2025 Volume 45 Pages 327-337
目的:離島在住乳がん患者が,島外の専門的乳がん診療機関での治療から,その後のフォローアップに至る継続的な受診において,どのような困難感を有しているのかを明らかにする.
方法:離島在住乳がん患者14名を対象に半構造化面接調査を実施し,質的記述的分析を行った.
結果:離島在住乳がん患者は,島外の専門的乳がん診療機関への受診にあたり,島外に出るための移動や手続きに伴う身体・精神・経済的な困難感を有していた.また,治療に際して,家族や医療者からの支援を得にくいことも困難感として抽出された.乳がんは,長期にわたる治療やフォローアップが必要であり,島外に長期的に出向くことに対する困難感が抽出された.
結論:離島在住乳がん患者は,島外受診において,離島特有の困難感を抱えていた.今後は,離島在住乳がん患者の島外受診に対する継続的な支援体制を整備し,困難感の軽減に努めることが必要である.
Objective: To clarify the difficulties breast cancer patients living on remote islands perceived when visiting specialized breast cancer medical institutions outside the island for treatment and subsequent follow-up care.
Method: Semi-structured interviews were conducted with 14 breast cancer patients living on remote islands, and qualitative descriptive analysis was conducted.
Results: Breast cancer patients living on remote islands held physical, mental, and financial difficulties associated with the procedures and arrangements required to travel outside the island to visit specialized breast cancer medical institutions outside the island. In addition, difficulty in obtaining support from family and medical professionals during treatment was also identified as a difficulty. Breast cancer requires long-term treatment and follow-up, and difficulties were identified in traveling outside the island for long periods of time.
Conclusion: Breast cancer patients living on remote islands felt difficulties unique to remote islands when accessing specialized cancer medical institutions outside the island. In the future, continuous support system will be established, for breast cancer patients living on remote islands to visit institutions outside the island, and strive to reduce these difficulties.
日本では,がん対策推進基本計画において,全国いずれの地域に居住していようとも質の高いがん医療を提供することを目標としており,全国にがん診療連携拠点病院を408箇所設置している(厚生労働省,2022).しかし,がん患者の居住地における医療機関の整備状況によって,がん医療へのアクセスが不利になっている可能性が指摘されている(田中・片野田,2015).特に,日本は256の有人離島を有する島嶼国家であり(国土交通省,2023),がん医療の均てん化について,離島の視点から捉えることは重要である.
離島の医療提供体制は,その多くが医師,看護師各1名の2名体制で,主に非常勤や派遣の医師で診療している診療所も少なくない(霜山ら,2023).よって,離島において,がんに特化した専門的医療の提供には限りがある.そのため,周囲を海で囲まれている離島在住がん患者は,専門的がん治療を受けるために,飛行機もしくはフェリーで島外に出向く必要がある(高橋ら,2000).また,離島はその狭小性からくる匿名性の保ちにくい環境から(Winters & Lee, 2021),がんに罹患していることを周りの者に知られたくないために,島外の専門的がん診療機関での治療を選択する者も少なくない.このような離島環境において,離島在住がん患者は,島外の専門的がん診療機関への受診において,特有の困難感を抱えていると推察される.
先行研究では,離島在住がん患者が島外の専門的がん診療機関に出向く際に,精神的・経済的負担を抱えていることが,自記式質問紙調査を通じて明らかにされており,支援の必要性が指摘されている(宮里ら,2012;Auguste et al., 2021).しかし,これらの研究は,量的調査により患者の困難を断片的に捉えたものであり,離島在住乳がん患者が抱える多面的かつ中長期的な困難感を包括的に把握する視点には乏しい.また,こうした困難に対して,看護職による継続的な支援のあり方に焦点をあてた研究は十分に蓄積されていない(Dobson et al., 2020).
特に,がんは,治療後,5年間のフォローアップを行う必要がある.よって,異常に気づいて最初の受診からフォローアップまでの期間を含めると,診療機関での管理は長期にわたる(Feuerstein & Nekhlyudov, 2018/2022).がん患者に共通するこのような長期的な管理の必要性に加えて,乳がんには特有の治療上の課題も存在する.たとえば,手術後の内分泌療法を5~10年継続する必要があるほか,治療後10年以上を経て再発する例もあるため,より長期にわたるフォローアップが必要である.また,乳がん治療は,ステージやサブタイプに応じて個別化された治療計画が必要とされ,乳腺専門医による専門的対応が求められることも特徴である.このような背景から,離島在住乳がん患者は,長期間にわたり,乳腺専門医が在籍する島外の診療機関を継続して受診する必要がある.そこで,本研究では,離島在住乳がん患者が島外の専門的乳がん診療機関への治療からその後のフォローアップにおける受診において,どのような困難感を有しているのかを明らかにし,看護援助に資することを目的とした.本研究の意義は,離島在住乳がん患者が抱える包括的な困難感を質的に明らかにする点にある.また,その知見は,離島における看護実践のみならず,島外の専門的診療機関におけるがん看護,さらには地域格差の是正に向けた看護政策の視点にも示唆を与えるものであり,多様な立場の看護実践に貢献するものと考える.
なお,本研究は,この目的の達成に向けた第一段階として,沖縄県の離島在住乳がん患者を対象に調査を実施したものである.
離島在住乳がん患者の受診に関する視点は,数値では十分に表現できない人間の思考や感情,および行動を含む.よって,研究参加者の見方を包括的に,そして正確に記述することに適している質的記述的研究デザインを採用した(Sandelowski, 2000/2013).
2. 用語の定義離島:周囲を海に囲まれている “海洋性”,本土の経済中心から遠く離れている “遠隔性”,面積が狭い “狭小性” といった複合的な特徴を有した離島の環境(嘉数,2019).
島外の専門的乳がん診療機関への受診における困難感:困難とは,「ものごとを成しとげたり実行することが難しいこと」である(新村,2018).先行研究の定義も参考に(種村ら,2022),本研究における島外の専門的乳がん診療機関への受診における困難感とは,「乳がんの診断期から現在に至るまでに,離島在住乳がん患者が,島外(沖縄本島または沖縄県以外の都道府県)の専門的乳がん診療機関へ受診をする際に,難しさを抱く事柄や困ると感じること」とした.
3. 研究実施場所における乳がんの医療体制本研究では,沖縄県の地理的条件や医療体制が,他の離島地域にも共通する課題を有すると考え,沖縄県の離島を調査対象に設定した.
沖縄県の離島の特徴は,広大な海域に38の有人離島が点在し,人口の約8.9%が離島に居住している(沖縄県企画部地域・離島課,2023).沖縄県の38箇所の有人離島の内,35箇所が人口2,000人未満の小規模離島であり,医師,看護師各1名の2名体制での一般診療所による医療提供体制である.乳がん治療では,手術療法,放射線療法,薬物療法等を組み合わせた集学的治療が重要であるが,各診療所での,乳がんの診断(確定診断,病期判定)や,治療は困難である(琉球大学病院がんセンター,2016).また,沖縄県のすべての離島では,放射線療法に関して,専門人材の確保,治療技術の維持等の理由から,受療が困難である(沖縄県保健医療介護部健康長寿課,2024).なお,乳がんの放射線療法は,1日1回,週5回で約4~6週間かけて照射するのが一般的であり(国立がん研究センター,2024),離島在住乳がん患者が,放射線療法を受療する場合,約4~6週間の間,島外に出向かなければならない.
今回,研究を実施した4離島(A島・B島・C島・D島)における乳がんの医療体制について,表1に示す.A島・B島は,人口5,000人以上の大型離島に属する.C島・D島は,人口2,000人未満の小規模離島に属する.4離島で乳がんの医療体制及び医療資源に違いがあるが,いずれも,離島在住乳がん患者は,乳がん専門医による治療や放射線療法を受けるために,沖縄本島または沖縄県以外の都道府県の専門的乳がん診療機関に出向く(図1).
島 | 人口☆ | 乳がんの医療体制† | |
---|---|---|---|
大型離島 | A | 49,976 |
【医療資源】 地域がん診療病院 【乳がん専門医及び病理医の常駐】無し 乳がん専門医が沖縄本島から定期的に来島するが,天候や医師の状況で離島に来られないことがある 【乳がん診断・治療】 ・診断(確定診断,病期判定)は可能だが,沖縄本島の病理医に検体を送るため時間がかかる ・医師の異動等で年度により,乳がん治療に対応できないこともある ・放射線療法実施医療機関無し 【社会資源】 ・離島患者等通院費助成事業:有り ・乳がん患者会:有り (A島:活動メンバー3名,B島:メンバーの高齢化に伴い活動休止状態) |
B | 49,530 | ||
小規模離島 | C | 1,725 |
【医療資源】 無床診療所(医師1名,看護師1名) 【乳がん専門医及び病理医の常駐】無し 【乳がん診断・治療】 ・乳がんの診断(確定診断,病期判定),治療(手術療法,放射線療法,薬物療法)は困難 【社会資源】 ・離島患者等通院費助成事業有り ・乳がん患者会無し |
D | 1,210 |
☆ 令和5年1月1日現在
† インタビュー時
本研究では,合目的的サンプリング(Liamputtong, 2020/2022)を用いて沖縄県の離島在住乳がん患者のリクルートを行った.本研究の実施に先立ち実施した,文献検討と予備調査から,離島では,その特徴である狭小性により,乳がんのことを周りに知られたくないと考える傾向が強く(Winters & Lee, 2021),離島在住乳がん患者の多くは離島の病院や診療所を介さずに直接,島外の専門的乳がん診療機関を受診する.よって,研究対象候補者のリクルートは沖縄本島の地域がん診療連携拠点病院(1箇所)と,沖縄本島で活動する乳がん患者会からの機縁法により実施した.
研究参加者の適格基準は,①20歳以上である,②離島在住乳がん患者である,③島外の専門的乳がん診療機関を受診している,④精神状態,認知機能,コミュニケーションに障害がない,⑤医療者または患者会代表により,研究依頼が可能と判断されている,⑥本人に病名の告知がされており,6か月以上が経過している,⑦治験に参加していない者とした.
地域がん診療連携拠点病院では,がん看護専門看護師から適格基準に合致する乳がん患者3名の紹介を受け,研究者が直接依頼し,同意が得られた2名を研究参加者とした.乳がん患者会では,患者会代表者から紹介された2名の患者を介して,さらに12名が紹介され,同意が得られた12名を研究参加者とした.以上より,本研究の研究参加者は計14名である.
5. データ収集期間と方法調査期間は2020年9月~2023年2月であった.研究参加者に口頭・文書で面接調査を依頼し,承諾の得られた後,対面または電話による半構造化面接調査を行った.対面での面談が11名,電話による面談が3名であった.面接時間は40~120分であった.面接は,インタビューの質を担保するために,研究代表者がすべて実施した.質問は,インタビューガイドを用いて,①基本的属性(年齢,家族構成,職業,乳がんの治療内容など),②乳房の異常に気づいてから過去における島外の専門的乳がん診療機関への受診の経験,③現在の島外の専門的乳がん診療機関への受診の経験,④島外の専門的乳がん診療機関への受診を取り巻く状況について,出来るだけ具体的に語ってもらった.面接内容は,参加者の許可を得てICレコーダーへ録音または,フィールドノートに記述した.なお,録音に許諾が得られた参加者は13名であった.電話インタビューの録音は,スピーカーモードにした状態でICレコーダーによる録音を行った.
6. データ分析方法分析は,研究参加者の語りを一語一語そのまま文字に起こしたデータから作成した逐語録を読み込み,乳房の異常に気づいた時から現在に至るまでの時系列にそって,個々の体験を把握した.次に,対象者毎に文脈が損なわれないように逐語録を区切り,「島外の専門的乳がん診療機関への受診における困難感」を表している内容を抽出し,データにより近い表現でコード化した.それぞれの対象者から得られたコードは,類似性に着目してサブカテゴリとカテゴリを生成し,抽象度を上げ,質的記述的に分析した.分析内容について,島嶼看護学,がん看護学分野の研究者間で議論を重ねた.また,承諾が得られた研究対象者2名に分析結果を確認してもらい,厳密性と真実性の担保に努めた.
7. 倫理的配慮本研究は沖縄県立看護大学研究倫理審査委員会(承認番号20007)と研究協力機関の研究倫理審査委員会(承認番号2021a45)の承認を得て実施した.研究協力者に対して,口頭と文書にて研究の趣旨,研究参加の任意性や中断の自由意思の尊重,結果の公表での匿名性の遵守,倫理的配慮について説明し,同意を得た.データ収集に際しては,参加者のプライバシーに配慮し,個室でインタビューを実施するなど,安心して話せる環境づくりに努めた.
研究参加者は40~70代であった.乳がん診断後の年数は3~18年であった.これまでに受けた治療内容は,研究参加者の乳がんのタイプによって,手術療法,薬物療法,放射線療法と多様であった.インタビュー時の治療状況は,治療中4名,フォローアップ中10名であった.大型離島(A島・B島)に居住する者が12名,小規模離島(C島・D島)に居住する者が2名であった.
ID | 年代(代) | 居住する離島(島) | 乳がん診断後の年数(年) | 職業 | 家族形態 | これまで受けた治療 | インタビュー時点の治療状況 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
診断時 | インタビュー時 | |||||||
1 | 60 | A | 16 | 有 (自営業) |
有 (自営業) |
夫婦と子 | 手術,抗がん剤,放射線,内分泌療法 | フォローアップ(1回/2年) |
2 | 60 | A | 15 | 有 (常勤専門職) |
有 (非常勤) |
3世代 | 手術,抗がん剤,放射線 | フォローアップ(1回/2年) |
3 | 40 | B | 3 | 有 (会社員) |
有 (病休中) |
夫婦と子 | 手術,抗がん剤,内分泌療法 | 内分泌治療中 |
4 | 40 | B | 6 | 有 (会社員) |
主婦 | 夫婦と子 | 手術,放射線,抗がん剤 | フォローアップ(1回/6か月) |
5 | 40 | B | 3 | 有 (常勤専門職) |
有 (病休中) |
夫婦 | 手術,放射線,抗がん剤,内分泌療法 | 抗がん剤治療中 |
6 | 50 | B | 8 | 有 (常勤専門職) |
有 (非常勤) |
親と本人 | 手術,放射線,内分泌療法 | フォローアップ(1回/3か月) |
7 | 60 | B | 17 | 有 (常勤) |
有 (非常勤) |
単独 | 手術,抗がん剤,放射線,内分泌療法 | フォローアップ(1回/年) |
8 | 70 | B | 18 | 主婦 | 主婦 | 夫婦と子 | 手術,放射線,内分泌療法 | フォローアップ(1回/年) |
9 | 70 | B | 5 | 無 (元公務員) |
年金生活 | 3世代 | 手術,抗がん剤,内分泌療法 | フォローアップ(1回/年) |
10 | 70 | B | 3 | 有 (常勤専門職) |
有 (常勤専門職) |
夫婦 | 手術,放射線 | フォローアップ(1回/年) |
11 | 70 | B | 18 | 有 (自営業) |
有 (自営業) |
夫婦と子 | 手術,放射線,内分泌療法 | フォローアップ(1回/年) |
12 | 70 | B | 5 | 有 (自営業) |
有 (自営業) |
夫婦と子 | 手術,放射線,抗がん剤 | フォローアップ(1回/年) |
13 | 60 | C | 3 | 無 (元自営業) |
年金生活 | 夫婦 | 手術,抗がん剤,放射線,内分泌療法 | 内分泌治療中 |
14 | 60 | D | 3 | 有 (教育職) |
主婦 | 3世代 | 手術,抗がん剤,内分泌療法 | 内分泌治療中 |
インタビュー時
離島在住乳がん患者の島外の専門的乳がん診療機関への受診における困難感として,6カテゴリと15サブカテゴリが抽出された.カテゴリは【 】,サブカテゴリは〈 〉,研究参加者の語りは斜体で示す.
カテゴリ | サブカテゴリ | コード数 | コード(例) |
---|---|---|---|
飛行機などの移動手段による多大な身体・精神・経済的負担を感じる | 治療費と生活費に加え,島外に出向くための交通費や宿泊費が重なる経済的な負担がある | 13 |
乳がんの専門的な治療・検査に係る費用の負担に加えて,検査,結果の説明,治療のたびに島外に出向くための飛行機代,レンタカー代,宿泊費がかかる 家族にも説明しないといけない.そうすると家族分の飛行機代,宿泊代も必要になる 自分たちのお金だけでは無理なので,借金をする |
治療の副作用がある中で荷物を抱えての,飛行機やモノレール,バス等を乗り継いだ移動がきつい | 10 |
抗がん剤の副作用がある体調不良の中で治療のために離島と沖縄本島を飛行機で行き来しなければならずきつい 宿泊分の荷物も抱えてバスやモノレールを乗り継いでの移動がきつい 感染のリスクがあっても公共交通機関で移動しなければならず不安を感じる |
|
不測の事態で飛行機に搭乗出来ず,島外の病院での診察を予定通りに受けることが出来ず,困る | 5 |
台風の影響で飛行機が欠航し,沖縄本島での診察を受けることが出来ない お盆などの繁忙期と受診日が重なり航空チケットが取れず困る 体調不良で予定していた便に搭乗出来ない |
|
地理さえも分からない場所への移動に不安を感じる | 2 | 場所もよく分からない島外の病院への行き方が分からず不安になる | |
治療に加えて島外に出るための諸手続きや調整が多岐で時間や労力を要するので辛い | 島外に出るための,多岐にわたる手配・調整に時間が取られる負担がある | 20 |
自分で病院間のスケジュール調整もせざるを得ない 治療に加えて,ホテル,航空券,レンタカーの予約など手配が多岐にわたる |
治療中の,複雑な渡航費等助成の手続きが辛い | 6 |
体調が悪い中での複雑な渡航費申請手続きが負担 渡航費に関して行政から手続きに関するサポートが得られず辛い |
|
治療と生活の場が異なるため,離島内に残してきた家族・仕事などの役割が果たせず,サポートも得られない | 治療のために島を離れることで,社会的役割が果たせない気がかりがある | 6 |
離島の家族のことが気になって治療に専念できない 離島で担っていた役割が果たせない |
身近に頼れる人がいないため,島外での生活で,負担や不自由を感じる | 3 |
周りに頼れる人がいない中で治療を行うことに孤独を感じる 入院中,必要なものが病院で買えず,誰かに頼みたくても頼める人がおらず困る |
|
治療によって場所が変わるが,島外の病院でのフォローアップが十分に得られず困る | 治療場所や治療内容によって病院が変わるため,主治医・スタッフとの関係性を構築するのに時間がかかる | 5 | 治療によって治療場所も医師も看護師も変わるため信頼関係を構築するのも時間がかかる |
島外の病院で医療者から寄り添った支援が得られず孤独を感じる | 4 |
離島から来て1人で告知を受けたが,医療者から声もかけられず孤独を感じる 主治医から離島の病院の情報が分からないため,自分で離島の医療機関で治療ができるかどうか調べるよう言われる |
|
島外の病院で入院生活に関する情報が事前に提供されず,入院中に困る | 2 | 病院から入院生活に関する情報が早めに提供されず,離島からだとすぐに家に取りに帰ることもできず困る | |
生活の場である離島内で乳がんに関する情報を得ることが難しく,困った時に身近に頼れる場や人がおらず不安を感じる | がん治療中,治療後も続く苦痛症状,有害事象,再発への不安を抱えて生活しなければならないが,島外の病院や主治医と離れており,困った時に離島内で頼れる場がなく不安である | 13 |
離島で調子が悪くなった時,島外の主治医にすぐに診てもらえない不安がある 離島内に相談する場所がないため通常と違った症状が出た場合,異常の判断がつかない 離島に治療後のリンパ浮腫を抱えた状態で,離島内に支援してくれる専門家がいないため自力で何とかしなければならない |
生活の場である離島内で乳がんに関する情報を得ることが難しい | 12 |
離島は地域が狭いために乳がんであることを周りに知られないようにするため情報が得られにくい 島外の病院で開催される講演会や患者会活動に参加したいが,離島からそのためだけに参加するのが難しい |
|
長期にわたり,治療やフォローアップのために島外の病院を受診しなければならず,負担が大きい | 治療のために,長期にわたり島外の病院を受診しなければならない | 3 | 一生治療薬を服用しなければならないので,長期にわたり島外の病院を受診しなければならない |
異常が出現した際,急遽,島外に出向く必要があり,負担が大きい | 3 |
何か異常があればすぐに島外の病院を受診しなければならず,負担が大きい フォローアップ期でも何か転移の可能性があればすぐに飛行機に乗って,島外の病院にかからなければならない |
離島在住乳がん患者は,島外への移動に係る様々な負担を感じていた.具体的には,移動に係る交通費・宿泊費に係る経済的負担や,治療の副作用がある中で,荷物を抱えての公共交通機関を乗り継いだ移動に係る身体的負担,そして台風などの不測の事態で飛行機に搭乗できずに予定通りに診察が受けられない,離島から島外の病院への行き方が分からないなどの精神的負担を感じていた.
〈治療費と生活費に加え,島外に出向くための交通費や宿泊費が重なる経済的な負担がある〉
「手術までは親族が誰かいないといけないから(沖縄本島の病院の近くに)民間のウィークリーマンションを借りた.あとレンタカーも借りてとか出費ものすごいですよ.治療中はウン十万単位で出たから島からってなってくると,お金の負担が計り知れない」(ID4)
「現在は母を扶養して2人で生活しています.それに加えて,治療や検査のために3か月に1回沖縄本島へ行きます.身体はきつい…でも働かないと生活できない.この繰り返しです」(ID6)
〈治療の副作用がある中で荷物を抱えての,飛行機やモノレール,バス等を乗り継いだ移動がきつい〉
「(島外の病院を受診したときに)よく(離島から)朝行って夕方に飛行機で帰れるんじゃないって言われる.午前中はきついから大体10時頃飛行機に乗って,病院行って,診察とか検査で3時間くらいかかる.そこから(離島に)帰ってって,こんな状態でやるのに,薬の副作用とかみんな勉強したことあるのって」(ID9)
「副作用があって荷物抱えて移動するって大変きついですよ.(治療後に)バスに乗ったら何か気分が悪くなって.帰りは(飛行機で)車椅子で帰ってきました」(ID10)
〈不測の事態で飛行機に搭乗出来ず,島外の病院での診察を予定通りに受けることが出来ず,困る〉
「離島から来るのって,本当にエネルギーいるのね.診察日で(沖縄本島の)病院に来ても翌日台風で(飛行機が)飛ばない時ってあるの.だから先生に,次の週に延ばしてもらっていいですかって電話して,2回くらい診察を先延ばしにしたことがある.台風の時期になると不安.あと,盆とか正月とか,そういうのに日にちがかち合った時には,チケットが取れないの」(ID14)
「飛行機の安いチケットを前もって早割を取っていたんだけど,この日,気分が悪くて,この便に乗れなかったわけ.当日キャンセルだからチケットのお金が戻ってこなくて.でも,診察に間に合わせるために,急いで,次の便のチケット買ったら2万くらいして.なんかこういうのとか,むなしくて」(ID10)
〈地理さえも分からない場所への移動に不安を感じる〉
「最初,島からどうやって(沖縄本島の)病院に行けばいいのか全く分からなくて,夫とレンタカーのナビだけを頼りに行って,本当に不安だった」(ID1)
「病院までの場所は,Googleマップしか情報はない.でもネット情報でも拾いきれなくて,病院がモノレールの隣にあるっていうそれも知らなくて」(ID5)
2) 【治療に加えて島外に出るための諸手続きや調整が多岐で時間や労力を要するので辛い】離島在住乳がん患者は,治療によって病院が変わる中で,患者自身が病院間のスケジュール調整を行っていた.また,治療に加えて,島外に出るための宿泊先や移動手段などの手配や,複雑な渡航費等助成の手続きを行っており,離島在住乳がん患者は,治療に専念したいが,多岐にわたる調整・手続きに時間が取られることに負担を感じていた.
〈島外に出るための,多岐にわたる手配・調整に時間が取られる負担がある〉
「(沖縄本島や離島の)病院では,病院と患者の間に入ってサポートっていうのは別になかった.だからもう自分でやったほうが早い.治療に専念したいんだけど,それ以外のことに労力を割くことがすごく多い.何か手配するとか,そういうのが精神的な負担だった」(ID3)
「PETセンターと,治療の病院と,それぞれに電話しながら,飛行機の時間みながらチケットを取って.手配が多岐にわたって,すごく苦労した.自分の病気のことも,向き合わないとって思うんですけど,治療場所とかいろんなことを考えないといけない.頭がいっぱいになる」(ID5)
〈治療中の,複雑な渡航費等助成の手続きが辛い〉
「体力的にも精神的にも元気があれば出来るけど,本当に治療の真っ只中の時には,とてもじゃないけど,飛行機の領収書もらったりとか,そこまで気力がないから,面倒くさくてやらなかった時もある」(ID4)
「沖縄本島に行く時の渡航の領収書とか,もう本当にいろんな領収書が必要で,そういうことが分からなかったので,本当に困りました.役所の受付で領収書はどこいったんですかとかいろいろ聞かれて,退院した翌日に役所に行ったんですけど,途中で気分が悪くなって,もう無理ってなって途中で帰ってきました」(ID10)
3) 【治療と生活の場が異なるため,離島内に残してきた家族・仕事などの役割が果たせず,サポートも得られない】離島在住乳がん患者は,治療のために生活の場である島を離れることで,環境が変化し,母親や妻としての役割,仕事での役割が果たせず辛いと感じていた.また,島外での新たな環境では,治療を支えてくれる支援者がいないことにより,不自由や負担も感じていた.
〈治療のために島を離れることで,社会的役割が果たせない気がかりがある〉
「高校生の息子がいるんですけど,(沖縄本島で)治療をしている間,おばあちゃんが朝ごはん作ってあげていたんだけど,ちゃんと学校行ったかなとか毎日心配だった」(ID2)
「自宅が島なので,どうしても家のことも気になりますし,主人も1人置いてきているので,治療に専念できない部分がありました」(ID5)
〈身近に頼れる人がいないため,島外での生活で,負担や不自由を感じる〉
「病院にコインランドリーもなかったから,入院中の洗濯物とか,すごい困ったんですよ.周りに頼れる人が全然いなかったから,頼れる人がいたら全然違いますよね」(ID3)
4) 【治療によって場所が変わるが,島外の病院でのフォローアップが十分に得られず困る】離島在住乳がん患者は,治療によって場所が変わるが,島外の病院で,フォローアップが十分に得られないことにより,不安や入院生活における困難を感じていた.
〈治療場所や治療内容によって病院が変わるため,主治医・スタッフとの関係性を構築するのに時間がかかる〉
「治療によって場所が変わるから,主治医に慣れるのも大変.信頼関係を構築するのも時間がかかる」(ID2)
「3年あまりで4名の先生が携わっていて,それに伴って看護師も施設毎に違いますし,(島内外の)病院を転々としないといけないっていうのは一番大変だった」(ID5)
〈島外の病院で医療者から寄り添った支援が得られず孤独を感じる〉
「診断された時も,離島から来て1人だったから.物事は手術日まで決められてっていうか.何か置いてけぼりを食らった感じ,ポツンって.大丈夫ですか?今の説明で分かりましたか?っていう声かけもなく事務的に物事が進んでいって…」(ID6)
〈島外の病院で入院生活に関する情報が事前に提供されず,入院中に困る〉
「(島外の)病院は,手術とか医学的なこととか案内はされるけど,生活のことまでは教えてくれないから.入院の日に,口腔ケアとか下着とか持ってきてくださいって言われて.入院前に言ってくれたらって.すぐ家に取りに帰るっていうのは離島ではできないのに」(ID12)
5) 【生活の場である離島内で乳がんに関する情報を得ることが難しく,困った時に身近に頼れる場や人がおらず不安を感じる】離島在住乳がん患者は,島外の病院や主治医と離れた環境の中,がん治療中及び治療後の苦痛症状を抱え,異常が出現した時の不安を有していた.加えて,生活の場である離島で乳がんに関する情報が得られにくいこと,頼れる場や人がいないことに困難感を抱えていた.
〈がん治療中,治療後も続く苦痛症状,有害事象,再発への不安を抱えて生活しなければならないが,島外の病院や主治医と離れており,困った時に離島内で頼れる場がなく不安である〉
「島に専任の先生もいないし,リンパ浮腫に専任でケア対応する看護師さんもいない.もし,またリンパ浮腫が起きた時にこの先どうなるんだって思ってて不安…」(ID5)
〈生活の場である離島内で乳がんに関する情報を得ることが難しい〉
「(乳がん患者は)島にいっぱいいるんだけどみんな(病気のことを)言わないんですよ.知られたくないっていうのが大きいんですよね.みんなで情報を共有したら不安になることもないし,治療も前向きになるけど…」(ID11)
6) 【長期にわたり,治療やフォローアップのために島外の病院を受診しなければならず,負担が大きい】〈治療のために,長期にわたり島外の病院を受診しなければならない〉
「新薬なんですけど,これ何回打つんですかって聞いたら,一生ですって言われたので,終わりが見えないなって思って…」(ID5)
〈異常が出現した際,急遽,島外に出向く必要があり,負担が大きい〉
「乳がんは,長い間,病院に通わないといけない.手術して終わりではない.島に専門がないから,情報もない.半年に1回沖縄本島の病院でフォローしているけど,何か異常があったら,またすぐに本島に(飛行機で)飛んで行かないといけない.これが続く」(ID6)
乳がん患者は,病気の進行や,治療・検査,今後の生活に関して気がかりを有する(国府,2008).このような乳がん患者が抱える気がかりに加えて,離島在住乳がん患者は,島外の専門的乳がん診療機関への受診において,【飛行機などの移動手段による多大な身体・精神・経済的負担を感じる】【治療に加えて島外に出るための諸手続きや調整が多岐で時間や労力を要するので辛い】といった困難感を有していた.
離島在住乳がん患者は,経済的負担として,〈治療費と生活費に加え,島外に出向くための交通費や宿泊費が重なること〉を挙げている.先行研究では,がんサバイバーの16~78%が,がんにより,経済的困難を経験していることが示されているが(McNulty & Khera, 2015),へき地に居住する患者は都市部に居住する患者に比べて約2倍の経済的困難を経験する(McDougall et al., 2018).特に,乳がんは,受診からフォローアップまでの期間が長いため,経済的負担も長期的にわたり,その負担は大きい.本研究参加者の中でも,借金をして島外での治療を継続している者も存在した.離島において,金の切れ目は,命の切れ目であり,命をあきらめさせない支援の必要性が求められている(真栄里,2015).特に,離島では,農業・漁業などの個人事業主が多くを占め(沖縄県企画部地域・離島課,2012),零細企業で非正規雇用の働き方をしている者も多い.よって,乳がんの罹患を契機に,経済的に困難な状況に陥る者も少なくない.先行研究では,がん患者の経済的困難に関して,医療者が患者の相談に乗る支援を行うことや,治療費のことを一緒に考えることが,患者と社会資源を結びつけることに繋がり,患者の経済的負担を軽減する可能性について言及されている(Feuerstein & Nekhlyudov, 2018/2022).よって,診療機関では,離島在住乳がん患者の置かれた経済状況にまで視点を広げ,関わる必要がある.
また,離島在住乳がん患者は,〈治療の副作用がある中で荷物を抱えての,飛行機やモノレール,バス等を乗り継いだ移動〉に関する困難感を抱えていた.外来で,薬物療法を受けながら生活する乳がん患者の困難を明らかにした研究では,患者は,がん症状そのものの苦痛に加えて,薬物療法の副作用による辛さを有しており,数時間の治療を受ける患者にとって,病院への往復や治療による疲労は苦痛であることが明示されている(林田ら,2005).本研究参加者からの語りからも,乳がん治療中の離島からの飛行機での長距離移動は,身体的負担のみならず,精神的苦痛も大きいことが明らかになった.よって,治療のために離島から頻回に海を越えて受診をしている離島在住乳がん患者の移動に伴う苦痛に対して,医療者は,治療前後に休息できるような時間や場所を確保するなどの治療環境を整える支援や,サポーティブな関わりが必要である.
離島在住乳がん患者から,〈不測の事態で飛行機に搭乗出来ず,島外の病院での診察を予定通りに受けることが出来ない〉困難感が抽出された.四方を海に囲まれている離島では,船舶や飛行機が,風や波,霧などによる天候の影響を受けやすく,欠航し易い状況にある(宮崎ら,2010).これらの環境要因により,予定通り受診が出来ない状況は,離島在住乳がん患者にとって,受診日の再調整や,航空券および宿泊施設の予約の取り直しをせざるを得ないなど,時間的・精神的な負担となっている.医療者は,離島在住乳がん患者が,飛行機などを乗り継いだ移動に伴う負担を理解し,具体的な支援に繋げる必要がある.
2) サポートが得られないことによる困難感先行研究では,へき地在住乳がん患者は,医療者からの治療に関する共感や,支援,情報に関するニーズを有していることが明らかにされている(Bettencourt et al., 2007).本研究では,離島在住乳がん患者の困難感として,【治療と生活の場が異なるため,離島内に残してきた家族・仕事などの役割が果たせず,サポートも得られない】【治療によって場所が変わるが,島外の病院でのフォローアップが十分に得られず困る】ことが抽出され,離島在住乳がん患者は,情緒的・手段的サポートが十分でない環境で,治療に臨んでいることが示された.先行研究では,乳がん患者は治療中の不安や抑うつが高く,家族やソーシャルサポートによる介入が有効であることが示されている(上田・雄西,2011).しかし,離島在住乳がん患者は,治療のために島外で生活しなければならず,〈身近に頼れる人がいないため,島外での生活で,負担や不自由を感じる〉状況に置かれていた.また,離島在住乳がん患者から,〈島外の病院で入院生活に関する情報が事前に提供されず,入院中に困る〉と語られ,家族のみならず,医療者からも必要な支援が得られていないことが示された.このような,支援に結びつき難い背景には,本研究の結果でも抽出されたように,離島在住乳がん患者は,検査や治療を受けるにあたり,いくつもの病院を受診しなければならないために,医療者-患者の関係が構築されにくいことが挙げられる.加えて,離島在住乳がん患者の困難な状況が,医療者に認識されていないことも考えられる.よって,離島在住乳がん患者の抱える困難感を医療者に周知し,必要な支援に繋げていく必要がある.
また,離島在住乳がん患者は,【生活の場である離島内で乳がんに関する情報を得ることが難しく,困った時に身近に頼れる場や人がいない不安】を抱いていた.特に,離島在住がん患者は,主治医と離れて生活することに不安を有している(森・神里,2016).がん治療中は,オンコロジーエマージェンシーの出現についても留意して対応する必要があるが(笠岡ら,2022),離島から通院している乳がん患者にとって,離島で異常が出現した場合,天候や体調によっては,島外へ搬送できない可能性も考えられる.また,診療所のみを有する離島では,対応が困難な場合もあるため,本研究参加者から語られたように,異常が出現した際,すぐに診察を受けられないことに対する不安は計り知れない.また,島外へ出向くことになっても,急な仕事の変更や家庭の調整,チケットの確保などをしなければならず,その負担は大きい.これらの困難を軽減するためには,医療者は,離島から受診している患者であるという視点を持って,離島の自宅に帰った時に,異常を引き起こさないように,注意深く身体的観察を行うことが重要である.また,離島内外の診療機関が連携し,離島在住乳がん患者に対して,治療の副作用や生活上の注意点に関する情報提供を行うことや,地域連携室と連携し,相談窓口を提供することも重要である.さらに,近年,へき地医療における遠隔医療システムの有効性や費用対効果についてエビデンスが確立されつつあることから(Baldwin, 2019),遠隔医療システムを取り入れた看護支援も検討していく必要がある.
3) 乳がんの治療・フォローアップが長期にわたる困難感今回,離島在住乳がん患者から【長期にわたり,治療やフォローアップのために島外の病院を受診しなければならず,負担が大きい】ことが困難感として抽出された.乳がんは,再発管理を目的として治療終了後も定期的な経過観察が推奨されており(国立がん研究センター,2024),長期的なフォローアップが求められる疾患である.本研究参加者からは,〈治療のために,長期にわたり島外の病院を受診しなければならない〉〈異常が出現した際,急遽,島外に出向く必要があり,負担が大きい〉といった語りが得られた.加えて,乳がん治療後に生じやすいリンパ浮腫などの慢性的な症状に対し,継続的な管理を目的に定期的な島外受診を行っている状況も示された.これらの結果から,限られた医療資源,情報を得にくい離島環境において,継続的な視点で離島在住乳がん患者の支援体制を構築する必要がある.
2. 研究の限界本研究において,研究参加者の多くが一県の大型離島に居住していた.このことは,研究参加者の経験や語りに影響を及ぼしている可能性がある.また,機縁法を用いてサンプリングを行った結果,社会的・経済的に比較的恵まれた属性が多く含まれており,選択バイアスが生じていると考えられる.本研究参加者からは,治療継続に伴う経済的困難が語られた.より困難な経済状況に置かれている者や,社会的支援に乏しい状況にある者においては,島外診療機関への継続的な受診自体が困難となることが懸念される.しかし,本研究には,こうした潜在的に脆弱な立場にある者の状況が十分に反映されていない可能性がある.今後は,このような立場に置かれた人々を対象とした研究を進めていくことが求められる.
離島在住乳がん患者は,島外の専門的がん診療機関への受診に対して島外に出るための諸手続きや調整,移動に係る身体・精神・経済的な困難感を有していた.また,治療に際して,家族や医療者からの支援が受けにくいことも困難感として抽出された.乳がんは,長期にわたる治療やフォローアップが必要であり,島外に長期的に出向くことに対する離島特有の困難感を抱えていた.今後は,離島在住乳がん患者の島外受診に対する継続的な支援体制を整備し,困難感の軽減に努めることが必要である.
付記:本論文の内容の一部は,19th Annual Asian American/Pacific Islander Nurses Association Conferenceにおいて発表した.
利益相反:本研究による利益相反は存在しない.
謝辞:本研究にご協力いただきました対象者,ご協力くださった施設,乳がん患者会の皆様に心より感謝申し上げます.本研究はJSPS科研費20K19064の助成を受けて実施しました.謹んで感謝申し上げます.
著者資格:MOは論文の着想から原稿作成に至るプロセスに貢献,MKは原稿への示唆,および全研究プロセスにおいて助言を行った.TG,SJは原稿への示唆および分析において助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.