Journal of Japan Academy of Nursing Science
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The Feeling of Difficulty Perceived by Nurses in Nursing Care of Children in Intensive Care Units—From an Interview Survey of Nurses With No Nursing Experience With Children Outside an ICU—
Takahiko MaedaYuka Takuwa
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2025 Volume 45 Pages 227-235

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Abstract

目的:ICUに入院中の患児の看護において看護師が認識する困難感を明らかにする.

方法:ICUに勤務し,ICU以外で小児の看護経験がない看護師10名に半構成的面接を実施し,質的帰納的に分析を行った.

結果:困難感として,【患児と言語的コミュニケーションがとりにくい】【患児特有の看護技術に苦慮する】【成人患者に比べ身体の状態悪化に陥りやすい】【成人患者から患児の視点へ即座に切り替えにくい】【患児が落ち着くケアや環境を提供できていない】【親の心情を汲み取った支援が難しい】【小児科医師との連携が難しい】が抽出された.

結論:困難感の解決には,ICU看護師の小児病棟での一定期間の研修や小児看護経験者のICUへの起用が有益である.また,重症症例の家族への支援を充実するために,リエゾン看護師や臨床心理士などとの多職種連携が有効となる可能性がある.

Translated Abstract

Objective: The objective of this study is to elucidate the feeling of difficulty perceived by nurses in caring for children in ICUs.

Methodology: Semi-structured interviews were conducted with 10 nurses recruited as participants in the study who worked in ICUs and had no previous nursing experience with children outside ICUs, and the results analyzed qualitatively applying the inductive approach.

Results: The following feelings of difficulty were identified: [Difficulty in communicating verbally with pediatric patients], [Difficulty with nursing techniques unique to pediatric patients], [There is a susceptibility to physical deteriorate compared to adult patients], [Difficulty in immediately switching perspective from adult patients to pediatric patients], [Care and an environment that keeps pediatric patients calm is not provided], [There are difficulties in supporting parents’ emotional needs] and [There are difficulties in working with pediatricians].

Conclusion: To address these feelings of difficulty, it is beneficial to provide ICU nurses with a certain period of training in pediatric wards and to assign experienced pediatric nurses to ICUs. Additionally, the study indicates that interprofessional collaboration with liaison nurses and clinical psychologists has the potential to enhance support for families of critically ill patients.

Ⅰ. 緒言

現在の小児医療において,入院治療が必要な小児の多くは,小児病棟や小児と成人の混合病棟に入院し,医療と看護を受けることになる.そして,生命の危機に瀕していたり,手術後などで集中的な治療と看護を必要としたりする場合には,小児専門の集中治療室(以下:PICU)に入室し管理されることが望ましい.しかし,集中治療室(以下:ICU)を保有する施設は,全国で673施設(厚生労働省,2020)に対し,PICUは,全国で37施設(厚生労働省,2020)と少ない現状である.よって,小児の入院病床を有しながらもPICUを保有していない施設において,集中的な治療と看護が必要な小児は,PICUへ転院ができなければ,自施設または,近隣のICUを保有する施設で管理されることになると思われる.そのため,現状ICUに勤務する看護師は,小児期から老年期の患者およびその家族に対する看護が求められることになる.

ここで,小児への看護に注目すると,成人患者と比べて多くの人手を要すうえに,認知能力や言語能力が発達途上であったり,発達段階により異なったりするため対象理解も容易ではなく特殊性が高いとされている(倉田ら,2016).小児と成人の混合病棟で働く看護師は,小児の体重や年齢に合わせた薬液量の調整といった小児看護特有の技術習得への戸惑いや小児と一緒の病棟に入院している成人患者に対し,非常に気を遣っていたりしていた(倉田ら,2016草柳,2004).つまり,看護師は,小児看護に対し,成人看護よりも困難感を抱いていると言えよう.また,ICUで勤務する看護師が抱く困難さとして,緊迫した状況に身を置きながら看護を続けることの難しさ,揺れ動いている患者・家族に対する関わりの難しさ,的確なフィジカルアセスメントや判断を行う難しさなど(山本,2017)に加え,終末期においても,一般病棟とは異なる終末期への移行や特殊な環境下での終末期看護への悩みや困難さを抱えながら看護を実践している現状があるとされている(日本クリティカルケア看護学会終末期ケア委員会・日本救急看護学会終末期ケア委員会,2019).さらに,ICUへ配置転換した看護師が移動後に直面した困難として,心電図や人工呼吸器が分からないといった知識・技術の獲得,異常の判断に対する戸惑い,緊急時の対処などが示されており(長山ら,2011),小児看護同様にICU看護にも特有の困難感があることがわかる.そのため,ICUで小児を看護することは,小児看護とICU看護双方の困難感が相まって,ICUでの成人の看護に比べより困難感が高まることが推測できる.

そして,困難に影響を及ぼす重要な要因の一つとして,小児の年齢と看護師のICU以外での小児看護経験の有無があると考える.学童期や思春期に比べ,乳幼児は,身体面では形態能機が未成熟で予備能力も乏しく,認知機能においても,物事に対する具体的な理解が難しい感覚運動期や前操作期の段階であったり,自己中心性を示す時期であったりする.また,言語機能は発達途上であり,自己の思いや苦痛などを適切な表現で他者に伝えることが難しく,家族関係では,特に母親との結びつきが強い傾向にある.さらに,がん看護という専門性が必要となる分野に焦点を当てた研究ではあるが,経験したケアの患者数が多いほど困難感が低い傾向が示唆されている(宮下ら,2014).ゆえに,特殊性や専門性が高いとされる小児看護でも同様に,小児を専門とする部署での看護経験がない看護師は,その経験を有する者に比べ,小児の看護に対し,様々な不安や困難感を抱きやすいと考える.

しかし,これまでにICU以外で小児の看護経験がない看護師が,ICUでの乳幼児の看護に対し,どの様な困難感を抱いているかは明確になっていない.そこで,これらを明らかにすることで,ICUにおける小児看護の質向上に向けた取り組みおよび,看護師の抱える困難感を軽減するための示唆を得ることができると考えた.

Ⅱ. 研究目的

本研究では,ICUに入院中の患児の看護において,ICU以外で小児の看護経験がない看護師が認識する困難感を明らかにする.

Ⅲ. 用語の定義

1.困難感:看護師の困難に関する先行研究(濵田・宮島,2007岩崎・渡部,2014)を参考に,本研究では,ICUにおいて,患児や家族へのケアを通して抱く不安や悩みなどの主観的な感情およびケアを行う上で,困っていると感じていることや難しいと考えていることとする.

2.患児:学童期や思春期に比べ,形態機能や認知機能が発達途上にあり,看護師の関わりが難しいと考える0歳から6歳(未就学)の児とする.

Ⅳ. 研究方法

1. 研究デザイン

質的記述的研究

2. 対象者

A県およびB県で小児の入院病床を有する三次救急医療機関3施設のICUに勤務し,ICUに入院中の患児の看護経験を有する看護師とした.

なお,対象者において,これまでに,小児が入院する病棟や小児科外来など主に小児を対象とする部署での看護経験を有する者は除外した.

3. 調査方法

本研究への協力が得られた施設において,研究協力に同意の得られた看護師を研究参加者とし,2022年3月~2022年10月に半構成的面接を実施した.面接方法は,研究参加者の意向を確認し,対面またはオンラインでの面接とし,研究参加者と研究者が一対一で実施した.オンライン面接の場合は,ミーティングアプリZoomを使用した.

主な面接内容は,①研究参加者の基礎的情報(年齢,ICUでの経験年数),②患児や家族へのケアにおいて,不安なこと,難しい,課題などと感じたことや感じさせたのはどの様なことかその内容について,③なぜ,困難などの気持ちを感じるのか,その理由や自身の考えについてとした.面接は,プライバシーが保たれる場所で実施し,研究参加者が質問内容について自由に語れるよう,研究者の発言は内容を確認する程度にとどめ面接を進めた.また,語られた内容については,適宜ICUに入院中の患児や家族に関することであるかの確認を行いながら進めた.なお,研究参加者の許可を得た上でICレコーダーへの録音を行った.

4. 分析方法

分析は,録音した面接内容から逐語録を作成した.次いで,逐語録を精読し,ICUに入院中の患児の看護における困難感に関する語りを分析対象とし,その内容を表現する見出しを書き,コード化した.全コードをコーディングシートに集め,類似性と差異性に注目しグループ化した.そして,サブカテゴリー,カテゴリーとして抽象度を高めていった.

真実性を保証(Holloway & Wheeler, 1996/2006)するため,分析過程において,今回の研究参加者の内,承諾の得られた5名にメンバーチェッキングを依頼し,解釈の内容について適宜,確認と修正を行った.あわせて,ICUで患児の年齢を含む小児の看護経験を有する共同研究者と繰り返し内容の検討を行った.看護師8名のデータを分析した時点で,新たなサブカテゴリー,カテゴリーが見出される可能性はないと予想されたが,さらに2名のデータを追加し,新たなサブカテゴリー,カテゴリーが見出されないことを確認した.

5. 倫理的配慮

本研究は,三重県立看護大学研究倫理審査会の承認を得て実施した(承認番号:213602).

具体的な配慮として,研究参加者に対し,研究目的や方法,研究参加の自由性と辞退による不利益のなさ,匿名性の保持,結果の公表およびオンライン面接を実施する際のリスクとその対策について,口頭と書面にて説明した.本研究協力の同意については,同意書への署名にて確認を得た.

Ⅴ. 結果

1. 研究参加者の基本属性

本研究の対象者として12名に依頼し,研究参加者は10名であった.年代は20~50代であった(表1).面接時間は,48~69分であった.

表1 研究参加者の背景

研究参加者 年齢(歳) ICU看護経験年数 臨床看護経験年数
A 30代 4年 10年
B 40代 15年 23年
C 40代 4年 20年以上
D 50代 7年 35年
E 40代 20年 22年
F 40代 10年 19年
G 40代 7年 19年
H 40代 10年 20年
I 40代 8年 19年
J 20代 4年 6年

2. 研究参加者が所属する施設の概要

本研究の研究参加者は3施設のICUに勤務する看護師(以下,ICU看護師)であった.

ICU看護師が勤務する施設は,3施設ともに救命救急センターを併設した三次救急医療機関であった.3施設ともに独立した小児病棟を有していたが,病棟での急変事例も含め,重症例や人工呼吸器による呼吸器管理,体外循環が必要な小児の多くはICU管理であった.また,調査時点において,新型コロナウイルス感染症の影響により面会が制限されており,親による直接的な面会もほとんどできない状況であった.

3. ICUに入院中の患児の看護において看護師が認識する困難感

分析の結果,27サブカテゴリー,7カテゴリーが見出された(表2).文中では,カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを〈 〉,対象者の語りを「 」,補足語を( )で示す.

表2 ICUに入院中の患児の看護において看護師が認識する困難感

カテゴリー サブカテゴリー
患児と言語的コミュニケーションがとりにくい 患児が泣いている理由が分からない
患児が苦痛を言葉で伝えられない
母親と離れている状況を患児に説明しても理解してもらえない
患児特有の看護技術に苦慮する 準備した物品のサイズが患児に適切か不安に感じる
成人患者と異なる技術手技や手順が必要となり大変である
患児個々にあわせた複雑な注射薬準備が大変である
注射薬の投与量に誤りがないか普段以上に不安を感じる
処置やケアに多くの人手や時間を要する
気管内チューブが計画外抜管しないか不安に感じる
気管内チューブが計画外抜管した際のことを考えると怖い
成人患者に比べ身体の状態悪化に陥りやすい 薬剤更新時やルート交換時に成人患者よりもバイタルサインが悪化しやすくて怖い
吸引時に成人患者よりも全身状態が悪化しやすくて怖い
啼泣だけで低酸素になりやすくて不安に感じる
成人患者よりも急変しやすいことに緊張感がある
成人患者から患児の視点へ即座に切り替えにくい 成人患者から患児の基準値にすぐに頭の切り替えができない
患児のバイタルサインの異常を即座に判断しにくい
状態変化時に患児が辿る経過を予測しにくい
患児特有の疾患や治療が分からない
患児が落ち着くケアや環境を提供できていない 患児向けの本やおもちゃが整えられていない
付き添いの家族がいない環境で過ごさなければならない
泣いていても患児ばかりを構ってあげられない
親の心情を汲み取った支援が難しい 面会禁止下で親が患児の状況をどこまで理解できているか疑問に感じる
親との信頼関係を築くことが難しい 
患児に対し自責の念を抱く親への関わりが難しい
最期を迎える患児の親への対応が難しい
小児科医師との連携が難しい 同じフロアに小児科医がおらずすぐに対応できず困る
小児科医師から出される指示内容に戸惑うことがある

1) 【患児と言語的コミュニケーションがとりにくい】

ICU看護師は,「泣いてる理由とかしゃべってくれたらいいんですけどね.言葉をあまり覚えてない時期の子だとキャッチできない」と,〈患児が泣いている理由が分からない〉や「喋れない子やとね,痛いとか何が辛いのかも全然わからない」と,〈患児が苦痛を言葉で伝えられない〉といった困難感が抽出された.また,「3,4歳ならママはとか言ってくるので,そういう(母親がそばにいないことの)説明が難しい.コロナがと言ってもなんで入れないのってきいてきますし」と,〈母親と離れている状況を患児に説明しても理解してもらえない〉と,患児の思いや欲求が理解しにくいだけでなく,患児からの理解が得られないことも困難感として抽出された.

2) 【患児特有の看護技術に苦慮する】

ICU看護師は,「1歳の子の挿管チューブ何ミリだったとか.成人と比べて全てで数値が違うので,これで(サイズ)合ってたかとか,そういう面では不安になる」と,〈準備した物品のサイズが患児に適切か不安に感じる〉や「留置針の固定の仕方も(大人と子どもで)違うし,全ての技術的なものが成人ではやったことない技術なので,大変」と,〈成人患者と異なる技術手技や手順が必要となり大変である〉と感じていた.また,「注射一つにしても,成人だったら1アンプルの生食いくつとか決まってるけど,小児は0.何ミリって0.いくつとか,もう全てこと細かく,体重あわせた割合の計算で注射とか計ってるし,大変です」と,〈患児個々にあわせた複雑な注射薬準備が大変である〉や「絶対的に不安なのは,体重によって薬剤量が違うので,普段以上に慎重にダブルチェックして投与したり,先生に確認して」と,〈注射薬の投与量に誤りがないか普段以上に不安を感じる〉との困難感を抱いていた.さらに,「人手がいりますね.吸引もカフがないので(挿管チューブが)抜けないように2人要るんですよ.点滴入れるのもかなりの人数が必要だったり,結構人手が要ります」や「挿管チューブを気にしながら清拭したりするので(成人患者に比べ)子どもの方が時間がかかります」と,〈処置やケアに多くの人手や時間を要する〉とも感じていた.あわせて,人工呼吸器管理が必要な患児に対しては,「大人やったらカフが入っとるけど,小さい子はカフがないので,(挿管チューブが)すぐ抜けてしまったりとかすると命の危機に繋がるので,すごく不安」や「(挿管チューブを)大人はがっちり(しっかり)とほっぺたに,シールでとめる.それを子どもはしなくって.体位変換とか大人以上にカフがないので抜けやすい.抜けたら大変だし」と,〈気管内チューブが計画外抜管しないか不安に感じる〉との困難感が抽出された.また,「抜けたら救急科の医者が全員小児の挿管ができるかというとできないと思う.大人はすぐに入れてくれますけど(患児の場合)まず小児科を呼ばないと.抜けるのが一番怖い.サチュレーションも下がるし」と,〈気管内チューブが計画外抜管した際のことを考えると怖い〉とも感じていた.

3) 【成人患者に比べ身体の状態悪化に陥りやすい】

ICU看護師は,「昇圧剤いってる子たちとか更新する時が怖い.バイタルが崩れやすいので」と,〈薬剤更新時やルート交換時に成人患者よりもバイタルサインが悪化しやすくて怖い〉や「疾患にもよるけど,吸引するとサチュレーションが下がって,…中略…あれも怖いです」と,〈吸引時に成人患者よりも全身状態が悪化しやすくて怖い〉と感じていた.また,「心疾患のある子は泣いたら黒く,紫になる.不安」と,〈啼泣だけで低酸素になりやすくて不安に感じる〉といった困難感が抽出された.さらに,「大人ならちょっと様子みていいかなと思うのが,子どもは,すぐに急変するっていうイメージで怖かった.とにかく急変がすぐに起こるような状態なんで.背筋が伸びるような緊張する感じです」と,患児の看護全般において〈成人患者よりも急変しやすいことに緊張感がある〉ことが困難感として抽出された.

4) 【成人患者から患児の視点へ即座に切り替えにくい】

ICU看護師は,「成人を看ていて,直後に子どもが来たら月齢や年齢に応じてどれくらいの脈拍や血圧が一般的かって,すぐにスイッチしづらく慣れるまで時間がかかる」と,〈成人患者から患児の基準値にすぐに頭の切り替えができない〉や「この血圧値は平均なのかいいのかどうなのかって判断がやっぱりすぐには難しい.大人は基本目安は分かってるから,そこから高いのか低いのか,やっぱり子どもは月齢とか年齢によって違うから」と,〈患児のバイタルサインの異常を即座に判断しにくい〉ことが困難感として抽出された.また,「小児は(成人と)同じよう異常があっても『様子見で』といわれたかと思うと,突然『腹膜透析やりますとか』,どこまで粘るのか(待つのか)と思えば開口一番『体外循環回します』とか言われたり」と,〈状態変化時に患児が辿る経過を予測しにくい〉とも感じていた.さらに,「基本的に成人が中心なので,そもそもあまり看ることがない小児の疾患や治療が分からない」と,〈患児特有の疾患や治療が分からない〉ことも困難感として抽出された.

5) 【患児が落ち着くケアや環境を提供できていない】

ICU看護師は,「ICUの環境って結構小児向きじゃなくて.おもちゃとかもないし,もっと本読んだり音楽かけられたらいいんでしょうけど」と,小児病棟のようにICUでは,〈患児向けの本やおもちゃが整えられていない〉や付き添いや面会時間に制限がある中で「お母さんも付き添いできないし,患児にとって過酷やと思います」と,〈付き添いの家族がいない環境で過ごさなければならない〉といった環境が困難感として抽出された.また,「気にはなるけど救急(患者)が来るとバタバタするので(患児が)泣いてても全然構ってあげられない」と,〈泣いていても患児ばかりを構ってあげられない〉状況も困難感として抽出された.

6) 【親の心情を汲み取った支援が難しい】

ICU看護師は,「コロナでリモート面会で顔しか映らないからすごい重症でこれだけ機械つけてるんだけど,(その状況が)親にどこまで伝わっているのかと思う」と,〈面会禁止下で親が患児の状況をどこまで理解できているか疑問に感じる〉や「面会時間も限られているし,短い時間の中でどうしたらお母さんに信頼してもらえるのか,心を開いて話してもらえるのか」と,限られ時間の中で〈親との信頼関係を築くことが難しい〉と感じたりしていた.また,闘病中の患児を目にして「自分たちを責めてるお母さんとかお父さん,誰が悪いわけでもないのにこんな病気じゃなく生んであげたらって,自分を責める親への介入は難しい」と,〈患児に対し自責の念を抱く親への関わりが難しい〉とも感じていた.さらに,「家族が日に日に悪くなっていく子を見て,そういう時にどう声かければ良いのか難しい」や「親が子どもにしてあげたいことも十分にできず亡くなることもあるので,そういう親にどう介入したらいいのか難しい」と,親として患児に対し十分な関わりができないままICUで〈最期を迎える患児の親への対応が難しい〉との思いも抱いていた.

7) 【小児科医師との連携が難しい】

ICU看護師は,「何かあっても救急科みたいに常に同じフロアに小児科医がいてくだされば良いけど,あまりいない.(小児科医は)病棟から来るわけだし,別で対応中っていうこともあるので.夜間は特に困る.(小児科の)医者一人しかいないので」と,〈同じフロアに小児科医がおらずすぐに対応できず困る〉と感じていた.また,「(小児科の)先生らも慣れてない私らに指示出すから,私らもその指示で合ってるのかどうかも分からないし,確認しようと思っても(近くに)いないから,それなんですかってなる」と,〈小児科医師から出される指示内容に戸惑うことがある〉と感じていた.

Ⅵ. 考察

1. 小児の成長発達段階が影響すると考えられる困難感

ICU看護師が認識する【患児と言語的コミュニケーションがとりにくい】【患児特有の看護技術に苦慮する】【成人患者に比べ身体の状態悪化に陥りやすい】は,成人とは異なる小児の成長発達段階の特徴やそれらに起因することが影響していると考えられる困難感である.

小児の認知機能は年代により異なり,Piagetの認知発達段階において,本研究の条件とした年齢の0~2歳は,感覚運動期,2~6歳では,前操作期の段階にあたる.両者の段階ともに,現状を論理的に理解することは難しく,自己中心的な物事の捉え方や目に見える現状を直感的に理解するといった特徴がある.そのため,母親が側にいない状況を説明しても,その理由を適切に理解することは,患児の認知機能の発達段階から難しいことである.そして,ICU看護師にとっては,患児の泣いている理由が分からないや苦痛を言葉で伝えられないといった状況も困難感であった.小児の場合,成人に比べ症状の現れ方が非特異的であり,一見元気そうに見えるが何かしらの症状を示していることや,母親にしかわからない症状など,異変に気付きにくいという特徴もある(井出,2014).この様な成人と小児の違いに加え,言語機能や認知機能が未発達なため,自らの思いや異変を言葉で伝えることも難しいという小児特有の発達段階上の特徴が合わさることで,成人患者の看護を主とするICU看護師は【患児と言語的コミュニケーションがとりにくい】ことを困難感として認識したと推察する.

また,【患児特有の看護技術に苦慮する】では,注射薬準備の大変さも語られた.これは,小児病棟へ配置転換して間もない者や小児看護初心者への教育担当者(川名,2012倉田ら,2016)も同様の認識をしており,ICU看護師を含め小児看護の経験が少ない看護師が患児の年代を含む小児を看護する際に抱く,特有の困難感の一つと言えよう.その要因として,小児への薬剤の投与量は,年齢で一律ではなく,成長発達段階を考慮し,体重や体表面積により算出される.ゆえに,0~6歳では特に,成人患者に比べ投与量が遙かに少なく,より微量な調整が必要となることが,注射準備や投与量に対し,成人以上の大変さや不安をICU看護師に抱かせたと考える.そして,患児の成長発達段階は,血管や気道の太さ,臓器の発達状況といった形態機能の面にも影響を及ぼす.そのため,患児に合わせた適切な物品選択や処置手順では,これらの特徴を踏まえた対応が必要となる.しかし,日頃から成人看護の経験を主とし,小児看護の経験が少ないICU看護師では,即座に患児の成長発達段階を見極め,適切なサイズを判断したり,成人と異なる処置手順に対応したりすることに困難感を抱くと考える.

さらに,処置やケアの際,川名(2012)は,患児の協力が得られなかったり泣き出したりする現状を示している.本研究参加者も,留置針挿入時や人工呼吸器管理中の患児の清拭場面から〈処置やケアに多くの人手を要する〉と感じていた.患児が処置やケアの目的および,必要性を理解できず安静が保たれない場合は,繰り返しの説明や安全確保のためのやむを得ない抑制が必要となり,成人患者以上に人手と時間を要することになる.あわせて,本研究参加者から吸引や清拭の際,気管内チューブの計画外抜管を予防するため,人手を要すると語られたように,成人に比べ脆弱な小児の気道粘膜の損傷を避けるためにもカフなしチューブの使用例が多いという状況(Holzki, 1997James, 2001Dillier et al., 2004)は,人手や時間に影響することは勿論であるが,今回抽出された気管内チューブの計画外抜管に対する不安や恐怖にも繋がっていると考える.

そして,ICU看護師は【成人患者に比べ身体の状態悪化に陥りやすい】とも感じていた.乳幼児では,身体的な予備能力の少なさや抵抗力の弱さから,症状が急速に進行し,急変するリスクが高い(田中・丸,2024)といった特徴がある.実際にICU看護師もバイタルサインが悪化しやすい怖さや啼泣による呼吸状態の悪化を経験しており,小児の成長発達の影響により,成人患者以上に不安や緊張感を抱きながら患児の看護を実践していると推察される.

2. ICUという場で小児を看護するがゆえと考えられる困難感

【成人患者から患児の視点へ即座に切り替えにくい】【患児が落ち着くケアや環境を提供できていない】【親の心情を汲み取った支援が難しい】【小児科医師との連携が難しい】は,重症例や集中的な管理を必要とする患者が入室し,救命を最優先の指命とすることや面会や付添いの制限があること,成人患者の看護を主し,小児看護の経験が少ない中で患児を看護しなければならないICUという場の特徴が影響していると考えられる困難感である.

今回,ICU看護師から,【成人患者から患児の視点へ即座に切り替えにくい】との困難感が抽出されたが,患児から成人患者への切り替えの困難感は抽出されなかった.ICU看護師は,日頃から成人患者を主とした看護を実践し,患児よりも成人患者の病態や基準値を熟知しているため,患児から成人への切り替えは迷いなくスムーズに行われていると考える.一方,患児の基準値やバイタルサインの異常を即座に判断できないことが困難感として抽出されたように,ICU看護師にとって小児の基準値は,成人患者の基準値ほど十分把握されていないと推察する.あわせて,小児では,月齢や年齢によりバイタルサインや血液検査等の基準値および成人患者とは辿る経過などが異なり,患児個々の基準値の確認やアセスメントが必要になることも,小児看護の経験が少ないICU看護師にとっては,困難感を抱かせる一つの要因になっていると考える.また,ICU看護師は,患児を看護するにあたり,そもそも患児特有の疾患や治療が分からないと感じていた.小児看護初心者教育への課題においても「見知らぬ小児疾患への対応に戸惑う」ことが示されていた(倉田ら,2016).しかし,小児病棟など小児を主とする病棟で看護を実践する看護師では,この様な困難感は示されておらず(藤原,2023),小児の疾患や治療の理解には,小児看護経験の有無が影響していると考えられる.

そして,ICU看護師は,【患児が落ち着くケアや環境を提供できていない】や【親の心情を汲み取った支援が難しい】といった,患児や家族の精神面に配慮した看護実践にも困難感を抱いていた.親への支援の難しさの要因として,ICUの多くは付き添いや面会に制限を設けている.加えて,新型コロナウイルス感染症の影響が追い打ちをかけたことは否めない.本研究参加者の施設でも制限があり,限られた面会時間やオインライン面会下で親とICU看護師が良好な信頼関係を築くことや自責の念を抱く親の思いを引き出すことは,24時間の付き添いや面会が可能な小児病棟等の看護師よりも遙かに難しさを伴うと考える.

また,ICU看護師は,〈最期を迎える患児の親への対応が難しい〉と感じていた.林原(2013)の研究においても,ICUで子どものターミナルケアに関わった看護師は,ターミナルにある子どもと家族のための環境を模索しながらも,集中治療という現場において生じる不可抗力的な状況を前になす術をなくす体験をしていた.つまり,救命や生命維持のために必要な看護や制限が最優先に求められるICUという場では,本結果で示されたように,泣いている患児に寄り添うことや最期を迎える患児の親に対し,ICU看護師による関わりだけでは限界があると考える.そのため,ICU看護師と連携し,特に親の精神面の支援を担う専門職者が必要であるが,ICUでは,薬剤師,臨床工学技士などとの多職種連携は行われている.しかし,診療科別臨床心理士人数に関する調査(厚生労働省,2010)において,小児科に関わっていると回答した臨床心理士は141名に対し,ICUは2名と少なく,ICUでは精神面の支援の専門職者である臨床心理士と十分に連携がとれているとは考えにくい.

さらに,〈同じフロアに小児科医がおらずすぐに対応できず困る〉と感じていることや,成人患者よりも状態悪化に陥りやすいといった患児の特徴も,計画外抜管のリスクに対する不安や怖さといった感情を引き起こす要因であると推察する.集中治療医のバックグラウンドとして麻酔科や救急科の専門医が多い傾向(松永ら,2012)から,小児科を専門とする医師がICUに常駐していることはほとんどないと思われる.さらに,小児看護に従事する看護師が小児科医師との円滑な協働を妨げる看護師側の問題の一つとして,疾患や治療に対する知識の不足を認識している(山口ら,2005).ゆえに,〈患児特有の疾患や治療が分からない〉といった,ICU看護師の小児看護の専門的な知識や経験の少なさが【小児科医師との連携が難しい】との困難感を生じさせる要因にもなっていると考えられる.

3. ICU看護師の困難感を軽減・解決するための示唆

ICU看護師が認識する患児に対する困難感を軽減するために,小児病棟での院内研修は,小児の疾患理解や小児病棟の看護師が行う患児の発達段階にあわせた説明方法を理解できたり,ICUでは経験することが少ない小児特有の看護技術の経験を重ねたりする機会になると考える.また,看護師と小児科医師との連携不足の要因の一つとして,小児看護に対する知識不足が示されている(山口ら,2005)ことからも,ICU看護師が小児の疾患や看護技術に関する理解を深めることは,今回示された【小児科医師との連携が難しい】との困難感を軽減する一助にもなると思われる.さらに,成功体験は,自己効力感を高める要因である(境・冨樫,2017).例えば,研修において,ICU看護師が患児との理解が図れたと実感できるような成功体験の機会が得られれば,小児看護に対する自己効力感が高まり,ICUでの患児の看護に対する自信と苦手意識の払拭にも繋がると考える.ゆえに,ICU看護師の現任教育の一環として,小児病棟での研修を組み込むことも困難感を軽減・解決する有益な手段の一つとなることが予想される.

そして,本研究参加者から困難感として,〈成人患者から患児の基準値にすぐに頭の切り替えができない〉や〈患児のバイタルサインの異常を即座に判断しにくい〉ことが抽出され,小児の基準値については,成人患者の基準値ほど十分把握されていないことが示唆された.その対策として面接の中で「小児の基準値はとっさに分からないので,メモをポケットに入れて見たりします」「(小児の)血圧や脈拍などの基準値を表にして病棟においてある」と語られた.よって,患児のベッドサイド周辺やベッドサイドモニタなどICU看護師の目につきやすい箇所に,患児の状態判断に必要な基準値等を提示しておくことも有効な手段の一つではないかと考える.また,「NICUの経験のある看護師は,挿管していても簡単にひょいひょいっと体位変換するのですごいと思う」とも語られ,看護部組織として,小児病棟やNICUでの実務経験を有する看護師をICUへ配置することも検討していく必要があると考える.

さらに,【親の心情を汲み取った支援が難しい】とも感じていたが,一般病棟よりも面会制限が厳しい状況や救命を最優先とするICUという場において,ICU看護師が親の支援を十分行うには限界がある.そのため,特に親の精神面への支援では,リエゾン看護師や臨床心理士などの多職種と連携した支援提供が有効になる可能性がある.

Ⅶ. 本研究の限界と今後の課題

本研究では,研究参加者のICU経験年数の違いや施設の特性などの背景がICU看護師の認識する困難感に影響していることは否めない.また,今回はICU看護師の小児看護における困難感に焦点を当てた研究である.そのため,看護実践への示唆では今回明らかになった困難感の内容や一部の研究参加者の語りを参考に困難感を解決するための手段や方策を示している.今後は,研究施設や研究参加者を増やして検討するとともに,看護の実践知を蓄積していくためにもICU看護師が小児看護における困難感に対し,具体的にどの様に解決しようとしているかを明確にする必要がある.

Ⅷ. 結論

ICUに入院中の患児の看護において看護師が認識する困難感として,【患児と言語的コミュニケーションがとりにくい】【患児特有の看護技術に苦慮する】【成人患者に比べ身体の状態悪化に陥りやすい】【成人患者から患児の視点へ即座に切り替えにくい】【患児が落ち着くケアや環境を提供できていない】【親の心情を汲み取った支援が難しい】【小児科医師との連携が難しい】が抽出された.困難感を解決するための一助として,ICU看護師の小児病棟での一定期間の研修や小児看護経験者のICUへの起用とともに,重症症例や終末期にある患児と家族への支援を充実するために,リエゾン看護師や臨床心理士などとの多職種連携が有効となる可能性がある.

謝辞:本研究にご協力くださいました研究参加者の皆様および看護管理者の皆様に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:前田貴彦は,研究の着想およびデザイン,データ収集,分析の実施,論文執筆の全てを実施した.多久和有加は,分析の実施および原稿への助言,全ての著者は最終原稿を読み,承諾した.

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