2024 Volume 44 Pages 796-806
目的:重症心身障害児(者)(重症児者)施設の看護師を対象に,離職意思と倫理的悩みとの関連,およびワーク・エンゲイジメント(WE)の媒介効果を検証する.
方法:58か所の重症児者施設の看護師を対象に,個人特性,離職意思,倫理的悩み,WEを尋ねるWeb調査を実施した.分析は記述統計,相関分析,構造方程式モデリング(SEM)を行った.SEMでは仮説モデルを構築した後に適合度指標を基にモデルの改良を行なった.
結果:144名を分析対象とした.相関分析では離職意思は倫理的悩みとは正の相関が,WEとは負の相関が示された.SEMでは仮説の通り倫理的悩みは看護師の離職意思を高め,WEがその関連を部分的に媒介し倫理的悩みから離職意思の影響を軽減した.
結論:重症児者を看護する看護師の人材確保のためには,倫理的悩みを軽減するアプローチの他にも,WEを高める組織作りが重要と示唆された.
Purpose: The purpose of this study was to examine the relationship between moral distress and turnover intentions, as well as the mediating effect of work engagement (WE) among nurses working in facilities for patients with severe motor and intellectual disabilities (SMID).
Methods: A Web-based questionnaire was administered to nurses working with 58 facilities, asking about personal characteristics, turnover intentions, moral distress, and WE. The analysis consisted of descriptive statistics, correlation analysis of each variable, and structural equation modeling (SEM).
Results: Analysis included 144 datasets. Correlation analysis revealed that turnover intention was significantly positively related to Moral Distress and significantly negatively related to WE. In the SEM analysis, as hypothesized, Moral Distress increased the turnover intentions of nurses caring for patients with SMID, and WE mediated and buffered this association.
Conclusion: In addition to approaches to reduce Moral Distress, it is important to create an organization that enhances WE to improve the retention of nurses who care for patients with SMID.
重症心身障害とは,重度の知的障害と重度の肢体不自由が重複している状態を指し,その状態を指す者を重症心身障害児(者)(以下,重症児者)という.近年では,医療の発達により人工呼吸器や胃ろうの管理を含む日常的に医療的ケアが必要な児の増加や(平元,2015),従来に比べ障害が重症化,複雑化,個別化し,医療依存度が高くなっていることが指摘されている(岡田・朝倉,2006).重症児者を看護する看護師(以下,重心看護師)には,疾患理解や医療的な処置に関する高度な知識が求められる.さらに,重症児者は意思決定が困難である場合が多く,あらゆる場面で倫理的配慮が必要であるが,塙ら(2020)は,重心看護師は「ケアをする側の都合でケアを考えてしまうことへの疑問」や「他者との価値観の違い」などの,慣習や制約への葛藤を持ちながらケアを行なっている現状があると明らかにしており,重心看護師には倫理的悩みによるストレスも大きいと考えられる.倫理的悩みは看護師のバーンアウトや離職に関連していると示されていることから(Karakachian & Colbert, 2019),重心看護師においても人材確保のためには倫理的悩みによるストレスを軽減し,離職予防を図る必要がある.さらに,近年では離職予防にポジティブ心理学の主要概念であるワーク・エンゲイジメント(Work engagement:以下,WE)を高めることが有用と示されており(Schaufeli et al., 2002;Schaufeli & Bakker, 2004;島津,2014),これらの関連を探索することは重心看護師の人材確保対策を検討する上で重要な課題である.
1. 本研究の理論的枠組み:Hobfollの資源保存理論本研究では,重心看護師の離職意思に対する倫理的問題とWEの関係性を理解する上での理論的枠組みとしてHobfollの資源保存理論(Hobfoll, 1989)(以下,COR理論)を用いた.COR理論はHobfollによって提唱されたストレスモデルの理論的枠組みであり,「人々は資源を保持・保護・獲得しようと努力し,その資源を脅かされるということは価値がある資源の潜在的もしくは実質的な損失である」と説明している(Hobfoll, 1989).この場合の資源とは,個人が持つあらゆるものを指し,例えば,健康,幸福,家族,自尊心,人生の目的意識などが示されている(Hobfoll et al., 2018).COR理論では,仕事上のストレスなどの資源損失の脅威が離職意思に影響すること,WEなどの資源の投入が離職意思を下げることが示されている(Hobfoll, 1989, 2012;Hobfoll et al., 2018).
看護師の離職意思と倫理的悩み,WEについて,COR理論に沿って確認する.COR理論は4つの原則から構成されており,すなわち,原則1:損失優先原則(資源喪失は資源獲得よりも影響が大きい),原則2:資源投資原則(資源の損失を防ぎ,失われた資源を回復するためには,資源を投資する必要がある),原則3:利益パラドックスの原則(資源喪失の状況下で資源獲得が重要性を増す),原則4:自暴自棄の原則(資源が底をついたり使い果たされたりすると,自己防衛のために攻撃的で非合理的な行動に走ることがある)である.COR理論の4つの原則は,本研究において異なる側面から資源管理の重要性を示している.
まず,原則1である「損失優先原則」は,倫理的悩みが資源損失の脅威となることを支持しており,個人が倫理的悩みを回避し,資源を守るために離職という戦略的選択をする可能性を示している.一方で,原則2である「資源投資原則」は,資源の損失から守り,回復し,新たな資源を得るためには積極的な資源投資が必要であることを示唆しており,倫理的悩みが高まった場合にもWEという資源を投入することで資源の喪失を防ぎ,資源の回復を促進できる可能性を示唆している.つまり,WEを投入することで,離職という選択をする可能性が低くなる.原則3である「利益パラドックスの原則」は,資源喪失の状況下で資源獲得が特に重要であることを示している.この原則は,倫理的悩みが高まる状況においても,WEを通じて他の資源を獲得し就業継続できる可能性を示唆している.最後に,原則4である「自暴自棄の原則」は,資源が使い果たされた際に自己防衛のために攻撃的で非合理的な行動に走る可能性を示唆している.この原則は,倫理的悩みによるストレスで資源が枯渇した時に,上司や同僚とのコミュニケーションが攻撃的になり人間関係が悪くなることや,冷静な判断ができなくなって大きな失敗をするなどにより離職意思が高まる可能性を示唆している(Hobfoll, 1989, 2012;Hobfoll et al., 2018).
2. 資源損失の脅威としての倫理的悩みJameton(1984)は倫理的問題を3つに分類している.その3つの倫理的問題とは,何か変だとは感じるが,何がどのように変なのかを明確にすることができなかったり,倫理的問題であるかどうかさえも認識できなかったりする状況を指す「倫理的曖昧さ」,倫理的な問題が起きていることが認識されており,明らかに2つ以上の倫理原則や価値が相いれず,どれにも優先順位がつけられない状況を指す「倫理的ジレンマ」,倫理的な問題に対してどの道徳的要求を大切にすべきかという価値判断がついているにもかかわらず,制度上・組織上の制約によってその正しい行動の遂行がほとんど不可能な状況を指す「倫理的悩み」である.中でも「倫理的悩み」は,過去に離職した看護者のうち,15%が倫理的悩みが原因であるとの調査結果や(Corley et al., 2001),我が国でも,急性期病院看護師を対象とした調査で倫理的悩みと離職意思に有意な正の相関関係があると報告されている(石原ら,2018).さらに,先に述べたようにCOR理論でも「損失優先原則」や「自暴自棄の原則」により,倫理的悩みが直接的にも間接的にも離職意思の高まりに繋がる可能性が示唆されていることから(Hobfoll, 1989, 2012;Hobfoll et al., 2018),倫理的悩みと離職意思の関連を明らかにする必要がある.以上より,次のような仮説を設定する.
仮説1:倫理的悩みがストレッサーとなり,重心看護師の離職意思を増加させる.
3. 資源保護因子としてのワーク・エンゲイジメント一方,浅井ら(2017)は,重症児者をケアする看護師において,就業継続意思に,児への愛着や,やりがいや達成感などの職務満足度が関連していると明らかにしており,仕事へのポジティブな感情が倫理的悩みと離職意思との関連に影響する可能性がある.近年,心理学や産業保健分野では,ポジティブ・メンタルヘルスが注目されており,従業員一人ひとりが健康に,いきいきと仕事に取り組むことが離職予防に重要であると示されている.WEはポジティブ・メンタルヘルスの主要概念であり,すなわち,「仕事に誇りや,やりがいを感じている」(熱意),「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭),「仕事から活力を得ていきいきしている」(活力)の3つが揃った状態と定義される(Schaufeli et al., 2002;Schaufeli & Bakker, 2004;島津,2014).WEはCOR理論においては資源を維持・保護する因子の一つであり(Hobfoll et al., 2018),高いWEは重心看護師の離職意思を低下させる可能性がある.以上より,次のような仮説を設定する.
仮説2:WEは重心看護師の離職意思を低下させる.
4. WEの媒介効果本研究で検証する先述の2つの仮説により想定されるモデルは,WEを媒介とした間接効果を含むものである.なぜなら,COR理論の資源投資原則では,資源の損失から守り,回復し,新たな資源を得るためには積極的な資源投資が必要であることが示唆されていることから(Hobfoll, 1989, 2012;Hobfoll et al., 2018),倫理的悩みという資源損失の脅威に対し,WEという資源を投入することで離職意思を下げることができると考えられるからである.つまり,WEが高い場合には,倫理的悩みによる離職意思の影響を軽減できる可能性があるということである.以上より,次のような仮説を設定する.
仮説3:倫理的悩みはWEを媒介して離職意思に影響を及ぼし,WEが高いと倫理的悩みによる離職意思の影響が軽減する.
我が国の先行研究では,重心看護師を対象として,倫理的悩みと離職意思の関連を探索した研究は見当たらず,さらにWEが倫理的悩みによる離職意思の関連に影響を及ぼすかは明らかにされていない.したがって,重心看護師の離職意思に対して,倫理的悩みとWEがどのような関連があるかを探索することで,離職予防対策における介入戦略の立案や改善に役立つことが期待される.以上のことから,本研究の目的は,重症心身障害児(者)施設に勤務する看護師を対象に,離職意思に対する倫理的悩みの関連,およびWEの媒介効果を検証することを目的とし,重心看護師の離職予防対策に有効な知見の探索を行いたいと考えた.
重症心身障害児(者)施設の看護師を対象に,離職意思と倫理的悩みとの関連,およびワーク・エンゲイジメント(WE)の媒介効果を検証する.
・離職意思を,看護師自身が現在働いている部署や病院または看護師を辞めたいと考える個人的で主観的な思考と定義する.
・倫理的悩みを,倫理的問題に対してなんらかの制約により正しい行動の遂行が困難な状況において生じるストレッサーと定義する.
・ワーク・エンゲイジメントは,Schaufeli & Bakker(2004),Schaufeli et al.(2002)の「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり,活力,熱意,没頭によって特徴づけられる.ワーク・エンゲイジメントは,特定の対象,出来事,個人,行動などに向けられた一時的な状態ではなく,仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知である」との定義を利用する.
横断的仮説検証型研究
2. 本研究の概念枠組み図1はJameton(1984)の倫理的悩みとHobfollの資源保存理論および文献検討の結果から得られた概念枠組みである.この概念枠組みは以下の3つの仮説から成り立っている.

仮説1:倫理的悩みがストレッサーとなり,重心看護師の離職意思を増加させる.
仮説2:WEは重心看護師の離職意思を低下させる.
仮説3:倫理的悩みはWEを媒介して離職意思に影響を及ぼし,WEが高いと倫理的悩みによる離職意思の影響が軽減する.
3. 研究参加者および調査手順本研究は,2020年9月時点で重症心身障害児(者)を守る会の会員施設一覧(公益財団法人日本重症児者心身障害福祉協会,2024)に記載されている関東甲信越地方の全ての重症児者施設(58施設)に勤務する副師長以下の全看護師を対象とした.対象者のリクルート方法は,まず,病院長および看護責任者宛てに調査協力依頼の書類を送付し,その後,承諾が得られた施設に対して無記名方式のWebアンケートへアクセスできるQRコードおよびURLを添付したリーフレットを送付して看護責任者を通じて対象者へ配布した.配布数は827部であった.Webアンケートの回答および集計にはGoogleフォームを用いた.調査期間は2021年11月から12月であった.
4. 調査項目 1) 個人特性個人特性は,年齢,看護師経験年数,重症児者看護経験年数,性別,就業形態,役職,学歴を尋ねた.
2) 離職意思土江・中村(1993)の離職意図の理論および,古屋・谷(2008)が作成した3つの質問項目を修正した3項目で離職意向を測定した.項目は,「現在働いている部署を変わりたい」,「現在働いている病院を変わりたい」,「看護職をやめたいと思う」であり,回答は「1:なかった」,「2:まれにあった」,「3:ときどきあった」,「4:たびたびあった」の4件法で回答を求め,合計得点を算出し,得点が高いほど離職意思が高いことを示した(得点範囲:3~12).原文の尺度を修正して使用するため,本尺度の心理的特性の確認を本調査前のパイロット調査後に因子分析および信頼係数の算出で確認した.因子分析は最尤法を用いて行い,尺度は全項目の負荷量が.4以上の単一因子(.69~.97),かつ,信頼性係数はCronbachのα係数が.87であり,心理学的特性が保たれてると判断した.
3) 倫理的悩み倫理的悩みは,實金ら(2019)が開発した看護師の倫理的悩みを測定する尺度を用いた.本尺度は「組織の理念・労働環境(5項目)」,「医療者の力量(5項目)」,「患者・家族の理解(2項目)」の3因子12項目の尺度で,信頼性・妥当性が確認されている.回答はそれぞれの質問に対してストレスの強度を4件法で尋ねる.ストレスの強度は「0:感じない」,「1:少し感じる」,「2:感じる」,「3:とても感じる」とし,各下位尺度の合計得点を算出した.なお,本尺度は得点が高いほどストレス認知が高いことを示す.使用に際して開発者に使用許諾を得た.また,本尺度は重心看護師を対象とした研究で信頼性・妥当性が検証されている(齊藤ら,2023).
4) ワーク・エンゲイジメントワーク・エンゲイジメントは,Schaufeli et al.(2002)によって開発されたものをShimazu et al.(2015)が翻訳し,日本での信頼性・妥当性が確認されている日本語版ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度短縮版(UWES-J)を使用した.UWES-Jは,「活力(3項目)」,「熱意(3項目)」,「没頭(3項目)」の3因子9項目で構成されており,回答は「0:全くない」,「1:1年に数回以下/ほとんど感じない」,「2:1ヵ月に1回以下/めったに感じない」,「3:1ヵ月に数回/時々感じる」,「4:1週間に1回/よく感じる」,「5:1週間に数回/とてもよく感じる」,「6:毎日/いつも感じる」の7件法で,得点が高いほど,WEが高い状態であることを示す.本研究ではUWES-Jのマニュアルに基づき,各項目得点の合計値を項目数で除した値を算出した(得点範囲0~6点).本尺度は,学術研究が目的の場合には自由に使用することができる尺度である.
5. 分析方法研究対象者の個人背景を把握するために,記述統計量を算出した.その後,各変数の相関分析および内的一貫性を確認した.さらに,研究の概念枠組みに基づき,倫理的悩みが離職意思に影響を及ぼし,WEはその影響を媒介するという仮説モデルを作成し,これらの関連を検討した.モデルの分析にはブーストラップ法による構造方程式モデリング(以下,SEM)を使用し,間接効果の有意性の確認は,Nonparametric Bootstrap法を用い,リサンプリング回数は2,000回とした.仮説モデルを構築後,Root Mean Square Error of Approximation(RMSEA),Comparative Fit Index(CFI)を参考にモデルの改良を行なった.分析には統計解析ソフトのIBM SPSS Ver. 28,IBM SPSS Amos Ver. 28およびHAD(清水,2016)を用いた.
6. 倫理的配慮本研究は,山梨県立大学看護学部及び看護学研究科倫理審査委員会の承認を得て行なった(承認番号:2022-19).研究実施に際しては,対象者へ研究調査依頼用紙を用いて,調査目的,個人情報の保護,研究に協力しないことが不利益とならないこと,調査はWebアンケートで行われ,無記名であり,回答の際に電子的な情報を取得しないこと,研究参加の同意はWebアンケートの研究に同意するかという質問に「はい」と回答したことをもって同意とみなすこと,研究結果の発表の可能性と匿名性を遵守することを説明した上で実施した.
調査協力が得られた施設は58施設中19施設であり,資料配布数は872,回収数は149であった(回収率17.1%).回収した149の内,不備があったものは5を除外した144を有効なデータセットとした(有効回答率97.3%).
1. 対象者の基本属性表1は研究対象者の基本属性を示した.対象者の年齢は,49.1 ± 10.9歳,看護師経験年数は,15.8 ± 10.3年,重症児者看護経験年数は,7.3 ± 6.9年であった.性別は男性が18人(12.5%),女性が126人(87.5%).就業形態は正規が135人(93.8%),非正規が9人(6.2%).役職はありが16人(11.1%),なしが128人(88.9%)であり,学歴は5年一貫卒が1人(0.7%),専門学校卒が99人(68.8%),短期大学卒が10人(6.9%),大学卒が33人(22.9%),大学院卒が1人(0.7%)であった.
n = 144
| mean ± SD | range | |
|---|---|---|
| 年齢 | 49.1 ± 10.9 | 21–63 |
| 看護師経験年数 | 15.8 ± 10.3 | 0–40 |
| 重症児者看護経験年数 | 7.3 ± 6.9 | 0–35 |
| 性別 | ||
| 男性 | 18(12.5%) | |
| 女性 | 126(87.5%) | |
| 就業形態 | ||
| 正規 | 135(93.8%) | |
| 非正規 | 9(6.2%) | |
| 役職 | ||
| あり(副看護師長以上) | 16(11.1%) | |
| なし | 128(88.9%) | |
| 学歴 | ||
| 5年一貫卒 | 1(0.7%) | |
| 専門学校卒 | 99(68.8%) | |
| 短期大学卒 | 10(6.9%) | |
| 大学卒 | 33(22.9%) | |
| 大学院卒 | 1(0.7%) |
表2は各変数の記述統計量,信頼係数,相関分析を示した.離職意思の得点は6.9 ± 2.7点,倫理的悩みの下位尺度のうち,組織の理念,労働環境は6.3 ± 3.2点,医療者の力量は5.2 ± 2.9点,患者・家族の理解は2.2 ± 1.3点であった.UWES-Jの下位尺度のうち,活力は2.4 ± 1.3点,熱意は3.1 ± 1.3点,没頭は2.5 ± 1.3点であった.
| range | mean | SD | Cronbach’s α | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | |||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 離職意思尺度 | 1 | 離職意思 | 3~12点 | 6.9 | 2.7 | .77 | 1 | ||||||
| 倫理的悩み尺度† | 2 | 組織の理念,労働環境 | 0~15点 | 6.3 | 3.2 | .76 | .47*** | 1 | |||||
| 3 | 医療者の力量 | 0~15点 | 5.2 | 2.9 | .74 | .32*** | .75*** | 1 | |||||
| 4 | 患者・家族の理解 | 0~6点 | 2.2 | 1.3 | .63 | .17* | .48*** | .46*** | 1 | ||||
| UWES-J | 5 | 活力 | 0~6点 | 2.4 | 1.3 | .87 | –.50*** | –.35*** | –.25** | –.17* | 1 | ||
| 6 | 熱意 | 0~6点 | 3.1 | 1.3 | .85 | –.50*** | –.32*** | –.24** | –.14 | .85*** | 1 | ||
| 7 | 没頭 | 0~6点 | 2.5 | 1.3 | .81 | –.43*** | –.19* | –.11 | –.11 | .68*** | .76*** | 1 |
*;p < .05 **;p < .01 ***;p < .001
†;倫理的悩み尺度全体のCronbach’s αは.86
各変数の内的一貫性を示すCronbachのα係数は,概ね基準である.7を満たしたが,患者・家族の理解は.63と比較的低値であった.ただし,倫理的悩み尺度の全項目(12項目)でCronbachのα係数を算出すると,倫理的悩みが.86であり基準を満たしていた.
各変数間の相関分析では,離職意思は倫理的悩みの各下位尺度とは有意な正の相関が,WEの各下位尺度とは有意な負の相関が見られた.一方で,倫理的悩みとWEの関連では,組織の理念・労働環境とWEの各下位尺度すべてで有意な負の相関が,医療者の力量は活力,熱意に有意な負の相関が確認された.さらに,患者・家族の理解は活力のみに有意な負の相関が確認された.
3. 離職意思に対する倫理的悩みの関連およびWEの媒介効果図2は概念枠組みに基づき,潜在変数[離職意思]には観測変数【Q1;現在働いている部署を変わりたい】,【Q2;現在働いている病院を変わりたい】,【Q3;看護職をやめたいと思う】を投入した.潜在変数[倫理的悩み]には観測変数である【組織の理念】,【医療者の力量】,【患者・家族の理解】を投入した.潜在変数[WE]には観測変数である【活力】,【熱意】,【没頭】を投入した.Nonparametric Bootstrap法によるSEMの結果,倫理的悩みは離職意思に対して有意な正の関連が(標準化直接効果=.37,p = .001),WEは離職意思に対して有意な負の関連(標準化直接効果=–.37,p = .001)が示された.さらに,WEは倫理的悩みと離職意思の関連を媒介し,かつその関連を軽減した(標準化間接効果=.13,p = .001).また,[離職意思]の決定係数は.37であった.しかし,仮説モデル適合度は,RMSEA = .067,CFI = .977であり,基準値に満たなかった.

図3は,仮設モデルの適合度および修正指数と改善度を参考に再分析を行った結果の改良モデルである.モデルの修正では,【組織の理念,労働環境】の誤差(e4)を削除し,【Q1;現在働いている部署を変わりたい】の誤差(e9)および【Q2;現在働いている病院を変わりたい】の誤差(e10)に共分散を設定した.再度Nonparametric Bootstrap法によるSEMを行い,その結果,倫理的悩みは離職意思に有意な正の関連が(標準化直接効果=.42,p = .001),WEは離職意思に対して有意な負の関連(標準化直接効果=–.52,p = .001)が示された.WEは倫理的悩みと離職意思の関連を媒介し,かつその関連を軽減した(標準化間接効果=.17,p = .001).また,【Q1;現在働いている部署を変わりたい】の誤差(e9)および【Q2;現在働いている病院を変わりたい】の誤差(e10)との間の誤差共分散は.58であった(p = .001).また,[離職意思]の決定係数は.58であり,改良モデルの適合度はRMSEA = .038,CFI = .992で良好に適合した.

本研究の目的は重心看護師を対象に,離職意思と倫理的悩みの関連,およびWEの媒介効果を検証することであった.まず,本研究で使用したサンプル数は144であり,SEMの使用に耐えられると判断した.SEMによる分析の結果,倫理的悩みは離職意思に中程度の有意な正の関連を示した.また,WEは離職意思に中程度の有意な負の関連を示した.さらに,WEは倫理的悩みと離職意思の関連を部分的に媒介し,WEがこれらの関連を軽減した.適合度はRMSEA = .038,CFI = .992であり,本モデルは十分に重心看護師の離職意思を説明していると言える.また,本モデルの離職意思への決定係数は.58であり,離職意思の変動の約58%を説明できることを示している.この値は,倫理的悩みとWEが重心看護師の離職意思を予測する上で重要な要素であると示唆しており,特に,WEの離職意思への影響が倫理的悩みよりも大きいことが特徴的であった.
1. 重心看護師の倫理的悩みの特徴について本研究の対象者である重心看護師の倫理的悩み尺度の得点の特徴として,實金ら(2019)の研究と比較して全体的に低く(實金らの尺度得点は,「組織の理念,労働環境(6.6点)」,「医療者の力量(6.0点)」,「患者・家族の理解(2.5点)」である;著者ら計算),緒言で述べていたような重心看護師は倫理的悩みが高いのではないかという予測と一致しない.特に「医療者の力量」では本研究との差は0.8点と差が大きく,この理由として,重症児者看護経験年数が7.3 ± 6.9と長いことが関連し,重症児者への看護に必要な知識や手技が習得できていることが要因であると考えられる.また,他の下位尺度の得点が低いことについて,重心施設(または病棟)は入院期間が長く,障がいが固定化している場合も多く療育の場の変化が少ないために倫理的悩みを持つ頻度が少ないこと,施設の環境や慣習が影響する倫理的問題に関する「慣れ」が関係しているのではないかと考えられるが,今回の調査ではストレスの強度のみで頻度やその内容を尋ねておらず評価は難しい.一方で,重症児者を看護する看護師の倫理的側面に焦点を当てた研究はいくつかあるが(仁宮・松田,2020;塙ら,2020;須賀ら,2017),この中には倫理的悩みと倫理的ジレンマを明確に区別して調査している文献は少なく,重心看護師が抱える倫理的悩みの詳細について十分に明らかになっていない.そのため,今後は既存の倫理的悩み尺度を用いた量的研究に加えて,インタビューやフォーカスグループディスカッションなどの質的手法やそれらを合わせた混合研究法などで,重症児者への看護に特有な倫理的悩みや倫理的悩みの背景を深く掘り下げるアプローチが求められる.これにより,尺度では捉えられない微妙なニュアンスや職場の環境や慣習による問題,一般化が困難な個別的問題などを明らかにすることができると考えられる.このような研究を進め,重心看護師の倫理的悩みをより深く理解し,離職予防に活かしていく必要がある.
2. 離職意思と倫理的悩みとの関連について倫理的悩みは離職意思と相関分析では有意な正の相関があり,SEMでも中程度の正の関連を認めており,倫理的悩みが重心看護師の離職意思に一定の影響を与えていることを示している.つまり,倫理的悩みが高まると離職意思も高まると言えるため,仮説1は支持された.この結果は,倫理的悩みが離職意思を高めると示した国外の先行研究(Corley et al., 2001;Hamric & Blackhall, 2007;Kim et al., 2023)や,石原ら(2018)が関西圏の300床以上の急性期病院看護師に行なった研究での,倫理的悩みが離職意図に弱い相関があるという報告と比較して相違はない.また,COR理論を考慮した上でも,倫理的悩みが資源損失の脅威となり,重心看護師が自身の資源を守るために離職を選択するという関連性は整合性が取れていると考えられる.一方で,倫理的悩みはバーンアウトに繋がるとの報告(Ohnishi et al., 2010;萬木ら,2020)や,バーンアウトが離職意思に関連するという報告(Minamizono et al., 2019;松谷ら,2022)があることから,倫理的悩みがバーンアウトにつながり,その結果として離職意思が高まるというプロセスが存在する可能性がある.COR理論においても,バーンアウトが資源損失の脅威と示されていることから(Hobfoll et al., 2018),今後は倫理的悩みがバーンアウトにつながり,離職意思の高まりへと至るプロセスに着目した関連性を明らかにする必要がある.
3. 離職意思とWEとの関連およびWEの媒介効果についてWEは離職意思と相関分析で有意な負の相関があり,SEMでも中程度の負の関連を認め,WEが重心看護師の離職意思に一定の影響を与えることが示唆された.つまり,WEが高まると離職意思は低くなると言え,仮説2は支持された.この結果は,WEが離職意思を低下させると示した国内外の先行研究(Dewanti & Prakosa, 2022;Kato et al., 2023;Tang et al., 2022)と一致する.WEはCOR理論においても資源を維持・保護する因子の一つであり(Hobfoll et al., 2018),WEが重心看護師の離職意思を低下させる関連は整合性が取れている.
加えて,SEMでの結果,WEは倫理的悩みと離職意思の関連を部分的に媒介し,WEがこれらの関連を軽減すると示され,仮説3も支持された.先行研究では,WEが倫理的悩みと離職意思の関連を部分的に媒介し,WEがこれらの関連を軽減すると示した文献は見当たらない.一方で,看護師や保健師を対象としWEが職場環境によるストレスと離職意思を媒介するという研究(Li et al., 2019;Wan et al., 2018)によって,WEが職場のストレスと離職意思との関連を軽減する関連性が明らかになっている.加えてCOR理論においては,高いWEが保護因子として機能し看護師のストレスや資源の不足に対処する手段となりうることが示されていることを考慮すると(Hobfoll, 1989;Hobfoll et al., 2018),本研究で明らかになったWEによる媒介効果は整合性が取れていると考えられる.以上のことから,倫理的悩みが高い場合でもWEが高い状態であればその影響を軽減できることが示唆された.
4. 実践への示唆本研究の結果から,重心看護師の離職対策には,倫理的悩みを軽減することおよびWEを向上させる対策が重要と示唆された.
倫理的悩みの軽減に関して,萬木ら(2020)は,倫理的悩みと臨床倫理カンファレンスの頻度が負の関係を示すことを報告し,カンファレンスを通してチームで倫理的悩みの共有を図り,多面的なアセスメントや意見交換によって倫理的悩みを軽減する有益な支援方法を導くことが有効であると示した.一方で,安藤ら(2020)は,問題対処行動のうち「問題解決のための相談」は倫理的悩みに関連せず,倫理的悩みを十分に軽減できなかったと報告している.安藤らは,Lazarus & Folkmanの心理学的ストレス認知理論(Lazarus & Folkman, 1984/1991)における問題中心型対処(苦痛をもたらす厄介な問題を巧みに処理し変化させる対処方法)と,情動中心型対処(厄介な問題に対する情動反応を調節する方法)を引用し,倫理的悩みへの対処は情動中心型対処も必要であると考察している.よって倫理的悩みに対する対応では必ずしも問題の原因を解決することだけでなく,情動中心型対処の支援が重要となる.特に,障害が固定化している重症児者を看護する職場においてはより重要な事項であると考えられる.さらに,職場における情動中心型対処の支援については上司によるサポートが占める部分が大きいと考えられ,看護師長などの上司は看護師との個別面談やコーチングなどのソーシャルサポートを通じて,感情やストレスに関するオープンな対話を促進し,情動中心型対処の支援を提供することが求められる.
WEを高める方法について,特に重心看護師のWE向上に効果的と考えられるのはジョブ・クラフティング(以下,JC)である.JCは「課題や対人関係における従業員個人の物理的ないし認知的変化」と定義されており(Wrzesniewski & Dutton, 2001),島津(2014)は,JCを「自らの仕事を変化させながら,仕事の意義を高めていくプロセスと言える」と示している.先述のように浅井ら(2017)は,重症児者をケアする看護師において児への愛着や,やりがいや達成感などが職務満足度を向上させると報告しており,ほぼ一生を重心病棟で過ごす重症児者が多い施設や病棟において,これらのポジティブな感情に認知的変化を促すJCを行うことが重要と考える.具体的には,小澤ら(2022)が看護師のWEを高めるためには,看護師が自由に語り合えるような機会や環境が求められると指摘しているように,病棟毎やさらに小さなグループ単位で,定期的に重心看護師同士で成功事例や小さな達成感を語り合い共有する場を設定し,「この仕事が楽しい,面白い,やりがいがある」ということを自己認識することが重要であり,それらを通して変化が少ない療育の場の中で成果を認めることがWEを向上させる手段となる可能性がある.今後は,これら対策の有効性や,重心看護師のWE向上に寄与する具体的な内容について明らかにしていく必要がある.
5. 本研究の限界本研究の限界は5点挙げられる.第1に,本研究は横断研究であるため因果関係の推定は難しい.第2に,回収率が17.1%と低く,また甲信越地方の一部の施設を対象としており,本研究の結果を一般化するには限界がある.第3に,本研究では調査時点で就業している看護師を対象としているため,生存バイアスが生じている可能性がある.第4に,倫理的悩み尺度の下位尺度のうち,「患者・家族の理解」は信頼係数が.63と,信頼性の指標となる.70を下回っており,一部内的一貫性が低かった.しかし,倫理的悩みの全項目での信頼係数は.86であり,「患者・家族の理解」は倫理的悩みを検討する上で重要な要素であると判断し,この下位尺度を含めて分析を行なっていることを考慮する必要がある.第5に,本研究では倫理的悩みが離職意思に与える影響と,WEの部分媒介の関係性を示したが,他の離職意思に関連する因子が存在する可能性がある.今後はサンプルサイズを拡大しつつ,関連因子の検討や内的一貫性の確認,バイアスを回避する方策を検討して調査を実施する必要がある.
以上の限界はあるが,本研究は看護師の離職意思には倫理的悩みが関連し,WEを高めることによりその関連を軽減できることを明らかにした.この知見は看護師の離職予防対策を検討していくために有用であると考える.
仮説の通り,倫理的悩みは重症児者を看護する看護師の離職意思を高め,かつWEがその関連を部分的に媒介し軽減した.本研究の結果から,重症児者を看護する看護師の人材確保のためには,倫理的悩みを軽減するアプローチの他にも,WEを高める組織作りが重要と示唆された.
謝辞:本研究にご協力いただきました重症心身障害児(者)施設の看護師の皆様,研究を実施するにあたり多大なご協力・ご助言をいただきました皆様に心より感謝を申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:TSは本研究の着想,デザイン,データ収集,分析,執筆の研究プロセス全体に貢献した.RH,HS,MYはデザイン,データ収集,分析および原稿への示唆を行なった.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.