Journal of Japan Academy of Nursing Science
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The Behaviors and Intentions Nurses Provide Cosmetic Care for Clients in the Medical and Welfare Fields: From the Stories of Educated Nurses Related to Cosmetic Care
Chishio OhiraManami NozakiMitsuko Nagano
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2024 Volume 44 Pages 482-491

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Abstract

目的:医療・福祉現場における化粧ケア関連の研修を受けた看護師による化粧ケアの行動と意図を明らかにする.

方法:様々な化粧ケアの経験をもつ看護師10名を対象に半構成的面接を行い,質的帰納的に分析した.

結果:化粧ケアの行動と意図は10のカテゴリに集約された.それらは,化粧前・中・後のプロセスに沿った行動と意図,さらに,プロセス全体を通しての行動と意図のカテゴリに分類できた.看護師は事前に現場スタッフと連携を取り,個別の介入方法により,クライエントと真摯に向き合いながら外見全体を整えていた.単発のケアではなく,評価を組み入れ,繰り返し行い,クライエントが自己を表現し成長できるよう支援していた.

結論:看護師が行う化粧ケアの行動と意図は,全人的なアセスメントを通じて,生きる力を引き出し,相手の成長を促す看護として実施されていたことが示唆された.

Translated Abstract

Purpose: To clarify the behaviors and intentions of cosmetic care performed by nurses who have undergone cosmetic care training for clients in medical and welfare settings.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with 10 nurses with various cosmetic care experiences, and the results were qualitatively and inductively analyzed.

Results: Behaviors and intentions during cosmetic care were classified into 10 categories. These were classified into behaviors and intentions aligned with the pre, during, and post-makeup processes, and further categorized based on actions and intentions throughout the entire process. Nurses collaborated with on-site staff beforehand, employed individualized intervention methods, and earnestly engaged with clients, enhancing their overall appearance. Rather than providing isolated care, they incorporated assessment, repeated interventions, and support, aiming to help clients express themselves and foster personal growth.

Conclusion: It was suggested that the behaviors and intentions of the cosmetic care performed by the nurses were carried out as nursing care that drew out the zest for life and encouraged the growth of the other person through a holistic assessment.

Ⅰ. 緒言

「医療モデル」から,「生活モデル」への転換が求められている昨今(厚労省,2013),患者のQOLを高める手段の一つとして,化粧を取り入れた援助法が広がりを見せている(大石,2019カルデナスら,2013Boehncke et al., 2002).その対象は高齢者(久家・木藤,2015)や認知症患者(出羽ら,2008),精神疾患患者(早川ら,2013),慢性疾患患者(有川ら,2003土方ら,2013),重症心身障害児(者)(濱田ら,2015),視覚障害者(大石,2019)など様々であり,名称も「メイクセラピー」や「ケアメイク」「ソシオエステティック」など多様である.しかし,各領域によって方法や定義は異なっていても化粧を医療・福祉の領域に取り入れる目的は,単にきれいになることや化粧を上手にできるようになることではない.「健康寿命の延伸(池山,2019)」や,病気と共に生きている患者の活力・意欲・生活の質を維持・向上させること(カルデナスら,2013),最期まで人間としての尊厳やその人らしさを保つことであり,化粧ケアは外見ケアの一つとして化粧を活用する取り組みであると言える.

しかし,現在はまだ医療・福祉現場での化粧,特に彩りを添えるメイクアップやマニキュア等をケアとして捉える医療・介護従事者は少ない(藤井・伊堂寺,2015).実際,病院の規則などの理由から入院をきっかけに化粧をやめる患者は多く(池山,2020),その背景には観察の支障になることを懸念して医療従事者が患者の化粧を認めない実情がある(作田ら,2019).一方で,がん患者638名を対象にした調査(野澤,2011)では,患者の97.4%が外見の変化とケアの情報は病院で与えられるべきと認識していることが示され,外見変化に対するケアや支援の需要は高い.

看護領域において化粧を援助法として活用した研究を概観したところ,精神疾患患者(早川ら,2013),認知症患者(出羽ら,2008),高齢者(堤,2001丸山ら,2011)に対する介入研究が見られている.対象人数は限られているものの,メイクアップやマニキュアなどの化粧は患者の活動性を上げ,意欲的な社会参加に効果をもたらす可能性が示唆され(早川ら,2013),自己や他者への関心の向上,会話や快が表出され情緒安定へと繋がったことが報告されている(出羽ら,2008).しかし,これらの研究の多くは化粧の心理・社会的効果により被施術者側に見られたケア後の変化のみに焦点が当てられている.化粧を用いた援助法は,主にクライエントの顔に触れながらスキンケアやメイクアップを施すため,外見のケアの中でも化粧施術者と被施術者身体的距離が近く,両者の関係性がケアの効果にも影響を及ぼすことが考えられる.したがって,化粧を医療・福祉領域における援助法として効果的に活用していくためには,こうした化粧ケアのプロセスを明らかにしていくことが必要であると考える.

そこで本研究では,化粧ケア関連の教育を受けた看護師が,医療・福祉現場のクライエントに対して行う,化粧ケア時の行動と意図を明らかにする.看護師がどのようなことを意図しながらどのように化粧ケアを実践しているかが明らかになることは,医療・福祉現場のクライエントに行う化粧ケアの特徴を捉えることができ,新たな援助法として確立するための基礎資料となることが期待できる.

Ⅱ. 研究目的

本研究の目的は,医療や福祉現場のクライエントに対し,化粧ケア関連の教育研修を修了した看護師が行う化粧ケアの行動と意図を明らかにすることである.

Ⅲ. 用語の定義

化粧ケア:看護師の判断で実施が可能なスキンケア,メーキャップ化粧品を使用し,顔を整えることで精神的・身体的・社会的・スピリチュアルな面の改善を期待する援助法とした.

クライエント:疾患や障害・加齢による精神的・身体的・社会的・スピリチュアルな課題の解決,およびQOLの向上を目指し,在宅・福祉施設・医療関連機関などで医師や看護師に援助を求める人とした.

Ⅳ. 研究方法

1. 研究デザイン

質的記述的研究デザインである.

2. 研究対象者の選定

現在,化粧ケアに関する統一した資格認定や教育内容の体系化は行われていないが,インターネットを活用した研修やテキストを用いた自己学習と検定試験,対面による講習会などが行われている.研究対象者が行っている化粧ケアの質を保証するために,こうした民間企業や団体(化粧療法・リハビリメイク®・アピアランスケア・ソシオエステティックなど)で行われている化粧ケアに関連する教育研修を修了した看護師で,入院・外来患者,福祉施設や在宅における医療・福祉サービスの受給者等に対して個別の化粧ケアを行なった経験を持つ者を対象とした.なお,エンゼルメイクは既に看護援助として方法論および留意点等が確立されているため,本研究ではエンゼルメイクのみの実施者は除外した.

また,調査者自身も看護師であり,一般病棟での臨床経験を有している.さらに,民間企業でメイクセラピーおよび化粧療法の研修を受け,職業として要介護高齢者などを対象とする化粧ケアの経験を持っている.これらのことから,調査者のネットワークを活かして機縁法で7名リクルートし,さらに広く意見を収集するために化粧ケア関連の教育団体からの紹介を受けて募集した.化粧ケア関連の団体責任者宛に研究の趣旨をメールにて説明し,上記対象条件の該当者を紹介してもらった.研究の趣旨と方法を説明し,同意の得られた者を調査対象者とした.

3. データ収集方法および分析方法

研究対象者に60分程度の半構造化インタビューを行った.新型コロナウイルス感染拡大予防のため,インタビューは全てWeb会議システムによるオンラインインタビューとした.インタビューの内容は,1)化粧ケアのプロセスに沿った行動とその意図,2)関わりの中で意識している点・大事にしている点,3)これまでに経験した化粧ケアの印象深い事例についてであった.実施場所は,インターネット通信環境の良い静かな任意の場所とした.また,研究参加者には基本的属性および,実施する上でのモットーについては事前にフェイスシートへの記入を依頼した.

インタビューで得られたデータは,グレッグ(2020)の質的記述的研究デザインの分析方法を参考に分析した.具体的には,インタビュー内容から逐語録を作成し,対象者の行動に着目し,その意図が明瞭に判断できる記述を取り出し,意味内容が変わらないよう要約した.要約から化粧ケア時の行動と,その意図がセットになっている内容を取り出してコード化した.その後,類似と差異の視点で比較検討を行い,サブカテゴリ化(抽象化),さらに抽象度を上げカテゴリ化し,命名した.それらを時間経過毎に分類した.分析内容の確証性・妥当性を確保するため,随時研究指導教員よりスーパービジョンを受け分析を進めた.任意で協力の得られた研究参加者9名より最終分析段階でメンバーチェッキングを受けた.

4. データ収集期間

2021年4月から9月までインタビューを実施した.

5. 倫理的配慮

研究対象候補者には,研究協力は自由意思によるものであり,断ってもなんら不利益を被らないこと,同意を得た後でも面接後2週間以内であれば,取りやめることができることを文章と口頭にて説明した.また,インタビュー時,研究参加者が身体面・精神面に変化がないか常に留意し,インタビュー中でも万が一負担を感じた場合はすぐ中止出来ることを確認した.なお,本研究は,順天堂大学大学院医療看護学研究科研究等倫理審査委員会の承認を得て行った.(承認番号:2020-81)

Ⅴ. 結果

1. 研究協力者の概要

1) 属性

研究対象者は,10名の看護師国家資格保有者で全員女性であった.年齢は30~60代,看護師経験年数は3.5~26.0年(平均17.1年),化粧ケア経験年数は10ヶ月~18年(平均8.3年)であった.現在の勤務先は病院4名,介護老人保健施設1名,訪問看護ステーション1名,診療所1名,保育所1名,大学教員1名,フリーランス1名であった.化粧ケアの累積実施件数は,自己申告により10~3,000件(概算),相談のみで終わり化粧ケアの実施に至らなかった件数は10~1,000件(概算)であった.化粧ケアを行う対象はがん患者,高齢者,認知症を有する者,精神疾患患者,身体・知的障害者,皮膚障害を有する者,終末期患者であり,実施場所としては急性期病院(外来・病棟),介護施設,クリニック,デイサービス,在宅等であった(表1).過去に受講した(化粧ケア関連)講座の内容はリハビリメイク®,カバーメイク,アピアランスケア,ソシオエステティック,メイクセラピー,化粧療法などであった.

表1 研究対象者の属性

対象者 性別 年代 看護師経験年数 化粧ケア経験年数 対象 実施件数 相談件数 実施場所
A 60代 7年 3年 がん患者・高齢者・認知症・終末期 700 不明 介護施設・デイサービスクリニック
B 50代 18年 18年 がん患者・高齢者・精神疾患者・認知症・皮膚障害を有する者 500 20 急性期病院(外来)・クリニック化粧ケア専門サロン
C 40代 3.5年 8年 高齢者・皮膚障害を有する者 50 20 急性期病院(外来)
D 30代 16年 13年 高齢者・精神疾患者・認知症 50 100 急性期病院(病棟)
E 40代 26年 13年 がん患者・高齢者・認知症障害者 1,000 不明 介護施設・在宅
F 40代 17年 7年 がん患者・慢性疾患患者 100 200~300 急性期病院(病棟)
G 40代 6年 10年 がん患者・終末期患者 3,000 200 急性期病院,在宅
H 40代 21年 6年 がん患者 10 300 急性期病院(外来・病棟)
I 40代 24年 10ヶ月 高齢者 10 10 在宅
J 50代 23年 10年 がん患者・終末期患者 300 1,000 急性期病院(外来・病棟)

2) 化粧ケアを行う上でのモットー

対象看護師が化粧ケアを行う上でのモットー(自由記載)は,『化粧ケアを通じてその人らしさを支える(4名)』『外見の悩みを解消し自信をもって生きられるようサポートする(3名)』『笑顔が増え意欲や精神面が活性化する(3名)』『外に一歩出て社会復帰できる手伝いをする(2名)』その他,『快刺激を与え苦痛緩和をはかる(1名)』『話をしながら美容技術を提供し活動性を向上させる(1名)』などが挙げられた.

2. 対象看護師の化粧ケアの分析結果

面接時間は平均77分(41~91分)であった.対象看護師の化粧ケアの行動と意図は,97コード,28サブカテゴリ,10カテゴリに集約された.形成された10カテゴリを時間経過に沿い分類した結果,化粧前・中・後のプロセスに沿った行動と意図,さらに,プロセス全体を通しての行動と意図のカテゴリに分類できた(表2).

表2 医療・福祉現場のクライエントに化粧ケアを行う看護師の行動と意図

【カテゴリ】 《サブカテゴリ》 [コード]
化粧ケア前
個別性を踏まえたアセスメント 化粧ケアに適した対象の選定 訪問の場合は現場スタッフの方がクライエントの状態を知っているため化粧ケアに適する対象を選定してもらう(A)
化粧ケアの適性を知るため自作のガイドラインを活用し,対象の選定を行なう(D)
ケア内容検討のための情報収集 クライエントの生活背景や活動レベルによってケア内容が変わるため事前に情報収集をする(E.F.G.J)
一人ひとりの状態に合わせた計画の立案 相手の目的に合わせた化粧ケアの提案 治療や疾患による外見の変化は社会生活上の困難になることがあるためメイクを活用する(B.C)
終末期のクライエントが衰弱する気持ちに変化を起こすために化粧をして外見を変化することを提案する(E.H.J)
家族に元気な姿を見せるために化粧をすることを提案する(H)
プライバシーに配慮した環境設定 ブライバシーに配慮し,本人が安心してケアに集中できる場を設定する(D.F.G)
化粧が周囲に悪い刺激にならないように実施場所を考える(D.E)
認知症高齢者は変化が大きいことが負担になるため,いつもと同じ状況の中で行う(E)
皮膚トラブルを回避する化粧品の選定 クレンジングができない人もいるため落ちやすい化粧品を使用する(D)
敏感肌の方もいるため安定した成分の化粧品を選定する(D)
化粧品によるトラブルがおきないようなるべく本人用を使用する(G)
相手のニーズを考慮した導入方法の検討 周囲からの目に配慮して化粧という言葉を使わずに誘う(A)
メイクをしてもらいたくて来ているクライエントは悩みが明確なためすぐにメイクで対応する(B.G)
化粧よりも話を聞くことが優先だと判断した場合はカウンセリングを中心に行う(B)
顔に触れられることに慣れていないクライエントもいるため,いきなり顔に触れずハンドケアから始める(E)
心身状態を考慮したケア内容の検討 心身状態の変動があるため化粧をするか本人の意思を尊重し介入方法を検討する(D)
あまり長くなりすぎるとお互いに疲れるため時間を調整する(F)
高揚感や気分転換を図るために化粧ケアの内容を変化させる(E.G)
香りを楽しみながらゆったりとした時間になるようアロマを使用する(I)
化粧ケア中
信頼して心を開いてもらうための一貫した態度 心の距離を近づけるための安心感のあるかかわり 心を開いてもらいやすいよう明るく親しみやすい雰囲気をつくり,施術側から心を開く(B.C.E.F.G.H.J)
相手を大事に思っていることが伝わるよう最初から最後まで共感的姿勢で相手を受け入れる(A.C.E.H)
お互いの関係性がケアになるため会話や空気感,間などを大事にしながらクライエントのそばに寄り添う(D.E)
楽しい時間を共有することが大事なため本人が話したいことを自由に話してもらう(D.E.I)
外見の悩みを楽しめるように一緒にウィッグやメイクを行う(H)
安心感を与えるために視線の高さを合わせ,真っ正面には座らない(C.D)
相手の反応を尊重したペース配分 リラックスしてもらえるよう相手のペースに合わせる(A)
施術側主導にならないようにメイクをしながら患者の満足度や気持ちの変化を確認する(A.B.F)
相手のテリトリーを意識した心の接近 外見の苦痛はデリケートな内容も含むため様々な事情や背景を理解し,クライエントの問題に安易に踏み込まない(B.E.G)
心の距離を近づけ本気で向き合いながらも自分の気持ちをコントロールできるよう感情移入しすぎない(G)
外見の悩みは信頼関係ができていないと言いにくいのでタイミングを図りながら少しずつ距離を縮める(B.H.J)
化粧ケアの専門家としての誠実な態度 外見に関わるケアのため自身の外見も綺麗に整えきちんとした態度で接する(G.J)
外見の相談をできる機会は少ないので,言いにくいことでも正直に伝える(F.H)
化粧ケアの専門である看護師に安心して委ねてもらえるよう,一つ一つ説明して同意を得ながら行う(A.B.E.J)
化粧は必要ないことだと思われやすいのでケアの目的や意図を明確にクライエントに示す(A.D.H)
家族にも納得してケアを受けてもらうため,家族ともコミュニケーションを図る(B.I)
悩みを解決し前向きになれるための対話 外見を含む生活上の悩みを解消するための傾聴 発達段階や治療内容によって悩みや不安は異なるため気持ちに寄り添いながら治療や疾患に関する困りごとを解消する(B.C.F.H)
外見の悩みの本質はその人と社会との問題であり個別性が高く言いにくいため,話しやすい雰囲気を作り聞き出す.(F.H.J)
前向きになれるための承認の言葉かけ クライエントの自己効力感が高まるよう,話を聞きながらこれまでの闘病生活を全面的に承認する(C.J)
会話の中で周囲からの愛情を実感し,これからの生活を楽しめるように気づきを促す質問をする(C)
病気も自分の一部だと自信を持って生きられるよう,メイク中もポジテイブな言葉で褒める(C.H.I)
前向きになれるよう暗い顔はせずワクワクする声かけをする(D.E.H.I)
「キレイ」や「いいね」という言葉は自信につながり気分も上がるため周囲から反応をもらえるよう働きかける(E.F.G)
クライエント周囲に笑顔が増えるよう,家族を含めて会話する(I.J)
肌を整え親密性を深めるフェイスケア 明るく健やかな肌に導くスキンケア 皮膚の弱いクライエントもいるため肌の状態を確認する(E)
感染のリスクを考え衛生面に配慮し,リスクがありそうな部位には触れない(E.G.I)
肌を健やかに保ち,自身をねぎらう気持ちになってもらいたいのでメイク前はスキンケアを行う(D.I)
入院中でも自分の明るい顔を見ると気持ちが元気になるのでホットタオルを使用して血行を促進する(G)
皮膚を傷つけないように優しく化粧水をつける(E)
心地よさと親密性を深める顔のマッサージ 不快感を与えないよう手の力を抜いて手掌全体でゆっくりと触れる(A.C.G.I)
ストレスフルな状態のクライエントに気持ち良さを感じてもらい苦痛を緩和するために顔のマッサージを行う(A.I)
人肌を感じるマッサージは独特な関係が生まれお互いに感動をもたらすため,顔のマッサージを勧める(A)
終末期患者に幸せを感じられる時間を提供するためじっくり時間をかけて一連の化粧ケアを行う(H)
尊厳を保持し個人と社会をつなぐその人らしさの演出 尊厳が凝縮された顔に敬意を表するタッチング 顔はその人の尊厳が凝縮される部分なので承諾を得て触れる(A.I)
施術側の姿勢は触れる手つきに表れるため顔への敬意を表しながら特に慎重に行う(A)
本人らしさを表現するためのメイクアップ クライエント自身が自分の外見に満足できるようこちらの意見は少し抑え本人の意向に合うメイクをする(C.D.F.H.I)
その人らさしさが表現できるよう,気になる部分を隠すだけではなくチャームポイントを活かしたメイクを提案する(C.I.J)
顔だけ浮かないようヘアスタイルやファッションを含めトータルで本人の個性を表現する(C.H)
カバーしないといけないと思わせなないよう必ずメイクをする必要はないことを伝える(F)
周囲との関係性を考慮した外見のイメージ創り 社会生活を円滑に送るため他者評価と自己表現のバランスのとれたメイクをする(C.D.H)
周囲からも声をかけやすいよう健康的で艶やかな印象にする(A.C.E.I.J)
病気だと周囲から気づかれないように元気だった頃のイメージに近づける(F.G)
遺される家族のために化粧ケアを通じて一瞬でも元気な“お母さん”の姿を残す(H)
終末期のクライエントの心地良さそうな表情を見てもらうために家族や看護師に同席してもらう(A)
生活の中でいかせる外見のセルフケア支援 セルフケア能力をアセスメントするための状態観察 対象が元気な人でなないためメイクをしながら身体状態を観察し,できないことは無理にやらせない(A.E.I.J)
生活の中でできることを確認するために,どこまで本人が化粧行動がとれるかアセスメントをする(D.H.J)
自主性を向上させるためのエスコート まずはどんなものか体験してもらうためにメイクの手本を見せる(B.C.H)
自分に意識が向き,やってみようと思えるように外見の変化を伝えながら鏡を見せる(C.H.I)
一歩外に出るために化粧品を買いに行くことを勧める(H)
本人が楽しみながらメイクができるよう本人のペースを乱さない(D.I)
クライエントの認知度やレディネスに合わせメイクの手順をエスコートする(C.D.F)
生活の中で継続できるための情報提供とセルフケア指導 セルフケアができるよう化粧品や道具の選び方を伝える(A.C.H.J)
疾患や治療の特徴により必要な情報は異なるので,その人に必要なケア方法を伝える(C.F.H.I.J)
外見ケアへのハードルを下げるために身近で購入でき成分の安定性の高いコスパの良いものを勧める(D.F.G.H.J)
本人が生活の中で継続できるようこれまでのライフスタイルを聞いた上で,できることを一緒に考える(F.G.H.I.J)
自分らしく社会復帰できるために必要な時に自分で行える外見ケア方法を具体的に指導をする(B.D.F.H.J)
自分で外見ケアのアイテムを決定できるよう選択肢を複数提示する(F.H)
退院後も自分でメイクができるようになるためにこちらが手を出しすぎない(C.D.H.I)
一人でメイクを覚えることが難しい場合は家族にも説明し協力してもらう(C.F)
化粧ケア後
より良い化粧ケアにつなげるための評価 本人の気持ちを知るための反応の確認 外見の問題は心理的影響が大きいため化粧ケアによる気持ちの変化を確認する(B.H)
クライエント自身が大丈夫だと思えることが大事なため化粧後は客観的な視点で自らの外見を確認してもらう(B.H)
表情だけでは読み取れない外見の受容度を数値で評価する(B.H)
より良いケアのための振り返り より良いケアに向けてセラピスト同士でケアの振り返りをする(B)
その人らしく生きることを支える継続的なかかわり 社会で生きていくために行う外見のケア 患者という枠にとらわれず病気以外の個性を広げて生きていくきっかけの1つとして化粧ケアを行う(C.H)
医療者をうまく使い,社会での対処能力をつけてもらうよう意識づける(H)
外見は他者とのコミュニケーション手段であり,個人と社会をつなげるために化粧ケアを行う(E.F)
外見症状があると外出が億劫になるため,自分らしさを取り戻し人との交流ができるように外見の悩みを解決する(C.F.H.I.J)
変化する外見の悩みに対応する継続的なかかわり 1回だけでは解決できないこともあるため単発で終わらせるのではなく,次につながる約束をする(A.B.D)
外見の悩みのある患者と継続的に関わるために他職種と連携を図る(H)
生活していたら外見の悩みも変化するためいつでも相談できることを伝える(F.G.H)
自信がつき治療意欲の向上につながるため,教えっぱなしにせずできていることをフィードバックしていく(I.J)
全体を通して
化粧ケアの理解と協力を得るための現場への働きかけ 現場の理解と協力を得るための周知活動 施設からの理解を得るために管理者や介護スタッフに化粧ケア導入前に説明を行う(A)
他の看護師からの協力を得るため病院内にポスターで周知し,集合研修を行う(F.H)
現場の負担を考慮した化粧ケア 多忙な現場スタッフに手間をとらせないよう,できることは自分が動く(E.G)
施設スタッフがクレンジングを行う手間を考え落としやすいメイクにする(A.E)
医療従事者からの理解を得るための情報共有と効果の発信 他の看護師との情報共有のため化粧ケア後は看護記録への記載する(D.G)
化粧ケアの有用性を他の医療従事者に発信するために効果を示す(B.C.H)

以下にその内容を述べる.なおカテゴリを【 】,サブカテゴリを《 》,コードを[ ]で示す.

1) 化粧ケア実施前の行動と意図

化粧ケア実施前の行動と意図は2つのカテゴリから構成された.対象看護師は,化粧ケアを実施する前からカルテや現場スタッフからクライエントの治療や疾患,生活背景や活動レベル,人となりや美容に対する関心度などの情報を得てクライエントの全体像をつかみ,その人にあった方法を検討して介入していた.【個別性を踏まえたアセスメント】では,化粧ケアの対象を選定する上での行動と意図が反映され,対象看護師が,《化粧ケアに適した対象の選定》をする様子や,《ケア内容検討のための情報収集》をすることが挙げられた.また,【一人ひとりの状態に合わせた計画の立案】では,化粧ケアの目的は人それぞれ異なることを念頭に,《相手の目的に合わせた化粧ケアの提案》をしていた.また[顔に触れられることに慣れていないクライエントもいるため,いきなり顔に触れずハンドケアから始める]など《相手のニーズを考慮した導入方法の検討》をするなど,クライエントのニーズや状態を把握しながら方法や介入の程度を変化させている様子が明らかとなった.

2) 化粧ケア実施中の行動と意図

化粧ケア実施中の行動と意図は,5つのカテゴリから構成された.対象看護師はクライエントに対し,【信頼して心を開いてもらうための一貫した態度】で接し,【悩みを解決し前向きになれるための対話】をしながら【肌を整え親密性を深めるフェイスケア】をしていた.さらに,【尊厳を保持し個人と社会をつなぐその人らしさの演出】としてメイクアップ化粧品を用い,【生活の中でいかせる外見のセルフケア支援】を行なっていた.

【信頼して心を開いてもらうための一貫した態度】は,化粧ケア中の対象看護師の意図的な態度を示していた.[心を開いてもらいやすいよう明るく親しみやすい雰囲気をつくり,施術側から心を開く]とあるように《心の距離を近づけるための安心感のあるかかわり》を意識し,[外見の悩みは信頼関係ができていないと言いにくいのでタイミングを図りながら少しずつ距離を縮める]よう《相手のテリトリーを意識した心の接近》をしていた.[化粧ケアを専門とする看護師に安心して委ねてもらえるよう,一つ一つ説明して同意を得ながら行う]など,外見の悩みは他人に言いにくいという共通認識を持ち,《化粧ケアの専門家としての誠実な態度》でクライエントが安心して心を解放し,自らの悩みや外見を委ねることができる関係性を意識していた.

【悩みを解決し前向きになれるための対話】は,対象看護師が化粧ケアの最中の意図的な会話や声かけを示していた.《外見を含む生活上の悩みを解消するための傾聴》では[発達段階や治療内容によって悩みや不安は異なるため気持ちに寄り添いながら治療や疾患に関する困りごとを解消する]よう,外見上の悩みだけではなく治療や疾患に対する会話も行われている様子が明らかとなった.そんな中でも[「キレイ」や「いいね」という言葉は自信につながり気分も上がるため周囲から反応をもらえるよう働きかける]など《前向きになれるための承認の言葉かけ》を意識し,周囲の現場スタッフや家族にも働きかける対象看護師の様子が明らかになった.

【肌を整え親密性を深めるフェイスケア】は,顔のスキンケアを行う際の対象看護師の意図的な行動を示していた.このカテゴリは《明るく健やかな肌に導くスキンケア》と《心地よさを提供し親密性を深める顔のマッサージ》の2つのサブカテゴリから構成されていた.[ストレスフルな状態のクライエントに気持ち良さを感じてもらい苦痛を緩和するために顔のマッサージを行う]と語られたように,スキンケアは肌を健やかに整えるために行うだけでなく,心地よさと相手との親密性を深めながら,苦痛が緩和されることを期待して行われていた.また,入院中のクライエントの肌の状態を指摘し,メイク以前にまずは肌の汚れを落とし,清潔に保つことの重要性が語られた.

【尊厳を保持し個人と社会をつなぐその人らしさの演出】は,“化粧”を活用してクライエントの顔を中心とした外見を整える際の対象看護師の意図的な行動を示していた.ここでいう化粧とは,本研究の化粧ケアの定義でもある実際にメーキャップ・ネイル化粧品などを使用して行う行為のことであった.対象看護師は,《尊厳が凝縮された顔に敬意を表するタッチング》をしながら《本人らしさを表現するためのメイクアップ》をしていた.クライエントのもつ社会的背景を考慮し[遺される家族のために一瞬でも元気な“お母さん”の姿を残す][クライエント自身が自分の外見に満足できるようこちらの意見は少し抑え本人の意向に合うメイクをする]など,《周囲との関係性を考慮した外見のイメージ創り》をする様子が明らかとなった.

【生活の中でいかせる外見のセルフケア支援】は,クライエントが生活の中で主体性をもって化粧を含めた外見のケアができるようにセルフケア支援をする対象看護師の意図的な行動を示している.対象看護師は,《セルフケア能力をアセスメントするための状態観察》をしながら,[本人が楽しみながらメイクできるように本人のペースを乱さない]ように《自主性を向上させるためのエスコート》をしていた.また,[(化粧ケアの)対象が元気な人ではないためメイクをしながら身体状態を観察し,できないことは無理にやらせない]ように,《生活の中で継続できるための情報提供とセルフケア指導》をしていた.

3) 化粧ケア実施後の行動と意図

化粧ケアを実施した後の対象看護師の行動と意図は,2つのカテゴリから構成された.対象看護師は化粧ケアを単発で終わらせず,自らのケアを振り返り【より良い化粧ケアにつなげるための評価】をしながらクライエント自身が【その人らしく生きることを支える継続的なかかわり】を目指して化粧ケアを行っていた.

【より良い化粧ケアにつなげるための評価】は,化粧ケア後の変化を振り返り,ケアの評価をする意図的な行動を示していた.化粧をした外見の変化だけでなく,《本人の気持ちを知るための反応の確認》とあるようにクライエントの気持ちの変化を察知しようとしていた.中には気分プロフィール検査(Profile of mood states)や状態・特性不安検査(State-Trait Anxiety Inventory)などの客観的指標を用いて化粧ケア前後の変化を可視化し《より良いケアのための振り返り》を行う看護師の様子が明らかとなった.

【その人らしく生きることを支える継続的なかかわり】は,一連の化粧ケアのその後を見据えた意図的な行動を示していた.対象看護師たちは,[外見は他者とのコミュニケーションの手段であり,個人と社会をつなぐために化粧ケアを行う]と考えていたように《社会で生きていくために行う外見のケア》の一つとして化粧を捉え,化粧ケアの先に人や社会との関係があることを視野に入れていた.そして,[生活していたら外見の悩みも変化するためいつでも相談できることを伝える]よう,この化粧ケアを単発で終わらせるのではなく,《変化する外見の悩みに対応する継続的なかかわり》が必要であると考え,[外見の悩みのある患者と継続的に関わるために他職種と連携を図る]様子が語られた.

4) 化粧ケア全体に共通する行動と意図

対象看護師はまだ認知度の低い化粧ケアを現場の中のケアの一つとして浸透していくよう周囲に働きかけながら実践していた.化粧ケア全体を通じて共通する対象看護師の意図的な行動として【化粧ケアの理解と協力を得るための現場への働きかけ】が生成された.対象看護師は,化粧ケアを導入する前から《現場の理解と協力を得るための周知活動》や,ケア中も[多忙な現場スタッフに手間をとらせないよう,できることは自分が動く]とあるよう《現場の負担を考慮した化粧ケア》を意識していた.また,医療現場では今はまだ化粧ケアを実施できる環境が整っていないことを指摘し《医療従事者からの理解を得るための情報共有と効果の発信》が大切であると考え,行動していた.

Ⅵ. 考察

1. 化粧ケアのプロセスの特徴

医療・福祉現場のクライエントに化粧ケアを行う看護師は,クライエントと対面する前から【個別性を踏まえたアセスメント】を行い,化粧ケアの適用を判断しながら事前に【一人ひとりの状態に合わせた計画の立案】を行なっていた.クライエントの健康問題またはニーズを見極め,望ましい結果が達成できるよう適切な介入方法で化粧ケアを実施し,実施した後には【より良い化粧ケアにつなげるための評価】を行い,必要に応じてこのプロセスを循環させていくために【化粧ケアの理解と協力を得るための現場への働きかけ】を行なっていた.最終的には【その人らしく生きることを支える継続的なかかわり】を行うことを目指していた.こうしたプロセスは,看護過程の5つのステップ(Rosalinda & 江本,1987/2008)であるアセスメント,看護診断,計画,実施,評価のプロセスと同様であると考えることができる.看護過程は,「対人的援助関係を基盤として,看護の目標を達成するための科学的な問題解決法を応用した思考過程の筋道である」と定義されており(日本看護科学学会,2011),化粧ケアを行う看護師も,クライエントとの信頼関係を基盤に一人ひとりの“もてる力”に着眼し,化粧を活用して外見を整えることによりその人らしい生き方を支えようとしていたと考えられる.さらに,すべてのプロセスにおいて通底する2つの特徴があると考えられた.以下,この2つについて述べる.

1) 化粧ケアを通じて行われるケアリング

本研究の全ての対象看護師が医療・福祉現場のクライエントに化粧ケアを行う際には,意図的に【信頼して心を開いてもらうための一貫した態度】で関わっていた.それは,[外見の悩みは信頼関係ができていないと言いにくいのでタイミングを図りながら少しずつ距離を縮める]とあるよう,外見の苦痛はデリケートな悩みであるという共通認識があったためだと考えられる.初対面の時から安心感のあるかかわりを意図し,《化粧ケアの専門家としての誠実な態度》で一人ひとりと真摯に向き合う様子があった.また,対象看護師は顔だけでなく,外見全体を捉えてトータルでサポートしようとしていた.こうした外見を含む自分の身体が自分にどう見えるかという概念はボディイメージであり(Mave, 1988/1992),NANDA-Iの看護診断では,自己概念と自己尊重,ボディイメージが自己知覚を形作っているとされている(上鶴,2021).またPatzer(1997)は,人々は化粧品を使用した後,より身体的に魅力的であると認識されることを指摘し,自尊心に大きな影響を与え,対人関係も改善されることを言及している.医療・福祉現場のクライエントにとっては,病状や加齢の進行に伴い,変化していく自身の外見と向き合いながら化粧を行うことは,自らの病気や老い,これから先どうなっていくかという自身の生き様と向き合うことにもつながると捉えられる.つまり,化粧ケアはクライエントの外見を整えながら,自己知覚の課題と向き合い,他者との関係性にも考慮している援助であると言え,対象看護師たちは慎重に関係性を築いたことが推測される.

特に触れるという行為は,言葉という媒介をもたない皮膚から皮膚への直接的なコミュニケーションであり,看護師とそれを受ける人々の両者に,深い感覚的・情動的交流をもたらすとされている(川原ら,2009).対象看護師たちは,“顔”を物質的な身体の一部分ではなく,全人的な人間という存在の多様な背景や文化的な文脈に想いを馳せ,意識して顔に触れていること語っていた.Watson(2012/2020)は,看護において,ケアをする人とされる人が,深く関わりつながるとき,本来の人間らしさが表現され,新たな可能性を見いだしていく貴重な瞬間があると述べており,対象看護師がクライエントの顔に触れている時間は,Watsonが述べる人と人とが精神と精神で深くつながるトランスパーソナルな関係を築いていたのではないかと推測される.ケアリングは看護の道徳的理念として捉えることができ,そこでは,人間の尊厳と人間性の保持に最大の関心が払われる(Watson, 2012/2020)とされている.このことは,本研究で明らかとなったカテゴリ【尊厳を保持し個人と社会をつなぐその人らしさの演出】と一致している.看護師の化粧ケア中の意図的な態度や行動は,クライエントと相互作用の上で相手の尊厳を保持し,人間性を高めながら相手の成長を促すケアリングであることが示唆された.

2) コンフォートな状態をつくりながら行うセルフケア支援

化粧ケアの最中,対象看護師たちは《プライバシーに配慮した環境設定》や《明るく健やかな肌に導くスキンケア》など,ケアの時間そのものがクライエントにとって安心と心地よさを感じられる状況,つまり,コンフォートな状態を創り出していたと言える.この心地よさというのは看護において重要な概念である.日本語では「安楽」,英語では「Comfort」とされており,英語のComfortの語源はラテン語の「confortare」であると言われ,「大いに力づける」という意味をもつ言葉である(江川,2014).対象看護師たちは,《前向きになれるための承認の言葉かけ》や《本人らしさを表現するためのメイクアップ》など,クライエントの自尊心やアイデンティティに関わるコンフォートを高め,《現場の理解と協力を得るための周知活動》や《医療従事者からの理解を得るための情報共有と効果の発信》のようにクライエントを取り囲む人的環境にも働きかけていた.さらに,《相手の反応を尊重したペース配分》や《相手のテリトリーを意識した心の接近》を意図して行動するなど,施術する側との関係性が相手にとって不快感を与えることなく安心できる関係構築を意図していた.コルカバは,コンフォートを「緩和,安心,超越に対するニードが,経験の4つのコンテクスト(身体的,サイコスピリット的,社会的,環境的)において満たされることにより,自分が強められているという即時的な経験である」と定義しており(Kolcaba, 1997/2008),縄(2006)は,「Comfortの状態が高くなっていった結果としてクライエントが自分の力で自分らしく生きていくことがもたらされる」と分析している.顔のマッサージにより身体的な心地よさを与えることや,綺麗になっていく自分を見ながら自尊心を高め,愉しいと感じること,プライバシーに配慮した安心・安全な環境をつくること,施術者や周囲とのつながりを感じられる関係性を築くことなどは全てクライエントのコンフォートを見極め,強めていた行動と考えられる.したがって,化粧ケアはまさにクライエントのコンフォートを高めるプロセスだったと言える.

さらに対象看護師たちはクライエントのコンフォートを高めたのち,【生活の中でいかせる外見のセルフケア支援】を行っていた.このセルフケア支援は,がん治療を受ける患者への外見変化に対するケアに関する先行研究(飯野ら,2017)で抽出されている大カテゴリ〔外見変化に対応した生活を送るためのセルフケア支援〕と同様の結果であった.セルフケア支援を行う前にコンフォートを高めることで,クライエント自身に前向きな力を与え,その後のセルフケア支援がよりスムーズに行うことができたのではないか.つまり,コンフォートの状態が高まり大いに力づけられたクライエントは生きる意欲が引き出され,化粧や美容などにも積極的に取り組めるようになったと考える.このように患者自身で化粧ケアを行うことによって,自身の身なりへの興味が生まれたり,自身でケアを行えることの喜びにもつながったりし,抑うつの改善が認められることが期待できる(土方ら,2013).病気や障害を持ちながらも周囲とのつながりの中で自分らしく生きていくことを支える看護がますます必要となる中で,個人のコンフォートを高めながら自己を表現し,社会とつながりを深める化粧ケアの意義が示唆された.

2. 本研究の限界と今後の課題

本研究は,化粧ケアを行う看護師10名の語りによって得られたデータであり,対象看護師が無意識下で実施する行動や記憶に残っていない意図は反映されていない.今後は,参加観察やクライエント側へのインタビュー調査を行い,相互作用の中で行われる化粧ケアのプロセスを明らかにし,誰もが実践できる看護・介護技術として体系化していくことが課題である.

Ⅶ. 結論

化粧ケア関連の教育を受けた看護師が医療・福祉現場のクライエントに対して行う化粧ケアの行動と意図は10のカテゴリに集約された.それらは,化粧前・中・後のプロセスに沿った行動と意図,さらに,プロセス全体を通しての行動と意図のカテゴリに分類できた.対象看護師は化粧ケアをする前から現場スタッフと連携を図り,クライエントの情報を収集,アセスメントをして,一人ひとりに合った方法を検討して介入していた.化粧ケア中は態度や対話を意図しながら,クライエントと真摯に向き合い,個人と社会をつなぐために化粧だけに限らず外見全体を整えていた.最終的にはクライエント自身が自己を表現し,自分らしく生きていくことを支援できるよう単発のケアで終わらせず,実施後評価を組み込み,継続的に行われていた.こうした化粧ケアは,一人ひとりを全人的視点でアセスメントし,生きる力を引き出し相手の成長を促す看護の一つとして実施されていることが示唆された.

付記:本研究は順天堂大学大学院医療看護学研究科の修士論文の一部を加筆・修正したものであり,第42回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:ご自身の貴重な体験を話してくださった対象看護師の皆様に心より御礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:COは研究の構想およびデザイン,データの収集・分析,および原稿の起草,MN,MNは研究データの解釈,草稿への示唆および研究プロセス全体への助言,すべての著者は原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲,投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,及び研究の説明責任に同意した.

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