Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Sexual and Reproductive Realities of Individuals With Mental Disorders
Masako KageyamaSachiko TakahashiKayo IchihashiMomoko KusakaShintaro NomaSohei YogoMihoko MurayamaToshifumi NemotoMisato NishitaniKeiko Yokoyama
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2024 Volume 44 Pages 763-776

Details
Abstract

目的:精神疾患のある人の性と生殖に関する実態を把握することを目的とした.

方法:精神疾患のある成人にWEBアンケート調査を実施した.性と生殖に関する状況や知識,性的リスクと対処,性と生殖の悩みを尋ねた.各項目は生物学的性と性分類で比較した.

結果:300名から回答を得た.生物学的性は男性39.7%,女性60.3%,性分類では,男性33.0%,女性48.7%,性的マイノリティ18.3%であった.予期せぬ妊娠は11.7%,性感染症罹患は10.3%が経験していた.性感染症や避妊に関する知識は,正答率が約半分であり,男性の正答率が低かった.性や生殖に関する悩みの内訳では性機能障害が最多だった.性や生殖に関する相談相手は59.0%が不在だった.49.7%が子どもをつくるかどうかの決定に精神疾患が影響している(いた)と回答した.

結論:精神疾患に関連した悩みや知識不足に対応する性教育が必要である.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to clarify the situation regarding sexuality and reproduction in individuals with mental disorders.

Methods: A web-based questionnaire regarding sexual and reproductive status, knowledge, sexual risks and coping, and sexual and reproductive concerns was administered to adults with mental disorders. Each item was compared according to sex and gender.

Results: Responses were obtained from 300 participants; 39.7% men and 60.3% women according to sex, and 33.0% male, 48.7% female, and 18.3% sexual minorities according to gender. Unexpected pregnancy and sexually transmitted infections were experienced by 11.7% and 10.3%, respectively. Approximately 50% of the respondents answered knowledge on sexually transmitted infections and contraception correctly, with men having a low percentage of correct answers. Sexual dysfunction was the most common sexual and reproductive concern. Approximately 59.0% did not have an individual with whom to discuss about sexual and reproductive matters, and 49.7% reported that mental disorders influenced their decision to have children.

Conclusions: Sexuality education is needed to address the concerns and lack of mental disorder-related knowledge.

Ⅰ. 緒言

性と生殖に関する健康と権利(Sexual and reproductive health and rights; SRHR)は,人々の健康と生存,経済発展,ウェルビーイングの基盤となるものである(Starrs et al., 2018).すべての個人は,自分の身体に関する決定を行う権利があり,また,その権利をサポートするサービスにアクセスする権利がある(Starrs et al., 2018).性教育の世界的潮流として,包括的性教育が推進されており,国連教育科学文化機関(UNESCO)は国際セクシュアリティ教育ガイダンス(UNESCO, 2018/2020)を発行している.

SRHRを享受できているとは言い難い人々に精神疾患のある当事者(以下,当事者)がいる.海外の文献レビューでは,当事者は,一般人口に比べて,避妊が不十分などリスクのある行動をとることでHIV感染者が多い(Wright et al., 2016),予期せぬ妊娠が多い(Schonewille et al., 2022)ことが報告されている.精神疾患の発症は14歳までに半数を占める(Kessler et al., 2005).思春期の療養生活や社会参加が困難な状況では,恋愛の経験や知識を得る機会を逸することがある(坂田・蔭山,2024).そのため当事者には性や生殖に関する正しい知識を持っていない人が多く含まれている可能性がある.

精神疾患特有の性的課題としては,性機能障害が起きやすいことが海外の文献レビューで報告されている(Korchia et al., 2023Herder et al., 2023).その他,性生活に関する欧米の調査では,当事者は性的パートナーがいる人の割合が一般人口よりも低く(Bonfils et al., 2015),特に男性は性生活に関する満足度が低い(Östman, 2014)という調査結果がある.また,精神疾患と性的マイノリティとの関連もある.性的マイノリティは精神的苦痛やスティグマなどの課題を抱えやすく(Moagi et al., 2021),精神疾患のリスクが高い(Kidd et al., 2016)ことが海外の文献レビューで報告されている.精神疾患と生殖との関連としては,当事者の少なくとも25%は子どもをつくるかどうかの決定に精神疾患が影響していたというオランダの報告がある(Schonewille et al., 2023).

日本では「統合失調症薬物治療ガイドライン2022」(日本神経精神薬理学会,2022)で性機能障害や周産期の項が設けられた.また,妊娠前の適切な時期に適切な知識・情報を女性やカップルを対象に提供し,将来の妊娠のためのヘルスケアを行うことをプレコンセプションケアという(荒田,2020)が,「精神疾患を合併した,或いは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド」(日本精神神経学会・日本産科婦人科学会,2020)においてプレコンセプションケアの項が設けられた.そのような指針が出されているものの,日本においては当事者を対象としたプレコンセプションケアに関する知識等の調査報告は見当たらない.精神疾患のある人の性に関する海外の文献レビューにおいても,これまでの研究は性機能障害や性感染症など生物学的な側面に焦点が当たっており,当事者のニーズに合っていないため,心理社会的側面に焦点を当てる必要性が指摘されている(de Jager & McCann, 2017).そのため,当事者の抱える性と生殖の課題を当事者の悩みなど心理社会的側面も含めて包括的に明らかにし,性教育など必要な対応を検討する必要がある.

以上より,本研究は,当事者の性と生殖に関する実態を明らかにすることを目的とした.

Ⅱ. 方法

1. 対象者

精神疾患で治療中の成人(18歳以上)とした.類似調査(Bonfils et al., 2015地域精神保健福祉機構,2017Schonewille et al., 2023)を参考として300名のサンプルサイズを設定した.

2. 調査方法

研究ツールとして広く使われているREDCap(Research Electronic Dara Capture)システムを用いてWEB上でアンケート調査を行った.関東圏と関西圏の当事者団体各1か所,全国規模の当事者ネットワーク2か所に研究の周知依頼を行った.団体等の構成員は,男性がやや多い所と女性がやや多い所があり,年齢は20~60歳代であった.各組織の担当者から合計約1,100名にEメールとソーシャルメディアを介して本研究が案内された.調査は2024年2月に実施し,300名の回答を得たところで終了とした.調査は匿名で行ったが希望者にはEメールアドレスに1,000円のギフトカードを謝礼として送信した.

3. 調査項目

調査項目は,国際セクシュアリティ教育ガイダンス(UNESCO, 2018/2020)に含まれる内容や先行研究(Bonfils et al., 2015地域精神保健福祉機構,2017畑野,2010草野,2006内閣府,2023日本性教育協会,2019Schonewille et al., 2023Wainberg et al., 2016)を参考とし,性教育の専門家,精神科医,助産師,保健師,看護師および当事者を含む研究メンバー間で検討して作成した.

1) 属性

年齢,性別(生物学的性,性自認,性的指向),居住形態,婚姻状況,精神疾患の主な診断名,診断後経過年数,向精神薬の服用,精神症状の安定さ,精神障害者保健福祉手帳(以下,手帳)の所持と等級,社会参加の状況,個人の年収を尋ねた.

2) 性に関する基本項目

交際・結婚のパートナーの有無と希望,性交渉の相手となりうるパートナーの有無と希望,性交渉の経験(過去1年間・生涯),性的スティグマ,固定的性別役割分担意識を把握した.精神疾患に関連する性的スティグマは,先行研究(Wainberg et al., 2016)を参考に「多くの人は,精神疾患のある人と恋愛関係や性的関係を持つことを嫌がると思いますか」とし,全くそう思わない~よくそう思うまでの4段階で尋ねた.固定的性別役割分担意識は,男女共同参画社会に関する世論調査(内閣府,2023)を参考に「『夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである』という考え方について,あなたはどうお考えですか」と問い,賛成・どちらかといえば賛成・どちらかといえば反対・反対の選択肢とした.

3) 性的リスクと対処に関する項目

予期せぬ妊娠(自身とパートナーの)と自身の性感染症罹患の経験,妊娠活動中ではない時の避妊の実施状況と避妊方法,性感染症対策の実施状況と対策方法,性感染症や避妊に関する知識を尋ねた.性感染症や避妊に関する知識は,青少年の性行動全国調査(日本性教育協会,2019)の項目を用い,「正しい」「間違っている」「わからない」を回答選択肢とした.その他,妥当性と信頼性が検証されている3つの尺度を用いた.一つ目は,性的リスク対処意識尺度(草野,2006)であり,性的関係におけるリスクを避けるための適切な行動がとれる自己管理能力や相手と親密な関係を形成しコミュニケーションをとることのできる性的対人関係能力を扱っている.「性的関係において自分の望むこと,望まないことを相手に伝えオープンに話し合うことができる(と思う)」など18項目からなり,全くそう思わない(1点)~とてもそう思う(4点)の4件法で1~4点の平均値を求める.2つ目として,性的対人関係で自分の意思を相手に伝える自信を把握するため,コミュニケーションに対する自信尺度の意思伝達下位尺度(畑野,2010)を用いた.「相手に自分の意見を適切に伝えることができる」など9項目からなり,全くあてはまらない(1点)~非常にあてはまる(7点)の7件法で合計点(範囲:9~63点)を求める.3つ目として,人と親密な関係を築く際に中核的役割を果たすとされている自尊感情を把握するため,Rosenberg自尊感情尺度(Mimura & Griffiths, 2007内田・上埜,2010)を用いた.「私は,自分自身にだいたい満足している」など10項目からなり,強くそう思わない(1点)~強くそう思う(4点)の4件法で合計点(範囲:10~40点)を求める.

4) 性と生殖の悩み

性機能障害の有無と種類,性機能障害の相談経験と相談しない理由,性と生殖に関する悩みの有無と内容,性と生殖に関する相談相手を尋ねた.

5) 生殖に関する項目

プレコンセプションケアに関する知識(知っていた・知らなかった)5項目,子どもの有無・つくる予定,子どもをつくるかどうかの決定への精神疾患の影響を尋ねた.

4. 分析方法

まず単純集計を行った.次に,生物学的性と性分類3分類(以下,性分類)で比較した.性分類は,生物学的性と性自認が一致し,性的指向が異性の場合に「男性」もしくは「女性」とし,それ以外を「性的マイノリティ」とした.結果を他の統計値と比較する際の基本的情報として生物学的性の比較も行った.連続変数の比較にはt検定もしくは一元配置分散分析,名義変数の比較にはχ2検定かFisherの正確検定,順序変数の比較にはウィルコクソンの順位和検定かクラスカルウォーリス検定を用いた.統計ソフトはSAS version9.4を用いた.

自由記載は,内容の類似性と相違性で分類したカテゴリを作成した後,研究者2名が別々に分類を行い,不一致の場合は分類を検討して決定した.

5. 倫理的配慮

研究の目的と概要,調査に対する参加,拒否,中断の自由,匿名の回答などについて文書で説明し,確認欄にチェックを入れることで同意とみなした.大阪大学医学部付属病院倫理審査委員会(2024年1月11日承認,承認番号23362)の承認を得て実施した.

Ⅲ. 結果

1. 属性

回答者300名の属性と性別の比較を表1に示す.年齢は30歳代(33.0%),40歳代(35.0%)だった.平均年齢は40.5 ± 9.7(平均±標準偏差)歳であり,生物学的性と性分類ともに男性が他よりも年齢が高かった.生物学的性は男性119名(39.7%),女性181名(60.3%)だった.性分類では,男性99名(33.0%),女性146名(48.7%),性的マイノリティ55名(18.3%)であった.

表1 回答者の属性と性別の比較

N = 300

総数 生物学的性 p 性分類 p

男性

n = 119)

女性

n = 181)

男性

n = 99)

女性

n = 146)

マイノリティ

n = 55)

% % % % % %
年齢 20歳代 40 13.3 13 10.9 27 14.9 10 10.1 19 13.0 11 20.0
30歳代 99 33.0 33 27.7 66 36.5 27 27.3 56 38.4 16 29.1
40歳代 105 35.0 40 33.6 65 35.9 35 35.4 52 35.6 18 32.7
50歳代 48 16.0 26 21.9 22 12.2 21 21.2 19 13.0 8 14.6
60歳代 8 2.7 7 5.9 1 0.6 6 6.1 0 0.0 2 3.6
平均±標準偏差 40.5 ± 9.7 42.9 ± 10.4 38.9 ± 8.9 <0.001* 43.2 ± 10.2 39.0 ± 8.7 39.8 ± 10.3 0.003*
居住形態 ひとり暮らし 103 34.3 50 42.0 53 29.3 0.023* 43 43.4 44 30.1 16 29.1 0.066
家族などと同居 197 65.7 69 58.0 128 70.7 56 56.6 102 69.9 39 70.9

 同居している人

 (家族などと同居197名のみ)

 (複数回答)

配偶者やパートナー 99 33.0 31 26.1 68 37.6 25 25.3 55 37.7 19 34.6
95 31.7 37 31.1 58 32.0 30 30.3 48 32.9 17 30.9
子ども 45 15.0 12 10.1 33 18.2 12 12.1 23 15.8 10 18.2
他の入居者(施設など) 2 0.7 0 0.0 2 1.1 0 0.0 1 0.7 1 1.8
その他 13 4.3 9 7.6 4 2.2 8 8.1 4 2.7 1 1.8
婚姻状況+ 婚姻中 97 32.3 33 27.7 64 35.4 0.320 27 27.3 52 35.6 18 32.7 0.783
事実婚 5 1.7 2 1.7 3 1.7 1 1.0 3 2.1 1 1.8
未婚 166 55.3 74 62.2 92 50.8 61 61.6 73 50.0 32 58.2
離婚(現在は婚姻関係にない) 30 10.0 9 7.6 21 11.6 9 9.1 17 11.6 4 7.3
その他 2 0.7 1 0.8 1 0.6 1 1.0 1 0.7 0 0.0
主な診断名+ 統合失調症 83 27.7 44 37.0 39 21.6 0.016* 36 36.4 28 19.2 19 34.6
双極症 70 23.3 19 16.0 51 28.2 13 13.1 43 29.5 14 25.5
うつ病 77 25.7 28 23.5 49 27.1 25 25.3 45 30.8 7 12.7
発達障害 42 14.0 20 16.8 22 12.2 18 18.2 17 11.6 7 12.7
依存症 7 2.3 3 2.5 4 2.2 2 2.0 4 2.7 1 1.8
その他 21 7.0 5 4.2 16 8.8 5 5.1 9 6.2 7 12.7
診断後経過年数 10年未満 118 39.3 35 29.4 83 45.9 30 30.3 73 50.0 15 27.3
10~19年 64 21.3 22 18.5 42 23.2 20 20.2 36 24.7 8 14.6
20~29年 82 27.3 45 37.8 37 20.4 35 35.4 24 16.4 23 41.8
30年以上 36 12.0 17 14.3 19 10.5 14 14.1 13 8.9 9 16.4
平均±標準偏差 14.8 ± 11.3 17.8 ± 11.8 12.9 ± 10.6 <0.001* 17.6 ± 12.0 11.7 ± 10.0 18.4 ± 11.1 <0.001*
向精神薬の服用 服用している 271 90.3 109 91.6 162 89.5 0.548 90 90.9 130 89.0 51 92.7 0.713
服用していない 29 9.7 10 8.4 19 10.5 9 9.1 16 11.0 4 7.3
病状の安定さ 安定・どちらかと言えば安定 211 70.3 91 76.5 120 66.3 0.059 74 74.8 99 67.8 38 69.1 0.494
安定していない・どちらかと言えば安定していない 89 29.7 28 23.5 61 33.7 25 25.3 47 32.2 17 30.9
精神障害者保健福祉手帳 所持 197 65.7 92 77.3 105 58.0 <0.001* 76 76.8 75 51.4 46 83.6 <0.001*
所持していない 103 34.3 27 22.7 76 42.0 23 23.2 71 48.6 9 16.4

 手帳所持者等級+

 (所持者197名のみ)

1級 7 3.6 5 5.4 2 1.9 0.424 4 5.3 1 1.3 2 4.4 0.199
2級 138 70.1 64 69.6 74 70.5 50 65.8 51 68.0 37 80.4
3級 52 26.4 23 25.0 29 27.6 22 29.0 23 30.7 7 15.2
社会参加の状況+ ほとんど自宅で過ごす(家事,育児含む) 107 35.7 33 27.7 74 40.9 0.120 25 25.3 62 42.5 20 36.4
障がい者向け施設通所(就労支援なし) 23 7.7 12 10.1 11 6.1 9 9.1 9 6.2 5 9.1
障がい者向け就労支援 41 13.7 20 16.8 21 11.6 17 17.2 12 8.2 12 21.8
一般就労 110 36.7 45 37.8 65 35.9 39 39.4 57 39.0 14 25.5
就学 7 2.3 2 1.7 5 2.8 2 2.0 2 1.4 3 5.5
その他 12 4.0 7 5.9 5 2.8 7 7.1 4 2.7 1 1.8
個人の年収 100万円未満 125 41.7 37 31.1 88 48.6 0.017* 30 30.3 71 48.6 24 43.6
100万円以上200万円未満 88 29.3 41 34.5 47 26.0 34 34.3 38 26.0 16 29.1
200万円以上400万円未満 59 19.7 25 21.0 34 18.8 20 20.2 29 19.9 10 18.2
400万円以上 15 5.0 10 8.4 5 2.8 10 10.1 2 1.4 3 5.5
生活保護を受給 13 4.3 6 5.0 7 3.9 5 5.1 6 4.1 2 3.6

*:p < 0.05

+:Fisherの正確検定

記号のない項目はt検定かt検定,一元配置分散分析,χ2検定のいずれか

p値がないところは計算を実施していない

居住形態は,ひとり暮らしが103名(34.3%),家族などと同居が197名(65.7%)であった.生物学的性では女性の方が男性よりも家族などと同居している者が多かった.婚姻状況では婚姻中が97名(32.3%),未婚が166名(55.3%)だった.

精神疾患の主な診断名は,統合失調症83名(27.7%),双極症70名(23.3%),うつ病77名(25.7%),発達障害42名(14.0%),依存症7名(2.3%),その他21名(7.0%)であった.生物学的性では男性で統合失調症が最多で,女性は双極症が最多だった.診断後経過年数は,14.8 ± 11.3年であり,生物学的性と性分類ともに女性が他よりも短かった.

向精神薬を服用している者は271名(90.3%)であった.精神症状の安定さは,安定・どちらかと言えば安定と回答した者が211名(70.3%)だった.手帳所持者は197名(65.7%)であり,生物学的性と性分類ともに女性が他よりも所持していなかった.手帳等級は2級が多かった.社会参加の状況は,多い順から一般就労110名(36.7%),ほとんど自宅で過ごす(家事,育児含む)107名(35.7%),障がい者向けの就労支援を利用している者が41名(13.7%)等だった.個人の年収は100万円未満が125名(41.7%),100万円以上200万円未満が88名(29.3%),生活保護を受給が13名(4.3%)等だった.生物学的性では男性が100万円以上200万円未満で最多であったが,女性では年収100万円未満が最多だった.

2. 性に関する基本項目

性に関する基本項目の結果を表2に示す.交際・結婚のパートナーの有無については,いる者が126名(42.0%),いない者が167名(55.7%)であり,生物学的性と性分類で有意な差はみられなかったが,交際・結婚のパートナーがいないと回答した167名に希望を尋ねたところ,生物学的性と性分類ともに男性が他よりも欲しいと回答した者が多かった.性交渉の相手となりうるパートナーの有無については,相手がいる者が116名(38.7%),相手がいない者が179名(59.7%)だった.性交渉のパートナーがいないと回答した179名に希望を尋ねたところ,生物学的性と性分類ともに男性が他よりも欲しいと回答した者が多かった.性交渉は,過去1年間110名(36.7%),生涯236名(78.7%)が経験していた.性分類で交際・結婚のパートナーがいる者は男性34名(34.3%),女性69名(47.3%),性的マイノリティ23名(41.8%)であり,性交渉の相手となりうるパートナーがいる者は男性33名(33.3%),女性65名(44.5%),性的マイノリティ18名(32.7%)だった.

表2 性に関する基本項目

N = 300

総数 生物学的性 p 性分類 p

男性

n = 119)

女性

n = 181)

男性

n = 99)

女性

n = 146)

マイノリティ

n = 55)

% % % % % %
交際・結婚のパートナーの有無+ いる 126 42.0 43 36.1 83 45.9 0.166 34 34.3 69 47.3 23 41.8 0.164
いない 167 55.7 74 62.2 93 51.4 63 63.6 72 49.3 32 58.2
どちらともいえない 7 2.3 2 1.7 5 2.8 2 2.0 5 3.4 0 0.0

パートナーの希望

(現在パートナーがいない人167名のみ)

欲しい 60 35.9 38 51.4 22 23.7 0.001* 34 54.0 16 22.2 10 31.3 0.003*
欲しくない 69 41.3 24 32.4 45 48.4 18 28.6 38 52.8 13 40.6
どちらともいえない 38 22.8 12 16.2 26 28.0 11 17.5 18 25.0 9 28.1
性交渉の相手となりうるパートナーの有無+ 現在相手がいる 116 38.7 40 33.6 76 42.0 0.322 33 33.3 65 44.5 18 32.7 0.194
現在相手はいない 179 59.7 77 64.7 102 56.4 65 65.7 79 54.1 35 63.6
その他 5 1.7 2 1.7 3 1.7 1 1.0 2 1.4 2 3.6

性交渉のパートナーの希望

(現在パートナーがいない人179名のみ)

欲しい 57 31.8 39 50.7 18 17.7 <0.001* 36 55.4 13 16.5 8 22.9 <0.001*
欲しくない 80 44.7 21 27.3 59 57.8 16 24.6 46 58.2 18 51.4
どちらともいえない 42 23.5 17 22.1 25 24.5 13 20.0 20 25.3 9 25.7
過去1年間性交渉 した 110 36.7 44 37.0 66 36.5 0.928 35 35.4 56 38.4 19 34.6 0.836
していない 190 63.3 75 63.0 115 63.5 64 64.7 90 61.6 36 65.5
生涯性交渉経験 ある 236 78.7 93 78.2 143 79.0 0.860 78 78.8 117 80.1 41 74.6 0.689
ない 64 21.3 26 21.9 38 21.0 21 21.2 29 19.9 14 25.5
性的スティグマ:多くの人は,精神疾患のある人と恋愛関係や性的関係を持つことを嫌がると思いますか++ 全くそう思わない(1) 19 6.3 7 5.9 12 6.6 7 7.1 8 5.5 4 7.3
まれにそう思う(2) 107 35.7 36 30.3 71 39.2 29 29.3 59 40.4 19 34.6
ときどきそう思う(3) 99 33.0 44 37.0 55 30.4 36 36.4 46 31.5 17 30.9
よくそう思う(4) 75 25.0 32 26.9 43 23.8 27 27.3 33 22.6 15 27.3
点数化の平均±標準偏差 2.8 ± 0.9 2.8 ± 0.9 2.7 ± 0.9 0.175 2.8 ± 0.9 2.7 ± 0.9 2.8 ± 0.9 0.481
固定的性別役割分担意識:「夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである」という考え方 賛成・どちらかといえば賛成 102 34.0 29 24.4 73 40.3 0.004* 23 23.2 65 44.5 14 25.5 <0.001*
反対・どちらかといえば反対 198 66.0 90 75.6 108 59.7 76 76.8 81 55.5 41 74.6

*:p < 0.05

+:Fisherの正確検定

++:ウィルコクソンの順位和検定かクラスカルウォーリス検定

記号のない項目はt検定,一元配置分散分析,χ2検定のいずれか

p値がないところは計算を実施していない

性的スティグマに関しては,ときどき・よくそう思うと回答した者が174名(58.0%)だった.固定的性別役割分担意識については,反対・どちらかといえば反対と回答した者が198名(66.0%)であり,生物学的性の男性,性分類の男性と性的マイノリティで反対と回答した者が多かった.

3. 性的リスクと対処に関する項目

性的リスクと対処に関する結果を表3に示す.予期せぬ妊娠(自身とパートナーの)を経験したことのある者は,35名(11.7%)であり,生物学的性で男性9名(7.6%),女性26名(14.4%)だった.自身の性感染症罹患の経験がある者は,31名(10.3%)だった.避妊の実施状況は,いつもしている者が103名(34.3%),場合によるとした者が67名(22.3%),いつもしていないとした者が22名(7.3%)だった.避妊をしている(いつも・場合による)170名に避妊方法を尋ねたところ,最も多いのがコンドームで145名(85.3%)であり,ピル29名(17.1%),腟外射精法24名(14.1%)と続いた.性感染症対策の実施状況としては,いつもしている者が75名(25.0%),場合によるとした者が66名(22.0%),いつもしていないという者が56名(18.7%)だった.性感染症対策をしている(いつも・場合による)141名に方法を尋ねたところ,最も多いのがコンドームで127名(90.1%),性交渉の相手を限定するとした者が62名(44.0%)だった.

表3 性的リスクと対処に関する項目

N = 300

総数 生物学的性 p 性分類 p

男性

n = 119)

女性

n = 181)

男性

n = 99)

女性

n = 146)

マイノリティ

n = 55)

% % % % % %
予期せぬ妊娠の経験(自分かパートナー) ある 35 11.7 9 7.6 26 14.4 0.073 6 6.1 21 14.4 8 14.6 0.105
ない 265 88.3 110 92.4 155 85.6 93 93.9 125 85.6 47 85.5
性感染症罹患経験 ある 31 10.3 10 8.4 21 11.6 0.654 9 9.1 17 11.6 5 9.1 0.661
ない 248 82.7 101 84.9 147 81.2 85 85.9 119 81.5 44 80.0
わからない 21 7.0 8 6.7 13 7.2 5 5.1 10 6.9 6 10.9

避妊の実施状況+

(妊活中でないとき)

いつもしている 103 34.3 38 31.9 65 35.9 0.172 31 31.3 54 37.0 18 32.7 0.090
場合による 67 22.3 29 24.4 38 21.0 27 27.3 32 21.9 8 14.6
いつもしていない 22 7.3 6 5.0 16 8.8 3 3.0 13 8.9 6 10.9
性交渉していない 105 35.0 43 36.1 62 34.3 35 35.4 47 32.2 23 41.8
その他 3 1.0 3 2.5 0 0.0 3 3.0 0 0.0 0 0.0

避妊方法

(避妊をしている170名のみ)

(複数回答)

コンドーム 145 85.3 60 85 52 72 21
ピル 29 17.1 9 20 8 15 6
荻野式 10 5.9 0 10 0 7 3
基礎体温をはかる 5 2.9 0 5 0 2 3
腟外射精法 24 14.1 10 14 8 11 5
避妊リング 7 4.1 1 6 0 6 1
その他 2 1.2 0 2 0 2 0
わからない 1 0.6 1 0 1 0 0
性感染症対策の実施状況 いつもしている 75 25.0 32 26.9 43 23.8 0.131 26 26.3 35 24.0 14 25.5 0.468
場合による 66 22.0 31 26.1 35 19.3 26 26.3 30 20.6 10 18.2
いつもしていない 56 18.7 15 12.6 41 22.7 13 13.1 34 23.3 9 16.4
性交渉していない 103 34.3 41 34.5 62 34.3 34 34.3 47 32.2 22 40.0

性感染症対策の方法

(性感染症対策実施141名のみ)

(複数回答)

コンドーム 127 90.1 55 72 47 60 20
性交渉の相手を限定する 62 44.0 26 36 20 29 13
定期的な性感染症検査 9 6.4 2 7 1 5 3
その他 3 2.1 2 1 0 1 2

性感染症や避妊に関する知識

(数字は正解の人数と割合)

(検定は正解と不正解・わからないの2群比較)

腟外射精(外出し)は,確実な避妊の方法である$ 237 79.0 81 68.1 156 86.2 <0.001* 70 70.7 128 87.7 39 70.9 0.002*
排卵は,いつも月経中におこる$ 192 64.0 43 36.1 149 82.3 <0.001* 40 40.4 117 80.1 35 63.6 <0.001*
精液がたまりすぎると,身体に悪い影響がある$ 100 33.3 46 38.7 54 29.8 0.113 36 36.4 45 30.8 19 34.6 0.651
クラミジアや淋病などの性感染症を治療しないと,不妊症になる(赤ちゃんができなくなる)ことがある 157 52.3 57 47.9 100 55.3 0.213 46 46.5 81 55.5 30 54.6 0.358
ピル(経口避妊薬)の避妊成功率はきわめて高い 162 54.0 59 49.6 103 56.9 0.213 46 46.5 87 59.6 29 52.7 0.127
性感染症にかかると,かならず自覚症状が出る$ 166 55.3 64 53.8 102 56.4 0.661 49 49.5 81 55.5 36 65.5 0.162
正答数合計の平均±標準偏差 3.4 ± 1.8 2.9 ± 1.8 3.7 ± 1.6 <0.001* 2.9 ± 1.9 3.7 ± 1.6 3.4 ± 1.6 0.002*
性的リスク対処意識尺度 全項目の平均±標準偏差 2.6 ± 0.5 2.6 ± 0.5 2.6 ± 0.5 0.456 2.6 ± 0.5 2.6 ± 0.5 2.6 ± 0.5 0.581
意思伝達下位尺度 全項目合計の平均±標準偏差 34.4 ± 12.0 36.0 ± 10.9 33.3 ± 12.6 0.060 35.6 ± 10.7 33.3 ± 12.6 35.3 ± 12.4 0.243
自尊感情尺度 全項目合計の平均±標準偏差 23.4 ± 5.6 24.1 ± 5.7 23.0 ± 5.4 0.076 24.2 ± 5.8 23.0 ± 5.1 23.0 ± 6.3 0.220

*:p < 0.05

+:Fisherの正確検定

$:間違っているが正解

記号のない項目はt検定かt検定,一元配置分散分析,χ2検定のいずれか

p値がないところは計算を実施していない

性感染症や避妊に関する知識は,「腟外射精(外出し)は,確実な避妊の方法である」(間違いが正答)の正答率が79.0%と最も高かったが,生物学的性と性分類ともに女性の正答率が高かった.「排卵は,いつも月経中におこる」(間違いが正答)の正答率は女性が高かった.「クラミジアや淋病などの性感染症を治療しないと,不妊症になる(赤ちゃんができなくなる)ことがある」(正しいが正答)(正答率52.3%),「ピル(経口避妊薬)の避妊成功率はきわめて高い」(正しいが正答)(同54.0%)「性感染症にかかると,かならず自覚症状が出る」(間違いが正答)(同55.3%)という性感染症や避妊に関する知識の正答率は半分をやや上回る程度だった.正答数の合計は,全体の平均±標準偏差が3.4 ± 1.8であり,生物学的性と性分類ともに女性の正答数が多く,男性の正答数が少なかった.

性的リスク対処意識尺度は,全項目の平均±標準偏差は全体で2.6 ± 0.5,意思伝達下位尺度合計は全体で34.4 ± 12.0,自尊感情尺度合計は全体で23.4 ± 5.6であり,いずれも生物学的性と性分類で有意差はみられなかった.

4. 性と生殖の悩み

性と生殖に関する悩みの結果を表4に示す.性機能障害の有無については,ある者が85名(28.3%)であり,生物学的性と性分類ともに男性が多かった.悩みのある85名に種類を尋ねたところ,性欲減退が48名(56.5%),勃起障害25名(29.4%),射精障害23名(27.1%)等だった.性機能障害のある85名のうち相談したことがある者は35名(41.2%)であり,ない者が50名(58.8%)だった.相談しない理由としては,相談する必要性がないからが23名(46.0%),恥ずかしいから14名(28.0%),相談方法がわからないから6名(12.0%)が多かった.

表4 性や生殖に関する悩み

N = 300

総数 生物学的性 p 性分類 p

男性

n = 119)

女性

n = 181)

男性

n = 99)

女性

n = 146)

マイノリティ

n = 55)

% % % % % %
性機能障害 ある 85 28.3 47 39.5 38 21.0 <0.001* 39 39.4 29 19.9 17 30.9 0.004*
ない 215 71.7 72 60.5 143 79.0 60 60.6 117 80.1 38 69.1

性機能障害の種類

(ある85名のみ)

(複数回答)

勃起障害 25 29.4 25 0 21 0 4
射精障害 23 27.1 24 0 19 0 5
性欲減退 48 56.5 25 23 21 18 9
性欲亢進 8 9.4 3 5 2 5 1
オルガズム機能障害 11 12.9 3 8 2 6 3
無月経 7 8.2 0 7 0 5 2
乳汁漏出症 2 2.4 0 2 0 2 0
性交時痛 18 21.2 1 17 1 14 3
その他 5 5.9 1 4 0 1 4

性機能障害の専門家への相談

(ある85名のみ)

相談したことがある 35 41.2 20 42.6 15 39.5 0.774 17 43.6 14 48.3 4 23.5 0.237
相談したことはない 50 58.8 27 57.5 23 60.5 22 56.4 15 51.7 13 76.5

相談しない理由

(相談したことのない50名)

(自由記載,複数カウント)

相談する必要性がないから 23 46.0 12 11 10 7 6
恥ずかしいから 14 28.0 9 5 7 4 3
相談方法がわからないから 6 12.0 6 0 4 0 2
対応してもらえないと思うから 4 8.0 1 3 1 2 1
質問されないから 2 4.0 1 1 1 1 0
その他 4 8.0 1 3 1 1 2
未記入 2 4.0 1 1 1 1 0
性や生殖に関する悩み ある 80 26.7 41 34.5 39 21.6 0.025* 34 34.3 26 17.8 20 36.4 0.005*
ない 149 49.7 49 41.2 100 55.3 42 42.4 87 59.6 20 36.4
どちらともいえない 71 23.7 29 24.4 42 23.2 23 23.2 33 22.6 15 27.3

悩みの内容

(悩みのある80名)

(自由記載,複数カウント)

性機能障害 34 42.5 24 10 20 7 7
子どもをつくること 11 13.8 1 10 1 9 1
パートナーとの性行為 9 11.3 4 5 2 3 4
性行為の相手がいない 9 11.3 6 3 5 3 1
恋愛の仕方 6 7.5 4 2 3 0 3
セックスレス 5 6.3 1 4 1 2 2
トラウマ・恐怖 4 5.0 0 4 0 3 1
性的マイノリティ 3 3.8 0 3 0 0 3
自慰行為 3 3.8 2 1 2 0 1
その他 5 6.3 2 3 2 2 1
未記入 2 2.5 1 1 1 1 0
性や生殖に関する相談相手 いる 74 24.7 21 17.7 53 29.3 0.067 18 18.2 43 29.5 13 23.6 0.276
いない 177 59.0 78 65.6 99 54.7 64 64.7 78 53.4 35 63.6
どちらともいえない 49 16.3 20 16.8 29 16.0 17 17.2 25 17.1 7 12.7

相談相手

(相談相手のいる74名のみ)

(複数回答)

精神科医 36 13 23 10 20 6
看護師 14 2 12 2 11 1
精神保健福祉士 10 3 7 3 7 0
保健師 4 1 3 1 3 0
助産師 3 0 3 0 3 0
カウンセラー 14 3 11 3 8 3
ピアサポーター・ピアスタッフ 6 2 4 1 4 1
友人 33 10 23 9 18 6
家族 25 6 19 6 16 3
その他 7 3 4 3 3 1

*:p < 0.05

検定はt検定,一元配置分散分析,χ2検定のいずれか

p値がないところは計算を実施していない

性や生殖に関する悩みの有無については,ある者が80名(26.7%)であり,生物学的性と性分類では女性の方が男性と性的マイノリティよりも悩みがあると回答した者が少なかった.悩みの種類としては,性機能障害が34名(42.5%),子どもをつくることが11名(13.8%),パートナーとの性行為が9名(11.3%),性行為の相手がいないが9名(11.3%)と多かった.性と生殖に関する相談相手がいないとした者が177名(59.0%)と多く,相談相手がいるとした74名に相談の相手を尋ねたところ,多い順に精神科医,友人,家族だった.

5. 生殖に関する項目

生殖に関する項目の結果を表5に示す.プレコンセプションケアに関する知識5項目について知っていた者が少なかったのは,「向精神薬の多くは授乳可能である」55名(18.3%),「障害者制度として公的な育児サービス(障害者総合支援法の居宅介護等の育児サービス)がある」52名(17.3%),「少なくとも妊娠する3カ月前までには,精神疾患が安定していることが望ましい」105名(35.0%)だった.「向精神薬の多くは授乳可能である」については生物学的性の女性の方が男性よりも知っていた者が多かった.「妊娠にあたっては,胎児への影響も含め薬のリスク・ベネフィットを評価して治療内容を検討し妊娠前から調整していくことが望ましい」については性分類の性的マイノリティが他よりも知っていたと回答した者が多かった.

表5 生殖に関する項目

N = 300

総数 生物学的性 p 性分類 p

男性

n = 119)

女性

n = 181)

男性

n = 99)

女性

n = 146)

マイノリティ

n = 55)

% % % % % %
プレコンセプションケアに関する知識(知っていた人) 薬物治療を行っている患者および家族は,薬の調整が必要となる可能性があるので妊娠を希望するようになったら医療者に相談する必要がある 169 56.3 63 52.9 106 58.6 0.337 52 52.5 80 54.8 37 67.3 0.183
少なくとも妊娠する3カ月前までには,精神疾患が安定していることが望ましい 105 35.0 36 30.3 69 38.1 0.162 31 31.3 53 36.3 21 38.2 0.624
妊娠にあたっては,胎児への影響も含め薬のリスク・ベネフィットを評価して治療内容を検討し妊娠前から調整していくことが望ましい 156 52.0 59 49.6 97 53.6 0.496 47 47.5 71 48.6 38 69.1 0.019*
向精神薬の多くは授乳可能である 55 18.3 15 12.6 40 22.1 0.038* 15 15.2 30 20.6 10 18.2 0.563
障害者制度として公的な育児サービスがある(障害者総合支援法の居宅介護等の育児サービス) 52 17.3 18 15.1 34 18.8 0.413 15 15.2 24 16.4 13 23.6 0.380
知っていた項目の合計の平均±標準偏差++ 1.8 ± 1.6 1.6 ± 1.5 1.9 ± 1.6 0.111 1.6 ± 1.5 1.8 ± 1.8 2.2 ± 1.4 0.090
子どもがいるか いる 60 20.0 18 15.1 42 23.2 0.087 16 16.2 31 21.2 13 23.6 0.471
いない 240 80.0 101 84.9 139 76.8 83 83.8 115 78.8 42 76.4

今後子どもを作る予定

(子どものいない240名のみ)

つくると決めている 15 6.3 7 6.9 8 5.8 0.114 7 8.4 8 7.0 0 0.0 0.056
つくらないと決めている 135 56.3 48 47.5 87 62.6 37 44.6 72 62.6 26 61.9
迷っている 71 29.6 35 34.7 36 25.9 28 33.7 30 26.1 13 31.0
その他 19 7.9 11 10.9 8 5.8 11 13.3 5 4.4 3 7.1
子どもをつくるかの決定に精神疾患が影響しているか 影響している(いた) 149 49.7 62 52.1 87 48.1 0.228 50 50.5 69 47.3 30 54.6 0.702
影響していない 84 28.0 27 22.7 57 31.5 24 24.2 45 30.8 15 27.3
どちらともいえない 67 22.3 30 25.2 37 20.4 25 25.3 32 21.9 10 18.2

影響の内容

(影響した149名のみ)

(複数回答)

精神科の薬の胎児への影響が心配 67 24 43 21 35 11
病気が遺伝するのではないか心配 88 34 54 26 40 22
妊娠・子育て期に病状が不安定になることが心配 77 22 55 19 41 17
妊娠・出産・育児に自信がない 86 34 52 25 42 19
妊娠・出産・育児のサポートが得られるか心配 56 20 36 16 25 15
経済的な心配 80 40 40 33 30 17
性機能障害 19 12 7 9 5 5
周囲の反対 21 6 15 5 13 3
その他 6 1 5 1 4 1

*:p < 0.05

++:ウィルコクソンの順位和検定かクラスカルウォーリス検定

記号のない項目はt検定,一元配置分散分析,χ2検定のいずれか

p値がないところは計算を実施していない

子どもの有無については,いないと回答した者が240名(80.0%)であり,そのうち今後つくると決めている者は15名(6.3%),つくらないと決めている者が135名(56.3%),迷っている者が71名(29.6%)だった.

子どもをつくるかどうかの決定に関して,精神疾患の影響を尋ねたところ,影響している(いた)と回答した者が149名(49.7%)だった.影響の内容としては,多い順から「病気が遺伝するのではないか心配」「妊娠・出産・育児に自信がない」「経済的な心配」だった.周囲の反対があった者は21名であり,表に示していないが,反対したのは親11名,親以外の家族6名,医師4名,その他3名だった.

Ⅳ. 考察

1. 回答者の特徴

本調査の回答者の年齢は,30~40歳代が多く,生物学的性と性分類の女性の平均年齢は男性よりも低かった.また,性別では生物学的性の女性が60.3%とやや多かった.これは本調査が性だけではなく,生殖を扱った調査であるため生殖可能年齢の女性の関心が高かったと考えられる.

性分類では性的マイノリティが18.3%であった.日本における性的マイノリティの割合は,調査によって1.6%(名古屋市,2018)から10.0%(LGBT総合研究所,2019)まで幅があるものの本調査の回答者では,一般人口よりは性的マイノリティが多いと考えられる.性的マイノリティは本調査に関心が高く,多く回答した可能性はあるものの,性的マイノリティは精神疾患のリスクが高い(Kidd et al., 2016)という先行研究の結果と一致する.

回答者の婚姻状況では婚姻中が32.3%であった.一般人口では40歳までに62.9%は配偶者をもつため(総務省統計局,2021),回答者の婚姻率は一般人口を大きく下回っている.一方,手帳所持者の全国調査(19~64歳)では,夫婦で暮らしている者が17.8%であり(厚生労働省,2024),本調査の回答者と年齢層が異なるものの精神障害者全体と比べると婚姻中の者が多いと考えられる.

社会参加に関しては,回答者の36.7%が一般就労していた.手帳所持者の全国調査(厚生労働省,2024)では19~64歳で一般就労は11.8%と報告されている.そのため,本調査の回答者は手帳等級2級が70.1%と多いものの一般就労が可能な者が全国平均よりも多く含まれていた.また,回答者個人の年収は200万円以下と生活保護受給をあわせると75.3%と低所得者が多かった.手帳所持者の全国調査では,19~64歳で年収180万円未満(月額平均15万円未満)が73.9%であり(厚生労働省,2024),本調査の回答者は精神障害者全体と同様の傾向であった.

以上より,本調査の回答者は十分な収入は得られていないものの就労などの社会参加が進んでいる者が多かった.これは当事者団体等に調査を依頼したためと考えられる.回答者に生殖可能年齢にある女性や婚姻中の者がやや多かったのは,結婚して子どもをつくることに関心を持つためと考えられる.

2. 性に関する基本項目

交際・結婚のパートナーや性交渉の相手となりうるパートナーの有無については,いない者がそれぞれ55.7%,59.7%であり,いない者の中で欲しい者については性分類の男性が女性や性的マイノリティよりも多かった.生涯の性交渉経験については,78.7%があると回答しており,一般人口(30~49歳)の77.1~98.8%(日本家族計画協会,2017)とあまり変わらなかったが,過去1年間の性交渉経験については,本調査で36.7%,一般人口(30~49歳)では56.0~74.1%(日本家族計画協会,2017)で経験があると回答しており,一般人口の割合を下回っていた.そのため,当事者の男性は,性交渉経験はあるものの最近は経験がなく,かつ,性交渉を望んでいる者が多いと考えられる.性の健康世界学会(World Association for Sexual Health)は2019年にセクシャル・プレジャー宣言を出し,性的な快楽を得ることは性的権利であるとした(Ford et al., 2021).性交渉の相手がいない場合に性的リスク行動を回避してセクシャル・プレジャーを得る方法としてマスタベーションは有効である(Ford et al., 2021)ため,性生活の満足度を上げる方法として伝えることができる.一方,性的マイノリティでは交際・結婚のパートナーがいる者は41.8%であったが,性交渉の相手がいる者は32.7%であり,やや乖離があった.性分類の男性や女性では両者の乖離はほとんどないことを考えると,性的マイノリティでは交際や結婚と性交渉が一致していない人がある程度含まれていると考えられる.性的惹かれを経験しないアセクシュアルの者もおり,性的マイノリティの場合は恋愛と性交渉をわけて捉える必要がある.

性的スティグマについて回答者は,「多くの人は,精神疾患のある人と恋愛関係や性的関係を持つことを嫌がると思いますか」に対して,ときどき・よくそう思うと回答した者が58.0%であった.ブラジルでは同様の問いに当事者の77~80%がときどき・よくそう思うと回答しており(Wainberg et al., 2016),日本の状況で特に性的スティグマが強いとは言えなかった.しかし,回答者の半数以上が性的スティグマを認識しており,日本でも性的スティグマが存在していることが示された.

固定的性別役割分担意識について回答者は,「夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである」に反対とどちらかといえば反対合わせると,全体で66.0%であったが,性分類の男性(76.8%)と性的マイノリティ(74.6%)の方が女性(55.5%)よりも反対する者が多かった.一般人口(18歳以上)では性的マイノリティの情報はないが,生物学的性の男性(58.3%)よりも女性(69.4%)の方が反対であった(内閣府,2023).本調査の回答者は30~40歳代の若い年齢層が多いという違いはあるものの,女性の方が男性よりも反対する者が多いという内閣府(2023)の調査とは逆であった.これは本調査で一般就労している者が少なく,低所得者が多かったことからもわかるように,手帳を所持する状態では十分な収入を得ることは容易ではない.そのため,本調査では男性が外で働くという役割分担に反対した者が多かったと考えられる.また,性的マイノリティでも固定的性別役割分担意識に反対する者が多かった.その理由としては,彼らは固定的な価値観と異なる生き方をしているため,固定的性別役割分担に対しても賛同できない者が多かったことも考えられる.

3. 性的リスクと対処

本調査では,予期せぬ妊娠(自身とパートナーの)を経験したことのある者が11.7%であり,生物学的性で男性7.6%,女性14.4%だった.一般人口の人工妊娠中絶を受けた経験のある者(自身とパートナー)は全体で7.8%,30~49歳では生物学的性の男性2.4~15.3%,女性10.2~15.4%であり(日本家族計画協会,2017),予期せぬ妊娠によって必ずしも人工妊娠中絶をするわけではないが,本調査の値は一般人口と大きな違いはないと考えられる.妊娠活動中ではない時の避妊の実施状況(期間限定せず)は,いつもしている者が全体で34.3%であり,避妊は十分に行われていなかった.避妊を十分に行っていなくても予期せぬ妊娠が多くなかったのは性交渉の経験が少ない者が多いことが背景にあると考えられる.しかしながら,性交渉をする場合は避妊をする必要性を理解してもらうように性教育が必要である.

本調査では,性感染症罹患経験がある者は10.3%であったが,本人が気づかない時もあるため正確な罹患率ではない.性感染症対策の実施状況としては,いつもしている者が25.0%しかおらず,感染症対策は不十分であると言える.

性感染症や避妊に関する知識は,正答者数が半数をやや上回る程度であり,生物学的性と性分類ともに女性で正答率が高かった.本調査の回答者では知識が不十分であり,特に男性は正しい知識を学ぶ必要があると考えられる.

4. 性と生殖の悩み

本調査では性機能障害の有無について,あると回答した者が28.3%であった.文献レビューでは,性機能障害の発生率は服薬の有無,薬剤,疾患等によって異なると報告されている(Korchia et al., 2023Herder et al., 2023).そのため薬剤等の把握をしていない本調査の結果をもって発生率を評価することは適切ではない.しかし,性や生殖に関する悩みがある者の中で,悩みの種類としては性機能障害が42.5%と多くなっており,性機能障害は悩みとなりやすい課題と考えられる.男性と性的マイノリティで性機能障害が多く,また,悩みがあるとした者も多かったため,特に男性や性的マイノリティの悩みに対応できる支援が必要だと考えられる.また,性と生殖に関する相談相手がいないとした者が59.0%と多かった.相談相手がいる者の中では,精神科医が最も多く,看護師よりも友人や家族が多かった.精神科医には受診の際に性機能障害など服薬の相談の一環として性の相談が行われると考えられる.一方,看護師に相談する場合は,あえて性のことを取り上げて相談することになると考えられ,相談を躊躇すると考えられる.諸外国において精神疾患の人への性教育は,従来は感染予防や避妊などリスク回避に焦点が当たっていた(Higgins et al., 2006)が,包括的なリハビリテーションの一環として性教育を行う必要性が指摘されている(Assalian et al., 2000).性に関することは誰にとっても重要なことであるため,広く性教育を展開することは重要であり,結果的に看護師等にも相談しやすい環境になると考えられる.また,性の相談を友人や家族が受けることが多いため,当事者会や家族会で性教育を行うことで相談された時に対応しやすくなることが期待できる.また,専門職よりも対等な立場のピアサポーターやピアスタッフが相談対応をすることで相談しやすくなる可能性もある.

5. 生殖

プレコンセプションケアに関する知識については全般的に知らない者が多かった.「妊娠にあたっては,胎児への影響も含め薬のリスク・ベネフィットを評価して治療内容を検討し妊娠前から調整していくことが望ましい」については性分類の性的マイノリティが他よりも知っていた者の割合が高かった.有意差は出ていないが,「薬物治療を行っている患者および家族は,薬の調整が必要となる可能性があるので妊娠を希望するようになったら医療者に相談する必要がある」についても性的マイノリティが他よりも知っていた者の割合が高かった.これらより性的マイノリティは妊娠中の服薬に関する知識が他よりも多くあると考えられる.性的マイノリティでは子どもができた場合の家族のあり方や婚姻関係を考え,悩むことも多いと考えられる.その考える過程で妊娠中の服薬に関して知識を得ていた可能性がある.

子どもがいない者は80.0%であり,今後つくると決めている者は6.3%と少なかった.子どもをつくるかどうかの決定に精神疾患が影響している(いた)者は49.7%であり,オランダの調査の25%(Schonewille et al., 2023)よりも多かった.プレコンセプションケアに必要な知識を知っている者が少なかったことから,十分な知識がないままに子どもをつくるかどうかを決めている可能性がある.プレコンセプションケアや子どもをつくるかどうかの決定に必要な知識を得られるような機会が必要だと考えられる.

6. 実践への示唆

本調査では,欧米の先行研究で明らかになっているような性感染症や予期せぬ妊娠が一般人口よりも多いという結果がみられたわけではないが,性感染症対策や避妊の対策は十分ではなく,知識も不足していたため,性教育は必要である.今回,性的マイノリティが18.3%と多かったこと,固定的性別役割分担意識に男性や性的マイノリティの反対が多かったことから考えても,性感染症や避妊といったリスク回避だけでなく,性の多様性やジェンダー平等を含めた教育が適していると考える.包括的性教育は性の多様性やジェンダー平等,人権的アプローチに基づいており(UNESCO, 2018/2020),当事者にも適したアプローチ方法だと考える.性教育をリハビリテーションに取り入れるなど広く展開することで悩みを相談しやすくする環境をつくることも重要である.

交際や婚姻に関しては,婚姻率が一般人口を下回っているが,交際・結婚,性交渉を望んでいる者も少ないと考えられた.しかしながら,経済的に困窮している者が多かったことや性的スティグマを認識している者が多かったことなどから考えると,当事者は交際,結婚,性交渉を望んでいないと結論づけることはできないと思われる.特に生物学的性の男性ではニーズが高かったため,交際や結婚に関する相談や支援も必要だと考える.

生殖に関しては,プレコンセプションケアや子どもをつくるかどうかの決定に必要な知識を得られるような機会の必要性が示唆された.子どもをつくるかどうかの決定には精神疾患の影響を受けていたという者が半数いた.精神科の外来を含めて様々な機会に必要な情報が得られるような工夫が必要である.

7. 本研究の限界

本調査が当事者団体等を通して案内されたため,当事者団体の活動に参加できるほどに回復している者が多かった.そのため,精神障害者全体ではより性機能障害をはじめとする困難や悩みが本調査よりも多い可能性があることに留意する必要がある.その他の限界として,当事者団体等では本調査を案内された者の正確な人数や基本属性を把握していなかったこと,服薬など詳細な医学情報を収集しておらず,疾患名も自己申告のみの把握であったことがある.これらの限界はあるものの,当事者を対象とした300名規模の調査結果は日本でこれまで報告されておらず,一定の価値があると考える.

謝辞:調査にご協力いただいた,精神疾患のある方々に感謝申し上げます.本研究はJSPS科研費JP 23H03226,JP23K27916の助成を受けて実施した.本研究は大阪大学大学院医学系研究科および医学部附属病院が運営するREDCapを使って行われた.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MK(Kageyama)は,研究の着想,研究デザイン,調査の実施,分析,論文執筆のすべてを行った.ST,KI,MK(Kusaka),SN,SY,MM,TN,KYは研究デザイン・実施への助言と分析の解釈を行った.MNは,実施と分析に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
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