Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Happiness Felt by Family Caregivers of Older Adults Needing Care
Chikako Takabayashi
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2024 Volume 44 Pages 743-752

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Abstract

目的:要介護状態にある高齢者の家族介護者が介護をする生活の中で感じる幸福を明らかにする.

方法:要介護状態にある高齢者の家族介護者に半構造化インタビューを行い質的帰納的に分析した.

結果:家族介護者は,介護をする生活の中で【要介護者と穏やかに暮らす】【要介護者以外の家族が寄り添ってくれる】【介護をする自分にさまざまな専門職が支えてくれる】【介護から解き放たれ自分の時間を過ごす】【介護から離れ仲間と楽しく過ごす】ことに幸福を感じていた.

結論:看護職は,家族介護者の生活や人生の質の向上のために,家族介護者が感じている幸福にも目を向けながら家族介護者の生活特性や心身の状態をアセスメントし,その幸福ができる限りこの先も続くよう要介護者や家族介護者の状況や生活背景に合わせ,情緒的,情報的,評価的サポートを行っていくことが必要である.

Translated Abstract

Objective: To identify the happiness family caregivers experience as caregivers of older adults needing care.

Method: Semi-structured interviews were conducted with family caregivers of older adults needing nursing care and qualitatively and inductively analyzed.

Results: Family caregivers felt happiness as caregivers when they were able to “live peacefully with the person needing care,” “have family members be there for them other than the person needing care,” “have various professionals support them as caregivers,” “be free from care and spend time by themselves,” and “enjoy time with friends away from caregiving.”

Conclusion: To improve the quality of life of family caregivers, nurses should assess the circumstances and physical and mental health of caregivers, focusing on their subjective well-being. Moreover, it is necessary to provide emotional, informational, and evaluative support tailored to the situation and life background of caregivers and recipients to promote sustained happiness among caregivers.

Ⅰ. 緒言

わが国は高齢者人口の増加とともに要介護(要支援)認定者数も増加し続け,2023年は705万人になっている(厚生労働省,2023a).これに伴い,家族介護者も増加傾向で推移しており,2021年は653万人にまで達している(総務省,2022).家族介護者の同別居の割合をみると,事業所・不詳の42.3%を除くと,別居が11.8%,同居が45.9%となっている(厚生労働省,2023b).要介護者と別居している家族介護者は,仕事と介護の両立の困難さを感じ,精神的な負担が大きく,要介護者の容態が急変したときに対応できないことなどに悩んでいる(みずほ情報総研株式会社,2012)のに対し,要介護者と同居している家族介護者は,精神的・身体的負担を感じている人の割合が6割強と非常に高く(厚生労働省,2018),ほとんど終日介護をしている介護者は,介護負担が大きくストレスフルな状況にあり(戸塚・庄子,2022),介護保険制度導入前後の1999年と2011年の家族介護者の介護負担感の調査では,排泄や入浴の介護負担感は減少したものの,食事介助と介護環境に対する負担感を抱く家族介護者は依然として多い(立松,2014)ことが報告されている.このようなさまざまな負担感を抱きながら介護をしている家族介護者に対しては,介護負担の軽減に向けた支援のみならず,家族介護者自身の生活や人生の質に対しても支援する視点を持つ必要がある.

要介護者と暮らす家族介護者にかかわる看護職は,訪問看護師,保健所保健師,地域包括支援センター看護職などが挙げられる.訪問看護師は,療養者への直接的な看護ケアに加え,家族の健康維持や介護負担の軽減に寄与し(梶ら,2017),保健所保健師は,難病患者への直接サービスだけでなく,家族それぞれの健康課題にアプローチすることが重要な役割となっており(小川ら,2019),地域包括支援センター看護職は,要介護者や家族介護者の支援において看護の専門性を発揮し役割を果たすことが期待されている(長寿社会開発センター,2022).しかし家族介護者支援の現状は,訪問看護師は,健康問題を抱える家族介護者への支援が十分できないことに悩み(後藤,2009),保健所保健師は,診断早期における家族ニーズの対応に困難を感じ(牛久保・川尻,2011),地域包括支援センター看護職は,介護ストレスを抱える家族介護者の対応に困難を感じている(山口,2018).

厚生労働省は第7期介護保険事業計画から日常生活圏域ニーズ調査の必須項目に主観的幸福感を追加しているが,追加した理由を「要介護状態になる前の高齢者の主観的幸福感を把握することで,地域の精神面での健康度のアウトカム指標として活用することが可能になる」と説明している(厚生労働省,2019).主観的幸福感とは,QOL(Quality of life)の心理的側面であり,個人が生活に満足し,幸福を感じながら良く生きているかを示す概念(石井,1997)であり,QOLを日本語に翻訳すれば「人生の質」,「生活の質」あるいは「人生・生活の質」となる(土井,2004).高齢期における主観的幸福感は,女性の方が男性よりも高く(岡元,2019),主観的幸福感が高いと健康管理に対する自己効力感が高まり(深堀ら,2009),健康状態(Carmel et al., 2017)や多彩な余暇活動(橋本・厚海,2015)が高齢者の主観的幸福感の関連要因となっていることが明らかになっている.また,家族介護者の主観的幸福感の影響要因には,副介護者の存在や情緒的支援ネットワーク(川本ら,1999),家族介護者の主観的健康感や介護技術の習熟度,患者のADLや介護を受ける期間(Jung & Oksoo, 2005),家族介護者への情報提供(牧迫ら,2009)があることが報告されている.これらの研究は,いずれも質問紙調査で得たデータを分析した研究であり,面接法を用いた家族介護者の主観的幸福感に関する研究はみられない.一方,面接法を用いた家族介護者の肯定感に関する研究は散見しており,家族介護者が介護に対しての肯定感をもつことは,介護に取り組む重要な原動力(檪,2021)や介護力の源(和田,2017)となり,より良い介護の実践に繋がり(渡邉・渡邉,2019),介護の肯定的側面に注目することは,生活全体と関連させて介護経過の把握ができ(長谷川,2003),介護者と在宅療養者の双方に有用である(武智ら,2020)ことが報告されている.しかし,これらの研究の目的は,家族介護者の介護に対する肯定的認識を形成もしくは高めることであり,家族介護者自身の生活や人生の質の向上を第一の目的に位置づけてはいない.また,面接法を用いた家族介護者の満足感に関する研究では,介護に対する満足感を持つことは,介護肯定感を導き(和田,2017),介護継続意思を形成し(髙橋・眞鍋,2013),要介護者の在宅看取りを行なった家族は最期まで在宅で介護をやりきったことへの満足感を抱いている(木坂ら,2013小澤ら,2020)ことが報告されている.これらの介護者の満足感に関する研究の目的は,家族介護者が要介護者の介護を在宅で継続していくことにあり,家族介護者の生活や人生の質の向上を第一の目的とはしていない.

そこで本研究は,家族介護者自身の生活や人生の質の向上を目指し,要介護状態にある高齢者の家族介護者がどのような生活体験をし,その生活の中でどのような幸福を感じ暮らしているかについてインタビューを行ない,介護をする生活の中で家族介護者が感じる幸福を明らかにすることを目的とする.これが明らかになれば,家族介護者の生活特性や心身の状態を的確にアセスメントすることのできる看護職にとって,目の前の家族介護者を理解するための大きな手掛かりとなり,さらには今後ますます増加する家族介護者が自身の生活や人生の質を向上できるよう,介護をする生活の中で幸福を得られる支援のあり方を検討するための基礎的資料になり得ると考える.

Ⅱ. 用語の定義

家族介護者:自宅で暮らす要介護者の要介護度(要支援1から要介護5)の割合には大きな差はみられず(厚生労働省,2023b),介護が必要になった主な原因は,認知症,脳血管疾患,高齢による衰弱,骨折・転倒など多岐にわたり(内閣府,2021),同居家族介護者の続柄の殆どを占める配偶者と子の割合には大きな差がみられない(厚生労働省,2023b)ことから,本研究では要介護認定(要介護区分や疾患名は問わず)を受けている65歳以上の要介護者と同居し,主たる介護者として介護をしている家族(続柄は問わず)を家族介護者とした.

幸福:主観的幸福感は日常の出来事に対し生起した情緒反応や人生に対する満足感を含む概念(Diener et al., 1999)であり,幸福感と満足度は異なる規定要因をもつ別種の意識である可能性が高く,幸福感を満足度で代替するのは慎重さが求められる(小林ら,2015)ことから,本研究では家族介護者が日常生活の中で感じる喜びや楽しさ,嬉しさ,安らぎ,安心,感謝の感情を抱いている状態を幸福とし,満足感は含めないこととした.

Ⅲ. 方法

1. 研究デザイン

質的記述的研究デザイン

2. 研究参加者

A県内で,要介護認定(要介護区分や疾患名は問わず)を受けている65歳以上の要介護者と同居し,主たる介護者として介護をしている家族(続柄は問わず)7名であった.

3. データ収集期間

2022年5月~2022年11月であった.

4. データ収集方法

本研究では,半構造化インタビュー法を用いた.研究協力の同意が得られたA県内の居宅介護支援事業所の管理者に家族介護者の選定を依頼し,研究参加の同意の得られた方を研究参加者とした.インタビューは2回実施した.1回目のインタビューでは,介護をする生活の中で幸福を感じるとき(こと)について自由に語ってもらった.語りに際し,語りたくない内容は語らなくてもよいことをあらかじめ伝えた.2回目のインタビューは,1回目のインタビューで研究者が理解した内容を伝え,相違がないか確認した.インタビューは研究参加者の許可を得て録音した.また,研究参加者の属性として,家族介護者の続柄,年齢,要介護者の年齢,要介護度,介護期間,疾患名について聴取した.

5. 分析方法

データ分析は,逐語録を繰り返し読み,幸福を感じるとき(こと)につながる内容に焦点を当てコード化した.コードの意味内容や類似点,相違点を比較検討し,意味の共通するまとまりからサブカテゴリ,カテゴリとして抽象化していった.分析内容の妥当性と信頼性の確保のため,2回目のインタビュー時に研究参加者に内容の確認を行い,研究者が理解した内容に相違がないかを確認した.分析過程では,先入観の混入可能性を念頭に置き,生データに戻りながら分析を進めた.

6. 倫理的配慮

本研究は,新潟県立看護大学倫理委員会の承認(承認番号021-7)を得て実施した.研究参加者には,研究目的,協力内容,研究参加は自由意思であり,辞退や中断を希望した場合でも不利益は生じないこと,個人情報の保護について口頭および書面で説明し,研究参加の意思を確認した.インタビューは研究参加者のプライバシーを確保して実施した.

Ⅳ. 結果

1. 家族介護者と要介護者の概要(表1

本研究では,家族介護者の年齢は平均70.7歳,要介護者の年齢は平均78.6歳,要介護度は平均3.6,介護期間は平均5.0年であった.家族介護者の続柄は妻4名,夫1名,長女1名,妹1名であった.1人あたりのインタビュー時間は1回目58~101分(平均69分),2回目29~61分(平均38分)であった.

表1 家族介護者と要介護者の概要

ID 家族介護者 要介護者
続柄 年齢 要介護者以外の同居家族の有無 年齢 要介護度 介護期間 疾患名
A 76 77 5 1年 頸椎損傷
B 71 74 5 2年 脳腫瘍
C 長女 46 72 1 4年 髄膜炎(全盲)
D 70 82 4 2年 認知症
E 72 74 4 10年 脳梗塞,脳出血
F 80 87 1 5年 認知症
G 80 84 5 11年 脳梗塞

2. 要介護状態にある高齢者の家族介護者が介護をする生活の中で感じる幸福

分析により,215のコード,14のサブカテゴリ,5つのカテゴリ【要介護者と穏やかに暮らす】【要介護者以外の家族が寄り添ってくれる】【介護から離れ仲間と楽しく過ごす】【介護から解き放たれ自分の時間を過ごす】【介護をする自分にさまざまな専門職が支えてくれる】が明らかになった(表2).

表2 要介護状態にある高齢者の家族介護者が介護をする生活の中で感じる幸福

カテゴリー サブカテゴリー コード(ID)
【要介護者と穏やかに暮らす】 《病状が安定していることを嬉しく思う》 ・リハビリで少しでも良くなってきたときが嬉しい(A)
・便が出ず辛い経験があったから,便がきちんと出たときは嬉しい(B)
・病気が安定して1日過ごせることを幸せに思う(G)
《同じ空間で穏やかな時間を過ごす》 ・しゃべらなくてもそばにいられることが嬉しい(B)
《要介護者の愛を感じ穏やかな気持ちになる》 ・夫が私の顔を撫でてくれたとき,愛を感じ幸せに思う(E)
・家事を終えたときに労ってくれる行動を見せてくれると愛しく思う(D)
【要介護者以外の家族が寄り添ってくれる】 《息子がさりげなく気にかけてくれる》 ・息子がいつの間にか来て草を刈ってくれることに感謝する(A)
・息子がセットしてくれたYouTubeを何度も見ることで心が救われた(A)
・優しい言葉をかけてもらえたときは心が安らぐ(E)
《孫が笑顔で話しかけてくれる》 ・幼い孫から無邪気に声をかけてもらえると幸せを感じる(E)
・にこにこして“おじいちゃん”と言ってくれると幸せを感じる(E)
《離れて暮らす妹が温かく励ましてくれる》 ・LINEでたわいもない近況を頻繁に送ってくれると心が救われる(A)
《一緒に暮らす家族がそっと協力してくれる》 ・仕事から帰ってくると夕食が作ってあることに感謝する(C)
・夜中のオムツ交換を孫が手伝ってくれたときありがたいと思う(E)
【介護から離れ仲間と楽しく過ごす】 《近所の仲間とたわいのない会話をする》 ・畑に出て近所の人とたわいもないことを話すことが嬉しい(A)
・近所の友人とお茶飲みすることが嬉しい(B, D)
《昔の常連客と楽しく過ごす》 ・昔の仲間と集まって飲んだり喋ったりするのが楽しい(F)
・仲間のために作った料理をおいしいと言ってもらえた時がとても嬉しい(F)
【介護から解き放たれ自分の時間を過ごす】 《今から自由と思いディサービスの見送りをする》 ・父がディサービスに行くと,帰ってくるまで自分は自由と思い嬉しい(C)
・姉がディサービスに行くと自分だけでいられるので胸がすっきりする(F)
《好きなことをして自分の時間を楽しむ》 ・誰にも邪魔されない自分だけの時間を持てるとことを幸せに思う(C)
・テレビ趣味は俺の時間と決めてそれを楽しみにしている(D)
・本読んだりする時間が一番気持ち的に穏やかでいられる(F)
・自分の気持ちが吐けるので短歌に助けてもらっている(G)
《今日やるべき介護をすべて終えてくつろぐ》 ・今日の介護を全部終えて子どもらとくつろぐときが一番楽しい(C)
【介護をする自分にさまざまな専門職が支えてくれる】 《困ったときはいつでも相談できる》 ・訪問看護ステーションには24時間電話できるので本当に安心できる(A)
・いつでも相談できることを安心に思う(G)
《さまざまな専門職が気にかけてくれる》 ・ケアマネや訪問看護師が長年変わらずに担当してくれ感謝している(G)
・市保健師が私のことを気にかけて連絡をくれたときは嬉しくなる(C)
・ケアマネや訪問看護師の温かい言葉が心のささえになっている(G)

以下カテゴリを【 】,サブカテゴリを《 》,研究参加者の語りを「斜字」で示した.

1) 【要介護者と穏やかに暮らす】

このカテゴリは家族介護者のうち妻や夫に限定しており,要介護者に深い愛情をもって寄り添う配偶者としての思いが示されていた.具体的には《病状が安定していることを嬉しく思う》《同じ空間で穏やかな時間を過ごす》《要介護者の愛を感じ穏やかな気持ちになる》ことへの喜びであった.

《病状が安定していることを嬉しく思う》では,要介護者の体調を常に気にかけながら毎日を送る中で「笑ったときとか,リハビリで少しでも良くなってきたときは嬉しい」(A氏)と感じ,「便が出なくて救急車で運ばれた経験があるので,やっぱりきちんと出たとき嬉しいですね」(B氏)などと「病気が安定して1日過ごせることが幸せ」(G氏)と安定した状態の要介護者と穏やかに暮らせていることに幸福を感じていた.

主人と同じ部屋でテレビ見たり寝転んだり,しゃべらなくても同じそばにいられることが嬉しい」(B氏)や「やっぱりこうやって一緒にいられるだけ楽しいし,嬉しい」(D氏)のように,介護が必要な状態にあっても《同じ空間で穏やかな時間を過ごす》ことができることに幸福を感じていた.

《要介護者の愛を感じ穏やかな気持ちになる》では,体調を崩し短期入院したE氏が「退院してきたとき,私の顔を撫でてくれるんです.ありがたいですね.思ってくれているんだなって」と自分を気遣ってくれた優しさを感じ,またD氏は「晩ご飯終わって茶碗洗って“終わったよ”っていうと“ご苦労さん”って口だけで.声が出なくても,ああ言っているんだなって思うとハグしたくなる」と身体が不自由ながらも精一杯感謝を自分に向けて示してくれる愛情を感じ,それによりE氏もD氏も要介護者に愛しさを抱いていた.

2) 【要介護者以外の家族が寄り添ってくれる】

体調が変化する要介護者の介護を一人で行っている自分に対し,離れて暮らす家族や一緒に暮らす家族が温かい言葉かけや行動を通して寄り添ってくれることに感謝や幸せを感じていた.具体的には,《息子がさりげなく気にかけてくれる》《孫が笑顔で話しかけてくれる》《離れて暮らす妹が温かく励ましてくれる》《一緒に暮らす家族がそっと協力してくれる》ことがあった.

《息子がさりげなく気にかけてくれる》では,離れて暮らす息子が「いつの間にか来て草刈ってくれたり(中略)息子がセットしてくれたいろんなYouTubeを目が悪くなるほど見ました.それで救われました」(A氏)や「私は運転できないからちょっと買い物に行ってもらったり.“ちょっと食べに行こう”“何が食べたい?”と言ってくれて.そんなので心が安らぎます」(E氏)と自分を気にかけ行動してくれる息子を頼もしく思い,穏やかな気持ちになっていた.

《孫が笑顔で話しかけてくれる》では,介護をしている日々の中で一緒に暮らす幼い孫が自分に対し「“ばあば,ばあば”と言ってくれるから嬉しいです」(E氏)や「にこにこして“おじいちゃん”っていって言ってくれると幸せだと思います.私も主人も」(G氏)のように自分や要介護者に対して孫が話しかけてくれることがとても嬉しく,幸せを感じていた.

《離れて暮らす妹が温かく励ましてくれる》は,「(遠くに住んでいる)私の妹がこっちが豪雪で困っているのに絹さやが出てきたとか,ジャガイモ植えたとか,そんなのをLINEで写真きたりして,それはまあ救われました」(A氏)と明るく,且つさりげなく自分を気遣ってくれる妹流の温かい励ましを嬉しく思い,心が癒されていた.

《一緒に暮らす家族がそっと協力してくれる》では,一緒に暮らす母親が「休みのときは,私が仕事から帰ってくると夕食を作っておいてくれたりします.ありがたいです」(C氏)や,寝たきりの夫が「夜中ちょっと漏らしたりすると,20歳の孫が着替えを手伝ってくれて本当に寄り添ってくれるんです」(E氏)と長期にわたり介護を続ける自分を気遣い,家事や介護をさりげなく協力してくれる優しさに感謝していた.

3) 【介護から離れ仲間と楽しく過ごす】

日頃の介護を離れ,近所の人たちとたわいのない会話ができることに幸せを感じていた.ここでは《近所の仲間とたわいのない会話をする》《昔の常連客と楽しく過ごす》ことへの嬉しさがあった.

《近所の仲間とたわいのない会話をする》では,畑に出て近所の人と「“今年トマトどう?”“じゃあ,うちいいからちょっと持ってくよ”とか,たわいもないことですが,人と会話する,そういうのがいいんじゃないかと思います」(A氏)や公民館に定期的に集まる仲間から「“(主人の)リハビリの時間までの間,お茶だけでも飲みに来なよ”って言ってくれてみんなとお茶飲んだり,近所の友だちと行ったり来たりしてお茶飲んだりとか,気を紛らわすことをやってくださるのが一番助かります」(B氏)や「(近所の友人の)自宅までお茶飲み行ってお互いの口説き話を男同士の気楽さで.(中略)向こうから電話で“お茶飲みに来なよ”って言うと“あいよ”ってすぐ行く.それは大事な生活の一部」(D氏)と介護をする空間から離れ,近所の親しい人とたわいのない会話をすることが嬉しく,その時間を大切に思っていた.

《昔の常連客と楽しく過ごす》は,「ご飯作る商売だったものですから,今でも1カ月に1回ぐらい集まって飲んで.私はご飯を作ることが好きなんでね.“今日これ作ったけどどう?”って聞いたら“これは何とかだね”とか言われるのが楽しくてね.それで塩辛を作ると“ものすごくうまい”って.それがとても嬉しくてね」(F氏)と介護を離れ,昔からの仲間と楽しく過ごすひとときに幸せを感じていた.

4) 【介護から解き放たれ自分の時間を過ごす】

介護から解き放たれ,《今から自由と思いディサービスの見送りをする》《好きなことをして自分の時間を楽しむ》《今日やるべき介護をすべて終えてくつろぐ》など自由に過ごせることに喜びを感じていた.

《今から自由と思いながらディサービスの見送りをする》では,「きょうは休みでお父さんもディサービスでいない,やったー,帰ってくるまで自由だ,そんな感じです」(C氏)や「うちの姉が(ディサービスに)行きますでしょ,朝送って.そうすると何か胸がすっきりした気がするんです.広くなったような,青空になったような.自分だけでいられる」(F氏)と,これから夕方まで自分が自由になることで解放感に満たされていた.

《好きなことをして自分の時間を楽しむ》では,「ぼーっと横になっていようが,お茶飲んでいようが,好きなDVD見ていようが,誰にも邪魔されない自分だけの時間はしあわせ」(C氏)や「趣味で競馬だけはできるようにしてる(中略)テレビ見ながら遊んでる.これは俺の時間と決めてそれを楽しみにしている」(D氏)や「書き物したり本読んだり.面白いんです結構.それ書いているのが好きなものですから(中略)そういう時間が一番気持ち的に穏やか」(F氏).「短歌に助けてもらっています.自分の気持ちが吐けるんです.(中略)毎月冊子が送られてきます.10首出したけど,何が載ったかなと心わくわくして」(G氏)と自分の世界で自分の好きなように過ごす時間に喜びを感じ,その時間を大切にしていた.

《今日やるべき介護をすべて終えてくつろぐ》は,「お父さんの布団敷きが終わって,うちのこと全部終わって,2階に行って子どもと3人でテレビ見ているときとか,一緒にゲームやったりとかするときが一番楽しい」(C氏)と今日やるべき介護と家事をすべて終え,自分の大切な子どもらと楽しく自由に過ごすひとときに幸せを感じていた.

5) 【介護をする自分にさまざまな専門職が支えてくれる】

不安を抱えながら要介護者の介護をしていく中で《困ったときはいつでも相談できる》《さまざまな専門職が気にかけてくれる》など,要介護者と自分の健康について様々な専門職が気にかけてくれ,温かく親身に支えてくれることへの安心感や感謝であった.

《困ったときはいつでも相談できる》では,「訪問看護さんは24時間なんです.(中略)24時間電話ができるってもうそれは安心です」(A氏)や「ケアマネさんから,お父さんがちょっとおかしかったら24時間いつでも電話かければ訪問看護師さんがすぐ駆け付けられるからって言われていますので不安はありません.(中略)もうこの年になると,周りのきょうだいもみんな年取っておりますので,誰かに頼ることはできないので,そういうふうにしっかりとはっきりと言っていただいて安心です」(G氏)と要介護者の病状で困ったことがおきたらすぐに相談できる看護師がいてくれることに安心を感じていた.

《さまざまな専門職が気にかけてくれる》は「市の保健師さんが“調子どう?”とか“大丈夫?”とか,すごくこまめに連絡をくれます.特定健診後のアンケートと一緒に絵文字をいろいろ付けてくれたお便りをくれたのがすごく嬉しくて(中略)ケアマネさんも私のことも家族のことも気にかけてくれて」(C氏)や「(ケアマネージャーや訪問看護師が)よく変わられる方がいますけども,うちはずっと変わっていません.私のことをよく理解してくれて今日があるような気がします.ほんとに助けていただいて(中略)ケアマネさんは必ず“お母さんが一番大事だから”とか訪問看護師の方も“お母さんが倒れたら駄目なんだよ”とか“無理しないでね”とか“ちょっとでも何かあったら連絡くださいね”の言葉が心の支えになりました」(G氏)と要介護者だけでなく介護者である自分の健康を気にかけてくれ,温かく励ましてくれることに嬉しさと感謝を感じていた.

Ⅴ. 考察

1. 要介護状態にある高齢者の家族介護者が介護をする生活の中で感じる幸福

本研究は,わが国であまり注目されてこなかった家族介護者の生活や人生の質の向上に着目し,地域で生活する要介護状態にある高齢者の家族介護者が,介護をする生活の中で何に幸福を感じながら暮らしているのかを面接法を用いて明らかにし,家族介護者が介護をする生活の中で幸福を得られる支援のあり方を検討した研究である.

家族介護者へのインタビューを行い,質的帰納的に分析した結果,【要介護者と穏やかに暮らす】【要介護者以外の家族が寄り添ってくれる】【介護をする自分にさまざまな専門職が支えてくれる】【介護から解き放たれ自分の時間を過ごす】【介護から離れ仲間と楽しく過ごす】のカテゴリが抽出された.このことから,家族介護者は,介護をする生活の中で,状態が落ち着いている要介護者と穏やかに暮らすことに幸福を感じ,自分に対し要介護者以外の家族が寄り添ってくれることや介護をする自分にさまざまな専門職が支えてくれることに心強さと安心を感じる一方で,一時的な短い時間でも介護から離れ,自分の時間を過ごすことや,仲間と楽しく過ごすことに幸福を感じていることが明らかになった.

先行研究では,要介護者のADLが低く,介護を行う期間が長いほど家族介護者は自身の介護技術が磨かれ,自分自身を必要な存在と感じ,そのことが家族介護者の心理的幸福感に影響を与える(Jung & Oksoo, 2005)ことが報告されている.しかし,本研究では,10年以上にわたりADLが低い要介護者の介護を行っている家族介護者は研究参加者7名中2名おり,彼らに共通していた幸福は,要介護者と穏やかに暮らすことと,孫の存在であった.彼らは,状態が安定している要介護者と穏やかに暮らせることを嬉しく思い,家族介護者を気遣う仕草を見せる要介護者の優しさを感じて穏やかな気持ちになり,孫が笑顔で自分や要介護者に話しかけてくれることに幸せを感じていた.

先行研究では,他者からの助けを受けることで生じる感謝はその人の幸福感を高めるように,感謝の気持ちは幸福感と強く関連し(Alex et al., 2010),思いやりのある家族間の関係が家族介護者を幸せにすること(Piyarat et al., 2023)が報告されている.本研究でも家族介護者は,心優しい家族が自分に対し,日頃の介護による身体的負担を軽減できるよう支えてくれるだけでなく,愛情深く自分を気にかけてくれることに安心や感謝といった幸福感を抱いていた.また,在宅にて長時間の介護を行う介護者にとって専門職からの支援は大きな支えになる(尹,2022)ように,家族介護者はさまざまな専門職が親身になって要介護者と自分を支えてくれることに幸福を感じていた.

介護者は,介護によって自分自身の時間が持てないことに不自由さを感じ(楠本ら,2008),介護負担を増加させる介護者側の要因の一つは介護者の自由な時間の減少である(鷲尾ら,2003)ことが報告されている.また,主介護者にとって要介護者がサービスを受けている時間が介護から開放される瞬間である(田中ら,2007)ように,家族介護者は今から自由と思いディサービスの見送りをする瞬間や自分1人の時間を好きなことをして楽しむことに幸福を感じていた.家族や友人などの他者からの援助は,介護をネガティブに捉えることなく精神的にゆとりを見出し,家族介護者の精神的健康の維持に繋がる(木村ら,2020)ことが報告されているが,本研究でも家族介護者は,近所の人と野菜の出来について会話を交わし,公民館でお茶飲みや手芸をし,郷土料理を作り,昔の仲間と楽しい会話をすることを通して精神的ゆとりを見出し,幸福を感じていた.

2. 家族介護者が介護をする生活の中で幸福を得られる支援のあり方

本研究の研究参加者は,不安を抱えながら要介護者の介護をする自分を訪問看護師が支えてくれることに安心や嬉しさ,感謝を感じていた.しかし,実際の訪問看護師が働く現場では,訪問看護師が介護者の潜在的な健康問題を把握しても療養者のケア提供が優先されるため,介護者の支援が十分できず(後藤,2009),家族支援の効果を認識していない訪問看護師は,家族の健康状態について相談・助言の支援ができていない割合が多い(梶ら,2017)ことが報告されている.訪問看護師は,家族介護者の抱える健康問題を的確にアセスメントできる一方で,療養指導や医療処置,リハビリテーション,清潔ケア,排泄ケアなどの様々な業務を限られた訪問時間内に行う必要性があるために,家族介護者に対しては家族介護者の健康問題の改善に向けた日常生活上の具体的な助言を行うことが難しい状況に置かれている.しかし,本研究では,訪問看護師の家族介護者にかける言葉が家族看護者の心の支えとなっていた.家族介護者の健康を気遣い,温かい言葉をかける行為といった情緒的サポートは,家族介護者の健康を支えていくための重要な看護であるといえる.それがたとえ短い言葉であっても,家族介護者は安心や嬉しさ,感謝などの感情をもつことができると考える.

また,本研究の研究参加者は,介護をする生活の中で要介護者と穏やかに暮らし,要介護者以外の家族が温かく寄り添い,さまざまな専門職が自分を気にかけ,介護を離れて自分の時間や仲間との楽しいひとときを持つことに幸福を感じていた.先行研究では,難病患者や家族が困っていることや心配なことに寄り添うことが保健所保健師の重要な支援であり(小川ら,2019),要介護者の状況把握に加え,家族介護者の不安や悩みなどを引き出すことは地域包括支援センター看護職の重要な役割である(三菱UFJリサーチ&コンサルティング,2021)ことが示されている.

家族介護者の不安や悩みの軽減に向けた支援は,家族介護者の介護継続につながることが報告されている(森・上杉,2016)が,家族介護者自身の生活や人生の質の向上を目指す支援も保健所保健師や地域包括支援センター看護職に求められると考える.具体的には,保健所保健師や地域包括支援センター看護職は,家族介護者の生活特性や心身の状態をアセスメントする際,信頼関係を築きながらコミュニケーションをとり,共感しながら傾聴し,家族介護者が介護をする生活の中で幸福を感じること(とき)にも目を向けることが重要である.そして,家族介護者が,状態の安定している要介護者と穏やかに過ごすことに幸福を感じていたならば,そのことを受け止め,理解し,要介護者の要介護状態の悪化をできる限り防ぐ,あるいは軽減できるよう必要な助言や情報の提供といった情報的サポートを要介護者や家族介護者,家庭の状況に合わせながら行うことが必要である.また,家族介護者が,要介護者以外の家族が寄り添ってくれることや大切な仲間との楽しい時間を持つこと,自分の時間を過ごすことに幸福を感じていたならば,その家族介護者が感じている幸福を生活背景と合わせながら理解し,家族介護者が自分の生活や人生をより前向きにとらえることができるよう,その幸福を肯定する温かな声かけを行うといった評価的サポートを行うことが必要である.さらに,保健所保健師や地域包括支援センター看護職は,看護職だけでなく主治医や介護支援専門員,訪問看護師,ヘルパーなどの家族介護者に関わる専門職それぞれが家族介護者に対し評価的サポートを行っていけるよう,家族介護者が感じている幸福に関する情報共有を多職種と行っていくことも保健所保健師や地域包括支援センター看護職に求められると考える.

また,保健所保健師は,個別の支援だけでなく,個別の事例を通して地域の健康課題を明らかにし,解決に向けて取り組む重要な役割を担っている(厚生労働省,2013).要介護状態になる前の高齢者の主観的幸福感は,地域の精神面での健康度のアウトカム指標として活用できる(厚生労働省,2019)ことから,本研究で明らかになった家族介護者が介護をする生活の中で感じる幸福感も地域の精神面での健康度のアウトカム指標として活用できると考えられる.保健所保健師は,地域の難病事例一つ一つに真摯に向き合い,難病患者や家族介護者の生活特性や心身の状態をアセスメントする中で,家族介護者が介護をする生活の中で感じる安らぎや安心,喜びなどの感情についても把握し,それらの情報を集積し,整理していくことが求められる.それらの結果は,地域における難病患者の家族介護者の精神面の健康度を表す指標として地域の健康課題を明らかにし,家族介護者の生活や人生の質の向上に向けた支援を検討するための貴重な情報になり得ると考える.

Ⅵ. 研究の限界と今後の課題

本研究の調査対象者は,いずれもA県内に居住する家族介護者であり,データには地域特性が含まれている可能性がある.またサンプルサイズが少なく,家族介護者の続柄,介護を単独あるいは複数で担っているかなどの家族形態,要介護者の疾患名,介護期間など,対象者に偏りやばらつきがある.このため,本研究で得た結果が要介護状態にある高齢者の家族介護者の幸福のすべてを表しているとはいえない.今後は調査対象の範囲を拡大し,家族介護者や要介護者の属性の違いによる幸福の特徴を明らかにし,家族介護者が介護をする生活の中で幸福を得られる支援のあり方を検討していく必要がある.

Ⅶ. 結論

本研究では,要介護状態にある高齢者の介護をする生活の中で家族介護者は,【要介護者と穏やかに暮らす】【要介護者以外の家族が寄り添ってくれる】【介護をする自分にさまざまな専門職が支えてくれる】【介護から解き放たれ自分の時間を過ごす】【介護から離れ仲間と楽しく過ごす】ことに幸福を感じていた.看護職は,家族介護者の生活や人生の質の向上のために,家族介護者が感じている幸福にも目を向けながら家族介護者の生活特性や心身の状態をアセスメントすることが必要である.そして,その幸福ができる限りこの先も続くよう要介護者や家族介護者の状況や生活背景に合わせ,情緒的サポートや情報的サポート,評価的サポートを行っていくことが必要と考えられた.

謝辞:本研究にあたり,大変な状況の中にも関わらずインタビューにご協力いただきました研究参加者の皆様,調査の進行にご協力いただきました居宅介護支援事業所の管理者の皆様に心より感謝申し上げます.本研究はJSPS科研費JP20K11104の助成を受けたものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

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