Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Literature Review of Cesarean Birth Experience
Kyoko TakahashiMaki Saito
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2024 Volume 44 Pages 818-829

Details
Abstract

目的:「帝王切開での出産体験」について,文献から明らかにし,看護実践と研究への示唆を得ること.

方法:PubMed,CINAHL,医中誌web版を使用し,帝王切開での出産体験について論じられている論文を抽出し,計25文献を対象に帝王切開術後の女性の体験を明らかにした.

結果:「帝王切開での出産体験」は,【医療者に支えられていると感じる】【医療者によるケアを受けられない】【肯定的な感情をもつ】【否定的な感情をもつ】【経腟分娩と出産満足度に差がない】【帝王切開術後疼痛による苦痛】【帝王切開によって生じる恐怖】があった.

結論:女性の出産体験に影響する要因の把握が助産実践に応用できることが示唆された.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to elucidate the cesarean birth experience and obtain suggestions for nursing practice and research through a review of the literature.

Methods: Literature was identified from three databases: PubMed, CINAHL, Ichushi-Web. A total of 25 references were selected and the content from the review was organized.

Results: Patients who underwent cesarean delivery reported the following experiences: feeling supported by medical personnel, not receiving care from medical personnel, having positive feelings, having negative feelings, no difference in satisfaction with delivery compared to vaginal delivery, distress due to post-cesarean pain, and fear caused by the cesarean section.

Conclusions: This study suggests that understanding the factors that influence a woman’s birth experience could be applied to midwifery practices.

Ⅰ. 緒言

日本の帝王切開率は年々増加傾向にある(厚生労働省,2020).帝王切開での出産に関して,自分の力で産んだと思えなければ自分が母親になったという実感を持てなかったり,母親役割を喪失する体験をしている女性がいる(東野・近藤,1988Marut & Mercer, 1979).出産観は,出産の経過の事実よりも出産の捉え方が出産後の母親の心理状態に影響を及ぼすこと(大久保ら,1999),出産体験を否定的に捉えている母親は産後うつ傾向の出現が高いこと(Beck & Gable, 2000)が報告されている.また,出産満足度と産後うつとの関連(佐藤ら,2008)や心的外傷後ストレス症候群(PTSD)との関連(Puia, 2013Ryding et al., 1988)などの報告がある.

出産体験は,女性が主体的に捉えた自己の出産の捉え方によって決定されるものである.出産体験は「出産の開始から,出産後24時間以内の経過のなかで,産婦の情緒を伴って体験されたことを意味し,産婦自身の言語によって表現されたこと」(恵美須,1990),「分娩開始から分娩後24時間以内の経過の中で,産婦の情緒を伴った体験」(宮中ら,1995),「分娩の開始から分娩後48時間以内の情緒的体験」(我部山ら,1996),「分娩開始から分娩後2時間以内における産婦の情緒を伴った体験」(常盤・今関,2000)とされている.いずれも経腟分娩における出産体験を表しており,帝王切開には当てはまらない.

帝王切開での出産体験を明らかにすることは,母子の愛着形成への影響を知るためにも重要であると考えた.そこで,「帝王切開での出産体験」について,文献から明らかにし,看護実践と研究への示唆を得ることを目的に文献検討を行った.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究目的

「帝王切開での出産体験」について,文献から明らかにし,看護実践と研究への示唆を得ることとした.

2. 研究方法

文献の選択には,PubMed,CINAHL,医中誌web版を使用し,検索期間は,2014年~2023年の10年間とした.英文献は“cesarean section” or “cesarean delivery” or “cesarean” or “caesarean” or “mode of delivery” AND “childbirth experience” or “childbirth” or “women’s experiences”で検索し,本文のある文献,英語の文献とし,症例報告や雑誌,重複文献を除き,314件となった.

国内文献は,「帝王切開術」と「出産体験」のキーワードを組み合わせ,本文のある文献,日本語または英語の文献,原著文献,帝王切開での出産体験に関する内容が記述されている文献,帝王切開後の女性を研究対象としている文献を選択基準とした.

また,除外基準は,解説,総説,会議録,紀要,地方学会誌,医学的な文献,研究対象者が帝王切開を受けた女性でない論文,帝王切開後10年以上経過してからの調査である論文は除外した.

3. 分析方法

分析対象文献の,著者名,出版年,投稿先,国,方法(対象,調査時期,研究デザイン)を整理した.次に,質的研究は,論文を精読して帝王切開での出産体験に関する主な記述を抽出した.量的研究は,帝王切開での出産体験にかかわる記述を抽出した.

「帝王切開での出産体験」は,身体的な体験だけではなく,情緒的な体験も含み,体験が発生・出現するのに先立って生じる出来事や事象,結果として生じる出来事や事象と考えられる記述を抽出し,意味を損ねないようコード化した.次に,サブカテゴリー化・カテゴリー化した.また,「帝王切開での出産体験に影響する要因」と「帝王切開が出産後に及ぼす影響」に関する記述に関しても抽出した.

分析の妥当性に関しては,母性看護学を専門とする教員からスーパーバイズを受け,時間をおいて検討を重ねることで,分析結果の妥当性の確保に努めた.

Ⅲ. 結果

データベース検索の結果,PubMed 312件,CHINAL 31件,医中誌27件が抽出された.重複文献29件を除く370件について,タイトルと抄録から選択基準と明らかに合致しないとわかる文献を除外した.残りの文献はフルテキストを精読し,包含基準,除外基準に照らし合わせて最終的に英文献16件,和文献3件となった.さらに,ハンドサーチにて英文献5件,和文献1件を追加した.最終的に25文献を分析対象とした(表1).

表1 帝王切開での出産体験

著者名 発行年 タイトル 文献 研究方法 調査対象/時期 結果の概要
Abbaspoor et al. 2014 Iranian mothers’ selection of a birth method in the context of perceived norms: a content analysis study Midwifery, 30(7), 804–809. イラン 質的研究/半構造化面接 経腟分娩・帝王切開後の女性/出産後1年以内 一部の女性にとって,帝王切開は階級の高い人の出産方法であると考えられていた.帝王切開は性器の修復の必要性がなく,その代償に見合うだけの価値がある.
Akarsu & Mucuk 2014 Turkish women’s opinions about cesarean delivery Pakistan Journal of Medical Sciences, 30(6), 1308–1313. トルコ 量的研究/質問票による対面式面接 帝王切開術後の女性/妊娠後期または出産後1週間以内 対象の13%が理想的な分娩方法は帝王切開であると報告し,大多数(87%)が経腟分娩を選択した.対象の72.1%が帝王切開分娩に満足していた.44.4%の女性が,陣痛や恐怖心から帝王切開を好むことがわかった.
Bernitz et al. 2016 Evaluation of satisfaction with care in a midwifery unit and an obstetric unit: a randomized controlled trial of low-risk women BMC Pregnancy Childbirth, 16(1), 143. ノルウェー 量的研究/出産満足度に関する質問紙(The Labour and Delivery Satisfaction Index: LADSI) 低リスクの分娩予定の女性/分娩後6か月 分娩室に無作為に割り付けられた女性は,産科病棟に無作為に割り付けられた女性よりも分娩ケアに対する満足度が有意に高かった.分娩室から産科病棟への移動した者,手術分娩(帝王切開・器械分娩)・硬膜外麻酔は割り当てられたグループに関係なく,全体的な満足度に負の影響を及ぼした.
Boorman et al. 2014 Childbirth and criteria for traumatic events Midwifery, 30(2), 255–261. オーストラリア 量的研究/外傷性出産体験に関する質問紙 出産後の女性/募集時・出産後14日 14.3%の女性が外傷性分娩の基準を満たした.A2の条件を取り除くと,有病率は29.4%に倍増した(精神障害の診断と統計マニュアル第4版(DSM-IV)の心的外傷後ストレス障害の基準A1(脅威)とA2(激しい情動反応)).出産に脅威を感じた女性の約半数は,強い否定的感情反応を示さなかった.
Burcher et al. 2016 Cesarean Birth Regret and Dissatisfaction: A Qualitative Approach Birth-Issues in Perinatal Care, 43(4), 346–352. アメリカ 質的研究/半構造化面接 緊急帝王切開術を受けた女性/出産後2~6週 1)コミュニケーション不足,2)手術室への恐怖,3)医療チームへの不信,4)コントロールの喪失の4つの重要なテーマが明らかになった.ケア提供者に対する信頼感の欠如や不完全さは,これまでの文献では苦痛や不満の原因として認識されていなかった新しい要因であった.
Congdon et al. 2016 A Prospective Investigation of Prenatal Mood and Childbirth Perceptions in an Ethnically Diverse, Low-Income Sample Birth, 43(2), 159–166. アメリカ 量的研究/出産体験に関する質問紙(The childbirth experience questionnaire: CEQ) 妊娠中・出産後(経腟分娩・帝王切開)の女性/妊娠第3期および出産後 緊急帝王切開は予定帝王切開と比較して,より悪い出産経験という結果であった.
Falk et al. 2019 The impact of obstetric interventions and complications on women’s satisfaction with childbirth a population based cohort study including 16,000 women BMC Pregnancy Childbirth, 19(1), 494. スウェーデン 量的研究/出産満足度に関する質問紙(ビジュアルアナログスケール:VAS) 出産後の女性(経腟分娩・帝王切開)/出産後1~2日 出産に対する不満の主な危険因子は,緊急帝王切開(OR 3.98: 3.27–4.86)などであった.緊急帝王切開は,出産に対する不満を報告する最も強力な予測因子であった(OR 3.98: 3.27–4.86).
Filipec et al. 2023 New Assessment Tool-Postpartum Functional Assessment Questionnaire Medicina (Kaunas), 59(7). クロアチア 量的研究/出産後の疼痛と機能能力に関する質問紙(Numeric Pain Rating Scale: NRS, Postpartum Functional Assessment Questionnaire) 出産後の女性(経腟分娩・帝王切開)/出産後1日目と3日目 帝王切開術後の女性は,術後1日目・3日目ともに経腟分娩(外傷なし,会陰裂傷あり,会陰切開あり)よりも疼痛が強かった(6.49: 5.97–7.01,3.19: 2.81–3.58).帝王切開術後の女性は,術後1日目・3日目ともに経腟分娩(外傷なし,会陰裂傷あり,会陰切開あり)よりもセルフケア・育児時の機能障害が強かった.
Floris et al. 2018 Comprehensive maternity support and shared care in Switzerland: Comparison of levels of satisfaction Women Birth, 31(2), 124–133. スイス 量的研究/産科・新生児ケアに関する満足度(Women’s Experiences Maternity Care Scale) 出産後の女性(経腟分娩・帝王切開)/出産後2か月 経腟分娩で出産した女性よりも満足度が低かった(OR 0.3: 0.2–0.6).
Fobelets et al. 2019 Preference of birth mode and postnatal health related quality of life after one previous caesarean section in three European countries Midwifery, 79, 102536. ドイツ,アイルランド,イタリア 量的研究/健康関連の生活の質(HRQoL) 帝王切開歴のある女性/出産前および出産後3か月 「帝王切開後経腟分娩を希望おり,希望通りであった」女性と「帝王切開後経腟分娩を希望していたが,帝王切開で出産した」女性の間で,HRQoL有用性スコアに有意差があることを示した(0.81 ± 0.11 vs 0.76 ± 0.12).
Ghaffari et al. 2021 Hospital discharge on the first compared with the second day after a planned cesarean delivery had equivalent maternal postpartum outcomes: a randomized single-blind controlled clinical trial BMC Pregnancy Childbirth, 21(1), 466. イラン 量的研究/出産満足度および疼痛の強さ(フェーススケール) 予定帝王切開後の女性/退院日,退院1週後,6週後 満足度は,退院日・退院後1週間・退院後6週間と時間の経過とともに高くなった.疼痛スコアは,時間の経過とともに軽快した(退院日が一番低く,退院後1週間,退院後6週間の順).
箱崎ら 2017 帝王切開で出産した女性の出産満足度と産後早期のうつ傾向との関連についての検討―日本語版SMMSの信頼性・妥当性の検証を通して― 日本助産学会誌,31(2), 140–152. 日本 量的研究/出産満足度に関する質問紙(The Scales for measuring maternal satisfaction in cesarean birth:SMMSの日本語版) 帝王切開後の女性/退院後1週間以内 出産満足度(SMMS得点)の平均は,169.57(SD: 20.31)点であり,満足群84%,不満足群16%であった.出産満足群のEPDS得点は6.62点,不満足群は8.44であり,有意差あり(p = 0.003).出産満足群の自尊感情34.62点,不満足群は32.33点であり,有意に高い(p = 0.033).出産満足群の母親の愛着得点は30.99点,不満足群は29.67点であり,有意に高い(p = 0.032).
Husby et al. 2019 Caesarean birth experiences. A qualitative study from Sierra Leone Sex Reprod Healthc, 21, 87–94. シエラレオネ 質的研究/半構造化面接 妊娠中・経腟分娩後・帝王切開後の女性/出産後30日 女性は,帝王切開による自分自身の死や児を失うことを恐れていた.痛みや不快感により出産後に思い描いていた活動を再開することが困難であった.
飯嶋ら 2021 帝王切開で出産した初産の母親が出産体験を意味づけるプロセス 母性衛生,62(2), 399–407. 日本 質的研究/半構造化面接 帝王切開術後女性/出産後1か月 〈自分自身が辛い状況でも子どもの安否を気にかける〉〈経腟分娩を諦められない気持ちを持ちつつ,帝王切開の可能性を認識せざるを得ない〉〈周囲の人に求めている身体的・精神的なサポートが得られないことで孤立しているように感じる〉などの「帝王切開をすることで錯綜する出産への思い」や〈出産体験を看護者に語る機会があれば語りたい〉などの「出産体験を語ることによる思いの整理」などが語られた.
Kjerulff & Brubaker 2018 New mothers’ feelings of disappointment and failure after cesarean delivery Birth, 45(1), 19–27. アメリカ 量的研究/出産経験尺度(First Baby Study Birth Experience Scale) 帝王切開術後女性/妊娠中および出産後1か月 出生経験尺度の合計スコアは,緊急帝王切開が最も低かった(66.2 ± 7.4).緊急帝王切開を受けた女性は,自然経腟分娩,器械的経腟分娩,予定帝王切開を受けた女性と比較して,出産に関する全体的な肯定的感情が最も低かった.緊急帝王切開の女性は,失望,動揺,悲しみ,怒り,失敗感を感じる傾向が高かった.緊急帝王切開を受けた女性は,自然経腟分娩を受けた女性に比べて,失望感や不具合のような気持ちになりやすく,自尊感情が低かった.
Komatsu et al. 2017 Recovery after Nulliparous Birth: A Detailed Analysis of Pain Analgesia and Recovery of Function Anesthesiology, 127(4), 684–694. アメリカ 量的研究/疼痛および機能回復に関する質問紙(Numeric Pain Rating Scale: NRS) 出産後の女性(経腟分娩・帝王切開)/出産後1日以降機能回復まで毎日 経腟分娩よりも帝王切開後の総疼痛負担が1.7倍大きかった.機能回復に要した時間は27日,オピオイド中止までに9日,鎮痛剤中止まで16日,疼痛解消までに21日かかった.
Martinez-Galiano et al. 2021 The magnitude of the problem of obstetric violence and its associated factors: A cross-sectional study Women Birth, 34(5), e526–e536. スペイン 量的研究/産科暴力に関する質問紙 出産後の女性(経腟分娩・帝王切開)/出産後1年以内 言葉による暴力は,予定帝王切開:OR1.60(0.89–2.88),緊急帝王切開:OR2.11(1.40–3.19),身体的暴力は,予定帝王切開:OR1.05(0.62–1.79),緊急帝王切開:OR2.12(1.42–3.16),心理的産科暴力は,予定帝王切開:OR4.08,(2.07–8.06),緊急帝王切開:OR5.74(3.32–9.93)でより頻繁に観察された.
McLachlan et al. 2016 The effect of primary midwife-led care on women’s experience of childbirth: results from the COSMOS randomised controlled trial BJOG, 123(3), 465–474. オーストラリア 量的研究/出産体験に関する質問紙 出産後の女性(経腟分娩・帝王切開)/出産後2か月 経腟分娩で出産した女性と同様に,帝王切開後の女性もケースロードケアを受けている女性は肯定的な経験を持つ可能性が高かった(51.9 vs 38.3%; p = 0.007).
Montesinos-Segura et al. 2018 Disrespect and abuse during childbirth in fourteen hospitals in nine cities of Peru Int J Gynaecol Obstet, 140(2), 184–190. ペルー 量的研究/出産中の軽蔑と虐待に関する質問紙 出産後の女性(経腟分娩・帝王切開)/出産後48時間以内 経腟分娩と比較すると,身体的虐待は低く(OR0.23: 0.11–0.49),ケアの放棄は高く(OR1.27: 1.03–1.57),尊厳のないケア(OR1.11: 0.96–1.29)と同意のないケア(OR1.02: 0.90–1.16),差別(OR0.84: 0.58–1.21),非機密ケア(OR1.11: 0.93–1.33)は差がなかった.
Murray-Davis et al. 2016 Exploring Women’s Preferences for the Mode of Delivery in Twin Gestations: Results of the Twin Birth Study Birth, 43(4), 285–292. カナダ 混合研究法/出産体験に関する評価の質問紙と自由回答 出産後の女性(経腟分娩・帝王切開)/出産後3か月 帝王切開で出産した女性は,自身の出産に対して,豊かな出産体験(15.3%),陣痛を経験しなくてよかった(35%),積極的に参加できた(14.7%),分娩方法を気に入っている(55.1%)等と回答した.分娩方法を選択したかった女性がいる一方で,決めてもらえて良かったと回答する女性もいた.
O’Reilly et al. 2014 Feelings of control, unconditional self-acceptance and maternal self-esteem in women who had delivered by caesarean Journal of Reproductive and Infant Psychology, 32(4), 355–365. フランス 量的研究/出産時のコントロール感の評価(Labor Agentry Scale: LAS) 1年以内に出産経験のある女性(経腟分娩・帝王切開)/出産後1年以内 計画帝王切開または緊急帝王切開を受けた女性は,自然経腟分娩を受けた女性と比較して,コントロール感が低く,母体の自尊心が低下した.
Puia 2018 First-Time Mothers’ Experiences of a Planned Cesarean Birth J Perinat Educ, 27(1), 50–60. アメリカ 質的研究/帝王切開での出産体験に関するインタビュー 予定帝王切開を受けた女性/出産後4週間~27年 「自分の選択とその結果にとても満足している」と肯定的な意見がある一方で,「女性らしい経験ができなかった」「(医療者に)無視された」といった否定的な意見も聞かれた.
佐藤ら 2018 Development of a Japanese version of Salmon’s Item List suitable for comparing satisfaction with childbirth experience between different modes of delivery[出産体験の評価尺度Salmon’s Item Listの日本語版の開発 分娩様式を問わない出産体験評価尺度の検討] 日本助産学会誌,32(2), 113–124. 日本 量的研究/出産満足度に関する質問紙 出産後の女性(経腟分娩・帝王切開)/出産後1か月 経腟分娩と帝王切開で,出産満足度は総得点・苦痛に有意差なし,充実感/喜び・困難さに有意差あり.予定帝王切開の場合は総得点が最も高いが,緊急帝王切開の場合は低い.予定帝王切開の場合は苦痛・困難さが最も少ないが,緊急帝王切開の場合は大きい.緊急帝王切開で出産した女性は,充実感・喜びが最も少ない.
Sega et al. 2021 “I felt like I was left on my own”: A mixed-methods analysis of maternal experiences of cesarean birth and mental distress in the United States Birth-Issues in Perinatal Care, 48(3),319–327. アメリカ 混合研究法/EPDS(全員)と妊産婦の健康状態に関する質問(EPDS > 8) 帝王切開後の女性/出産後12か月以内 緊急帝王切開:EPDSスコアは10.7 ± 6.4,予定帝王切開のEPDSスコアは8.96 ± 5.7で,緊急帝王切開の方が有意に高かった.また,突然ナイフが刺さったり,引っ張られたり,揺れを感じたりして,奇妙で非現実的な体験,パニック発作やPTSDのようなフラッシュバックを引き起こす,肉体的苦痛を訴えた.
吉本ら 2017 帝王切開における出産体験のとらえ方尺度の検討 日本助産学会誌,31(1),34–43. 日本 量的研究/帝王切開での出産体験に関する質問紙 帝王切開後の女性/出産後退院までの期間 予定帝王切開と比較して緊急帝王切開の褥婦の得点が有意に低く,出産体験に関して否定的なとらえ方をしている(出産の充足感,手術への適応,産み方の受容すべてにおいて).

分析対象となった文献から得られた「帝王切開での出産体験」は,7つの体験が抽出された.なお,カテゴリー【 】,サブカテゴリー〔 〕,コードは〈 〉で示した.

1. 帝王切開での出産体験

1) 【医療者に支えられていると感じる】

(1) 〔医療者に支えられていると感じる〕

ケースロードケア(一人の女性に一人の助産師が妊娠期から退院後まで継続的にかかわるシステム)を受け,継続的な支援を受けることが出来たと〈継続的な支援をうけていることが支えになった(McLachlan et al., 2016)〉が示された.

また,〈麻酔科チームは,帝王切開中の患者にとって心強いリソース(Burcher et al., 2016)〉,〈手術準備中の医師からの精神的サポートを受けた(Husby et al., 2019)〉や〈手術当日にいた全員が最善を尽くしてくれた(Puia, 2018)〉が示された.

2) 【医療者によるケアを受けられない】

(1) 〔医療者に無視される〕

帝王切開では,「目に見えない,忘れられている,脇に追いやられている,または蚊帳の外(Burcher et al., 2016)」,「(赤ちゃんが)出てきたとたん,いろいろな意味で自分ひとりでやっているような気がした(Sega et al., 2021)」と〈医療者に自分の存在を無視される(Burcher et al., 2016Puia, 2018Sega et al., 2021)〉が示された.

(2) 〔医療者から自分が望むケアが受けられない〕

経腟分娩と比較して,医療者からのケアの放棄を感じたとする得点が1.27倍,〈医療者から自分が望むケアが受けられない(Montesinos-Segura et al., 2018)〉,〈初対面の医療者しかいない中での帝王切開(Puia, 2018)〉,〈ただの帝王切開と扱われた(Sega et al., 2021)〉が示された.

産科的暴力とは,医療関係者,看護師,助産師による,陣痛がある中および出産時に発生する身体的,精神的および口頭による虐待,脅迫,強制,屈辱および攻撃のことをさすが,帝王切開を受けた女性では,経腟分娩に比べて,言葉の暴力が予定帝王切開では1.6倍,緊急帝王切開では2.11倍,身体的暴力が予定帝王切開では1.05倍,緊急帝王切開では2.12倍,心理的暴力が予定帝王切開では4.08倍,緊急帝王切開では5.74倍というように,より頻繁に産科暴力が観察され,〈経腟分娩よりも産科暴力を受ける(Martinez-Galiano et al., 2021)〉が示された.

(3) 〔出産体験を語る機会がほしい〕

帝王切開を受けた女性が看護者に〈出産体験を語る機会がほしい(飯嶋ら,2021)〉が示された.

3) 【肯定的な感情をもつ】

(1) 〔肯定的な感情をもつ〕

〈自分の選択とその結果に満足している(Puia, 2018)〉,〈手術に臨むときは穏やかな気分(Puia, 2018)〉や帝王切開のためにできないことがあるとは感じなかったと〈帝王切開での出産を肯定的に捉える(Puia, 2018)〉,〈手術室でのスキンシップにより肯定的な感情を持つ(Puia, 2018)〉が示された.

(2) 〔出産満足度が高い〕

出産満足度は,産科暴力の有無やケアに関する満足度,尺度を用いた評価で構成された.経腟分娩と比較すると産科暴力(身体的暴力)は低く(Odds Ratio, OR: 0.23),〈産科暴力がなく,ケアに関しては満足している(Montesinos-Segura et al., 2018)〉が示された.

経腟分娩・吸引分娩・帝王切開(予定/緊急)を研究対象とした調査において,予定帝王切開を受けた女性の出産満足度の合計得点および苦痛に関する得点(得点が高いほど苦痛が少ない)が最も高く,困難さに関する得点も最も低かった.また,充実感/喜びの得点は経腟分娩の次に高く,〈予定帝王切開を受けた女性の出産満足度は高い(佐藤ら,2018)〉,予定帝王切開だけでなく,緊急帝王切開を含めた調査においても〈帝王切開での分娩に満足している(Akarsu & Mucuk, 2014)〉と出産満足度が高いことが示され,〈陣痛を経験しなくてよかった(Murray-Davis et al., 2016)〉も示された.

出産満足度は,〈時間経過とともに出産満足度が高くなる(Ghaffari et al., 2021)〉が示された.

4) 【否定的な感情をもつ】

(1) 〔経腟分娩で出産したいと思う〕

〈女性らしい経験ができなかった(Puia, 2018)〉,〈1回は経腟分娩してみたいという憧れを抱く(飯嶋ら,2021)〉が示された.

(2) 〔出産した実感が持てない〕

〈出産した実感が持てず,他人事のように思う(飯嶋ら,2021)〉,〈緊急帝王切開は出産した実感がない(Congdon et al., 2016)〉,〈意識がある中で,奇妙な体験(Puia, 2018)〉,「突然ナイフが刺さったり,引っ張られたり,揺れを感じたりして,奇妙で非現実的な体験」と〈苦痛を伴う出産と思えない体験(Sega et al., 2021)〉が示された.

また,「(予定帝王切開または緊急帝王切開を受けた女性は,経腟分娩と比べて)出産時のコントロール感が低い(出産に主体的に取り組めなかった)」と〈出産時のコントロール感が低い(O’Reilly et al., 2014)〉が示された.

(3) 〔出産満足度が低い〕

出産満足度を経腟分娩と帝王切開の比較による結果や帝王切開種別(緊急・予定)による比較の結果によって構成された.

経腟分娩と帝王切開の比較において,経腟分娩で出産した女性よりも満足度が低く,〈経腟分娩よりも出産満足度が低い(Floris et al., 2018)〉,〈充実感や喜びといった出産満足度が低い(佐藤ら,2018)〉が示された.分娩中のケアに対する総合的な満足度は,自然経腟分娩と比較して,手術分娩(帝王切開および器械分娩)は低かったと〈経腟分娩よりも分娩時ケアに対する満足度が低い(Bernitz et al., 2016)〉が示された.

帝王切開の種別(緊急・予定)での比較において,出産経験質問票(Childbirth Experience Questionnaire: CEQ)による評価では,緊急帝王切開ではより出産満足度が低い(Congdon et al., 2016)ことが示され,First Baby Study Birth Experience Scale(出産経験尺度)Kjerulff & Brubaker, 2018)や帝王切開での出産体験のとらえ方尺度(吉本ら,2017)においても同様の結果であり,〈緊急帝王切開では出産満足度が最も低い(Congdon et al., 2016Kjerulff & Brubaker, 2018吉本ら,2017)〉,〈緊急帝王切開では出産に対する不満がある(Falk et al., 2019)〉が示された.

また,経腟分娩との比較において,〈緊急帝王切開では出産満足度の困難さ・苦痛の得点が最も高い(佐藤ら,2018)〉が示された.

5) 【経腟分娩と出産満足度に差がない】

(1) 〔経腟分娩と出産満足度に差がない〕

出産満足度を経腟分娩と帝王切開の比較による結果や帝王切開の種別(緊急・予定)での比較による結果から構成された.

経腟分娩と帝王切開の比較において,〈出産満足度は尊厳や同意および個人情報の点で経腟分娩と差がない(Montesinos-Segura et al., 2018)〉が示された.

帝王切開の種別(緊急・予定)での比較において,分娩に対する不満の危険因子としても予定帝王切開は有意な関連はなく,〈予定帝王切開では経腟分娩と出産満足度に差がない(Falk et al., 2019)〉,緊急帝王切開を含めた調査においても,帝王切開を受けた女性の出産満足度の平均得点は経腟分娩と差がなく,苦痛の得点にも差がなく,〈帝王切開と経腟分娩に出産満足度に差がない(佐藤ら,2018)〉が示された.

6) 【帝王切開術後疼痛による苦痛】

(1) 〔帝王切開術後疼痛による苦痛〕

〈肉体的苦痛(Sega et al., 2021)〉,〈麻酔が切れた後の激痛による恐怖(Husby et al., 2019)〉が示された.帝王切開後の疼痛スコアは,〈時間経過とともに術後疼痛が軽快する(Ghaffari et al., 2021)〉が示された.

7) 【帝王切開によって生じる恐怖】

(1) 〔手術への恐怖〕

〈初めての手術に対する恐怖(Husby et al., 2019)〉,〈出産中に過呼吸やパニックを起こす(Puia, 2018)〉,〈麻酔への恐怖(Puia, 2018)〉が示された.

(2) 〔手術による死への恐怖〕

〈手術を乗り越えたにもかかわらず,まだ死への恐怖心がある(Husby et al., 2019)〉が示された.

(3) 〔児の健康状態に対する恐怖〕

〈児に何かが起きるかもしれないという恐怖(Husby et al., 2019)〉が示された.

2. 帝王切開での出産体験に影響する要因

1) 【女性自身の出産観】

(1) 〔経腟分娩に対する否定的感情〕

〈経腟分娩に対する不安(Puia, 2018)〉,〈自身が助産師であることから,経腟分娩は怖い(Abbaspoor et al., 2014)〉が示された.

(2) 〔帝王切開に対する肯定的感情〕

〈経腟分娩に対する不安(Puia, 2018)〉,〈経腟分娩への恐怖や帝王切開を簡単な出産方法と捉えて,帝王切開を選択する(Abbaspoor et al., 2014)〉が示された.また,〈医療者や夫からのサポートのない経腟分娩よりも帝王切開を肯定的に捉える(Abbaspoor et al., 2014)〉が示された.

(3) 〔帝王切開に対する否定的感情〕

〈帝王切開は普通でないと捉える(Puia, 2018)〉,〈帝王切開を理想的な分娩方法と答える女性は少数(Akarsu & Mucuk, 2014)〉が示された.

〈帝王切開になるのは自分のせいかもしれないと心苦しく思う(飯嶋ら,2021)〉,〈帝王切開になったことに劣等感を抱く(飯嶋ら,2021)〉が示された.また,〈経腟分娩の予定であった場合は,帝王切開を嫌う傾向が強い(Murray-Davis et al., 2016)〉が示された.

(4) 〔経腟分娩への希求〕

〈経腟分娩を諦められない気持ちを抱く(飯嶋ら,2021)〉,〈私はどうしても経腟分娩したかった(Puia, 2018)〉,〈帝王切開での分娩を望まない(Murray-Davis et al., 2016)〉という〔経腟分娩への希求〕を抱いていた.

2) 【分娩に関する情報】

(1) 〔帝王切開に関する肯定的な情報〕

〈帝王切開経験者から成功体験を聞く(Husby et al., 2019)〉,〈短時間で簡単に帝王切開による出産をした話を聞く(Puia, 2018)〉,〈夫から帝王切開の安全性に関する情報を聞く〉(Abbaspoor et al., 2014)〉が示された.一部の女性は,〈帝王切開を高い階級の者が選択する出産方法と捉える(Abbaspoor et al., 2014)〉,〈性器への侵襲がないことから帝王切開に価値がある(Abbaspoor et al., 2014)〉が示された.

(2) 〔経腟分娩に関する否定的な情報〕

〈長時間の恐ろしく苦しい陣痛の話を聞く(Puia, 2018)〉,〈夫からの経腟分娩に関する危険性に関する情報を聞く(Abbaspoor et al., 2014)〉が示された.

(3) 〔帝王切開に関する準備状況〕

〈帝王切開に対する準備ができていた(Puia, 2018)〉という女性がいる一方で,〈帝王切開に関してイメージできない(Puia, 2018)〉が示された.

3) 【帝王切開適応理由】

(1) 〔母体の健康状態〕

〈分娩に伴う苦痛を何とかしてほしいと思う(飯嶋ら,2021)〉が示された.

(2) 〔児の健康状態〕

〈帝王切開の方が児にとって安全(Puia, 2018)〉〈最終的には児へのリスク回避のために帝王切開を選択した(Puia, 2018)〉,〈児の安否を気にかける(飯嶋ら,2021)〉,〈子どものいのちの危険な状態を受け止め,帝王切開を納得する(飯嶋ら,2021)〉,〈児の命が脅かされているという強い感情を持つ(飯嶋ら,2021)〉,〈医師と看護師が提案する児のために最善の方法を選択する(Husby et al., 2019)〉が示された.

(3) 〔母体および児の健康状態〕

〈自分の命も児の命も大事だから,帝王切開しか選択肢がない(Husby et al., 2019)〉,〈母体および児の合併症などで,帝王切開で産むことに納得する(飯嶋ら,2021)〉が示された.

(4) 〔帝王切開決定時の状況〕

〈帝王切開種別:予定・緊急(Congdon et al., 2016Falk et al., 2019Kjerulff & Brubaker, 2018佐藤ら,2018吉本ら,2017)〉,ケースロードケア(McLachlan et al., 2016)〉,〈陣痛の有無(Murray-Davis et al., 2016)〉,〈産科暴力(Montesinos-Segura et al., 2018)〉が示された.

〈帝王切開の適応理由を自身で把握する(Akarsu & Mucuk, 2014)〉,〈緊急帝王切開を受容できないまま手術となる(Husby et al., 2019)〉,〈手術すると人は死ぬ(Husby et al., 2019)〉,〈手術は生きるか死ぬか(Husby et al., 2019)〉といった帝王切開に対する考えが示された.

4) 【分娩方法に関する決定権】

(1) 〔分娩方法の決定権がない〕

帝王切開での出産を決定したのは,女性自身が13.4%,女性自身と医師が18%,医師が68.6%(Akarsu & Mucuk, 2014),帝王切開の決定が伝えられた時点で,決定権がないと感じている女性もいた(Burcher et al., 2016)といった〈分娩方法の決定権を与えられていない(Akarsu & Mucuk, 2014Burcher et al., 2016)〉が示された.

また,〈医師の判断を信頼し,帝王切開になることに疑問を呈しない(Husby et al., 2019)〉,〈恐怖心からしぶしぶ帝王切開を受容する(Husby et al., 2019)〉,〈経腟分娩を諦められない気持ちを抱きつつ,帝王切開の可能性を認識せざるを得ない(飯嶋ら,2021)〉,〈帝王切開の必要性に納得できない(Burcher et al., 2016)〉が示された.

(2) 〔分娩方法の決定権を持ちたい〕

帝王切開の適応理由が双胎妊娠の場合は,〈分娩方法について決定権を持ちたい(Murray-Davis et al., 2016)〉が示された.

(3) 〔分娩方法の決定を他者に委ねたい〕

帝王切開の適応理由が双胎妊娠の女性の中には〈分娩方法を決めてもらいたい(Murray-Davis et al., 2016)〉が示された.

(4) 〔分娩方法を自分で選択する〕

「自分の選択に満足する」と〔分娩方法を自分で選択する(Puia, 2018)〕が示された.

5) 【周囲からのサポート状況】

(1) 〔周囲からのサポートに支えられる〕

〈支えてくれるパートナーや夫がいたことが帝王切開を受け入れる助けになる(Puia, 2018)〉,〈夫が自分を心配してくれていると実感する(飯嶋ら,2021)〉が示された.

また,〈周囲からの身体的・精神的サポート(飯嶋ら,2021)〉だけでなく,〈夫からの経済的サポート(Abbaspoor et al., 2014)〉,〈家族や友人から経済的,実践的なサポート(Husby, et al., 2019)〉,〈医療者からのサポート(Burcher et al., 2016Husby et al., 2019McLachlan et al., 2016Puia, 2018)〉などが示された.

(2) 〔周囲からのサポートが不十分〕

周囲からのサポートに支えられる一方で,〈医療者によるサポートが不十分(Abbaspoor et al., 2014Puia, 2018Sega et al., 2021)〉,〈周囲からの身体的・精神的サポートを受けられないことで孤立しているように感じる(飯嶋ら,2021)〉,〈分娩中の近親者や夫の立ち合いの少なさ(Abbaspoor et al., 2014)〉,出産後,〈自分が動けない時に看護師が児の世話をしてくれない(Husby et al., 2019)〉が示された.

また,〈赤ちゃんにとって自然な出産プロセスがよいので,まだ経腟分娩に未練があるのか聞かれる(Puia, 2018)〉が示された.

6) 【神への信仰に救われる】

(1) 〔神への信仰に救われる〕

「何らかの理由でこうなるはずだった」という〈神への信仰が帝王切開分娩を受け入れる助けになった〉と〔神への信仰に救われる(Puia, 2018)〕が示された.

3. 帝王切開が出産後に及ぼす影響

1) 【帝王切開を経験したことによる身体的影響】

(1) 〔術後疼痛による活動制限〕

帝王切開術後の女性は,経腟分娩後(会陰裂傷なし,会陰裂傷あり,会陰切開あり)の女性よりも疼痛が強く,〈経腟分娩後よりも,セルフケア・育児への影響が強い(Filipec et al., 2023)〉が示された.

また,〈術後疼痛による動作への影響がある(Filipec et al., 2023)〉,〈疼痛によって家事や育児が思うように出来ない(Husby et al., 2019)〉が示された.

帝王切開後の経腟分娩(Vaginal birth after caesarean section: VBAC)を希望していたにもかかわらず帝王切開で出産した女性は,産後3か月の時点で生活関連の質(Health-related Quality of Life: HRQOL)が有意に低く,〈希望でない帝王切開を受けた女性の術後3か月の生活関連の質が低い(Fobelets et al., 2019)〉が示された.

(2) 〔術後の回復に時間を要する〕

〈経腟分娩よりも帝王切開後の疼痛負担が大きい(Komatsu et al., 2017)〉,〈6週間が過ぎても疼痛が改善しない(Puia, 2018)〉,〈自分が思うように育児できない(Puia, 2018)〉が示された.

2) 【帝王切開を経験したことによる心理的影響】

(1) 〔帝王切開を経験したことによる精神的強さ〕

〈帝王切開出産を経験したことで,人生で克服できないことは何もない(Puia, 2018)〉,十分なサポートが得られた女性では〈産後うつにならない(Puia, 2018)〉が示された.

(2) 〔出産体験による精神的ダメージ〕

帝王切開に満足していない場合には,〈(Edinburgh Postnatal Depression Scale(エジンバラ産後うつ病自己評価票):EPDS高得点(箱崎ら,2017)〉,〈自尊感情の低さ(箱崎ら,2017)〉,児への愛着得点の低さ(箱崎ら,2017)〉が示された.

〈経腟分娩よりも,自尊心が低い(O’Reilly et al., 2014)〉,〈術後数週間経過しても良い母親でいられたとは思えない(Puia, 2018)〉が示された.

〈緊急帝王切開により,分娩によるトラウマ(出産時に脅威感)を経験する(Boorman et al., 2014)〉,〈予定帝王切開よりも緊急帝王切開の方がEPDSの得点が高い(Sega et al., 2021)〉が示された.また,〈パニック発作やPTSDのようなフラッシュバックを引き起こす(Sega et al., 2021)〉,〈出産後1年経過しても出産への恐怖がみられる(Kjerulff & Brubaker, 2018)〉が示された.

Ⅳ. 考察

帝王切開での出産体験は,条件が同じであっても,出産体験の捉え方は個々によって異なる.先行研究で,帝王切開を受けたという事実に関して失敗の感情がある(Fenwick et al., 2003),帝王切開を正常分娩から逸脱したことから「汚名」だと感じる(Tully & Ball, 2013),女性としての自己を経腟分娩することに価値があると考え,経腟分娩ができないことで母親としての不全感を抱く,経腟分娩が「自然の摂理」という考えから,帝王切開で出産した自分は母親になりきれていないと感じていた(今崎,2006)との報告がある.このような【女性自身の出産観】は帝王切開に対して否定的感情をもつ要因となる.

また,帝王切開時の体験だけでなく,【帝王切開適応理由】【分娩方法に関する決定権】も出産体験の捉え方に影響を与える.先行研究において,分娩の異常と難産は出産体験の苦痛を増強し,否定的感情を強める(Norr et al., 1977)と言われている.医学的適応や骨盤位などによって帝王切開が決定していた場合は,帝王切開での出産を肯定的に捉えている(Coates et al., 2021),帝王切開適応理由が母体側にある場合は,帝王切開で産まれることを児に対して申し訳なく感じることがある(髙橋,2021)と報告されている.

帝王切開の可能性を感じた瞬間から帝王切開への心身の準備である「心づもり」のプロセスが始まっている(谷口ら,2014)とされているように,予定帝王切開の場合は手術までに期間があるが,帝王切開適応理由に関する理解が不十分であったり,帝王切開に関する誤った認識を持っている場合は,帝王切開に対して否定的感情を持ち続ける可能性がある.女性が経腟分娩で出産したいという強い希望をもっていたり,周囲が帝王切開を否定的に捉えている場合は,帝王切開を否定的に捉えやすい.一方で,経腟分娩への恐怖心や帝王切開への肯定的感情を持っている場合は,帝王切開での出産体験を肯定的に捉える.このように,【分娩に関する情報】も出産体験の捉え方に影響を与える.

帝王切開時に【医療者によるケアを受けられない】と感じる一方で,【医療者に支えられていると感じる】場合もあり,医療者の対応も出産体験の捉え方に影響を与えることが考えられる.女性が医療者に無視されると感じることがないよう,女性に寄り添い不安の軽減を図ったり,女性が望むケアを把握し,帝王切開中および術後に可能な範囲で希望に応じたケアを実現できるよう努める必要がある.

【帝王切開によって生じる恐怖】や【帝王切開術後疼痛による苦痛】を最小限にすることも重要であると考える.

このように帝王切開決定時から帝王切開術後までの期間の体験の全てが出産体験の捉え方に影響を与えることが明らかとなった.

1. 実践に適用することへの可能性

1) 女性自身の出産観

帝王切開決定時に,帝王切開での出産をどのように捉えているか,否定的に捉えている場合は,その理由を把握し,少しでも肯定的に捉え直した状態で帝王切開に臨めるよう支援する必要があると考える.

帝王切開による児への影響を心配している場合や術後疼痛への不安がみられる場合は,正しい情報を提供することが必要である.経腟分娩へのこだわりが強い場合は,帝王切開であっても出産に主体的に参加できたと思えるよう,帝王切開時のバースプランの実現などの支援を行うことが必要である.

女性が帝王切開を肯定的に受け止めるには,周囲からのサポート状況も影響する.夫や家族に帝王切開に関する正しい情報提供を行うことで,女性が帝王切開に関する否定的言動や態度に傷つくことを予防できると考える.また,日本で出産される外国人が増加しているため,宗教上の規範と異なることに葛藤を抱くことがないよう,個々の信仰への宗教的な配慮を行う必要があると考える.

2) 分娩方法に関する決定権

帝王切開決定時に納得していない場合は,帝王切開での出産を否定的に捉える可能性がある.納得していない場合は,納得できるよう説明を行い,最終的な決定は自分がしたと思えるよう支援する必要がある.

緊急帝王切開の場合は,納得できないまま帝王切開となる可能性がある.緊急帝王切開の場合であっても,納得したうえで帝王切開が受けられるよう,可能な限り支援することが重要だと考える.帝王切開のメリットとデメリットを説明し,帝王切開開始までに本人の意思を確認する必要があると考える.そして,女性自身が帝王切開の必要性を納得し,自己決定したと思えるよう支援することが必要である.帝王切開の概要に関する媒体や動画を準備することで,短時間でも帝王切開に関する理解できることが期待できると考える.

3) 本研究の限界と課題

本研究は,さまざまな国の女性を対象としたが,すべての国の女性の帝王切開での出産体験について明らかにできたわけではない.また,個々の女性に応じた支援体制を構築していくことが必要であり,日本で出産する外国人に対しては,より特化した実践介入が必要となる可能性がある.

Ⅴ. 結語

帝王切開での出産体験には,身体面での体験と精神面での体験が含まれた.また,帝王切開での出産体験には,さまざまな要因が影響しているといえる.帝王切開での出産体験は,女性自身の捉え方によって大きく異なるため,出産体験に与える要因を把握することで,ケアの実践に活かすことができる可能性が示唆された.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:KTは研究の着想,デザイン,文献収集,分析・解釈,論文作成の全てのプロセスを主となって執筆した.MSは研究の分析・解釈と考察に関する助言,論文作成に関与した.すべての著者は最終原稿を確認し,承認した.

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