2025 Volume 45 Pages 152-163
目的:訪問看護管理者のリーダーシップ行動尺度の開発を行うこと.
方法:全国の訪問看護師3,000名を対象に,管理者のリーダーシップの行動に関する他者評価尺度39項目を含むインターネット調査または質問紙郵送調査を実施し,尺度の信頼性および妥当性の検討をした.
結果:577名(回収率19.3%)から回答が得られ,探索的因子分析の結果,2因子16項目が抽出された.モデル適合度はGFI = .936,AGFI = .909,CFI = .973,RMSEA = .062で,外的基準との相関係数はr = .768~.818であった.尺度全体のクロンバックα係数は.959,再テスト法による相関係数はr = .716であった.
結論:一定の信頼性および妥当性を有すること,良好なモデル適合度を示したことから,本尺度は訪問看護管理者のリーダーシップの行動を評価する指標として活用可能である.
Objective: This study aimed to develop a scale for measuring the leadership behaviors of visiting nurse managers.
Methods: A nationwide survey was conducted using internet-based or mailed questionnaires targeting 3,000 visiting nurses across Japan. The survey included a 39-item scale designed to evaluate managers’ leadership behavior from the perspectives of their subordinates. The reliability and validity of the scale were also assessed.
Results: In total, 577 responses were received (response rate: 19.3%). Exploratory factor analysis identified 16 items organized into two factors. The model fit indices were as follows: GFI = .936, AGFI = .909, CFI = .973, and RMSEA = .062. Correlation coefficients with external criteria ranged from r = .768 to .818. Cronbach’s alpha for the complete scale was .959, and the test-retest correlation coefficient was r = .716.
Conclusions: The scale demonstrated strong reliability and validity, as well as favorable model fit indices. This suggests that it is a robust tool for evaluating visiting nurse managers’ leadership behavior.
日本は超高齢社会を背景に,医療費の増大や医療体制・制度の改革が進む中,入院期間の短縮化が進んでいる.その結果として在宅療養者が増加傾向にあり,多様化する在宅医療に対応する訪問看護師への社会的ニーズは一層高まっている.2014年に日本看護協会,日本訪問看護財団,全国訪問看護事業協会の3団体により策定された「訪問看護アクションプラン2025」では,訪問看護師の人数を約15万人まで増加させる目標が掲げられた(日本訪問看護財団,2017).一方で,2022年末時点で訪問看護師の就業者数は約7万人に留まっており(厚生労働省,2024),この目標達成には多くの課題が残されている.訪問看護師の離職率は約15%に達し(日本看護協会,2011),これは病院勤務の看護師の離職率約11%(日本看護協会,2024)を上回る.さらに,2024年4月時点で訪問看護ステーションの年間の廃止件数が701件,休止件数が479件にのぼる(全国訪問看護事業協会,2024).訪問看護師が働ける組織の数は増加する一方で,廃止や休止が頻発していることから,看護師の定着が難しい職場環境であることも示されている.人々が住み慣れた地域で安心して療養生活を送るためには,それらを支える訪問看護師の人材確保・定着が不可欠である.しかし,このような背景から,今後ますます人材不足が深刻化する可能性があり,充実した地域包括ケアシステムの実現に向けても,これは喫緊の課題である.
看護師不足は世界的な問題であり,その解決には職場環境の改善が必要とされている(Oulton, 2006).米国では1970年代から1980年代にかけて深刻な看護師不足が問題視され,離職率が低く,優れた看護師を惹きつけ,高定着率を維持する病院の特性に注目した研究が行われた.その結果,マグネットホスピタルと呼ばれる魅力的な看護組織の特性が明らかにされ,それを測定するための尺度としてNursing Work Index(NWI)が開発された(Kramer & Hafner, 1989).すなわち,NWIを活用することによって,優れた職場環境の評価測定が可能であり,就業継続意向など人材定着に関連する要因の分析から課題の抽出などが可能になると言える.しかし,NWIは病院で勤務する看護師を対象として作成された尺度であり,訪問看護師の特有な職場環境や組織特性が十分に反映されている尺度とは言い難いという課題があった.その後で,訪問看護師の職場環境測定尺度として,Work Environment Scale for Visiting Nurses(WESVN)が開発され(上元・大西,2023),この尺度を用いた研究にて,WESVNの下位尺度である【管理者のリーダーシップ】が,業務負荷量や他の職場環境要因を上回り,最も就業継続意向に影響を与える可能性が示された(Kamimoto et al., 2023).この結果は,管理者のリーダーシップがスタッフの就業継続意向に影響を与えるという先行研究の結果(Boyle, 2004;Wei et al., 2018)と一致しており,リーダーシップを発揮できる管理者の育成が訪問看護師の定着に有効であることが示唆された.
一方で,WESVNの【管理者のリーダーシップ】は職場環境全体を測定する尺度を構成する因子の一つであり,これを用いて訪問看護管理者のリーダーシップを十分に捉えることは困難である.さらに,病棟看護師を対象にしたリーダーシップ研究はこれまでに多くの報告があり,それを測定する尺度開発によって看護師の就業継続意向など人材定着との関連が検証されているが,訪問看護の分野においてはリーダーシップに関する研究は国内外でほとんど行われておらず,訪問看護の分野で効果的なリーダーシップやそれを測定する尺度も未開発であることが研究課題である.
そこで本研究では,スタッフによる他者評価を用いて訪問看護管理者のリーダーシップ行動を測定する尺度を開発し,その信頼性と妥当性を検証することを目的とする.本研究では,リーダーシップが訪問看護スタッフの就業継続意向に及ぼす影響をより客観的に把握するため,管理者の自己評価尺度ではなく,スタッフの他者評価尺度を採用した.リーダーシップ研究では,管理者の自己評価とスタッフの評価に乖離が生じることが指摘されており,管理者が自己評価で高いと認識する行動でも,スタッフの評価が低い場合がある(Heuston et al., 2021).そのため,リーダーシップの実態をより正確に測定するためには,リーダーシップを受ける側の視点からの評価が有効であると考えられる.本研究は,訪問看護スタッフの就業継続意向に対するリーダーシップの影響を検討することで,管理者のリーダーシップ行動の実践的意義を明らかにすることを目指している.本尺度の活用により,人材確保・定着が課題となっている訪問看護の分野において,管理者が発揮すべきリーダーシップ行動を具体的に示し,管理者自身が客観的に自己の行動を振り返る機会を提供する.また,フィードバックを通じて改善点を特定することで,管理者のリーダーシップ向上を促進し,最終的には訪問看護師の就業継続意向の向上,ひいては訪問看護分野の人材確保・定着に貢献することが期待される.
リーダーシップとは,目標を達成するための手段であり,本研究でのリーダーシップの定義を「組織のあらゆる目標を達成するために,個人や組織の力を最大化して,成功に向かわせること」とする.
本研究の実施手順として,村上(2006)の心理尺度作成手順を参考に,文献検討とインタビュー調査の結果に基づき尺度項目の収集,項目の整理と構成概念の検討,試作版作成,プレテスト,予備調査,予備尺度の作成,本調査を実施した.また,ガイドラインであるCOSMINに従って信頼性と妥当性の確認を行った(Mokkink et al., 2018).
1. 尺度項目の収集~試作版作成まず,2023年8月~2023年9月に,組織で働き続ける上で効果的と考えるリーダーシップについて半構造化面接を行った(上元・池崎,2024).対象者は,訪問看護管理者10名と訪問看護師10名の計20名とした.得られた逐語録から管理者のリーダーシップの行動を抽出し,質的帰納的に分析し,質問文に置き換えた.それらの項目と,文献検討にて先行研究(三隅,1986;Bass & Avolio, 2004;Avolio & Gardner, 2005;Graen & Uhl-Bien, 1995;Brussow, 2013;石川,2016;Liden et al., 2008)の内容を参考に,看護師のリーダーシップを測定する尺度および看護師を対象としたリーダーシップに関連する行動や特性などを参考に尺度項目の収集を行った.これらをその意味内容に基づいて整理し,研究者が独自に構成概念とアイテムプールの作成を行い,合計40項目で構成された訪問看護管理者のリーダーシップ行動尺度(Leadership Behavior Scale for Visiting Nurse Managers:以下,LBS-VNMと略す)の試作版を作成した.回答形式は「①全くそう思わない」「②そう思わない」「③あまりそう思わない」「④少しそう思う」「⑤そう思う」「⑥とてもそう思う」の6段階のリッカート尺度を用いた.本尺度の合計得点が高いほど,リーダーシップを発揮していることを示す尺度とした.
2. プレテスト内容妥当性については,在宅看護と看護管理学を専門とする研究者8名から意見を得た.質問項目別と測定道具全体のI-CVI(項目妥当性指数),S-CVI/Ave(測定道具妥当性指数:平均値法)を用いて,「④かなり関連がある」または「③やや関連がある」を○として1点,「②あまり関連がない」または「①関連がない」を×として0点で評価して確認した.I-CVI = 0.78以上,S-CVI/Ave = 0.90以上で良好であるという基準を用いた(Polit et al., 2007).その結果,項目別ではI-CVI = 0.71~1.00,S-CVI/Ave = 0.96,測定道具全体のI-CVI = 1.00であった.1項目のみI-CVI = 0.71で基準をわずかに下回ったが,それ以外は基準を満たした.表面妥当性については,訪問看護師スタッフ4名に対してプレテストを実施し,調査内容と質問項目の整合性,質問の意図と質問文から読み取れる内容の適合性を確認し,調査票で不明瞭な点,負担感,所要時間について確認し,表現を修正した.以上の検討により,項目の表現を一部修正し,修正した試作版40項目とした(表1).
仮設枠組み | 仮の構成概念 | 項目 |
---|---|---|
A | 心理的安全性 | 1.いつでも相談や話し合いができる姿勢を示してくれる** |
2.失敗や不安を示すことで,私自身も失敗や不安を話しやすい環境を作ってくれる** | ||
3.職員としての私だけでなく,私個人としても関心や理解を示してくれる | ||
4.成長を促進させるためのフィードバックをしてくれる*** | ||
5.私に信頼を示してくれる | ||
6.公平な態度で接している | ||
7.既存の考えに固執せず,新たな知見を取り入れている*** | ||
8.私が挑戦することを肯定的に支持してくれる*** | ||
9.異なる意見や考えに対して,最初から否定せずに受け入れようとしてくれる | ||
B | 人を動かす力 | 10.私に指示するだけでなく,自ら考えて問題解決できるよう関わってくれる*** |
11.困りごとや抱える課題に対して,共に考えてくれる** | ||
12.業務の進め方や判断を私に任せてくれる | ||
13.業務上の困りごとが生じたとき,守ってくれる*** | ||
14.私が優れた業務が行ったとき,褒賞や称賛の言葉で励ましてくれる | ||
15.私に業務上の問題や課題が生じたとき,厳しい態度で向き合ってくれる | ||
16.地域の在宅医療の関係者らと信頼を築いている** | ||
17.組織内外で幅広い人脈を築いている | ||
C | 感情的知性 | 18.意見を丁寧に傾聴してくれる*** |
19.私が落ち込んでいるとき,感情や状態を察知してくれる | ||
20.指導や相談内容に応じて,適切な場所や手段を選ぶ配慮をしている*** | ||
21.怒りの感情をコントロールしている | ||
22.あらゆる感情を率直に共有している*** | ||
23.異なる意見を上手くまとめている** | ||
24.考えや行動を深く反省し,そこから学びを得ようとしている*** | ||
25.組織の理念や目標を明確に示している | ||
D | 高度な実践力 | 26.倫理観に基づいて行動している*** |
27.業務に影響を与える事項について幅広く情報収集をしている* | ||
28.専門的な知識や技術を用いて質の高い看護ケアを実践している*** | ||
29.職員の特性に応じた業務調整や配置を行っている | ||
30.不測の事態に伴う臨時対応に対して,迅速かつ適切な状況判断をしている | ||
31.意見が衝突したときは,客観的な視点を持ちながら合意形成を図っている** | ||
32.組織の現状だけでなく,将来を見据えて先回りして行動している** | ||
33.データを活用して組織状況を比較・検討し,分析している | ||
E | 率先垂範 | 34.あらゆる業務を自らが率先して行動している |
35.私にとってのロールモデルとなっている*** | ||
36.組織や職員に与える影響を考慮して決定事項を判断している*** | ||
37.サポート役を中心に担っている** | ||
38.専門的な知識や技術を向上させるための自己研鑽を行っている | ||
39.広範な知識や豊富な経験を共有してくれる** | ||
40.積極的にコミュニケーションを取っている*** |
注1)*予備調査の項目分析で削除した項目
注2)太字は予備調査の項目分析で修正とした項目
注3)**本調査の項目分析で削除した項目
注4)***探索的因子分析で削除で削除した項目
対象は,全国の訪問看護ステーションおよび訪問看護部門のある病院・施設に勤務する訪問看護師100名を機縁法にて選定した.管理者以外の常勤・非常勤の職員とし,その他の資格の有無や役職は問わないものとした.
2) データ収集方法と調査期間対象施設の管理者宛に,研究協力依頼書と説明書を郵送した.Google formsを用いたインターネット調査法と郵送調査法を併用し,回答者が回答方式を選択できるよう設定した.インターネット調査法で対象者は研究協力に同意する場合,説明書に記載したURLへアクセスし,Webページ画面に表示される質問項目に回答し,送信する.郵送調査法とする場合は,回答者は同封した調査票へ直接回答を記入のもと返信用封筒へ封入し返送するものとした.調査期間は,2024年1月16日~2024年2月10日とした.
3) 調査内容と結果調査内容は,年齢などの基本属性22項目とLBS-VNMの試作版40項目とした.分析対象は55名(回収率=55%,有効回答率=100%)であった.各項目の尖度と歪度を確認するとともに,天井効果,床効果の有無,Good-Poor Analysis(G-P分析),Item-Total Correlation Analysis(I-T分析),項目間相関,項目が削除された場合のクロンバックα係数を確認した.尖度と歪度が,±2以上(Kunnan, 1998),天井効果が(平均値+標準偏差)>6,床効果が(平均値-標準偏差)<1,G-P分析は当該項目以外の項目得点の合計を四分位に分け,上位群を75%以上,下位群を25%以下の2群にし,2群間でt検定を行い有意差が認められないこと,I-T分析は当該項目を除いた項目得点の合計と項目の相関のPearsonの相関係数が0.3以下(Polit & Beck, 2017),項目間相関はClark & Watson(1995)およびDeVellis(2017)の推奨に基づいて項目間相関が0.75以上,項目が削除された場合のクロンバックα係数は全体の信頼係数値よりも0.1以上上昇する場合を項目削除の候補として検討した.その結果,予備調査にて1項目削除,2項目を修正した,合計39項目をLBS-VNMの予備尺度とした.
4. 本調査 1) 調査施設と対象者対象は,厚生労働省の情報共有システム「介護事業所検索」により,全国の都道府県ごとに,乱数表を用いて施設を無作為に抽出した訪問看護ステーションおよび訪問看護部門のある病院・施設を対象に1,500施設に勤務する訪問看護師3,000名(各施設2名)とした.予備調査の際の研究協力者は除外し,その他は予備調査と同様に実施した.
2) データ収集方法と調査期間データ収集方法は,予備調査と同様とし,調査期間は,2024年5月13日~2024年6月10日とした.また,本調査では再テスト法を用いて信頼性(安定性)の検討を行うため,同意の得られた対象者には2回の調査を実施した.そのため,予備尺度の尺度項目に加え,対象者のメールアドレスを記載する欄を追加で設け,記載のあった対象者には1回目の調査期間締め切り日の2週間後にGoogle formsのURLを明記したメールを送信し,2回目の調査への回答を依頼した.
3) 調査内容基本属性22項目とLBS-VNM予備尺度39項目に加えて,基準関連妥当性の確認のためGraen & Uhl-Bien(1995)の尺度を基にKawaguchiら(2021)が作成したリーダー・メンバー・エクスチェンジ尺度日本語版(The Japanese version of Leader-Member Exchange:以下LMX-7と略す)の7項目を含めた.リーダー-メンバー交換(Leader-Member Exchange: LMX)理論では,リーダーと部下の関係性が職務満足度や組織定着に影響を及ぼすことが示されており(Graen & Uhl-Bien, 1995),管理者のリーダーシップ行動がスタッフの就業継続意向にどのように関連するのかを検討するため,LMX-7を用いることが適切であると判断した.
5. 分析方法統計解析には,統計ソフトIBM SPSS Statistics 29,Amos26を使用し,統計学的有意水準両側5%で,以下の分析を行った.
1) 項目分析と項目削除の基準項目分析と項目削除の基準は,予備調査と同様に実施した.
2) 妥当性の検討探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を実施した.カイザーガットマン基準に従って固有値1以上の因子を採用し,回転後の因子負荷量が0.4未満(対馬,2017)の因子と,複数の因子にまたがって0.4以上を示した項目を削除した.
次いで,共分散構造分析を用いた確認的因子分析により因子構造を確認し,モデルの適合度を算出した.適合度指標にはGFI(Goodness-of Fit Index),AGFI(Adjusted Goodness-of Fit Index),CFI(Comparative Fit Index),RMSEA(Root Mean Squared Error of Approximation)を用いた.
基準関連妥当性は,本尺度とLMX-7との関連を確認した.本尺度の合計得点が高いほど,リーダーシップを発揮していると仮定し,本尺度の合計得点とLMX-7の合計得点でPearsonの相関係数を算出した.LMX-7使用にあたり,日本語版翻訳・開発者の武村雪絵氏の許可を得て使用した.
3) 信頼性の検討尺度全体と下位尺度のクロンバックα係数の算出を行った.同意が得られた回答者には再テスト法を用いて,1回目と2回目の合計得点および下位尺度得点をShapiro-Wilkの検定で正規性を確認後,Spearmanの順位相関係数または級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficients: ICC)とκ係数を求め,安定性を検討した.
6. 倫理的配慮対象者には,書面にて研究目的,意義,方法,プライバシーの保護,データの保管,得られた情報や結果を研究以外の目的に使用しないこと,研究への参加は自由であり,参加しない場合も業務上不利益にはならないこと,研究成果の公表を文書で説明した.調査票への記入は無記名で行い,回答をもって同意が得られたものとした.本研究は,千葉大学大学院看護学研究科研究等倫理委員会の審査を受け,承認(千大亥研第192号)を得た後に実施した.
訪問看護師1,500施設3,000名に質問紙を配布した結果,5施設10名分が宛先不明となり2,990名のうち,郵送376名,Web 201名の合計577名(回収率19.3%)からの回答を得た.対象者の概要は,平均年齢は45.4歳で,40歳代が216名(37.4%)で最も多かった.
N = 577
項目 | カテゴリー | n | (%) | 項目 | カテゴリー | n | (%) | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
性別 | 男 | 52 | (9.0) | 組織の設置主体 | 営利法人(会社) | 264 | (45.8) | |
女 | 523 | (90.6) | 医療法人 | 125 | (21.7) | |||
その他 | 1 | (0.2) | 社団・財団法人 | 52 | (9.0) | |||
年齢 | 20代 | 37 | (6.4) | 協同組合 | 17 | (2.9) | ||
30代 | 114 | (19.8) | 社会福祉法人 | 27 | (4.7) | |||
40代 | 216 | (37.4) | 地方公共団体 | 14 | (2.4) | |||
50代 | 167 | (28.9) | その他 | 72 | (12.5) | |||
60代 | 37 | (6.4) | 事務所の種別 | 本社 | 479 | (83.0) | ||
70代 | 1 | (0.2) | サテライト | 88 | (15.4) | |||
配偶者またはパートナーの有無 | はい | 456 | (79.0) | 事務所の設置年数 | 1年未満 | 9 | (1.6) | |
いいえ | 117 | (20.3) | 1~3年未満 | 32 | (5.5) | |||
子供の有無 | はい | 458 | (79.4) | 3~5年未満 | 60 | (10.4) | ||
いいえ | 115 | (19.9) | 5~10年未満 | 148 | (25.6) | |||
雇用形態 | 常勤 | 497 | (86.1) | 10~20年未満 | 118 | (20.5) | ||
非常勤 | 78 | (13.5) | 20年以上 | 125 | (21.7) | |||
非常勤の場合の週の勤務回数 | 1回 | 2 | (2.6) | 不明 | 46 | (8.0) | ||
2回 | 0 | (0.0) | 常勤換算数 | 3人未満 | 92 | (15.9) | ||
3回 | 10 | (12.8) | 3~5人未満 | 226 | (39.2) | |||
4回 | 26 | (33.3) | 5~10人未満 | 184 | (31.9) | |||
5回 | 25 | (32.1) | 10~15人未満 | 33 | (5.7) | |||
6回 | 2 | (2.6) | 15~20人未満 | 23 | (4.0) | |||
7回 | 0 | (0.0) | 20人以上 | 9 | (1.6) | |||
不規則 | 12 | (15.4) | 機能強化型ステーション | いいえ | 408 | (70.7) | ||
訪問看護師としての経験年数 | 1年未満 | 30 | (5.2) | 機能強化型I | 43 | (7.5) | ||
1~3年未満 | 109 | (18.9) | 機能強化型II | 31 | (5.4) | |||
3~5年未満 | 105 | (18.2) | 機能強化型III | 10 | (1.7) | |||
5~10年未満 | 141 | (24.4) | 種別不明 | 16 | (2.8) | |||
10~20年未満 | 131 | (22.7) | 休暇の取りやすさ | 11段階評価(0~10) | 7.24 ± 2.67 | |||
20年以上 | 58 | (10.1) | 給与への満足度 | 11段階評価(0~10) | 5.46 ± 2.94 | |||
現在の職場の勤務年数 | 1年未満 | 49 | (8.5) | 職業継続意向 | 11段階評価(0~10) | 7.38 ± 2.43 | ||
1~3年未満 | 138 | (23.9) | 就業継続意向 | 11段階評価(0~10) | 6.67 ± 2.71 | |||
3~5年未満 | 120 | (20.8) | 管理者の役割(代表取締役など経営役割の有無) | はい | 210 | (36.4) | ||
5~10年未満 | 154 | (26.7) | いいえ | 356 | (61.7) | |||
10~20年未満 | 86 | (14.9) | あなたと管理者が一緒に勤務している年数 | 1年未満 | 65 | (11.3) | ||
20年以上 | 24 | (4.2) | 1~3年未満 | 177 | (30.7) | |||
週平均の24時間体制の当番回数 | 1回 | 75 | (13.0) | 3~5年未満 | 132 | (22.9) | ||
2回 | 101 | (17.5) | 5~10年未満 | 126 | (21.8) | |||
3回 | 46 | (8.0) | 10~20年未満 | 59 | (10.2) | |||
4回 | 14 | (2.4) | 20年以上 | 5 | (0.9) | |||
5回 | 5 | (0.9) | あなたの管理者の訪問看護管理者経験年数 | 1年未満 | 34 | (5.9) | ||
6回 | 4 | (0.7) | 1~3年未満 | 101 | (17.5) | |||
7回 | 22 | (3.8) | 3~5年未満 | 92 | (15.9) | |||
0回 | 129 | (22.4) | 5~10年未満 | 113 | (19.6) | |||
不規則 | 161 | (27.7) | 10~20年未満 | 60 | (10.4) | |||
取得している資格 (複数回答可) |
看護師 | 557 | (96.5) | 20年以上 | 30 | (5.2) | ||
准看護師 | 67 | (11.6) | 不明 | 74 | (12.8) | |||
保健師 | 51 | (8.8) | 注)欠損値は除く | |||||
認定看護師 | 10 | (1.7) | ||||||
専門看護師 | 4 | (0.7) | ||||||
介護支援専門員 | 67 | (11.6) | ||||||
介護福祉士 | 5 | (0.9) | ||||||
社会福祉士 | 1 | (0.2) | ||||||
その他 | 22 | (3.8) |
LBS-VNM予備尺度39項目のうち,項目分析の結果,削除基準に該当する項目について,内容を考慮し最終的に削除を検討した.具体的には,天井効果>6,項目間相関が複数にまたがって0.75以上と複数の削除基準に該当した9項目(1, 2, 11, 16, 23, 31, 32, 37, 39)を削除し,最終的に尺度項目を30項目とした.
3. 探索的因子分析(表3)項目分析で削除された9項目を除いた30項目で初回の探索的因子分析を行い,各項目の共通性を確認し,因子数をスクリープロットおよび累積寄与率により検討した.因子負荷量が0.4未満の項目と,複数の因子にまたがって0.4以上の因子負荷量を示した項目を削除候補とし,各項目の共通性,パターン行列,全分散を確認しながら,分析を繰り返し行い,因子構造の変化を見た.項目内容および解釈可能性を考慮したうえで,最終的に2因子16項目が妥当であると判断した.
N = 577
因子名 | 仮説 枠組み |
項目内容 | 因子負荷量 | |
---|---|---|---|---|
因子1 (8項目) |
因子2 (8項目) |
|||
第1因子 【実行力】 |
D | 33.組織状況についてデータを活用して比較・検討,分析して説明している | 0.85 | –0.02 |
E | 38.専門的な知識や技術を向上させるための自己研鑽を行っている† | 0.84 | –0.02 | |
D | 30.不測の事態に伴う臨時対応に対して,迅速かつ適切な状況判断をしている† | 0.81 | 0.05 | |
C | 25.組織の理念や目標を明確に示している | 0.79 | –0.04 | |
D | 34.あらゆる業務を自らが率先して行動している† | 0.75 | 0.10 | |
B | 17.組織内外で幅広い人脈を築いている† | 0.69 | 0.07 | |
D | 29.職員の特性に応じた業務調整や配置を行っている | 0.63 | 0.26 | |
B | 15.私に業務上の問題や課題が生じたとき,厳しい態度で向き合ってくれる | 0.51 | 0.17 | |
第2因子 【感情的知性】 |
A | 5.私に信頼を示してくれる | –0.11 | 0.91 |
B | 12.業務の進め方や判断を私に任せてくれる | –0.08 | 0.86 | |
A | 6.公平な態度で接している | 0.07 | 0.79 | |
B | 14.私が優れた業務が行ったとき,褒賞や称賛の言葉で励ましてくれる | 0.10 | 0.77 | |
A | 9.異なる意見や考えに対して,最初から否定せずに受け入れようとしてくれる | 0.16 | 0.73 | |
A | 3.職員としての私だけでなく,私個人としても関心や理解を示してくれる† | 0.16 | 0.70 | |
C | 19.私が落ち込んでいるとき,感情や状態を察知してくれる | 0.32 | 0.54 | |
C | 21.怒りの感情をコントロールしている† | 0.27 | 0.51 | |
クロンバックα係数 | 全体 | 0.959 | ||
各因子 | 0.929 | 0.942 | ||
固有値 | 9.980 | 1.163 | ||
累積寄与率(%) | 62.378 | 69.647 | ||
因子間相関 | 1 | 1.000 | ||
2 | 0.777 | 1.000 |
注1)0.40以上の因子負荷量に網掛けした
注2)†は先行研究で報告されていない独自性のある項目
第1因子は「組織状況についてデータを活用して比較・検討,分析して説明している」など8項目が含まれた.訪問看護管理者が示す実践的なリーダーシップ行動の8項目で構成されていたことから,【実行力】と命名した.第2因子は「私に信頼を示してくれる」など8項目が含まれた.訪問看護管理者が示す人間性や職員との良好な関係性を構築し,職員のパフォーマンスを最大化するためのリーダーシップ行動の8項目で構成されていたことから,【感情的知性】と命名した.
4. 妥当性の検討共分散構造分析による,適合度指数の結果は図1に示した.各因子から観測変数へのパス係数は0.65~0.87の範囲であり,5%水準で有意であった(図1).基準関連妥当性は,LBS-VNM合計得点とLMX-7合計得点の相関はr = .834(p < .01)で正の相関が認められた(表4).
N = 577
訪問看護管理者のリーダーシップ行動尺度 | |||
---|---|---|---|
第1因子 | 第2因子 | 尺度合計得点 | |
(8項目) | (8項目) | (16項目) | |
LMX-7尺度 合計得点(7項目) | .768* | .818* | .834* |
*p < 0.01(相関係数は1%水準で有意(両側))
内的整合性の評価は,尺度全体のクロンバックα係数はα = .959であった(表3).再テスト法は,同意の得られた92名に2回目の調査協力の依頼を行い,41名(回収率=44.6%)から回答が得られ,40名(有効回答率=97.6%)を分析対象とした.Shapiro-Wilk検定にて正規性を示さなかったため,Spearmanの順位相関係数で確認したところ,尺度合計得点でr = .716(p < .01)であった.
基本属性を見ると,既存の全国規模の調査結果(富田ら,2021)や日本看護協会の訪問看護実態調査報告書(2015)と比べて,平均年齢や経験年数等,設置主体別の構成比率はほぼ同様の傾向を示していた.このことから,本研究の対象となった訪問看護師の属性は,一定の代表性を有していると考えられた.
サンプル数に関しては,COSMINチェックリストの構造的妥当性のバイアスのリスクを参考に,項目数×7以上かつ100以上という基準(Terwee et al., 2012)を設定していたが,本研究はN = 577のサンプル数を確保し,項目数×7以上という基準を満たしたことから,本研究の結果は一定の有用性があると考えられた.また,探索的因子分析のサンプル数に関しては,Kaiser-Meyer-Olkin(KMO)の標本妥当性の測度にて,0.965と非常に高く,Kaiser & Rice(1974)の基準である0.9以上を十分に満たしていることから,サンプル数は適切であったと考えられた.
2. 本研究の分析のプロセスについて本研究における尺度開発では,訪問看護管理者を対象としたリーダーシップに関する先行研究が存在しないため,質的研究の結果を広く取り入れてアイテムプールを作成した.一般に,尺度開発の初期段階では,概念の妥当性を確保するために質的研究の知見を反映させることが推奨されている(DeVellis, 2017;Boateng et al., 2018).しかし,既存の理論的枠組みや尺度が不足している場合,項目の妥当性を検証する過程で多くの項目が削除されることがある(Clark & Watson, 1995).本研究においても,分析の過程で多数の項目が削除されたが,これは未開拓の領域における尺度の精緻化のための不可欠な過程であり,妥当な結果であると考えられる.
まず,項目分析の結果,天井効果が高い項目と項目間相関が高い項目の計9項目を削除した.天井効果が高かった項目には,「16.地域の在宅医療の関係者らと信頼を築いている」「40.積極的にコミュニケーションを取っている」などが含まれ,多くの管理者が日常的に実践している行動であるため,尺度としての識別力に欠ける可能性が考えられた.また,項目間相関が高かった項目には,「1.いつでも相談や話し合いができる姿勢を示してくれる」「23.異なる意見を上手くまとめている」「31.意見が衝突したときは,客観的な視点を持ちながら合意形成を図っている」などが該当し,類似した内容を測定していた可能性が高い.そのため,尺度の簡潔性と測定効率を考慮し,冗長性のある項目を削除することで,より明確で信頼性の高い測定が可能となった.
次に,探索的因子分析の結果に基づき,30項目から16項目を選定した.項目削除の基準として,因子負荷量が0.4未満で測定対象とする因子に十分に寄与していない項目,複数の因子にまたがり負荷して因子構造の明確性を損なう項目が挙げられる.結果として,最終的な因子構造は各因子の内的整合性も適切な水準を維持した.このことから,削除した項目が尺度の妥当性を損なうものではなく,むしろ尺度の精度向上に寄与したと考えられる.本研究は既存の理論的枠組みに基づくのではなく,質的インタビューをもとに構築された独自の枠組みに基づく尺度開発を行っている点に特徴があり,包括的なリーダーシップを測定するのではなく,訪問看護における「人材定着」に焦点を当てたリーダーシップ行動を測定することを目的としている.そのため,今回削除された項目についても,異なる集団で測定を行う場合には,尺度の妥当性が変化し,別の項目が残る可能性がある.今後の研究では,多様な対象集団において本尺度の適用可能性を検討し,妥当性・信頼性のさらなる検証を行うことが重要である.
3. LBS-VNMの妥当性モデルの適合度指標については,GFIは1に近いほど説明力のあるモデルとし,AGFIは,GFIともに.90以上,GFI ≧ AGFIを基準とし,CFIは1に近いほど,RMSEAは.05以下であれば当てはまりが良いと判断した(小塩,2018).本研究のモデル適合度は,基準を満たしており,RMSEAに関しては基準をやや下まわったが,統計学的に求められるRMSEAの基準に0.05 < RMSEA ≦ 0.08は良好な適合度とされることから(Browne & Cudeck, 1993;Hu & Bentler, 1999),本研究の結果は良好な適合度を示したと判断した.また,因子構造モデルにおいて仮定した関連性は,すべて統計学的に有意な関連性を示していたことから,一定の構成概念妥当性を支持する結果と考えられた.
基準関連妥当性は,LBS-VNM合計得点および下位尺度とLMX-7合計得点で強い相関が認められたことから,基準関連妥当性を支持する結果と考えられた.一方で,管理者とスタッフの関係性がリーダーシップ評価に影響する可能性が示唆され,特に関係性が十分に構築されていない場合,管理者のリーダーシップが過小評価されるリスクがあるため,結果の解釈には慎重な検討が必要である.
4. LBS-VNMの信頼性一般的にクロンバックα係数はα = .80以上が望ましいと考えられ(DeVellis, 2017),LBS-VNMの内的整合性が保たれていることが確認された.Spearmanの順位相関係数は.Cohen(1988)基準に基づくと,r = .70~.89は高い相関を示すとされ,LBS-VNM合計得点における安定性が確認された.
5. LBS-VNMの独自性LBS-VNMは,訪問看護師の就業継続意向に影響を与える可能性のある訪問看護管理者のリーダーシップ行動に焦点を当てたものである.従来のリーダーシップ尺度と比較すると,変革型リーダーシップ尺度(Bass & Avolio, 2004)は,変革型リーダーシップの特性を測定し,組織変革や目標達成に向けた影響力を評価するものであり,サーバントリーダーシップ尺度(Liden et al., 2008)は,部下の成長や組織の繁栄を重視し,ケアや奉仕の観点を組み込んでいるという特徴があり,いずれも多因子構造である.これらの尺度が看護師に限らず一般的な管理者の行動やリーダーシップを包括的に測定するのに対し,LBS-VNMは,訪問看護の現場に特化し,人材確保・定着という具体的アウトカムを重視して設計されている点で独自性を有する.また,本尺度の特徴は【実行力】が示すタスク重視の行動と,【感情的知性】が示す他者の感情を汲み取り,関係性を重視する行動がバランス良く2因子構造で組み込まれている点にある.
第1因子の【実行力】は,計画を具体的な行動に移し,質の高いケアを提供する能力(Porter-O’Grady, 2003)を評価する因子として,データ活用,自己研鑽,状況判断,ビジョンの提示,率先力,人脈形成,個別性を考慮した調整,指導力を表す8項目で構成された.試作版で設定された【人を動かす力】【高度な実践力】【率先垂範】に含まれた項目が統合された.病棟看護管理者との違いとして,訪問看護ステーションの看護職員数は,全体の43%が5人未満で1ステーションあたり平均6.8人であることから(厚生労働省,2017),多くの訪問看護ステーションは病棟と比べて小規模な組織であり,管理者は管理業務に加えて,自身で受け持ち利用者(患者)を担当し訪問してケアをするなど,実践家としての看護業務を兼任する役割を担う必要がある.そのため,「34.あらゆる業務を自らが率先して行動している」といった項目は訪問看護かつ小規模組織特有の役割期待から抽出されたものと考えられる.特に「38.専門的な知識や技術を向上させるための自己研鑽を行っている」「30.不測の事態に伴う臨時対応に対して,迅速かつ適切な状況判断をしている」「17.組織内外で幅広い人脈を築いている」などの項目は病棟看護師を対象にしたリーダーシップの先行研究では報告されておらず,訪問看護管理者の特有のリーダーシップの行動を示すものと考えられる.
第2因子の【感情的知性】は,自分の感情をうまくコントロールし,思考や行動に活用できる能力(Brussow, 2013)を評価する因子であり,看護スタッフの感情面に寄り添いながらリーダーシップを発揮することで,職場への愛着や就業継続意向を向上させる行動を包括している因子として,信頼,委任,公正性,エンパワメント,承認,個人への関心,受容・共感,自己認識力を表す8項目で構成された.試作版で設定された【心理的安全性】【人を動かす力】【感情的知性】に含まれた項目が統合された.高い感情的知性を持つリーダーは支援的な職場環境を作り,看護師の職務満足度や定着率を向上させ(Coladonato & Manning, 2017),近年はDEI = Diversity(多様性),Equity(公平性),Inclusion(包括性)がリーダーに求められるとされている(田村・渡邊,2022).これらに類似する内容の項目として「6.公平な態度で接している」「9.異なる意見や考えに対して,最初から否定せずに受け入れようとしてくれる」が包含されたことからも,訪問看護かつ現代に求められるリーダー像をある程度捉えた内容になっていると考えられた.また,この因子は従来のトップダウン型の医療組織体系で採用されるような指示命令型のリーダーシップとは異なる特性を持ち,本尺度の「19.私が落ち込んでいるとき,感情や状態を察知してくれる」といった項目は後方支援型のリーダーシップであるサーバントリーダーシップ論(グリーンリーフ,2008)などの要素も兼ね備えている.特に「21.怒りの感情をコントロールしている」の項目は,病棟看護師を対象にしたリーダーシップの先行研究では報告されておらず,小規模な組織において管理者の感情がスタッフの士気に影響を及ぼすことを示唆していた特徴ある項目であった.一見すると,感情のコントロールは管理者にとって当然の行動であるように思われる.しかし,本研究においてこの項目が天井効果などによって削除されなかったことを踏まえると,訪問看護管理者が実際には十分に実践できていない行動である可能性が考えられた.
これら2因子の構造は,補完的要素から成り立ち,訪問看護師の就業継続意向に影響を与える可能性のあるリーダーシップの行動を包括的に評価が可能である.先行研究においても,実務能力と内面的な特質の両方がリーダーシップに不可欠であることが示唆されており(Wong et al., 2013),他のリーダーシップ尺度にはない独自性を持つこの構造は,人材確保・定着を目指す訪問看護の組織においては,この要素を兼ね備えたリーダーシップを管理者に発揮してもらうことが有効であることが示唆された結果でもある.
6. LBS-VNMの活用可能性LBS-VNMは,信頼性と妥当性が確認された尺度であり,管理者が具体的に取るべき行動を明確に示し,人材定着に寄与する実践的な指針を提供するものである.LBS-VNMは16項目で構成されているため,回答者に対する負担は少なく,実用性が高いことが特徴である.教育面では,管理者教育の評価ツールとして活用でき,管理者は自身の行動を客観的に振り返り,フィードバックを通じて改善点を特定し,リーダーシップスキルを向上させることが可能となる.実践面では,現場のリーダーシップ行動を評価し,結果を教育プログラムに反映させることで管理者のスキル向上を促進する.
LBS-VNMは訪問看護管理者に特化して設計されているため,訪問看護スタッフを対象にしての活用や他の医療分野の管理者のリーダーシップ行動を測定する際には課題がある.しかし,訪問看護が持つ小規模組織という特性は,小規模医療施設や介護施設の管理者と共通点があるため,これらの分野には適用可能性がある.しかし,現段階で本尺度をリーダーシップ研究に活用する際には,その設計目的が訪問看護スタッフの人材定着に影響を与える可能性のある訪問看護管理者のリーダーシップを測定する点に限られていることを十分に理解した上で使用する必要がある.
7. 本研究の限界と今後の課題本研究には主に3つの限界がある.第1に,本研究では日本全国の訪問看護ステーションを対象に無作為抽出を行ったが,規模や機能に基づく層化抽出は実施していない.そのため,サンプルが訪問看護ステーション全体の構成を厳密に反映しているとは言い難く,結果の一般化には限界がある.第2に,回収率が約20%と比較的低い点である.事前に一定の回収率の低さを想定し,十分な分析サンプルを確保するために1,500施設を対象としたが,それでも回答者の特性に偏りが生じる可能性がある.したがって,本研究の結果の適用には慎重な解釈が求められる.第3に,本研究では尺度開発の過程で多くの項目が削除された点が挙げられる.本研究は質的インタビューをもとに構築された独自の枠組みに基づき5因子構造を仮定し,アイテムプールを作成した.しかし,本調査の結果,2因子構造の方が統計的に適合度が高いことが示され,最終的に2因子構造を採択した.この過程で,統計的基準だけでなく,各項目の意味や解釈可能性を慎重に考慮し,削除を決定した.結果として削除項目は多くなったが,より精緻化された尺度となったと考えられる.今後は,削除項目の特性を再評価し,尺度の精緻化を進めるとともに,異なる訪問看護ステーションのサブグループ(例:規模や設置主体の違い)での検討を行い,尺度の普遍性をさらに検証する必要がある.
本研究で開発したLBS-VNMは,訪問看護師の就業継続意向に影響を与える訪問看護管理者のリーダーシップ行動を具体的に捉え,かつ数量的に測定可能なツールとして【実行力】【感情的知性】の2因子16項目で構成されていた.尺度特性を統計学的に分析した結果,一定の信頼性および妥当性を有することが確認された.
付記:本論文の内容の一部は,第44回日本看護科学学会学術集会において発表した.本研究は,千葉大学大学院看護学研究科に提出した博士論文に加筆・修正を加えたものである.
謝辞:本研究を行うにあたり調査にご協力下さいました全国の訪問看護師の皆様に感謝申し上げます.本研究の一部は2023年度ななーる訪問看護研究助成プロジェクト研究助成金を使用して実施しました.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:TKは研究の着想から原稿作成のプロセス全体に貢献;SIは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.