2024 Volume 44 Pages 431-441
目的:学生の訪問看護ステーションへの就職を後押しした訪問看護師の実習指導の内容を検討する.
方法:新卒訪問看護師,訪問看護ステーションへの就職を希望する学生ら合計6名に半構造化インタビューを行い,学生が認識した訪問看護師の実習指導を抽出した.
結果:研究対象者は,【学生と関係性を築きながら,初めての訪問看護に向けた概要説明】【学生が初めて会う利用者・介護者に,どう関わればよいか心づもりをするための情報提供】【生活の中での看護実践の学生への共有】など5カテゴリーの指導を認識していた.また,【1日の流れややりがいなど,訪問看護師の仕事を知る機会の提供】【新卒訪問看護師採用に関する,採用準備状況や率直な意見の情報提供】など5カテゴリーの指導を認識していた.
結論:訪問看護ステーションへの就職を希望する学生は,訪問看護実践の理解を促す指導に加え,働く場所として捉えてもらう指導を経験していた.
Purpose: We aimed to examine the content of practicum instruction by home-visit nurses (HVNs) that supported nursing students for employment at home-visit nursing stations.
Methods: Semistructured interviews were conducted with six people, which included newly graduated HVNs and students who opted for employment at home-visit nursing stations. We assessed the practicum instruction by HVNs as perceived by students.
Results: The 10 categories of practicum instructions from HVNs perceived by students were classified into 2 types. One type consisted of five categories of the practicum instructions that included “Building a relationship with the student and providing an overview to prepare for their first home-visit nursing,” “Providing information to students on how to approach patients/caregivers whom they meet for the first time,” and “Practicing home care nursing with students.” The other type comprised the remaining five categories that included “Telling students about the role of HVN, including how a working day flows and how rewarding it is” and “Giving students your honest opinion about employing newly graduated HVNs.”
Conclusion: Students opting for employment at the home-visit nursing stations experienced instructions that encouraged them to understand home-visit nursing practice, along with guiding them to perceive it as a workplace.
日本では超高齢社会を背景に,在院日数の短縮化,在宅医療への移行が進められており,在宅療養を支援する訪問看護師は重要な役割を担っている.訪問看護師数は,2025年までに約12万人必要と推計される(厚生労働省,2019)ものの,2020年で約6.7万人(厚生労働省,2022)に留まっており,訪問看護師の人材確保は喫緊の課題である.
人材確保の取り組みとして,教育機関卒業後すぐに訪問看護ステーションで働く新卒看護師(以下,新卒訪問看護師)の採用が検討されており,3割程度の訪問看護ステーション(以下,訪問看護ST)は採用意向を示している(Fukuyama et al., 2022;きらきら訪問ナース研究会,2015;丸山ら,2018).しかし,卒業後すぐに訪問看護師になりたい学生は0~1%程度であり(佐々木ら,2021;為永・篠崎,2023b;大和ら,2019),就職先として訪問看護STはほとんど選択されていない.少ないながらも,新卒訪問看護師となった者の中には,訪問看護実習で生活中心の看護の魅力を感じ,訪問看護STへの就職を決心した者がいる(井口ら,2021;きらきら訪問ナース研究会,2015).
看護基礎教育では,2020年指定規則改正による看護基礎教育カリキュラムにおいて,統合分野であった在宅看護論は,地域・在宅看護論に名称変更され,基礎看護学の次に位置づけられた.療養の場の多様化を踏まえ,病院を含めた地域で活躍できる看護師の育成が求められている.在宅療養者への支援を学ぶために,地域・在宅看護論の実習は重要な科目であり,主な実習内容として訪問看護実習が挙げられる.在宅療養者の自宅に伺う訪問看護実習では,教員は同行せず,訪問看護師が学生を帯同し,実習指導を行うことが多い.訪問看護師は,学生が安心して実習できるよう緊張をほぐすような関わりや,訪問看護の特徴である生活空間で行われる看護実践の工夫や価値を学ぶことができるように関わっている(田村・牛久保,2018;東海林ら,2021).一方で,療養者の実習受け入れ依頼や学生の訪問スケジュールの検討,学生送迎により生じる移動時間等の負担を感じており(牛久保ら,2015),指導方法がわからないという不安も抱えている(東海林ら,2019).また,教育機関と訪問看護ステーションの連携,実習指導の内容や方法の確立が必要とされながら,具体的な方策が示されていないとされる(下吹越・八代,2019).
これらより,訪問看護師の人材確保と訪問看護実習の指導方策の検討が必要と考え,学生の視点を踏まえた,訪問看護師の実習指導方策を検討することを考えた.そこで,訪問看護STへの就職を希望する学生が認識した訪問看護師の実習指導を明らかにし,訪問看護STへの就職を後押しした訪問看護師の実習指導の内容を検討した.
訪問看護STへの就職を希望する学生が認識した訪問看護師の実習指導を明らかにし,訪問看護STへの就職を後押しした訪問看護師の実習指導の内容を検討する.
質的記述的研究デザイン
2. 研究対象者訪問看護STへの就職を後押しした実習指導を検討するため,次の①または②に該当する者を,研究対象者とした.①訪問看護STに就職して1年未満の新卒訪問看護師.②訪問看護STに就職予定である学生または訪問看護STで働くために情報収集する学生.なお,本研究では,①または②に該当する者を,訪問看護STへの就職を希望する学生とした.
研究対象者の情報を有する大学教員の紹介と雪玉式標本抽出法により,研究対象者を抽出した.研究対象者が所属する訪問看護STの管理者または教育機関の看護学部長に承諾を得たうえで,研究者が研究概要等を説明し,研究参加の同意が得られた者を研究対象者とした.
3. データ収集方法インタビューガイドに基づいた半構造化面接を行った.学生時代に訪問看護師と関わった経験を想起してもらい「訪問看護師から(または訪問看護STで)受けた実習指導や関わり」「印象に残っている訪問看護師の行動,態度,発言」「訪問看護STに就職しようと思った理由」を聴取した.
インタビューは,研究対象者1名につき1回実施し,対面またはオンラインで,プライバシーが確保できる個室等にて実施した.インタビュー時間は平均49分30秒であり,対象者の許可を得た上で録音または録画をした.研究期間は2022年8月~2023年2月であった.
4. 分析方法録音データから研究対象者ごとに逐語録を作成した.逐語録から,研究対象者が「訪問看護師(または訪問看護ST)から教えてもらった・知る機会をもらった」という内容の記述を最小単位の文章として区切り,コードとした.共通する意味内容のコードをまとめ「学生が認識した訪問看護師の実習指導」として,段階的に抽象度を上げ,サブカテゴリー,カテゴリー,コアカテゴリーを生成した.データの信頼性を確保するため,すべての分析過程において,質的研究の経験がある看護教育学を専門とする研究者のスーパーバイズを受けた.また,協力が得られた研究対象者2名が,サブカテゴリー,カテゴリーを確認し,妥当であると回答を得た.
人間環境大学研究倫理審査委員会(承認番号2021-N015)の承認を得て実施した.また,研究対象者が所属する施設の管理者または教育機関の看護学部長に,研究概要を説明し承諾を得た.研究対象者には,研究概要に加え,参加は自由意思であり,匿名性や途中での同意撤回の自由の保障,データの管理方法等について,文書と口頭で説明した.研究対象者が学生の場合,成績に関係ないことも説明した.
研究対象者6名(新卒訪問看護師4名,学生2名)の概要を表1に示す.5名が,実習やインターン等で訪問看護師と関わる複数回の機会を得ていた.新卒訪問看護師4名中1名は,社会人経験を有する者であった.学生Eは,在宅看護論実習の前に,内定を得ていた病院に就職予定であったが,実習後に訪問看護に関心を抱き,病院での経験を経てから訪問看護に携わりたいと,具体的なキャリアデザインを描く学生であった.学生Fは,訪問看護STより内定を得た学生であった.学生Fは,COVID-19の影響により,同行訪問経験が無かったが,遠隔で訪問看護師から訪問看護STのオリエンテーションや利用者の情報提供があり,看護過程の展開,ロールプレイを行っていた.立案した看護計画やロールプレイに関して,訪問看護師より遠隔でフィードバックを得ていた.
性別年代 | 看護師経験年数または学年 | 在籍した・在籍する看護基礎教育機関 | 勤務先または内定先 | 看護師以外の社会人経験 | 学生時の訪問看護師の知り合い | 学生時の訪問看護を利用していた同居者 | 訪問看護に関心を持った時期 | 訪問看護師と関わった機会と期間 | 同行訪問回数 | 備考 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
A | 女性20代 | 1年未満 | 大学 | 訪問看護ステーション | 無 | いる | いない | 在宅看護の講義・演習後 | ①4年(在宅看護論実習) 2週間(学内実習) ②4年(研究ゼミでの実習) 1日 ③4年(教員経由で個別に申し込んだ実習) 1日 |
6回 | |
B | 男性20代 | 1年未満 | 大学 | 訪問看護ステーション | 無 | いない | いない | 在宅看護の講義・演習後 | ①3年(在宅看護論実習) 2週間(学内実習) ②4年(採用試験:同行訪問) 1日 ③4年(統合実習) 3日 |
6回 | |
C | 男性20代 | 1年未満 | 大学 | 訪問看護ステーション | 無 | いない | いない | 在宅看護の講義・演習後 | ①3年(在宅看護論実習) 2週間 ②3年(インターン:同行訪問) 1日 ③4年(採用試験:同行訪問) 1日 ④4年(統合実習) 5日 |
15回 | |
D | 女性30代 | 1年未満 | 専門学校 | 訪問看護ステーション | 有 | いる | いない | 在宅看護の講義・演習後 | ①3年(教員経由で個別に申し込んだ実習) 1日 ②3年(在宅看護論実習) 2週間 |
7回 | 入学時から訪問看護ステーションへの就職を考えていたわけではなかった |
E | 女性20代 | 4年生 | 大学 | 病院 | 無 | いない | いない | 実習後 | ①4年(在宅看護論実習) 2週間 ②4年(選択コース) 2日 |
30回 | 将来,在宅看護の専門看護師を志望 |
F | 女性20代 | 4年生 | 大学 | 訪問看護ステーション | 無 | いない | いない | 在宅看護の講義・演習後 | ①4年(在宅看護論実習) 2週間(学内実習) |
0回 | 学内実習中に,遠隔での訪問看護師とのやりとりがあった |
96コードが抽出され,《訪問看護実践の理解を促す指導》《働く場所として捉えてもらう指導》の2コアカテゴリーが生成された.《訪問看護実践の理解を促す指導》は,59コードから,15サブカテゴリー,5カテゴリーが生成された.《働く場所として捉えてもらう指導》は,37コードから,13サブカテゴリー,5カテゴリーが生成された.コアカテゴリーを《 》,カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを〈 〉,コードを〔 〕,意味上の補足を( )で示した.
1) 訪問看護実践の理解を促す指導(表2)《訪問看護実践の理解を促す指導》は,5カテゴリーで構成された.学生が認識した実習指導として,訪問看護の概要説明や利用者・介護者に関する情報提供が行われたことが示された.学生ができる限り利用者と関われるよう声をかけ,生活の中での看護実践の場面を共有し,振り返りが行われた様子が示された.
カテゴリー | サブカテゴリー | コード例 | コード数 |
---|---|---|---|
学生と関係性を築きながら,初めての訪問看護に向けた概要説明 | 施設概要として,自施設の理念・方針や訪問看護の利用状況などの説明 | そのステーションの概要とか,こういう事例があるからって説明がありました. | 4 |
雑談を交えて,学生との距離を縮める会話 | 他愛のない話を色々話してくださって.利用者さんだけじゃなくて,私にも興味持って色々聞いてくれたりして.自分が話すことで,ちょっとリラックスできたりした.何をって言われると,特に何があったわけじゃないんですけど,いっぱい喋れたのはよかった. | 3 | |
挨拶や移動・駐車の注意点など,利用者様の家に伺うというサービスの心得の指導 | 例えば,挨拶はしっかり最初からしましょう.元気に挨拶して名前を伝えて,とか.訪問の基礎的なところ.自転車置く場所をどうしましょうとか.そういう訪問の心得的なことからしっかり教えてくださった. | 2 | |
学生が初めて会う利用者・介護者に,どう関わればよいか心づもりをするための情報提供 | 訪問の目的と介護者を含めた利用者のこれまでの経過の説明 | 「この人の疾患は」とか「こういう経過で訪問看護入って」っていう説明があった. | 4 |
複数の利用者宅を訪問する学生に対して,これから訪問する家での援助内容の確認 | カルテを見る時間はなかったけど,車の中で「今から行く人は何々して,何々するんだけど,いつもお家の人が介護疲れしてるから,学生さんだけど,手伝ってね」みたいなことを言ってくれて,学生を使ってほしかったから,嬉しかったです. | 3 | |
利用者のこだわりや利用者宅でのルールの説明 | ルールがある人は,前もって道中に,この人はこういう人で,お家に行く時はこうしてくださいみたいな.暗黙の了解がある利用者さんの場合は教えてくれて. | 2 | |
限られた訪問時間・訪問回数の中で,学生ができる限り利用者と関わるための細かな声かけ | 立つ位置や「ここでは見学していてほしい」など,利用者宅内での学生がいてもよい居場所の提示 | 「あんまり来たことがないお宅だから,なるべく私(看護師)がやるね」とか言っていただけると,どう動けば,どこに,どうしていればいいのかわかると思いました. | 2 |
少しでも利用者と学生がふれ合えるよう,体を支える・背中を拭くなど,看護師の補助の促し | 全介助の方で「支えといてもらっていいかな」とか,体位変換する時に「こっち向けてもらっていい?」とか,「尿バルーンが引っ張られないように持ってきてもらっていい?」とか, | 4 | |
コミュニケーション・生活援助・フィジカルアセスメント・医療処置を経験する機会の提供と,実践の共有 | 「肺の音聞いてみる?」って言われて,(肺音を)聞いて「どうだった?」って聞かれてこうでしたって.「そうだよね.ちょっと右のエア入り弱いよね」って技術面のこともさせていただけた. | 5 | |
生活の中での看護実践の学生への共有 | 利用者・介護者と看護師のいつも通りのやりとりの見学 | 処置の仕方が…変な言い方なんですけど,美しいなと思って.1時間かけて丁寧に,苦痛を取りながら声かけしながら便処置をされてる姿をみて,衝撃だった.丁寧さだったり,処置の仕方だったり,1つ1つがすごく素敵だなって. | 7 |
行っている生活援助・医療処置に関して,技術・物品の工夫や本人・介護者と看護師の役割分担など,説明しながらの実践 | 陰洗と清拭と更衣をするときに「今は感染対策でエプロンします」とか,「今は利用者が少ないから,2人で訪問してます」「いつもこの家は娘さんが既にオムツ交換してくださってるんです」という話も訪問中にしてくださった. | 4 | |
自施設外との連携について,どこの,だれと,連絡をとっているかの説明 | 今から担当者会議に行って,どういう人が集まってやりますっていう説明がありましたね. | 2 | |
利用者・介護者に対して訪問看護が与える影響を考察するための振り返り | 学生の学びの状況を確認しながら,利用者の状態のアセスメントと看護計画立案に関する助言 | (看護師も一緒に看護計画を考えた?)はい.不安の軽減とか痛みの緩和みたいな計画を最初あげてたんですけど,違うなってなって.もう変えながら,変えながらって. | 6 |
利用者・介護者の訪問看護師や学生に対する気遣い・配慮への気づきの促し | 療養者さんのお家でお菓子とお茶を出してくださって「ありがとうって言えた?」って聞かれて「あぁ,言えなかったんです」って学生が言ったら「お茶を出す温度とか,タイミングとか,すごい準備して待ってくださってる背景があるよね.ありがとうって言ってもらえるだけで,きっとそのご家族は報われるじゃないけど,すごいいい気持ちになって,また来てくださいってなるよね」みたいな.ケアじゃないんですけど,声かけ1つとか,ゴミを持って帰るとか,そういう細かなところが大事だよねっていう. | 1 | |
移動中や隙間時間に行われる学生への振り返り | 帰ってきて「どんな療養者さんだった?」って聞かれて,こんなこんなでって話したら,そこにまたフィードバックをくださって.自分が気づけなかったとこにも気づくことができた. | 10 |
【学生と関係性を築きながら,初めての訪問看護に向けた概要説明】は,訪問看護師が,初対面の学生との関係性を築きながら,学生が訪問看護を経験する準備ができるよう概要を説明する様子から示された.〈施設概要として,自施設の理念・方針や訪問看護の利用状況などの説明〉は〔そのステーションの概要とか,こういう事例があるからって説明がありました〕などから生成された.〈雑談を交えて,学生との距離を縮める会話〉は〔他愛のない話を色々話してくださって.利用者さんだけじゃなくて,私にも興味持って色々聞いてくれたりして.自分が話すことで,ちょっとリラックスできたりした.何をって言われると,特に何があったわけじゃないんですけど,いっぱい喋れたのはよかった.〕などから生成された.〈挨拶や移動・駐車の注意点など,利用者様の家に伺うというサービスの心得の指導〉は〔例えば,挨拶はしっかり最初からしましょう.元気に挨拶して名前を伝えて,とか.訪問の基礎的なところ.自転車置く場所をどうしましょうとか.そういう訪問の心得的なことからしっかり教えてくださった.〕などから生成された.
【学生が初めて会う利用者・介護者に,どう関わればよいか心づもりをするための情報提供】は,学生が初対面の利用者・介護者のことや利用者宅での動き方を考えることができるよう,情報提供されていたことから示された.〈訪問の目的と介護者を含めた利用者のこれまでの経過の説明〉は〔「この人の疾患は」とか「こういう経過で訪問看護入って」っていう説明があった.〕などから生成された.〈複数の利用者宅を訪問する学生に対して,これから訪問する家での援助内容の確認〉は〔カルテを見る時間はなかったけど,車の中で「今から行く人は何々して,何々するんだけど,いつもお家の人が介護疲れしてるから,学生さんだけど,手伝ってね」みたいなことを言ってくれて,学生を使ってほしかったから,嬉しかったです.〕などから生成された.〈利用者のこだわりや利用者宅でのルールの説明〉は〔ルールがある人は,前もって道中に,この人はこういう人で,お家に行く時はこうしてくださいみたいな.暗黙の了解がある利用者さんの場合は教えてくれて〕などから生成された.
【限られた訪問時間・訪問回数の中で,学生ができる限り利用者と関わるための細かな声かけ】は,学生が利用者とのふれ合いや援助の経験が得られるよう,声をかけられたことから示された.〈立つ位置や「ここでは見学していてほしい」など,利用者宅内での学生がいてもよい居場所の提示〉は〔「あんまり来たことがないお宅だから,なるべく私(看護師)がやるね」とか言っていただけると,どう動けば,どこに,どうしていればいいのかわかると思いました.〕などから生成された.〈少しでも利用者と学生がふれ合えるよう,体を支える・背中を拭くなど,看護師の補助の促し〉は〔全介助の方で「支えといてもらっていいかな」とか,体位変換する時に「こっち向けてもらっていい?」とか,「尿バルーンが引っ張られないように持ってきてもらっていい?」とか,〕などから生成された.〈コミュニケーション・生活援助・フィジカルアセスメント・医療処置を経験する機会の提供と,実践の共有〉は〔「肺の音聞いてみる?」って言われて,(肺音を)聞いて「どうだった?」って聞かれてこうでしたって.「そうだよね.ちょっと右のエア入り弱いよね」って技術面のこともさせていただけた.〕などから生成された.
【生活の中での看護実践の学生への共有】は,訪問看護師の関わり方,看護実践や他職種との連携について,学生は,見学や説明を受けていたことから示された.〈利用者・介護者と看護師のいつも通りのやりとりの見学〉は〔処置の仕方が…変な言い方なんですけど,美しいなと思って.1時間かけて丁寧に,苦痛を取りながら声かけしながら便処置をされてる姿をみて,衝撃だった.丁寧さだったり,処置の仕方だったり,1つ1つがすごく素敵だなって.〕などから生成された.〈行っている生活援助・医療処置に関して,技術・物品の工夫や本人・介護者と看護師の役割分担など,説明しながらの実践〉は〔陰洗と清拭と更衣をするときに「今は感染対策でエプロンします」とか,「今は利用者が少ないから,2人で訪問してます」「いつもこの家は娘さんが既にオムツ交換してくださってるんです」という話も訪問中にしてくださった.〕などから生成された.〈自施設外との連携について,どこの,だれと,連絡をとっているかの説明〉は〔今から担当者会議に行って,どういう人が集まってやりますっていう説明がありましたね.〕などから生成された.
【利用者・介護者に対して訪問看護が与える影響を考察するための振り返り】は,学生のアセスメント・看護計画の内容や,利用者・介護者の訪問看護師や学生に対する気遣いや配慮について,訪問看護業務の隙間時間を見つけて,学生と振り返りが行われたことから示された.〈学生の学びの状況を確認しながら,利用者の状態のアセスメントと看護計画立案に関する助言〉は〔(看護師も一緒に看護計画を考えた?)はい.不安の軽減とか痛みの緩和みたいな計画を最初あげてたんですけど,違うなってなって.もう変えながら,変えながらって.〕などから生成された.〈利用者・介護者の訪問看護師や学生に対する気遣い・配慮への気づきの促し〉は〔療養者さんのお家でお菓子とお茶を出してくださって「ありがとうって言えた?」って聞かれて「あぁ,言えなかったんです」って学生が言ったら「お茶を出す温度とか,タイミングとか,すごい準備して待ってくださってる背景があるよね.ありがとうって言ってもらえるだけで,きっとそのご家族は報われるじゃないけど,すごいいい気持ちになって,また来てくださいってなるよね」みたいな.ケアじゃないんですけど,声かけ1つとか,ゴミを持って帰るとか,そういう細かなところが大事だよねっていう.〕から生成された.〈移動中や隙間時間に行われる学生への振り返り〉は〔帰ってきて「どんな療養者さんだった?」って聞かれて,こんなこんなでって話したら,そこにまたフィードバックをくださって.自分が気づけなかったとこにも気づくことができた.〕〔短くても振り返る時間はありました.忙しくて時間が取れない時は時間を置いて,看護師さんの空いた時間で「ちょっとフィードバックしようか」っていうのもあった.〕などから生成された.
2) 働く場所として捉えてもらう指導(表3)《働く場所として捉えてもらう指導》は,5カテゴリーで構成された.訪問看護師が,訪問看護の1日の流れややりがいを伝える様子や,忙しくても看護師同士が相談しながら業務に取り組み,誠実に学生指導を行う様子を,学生は認識していた.また,新卒訪問看護師採用に関する考えを,訪問看護師から聞いていた.そして,ベテランの訪問看護師や育児と仕事を両立する看護師の存在から,学生は,訪問看護師としてのキャリアモデルをイメージしていた.
カテゴリー | サブカテゴリー | コード | コード数 |
---|---|---|---|
1日の流れややりがいなど,訪問看護師の仕事を知る機会の提供 | 訪問看護師の24時間の生活リズムに関する会話 | 1日の流れについて,何時から始まるとか,何時ぐらいに家出てるとか,午前中に何件行って,救急がどれくらいあってみたいのは,聞いたと思います | 3 |
看護師が思う「訪問看護観」の語り | 1番印象が強かったのは「在宅って最初から死ぬまで最後までずっと寄り添っていける看護だよ」って言われて,それも印象深くて.最後までその人の一生に寄り添えるのは訪問看護かなっていうのはありました. | 4 | |
学生控室の位置や同行訪問の待機場所など,訪問看護ステーション内の雰囲気を感じられるような配慮 | (訪問看護ステーション内の様子を見れて)学生っていう立ち位置じゃなくて,看護師の立ち位置というか.3年生の時には看護師さんが集まっている部屋が見えなかったんで,(4年生の実習で)初めての経験になりました. | 5 | |
忙しくても看護師同士が相談しやすい職場環境の体験 | 看護師同士の仲が良く,明るい職場の雰囲気の体験 | 病棟では常にバタバタしてピリついてるのが頭にこびりついてて.在宅も忙しいのはもちろんあるんですけど,やっぱり病院とは空気が違うというか,(スタッフが)すごい仲いいなって思った | 3 |
利用者や訪問内容に関する看護師同士の細かな話し合いの見学 | 「先週はこの人どんなことしてましたか」「今回こうしたんですけどよかったですかね」みたいな.些細なことでも情報共有されてる印象があって,わからない時とか聞きやすそうと思いました. | 2 | |
スタッフが少人数で多忙な状況の体験 | すごい人数不足だったらしくて.妊婦さんが急に入院になったり,体調不良の方が出て,8人いるところを6人で回さないといけなくて,そのうち1人が新人の方って感じで.人が足りてないっていうのはすごいありました. | 2 | |
訪問看護ステーション全体での誠実な学生指導 | 学生に対する質問しやすい雰囲気づくりや丁寧な説明 | すごく丁寧に利用者さんのことを教えてくれたり.どういう関わり方をするといいよっていうことを教えてくださった | 3 |
他職種も含めたスタッフ全員による協力的な学生指導 | 自分の看護計画や介入に関して,ケアマネさんとかリハビリさんにも情報を聞いて計画の修正ができたので,自分も多職種連携にちょっと関われたというか.情報共有とか,看護師の役割なのかなと思って.それはすごい印象に残ってます. | 2 | |
新卒訪問看護師採用に関する,採用準備状況や率直な意見の情報提供 | 新卒訪問看護師採用の実績,教育プログラムの作成,採用しようという意思など,採用に向けた準備に関する情報提供 | 1年の流れがあって,2年ぐらいで独り立ちした訪問看護師になれるようなプログラムがあるっていう冊子を見させてもらったので,教育体制が整っているっていうところも魅力でした.ちゃんと教えてもらえるというか. | 5 |
人手不足による教育体制整備の難しさや病院未経験による技術不足の懸念を理由とした,新卒訪問看護師採用への反対意見 | スタッフが5人とかそれ以下だったかな.訪問件数は1日に4件,5件.看護師さんが少ないステーションっていうのもあってか,最初の方で新卒訪問看護師は反対なんだよねっていう話をされて, | 3 | |
訪問看護師としてのキャリアモデルの提示 | 新卒からベテランまで幅広い年齢層の訪問看護師の存在 | (新卒看護師がいる訪問看護ステーションにて)新卒の人を雇ってる分,年齢層が若い人から年配の方までいて,すごいなと思った.在宅では年齢層上の人が多いイメージがある中で,若い人も働いてるんやっていうのはありました. | 2 |
育児と仕事を両立する訪問看護師の存在 | 大体皆さんお子さんがおられるので,定時に帰って子供のご飯作ったりしてるかな. | 2 | |
訪問看護経験が豊富で,知識・技術の豊富な訪問看護師による看護実践の体験 | 上の看護師さんから入りたての1・2年目の看護師さん,いろんな看護師さんに連れて行ってもらって,ある程度経験のある看護師さんは,見てる視線というか,技術の知識の量が全然違うなって圧倒されました. | 1 |
【1日の流れややりがいなど,訪問看護師の仕事を知る機会の提供】は,訪問看護師の24時間の生活リズムや看護師が思う訪問看護観が語られたこと,学生が訪問看護STの雰囲気を感じられるように配慮されていたことから示された.〈訪問看護師の24時間の生活リズムに関する会話〉は〔1日の流れについて,何時から始まるとか,何時ぐらいに家出てるとか,午前中に何件行って,救急がどれくらいあってみたいのは,聞いたと思います〕などから生成された.〈看護師が思う「訪問看護観」の語り〉は〔1番印象が強かったのは「在宅って最初から死ぬまで最後までずっと寄り添っていける看護だよ」って言われて,それも印象深くて.最後までその人の一生に寄り添えるのは訪問看護かなっていうのはありました.〕などから生成された.〈学生控室の位置や同行訪問の待機場所など,訪問看護ST内の雰囲気を感じられるような配慮〉は〔(訪問看護ST内の様子を見れて)学生っていう立ち位置じゃなくて,看護師の立ち位置というか.3年生の時には看護師さんが集まっている部屋が見えなかったんで,(4年生の実習で)初めての経験になりました.]などから生成された.
【忙しくても看護師同士が相談しやすい職場環境の体験】は,学生は,スタッフ数が少人数で多忙であっても,看護師同士が仲良く,利用者や訪問内容に関する細かな話し合いを行う姿を感じ取っていたことから生成された.〈看護師同士の仲が良く,明るい職場の雰囲気の体験〉は〔病棟では常にバタバタしてピリついてるのが頭にこびりついてて.在宅も忙しいのはもちろんあるんですけど,やっぱり病院とは空気が違うというか,(スタッフが)すごい仲いいなって思った〕などから生成された.〈利用者や訪問内容に関する看護師同士の細かな話し合いの見学〉は〔「先週はこの人どんなことしてましたか」「今回こうしたんですけどよかったですかね」みたいな.些細なことでも情報共有されてる印象があって,わからない時とか聞きやすそうと思いました.〕などから生成された.〈スタッフが少人数で多忙な状況の体験〉は〔すごい人数不足だったらしくて.妊婦さんが急に入院になったり,体調不良の方が出て,8人いるところを6人で回さないといけなくて,そのうち1人が新人の方って感じで.人が足りてないっていうのはすごいありました.〕などから生成された.
【訪問看護ステーション全体での誠実な学生指導】は,学生が質問しやすい雰囲気と感じたことや,看護師以外の職種からも指導されたことから生成された.〈学生に対する質問しやすい雰囲気づくりや丁寧な説明〉は〔すごく丁寧に利用者さんのことを教えてくれたり.どういう関わり方をするといいよっていうことを教えてくださった〕などから生成された.〈他職種も含めたスタッフ全員による協力的な学生指導〉は〔自分の看護計画や介入に関して,ケアマネさんとかリハビリさんにも情報を聞いて計画の修正ができたので,自分も多職種連携にちょっと関われたというか.情報共有とか,看護師の役割なのかなと思って.それはすごい印象に残ってます.〕などから生成された.
【新卒訪問看護師採用に関する,採用準備状況や率直な意見の情報提供】は,新卒訪問看護師の採用について,教育プログラムの作成状況,教育体制整備の困難,技術不足の懸念など,施設または看護師の考えが伝えられていたことから示された.〈新卒訪問看護師採用の実績,教育プログラムの作成,採用しようという意思など,採用に向けた準備に関する情報提供〉は〔1年の流れがあって,2年ぐらいで独り立ちした訪問看護師になれるようなプログラムがあるっていう冊子を見させてもらったので,教育体制が整っているっていうところも魅力でした.ちゃんと教えてもらえるというか.〕〔(新卒を)採ってないと思うんですけど,もうこれからは入れていかないとねっていう話はしていた.〕などから生成された.〈人手不足による教育体制整備の難しさや病院未経験による技術不足の懸念を理由とした,新卒訪問看護師採用への反対意見〉は〔スタッフが5人とかそれ以下だったかな.訪問件数は1日に4件,5件.看護師さんが少ないSTっていうのもあってか,最初の方で新卒訪問看護師は反対なんだよねっていう話をされて〕などから生成された.
【訪問看護師としてのキャリアモデルの提示】は,学生は,幅広い年齢層の訪問看護師や育児と仕事を両立する看護師の存在を見ていたことや,知識・技術の豊富な訪問看護師の看護実践に圧倒されたことから生成された.〈新卒からベテランまで幅広い年齢層の訪問看護師の存在〉は〔(新卒看護師がいる訪問看護STにて)新卒の人を雇ってる分,年齢層が若い人から年配の方までいて,すごいなと思った.在宅では年齢層上の人が多いイメージがある中で,若い人も働いてるんやっていうのはありました.〕などから生成された.〈育児と仕事を両立する訪問看護師の存在〉は〔大体皆さんお子さんがおられるので,定時に帰って子供のご飯作ったりしてるかな.〕などから生成された.〈訪問看護経験が豊富で,知識・技術の豊富な訪問看護師による看護実践の体験〉は〔上の看護師さんから入りたての1・2年目の看護師さん,いろんな看護師さんに連れて行ってもらって,ある程度経験のある看護師さんは,見てる視線というか,技術の知識の量が全然違うなって圧倒されました.〕から生成された.
《訪問看護実践の理解を促す指導》は,【学生と関係性を築きながら,初めての訪問看護に向けた概要説明】などの5カテゴリーで構成された.
【学生と関係性を築きながら,初めての訪問看護に向けた概要説明】について,訪問看護実習は,学生にとって,仲間となる学生や教員が同施設におらず,訪問先等の慣れない環境が続くことから,緊張度が高いとされる(中村,2023).訪問看護師が,学生の状況を理解し,緊張を緩和するよう関わったため,学生は,実習環境に馴染むことができ,安心して実習に取り組むことができたと考えられる.また,学生より,訪問看護STの理念等に加えて,訪問マナーの説明を受けたことが語られた.車での移動や他者の家に入るという経験をするため,実習前に訪問マナーの学習は行われる(森山ら,2015)が,実習で改めて説明され,その重要性の理解を深めたと考えられる.
【学生が初めて会う利用者・介護者に,どう関わればよいか心づもりをするための情報提供】について,学生Fを除いた研究対象者の同行訪問回数は6~30回であり,複数の利用者宅に訪問している.病棟実習では,担当患者は1名程度が主流であり,複数名の対応に慣れていない学生は,利用者・介護者の情報を十分に収集できない場合がある.〔カルテを見る時間はなかったけど(中略)手伝ってね」みたいなことを言ってくれて,学生を使ってほしかったから,嬉しかったです〕と語られたように,緊張や不安を抱える訪問前に,訪問看護師から情報を得て,準備を整えていたと考えられる.
【限られた訪問時間・訪問回数の中で,学生ができる限り利用者と関わるための細かな声かけ】【生活の中での看護実践の学生への共有】では,同行訪問中の看護師が,見学・一緒に実践・学生の実践のサポートという指導を使い分けていた様子が,学生より語られた.看護師の具体的な説明や指示により,学生は初めての訪問先でも困惑せず,利用者との関わりや生活の中での看護実践を体験する機会を得ていた.そのため,より訪問看護の実際の理解や新たな気づきが得られやすい状況となっていたと考えられる.
【利用者・介護者に対して訪問看護が与える影響を考察するための振り返り】では,学生より,移動中や隙間時間での振り返りの様子が語られた.訪問看護師は,常に訪問看護ST内に滞在していないため,看護師が可能なタイミングで振り返りが行われたと考えられる.また,学生は,訪問看護師の促しにより,経験した訪問看護場面を想起し,対象理解に繋げていた.安酸(1996)は看護学実習の教材化を「学生がクライエントやその家族,あるいは医療従事者との関わりの中で経験した事実や現象の中から,教師が典型的で具体的なものを素材として切り取る作業」とし,学習者の経験を素材とすることが重要とされる.訪問看護STへの就職を希望する学生は,訪問看護師による訪問看護場面を教材化した指導を経験し,訪問看護実践の学びを深めたと考えられる.
訪問看護師が実習指導で心がけていること(東海林ら,2021)や,熟練訪問看護師による学生への関わり(田村・牛久保,2018)と,《訪問看護実践の理解を深める指導》の内容は,類似していた.訪問看護STへの就職を希望する学生は,訪問看護師が意図した実習指導の内容を受け止めることができたため,呼応する結果が得られたと考えられる.訪問看護実習の経験が,訪問看護への関心やイメージに影響する(為永・篠崎,2023a)ため,訪問看護実習の具体的な経験内容として,このような実習指導が,学生の訪問看護への関心を高め,良いイメージを形成したと考えられる.
2. 働く場所として捉えてもらう指導《働く場所として捉えてもらう指導》は,【1日の流れややりがいなど,訪問看護師の仕事を知る機会の提供】などの5カテゴリーで構成された.
看護学実習は「学生が既習の知識・技術を基にクライエントと相互行為を展開し,看護目標達成に向かいつつ,そこに生じた現象を教材として,看護実践能力を習得するという学習目標達成を目ざす授業」(杉森・舟島,2016)であり,学生が看護実践を行いつつ,学習目標を達成する授業である.《働く場所として捉えてもらう指導》は,学習目標達成に直接影響する指導とは異なると考えられるが,実習の場における質の高い学習経験やロールモデルとの出会いは就職先の選択に影響し(福間ら,2011;大井ら,2009),看護学生の専門職社会化を最も期待できるのは臨床実習である(白鳥,2009).つまり,実習は看護職の価値の発見や自己の看護観を醸成する場であり,《働く場所として捉えてもらう指導》は,このような場をつくった訪問看護師の関わりを,学生が受け止めた結果と考えられる.
訪問看護STへの就職を希望する学生は【1日の流れややりがいなど,訪問看護師の仕事を知る機会の提供】【訪問看護師としてのキャリアモデルの提示】という指導を経験していた.学生にとって,利用者・介護者の生活に入り込み,生活を支える訪問看護のやりがいや,病院とは異なる勤務体系・緊急対応の状況などを知る機会となっていたと考えられる.また,キャリアモデルとして,新卒訪問看護師,知識・技術が豊富なベテラン訪問看護師や育児と仕事を両立する訪問看護師の様子を知り,訪問看護師としての成長・働き方を知る機会となっていた.訪問看護STへの就職を希望する学生は【新卒訪問看護師採用に関する,採用準備状況や率直な意見の情報提供】という指導を経験し,新卒採用に否定的な訪問看護師の意見を聞いた学生も,訪問看護STへの就職を希望していた.訪問看護実習を終えた看護系大学4校の4年生の39.2%が,訪問看護STに就職できることを知らない(為永・篠崎,2023b)とされており,他の先行研究でも,新卒訪問看護師に関する情報収集方法の少なさや学生への周知方法が課題とされている(井口ら,2021;大和ら,2019).訪問看護STへの就職を希望する学生は,新卒訪問看護師の存在や,否定的な内容も含めた訪問看護STでの新卒採用に関して,訪問看護師から情報を得ており,新卒から働くことができる場所であることを知る貴重な機会となっていたと考えられる.
訪問看護STへの就職を希望する学生は【忙しくても看護師同士が相談しやすい職場環境の体験】として,小規模の訪問看護STの多忙さや,忙しい中でも看護師同士が明るく話し合う様子を感じ取っていた.また,【訪問看護ステーション全体での誠実な学生指導】という質問しやすい雰囲気や,他職種も含めた誠実な学生指導を経験していた.臨地実習指導者には,学生を受け入れる病棟の雰囲気づくりや,学生の話に耳を傾けること等が求められる(近ら,2022).学生に寄り添う姿勢が,実習指導者には求められており,本研究の対象者は,実習指導者の役割を誠実に遂行した指導者・環境による指導を経験したと考えられる.このような施設の雰囲気は,実習を円滑に進めるために重要であるとともに,学生の就職意向にも影響する.看護学生の就職先の選択基準として「場所・地域」(91.6%)の次に「職場の雰囲気」(87.7%)が挙げられる(宇城ら,2009).訪問看護STへの就職を希望する学生も,学習目標の達成を目指しつつ,相談・質問のしやすさや丁寧な教育体制等の「職場の雰囲気」を感じ,訪問看護STで働くことを検討したと考えられる.
新卒での訪問看護STへの就職意向には,訪問看護STの教育体制や職場環境,学生が捉える訪問看護の社会的意義,新卒訪問看護師に関する情報量等が影響する(為永・篠崎,2023a).本研究の対象者は,訪問看護師の関わりにより,これらの影響要因を検討できたため,新卒での訪問看護STへの就職につながったと考えられる.つまり,《訪問看護実践の理解を促す指導》《働く場所として捉えてもらう指導》が行われることは,新卒での訪問看護STへの就職につながると考えられる.指定規則第五次改正前の在宅看護論では,最終学年に実習が配置された場合,学生は就職活動中または内定を受けた状態であったと考えられるが,新カリキュラムでは,訪問看護に関する実習時期が早期化する可能性がある.本研究が示した実習指導により,訪問看護STで働くことを選択肢の一つとするキャリアプランの検討につながることが考えられる.
本研究のインタビュー対象者は,6名と少数であるため,一般化するには限界がある.しかし,先行研究の熟練訪問看護師の実習指導や臨地実習指導者の役割を示す指標,訪問看護STへの就職を促す要因の内容が含まれており,訪問看護STへの就職を促す実習指導の内容として,妥当性があると考えられる.今後の課題として,対象者数を増やし一般化に努める.また,実習指導モデルとして訪問看護師が活用できる形につなげる.
訪問看護STへの就職を希望する学生は,訪問看護師から,訪問看護実践を理解する指導に加え,働く場所として検討するために必要な内容を教えてもらっていた.このような指導により,学生は就職先の選択肢の一つとして,訪問看護STを検討することにつながると考えられた.
謝辞:本研究にご協力いただきました新卒訪問看護師および学生の皆様,ならびに研究にご快諾いただきました訪問看護ステーションおよび看護基礎教育機関の管理者の皆様に感謝申し上げます.
利益相反:本研究において,申告すべき利益相反は存在しない.
著者資格:YTは研究の着想,デザイン,データ収集,データ分析,原稿作成を行った.USはデータ分析,原稿への示唆を行った.ESは研究プロセス全体での助言,原稿への示唆を行った.全ての著者は最終原稿を読み,承認した.