Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Nursing College Students’ Perceptions of Child Abuse A Comparison of Freshmen and Sophomores Using a—Vignette Survey—
Miki FukushimaRyota TajiriAyumi Kubo
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2024 Volume 44 Pages 516-525

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Abstract

目的:看護大学生における児童虐待の認識の特徴を新入生と2年生の比較から明らかにすることを目的とした.

方法:新入生98名と2年生108名を対象に,基本属性および子どもへの不適切なかかわりのビネット39項目を用いてGoogle Formsによる無記名自記式アンケート調査をした.

結果:149名(72.3%)から回答を得た.子どもは好きかの設問で有意差が見られ2年生の方が子どもを苦手としていた.しかし,ネグレクトと心理的虐待では2年生の方が有意に虐待の認識が高い項目があった.

結論:2年生はこれまでの履修で日常的な虐待の遷延が,子どもに及ぼす影響を考察する力が高かった可能性がある.今後,小児看護学のみならず,あらゆる領域で横断的に権利擁護および正しい知識を教授し,虐待の認識を高めること,また子どもに肯定的関心が持てるよう共感性や向社会性を高める教育の重要性が示唆された.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to determine the characteristics of the perceptions of child abuse among nursing undergraduates by comparing freshmen and sophomores.

Methods: An anonymous self administered Google Forms questionnaire was administered to 98 freshmen and 108 sophomores, of which 69 (70.4%) and 80 (74.4%), respectively, were analyzed.

Results: 149 (72.3%) responded. The results showed that among the basic attribute items, there were significant differences in whether they reported liking children, such that sophomores were less likely to. But scored significantly higher on both the neglect and psychological abuse items, indicating that they were more aware of abuse.

Conclusion: These results suggest that it is important to continuously emphasize rights protection in not just pediatric nursing but all areas of nursing, to impart correct knowledge and increase awareness of abuse, and to educate students to increase their empathy and sociability and enhance their positive interest in children.

Ⅰ. はじめに

我が国では,社会的弱者である子どもが虐げられている.保護者による痛ましい児童虐待の報道は後を絶たない.児童虐待には,①殴る,蹴るといった「身体的虐待」,②性的な接触,性行為やポルノ写真・性的な映像にさらす「性的虐待」,③不適切な養育環境や食事を与えないなどの「ネグレクト」,④暴言による虐待,子どもの目の前で家族に暴力をふるうなど家庭内暴力(ドメスティックバイオレンス:DV)を目撃させる行為などの「心理的虐待」が含まれる(友田,2016).

児童相談所の児童虐待の相談対応件数の推移をみると,児童虐待の防止等に関する法律第6条が改正された平成16年以後,右肩上がりに推移してきた.令和4年度には219,170件となり過去最多を更新,類型別の件数が全体に占める割合では心理的虐待が大幅に増加,社会的な関心の高まりが背景にある(こども家庭庁,2023).これは要保護発見者の通告義務について,虐待を受けた児童から虐待を受けたと思われる児童に改められたことに起因すると考える.「オレンジリボン運動」に代表される市民運動もその象徴のひとつである.とは言え,虐待はいわば,密室で起こりやすく露見されにくい.何らかの事情で相談されない,相談できない事案を含めると潜在的には実数以上の虐待があるものと推測される.

医療の専門職者である看護師を志す学生は,看護の対象者である子どもの尊厳を守ることや成長・発達の過程にある子どもが虐待にさらされる影響の大きさ等について小児看護学だけではなく看護学全般で学ぶ.それらの専門知識を経て,虐待発見の担い手となることが期待される存在である.

医学中央雑誌における看護大学生の児童虐待の認識と看護基礎教育についての先行研究では,「しつけ」のつもりの「虐待」への介入を行うためには,虐待の知識だけではなく,しつけとの対比を入れた教育の重要性を示唆する論文(日髙ら,2018)や子ども虐待に対する関心が高かったが,虐待要因である母親の背景や育児不安,社会的孤立などの理解が不十分であったこと(緒方,2016),また,ビネット調査を用いた研究では心理的虐待,性的虐待,ネグレクトで正しく認識されていなかった(四宮ら,2020)という知見がある.

A大学のシラバスを概観すると,看護学部では看護の対象となる人の権利擁護を学ぶ必修科目として,「看護倫理」,「生命倫理」がある.1年次では「小児看護学」は展開されず,児童虐待を直接学ぶ機会はない.しかし,法体系や創立理念が異なる(三輪・川並,2023)とは言え,共に虐待防止法があり,虐待の4類型が共通している高齢者虐待を,「地域・在宅看護学概論」および「地域包括ケア論」で学ぶ.また,「地域療養体験実習」では,一部の学生が実習施設である地域包括支援センターで,虐待の発見の難しさのみならず,介入も難しいという特性を,さらに,センターの相談支援業務では虐待相談も受け付けていることを学んでいる.

看護を志し,入学してきた大学生らが,虐待への社会的関心の高まりがあるとはいえ,どの程度,児童虐待を認識しているか調査した研究は少ない.以上のことから,本研究では,これから看護学を学ぶ新入生と,「看護倫理」,「生命倫理」で人権擁護について,さらに,「地域・在宅看護学概論」「地域包括ケア論」および「地域療養体験実習」で高齢者虐待について学んだ2年生,両者の比較から児童虐待の認識の特徴を明らかにすることを目的とする.これにより,児童虐待に対応できる専門職者の育成のため,看護基礎教育で拡充すべき教育内容を明確化できる.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究対象者

A大学(女子大学)の看護学部の1年生98名および2年生108名,合計206名を対象とした.

2. 調査方法

Google Formsによる無記名自記式アンケート調査

3. 調査期間

2023年4月~5月

4. 調査内容

調査内容は,基本属性および子どもへの不適切なかかわりに関するビネット調査とした.

基本属性として,年齢,子どもは好きか,今まで虐待を学ぶ機会はあったか,身近なところで虐待を見たり聞いたりしたことはあるか,虐待について関心はあるか,普段子どもと接する機会はあるかの6項目とした.子どもへの不適切なかかわりに関するビネットは高橋ら(1996)らが作成した39項目を用いた.このビネット39項目は,子どもの不適切行為がどのようにとらえられ,認識されているかという問いに基づいている(織田,1994).身体的虐待,性的虐待,心理的虐待,ネグレクトの4側面について短文で記載された行為,認識が虐待や放任に当たるか,全く問題ないから虐待または放任である,わからないまでの6件法で尋ねた.なお,本研究における子どもは18歳未満と定義した.

5. 分析方法

データの分析には,IBM社のSPSS Stasistics.Ver.28を用いた.項目ごとの単純集計を行い,基本属性の項目は「あり」「なし」または「思う」「思わない」の2群に分けて,χ2検定を行った.新入生と2年生の比較はわからないから虐待または放任であるの6つの選択肢を0~5点で得点化し,設問ごとにMann-WhitenyのU検定で比較した.有意水準は5%とした.

6. 倫理的配慮

研究者は,講義終了後に紙面と口頭で,研究の概要を説明した.協力は自由意思であり,撤回もできるが,メールアドレスや氏名などの個人情報を収集しないため,個人の特定が困難であり,回答を送信した後は撤回できない事,アンケートの送信をもって同意が得られたとみなし,協力の諾否が成績や単位取得に影響する事はなく不参加者を特定しないことを保証した.また,電子データは研究者以外の者が目にすることはなく,取り扱いはオフラインのPC上で行った.

さらに結果の公表に際して,個人が特定されないことを説明した.なお,本研究は金城学院大学人を対象とする研究に関する倫理審査委員会の承認を受けて実施した(承認番号:第R22031号).

Ⅲ. 結果

1年生98名のうち,69名(70.4%),2年生108名のうち80名(74.4%)計149名から回答を得た.すべての回答に欠損はなく,有効回答であったため,分析対象とした.

1. 対象者の概要

対象者の概要を表1に示す.概要では子どもは好きか,今まで虐待について学ぶ機会の有無,身近なところで虐待を見聞きした体験の有無,子どもの虐待への関心の有無,普段,子どもと接する機会の有無の5項目である.これらを「あり」「なし」または「思う」「思わない」の2群に分けてχ2検定を行った.子どもは好きだと思うかという設問ではあまり思わない,思わないと回答した1年生が5名であったのに対し,2年生は15名であり,有意差が認められた(P = 0.04).

表1 基本属性における2群の比較

質問項目 群分け 1年生(n = 69) 2年生(n = 80) χ2 p
度数(%) 度数(%)
子どもは好きだと思いますか 好き群(思う・少し思う) 64(92.8%) 65(81.3%) 4.219 0.04*
好きではない群(あまり思わない・思わない) 5(7.2%) 15(18.7%)
今まで(小・中・高等学校含む)虐待について学ぶ機会がありましたか はい 46(66.7%) 62(77.5%) 2.18 0.14
いいえ 23(33.3%) 18(22.5%)
身近なところで虐待を見たり聞いたりしたことはありますか はい 14(20.3%) 19(23.8%) 0.257 0.612
いいえ 55(79.7%) 61(76.3%)
子どもの虐待について関心はありますか ある群(ある・少しある) 64(92.8%) 74(92.5%) 0.003 0.953
なし群(あまりない・ない) 5(7.2%) 6(7.5%)
普段,子どもと接する機会はありますか ある群(よくある・たまにある) 44(63.8%) 47(58.7%) 0.392 0.531
なし群(ほとんどない・全くない) 25(36.2%) 33(41.3%)

* p < 0.05 χ2検定

2. 子どもへの不適切なかかわりに関するビネット39項目の類型別虐待の認識の度数分布および学年の比較

子どもへの不適切なかかわりに関するビネット39項目の類型別虐待の認識の度数分布と学年比における,身体的虐待を表2に,性的虐待を表3に,心理的虐待を表4に,ネグレクトを表5に示す.学年別の比較において有意差が認められた項目を表中に太字で示した.

表2 身体虐待(1年生N = 69,2年生N = 80)の分布と学年比較

ビネット項目 学年 度数(%) 中央値(25.0%~75.0%) U P
全く問題ない あまり問題ない 虐待や放任ではないが不適切だ 虐待や放任の疑いがある 虐待や放任である わからない
2 罰として,子どもを夜中まで外に立たせておく 1年生 1(1.4) 7(10.1) 11(15.9) 50(72.5) 5.0(4.0~5.0) 2,822 0.763
2年生 3(3.8) 19(23.7) 58(72.5) 5.0(4.0~5.0)
7 子どもの腹を足で蹴り上げる 1年生 5(7.2) 64(92.8) 5.0(5.0~5.0) 2,925 0.064
2年生 1(1.3) 79(98.8) 5.0(5.0~5.0)
11 親が子どもを叩いたが,けがやあざは生じなかった 1年生 1(1.4) 6(8.7) 4(5.8) 23(33.3) 35(50.7) 5.0(4.0~5.0) 2,886 0.594
2年生 5(6.3) 6(7.5) 22(27.5) 45(56.3) 2(2.5) 5.0(4.0~5.0)
14 子どもにタバコの火を押しつける 1年生 2(2.9) 3(4.3) 64(92.8) 5.0(5.0~5.0) 2,853 0.362
2年生 1(1.3) 1(1.3) 77(96.3) 1(1.2) 5.0(5.0~5.0)
19 親が子どもを叩いたら,医者による治療が必要な外傷が生じた 1年生 1(1.4) 2(2.9) 8(11.6) 57(82.6) 1(1.4) 5.0(5.0~5.0) 2,980 0.157
2年生 8(10.0) 72(90.0) 5.0(5.0~5.0)
21 罰として,子どもに長時間正座させる 1年生 3(4.3) 8(11.6) 15(21.7) 43(62.3) 5.0(4.0~5.0) 2,617 0.537
2年生 13(16.3) 21(26.3) 45(56.3) 1(1.2) 5.0(4.0~5.0)
29 親が酒に酔うと,子どもを叩いている 1年生 3(4.3) 8(11.6) 58(84.1) 5.0(5.0~5.0) 2,831 0.658
2年生 10(12.5) 69(86.3) 1(1.3) 5.0(5.0~5.0)
38 親が子どもを叩いたら,あざが出来た 1年生 1(1.4) 1(1.4) 4(5.8) 12(17.4) 51(73.9) 5.0(4.0~5.0) 2,916 0.42
2年生 2(2.5) 14(17.5) 63(78.8) 1(1.2) 5.0(5.0~5.0)

* P < 0.05 Mann Whiteny-U検定

表3 性的虐待(1年生N = 69,2年生N = 80)の分布と学年比較

ビネット項目 学年 度数(%) 中央値(25.0%~75.0%) U P
全く問題ない あまり問題ない 虐待や放任ではないが不適切だ 虐待または放任の疑いがある 虐待または放任である わからない
6 親が思春期の異性の子どもと一緒に風呂に入る 1年生 6(8.7) 14(20.3) 24(34.8) 13(18.8) 6(8.7) 6(8.7) 3.0(2.0~4.0) 2,640 0.639
2年生 3(3.8) 15(18.8) 30(37.5) 11(13.8) 8(10) 13(16.2) 3.0(2.0~3.0)
10 親の性的満足のために自分の性器を子どもに触らせる 1年生 4(5.8) 6(8.7) 59(85.5) 5.0(5.0~5.0) 2,917 0.277
2年生 3(3.8) 4(5) 73(91.3) 5.0(5.0~5.0)
16 親が自分の好みで娘に露出度の高い服を着せる 1年生 4(5.8) 33(47.8) 11(15.9) 19(27.5) 2(2.9) 3.0(3.0~5.0) 2,903 0.56
2年生 3(3.8) 36(45) 20(25) 20(25) 1(1.2) 4.0(3.0~5.0)
17 親が18歳未満の子どもと性交する 1年生 6(8.7) 4(5.8) 57(82.6) 2(2.9) 5.0(5.0~5.0) 2,784 0.886
2年生 10(12.5) 2(2.5) 67(83.8) 1(1.2) 5.0(5.0~5.0)
23 親が思春期の娘の胸を愛撫する 1年生 4(5.8) 15(21.7) 49(71) 1(1.4) 5.0(4.0~5.0) 3,063 0.112
2年生 6(7.5) 5(6.3) 67(83.8) 2(2.5) 5.0(5.0~5.0)
32 親が子どもの性器を愛撫する 1年生 3(4.3) 6(8.7) 59(85.5) 1(1.4) 5.0(5.0~5.0) 2,938 0.206
2年生 3(3.8) 1(1.3) 74(92.5) 2(2.5) 5.0(5.0~5.0)
34 親が性交の様子なども含めて自分の異性体験について子どもに話す 1年生 2(2.9) 5(7.2) 26(37.7) 15(21.7) 18(26.1) 3(4.3) 3.0(3.0~5.0) 3,070 0.22
2年生 2(2.5) 7(8.8) 17(21.3) 27(33.8) 24(30) 3(3.7) 4.0(3.0~5.0)
39 親が子どもにポルノビデオを見せる 1年生 9(13) 15(21.7) 40(58) 5(7.2) 5.0(4.0~5.0) 3,177 0.058
2年生 9(11.3) 9(11.3) 59(73.8) 3(3.7) 5.0(4.0~5.0)

* P < 0.05 Mann Whiteny-U検定

表4 心理的虐待(1年生N = 69,2年生N = 80)の分布と学年比較

ビネット項目 学年 度数(%) 中央値(25.0%~75.0%) U P
全く問題ない あまり問題ない 虐待や放任ではないが不適切だ 虐待または放任の疑いがある 虐待または放任である わからない
4 乳幼児が泣いても無視して,抱っこしてあげない 1年生 4(5.8) 22(31.9) 30(43.5) 13(18.8) 4.0(3.0~4.0) 2,695 0.794
2年生 6(7.5) 18(22.5) 36(45) 15(18.5) 5(6.3) 4.0(3.0~4.0)
8 他のきょうだいと比べて「お前はダメだ」という 1年生 5(7.2) 28(40.6) 16(23.2) 19(27.5) 4.0(3.0~5.0) 3,147 0.122
2年生 5(6.3) 24(30) 22(27.5) 29(36.3) 4.0(3.0~5.0)
12 子どもが嫌がるのに,年齢不相応な早期教育を強要する 1年生 2(2.9) 4(5.8) 19(12.5) 22(31.9) 21(30.4) 1(1.4) 4.0(3.0~5.0) 3,248 0.05
2年生 2(2.5) 17(21.3) 23(28.7) 36(45) 2(2.5) 4.0(3.0~5.0)
15 太っているのを気にしている子に,親が「お前はいつ見てもデブだね」と言う 1年生 1(1.4) 2(2.9) 24(34.8) 14(20.3) 28(40.6) 4.0(3.0~5.0) 3,070 0.205
2年生 1(1.3) 23(28.7) 17(21.2) 39(48.8) 4.0(3.0~5.0)
20 親が言葉かけをしないので,子どもの発達が遅れている 1年生 2(2.9) 10(14.5) 27(39.1) 26(37.7) 4(5.8) 4.0(4.0~5.0) 2,870 0.653
2年生 1(1.3) 14(17.5) 33(41.3) 31(38.8) 1(1.2) 4.0(4.0~5.0)
24 子どもに「あんたなんか生まれてこなければ良かった」としばしば言う 1年生 2(2.9) 8(11.6) 15(21.7) 44(63.8) 5.0(4.0~5.0) 3,063 0.018*
2年生 1(1.2) 5(6.3) 9(11.2) 65(81.3) 5.0(5.0~5.0)
27 子どもの話し掛けを一切無視して答えない 1年生 1(1.4) 8(11.6) 22(31.9) 38(55.1) 5.0(4.0~5.0) 2,905 0.532
2年生 9(11.3) 23(28.7) 48(60) 5.0(4.0~5.0)
28 「殺してやる」と真剣な表情で包丁を子どもに突きつける 1年生 1(1.4) 3(3.4) 65(94.2) 5.0(5.0~5.0) 2,816 0.561
2年生 1(1.3) 2(2.5) 77(96.3) 5.0(5.0~5.0)
30 罰として,子どもの頭をつるつるに剃る 1年生 1(1.4) 6(8.7) 13(18.8) 49(71) 5.0(4.0~5.0) 3,101 0.073
2年生 3(3.8) 8(10) 67(83.8) 2(2.5) 5.0(5.0~5.0)
35 罰として,子どもの大事にしていたおもちゃを捨てる 1年生 1(1.4) 4(5.8) 30(45.3) 15(21.7) 19(27.5) 3.0(3.0~5.0) 3,034 0.27
2年生 1(1.3) 3(3.8) 28(35) 23(28.7) 25(31.3) 4.0(3.0~5.0)

* P < 0.05 Mann-Whiteny-U検定

表5 ネグレクト(1年生N = 69,2年生N = 80)の分布と学年比較

ビネット項目 学年 度数(%) 中央値(25.0%~75.0%) U P
全く問題ない あまり問題ない 虐待や放任ではないが不適切だ 虐待または放任の疑いがある 虐待または放任である わからない
1 親がパチンコをしている間,乳幼児を車に残しておく 1年生 6(8.7) 12(17.4) 51(73.9) 5.0(4.0~5.0) 2,752 0.97
2年生 6(7.5) 14(17.5) 59(73.8) 1(1.2) 5.0(4.0~5.0)
3 親の帰りが遅いため,子どもはいつも夕食を一人で食べている 1年生 4(5.8) 13(18.8) 34(49.3) 13(18.8) 5(7.2) 3.0(2.5~4.0) 2,734 0.911
2年生 2(2.5) 10(12.5) 55(66.3) 12(15) 2(2.5) 1(1.2) 3.0(3.0~3.0)
5 夜,子どもを寝かしつけてから,夫婦で遊びに出かける 1年生 2(2.9) 4(5.8) 27(39.1) 21(30.4) 15(21.7) 4.0(3.0~4.0) 2,952 0.44
2年生 3(3.8) 28(35) 31(38.3) 17(21.3) 1(1.2) 4.0(3.0~4.0)
9 子どもが仲間を家に呼んで飲酒をしているのに,親は何も言わない 1年生 1(1.4) 33(47.8) 17(24.6) 17(24.6) 1(1.4) 4.0(3.0~5.0) 2,432 0.176
2年生 1(1.3) 5(6.3) 42(52.5) 17(21.3) 15(18.8) 3.0(3.0~4.0)
13 親が洗濯をしないので,子どもはいつも不衛生な服を着ている 1年生 8(11.6) 28(40.6) 32(46.4) 1(1.4) 4.0(4.0~5.0) 3,232 0.043*
2年生 6(7.5) 24(30) 50(62.5) 5.0(4.0~5.0)
18 幼児同士が刃物で遊んでいるのに止めない 1年生 20(29) 15(21.7) 34(49.3) 4.0(3.0~5.0) 3,131 0.117
2年生 1(1.3) 1(1.3) 77(96.3) 1(1.2) 5.0(4.0~5.0)
22 子どもが精神的に不安定なのに,専門的な診断や援助を受けさせない 1年生 1(1.4) 1(1.4) 15(21.7) 22(31.9) 30(43.5) 4.0(3.5~5.0) 3,221 0.054
2年生 20(25) 13(16.3) 47(58.8) 5.0(4.0~5.0)
25 親がギャンブルにお金を使ったため,給食費が払えない 1年生 7(10.1) 15(21.7) 47(68.1) 5.0(4.0~5.0) 2,921 0.437
2年生 9(11.3) 11(13.8) 60(75) 5.0(4.25~5.0)
26 子どもの高熱を座薬によって下げて,翌朝,保育所に連れて行く 1年生 6(8.7) 7(10.1) 23(33.3) 18(26.1) 12(17.4) 3(4.3) 3.0(3.0~4.0) 2,575 0.468
2年生 6(7.5) 11(13.8) 27(33.8) 16(20) 14(17.5) 6(7.5) 3.0(2.0~4.0)
31 家出した子どもが帰ってきても,家にいれない 1年生 2(2.9) 1(1.4) 9(13) 13(18.8) 43(62.8) 1(1.4) 5.0(4.0~5.0) 2,734 0.91
2年生 1(1.3) 8(10) 22(27.5) 47(58.8) 2(2.5) 5.0(4.0~5.0)
33 親が子どもの世話を嫌がり,ミルクを与える回数が不足している 1年生 8(11.6) 61(88.4) 5.0(5.0~5.0) 2,558 0.221
2年生 1(1.3) 14(17.5) 65(81.3) 5.0(5.0~5.0)
36 子どもに慢性疾患があり,生命に危険があるのに,病院に連れていかない 1年生 3(4.3) 6(8.7) 60(87) 5.0(5.0~5.0) 2,644 0.483
2年生 3(3.8) 11(13.8) 66(82.5) 5.0(5.0~5.0)
37 親がカラオケなどで遊んでいて家に帰らず,食事を作らない 1年生 5(7.2) 14(20.3) 50(72.5) 5.0(4.0~5.0) 2,794 0.886
2年生 1(1.3) 1(1.3) 20(25) 58(72.5) 5.0(4.0~5.0)

* P < 0.05 Mann-Whiteny-U検定

1) 身体的虐待の認識

両学年の間で,認識に有意差が認められた項目はなかった.身体的虐待の7項目すべてにおいて両学年ともに[虐待または放任である]を選択した学生が最も多かった.「子どもの腹を足で蹴り上げる」では1年生が64名(92.8%),2年生が79名(98.8%)と最も多かった.この項目では,2年生で高い傾向が認められた(p = 0.064).「親が子どもを叩いたが,けがやあざは生じなかった」では1年生で6名(8.7%)が,2年生で5名(6.3%)[あまり問題ない]と回答した.

2) 性的虐待の認識

性的虐待の8項目では,両学年のあいだで,認識に有意差が認められた項目はなかったが,「親が子どもにポルノビデオを見せる」では,2年生の方が高い傾向が認められた(p = 0.058).8項目中5項目で両学年ともに[虐待または放任である]を選択した学生が最も多かったが,[虐待や放任ではないが不適切だ]と回答した学生が最も多かった項目が2つあった.「親が思春期の異性の子どもと一緒に風呂に入る」において1年生で24名(34.8%),2年生で30名(37.5%)であり,「親が自分の好みで娘に露出度の高い服を着せる」では1年生が33名(47.8%),2年生が36名(45.0%)であった.

「親が性交の様子なども含めて自分の異性体験について子どもに話す」では1年生では[虐待や放任ではないが不適切だ]と回答した学生が最も多く26名(37.7%)2年生では[虐待または放任の疑いがある]と回答した学生が最も多く27名(33.8%)であった.

3) 心理的虐待の認識

心理的虐待の11項目のうち,学年間で有意差が認められたのは『子どもに,「あんたなんか生まれてこなければよかった」としばしば言う』(p = 0.018)で2年生が有意に高かった.また,「子どもが嫌がるのに,年齢不相応な早期教育を強要する」(p = 0.050)および,「罰として子どもの頭をつるつるに剃る」では,2年生が高い傾向が認められた(p = 0.073).

6項目で両学年ともに[虐待または放任である]を選択した学生が最も多かったが,[虐待または放任の疑いがある]と回答した学生が最も多かった項目が2つあった.「乳幼児が泣いても無視して,抱っこしてあげない」では,1年生が30名(43.5%),2年生が36名(45.0%)であった.「親が言葉かけをしないので,子どもの発達が遅れている」では1年生で27名(39.1%),2年生で33名(41.3%)であった.また,両学年とも[虐待や放任ではないが不適切だ]と回答した学生が最も多かった項目が「罰として,子どもの大事にしていたおもちゃを捨てる」であり,1年生で30名(45.3%),2年生で28名(35名)であった.この項目は[全く問題ない][あまり問題ない]を選択した学生を合わせると1年生で5名(7.2%),2年生で4名(5.1%)存在した.

『他のきょうだいと比べて「お前はダメだ」という』の項目においては,2年生は[虐待または放任である]と回答した学生が最も多く29名(30.4%)であったが,1年生では[虐待や放任ではないが不適切だ]と回答した学生が最も多く28名(40.6%)であった.

同様に,「子どもが嫌がるのに,年齢不相応な早期教育を強要する」の項目において2年生は[虐待または放任である]と認識していた学生が多く36名(45.0%)であり,1年生では[虐待や放任の疑いがある]と回答した学生が最も多く22名(31.9%)であった.

4) ネグレクトの認識

ネグレクトの13項目のうち,有意差が認められたのは「親が洗濯をしないので,子どもはいつも不衛生な服を着ている」(P = 0.043)で2年生が有意に高かった.また,「子どもが精神的に不安定なのに,専門的な援助や診断を受けさせない」(p = 0.054)では,2年生が高い傾向にあった.

ネグレクトの13項目のうち,8項目で両学年ともに[虐待または放任である]を選択した学生が最も多かったが,[虐待や放任ではないが不適切だ]と回答した学生が最も多かった項目が3つあった.一つが「親の帰りが遅いため,子どもはいつも夕食を一人で食べている」であり1年生で34名(49.3%),2年生で55名(66.3%)であった.2つ目は「子どもが仲間を家に呼んで飲酒をしているのに,親は何も言わない」であり,1年生で33名(47.8%),2年生で42名(52.5%)であった.この項目は2年生においては[全く問題ない][あまり問題ない]を選択した学生が6名(7.6%)であった.3つ目は「子どもの高熱を座薬によって下げて,翌朝,保育所に連れて行く」であり,1年生で23名(33.3%),2年生で27名(33.8%)であった.

また,「夜,子どもを寝かしつけてから,夫婦で遊びに出かける」の項目では2年生は[虐待または放任の疑いがある]と回答した学生が,最も多く31名(38.3%)であった.1年生では[虐待や放任ではないが不適切だ]が最も多く27名(39.1%)であった.

Ⅳ. 考察

1. 対象者の概要に見る学生の特徴

基本属性の項目では,子どもが好きか否かにおいて有意差が認められた.しかし,学年で有意差が認められた明確な理由については判断材料の不足により不明である.

また,両学年で129名(87%)が好意的な子ども観を有していたが,子どもが好きだとあまり思わない,思わないと回答した者が20名(13%)存在した.机上の学修に加え,今後は小児看護学実習で実際に子どもと関わることになる.子どもへの嫌悪感情は対象理解のバイアスとなる.子どもをありのまま理解するために,肯定的関心が持てるよう共感性や向社会性を高める教育の重要性が示唆された.

さらに,普段子どもと接する機会についての設問で,ほとんどない,全くないと回答した学生が両学年で58名(38.9%)存在したことから,子どもとの接触体験を小児看護学実習前に設定することも有効であると考えられた.

2. 虐待類型別の結果から見る学生の認識の特徴

1) 身体的虐待

身体的虐待の7つの項目すべてにおいて両学年ともに虐待への認識が高く,学年間に差は認めなかった.身体的虐待の短文には,罰としてという文言や叩く,蹴り上げる,火を押し付けるといった文言が並ぶ.高齢者虐待で身体的虐待が最も多い(厚生労働省,2023)ことを学んだ2年生のみならず,新入生にもこのような情景がイメージしやすかったと考えられる.

しかし,この7項目のうち,「親が子どもを叩いたが,けがやあざは生じなかった」という設問では1年生で6名(8.7%)が,2年生で5名(6.3%)[あまり問題ない]と回答している.学生は,このビネットの「叩く」という表現を,殴る蹴るといった暴力的なイメージよりは,軽微なものでしつけの範疇と捉え,真剣に子育てをしていて余裕とゆとりをなくした結果,生じた現象であると考えた可能性がある.母親のしつけや虐待の認識には,親子や周囲の人との関係性や子どもへの人権意識が関連する(門間ら,2017).良好な母子関係の構築のために,母親への支援を充実させる必要性を教授することが重要であると考えられた.

2) 性的虐待

性的虐待の項目は,いずれも有意差は認めなかったが,「親が性交の様子なども含めて自分の異性体験について子どもに話す」では1年生は不適切とみなしたが,2年生は虐待の疑いありとし,学年で認識の水準が異なった.この理由は,このような内容を話すという行動自体が子どもにはトラウマになること,そして一度抱えたトラウマが心身の健康に及ぼす影響の大きさを想像する力が低かった可能性があると考えられる.

性的虐待の8つの項目のうち,[虐待や放任ではないが不適切だ]と回答した学生が最も多かった項目が2つあった.1つは「親が思春期の異性の子どもと一緒に風呂に入る」であった.日本小児科学会(2023)が発表した子どもへの性虐待に関する提言では,性虐待に不適切な性刺激を含むとしている.保護者との混浴は,性的行為を行わずとも,視覚的に不適切な性刺激にさらす行為である.つまり虐待にあたることを教授する必要がある.

もう一つは「親が自分の好みで娘に露出度の高い服を着せる」では1年生が33名(47.8%),2年生が36名(45.0%)であった.この項目では1年生で4名(5.8%),2年生で3名(3.8%)が[あまり問題ない]と回答した.露出度の高い服装は,盗撮や極端な例では性犯罪の対象とされるなど,予期せぬ社会的不利益を被る可能性がある.その場合,被害者でありながら女性側の落ち度として認識され責めを負うことも考えられ,心的外傷が深くなる.このようなトラブルは急性期のトラウマ反応だけではなく,PTSDと診断される,あるいは長期の精神健康に悪影響をもたらす否定的認知が存在する(飛鳥井,2018)ことを,教員は学生および保護者に紹介する必要がある.

3) 心理的虐待

11項目のうち,『子どもに「あんたなんか生まれてこなければ良かった」としばしば言う』で有意差が認められ,2年生の方が有意に高かった(P = 0.018).2年生は高齢者の心理的虐待に著しい暴言が含まれ,家族内の虐待者は息子が最も多い(厚生労働省,2023)ことを学んでいる.親族関係のうち,最も近しい存在である者から虐げられるという共通項から,子どもの存在自体を否定する保護者からの言葉による傷付きを重ね合わせ,尊厳が守られていないことを理解できた可能性がある.

「子どもが嫌がるのに,年齢不相応な早期教育を強要する」では2年生の方が高い傾向が認められた(p = 0.050).これについては,1年次に学んだ高齢者の心理的虐待の要素とは合致しない項目であり,これまでの学修に起因しているとは考えにくい.

早期教育の強要は,親に「させられる」感覚を抱くことになる.そうではなく,自己決定理論においては自己決定の度合いの高いものが内発的動機付けである(島ら,2020)ように,自律性を養った先にある,自己決定の尊重という倫理を教育していく必要がある.

心理的虐待の11項目のうち,6項目で両学年ともに[虐待または放任である]を選択した学生が最も多かったが,[虐待または放任の疑いがある]と回答した学生が最も多かった項目が2つあった.「乳幼児が泣いても無視して,抱っこしてあげない」であり,もう一つは「親が言葉かけをしないので,子どもの発達が遅れている」であった.この2つの設問は保護者の子どもへの応答性の欠如と養育の放任を意図している.泣くことは意思の伝達に他ならない.乳幼児期におけるスキンシップ,安全基地としての母親の役割,それらが満たされないと基本的信頼も育たず,成人期の発達課題である親密性の獲得も困難になる.このような負の影響の大きさについて無知だった可能性が,虐待疑いに留まった理由であると考えられる.

また,両学年とも[虐待や放任ではないが不適切だ]と回答した学生が最も多かった項目が「罰として,子どもの大事にしていたおもちゃを捨てる」であった.懲罰としての一方的な強権行使に子どもは保護者への信頼を急速に失い,恐怖心すら持つ可能性がある.また,このような罰が強い母親の権威主義的な養育態度は子どもに注意の問題,攻撃的行動が高い傾向が認められる(荻田,2021)ことがわかっている.子どもを傷つける行為は,虐待にあたることならびに,その負の影響の大きさを学生に教育する必要がある.

4) ネグレクト

学年別の比較において,有意差が認められたのは「親が洗濯をしないので,子どもはいつも不衛生な服を着ている」(P = 0.043)で2年生が有意に高かった.子どもの衛生面だけでなく,不衛生な衣服を着用することで周囲からどのように思われるか,およびその後の子どもの様子を想像する力が2年生の方が高かった可能性がある.これも高齢者虐待の介護放棄や放任を学び,世話をしないことが共通しているため,イメージしやすいと考えられた.

ネグレクトの13項目のうち,8項目で両学年ともに[虐待または放任である]を選択した学生が最も多かったが,[虐待や放任ではないが不適切だ]と回答した学生が最も多かった項目が3つあった.一つが「親の帰りが遅いため,子どもはいつも夕食を一人で食べている」であった.このビネット39項目が作成されたのが1996年であり,27年が経過している.この間,日本経済は低成長となり,女性の社会進出の増加に伴い,晩婚化が進み,出生率も低下,性別役割負担に対する考え方も変化し,夫は外で働き,妻は家を守るべきという考えには反対が多数になった(厚生労働省,2020).社会構造の変化はそのまま一家の食事の光景も変え,学生にも日常であることから虐待ではなく,不適切だととらえたと考えられ誤った回答とは言い難い.

したがって,いつも孤食をしているから虐待という図式ではなく,共食のベネフィットから,孤食が子どもに及ぼす影響を考察するよう促す必要がある.充実した共食の質はポジティブ感情の喚起を促し,良好なコミュニケーションや意思決定を繰り返すことがライフスキルを高め,精神的健康やwell-beingの向上が起こる(木村,2019).また,子どもの健やかな心身の成長を支援する看護師として,地域と連携した社会活動である「子ども食堂」の活用を通し共食の場と機会を作ることが,子どもの居場所となり,家庭への後方支援に繋がることを教育する必要がある.

2つ目は「子どもが仲間を家に呼んで飲酒をしているのに,親は何も言わない」であった.子どもの飲酒が脳や,消化器系の臓器に及ぼす影響は想像できたかもしれないが,学生は保護者の干渉や禁止令に慣れていないため,何も言われたくないという感覚があった可能性が考えられた.

3つ目は「子どもの高熱を座薬によって下げて,翌朝,保育所に連れて行く」であった.これも女性の社会進出に伴い,仕事が休めないのならやむを得ないという,仕事を優先する女性の姿が一般的に感じる学生が多いと考えられた.

また,2年生であっても虐待または放任の疑いがあると最も多くの学生が回答した項目が「夜,子どもを寝かしつけてから,夫婦で遊びに出かける」であり1年生では[虐待や放任ではないが不適切だ]が最も多かった.家庭は子どもにとって安全基地でなければならないことを教育する必要があるだろう.

3. 総括的な教育への示唆

2年生はこれまでの履修で日常的な虐待の遷延が,子どもに及ぼす影響を考察する力が高かった可能性がある.今後,小児看護学のみならず,あらゆる領域で横断的に権利擁護および正しい知識を教授し,虐待の認識を高めることが重要である.

また,1年生のうちから,児童虐待のとりわけ心理的虐待とネグレクトについて興味・関心を向けられるよう動機づけを高めること及び,2年生へは子どもに対する嫌悪感情によらず,子どものありのままの理解に向け,肯定的関心が持てるよう共感性や向社会性を高める教育の重要性が示唆された.

医療職者として,子どもの虐待を認識する力を養っていくためには単に,虐待や放任となる事柄について,学ぶだけでなく,子どもの成長・発達がどのように進むか,また成長・発達を阻害することで,どのような影響が表れるかも踏まえ,子どもの虐待について学修できるよう包括的に教授していく必要がある.

虐待への対応は発見後,どこかに「つなぐ」というプロセスがあるため,「つなぐ」という行動を取るには,何より虐待への興味関心が基盤になければならない.虐待と認識できる正しい知識の修得に加え,児童虐待への興味関心を高めることが重要である.

児童虐待を防止するには保護者とりわけ,母親の育児で生じる消耗や不安を理解し,これに対するソーシャルサポートが受けられる環境を提供する重要性を学生は知る必要がある.

Ⅴ. 本研究の限界と課題

本研究ではA大学看護学部(女子大)新入生および2年生に対し,ビネット調査を用いて児童虐待の認識についてのアンケート調査を実施した.現時点で,学生がどのような倫理観を持ち,児童虐待をどのように認識しているか,今後どのような教育内容を盛り込むべきかの基礎資料となる.しかし,1大学の2学年分のデータであり,一般化することはできない.また,使用したビネットは1990年代に発表されたものであり,現代の親子関係や子育て文化とは異なる点には注意が必要である.今後は39項目の妥当性を検証し,現代の社会構造を反映した項目の作成も試みる必要がある.また,学年が上がるにつれ教育内容もより専門分化していくことを踏まえ,縦断的に調査を行い,データを蓄積,分析していくことにより,厳密に教育効果の測定ができると考えられる.

Ⅵ. 結語

1.子どもが好きかについては1年生より2年生の方が,あまり思わない,思わないと回答した学生が多く,有意差が認められ子どもを苦手としていた.ビネット39項目の両学年の比較では,心理的虐待の,『子どもに「あんたなんか生まれてこなければ良かった」としばしば言う』ならびに,ネグレクトの「親が洗濯をしないので,子どもはいつも不衛生な服を着ている」で2年生の方が有意に高かった.

2.2年生はこれまでの履修で日常的な虐待の遷延が,子どもに及ぼす影響を考察する力が高かった可能性がある.今後,小児看護学のみならず,あらゆる領域で横断的に権利擁護および正しい知識を教授し,虐待の認識を高めること,また子どもに肯定的関心が持てるよう共感性や向社会性を高める教育の重要性が示唆された.

3.社会構造の変化が子どもの発達に及ぼす影響について,学生自身が自分の考えを持てるよう促す必要性がある.

4.子どもの成長・発達がどのように進むか,また成長・発達を阻害することで,どのような影響が表れるかについては小児看護学のみならず,母性看護学,あるいは精神看護学などあらゆる領域で横断的に教育していくことの重要性が示唆された.

付記:本研究の一部は,第43回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:本研究にご協力いただきました,A大学看護学部の学生の皆様に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究において利益相反は存在しない.

著者資格:FMは研究の着想,デザインと実施,草稿の作成,TRは研究の着想,統計分析の実施および草稿の作成,KAはデータ収集,原稿への示唆,研究プロセス全体への助言,すべての著者が最終原稿を読み,承認した.

文献
 
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