Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Sleepiness and Its Peak Time during Shift Work among Nurses Working in Hospital Wards
Chika KuroiwaTakayuki KageyamaToshio Kobayashi
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2024 Volume 44 Pages 659-667

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Abstract

目的:病棟で2交替制勤務および3交替制勤務に就く看護師の勤務中の眠気とそのピーク時刻を明らかにする.

方法:交替制勤務に従事する看護師54名(男14/女40,最頻年齢階級35~44歳)に,4週間の勤務中の眠気とそのピーク時刻を日誌に記録してもらい,勤務帯毎に記述的に分析した.

結果:2交替制では日勤320回,夜勤82回,3交替制では日勤237回,準夜勤111回,深夜勤120回のデータを得た.日勤帯では37~54%,準夜勤帯では47%,夜勤帯では68~76%の勤務で眠気の訴えがあった.眠気のピーク時刻は勤務開始からの経過時間に依存せず,生体リズム(時刻)に準じた深夜勤帯の3~5時頃,日勤帯の14~16時頃,準夜勤帯の22~23時頃が眠気の発生しやすい時間帯であった.

結論:眠気がピークに達する時刻は,勤務開始からの経過時間に影響されるのでなく,主に生体リズムに依存しているようであった.

Translated Abstract

Purpose: The study aimed to examine the actual state of sleepiness and its peak time during shift work (2-shift- and 3-shift-system) among nurses working in hospital wards.

Methods: The participants were 54 nurses (14 male and 40 female, mode age-class 35–44) working in shifts. They were instructed to record their sleepiness and its peak time during shifts in logbooks for four weeks. The obtained data were descriptively analyzed for each shift type.

Results: Data for 320 day shifts and 82 night shifts for the 2-shift system, and 237 day shifts, 111 semi-night shifts, and 120 late night shifts for the 3-shift system were analyzed. Sleepiness was reported in 37–54% day shifts, 47% semi-night shifts, and 68–76% late night shifts. Further, peak time of sleepiness was not dependent on the time elapsed from the start of the shift. Time when sleepiness was more likely to occur was around 3:00–5:00 in late night shifts, 14:00–16:00 in day shifts, and 22:00–23:00 in semi-night shifts, which likely varied according to their biological rhythm.

Conclusion: The peak time of sleepiness did not correlate with the elapsed time since the start of the shift, but seemed to depend on the individual’s circadian rhythm.

Ⅰ. 緒言

科学技術の進歩により夜でも作業できる明るさが確保され,さらに社会の産業化やグローバル化ともあいまって(24時間操業や時差がある遠方の人との連携が必要),現代では24時間誰かが活動している社会(24時間社会)となっている(鳥居,1999).このような,24時間社会となった現代において,夜間勤務や交替制勤務は避けることのできない勤務形態である.しかし,夜間勤務は「昼間に活動し,夜間に眠る」というヒトのサーカディアンリズムに反した働き方をするため,睡眠の量・質がともに不十分になりやすく,勤務中に眠気が生じやすい(堀,2008)ことが問題である.このような交替制勤務者の眠気・居眠りによる事故は多く報告されており,チャレンジャー号の爆発事故やスリーマイル島の原発事故,チェルノブイリ原発事故などが挙げられる(井上,2011Mitler et al., 1988).

また,眠気は事故を引き起こすだけでなく,生産性の低下にもつながるため,産業保健分野のみならず経済分野でもプレゼンティーズム(presenteeism)として問題となっている.プレゼンティーズムとはWHOによって提唱された“健康問題に起因したパフォーマンスの損失”を表す指標で,「欠勤(アブセンティーズム)にはいたっておらず勤怠管理上は表に出てこないが,健康問題が理由で生産性が低下している状態」と定義されている(経済産業省,2015).このプレゼンティーズムが発生する要因(健康問題)として,きわめて重要なのが睡眠問題である(Nagata et al., 2018).このように,交替制勤務による睡眠不足や眠気は,重大な事故やエラーのリスクだけでなく生産性の低下といった社会的な影響も大きく,組織的な対策が必要とされている.

病棟に勤務する看護師でも,医療や病院が機能するために夜間勤務は不可欠であり,事故リスクの高さやパフォーマンスの低さを理由に交替制勤務や夜間勤務を避けることはできない.しかし,眠気により看護師の注意力や記憶力が低下し,エラーや医療事故が発生すれば,患者の命だけでなく,その家族や来院者,他職員にも甚大な害を及ぼすことになり,病院の信頼の失墜や経済的損失にもつながるおそれがある(岡本ら,2020).

このため,看護師の睡眠問題とエラーやインシデントの関連に関しては様々な研究が行われている.看護師の勤務中の眠気は注意力や短期記憶力を低下させ(白川,2007),ヒヤリハットの発生を高めること(河西ら,2016)や,睡眠時間が短いとインシデントのリスクが高まること(Andreassen et al., 2018),交替制勤務看護師では日勤のみの看護師に比べ,眠気に関連した事故やエラーの報告が2倍になること(Gold et al., 1992)などが明らかにされている.

ここで,主観的な眠気の評価には,常態的な眠気と瞬間的な眠気の2種類の評価方法がある(宮本・宮本,2009).常態的な眠気とは,いつも感じている眠気(「最近の日常生活を思い浮かべて」(Johns, 1991)など)を評価したものであり,瞬間的な眠気は,ある一時点(勤務中,運転中など)での眠気を評価するものである.これまで病院看護師の眠気に関する先行研究では,少数の例外(Oriyama et al., 2019黒岩・影山,2020)を除いて,常態的な眠気に焦点が当てられてきた(Suzuki et al., 2005Chen et al., 2019Chaiard et al., 2018Kubota et al., 2010).常態的な眠気は,慢性的な睡眠不足を評価することが出来,労働者の健康面への影響や関連などについて評価できる.ただし,いつも感じている眠気(常態的な眠気)はそれほど強くなくても,ある一時点に眠気を強く感じることがあると,それが勤務中だった場合,事故やエラーの発生リスクが高まることになる.実際に,これまでの研究から瞬間的な眠気が強まると反応時間の遅延や認知機能が低下し,事故を誘発することが明らかになっている(細田,2018).しかし,交替制勤務看護師の勤務中の瞬間的な眠気やその眠気のピーク時刻を調べた研究はなく,勤務中の眠気の実態については明らかになっていない.

そこで本研究では,2交替制勤務と3交替制勤務に従事する病棟看護師の勤務中の瞬間的な眠気の実態と各勤務帯において眠気がピークとなる時刻を明らかにし,医療事故や生産性の低下に対しての対策を講じる一助とすることとした.

Ⅱ. 用語の定義

1. 生体リズム

生体リズムはその周期の長さにより分類され(白川,1993),ヒトの睡眠覚醒には,例えば以下のような複数の生体リズムが関与する(Lavie, 1985).

a.サーカディアンリズム:約24時間を周期とする生体リズムであり,睡眠・覚醒や体温・ホルモンなどがサーカディアンリズムの周期で動いている(白川,1993).

b.セミサーカディアンリズム:12時間周期の生体リズムであり,午前2時ごろと午後2時ごろの眠気に関与している(Lavie, 1985).

2. 勤務帯(日勤帯,夜勤帯)

労働基準法第37条では午後10時から午前5時までの労働を深夜労働と定義している.そこで本研究では,勤務帯の一部に深夜労働を含む場合を夜勤帯と総称し,勤務帯に深夜労働を含まない場合を日勤帯と総称することにする.

Ⅲ. 目的

病棟で勤務する交替制勤務(2交替制勤務,3交替制勤務)看護師の勤務中の瞬間的な眠気の強さとその眠気のピーク時刻を明らかにすることである.

Ⅳ. 研究方法

1. 調査対象施設と研究対象者

急性期病棟など患者重症度や看護必要度が高い病棟では,業務量が多く身体的に疲労しやすいことが考えられるが,身体的疲労は眠気に影響する場合がある(Kawano et al., 2023).これを考慮し,まずは比較的安定した患者が多い病棟を選定することとした.そこで,A県内で研究者が所属する大学と連携関係があり,研究協力を得られた2施設(2交替制勤務病院1施設,3交替制勤務病院1施設)で調査を実施した.2交替制勤務病院は慢性期の入院患者が多い回復期リハビリテーション病院であり,3交替制勤務病院は精神科単科の病院であった.それぞれの所定の勤務時間は,2交替制では日勤8:30~17:00,夜勤16:30~9:00(16時間夜勤),3交替制では日勤8:30~17:00,準夜勤16:30~1:00,深夜勤0:30~9:00(8時間夜勤)であった.

対象者は,研究協力が得られた病院で交替制勤務に従事する看護師54名(2交替制勤務27名,3交替制勤務27名)である.なお,定期的に服薬をしている者や医師により睡眠障害と診断されている者はあらかじめ除外した.また,調査途中での脱落者は3交替制勤務1名のみであり,これは上記27名に含めていない.

2. 調査方法

1) サンプルの抽出方法

対象施設の施設長と看護部長に,研究の目的,調査方法,対象者の権利擁護,個人情報の保護について書面を用いて口頭で説明し,研究協力への同意を得た.看護部長と相談の上,対象病棟(2交替制病棟,3交替制病棟ともに各3病棟)を決定した後,対象病棟で勤務する交替制勤務看護師に調査内容・謝礼・倫理的配慮について記載した説明文章を配布してもらい,Web応募フォームもしくは書面で参加者を募った.

2) 調査期間

調査は,2交替制勤務病院2020年2~3月,3交替制勤務病院2020年11月~2021年1月に実施した.同時に行った別の研究で使用した機器の数に制約があり,データ読み込み期間が必要であったため,1病院あたり2~3か月の調査期間を設け,病院ごとに時期をずらして調査した.ただし夏季には一般的に睡眠の質が低下するため(Suzuki et al., 2019高橋・渡邉,2022),調査は冬季に実施した.

3) データの収集方法

調査施設の所属長を通して参加者に,(1)無記名の個人属性に関する自記式質問紙,(2)勤務に関する日誌(4週間分),(3)調査施設名のみを記載した返信用封筒を配布した.参加者は,勤務に関する日誌を4週間記載したのち,個人属性に関する自記式質問紙と日誌を無記名の返信用封筒で研究者に郵送,もしくは,回収箱へ投函した.その後,調査施設の所属長を通して,報酬(金券3000円相当)が支払われた.

3. 調査項目

1) 個人属性に関する自記式質問紙

無記名の自記式質問紙を用いて,年齢,婚姻状況,同居者の有無,6歳以下の子供との同居の有無,在宅介護の有無,看護師経験年数,交替制勤務の経験年数について尋ねた.個人属性は本論文の分析対象ではないが,先行研究では年齢(Suzuki et al., 2005Chaiard et al., 2018黒岩・影山,2020)や婚姻状況(Chaiard et al., 2018),同居者の有無(黒岩・影山,2020),6歳以下の子供との同居の有無(Kageyama et al., 1997),在宅介護の有無(Scott et al., 2006)は,交替制勤務看護師の不眠や睡眠時間,眠気と関連することが示唆されており,これらの項目について調査を行った.

2) 眠気の評価

勤務中の瞬間的な眠気の評価には,信頼性と妥当性が高い主観的な眠気尺度である,カロリンスカ眠気尺度(KSS; Kalorinska Sleepiness Scale)(Folkard et al., 1995Kaida et al., 2006)を用いた.KSSは客観的な眠気の指標である脳波や精神運動警戒課題(PVT; Psychomotor Vigilance Task)(画面に表示された視覚刺激への反応速度から眠気を客観的に評価する検査)との強い関連が認められている尺度である(Kaida et al., 2006).本研究では,勤務中に業務を止めてPVTを実施することは難しいため,主観的で簡易な眠気尺度であるKSSを用いた.KSSは,“とても眠い(睡魔と戦っている)”を9点,“眠い”を7点,“どちらでもない”を5点,“目覚めている”を3点,“非常にはっきり目覚めている”を1点とした9段階で評価する,1項目尺度である(偶数点には標語が与えられていない).KSSでは,“どちらでもない”が5点,“眠い”が7点であるため,本研究では6点以上を眠気ありと定義することとした.

3) 勤務に関する日誌

日誌では,当日の勤務,実際の始業時刻と終業時刻,眠気のピーク時刻とその時の眠気の強さ(KSS)を4週間毎日繰り返し記入してもらった.眠気のピーク時刻については,勤務中に1番眠かった時刻を書いてもらい,30分毎にまとめて集計した(例えば9:00~9:29を9:00と表記).眠気のピークを感じることがなかった場合は,眠気のピーク時刻は記載せずに,眠気の評価(KSS)のみ記載するように指示した.また,日誌の表紙には詳細な記載例を例示し,参加者が記載しやすいように配慮した.勤務中は業務などによりその都度,記載できないことがあるので,勤務中に記載出来なかった場合は,勤務後に眠気があった時刻とその眠気の強さを思い出して記入してよいことを書面で説明した.眠気の評価(KSS値)が未記入であった勤務は解析から除外したので,延べ901回の勤務中870回(96.6%)の勤務について分析した.

4. 分析方法

上記の調査データをもとに,1.参加者の個人属性,2.勤務中の眠気の強さ,3.勤務中の眠気のピーク時刻について,記述統計でデータの分析を行った.1.参加者の個人属性は,交替制勤務別に参加者54名のデータについて分析を行った.その後,2.勤務中の眠気の強さは延べ870回の勤務について,3.勤務中の眠気のピーク時刻は,眠気のピーク時刻が報告された延べ553回の勤務について,交替制勤務,勤務帯別にデータ分析を行った.

5. 倫理的配慮

本研究は,著者らが所属する大分県立看護科学大学の研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号;19-70).参加申込者に書面で研究の目的と方法,研究参加は自由意志であり途中で辞退しても不利益を被らないこと(謝礼も支払われること)や無記名での調査であること,個人情報とプライバシーへの配慮について説明し,書面で研究協力への同意を得た.

Ⅴ. 結果

1. 参加者の個人属性

参加者の個人背景を表1に示す.2交替制勤務では約85%が女性看護師であり,3交替制勤務では約60%が女性看護師であった.約半数が35~44歳で,34歳以下の若い看護師は約4分の1を占めた.2交替制勤務と3交替制勤務のそれぞれで,看護師経験年数の平均(SD)は14.6(6.8)年と17.7(11.9)年,交替制勤務の経験年数は13.5(6.9)年と15.2(10.7)年であった.

表1 参加者の個人属性

変数 カテゴリー 2交替制勤務(n = 27) 3交替制勤務(n = 27)
n(%) n(%)
性別 男性 4(14.8) 10(37.0)
女性 23(85.2) 17(63.0)
年齢 ≦34 7(25.9) 6(22.2)
35~44 14(51.9) 11(40.7)
45≦ 5(18.5) 10(37.0)
無回答 1(3.7) 0(0.0)
婚姻 未婚 11(40.7) 12(44.4)
既婚 16(59.3) 15(55.6)
同居者 いない 5(18.5) 8(29.6)
いる 22(81.5) 19(70.4)
6歳以下の子供との同居 いない 19(70.4) 21(77.8)
いる 8(29.6) 6(22.2)
在宅介護の有無 なし 27(100.0) 27(100.0)
あり 0(0.0) 0(0.0)

N = 54(人)

2. 勤務中の眠気の強さ(KSS値)

2交替制勤務看護師27人から,延べ402回の勤務(日勤320回,夜勤82回)のデータを得た.3交替制勤務看護師27人から,延べ468回の勤務(日勤237回,準夜勤111回,深夜勤120回)のデータを得た.勤務帯別のKSS値の度数分布を図1図2に示す.

図1  2交替制勤務中の眠気得点の分布
図2  3交替制勤務中の眠気得点の分布

2交替制勤務の場合(図1),日勤では320回中119回(37.2%)でKSS値6点以上の眠気が報告され,夜勤では82回中56回(68.3%)でKSS値6点以上の眠気が報告された.

3交替制勤務の場合(図2),日勤では237回中129回(54.4%),準夜勤では111回中52回(46.9%),深夜勤では120回中91回(75.8%)で,KSS値6点以上の眠気が報告された.

このうち2交替制日勤以外のすべての勤務帯において,KSS値の最頻値は7点であった.2交替制日勤のみ1点が最頻値であり,また2交替制日勤以外の勤務帯でもKSS値1~3点という勤務は比較的多く,KSS値は二峰性分布(ピークが2つに分かれる分布)を示した.

3. 勤務中の眠気のピーク時刻

2交替制勤務では日勤160回と夜勤70回の勤務において,3交替制勤務では日勤158回,準夜勤64回,深夜勤101回の勤務において,眠気のピーク時刻が報告された.2交替制勤務と3交替制勤務の眠気のピーク時刻を,日勤帯(図3)と夜勤帯(図4)に分けて示す.なおこれらの図には眠気ピーク時のKSS値が6点未満であった場合も含まれるが,これを除外しても時刻分布はほぼ同じであった.また,眠気のピーク時刻と勤務開始から眠気ピーク時までの経過時間を表2に示す.

図3  日勤帯の眠気のピーク時刻
図4  夜勤帯の眠気のピーク時刻(※3交替制勤務のうち16:30~1:00は準夜勤,1:30~9:00は深夜勤の結果を示す.)
表2 眠気のピーク時刻および,勤務開始から眠気ピーク時までの経過時間

シフト n 眠気のピーク時刻 勤務開始~ピーク時刻までの経過時間
2交替日勤 160 13:52(2:19) 5:34(2:18)
3交替日勤 158 13:33(1:28) 5:09(1:26)
2交替夜勤 70 3:38(2:21) 11:34(2:27)
3交替準夜勤 64 22:32(1.23) 6:18(1:25)
3交替深夜勤 101 4:35(2:01) 4:10(2:02)

Mean(SD) nは延べ勤務回数

日勤帯の眠気ピーク時刻は,2交替制勤務,3交替制勤務ともに13:00~15:00で最も多くみられた(図3).勤務開始から眠気ピーク時までの経過時間の平均は5~6時間であった(表2).

一方,夜勤帯の眠気ピーク時刻の訴えは,3交替制勤務の準夜勤では22:00~23:00で最も多くみられ,2交替制勤務の夜勤及び3交替制勤務の深夜勤では2:00~4:00で最も多くみられた(図4).また,勤務開始から眠気ピーク時までの経過時間の平均は,2交替制勤務の夜勤で11時間34分,3交替勤務の準夜勤で6時間18分,3交替勤務の深夜勤で4時間10分と,2交替と3交替で大きな差がみられた.

Ⅵ. 考察

1. 勤務中の眠気の強さ

2交替制・3交替制勤務ともに,日勤中でも4~5割の勤務で眠気が観察された(図1図2).看護師のみならず一般労働者が勤務中に眠気を感じる割合の研究報告は国内外でも乏しい.参考までに,大学生が対象の眠気の調査では午後の講義の86.1%で眠気があったと報告されており,本調査の約2倍であった(吉本ら,2020).学生は労働者より生活が不規則なことが多く,また講義が座学中心であるために,多くの眠気が報告されたと考えられる.一方,日本人3,752人を対象に行なわれた調査では,日中に眠気を感じることがあると回答した人は42%であった(PHILIPS, 2023).今回の調査と近い結果ではあるが,上記の調査では常態的な眠気を評価しており,調査対象者の勤務形態についても報告されていないため,単純に比較することは難しい.交替制勤務と常日勤の看護師における日勤中の眠気については,交替制勤務者の方が,眠気得点が高いことが報告されている(黒岩・影山,2020).交替勤務者では,夜間勤務により体温リズムと睡眠覚醒リズムがずれることで,夜勤明けの睡眠の量と質が低下するため(堀,2008),常日勤者以上に日勤中の眠気が生じやすいものと考えられる.いずれにしても,今回の調査で夜勤時だけでなく日勤時の眠気の問題にも注意が必要であることが確かめられた.今後,他業種や常日勤者の勤務中の瞬間的な眠気の報告がなされれば,業種間や勤務形態での比較も可能となり,医療事故対策を検討する上で有益な情報となるので,他業種や常日勤者についても実態調査が望まれる.

他方,夜勤帯を見ると(図1図2),準夜勤帯では5割近くの勤務で,深夜勤帯では7~8割の勤務で眠気が報告された.「昼間に活動し,夜間に眠る」というヒトのサーカディアンリズムを考えると,夜勤帯ではほとんどの勤務において眠気を感じていても当然と思われたが,実際には眠気を感じない勤務もあることが明らかになった.特に準夜勤では,約半数の勤務で眠気を感じていなかった.準夜勤の前半は睡眠禁止帯(forbidden zone),つまり「体温が一日の中で一番高く,覚醒度も高く,通常は睡眠がほとんど出現しない時間帯」(Lavie, 1985)に当たるため,2交替制勤務の夜勤や3交替制勤務の深夜勤に比べ眠気を感じにくいのだと考えられる.

看護師のみならず他分野の労働者でも勤務中の眠気得点の分布に関する研究報告は乏しく,本研究のように勤務中の眠気の強さが二峰性分布を示したという報告はほとんどない.二峰性分布を示すということは,性質が異なる2群のデータを区別せず観察したということであり(緒方,2013),今回の調査では「眠気があった勤務」と「眠気がなかった勤務」の2種類の勤務が観察されたことを意味する.よって,今後この2群の勤務を比較することで,「眠気があった勤務」と「眠気がなかった勤務」の違い,つまり,眠気に関連する要因を検討できることになる.この点については,今後さらに詳しく検討する予定である.

2. 勤務中の眠気のピーク時刻

看護師の交替制勤務は,例えば「2交替;日勤→夜勤→休み」「3交替;日勤→深夜勤→準夜勤→休み」というように,工場労働者などと比べると,夜勤シフトが連続することがあまりない,急速かつ不規則に交替する勤務(rapidly rotating shift systems; Asaoka et al., 2013Kageyama et al., 2001)と呼ばれる勤務形態である.このような勤務形態では,生体本来のサーカディアンリズムは大きく変わらない(堀,2008)とされる.深夜勤帯の看護師の舌下温を調べた研究でも,本来のサーカディアンリズムからのずれは認められていない(折山ら,2011).したがって本研究の参加者でも,日勤者と同様の生体リズムが生理学的に維持されているものと考えられる.

そこで,本研究の結果をみると眠気のピーク時刻は,日勤帯では13:00~15:00(図3),夜勤帯では2:00~4:00で最も多く(図4),勤務形態にかかわらず,ヒト本来の生体リズム(サーカディアンリズム,セミサーカディアンリズム)において眠気がピークに達する時刻(Lavie, 1985)と一致していた.一般的に,瞬間的な眠気に関連する要因として,上記で述べた生体リズム(時刻)との関係,及びその時点までの連続活動時間がある(Folkard & Åkerstedt, 1992).しかし,今回の結果では「勤務開始から眠気のピークまでの経過時間」は勤務帯毎に異なっていた.したがって,交替制勤務に就く看護師の場合,勤務中に眠気を感じるタイミングは勤務開始からの経過時間に影響されるのでなく,主としてヒトの生体リズム(Lavie, 1985),つまり時刻に依存していると考えられる.

ここで,看護師のヒューマンエラーが起こりやすい時間分布を調査した研究では,3:00~5:00(第1ピーク)と14:00~16:00(第2ピーク)にエラーが多いことが知られている(Mitler et al., 1988).この時刻は,日勤・夜勤ともに今回の眠気のピーク時刻とおおむね一致している.今回の調査では,眠気と医療事故の発生との直接的な関係を確認していないが,この時間帯は眠気も医療事故発生率も高まるので,注意が必要な時間帯であるといえる.さらに,これまであまり注目されてこなかったことだが,準夜勤でも睡眠禁止帯がほぼ終わった22~23時頃にも眠気の出現がやや増えており,医療事故防止という観点から要注意の知見である.

Ⅶ. 研究の課題

本研究の限界として,上記のデータは,2つの病院が採用している2交替制勤務システムと3交替制勤務システムの下での,限られた看護師集団から得られたものだということがある.そのため,今後異なる勤務スケジュールや異なる忙しさの交替制勤務(例えば,救急外来やICU,急性期病棟など)でも調査を行い検討していく必要がある.

同じ勤務シフトでも眠気が生じない場合があったので,どのような条件で眠気が生じやすいのかを,個人属性とシフト毎に変わる条件(例えば,前の勤務からのインターバル時間や先行する勤務のパターン,仮眠の有無など)の両面から検討することが課題であり,今後検討していく予定である.また,今回は眠気のピーク時刻の一時点を調査したが,その眠気がどのくらい持続しているのかといった眠気の持続時間も,医療事故対策を検討する上で重要な情報である.今後調査する際には,この点も考慮に入れ調査を行う必要がある.また,眠気を精神運動警戒課題(PVT)などの客観的の評価法で測定した場合に同様の結果が得られるかどうかも,今後の検討課題である.

今回,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行後1年以内の期間で調査を行っており,調査対象病棟はCOVID-19対応病棟ではないものの,入院制限や面会制限などの対応をしている時期であった.そのため,感染症法上の分類が下がりCOVID-19の業務影響が減ってきている現在,同様の結果が得られるかどうかも今後の検討課題である.

Ⅷ. 結語

病棟で勤務する交替制勤務看護師は,日勤帯では37~54%の勤務で,準夜勤帯では47%の勤務で,そして夜勤帯では68~76%の勤務で眠気を感じていた.今後の研究で「眠気があった勤務」と「眠気がなかった勤務」を比較することにより,眠気が生じやすい条件を明らかにする必要がある.この眠気がピークに達する時刻は,夜勤帯の明け方3~5時頃,日勤の14~16時頃,および準夜勤では22~23時頃が多かった.この時刻は,勤務開始からの経過時間に影響されるのでなく,主に生体リズムに依存していた.たとえ夜勤に慣れている看護師でも,生体リズムをその都度の勤務時間に同調させることは難しいので,医療事故を起こさないよう注意が必要な時間帯である.

付記:本論文の内容の一部は,第47回日本睡眠学会定期学術集会において発表した.

謝辞:本調査にご協力くださった病院の看護管理者様および看護師の皆様に心より感謝申し上げます.本研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業からの助成を受け実施した(No. 15K11859).

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:すべての著者が研究の着想およびデザインに貢献した.調査の準備,データ収集,分析は黒岩千翔と影山隆之が行った.原稿の初稿は黒岩千翔と影山隆之によって書かれ,すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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