2024 Volume 44 Pages 830-840
目的:シミュレーション教育におけるファシリテーターのファシリテーション技術を検討した研究を包括的にレビューし,ファシリテーターのファシリテーション技術の構成要素を抽出する.
方法:医学中央雑誌,PubMED,CIHAHL,MEDLINE,ProQuestにて英語と日本語で検索しナラティブレビューを実施した.
結果:二次スクリーニングの結果,16件の文献をレビュー対象とした.ファシリテーターのスキルの構成要素は,シナリオのフレーミング作成,安全な環境の提供など7つが抽出された.
結論:ファシリテーターのスキルは,学習者の学習スタイルに合わせるため,本研究結果である,適切なタイミングでの合図,デブリーフィングのサポート,ロールモデルとしての機能といった体験学習を深めるための能力が必要となる.
Purpose: To comprehensively review studies examining facilitator facilitation skills required for simulation education and extract the components of these skills.
Method: we conducted a narrative review by searching Ichushi-Web, PubMED, CIHAHL, MEDLINE and ProQuest in English and Japanese.
Results: The secondary screening yielded 16 pieces of literature for review. Seven components of facilitator skills were identified, including the creation of a scenario framing and the provision of a safe environment.
Conclusion: The results of this study revealed that to match the learning styles of learners, facilitator skills require the ability to deepen experiential learning, such as giving signals at appropriate timing, supporting debriefing, and functioning as a role model.
看護基礎教育において臨床実践能力を高めるために,学習者の能動的な学習の重要性が強調されてきた.近年では,さらに学生のアクティブラーニングを推進するために,シミュレーション教育が活用されている.シミュレーション教育が効果的な教授方略となるよう教育者に求められるファシリテーションには,学習者が学習によって修得を目指すアウトカムに到達するために,学生の学習状況に応じた適切な支援方法を探すことができるスキルや学習者を導く支援力などが,International Nursing Association of Clinical Simulation and Learning(以下,INACSLと略す)によってベストプラクティス・スタンダードとして示されている(Alexander et al., 2015;Clapper, 2014;Kolb et al., 2014;Topping et al., 2015).INACSLより学習者の成果を評価し,シミュレーション教育レベルのひらきを減らす方法論は提供されている.また,ファシリテーターの役割は,ファシリテーションを通して学習者が技能を習得することを促すだけではなく,クリティカルシンキング,問題解決力,臨床推論・臨床判断における思考プロセスをたどることを通して,理論的な知識・基本的技術を患者ケアの実践に応用することを導くことでもあり(Dreifuerst, 2012),学習理論をふまえた授業設計と授業を展開する実践においては,学習者のレディネスの把握,協同学習に必要なチームワーク教育などもファシリテーターに求められている(Eddy et al., 2016;Kaakinen & Arwood, 2009).
国内において,日本看護シミュレーションラーニング学会(以下,JaNSSLと略す)による「シミュレーション教育に関する課題と支援ニーズに関する調査」から,シミュレーション教育を効果的に実施するための支援ニーズは高いが,ファシリテーション能力の向上や指導上のスキルを習得するに至るまでの難しさなどが課題として報告されている(JaNSSL, 2022).看護基礎教育課程におけるシミュレーション教育での看護教員のファシリテーターとしての実践では,学生がシミュレーション学習をする実施前から実施後のプロセスに応じた適切なファシリテーションの実施がなされてない実態や,シミュレーション教育法の具体として,学生自身が学習する課題の発見を促すデブリーフィング技術の向上が教員にさらに必要であることも先行研究から明らかとなっている(松井・足立,2015;川島,2021).看護教育者はシミュレーション教育の基盤となる教育理論や教育を実践するトレーニングの経験がほとんどなく,シミュレーション教育に関する具体的な技能と知識を十分に習得できていないことが教育方略の不備につながると指摘されている(原島ら,2012;Beth, 2015;高橋,2019;牧野,2020;今井ら,2020;川島,2021).
シミュレーション教育に関しては,直近10年間で看護教育は変化しシミュレーションは新しい教育技術として用いられている.しかし,シミュレーションの有用性が強調されているにもかかわらず,先述した通りシミュレーションを促進するためのトレーニングとアプローチは組織やプログラムによって異なるため,教員のトレーニングが不十分なことからシミュレーション教育は十分に活かされていない現状にある.Benner et al.(2010)はシミュレーションなどの新しい技術を導入する際には,十分な教育と計画的な教員の育成が必要であるとしている.看護基礎教育で看護実践能力を向上するためにシミュレーション教育が効果的であるという認識はあるが,INACSLが提示するシミュレーション教育におけるファシリテーター基準に応える現状には至っていない.シミュレーション教育を推進するために,教育者がファシリテーターとして備えるべきファシリテーション技術を明確にすることが必要である.そこで本研究は,シミュレーション教育におけるファシリテーターの技術を検討し研究を網羅的に実施するためナラティブレビューによって,ファシリテーターに関するこれまでのエビデンスを整理することでファシリテーターのファシリテーション技術の構成要素を抽出することを目的とした.
本研究の目的を踏まえて,研究方法は利用可能なエビデンスを概説するためにナラティブレビューを行うこととし,ナラティブレビューの構成は,Patient,Concept,Context(以下,PCC)で設定し具体的には以下の通りある.Patient:シミュレーション教育に携わる教育指導者,Concept:ファシリテーション技術と役割,Context:看護におけるシミュレーション教育に設定した.
1. 論文の選定方法先行研究は以下の方法で選定した.
①研究対象と除外基準:シミュレーションに基づく学習を目的としたシミュレーション教育においてファシリテーターに関与する者である看護師および教員を含め,シミュレーション教育内容自体を評価しているものやファシリテーターについての内容の記載がないものは除外した.
②文献検索データベースと条件設定:PubMED,医学中央雑誌Web最新版(以下,医中誌とする),CINAHL,MEDLINE,Biological Science Collection,Coronavirus Research Database,Ebook Central,Health & Medical Collection,Psychology Database,Publicly Available Content Databaseを用いた.なお,CINAHL,MEDLINEについてはEBSCOhost,その他はProQuestから検索した.研究方法は,実験的研究デザインと準実験的研究デザインによる研究とし,質的研究については,現象学,グラウンデッド・セオリー,エスノグラフィー,質的記述的研究を含めた.論文は査読付き学術雑誌に掲載され,レビューの目的に合致するものであればテキストやオピニオンの出版物も対象とした.ただし総説や会議録は除外した.論文の言語は日本語と英語に限定し,検索期間は限定せずに検索可能な期間を設定した.最終検索日2024年6月16日.文献検索時にはfacilitator,simulation,technology,skill,role,education,nurseのワードを用いた.
③データ抽出と統合:文献検索は上記の方法で行い,文献の選択においてはバイアスを最小限に抑え,論文の選定は2人の独立したレビュー担当者(YKとTK)によって実施した.はじめに論文タイトルと要旨からスクリーニングし,次に全文を読み込み研究目的に合致し適格性を確認し論文を選定した.この選択プロセスは2名が別々に並行して実施し,意見が一致しない場合には3人目が討議に加わり論文の取捨選択を決定するように計画したが,2名(YKとTK)で意見がわれることはなかった.この一連の流れをフローチャートにまとめた(図1).文献を選別する際には,照合したタイトルと抄録をExcelシートにまとめ,包含あるいは除外の結果ならびに選択・除外理由を記録した.
二次スクリーニングを経て選定した文献については,ソース・国(著者,国,発行年)・目的・方法(対象,サンプルサイズ,介入タイプ,比較群,測定方法),論文の概要の情報については表1に,ファシリテーターの技術について分析した結果を表2に提示した.
No | ソース・国 | 研究目的 | 方法 | 概要 |
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1 | Dreifuerst, 2009 米国 |
臨床経験に関するシミュレーション・デブリーフィングの概念分析 | WALKER & AVANT の手法を用いた概念分析 | デブリーフィングの概念分析し,デブリーフィングが学生の学習に与える影響について明確にした. |
2 | Arafeh et al., 2010 米国 |
simulation based learning(以下,SBL)に関連するデブリーフィングについての検討 | デブリーフィングに関する文献研究 | デブリーフィングの向上に必要なスキルと,デブリーフィングに関連するトレーニンや定期的な自己評価の重要性ならびこれらを遂行しない場合に学生の及ぼす影響について述べていた. |
3 | Davis et al., 2015 米国 |
医療システムの研修・教育におけるシミュレーション活用についての検討 | ファシリテーター4名にインタビューを実施 | シミュレーション実施に関する世代間のの受け入れの違い,シナリオ作成の難しさ,シミュレーション実施の効果測定等に関する検討を文献を用いて指摘している. |
4 | Waznonis et al., 2016 米国 |
バカロレア看護プログラムにおける教員によるシミュレーション実践と評価 | シミュレーション・デブリーフィングの実施経験がある常勤教員23名にインタビューを実施 | インタビューから,学生の最善の利益を心に留めること,感情的な困難さ,意図的なデブリーフィング等を抽出し,教員の育成,構造化されたフレームワークの使用,評価のズレについても示している. |
5 | Reierson et al., 2017 ノルウェー |
臨床シナリオ シミュレーションコースでの教育的介入の前後におけるデブリーフィングの特徴の比較検討 | 看護学生(2013年16名,2014年10名)を対象に,音声データと映像を用いたシナリオシミュレーションを実施した2時点における比較分析 | 2013年と2014年を比較した結果として,2014年において積極的にリフレクションを実施しており,学生へのフィードバックは具体的で包括的であったこと,さらに,2014 年には観察ツールの活用によって,より学生中心の学習活動をを提供できたことを示している. |
6 | Escher et al., 2017 スウェーデン |
チームワークにおけるシナリオ情報の伝達の特徴,ファシリテーターがシナリオ情報を提供するきっかけと提供方法による影響の検討 | 看護学生や医学生のチームワークトレニングにおけるシナリオシミュレーションを活用について調査した多施設共同研究プロジェクト | シミュレーションベースのチームワークトレーニングにおいて,ファシリテーターの参加者への情報伝達の異なる4つの方法(協力者による,傍観者による,ラウンドスピーカーによる,イヤホンによる)が示され,方法の選択により作業の流れやペース,チームコミュニケーションに影響を与えたことを報告している. |
7 | Simes et al., 2018 オーストラリア |
看護教育者がシミュレーションを活用するための要因に関する検討 | 大学教員12名,看護師4名を対象に半構造化フォーカスグループインタビューを実施 | 看護教育者のシミュレーションの活用を阻む要因を,看護教育者自身の課題・人的資源・カリキュラム上の課題としてあげ,その対処法を提案している. |
8 | Solli et al., 2020 ノルウェー |
学生からみたSBLにおけるブリーフィングのファシリテーターの役割を明らかにすること | 看護学生30名を対象に,フォーカスグループインタビューを実施 | 2つカテゴリ「シナリオのフレーミングの重要性」と「シナリオでの看護行為の実行方法を学生に指示する重要性」を抽出し,ブリーフィングにおけるファシリテーターの役割の複雑さと学習アプローチの多様性にバランスをとる高度な教育専門知識が必要であることを指摘している. |
9 | Allvin et al., 2019 スウェーデン |
経験豊富なシミュレーション教育者の教育スキル,実践,教育への理解に関する認識を明らかにすること | シミュレーション教育に豊富な経験をもつ教育者14名に,インタビューを実施 | シミュレーション教育者の経験は教育者の役割に対する自信に基づいており,考え方や行動の変化はシミュレーション方法に従うことから利用することへの焦点の移行,目標の設定,テクノロジーの適用等によって生じていることを示している. |
10 | Shorey et al., 2020 シンガポール |
仮想患者トレーニング後の臨床現場における学生のパフォーマンスに関する,学生自身と臨床ファシリテーターによる評価 | 看護学部生24名,クリニカルファシリテーター6名を対象に,フォーカスグループインタビューと個人面接を実施 | 学生の臨床コミュニケーションスキルに対する臨床ファシリテーターに必要な視点は,学生のコミュニケーションスキルに関する洞察とコミュニケーションスキル向上のためのアプローチであることを示している. |
11 | Liaw et al., 2021 シンガポール |
専門職間チームベースの仮想シミュレーションに3DVW(3D-visual world)を活用した,医療従事者の学生とファシリテーターの経験の検討 | 医療系学生30名に対するフォーカスグループインタビューと,ファシリテーター12名に対するインタビューを実施 | 学生は3DVWによる「すごい」体験,ケアに関するリアリティの体験,学びやすさ,ファシリテーターの卓越した役割について述べ,ファシリテーターは,学習者の心をつかむために学習エンゲージメントを最適化する上で重要な役割を果たしたと述べている. |
12 | Solli et al., 2022 ノルウェー |
シナリオ・シミュレーションにおける学生からみたファシリテーターの役割の検討 | シミュレーションコースを受講する看護学生2年生38名を対象に,フォーカスグループインタビューを実施 | 「能動的・受動的ファシリテーターの役割交代」を明らかにし,学生の学習スタイルに合わせてファシリテーターが適切なタイミングで個別のヒントを提供するスキルを必要とすることを表していた. |
13 | Madriz et al., 2022 インド |
シミュレーションにおけるファシリテーションの評価 | 看護管理者701名を対象に,シミュレーションにおけるデブリーフィングの実施状況に関する質問紙調査 | デブリーフィングの促進スキルとして「ダイアモンドモデル」を用いており,教育者の役割は,シミュレーションの適切な開始し,患者役の演者とコミュニケーションをとり,リアリティを高める調整ならびに追加情報を提示することなどを示している. |
14 | Moabi et al., 2022 南アフリカ, レソト |
看護教育者と学生の視点から,SBLの改善方法の検討 | 看護学生24名,看護教育者24名,教育組織管理者4名に対する,インタビュー調査を実施 | 質の高い効果的なシミュレーションに基づく学習を保証するために,教育・学習プロセスにおいて全ての関係者が各々の責任を果たすこと,本質的に協力的な関係を基盤とするなどの資源が大きな役割を果たすことを示している. |
15 | Madsgaard et al., 2022 ノルウェー, ベルゲン大学 |
simulation based education(SBE)における学生の感情に対処するファシリテーターの戦略の検討 | ファシリテーター9名を対象に,インタビュー調査を実施 | ファシリテーターはSBEの各段階での難易度と学生の心理的安全性のバランスを取っており,学生の感情面に対応するための多様な戦略を展開していることを示している. |
16 | 内海ら,2022 日本 |
看護シミュレーション教育のファシリテーターの成長プロセスを明らかにすること | 看護シミュレーション教育のファシリテーター経験がある看護師12名を対象に,インタビュー調査を実施 | ファシリテーターは【仲間との実践と振り返り】【自分らしいファシリテーター役割の実践】【自律的なシミュレーション教育拡充に向けた取り組み】【ファシリテーター役割の内面化と応用】をしていること,さらにファシリテーションスキルを日常看護業務における新人看護師指導に役立ている. |
ファシリテーション技術 | 論文内容 | 論文番号 |
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「シナリオのフレーミング作成」 | シミュレーションのシナリオ開発では,よく練られた学習目標はシナリオの基礎になり,デブリーフィングの指針になる.学習目標の 認知目標は状況に関する知識内容に基づき,技術目標は実践的なスキルまたは実践におき,行動目標は特にチーム環境における思考とパフォーマンスの組み合わせとして設定する. | 2 |
シナリオ開発における重要な要素は,学習者がシミュレーション中にシナリオに疑いをもたず,学習環境に没頭できることである.シナリオの事例設定にヒント・キューによって現実感をもたせ,視覚・聴覚,触覚の手がかりとなる情報を組み合わせたシナリオを作成する. | 2 | |
シナリオを用いたシミュレーション参加者(学生)に対し,知識の修得について事前事後調査を行い,事後調査ではシナリオに対する評価を得る. | 3 | |
シナリオ作成の前に参加者に何を学んでもらいたいかを考え,学習目的に合った備品・機材とリアリティのレベルを合わせること,ただしマネキンを実際の患者であるかのように扱うことができればリアリティの高さの追求は重要ではない. | 3 | |
シミュレーションを通して参加者が,シミュレーションの状況を肯定的な感情をもって楽しんで実施することがシミュレーションの参加を促進する. | 3 | |
管理者(責任者)は,シミュレーション実施者と参加者はシミュレーションの準備と実施にかかる十分な時間が必要であることを考慮することが重要である. | 7 | |
シミュレーションではシナリオを共有することで時間を節約し,看護カリキュラム全体にシミュレーションによる学習活動に一貫性を持たせ,教育者に安心感を与えることができる. | 7 | |
参加者は,シミュレョン スキルを最新の状態に保つために,複数のシミュレーション機器を用いたトレーニングを定期的に回数を多く受けたいという希望がある.要望に応えることは参加者の安心感を高めるのに役立つ. | 7 | |
事前の試行と不測事態に対するバックアッププランは不可欠である(1 回のシミュレーションに対して最大 4 つのバックアッププランを作成する例が紹介されている). | 7 | |
実行するシミュレーションに適切な資源の用意がないことは,シミュレーションが失敗する原因となる. | 7 | |
ブリーフィングにおける予測可能性(重要な情報を見落とさないためのシナリオで焦点を当てていることに関連するヒントやコツ)の提供,感情面のサポート,課題の提供のシナリオのフレーミングの重要性. | 8 | |
・シナリオのテンプレートを基に計画を立てていたときは,計画通りにいかなかった際には困惑しストレスを感じた. ・経験を重ねた今では,シナリオで何が興味深いかを表現することが重要だと認識し,シナリオの立案では明確な目標,知識,安全性,柔軟性,テクノロジーの使用,許容的な環境設定を考慮し,実施においては洞察力,変化,焦点の転換,自分の役割の遂行,総合的に参加者の意見を聞き,シナリオシミュレーションに対する肯定的な教育的な見解を明確することに焦点をあてている. |
9 | |
経験を積むにつれて,教育者はシナリオを通じてより柔軟に技術機器を選択できるようになる.ビデオの使用や高度なマネキンはリアリティを高めることに役立ったが,シミュレーションにおいては重要ではないと指摘している. | 9 | |
シミュレーション教育で改善すべき点を常に見つけるために,アンケートの実施や実践研究によってシミュレーション教育における指導を評価する必要がある. | 14 | |
(シミュレーションが実際から大きく乖離しないよう)シミュレーションにおいて先進的で創造性があるリアリティを確保し,看護学生の批判的思考と意思決定を刺激する. | 14 | |
シミュレーションにもっと多くの授業時間をあてる必要がある.学生はシミュレーション ラボに自由にアクセスできる環境が必要がある(現在,シミュレーションは機関によって 1 週間に 2 時間から 8 時間割り当てられている). | 14 | |
学習目標や実践内容を学生の能力レベルに合わせることは,学生の不満足感を避け,円滑な運営・管理が可能なシナリオを作成するために重要である. | 15 | |
学生の身体的・精神的な刺激によって実際に近い感覚を体験するとシナリオへの関心が高まるようになる.シナリオに現実感をもてるよう,シミュレーション機器を使用することが重要である. | 15 | |
ファシリテーターは,学生の不全感や知識の習得レベルが不十分なことに気づいたとき,学生の混乱や不満足感を最小限に抑えるためシナリオの複雑さを調整した. | 15 | |
自律的なシミュレーション教育の拡充に向けて,教材開発と環境づくりとファシリテーターに対するフォローに取り組んでいる.現状に留まるのではなく,新たに学習者のニーズを捉えたシナリオを作り,機会をとらえてはシミュレーション教育の場を開拓している. | 16 | |
「ブリーフィング」 | ブリーフィングでは,オープンなコミュニケーションの基本ルールを設定し,チーム メンバー全員が考えや質問を言葉で表現すること,チーム メンバーがパフォーマンスを判断するのではなくレビューを共有することを薦める. | 2 |
シナリオを実施する前に,参加者はブリーフィングやシミュレーションセッション中に焦点をあてることを早めに認識しておく必要がある.また,経験豊富な教育者は,シミュレーション実施中に,参加者が積極的に目標達成を追求するように動機付けることが重要であると強調した. | 9 | |
典型的なプレブリーフィングは,ロジスティクス情報(例:スケジュールと備品の場所)と,学生がすべきこととすべきでないことを含む学生の行動に対する期待,シミュレーションにおおては間違いは学習につながることを学生に伝える.プレブリーフィングではシミュレーション学習に対する学生の不安,ストレス,恐怖が軽減するように,シナリオに関する情報と行動の指示について学生と話し合い共有する. | 14 | |
「医療・技術機器に関する情報提供」 | 管理者(責任者)とファシリテーター両者ともに,シミュレーションを教育に実装するために必要な定期的なトレーニングの必要性に関する理解が不足している. | 7 |
ブリーフィングにおいて学生への医療・技術機器に関する情報提供,モニターとマネキンのデモンストレーションの実施,学生がシナリオに則り看護行為を実行する方法の説明と指示が重要である. | 8 | |
シミュレーション実施の前日に,ファシリテーターは機器が意図したとおりに動作することを確認する. | 15 | |
「適切なタイミングでの合図(キュー)」 | チーム全体が進むようにシナリオの展開状況を的確に把握し,タイムリーに指示を出し,チーム全体が求める情報を迅速に提供する. | 6 |
(ファシリテーターが複数名いる場合)ファシリテーターがスタジオからスピーカーやイヤホンを介して追加情報を提供したり,シミュレーションの実施を支援する. | 6 | |
(ファシリテーターは)チームワークに参加しないことを明確に示し,適時,シナリオを参考にしながら専門用語の比喩を用いる対応をする. | 6 | |
「実践的なサポート」は,シミュレーションシナリオ中の学生の実践的なサポートの好みの多様性を示しており,学生たちは,ファシリテーターは対応可能で,理解があり,質問に答えたり,自信がないように思える場合は実践的なサポートを提供したりできると説明した. | 12 | |
学生が学習成果を達成できるように導く上で,ファシリテーターの言語的および非言語的コミュニケーションは重要である. | 12 | |
「安心・安全な環境の提供」 | シミュレーションを実施する状況では,しばしばストレスや傷つく経験をするということを理解し,「よくやった」という言葉を頻繁に用いることで安心感を与える. | 5 |
心理的安全性を促進するために学生と対話し,学生が自らの視点で探求を促すために自由形式の問いかけをることによって,学生は多角的に回答を考えることを促進し,学習のエンゲージメントを高める. | 5 | |
看護師は自分自身の看護行為やアセスメントがうまくいかなかったことをコメントすることで自虐的に笑い始め,学生たちの優しさの笑みを生むきっかけにするなど,親睦を深める手段として用いたりしている(関係を作りよい学習環境に提供するために). | 5 | |
学生のコミュニケーションスキルを深く観察することによって個々の特徴を捉え,効果的なコミュニケーションとるといった経験が重要である. | 10 | |
コミュニケーションスキル向上のために,状況を把握する感度を高めるための指導やサポート,言語トレーニングのアプローチが用いられていた. | 10 | |
シミュレーションシナリオ実施中に,ファシリテーターの存在が参加者の感情面に与える影響を考慮していた. | 12 | |
シミュレーション中,看護教育者や臨床担当者が学生に対し否定的で軽視したコメントすることに懸念を示し,学生が質の高いシミュレーションを確実に体験するために,ファシリテーターは肯定的なフィードバックの提供が必要である. | 14 | |
SBE における学生の感情面の反応として,不安と学習の不確実性は最も頻繁にみられる感情であり,学生が緊張していることを言葉であるいは非言語的な表現に敏感になることが重要である. | 15 | |
学生の学習活動においてファシリテーターは指導的役割・立場にあることを認識し,指導的立場が学生に与える影響を最小限にするために,シミュレーション実施前に学生と友好的な雰囲気を作ることに努めている. | 15 | |
ファシリテーターは自分の行動を認識し,落ち着いて,明確で,威圧的でないように努める. | 15 | |
不安な学生にはそれほど要求の厳しくないタスクを与え,口頭による指導に加えて,ファシリテーターは,うなずく,微笑む,アイコンタクトを維持する,明確なボディランゲージを使用するなどの非言語コミュニケーションを使用して,学生に安心感を与えた. | 15 | |
「デブリーフィングのサポート」 | シミュレーション体験の後,デブリーフィングを行うための機密保持と信頼のルールを確認する.教員は,学生に対して自由回答形式の質問から始め,学生間の対話は言語的および非言語的なフィードバックによって促進される.教員からの具体的なフィードバックにより学生の曖昧な発言は明確になり,さらに教員はデブリーフィングを統合と同化に向ける.シミュレーション体験で何が起こったかを要約し,他の可能性を仮定することからまとめを始め,デブリーフィングプロセス全体を通して,シミュレーションの重要なポイントについて学生の理解を深める. | 1 |
デブリーフィングは,報告者と学習者がパフォーマンスのギャップについて話し合うことができる学習プロセスの重要な部分になる.正しく実行されなかった場合,学習プロセスの有効性が損なわれたり,学習者にさらに良くない影響が生じる可能性がある.望ましくないデブリーフィングの例としては嘲笑や非建設的な批判であり,特に個人に向けられた批判がこれに該当する. | 2 | |
学習体験を保護するために講じる措置について認識しておく必要がある.保護の要素には,機密保持を確約し,ビデオの使用,グループディスカッションでの建設的なフィードバックなどがある.これらの要素は,オープンなコミュニケーションと学習をサポートする透明性のある環境を作成するのに役立つ. | 2 | |
デブリーフィングにおいて,シミュレーションの直後に学習者は自分のパフォーマンスとシミュレーションシナリオの重要な側面を分析し始めるため気持ちが昂ることがある.そのため,シミュレーションの直後にデブリーフィングを開始する場合はシミュレーションが行われた場所以外で実施し,行動を振り返る状態に移行させることが望ましい. | 2 | |
デブリーフィングは反応,分析,要約の 3 つ段階に分けられる.学習者への「シナリオの内容は何でしたか?」という簡単な質問は,学習者が学習目標をどの程度理解したかの目安となる.次の分析段階は最も重要であり,シナリオ中の学習者のパフォーマンスを洞察し,学習者の行動を振り返り,行動を決定した思考枠組みを明らかにする.最後の要約の段階は学習目標を強化するのに役立つ. | 2 | |
デブリーフィングでのオープンエンドの質問は学習目標に基づくものである.各シナリオに含めた,またはシナリオ中の予期しないが議論に値する認知的,技術的,行動的なことに関する内容であり,質問によって議論が促進し,グループ内の精神的関係性にもつながる.沈黙は,学習者の参加を引き出すために活用可能である. | 2 | |
学生中心のデブリーフィングの基盤は,学生の利益を第一に考え,相互を知ることによって信頼関係を築くことである. | 4 | |
安全な学習環境は快適さにある.デブリーフィングを行う際はディスカッションを促すために学生を円形に座らせ,グループメンバーのプライバシーを守るためにドアを閉め,ラウンジ様の空間を作ることなど,環境を整えていた. | 4 | |
デブリーフィングでは学生のやり取りを聞き,学生が自分のパフォーマンスを振り返る様子や感情面も観察していた. | 4 | |
学生の感情に注意を払うことは通常のプロセスとして,シミュレーション体験についてどう感じたかを直接尋ねることから始め,その後,学生が緊張をほぐす時間を設けていた. | 4 | |
学生は自己批判的になりすぎる傾向があるため,学生のパフォーマンスについて話し合うときは否定的な感情に焦点を当てないことが重要である.つまり良い点について尋ね,次に懸念事項について尋ねるサンドイッチ技法では,よいトーンで締めくくるよう工夫していた. | 4 | |
教員は学生の学習を促進するために,現在の知識レベルを評価し,学習目標を明確にし,目標に到達するように振り返ることを支援し学習を促進する. | 4 | |
全員が他の参加者に対して意見を述べるように促し,たとえ沈黙していても思考し理解しようとしていることを忍耐強く待たなければならない(有資格の実践者ではないことを忘れずに). | 4 | |
デブリーフィングを慎重に進め,観察者が学習成果についてコメントし,フィードバックを提供するといった学生の成長の場を提供することに焦点が移った.デブリーフィングではファシリテーターは観察者のフィードバックにも注意を払う.観察者は観察ツールのメモを使用して学生の看護行動についてコメントし,その後デブリーフィングが学生主導になるようにファシリテーターは後方に下がる. | 5 | |
ファシリテーターは学生に例えば「低血糖の患者で呼吸数が 8 であることは何を物語っているか」などの自由形式で質問することから始め,その後,学生から専門的推論を引き出すために学生とファシリテーターの間で質疑応答の対話が展開する. | 5 | |
初心者の教育者はシミュレーションプロセスを詳細に制御するため,起こっていること全てを観察し記憶することが困難であったが,経験を積むにつれて介入する役割を減らし,学習者が主導しシミュレーションプロセスで引き出される能力に頼るようになった. | 9 | |
初心者である教育者はシナリオの進行を指導することに忙しかったが,経験豊富な教育者は学習者が自らシナリオを進めるのを待つ.経験を積むにつれてシナリオ中にデブリーフィングで何を議論するかを特定し,事前に準備するスキルを身につけていた. | 9 | |
経験豊富な教育者は,より思慮深いアプローチをしている.教育者が主導するのではなく,学生が学習の焦点を維持するために議論を進め,集中力を持続させることに努めた.以前は「適切な瞬間」に思ったときに何かを言っていたが,今は本当に必要なときにだけでブリーフィングに介入する. | 9 | |
学生はデブリーフィング中にファシリテーターがとった学生全員が発言する機会をもつ工夫や,シナリオ全体がどのように展開されたかを振り返るように指導したことを,ファシリテーターの卓越した役割にとしてあげた. | 11 | |
デブリーフィングにおけるすべての報告ビデオ(報告を撮影したビデオ)には,ダイアモンドの3段階(説明,分析,応用)を含めた. | 13 | |
デブリーフィング中の教育者と参加者の発言回数の比率は,平均1.2:1であった. | 13 | |
行動目標について話し合いを重ね,全てのデブリーフィングにおける認知目標または技術目標のいずれかについて意見を交換する. | 13 | |
失敗に対処する戦略は良いパフォーマンスと悪いパフォーマンスに別々に焦点をあて,悪いパフォーマンスの対処では評価的アプローチではなく分析的アプローチを適用する. | 15 | |
「ロールモデルとしての機能」 | ロールモデルとして機能し,臨床的推論に関与する方法として,学生が理論的知識と専門用語を使用することを促進することにより,専門的な推論のプロセスを推進した. | 5 |
看護評価を達成するために,臨床看護の専門家である看護師としての経験を参考に患者の症状や兆候,変化に関する多様な考え方・捉え方とシミュレーションとの関連を示すことが必要である. | 5 | |
メンターの存在はシミュレーションに関する不安を軽減し,シミュレーションの経験豊富な人々によるデモンストレーションは学習の鍵となる. | 7 |
系統的レビューとメタアナリシスのための優先報告項目(Preferred Reporting Items for Systematic Reviewsとメタアナリシス(PRISMA)のフローダイアグラムに従い,論文検索,選択,包含のプロセスを図1に示した.4つの検索エンジンを使用した結果,PubMED 559件,医学中央雑誌13件,ProQuest 1,423件,EBSCOhost 311件で合計2,306件あった.重複を除外した合計2,291件の文献を一次スクリーニングした結果,94件が二次スクリーニングの対象となった.ファシリテーター以外の文献では,シミュレーション教育自体を評価しているものや教材を評価しているものを除外した.二次スクリーニングを行い,最終的に16件の文献をレビュー対象として抽出した.
2) 対象論文の特徴文献16件について,出典の地理的位置,出版年,研究目的,研究方法を表1に示した.
①文献の出典
選定した文献16件は,米国とノルウェー4件,スウェーデンとシンガポール各2件,オーストラリア・インド・南アフリカ・日本は各1件の報告であった.
②用語
本研究のナラティブレビューの文献のうち12件は,シミュレーション教育における教育者を「ファシリテーター」を用いており,その他「シミュレーション教育者」としている研究もあった.
③研究対象者のタイプ
採用した16件文献のうち,看護学生を対象とした文献は2件,ファシリテーター3件,シミュレーション教育者2件,看護師1件であった.学生とファシリテーター両方のデータを使用したものが2件,大学教員と看護師両方のデータを使用したものが1件,学生とファシリテーターと校長のデータを使用したものが1件,映像や録音データを使用したものが2件,文献2件であった.
④研究分類
研究方法は,フォーカスグループインタビュー(FGI)が3件,フォーカスグループディスカッション(FGD)とインタビューの組み合わせが2件,インタビューが6件,映像の録音データ分析したものが2件,質問紙調査1件,文献調査2件であった.
3) 対象論文から抽出したファシリテーターの特徴ファシリテーターの技術として各論文から得られたデータは表2にまとめた.文献を熟読した結果,ファシリテーターの技術に関する内容を抽出し,その次にデータの類似性を検討して分類した.内容は「シナリオのフレーミング作成」「医療・技術機器に関する情報提供」「ブリーフィング」「適切なタイミングでの合図(キュー)」「安心・安全な環境の提供」「デブリーフィングのサポート」「ロールモデルとしての機能」に大別された.
①シナリオのフレーミング作成
シミュレーションを行うための事前・事後のアンケートによるニーズ調査を行い,学習者に何を学んでもらいたいかを考え,学習目的にあった備品と達成度レベルに基づきシナリオを作成し,シナリオを指導者間で理解し共有する必要性が指摘されていた(Escher et al., 2017;Davis & Davis, 2015;Dreifuerst, 2009;Solli et al., 2020;Liaw et al., 2021;内海ら,2022;Waznonis, 2016;Allvin et al., 2019).
②医療・技術機器に関する情報提供
実際にシミュレーションを行う前にその方法を学ぶ機会を設け,機器に関するトレーニングなど準備や実施の時間を確保する必要性やシミュレーションの種類を選択できるようにし,機器の手助けやサポートできる能力が必要であることを示していた(Escher et al., 2017;Solli et al., 2020;Allvin et al., 2019).
③ブリーフィング
シナリオでの看護行為の実行方法を学生に具体的に提示し,シナリオの設定や状況の展開から何を重視すべきかに関するヒントを呈示し,学習のポイント再確認を促す説明をする能力が必要であるとしていた(Shorey et al., 2020;Madriz et al., 2022;Allvin et al., 2019).
④適切なタイミングでの合図(キュー)
学習者よりファシリテーターに求める対応に違いがあり,ファシリテーターの言語的・非言語的コミュニケーションスキルが重要であることが述べていた.教育者の発言回数と学習者の発言回数の比率では,1.2:1であり,1~3回までの範囲で行動目標を議論するように促していく必要性も述べられていた(Reierson et al., 2017;Moabi & Mtshali, 2022).
⑤安心・安全な環境の提供
不安な兆候を観察し,学習者が安全な環境で実施できるようにする能力が必要であった(Moabi & Mtshali, 2022;Allvin et al., 2019;Solli et al., 2022;Simes et al., 2018;Waznonis, 2016).
⑥デブリーフィングのサポート
デブリーフィングでは,技術の経験だけではなくシナリオを通して経験した心理的側面にも焦点をあて内省を促すことが必要である.内省にあたって,指導者は学習者の感情や心理面を考慮し,サポートを提供する必要性がある.また,シミュレーション学習においてとった行動については,一連の行動をたどりながら共同で内省を行うことによって,学習者自身が,改善を要する課題を見出せるように包括的なフィードバッグを行い,学修が学習者主導となるように促す能力が必要である.
Madriz et al.(2022)は,事前に,デブリーフィングでの議論を焦点化し,具体的な支援内容を準備し省察を充実させるために,デブリーフィングで議論になりそうなことを説明・分析・応用の三層構造の順を追って見極めるダイアモンドモデルの有用性を新たに示していた(Davis & Davis, 2015;Madsgaard et al., 2022;Allvin et al., 2019;Simes et al., 2018;Shorey et al., 2020;Liaw et al., 2021;内海ら,2022).
⑦ロールモデルとしての機能
臨床的推論に関する方法を示すためにロールモデルとなる必要性が述べられていた.学習者が専門的な推論プロセスを推進させるために,ファシリテーターがこのプロセスを管理し,臨床的判断についての合理的な理解を提供するため,学習成果に関連する中心的な問題を特定し,これらの問題を支える専門知識を明確にし,オープンエンド質問をすることで学習者から専門的な推論を引きだすため,ファシリテーターが全体的な要約を提供し,明確な理論的知識と専門的知識を基に専門的な推論基準を示すことができる能力が必要であった(Escher et al., 2017;Simes et al., 2018).
本研究では,ナラティブレビューによってシミュレーション教育におけるファシリテーターの技術を明らかにした.分析結果として「シナリオのフレーミング作成」,「医療・技術機器に関する情報提供」「ブリーフィング」「適切なタイミングでの合図」「安心・安全な環境の提供」「デブリーフィングのサポート」「ロールモデルとしての機能」が必要であることがわかった.
はじめに,「シナリオのフレーミング作成」ではニーズ調査の重要性であった.これはINACSL Standards Committee(2016)のベストプラクティスアプローチ(以下,INACSL基準とする)INACSL基準2「ファシリテーションのアプローチが学習者の学習,経験,能力のレベルに適している」にあたると考えられるが,学習のためのシナリオを作成する際に,学習者の学習進度に適したファシリテーションの方法を選択するために学習者のニーズやレディネス(知識・技能・態度)を的確に把握し評価することができるか否かが重要である.2つ目の「医療・技術機器に関する情報提供」に関しては,本研究から,INACSL基準では明確に示されていないマネキン,標準模擬患者などに適したファシリテーションの具体として,シミュレーションの種類を選択できるようにし,機器の手助けやサポートができる能力を有する必要性が明らかなった.ファシリテーターが実際に扱う機器の取り扱いを熟知していることで,学習目的にあった機器の選択ができると考える.そのためには,本研究結果にも示したように,機器に関するトレーニングなど準備や実施する時間を確保することが重要である.
次に,「ブリーフィング」において,シナリオで学習目標として設定している看護行為の実行方法を学生に提示し,学習の到達状況を再確認する機会をとなるよう学習する過程で何を重視すべきかに関するヒントを再確認する場となるよう説明することが必要であった.INACSL基準にはシミュレーションベースの経験(学習)前のファシリテーションには,学習者の事前準備とシミュレーション学習中のブリーフィングが含まれると示されている.しかし本研究において,シミュレーション学習の前に,学習者へ情報提供や学習の事前準備ための働きかけ,技能の復習・練習の時間を設けること,さらに,疑問を抵抗なく表出し学生と指導者間で検討できる安全な学習環境を保つための基本的ルールについて話し合い共有することが,学習を円滑に進めるために限られた時間でブリーフィングを行う技術として必要であることが具体的に明らかになった.特に,「安心・安全な環境の提供」についてはINACSL基準にブリーフィングとして記載されているものの,本研究で明らかになったシミュレーション中に不安な兆候を観察し,学習者が安全な環境で実施できるようにするといった具体的な内容は示されていない.Clapper(2014)が指摘するように,ファシリテーターは肯定的で心理的に安全な学習環境を作ることから始める必要がある.
ヒントを「キューとして発する(適切なタイミングでの合図)」では,学習者によりファシリテーターに求める対応に違いがあり,シナリオがどのように展開されたかに関してタイムリーに指示をだし,学習者が聞きたいことや要求する情報を迅速に提供し,学習者が自ら進んでいくのを待つために,あえて立ち止まるといった能動的な指導と受動的な指導を柔軟に使い分ける能力が必要であった.これはINACSL基準のキューを与えるとして記載された内容と同様であったが,能動的・受動的指導といった面については本研究によって見出されたことである.
「デブリーフィングのサポート」については,学習目標に合わせて組み立てられたデブリーフィングの理論的なフレームワークに基づいて行うこと,学習者による固有な考え方を探ることで学習者を肯定的に受け止めること,言葉または非言語的なサポーティブな態度でディスカッションを促すことなどが明らかになった.また,Clapper(2014)は,医療現場でシミュレーションを実施する際の典型的な方法として,学習者が患者に接することを通して,その後に何が実際に生じたかを具体的に話し合うデブリーフィングを行う指導力と説明力が教育者に必要であると述べている.これは,本研究結果で得られた,学習者一人ひとりに何が起こっていたのか,何を改善しなければならないのかについて理解を深めるよう包括的なフィードバッグを行い,学習者が主体となるように学びを支援する能力や,デブリーフィングですべきことを見極め準備する能力を身につける必要性といった内容と一致する.また,デブリーフィングの新たな技法として,説明・分析・応用の3段階を設定するダイアモンドという手法の取り組みがなされていることもわかった(Madriz et al., 2022;Jaye et al., 2015).
「ロールモデルとしての機能」については,INACSL基準においても「有効なファシリテーションには,シミュレーション教育理論に関する具体的な技能と知識を持ったファシリテーターが必要である」とあり,学習者のプロフェッショナル意識を育てるために自身も専門家としてのロールモデルを果たすとしているが,ロールモデルとなる役割の具体は記載されていない.本研究において,ロールモデルの1側面として臨床的推論に関する方法を示す必要性が明らかになった.学習者が専門的な推論プロセスを推進させるために,ファシリテーターが臨床推論のプロセスと臨床的判断についての合理的な理解を説明し,学習者の学習成果につながるよう問題を特定し,これらの問題を解くための専門知識を明確にする能力が必要である(Reierson et al., 2017).したがって臨床的推論は,ファリシテーションのあらゆる場面で必要となるため,ファシリテーターの臨床的推論を高める必要性があると考える.
Kolb et al.(2014)は,体験教育では,学習者が体験から直接学べるように,教育者が非指示的な教育を行う必要性と学習者中心の学習にするためには,指導スタイルを学習者の学習スタイルに合わせる必要性について述べている.学習者が自ら学ぶことができるように授業設計し,学習者が何を学ぶか明確にし,学習する環境を整えることで学習者主体になる.本研究結果に示した,「シナリオのフレーミング作成」,「医療・技術機器に関する情報提供」「ブリーフィング」「安心・安全な環境の提供」はファシリテーターとして必要となることが明らかになった.また,学習者の学習スタイルに合わせるためには,教育者が学習者の興味関心といった内発的動機づけを引き出すような関りが必要となるため,本研究結果である「適切なタイミングでの合図」「デブリーフィングのサポート」「ロールモデルとしての機能」といった体験学習を深めるための能力が必要となる.
今回の研究によりファシリテーターのスキルを具体的に示したことは,シミュレーション教育という体験型学習におけるファシリテーターを育成するための基礎資料になると考える.また,シミュレーション教育が推し進められる中で,実践に近い体験教育に必要なファシリテーターは,シナリオ設計からブリーフィング,使用機器の取り扱いやデブリーフィングなどファシリテーション技術が多岐にわたるため,それぞれについての基礎知識を身につけることが急務であり,ファシリテーター教育プログラムの開発が今後は必要であると考える.さらに本研究結果は,特に研修で得た知識を実践でどのように展開すればよいかに苦慮する初心者のファシリテーターの一助となる.
本研究は,これまでのエビデンスを整理するため,ファシリテーターのファシリテーション技術の構成要素を抽出する目的でナラティブレビューを行った.複数の検索サイトから2段階のスクリーニングの手順で抽出した文献は,多くが海外の研究であり,国内の研究は限られていた.したがって,看護基礎教育においてシミュレーション教育を効果的に実施するために今回の研究で得られた結果を基に,今後の課題としてファシリテーター教育プログラムの開発の必要がある.
シミュレーション教育におけるファシリテーターのファシリテーション技術についてナラティブレビューした結果,16件の文献が特定された.ファシリテーターのファシリテーション技術については,「シナリオのフレーミング作成」,「医療・技術機器に関する情報提供」「ブリーフィング」「適切なタイミングでの合図」「安心・安全な環境の提供」「デブリーフィングのサポート」「ロールモデルとしての機能」という7つが必要であることがわかった.
付記:本論文の一部は,第43回日本看護科学学会で発表した.
謝辞:本研究はJSPS科研費22K10737の助成を受けた.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:YKは研究の着想からデータ収集と分析,原稿作成;TKは研究のデザインおよびデータ分析と解釈,研究プロセス全体への助言に貢献した.著者全員が最終原稿を読み,承認した.