2025 Volume 45 Pages 1-13
目的:「看護師の健康に影響を与える仕事への態度」という概念の構造を明らかにし,概念の活用性を検討する.
方法:Rodgers & Knafl(2000)の分析方法にて4つのデータベースを用いた46文献を対象とした.
結果:【自己を低く評価する】,【看護師としての在り方に戸惑いを抱く】,【本心をごまかす】,【役割への重圧を感じる】,【自分を差し置いて患者に献身する】,【我を忘れて仕事に没頭する】の属性6つ,先行要件5つ,帰結3つが示された.
結論:「責任感から自分よりも患者を優先して仕事へ尽力するという前向きさがある一方で,自己評価の低さによる仕事への重圧が相まって看護師としての在り方に戸惑いを抱くことで自身の健康を左右する働き方を選択する恐れがある状態」と定義した.本概念は,仕事と健康のバランスを模索する上で自己の内面に気づく機会を提供し,看護基礎教育において自己の健康管理方法を検討する促しや組織の心理的安全性の構築へ有用性が示唆された.
Aim: The aim of this study was to clarify the structure of “Work Attitudes Affecting Nurses’ Health” and to examine the concept’s applicability.
Methods: The study utilized Rodgers & Knafl’s (2000) concept analysis approach, analyzing 46 references from four databases.
Results: The analysis identified six attributes of work attitudes affecting nurses’ health:, low opinion of oneself, feeling confused about how to be as a nurse, self-deception about one’s true feelings, feeling the pressure of the role, prioritizing others at one’s own expense, and losing oneself in one’s work. Five antecedents and three consequences were identified.
Conclusions: Work attitudes that affect nurses’ health were defined as a state in which nurses are positive, putting patients before themselves out of a sense of responsibility and devoting themselves to their work, but are at risk of choosing a way of working that could affect their own health due to confusion about how to be a nurse, combined with pressure to work due to a low self-esteem. This concept highlights the importance of self-awareness in balancing work and health and is recommended for inclusion in basic nursing education to help students manage their health and foster psychological safety within organizations.
看護師は,看護学に基づいて体系化された知識や技術を用いて人々の健康保持・増進を支援する医療専門職であり,その土台には自己の健康保持・増進にも十分な関心を持って管理する必要性が位置付けられている.看護師の倫理綱領によると,「看護師は自身の尊厳,ウェルビーイングおよび健康に価値を置く」(国際看護師協会,2021)ことが示されており,看護職の倫理綱領(日本看護協会,2021)第12条では「より質の高い看護を行うために,看護職自身のウェルビーイングの向上に努める」ことが明文化されている.国内外において看護師は専門職として自己を身体的・精神的・社会的に良好な状態に保ち,健康と幸福であることが援助対象への健康と幸福をもたらす根底として引用されている.しかし実際には看護師の健康上の問題は多岐に渡り,ストレスを含む精神的問題(Murat et al., 2021;Sampaio et al., 2021;下川・片山,2015;米山ら,2019),疲労(井上,2017;岩崎ら,2021;Jalilian et al., 2019),腰痛などの筋骨格系の問題(Fujii et al., 2019;三枝・宮村,2022;武田・渡邉,2012;Yokota et al., 2019),睡眠障害(阿南ら,2019;浅岡ら,2012;Han et al., 2019;折山ら,2019;Salari et al., 2020)などが取り上げられてきた.また,就業へ困難感を抱いてバーンアウト(Galanis et al., 2021;井奈波,2014;川村・鈴木,2014;塩見ら,2021)に陥ることや離職(Han et al., 2015;Lavoie-Tremblay et al., 2022;Saijo et al., 2016)する状況は以前からも報告されている.これらは職場の環境要因や労働上の特性からも影響を受ける恐れもあるが,個人要因として健康と仕事の両立にどのような態度を有しているかという点も働き方の選択へ影響すると推察する.
「態度」は「認知的,感情的,行動的」(Rosenberg et al., 1960)3要素をもつと解釈され,「認知的」要素は態度対象に関する賛否や善し悪しなどの評価を示し,「感情的」要素は態度を示す対象への好き嫌いなどの情緒性であり,「行動的」要素は何かの出来事に対して行動するだろうという対象への行動傾向を示している.また,人々の態度は行動意図の前段階に位置することから,態度から行動の予測が可能(Ajzen, 1988)とも理解されている.さらに態度の特徴としてAltmann(2008)は,①意識的または無意識的な精神状態にあること,②価値観や信念,感情によるものであること,③行動または行動の素因となるものであることと説明している.態度は個人の価値観から影響を受けつつ意識あるいは無意識に行動選択をさせる可能性から,健康と仕事への態度に着目することで自身の健康に合った働き方の選択を促し,看護師自身のウェルビーイング向上に寄与すると考える.しかし看護師の健康と仕事の両立における態度は十分に理解されていないことから,本概念の構造を明らかにする必要があると判断した.これにより,健康と仕事のバランスにおける価値づけという自己の内面に触れるプロセスが生じ,日常では改めて考えることはなかった自身の健康と仕事に対する在り方との向き合いを円滑にする上で意義があると言える.
「看護師の健康に影響を与える仕事への態度」という概念の構造を明らかにし,概念の活用性を検討する.
「看護師の健康に影響を与える仕事への態度」という社会一般には十分に周知されていない概念を扱うことから,代表する文献を直接的に収集することは困難と想定していた.そのため,概念を構成しているいくつかの要素としてキーワードを分割して検索を行った.和文献では医学中央雑誌,Google Scholarを使用し,キーワードを「看護師」and「健康」and「仕事」and「態度」とした.英文献では,PubMed,CINAHL with Full Textを使用し,キーワードを「Nurse」and「Health」and「Work」and「Attitude」とした.本概念は,近年の社会背景における人々の価値観の流動性を考慮し,文献検索期間を2011年~2021年の10年間とした.文献の種類を原著論文に限定した結果,和文献488件,英文献158件まで絞り込みを行い,重複文献および看護師を対象者としていない文献,内容が「看護師の健康に影響を与える仕事への態度」として沿わない文献は除外した.また,「看護師の健康に影響を与える仕事への態度」は国による社会背景や文化などの違いから影響を受ける可能性が想定されたが,文献から明らかに除外すべき背景は記述されていなかったことから,国内外での重要な知見を拾い上げるために国による除外条件は設けなかった.Rodgers & Knafl(2000)の概念分析方法を用いるには少なくとも30文献をサンプルサイズとしており,最終的には和文献38件,英文献8件の計46件を分析対象とした.
2. データ分析方法「看護師の健康に影響を与える仕事への態度」の捉えられ方は,社会背景や文化における人々の価値観の変遷による流動性が考えられ,本研究での分析手法としてRodgers & Knafl(2000)の哲学的基盤による概念分析方法を用いることが適当と判断した.具体的には,属性,先行要件,帰結に関する記述を抽出し,それぞれのコーディングシートを作成した.共通性や相違性に着目しつつ抽象化を進め,属性,先行要件,帰結におけるカテゴリーの関係性を考慮しながら概念モデルを作成し構造を図示した.
なお分析の過程において,「看護師の健康に影響を与える仕事への態度」について想像できる体験をもつ看護師臨床経験を有し看護管理学を専攻する大学院生(修士課程5名,博士課程5名)や大学院で看護管理学の研究指導にあたる研究者4名から助言を受け,分析の妥当性を確保した.
本概念は健康と仕事とのバランスにおける態度という複合的な概念であり直接焦点化している文献には限りがあったことから,看護師の健康と仕事における態度に関して読み取れる記述がある文献も採用した.以上の条件で,属性,先行要件,帰結として得られた結果を以降で示す.「態度」は「認知的,感情的,行動的」(Rosenberg et al., 1960)3要素をもつと解釈され,「認知的」要素は態度対象に関する賛否や善し悪しなどの評価を示し,「感情的」要素は態度を示す対象への好き嫌いなどの情緒性であり,「行動的」要素は何かの出来事に対して行動するだろうという対象への行動傾向を示している.このような論考から,「態度」の属性では3要素のどの側面から分類したものかについても表1に示した.なお,カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを〈 〉,代表的なコードを「 」で表す.
カテゴリー(態度の3要素) | サブカテゴリー(態度の3要素) | コード | 文献 |
---|---|---|---|
自己を低く評価する (認知的) |
周りから認められていないと感じる (認知的) |
「職場で自分の存在を認めてもらえていない」と感じている | 福澤・冨田(2020) |
看護師として大切にされていると感じることができない | 丸岡ら(2019) | ||
他者から仕事への期待が低く無力感を多く体験している | 佐藤・三木(2014) | ||
自分がしていることに対して先輩・同僚から得られる意見や評価が不十分である | 鈴木ら(2012) | ||
自身の能力を過小評価する (認知的) |
自身の能力・力量の不足がある | 倉益ら(2012);松尾・鈴木(2016);本武(2016);坂井ら(2020) | |
患者に対して十分なケアができているかといった仕事に対する自信の度合い | 佐藤・三木(2014) | ||
自身を過小評価する傾向 | 鶴田・前田(2016);臼井(2017) | ||
多種・新規の業務内容に対応したりできない | 上野ら(2019) | ||
看護師としての在り方に戸惑いを抱く (認知的) |
仕事役割に曖昧さを感じる (認知的) |
自分に与えられている役割が曖昧であると感じている | Hwang(2019);上野ら(2019) |
看護という仕事内容の曖昧さがある | 池田・松枝(2020);井奈波・井上(2015) | ||
看護師は業務や役割が明確でない | 鈴木ら(2012);本武(2016);佐藤・三木(2014) | ||
役割の発揮に不全感がある (認知的) |
本来の看護ができない役割葛藤がある | 江口ら(2013) | |
看護実践における不全感がある | 井奈波・井上(2015);北島ら(2020);本武(2016) | ||
患者や家族に心のケアを行うという役割が十分に果たせていない | 白戸ら(2021) | ||
仕事への裁量度の低さを感じる (認知的) |
仕事裁量度が低いと認識 | 江口ら(2013);池田・松枝(2020);本武(2016);佐藤・三木(2014) | |
強制・命令が強く,かつ合理的な組織管理がなされていない | 池田・松枝(2020) | ||
自分のペースで働くコントロール度が低い | 井奈波・井上(2015);松尾・鈴木(2016);Sato et al.(2021);臼井(2017) | ||
仕事と仕事以外の生活を自身で調整できないと感じる | 田邊・岡村(2011) | ||
本心をごまかす (認知的) |
自己主張の弱さを感じる (認知的) |
自己主張できない,あるいは自己主張が弱い | 池田・松枝(2020);松本(2017) |
主体的に行動できないと感じる | 古賀(2011);田邊・岡村(2011) | ||
積極的に相手への働きかけを行うことが難しい | 松尾・鈴木(2016) | ||
ポジティブな感情や態度を抑制する傾向がある | 佐藤・三木(2014) | ||
気を遣って本音を抑える (認知的) |
気を遣って仕事の悩みや問題を気軽に話し合えないことがある | 上條(2018) | |
否定的感惰を抑制し伝わるべきことが伝わらない | 古賀(2011) | ||
自分の感情を抑えることや適切な感情を繕う | 松本(2017);長尾・角濱(2015) | ||
役割への重圧を感じる (感情的) |
役割に対する負担感をもつ (感情的) |
時間内に仕事が処理できない等のタイムプレッシャーを感じる | 呉竹ら(2013) |
看護師の役割に対する負担 | 松尾・鈴木(2016) | ||
リーダーシップの発揮に対する負担感 | 松尾・鈴木(2016) | ||
仕事への過剰な緊張感をもつ (感情的) |
医療事故への不安 | 倉益ら(2012) | |
長期的に仕事への過剰な緊張を感じる | Rostamabadi et al.(2017);白戸ら(2021) | ||
自分を差し置いて患者に献身する (行動的) |
自らを差し置く (行動的) |
自己犠牲 | 小林ら(2020) |
仕事と家庭生活を共に優先したいと思っても仕事が優先される | 中井ら(2011) | ||
看護師は自分の健康より先に患者の健康を置く | Reed(2014) | ||
患者へ高い献身性を示す (行動的) |
患者に対して高い献身性を示す | Chung et al.(2020) | |
「他者のための存在」を生き甲斐と感じる側面 | 小野ら(2011) | ||
他者への奉仕精神がある | 上野ら(2019) | ||
我を忘れて仕事に没頭する (行動的) |
仕事へ積極的な価値づけをする (行動的) |
「仕事に誇りを持つ」といった仕事そのものに対する積極的価値づけ | 小林ら(2020) |
負担を感じながらも様々な葛藤経験から役割を自覚する | 松尾,鈴木(2016) | ||
質の高い看護を常に追求するという価値観を持つ | 三枝(2019) | ||
自分を高めたり深めたりすることへの関心から自己充実的達成動機が高い | 鈴木ら(2012) | ||
際限なく仕事をする (行動的) |
仕事に対する制御不能な強迫観念 | Andreassen et al.(2018) | |
極端な仕事への没頭 | Hwang(2019);小林ら(2020) | ||
仕事への努力はきついものだと位置づけて更に仕事を見つけ出す | 小野ら(2011) | ||
相手を喜ばせようとすればするほど,際限なくサービスする | 三枝(2019) | ||
自分の健康から目を逸らす (行動的) |
患者の支援者であるものの,自身の健康には注意を払えない | Chung et al.(2020) | |
健康行動の大切さを知っていても必ずしもセルフケアに還元されるとは限らない | Ross et al.(2017) |
2サブカテゴリーが抽出され,〈周りから認められていないと感じる〉は職場で自分が受け入れられているかという評価に左右されて認めてもらえていないと感じていることから構成された.また〈自身の能力を過小評価する〉は,自分の能力や力量不足から自身を過小評価することから構成された.このカテゴリーは,周囲から認められている実感が持てずに自身を過小評価することを示していた.
2) 【看護師としての在り方に戸惑いを抱く】3サブカテゴリーが抽出され,〈仕事役割に曖昧さを感じる〉は看護という仕事内容の曖昧さから自分に与えられている役割が曖昧と感じることから構成された.〈役割の発揮に不全感がある〉は,役割発揮が不十分で本来の看護が出来ていない不全感から構成された.〈仕事への裁量度の低さを感じる〉は,仕事裁量度が低く自分のペースで働いている自由度の低さから構成された.このカテゴリーは,自身の役割に曖昧さや不全感を認識し,看護師としての在り方に戸惑いを抱くことを示していた.
3) 【本心をごまかす】2サブカテゴリーが抽出され,〈自己主張の弱さを感じる〉は自己主張が弱く主体的に行動できないことから構成された.また〈気を遣って本音を抑える〉は,自分の感情を抑えて気を遣って仕事の悩みや問題を相談できないことから構成された.このカテゴリーは,自己主張の弱さから気を遣って本音を抑えてごまかすことを示していた.
4) 【役割への重圧を感じる】2サブカテゴリーが抽出され,〈役割に対する負担感をもつ〉は時間内に仕事が終われないタイムプレッシャーや看護師として求められる役割へ抱く負担感から構成された.また〈仕事への過剰な緊張感をもつ〉は,医療事故への不安だけでなく仕事上での過剰な緊張感を長期に感じることから構成された.このカテゴリーは,仕事に対する負担感や過剰な緊張感によって看護師として役割への重圧を感じることを示していた.
5) 【自分を差し置いて患者に献身する】2サブカテゴリーが抽出され,〈自らを差し置く〉は仕事への使命感に基づいて自己を犠牲にして励むことや私生活を優先したくても実際は仕事の方を優先していることから構成された.また,〈患者へ高い献身性を示す〉は,高い献身性に基づいて患者に貢献することから構成された.このカテゴリーは,自分を差し置いても患者へ献身することを示していた.
6) 【我を忘れて仕事に没頭する】3サブカテゴリーが抽出され,〈仕事へ積極的な価値づけをする〉は仕事への誇りや充実感,質の高い看護を追求するという仕事に対する積極的な価値づけから構成された.また〈際限なく仕事をする〉は,仕事をせずにはいられないという制御不能な強迫観念から構成された.さらに〈自分の健康から目を逸らす〉は,看護師は患者の支援者という立場にありながらも自身の健康には注意を払えないことから構成された.このカテゴリーは,仕事へ高い責任感や積極的な価値づけという前向きさが表裏一体として自身の健康から目を逸らしてしまうほど際限なく仕事に没頭することを示していた.
2. 先行要件(表2) 1) 【経験と価値観に基づく個人的背景】5サブカテゴリーが抽出され,〈看護師としての経験値〉は新卒看護師や若年看護師という経験の浅さが役割を担うことへの困難を抱かせることから構成された.〈独自の行動規範〉は,自らの仕事を他の看護師に依頼しないという独自の行動規範から構成された.〈仕事への責任感〉は,目標達成のために責任感を持って役割を遂行することから構成された.〈ストレスへの対処能力〉は,働き続けられる看護師は様々なストレス要因への対処能力が高く,ストレス対処能力の低さは自己の健康を否定的に評価する傾向から構成された.〈物事に対する高いレジリエンス〉は,健康に自信を持っていることはレジリエンスを高くしている可能性があり,看護職もレジリエンスの獲得によって職務上の困難に対処できることから構成された.このカテゴリーは,看護師としての経験値,独自の行動規範,責任感,ストレス対処能力,レジリエンスというこれまで個人が培ってきた経験や価値観に基づいて構築されてきた背景が示された.
カテゴリー | サブカテゴリー | コード | 文献 |
---|---|---|---|
経験と価値観に基づく個人的背景 | 看護師としての経験値 | 学生時代に経験したことがない役割を担うことへの困難 | 池田・松枝(2020) |
経験が浅い | Ketelaar et al.(2015) | ||
若年看護師である | 池田・松枝(2020);北島ら(2020);西本ら(2019) | ||
独自の行動規範 | 自らの仕事を他の看護師に依頼しないという行動規範がある | 三枝(2019) | |
独自の規範 | 松本(2017);Ross et al.(2017) | ||
自らの役割に誠実である | 山本ら(2019) | ||
仕事への責任感 | 看護師としての責任感 | 坂井ら(2020);白戸ら(2021);高林(2019) | |
組織の目標達成のための行動に責任をもって遂行する傾向がある | 上野ら(2019) | ||
高い理想を掲げ,使命感を持って職務に携わる | 小林ら(2020) | ||
ストレスへの対処能力 | 大きなライフイベントを経験しても働き続けられる看護師はストレス要因への対処能力が高い | 北島ら(2020);岡田ら(2018);白戸ら(2021) | |
コーピング特性やパーソナリティ | 松尾・鈴木(2016);佐藤・三木(2014);臼井(2017) | ||
ストレス対処能力の低さ | Andreassen et al.(2018);松尾・鈴木(2016) | ||
物事に対する高いレジリエンス | 仕事上のストレスを柔軟に受け止め対応できる看護師はレジリエンスが高い | 福澤・冨田(2020) | |
自己を肯定的に自覚出来ることはレジリエンスを高めている | 福澤・冨田(2020) | ||
看護師もレジリエンスを高めることができれば職務上の困難にも対処できる | 山本ら(2019) | ||
職場での対人関係における葛藤 | 上司との関係性における葛藤 | 上司との関係がストレスとなる | 上條(2018);松本(2017) |
上司の支援の少なさがある | 江口ら(2013);井奈波・井上(2015);中井ら(2011) | ||
仕事の両立に上司が理解を示してくれる | 高林(2019) | ||
上司との信頼関係を作る | 川上ら(2013) | ||
同僚との関係性における葛藤 | 同僚からのサポート不足 | 井奈波・井上(2015);松本(2017);中井ら(2011) | |
看護師間の連携不足がある | 上條(2018) | ||
看護師同士を主とした職場の人間関係 | 丸岡ら(2019);松本(2017) | ||
医師との関係性における葛藤 | 医師看護師間の連携不足がある | 上條(2018) | |
医師との人間関係にストレスを感じる | 白戸ら(2021);本武(2016) | ||
医師と看護師との上下関係により自律性が発揮できない | 白戸ら(2021) | ||
患者との関係性における葛藤 | 看護実践における患者との関係性に葛藤がある | 井奈波(2014);井奈波・井上(2015);本武(2016);高林(2019) | |
患者に対する陰性感情がある | 北島ら(2020) | ||
日常的な患者との関わりの中で感情面でも健康を脅かされる危険性が高い | 松尾・鈴木(2016) | ||
患者による承服できないクレームがある | 坂井ら(2020) | ||
風通しを左右する組織風土 | 意見が通りにくい雰囲気 | 互いの意見が尊重されない自律性に乏しい組織風土 | 服部・舟島(2021);田邊・岡村(2011) |
相談することが叶わない孤独感 | Ketelaar et al.(2015);坂井ら(2020) | ||
休みが取りにくい雰囲気 | 休みがとりづらい職場環境がある | 丸岡ら(2019);松尾・鈴木(2016) | |
自分の仕事を代わってくれる人がいない職場の現状がある | 高林(2019) | ||
助け合いが乏しい雰囲気 | 自分で助けを求めにくい職場の雰囲気 | Ketelaar et al.(2015) | |
仕事で困っているときは助け合う雰囲気が支援として求められる | 高林(2019) | ||
協調性が乏しい職場の雰囲気がある | 上野ら(2019) | ||
仕事柄特有の労働条件 | 交代制勤務 | 不規則な勤務体制 | 池田・松枝(2020);呉竹ら(2013);高林(2019);小野ら(2011) |
交代制勤務のために生活リズムが崩れやすい | 江口ら(2013);池田・松枝(2020);岡田ら(2018);高林(2019) | ||
看護の実践に関連するシフト作業が健康へ影響する | Ross et al.(2017) | ||
長時間の労働 | 長時間労働 | Andreassen et al.(2018);井奈波(2014);井奈波・井上(2015);中井ら(2011);Reed(2014);Ross et al.(2017) | |
看護師の時間外労働 | 丸岡ら(2019);三枝(2019) | ||
時間的な切迫状況 | 時間的切迫 | 井奈波(2014);井奈波・井上(2015);佐藤・三木(2014) | |
限られた時間内に多くの仕事をしなければならない仕事の状況 | Ketelaar et al.(2015) | ||
時間的なプレッシャーの下での意思決定を行う状況 | Rostamabadi et al.(2017) | ||
複雑で高度な業務内容 | 複雑で多様な業務内容 | 複雑化する看護業務 | 高林(2019) |
段階的に難易度の高い新たな業務に従事する | 臼井(2017) | ||
新人指導や委員会などの役割を求められる | 丸岡ら(2019) | ||
重症患者の対応など患者ケアの難しさがある | 呉竹ら(2013);Reed(2014) | ||
心身に負担がかかる作業 | 過重労働が求められる | 井奈波(2014);井奈波・井上(2015);呉竹ら(2013);小野ら(2011) | |
患者の持ち上げや移送,姿勢の悪い姿勢での作業,長時間の立ち位置など重い身体活動を行うことが多い | Ketelaar et al.(2015);Rostamabadi et al.(2017);杉山ら(2013) | ||
心理的な仕事の負担感がある | 本武(2016);米山ら(2019) | ||
業務量の多さ | 仕事の量的負担が強い | 江口ら(2013);池田・松枝(2020);北島ら(2020);Ross et al.(2017);坂井ら(2020);佐藤・三木(2014) | |
労働過多な状態 | 松本(2017) |
4サブカテゴリーが抽出され,〈上司との関係性における葛藤〉は上司からの理解が得られる一方で,関係性にストレスを感じる場合もあるという葛藤から構成された.また〈同僚との関係性における葛藤〉は,同僚との連携不足やサポート不足から構成された.さらに〈医師との関係性における葛藤〉は,医師との連携不足や関係性にストレスを抱くことから構成された.他にも〈患者との関係性における葛藤〉は,患者に対して陰性感情を抱くことや患者との関係性で承服できない要望を受けることなど葛藤を抱くことから構成された.このカテゴリーは,上司や同僚から支援が得にくいことや,医師や患者との関わりにストレスを感じるといった関係性においての葛藤を示していた.
3) 【風通しを左右する組織風土】3サブカテゴリーが抽出され,〈意見が通りにくい雰囲気〉は相談することができず互いの意見が尊重されない自律性の乏しい雰囲気から構成された.また〈休みが取りにくい雰囲気〉は,仕事を代わってくれる人がいない職場の状況で休みが取りにくい雰囲気があることから構成された.さらに〈助け合いが乏しい雰囲気〉は,助けを求めにくい雰囲気や互いに助け合う雰囲気を醸造していく必要性から構成された.このカテゴリーは,自分の意見や休みの希望を通しにくい雰囲気や助け合いの乏しい雰囲気が職場の風通しを左右する組織風土であることを示していた.
4) 【仕事柄特有の労働条件】3サブカテゴリーが抽出され,〈交代制勤務〉は生活リズムが崩れやすい不規則な勤務形態として仕事柄特有の状況から構成された.〈長時間の労働〉は,勤務時間外にも長時間労働をすることから構成された.また〈時間的な切迫状況〉は,限られた時間内に多くの仕事をしなければならない状況から構成された.このカテゴリーは,看護師の仕事柄特有の働き方として不規則かつ長時間勤務が必要とされる労働条件を示していた.
5) 【複雑で高度な業務内容】3サブカテゴリーが抽出され,〈複雑で多様な業務内容〉は重症患者への対応の難しさや職場での新人指導や委員会などの複数の役割が求められることから構成された.また〈心身に負担がかかる作業〉は,ストレスなど心理的に負担がかかる仕事や患者の持ち上げや移送,姿勢の悪い姿勢での作業,長時間の立ち位置など重い身体活動を行うことの多さから構成された.さらに〈業務量の多さ〉は,看護師が担う仕事の量的な負担感が強いことから構成された.このカテゴリーは,心身ともに負担を感じる複雑で高度な業務内容を示していた.
3. 帰結(表3) 1) 【心身の不調の自覚】2サブカテゴリーが抽出され,〈体調不良の自覚〉は心身の健康にダメージを受け,体調不良を自覚する状態から構成された.また〈蓄積的な疲労感の自覚〉は,身体的・精神的な疲労の強さを自覚し,蓄積的な疲労感があることから構成された.このカテゴリーは,体調不良や疲労感から心身の不調を自覚する状態を示していた.
4サブカテゴリーが抽出され,〈仕事への燃え尽き〉は仕事に対する意欲が低下し燃え尽き感を抱くことから構成された.また,〈離職意図の自覚〉は,離職意図が芽生えや離職の意思が高くなることから構成された.さらに,〈職務満足の高まり〉は,看護師自身が職務に対してポジティブな感情や態度を持っていることが職務満足を高めることから構成された.他にも,〈就業継続意識への発展〉は,葛藤経験を繰り返すことで役割を自覚し,自己承認が就業継続に繋がることから構成された.このカテゴリーは,仕事に対する燃え尽き感や離職意図の自覚だけでなく,職務満足の高まりが就業継続意識へ発展させることを示していた.
3) 【仕事の質への影響】2サブカテゴリーが抽出され,〈仕事の遂行能力の低下〉は1人の人材として能力を発揮できなくなる恐れから仕事上でのパフォーマンスの低下を示すことから構成された.〈仕事上の過失を犯す〉は,闇雲な働き方が仕事上での過失に繋がることで構成された.このカテゴリーは,労働遂行能力の低下や仕事上の過失が仕事の質へ影響を与えることを示していた.
4. 「看護師の健康に影響を与える仕事への態度」の概念モデル(図1)本概念分析によって得られた,先行要件,属性および帰結の構造について概念モデルとして示す.
「責任感から自分よりも患者を優先して仕事へ尽力するという前向きさがある一方で,自己評価の低さによる仕事への重圧が相まって看護師としての在り方に戸惑いを抱くことで自身の健康を左右する働き方を選択する恐れがある状態」と定義された.
2. 関連する概念本概念は,仕事への態度を示す概念でも健康という要素を組み込んだ態度に着目したことから,関連する概念にはワーカホリック(Oates, 1971/1972)があると考えた.ワーカホリックとは,「極端な働き者で,仕事を必要とする度合いが甚だしく過度になっている.その結果,自分の肉体的健康,個人的幸福,友人関係,それから円滑な社会生活の遂行にいたるまで,明らかな動揺や混乱が見受けられる.」と定義され,「仕事中毒」と称される場合もある.このように,ワーカホリックは仕事に対する否定的な態度としての側面が強いとされるが,反面では仕事に対する活動性が原動力として見なされることもある.一方島津(2015)は,ワーク・エンゲージメントを仕事への肯定的な態度として位置づけ,ワーカホリックと対比して説明している.この概念はフロー状態として時間が経つのも忘れてしまうほど仕事に没頭し,集中力を高めた状態にある場合にはワーク・エンゲージメントを高める要素として仕事への前向きな側面を有すると考える.以上から本概念も極端かつ自己犠牲的な傾向として示される者には,結果として自己の健康に何らかの否定的な影響をもたらす恐れからワーカホリックとの類似性を考える.しかし本概念には,看護師として職業倫理に即した行動を取る上では兼ね備えておくべき規範意識ともなりうる要素も組み込まれていると推察する.ワーカホリックは前述での「仕事中毒」と称される点を考えると,それ自体が否定的な意味合いが強いのに対し,本概念は属性のサブカテゴリーで示された〈患者へ高い献身性を示す〉ことや〈仕事への積極的な価値づけをする〉という前向きな要素が後押しとなり安易に自己を差し置かないよう自らの仕事の在り方と向き合いながらコントロールが図られていれば必ずしも否定的なものとは言い切れない点で相違性があると考える.
3. 「看護師の健康に影響を与える仕事への態度」のモデルケース本概念の理解を深めるため,概念を象徴する1つの場面を具体的な例としてモデルケースを以下に示す.
看護師Aは3年目の看護師である.幼少期から看護師になりたい気持ちが強く,自分の健康は後回しでも患者に献身的に関わることが看護師としてあるべき姿で美徳との認識を持っていた(【自分を差し置いて患者に献身する】).そのため,我を忘れて仕事に没頭するあまりに時間外労働が頻繁になり,プライベートの時間を持つこと自体に罪悪感を抱くことさえあった(【我を忘れて仕事に没頭する】).また,もっと真剣に仕事をしたいと強い信念を持っていたが,職場の研究活動や業務改善への取り組みに積極性を示さない同僚を目の当たりにし,自身との価値観に温度差を感じるようになり,「どうして自分ばかりがこれほど頑張っているのだろう.」と看護師としての在り方に疑問を抱くようになった(【看護師としての在り方に戸惑いを抱く】).
看護師Aは元々心配性で少しの誤りでも大事に捉えることがあり,看護師として能力が低いのではないかと感じることがあった(【自己を低く評価する】).仕事に自信が持てていないため,「時間内に決められた仕事を終わらせることができないのではないか.」「何か大きなミスを犯すのではないか.」という不安を常に感じており,いつも緊張しながら仕事をしていた.仕事上で与えられる役割にプレッシャーがあり(【役割への重圧を感じる】),ストレスで胃痛や下痢などの体調不良を起こすことも少なくはなかった.しかし,体調が悪くても休みたいと口に出すには抵抗があり,常に周囲の顔色をうかがって仕事をしていた(【本心をごまかす】).その後心身共に疲弊していき,これから先も看護師として働き続けられるのかと思い悩む日々を送っていた.
4. 概念の特徴帰結から,心身の症状の自覚(福澤・冨田,2020)や仕事意欲の低下(松尾・鈴木,2016),仕事の質への影響(Andreassen et al., 2018)が示されたことから,仕事に対する態度との向き合いは自己の健康を左右する要素とも言える.本概念は,患者への献身性や仕事への没頭などの肯定的な動機付けに基づいていたが,そこに過剰性や盲目性を帯びることで結果として自身の健康へ支障をきたす仕事への態度になりうるという特徴が示された.属性の【自分を差し置いて患者に献身する】というカテゴリーから,特徴として献身性の高さという肯定的な側面が窺えるが,仕事へのめりこんで患者に貢献する(Hwang, 2019)過剰性によって自らを後回しにする行動選択に発展する恐れが示唆された.病者を擁護することが看護師の責務であり,献身性は必要とされる姿勢とも言える.しかし,自らの健康を脅かしてまで安易に他者へ献身する過剰性ある行動に転じては,冒頭で述べた倫理綱領に位置づけられた自己の健康を適切に管理するという根本的な姿勢を欠く恐れがある.武井(2002)は,看護師も苦しんでいるかもしれないが,患者の苦しみのほうがもっと大きいという論理で,看護師がみずからの感情の立場を主張することに抵抗があると述べている.このような認識も相まって,看護師の責任感の強さや看護師はそのように行動すべきという規範意識が自身もケアされるべき個人との認識を薄れさせ,自己の内面にある仕事への態度に気づく作業を容易にしてこなかった背景にあると推察する.
また本概念は,看護師の職業的アイデンティティの発達や仕事への適応において妨げとなりうる要素を含む特徴が示された.属性の【自己を低く評価する】というカテゴリーからは,自己の過小評価や周囲からの承認の低さが示されている.落合ら(2007)は,看護師の職業的アイデンティティにおいて「看護師選択への自信」「自分の看護観の確立」「看護師として必要とされることへの自負」「社会貢献への志向」で構成されていることを示している.このことから,本概念にも自己評価の低さによって看護師選択への自信や自らが必要とされることへの自負へ揺らぎを持たせ,職業的アイデンティティの確立を妨げる恐れがあると考える.加えて塩見ら(2021)は,職業的アイデンティティが高い者は年齢や経験年数,組織コミットメントが高く,上司・同僚・医師・他職種との関係が良好であることを明らかにしている.先行要件においても,看護師としての経験値や職場内での対人関係,職場内で意見を通せる風通しのある組織風土に関する項目が示されたことから,年齢や経験値,立場や職種の違いがあっても互いに意見を伝え尊重し合える職場の雰囲気を持つ必要があると考える.さらに,職業的アイデンティティが高い者はバーンアウトしにくい(塩見ら,2021)ことも明らかになっており,看護師としての自己の確立と自身の能力を信用する感覚を持つことは就業継続の要素とも推察される.この職業的アイデンティティの揺らぎは,ある面では看護師として置かれている状況を俯瞰することで現実を受け止め振る舞い方を再構築するきっかけとなり,仕事との向き合いを促す肯定的な影響が考えられる.しかし反対に,前述の過程を踏めなかった場合には看護師として思い描いていた本来的な目的を見失いバーンアウトに至る否定的な影響にもなりうると考える.
さらに,看護師は専門職として自律性に基づいて職務を遂行することが求められる立場にあるものの,本概念の一部の要素からはその自律的姿勢を妨げる傾向が特徴として示された.属性の【看護師としての在り方に戸惑いを抱く】というカテゴリーから,看護という仕事内容の曖昧さの自覚(池田・松枝,2020;井奈波・井上,2015)や不十分な役割発揮の自覚(白戸ら,2021)というサブカテゴリーが見出された.先行研究から,看護師の自律性と関連がある要因に仕事への役割葛藤(Iliopoulou & While, 2010;古賀,2019)が報告されており,役割への葛藤や不全感は自律的に判断して職務を遂行する能力を欠き,帰結での仕事意欲の低下や仕事の質への影響の結果,患者への不利益になりうると考えられる.また【本心をごまかす】というカテゴリーからも,気を遣って本音を抑えることや自己主張の弱さが示され,自律的に判断して職務を全うする姿勢の足枷になる恐れから本概念は看護師の専門職として兼ね備えるべき自律性の獲得にも関わってくる特徴が示されたと考える.
5. 概念の活用性仕事と健康のバランスを模索することは生涯に渡って欠かせない課題であり,本概念の構造を提示することは自己の仕事への態度に気づいて行動変容を導く作業を促す点で有用と考える.先行要件からは,学生時代に経験のない役割を担うことなど経験値の浅さ(池田・松枝,2020)や自分の仕事を他の人に依頼しないという独自の行動規範(三枝,2019)などの個人的背景が示された.自己の健康と仕事との向き合いは社会に出てから適応していく場合もあるが,社会に出る前段階から自身の健康の特徴や仕事と向き合う姿勢を理解しておくことで個々の特徴に応じた対策を検討することが可能と考える.具体的には,看護基礎教育における臨床実習期間を通して意図的に自己の健康管理方法をアセスメントして対処行動を明確にしておけるよう,看護学生の段階から気づきの機会が得られるようにする必要がある.看護学生の臨床実習中の健康課題として正村ら(2003)は,「実習記録を書くのに時間外に多くの時間を要する」ことや「看護師との関係」が臨床実習中に適応できない程の強いストレスになっていたことを示している.これらのことは,心身の休息に充てる時間のバランスを乱し,対人ストレスとなることで心身の不調をきたす状況があると推察する.以上から,自己の特徴を客観視することで,行動の優先順位を検討するとともに活動と休息のバランスを保つ方法について看護学生自身が考えることができる機会の提供が必要であると考える.
また,組織の変革にも活用性ある概念と考える.先行要件から,互いの意見が尊重されない自律性に乏しい組織風土(服部・舟島,2021;田邊・岡村,2011)や職場で関わる人々との関係性(上條,2018;丸岡ら,2019;白戸ら,2021;高林,2019)が仕事への態度へ関わることが示された.属性から,気を遣って本音を抑えて自己の主張が妨げられるという様相が見出され,この状況は意見の言いにくさという組織風土に影響されることが考えられる.組織の風通しの良さに関わるものとしてEdmondson(1999)は,心理的安全性という概念を「率直に意見を伝えても,他のメンバーがそれを拒絶したり,攻撃したり,恥ずかしいことだと感じたりして,対人関係を悪くさせるような心配はしなくても良いという信念が共有された状態」と説明している.また,心理的安全性が高い組織員は低い組織員よりもヒューマンエラーが少ないこと(Leroy et al., 2012)が示されており,心理的安全性は組織のチームワークの醸成に留まらず,医療安全の観点からも重要な要素と窺える.以上から,本概念に着目することは組織の中で「大切にされている」「思ったことが言える」という心理的安全性を構築する重要性を投げかけるものとして有用であると考える.具体的な活用においては,病棟会議などの意見交換の場において安易に互いの意見を否定せず自身の意見が組織で受け止められているという感覚が持てる雰囲気が求められ,この際に風通しの良さが単に仲良しの集団にならないよう世代や役割などの背景を据え置いた状態で意見を集約する配慮が必要であると考える.
6. 研究の限界と今後の課題「看護師の健康に影響を与える仕事への態度」という概念は,社会一般には十分に周知されておらず,この概念を代表する文献を直接的に収集することには限りがあった.また文献内の記述であり,看護師が日常の仕事の中で自身の健康と仕事のバランスを保つことをどのように認識しているのかという態度の実態までは解釈できないことが研究の限界としてある.さらに,本研究では社会文化的な違いを考慮しつつ,国内外の重要な知見を幅広く収集するために,国ごとの文献除外基準を設けなかった.その結果,和文献のみで構成されたサブカテゴリーが含まれたことから,我が国での特徴が見出された可能性がある.一方で,文献内での記述だけでは国内外の実際の状況とすり合わせができない点が本研究の限界としてあげられる.
今後の課題として,「看護師の健康に影響を与える仕事への態度」という概念が,看護師の実践においてどのように認識されているのか,また本研究で示されたカテゴリーやサブカテゴリーが国内外で同様に示されるのか,実際の状況を明らかにする必要があると考える.
本研究では「看護師の健康に影響を与える仕事への態度」を「責任感から自分よりも患者を優先して仕事へ尽力するという前向きさがある一方で,自己評価の低さによる仕事への重圧が相まって看護師としての在り方に戸惑いを抱くことで自身の健康を左右する働き方を選択する恐れがある状態」と定義した.本概念は,仕事と健康のバランスを模索する上で自己の内面に気づく機会を提供し,看護基礎教育における自己の健康管理方法を検討するきっかけの促しや組織における心理的安全性の構築へ有用性が示唆された.
謝辞:本研究に関してご協力いただきました皆様に深く感謝いたします.また,本研究はJSPS科研費22K10662の助成を受け実施したものである.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:SNは研究プロセスすべてを主導し執筆した.ASは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.両著者共に最終原稿を読み承認した.