法を参考にし,データ分析を行った.面接内容を逐語録にして熟読し,新しい職場に適応するときに直面した困難に関する語りを抽出後コード化し,意味内容の類似性,相違性を比較しながら抽象度を上げ,サブカテゴリーを生成した.得られたサブカテゴリーを統合し,カテゴリーとした.本論文は質的研究の評価基準Consolidated criteria for reporting qualitative research(COREQ)(Tong et al., 2007)を参照しつつ執筆した.データの解釈の妥当性を確認するため,研究参加者よりメンバーチェッキングを受けた.中国語で語られた場合,研究者が逐語録を日本語に翻訳し,中国語に精通する日本人のネイティブチェックを受けた.分析過程において,異文化看護・質的研究の経験豊富な指導者よりスーパービジョンを受けながら,カテゴリーの構成・命名の検討を合意が得られるまで討議を重ね,信頼性の担保に努めた.

6. 倫理的配慮

本研究は,順天堂大学大学院医療看護学研究科・医療看護学部研究等倫理委員会(承認番号:2019-M5)の承認を得て実施した.研究参加に際し,研究の目的と概要,調査協力の任意性,撤回の自由,安全性の保障,個人情報の保護,結果の公表等について文書と口頭で筆頭著者が説明し,同意書を交わした.また,日本語で語るのに困難を感じる参加者には中国語を使ってもいいことを説明した.

Ⅳ. 結果

1. 研究参加者の基本属性(表1

研究参加者は13人のうち女性が12人,男性は1人,年齢は平均31歳であった.日本語教育年数は2~4年であり,看護基礎教育は専門学校卒の者は7名,大学卒の者は6名であった.初回勤めた医療機関の種類は慢性期病院と回答した者が11名,職場変更後の医療機関は急性期病院あるいは大学病院と回答した者が11名であった.職場変更した回数は1~4回,現在の職場に変更した経験年数は0~3年間,日本での総勤務年数は4~10年間であった.職場変更の理由は,キャリアアップ,結婚や転居のためであった.初回に勤めた医療機関では中国人看護師に対する個別支援があると答えたのは13名,職場変更後では個別支援があると答えた者はいなかった.

表1 研究参加者の基本属性

対象者 性別 年齢 日本語教育年数 看護基礎教育年数 初回勤めた医療機関の種類 職場変更後の医療機関の種類 職場変更の理由 職場変更した回数 現職場に変更した経験年数 日本での勤務年数
A 20代後半 2年 3年 慢性期病院 大学病院 キャリアアップ 1 1 5
B 30代前半 3年 5年 慢性期病院 大学病院 結婚,転居 2 3 9
C 30代前半 4年 5年 慢性期病院 大学病院 キャリアアップ,結婚 2 2 10
D 30代前半 2年 4年 慢性期病院 大学病院 キャリアアップ 2 3 8
E 20代後半 4年 4年 慢性期病院 大学病院 スキルアップ 2 2 6
F 30代前半 3.5年 3年 慢性期病院 急性期病院 転居 2 1 10
G 30代前半 3年 3年 慢性期病院 大学病院 キャリアアップ,転居 2 1 10
H 30代前半 2年 3年 慢性期病院 大学病院 勉強したい分野がある 3 1 6
I 30代前半 2.5年 4年 亜急性期病院 亜急性期病院 キャリアアップ 1 0 4
J 30代前半 2年 5年 慢性期病院 大学病院 大学病院で勉強したい 4 1 8
K 30代前半 2年 3年 慢性期病院 急性期病院 転居 2 1 5
L 30代前半 2.5年 3年 慢性期病院 亜急性期病院 経験を積みたい 2 2 10
M 30代前半 2年 3年 回復期病院 急性期病院 キャリアアップ 1 0 4

注:

①日本語教育年数は,日本語を習い始めてから,日本語能力試験N1と検定された日までの期間である.

②看護基礎教育年数は,3年間の者は専門学校卒であり,4年間と5年間の者は大学卒である.4年制と5年制は同じく大学であるが,4年制卒の者は理学学位,5年制卒の者は医学学士学位を取得している.

③職場変更後の医療機関の種類は,インタビューする当時に研究参加者が所属していた医療機関のことである.

④職場変更の理由は,インタビューする当時の医療機関に職場変更した際に対して尋ねたものである.

インタビュー時間は,1人1回,30分~59分の平均46分であった.日本語で語るのに困難を感じた際に,難しい単語を中国語で表現した参加者は2名,全部日本語で語ったのは11名であった.

2. 在日勤務3年後に職場変更した中国人看護師が新たに職場適応する際に抱える困難(表2

在日勤務3年後に職場変更した中国人看護師の医療現場適応における困難について,インタビュー内容の逐語録から,73のコード,19のサブカテゴリー,7のカテゴリー:【求められる日本語のレベルが高く適切に意思疎通を図れない】【コミュニケーション能力不足により人間関係の維持に困難を感じる】【新しい職場のルールを覚えられず職場での信頼が得られない】【急性期看護の高いワークロードに効率的に対処できない】【日本の医療と看護に対する理解不足により看護業務の遂行が困難になる】【既卒看護師としてのキャリアは認められず職業的な自己肯定感が低下する】【キャリア発達の遅滞によりなりたい自分になれない】が抽出された.以下に,カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを[ ],コードを〈 〉,対象者の語りを“斜体”で示し,概説する.

表2 在日勤務3年後に職場変更した中国人看護師が新たに職場適応する際に抱える困難

カテゴリ サブカテゴリ コード
求められる日本語のレベルが高く適切に意思疎通を図れない 敬語を正しく使えず言葉遣いや接遇が指摘された 敬語を正しく使えず言葉遣いや接遇で患者に注意された
大学病院は求める看護師の言葉遣いや接遇のレベルが高く先輩に指摘された
患者の言葉を聞き取れずニーズの把握は難しい 高齢者や怒っている患者の言葉が聞き取りにくい
患者の方言や昔言葉がわからない
小さな声や早口で言われた日本語が聞き取れず患者の要求を正確に理解できない
電話応対において情報伝達が難しい 電話で急変した患者の状況を明示的に家族に伝えられない
相手の表情が見えない状況で音声をクリアに聞き取れない電話応対をうまくできない
聞きなれない言葉を瞬時に理解できない 医療専門用語や略語は病院によって異なるため覚えるのが大変だった
前の職場で使わなかったカタカナ語の薬名を覚えるのが難しかった
異なる言い方や言い回しに遭遇すると言葉の意味内容を理解できない
適切な日本語で同僚との意思伝達に自信がない 自分の報告や意見をリーダー看護師に伝わらなくて辛かった
伝えたいことを適切な言葉で表現できず誤った日本語がスタッフに冗談を言われた
日本語能力不足のためアクセントや言葉の意味を間違えたことがある
コミュニケーション能力不足により人間関係の維持に困難を感じる コミュニケーション能力不足のため患者に信頼されない 上手くコミュニケーションを取れない精神科患者の対応に困難を感じる
不意に注意した飲水制限を守れない透析患者に怒られた
患者に中国人看護師の日本語が聞き取りにくいと言われる
日本人のスタッフに代われと言われて患者に信頼されず悲しかった
先輩看護師との人間関係を上手く対処できない 多忙な状況で先輩に質問する際にイライラされて聞きづらい
先輩の厳しい言葉や質問に対処するのは難しい
ミスをした際に先輩に怒られ,陰口を言われて高度なストレスを感じた
コミュニケーション能力不足によって同僚や医師との関わりに困難を感じる 柔軟的で遠回しな言い方ができずストレートな表現で不意に相手を傷つけてしまう
医師に報告する際に上手くできるのかを心配して緊張を感じた
医師に信頼されなくて指示受けや医療処置を実践できない
日中文化の違いにより,同僚の会話に入りづらくて孤独感を感じる
仕事上でもプライベート上でもコミュニケーション不足が生じている
人間関係が上手く行かない際に日本語によるコミュニケーション能力不足だと自分を責めてしまう
新しい職場のルールを覚えられず職場での信頼が得られない 新しい職場のルールを新たに覚えるのは大変である 前の病院と違って大学病院のルールが多くて全部覚えるのにとても時間がかかる
配薬ルールを覚えるまでに配薬に時間がかかって患者に文句を言われる
新しい職場のルールは本当に前の職場より優れているか疑問に思う
職場のルールを覚えられず先輩に注意される ルールを覚えられずつい自己流になってしまい,先輩に厳しく注意され,ストレスになる
看護業務を任せるのが不安であると先輩に言われる
急性期看護の高いワークロードに効率的に対処できない 急性期病院では緊急度の高さと責任の重さで心身共に疲れる 大学病院が想像以上に忙しい環境であり,優先順位をつけながら効率的に仕事を進められない
急性期病院での急変時対応は高度で複雑なプロセスであり,最初は混乱した
大学病院の仕事量や残業が多くて体力的に疲れる
仕事中に時間管理と業務の遂行に責任と緊張を感じる
看護記録が多くて,時間がかかった
日本の医療と看護に対する理解不足により看護業務の遂行が困難になる 日本の医療と看護に対する理解不足のため科学的に看護提供するのが難しい 日本の医療・介護保険制度,退院支援システムがわからなくて退院調整などの業務ができない
療養上の世話が看護師の重要な役割であることを理解できず,生活ケアに抵抗を感じている
中国の大学で看護理論と看護過程に対する学習が少なく,学習方法が日本と違う
看護理論に基づいて論理的に看護過程を展開できない
急性期看護の知識不足を経験するうちに,急に自立せざるを得ない心細さ 前の職場では先輩がカバーしてくれたが,新しい職場では自立して看護ケアを提供する
緊急度が高い患者の看護も自立して対応するのが心細い
新しい職場で他職種連携や医師との関わりを全部自分でやらなければならない
医師の指示に対する受け漏れや誤解がないか心配し,自立的に看護ケアを行う自信がない
看護の提供にプライマリー看護師としての重い責任を感じる
病院によって使用する看護理論と看護方式が違って,必要な専門知識や看護記録の書き方も違う
新しい職場の看護業務を自立して遂行できるか不安である
既卒看護師としてのキャリアは認められず職業的な自己肯定感が低下する 既卒看護師としてのキャリアが認められず低く評価された 入職初日に今までの経験を全部忘れてくださいと言われて戸惑う
前の職場での経験は全面的に否定されたことが一番辛い
新しい職場で先輩から前の職場を見下ろされた
自己評価が高かった仕事がコーチに低く評価され,信頼されない
前の職場でクリアした看護業務も再評価され自立できない 経験知が新しい職場に通用しないため,新たに知識と技術の修得が必要である
前の職場でクリアした看護技術も新たに厳しくチェックされて辛い
前職でのラダーアップはレベル3だったが,職場変更してラダー1から申請しなおすことになる
評価されるまで自分のペースで仕事を進められない
新しい知識と技術を身につけて仕事に慣れるのに半年以上かかった
キャリア発達の遅滞によりなりたい自分になれない 期待していたほどのキャリアアップができていない 大きい病院に転職したい中国人看護師が日本に定着したい人や向上心のある人である
専門的な看護知識やスキルを向上させ,高度な看護を学ぶために大学病院に職場を変えた
高い期待をもって療養型施設から職場変更してきたのにキャリアアップがなかなかできない
自分にとって適切な支援を受けられない 先輩によって指導内容と指導方法が違って混乱する
新しい職場は中国人看護師に慣れておらず指導者が中国人看護師教育に困難を感じる
中国人看護師に対する個別支援がなく教育支援体制が整っていない
自ら積極的に指導を求めるしかないが,自分も看護師としてのキャリアや目標の先を見通せない
実際のキャリア発達の遅滞 既卒の経験知を活用できない一方,新人教育システムから外されているように感じた
年下の同期はリーダー業務をしているが,4年目になった自分はトレーニングすら始まらない
学びのチャンスが少なく,外との交流が乏しい
仕事に必要な知識を身につけるための勉強方法や課題の取り組み方がわからない
同期はラダー3に上がったが,自分は経験が長い反面ラダー1のままである
大学病院ではラダーアップのために求められる能力が高くいつもクリアできず諦めた
ラダーアップができず実践できる看護は限られる
日本に馴染めずついネガティブに考えてしまい,中国に帰ろうかと悩むボトルネックの時期である
職場に教育的支援してほしい 新しい医療現場への適応に向けて積極的に教育的支援してほしい
中国人看護師に対して効果的な学習方法やキャリア発展のための指導をしてほしい

1) 【求められる日本語のレベルが高く適切に意思疎通を図れない】

職場変更先の医療機関では看護師の言葉遣いや接遇に対して求めるレベルが高くて,[敬語を正しく使えず言葉遣いや接遇が指摘された].〈小さな声や早口で言われた日本語が聞き取れず患者の要求を正確に理解できない〉といった[患者の言葉を聞き取れずニーズの把握は難しい]と感じていた.さらに,〈相手の表情が見えない状況で音声をクリアに聞き取れない電話応対をうまくできない〉といった[電話応対において情報伝達が難しい]との困難があった.

〈異なる言い方や言い回しに遭遇すると言葉の意味内容を理解できない〉のように[聞きなれない言葉を瞬時に理解できない]ことや,〈伝えたいことを適切な言葉で表現できず誤った日本語がスタッフに冗談を言われた〉のように[適切な日本語で同僚との意思伝達に自信がない]と日本語による意味内容の聞き取りと意思疎通に障害があった.

“前の病院では中国人看護師がいっぱいいたから,自分が間違った日本語を喋っても周りは優しく接してくれて,変だなと思わず慣れている.大学病院に入職して,国籍関係なくみんな平等に働いているため,変な日本語を使うと,えっ?どういう意味?と伝わらなくてみんなにおかしいと思われる.”(G)

2) 【コミュニケーション能力不足により人間関係の維持に困難を感じる】

まずは,〈患者に中国人看護師の日本語が聞き取りにくいと言われる〉ことがあり,〈日本人のスタッフに代われと言われて患者に信頼されず悲しかった〉ということから,[コミュニケーション能力不足のため患者に信頼されない]ということに苦慮した.また,〈先輩の厳しい言葉や質問に対処するのは難しい〉ことや,〈ミスをした際に先輩に怒られ,陰口を言われて高度なストレスを感じた〉のように,[先輩看護師やプリセプターとの人間関係を上手く対処できない]困難を感じていた.〈日中文化の違いにより,同僚の会話に入りづらくて孤独感を感じる〉〈仕事上でもプライベート上でもコミュニケーション不足が生じている〉こともあり,〈医師に信頼されなくて指示受けや医療処置を実践できない〉など[コミュニケーション能力不足によって同僚や医師との関わりに困難を感じる]ことに苦慮しており,コミュニケーション能力不足による人間関係の維持に困難を感じていた.

“先生や家族とコミュニケーションを取る時,直球で伝えてしまい,日本人の先輩みたいに冗談を混じえながら,ニューアンスを適切にうまい言いまわしで伝えるのができない.”(I)

“自分は納得できないことは納得できないと直接言ってしまうタイプだから,職場変更して一年目の時,コーチと良い関係を構築できず,辛かった”(H)

3) 【新しい職場のルールを覚えられず職場での信頼が得られない】

〈前の病院と違って大学病院のルールが多くて全部覚えるのにとても時間がかかる〉ことや,〈配薬ルールを覚えるまでに配薬に時間がかかって患者に文句を言われる〉ことがあり,[新しい職場のルールを新たに覚えるのは大変である]ことにストレスを感じていた.〈ルールを覚えられずつい自己流になってしまい,先輩に厳しく注意され,ストレスになる〉といった[職場のルールを覚えられず先輩に注意される]ことに悩んでいた.

“新人としてここのルールや先輩の言うことに従うべきだと思うが,言われることがだんだん増えてきて,ストレスが溜まって辛くなった.”(M)

4) 【急性期看護の高いワークロードに効率的に対処できない】

〈大学病院が想像以上に忙しい環境であり,優先順位をつけながら効率的に仕事を進められない〉ことや,〈急性期病院での急変時対応は高度で複雑なプロセスであり,最初は混乱した〉こともあり,〈大学病院の仕事量や残業が多くて体力的に疲れる〉〈仕事中に時間管理と業務の遂行に責任と緊張を感じる〉ことに苦慮し,[急性期病院では緊急度の高さと責任の重さで心身共に疲れる]くらい高いワークロードに疲弊した.

“ずっと緊張している状態ですね.仕事が終わって,倒れるくらい.夜勤も同じ,ノンストップで,ずっと小走りですね.以前に働いた病院はのんびりだったので,急性期病院の仕事量を全然考えられなかった”(A)

5) 【日本の医療と看護に対する理解不足により看護業務の遂行が困難になる】

〈中国の大学で看護理論と看護過程に対する学習が少なく,学習方法が日本と違う〉ということから,〈看護理論に基づいて論理的に看護過程を展開できない〉ことに悩んで,[日本の医療と看護に対する理解不足のため科学的に看護提供するのが難しい]とのことに困難を感じた.

〈前の職場では先輩がカバーしてくれたが,新しい職場では自立して看護ケアを提供する〉必要があり,〈病院によって使用する看護理論と看護方式が違って,必要な専門知識や看護記録の書き方も違う〉中で,〈新しい職場の看護業務を自立して遂行できるか不安である〉ことに心配し,[急性期看護の知識不足を経験するうちに,急に自立せざるを得ない心細さ]という不安を経験した.

“中国で看護理論について深く勉強できなかった.全部自分でアセスメントをしながら,看護計画を立案し,SOAPで記録を書くのが一番難しかった.看護理論や看護過程の回し方を教えてほしい.”(G)

6) 【既卒看護師としてのキャリアは認められず職業的な自己肯定感が低下する】

〈前の職場での経験を全面的に否定されたことが一番辛い〉と語り,[既卒看護師としてのキャリアが認められなかった]ことに戸惑った.〈前の職場でクリアした看護技術も新たに厳しくチェックされて辛い〉経験をおぼえ,〈前職でのラダーアップはレベル3だったが,職場変更してラダー1から申請しなおすことになる〉状況であり,〈評価されるまで自分のペースで仕事を進められない〉と感じており,[前の職場でクリアした看護業務も再スタートとなる]ことにストレスと感じた.

“静脈注射の資格をもらうのに半年以上かかった.いざ静脈穿刺が必要な時,自分ができるのに実施できなくて,忙しい先輩の時間の隙間にお願いするしかない.(中略)以前毎日やっていた経管栄養やおむつ交換も一々先輩に再度評価され大変だった”(H)

7) 【キャリア発達の遅滞によりなりたい自分になれない】

〈専門的な看護知識やスキルを向上させ,高度な看護を学ぶために大学病院に職場を変えた〉が,[期待していたほどのキャリアアップができていない]という葛藤があった.〈新しい職場は中国人看護師に慣れておらず指導者が中国人看護師教育に困難を感じる〉状況であり,〈自ら積極的に指導を求めるしかないが,自分も看護師としてのキャリアや目標の先を見通せない〉ことで[自分にとって適切な支援を受けられない]ことに悩んでいた.

さらに,〈既卒の経験知を活用できない一方,新人教育システムから外されているように感じた〉ことや,〈同期はラダー3に上がったが,自分は経験が長い反面ラダー1のままである〉こととなり,〈ラダーアップができず実践できる看護は限られる〉状況に陥り,[実際のキャリア発達の遅滞]となっていた.

〈中国人看護師に対して効果的な学習方法やキャリア発達のための指導をしてほしい〉と望んでおり,[職場に教育的支援してほしい]と願っていた.

“前の職場ではリーダーをやっていたが,今の職場では4年目になってもリーダートレーニングが始まらない,夜勤が始まった時期もかなり遅かった.毎回ラダーアップする際に,リーダーシップが取れるかという項目に評価されなくて,ラダーアップが進まない.(中略)日本人の同期はリーダー業務もやってラダー3まで上がったが,自分だけは原点で足踏みをしているだけだよね.”

Ⅴ. 考察

1. 日本語によるコミュニケーション能力不足より起因した職場適応の困難

本研究の参加者は日本語能力試験N1に合格し,職場変更する前に日本で3年以上看護師として勤務していたが,母語ではない日本語を使いこなすために,言葉の不自由による困難を依然として抱えながら,職場変更した.職場変更先の急性期病院や大学病院では【求められる日本語のレベルが高く適切に意思疎通を図れない】困難を経験した.日本語の表記には,主に漢字,ひらがな,カタカナ,ローマ字,アラビア数字の5つの文字が使われ,それぞれの文字が異なった性質(類型)を保持しているため,これらを組み合わせて表記されている(木村,2023).これは他の多くの言語に比べて学習の障壁が高い要因であると考える.医療現場ではさらに医療専門用語,略語を使用するため,外国人看護師にとって,医療現場に適した日本語を習得する難易度が高いと考える.

そして,中国人看護師が日本での看護業務において,日本語能力は重要な要素であるが,単なる言語力だけではなく,医療現場で看護師として働くためのコミュニケーション能力が非常に重要である.社会言語学者ネウストプニー(1982)はコミュニケーションが語学力だけではないと主張しており,卜・青柳(2015)は日中コミュニケーションスタイルの違いが日本人との相互理解や人間関係に影響を及ぼしていると述べていた.看護師は患者や他の医療従事者とのコミュニケーションが不可欠であり,ただ言葉を理解するだけでなく,患者やスタッフとの意思疎通や信頼関係を築くスキルが求められる.

しかし,在日中国人看護師は【求められる日本語のレベルが高く適切に意思疎通を図れない】ことや【コミュニケーション能力不足により人間関係の維持に困難を感じる】ことが明らかとなった.医療現場では専門的かつテクニカルな日本語が使用されることが多く,在日中国人看護師は聞きなれない言葉を瞬時に理解できず,適切に表現することも困難であるなか,誤った日本語を使ったことに対して冗談を言われた.また,仕事でミスをした際に指導者に厳しく怒られたと述べていた.このようなことにより,職員の心理的安全性が低下する可能性がある.エドモンドソンは,心理的安全性を「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり,罰したりしないと確信できる状態」と定義し,メンバー同士の関係性として「このチーム内では,メンバーの発言や指摘によってチーム内の人間関係の悪化を招くことはない」という安心感がチームメンバー間で共有されていることが重要なポイントである(エドモンドソン,2018/2021)と主張している.本研究の参加者は,医師とのかかわりに緊張し,同僚の会話に入りづらく,萎縮して心理的安全性が脅かされたことにより,コミュニケーションは消極的になり,良好な人間関係の維持は困難になったのではないかと考える.指導者がミスを扱う際には,建設的なフィードバックや学びの機会を提供することが重要であると考える.

本研究の結果では,日本語でのコミュニケーション能力不足により,患者のニーズを把握しきれず患者との信頼関係を構築できなくなり,指導者との人間関係に上手く対処できないことや,同僚やほかの医療従事者とのかかわりに困難を感じていた.日本語でのコミュニケーション能力不足は医療現場適応における様々な困難の根本的な原因であることが推察できる.受け入れ側の医療機関では,在日中国人看護師に対して,安心して日本語能力とコミュニケーション能力を鍛えられるように,適切な教育プログラムを構築する必要性が示唆された.

2. 職場変更後に看護業務遂行の困難および期待したキャリア発達の遅滞

本研究において,職場変更後の困難として,[新しい職場のルールを新たに覚えるのは大変である]こと,[急性期病院では緊急度の高さと責任の重さで身心共に疲れる]ことや[急性期看護の知識不足を経験するうちに,急に自立せざるを得ない心細さ]などが抽出された.ベナー(1984)は「高いレベルの技能を持つ看護師でも自分の知らない領域,または状況におかれれば初心者のレベルに分類されることがありうる」と述べている.本研究の参加者は,前の職場でクリアした看護技術も新たに厳しくチェックされたり,前職でラダー3まで上がったが,職場変更してラダー1から申請しなおすことになったりと【既卒看護師としてのキャリアは認められず職業的な自己肯定感が低下する】という戸惑いを感じていた.キャリアは原点から再スタートとなり,経験値を活用できなかったため,【キャリア発達の遅滞によりなりたい自分になれない】と戸惑っていた.

また,在日中国人看護師が【日本の医療と看護に対する理解不足により看護業務の遂行が困難になる】ことが明らかとなった.阿部ら(2010)は「中国の学生は看護過程の習得より技術操作の習得が優先している.(中略).中国の看護体制は未だにプライマリーナーシングが浸透しておらず,患者の身の回りの世話やメンタルケアは家族が行うことが多い」と述べている.中国での看護教育は日本と異なる場合があり,これが日本の看護に対する理解の障害の一因となる.医療制度や看護の実践においても,中国と日本では異なる点があり,日本の医療と看護に対する理解不足により看護業務の遂行が困難になる.さらに,職場変更した医療機関では在日中国人看護師に対する教育的支援が整っておらず,キャリア発達が遅滞し,期待する役割に達することが難しくなると考える.

3. 在日勤務3年後に職場変更した中国人看護師に対する教育的支援のあり方

中国人看護師の看護業務に関するコミュニケーションの課題は,石原(2012)によると,患者と不十分なコミュニケーションによって,患者の不安が増したとの報告と一致している.患者との相互作用を基盤に看護援助を提供する看護師にとって,コミュニケーション能力はとても重要な技能である.患者とのコミュニケーション方法を修得できるように受け入れ側による教育の必要性が示唆された.日本語能力の不足や同僚看護師とのコミュニケーション不足によって診療の補助技術を実施するのに不安視され,日本の看護師国家試験に合格するレベルの日本語能力はあっても,医療の場独自のコミュニケーションをとりながら多職種と協働するのは困難である(大谷,2018).中国人看護師が先輩看護師や多職種との関わりに困難を感じており,コミュニケーションを取りながら協働する能力の向上が必要である.卜(2017)は,中国人看護師が日中コミュニケーションスタイルの違いや文法外のコミュニケーション行動に対する戸惑いがあることを報告した.〈柔軟的で遠回しな言い方ができずストレートな表現で不意に相手を傷つけてしまう〉ことのないように,アサーティブコミュニケーションによる自己主張の仕方の修得や日中のコミュニケーションスタイルの違いに対する理解を図るのが重要である.コミュニケーション能力の向上に関する知識・技術・態度の修得およびトレーニングの必要性が示唆された.

また,中国人看護師は在日勤務3~5年後に,キャリアアップのために職場変更を考える者が多い.しかし,既卒看護師としてのキャリアは認められず再スタートとなり,教育的支援の不足による期待したキャリア発達は遅滞していた.渡邊(2002)は,「大人の人生経験は『学習のリソース』として貴重であり,それゆえ,豊かな人生経験をもった成人学習者は,学習の場に活用すべき豊かな『リソース』をもち込むことのできる存在となり得る」と述べている.中国人既卒看護師の経験を学習の素材として活用しながら,プロフェッショナリズムを高め,看護師としてのキャリアを発展させる必要性が示唆された.Knowls(1980/2002)は,成人学習者が自らの学習に自己主導性を発揮できることを重視するアンドラゴジーの自己主導型学習を提起した.自らの学習に自己主導性を発揮できるように自己学習方法に関する教育的支援を提供することが大切である.職場変更時に,既卒看護師としての職務能力を評価し,早期に自立に向けて個別的な教育目標と教育方法を確立し,キャリア発達や成長の方向性を明確に示す必要性が示唆された.

4. 本研究の限界と課題

対象者を募集する際に,職場変更した回数と職場変更後の経験年数を問わないように設定した.これらの条件は職場適応の困難感に影響を与える可能性があった.そして,職場適応における困難について経時的な変化を捉えることができなかった.今後,対象者の教育背景と職場変更後の経験年数を配慮した研究と分析が必要である.また,職場変更当初の経験を想起することになり,情報の不完全と不確実性を否定できない.中国人看護師はこれらの困難に対処するプロセス,受け入れ側が中国人看護師を指導する際に抱える困難や中国人看護師向けの教育プログラムの開発と評価を今後の課題とする.

Ⅵ. 結論

在日勤務3年後に職場変更した中国人看護師の医療現場適応における困難は,要求される高い日本語能力とコミュニケーション能力の不足および職場による教育的支援の不足が根底にある.さらに,キャリアアップのために職場変更したが,既卒の中国人看護師に対する教育的支援の不足や新しい医療現場への適応の課題により看護業務の遂行困難とキャリア発達の遅滞が生じていた.中国人看護師の日本語能力は単なる語学力ではなく,医療現場にふさわしい実用的なコミュニケーション能力が肝心であり,修得できる教育プログラムの開発が必要である.そのため,既卒中国人看護師の職務能力を適切に評価した上,自立に向けて職場による切れ目のない教育的支援の必要性が示唆された.

追記:本研究の一部は,日本看護科学学会第41回学術集会において発表した.

謝辞:本研究の実施にあたり,調査に参加してくださった在日中国人看護師皆さまに,心より御礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:江は研究の着想から論文作成まで研究全体に貢献,野崎および永野は研究の起案,データ収集・分析の実施,論文への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
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  •  卜 雁(2017): 在日中国人看護師の異文化適応問題に関して―現場調査のデータ分析より―,淑徳大研紀,総合福祉・コミュニティ政策,(2185-6346) 5, 117–130.
  •  卜 雁, 青柳 涼子(2015):日本の医療機関における中国人看護師の適応性とコミュニケーション教育,淑徳大院研紀,22, 70–87.
  • エイミー・C・エドモンドソン(2018)/野津智子訳(2021):恐れのない組織:「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす,東京,英治出版.
  •  龔 佳奕(2018):多文化就労場面における中国人看護師の適応実態に関する調査,移動する人々のアイデンティティと言語使用接触場面の言語管理研究,15, 65–73.
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