Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Strategies to Ensure Care Becomes Part of the Child’s Daily Life: Process of Mothers Complemented Self-Care for Children With Atopic Dermatitis in Late Infancy
Shoko AtsumiMasako Aoki
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2025 Volume 45 Pages 295-305

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Abstract

目的:アトピー性皮膚炎をもつ幼児後期のこどもに必要なセルフケアを養育者が補完するケアの過程を明らかにする.

方法:乳幼児期にアトピー性皮膚炎と診断された3~11歳のこどもの母親16名に幼児後期の状況について半構造化面接を行い,グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した.

結果:母親は【ありのままのこどもとの対話】を続け,『こどもの日常にケアを馴染ませる戦略』【あえての空白の創出】【補完の再調整】を繰り返し,ケアの補完を調整しこどものセルフケア能力の発達に向かう過程であった.

結論:容易ではない幼児後期のこどものセルフケア能力発達の支援は,こどもの日常にケアが馴染むように,長期に渡り母親を支援すること,アトピー性皮膚炎の症状に留意しながら,ケアの保持と放出の調整を行う【あえての空白の創出】という新たな視点も含め,こどものセルフケア能力と母親のケア能力を拡大できる支援が必要である.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to clarify the process of caregiver-supplemented self-care needed for children with atopic dermatitis during late infancy.

Method: Semi-structured interviews were conducted with 16 mothers of children who were aged 3–11 years and diagnosed with atopic dermatitis in infancy. Data were analyzed using the grounded theory approach.

Results: Mothers continued to “dialogue with the child as he/she is,” and repeated “strategies to ensure care becomes part of the child’s daily life,” “daring to create a void” and “readjustment of the complement,” which led to the development of their children’s self-care skills by adjusting the complementary care.

Conclusion: Expanding a child’s self-care abilities in late infancy is challenging and requires sustained support for mothers to integrate care into child’s daily life, adopt the perspective of “creating a daring void” to adjust retention and release of care while considering atopic dermatitis symptoms. Support that can expand both child’s self-care and the mother’s ability to provide effective care is essential.

Ⅰ. はじめに

アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:以下AD)は乳幼児・小児期に発症することが多く(佐伯ら,2024),ADをもつこどもと家族には,掻痒による睡眠や学習の障害,QOLの低下,自立への影響,成人移行支援の問題(Bawany et al., 2021Kisieliene et al., 2024Xie et al., 2020松原・米山,2023)など,身体・精神・社会的な問題が生じている.

診療における患者指導・治療指針として,1999年にガイドラインが策定され,数回に渡る改訂が行われた(佐伯ら,2024).知識の伝達だけでなく様々な手段と手法によりアドヒアランスが向上する患者教育が必要とされ,小児アレルギーエデュケーターが,2009年に日本小児臨床アレルギー学会において認定され,多岐に渡り活動をしている(林,2021盛光,2018).2017年に公布されたアレルギー疾患対策基本においても,生活の質の維持向上に取り組むことが重要であるといわれ,近年では,科学的知見に基づく医療を受けることにより,症状のコントロールがおおむね可能となった(厚生労働省,2017).しかし,アレルギー疾患の医療体制には地域格差があり,ADをもつこどもと家族が,標準治療にたどり着くこともたどり着いているのかも知らずにいることは多い(松原・米山,2023田野ら,2019).

加えて,治療の基本は原因・悪化因子の検索と対策,皮膚機能異常の補正(以下:スキンケア),薬物療法の3点で,セルフケアによりコントロールが必要な疾患で,家庭での日常的なスキンケアにより皮膚のバリア機能を十分に保つことが最も重要な治療と考えられている(佐伯ら,2024).現在のセルフケア支援に関する研究の多くは,家族または学童期以降のこどもを対象とした教育的介入を中心とする量的研究(Yoo et al., 2018Pustisek et al., 2016厚美・青木,2023)である.学童期は思春期・成人期へ続くセルフケアを確立する重要な時期であるが,こどもの自立支援は,発病とともにライフステージにあわせて,計画的かつ継続的に取り組む必要がある(窪田/厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等補助金政策事業監修,2020賀藤,2022).

こどもの自立とは,他人や社会などの周囲から手助けを受けながら,成長発達にともなって徐々に自分の能力を拡大させ自分の生活を営むこと(片田,2019)であるが,慢性疾患もつこどもの自立には,疾患や治療を理解し,セルフケア能力を拡大させることも含まれている(片田,2019窪田/厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等補助金政策事業監修,2020).ADは乳幼児期に発症することが多く,治療が養育者の手に委ねられる部分が大きく(成田,2023),養育者の関わりがこどものセルフケア能力の発達や自立に影響を与える(杉村,2022).特に幼児後期は,基本的生活習慣の確立,療養行動への興味をもつことが目標となり(江口ら,2017),就学に向けてセルフケアを拡大することが必要な時期であり(及川,2019),学童期以降のこどものセルフケア発達の基盤になると推察できる.

しかしながら,幼児後期のケアの主体である養育者が,どのようにこどものセルフケアを補完しているのかについての実態は見当たらない.そこで,本研究は,ADをもつ幼児後期のこどもに必要なセルフケアを養育者が補完するケアの過程を明らかにすることを目的とした.それにより,対象の理解を深め,こどものセルフケア能力の発達,自立に向けた,こどもと養育者への支援につなげることが期待できると考えた.

Ⅱ. 用語の定義

1.セルフケア:こども養育者が,日常生活においてADの症状をコントロールするために行うこと(斎藤,2009)とし,こどもに必要なセルフケアはこどものセルフケアと親または養育者が補完するケアで成り立つ(片田,2019)とした.

2.補完:不十分なものを補って完全なものにすること(片田,2019

3.養育者:父母または祖父母など,ADをもつこどものケアを主に担っている人

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Grounded Theory Approach;以下GTA)を用いた質的帰納的研究

2. 対象者の選定

幼児後期のこどものセルフケアを,養育者が補完するケアの過程を明らかにするためには,渦中の方の語りと共に後方視的語りが必要なこと,こどものケアを主に担う人の語りが必要であると判断した.さらに当時を回想するにあたり,年数経過に配慮し,研究対象者は乳幼児期にADと診断された3~12歳のこどもの養育者とした.

3. データ収集期間・方法

1)2022年10月~2023年9月にかけてインタビューガイドを用いて,幼児後期の状況について半構造化面接を行った.内容は,こどもが幼児後期の時,養育者はこどものADの治療やケアについてどのような思いを抱き,どのようなケアを行い,どのようにケアを補完したのかについてであった.

2)養育者とこどもの背景,こどものADの症状と重症度(ADの症状と重症度には養育者が主観的に評価できるThe Patient Oriented Eczema Measure(POEM)を使用した.)

4. 分析方法

分析はGTA(戈木,2016)を用いた.インタビューを逐語禄に起こし,切片化したデータをオープン・コー ディング,アキシャル・コーディング,セレクティブ・ コーディングにてプロパティとディメンションを用いてカテゴリー同士を関連づけた.さらに,パラダイムの枠を使い,カテゴリーを現象ごとに分類し,カテゴリー同士の関連を検討し,カテゴリー関連図を作成した.そして,各現象についてのカテゴリー関連図を重ね,カテゴリー関連統合図を作成し,ストーリーラインを生成した.分析の妥当性,厳密性の確保のため,GTAに習熟した小児看護学の研究者よりスーパーバイズを受け,互いに分析への合意を得た.

5. 倫理的配慮

本研究は東京女子医科大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号2022-0042).研究対象候補者の選定は研究施設の医師やスタッフが行ったが,研究協力の有無はインタビューを実施した研究者のみが把握すること,断っても不利益は及ばないことを説明し,協力の意思がある方に研究者に直接連絡をいただいた.そのうえで,研究対象者には研究の意義と目的,方法,協力の自由意思,予想される利益と不利益,研究への参加とその撤回,個人情報の取扱い,プライバシーの保護,研究結果の公表について,口頭と文書にて説明し,研究への協力を依頼し書面で承諾を得た.説明の際,母親の心情には十分に配慮した.

Ⅳ. 結果

研究の結果として,1.研対象者の背景,2.ストーリーライン,3.各カテゴリーの説明について述べる.カテゴリーは抽象度の高い順に,中心カテゴリー『 』,カテゴリー【 】,サブカテゴリー〔 〕,プロパティ《 》,ディメンション〈 〉で表し,養育者の語りは「 」で表した.

1. 研対象者の背景(表1

都内近郊の大学病院,小児科クリニック各1施設に通院中,または患者会に所属する養育者を候補者とした結果,研究対象者は3~11歳のこどもの母親16名であった.年齢は20~40代,面接は一人1回,時間は44~62分(平均52分),対面面接が1名,Zoomによるオンライン面接が15名であった.こどものADの症状と重症判定はPOEMを使用したが,質問項目は最近1週間のADの症状に関することであり,現在の重症度判定となる.そのため,学童期のこどもの母親から,幼児後期の症状についての明確な回答を得ることは難しかった.

表1 研究対象者の背景

ID 母親 こども きょうだい
年齢(代) 治療への納得度 性別 年齢 湿疹が出現した年齢 診断時の年齢 AD以外の疾患 POEM*による現在の重症度 年齢 ADの既往
20 高い 6歳 3か月 11か月 花粉症 13/中等症 7歳
30 高い 5歳6か月 2か月 3か月 喘息 12/中等症 3歳7か月
40 高い 9歳 生後数日 5か月 食物アレルギー
喘息
16/中等症
40 高い 5歳7か月 2か月 11か月 食物アレルギー
花粉症
5/軽症 11歳
30 高い 6歳11か月 2か月 6か月 食物アレルギー
花粉症
12/中等症 4歳
40 低い 8歳7か月 2か月 3か月 食物アレルギー
花粉症
8/中等症
30 高い 3歳6か月 5か月 5か月 食物アレルギー 4/軽症
30 高い 7歳10か月 3か月 3か月 食物アレルギー
花粉症
8/中等症 1歳
30 高い 8歳11か月 生後数日 1歳 食物アレルギー
喘息
4/軽症 4歳
40 低い 11歳11か月 3か月 4か月 食物アレルギー 11/中等症 17/14歳
30 高い 8歳9か月 2か月 5か月 食物アレルギー 25/最重症 12歳
40 高い 9歳 1か月 4か月 食物アレルギー
花粉症
13/中等症 12歳
40 低い 9歳9か月 1か月 1歳 食物アレルギー
喘息
2/異常なし 6歳
40 高い 10歳 2か月 6か月 食物アレルギー
喘息
6/軽症 13/6歳
40 高い 6歳 2か月 3か月 食物アレルギー
喘息
18/重症 9歳
30 高い 5歳5か月 2週間 6か月 食物アレルギー 4/軽症 8歳

*ADの症状と重症度:The Patient Oriented Eczema Measure(POEM)

2. ストーリーライン

本研究の結果,ADをもつ幼児後期のこどもに必要なセルフケアを母親が補完するケアの過程は,『こどもの日常にケアを馴染ませる戦略』を中心カテゴリーとする現象であった(図1).

図1  『こどもの日常にケアを馴染ませる戦略』という現象に関連するカテゴリー関連図

【母親の疾患と治療への受け止め】が,疾患と〈付き合う〉と受け止め,《母親の治療への納得度》がある場合,【ありのままのこどもとの対話】を続け【こどもの将来を見通す予測】をもち,『こどもの日常にケアを馴染ませる戦略』【あえての空白の創出】【補完の再調整】を繰り返し,【補完の調整ができそうだという実感】に至った.母親は〈こどもが将来困らないように〉〔ケアがこどもの日常に馴染むことへの期待〕をもち,ケアが〈こどもの日常になること〉を願い,〔こどもができそうなことから一緒に始める〕〔遊び・コミュニケーションとして行う〕様に,『こどもの日常にケアを馴染ませる戦略』にて,母親の補完するケアを調整しながら,こどものセルフケアの発達に向かう過程であった.

一方,【母親の疾患と治療の受け止め】が〈辛い経験〉で,《母親の治療への納得度》が〈低い〉場合は,【補完の調整の判断】として《ケアの補完を減らしたい気持ち》はなく,【補完の調整のタイミングではないという実感】に至った.しかし,〔他者のサポート〕〔きょうだいのケアの経験〕という《再調整の要因》にて【補完の再調整】を行うことで,『こどもの日常にケアを馴染ませる戦略』【あえての空白の創出】に向かい,【補完の調整ができそうだという実感】に至ることもあった.

3. 各カテゴリーの説明

本過程は9カテゴリー,42サブカテゴリーの構造であった(表2).

表2 カテゴリー・サブカテゴリー一覧

カテゴリー サブカテゴリー
状況 母親の疾患と治療の受け止め ADと根気強く付き合う覚悟
痒みなく過ごすことが優先
肌のバリア機能を保つことが必要
乳幼児期の顕著な皮膚症状の経験
母親のメンタルへの影響
間違った薬の使い方をすることへの恐怖
見えない治療への終着始点
行為/相互行為 こどもの日常にケアを馴染ませる戦略 こどもができそうなことから一緒に始める
遊び・コミュニケーションとして行う
繰り返し行う
ほめる
楽しく継続する
こどもの気持ちを尊重する
きょうだいのケアの真似をさせる
補完の調整の判断 母親がすべて補完した方がよい
ケアの補完について深く考えたことがない
手のはなし時がわからない
母親が補完できない状況
こどもの将来を見通す予測 就学を控えた時期
きょうだいの誕生
母親だけではこどもを守れない思い
早い段階での移行が必要
ケアがこどもの日常に馴染むことへの期待
ありのままのこどもとの対話 こどもにできそうという母親の気づき
楽しそうにケアを行う
手が届くところは自分で塗れる
ケアを嫌がるときもある
まだできないとういうこどもの思い
ケアの全補完がこどもの日常
補完の再調整 他者のサポート
きょうだいのケアの経験
症状コントロール不良
あえての空白の創出 できなくても行わせてみる
嫌がるので塗ることをやめてみる
できないときはケアをスキップする
これくらいならいいかなとあえてしない
帰結 補完の調整ができそうだという実感 ケアがこどもの日常に変化している実感
こどもの自分のからだへの関心
補完の調整のタイミングではないという実感 こどもが塗れない部位
まだ難しい年齢という判断
いつかは自分で塗れることへの期待
母親が保湿を頑張れば肌状態が良好

1)『こどもの日常にケアを馴染ませる戦略』

本過程の中心カテゴリーであり,〔こどもができそうなことから一緒に始める〕〔こどもの気持ちを尊重する〕ことを意識し,〔遊び・コミュニケーションとして行う〕〔楽しく継続する〕ように工夫しながら,〈軟膏塗布の方法と理由を説明〉を〔繰り返し行う〕こと,〔ほめる〕,〔きょうだいのケアの真似をさせる〕戦略であった.《母親の戦略の意図》は〈ケアに関心を向ける〉〈ケアをこどもの日常に馴染ませる〉ことであった.

(1)〔こどもができそうなことから一緒に始める〕とは,〈軟膏を持ってくる〉ことや,おなかだけ顔だけといった〈部分的に塗る〉こと,まずは,〈プールの後だけ塗る〉ことから始めることであった.そして,《こどもができること》として,〈母と一緒に行う〉ことや,〈少しずつ行う〉ことであった.

「保湿剤を,自分で手に出していって,お母さんがやっているみたいに塗り広げてこうやってぬるんだよ,みたいな.なんか一緒にやりながらやりました.やってごらんって言って.(Ⓗ)」

「うん,そうですね,本当お腹だけやってね,っていうとこから始めてですね.(Ⓞ)」

(2)〔遊び・コミュニケーションとして行う〕とは,《こどものケアの認識》を〈遊び・コミュニケーション〉にすることで,《母親のケアの時間への期待》としては,〈嫌な時間にしたくない〉,お互いに〈楽しい時間にしたい〉という思いであった.

「楽しむとか,そういうマッサージのコミュニケーションっていう捉え方もありだなというのを知ったので,ちょっと考え方を変えてみようと思って,毎日のことを楽しい時間にしていきたいな,という気持ちで.(Ⓖ)」

(3)〔繰り返し行う〕とは,《補完の調整方法》として〈軟膏塗布の方法と理由を説明〉し,《こどもへの説明頻度》は多く,〔繰り返し行う〕戦略であった.

「(塗れないところは)ここも塗るんだよっていうのは言って,その時点で一緒に塗っています.言いながら,塗るっていうのを何年もっていう感じです.(Ⓔ)」

(4)〔ほめる〕とは,《こどもの日常にケアを馴染ませたい気持ち》が〈大きく〉,〈ほめる〉ことで,〈ケアに関心を向ける〉という《母親の戦略》であった.

「管理の一環として,やらせたいっていう気持ちもありつつ,そこを導入しようっていうので,とりあえずやってくれたらありがとうみたいな.ラッキーお母さんここだけだった,みたいな感じにして.あとは,私以外の人にも褒めてもらうように,陰で言ってみたりとか.(Ⓘ)」

(5)〔楽しく継続する〕とは,《母親のケアの時間への期待》は〈楽しい時間〉で,《母親が避けたいこと》は,〈嫌なことをする時間になること〉であった.

(6)〔こどもの気持ちを尊重する〕とは,〈こどもが機嫌のよい時に行う〉という母親の《こどもの気持ちへの配慮》であった.

(7)〔きょうだいのケアの真似をさせる〕とは,〈きょうだいで塗りあう〉〈模倣させる〉という《母親の戦略》であった.

2)【母親の疾患と治療の受け止め】とは,《母親の疾患の認識》として,「薬塗って保湿して付き合って行くしかもう体質的に仕方ないのかな(Ⓚ)」と〔ADと根気強く付き合う覚悟〕をもち,《母親の治療の認識》として,「皮膚の痒みを少し抑えていた方が,日常生活が痒みにとらわれずに過ごせるっていう過ごしやすさを考えると,ステロイドが必要だなと思って.(Ⓘ)」と,〔痒みなく過ごすことが優先〕や,〔肌のバリア機能を保つことが必要〕ということであった.一方,《母親の疾患の認識》として〔乳児期の顕著な皮膚症状の経験〕での〈辛い経験〉も影響し,こどもの肌状態における〔母親のメンタルへの影響〕や,〔間違った薬の使い方をすることへの恐怖〕のため《母親による治療の遵守》や,〔見えない治療への終着始点〕による《ステロイド治療の迷い》があった.その影響か,《母親の治療への納得度》は〈低い〉ため,《優先させること》は〈治療の遵守〉や〈母親のストレス軽減〉であり,増悪軽快を繰り返しながら経過するという疾患特性を受け入れられない状況であった.

3)【補完の調整の判断】とは,〔母親がすべて補完した方がよい〕〔ケアの補完について深く考えたことがない〕〔手のはなし時がわからない〕と考え,《こどものケアを促さない理由》としては,〈肌状態の維持〉のためであった.一方で,〈父親との別居〉〈妊娠中で具合が悪い〉〈きょうだいでケアが必要で大変〉なため,〔母親が補完できない状況〕であり,《ケアの補完の大変さの度合い》が大きく,《補完の調整をしたい気持ち》が強いための《補完の調整への試み》であった.

4)【こどもの将来を見通す予測】とは,母親が《補完の調整を考えたきっかけ》が,こどもが〔就学を控えた時期〕〈保育園入園〉の時期や,〔きょうだいの誕生〕という,ライフステージの変化であった.また,〈アレルギーの会での学び〉で〔早い段階での移行が必要〕なことを認識していたこと,〈こどもの成長発達〉を考えた時に,〈時期を見てこどもにバトンタッチしたい〉〈移行していかざるを得ない〉と認識していた.さらに,〈就学後は自分でやるしかない〉こと,《こどもを守れる人》は,〈自分だけではない〉ことからも,《こどものケアへの期待》を〈こどもの日常になること〉と考えていた.

5)【ありのままのこどもとの対話】とは,こどもが〈日常で細かい作業ができるようになった時〉や《こどものケアへの関心度》が〈高い〉ことにより,〔こどもにできそうという母親の気づき〕であった.そして,《こどもにとってのスキンケアの時間》が〈親子のコミュニケーションの時間〉や,〈遊び〉といった〔楽しそうに行う様子〕から,《こどもが塗れる部位の限定》はあるが,〔手が届くところは自分で塗れる〕ことを認識した.さらに,〔まだできないとういうこどもの思い〕や,《こどものケアへの関心度》が〈低い〉,〈気持ちが向かないときがある〉こと,〈面倒〉や〈眠い〉などでケアを嫌がるときもあることを認識し,本過程において母親が常に行っていることであった.

6)【補完の再調整】とは,母親が,【補完の調整のタイミングではないという実感】に至るも,〈保育園での自立の促し〉や〈患者会〉,〈病院の変更〉による〈こどもへのスキンケア指導〉を受けた,〈医師や看護師に相談した〉という〔他者のサポート〕,こどもの〔きょうだいのケアの経験〕という《再調整の要因》があったことでの,【補完の再調整】であった.また,こどものセルフケアを促すも,〔症状コントロール不良〕から,母親の補完するケアを増やすという【補完の再調整】でもあった.

7)【あえての空白の創出】とは,こどものセルフケアと母親の補完するケアで成り立つ,こどもに必要なセルフケアにおいて,《こどものセルフケアの充足度》をあえて〈未充足〉な状況,《母親の補完するケアの充足度》も,あえて〈未充足〉な状況にすることで,こどもに必要なセルフケアに,あえての空白を創出することであった.

《母親の試み》は,「ほとんどって(こどもが塗ると)言っても,できてないですけど,一応やらせてっていう感じですね.いつまで続くものか,治るものなのかわかんないので,一応自分でもわかってできた方がいいだろうなとⒶ)」〔できなくても行わせてみる〕こと,「塗るのが嫌だって拒否されたことは過去あって,でも,そんなに言うならと塗らなかったら,やっぱすごく痒くて.もうかきむしって血も出ちゃって,痛くなってということがあった時に,やっぱり塗らないと痒いじゃないっていう話をすると,じゃあ塗るっていうふうに徐々に理解していったところでしょうかね.(Ⓓ)」と〔嫌がるので塗ることをやめてみる〕ことであった.この状況により,〈保湿をしないと痒くなる〉という《こどもの実感》があり,結果的に《こどものケアの必要性の理解度》が高まり,〈こどもの力を引き出す試み〉となった.

さらに,「もう寝たいからもお薬も塗りたくない場合は,親が塗るか,もうスキップをしてしまう日もたまにはあります.結局やっぱり,やっと5年経って,私が,ステロイドを塗る量が少なかったから,ちょっとひどくなってしまっているっていうようなこともわかったので,親が調整できる範囲がやっと,ちょっと自分の中でも,やっと5年経ってですが,わかってきたところもあって.(Ⓑ)」と,[できないときはケアをスキップする]こと,「お兄ちゃんの経験もあるからか,なんかこれくらいだったら,これ塗っとけばいいかなみたいな.だいぶ気楽に対応できるようになりました.(Ⓗ)」や,「ちょっと,野放しにしてみたいな感じで,もう本当その場しのぎでやってきたって感じでもありますね.それで100悪化するわけでもないしな,っていう感じですかね.(Ⓘ)」と,〔これくらいならいいかなとあえてしない〕という,母親が《ケアの補完をしない理由》は〈肌のコントロール方法はわかってきたという自信〉からであった.

8)【補完の調整ができそうだという実感】とは,《母親がこどもの日常にケアが馴染んでいると判断した理由》として,こどもにとってケアが〈歯磨きと同じ感覚〉になり,〈塗ることが当たり前になる〉様子から,〔ケアがこどもの日常に変化している実感〕であった.《こどもの日常にケアが馴染む度合い》は,振り返ると〈馴染んでいた〉ように〈少しずつ〉であった.さらに,《こどもの認識の変化》として〈痒いことを訴える〉や,〈痒みの原因への興味〉をもち,こどもが〈軟膏を塗らないと痒くなる〉など,《こども自身の症状の自覚》があり,〔こどもの自分のからだへの関心〕から,【補完の調整ができそうだという実感】に至ることであった.

9)【補完の調整のタイミングではないという実感】とは,〈手が届かない〉,〈見えない場所〉など,軟膏を〔こどもが塗れない部位〕があること,母親の〈ステロイド塗布〉と〈薬の作用の理解〉は〔まだ難しい年齢という判断〕から,母親は〔いつかは自分で塗れることへの期待〕を持ちながらも,ケアの《補完の調整のタイミング》は〈今ではない〉と実感していることであった.また,〔母親が保湿を頑張れば肌状態が良好〕と認識し,《補完の調整ができないと実感する要因》はこどもの〈肌の状態〉でもあり,【補完の調整のタイミングではないという実感】に至ることもあった.

Ⅴ. 考察

本過程には,幼児後期の発達課題である自発性の獲得のための戦略,母親が補完を調整することで,母親のケア能力が発揮され,こどものセルフケア能力が発達するという,母親とこどもの相互作用が表出されていたと考える.さらに,こどもに必要なセルフケアを【あえての空白の創出】により,母親が補完するケアの保持と放出を調整し,こどもの自発性を促進することで,こどもの力を引き出し,こどものセルフケア能力が発達することが示唆された.

本考察では,1『こどもの日常にケアを馴染ませる戦略』の特徴,2 母親のケア能力,3 看護への示唆について論述する.

1. 『こどもの日常にケアを馴染ませる戦略』の特徴

『こどもの日常にケアを馴染ませる戦略』は,幼児後期のこどもの力を引き出す,発達段階に応じた戦略であった.母親はADのケアを〔遊び・コミュニケーションとして行う〕こと,〔ほめる〕ことを意識していた.遊びは,幼児後期のこどもの自発性を育てる上に,最も適切な土壌であり(服部,2020),こどもが医療処置や検査・治療を受ける際にも,不安や苦痛を軽減する(Kırkan & Kahraman, 2023Zengin et al., 2021).さらに,こどもを称賛することは,こどもの「がんばった」言動を支援するかかわりにつながる(佐川ら,2022今西・市江,2019).

幼児後期の発達課題である基本的生活習慣の獲得には,幼児の特性を踏まえ,情緒が安定している時に,興味を示す事柄に関して,実際に大人がやってみせながら,幼児を仕向けていくというやり方が効果的である(松田,2014).そのため,母親は,〈こどもが機嫌のよい時に行う〉,〔こどもができそうなことから一緒に始める〕,〈母と一緒に行う〉ことで,情緒性,興味性,具体性・模倣性を用いた.加えて,幼児の模倣での同一視は,愛着し信頼を寄せ憧れる大人や周りのこどもたちの行うさまざまな行為を取り入れるかたちで働き,その結果さまざまな行動が形成されるようになる(鯨岡,2015)ため,きょうだいのケアを模倣させ,セルフケア能力を発達させていた.

このように,母親はケア移行のタイミングを見極め,こどもができる方法を考え,補完するケアを調整しながら,発達段階に応じた戦略で意図的にかかわり,補完の調整を繰り返すことで,徐々にこどもの日常にケアを馴染ませていたと考える.

2. 母親のケア能力

【補完の調整ができそうだという実感】,【補完の調整のタイミングではないという実感】のどちらの帰結に至るにしても,母親はこどもに必要なセルフケアが充足されることを目指し補完の調整を行っていた.

【補完の調整のタイミングではないという実感】に至る過程において,軟膏を〔こどもが塗れない部位〕の存在より,〔まだ難しい年齢という判断〕をし,〔いつかは自分で塗れることへの期待〕をもった.また,《補完の調整ができないと実感する要因》はこどもの〈肌の状態〉であった.症状コントロールが良好であり,親の治療管理が行き届いていると,よいと思われがちにもなるが(及川,2019),こどもに必要なセルフケアが充足されているのかだけではなく,こどもの自身のセルフケア能力が存分に発揮されているか,こどものセルフケア能力に応じたケアが補完されているかを考えることも必要(片田,2019)である.

一方,こどもの皮膚症状の悪化が著明な場合は,【補完の調整ができそうだという実感】に至るも,【補完の再調整】にて〈症状のコントロール不良〉のため,【補完の調整のタイミングではないという実感】に至ることもあった.こどものセルフケア能力を発達させながらも,肌の状態によっては,母親の補完を調整し,症状の改善を優先させることがこどもの現状に合致した判断であり,母親がケア能力を発揮し,こどものセルフケアと母親の補完するケアを調整していたと考える.

さらに,【あえての空白の創出】において,《こどものケアの必要性の理解度》は高まり,結果的に〈こどもの力を引き出す試み〉となった.これは,幼児後期のこどもの病気の理解が,目に見えるものは少しずつ理解できるようになる(Piaget, 1970/2007)ため,皮膚の湿疹と掻痒を主病変とするADは,視覚的,皮膚の感覚的に理解することが可能な疾患特性も影響していたと推察する.幼児後期は,前期の自律性の発達を経て,家族以外の社会にも関心が広がり,運動や言語,遊びの発達により積極性,自発性を獲得し,できることは自分で行動する時期である(Erikson, 1963/2011).この時期の特徴的な行動は,保持すること,手放すことで,独立したいという思いと,まだ甘え,依存していたい思いが同居している(服部,2020).つまり,こどもと母親の相互の関係において,ケアの補完をしながらも,〔できなくても行わせてみる〕と,こどもの自発性を促進し,〔これくらいならいいかなとあえてしない〕とあえて手放すことを試みるという,ケアの保持と放出の調整を行うことで,こどものセルフケアを発達させる関りは,幼児後期のこどもの発達において重要だと考えた.すなわちこの方略は,こどもに必要なセルフケアを,あえて一時的に未充足な状況にするだけではなく,一時的に未充足になっても回復できるように働きかける母親のケア能力と,こどもの状況を査定できるだけの母親のケア能力があっての方略であると推察できる.

3. 看護への示唆

こどものセルフケアの発達における,【あえての空白の創出】という新たな視点は,母親が,ADの疾患特性や標準治療を理解・遵守し,その時々のこどもの心身の状況や,母親と家族の心身の状況に合わせてケアをコントロールできるケア能力があってこその創出である.同時に,あえて空白を創出することで,こどものセルフケア能力の発達を更に促進できるという,母親の戦略の表れでもある.しかしながら,本研究で語られたこどもは,生後数か月の間にADの診断を受け,母親は,3年もしくはそれ以上の経過のなかで,治療やケアを習得し,補完の調整を行いながら,こどものセルフケアを徐々に発達させていた.この過程を考えると,こどものセルフケア能力の発達は決して容易ではない.加えて,母親やこどもの事情にて,あえて空白を創出したばかりに,肌状態が悪化し,二度と空白を創出することができない状況や,さらにはこどものセルフケア能力以上にケアの補完をする状況に陥ることも推察される.

養育者の疾患・治療の受け止めは,治療の順守やアドヒアランスに影響する(盛光,2018)ように,本研究でも,母親の疾患や治療の受け止めが,【こどもの将来を見通す予測】ができる能力,補完の調整ができる能力につながっていた.さらに,母親の受け止めは,こどもの疾患や治療の受け止めや理解に影響する(Csima et al., 2024)ことからも,母親が疾患や治療に関する正しい情報を得て,治療やケアを遵守できることが必要である.そのうえで,幼児後期の発達段階の特徴や,『こどもの日常にケアを馴染ませる戦略』の特徴,こどものセルフケア能力発達の過程は容易ではなく,補完の調整を繰り返し発達していくことを伝え,母親が見通しをもって,補完の調整ができるように,長期に渡り支援する必要がある.そして,あえて空白を創り出すという判断やケアの見通し,創出した空白を補完し,こどもに必要なセルフケアを充足させる判断のタイミングなど,母親に必要なケア能力を具体化し,母親を支援するための支援体制の構築が必要となる.

慢性疾患をもつこどもの母親は,健康障害をもたないこどもの母親と比較し,育児に肯定感をもちにくいため,自信を感じることが適応において重要であり,楽観視や心のゆとりが必要(扇野・中村,2012)である.そのため,個々のこどもの状況の違いを理解し,母親ができている面,強みに目を向け(関根,2019),症状改善を実感できるよう客観的なフィードバック(杉村,2022)にて,母親がこどものADの症状や,自身の日々のケアを肯定的にとらえ,ケアや育児に自信やゆとりをもてるように支援し,家族の協力をも促し,こどものセルフケア能力が十分に発揮される母親の補完の調整となるように,母親のケア能力拡大への支援が必要である.

同時に,ADの痒みによるこどもへの睡眠や遊び,学習といった生活の影響を懸念し,決してこどもに必要なセルフケアが長期に渡り未充足な空白とならないよう配慮すること,こどもの養育及び発達に対する権利と義務と責任を担う存在である母親が,その責任を果たせるように十分に留意したうえでの看護支援となるように,【あえての空白の創出】という新たな視点も含め,さらなる検証を重ねることが重要である.

Ⅵ. 結論

ADをもつ幼児後期のこどもに必要なセルフケアを母親が補完するケアの過程は,【ありのままのこどもとの対話】を続けながら『こどもの日常にケアを馴染ませる戦略』【あえての空白の創出】【補完の再調整】を繰り返し,母親のケアの補完を調整し【補完の調整ができそうだという実感】に至ることで,こどものセルフケア能力の発達に向かう過程であった.

看護への示唆として,決して容易ではない幼児後期のこどものセルフケア能力発達の支援は,こどもの発達段階の特徴と『こどもの日常にケアを馴染ませる戦略』の特徴を母親に伝え,長期に渡り支援すること,こどもの自発性促進のため,ADの症状に留意しながら,母親の補完するケアの保持と放出の調整を行う【あえての空白の創出】という新たな視点も含め,こどものセルフケア能力,母親のケア能力を拡大できるように,検証を重ねることが重要である.

Ⅶ. 研究の限界と課題

研究対象者の限られた地域の特性の影響や,回想データによる当時の認識との相違性の可能性,対象者が母親のみであったことからも適用には限界がある.また,ADの重症度判定には母親が主観的に評価できるPOEMを使用したが,学童期のこどもの母親から,幼児後期時のADの症状についての情報を明確に得ることができなかった.今後は,条件に合致した研究対象者のサンプリングの実施,重症度を正確に把握できる内容のインタビューガイドの作成を行うことが必要である.本研究にて得られた結果の検証を重ね,実践へ応用可能な,こどもと養育者を対象とした看護師の支援プログラムの構築を目指すことが今後の課題である.

付記:本研究は東京女子医科大学大学院博士後期課程の学位論文の一部に加筆修正したものであり,内容の一部を第44回日本看護科学学会学術集会で発表した.

謝辞:研究にご協力いただいた皆様に心より感謝申し上げます.本研究は公益信託山路ふみ子専門看護教育研究助成基金,東京女子医科大学看護系同窓会研究助成を拝受いたしました.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:SAは研究の着想から最終原稿まで,研究プロセス全体に貢献,MAはデータ分析・解釈,研究デザインから最終原稿まで,研究プロセス全体への助言,すべての著者は最終原稿を読み承認した.

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