Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Factors Affecting Nurses’ Willingness to Use Information and Communication Technology Devices in Home Healthcare Nursing Tasks: Hypothesis Testing With Path Analysis Using a Technology Acceptance Model
Shuko MaedaNaomi RanMoriyoshi FukudaManabu Moriyama
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2024 Volume 44 Pages 374-384

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Abstract

目的:技術受容モデル(Technology Acceptance Model,以下TAM)に依拠し,訪問看護業務におけるICT活用意向への影響要因を明らかにする.

方法:訪問看護ステーション1,000箇所に調査依頼し,ICT機器活用の実際,ICT機器とネット接続環境充足への認識,TAMに関する調査内容,ICTスキル,コンピュータ不安などについてWEB調査を行った.分析は2業務(日々の訪問看護記録の作成,他機関との利用者情報の共有)において,構造方程式モデリングを用いたパス解析を行い,適合度を検証した.

結果:回答入力があった看護師146名を分析した.2業務ともに,コンピュータ不安が使いやすさと有用性に,使いやすさは有用性に,有用性は態度と活用意向に,態度は活用意向に影響を与えるモデルとなり,良好な適合度が得られた.

結論:ICT活用の推進には,看護師への有用性への働きかけと,ICT機器とネット接続環境充足への支援,コンピュータ不安を取り除く教育機会を整えることが重要である.

Translated Abstract

Objective: To identify the factors affecting the willingness to use information and communication technology (ICT) in home healthcare nursing tasks using a technology acceptance model (TAM).

Methods: We requested 1,000 home healthcare nursing stations to participate in a web-based survey on the current use of ICT devices, awareness of the need to improve the network connection environment for ICT devices and facilities, survey items on TAM, ICT skills, and anxiety toward computer use. Path analysis using structural equation modeling was conducted for two tasks—preparation of daily home healthcare nursing records and sharing of user information with other institutions—to test the goodness of fit.

Results: The responses obtained from 146 nurses were analyzed. The models developed showed the following association for both tasks: 1) Anxiety toward computer use affected the usability and usefulness of ICT. 2) Usability affected the usefulness. 3) Usefulness affected the attitudes and willingness to use ICT. 4) Attitudes affected the willingness to use. Additionally, a good fit was obtained.

Conclusion: To encourage ICT use, it is important to promote the usefulness of ICT to nurses, provide support to improve the connection and ICT devices, and arrange educational opportunities to relieve anxiety toward computer use.

Ⅰ. 背景

Information and Communication Technology(以下ICT)活用の推進が,2014年に医療介護総合確保方針のひとつに位置付けられ,ICT活用は在宅ケアの質向上と業務の効率化を目指すものとして期待されている.そして,ICT活用の推進に向けて,厚生労働省(以下,厚労省)は,地域医療介護総合確保基金及び地域医療再生基金を投じ,患者情報を地域の医療機関等で共有する仕組みである医療情報連携ネットワークの構築を推進した.その結果,医療情報連携ネットワークは,全国各地で構築が進められ,2020年時点,約270ネットワークに拡充した(日本医師会総合政策研究機構,2021).さらに,厚労省は,訪問看護ステーションを含む介護事業所を対象に,介護ソフト・情報通信機器・ネット環境整備の費用を補助するICT導入支援事業を2019年から行い,2021年には5,371事業所が助成事業所となった(厚労省,2022).そして今,ICT活用の推進に向けたネットワーク構築や機器整備への支援から,ICT活用が実際の業務で必須となる体制が厚労省を中心に進められている.訪問看護が関連するものでは,ケアプランデータ連携システムが2023年度から,オンライン資格審査と医療保険の訪問看護レセプトオンライン請求が2024年度から開始される予定である.このように,政府は,ICT活用の基盤整備への支援と業務のICT移行への推進を同時に進めている.

しかしながら,政府によるICT活用の基盤整備とは裏腹に,地域医療情報連携ネットワークの3分の1以上が消失したことや(日本医師会総合政策研究機構,2017),活用するにあたって同意を必要とする住民の地域医療情報連携ネットワークへの認知度が低く,期待されてきた在宅ケアの質向上と業務の効率化への成果が得られたとは言えない現状がある(伊藤・奥村,2020).つまり,システムや機器整備だけでは業務でのICT活用につながらず,医療者や住民への効果には至っていない.システムが構築されたにも関わらず効果的に活用されない事態は,医療情報連携ネットワークだけでなく,訪問看護でも十分に起こり得る.なぜなら,看護業務へのICT活用は,看護師に疎外感・心理的苦痛・フラストレーションなどの否定的感情をもたらすことが報告されている(Diane et al., 2022).そのため,看護師が業務へのICT活用を円滑に受け入れ,実行していくとは考えにくい.

これまでのICT活用に関する研究は,システムを構築・運用する供給者の立場から,ICTを活用したシステムとその効果を紹介したものは多いが(中村・滝沢,2012野本ら,2017Yoshimoto et al., 2022),利用者の視点に立ち,ICT活用の促進や疎外要因をみる研究は国内でほとんどない.海外では,看護師の態度やスキルがICT導入に影響していることが報告されている(Orhan & Kaplan, 2019Teixeira et al., 2021Mair et al., 2012).

看護業務へのICT活用に関する研究では,概念枠組みとして,新技術の活用意図への影響をみる技術受容モデル(TAM;Technology Acceptance Model,以下TAMとする),使用者の期待と認識した製品の性能から満足度をみる期待確認理論(ECT; Expectation Confirmation Theory),製品の品質・使用者の使用頻度や満足度から個人・組織への影響をみるInformation system success model(ISSM)が用いられ(Hsu & Wu, 2017Lin, 2017),TAMが最も用いられている.国内では,TAMは消費者行動につながる心理構造を探るモデルとして,サービス普及戦略のために主に経営学を中心に用いられ,医療系の学問分野では用いられてこなかった.しかし,政府によるICT活用推進戦略の風潮からすると,TAMを参考に,ICT活用を新しい技術の受け入れとして捉え,看護師個々のICT活用意向やそれらに関連する事項を明らかにする必要があると考える.訪問看護にとってICT活用は,少ない人員で,多職種と共に,地域の療養者や高齢者を支えるには避けて通れない技術導入である.だからこそ,後期高齢者人口がピークとなる2025年を目前にした今,訪問看護業務へのICT活用意向やそれらに関連する事項の明確化は,政府によるICT活用の推進方法の戦略や活用に前向きになりにくい看護師への支援方法開発に向けて有用な情報となると期待できる.

Ⅱ. 研究の概念枠組み

コンピュータを用いたサービスの利用行動を説明するモデルとしてTAMがある.TAMは,Davisにより提唱されたモデルであり(Davis, 1989),4つの構成要因[知覚された使いやすさ][知覚された有用性][利用への態度][利用への行動意図]が[実際の利用]を予測するとし,その他の予測要因は[外部変数]としてモデルの中に組み込まれている(図1).TAMは,国外では看護師による医療情報システムやソフトの利用などで活用されているが(Hsu & Wu, 2017Lin, 2017Ho et al., 2020),国内ではキャッシュレス決済(窪田ら,2021),モバイルアプリケーション(奥谷,2022)の利用などビジネス戦略を目的とした活用が主であり,看護学への活用は我々が把握した限りではみられない.

図1  技術受容モデル(TAM; Technology Acceptance Model)

本研究は,訪問看護業務における看護師のICT活用意向をTAMの構成要因[利用への行動意図]として捉え,TAMに依拠した仮説を設定し,看護師のICT活用意向への影響要因の検討を行う.TAMは,利用者の認識に基づくモデルであるため,訪問看護でのICT活用を推進させるための戦略や看護師への支援策の示唆につながると考える.対象とする訪問看護業務は,ICT活用状況が半数程度であることが報告されている(足立ら,2019)「日々の訪問看護記録の作成」,「他機関との利用者情報の共有」の2つの業務(以下,2業務とする)を対象とする.

[外部変数]は,システムやサービスの種類に応じて,研究者らが対象者の属性やシステムの特徴などを設定する(Strudwick, 2015).本研究では,看護実践におけるICT活用へ影響を及ぼすとされているコンピュータスキル(Gürdaş & Kaya, 2015),コンピュータ不安(Top & Yılmaz, 2015)を参考に,看護師の属性を加えた年齢,看護師経験年数,訪問看護経験年数,役職の有無,ICTスキル,コンピュータ不安を設定した.2業務における現在のICT活用は,すでに活用している看護師がいることも十分に想定されることから(足立ら,2019),2業務におけるICT利用の実際として[外部変数]とした.本研究では,訪問看護ステーションによって所有するICT機器の台数が異なること,保有台数によって看護師がICT機器活用に期待することが異なると報告されていることから,看護師が捉える施設のICT機器台数の充足状況と接続状況への認識を[外部変数]として設定した(足立ら,2019).

図2に本研究の概念枠組みと仮説を示した.仮説は,TAMの4つの構成要因[知覚された使いやすさ][知覚された有用性][利用への態度][利用への行動意図]に関する仮説(H1~H5),[外部変数]に関する仮説(H6~H7)から構成され,2業務それぞれで検証する.そして,最後に2業務でモデル構造が異なるという仮説を設けた(H8).

図2  本研究の概念枠組みと仮説

Ⅲ. 研究目的

技術受容モデル(TAM; Technology Acceptance Model)に依拠し,訪問看護業務「日々の訪問看護記録の作成」,「他機関との利用者情報の共有」における看護師のICT活用意向への影響要因を明らかにする.

Ⅳ. 方法

1. 対象者・データ収集方法

対象者は,勤務形態(常勤,非常勤)や役職の有無(管理者,スタッフ等)は問わず,訪問看護に従事する看護師とした.

必要なサンプルサイズは,G*Power v.3.1.9.7を使って計算した.効果量と検定力の推奨条件を参考に(水本・竹内,2010),Medium効果量0.15,検出力0.80,有意水準0.05,8個の予測因子による重回帰分析とし,109人の最小サンプルサイズが必要であると決定された.これまでの訪問看護に従事する看護師を対象としたWEB調査結果の回収率(前田ら,2023)を参考に,1,000箇所に配布することとした.

2023年6月,訪問看護ステーション1,000箇所の管理者宛てに調査用QRコードを貼り付けた調査依頼を郵送し,各訪問看護ステーション1名以上の協力参加を依頼した.回答はWEBにてデータ収集した.1,000箇所の抽出は,一般社団法人全国訪問看護事業協会のホームページに公開されている正会員リスト7,054箇所(2021年9月)から,ランダム抽出する層化抽出法を行った.

2. 調査内容

1) 個人特性

年齢,看護師経験年数,訪問看護経験年数,役職の有無について調査した.

2) 訪問看護業務におけるICT機器活用の実際

「日々の訪問看護記録の作成」,「他機関との利用者情報の共有」におけるICT機器活用の有無(調査時点)を尋ねた.

3) 施設のICT機器と施設のネット接続環境充足への認識

「訪問看護ステーションで,訪問看護業務に使用するICT機器が充足していると思うか」と「訪問看護ステーションで,ネット接続環境が充足していると思うか」について,7段階リッカート式(全くちがうと思う~全くその通りだと思う)を用い尋ねた.

4) 技術受容モデル(TAM)に関する調査内容

「日々の訪問看護記録の作成」と「他機関との利用者情報の共有」の2業務ごとに,訪問看護のICT機器活用についての[知覚された使いやすさ],[知覚された有用性],[利用への態度],[利用への行動意図]それぞれ2項目,合計8項目について7段階リッカート式(全くちがうと思う~全くその通りだと思う)を用い尋ねた.

5) ICTスキル

訪問看護に従事する看護師のICTスキルを測定・評価できる尺度として開発された『訪問看護に従事する看護師を対象としたICTスキル自己評価尺度』を用いた.この尺度は,3因子14項目から構成され,因子1は【医療情報を適切に保存・送信するスキル】7項目,因子2は【組織的セキュリティに関するスキル】4項目,因子3は【有効なパスワード設定と保護に関するスキル】3項目であり,Cronbachのα係数は全体で0.91,因子1は0.88,因子2は0.79,因子3は0.76と信頼性および妥当性を有することが確認されている(前田ら,2023).14項目について,5段階リッカート式(全くあてはまらない~とてもあてはまる)を用い尋ねた.

6) コンピュータ不安

コンピュータ不安を測定する『愛教大コンピュータ不安尺度(Aikyoudai’s Computer Anxiety Scale: ACAS)』(平田,1990)を用いた.平田は,コンピュータ不安を「一般に,コンピュータと接触するとき,コンピュータとの接触へと導く何かをするとき,あるいはコンピュータ利用の意味について考えたりするとき個人の内に喚起される不安ないし憂慮」と定義している(平田,1990).この尺度は,3因子21項目(うち7項目は逆転項目)から構成され,因子1は,コンピュータ操作時の緊張や不安である【オペレーション不安】7項目,因子2はコンピュータの学習意欲を中心とする【接近願望】7項目,因子3はコンピュータ・テクノロジーの社会的影響を懸念する【テクノロジー不安】7項目であり,妥当性および信頼性を有することが確認されている.この尺度は,1990年に開発されたものであるが,郡谷によって2011年,信頼性と妥当性を有する尺度であることが確認されている(郡谷,2011).また,主に学生を対象に開発されたものであるが,大学生,教員,高齢者を対象にも活用されている(隅谷ら,2015緒方ら,2012郡谷,2011).5段階リッカート尺度(全くそうでない(そう思わない)~全くそうだ(そう思う))を用い尋ねた.

3. 分析方法

各調査項目について単純集計の後,技術受容モデルの構成要因[知覚された使いやすさ],[知覚された有用性],[利用への態度],[利用への行動意図],ICTスキル,コンピュータ不安について,Cronbachのα係数を算出し,中山の基準を参考とし0.7以上かどうかを確認した(中山,2017).次に,2業務ごとに,構造方程式モデリングによって,項目間の標準化偏回帰係数(以下,パス係数)を算出し,モデルの適合度を検証した.適合度を測る指標は,適合度指標GFI(Goodness Fit of Index),自由度調整済み適合度指標AGFI(Adjusted Goodness of Fit Index),比較適合度指標CFI(Comparative Fit of Index),SRMR(Standardized Root Mean square Residual)を用いた.平均二乗誤差平方根RMSEA(Root Mean Square Error of Approximation)は,観測変数の大きさに依存する性質があり,サンプルサイズが少ない場合(250以下)はバイアスが生じやすいため,相関関係の形で置き換えるSRMRは識別力があることから(星野ら,2005),RMSEAではなくSRMRを用いることにした.

解析には,統計ソフトSPSS Statistics Ver. 28.0(IBM),AMOS 28 Graphics(IBM)を用いた.統計的有意水準は5%未満とした.

4. 倫理的配慮

本研究は,金沢医科大学医学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:I783).研究依頼文には,研究参加の自由,不参加による不利益がないこと,研究目的・方法・研究成果の活用等について明記し,本研究への協力は,調査内容への回答をもって同意を得たものとした.

Ⅴ. 結果

回答入力があった146名を分析対象とした.

1. 属性

年齢は平均47.62 ± 8.93歳,看護師経験年数は23.49 ± 9.54年,訪問看護経験年数は10.67 ± 8.95年であった.役職は,管理者102名(69.9%),スタッフ44名(30.1%)であった.

2. 訪問看護業務におけるICT機器活用の実際

「日々の訪問看護記録の作成」にICTを活用している者は136名(93.2%),「他機関との利用者情報の共有」は113名(77.4%)であった.

3. 施設のICT機器と施設のネット接続環境充足への認識

施設のICT機器は充足していると思うか尋ねた結果,「全くその通りだと思う」9名(6.2%),「かなりそう思う」28名(19.2%),「どちらかと言えばそう思う」52名(35.6%)であった.訪問看護業務におけるネット接続環境は充足していると思うか尋ねた結果,施設のネット接続環境充足への認識は,「全くその通りだと思う」15名(10.3%),「かなりそう思う」40名(27.4%),「どちらかと言えばそう思う」48名(32.9%)であった.

4. 技術受容モデル構成要因の記述統計量

技術受容モデルの4つの構成要因(知覚された使いやすさ,知覚された有用性,利用への態度,利用への行動意図)について各2項目ずつ尋ねた結果を,「全くちがうと思う(1点)」「かなりちがうと思う(2点)」「どちらかといえば思わない(3点)」「どちらともいえない(4点)」「どちらかと言えばそう思う(5点)」「かなりそう思う(6点)」「全くその通りだと思う(7点)」として平均値を算出した.技術受容モデルの構成要因(知覚された使いやすさ,知覚された有用性,利用への態度,利用への行動意図)ごとに主成分分析(プロマックス回転)を実施し,各2項目であるため主成分負荷量は同一の値となるが,著しく低い項目はみられなかった.Cronbachのα係数を算出し,中山(2017)の基準を参考とし,0.7以上かどうかを確認した.その結果,Cronbachのα係数はそれぞれ,0.7以上が確保されていたため十分な内的整合性が確認できた.このことから,4つの構成要因として分析に採用することとした.以上の結果について,表1に示した.

表1 技術受容モデル(TAM)構成要因の記述統計量と主成分分析の結果

N = 146

TAM構成要因 項目 日々の訪問看護記録作成 他機関との利用者情報の共有
平均値 標準偏差 主成分負荷量 共通性 平均値 標準偏差 主成分負荷量 共通性
知覚された使いやすさ ICT機器は使いやすいと思う. 5.26 1.24 0.91 0.83 5.16 1.14 0.92 0.84
ICT機器の操作は簡単であると思う. 5.18 1.17 0.91 0.83 4.92 1.05 0.92 0.84
因子寄与 1.66 1.69
Cronbachのα係数 0.79 0.81
知覚された有用性 ICT機器を使うことは業務効率を高めると思う. 5.64 1.04 0.94 0.89 5.42 1.02 0.98 0.96
ICT機器を使うことは業務の質を高めると思う. 5.41 1.19 0.94 0.89 5.42 1.00 0.98 0.96
因子寄与 1.77 1.92
Cronbachのα係数 0.87 0.96
利用への態度 ICT機器を使うことは良いことだと思う. 5.68 1.03 0.94 0.89 5.38 1.01 0.92 0.85
ICT機器を使うことは好きである. 5.29 1.20 0.94 0.89 4.89 1.13 0.92 0.85
因子寄与 1.78 1.70
Cronbachのα係数 0.87 0.82
利用への行動意図 ICT機器を使いたいと思う. 5.58 1.11 0.93 0.97 5.32 1.10 0.98 0.96
ICT機器を使うことは価値があると思う. 5.40 1.12 0.93 0.97 5.31 1.11 0.98 0.96
因子寄与 1.86 1.92
Cronbachのα係数 0.93 0.96

5. ICTスキルの記述統計量

『訪問看護に従事する看護師を対象としたICTスキル自己評価尺度』全項目のCronbachのα係数は0.87であった.下位尺度ごとの平均点は,【医療情報を適切に保存・送信するスキル】7項目24.42 ± 6.42点,【組織的セキュリティに関するスキル】4項目15.22 ± 3.28点,【有効なパスワード設定と保護に関するスキル】3項目10.37 ± 3.21点であり,全項目の平均点は50.37 ± 10.90点であった.

6. コンピュータ不安の記述統計量

『愛教大コンピュータ不安尺度』全項目のCronbachのα係数は0.74であった.それぞれ7項目から構成される下位尺度ごとの平均点は,【オペレーション不安】13.88 ± 4.76点,【接近願望】20.23 ± 3.77点,【テクノロジー不安】16.95 ± 4.05点であり,全項目の平均点は51.05 ± 8.61点であった.

7. パス解析による仮説検証

図3は,日々の訪問看護記録作成におけるICT活用意向である[利用への行動意図]への影響要因をパス図で示したものである.統計学的有意差がみられたパス係数は大きいものから順に,[知覚された有用性]→[利用への態度]0.84,[知覚された使いやすさ]→[知覚された有用性]0.71,[利用への態度]→[利用への行動意図]0.68であった.[知覚された使いやすさ]へ影響を与えていた外部変数とパス係数は[ICT機器充足への認識]0.21,[ネット接続環境充足への認識]0.20,[コンピュータ不安]–0.26であった.[知覚された有用性]へ影響を与えていた外部変数は[コンピュータ不安]でパス係数は–0.19であった.以上から,仮説H1~7のうちH2を除き支持されたが,仮説H2は,[知覚された使いやすさ]→[利用への態度]のパス係数が0.13であったが有意確率が0.06であったことから支持されなかった(表2).適合度指標は,GFIは0.912,AGFIは0.815,CFIは0.952,SRMRは0.061であった.モデルによって,[利用への行動意図]のへ分散80%を説明することができ,[利用への行動意図]に最も影響を与えていたのは[利用への態度]であり,[知覚された使いやすさ]→[知覚された有用性]→[利用への態度]と強く影響していた.

図3  日々の訪問看護記録作成における看護師のICT活用意向への影響モデル
表2 仮説検証の結果

N = 146

仮説 日々の訪問看護記録作成 他機関との利用者情報の共有
パス係数 p1) 仮説検証結果2) パス係数 p1) 仮説検証結果2)
H1 [知覚された使いやすさ] [知覚された有用性] 0.71 *** S 0.57 *** S
H2 [知覚された使いやすさ] [利用への態度] 0.13 n.s. N 0.20 *** S
H3 [知覚された有用性] [利用への態度] 0.84 *** S 0.73 *** S
H4 [知覚された有用性] [利用への行動意図] 0.24 *** S 0.49 *** S
H5 [利用への態度] [利用への行動意図] 0.68 *** S 0.45 *** S
H6 [外部変数] [知覚された使いやすさ] S S
 [ICT機器充足への認識] [知覚された使いやすさ] 0.21 *
 [ネット接続環境充足への認識] [知覚された使いやすさ] 0.20 *
 [連携時のICT機器利用の実際] [知覚された使いやすさ] 0.47 ***
 [コンピュータ不安] [知覚された使いやすさ] –0.26 *** –0.27 ***
H7 [外部変数] [知覚された有用性] S S
 [コンピュータ不安] [知覚された有用性] –0.19 *** –0.26 ***

1)*;p < 0.05,**;p < 0.01,***;p < 0.001,n.s.;non-significant

2)S;Supported(支持された) N;Not Supported(支持されなかった)

グレー箇所は仮説H1~7を示し,グレーでない箇所は仮説H6と7の外部変数を示す.

図4は,他機関との利用者情報の共有におけるICT活用意向である[利用への行動意図]への影響要因をパス図で示したものである.統計学的有意差がみられたパス係数は大きいものから順に,[知覚された有用性]→[利用への態度]0.73,[知覚された使いやすさ]→[知覚された有用性]0.57,[知覚された有用性]→[利用への行動意図]0.49,[利用への態度]→[利用への行動意図]0.45,[知覚された使いやすさ]→[利用への行動意図]0.20であった.[知覚された使いやすさ]へ影響を与えていた外部変数とパス係数は[連携時のICT機器利用の実際]0.47,[コンピュータ不安]–0.27であった.[知覚された有用性]へ影響を与えていた外部変数は[コンピュータ不安]でパス係数は–0.26であった.以上から,仮説H1~H7すべて支持された(表2).適合度指標は,GFIは0.955,AGFIは0.866,CFIは0.975,SRMRは0.054であった.モデルは,[利用への行動意図]への分散82%を説明することができ,[利用への行動意図]へは[利用への態度]と[知覚された有用性]が影響し,[知覚された使いやすさ]→[知覚された有用性]→[利用への態度]が影響していた.

図4  他機関との利用者情報の共有における看護師のICT活用意向への影響モデル

2業務におけるICT活用意向への影響モデルは,[知覚された使いやすさ]から[利用への態度]へのパスの有無と[知覚された使いやすさ][知覚された有用性]に影響を与える外部変数の種類が異なっていたことから,H8は支持された.

Ⅵ. 考察

モデルの適合度指標は,GFI・AGFI・CFIは0.90以上(小塩,2008),SRMRは0.05未満で非常に当てはまりが良いモデルとされる(朝野ら,2009).よって,両モデルとも,許容範囲内のモデルを作成することができたと考える.また,両モデルは,[利用への行動意図]への分散80%以上を説明することができ,看護師のICT活用意向を説明する上で有用であると考えられる.

2業務ともに,[知覚された有用性]は[利用への態度]と[利用への行動意図]へ影響していた.このことから,[知覚された有用性]は,看護師のICT活用意向への重要な要因であり,看護師は,ICT活用による看護師や利用者への有用性を重視していると考えられる.TAMに準拠したモデル検証では,看護師を対象としたeICUテクノロジーの利用意向(Kowitlawakul, 2011)や在宅ケアの看護・介護職員を対象としたモバイルシステム利用に関する調査(Zhang et al., 2010)においても[知覚された有用性]が重要な要因であることが報告されており,同様の傾向であった.

仮説検証において,2業務で異なった点は,[知覚された使いやすさ]から[利用への態度]への影響の有無(仮説H2)であり,日々の訪問看護記録作成において有意確率が0.06であったことから仮説は支持されなかった.同じくTAMに準拠した調査で,キャッシュレス決済サービス(竹村,2021)やモバイル検索サイト(川勝・小宮山,2011)の活用においても,有意確率0.05未満でなかったことが報告されており,対象とする技術やサービスの種類によって[知覚された使いやすさ]から[利用への態度]へ影響が無いことは珍しいことではない.2業務の特徴を考察すると,訪問看護記録は利用者の状態やケアを正確に記載することが求められ,時には請求業務の重要なデータとしての役割がある.そのため,[利用への態度]には業務効率がより重視され,[知覚された使いやすさ]のみでは有意に影響しなかったのではないかと考える.また,2業務の影響モデルのパス係数を比較すると,仮説H3・H1の順にパス係数が大きいことは共通していたが,他機関との利用者情報の共有では仮説H5よりもH4のパス係数の方が大きいという特徴があった.他機関と利用者情報共有におけるICT活用は,日々の訪問看護記録作成よりも情報漏洩のリスクが高くなる.そして,使い方によっては24時間365日拘束するものにもなりかねない.これらの危機意識が影響しパス係数の違いとして現れたのかもしれないが,この点は今回外部変数として設けなかったため,今後,看護師のICT機器取り扱いにおけるリスクマネジメントの意識などとの関連もみていく必要がある.

[知覚された使いやすさ]と[知覚された有用性]に影響を及ぼす外部変数の中で,2業務に共通していたのは[コンピュータ不安]であった.[コンピュータ不安]は[知覚された使いやすさ]にマイナスの影響を及ぼしていることはこれまでも報告されており(Kuo et al., 2013),同様の結果であった.[コンピュータ不安]はコンピュータ関連の教育機会の有無やICTスキルと関連し(Top & Yılmaz, 2015),ICTスキルを含めた医療情報の教育は看護師のコンピュータ不安に有効である(吉川・吉田,2019).そのため,[コンピュータ不安]への対応として教育機会の確保が必要であると考える.

日々の訪問看護記録作成において,[ICT機器充足への認識]と[ネット接続環境充足への認識]は[知覚された使いやすさ]に正の影響を及ぼしていたことから,看護師のICT機器やネット接続環境充足の認識が使いやすさの認識につながる可能性が示唆された.今回の調査では,6割以上の看護師がICT機器やネット接続環境が充足しているかについて「どちらかといえばそう思う」から「全くその通りだと思う」に回答していたが,看護師人数あたりのICT機器の数・種類・機能,施設内外でのネット接続環境までは調査していない.そのため,看護師個々が捉える充足の認識であり,ICT機器やネット接続環境の不足であるかどうかは不明である.訪問看護記録でのICT活用は,ICT機器の持ち運び・バイタルサイン測定機器との連動・施設外での入力送信など機器の性能や台数の充実が,使いやすさに大きく影響を与えることが予測される.そのため,今後は,看護師が捉えるICT機器やネット接続環境の充足・使いやすさに着目していく必要がある.

ICTを用いた他機関との利用者情報の共有において,[連携時のICT機器利用の実際]は[知覚された使いやすさ]に正の影響を及ぼしていた.連携時のICT機器活用は,訪問看護記録での活用に比べ,情報共有機関の設定やコメント機能の活用など機能の複雑さが予測される.そのため,実際に使用経験があることがICT機器の使いやすさなどを認識し,[知覚された使いやすさ]に影響していたと考えられる.

今後,2業務における看護師のICT活用意向を推進するための方策として,①訪問看護業務にICT活用することによる有用性を看護師が実感できる取組み,②訪問看護ステーションにおけるICT機器やネット接続環境をより充足させる取り組み,③看護師のコンピュータ不安を軽減するための教育機会の提供が必要と考える.まず,有用性については,業務の効率や正確さなどの質がICT活用により向上することを看護師に情報提供し実感してもらうことが重要である.ICT機器やネット接続環境の充足には購入費用を補助する制度の活用支援,また看護師が業務でICT活用する上で必要と捉えるICT機器の種類や機能,ネット環境整備を明らかにしていく必要もある.コンピュータ不安を軽減するための教育機会の提供は,実際に,ICT導入支援事業を利用した事業所から,職員の苦手意識解消のための研修の必要性,パソコンやソフトに精通した人材確保や派遣の必要性が課題としてあげられている(厚労省,2022)ことから訪問看護だけの問題ではなく,在宅ケアに従事する職員全体への支援策としても検討していく必要がある.教育機会は,[知覚された使いやすさ]を媒体として[利用への行動意図]へ強い影響を及ぼすことが報告されている(Aggelidis & Chatzoglou, 2009).教育機会の有無を変数として教育の介入効果の影響をみていく必要もあると考える.

Ⅶ. 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界は2点ある.1点目は,訪問看護業務は2業務設定したものの,ICTを活用したシステムやソフトを特定していない点である.この点は,対象者によってイメージしているソフトの種類や機能は異なっていたため,研究結果の解釈の限界がある.今後の課題としては,多くの訪問看護ステーションが記録や情報共有でICT活用が推進された際に,使用ソフトの違いなども考慮し,活用意向への影響要因やその違いを考察していくことも必要と考える.

2点目は,看護師を対象に訪問看護業務へのICT活用意向を調査したが,業務へのICT活用は,看護師の意向だけで決められるものではなく,管理者や経営者の意向が反映されることが予測される.そのため,訪問看護ステーションでのICT活用推進のための基礎的資料を提供することはできたが,結果の解釈には限界がある.ただし,今回の結果は,対象者の69.9%は管理者であったことから,看護師であるが管理者としての意向を表している可能性がある点も考慮してみていく必要がある.また,ICT導入に否定的な態度を持つ看護師は,メンバーシップにおいてICT導入を阻害する(Mair et al., 2012)ことが報告されていることから,看護師の意向を重視していく必要性があり,その点では基礎的な資料を提供することができたと考える.今後は,管理者や経営者を対象にした組織としてのICT導入の促進背景や定着についても改めて調査していく必要がある.

Ⅷ. 結論

訪問看護業務における看護師のICT活用意向を推進するには,[知覚された有用性]への働きかけと,[知覚された使いやすさ][知覚された有用性]に影響するICT機器とネット接続環境状況の充足への支援体制,コンピュータ不安を取り除く教育機会を整えることが重要であると考えられた.

謝辞:研究実施に際して,調査の回答にご協力いただきました訪問看護ステーション看護師の皆様に感謝申し上げます.本研究は科学研究費補助金(基盤研究C)21K11039の研究成果の一部である.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:SMは研究の着想ならびに研究全般を実施,NR・MF・MMは研究デザイン,データ収集準備,分析・解釈,論文作成における検討・執筆に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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