2024 Volume 44 Pages 385-396
目的:退院支援看護師の多職種連携実践能力を向上させる教育プログラムを開発し,その効果を検証する.
方法:教育プログラム受講の有無による2群間前後比較デザインである.ARCSモデルに基づくラボラトリー方式の体験学習を特徴とする,主体的に学び続けることを意識化する教育プログラムをオンラインで提供した.
結果:退院支援実践能力における見積力,合意形成力,調整力,および多職種連携実践能力におけるプロ信念,チーム目標達成は有意に上昇したが,チーム運営,患者尊重ケア,チーム凝集性,専門職役割遂行は有意な上昇は認められなかった.
結論:本教育プログラムは,必要な知識の獲得とピアサポートや在宅で活躍する多職種との対話による退院支援看護師の役割や信念の明確化,尺度を用いたリフレクションによる主体的な取組の意識づけによる効果が示唆された.今後も多職種連携実践を積み現任教育を継続する必要がある.
Objective: To develop an educational program to enhance the interprofessional collaborative competencies of discharge planning nurses and evaluate its efficacy.
Method: The study design is a before-and-after comparison of two groups, one of which participated in the educational program and one of which did not. The intervention group was provided with an online educational program based on the ARCS model featuring experiential learning in a laboratory format intended to promote a conscious effort to continue learning autonomously.
Results: In terms of discharge planning competency, a significant increase was observed in participants’ estimation, consensus-building, and coordination abilities, and in terms of interprofessional collaborative competency, a significant increase was observed in professional conviction and achievement of team goals. However, there was no significant increase in team management, patient-centered care, team cohesion, and professional role performance.
Conclusion: The results suggest that this educational program had the effects of clarifying the roles and beliefs of discharge planning nurses through acquisition of necessary knowledge, peer support, and dialogue with people from various professions who work from home, and cultivating a mindset of proactive engagement through reflection using a rating scale. In the future, it will be necessary to accumulate practical experience in interprofessional collaboration and to provide ongoing in-service training.
急性期病院では,高齢化や慢性疾患の増加による医療ニーズと介護ニーズを併せ持つ患者の増加や入院期間の短縮化により,患者が安心・納得して早期に住み慣れた地域で療養や生活を継続できるよう退院支援が求められている(戸村編,2019).退院支援では,多職種がチームとして連携や協働し,目標の共有・お互いの役割認識・進捗状況の把握を行うことが必要であり,退院支援看護師(Discharge planning nurse,以下,DPN)の資質の向上は課題とされてきた(永田,2015).
DPNの多職種連携に関する教育は,看護職能団体による研修や,2018年からは国による在宅医療連携拠点事業として,各市町村行政において多職種が参加する研修会や交流会が実施されている(多川ら,2017;土屋ら,2017).また,DPNに対する教育プログラムの開発では,藤澤ら(2018)の退院支援の質向上に向けた人材育成モデルとしての段階的な研修プログラムや,山田ら(2010)のDPNのニーズを反映させたアクティブラーニング教育プログラムなどがある.しかし,退院支援部署におけるDPNの配置人数は1~3人と少人数であり,部署配属期間も3年未満と短く(日本訪問看護振興財団,2011;長畑ら,2018),現場における正統的周辺参加による段階的学習(Lave & Wenger, 1991/1993)ができにくい環境に置かれている.この学習は,「学習を人が実践共同体に参加することによって,その共同体の成員としてのアイデンティティを形成すること」と説明されている(佐伯,2014).また,研修受講の機会も得にくいと考えられ,加えてDPNの多くは,基礎教育で多職種連携に関する教育を受けていないと報告されている(酒井,2017).
このように,DPNは多職種連携に関する十分な教育を受けずに実践していることから,退院支援における多職種連携や調整への困難感(長畑ら,2018;原田ら,2014;藤澤ら,2019)や葛藤(有馬,2016;佐藤,2013;佐藤ら,2018)を抱えている.また,患者や家族の個別性をとらえ関係職種と連携・協働し,地域の資源や支援体制が不十分な中で短期間での調整が求められることや退院支援の成果が見えにくいことが(原田ら,2014),DPNの多職種連携に関する困難感を増強させている.DPNの多くは病棟経験しかなく,関係職種の混沌とした関係のどこから入ればよいのかわからないとの報告もある(佐藤・伊藤,2020).DPNの実践能力を向上させるため,戸村ら(2013)は,ベテランDPNのコンピテンシーに基づいたDPNの個別支援における職務行動遂行能力評価尺度(Nurses’ Discharge Planning Ability Scale,以下,NDPAS)を開発した.この尺度を用いた全国調査の結果から,退院後のケアを院内外の多職種と調整する力は4年後も向上はみられないと述べている(戸村ら,2017).組織横断的に動くDPNの多職種連携実践能力の向上は重要であり,戸村ら(2020)は,DPNが主体的に学び続けられるような意識づけができる教育プログラムの開発の必要性を述べている.多職種連携実践能力に関しては,Sakai et al.(2017)は,医療専門職に共通する専門職連携コンピテンシーを帰納的に明らかにし,インタープロフェッショナルワーク実践能力評価尺度(Chiba Interprofessional Competency Scale,以下,CICS29)を開発した.この尺度を用いた藤田・習田(2016)の研究では,多職種連携実践能力を高めるためには,継続的な多職種連携教育が有効であること,同職種間のサポートが提供しあえる環境,多職種とのタイムリーなディスカッション,インフォーマルなコミュニケーションの機会の必要性を述べている.
以上のように,DPNの多職種連携に特化した主体的に学び続けることを意識化する現任教育プログラムを開発することは急務の課題であると考える.
本研究の目的は,急性期病院における退院支援部署配属5年以下のDPNの多職種連携実践能力を向上させるため,主体的に学び続けることを意識化する教育プログラムを開発・実施し,その効果を検証することである.
本研究におけるDPNの多職種連携実践能力とは,退院支援の継続的プロセスの中で,看護師としての専門性を基盤に多職種に働きかけ調整しながら,患者家族が望む退院支援を達成する能力とする.
本研究は,教育プログラムを受講した介入群と受講しなかった対照群を設定した.介入前をベースラインとし,3ヵ月後,6ヵ月後の計3回評価した,2群間前後比較デザインである.
2. 研究対象者東海・北陸圏を含む西日本の100床以上の急性期病院1,126施設の退院支援部門に,専従または専任で配属されている看護師長を除く部署配属5年以下の看護職を対象とした.本研究のサンプルサイズは,アウトカムに関する分析を想定し,効果量0.25(Cohen, 1988),有意水準5%,検出力0.8,群数2,測定回数3,研究協力者間要因(介入群,対照群)と研究協力者内要因(1回目,2回目,3回目)の交互作用項に関する分析を指定しG*Powerを用いて算出した.結果,Totalサンプルサイズ34,それに脱落率20%を上乗せし各群21名とした.
3. 教育プログラムの概要(表1)教育プログラムは,Instructional Design(以下,ID)のARCSモデル(鈴木,2006, 2015)を,プログラムの全体構成や各講義・演習に活用した.ARCSモデルとは,Attention(注意):面白そうだ,Relevance(関連性):やりがいがありそうだ,Confidence(自信):やればできそうだ,Satisfaction(満足感):やってよかったの4要因の頭文字をとったIDモデルであり,このモデルの考え方は本研究の目的である主体的に学ぶことに通じるものである.また,DPNの多職種連携実践能力を向上させるため,学習内容は,多職種連携コンピテンシー開発チーム(2016)が提示している「医療保健福祉分野の多職種連携コンピテンシー」モデルや退院支援に関する文献(宇都宮,2019),DPNの実践能力向上に関する先行研究(山田ら,2010;藤澤ら,2014, 2016, 2018;塚本ら,2016),看護職能団体が実施しているDPN研修プログラム等を参考に,講義と演習を組み合わせた4部構成,1日6時間のオンライン研修とした.退院支援に関する講義資料は,DPNを取り巻く国の社会保障制度の動向や診療報酬の流れ,DPNの定義や役割,役割に伴う困難感や葛藤,DPNに必要な能力と研修の動向とした.多職種連携に関する講義資料は,チーム医療に関する文献(川島,2011;細田,2012;福原,2013),多職種連携に関する先行研究(異儀田,2016;田中,2017;丹野ら,2017;加地ら,2018;川口・行實,2019)を参考に作成した.演習は,学習者のコミュニケーション力を向上させる方略として,学習者の態度や行動の変化・成長を生み出すラボラトリー方式の体験学習(津村,2019;津村・星野編,2013,以下,ラボ体験学習)を取り入れた.この学習は「今,ここでの自分の生の体験を他者とともに振り返ることによって,学習者の態度や行動の変化・成長を生み出す学習方法」(津村,2012)である.この体験の振り返りは,Kolb(1984)による「体験学習の循環過程」の4つのステップ,「具体的体験」,「内省的観察」,「抽象的概念」,「積極的実験」を参考に作成されている(津村,2019).この4つのステップは,体験を体験のままで終わらせず関わりの行動を内省し,新たな体験場面へ向けた行動計画を立てるサイクルを指している(池田・土屋,2021).また,オンライン下でも効果的に振り返りや話し合いができるよう,研修への積極的参加,メンバーへのサポーティブな姿勢やポジティブな発言など演習に関するルール説明を行い,心理的安全性に配慮した.併せて,「体験学習の循環過程」のサイクルが効果的に回せるよう演習で使用する振り返り用紙を作成し,演習テーマについて考えてくることを事前課題とした.演習では,DPNとして多職種連携の信念を明確にし,薬剤師,理学療法士,管理栄養士,ケアマネジャー,介護福祉士,訪問看護師を交えて,在宅における多職種の役割や実際を知るための話し合いを行った.なお,講義教材を含む研修内容は,急性期病院の退院支援部署の看護師長やDPN経験20年以上の熟練者の助言を得て精錬させた.ラボ体験学習は対面とオンラインを比較しても明確な差はないと報告されている(池田・土屋,2021)が,オンライン研修に不慣れな看護師が多い時期であったため,Web会議システム(Zoom)による研修受講方法を記載した冊子,事前入室テストの案内,当日Webトラブル時の連絡先等を記載した用紙,演習で使用する用紙も事前に郵送した.
研修会の内容 | 所要時間 |
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オリエンテーション:挨拶・目的と研修の流れ,オンライン研修の注意事項の説明(A・R) | 5分 |
アイスブレイク:自己紹介・研修参加の動機(A) | 10分 |
プログラム1:退院支援看護師の意味・役割について知る.(A・R) 【講義】社会保障制度と退院支援看護師の役割,退院支援看護師が抱える困難感と必要な力,育成の現状を伝え,自分たちの置かれている現状の理解を促す. |
25分 |
プログラム2:退院支援看護師としての自己・他者の価値観を知る.演習における自己とメンバーの影響に気づく. 【演習】(A・R・C・S) 1)「退院支援看護師として多職種連携において大切にしていること」について自己ワークで書き出し,メンバーで共有.(A・R・C) 2)1)をグループで,コンセンサスを得ながら1~3位まで優先順位をつけ,グループ発表で全体共有.(A・R・C) 3)2)の話し合いの「プロセスの振り返り」(ラボラトリー方式体験学習)を実施.(C・S) ・グループメンバー個々の自己への影響を振り返り用紙に記入し,それを各メンバーへフィードバック.(C・S) ・演習について振り返り用紙を基に振り返り,メンバーからのフィードバックを受けて次の演習で自分が心掛けることを記載.(C・S) |
50分 |
プログラム3:多職種について理解する.(A・R・C・S) 【講義】退院支援における多職種連携の必要性と多職種の役割について知る.(A・R) |
30分 |
【演習1】他職種(薬剤師・栄養士・理学療法士・介護支援専門員・介護福祉士・訪問看護師)へ質問したい内容の決定.(A・R・C・S) 1)どの職種に何を聞くのか自己ワークで書き出し,メンバーと共有し,コンセンサスを得ながらグループとしての質問に優先順位をつける.(A・R) 2)プログラム2の演習で決めた「演習で自分が心掛けることを」を実践.(C) 3)演習1の振り返りを実施(決めたことをどれくらい取り組めたか,取り組めなかったか,その理由).(C・S) |
50分 |
【演習2】グループで話し合った内容を他職種へ質問.(A・R・C・S) ・他職種(薬剤師・栄養士・介護支援専門員・理学療法士・介護福祉士・訪問看護師)への質疑応答. |
50分 |
【演習3】他職種とのディスカッション.(A・R・C・S) ・日ごろ職場では聞けない他職種に対する疑問や多職種連携を今より良くするための多職種との意見交換.(A・R・C) ・他職種から看護師に期待すること.(S) 【まとめの小講義】他職種の退院支援看護師に求める役割を知る.(C・S) |
50分 |
プログラム4:ラボラトリー体験学習・コンピテンシーについて理解する.(A・R・C・S) 【講義】 1)ラボラトリー体験学習の意味と退院支援看護師として多職種連携実践能力向上への意義を説明.(A・R・C) 2)コンピテンシーについて説明.(A・R・C) 3)NDPAS・CICS29の尺度の説明,実践能力を向上させるための自己評価表の活用について説明.(C・S) |
25分 |
本プログラムのアウトカム評価は,戸村ら(2013, 2017)が開発したNDPASと,Sakai et al.(2017)が開発したCICS29を用いた.各尺度の使用は尺度開発者の許諾を得ている.
NDPASは,24項目4つの下位尺度で構成された自己評価尺度である.下位尺度毎に個々の患者への退院支援プロセスにおけるDPNの特徴的な能力を評価することができ,信頼性と妥当性は確認されている(戸村ら,2013).4つの下位尺度は,退院後のケアバランスの見積力(以下,見積力),患者・家族との合意形成力(以下,合意形成力),退院後のケアバランスの調整力(以下,調整力),療養場所の移行準備力(以下,移行準備力)である.各項目は1~5点の5段階評価で,下位尺度の得点は各項目の合計得点を項目数で割った平均得点,合計得点は4つの下位尺度の得点の合計で,得点が高いほど能力が高いことを示す.尺度項目は,ベテランDPNが普段思考している際に用いている抽象度が低い言葉で作成されているため,新任のDPNであっても自身の能力を適切に評価することが可能であると述べられており(戸村ら,2020),DPNの経験年数による尺度項目の解釈の差が少ないと考えた.
CICS29は,29項目6つの下位尺度で構成された自己評価尺度である.医療専門職としてどのような行動をとることが連携であり協働なのかを,コンピテンシーとして表現されており(酒井ら,2015),信頼性や妥当性は確認されている(Sakai et al., 2017).6つの下位尺度は,プロフェッショナルとしての態度・信念(以下,プロ信念),チーム運営のスキル(以下,チーム運営),チームの目標達成のための行動(以下,チーム目標達成),患者を尊重した治療・ケアの提供(以下,患者尊重ケア),チームの凝集性を高める態度(以下,チーム凝集性),専門職としての役割遂行(以下,専門職役割)である.各項目は1~5点の5段階評価で,下位尺度の合計得点と全体の合計得点で得点が高いほど能力が高いことを示す.この尺度は,保健医療福祉の場で働く全職員が個人の多職種連携実践に関する自己研鑽の評価や個人の変化の評価に用いることができると述べられている(井出,2020).
基本属性は,年齢,看護師経験年数,退院支援経験年数,退院支援専従の有無,役職の有無,専門資格の有無,在宅ケア経験の有無,退院支援研修受講の有無,多職種連携研修受講の有無や専門教育機関,基礎教育での連携教育の有無,Zoomによるオンライン研修受講の有無を確認した.
5. データ収集方法(図1)本研究は,郵送による縦断的自記式質問紙調査である.手順は当該施設の看護部長に研究概要の説明書類と研究対象者への説明書類を同封し,対象者の紹介を依頼した.研究協力への同意は郵送による同意書の返送をもって確認した.研修日は,受講者が参加しやすいよう休日に2回設定し82名の応募があった.その後,研修実施までに6名の辞退があり,最終研究対象者は76名となった.76名を2回の研修受講可能日毎に2層に分け,エクセルによる乱数表にて,層別ランダム化により介入群と対照群に分け,介入群36名,対照群には研修参加は不可だが研究協力は可能という4名を追加し40名とした.研究協力者に介入群か対照群かの結果,研修受講時の連絡先(メールアドレス,緊急連絡先),基本属性とアウトカム評価のための2種類の調査用紙を郵送し回答を依頼した.
調査用紙の回答は介入群の研修受講日に合わせ,両群とも研修受講前(1回目),研修受講後3ヵ月(2回目)・6ヵ月(3回目)の計3回とし,郵送で回収した.同一対象者への繰り返しのある調査のため質問紙にIDを付与し連結可能匿名化を行った.データ収集期間は2021年5月~2022年1月である.毎回データ回収期限後に,全員に催促メールを1回送信し回収率の向上を図った.
6. 分析方法対象者の属性は記述統計を行い,介入群・対照群における基本属性に差異がないことを確認するために,平均年齢,平均看護師経験年数,平均退院支援経験年数は,Levene検定で等分散性を確認後,対応のないt検定,年齢区分,看護師経験年数区分,退院支援経験年数区分,専門教育機関はPearsonのχ2検定,退院支援専従の有無,役職の有無,在宅ケア経験の有無,退院支援研修受講の有無,多職種連携研修受講の有無,基礎教育での多職種連携学習の有無はFisher正確確率検定を行った.アウトカム(NDPAS, CICS29)に関する分析は,介入群,対照群の2群を群間要因,回答時期の1回目,2回目,3回目を群内要因とする二元配置分散分析(対応なし×対応あり)を行い交互作用の有無を有意水準5%で確認した.有意であった場合には単純主効果検定を実施し,有意水準5%で有意であった場合には,Bonferroni法による多重比較を実施した.交互作用がないものは群間の差を検定した.統計分析はSPSS Ver. 27を用いた.単純主効果検定の計算は,竹原(2022)を参考にSPSSシンタックスを用いて実施した.
7. 倫理的配慮本研究は,神戸女子大学・神戸女子短期大学の人間を対象とする研究倫理委員会の承認を得た(承認番号;2020-23-2).研究対象者には,研究への参加は自由意思であり,研究目的,内容,プライバシーの保護,途中辞退の自由,データ管理,結果の公表等について文書で説明し,同意書を返信してもらった.対照群には,希望者に対して3回目の調査実施後,介入群と同様の研修を実施した.
研究対象者は76名であったが途中で3名が脱落し,介入群34名,対照群39名,合計73名を分析対象とした.全対象者73名は,平均年齢44.3 ± 7.7歳,年齢構成40歳以上74%,看護師経験平均年数21.7 ± 7.7年,経験年数20年以上60.3%,退院支援部署経験平均年数2.5 ± 1.5年,1年目から3年目75.3%を占めていた.専門教育機関は専門学校72.6%,基礎教育機関で多職種連携に関する学習経験あり4.1%であった.2群間で有意差が見られた項目はなかった.
対象属性 | 介入群n = 34(%) | 対照群n = 39(%) | 合計n = 73(%) | P値 | |
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性別 | 女性 | 34(46.6) | 39(53.4) | 73(100) | |
年齢 | 平均年齢a | 43.3 ± 7.3(27~59) | 45.3 ± 7.9(28~64) | 44.3 ± 7.7(27~64) | 0.694 |
年齢区分b | 30歳未満 | 1(2.9) | 1(2.6) | 2(2.7) | 0.732 |
30歳~39歳 | 10(29.4) | 7(17.9) | 17(23.3) | ||
40歳~49歳 | 16(47.1) | 19(48.7) | 35(47.9) | ||
50歳~59歳 | 7(20.6) | 11(28.2) | 18(24.7) | ||
60歳以上 | 0(0) | 1(2.6) | 1(1.4) | ||
看護師経験年数 | 平均経験年数a | 20.2 ± 7.0(5~36) | 23.1 ± 8.1(7~43) | 21.7 ± 7.7(5~43) | 0.511 |
経験年数区分b | 10年未満 | 1(2.9) | 3(7.7) | 4(5.5) | 0.291 |
10~19年 | 15(44.2) | 10(25.6) | 25(34.2) | ||
20~29年 | 13(38.2) | 18(46.2) | 31(42.5) | ||
30~39年 | 5(14.7) | 7(17.9) | 12(16.4) | ||
40年以上 | 0(0) | 1(2.6) | 1(1.4) | ||
退院支援経験 | 平均経験年数a | 2.7 ± 1.4(1~6) | 2.3 ± 1.5(1~6) | 2.5 ± 1.5(1~6) | 0.76 |
経験年数区分b | 1年未満 | 8(23.5) | 15(38.5) | 23(31.5) | 0.375 |
1年以上2年未満 | 8(23.5) | 12(30.8) | 20(27.4) | ||
2年以上3年未満 | 9(26.5) | 3(7.7) | 12(16.4) | ||
3年以上4年未満 | 6(17.6) | 5(12.8) | 11(15.1) | ||
4年以上5年未満 | 1(2.9) | 2(5.1) | 3(4.1) | ||
5年以上6年未満 | 2(6.0) | 2(5.1) | 4(5.5) | ||
退院支援専従の有無c | 専従 | 14(43.8) | 24(63.2) | 38(54.3) | 0.149 |
専任 | 18(56.3) | 14(43.8) | 32(45.7) | ||
役職の有無c | 有(主任等) | 14(41.2) | 15(38.5) | 29(39.7) | 1.000 |
無 | 20(58.8) | 24(61.5) | 44(60.3) | ||
専門資格の有無 | 有 | 0 | 0 | 0 | |
無 | 34(46.6) | 39(53.4) | 73(100) | ||
在宅ケアの経験の有無c | 有 | 3(8.8) | 3(7.7) | 6(8.2) | 1.000 |
無 | 31(91.2) | 36(92.3) | 67(91.8) | ||
退院支援研修受講の有無c | 有 | 20(58.8) | 22(56.4) | 42(57.5) | 1.000 |
無 | 14(41.2) | 17(43.6) | 31(42.5) | ||
多職種連携研修受講の有無c | 有 | 9(26.5) | 11(28.2) | 20(27.4) | 1.000 |
無 | 25(73.5) | 28(71.8) | 53(72.6) | ||
専門教育機関b | 大学 | 5(14.7) | 3(7.7) | 8(11.0) | |
短大 | 6(17.6) | 5(12.8) | 11(15.1) | 0.425 | |
専門学校 | 22(64.7) | 31(79.5) | 53(72.6) | ||
大学院 | 1(2.9) | 0(0) | 1(1.4) | ||
基礎教育連携学習の有無c | 有 | 1(2.9) | 2(5.1) | 3(4.1) | 1 |
無 | 33(97.1) | 37(94.9) | 70(95.9) |
a:等分散性のためのLeveneの検定後,対応のないt検定 b:Pearsonのχ2検定 c:Fisherの正確確率
本研究は,反復測定による介入効果として群と時間(回数)の交互作用の有無で分析をした.交互作用の有無は,Greenhouse-Geisserの方法で自由度を調整した有意確率で判断し,グラフを描いてどこに差がありそうなのか判断した(中山,2018).図示した結果,介入群は右肩上がりの直線的な傾向を示したが,対照群は変化の仕方に線形性を認めず,多重比較に統計的な意味がないと判断した.そのため,交互作用が有意であった項目のうち,単純主効果検定が有意であった介入群のみ,その後にBonferroni補正による多重比較を実施した.また,今回使用した尺度で交互作用があった下位尺度の効果量として被験者内効果検定の回数と介入の有無の交互作用の結果の偏イータ2乗(ηP2)を,要因の自由度,誤差の自由度,要因のF値から算出した結果,0.218~0.326であった.この効果量の計算結果を基にG*Powerを用いて事後の検定力分析を行った結果,今回得られたサンプルサイズにおける検定力が0.99であったことから,十分なサイズのサンプルが得られていることが確認された(水本・竹内,2010).
尺度の種類 | 下位尺度名 | 介入の有無 | 1回目 介入前 n = 73 |
2回目 3か月後 n = 73 |
3回目 6ヵ月後 n = 73 |
交互作用* | 単純主効果検定** | 介入群の単純主効果が有意な尺度の平均値の多重比較 p値*** |
|||||
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介入群n = 34 対照群n = 39 |
Mean | SD | Mean | SD | Mean | SD | p値 | p値 | 2回目vs 1回目 | 3回目vs 1回目 | 3回目vs 2回目 | ||
NDPAS | 退院後のケアバランスの見積力:見積力(6項目) | 介入群 | 3.63 | 0.60 | 3.89 | 0.38 | 3.99 | 0.37 | 0.001 | <0.001 | 0.006 | <0.001 | 0.191 |
対照群 | 3.77 | 0.36 | 3.62 | 0.62 | 3.80 | 0.39 | 0.049 | ||||||
患者・家族との合意形成力:合意形成力(7項目) | 介入群 | 3.59 | 0.54 | 3.82 | 0.47 | 3.95 | 0.39 | 0.001 | <0.001 | 0.002 | <0.001 | 0.054 | |
対照群 | 3.71 | 0.52 | 3.63 | 0.54 | 3.73 | 0.46 | 0.304 | ||||||
退院後のケアバランスの調整力:調整力(6項目) | 介入群 | 3.25 | 0.68 | 3.58 | 0.63 | 3.60 | 0.58 | 0.006 | 0.002 | 0.003 | 0.004 | 0.802 | |
対照群 | 3.48 | 0.57 | 3.35 | 0.62 | 3.46 | 0.66 | 0.365 | ||||||
療養場所の移行準備力:移行準備力(5項目) | 介入群 | 3.71 | 0.81 | 3.9 | 0.65 | 4.08 | 0.66 | 0.286 | ― | ― | ― | ― | |
対照群 | 3.62 | 0.88 | 3.65 | 0.78 | 3.77 | 0.72 | |||||||
下位尺度 合計得点 | 介入群 | 14.18 | 2.31 | 15.19 | 1.84 | 15.62 | 1.72 | 0.001 | <0.001 | 0.001 | <0.001 | 0.032 | |
対照群 | 14.57 | 2.00 | 14.26 | 2.24 | 14.76 | 2.00 | 0.136 | ||||||
CICS29 | Ⅰ:プロフェッショナルとしての態度・信念:プロ信念(6項目) | 介入群 | 20.82 | 3.06 | 22.00 | 3.53 | 22.79 | 3.05 | 0.008 | <0.001 | 0.02 | <0.001 | 0.077 |
対照群 | 21.38 | 3.31 | 21.08 | 3.61 | 21.44 | 2.84 | 0.668 | ||||||
Ⅱ:チーム運営のスキル:チーム運営(5項目) | 介入群 | 17.15 | 3.11 | 17.76 | 3.34 | 18.24 | 3.68 | 0.14 | ― | ― | ― | ― | |
対照群 | 17.82 | 2.89 | 17.49 | 2.42 | 17.85 | 2.47 | |||||||
Ⅲ:チームの目標達成のための行動:チーム目標達成(5項目) | 介入群 | 16.94 | 3.28 | 18.26 | 3.40 | 18.32 | 3.34 | 0.007 | 0.003 | 0.016 | 0.002 | 0.865 | |
対照群 | 17.56 | 3.02 | 16.85 | 3.24 | 17.64 | 2.71 | 0.111 | ||||||
Ⅳ:患者を尊重した治療・ケアの提供:患者尊重ケア(5項目) | 介入群 | 19.47 | 2.09 | 19.68 | 2.35 | 20.38 | 2.24 | 0.018 | 0.05 | ― | ― | ― | |
対照群 | 19.90 | 2.04 | 18.92 | 3.04 | 19.36 | 2.53 | 0.028 | ||||||
Ⅴ:チームの凝集性を高める態度:チーム凝集性(4項目) | 介入群 | 15.47 | 2.00 | 16.09 | 2.59 | 16.18 | 2.37 | 0.045 | 0.08 | ― | ― | ― | |
対照群 | 15.92 | 2.48 | 15.67 | 2.52 | 15.49 | 2.21 | 0.387 | ||||||
Ⅵ:専門職としての役割遂行:専門職役割(4項目) | 介入群 | 13.97 | 2.11 | 14.68 | 2.79 | 15.32 | 2.63 | 0.09 | ― | ― | ― | ― | |
対照群 | 14.33 | 2.38 | 14.36 | 2.36 | 14.69 | 2.02 | |||||||
下位尺度 合計得点 | 介入群 | 103.82 | 13.08 | 108.47 | 16.48 | 111.24 | 15.81 | 0.005 | <0.001 | <0.001 | 0.076 | ||
対照群 | 106.92 | 14.08 | 104.36 | 15.15 | 106.46 | 12.80 | 0.292 |
* 等分散を仮定しないGreenhouse-Geisser補正値
** 交互作用が有意(P < 0.05)のもののみ分析対象とした
*** Bonferroniの調整で有意(P < 0.0167)のものを太字で示した
各回答時期におけるNDPASの各下位尺度および合計得点のCronbach’s α係数は0.81~0.95の範囲であり,内的整合性が認められた.主効果は,4つの下位尺度と合計のすべてにおいて有意差は認められなかった.介入の有無×回答時期の交互作用が有意であったのは,見積力(F(1, 71) = 7.54, P = .001, η2 = .096),合意形成力(F(1, 71) = 7.57, P = .001, ηP2 = .096),調整力(F(1, 71) = 5.42, P = .006, ηP2 = .071),および下位尺度合計(F(1, 71) = 8.13, P = .001, ηP2 = .103)であった.移行準備力のみ交互作用が有意でなかった.交互作用が有意であった下位尺度の介入群の単純主効果検定の結果,見積力(F(1, 71) = 10.43, P < .001),合意形成力(F(1, 71) = 13.16, P < .001),調整力(F(1, 71) = 6.16, P = .002),および下位尺度合計(F(1, 71) = 14.89, P < .001)において有意差が認められた.介入群の単純主効果が有意であった下位尺度について,各回答時期で多重比較を行った.結果,見積力の2回目vs 1回目(F(1, 71) = 8.21, P = .005)と3回目vs1回目(F(1, 71) = 21.65, P < .001),合意形成力の2回目vs 1回目(F(1, 71) = 10.19, P = .002)と3回目vs1回目(F(1, 71) = 22.43, P < .001),調整力の2回目vs 1回目(F(1, 71) = 9.40, P = .003)と3回目vs1回目(F(1, 71) = 9.69, P = .004),および下位尺度合計の2回目vs 1回目(F(1, 71) = 11.09, P = .001)と3回目vs1回目(F(1, 71) = 23.10, P < .001)において,平均得点が有意に上昇していた.一方,3回目vs 2回目はいずれも有意差が認められなかった.
2) 多職種連携実践能力(CICS29)の結果各回答時期におけるCICS29の各下位尺度および合計得点のCronbach’s α係数は0.67~0.96の範囲であり,内的整合性が概ね認められた.主効果は6つの下位尺度と合計のすべてにおいて有意差は認められなかった.介入の有無×回答時期の交互作用が有意であったのは,プロ信念(F(1, 71) = 5.07, P = .008, η2 = .067),チーム目標達成(F(1, 71) = 5.79, P = .007, ηP2 = .075),患者尊重ケア(F(1, 71) = 4.25, P = .018, ηP2 = .056),チーム凝集性(F(1, 71) = 3.31, P = .045, ηP2 = .044),および下位尺度合計(F(1, 71) = 5.90, P = .005, ηP2 = .077)であった.チーム運営と専門職役割の交互作用は有意でなかった.交互作用が有意であった下位尺度の介入群の単純主効果検定の結果,プロ信念(F(1, 71) = 9.21, P < .001),チーム目標達成(F(1, 71) = 6.20, P = .003),および下位尺度合計(F(1, 71) = 8.13, P < .001)において有意差が認められた.介入群の単純主効果が有意であった下位尺度について各回答時期で多重比較を行った.結果,プロ信念の3回目vs 1回目(F(1, 71) = 19.49, P < .001),チーム目標達成の3回目vs1回目(F(1, 71) = 6.12, P = .002),および下位尺度合計の3回目vs 1回目(F(1, 71) = 15.00, P < .001)において,平均得点が有意に上昇していた.2回目vs1回目および3回目vs 2回目はいずれも有意差が認められなかった.
本プログラムはDPNの多職種連携実践能力を向上させることを目的に,IDのARCSモデルに基づいている.全プログラムを通して,退院支援看護師実践能力の見積力,合意形成力,調整力,多職種連携実践能力のプロ信念,チーム目標達成の実践能力が身につく成果が得られた.
本研究における介入群の3回目の調査結果は,戸村ら(2017, 2020)のNDPASを用いた全国調査の結果や,藤田・習田(2016)の回復期リハビリテーション病棟看護師のCICS29の結果より高い傾向があった.これは,IDのARCSモデルの考え方や,ラボ体験学習を組み込んだ演習を実施した結果であると考える.池田(2017)は,ラボ体験学習の要素は,コンテントとプロセスであり,コンテントとはその場で取り扱われている話題や課題,プロセスとはその話題や課題が進められている中で生じている自分の中,あるいは自分と相手,グループメンバー間の関わりを指していると述べている.通常の退院支援研修で行われている多職種事例検討や,退院支援のリフレクションはコンテントに焦点があたっており,プロセスに焦点を当てていない.ラボ体験学習は,「今,ここでの体験」を4つのステップを踏んで振り返り,関わりの行動を内省し新たな体験場面へ向けた行動計画を立てるサイクルを回していくことである(池田・土屋,2021).プログラム2では「DPNとして多職種連携において大切にしていること」をコンテントとしてラボ体験学習のサイクルを回した.その過程で他施設のDPNとお互いの思いを表出し合い,何が一番大切かコンセンサスを得る中で,DPNとしての価値観や悩みが共有できた.この演習における対話が,今の自分を承認でき気持ちが前向きになり,尺度得点の向上につながったと考える.また,メンバーから承認され実践の具体的な工夫を聞けたことは,ピアサポートとなりDPNとしての役割とそれに伴う覚悟や価値観,アイデンティティの確立につながったと考える.これらの研修効果と定期的な自己評価尺度による評価が主体的に学び続ける意識づけにつながったと考える.他方,プログラム2のDPNとしての価値観の表明やメンバーとのコンセンサスを得る対話は,オンラインでは特に,グループの空気感や発言の真意,受容の程度が読めず対話が生まれにくいと考えた.そこで,積極的参加とオーバーリアクション,サポーティブな姿勢,ポジティブな発言等を説明したことで,演習の場の心理的安全性が保障された対話の場になったと考える.また,演習を効果的に行うため,演習用紙の作成や使用法を工夫した.竹森ら(2022)の在宅療養移行支援に関わる看護師のためのオンライン研修の取り組みでも,ディスカッション時の画面共有や情報共有方法の工夫が報告されている.オンライン研修は,移動時間や場所の確保が不要で,効率的な研修運営が可能な方法であるため,今後は情報通信技術の進化に合わせた演習方法の工夫を行っていく必要がある.
退院支援看護師実践能力については,下位尺度の多重比較の結果,見積力,合意形成力,調整力と合計の1回目から2回目,1回目から3回目の得点が介入群で有意に高くなっていた.本研究対象者は,看護師経験年数20年以上が6割,退院支援部署の経験は3年未満のものが7割以上を占めていた.湯浅ら(2019)や小木曽(2022)も,看護師経験に基づく看護ケアを展開する能力が高くても退院支援能力が必ずしも高まっているとは言えないと述べており,本研究対象者もDPNの実践能力が高くないと考えられる.そのような中,介入群のNDPASの3つの下位尺度と合計得点が向上したのは,上述したラボ体験学習やピアサポートによる効果であると考える.一方,交互作用のなかった移行準備力は,介入群・対照群とも1回目から2回目,3回目と同じような推移で段階的に得点が上昇していたため,交互作用がなかった.また,この項目は,1回目から3回目のすべてにおいて4項目中,最も得点が高かった.これはDPNが急性期病院に配置され10年以上が経過しており,退院支援のためのマニュアルやパス,チェックリスト等,院内の退院支援に関するツールや電子カルテ記録などのシステムが整備されてきている影響もあると推測する.
多職種連携実践能力については,下位尺度の多重比較の結果,プロ信念,チーム目標達成と合計の1回目から3回目の介入群の得点が有意に高くなっていたが,1回目から2回目,2回目から3回目は有意差がなかった.下位尺度のプロ信念は,看護職としての態度や信念を問う内容であり,演習でピアサポートを受け,DPNに求められる態度として意識的に取り組んだ結果であると考える.また,チーム目標達成は,DPN自身がメンバーに説明や支援,評価する項目である.講義で多職種の在宅での役割や価値観について知識を得た上で,演習3で多職種に対する日常の疑問や活動の実際,考えを聞き多職種の在宅での活動がイメージできた結果であると考える.研修で他施設のDPNから,実際に多職種チームメンバーの何を大切にして関わっているかを聞くことができ,研修後に意識的に実践した結果でもあると推測する.基礎教育で多職種連携教育を受けていないDPNに本研修は有用であったと考える.今回,有意差がなかった患者尊重ケアの具体的な実践内容は,他のDPN研修プログラムで実施されているため,本プログラムには入れていない.この能力は,他のDPN研修で実施されている事例検討やリフレクション(吉田ら,2012;藤澤ら,2018),交流会(山田ら,2010;田代ら,2013)や,退院した患者の在宅での状況を訪問看護師やケアマネジャーからフィードバックを受けるなど,継続的に取り組むことで向上していく能力であると考える.チーム運営は,メンバーが置かれている状況を把握し配慮や調整するリーダーシップに関連する項目であり,チーム凝集性は,多職種との積極的なコミュニケーションや人間関係作りに関する項目である.コミュニケーション能力や人間関係作り,リーダーシップは,6ヵ月という期間では向上することが難しい能力であるということが明らかになった.藤田・習田(2016)は多職種連携のコミュニケーション力の向上に,タイムリーなディスカッションの機会の必要性をあげている.忙しい急性期病院の現場で時間的制約はあるが,カンファレンス後のわずかな時間でも気づきや各職種の考え方や価値観を共有するために演習で実施したラボ体験学習「今,ここで」の振り返りの場を持つことは,多職種とのコミュニケーション力を高め人間関係作りやリーダーシップの発揮に有用であると考える.
以上より,今回,開発した教育プログラムの特徴は,①ラボ体験学習を用いた演習,②DPNの多職種連携における信念の明確化,③在宅で活躍する多職種との意見交換,④自己評価尺度を活用した実践能力向上の主体的取り組みの4点であると考える.しかし,多職種連携実践能力におけるチーム運営,患者尊重ケア,チーム凝集性,専門職役割遂行の4つの能力は,プログラム終了時点では向上しなかったことが課題となる.多職種連携実践能力の向上には,現任教育の有用性が報告されている(藤田・習田,2016;山本・酒井,2023).これらの能力向上のためには,プログラム終了後も,多職種カンファレンスや事例検討を積み重ね,研修で取り組んだラボ体験学習の話し合いのプロセスを多職種と振り返ることを,日々の実践の中に組み入れる必要があると考える.
本研究における教育プログラムの評価は,コンピテンシー自己評価尺度を用いた即時的なアウトカム評価にとどまっており,長期的な視点での日々の実践力の変化は確認できていない.また,自己評価であるため,評価時点での実践状況が結果に影響を与えた可能性もある.今後は,職場の同僚や上司,多職種などの他者による客観的な行動変容の評価や職場特性も含めたプロセス評価を行い,長期的に教育プログラムの有用性を検証していくことが必要であると考える.
本研究では,退院支援看護師の多職種連携実践能力の向上を目的に,ARCSモデルに基づくラボラトリー方式の体験学習を特徴とする教育プログラムをオンラインで提供した.その結果,退院支援実践能力における見積力,合意形成力,調整力,および多職種連携実践能力におけるプロ信念,チーム目標達成が有意に上昇した.これは必要な知識の獲得とピアサポートや在宅で活躍する多職種との対話による退院支援看護師の役割や信念の明確化,尺度を用いたリフレクションによる主体的な取組の意識づけによる成果であると考える.今回,即時的な成果が認められなかった多職種連携実践能力におけるチーム運営,患者尊重ケア,チーム凝集性,専門職役割遂行については,多職種連携実践を継続的に積み重ねた上で,現任教育を継続実施する必要性が示唆された.
付記:本研究の一部は,第42回日本看護科学学会学術集会において発表した.
謝辞:本研究にご協力くださいました退院支援看護師の皆様,研究を実施するにあたり多大なご協力,ご助言をいただきました皆様に心から感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:YNは研究の着想,デザイン,データ収集,統計解析の実施及び原稿の作成まで研究全般を実施した.KK,AK,MAは研究の着想およびデザイン,KKは統計解析・解釈,AKは論文作成における検討,MAはデータの解釈,論文作成における検討・執筆に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.