2024 Volume 44 Pages 546-556
目的:本研究では在宅重症心身障がい児とその家族の愛着形成過程における影響要因の検討を行うことを目的とした.
方法:在宅重症心身障がい児の家族10名を対象に半構成的面接を実施し,主観的感情はライフラインメソッドを活用した.複線径路・等至性アプローチを用いMAXQDAで分析した.
倫理的配慮:大阪市立大学大学院看護学研究科倫理委員会で承認を得た(承認番号30-4-3)
結果:愛着形成過程について第1期は【予期せぬ困難】,第2期は【在宅での安心感の探索】,第3期は【地域コミュニティへのつながり創出】と時期区分された.影響要因として社会的助勢10カテゴリおよび社会的方向づけ7カテゴリが導かれた.
考察:家族は,生命の危機と向き合い,在宅ケアのため気の抜けない生活の中で地域受け入れ体制への不安を抱えながら子どもとのかかわりを模索した.家族を支える地域エンパワメントが高まることは,安定的な愛着形成過程の支援につながると考える.
Purpose: This study aimed to examine the influencing factors of the attachment formation process for homebound children with severe physical and mental disabilities and their families.
Method: Semi-constructive interviews were conducted with 10 family members of homebound children with severe physical and mental disabilities, and the lifeline method was utilized for subjective emotions. Analysis was performed with MAXQDA using the trajectory equifinality approach.
Results: The attachment formation process was divided into three phases: Phase 1 was the [unexpected difficulties period], phase 2 was the [search for a sense of security at home period], and phase 3 was the [creating ties to the local community period]. Ten categories of Social Guidance and 7 categories of Social Direction were identified as influencing factors.
Discussion: Families faced a life-threatening situation and sought a relationship with their child, while having anxieties towards the local community’s acceptance system in the midst of a restless life for the sake of home care for their child. It is believed that increased community empowerment to support families will lead to support for a stable attachment formation process.
近年,医療的ケア児支援法が施行され,障がいや医療的ケアの有無にかかわらず,安心して子どもを産み育てることが目指されている(厚生労働省,2021).しかし,障がい児をもつ養育者の子育ての経験には,うつ状態やストレス,社会的隔離,心理的不調和に関連があることが報告されている(Cassidy & Shaver, 2016).これらのことは,障がい児とその家族において愛着形成を困難にし,しばしば虐待のリスクにつながることを示している(全国児童相談所長会,2021).
障がい児の愛着形成に関する先行研究では,知的障がい児(Mohamed & Mkabile, 2015),脳性麻痺児(Quinn & Gordon, 2011),自閉症児(Rutgers et al., 2007;酒井ら,2019),ダウン症児(McCollum & Chen, 2003)と養育者に関連する研究が報告され,障がい児とのコミュニケーションを阻害・促進させる要因(Sharkey et al., 2014)や,悲嘆のプロセスについても述べられている(Stroebe & Schut, 1999).愛着とは,Bowlby(1969)の愛着理論では特定の人との安定した情緒的な関係で,安心感や喜びをもたらす.愛着は,乳児期に始まり,養育者との相互作用を通じて形成され,生涯続く(数井・遠藤,2009).しかし,障がいを持つ子どもは,自分の意図や要求を他者に伝達することや他者からの働きかけを理解することができにくい(数井,2015).そのため反応が乏しいとみなされる傾向があるが,実はさまざまな表現方法で感情や要求を伝えていると述べられている(Lopez, 2013;Nedelisky, 2004).
以上,障がい児とその家族のコミュニケーションの特徴,およびコミュニケーション支援,適切な環境で子どもたちとコミュニケーションを行う有効性については明らかにされているが,このようなコミュニケーションを通した在宅ケアが必要な重症心身障がい児と医療的ケア児の愛着形成過程については十分に明らかにされていない.そのため,在宅重症心身障がい児とその家族が経験した愛着形成過程において,周囲のサポートや地域支援などの要因がどのように影響していたのか明らかにすることは,養育者や支援を行う看護職にとって,不安や困難への対処や支援を見出す上で有益となる.本研究では,在宅重症心身障がい児とその家族の愛着形成に至る過程の様々な経路と,多様な経路の中で経験する影響要因を明らかにすることを目的とする.
複線径路・等至性アプローチ(Trajectory Equifinality Approach:以下TEA)の分析手法を用いた質的研究である(安田・サトウ,2012).時間の流れのなかで,何が起こっていたのか,どのような影響を受けて変化したのかといった愛着形成過程の様相を明らかにするためTEAを適用した.
2. 研究参加者小児対応可能としている訪問看護ステーションから,便宜的に抽出した研究協力機関である訪問看護ステーション責任者および担当者に研究依頼書と口頭にて研究の趣旨について説明し承諾を得た.研究協力機関の訪問看護ステーション担当者より,研究協力の同意が得られた在宅でケアが必要な重症心身障がい児および医療的ケア児とその家族を研究参加者として依頼した.選定基準は,①重症心身障がい児および医療的ケア児とその家族が在宅療養を行っていること,②重症心身障がい児および医療的ケア児の症状が通常の在宅療養時と変化なく安定していることとした.
3. 調査方法在宅療養を行っている重症心身障がい児の家族10名を対象に半構成的面接を実施した.TEAでは,9 ± 2名を対象にすることで多様なライフストーリーから,径路の類型が把握できる.そして,対象者と研究者の視点・見方の融合,すなわち結果の真正性に近づけるため,3回のインタビューを推奨している(サトウら,2006).本調査は,訪問看護同行訪問時の参加観察時のインタビュー1回(付録1:参加観察フィールドノート,河野,2023),インタビューガイド(付録2)を用いたインタビュー2回の計3回実施した.1回目の参加観察には担当の訪問看護師が同席し研究者の紹介を行った.訪問看護師の訪問中に,子どもの状況や愛着形成への支援の実際について観察した内容を参加観察フィールドノートに記録した.2回目は,インタビューガイドに基づき参加観察フィールドノートを参考にしながら,子どもを妊娠してから現在までの子育て経験の経過と現在の在宅療養への周囲の協力,親子の愛着形成についてインタビューした.過去の体験の豊かな語りを聞きとるためライフラインメソッド(Schroots, 1989)により縦軸を主観的感情(非常に良いプラス10~どちらともいえない0~非常に悪いマイナス10),横軸を時間の流れとして図中に変化を回顧的に示し,研究協力者が1本のラインを描いた.主観的感情の変化があった時点のライフイベント,支援状況,子どもとの関わり方と反応について質問した.3回目は2回目のインタビュー内容に基づき今までの愛着形成過程と,愛着形成過程に影響したサポートや養育者の思うようなサポートがないときについて深く掘り下げ真正性の確保に努めた.調査期間は,2019年2月18日から2019年10月2日であった.
4. 分析方法複線径路・等至性モデル(Trajectory Equifinality Model:以下TEM)の手法を基に以下の手順で行った.分析期間は,2019年12月1日から2021年10月23日であった.分析内容は研究参加者3名にメンバーチェッキングを実施した.
1)各事例の,直面した出来事,行動や選択,その時の状況や影響要因,気持ちや認識の変化を示す意味内容ごとを切片化し,切片の時系列を整理した.
2)等至点(Equifinality Point: EFP)に『子育てを通じて安定した愛着形成ができる』を設定した.対極に位置するP-EFP(Polarized-EFP)を設定する必要があり,本研究では,P-EFP に『不安定な愛着形成』を設定した.そして,全事例の類似の出来事,行動や選択,気持ちといった体験を摺合せ,論理的・制度的・慣習的にほとんどの人が経験する必須通過点(Obligatory Passage Point: OPP),行動が多様に分かれていく分岐点(Bifurcation Point: BFP)を抽出した.
3)等至点(EFP)に至る過程の中で,分岐点(BFP)と必須通過点(OPP),各径路(行動・考え)を記載し基本となるTEM図を作成した.TEAは,複数の可能な径路や経験を考慮に入れるアプローチのため,実際に経験していない径路についても仮説を立て,その結果や影響を推測し検討した.
4)TEMでは,各径路の選択を後押しする認識,援助的な力を社会的助勢(Social Guidance: SG)(促進的要因)といい,阻害的・抑制的に働く事象,認識を社会的方向づけ(Social Direction: SD)(抑制的要因)とする.どちらに該当するのか検討し意味内容の類似性に基づき,各径路(行動・考え)の選択に至った要因をカテゴリ化した.
5)基本となるTEM図にカテゴリ化したSGとSDを加え全体のTEM図を完成させた.
6)径路の類型化と特徴の明確化については,TEMでは,9 ± 2人の体験で,径路の類型が把握できる(安田・サトウ,2012)ことから,等至点(EFP)に向かう愛着形成過程における多様な諸事実や現象を検討し,径路を質的に類型化した.
7)切片化,カテゴリ化の過程を研究者2 名が別々に行い,もう1名の研究者が中立的な立場で内容を確認し,一致するまで検討した.カテゴリ化の結果は,在宅小児看護の経験のある研究者2名と訪問看護職4名に提示し確認した.また,研究参加者3名に逐語録とラベルと分析結果を提示し確認した.
5. 倫理的配慮本研究は大阪市立大学大学院看護学研究科倫理委員会の承認を受けて実施した(承認番号30-4-3).Consolidated Criteria for Reporting Qualitative Research(Tong et al., 2007)報告ガイドラインに準じて実施した.研究参加は書面にて同意を得たのち開始し,自由意思を尊重し,匿名化と守秘に努めた.面接中は答えたくないことは無理に答えなくてもよいことを説明しながら進めた.
1回目の参加観察およびインタビューは60分(訪問看護利用時間内)であった.2回目のインタビューは平均69(SD ± 19)分,3回目のインタビューは平均64(SD ± 13)分については,研究参加者の自宅で実施した.対象者の属性について表1に示す.主な養育者は母親であり,年齢は30代2名,40代6名,50代2名で,子どもの年齢は11か月から18歳であった.重症心身障がい児10名中5名が医療的ケア児であった.ライフラインメソッドを用いた主観的感情の変化について平均値と標準偏差を図1に示す.ライフラインの主観的感情パターンは,出産後および障がい告知後に降下し,地域における療育やリハビリの開始後に上昇している傾向が示された.
ID | 子どもの年齢 | 養育者の年代 | 医療的ケア |
---|---|---|---|
A | 7歳 | 40代 | 〇 |
B | 6歳 | 30代 | 〇 |
C | 5歳 | 40代 | 〇 |
D | 8歳 | 40代 | 〇 |
E | 16歳 | 40代 | 〇 |
F | 7歳 | 40代 | |
G | 7歳 | 40代 | |
H | 18歳 | 50代 | |
I | 11か月 | 30代 | |
J | 10歳 | 50代 |
全ての研究参加者の愛着形成過程を統合したTEM図を図2に示す.等至点(EFP)を『明朝体』,分岐点(BFP)と必須通過点(OPP)を「明朝体」,各径路(行動・考え)は「ゴシック体」,語りは「イタリック体(類似した語りのあった対象者ID)」,社会的方向づけ(Social Direction: SD)および社会的助勢(Social Guidance: SG)は[ ]で記す.
各事例の類似点・相違点を比較検討したところ,「障がい児・医療的ケア児との対面」が1つ目の必須通過点OPP①となった.愛着形成における1つ目の分岐点BFP①として「かかわりへの反応」とした.同時に起こる「疾病・障がいの告知」を2つ目の分岐点BFP②とし焦点化した.その後,医療機関から在宅へと環境が変化する経験をしていたことから「退院移行支援を受け子どもと在宅で暮らす」を2つ目の必須通過点として時期区分し,3つ目の分岐点「在宅ケア継続への不安」BEP③と焦点化した.今回は各事例とも必須通過点として「療育・リハビリが始まる」OPP③を経験していた.愛着形成過程は,家族から地域における愛着が形成されていくと捉え,4つ目の必須通過点「地域で通園や通学が始まる」OPP④を時期区分とし,分岐点「地域での進路の悩み」BFP④と焦点化した.各地点における行動や心情等,経験の様相を追記し,径路において愛着形成過程に影響を与えたと考えられた事象を社会的方向付け(SD),社会的助勢(SG)として位置付けた.愛着形成過程は,第1期から第3期に区分した.「障がい児・医療的ケア児との対面」OPP①から「退院移行支援を受け子どもと在宅で暮らす」OPP②までを第1 期,「地域で通園や通学が始まる」OPP④までを第2期,『子育てを通じて安定した愛着形成ができる』EFP①までを第3期とした.
2) 第1期:予期せぬ困難「障がい児・医療的ケア児との対面」OPP①から,「退院移行支援を受け子どもと在宅で暮らす」OPP②までを【予期せぬ困難】と命名した.妊娠については「妊娠を知った時も妊娠中も嬉しかった(BDFGHI)」という気持ちから,「妊娠・出産時のトラブルや病気」が起こり「NICUで即,保育器に入れられて,触られへんから覗くくらい(ABCFI)」「とにかくいろいろ繋いで(子どもにチューブが)入ってるし衝撃的でした(C)」という妊娠・出産時のトラブルと,「3歳で大脳はもうほとんど駄目.浮腫を起こして委縮して1か月救命治療室だった(A)」病気から,「障がい児・医療的ケア児との対面」である必須通過点OPP①を辿る.そして「かかわりへの反応」分岐点BFP①では,「反応がない」径路として「本当に反応がなかったから.音なんかに反応したり,反射的なものとか,運動機能もまったくやった(DIJ)」「ただ見てるだけって感じ(A)」という場合がある.その後反応があり「快と不快のサイン反応と表情がわかる」径路になり「気切した後は顔まわりが鼻のチューブだけになって,表情もだいぶ見やすくなったし,穏やかな顔してるとかなんとなくわかるようになってきた(D)」「多分,なんとなく嬉しいとか嫌ってわかってると思う(B)」と語られた.「ふれあうと穏やかな気持ちになる」では「小さすぎて,抱っこしたら落っことしそうでどう抱っこしていいかわからなくて(中略)手にのせたらふわって結構寝てたんで,安心してくれたかなって思って(B)」「760 gの出生体重で小さかったから反応がどうこうって感じなかったけど,わりとちょこちょこ抱っこすると落ち着いた感じで寝てくれて,この小ささは可愛いみたいな(E)」経験を通じて,「スキンシップできると嬉しい」「でも,やっぱり嬉しかったですね.ああ,抱っこできるみたいなところがあって(BCD)」と感じる経路を辿る.「親を認識できているのがわかる」径路では,「1歳2か月くらいの時は,帰る準備してたら,もう視線外さへんでみたいな感じで,目で追いかけまくって緊張する感じやって(E)」「あ,笑っているっていうのを,こっちが気付いて受け取らなあかんと思って(E)」という非言語によるコミュニケーションを経験していた.しかし,必ずしも前向きな場合だけでなく,「子どもを可愛いと感じる」が「子どもの発達の見通しが不明」であったり「不安感・無力感」などの様々な感情を巡らせていた.
「すごい大事やし,可愛かったけど,自分のせいでこれ以上何かなるのが嫌だから,抱っこしてもいいよって言われても,本当に大丈夫ですか的な(F)」.「ぱんと言われて,もうお子さん一生歩けませんよ,そんな普通の学校なんか絶対無理ですよって言って.もう養護学校で,もう一生歩かれへんし,多分言葉もしゃべったりもできないと言われて.(H)」.「どん底でした.もう死ぬかもと思ってたんで.もうなにかあったらこっちの判断にさせてくださいみたいな,そんなようなことを言われてて.何かが急に起こることがあるかもしれないと(D)」
この時期の分岐点BFP②「疾病・障がいの告知」では「相談できる」ことにより「子どもの状況を受け止める」径路では「私の友達も障がいを持つ子どものお母さんで,一緒に頑張って育てよう,私がそばにいるからと言ってくれて,ちょっと気持ちが上向いた(H)」.一方では「自分自身を責める」という思い「障がい持つかもしれないって言われて,その時は泣きまくったし,どうなるんやろって.子どもを連れ出して飛び降りて死んだろうとかも思って(H)」や,「医療的ケアが辛い」という思い「不安だらけでした.まず医療的ケアがあって退院するという不安.こんなこと家でできるかなって.ルートにお兄ちゃん躓かないかとか(B)」を辿りながら退院支援に向かっていた.
3) 第2期:在宅での安心感の探索「退院移行支援を受け子どもと在宅で暮らす」OPP②から,「地域で通園や通学が始まる」OPP④までを【在宅での安心感の探索】と命名した.退院後に在宅で暮らす中で「子どもの体調の変化や変動で気分も浮き沈みする(A)」「フォローがないまま生まれた病院に転院になって,気持ちが沈んだままだった(E)」と,気持ちの浮き沈みを経験しながら,「一緒に過ごすと嬉しい」感情が不安を抱えながらも芽生える.
「一緒に住めるのはすごく嬉しかった.酸素もついてるし,マーゲンやし,首も座ってなかったから不安しかなかった(F)」.「あやして笑うとか,つながりってやっぱり乏しくて.ちょっと諦めてる部分もあったかもしれない.4歳くらいで体調によるけど,関わってあげると笑うし,遊ぶと喜ぶっていうのがつながってきて嬉しかった(C)」.
「ふれあい方を模索する」中で,かかわり方の困難さを感じながらも子どもの思いを汲み取り,子どもとのふれあい方を手探りで見つける経験を辿る.
「遊びだとか,ふれあいとかはちょっと方法がわからない.わかってるのかどうかわからないし,本人の思いを意識してなかった(A)」.「私が子どもの吹き出しみたいな作って,代弁して,なんとかやりとりしてる感じ(BC)」.
試行錯誤しながら「抱いて落ち着かすことができる」経験を繰り返す.「緊張して,抱っこしたら緊張が落ち着いた感じで.寝てるとき以外は,ほぼ抱っこみたいな(E)」.この時点の分岐点BFP③として「在宅ケア継続への不安」を「相談できる」径路と「困りごとを相談できない」径路があった.
「やっぱり主治医は(相談できる存在として)大きいです.Hちゃん大丈夫や,元気になるからって(B)」「保健師の方が,よく電話してきてくれて状況を聞いて家庭訪問してくれた(GF)」.
在宅での生活が落ち着くと「療育・リハビリが始まる」OPP③を径路として辿る.「(退院後は家に)1年引きこもってて.1歳になったらリハビリを始めましょうと言われて行き始めました.(ADG)」「療育園は工夫しながらコミュニケーションしてくれて,どんどんできるようになって嬉しかった.意思表示もできることを探してくれた(CBE)」というように「外に出かける機会ができる」「新しいことを経験する」「活動を促がす」機会を得ていた.
4) 第3期:地域コミュニティとのつながり創出「地域で通園や通学が始まる」OPP④から,『子育てを通じて安定した愛着形成ができる』EFP①までを【地域コミュニティとのつながり創出】と命名した.地域の保育所,こども園,幼稚園,小学校にいくか療育園,養護学校にいくかの選択において分岐点BFP④「地域での進路の悩み」について「相談できる」径路と「地域に入ることにハードルを感じる」径路があった.
「地域(の小学校)に行くとなったら,(中略)主治医と保育士に一番相談しました(B)」「保育所選びとか,地域と交わっていくのをどうしたらいいかなって,相談できる人がいなくて(H)」「療育を卒園するから,そこでの相談支援が受けられなくなりました(G)」「教育委員会には,肢体不自由と知的な面に障がいがありますと言ったら,(地域の小学校入学に)全面的に拒否されている雰囲気が伝わってきた(G)」.
これらのことから地域とのつながりが構築できない場合,養育者の「孤立感・不安感・ストレス」からP-EFP①『不安定な愛着形成』を設定した.地域との交流が進む中で,「親から離れても落ち着いている」姿がみられ,「友人や地域の人とのかかわりを持つ」機会を通じて「友達が子どもを受け入れてくれる」径路を辿る.「コミュニケーションをとれる人が増える」ことで,EFP①『子育てを通じて安定した愛着形成ができる』に至る.
「地域の小学校に入学して表情がでてきた.休み時間に子どもたちが手をとって一緒に絵を描いてくれたり,変化に気が付いてくれたり.自然にみんなが手を持ってくれる(AGH)」「やっぱりいろんなサポートの基盤がしっかりしていたら安心だった(A)」と語られる.「地域で通園や通学が始まる」OPP④ころには,「子どもに合わせたコミュニケーションができる」「やりたい気持ちや興味に合わせる」ことができるようになる.
「笑っていることに気が付いて受け取りたい.表情が豊かになって,笑うし緊張していろいろする(E)」「いっぱい試行錯誤しました.興味あることにであったら,一生懸命やるようになって集中してやる(F)」「子どもが瞬きで返事ができるようになったらコミュニケーションの質が全然違います.表情も合わせたら大体わかる(E)」という語りに象徴される.「安心して気持ちを表せていると感じる」場面を「先生だったら返事しますね.自分の意思表示.何かしたいとか絵カードで言ったりとか(D)」と語っていた.「子どもに良い変化がみられる」「子どものこころの成長を感じる」について「反応がちょっとよくなってきたから.それこそ愛着じゃないけど,私もできることが少し増えて嬉しいし可愛いと思える(C)」「お友達と一緒に学級活動をすることで,ものすごい刺激になって,この子もみんなも変わりました(H)」という径路を辿りEFP①に至る.
5) 愛着形成過程における影響要因影響要因として,養育者の語りからカテゴリ化し,社会的助勢10カテゴリおよび社会的方向づけ7カテゴリが導かれた.【予期せぬ困難】の段階では,社会的助勢として[SG1:医療職の声かけ][SG2:生命の維持][SG3:家族や友人による不安への傾聴],社会的方向づけとして[SD1:かかわりの不足][SD2:信頼できる相談者の不在][SD3:生命の危機,侵襲的な医療行為や手術の繰り返し]の影響要因があった.【在宅での安心感の探索】の段階では,社会的助勢として[SG4:パートナーの医療的ケアへの参加][SG5:療育やリハビリのサポート][SG6:親の会への参加],社会的方向づけとして[SD4:きょうだいのメンタル不調][SD5:福祉サービスの情報不足][SD6:地域の受け入れ体制整備の課題,レスパイトの活用のしにくさ,障がい児への偏見]の影響要因があった.【地域コミュニティとのつながり創出】の段階では,社会的助勢として[SG7:日中の居場所][SG8:地域の障がい児への理解][SG9:地域の子どもとの交流の機会][SG10:集団生活の体験],社会的方向づけとして[SD7:療育相談・リハビリの終了]の影響要因があった.
6) 発生の三層モデル発生の三層モデル(Three Layers of Genesis: TLMG)は,複線径路等至性モデリング(TEM),歴史的構造化ご招待とともに複線径路等至性アプローチ(TEA)を構成する要素の一つである.TLMGでは,個々の活動や行為が発生する個別活動のレベル(第1層),状況を意味づける記号が発生する記号のレベル(第2層),信念・価値観が維持・変容するレベル(第3層)という3つの層を図2に記述した.【予期せぬ困難】の段階では,生命の危機と向かい合いながら,制限されたかかわりの状況の中で,子どもの障がい受容を行っていた.【在宅での安心感の探索】の段階では,在宅ケアのため気の抜けない生活の中で,子どもとのかかわりが増加していき,在宅での療育体制づくりを行っていた.【地域コミュニティとのつながり創出】の段階では,地域受け入れ体制の不安を抱えながら,地域でのかかわりが拡大していく状況の中で,子どもの成長発達を促す環境づくりを行っていた.
3. 径路の類型化と特徴愛着形成過程における径路の特徴を類型化し図3に示す.親子のかかわりに関連する親子のかかわりモデルと,社会資源に関連するサポートネットワークモデルのマトリックスによる,I型愛着形成安定型,II型親子のかかわり不安定型,III型地域エンパワメント不足型,IV型愛着形成不安定型の4分類とした.I型(事例ACDGHI),III型(事例BEFJ)の事例が該当した.各型に関する特徴を簡潔に記す.
I型:子育てを通じて安定した愛着形成ができる等至点に至る.疾病・障がいの告知,在宅ケア継続への不安,地域での進路の悩みという分岐点において周囲のサポートが得られ等至点に至る愛着形成安定型.
II型:子どものかかわりへの反応がみられず,親子のかかわり不足であるが,家族・地域からのサポート等の社会的助勢が充実している親子のかかわり不安定型.
III型:親子のかかわりは安定しているが,重要な時点で養育者が十分なサポートを得られないことがある.必須通過点の障がい児・医療的ケア児との対面,退院移行支援時,地域での通園や通学の受け入れ時などを経過するときに社会的方向づけが強く働く地域エンパワメント不足型.
IV型:親子のかかわりが不足し,さらに,家族・社会資源・地域といった周囲のサポートを得られないため社会的方向づけから不安定な愛着形成である両極化した等至点に至る愛着形成不安定型.
本研究では,在宅重症心身障がい児の家族10名面接とTEM による分析の結果,愛着形成過程と影響要因が明らかになり,以下の知見が得られた.
1. 在宅重症心身障がい児とその家族の愛着形成過程の特徴第一に,予期せぬ困難では,妊娠・出産時の予期せぬ状況の子どもと対面し,生命の危機と向き合いながら,障がいの告知を受け障がい受容を迫られる.家族の主観的感情が低い状態であるため,積極的な相互作用を通じて安心感や信頼感を築くことへの愛着形成支援の必要性が示唆された.ポリヴェーガル理論によれば,安定的な愛着形成には安全が不可欠である(Porges, 1995).つまり,身体的な安全,感情的な受容,信頼できる関係性が重要で,これらが整うことで,人は自律神経系が健康に機能し,他者との絆をより強固に築くことができると述べている(Porges, 2017/2018).看護職は,不安定な主観的感情を持つ家族に対して,安心感を与える環境を整えることが重要である.
また,入院中の制限された子どもとのかかわりにおいて,社会的方向づけとしてかかわり不足が生じることは,家族の不安感や無力感につながる.障がい児とその家族が安定的な愛着形成を構築するうえで重要なことは,子どもと養育者が効果的に相互にやりとりできる能力であり,そのために医療従事者の専門的な助言や訓練を必要とすると述べている(Howe, 2006).この親子の相互作用は,愛着形成の基盤となる重要な要素であり,看護職の支援によって強化されることが期待される.
第二に,在宅での安心感の探索の時期は,退院移行支援が重要である.養育者が在宅ケアのため気の抜けない生活を送ることが示唆された.障がい児の養育には社会資源の活用や介護負担感の軽減が重要と報告されている(涌水ら,2018).家族は在宅ケアに不安を抱えることもあるため,家庭での充実感や安心感は愛着形成に重要である.看護職は家族の孤立感を把握し,エンパワメントを支援する必要がある.
第三に,地域コミュニティとのつながり創出の時期は,地域の保育所や小学校,特別支援学校などの受け入れ体制への不安を抱えながらも,子どもの成長発達を促す環境づくりを行っていく.地域の子どもとの交流や集団生活の体験は,コミュニケーションをとれる人を増やし,かかわりを拡大させる.わが国では,令和3年に医療的ケア児支援法が施行され,基本理念として医療的ケア児の日常生活及び社会生活を社会全体で支えることが基本理念と定められた.看護職は,受け入れ体制への支援として地域の保育所や学校などの受け入れに関する不安を軽減するために,関係機関との協力体制の構築を行う.そして,地域の子どもたちとの交流や集団生活の体験を通じて,コミュニケーションを取る機会が円滑に行えるよう支援を行う.子どもの持つ障がいの特徴をアセスメントし,子どもの行動から意図や気持ちを読み取り代弁する役割がある.
2. 愛着形成過程における影響要因影響要因は,親子のかかわり,家族の状況,療育などの環境要因,障がいを持つ子どもに対する理解など,さまざまな要因の影響を受けていた.始めに,子どもの生命の危機・維持に関連する侵襲的な医療行為や手術が愛着形成に影響を及ぼしていることが示唆された.養育者は,入院期間や在宅医療的ケアへの不安,授乳への焦りなど身体的心理的精神的疲弊を感じている(横田・岡部,2018).そのため看護職は,養育者が家族や友人,周囲の医療職に信頼して相談することができるよう不安への傾聴が必要となる.また,子どもと主な養育者とのかかわりが,子どもの脳の形成において極めて重要な初期の経験であるため,養育者が子どもと優しい声などで,子どもを落ち着かせられるよう協働調整することが重要である.
次に,パートナー,育児協力者,福祉サービス,療育,リハビリ,親の会など多様な周囲の環境が影響を与えることが示唆された.また,きょうだいに関しては,子どもの状況から生じる外出の制限や学校行事への参加困難といった育児負担感,きょうだいの預け先の不在,きょうだいのメンタルヘルスやレスパイトの受け入れの影響が示されている(大槻ら,2021).看護職は在宅ケア児だけでなく家族全体を対象とした支援のニーズが高いことが明らかにされている.このため,看護職は状況を十分に把握し,タイムリーに支援を行う必要がある.特に,きょうだいに対する支援は,彼らの生活やメンタルヘルスに直接影響を与える可能性があり,重要性が高まっている.看護職は在宅ケア児だけでなく,家族全体のニーズに焦点を当てることで,より効果的な支援を提供できる.
さらに,障がい児への理解や偏見,日中の居場所や地域の子どもとの交流,レスパイトの活用など多種多様な要因が影響を及ぼしていることが示唆された.養育者の心の状態は,子どもの愛着形成に最も影響を与える(Van IJzendoorn, 1995).そのため,障がい児の受け入れ体制,相談体制やリハビリなどの地域の状況に応じて抱える養育者の困難感に伴走し,障がい児と家族が希望する環境づくりに至るまで,愛着形成支援の視点からも看護職の調整が必須であると考える.看護職は,障がい児とその家族に対する理解を深め,偏見を軽減するための情報提供や啓発活動を実施し,障がいに関する意識向上の取り組みを行う.また,交流の場を提供するイベントや親の会などの自助グループ活動の支援などがある.レスパイトの活用方法をサポートする際には,レスパイトプログラムの紹介や利用方法の指導,家族のニーズに合わせたレスパイトの計画立案などを行う.看護職は,養育者の主観的感情をサポートし,愛着形成に対する影響を軽減する支援を行う.これには,心理的なサポートやカウンセリングの提供,ストレス管理技術の指導,支援グループの紹介などの実施というように必要な支援ニーズを評価し実施していく必要がある.
3. 類型に応じた看護支援の検討親子のかかわりが不安定な場合,子どもが養育者と安心してふれあうサポートが重要である.養育者の自己調整を促し,親子の協働調整を支援する.在宅では新たな挑戦や興味の探索を促し,地域での通園や通学では子どもの気持ちを表出できるようサポートする.
地域エンパワメント不足型の場合,愛着形成過程において養育者のニーズについてアセスメントを行い関係機関と連携しながら支援していく.分岐点である,疾病・障がいの告知や在宅ケア継続への不安,地域での進路の悩みを抱える時期は,養育者に寄り添うサポートネットワークが愛着形成に影響を与えることが示唆された.
親子のかかわりモデルが不安定で,かつサポートネットワークが不足している愛着形成不安定型の場合,虐待のリスクに関するアセスメントも必要となってくる.障がい児は虐待のリスクが高く,虐待も発見されにくい(厚生労働省,2020).この場合,養育者が「安全基地」として機能できず,愛着が不安定であるため,親から離れられず探索行動が妨げられる(岡田,2011).看護職は,養育者中心の愛着関係を作りながら,子どもにとって安心な環境となるために愛着対象の存在として重要である.
愛着形成安定型であっても,径路の分岐点および子どもの状況の変化に伴い主観的感情が揺れ動くため,看護職は定期的に親子の愛着形成についてアセスメントを行う必要がある.
本研究は,養育者の長い子育てを想起した語りのため,当時体験したこととは変化した内容が語られた可能性がある.さらに,径路は養育者の意思決定による選択ではなく,子どもへの医療行為の状況により迫られた径路も含まれる.また,パートナーやきょうだいといった家族の実像も明らかにし,愛着形成過程に必要な支援を考える必要がある.このような限界はあるが,本研究は在宅重症心身障がい児と家族の愛着形成過程に初めて焦点を当て,その過程と影響要因を明らかにした.本結果は専門的な支援技術に貢献し,愛着形成支援に有用である.今後は,より多くの重症心身障がい児の愛着形成を探究するとともに,この結果を愛着形成支援ニーズの評価に活用していく方法を検討することが課題である.
在宅重症心身障がい児と家族の愛着形成過程は子どもの障がい受容から子どもの成長発達を促す環境づくりに至り,子どもとのかかわりを模索し,周囲のサポートにより地域エンパワメントが高めることは,愛着形成過程の支援につながる.
謝辞:本研究にご協力いただきましたご家族の皆様,および訪問看護ステーション所長ならびに訪問看護師の皆様に心より感謝申し上げます.本研究はJSPS科研費21K17446の助成を受けたものです.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:TYは研究の着想およびデザイン,データ収集,データの分析・解釈,原稿作成までの研究プロセス全体の実施;KAは研究の着想およびデータの分析・解釈,原稿作成までの研究プロセス全体に渡る助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み承認した.