2025 Volume 45 Pages 164-177
目的:臨地実習指導者と大学教員が認識する看護実習生の責任ある行動を明らかにすること.
方法:指導者21人と教員22人に半構造化面接法によりデータを収集し,テキストマイニングによる量的分析と質的帰納的分析のミックス法を用いた.
結果:両者の語りで上位頻出単語の単純一致率85.3%,Kappa係数0.71.実習前から実習中に渡り【自己の不安に向き合う行動】をし,実習中は【実践力向上のための学び方を学ぶ行動】【看護実践を振り返る学習態度】をしながら【安全に配慮した統制行動】【理由を思考したルールの遵守行動】【意味を理解して伝える行動】【状態・状況に関心を寄せる行動】【相手の立場に立った行動】【信頼が得られる行動】【自己の努力を評価する行動】が責任ある行動として抽出された.
結論:両者は実習生が学ぶために行動することや,クライエントの安全への配慮や関係構築に向けて統制する行動が責任ある行動と捉えていた.
Objective: The purpose of this study was to clarify the perceptions of clinical practice instructors and university faculty regarding responsible behavior of nursing trainees.
Methods: Data was collected using semi-structured interviews with 21 instructors and 22 faculty members, and a mixed methods of quantitative analysis using text mining and qualitative inductive analysis was used.
Results: The agreement rate of the main words in both was 85.3% and the Kappa coefficient was 0.71. As a responsible behavior, trainees take “Behavior to face their own anxiety” before the practice; and during the practice, while development of “Behavior of learning how to learn to improve practical skills,” “Learning behavior reflecting on nursing practice,” “Behavior showing interest in the other person’s state,” “Behavior considering the other’s point of view,” “Behavior that understands and conveys meaning,” “Obeying rules while thinking about reasons,” “Behavior that control safety,” “A practical attitude that builds trust,” and “Behavior that evaluates one’s own efforts,” was required.
Conclusion: Both considered responsible behaviors to be taken by the trainees to learn, as well as behaviors that are controlled with consideration for the client’s safety and relationship building.
看護学臨地実習(以下,実習)において,看護実習生(以下,実習生)は医療の専門職を目指す者としての責任が求められている.日本看護系大学協議会(2018)は,看護学教育の質保証として,看護学士課程教育におけるコアコンピテンシーの中に“社会的責任”や“説明責任”を果たす看護師育成を目標として示している.大庭(2005)は,責任とは他者から問いかけられたとき,それに応える行為であり,行為は他者に影響すると述べている.実習生は守秘義務についての知識はあっても(山本・今西,2009),個人情報や医療の重要な情報をSocial Network Service等を通して漏洩していた(諸井ら,2016).臨地ではクライエント(以下,Client:CL)と対話し,直接的な看護技術を提供する場であるため,実習生は未熟であったとしても,要求された施設の看護水準を満たし,注意義務への準拠が求められている(加藤ら,2018).そのため,実習生は実習生としての責任を自覚し,その責任を果たすための適切な知識,スキルや能力をもつ必要性を理解し,適切に実践の場で用いなければならない(Scrivener, 2011).つまり,実習の責任の所在は監督者にあるが,実習生は臨地において責任感をもち,さらに実習生としてCLや多職種との関係性において行動レベルで責任を果たすことが求められている.
しかし,何について,どのように行動することが実習生として責任を果たす行動であるのか分かっていない(Ort, 2017).Ghasemi et al.(2019)は,状況に応じて豊富な知識を適応できることや,倫理的および宗教的義務を遵守すること等と述べているが,具体的に示していない.そもそも看護学生を対象にした責任の概念についての調査では,看護学生のほとんどが責任を曖昧に捉えており,曖昧であるからこそ責任に対して不安を感じていた(Ort, 2017)と報告されている.また,医療事故・インシデントに対し重荷と感じること(有田・田村,2015)やCLに直接ケアを提供することへの重圧・脅威を感じること(Cruz et al., 2022),また学習の準備不足に対する不安から責任を自覚しはじめる(Porter et al., 2013)と報告されている.不安や重圧を感じて実習に臨めば実習生は萎縮するだけでなく,学習効果は低減され,達成感をもった実習に至らない.
一方で,Ghasemi et al.(2020)は,責任は看護学に未来を感じることや,自身の計画的な学習管理を通して理解されると述べている.実習生はクライエントの個別性に合わせた実習を行うことが求められており,自身が積極的に看護ケアの練習を行うことや,実習に臨むための準備を行うことは欠かせない(Lundell et al., 2022).そのため,実習に入る前から計画的に,責任ある行動とは何かを具体的に理解して準備し,実習の場において自信をもって行動に移す自己の学習管理ができれば,責任に対する脅威や不安を低減した状態で実習に臨めると考える.実習生の行動に責任がもてるように促すことは,望ましい学習習慣と望ましい行動が促進される(山本,2020).そのため,実習生としての責任ある行動とは何かを実習生に具体的に示す必要がある.
臨地では,CLの健康状態や様々な人々が絡み合い状況が変化する動的で複雑な環境であり,その中で責任に対する認識と行動を同時に伴って実習をしなければならないため,一貫した模範的な方法で指導者と教員(以下,両者)がパートナーシップをもち連携して指導する必要がある(Lee et al., 2023).連携して指導ができるためには,両者が捉えている責任ある行動を明らかにする必要があると考える.しかし,国内外の文献検索データベースを用いたところ,両者を対象にした倫理的行動に関する論文で【責任を自覚した学習姿勢】等(相原・細田,2020)の貴重な成果が報告されていたが,責任の概念での行動の探求は見当たらなかった.本研究成果は,両者の一貫した指導のもと,看護学生が実習生として求められている具体的な責任ある行動に対して準備ができ,不安や重圧を低減した実習に臨めることに寄与すると考える.
臨地実習指導者と大学教員が共通認識する看護実習生の責任ある行動を明らかにする.
実習生の責任ある行動(以下,責任行動):責任とは「当然負わなければならない任務・義務」(松村・小学館『大辞泉』編集部,1995)を参考に,臨地実習を展開するにあたり,CLをケアする上で当然果たさなければならない,看護学生が準拠する必要のある規範となる態度を含めた言動とした.
量的分析と質的分析のミックス法
2. データ収集の期間2020年10月1日~2021年8月31日
3. 情報提供者情報提供者(以下,提供者)は,近畿・北陸地方の計8県の実習生を受け入れている200床以上の病院と訪問看護ステーションの指導者と,看護系大学に勤務している教員で,共に実習指導歴が3年以上とした.無作為に各1ヶ所の病院と大学を抽出し,管理者から選定基準に該当した提供者を紹介してもらいインタビューを実施した.その後,その提供者を起点にスノーボール方式で提供者をリクルートした.除外基準は,非常勤職員や実習補助者であった.
4. データ収集属性は郵送法により無記名自記式調査紙から,責任行動に関しては,対面もしくはオンラインで,半構造化面接法を用いてデータを収集した.属性は年齢,性別,経歴,役職または職位,教育背景,臨地実習科目である.インタビューは1回/人とし,内容は「実習生の責任ある行動とは何ですか」であり,答えやすいように,また想起がネガティブなことに偏るのを避けるため「責任行動にはどのようなことを期待して指導していますか」と「責任行動で成長を感じる時はどのような時ですか」を副次的に質問した.会話をレコーダーで集音し,逐語録を作成した.
5. 分析属性では,年齢や経歴はMann-Whitney U-test,臨地実習科目はχ2検定を行った.
責任行動では,両者の逐語録を熟読し,インタビューの内容が実習生の責任行動について語っていることを確認した.KH Coder Version3,Beta04(樋口,2020)を用いてテキストマイニング分析を次の手順で行った.第一段階で名詞・動詞・形容詞・副詞・形容動詞を抽出し,固有名詞,オノマトペは除外し,第二段階で重複語を除外し,第三段階で“臨地実習における責任行動”の概念を抽出できるよう実習・責任・行動等の9つの単語を除外した.その後,共起ネットワーク分析を行い,共起ネットワーク図を描画してSubgraphを抽出し,Subgraphをカテゴリとした.Subgraph数を確定するために,クラスター併合分析の併合水準(非類似度)を用いた(樋口,2023).なお,単純一致率とKappa係数をMicrosoft® Excel(Version.2016)で算出し上位頻出語の一致度を確認し,かつ語りに認識の相違がないか確認した.次に,各Subgraphにおいて,度数を表す円(node)が最も大きい単語,または共起を示す線(edge)を最も多く持っている単語(以下,Subgraph Keyword)を選定し,keyword in contextコンコーダンスで切片化した文のリストを取り出した後,単語の共起関係の位置を確認しながら,リストの文脈に基づきカテゴリを命名した.しかし,共起ネットワークの図でSubgraphの描画が大きすぎて,解釈が難しい場合は文脈に基づきSubgraphを分割し,サブカテゴリを命名した.さらに,カテゴリの類似性と相違性から大カテゴリを設けた.これらの分析過程は,逐語録の解釈を循環的に行き来しながら分析を深め,2人の研究者が合意するまで分析を続けた.提供者である指導者・教員の各3人からメンバーチェッキングを受け,語りの真実性と分析の妥当性を確認した.
梅花女子大学の倫理審査委員会の承認(番号:2020-0185)を受けて実施した.提供者には研究の概要と趣旨を説明し,拒否および撤回を行う権利と,不利益を被らないこと等を口頭と書面で説明し,自由意思に基づく参加への同意書を得た.面接の場や方法は提供者の希望に沿い,プライバシーの保護や情報の匿名性を遵守した.
提供者は指導者21人と教員22人であり,指導者は200~830床の9施設各1~3人と2つの訪問看護ステーション各1人,教員は14大学から各1~3人であった.平均年齢は指導者40.5 ± 10.7歳,教員49.6 ± 9.5歳(p = 0.006),実務歴は18.1 ± 10.8年,16.8 ± 10.2年(p = 0.465),実習指導者歴7.7 ± 4.7年,看護教員歴14.6 ± 9.3年(p = 0.003)であった(表1).
項目 | 指導者 n = 21 | 教員 n = 22 | p値 | ||
---|---|---|---|---|---|
年齢 年(SD) | 40.5(10.7) | 49.6(9.5) | 0.006a) | ||
性別 n(%) | 男性 | 1(4.8) | 男性 | 0(0.0) | NA |
女性 | 20(95.2) | 女性 | 22(100.0) | ||
経歴 年(SD) | 実務歴 | 18.1(10.8) | 実務歴 | 16.8(10.2) | 0.465a) |
実習指導者歴 | 7.7(4.7) | 看護教員歴 | 14.6(9.3) | 0.003a) | |
役職または職位 n(%) | 管理者・副看護部長 | 2(9.5) | 教授 | 4(18.2) | ― |
師長・副師長 | 4(19.0) | 准教授 | 7(31.8) | ― | |
主任・副主任 | 10(47.6) | 講師 | 6(27.3) | ― | |
スタッフ | 5(23.8) | 助教 | 5(22.7) | ― | |
教育背景 n(%) | 指導者研修受講 有 | 16(76.2) | 教員研修受講 有 | 9(40.9) | ― |
無 | 5(23.8) | 無 | 13(59.1) | ||
臨地実習科目 n(%) 複数回答 |
基礎看護 | 12(19.7) | 基礎看護 | 15(25.4) | 0.459b) |
成人看護 | 14(23.0) | 成人看護 | 7(11.9) | 0.024b) | |
老年看護 | 13(21.3) | 老年看護 | 8(13.6) | 0.098b) | |
小児看護 | 2(3.3) | 小児看護 | 4(6.8) | 0.418b) | |
母性看護 | 2(3.3) | 母性看護 | 2(3.4) | 0.961b) | |
精神看護 | 3(4.9) | 精神看護 | 3(5.1) | 0.952b) | |
地域・在宅看護 | 3(4.9) | 地域・在宅看護 | 5(8.5) | 0.482b) | |
看護の統合と実践 | 12(19.7) | 看護の統合と実践 | 15(25.4) | 0.459b) |
n(number):人,SD(standard deviation):標準偏差,NA:Not Applicable,a):Mann-Whitney U test,b):χ2検定
両者の逐語データから重複等を除外した抽出語数は指導者1,428語,教員1,773語であった(図1).カテゴリ抽出のためのクラスター併合分析(図2)において,グラフの急な勾配が併合水準(非類似度)10でみられたため,Subgraph数を10個とした共起ネットワークを描画した(図3).なお,上位頻出語数各150語における単純一致率は85.3%,Kappa係数は0.71であった(図1).両者の語りに対立した認識を示すものはなく,実習生の行動の結果が法的責任にまで及ぶことへの認識も示されなかった.
大カテゴリは[ ],カテゴリを【 】,サブカテゴリを〈 〉で示し,一覧は表2の通りである.逐語録の一部を「斜字」で,上位頻出単語は太字で示した(表3).
大カテゴリ | カテゴリ | サブカテゴリ |
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[臨地での学び方を学ぶ行動] | 【実践力向上のための学び方を学ぶ行動】 | 〈目的・目標をもって事前準備〉 〈チーム員を自覚した学習態度〉 〈注意を自己成長につなげる学習態度〉 |
【看護実践を振り返る学習態度】 | 〈知識・技術・態度を振り返る基礎的学習態度〉 〈気付きが得られるカンファレンスの参加態度〉 |
|
[臨地の場に合わせる統制行動] | 【安全に配慮した統制行動】 | 〈自己の判断を確かめる行動〉 〈自己の体調管理〉 |
【理由を思考したルールの遵守行動】 | ||
【意味を理解して伝える行動】 | ||
【状態・状況に関心を寄せる行動】 | ||
【相手の立場に立った行動】 | ||
【信頼が得られる行動】 | 〈適切な情報の取り方と取り扱う態度〉 〈関係性を構築するための行動〉 〈自分の考えや思いを誠実に伝える行動〉 |
|
【自己の努力を評価する行動】 | ||
【自己の不安に向き合う行動】 |
両者は,実習前から[臨地での学び方を学ぶ行動]をとり始め,実習中は[臨地での学び方を学ぶ行動]とCLへのケア実施のために[臨地の場に合わせる統制行動]を連動させながら行動し,実習中と実習後に【自己の努力を評価する行動】をとり,実習前から最後まで【自己の不安に向き合う行動】をとることを実習生の責任行動として捉えていた.
1) [臨地での学び方を学ぶ行動]〈目的・目標をもって事前準備〉をして臨み,看護師と共にCLを担当し〈チーム員を自覚した学習態度〉で学ぶことを忘れず,指導者や教員から受けた〈注意を自己成長につなげる学習態度〉で注意や指摘を受け止めることで,【実践力向上のための学び方を学ぶ行動】がとれ,〈知識・技術・態度を振り返る基礎的学習態度〉と〈気付きが得られるカンファレンスの参加態度〉の【看護実践を振り返る学習態度】をとることが責任行動として認識されていた.
(1) 【実践力向上のための学び方を学ぶ行動】〈目的・目標をもって事前準備〉とは,ケアに対し目的・目標を掲げ,CLの心身に負担や不快感を与えないで実践できるために,個別性を踏まえてなぜ必要なのかをよく考えて,よく調べ根拠を基に準備することである.「事前学習っていうところですよね.このケアが必要だって思ったら,じゃあ患者さんに必要なケアの,まずは根拠とか,手技はもちろんのこと,何で必要なのか.できるだけ負担を最小限にする努力,そういった準備はして欲しい(指40 8)」
〈チーム員を自覚した学習態度〉とは,実習生であっても自分がチーム員と自覚してCLやCLの環境について気付いたことを職員に伝えることである.「疑問とか,学びをちゃんと言えるって,思ったことを流さないことかな.そういうことを発信できるっていうのもチームの一員ですよっていう風な(指42 35)」
〈注意を自己成長につなげる学習態度〉とは,注意されても学びの機会と思う思考の転換ができ,指摘を受け入れる態度である.「注意を受けるっていうことは,嫌な気持ちになるかもしれないですけれども,その嫌な気持ちを態度に出さず,失敗してもそれを学びとして,自分で吸収しようとしてくれることで,2倍にも3倍にも成長につながる(指40 49)」
(2) 【看護実践を振り返る学習態度】〈知識・技術・態度を振り返る基礎的学習態度〉とは,書籍に書いてあることをそのままCLに適応するのではなく,個別性に合わせて実施ができたかを記録で振り返ることである.「どうしてそういう考えや行動に至ったのかというところを,あまり根拠を考えてなくて,本に書いてあるからこうしましたというのとは違うのかなって思うんです.技術はもちろん,臨床現場の時には意識下においてやってなかったけど,今だから振り返って言える(教4 14)」
〈気付きが得られるカンファレンスの参加態度〉とは,自分の担当するCLについての議題であろうがなかろうが,懸命に考え,積極的に発言し,出た意見から担当するCLにも活かすことである.「一生懸命考えてるっていうことに関しては責任っていうか,カンファレンスでお互いに発言することで修正できるので,話さない人,黙ってる人のほうが無責任(指44 12)」
2) [臨地の場に合わせる統制行動]責任行動として,実習の場に入ったなら,CLへの生命や健康,安全への影響を鑑み〈自己の体調管理〉をし,実施前には〈自己の判断を確かめる行動〉による【安全に配慮した統制行動】をとる.そのためにも決められたことだけを鵜呑みにして従うのではなく,【理由を思考したルールの遵守行動】し,言われたことだけを無理解に伝達するのではなく,【意味を理解して伝える行動】をとりながら場に沿う行動をとり,変化するCLの気持ちや【状態・状況に関心を寄せる行動】により接近し,【相手の立場に立った行動】を場に合わせて統制する.そして,人に対する接遇を通して〈関係性を構築するための行動〉に務め,〈適切な情報の取り方と取り扱う態度〉で関わること,指導者や教員には〈自分の考えや思いを誠実に伝える行動〉をとることが【信頼が得られる行動】と認識されていた.
(1) 【安全に配慮した統制行動】〈自己の判断を確かめる行動〉とは,ミスを早期に発見するために自分が判断したことを実施する前に報告や相談をすることである.また,実習生が一人で判断して実施まで至った時には,指導者や教員に確認する.「アセスメントをしないで自己判断をしない.確認して欲しい.行動に移してしまうんじゃなくて,そこにワンクッション(両者に)確認や相談をする(教17 49)」
〈自己の体調管理〉とは,医療事故の発生やCLの生命に影響を与える可能性があるため,自分の体調を平常時よりも心がけて整えることや実習生が感染症を疑われる場合は臨地に来ない慎重さのことである.「体調管理ですよね,風邪ひかないとか.眠らないと集中できないと思いますし,それがミスにつながったりもする(指38 20)」
(2) 【理由を思考したルール遵守行動】規則を鵜呑みにして従うのではなく,規則には意味があることを学び,その理由を考えて規則を守る行動をとる.「この人はなんで移乗移動したら駄目なんかっていう理由を備えずに,自分はしちゃ駄目だからスタッフ呼びにいかなあかんぐらいしか考えてませんでしたみたいな(教12 60)」
(3) 【意味を理解して伝える行動】いい加減に伝えることの影響の大きさを理解し,自分が理解していること,していないことを指導者や教員に隠さずに正確に伝える.「分からないことは学生ですから,分かりませんと伝える,嘘をつかない,ごまかさないとか,曖昧な知識を持って相手に伝えることの重大さ(指46 6)」
(4) 【状態・状況に関心を寄せる行動】変化するCLの状態や取り巻く環境の状況に,理解を示そうと関心を持って行動する.「患者さんの状態は毎日変わっていくので,急性期とかって,そこに合わせてどう行っていくか,関心は持ってくれている.見ようねと言わなくても,変化する状態のその人を知ろうとして欲しい(指37 20)」
(5) 【相手の立場に立った行動】自分の思いは横に置いて置き,CLや家族が何を考えているか,相手の思いを知ろうと立場を想像して行動する.「立場変換してものを見れない人なんかなって,自分視点ばっかりで,相手の視点から見たらどう見えるか(教16 46)」
(6)【信頼が得られる行動】
〈適切な情報の取り方と取り扱う態度〉とは,CLが話す情報は貴重であり,実習生の学習のためだけの情報ではない.CLが話す内容は他人に知られたくないCLの重要なプライバシーであり,厳格な管理により信頼を得ることができる.「知りたい情報をダイレクトに質問を(するのではなく),もうちょっと良好な関係を患者さんと築くってところで,うまい会話,作れないのかなって(指51 6)」「知り得た個人情報をちゃんと保護して守秘義務を守れるか(教20 10)」
〈関係性を構築するための行動〉とは,CLと実習生の信頼関係は,人としての尊厳を守り,学ばせてもらっているという感謝の思いを行動に表すことである.「(ケア見学時)傷口の観察に一生懸命になって思わず声掛けが足りなくて,患者さんとの信頼関係の構築にもつながる(指36 2)」「さよならと有難うございましたとお礼を言う責任(教2 61)」
〈自分の考えや思いを誠実に伝える行動〉とは,実習中に何を考えていて,何を理解したのか等を自身が描く看護を誠実に指導者や教員に語ることである.「誠実にしっかり看護を考えて,自分の思う看護を持って伝えて欲しい(指41 6)」
3) 【自己の努力を評価する行動】設定した目標や困難と思われることを乗り越えるために尽くす力であり,CLのために最善を尽くせたかを自己評価することである.「努力できたことがすごく評価に値することであって,患者さんのために努力できたか(教9 51)」
4) 【自己の不安に向き合う行動】実習前から自身の中で処理ができない不安を表出すること,一方では実習が進むにつれて不安と向き合いながら感情を統制し,看護師としてCLと関われるように自身を変化させようとすることが責任行動として認識されていた.「何が不安かは分かりませんって涙を流したりとか,自分の不安なことを表出してくれるだけでも(責任を果たしているし)(指36 35)」「不安や悔しさで泣くのを抑えられることも大切だし,抑えられなかった時は自分の感情に向き合うことで変わることが責任.(CLの)反応が分からないから(CLが)どう思ってるのか不安(教9 27)」
本研究では,両者の上位頻出語の単純一致率が85.3%,Kappa係数が0.71において,責任行動を明らかにし,教育的示唆を考察した.属性において,実務歴に差はなかったが,指導者歴は有意差があり教員歴の1/2の長さであった.しかし,北海道・東北・中部・近畿地方の主任看護師の指導者を対象にした自己教育力に関する研究(千葉ら,2024)において,指導者の平均年齢は42.1歳,実務歴18.9年,実習指導歴8.7年であり,今回の指導者の属性と類似していた.このことから,今回の指導者は実習指導に中心的に携わる看護師と考えられ,教員と語りを合わせて分析をしたことは妥当と考えられた.
指導者と教員は立場が異なることから,責任行動への視点は異なると考えられた.しかし,指導者はCLに対して法的責任をもつ立場であるため,CLへのケア実施に関わることに責任行動を見出している一方で,【自己の不安に向き合う行動】など実習生への教育者としての立場でも責任行動を捉えていた.つまり,責任行動について両者に同様の考えが示されたのは,学習目的・目標の達成に向けて教育を行うという共通の認識があるためと考えられた.
1. [臨地での学び方を学ぶ行動][臨地の場に合わせる統制行動]臨地は実習生にとって,目的・目標に向けて学習する場であるが,同時にチームの一員として看護師や両者から指導を受けながらCLの状態や状況に応じてケアを実践する場でもある.そのため,[臨地での学び方を学ぶ行動]と[臨地の場に合わせる統制行動]は実習を効果的で安全に展開していくために,両輪のようにつながりをもち連動させながら責任行動を遂行していくことが求められていた.
1) [臨地での学び方を学ぶ行動]【実践力向上のための学び方を学ぶ行動】は,実習生にとって新たな学び方であり,臨地の場でどのように学習するかを身に着けることが責任行動として認識されていた.実践前に〈目的・目標をもって事前準備〉を十分に行い,学習者でありかつケア者として〈注意を自己成長につなげる学習態度〉と〈チーム員を自覚した学習態度〉で臨地の場に入ることである.準備は,各実習科目の目的・目標を熟考した上で,基本的かつ個別性に沿えるための知識の獲得や看護技術力,チーム員となれる実習生としての態度の改善等,実践に向けて自分なりに目的・目標を掲げ準備していくことである.十分な準備は,実習目的・目標の達成のみならず,CLへの負担を最小限にしたケアの実践,さらには自信をもって実践に臨めることにつながる(Porter et al., 2013).しかし,実習生が十分に準備をしたと認識していたことが実際は不十分であったり,その時のCLの状態に適応していないため,指摘や注意をされることがある.注意をされても「嫌な気持ちを態度に出さず」,「注意をされることも学び」として捉え,〈注意を自己成長につなげる学習態度〉で臨む学び方が求められていた.一般的に教室で行われているパッシブラーニングは学習環境を設定し,失敗が可能である(Billings et al., 2014)ため,注意を受けても何度でも挑戦できる.しかし,医療現場では失敗が許されないため,その場で指摘や注意を受けながら慎重に行動する学び方を習得し,一方で指摘や注意が自己を成長させる学びであると受け止める態度でいることが責任行動とされていた.また,実習生の視点で感じた「疑問とか,学びをちゃんと言える」〈チーム員を自覚した学習態度〉はチーム員として自覚して実習に臨むことであり,直接ケアに関わらない疑問であっても,学習者としてもった疑問や知り得たことを指導者や看護師と共有しながら実践の中で学ぶことである.相馬(2023)は臨地では当事者意識を持ち,情報を共有することがチーム員に求められており,末永(2016)はチーム員を自覚することで,看護師の役割や責任を果たすことを学ぶことができると述べている.臨地は,多様な職種と情報の共有や連携を行いながら,CLの個別性に沿い看護をする動的で複雑な場であり,その場で注意を受けたり,思うようにならなくても粘り強く関わり続けることである.【実践力向上のための学び方を学ぶ行動】には,人間力を基盤に備えている必要があると考える.社会で活躍する人間力(内閣府,2003)とは,「忍耐力」を伴い,諦めず成功に近づくために追求する力をもつことである.
【看護実践を振り返る学習態度】は,自身の実践がCLに適した看護であったかを〈知識・技術・態度を振り返る基礎的学習態度〉で取り組み,次回の実践のために学ぶことである.実習生は,分からないことはなんでもスマートフォンを使って調べる(植田ら,2019)ことが報告されており,臨地では「本に書いてあるからこうしました」では,CLに適した看護を導き出せない.さらに,個別性のあるその時々に変化するCLへの看護実践を理解できるためには,実践後に自身で振り返り,さらに指導者や教員と振り返ることや,〈気付きが得られるカンファレンスの参加態度〉によって,多角的なものの見方を学び改善し,より望ましい看護実践を導き出せることを学ぶことである.そのため,カンファレンスでは積極的に自分の考えを述べ,かつ他者から出された意見や考えを熟考し,次回のケアに活かす学び方をすることが責任行動である.両者は,実習生がカンファレンスで活発に発言ができる環境を設定し,実践の振り返りによりタイムリーに支援をすることで気付かせる必要がある.
2) [臨地の場に合わせる統制行動]実習生は自身の言動がCLの生命に直接影響することを理解し,【安全に配慮した統制行動】が責任行動として求められていた.実習生におけるインシデントの原因の多くが“自己判断”や“確認不足”(今井ら,2024)によるものであり,〈自己の判断を確かめる行動〉は事故予防のためにも重要である.「自己判断をしない.行動に移してしまうんじゃなくて」と,判断した内容を行動する前に指導者や教員に確認し,両者の判断を受けて行動をする必要がある.自己の判断を相談や報告を通して実践内容を確定していく過程は,両者からの判断を助言として学ぶためでもあるが,CLの安全を最優先に確保するための統制行動である.また,「眠らないと集中できないと思いますし,それがミスにつながったりもする」ので,平常時より〈自己の体調管理〉を心がけることが自他の安全を守る責任行動である.安全を期するためには施設の規定等に従う必要があり,実習生は,【理由を思考したルールの遵守行動】や【意味を理解して伝える行動】を自身で行動を統制することが責任行動として求められていた.規定には理由があることを知り,自己解釈で行動したり,「曖昧な知識を持って相手に伝えることの重大さ」を理解せずに,他者が言っていたことを鵜呑みにして実施しない.
一方で,変化するCLの【状況・状態に関心を寄せる行動】は,「変化する状態のその人を知ろうと」する行為であり,CLのそばに行き,その時の状態を自分の目で確認し,CLに適したケアにつなげていくことである.【相手の立場に立った行動】は,相手の立場に自分を置き換えて,相手の認識に合わせようと行動を統制することである.佐藤(2009)は,相手が何を考えているのかを知ろうとする行動は,自身が解釈したことが相手の考えに合致しているかどうかを相手に返して初めて分かることであると述べている.
【信頼が得られる行動】は,CLが実習生の統制行動として基本となる.実習生は学ぶことに集中しすぎて,CLへの尊厳やプライバシーに配慮を欠くことがあってはならない.また,プライバシーへの配慮として,「知りたい情報をダイレクトに質問を(するのではなく),もうちょっと,良好な関係を患者さんと築く」ことであり,CLと関わる実習がすでにプライバシーに踏み込んでいることを自覚し,〈適切な情報の取り方と取り扱う態度〉が求められていた.カルテの情報等を漏洩しない管理を徹底し,CLの尊厳が守られてこそ専門職者として信頼される.挨拶や感謝等の礼節や実習最終日に欠席をしない関係性の終息も含め,CLに不快な思いをさせない〈関係性を構築するための行動〉が責任行動として求められていた.また,実習生は指導者や教員との間で信頼関係を構築するために,〈自分の考えや思いを誠実に伝える行動〉が責任行動として求められていた.両者はCLの安全や信頼が得られることが責任行動であることを理解して教育支援が必要である.
2. 【自己の努力を評価する行動】【自己の努力を評価する行動】では,自己の実習の成績を評価することではなく,最善を尽くして「患者さんのために努力できたか」を評価することが責任行動として求められていた.Ghasemi et al.(2019)は,責任とは“粘り強さ”や“学生生活で最大限の努力”をすることであり,努力とは目標達成のために最善を尽くすことであると述べている.努力は良いケアへの導きへとつながり良い結果をもたらす(木村,2013)ことから,努力を評価することが責任行動として両者から認識されていると考えられた.そのため,両者は実習生の努力を認め,実習生の努力の認識化と努力の方向付けの教育支援により責任行動が促進すると考えられた.
3. 【自己の不安に向き合う行動】両者は臨地の場に赴く前から実習中に渡り,【自己の不安に向き合う行動】をとり続けることを責任行動と認識していた.実習初期は,漠然とした不安のためにうまく言語化ができず「涙を流したり」しても,感情的に逃避するのではなく,自己に不安があることを認め指導者や教員に表出をする.不安の背後には生命に関わることへの危機感や責任への思いが隠れている(有田・田村,2015)ことがあり,不安を抱えたまま実習に臨むのではなく,指導者や教員に感情表出や相談をする.つまり,自身の感情統制ができるための前段階の行動であり,支援を受けるための責任行動である.一方,実習が進むにつれて不安の性状がCLとの関わりから派生するものへと変化していくと両者は捉え,実習生は自身の不安を客観視し,その不安の感情を乗り越えてCLを看るケア者として変わっていく行動を責任行動としていた.つまり,「(CLが自分に対して)どう思ってるのか不安」等の自己保存による不安ではなく,CLが満足するケアを自分が実施できなかったことに対して「泣く」のではなく,なぜできなかったのかを客観的に考え,次の実践につなげられる行動の変化が伴うことである.また,CLの反応は健康に課題をもつ人々の欲求を示しており,誰に対してもどのような時にでも良い反応を表すとは限らないことを知り,思考を変化させられるように自らを仕向ける行動がとれることである.CLの反応は自身のケア者としての関わりに対する評価として受け止めることは学びであるが,健康に課題をもつ人々の反応に対して自分の関わりへの評価にとどめないことも必要である.両者は,漠然とした不安やCLとの関わりから生じる不安の意味するところを個々の実習生の特徴に合わせ,共に考える教育支援が必要である.
COVID-19感染症のパンデミックの時期に実施された研究で,提供者がおかれている状況が実習生に求める責任行動の概念に影響していた可能性がある.実習生がどのような責任行動が求められているのかを理解できるための指標の開発が必要と考える.
両者の考える実習生の責任行動についての上位頻出語の単純一致率は85.3%,Kappa係数0.71で単語の共通性は高く,さらに対立した認識を示すものはなかった.責任行動として実習前から[臨地での学び方を学ぶ行動]をとり始め,実習中は[臨地での学び方を学ぶ行動]とCLへのケア実施のために[臨地の場に合わせる統制行動]を連動させながら行動し,実習中と実習後に【自己の努力を評価する行動】をとり,実習前から最後まで【自己の不安に向き合う行動】が抽出された.これらの多様で複雑な責任行動を実習生が遂行するには,指導者や教員のタイムリーで個別性のある実習生への支援が重要である.
付記:本論文の内容の一部は,第42回・第44回日本看護科学学会学術集会において発表した内容に加筆修正したものである.
本研究は,金沢大学大学院医薬保健学総合研究科に提出した博士論文の一部に加筆・修正をしたものである.
謝辞:本研究にご協力いただきました臨地実習指導者と大学教員の皆様には,COVID-19感染拡大の脅威の中,参加していただきましたことを心から感謝申し上げます.
利益相反:本研究における関係するCOIはない.
著者資格:有田弥棋子は研究の着想およびデザイン,研究計画書,研究データの収集,分析,論文執筆の全研究プロセスに貢献した.加藤真由美は,分析,研究プロセスの全体への助言,および論文執筆に貢献した.両著者は最終原稿を読み承諾した.