Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Classification of the Self-Neglect Cases Among Community-Dwelling Elderlies
Yoko MatsuzakiKazuko HoriguchiNoboru Iwata
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2025 Volume 45 Pages 132-141

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Abstract

目的:高齢者のセルフ・ネグレクト状態を類型化することである.

方法:近畿6府県の地域包括支援センターと社会福祉協議会でセルフ・ネグレクト事例を担当した専門職者に自記式質問紙調査を実施した.

結果:セルフ・ネグレクト状態や行為に関する調査項目への回答151部を主成分分析し,不衛生な生活環境,不適切な保健医療行動,不衛生な家屋環境,金銭の管理不足,稀薄な対人関係の5側面の指標を抽出した.その指標を用いてクラスタ分析し,対人関係稀薄群(34%),金銭管理困難群(26%),全体低群(23%),家屋環境劣悪群(14%)の4群に類型化された.4群間で差異が見られたのは,障害高齢者および認知症高齢者の日常生活自立度,セルフ・ネグレクトのタイプと深刻度,高齢者の他者受容であった.

結論:高齢者のセルフ・ネグレクト状態は4群に類型化することができ,その類型化のクラスタ間の特徴から,それらに応じた介入や支援の必要性が示唆された.

Translated Abstract

Objective: To identify the state of self-neglect among elderly and classify.

Methods: A self-administered questionnaire survey was conducted among professionals with experience in dealing with self-neglect cases at comprehensive community support centers and social welfare councils in six Kinki prefectures. Responses were obtained for 151 self-neglect cases.

Results: A principal component analysis was conducted on responses to 34 items describing self-neglect conditions and behaviors. Five components were extracted: unsanitary living environment, inappropriate healthcare behaviors, unhygienic housing environment, poor money management, and poor interpersonal relationships. A cluster analysis using these components revealed four self-neglect types: poor interpersonal relationships (34%), money management difficulties (26%), overall low group (23%) and poor living environment group (14%). There were differences between the clusters in the degree of independence in daily living of the disabled elderly and the elderly with dementia, the type and severity of self-neglect, and the older people’s own acceptance of others.

Conclusion: The self-neglect status of older people can be typified into four groups, and the characteristics between the clusters of typologies suggest the need for interventions and support accordingly.

Ⅰ. 緒言

日本の高齢者人口は2022年で3,624万人に達し,総人口の29.0%を占める.これは世界的にもっとも高い水準にあり,今後もこの割合は上昇していくと推測されている(内閣府,2023).世帯構造でも65歳以上の者のいる世帯が全世帯の49.7%で,そのうち高齢夫婦のみ世帯および単独世帯がそれぞれ約3割を占め,今後も増加が予測されている(内閣府,2023).このような状況のなか,高齢者の孤立死やごみ屋敷問題等と関連して,セルフ・ネグレクトの問題が近年指摘されている(岸,2017).

セルフ・ネグレクトは「自分自身の健康または安全を脅かす行為」と米国では定義されており(Tatara et al., 1998),意識的かつ意図的な行為・行動は含まれない(野村,2017).一方,日本では,気がねや遠慮という高齢者の特徴を踏まえて,セルフ・ネグレクトを「高齢者が通常一人の人として,生活において当然行うべき行為を行わない,あるいは行う能力がないことから,自己の心身の安全や健康が脅かされる状態に陥ること」(津村ら,2006)と定義している.すなわち,人権を守るという立場から意識的・意図的行為であってもセルフ・ネグレクトに含めている.

セルフ・ネグレクトの発現には,精神・心理的な問題,高齢による心身機能の低下,社会的孤立,経済的問題,ライフ・イベント等のリスク要因による生活能力・意欲の低下等が影響しているとされる(岸,2017).セルフ・ネグレクト状態にある高齢者は1年以内の死亡リスクが高い(Dong et al., 2012)と報告され,日本ではセルフ・ネグレクト事例の約4割が慢性疾患を抱えているという報告(岸ら,2011)や孤立死事例の約8割がセルフ・ネグレクトと考えられるという報告(ニッセイ基礎研究所,2011)もある.これらは必ずしも実証的データの検証に基づく所見とはいえないものも含まれるが,セルフ・ネグレクト状態にある高齢者が生命保持の危機に陥りやすいことは疑う余地もなく,何らかの介入および支援を行う必要がある(岸,2017).

地域在住高齢者のセルフ・ネグレクト状態を評価しようという試みは,21世紀に入って米国をはじめとして報告されてきた.Dyer et al.(2006)は「個人衛生」「認知,健康,安全確保」「環境」の各領域を点数化し,セルフ・ネグレクトの重症度を測定するツールを作成した.Burnett et al.(2014)はセルフ・ネグレクトの状態像を「身体的・医療的」「環境的」「グローバル」「経済的」の4類型に分類し,類型ごとに異なる介入が可能であると述べている.これら海外の研究成果を日本で活用するには,文化的・社会的な背景を踏まえた上で,さらなる実証研究が必要である(野村,2017).

日本における研究では,小長谷ら(2013, 2015)が先行文献から高齢者のセルフ・ネグレクトの状態や行為を反映する34項目を抽出し,専門職を対象に調査を行っている.この研究は実際の事例に対する調査ではなく,認知症とADLの組合せで4つの事例タイプを想定し,各想定事例における上記34項目の状態に対してどの程度の支援が必要と認識しているかを調査したものである.想定事例を用いた調査は,異なる条件(想定事例)への回答が得られやすくなるため,比較可能性が高まるという利点がある一方で,実際の事例に対する調査ではないという点で限界がある.

斉藤ら(2016)は,地域包括支援センターへの質問紙調査で得た実証データを二次利用して,セルフ・ネグレクトの類型化を報告している.事例のセルフ・ネグレクトの状況は,7つの要約項目それぞれに該当する・しないでとらえられており,その2値データをクラスタ分析して事例の類型化を試みたものである.セルフ・ネグレクトのタイプを統計的に整理しようというねらいは,現場で対応している専門機関にも有益な情報をもたらすものである.しかし,7要約項目の該当有無による各事例の状況把握では,多様な様相を示す事例の情報としては単純化されすぎているという限界がある.

そこで本研究では,実際に地域包括支援センターなどの専門機関で対応した事例に対して小長谷らが開発した34項目のセルフ・ネグレクトの具体的な状態や行為の該当程度をリカート法で詳細に調査し,セルフ・ネグレクトの状態像の抽出およびそれに基づく事例の類型化を試みることを目的とした.

Ⅱ. 用語の定義

本研究におけるセルフ・ネグレクト状態とは,野村ら(2014)にならい,「健康,生命および社会生活の維持に必要な個人衛生,住環境の衛生もしくは整備または健康行動を放任・放棄していること」と定義した.また,認知症等のような疾患から適切な判断力や認知力が低下している,または生活意欲が低下しているために自己放任のような状態になっている場合(無意図的)や判断力や認知力が低下していないが,本人の意思によって自己放任の状態になっている場合(意図的)もセルフ・ネグレクト状態に含めた.なお,調査依頼書および調査票の表紙にこの文章を明記して調査を実施した.

Ⅲ. 研究の方法

1. 研究デザイン

横断的量的研究

2. 調査対象と調査方法

近畿2府4県に設置されている地域包括支援センター784施設(2府4県ホームページ,2022年度3月時点)および社会福祉協議会248団体(全国社会福祉協議会ホームページ,2022年3月時点)をリストアップし,各府県における設置数の比率に応じてランダムに地域包括支援センター450施設,社会福祉協議会50施設の計500施設を選定し,調査依頼先とした.各施設の管理者あてに上述の野村らの定義を明記した調査票を送付し,調査時点で介入から半年以上経過し,現在も関わっているセルフ・ネグレクト事例がある場合には,そのうちの1~3事例を選定し,各事例を主で担当する専門職者(社会福祉士,保健師および看護師,主任ケアマネジャー,コミュニティソーシャルワーカー)に研究協力依頼書や調査票等の配布を依頼した.その専門職者に回答を求め郵送法で回収した.

回収した調査票159部には,介入後1ヶ月以上半年未満の事例が24部含まれていた.それらのデータを概観すると,データの欠損値はほとんどみられず,事例のセルフ・ネグレクトに関連する状況を十分に把握した上で回答されていると判断できたため,本研究におけるセルフ・ネグレクト事例の選定基準を,介入開始後に事例の状況が把握でき,調査時点で支援を継続しているものとした.

3. 調査項目

1) セルフ・ネグレクト状態にある高齢者の基本属性に関する項目

年齢,性別,障害高齢者および認知症高齢者の日常生活自立度,精神疾患の有無,生活環境(便利,不便),家族構成(独居,同居),経済状況(年金,生活保護,年金・生活保護,その他)について尋ねた.

2) セルフ・ネグレクトに関する項目

セルフ・ネグレクト状態に至った経緯や理由(斉藤ら,2016:一部改訂,複数回答),本人を把握した経緯(岸ら,2011),家族とのつながり(あり,なし),地域の人々とのつながり(あり,なし),地域の機関とのつながり(あり,なし),セルフ・ネグレクトのタイプ(岸,2012,複数回答),セルフ・ネグレクトの状態と行為(小長谷ら,2013),セルフ・ネグレクト状態の深刻度(岸ら,2021:一部改訂,複数回答)について尋ねた.

セルフ・ネグレクトの状態・行為に関する小長谷ら(2013)の項目は,先行文献からセルフ・ネグレクト事例に関する記述を抽出し,専門職者らによる内容的妥当性の検討を経て作成されたもので,6因子「不潔で悪臭のある身体」「地域の中での孤立」「生命を脅かす治療やケアの放置」「金銭や財産管理がなされていない」「悪臭のある汚い家屋」「奇異にみえる生活のありさま」34項目で構成されている.本研究では各項目の該当程度について,「よくあてはまる(4点)」「あてはまる(3点)」「あまりあてはまらない(2点)」「あてはまらない(1点)」の4段階で回答を求めた.

セルフ・ネグレクト状態の深刻度は,岸(2021)のセルフ・ネグレクト深刻度アセスメント項目を活用し,12の質問について専門職者の視点から該当すると考えられるものを複数回答で求めた.そのうち「本人の生命・身体・生活に著しく危険な状態が生じている」があてはまると回答された事例は最重度,「本人の生命・身体・生活に著しい影響が生じている」があてはまると回答された事例は重度,「本人の生命・身体・生活に影響が生じ,顕在化している」があてはまると回答された事例は軽度と判定した.

3) 回答者(担当専門職者)に関する項目

年齢,性別,職種(複数選択),地域包括支援センター・社会福祉協議会での経験年数(通算),セルフ・ネグレクト事例の経験数(通算)について尋ねた.

4. 分析方法

まず,調査票の各変数の記述統計量を算出し,回答の分布を確認した.次に,セルフ・ネグレクト状態や行為に関する34項目の回答を用いて主成分分析(プロマックス回転)を行い,固有値が1以上となる成分まで求めた.負荷量0.40以上の項目により各主成分の尺度化を行い,Cronbachのα係数によって各尺度の内的整合性を評価した.各事例の尺度得点に基づき,クラスタ分析を行った.その際,各クラスタの特徴の把握を容易にするため,標準得点に換算して分析した.クラスタ間でセルフ・ネグレクト状態にある高齢者の基本属性,セルフ・ネグレクト状態に至った経緯,セルフ・ネグレクトのタイプや深刻度,高齢者本人を把握した経緯,他者・機関とのつながりや関わり等の状況について比較検討を行った.カテゴリー変数にはχ2検定,フィッシャーの直接確率検定,連続変数には分散分析を用いた.有意差を認めた項目ではそれぞれ残差分析,多重比較(Bonferroni法)を行った.統計解析ソフトには,SPSS Statisticsバージョン28を使用し,有意水準は5%未満を統計的有意とした.

5. 倫理的配慮

本研究は,筆者の所属する兵庫医科大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:202206-133).研究対象者には,研究の目的や方法,研究参加の自由意思,プライバシーの保護,研究成果の公表,研究終了後,一定の保管期間を経過した後に,情報を適切に破棄すること等を明記した依頼文書を送付した.本研究への協力は調査票に同意確認欄を設け,返信された調査票の同意確認ができたものとした.調査対象のセルフ・ネグレクト事例の選定基準については,変更申請を行った(倫理審査申請書類等変更申請:承認番号:202211-048).

Ⅳ. 結果

1. 分析対象と調査対象者の概要

選定した500施設に調査票を送付し,セルフ・ネグレクト事例がある場合は1~3事例を選定・調査協力を依頼した結果,調査票の回収数は159部であった.このうち,高齢者の基本属性とセルフ・ネグレクトの状態と行為の全項目が無回答であった調査票2部と,高齢者本人の年齢が65歳以下であった調査票6部を除いた151部を分析対象とした(有効回答率95.1%).調査実施期間は2022年6月15日から8月15日であった.なお,回収率は算出不可能であった.

回答者数(延べ人数)は151名で,年齢は23~65歳,女性が70.2%(106名),男性が27.8%(42名)を占めた.職種(複数回答)は社会福祉士(69名,47.9%),主任介護支援専門員(44名,30.6%),保健師・看護師(32名,22.2%),コミュニティソーシャルワーカー(5名,3.5%)であった.対象機関での経験年数(通算)は4年以下(63名,42.0%),5~9年(54名,35.8%)の順であった.セルフ・ネグレクト事例の経験数(通算)は1~5件(84名,55.6%)が半数以上を占め,次いで6~10件(35名,23.1%)であった.

2. セルフ・ネグレクト状態にある高齢者の基本属性と特徴およびセルフ・ネグレクト状態の深刻度

セルフ・ネグレクト状態にある高齢者の平均年齢は77.5 ± 6.8歳で,男女の割合に統計学的な有意差はなかった(表1).家族形態は同居が25.2%を占め,高齢者本人と家族とのつながりがある者は69.5%であった.セルフ・ネグレクト状態の深刻度では,最重度の事例が最も多くて43%,重度および軽度とも25%程度であった(表2).

表1 セルフ・ネグレクト状態にある高齢者の基本属性

n = 151)

n (%)
年齢階級 65~69歳 18 (11.9)
70~79歳 63 (41.7)
80~89歳 59 (39.1)
90歳以上 6 (4.0)
無回答 5 (3.3)
性別 男性 79 (52.3)
女性 71 (47.0)
無回答 1 (0.7)
障害高齢者自立度1) 自立 29 (19.2)
ランクJ 64 (42.4)
ランクA 35 (23.2)
ランクB・C 19 (12.6)
無回答 4 (2.6)
認知症高齢者自立度2) 自立 37 (24.5)
ランクI 46 (30.5)
ランクII 46 (30.5)
ランクIII・IV 17 (11.2)
無回答 5 (3.3)
精神疾患の有無 あり 76 (50.3)
居住地の生活環境 便利 79 (52.3)
家族状況 独居 112 (74.2)
経済状況 年金 104 (68.9)
生活保護 9 (5.9)
生活保護と年金 8 (5.3)
その他3) 16 (10.6)
不明 14 (9.3)
セルフ・ネグレクト状態に至った経緯や理由(複数回答)
本人の病気 72 (48.3)
近親者の死亡や病気 46 (30.9)
近親者とのトラブル 35 (23.5)
制度・サービスへの不信感・無理解 32 (21.5)
近隣住民とのトラブル 16 (10.7)
行政への不信感 16 (10.7)
失業 14 (9.4)
その他4) 16 (10.7)
不明 25 (16.8)
セルフ・ネグレクトのタイプ(複数回答)
認知・判断力低下型 105 (70.9)
プライド維持型 66 (44.6)
ライフイベント型 44 (29.7)
怒り・不満型 39 (26.4)
貧困・経済不安型 39 (26.4)
遠慮・気がね型 24 (16.2)
引きこもり移行型 14 (9.5)
虐待移行型 8 (5.4)
本人を把握した経緯
他機関から 66 (43.7)
民生委員から 24 (15.9)
住民から 23 (15.2)
本人の家族等から 21 (13.9)
あなた以外の職員の活動から 6 (4.0)
本人から 5 (3.3)
あなた自身の活動から 3 (2.0)
介護保険等の申請から 2 (1.3)
他の利用者から 1 (0.7)
家族とのつながり あり 105 (69.5)
地域の人々とのつながり あり 76 (50.3)
地域の機関とのつながり あり 73 (48.3)

1)認知症高齢者の日常生活自立度 2)障害高齢者の日常生活自立度

3)その他:遺族年金,パート収入,無年金

4)その他:友人が認知症に,コロナ禍で外出自粛,教室閉鎖,本人の性格・信条,夫の無関心等

表2 セルフ・ネグレクト状態の深刻度(割合)

n = 151)(複数回答)

n (%)
1 命・身体・生活に著しく危険な状態(意識混濁,重度の褥そう,重い脱水症状,栄養失調,全身衰弱等) 46 (32.6)
2 家屋の老朽化,壊れていて人が住める状態ではない 17 (12.1)
3 電気・ガス・水道が止められていて,生命維持の最低限の生活に支障がある 14 (9.9)
4 生命・身体・生活に著しい影響(軽度の脱水,低栄養・低血糖の疑い,入退院の繰り返し,痩せが目立つ等) 61 (43.3)
5 重度の慢性疾患があるのに医療を拒否し,生命に関わる重大な結果が生じるおそれ 30 (21.3)
6 腐敗した生ゴミから害虫(ウジなど)が発生している 24 (17.0)
7 ペット類の糞便が散在している 7 (5.0)
8 家屋内外にゴミや不要品が堆積している 78 (55.3)
9 アルコール依存症,認知症,うつ病などの既往や現病歴,ライフイベント,サービス拒否や近隣からの孤立がある 74 (52.5)
10 生命・身体・生活に影響が生じ,顕在化している状態 64 (45.4)
11 経済的困窮のために最低限の生活(衣食住等)に支障をきたしている 34 (24.1)
12 住居のドアなどが壊れたままになっている 25 (17.7)
最重度(番号1~3):生命・身体・生活に著しく危険な状態が生じている 65 (43.1)
重度(番号4~7):生命・身体・生活に著しい影響が生じている 39 (25.8)
軽度(番号8~12):生命・身体・生活に影響が生じ,顕在化している状態である 37 (24.5)
無回答 10 (6.6)

3. 高齢者のセルフ・ネグレクト状態と行為に関する主成分分析

高齢者のセルフ・ネグレクト状態と行為の回答に基づき,主成分分析(プロマックス回転)を行った.負荷量が0.40未満の2項目を除外し,最終的に32項目で5主成分を得た(表3).この5主成分に0.40以上の負荷量を示す項目群の合計点をセルフ・ネグレクト状態像の指標とした.Cronbachのα係数は尺度全体で0.92であった.

表3 高齢者のセルフ・ネグレクトの状態と行為に関する評価項目の主成分分析(プロマックス回転)結果

質問項目 第1主成分 第2主成分 第3主成分 第4主成分 第5主成分
第1主成分:不衛生な生活環境(α = .93)
15 身体から悪臭がする .866 –.001 –.009 –.007 .040
11 汚れた衣類を着用している .855 .025 –.025 –.005 .016
13 口腔ケアがなされていない .838 .037 –.041 –.030 .048
5 家屋内に悪臭がする .782 –.093 .325 –.163 –.094
29 失禁が放置されている .773 .073 –.216 .057 –.063
16 髪・髭・つめが伸び放題である .758 –.030 .041 .096 .097
25 排泄物・排泄物で汚れた衣類や物が放置されている .734 .070 –.014 .002 –.070
7 入浴がなされていない .706 .083 .017 –.028 .156
10 食べ物やゴミが放置されている .671 –.088 .299 –.021 –.209
27 気候に合った服装をしていない .568 .011 –.125 .143 .185
34 腐ったものを摂取している .495 .027 .093 –.078 –.195
23 ボロボロの衣服を着用している .435 .140 .283 .021 .134
第2主成分:不適切な保健医療行動(α = .85)
4 慢性疾患のコントロールがされていない –.167 .915 .067 .015 –.066
12 必要な医療の提供を拒否する .070 .800 –.160 –.105 .053
2 必要な保健・福祉サービスを拒否する –.141 .726 .015 –.332 .312
3 服薬がなされていない .218 .707 –.069 –.014 –.164
28 生命にかかわるような日常生活の注意を怠る .169 .588 .086 .140 –.044
30 医療的なケア(カテーテルや人工肛門などを怠る) .054 .505 .122 .108 –.077
24 制限を無視するような医療上不適切な食事をしている .144 .487 .128 .169 –.023
17 栄養的に不十分な食事しか摂取していない .248 .446 –.236 .182 .067
第3主成分:不衛生な家屋環境(α = .77)
14 ネズミやゴキブリなどの害虫が発生している .193 –.107 .805 –.039 .062
26 家屋が著しく老朽化している –.110 –.075 .802 .040 .159
20 家屋内にカビが発生している .127 .008 .721 .083 .143
19 冷暖房器具がなく温度調節がなされていない –.197 .194 .679 .218 .064
32 家屋内にペット類がたくさんいる .116 .011 .448 –.300 –.171
第4主成分:金銭の管理不足(α = .73)
9 金銭の適切な使い方ができない –.106 .107 .214 .766 –.129
21 家賃や公共料金が未払いである –.061 .098 .007 .705 –.237
18 預金の出し入れができない .017 –.126 –.036 .693 .311
31 お金や通帳などが放置されている .186 –.077 –.074 .637 .047
第5主成分:稀薄な対人関係(α = .69)
1 近隣住民との関わりがない –.137 –.100 .190 .064 .833
6 他人との関わりを拒否する –.002 .139 .177 –.153 .773
8 閉じこもり状態である .361 –.111 –.192 .051 .544
相関 2 .474
3 .397 .182
4 .300 .235 .131
5 .305 .267 .016 .005

削除した項目:22 近隣住民との間でトラブルが発生している,33 全裸に近い状態でいる

全項目でのCronbach α係数:0.92

第1主成分は「日常生活全般において清潔が保持されていない」などの12項目で構成されており,〈不衛生な生活環境〉とした(以下,主成分のラベル表記には〈 〉を付す).この項目群を下位尺度とするとCronbachのα係数は0.93であった.第2主成分(8項目)は適切な医療や保健福祉サービスの利用ができていない状態を表す項目群から〈不適切な保健医療行動〉(α = 0.85),第3主成分(5項目)は不衛生で不備のある住環境状態から〈不衛生な家屋環境〉(α = 0.77)とした.第4主成分(4項目)は金銭の扱いが不十分な状態から〈金銭の管理不足〉(α = 0.73),第5主成分(3項目)は他者との交流が途絶えている状態から〈稀薄な対人関係〉(α = 0.69)とした.第5主成分の3項目の信頼性係数は0.69と内的整合性の基準値0.70をわずかに下回っていたが,α係数は項目数に影響されることから,信頼性には問題ないと判断した.

4. 高齢者のセルフ・ネグレクト状態像の類型化

高齢者のセルフ・ネグレクト状態像の5主成分の組合せからいくつかのサブグループに分けるために,クラスタ分析(Ward法)を行った.クラスタ数を2~8として分析し,クラスタ間の人数バランスおよびグループの特徴の解釈可能性に基づいて,最終的に4クラスタの分類を採用した.4クラスタの5主成分の平均値(95%信頼区間)は,低いほど良い状態,高いほど悪い状態を示している(表4).クラスタA(52名:34.4%)はすべての側面で平均値は低いが,〈稀薄な対人関係〉がやや高いことから「対人関係稀薄群」と命名した.クラスタB(21名:13.9%)は〈不衛生な家環境〉がもっとも高く「家屋環境劣悪群」とし,クラスタC(39名:25.8%)は〈金銭の管理不足〉がもっとも高いため「金銭管理困難群」と命名した.クラスタD(35名:23.2%)はすべての側面が高値で,特に〈不適切な保健医療行動〉が顕著に高いことから,「全体低群」と命名した.

表4 高齢者のセルフ・ネグレクト状態像に基づく類型化(クラスタ分析)

セルフ・ネグレクト状態像 A
対人関係稀薄群
n = 52)
B
家屋環境劣悪群
n = 21)
C
金銭管理困難群
n = 39)
D
全体低群
n = 35)
F値 p 多重比較
不衛生な生活環境
(range: 12~48)
22.7
(20.5~24.9)
33.4
(31.0~35.8)
31.2
(29.1~33.2)
39.3
(37.7~41.0)
47.9 <.001 A < B,C < D
不適切な保健医療行動
(range: 8~32)
16.5
(15.3~17.8)
20.0
(18.2~21.7)
22.2
(21.2~23.3)
27.1
(25.8~28.4)
52.6 <.001 A < B,C < D
不衛生な家屋環境
(range: 5~20)
8.2
(7.5~9.0)
13.7
(12.5~14.8)
10.6
(9.4~11.7)
13.6
(12.6~14.6)
30.1 <.001 A < C < B,D
金銭の管理不足
(range: 4~16)
7.4
(6.7~8.2)
6.0
(5.2~6.7)
11.8
(11.1~12.5)
11.0
(10.1~11.9)
44.7 <.001 A,B < C,D
稀薄な対人関係
(range: 3~12)
8.3
(7.6~9.1)
8.5
(7.6~9.4)
7.9
(7.3~8.5)
10.7
(10.3~11.2)
12.3 <.001 A,B,C < D

表中の数値は各状態像の平均値(95%信頼区間).数値が低いほど良い状態,高いほど悪い状態であることを示す.

a:Bonferroni補正により有意確率の値を調整した.有意水準はp < 0.05.

5. セルフ・ネグレクト状態にある高齢者のクラスタ間の基本属性の比較

クラスタ間で有意差を認めた状態評価項目は,障害高齢者および認知症高齢者の日常生活自立度,セルフ・ネグレクトのタイプ,セルフ・ネグレクト状態の深刻度,セルフ・ネグレクト状態にある高齢者本人の他者への受容であった(表5).多重比較の結果,障害高齢者の日常生活自立度では「全体低群」が,認知症高齢者の日常生活自立度では「金銭管理困難群」が,それぞれ「家屋環境劣悪群」に比べて有意に高値(自立度が低い状態)であった.セルフ・ネグレクト状態の深刻度では,「対人関係稀薄群」および「家屋環境劣悪群」に比べ「全体低群」が有意に高値(深刻度が高い状態)であった.セルフ・ネグレクトのタイプでは,認知・判断能力低下型は「金銭管理困難群」で89.7%,引きこもり移行型は「全体低群」で22.9%,貧困・経済不安型は「金銭管理困難群」で51.3%と他の群より有意に多かった.なお,「金銭管理困難群」の約6割は他者への受容が良い状態であった.

表5 クラスター間におけるセルフ・ネグレクト状態にある高齢者の基本属性とセルフ・ネグレクトに関する項目の比較

A
対人関係稀薄群
n = 52)
B
家屋環境劣悪群
n = 21)
C
金銭管理困難群
n = 39)
D
全体低群
n = 35)
p 多重比較
n (%) n (%) n (%) n (%)
年齢(平均 ± SD) 78.5 ± 6.8 75.4 ± 7.8 77.7 ± 6.4 76.9 ± 6.4 .326
性別 女性 29 (55.8) 9 (42.9) 20 (51.3) 10 (29.4) .100
男性 23 (44.2) 12 (57.1) 19 (48.7) 24 (70.6)
障害高齢者自立度(平均 ± SD)1) 2.2 ± 0.9 1.8 ± 0.8 2.4 ± 0.8 2.7 ± 1.1 .005 B < D
認知症高齢者自立度(平均 ± SD)2) 2.3 ± 1.1 1.9 ± 0.9 2.7 ± 1.0 2.4 ± 1.1 .044 B < C
精神疾患あり 24 (47.1) 12 (57.1) 19 (48.7) 20 (57.1) .603
住居形態 一戸建て 28 (53.8) 14 (66.7) 15 (38.5) 22 (64.7) .124
共同住宅 24 (46.1) 7 (33.3) 24 (61.5) 12 (35.3)
居住地の生活環境(便利) 33 (70.2) 10 (50.0) 17 (47.2) 17 (50.0) .123
家族構成 独居 38 (73.1) 15 (71.4) 30 (76.9) 28 (80.0) .854
経済状況 年金生活 35 (67.3) 15 (71.4) 29 (74.4) 23 (65.7) .497
セルフ・ネグレクト状態に至った経緯や理由(複数回答)
本人の病気 23 (44.2) 7 (33.3) 22 (56.4) 20 (57.1) .229
近親者の死亡や病気 16 (30.8) 8 (38.1) 6 (15.4) 15 (42.9) .063
近親者とのトラブル 15 (28.8) 3 (14.3) 7 (17.9) 9 (25.7) .458
制度・サービスへの不信感・無理解 10 (19.2) 2 (9.5) 8 (20.5) 10 (28.6) .390
セルフ・ネグレクトのタイプ(複数回答)
認知・判断能力低下型 35 (67.3) 12 (57.1) 35 (89.7)b 22 (62.9) .018
プライド維持型 24 (46.2) 10 (47.6) 11 (28.2) 20 (57.1) .086
ライフイベント型 21 (40.4) 5 (23.8) 6 (15.4) 12 (34.3) .062
怒り・不満型 12 (23.1) 4 (19.0) 10 (25.6) 12 (34.3) .569
遠慮・気がね型 9 (17.3) 4 (19.0) 6 (15.4) 5 (14.3) .963
引きこもり移行型 5 (9.6) (―) 1 (2.6) 8 (22.9) .009
虐待移行型 3 (5.8) (―) 3 (7.7) 2 (5.7) .658
貧困・経済不安型 4 (7.7)a 2 (9.5) 20 (51.3)b 11 (31.4) <.001
セルフ・ネグレクト状態の深刻度(平均 ± SD) 1.9 ± 0.8 2.1 ± 0.8 2.2 ± 0.8 2.7 ± 0.7 <.001 A,B < D
深刻度区分の該当者
最重度 13 (25.0)a 7 (33.3) 17 (43.6) 27 (77.1)
重度 16 (30.8) 9 (42.9) 10 (25.6) 3 (8.6)b <.001
軽度 18 (34.6)b 5 (23.8) 9 (23.1) 4 (11.4)a
本人を把握した経緯 他機関から 21 (40.4) 8 (38.1) 19 (48.7) 16 (45.7) .148
本人の家族等から 10 (19.2) 4 (19.0) 6 (15.4) 1 (2.9)
民生委員から 8 (15.4) 7 (33.3) 3 (7.7) 6 (17.1)
住民から 10 (19.2) (―) 3 (7.7) 9 (25.7)
あなた以外の職員の活動から 1 (1.9) 1 (4.8) 4 (10.3) (―)
つながり 家族(あり) 41 (78.8) 14 (66.7) 25 (64.1) 23 (65.7) .391
地域の人々(あり) 23 (46.0) 8 (40.0) 24 (66.7) 21 (60.0) .127
地域の機関(あり) 23 (45.1) 10 (50.0) 25 (64.1) 13 (38.2) .142
本人の他者受容 良い 15 (28.8) 7 (33.3) 22 (59.5)b 11 (31.4) .019
介入及び支援困難感 感じる 45 (86.5) 18 (85.7) 34 (89.5) 34 (97.1) .387
本人の現状受け入れ 思う 27 (52.9) 15 (71.4) 22 (57.9) 22 (62.9) .503

1)障害高齢者の日常生活自立度1:自立,2:ランクJ,3:ランクA,4:ランクB,5:ランクC

2)認知症高齢者の日常生活自立度1:自立,2:ランクI,3:ランクII,4:ランクIII,5:ランクIV,6:ランクM

a:調整済残差<–1.96,b:調整済残差>+1.96

p値:連続量データ(平均 ± SDで表記)は分散分析,そのほかはc2分析による.

多重比較:Bonferroni補正により有意確率の値を調整した.有意水準はp < 0.05とし,有意差を認めた群のみ表記している.

Ⅴ. 考察

セルフ・ネグレクトは個人の意図性に関係なく,誰でも人生の連続線上のなかで生じうる出来事(鄭,2018)であり,その状態にある高齢者の生命保持をも脅かす深刻な社会問題である.また,近年ではごみ屋敷等,地域社会への影響も言及されている.しかし,高齢者のセルフ・ネグレクトの状態に応じた効果的な予防・支援方法等が必ずしも確立していないため,専門職者がその対応に苦慮しているのが現状である(岸ら,2014).そこで本研究では,「健康,生命および社会生活の維持に必要な個人衛生,住環境の衛生もしくは整備または健康行動を放任・放棄している」(野村ら,2014)という状態をセルフ・ネグレクトと定義し,地域在住高齢者のセルフ・ネグレクト状態像を構成する側面の抽出およびその側面に基づいたセルフ・ネグレクト事例の類型化を試みた.その結果,高齢者のセルフ・ネグレクト状態は5側面で構成されており,それらの程度の組み合わせによりセルフ・ネグレクト事例は4群に類型化され,その類型化のクラスタ間の特徴が示された.

1. 本研究で得られたセルフ・ネグレクト状態にある高齢者の特徴

本研究ではセルフ・ネグレクト状態にある高齢者の男女差は見られず,70歳代と80歳代が約8割を占めていた.世帯構造としては,独居が約7割と多数を占めていたが,約3割は同居家族がいてもセルフ・ネグレクト状態に陥っている事例であった.障害高齢者および認知症高齢者ともに比較的自立度が高く,経済状況では年金のみが約7割で,これらの結果は地域包括支援センターを対象とした全国調査(岸ら,2011)や,全国の市町村高齢福祉担当部署と地域包括支援センター等を対象とした調査研究(あい権利擁護支援ネット,2015)等と同様であった.

2. 高齢者のセルフ・ネグレクト状態像の5つの側面

小長谷ら(2013)により報告されているセルフ・ネグレクト状態・行為の各内容の該当程度に基づき,セルフ・ネグレクト状態像を構成する状態・行為を要約したところ,5つの側面(主成分)が抽出された.小長谷ら(2013)の抽出因子との対比を見ると,第1主成分〈不衛生な生活環境〉は,小長谷らの「不潔で悪臭のある身体」(6項目),「奇異にみえる生活のありさま」(4項目),および「悪臭のある汚い家屋」(2項目)の3因子の項目群が大きなまとまりとなっていた.第2主成分〈不適切な保健医療行動〉は小長谷らの「生命を脅かす自身による治療やケアの放置」(7項目)と「地域のなかでの孤立」の1項目がまとまっていた.第3主成分〈不衛生な家屋環境〉は「悪臭のある汚い家屋」の5項目,第4主成分〈金銭の管理不足〉は「金銭や財産管理がなされていない」の4項目,第5主成分〈稀薄な対人関係〉は「地域のなかでの孤立」の3項目でそれぞれ構成されていた.小長谷らの因子は,専門職者がセルフ・ネグレクト事例に対してどの程度介入が必要かを評定したデータに基づいており,本研究の状況としての該当程度とはやや異なる視点の情報抽出であるが,第1主成分以外の4主成分は概ね小長谷らの因子と類似していたことより,これらの側面が地域在住高齢者のセルフ・ネグレクトの状態や行為を反映していることが示唆された.

3. セルフ・ネグレクト状態像の5側面から類型化されたクラスタ間の特徴

上述の5側面の組み合わせによって事例は4群に類型化された.「対人関係稀薄群」はその中で最も多かった(表4).セルフ・ネグレクト状態像の5側面はすべて低い水準(軽度)であり,深刻度も軽度で他の群よりも良好な状態で,単に対人接触・交流の乏しさがやや高値な群であった.しかしながら,岸(2012)によるセルフ・ネグレクトのタイプでは認知・判断能力低下型(認知症,精神疾患等)が約7割を占めており,要支援状態に陥っても正しく自身の状態を認識できない場合や対人関係の希薄さゆえに,深刻度が増しても周囲に気づかれないなどの可能性が考えられる.

「家屋環境劣悪群」は全体の13.9%(21名)で4群の中で最も少なかった.岸(2012)は,ごみ分別が複雑化・困難化したことや片付けが面倒であること,もったいないから捨てられない等,様々なきっかけにより不衛生な家屋環境が加速すると指摘している.しかし,この群は障害高齢者や認知症高齢者の自立度が最も高く,単に認知機能や日常生活自立度の低さによる家屋環境の悪化ではない可能性も示唆される.また,家屋環境の不衛生さによる高齢者自身に生じる健康状態悪化の問題や周辺地域住民への悪影響が指摘され,近隣からの苦情がトラブルに発展し,地域から孤立してしまう可能性も指摘されている(岸ら,2021).いわゆるゴミ屋敷事例であり,近隣住民の協力が得られにくく,対応に苦慮する事例である.

「金銭管理困難群」は25.8%(39名)で,岸(2012)によるセルフ・ネグレクトのタイプでは認知・判断能力低下型(認知症,精神疾患等)が9割,貧困・経済不安型(経済的困窮)が5割を占めた.認知症と診断されていない一般高齢者でも,約3%は日常的金銭管理が難しいと報告されており(岡元,2023),認知・判断能力低下型が多数を占めるこの群は,なおのこと適切な金銭管理ができずに貧困状態に陥り,経済的不安や不適切な金銭管理という悪循環が生じている可能性が考えられる.

「全体低群」は23.2%(35名)で,セルフ・ネグレクト状態の深刻度は4群中最も高く,最重度(生命・身体・生活に著しく危険な状態が生じている)が7割を占めた.セルフ・ネグレクト状態像の5側面はすべて高い水準(悪い状態)を示していた.特に不適切な保健医療行動の水準が高く,介護保険等のサービス利用拒否や受診・治療を拒否する可能性が高く,最も生命の危機が懸念される群である.

このように,高齢者のセルフ・ネグレクトはいくつかの特徴的なグループに分類できる可能性が示された.海外ではセルフ・ネグレクトの重症度を測定するツール(Dyer et al., 2006)が開発され,類型化ごとの介入方略の提言(Burnett et al., 2014)も報告されている.日本でも岸(2017)による測定ツールおよび介入マニュアルの公表などにより,セルフ・ネグレクトの本人が示すサインを早急かつ的確に把握し支援するための取り組みが進められている.本研究で類型化された高齢者のセルフ・ネグレクト状態像は,調査時点での観察であり,各事例がどのような経時的変容を示していくのか等,検討課題は多い.今後さらにセルフ・ネグレクト状態像の類型化を精度化していくことが必要である.

Ⅵ. 研究の限界と今後の課題

本研究にはいくつかの限界がある.第一に,調査票の回収率を確定することができておらず,本研究の結果が一般化可能か否か,現時点では判断できない.第二に,本研究は近畿2府4県に設置された地域包括支援センターおよび社会福祉協議会を調査対象としているため,他の地域や調査対象者ではどのような結果が得られるのか等,今後さらなる検証が望まれる結果となった.ただし,実際にセルフ・ネグレクト状態にある高齢者の支援に携わっている専門職者から得た回答であるため,セルフ・ネグレクトの状態像を把握することについては,一定の意義があるものと考える.今後は,地域に潜在しているセルフ・ネグレクト状態にある高齢者だけにとどまらず,将来的にセルフ・ネグレクト状態に陥る可能性が懸念される段階の高齢者も含めて,縦断的な実証研究を蓄積していくことが必要であると考える.

Ⅶ. 結論

専門職者がセルフ・ネグレクト状態とみなした地域在住高齢者の事例に関する質問紙調査を行った結果,事例は,対人関係の希薄さが特徴的な「対人関係稀薄群」,金銭管理ができていない「金銭管理困難群」,保健行動ができておらず生命維持が危惧される「全体低群」,家屋環境が劣悪な「家屋環境劣悪群」の4群に類型化された.クラスタ間では,障害高齢者および認知症高齢者の日常生活自立度,セルフ・ネグレクトのタイプと深刻度,高齢者本人の他者受容で相違があった.本研究で得られた類型化のクラスタ間の特徴から,それらに応じた介入や支援を検討するための基礎資料になると考える.今後は更なる実証研究を蓄積し,高齢者のセルフ・ネグレクト状態像の類型化を精度化していくことが必要であると考える.

付記:本研究は兵庫医科大学大学院看護学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.本研究の内容の一部は,第28回日本在宅ケア学会学術集会にて発表した.

謝辞:本研究の実施にあたり調査にご協力いただきました地域包括支援センターおよび社会福祉協議会の管理者様,スタッフの皆様には心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:松崎洋子は研究の着想およびデザイン,データ収集と統計解析,論文執筆を実施した.堀口和子は研究の着想およびデザイン,統計解析,論文執筆まで研究全般に貢献した.岩田 昇は調査票設定等の助言および統計解析,論文執筆まで研究全般に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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