2024 Volume 44 Pages 970-982
目的:看護師の多重課題遂行能力尺度―内科系・外科系病棟看護師用―を開発する.
方法:インタビュー調査に基づき尺度原案を作成した.内科系・外科系病棟に勤務する看護師1,602名を対象に質問紙調査を実施し,信頼性と妥当性を検証した.
結果:回収数は1,101名(回収率68.7%)であり有効回答を得た825名を分析対象とした.因子分析の結果,7因子37項目が抽出された.モデル適合度はGFI = .889,AGFI = .872,CFI = .889,RMSEA = .048であり構成概念妥当性が確認され,既存尺度との相関係数はr = .722であり併存的妥当性が確認された.尺度全体のCronbach α係数はα = .93であり内的整合性が確認され,級内相関係数はr = .853であり安定性が確認された.
結論:看護師の多重課題遂行能力尺度―内科系・外科系病棟看護師用―の信頼性と妥当性が検証された.
Objective: To develop a scale on multitasking performance competency for nurses in internal medicine and surgical wards.
Methods: A draft scale was created based on an interview survey. Subsequently, a questionnaire survey was conducted among 1,602 nurses working in internal medicine and surgical wards. The reliability and validity of the developed scale were verified based on the questionnaire survey results.
Results: A total of 1,101 nurses responded (collection rate of 68.7%), and 825 valid responses were analyzed. As a result of factor analysis, 7 factors and 37 items were extracted. The fitness indices of the obtained model were GFI = .889, AGFI = .872, CFI = .889, and RMSEA = .048; construct validity was confirmed. The correlation between the existing scale was r = .722, which confirmed coexistence validity. The alpha coefficient of the entire scale was .93, which confirmed the internally defined consistency. The intraclass correlation coefficient was r = .853, confirming stability.
Conclusion: The reliability and validity of the scale on multitasking performance competency for nurses in internal medicine and surgical wards were verified.
臨床で働く看護師は日々,複数の患者を受け持ち,日常的な患者ケアに加え,記録,入院患者の退院指導や退院調整,カンファレンスへの参加など,限られた時間の中で多重する課題に対応することが求められている.特に急性期病棟は,重症度・看護必要度の高い患者が多く(日本看護協会,2023),必要となる患者ケアが多いうえ,患者の状態変化に対応するために業務が重複するなど多重課題への対応が余儀なくされている.
看護師の多重課題は研究者により様々に定義されている.例えば,時間的に余裕のない中で複数の課題が重複する断片的な場面として多重課題を定義する研究(高木ら,2008;片岡ら,2012)もあれば,現在,未来に複数個の時間的制約をうける課題が在る状況(今井ら,2016)など,前者と比べ比較的長い視点で多重課題を定義する研究もある.一方で,小口(2021)は,患者の急変時といった断片的な場面で生じる複数の課題および計画的に実施できる複数の課題の双方を多重課題として捉えることを提案している.看護師の業務量が増加する昨今,看護師は急変時など時間が切迫した状況下で複数の課題に対応することは当然のことながら,患者への直接的なケア,記録やカンファレンスなど様々な課題を一日の勤務を通して順序立てて解決していくことが求められる.そのため,本研究では,小口(2021)の提案に基づき看護師の多重課題を捉えることにした.
看護師の多重課題に関する研究は国内外で報告されており,看護師にとって多重課題に対応することが困難であること(小口ら,2020),多重課題が看護師の精神的負担の増加に繋がること(Steege et al., 2015)が報告されている.また,患者に影響をもたらす問題として,多重課題が患者の安全性を損なう一因となること(小林ら,2009;Zhang et al., 2014),患者のニーズを満たす妨げになること(大島ら,2016)が報告されている.このような問題がある中,厚生労働省(2004)の報告書において,看護師の多重課題を遂行するための能力(以下,多重課題遂行能力とする)の獲得・向上の必要性が言及されている.
多重課題遂行能力は,「状況把握」「タイムマネジメント」「優先順位の判断」「他者への業務依頼」「タイムスケジュール」「相互協力」「安全な看護提供」「情報共有」(小口,2021)の8側面から捉えることができる.しかし,これら側面は,具体的な行動レベルまで示されていないことに加え,多重課題遂行能力のすべての側面を捉えきれていない可能性がある.
また,看護実践能力を測定する尺度として「看護実践の卓越性自己評価尺度」(亀岡,2015),「患者安全のための看護実践自己評価尺度」(上國科,2015)などが開発されているが,これらの尺度は看護師の多重課題遂行そのものに焦点を当てて開発されたものではない.そのため,これらの尺度には,多重課題遂行能力の側面である「状況把握」や「タイムマネジメント」に関する項目が含まれているものの,「優先順位の判断」や「他者への業務依頼」に関する項目が不足しており,多重課題遂行能力を包括的に捉えきれていない.
看護師が多重課題遂行能力を獲得・向上させるためには,自身の能力を把握することが必要であり,そのためには適切な測定ツールが必要である.多重課題遂行能力尺度を開発することにより,看護師は自身の多重課題遂行能力の現状を把握し,自己課題を明確にすることが可能となる.また,看護教育者は開発した尺度を活用し,多重課題に関する研修の教育効果を評価することが可能となる.
以上のことから,本研究は看護師の多重課題遂行能力を測定できる尺度を開発することを目的とし,看護師が一日の勤務の中で実施する必要がある複数の業務をいかに把握し,判断し,行動しているかに焦点を当て尺度開発を行った.なお,看護師の業務内容は部署の機能や勤務帯によって異なることが想定される.そのため,本研究では急性期病棟の内科系・外科系病棟で働く看護師の日勤でのメンバー業務に焦点を当て尺度開発を行った.また,日本看護協会の看護師のクリニカルラダー(日本看護協会,2016)では,クリニカルラダーレベル(以下レベルとする)Iは「必要に応じて助言を得て看護を実践する」と定義されているのに対し,レベルIIは「自立して看護実践できる」と定義されている.本研究では,多重課題への対応を自身で判断できる自立した看護師の実践を反映した尺度開発を行うためレベルII以上の看護師を対象に本調査を実施した.
本研究では多重課題遂行能力を「多重課題を適切かつ円滑に遂行するために必要となる状況把握力,判断力,行動力」と定義した.なお,看護師の多重課題を,先行研究(小口,2021)に基づき,「看護師が一日の勤務の中で優先順位をつけて実施する必要がある複数の業務(患者への直接的なケアに加え,記録,カンファレンス,後輩看護師の指導なども含む)」と捉えた.
また,内科系・外科系病棟看護師を「総病床数400床以上の二次・三次医療機関を有する7対1の看護配置である内科系病棟,外科系病棟,内科系・外科系の混合病棟に勤務する日本看護協会の看護師のクリニカルラダーレベルII以上に準じる看護師(師長など看護管理者は除く)」と定義した.
本研究は,舟島(2015)の尺度作成過程を参考にした.まず,インタビュー調査で得られた質的帰納的研究の成果を基盤に尺度原案を作成し,その後,質問紙調査に基づき尺度の信頼性と妥当性を検証した.
1. 尺度原案の作成先に述べたように,既存の知見および尺度では多重課題遂行能力を包括的に捉えているとは言い難く,多重課題遂行能力のあらゆる側面を明確にし,具体的な項目案を作成するため,内科系病棟,外科系病棟,内科系・外科系の混合病棟に勤務するレベルIV以上に準じる看護師11名を対象に1人あたり60分程度のインタビュー調査を実施した.インタビューでは日勤のメンバー業務に焦点を当て,対象が一日の勤務の中で優先順位をつけて実施する必要がある複数の業務を遂行する際に何をどのように把握し,判断し,行動しているかを聴取した.
対象施設は便宜的に抽出し,6施設の看護部長から研究協力の同意を得た.さらに,看護部長を通じて,看護師長に多重課題を適切に遂行している看護師を推薦してもらい,研究協力に同意を得た看護師を調査対象とした.なお,レベルIV以上を対象とした理由は日本看護協会の看護師のクリニカルラダー(2016)において,レベルIVは「幅広い視野で予測的判断をもち看護を実践する」と定義されており,適切に多重課題を遂行する看護師の実践を可視化できると考えたためである.すなわち,より習熟した看護師の適切な多重課題の実践に基づく尺度開発が可能であると考えたためである.
つぎに,インタビューで得られた質的データをもとに研究者間で議論を重ね63項目からなる尺度原案を作成した.この尺度原案には,先に述べた多重課題遂行能力の8側面に対応する項目が示され,さらに,「患者の個別的なニーズの充足」「適切な指導」「自他の経験の振り返り」といった本研究独自の側面が示された.表2に各項目が多重課題遂行能力の8側面および本研究独自の側面のいずれに対応するかを示し,複数の側面に対応すると捉えられた項目については主に対応すると考えた側面を示した.また,測定の方向性の観点から逆転項目として捉えた項目を表2に示した.
つづいて,尺度原案63項目が実際に多重課題遂行能力を測定し得る内容であるか,不足する項目がないかについて,専門家(レベルIV以上の看護師2名,病棟看護師長2名)に質問票を用いて意見聴取を行い,得られた意見に基づき研究者間で議論を重ねた.結果,不足する項目がなく各項目の内容が妥当であることを確認した.また,本調査の対象となるレベルII以上の看護師4名にプレテストを実施し,回答のしやすさの観点から表面的妥当性を検討した.結果,項目の内容に関わる大きな修正は要さなかったが,一部の項目については得られた意見に基づき修飾語や読点などの追加・修正を行った.
2. 調査対象総病床数400床以上の二次・三次医療機関を有する21施設の内科系・外科系病棟に勤務するレベルII以上に準じる看護師1,602名を調査対象とした.また,そのうちの456名を安定性を確認するための再テストの調査対象とした.
対象施設の選定は日本医師会の地域医療情報システム(2022)を用い,総病床数400床以上の医療機関を抽出した.つぎに,乱数表を用いて協力依頼施設を無作為に抽出し,二次・三次医療機関であり,かつ7:1の看護配置の病棟を有する施設を選定した.さらに,日本看護協会の看護師のクリニカルラダー(2016)に準じる教育制度を有する施設を選定し研究協力を依頼した.また,再テストへの協力に同意を得られた施設の看護師を対象に再テストを実施した.
本調査のサンプルサイズは項目数の10倍以上(松尾・中村,2002)である630名以上,再テストは50名以上(Storheim et al., 2012)からの回収を目指した.なお,調査対象は病院機能や人員配置による業務内容の違いを考慮し,二次・三次医療機関を有する施設の7対1の看護配置の病棟に勤務する看護師に限定した.また,看護の対象や疾患の観点から,内科系・外科系病棟とは異なる業務内容が想定される小児科・産婦人科・精神科病棟を調査対象から除外した.さらに,夜勤業務やリーダー業務との業務内容の違いを考慮し,調査対象は日勤のメンバー業務に従事する看護師に限定した.加えて,調査施設や調査時期によっては,日常業務を自立して遂行できる水準に達していない可能性があるため,レベルIの看護師を調査対象から除外した.
3. 調査方法レベルII以上の看護師を対象に無記名式の質問紙調査を実施した.調査期間は2022年10月~2022年12月である.その内,再テストの調査対象には1回目の調査終了後から3~4週間後に2回目の調査を実施した.データ収集方法は看護部長から文書で研究協力許可を得た後,看護部内の研究協力担当に調査対象人数分の質問紙を郵送し,研究協力担当から各病棟の看護師長を経由し調査対象への配布を依頼した.調査対象には質問紙を受け取った後,質問紙に記入し,記入後は各施設内に設置した提出用封筒に投函してもらった.その後,研究協力担当から研究者へ回収した調査用紙を郵送してもらった.なお,再テストへの協力に同意を得られた施設の看護師を対象に再テストを行い,再テストの調査対象には,1回目と2回目の調査票の双方に,任意の誰かの誕生日と好きな食べ物を同内容で記載してもらい,個人が特定されないように配慮しつつ同一の対象であることを確認した.
4. 調査内容質問紙は以下の1)「看護師の多重課題遂行能力尺度―内科系・外科系病棟看護師用―」原案,2)「看護実践の卓越性自己評価尺度―病棟看護師用―」(亀岡,2015),3)個人属性により構成した.
1) 「看護師の多重課題遂行能力尺度―内科系・外科系病棟看護師用―」原案尺度原案は先に述べた63項目で構成されている.各項目は「非常にあてはまる」6点,「ほぼあてはまる」5点,「少しあてはまる」4点,「あまりあてはまらない」3点,「ほぼあてはまらない」2点,「全くあてはまらない」1点の6段階評価を設定した.
2) 「看護実践の卓越性自己評価尺度―病棟看護師用―」併存的妥当性を検討するため「看護実践の卓越性自己評価尺度―病棟看護師用―(Nursing Excellence Scale in Clinical Practice,以下NESCPと略す」(亀岡,2015)を用いた.この尺度は「連続的・効率的な情報の収集と活用」「臨床の場の特徴を反映した専門的知識・技術の活用」「患者・家族との関係の維持・発展につながるコミュニケーション」「職場環境・患者個々の持つ悪条件の克服」「現状に潜む問題の明確化と解決に向けた創造性の発揮」「患者の人格尊重と尊厳の遵守」「医療チームの一員としての複数役割発見と同時進行」の7因子35項目で構成され「かなり当てはまる」5点,「わりに当てはまる」4点,「少し当てはまる」3点,「あまり当てはまらない」2点,「全く当てはまらない」1点の5段階評価である.点数が高いほど看護実践の卓越性が高いことを示している.この尺度は信頼性・妥当性ともに確保されており(亀岡,2015),尺度の使用許可を得て使用した.
なお,NESCPは看護実践の質を多面的に捉えた尺度であり,下位尺度である「連続的・効率的な情報の収集と活用」と「臨床の場の特徴を反映した専門的知識・技術の活用」には,多重課題遂行能力に関連した項目が含まれている.また,多重課題遂行に伴う困難を低く感じる看護師はNESCPの得点が高い傾向が報告されている(小口ら,2020).すなわち,NESCPの得点が高い看護師は多重課題を適切に遂行でき,その結果,困難感が低くなると考えられる.以上のことから,NESCPが多重課題遂行能力尺度と正の相関関係があると仮定し,併存的妥当性を確認するための指標として用いた.
3) 個人属性年代,性別,看護師経験年数,現在の部署での経験年数,現在の勤務部署,雇用形態および勤務形態,日勤時の平均受け持ち患者数,看護に関する最終学歴,クリニカルラダーレベルを設定した.
5. 分析方法回収された調査票のうち,同意確認欄にチェックがあり,記入率が80%以上のものを有効回答とした.統計解析には,SPSS Version29およびSPSS AMOS Version29を使用し,統計学的有意水準はp < .05とした.
1) 病棟看護師の多重課題遂行能力の因子構造の検討「看護師の多重課題遂行能力尺度―内科系・外科系病棟看護師用―」原案63項目について,まず,記述統計による項目分析を行った.欠損値(1.0%以上),天井効果(M + SD > 6.0),床効果(M – SD < 1.0)を削除基準に項目を確認した.また,Item-Item相関(I-I相関;r > .80),Item-Total相関(I-T相関;r < .20)を削除基準に項目を確認した.
つぎに,探索的因子分析を小塩(2018)およびZiegler(2014)の文献を参考に,以下の手順で行った.まず,項目の得点分布を確認した後,因子分析を用いてスクリーンプロットを確認し,因子数を決定した.つぎに,プロマックス回転(最尤法)を用いて因子負荷量の高い項目(r > .35)を選定した.その後,尺度得点の平均点および標準偏差を算出した.
2) 妥当性の検証確証的因子分析を行い,適合度指標(Goodness of Fit Index,以下GFIと略す),修正適合度指標(Adjusted Goodness of Fit Index,以下AGFIと略す),比較適合度(Comparative Fit Index,以下CFIと略す),残差平方平均平方根(Root Mean Square Error of Approximation,以下RMSEAと略す)を算出し,構造的妥当性の検討を行った.また,併存的妥当性は,スピアマンの順位相関係数を用いNESCPとの相関係数を算出した.なお,妥当性の検証では,松下ら(2012)を参考に平均値挿入法を用いて欠損値を処理した.
3) 信頼性の検証項目全体と抽出された各因子のCronbach α係数を算出し内的整合性を確認した.さらに,再テスト法を用いて級内相関係数を算出し安定性を確認した.
6. 倫理的配慮本調査は,長野県看護大学倫理委員会の承認を得て行った(承認番号2022-15).調査は回答者が特定できないように無記名で実施し,調査協力の承諾は調査票に記載された同意確認欄のチェックをもって確認した.調査対象には本研究への参加は任意であり参加の有無によって不利益を被らないこと,得られたデータは研究以外の目的で使用しないこと,データは厳重に保管し分析終了後に確実に廃棄することを文書にて説明した.また,研究結果は学会発表や論文投稿などを通し社会に還元する旨を文書で説明した.
調査対象1,602名のうち,回収数は1,101名(回収率68.7%)であった.うち,同意確認欄にチェックがなかった154名(14.0%),調査対象外に配布された116名(10.6%),質問紙の記載が80%未満であった6名(0.5%)を除外した結果,有効回答数は825名(有効回答率74.9%)であった.分析対象825名の概要を表1に示す.
N = 825
項目 | n | % | |
---|---|---|---|
年代 | 20歳代 | 272 | 33.0 |
30歳代 | 285 | 34.5 | |
40歳代 | 205 | 24.8 | |
50歳以上 | 59 | 7.2 | |
無回答 | 4 | 0.5 | |
性別 | 男性 | 49 | 6.0 |
女性 | 770 | 93.3 | |
無回答 | 6 | 0.7 | |
経験年数(mean ± SD) | 816 | 13.0 ± 8.1 | |
部署経験年数(mean ± SD) | 804 | 4.7 ± 3.6 | |
勤務部署 | 内科系病棟 | 256 | 31.0 |
外科系病棟 | 237 | 28.7 | |
内科系・外科系混合病棟 | 306 | 37.1 | |
無回答 | 26 | 3.2 | |
勤務形態 | 常勤(短時間勤務なし) | 751 | 91.0 |
常勤(短時間勤務あり) | 60 | 7.3 | |
非常勤(短時間勤務なし) | 1 | 0.1 | |
非常勤(短時間勤務あり) | 4 | 0.5 | |
無回答 | 9 | 1.1 | |
看護提供方式(複数回答) | チームナーシング | 176 | 21.3 |
固定チームナーシング | 119 | 14.4 | |
プライマリナーシング | 126 | 15.3 | |
患者受け持ち方式 | 33 | 4.0 | |
モジュール型継続受け持ち方式 | 1 | 0.1 | |
機能別看護方式 | 2 | 0.2 | |
パートナーシップ・ナーシング・システム | 358 | 43.3 | |
その他(セル看護方式) | 39 | 4.7 | |
無回答 | 14 | 1.7 | |
受け持ち患者数(mean ± SD) | 809 | 7.7 ± 2.6 | |
学歴 | 専門学校 | 527 | 63.9 |
短期大学 | 49 | 5.9 | |
大学 | 219 | 26.6 | |
大学院 | 6 | 0.7 | |
その他(高等学校5年一貫,高等学校専攻科など) | 16 | 1.9 | |
無回答 | 8 | 1.0 | |
免許・資格(複数回答) | 看護師のみ | 614 | 74.4 |
保健師 | 151 | 18.3 | |
助産師 | 7 | 0.8 | |
認定看護師 | 23 | 2.8 | |
専門看護師 | 1 | 0.1 | |
特定看護師 | 7 | 0.8 | |
無回答 | 27 | 3.3 | |
レベル | II | 258 | 31.3 |
III | 237 | 28.7 | |
IV以上 | 196 | 23.8 | |
無回答 | 134 | 16.2 |
また,再テスト法の調査対象456名のうち,回収数は195名(回収率42.8%)であり,同意確認欄にチェックがあり,1回目の調査との同一の対象者であることが確認された106名について分析を行った.
2. 病棟看護師の多重課題遂行能力の因子構造および尺度得点記述統計による項目分析を行った結果を表2に示す.63項目のうち,床効果を示す項目は確認されず,天井効果を示す1項目を削除した.I-I相関の分析の結果,削除基準の該当項目はなかった.I-T相関の分析の結果,15項目を削除した(表2).その結果,47項目が精選された.つづいて,精選された47項目について因子分析を行った結果,7因子が抽出された.さらに,因子負荷量の高い項目(r > .35)を確認し,37項目を選定した(表3).7因子は以下の通り命名した.第1因子10項目は患者の個別的なニーズを把握し,安全に配慮しつつ,そのニーズを充足する項目から構成されており【個別的なニーズの充足】と命名した.第2因子5項目は長期的な視点から各業務の影響を予測し,優先順位を判断するための項目から構成されており【優先順位の予期的判断】と命名した.第3因子6項目は自他の状況を考慮したうえで,業務を適切に依頼するための項目から構成されており【自他の状況把握に基づく依頼】と命名した.第4因子7項目はチーム内での情報共有や業務調整に基づき,チームとして複数の業務を円滑に解決するための項目から構成されており【チーム内相互支援】と命名した.第5因子5項目は情報収集を効率的に行うとともに,タイムスケジュールを適切に管理するための項目から構成されており【効果的な情報収集に基づくスケジュール管理】と命名した.第6因子2項目は依頼した業務および依頼された業務の実施状況を,自ら確認するための項目から構成されており【主体的コミュニケーション】と命名した.第7因子2項目は自身の経験の振り返りや,他者の経験からの学びに関する項目から構成されており【自他の経験に基づく自己改善】と命名した.尺度得点の平均点および標準偏差を表4に示した.
N = 825
No | 質問項目 | 欠損値 | Mean | SD | 床効果 | 天井効果 | I-I相関 | I-T相関 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
n | % | M – SD | M + SD | ||||||||
1 | 始業時の情報収集から,重症患者など注意が必要な患者をピックアップし,他の業務より優先してラウンドするようにしている | 0 | 0.0 | 5.29 | 0.72 | 4.57 | 6.00 | ― | ― | ― | ― |
2 | タイムスケジュールは,各業務の性質(時間で決められた業務か,他者との共同業務かなど)を考えた上で,組み立てている | 1 | 0.1 | 5.25 | 0.66 | 4.59 | 5.91 | –0.20 | ~ | 0.43 | 0.45 |
3 | 勤務中に必要となる治療上の指示を推察し,あらかじめ医師に確認している | 5 | 0.6 | 4.80 | 0.75 | 4.05 | 5.55 | –0.16 | ~ | 0.50 | 0.47 |
4 | 医師との迅速かつ確実な情報共有を図るために,医師の回診あるいは処置に意図的に同席している | 0 | 0.0 | 3.86 | 1.18 | 2.68 | 5.04 | –0.15 | ~ | 0.33 | 0.33 |
5 | カルテからの情報収集に加え,ラウンドを通して把握した患者の情報に基づき,タイムスケジュールを柔軟に変更している | 0 | 0.0 | 5.00 | 0.70 | 4.31 | 5.70 | –0.24 | ~ | 0.65 | 0.51 |
6 | 元々計画していたタイムスケジュールに遅延が生じたとき,その都度タイムスケジュールを組み直すことができる | 0 | 0.0 | 4.85 | 0.77 | 4.08 | 5.63 | –0.28 | ~ | 0.65 | 0.54 |
7 | その日に実施すべき業務をリストアップしているが,しばしば適切にリストアップできていないことがある ※ | 1 | 0.1 | 3.51 | 0.94 | 2.58 | 4.45 | –0.20 | ~ | 0.38 | 0.00 |
8 | 突発的な業務の発生以外,始業時に立てたタイムスケジュール通りに,業務を実行できる | 0 | 0.0 | 4.32 | 0.96 | 3.36 | 5.29 | –0.27 | ~ | 0.39 | 0.36 |
9 | 時間の都合上,自分では対応できない業務が生じた際は,速やかに他の看護師にその業務を依頼している | 2 | 0.2 | 4.65 | 0.87 | 3.77 | 5.52 | –0.39 | ~ | 0.45 | 0.41 |
10 | 業務を依頼する際は,相手の能力および相手が実施できる状況であるかを熟慮している | 0 | 0.0 | 5.03 | 0.68 | 4.35 | 5.71 | –0.25 | ~ | 0.45 | 0.42 |
11 | 業務を依頼する際は,依頼されるスタッフの負担を軽減するために,時間の許す限り使用する物品を準備してから依頼している | 0 | 0.0 | 4.86 | 0.82 | 4.04 | 5.68 | –0.21 | ~ | 0.44 | 0.45 |
12 | 一人でも実施できるが,複数人で実施した方が患者の安楽を確保できるケア(清拭など)は,可能な限り複数人で実施するようにしている | 0 | 0.0 | 4.86 | 0.91 | 3.95 | 5.76 | –0.21 | ~ | 0.52 | 0.44 |
13 | 自分で実施した方がスムーズに行える業務か否かを判断した上で,スムーズに行えないと判断した場合は,他者に協力を依頼している | 0 | 0.0 | 4.94 | 0.76 | 4.18 | 5.71 | –0.27 | ~ | 0.52 | 0.44 |
14 | 各業務が看護師以外のコメディカルにも依頼できる業務(患者の搬送など)か否かを意図的に考えている | 2 | 0.2 | 4.83 | 0.84 | 3.99 | 5.68 | –0.24 | ~ | 0.42 | 0.41 |
15 | 看護師のペア間あるいはチーム内の業務の再分配のために,他のスタッフの業務量および業務遂行能力を把握している | 1 | 0.1 | 4.45 | 0.83 | 3.63 | 5.28 | –0.25 | ~ | 0.49 | 0.52 |
16 | ケアの実施中に別の担当患者からナースコールがあった際は,他の看護師が対応できる状況か否かを瞬時に判断している | 0 | 0.0 | 4.37 | 0.88 | 3.49 | 5.26 | –0.23 | ~ | 0.49 | 0.53 |
17 | 中断した業務(処置・清潔ケアなど)の再開時には,チームメンバーと中断した業務の進捗状況を確認している | 4 | 0.5 | 4.53 | 0.89 | 3.64 | 5.41 | –0.22 | ~ | 0.41 | 0.46 |
18 | 業務を遂行する上で悩むことや不安なことがある際には,すぐに他のスタッフに相談している | 2 | 0.2 | 5.18 | 0.70 | 4.47 | 5.88 | –0.21 | ~ | 0.41 | 0.46 |
19 | 業務の進捗状況と自分の抱えている業務量を他の看護師(リーダーや先輩看護師)にも順次報告している | 3 | 0.4 | 4.61 | 0.86 | 3.75 | 5.47 | –0.25 | ~ | 0.46 | 0.52 |
20 | それぞれの看護師が記録や患者指導などに専念できる時間を確保するために,お互いに業務の時間調整を行っている | 2 | 0.2 | 4.27 | 1.00 | 3.27 | 5.27 | –0.25 | ~ | 0.46 | 0.48 |
21 | 他者に業務を依頼した際には,依頼した業務が適切に実施されたかを自分から確認するようにしている | 2 | 0.2 | 4.89 | 0.76 | 4.13 | 5.66 | –0.21 | ~ | 0.60 | 0.58 |
22 | 依頼された業務を実施した際には,その経過(業務の実施状況・患者の状態など)を自分から依頼者に伝えている | 2 | 0.2 | 5.11 | 0.69 | 4.42 | 5.80 | –0.22 | ~ | 0.60 | 0.54 |
23 | 自分では対応しきれない業務の依頼があった際には,患者の安全を考慮し,業務を受け入れられないことを依頼者に伝えている | 3 | 0.4 | 4.75 | 0.80 | 3.95 | 5.55 | –0.29 | ~ | 0.45 | 0.48 |
24 | 多忙だと感じていても,一人で業務を抱え込んでしまい,他のスタッフに助けを求めることができない ※ | 3 | 0.4 | 3.39 | 1.08 | 2.30 | 4.47 | –0.39 | ~ | 0.37 | –0.06 |
25 | 自分の業務が落ち着いている際には,他のスタッフに手伝えることがないか,積極的に声をかけている | 3 | 0.4 | 5.11 | 0.72 | 4.39 | 5.82 | –0.21 | ~ | 0.44 | 0.46 |
26 | 多忙な中で患者を観察する際にも,カルテの経過表に記載されている観察項目以外にも必要な情報がないかを考えている | 3 | 0.4 | 4.80 | 0.83 | 3.97 | 5.63 | –0.26 | ~ | 0.64 | 0.56 |
27 | 患者の状態が悪化したとき,今起きている症状だけではなく,いつからその症状が悪化したかを確認している | 4 | 0.5 | 4.98 | 0.72 | 4.26 | 5.70 | –0.25 | ~ | 0.64 | 0.52 |
28 | 患者の状態が悪化したとき,状態悪化の要因を一つに限定して考えてしまうことがある ※ | 3 | 0.4 | 3.21 | 0.90 | 2.32 | 4.11 | –0.24 | ~ | 0.42 | 0.00 |
29 | 急変時など医師に迅速に確認する必要なことがあっても,医師への連絡をためらってしまうことがある ※ | 4 | 0.5 | 2.74 | 1.23 | 1.51 | 3.97 | –0.25 | ~ | 0.42 | –0.02 |
30 | 限られた時間の中で安楽かつスムーズにケアをするために,ケア前に必ず,患者の状態(安静度,ルート類の位置,鎮痛剤の使用状況など)を確認している | 2 | 0.2 | 4.86 | 0.75 | 4.11 | 5.61 | –0.23 | ~ | 0.48 | 0.54 |
31 | 始業時に収集した情報が不足しており,業務を円滑に遂行できないことがある ※ | 2 | 0.2 | 3.28 | 0.96 | 2.31 | 4.24 | –0.26 | ~ | 0.43 | –0.04 |
32 | 患者の重症度および緊急度だけではなく,時間経過に伴う状態変化の視点から,業務の優先順位を判断している | 3 | 0.4 | 4.73 | 0.73 | 4.00 | 5.46 | –0.26 | ~ | 0.59 | 0.54 |
33 | 業務の重要度および緊急度ばかりでなく,その業務を遅らせることにより生じる,他の業務への影響まで考慮して優先順位を判断している | 4 | 0.5 | 4.58 | 0.76 | 3.82 | 5.33 | –0.26 | ~ | 0.59 | 0.57 |
34 | 患者の状態だけではなく,病棟の取り決め(シーツ交換のタイミングなど)を考慮して,各業務をその日に実施すべきか否かを判断している | 3 | 0.4 | 4.68 | 0.80 | 3.87 | 5.48 | –0.23 | ~ | 0.59 | 0.57 |
35 | 他の業務の予定から逆算して,各業務をいつまでに完遂する必要があるかを考えている | 3 | 0.4 | 4.75 | 0.78 | 3.97 | 5.53 | –0.27 | ~ | 0.57 | 0.54 |
36 | 担当患者に予定されている検査の呼び出しがあった際にすぐに対応できるように,事前に検査の準備を済ませている | 2 | 0.2 | 4.64 | 0.81 | 3.83 | 5.45 | –0.26 | ~ | 0.41 | 0.44 |
37 | 患者のラウンドをする際,ケアあるいは観察に必要な物品を忘れてしまい,しばしばナースステーションに取りに戻ることがある ※ | 5 | 0.6 | 3.92 | 0.88 | 3.04 | 4.81 | –0.17 | ~ | 0.44 | 0.02 |
38 | 清潔ケアなど各業務に要する時間を予測するが,予定より時間がかかってしまうことがある ※ | 4 | 0.5 | 3.95 | 0.90 | 3.06 | 4.85 | –0.23 | ~ | 0.45 | 0.05 |
39 | 清潔ケアの際に,同時に観察できる項目(創部・褥瘡など)があったにも関わらず,観察できていないことがある ※ | 3 | 0.4 | 2.96 | 0.97 | 1.99 | 3.94 | –0.23 | ~ | 0.44 | –0.03 |
40 | 突発的に生じる業務に対応するために,時間に余裕のある際に,実施できる業務を前もって実施している | 3 | 0.4 | 4.74 | 0.81 | 3.93 | 5.55 | –0.19 | ~ | 0.42 | 0.45 |
41 | 業務の重複を避けるために,自分のスケジュールを伝えるなど,患者の同意を得た上で,患者に業務(清潔ケアなど)の実施を待ってもらうようにしている | 3 | 0.4 | 4.55 | 0.85 | 3.70 | 5.40 | –0.16 | ~ | 0.42 | 0.53 |
42 | 輸液の開始や終了のタイミングを調整しているが,突発的な業務がないときでも,他の業務と重なってしまうことがある ※ | 2 | 0.2 | 3.91 | 1.04 | 2.86 | 4.95 | –0.16 | ~ | 0.45 | 0.07 |
43 | 一度に業務が重複した場合は,焦ってしまい,しばしば冷静な対応をとることができない ※ | 1 | 0.1 | 3.39 | 1.04 | 2.36 | 4.43 | –0.28 | ~ | 0.57 | –0.05 |
44 | カルテからの情報収集を通し,事前に処置などで使用する物品を準備するが,しばしば準備できていないことがある ※ | 2 | 0.2 | 3.33 | 0.88 | 2.45 | 4.20 | –0.27 | ~ | 0.57 | –0.04 |
45 | 忙しい中でも,電子カルテの記載をリアルタイムに行っている | 1 | 0.1 | 3.61 | 1.10 | 2.51 | 4.71 | –0.20 | ~ | 0.34 | 0.34 |
46 | 患者に依頼される前に,アイスノンの交換など,患者のニーズを満たす援助を行っている | 0 | 0.0 | 4.34 | 0.81 | 3.53 | 5.15 | –0.22 | ~ | 0.44 | 0.42 |
47 | 排泄介助が食事の時間帯に重ならないように,食事前に担当患者の排泄のニーズを確認している | 0 | 0.0 | 4.22 | 0.93 | 3.29 | 5.14 | –0.19 | ~ | 0.44 | 0.49 |
48 | 不穏あるいはせん妄のある患者がいた場合,多忙な中でも,日中の活動を促すケアを行っている | 1 | 0.1 | 4.23 | 0.83 | 3.40 | 5.06 | –0.22 | ~ | 0.46 | 0.49 |
49 | 体動センサーの作動が頻回な患者がいた場合には,多忙な中でも,体動センサーの作動が頻回な理由をすぐに確認している | 5 | 0.6 | 4.41 | 0.86 | 3.55 | 5.27 | –0.23 | ~ | 0.46 | 0.49 |
50 | 多忙だと,安全に配慮した患者の療養環境の整備(ベッド柵の変更など)まで気が回らない ※ | 1 | 0.1 | 3.33 | 1.03 | 2.31 | 4.36 | –0.33 | ~ | 0.40 | –0.16 |
51 | 薬剤の準備中に他者に声をかけられた際,手元の作業を続けながら話を聞くことがある ※ | 0 | 0.0 | 3.85 | 1.03 | 2.83 | 4.88 | –0.15 | ~ | 0.19 | 0.08 |
52 | 薬剤投与時は,多忙な中でも可能な限り準備から投与まで自分で行えるように時間を確保している | 1 | 0.1 | 4.48 | 0.92 | 3.56 | 5.39 | –0.18 | ~ | 0.44 | 0.45 |
53 | 薬剤の投与を他者に依頼する際は,投与する薬剤がどこまで準備できているかを伝えている | 0 | 0.0 | 4.98 | 0.84 | 4.15 | 5.82 | –0.25 | ~ | 0.44 | 0.52 |
54 | 担当患者の食事内容の変更などを他者が行った際には,実際に正しく変更されたかを自分の目でも必ず確認している | 1 | 0.1 | 4.45 | 1.06 | 3.39 | 5.52 | –0.21 | ~ | 0.42 | 0.51 |
55 | 多忙な中でも,患者が治療への不安あるいは悩みを話す際には,そのタイミングを逃さないようにしている | 0 | 0.0 | 4.61 | 0.80 | 3.81 | 5.42 | –0.23 | ~ | 0.55 | 0.54 |
56 | 患者との会話の途中に,ナースコールの対応などで離席してしまった際には,必ず患者のところに戻って話を聞いている | 1 | 0.1 | 4.85 | 0.82 | 4.03 | 5.68 | –0.25 | ~ | 0.55 | 0.51 |
57 | 忙しい中でも,ベッド柵を変更するなど,患者がより自立して療養できる環境を整えている | 1 | 0.1 | 4.49 | 0.82 | 3.68 | 5.31 | –0.33 | ~ | 0.49 | 0.56 |
58 | 患者の自立を促すために,看護師が介助した方が早いこと(靴の着脱など)でも,患者が実施するのを見守るようにしている | 0 | 0.0 | 4.43 | 0.86 | 3.56 | 5.29 | –0.22 | ~ | 0.47 | 0.45 |
59 | その日の業務に追われてしまい,段階的な退院支援の介入を行えていない ※ | 0 | 0.0 | 3.92 | 0.97 | 2.96 | 4.89 | –0.22 | ~ | 0.35 | –0.09 |
60 | 看護学生もしくは後輩看護師の指導の際には,自分が実施した方が早いことでも,指導の必要性を考慮して見守るようにしている | 2 | 0.2 | 4.54 | 0.82 | 3.72 | 5.36 | –0.19 | ~ | 0.36 | 0.37 |
61 | 看護学生もしくは後輩看護師の指導の際に,一度に多くのことを指導してしまい,相手に理解してもらえなかったことがある ※ | 5 | 0.6 | 3.48 | 0.95 | 2.53 | 4.43 | –0.13 | ~ | 0.28 | 0.06 |
62 | 一日の勤務終了後,その日に上手くいかなかった優先順位の判断などを自分自身で振り返っている | 0 | 0.0 | 4.18 | 0.94 | 3.24 | 5.12 | –0.14 | ~ | 0.49 | 0.46 |
63 | 業務を円滑に遂行している看護師に,どのように情報収集をしているか,あるいは優先順位をつけているかを聞いている | 1 | 0.1 | 3.57 | 1.17 | 2.41 | 4.74 | –0.02 | ~ | 0.49 | 0.39 |
スピアマン相関係数
※は逆転項目,網掛けは項目分析によって削除した項目
各項目が多重課題遂行能力の8側面および本研究独自の側面のいずれに対応するかを以下の通り示した.
タイムマネジメント:No. 3, 36, 37, 38, 40, 41, 44, 45, 46, 47 状況把握:No. 15, 16, 26, 27, 28, 30, 31, 39, 49
他者への業務依頼:No. 9, 10, 11, 13, 14, 18, 24 タイムスケジュール:No. 2, 5, 6, 7, 8, 42
相互協力:No. 12, 20, 21, 22, 23, 25 安全な看護提供:No. 43, 50, 51, 52, 53, 54 優先順位の判断:No. 1, 32, 33, 34, 35 情報共有:No. 4, 17, 19, 29
本研究独自の側面 個別的なニーズの充足:No. 55, 56, 57, 58, 59 適切な指導:No. 60, 61 自他の経験の振り返り:No. 62, 63
N = 825
No | 質問項目 | 因子 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | ||
因子1 【個別的なニーズの充足】(Cronbach α = .84) | ||||||||
56 | 患者との会話の途中に,ナースコールの対応などで離席してしまった際には,必ず患者のところに戻って話を聞いている | .695 | –.095 | .145 | –.132 | –.015 | .022 | .053 |
57 | 忙しい中でも,ベッド柵を変更するなど,患者がより自立して療養できる環境を整えている | .615 | .122 | .030 | .068 | –.024 | –.109 | .041 |
55 | 多忙な中でも,患者が治療への不安あるいは悩みを話す際には,そのタイミングを逃さないようにしている | .579 | .029 | .184 | –.059 | .052 | –.068 | .043 |
58 | 患者の自立を促すために,看護師が介助した方が早いこと(靴の着脱など)でも,患者が実施するのを見守るようにしている | .568 | .091 | .088 | .017 | –.151 | –.108 | .146 |
48 | 不穏あるいはせん妄のある患者がいた場合,多忙な中でも,日中の活動を促すケアを行っている | .510 | –.074 | –.049 | .204 | .066 | .005 | .052 |
46 | 患者に依頼される前に,アイスノンの交換など,患者のニーズを満たす援助を行っている | .477 | .005 | –.174 | .289 | –.017 | .088 | –.099 |
47 | 排泄介助が食事の時間帯に重ならないように,食事前に担当患者の排泄のニーズを確認している | .476 | –.006 | –.182 | .303 | –.023 | .135 | –.063 |
54 | 担当患者の食事内容の変更などを他者が行った際には,実際に正しく変更されたかを自分の目でも必ず確認している | .399 | .050 | .085 | .040 | .009 | .013 | .084 |
52 | 薬剤投与時は,多忙な中でも可能な限り準備から投与まで自分で行えるように時間を確保している | .388 | –.114 | .121 | .108 | .023 | .054 | .019 |
53 | 薬剤の投与を他者に依頼する際は,投与する薬剤がどこまで準備できているかを伝えている | .360 | .014 | .238 | –.145 | .045 | .120 | .031 |
因子2 【優先順位の予期的判断】(Cronbach α = .81) | ||||||||
33 | 業務の重要度および緊急度ばかりでなく,その業務を遅らせることにより生じる,他の業務への影響まで考慮して優先順位を判断している | –.021 | .849 | –.032 | .029 | .010 | –.106 | .064 |
35 | 他の業務の予定から逆算して,各業務をいつまでに完遂する必要があるかを考えている | –.030 | .782 | –.055 | .139 | –.051 | –.048 | –.051 |
34 | 患者の状態だけではなく,病棟の取り決め(シーツ交換のタイミングなど)を考慮して,各業務をその日に実施すべきか否かを判断している | .050 | .727 | –.066 | .059 | –.121 | .054 | .018 |
32 | 患者の重症度および緊急度だけではなく,時間経過に伴う状態変化の視点から,業務の優先順位を判断している | .015 | .665 | .010 | –.039 | .072 | –.002 | .014 |
40 | 突発的に生じる業務に対応するために,時間に余裕のある際に,実施できる業務を前もって実施している | .032 | .382 | .107 | .060 | .037 | .020 | –.041 |
因子3 【自他の状況把握に基づく依頼】(Cronbach α = .75) | ||||||||
13 | 自分で実施した方がスムーズに行える業務か否かを判断した上で,スムーズに行えないと判断した場合は,他者に協力を依頼している | .099 | –.136 | .712 | .066 | –.024 | –.068 | –.018 |
10 | 業務を依頼する際は,相手の能力および相手が実施できる状況であるかを熟慮している | .048 | .055 | .522 | –.128 | .120 | .104 | –.060 |
12 | 一人でも実施できるが,複数人で実施した方が患者の安楽を確保できるケア(清拭など)は,可能な限り複数人で実施するようにしている | .236 | –.148 | .489 | .192 | –.172 | .048 | –.069 |
9 | 時間の都合上,自分では対応できない業務が生じた際は,速やかに他の看護師にその業務を依頼している | –.123 | –.012 | .487 | .230 | .068 | .011 | .000 |
18 | 業務を遂行する上で悩むことや不安なことがある際には,すぐに他のスタッフに相談している | –.041 | .016 | .452 | .019 | .076 | .124 | .020 |
14 | 各業務が看護師以外のコメディカルにも依頼できる業務(患者の搬送など)か否かを意図的に考えている | .111 | .137 | .359 | .092 | –.032 | –.002 | –.152 |
因子4 【チーム内相互支援】(Cronbach α = .78) | ||||||||
20 | それぞれの看護師が記録や患者指導などに専念できる時間を確保するために,お互いに業務の時間調整を行っている | –.099 | .142 | .069 | .509 | –.055 | .102 | .138 |
45 | 忙しい中でも,電子カルテの記載をリアルタイムに行っている | .147 | .095 | –.017 | .485 | –.019 | –.153 | –.044 |
19 | 業務の進捗状況と自分の抱えている業務量を他の看護師(リーダーや先輩看護師)にも順次報告している | –.062 | .015 | .245 | .429 | –.053 | .100 | .181 |
8 | 突発的な業務の発生以外,始業時に立てたタイムスケジュール通りに,業務を実行できる | .032 | .056 | .174 | .390 | .121 | –.124 | –.113 |
15 | 看護師のペア間あるいはチーム内の業務の再分配のために,他のスタッフの業務量および業務遂行能力を把握している | .057 | .129 | .264 | .366 | .210 | –.195 | –.030 |
16 | ケアの実施中に別の担当患者からナースコールがあった際は,他の看護師が対応できる状況か否かを瞬時に判断している | .099 | .148 | .169 | .366 | .107 | –.099 | –.032 |
17 | 中断した業務(処置・清潔ケアなど)の再開時には,チームメンバーと中断した業務の進捗状況を確認している | –.182 | .183 | .162 | .362 | .023 | .143 | .005 |
因子5 【効果的な情報収集に基づくスケジュール管理】(Cronbach α = .72) | ||||||||
5 | カルテからの情報収集に加え,ラウンドを通して把握した患者の情報に基づき,タイムスケジュールを柔軟に変更している | –.030 | .043 | .088 | .007 | .824 | –.116 | .011 |
3 | 勤務中に必要となる治療上の指示を推察し,あらかじめ医師に確認している | –.046 | –.077 | –.094 | .112 | .646 | .117 | .079 |
6 | 元々計画していたタイムスケジュールに遅延が生じたとき,その都度タイムスケジュールを組み直すことができる | –.094 | .093 | .172 | .137 | .602 | –.018 | –.017 |
4 | 医師との迅速かつ確実な情報共有を図るために,医師の回診あるいは処置に意図的に同席している | .168 | –.337 | –.136 | .380 | .400 | –.011 | .086 |
2 | タイムスケジュールは,各業務の性質(時間で決められた業務か,他者との共同業務かなど)を考えた上で,組み立てている | –.072 | .157 | .123 | –.053 | .353 | .099 | .045 |
因子6 【主体的コミュニケーション】(Cronbach α = .75) | ||||||||
22 | 依頼された業務を実施した際には,その経過(業務の実施状況・患者の状態など)を自分から依頼者に伝えている | .009 | –.012 | .099 | –.149 | .073 | .790 | –.023 |
21 | 他者に業務を依頼した際には,依頼した業務が適切に実施されたかを自分から確認するようにしている | .026 | .055 | .038 | .047 | –.035 | .650 | .042 |
因子7 【自他の経験に基づく自己改善】(Cronbach α = .66) | ||||||||
63 | 業務を円滑に遂行している看護師に,どのように情報収集をしているか,あるいは優先順位をつけているかを聞いている | .083 | –.067 | –.063 | .087 | .022 | .031 | .639 |
62 | 一日の勤務終了後,その日に上手くいかなかった優先順位の判断などを自分自身で振り返っている | .232 | .089 | –.105 | –.066 | .097 | –.051 | .628 |
因子間相関 因子1 | 1.000 | |||||||
因子2 | .708 | 1.000 | ||||||
因子3 | .632 | .651 | 1.000 | |||||
因子4 | .685 | .748 | .794 | 1.000 | ||||
因子5 | .582 | .727 | .666 | .718 | 1.000 | |||
因子6 | .676 | .681 | .664 | .607 | .618 | 1.000 | ||
因子7 | .531 | .372 | .243 | .382 | .305 | .304 | 1.000 |
因子抽出法:プロマックス法(最尤法)
尺度全体(Cronbach α = .93)
N = 825
看護師の多重課題遂行能力尺度 | 看護実践の卓越性自己評価尺度―病棟看護師用― | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
合計得点 | 情報収集と活用 | 専門的知識・技術 | 患者・家族とのコミュニケーション | 悪条件の克服 | 問題明確化と創造性発揮 | 人格尊重と尊厳順守 | 複数役割発見と同時進行 | ||||
平均点 | 標準偏差 | ||||||||||
合計得点 | 169.7 | 16.7 | .722** | .615** | .607** | .534** | .568** | .537** | .589** | .617** | |
第1因子 | 個別的なニーズの充足 | 45.1 | 5.5 | .677** | .524** | .502** | .532** | .583** | .522** | .600** | .547** |
第2因子 | 優先順位の予期的判断 | 23.5 | 2.9 | .595** | .552** | .551** | .411** | .458** | .422** | .451** | .527** |
第3因子 | 自他の状況把握に基づく依頼 | 29.5 | 3.2 | .457** | .399** | .393** | .395** | .346** | .286** | .384** | .415** |
第4因子 | チーム内相互支援 | 30.2 | 4.3 | .563** | .511** | .537** | .374** | .440** | .464** | .410** | .468** |
第5因子 | 効果的な情報収集に基づくスケジュール管理 | 23.8 | 2.8 | .507** | .492** | .466** | .330** | .366** | .373** | .382** | .468** |
第6因子 | 主体的コミュニケーション | 10.0 | 1.3 | .455** | .397** | .391** | .377** | .359** | .275** | .387** | .437** |
第7因子 | 自他の経験に基づく自己改善 | 7.8 | 1.8 | .341** | .286** | .259** | .253** | .265** | .309** | .283** | .276** |
スピアマンの順位相関係数 ** p < .01
7因子37項目のモデル適合度はGFI = .889,AGFI = .872,CFI = .889,RMSEA = .048であった(図1).また,本尺度とNESCPとの相関を求めた結果,両尺度の合計得点の相関はr = .722(p < .01)であり,本尺度の各因子とNESCPの下位尺度得点の相関はr = .253~.600(p < .01)であった(表4).
本尺度37項目全体のCronbach α係数はα = .93,各因子のα係数はα = .66~.81であった(表3).また,再テスト法による安定性を検証した結果,合計得点の級内相関係数はr = .853,各因子は第1因子から順にr = .757,.587,.699,.708,.711,.590,.486であった(p < .01).
なお,NESCPにおける35項目全体のCronbach α係数はα = .97,各下位尺度のα係数は第1下位尺度から順にα = .90,.88,.91,.88,.86,.91,.89であった.
本調査の回収率は68.7%であり,対象とした集団である内科系病棟,外科系病棟,内科系・外科系の混合病棟に勤務する看護師から十分なサンプルサイズを得ることができたと考える.また,日本看護協会の実施した全国規模の看護職員実態調査(日本看護協会,2022)と比べた結果,性別比は近似する値となった一方,比較的若い年齢層で構成されるという特徴があった.このことは,看護職員実態調査の対象が病棟だけではなく,外来や介護保険施設など年齢層の高い看護師も多く働く職場が含まれていたためであると考えられ,概ね母集団を反映した結果であると考える.
2. 内科系・外科系病棟看護師の多重課題遂行能力の因子構造本結果より,内科系・外科系病棟看護師の多重課題遂行能力(以下,多重課題遂行能力とする)は7因子構造であることが確認された.
これら7因子には,優先順位の判断,他者への業務依頼といった,先に述べた8側面と共通する要素が含まれ,既存の知見との整合性が確認された.また,インタビュー調査に基づく尺度原案の作成段階で加えられた本研究独自の側面である「個別的なニーズの充足」「自他の経験の振り返り」も多重課題遂行能力を構成する要素として明確に示された.このことは,これまで捉えきれなかった多重課題遂行能力に新たな知見を加え,本尺度の有用性を高めたと考える.一方,複数の課題を遂行する中でも,適切な教育的指導を行う必要があると考え,尺度原案の作成段階で「適切な指導」の側面を導出した.しかし,分析の結果,この側面は多重課題遂行能力の構成要素とは異なると判断した.これは,多重課題遂行能力7因子が,業務の調整,優先順位の判断など,具体的な業務遂行に関連していることに対し,「適切な指導」は個人の教育観や教育技法に依存するなど,異なる性質を有していたためであると考える.
以下に各因子の特徴について述べる.
第1因子の【個別的なニーズの充足】は多重課題を遂行するうえで,安全に配慮しつつ患者を尊重するとともに,患者の個別的なニーズを把握し,充足する能力である.看護職の倫理綱領(日本看護協会,2021)が示すように,看護師は多忙な中でも患者との間に信頼関係を築き,患者の意向や価値観に沿った支援を行う必要がある.また,患者のニーズを充足することは,ナースコールによる業務の中断を減らす(上條ら,2016)ことに繋がり,多重課題を円滑に遂行するうえで必須な能力と考える.
第2因子の【優先順位の予期的判断】は複数の業務を遂行する際に適切に優先順位を判断するための能力である.先行研究(片岡ら,2012)では,多重課題遂行における優先順位の重要性が指摘されているものの,その具体的な判断方法や内容については明確にされていない.この点において,第2因子は,一時点での状況判断にとどまらず,患者の状態変化や各業務の遅延がもたらす影響など,時間的変化を考慮に入れた優先順位の予期的な判断の必要性を具体的に示している.
第3因子の【自他の状況把握に基づく依頼】は自己を含めた周囲の状況を把握し,適切に他者に業務を依頼するための能力である.多重課題の遂行では,限られた時間の中で重複する課題を解決することが求められ,看護師が一人で対応するには限界がある(Husebø & Olsen, 2019).そのため,自身の能力を把握し(片岡ら,2012),他者に業務を依頼・相談する(別府ら,2006;片岡ら,2012)ことが多重課題を遂行するうえで必須であると考える.
第4因子の【チーム内相互支援】は多重課題を適切に遂行するうえで,看護師同士の業務量の把握や再分配を行い,複数の課題を適切かつ円滑に遂行するための能力である.尾崎・亀岡(2017)が示すように,看護師は互いの業務量を把握・共有したうえで業務の再分配をすることが求められる.互いの業務の進捗状況や業務量を共有することにより業務の再分配を効果的に行うことが可能となり,多重課題を円滑に遂行することが可能になると考える.
第5因子の【効果的な情報収集に基づくスケジュール管理】は常に変化する患者の状態や医師の指示などの情報を効果的に収集し,スケジュールを柔軟かつ適切に調整するための能力である.先行研究では,業務の重複がインシデントの増加に繫がることが報告されている(小林ら,2009).適切なスケジュール管理により不要な業務の重複が防げ,多重課題を適切かつ円滑に遂行することが可能になると考える.
第6因子の【主体的コミュニケーション】は他者からの呼びかけを待つのではなく,自ら発信し,医療者間でのコミュニケーションを主体的にとる能力である.自らコミュニケーションをとることにより,自身が他の業務を実施している最中に,他の看護師から呼び止められる状況を減らすことができ,業務の重複・中断を避けることに繋がるといえる.また,刻々と状況が変化する臨床の場において業務の失念を完全に回避することはできないとされ(山品・舟島,2006),業務の確実な実施という観点からも必須な能力と考える.
第7因子の【自他の経験に基づく自己改善】は自他の経験に基づき自己の多重課題の実践を改善していくための能力である.塚本(2009)は他者の実践に基づく代理体験の学習効果,田村・池西(2014)は自己の経験に基づくリフレクションの有効性を示しており,本項目の有用性を裏付けている.自己改善に取り組むことにより,看護師は,より適切な優先順位の判断を行うことが可能となり,多重課題をより適切に遂行できると考える.
3. 開発した尺度の妥当性・信頼性の検証 1) 妥当性の検証構造的妥当性はGFI,AGFI,CFIの値が1に近いほどあてはまりがよいとされ,一般的に0.90以上の値だとあてはまりがよいと判断される(小塩,2014).また,RMSEAは.050以下であればあてはまりがよいと判断される(小塩,2018).本尺度のモデル適合度はGFI = .889,AGFI = .872,CFI = .889であり,0.90に近似する値を示し,RMSEA = .048であったことから,概ね妥当な適合度を示す結果であったと判断でき,構造的妥当性を支持する結果が得られたと考える.一方,探索的因子分析および確証的因子分析に同一のデータを用いた場合,過剰適合を生じる可能性も指摘されている(Fokkema & Greiff, 2017).そのため,後続研究による異なるデータを用いた検証や項目内容の再検討を行う余地がある.
併存的妥当性をNESCPを用いて検証した結果,両尺度の合計得点の相関はr = .722であった.相関係数は,.70以上で強い相関がある,.40~.70で比較的強い相関がある,.20~.40で弱い相関があると判断されることからも(小塩,2018),本尺度全体の併存的妥当性を支持する結果であったと考える.また,本尺度の各因子とNESCPの下位尺度得点の相関は,r = .253~.600であり,強弱はみられるもののすべてに有意な相関が確認された.なお,他の因子と比較して低い相関を示した第7因子は,NESCPに不足する視点である「自己改善」に関する内容で構成されていたためであると考えられる.
2) 信頼性の検証内的整合性は一般にα係数が0.7以上あれば許容でき(Fayers & Machin, 2005),0.5を下回るようであれば尺度項目を再検討するべき(小塩,2018)と判断される.本尺度全体のCronbach α係数はα = .93であり内的整合性が確保された.各因子のCronbach α係数はα = .66~.81であり,特に第7因子が低かった.Cronbach α係数は,尺度の項目数が少ないほど低くなるという特徴があり(畑中,2014)第7因子は2項目と少ない項目数で構成されていたことが一因であったと考えられる.
また,安定性は再テスト法を用いて検証し,合計得点の級内相関係数はr = .853,各因子についてはr = .486~.757を示した.安定性の判断基準は,相関係数と同じように解釈する(対馬,2016),.75以上あると信頼性が良好であると判断する(内山,2007)とされることから,本尺度全体は,内的要因および外的要因の影響を受けづらい安定した尺度であることが確認された.また,各因子についても,比較的強い相関および強い相関(小塩,2018)が示され,各因子の安定性を支持する結果が得られたと考える.
4. 開発した尺度の活用方法と意義本尺度は,重症度や看護必要度の高い患者が多く,多重課題への対応が余技なくされる内科系・外科系病棟の看護師に適応可能であり,一日の勤務の中で実施する必要がある複数の業務を適切かつ円滑に遂行するための指標となる.舟島(2015)は,看護職者個々による測定用具の活用が職業活動の改善につながる必須要件であると述べている.看護師は本尺度を自己査定のツールとして用いることで,多重課題を遂行するうえで自己に不足する能力を把握することが可能となり,何を改善すれば多重課題をより適切に遂行できるかを考えることが可能になる.さらに,各看護師の能力の向上は,患者に提供する看護の質の向上に寄与すると考える.
また,看護教育者は各施設が評価指標のない中で実施していた従来の教育プログラム(小口,2021)について,本尺度を用いた量的な教育効果の評価を行うことが可能になる.さらに,本尺度はレベルIV以上かつ多重課題を適切に遂行していると看護師長から推薦のあった看護師の実践に基づき開発されている.このことは,より習熟した看護師の適切な多重課題の実践を可視化したといえ,本尺度の因子構造や各項目内容を参考にすることで,より具体的かつ適切な教育内容を検討することが可能になると考える.
本尺度は,レベルII以上の看護師への調査に基づき開発されており,調査対象は400床以上の二次・三次医療機関を有する施設の7対1の看護配置である病棟の看護師に限定されていた.そのため,本研究の調査対象外であった看護師への本尺度の適用可能性は明らかではない.また,探索的因子分析および確証的因子分析に同一のデータを用いているため,算出されたモデル適合度は過剰適合が生じている可能性がある.加えて,本研究はCOSMINチェックリスト(Mokkink et al., 2019)に示されている推奨事項を全て満たすことはできなかった.中でも,反応性については研究デザイン上,検証することができなかった.
今後,本研究の対象外であった看護師への本尺度の適用可能性を検証していくとともに,異なるデータを用いたモデル適合度の確認,本尺度の反応性の検証を行っていく必要がある.
本研究は【個別的なニーズの充足】【優先順位の予期的判断】【自他の状況把握に基づく依頼】【チーム内相互支援】【効果的な情報収集に基づくスケジュール管理】【主体的コミュニケーション】【自他の経験に基づく自己改善】の7因子37項目からなる「看護師の多重課題遂行能力尺度―内科系・外科系病棟看護師用―」を開発した.この尺度のモデル適合度はGFI = .889,AGFI = .872,CFI = .889,RMSEA = .048を示し構造的妥当性が確認され, NESCPとの相関係数はr = .722を示し併存的妥当性が確認された.尺度全体のCronbach α係数はα = .93を示し内的整合性が確認され,再テスト法の結果から,尺度全体の級内相関係数はr = .853を示し安定性が確認された.
付記:本研究は,長野県看護大学大学院看護学研究科に提出した博士論文に加筆・修正を加えたものである.
謝辞:本研究の実施にあたり,ご協力いただいた各施設の看護部長ならびに看護師の皆様に深く感謝申し上げます.本研究は令和3~6年度科学研究費補助金(基盤研究C)21K10588の研究成果の一部である.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:SOおよびSKは研究の着想およびデザインへの貢献,SOはデータ収集,SOおよびSK,MWはデータ分析,分析解釈,原稿の作成および研究プロセス全体への助言を行い,すべての著者は最終原稿を読み,承諾した.