Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Development of a Self-Diagnosis Scale of Medical Accident Prevention Competency for ICU Nurses With the Aim of Ensuring Patient Safety
Mika KamikokuryoNaomi FunashimaToshiko NakayamaMamiko UedaKyoko Yokoyama
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2025 Volume 45 Pages 351-361

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Abstract

目的:患者安全のための医療事故防止能力自己診断尺度―ICU看護師用―を開発する.

方法:ICU看護師の医療事故防止行動を解明した質的帰納的研究成果に基づく質問項目の作成と尺度化,項目反応理論を用いた質問項目の選定,郵送法による全国調査を行った.尺度の回収は,無記名個別投函とした.

結果:ICU看護師907名に尺度を配布し,有効回答304部を分析した.IRTを用いて15項目を選定し,完成版とした.尺度の情報量は,9.24以上,尺度全体のクロンバックα信頼性係数は,.91,主成分分析による第1成分への寄与率は,44.02%であった.既知グループ技法により4仮説が支持された.再テスト法による相関係数は,.50,確証的因子分析の結果は,CFI = 0.88,RMSEA = 0.09であった.

結論:本尺度は,妥当性のうち構造的側面に課題を残すが,複数の側面から証拠を備えており活用可能である.

Translated Abstract

Purpose: Development of a “Self-Diagnosis Scale of Medical Accident Prevention Competency for ICU Nurses” with the aim of ensuring patient safety.

Methods: Identifying ICU nurses’ medical accident prevention behavior through qualitative research, development and scaling of 29 items based on the results of qualitative research, selection of questionnaire items using item response theory, and nationwide mail survey. The scale items were collected individually by anonymous mail.

Results: A total of 907 questionnaires were distributed and 304 valid datasets were analyzed. 15 items were selected using IRT, and a final version scale was produced therefrom. The information content of the scale was more than 9.24, the Cronbach’s alpha was .91, and the contribution to the first component by principal component analysis was 44.02%. Four hypotheses were supported by the known-group technique. The correlation coefficient using the retest method was .50, and the results of the confirmatory factor analysis were CFI = 0.88 and RMSEA = 0.09.

Conclusion: Although in terms of validity, the structural aspect of this scale remains an issue, it contains evidence from multiple facets and can be utilized as a measurement tool.

Ⅰ. 緒言

集中治療室(Intensive Care Unit:ICU)は,看護単位の中でもインシデントや医療事故が発生しやすい場所とされ(厚生労働省,2007),看護師は,その当事者となる可能性が高い(Beckmann et al., 2004)ことが指摘されている.ICUに勤務する看護師(以下,ICU看護師)は,患者安全のために治療の進行や患者応対に応じて様々な医療事故防止対策を講じている(上國料・舟島,2023).その対策は,看護師の包括的な医療事故防止対策(伊藤ら,2006)とは異なる.患者安全の実現に向けては,医療事故発生にかかわる行動を直接観察し,評価することが有効とされる(Vogus & Sutcliffe, 2007)このことは,ICU看護師独自の医療事故防止能力を構成概念とする尺度を開発し,測定結果に基づき能力の程度を診断できれば,その能力の向上とともにインシデントや医療事故の減少,ひいては,ICUに入室する患者に安全な療養環境を持続的に提供できることを示唆する.

看護師の医療事故防止に関わる尺度を探索した結果,医療事故遭遇時の看護師の行動や経験を測定する尺度(Dykes et al., 2010林ら,2010佐々木・菅田,2011Burlison et al., 2017),看護師のリスク感性を測定する尺度(相撲,2018道廣,2011),医療事故防止対策に対する看護師の知覚を測定する尺度(Cross et al., 2015),看護師の医療事故防止に関する知識を測定する尺度(Hsaio et al., 2010),患者安全管理者としての役割遂行に必要な態度や特性を測定する尺度(Kai et al., 2009),看護師の医療事故防止に関わる多側面を測定する尺度(Pires et al., 2018),看護師の医療事故防止に関わる行動すなわち能力を測定する尺度(藤本ら,2012Vogus & Sutcliffe, 2007)とその翻訳版の尺度(種田ら,2009)が存在した.これらは,医療事故防止に関わる看護師の知覚,経験,知識,態度や特性,能力を測定できる尺度が複数開発されていることを示す.しかし,ICU看護師の患者安全のための医療事故防止能力を構成概念とする自己診断尺度は確認できなかった.以上に基づき,本研究は,ICU看護師の医療事故防止能力を構成概念とする自己診断尺度の開発をめざす.

Ⅱ. 目的

「ICU看護師の患者安全のための医療事故防止能力」を構成概念とする自己診断尺度を開発する.

Ⅲ. 研究デザイン

本研究は,看護教育学における測定用具の開発方法(舟島,2024)(混合研究法探索的順次デザイン)(Creswell & Plano Clark, 2018)を用い,量的研究と先行研究である質的研究(上國料・舟島,2023)との統合を行った.

Ⅳ. 用語の概念規定

1. ICU看護師の患者安全のための医療事故防止能力

ICU看護師の患者安全のための医療事故防止能力とは,ICU看護師が,患者安全のために医療事故を防止に向けて,状況に適合した行動をなしうる潜在的な力であり,患者の安全を確保するために行っている,すなわち,患者安全のために講じている医療事故防止対策の実施頻度を客観的に測定することにより,その能力の高低を判定できる.ICU看護師が高じている患者安全のための医療事故防止対策は,質的帰納的研究の成果(上國料・舟島,2023)である42種類から構成される.

2. 医療事故防止対策

医療事故防止対策とは,医療関係者の過失によって生じる医療過誤を含む「アクシデント」,「インシデント」,「ヒヤリ・ハット」を含む事例全ての発生を防止するために講じる対策であり(上國料・舟島,2023),医療事故を防止するための行動を表す.

3. 集中治療室

厚生労働省が定める特定集中治療室の施設基準を満たす施設であり,その設備により,集中治療室(ICU),脳卒中集中治療室(SCU)などの種類がある(厚生労働省,2011).

Ⅴ. 本研究の理論的枠組み

質的帰納的研究の成果を基盤とした測定用具開発研究の理論的枠組み構築の段階(舟島,2024)に基づき本研究の理論的枠組み(Gray & Grove, 2021)を構築した(図1).

図1  理論的枠組み(グレー部分は先行研究にて実施済み)

Phase 1は,開発を目ざす尺度の構成概念の構築に向けた質的研究の実施である.既にこのphaseは,先行研究「ICU看護師が講じている患者安全のための医療事故防止対策」(上國料・舟島,2023)により実施された.Phase 2は,質的研究結果に基づく尺度の開発と設計である.Phase 1の研究結果を基盤に質問項目の作成と尺度化,妥当性の内容的側面の証拠を得るために尺度検討会とパイロットスタディを実施し,尺度を構成して尺度原版を作成する.また,尺度原版の作成に先立ち,尺度仕様書(吉田,2006)を作成する.構成概念の基盤とした「ICU看護師が講じている患者安全のための医療事故防止対策」42種類は,個々に異なり,種類間の関係や構造を見出せない.そのため,下位領域を想定せず1次元性の尺度構成とする.Phase 3は,量的データの収集と分析である.尺度原版を用いて調査を実施し,量的データを収集する.また,構成概念を適切に測定する質問項目の選定に向けて項目反応理論(Item Response Theory:以下,IRT)を適用し,段階反応モデル(村木,2011)を用いて尺度情報量,各質問項目の識別の程度,困難の程度を検討する.さらに,選択した質問項目を用いて尺度を再構成して尺度完成版を作成し,尺度完成版の信頼性と妥当性を検証する.本研究は,以上のうち,phase 2と3を実施する.この過程を経て完成した尺度は,ICU看護師の医療事故防止能力の測定と測定結果に基づく医療事故防止能力向上のための課題の把握を可能にする.ICU看護師の医療事故防止能力の向上は,集中治療を受けている患者への安全な療養環境の持続的提供への貢献が期待される.

Ⅵ. 研究方法

1. 研究対象者

全国の病院にあるICUに勤務する看護師とした.

2. 尺度原版の作成

ICU看護師の患者安全のための医療事故防止能力(以下,ICU看護師の医療事故防止能力)を問う尺度は,次のように作成した.

1) 質問項目の作成と尺度化およびレイアウト

第1に,質的帰納的研究の成果である「ICU看護師が講じている患者安全のための医療事故防止対策」42種類(上國料・舟島,2023)を基盤とし,能力の性質の類似性や回答のしやすさを検討していくつかの対策を統合し,ICU看護師の医療事故防止能力を問う29質問項目を作成した.29質問項目とした理由は,次のとおりである.基盤とした質的帰納的研究に用いた内容分析(舟島,2024)は,意味内容の類似性に基づく分類とその類似性を表す表現への置き換えを分離・統合できなくなるまで反復する.このことは,42種類が表す医療事故防止対策が個々に異なり,これ以上分離・統合できないことを示す.そのため,原則として医療事故防止対策1種類から1質問項目を作成した.

質的研究により明らかにされたカテゴリを合わせて質問項目を作成した方が測定したいものをより測定できると判断した場合,いくつかを統合して1質問項目を作成することもある(舟島,2024).42種類の対策は,ICU看護師が講じている医療事故防止対策を行動として具体的に記述することを目的とする研究の成果である.一方,開発を目指す尺度の構成概念は,ICU看護師の医療事故防止能力である.そのため,42種類の対策の中には,そのまま構成概念を測定する質問項目にならないものもあった.能力は,技能,知識,判断力を基盤とする規則体系に則り,かつ状況に適合した行動としてその存在を確認できる(Reboul, 1980/1984).そこで,教育内容を活用する「能力」に焦点を当てた教育目標分類学(Bloom, 1965/1973)に基づき,知識や法則を新しい状況で使用する「応用」レベル,価値体系を組織化する「価値の組織化」レベル以上の能力の発揮という観点から,42種類が表す医療事故防止対策のいくつかを統合して1質問項目としたものもあった.状況への適合を要しない原則的な対策からは質問項目を作成しなかった,

第2に,文献(舟島,2024)を参考に,尺度タイプをリカート法,選択肢数を5段階とした.5点から1点を配し,得点の高さが医療事故防止能力の高さを示すようにした.選択肢は,「完全にできている(5点)」,「大体できている(4点)」,「まあまあできている(3点)」,「少しできている(2点)」,「あまりできていない(1点)」とした.

第3に,ICU看護師の医療事故防止能力を問う29質問項目を,回答者が回答しやすいように配置した.以上の検討をとおして29質問項目からなる尺度原版を作成した.

特性を問う項目は,文献検討に基づき作成し,臨床経験年数,ICU看護師経験年数,勤務するICUの種類,医療事故防止に関する学習方法などとした.

2) 尺度の検討会とパイロットスタディによる内容的側面からの妥当性の検証

(1) 尺度の検討会

勤務するICUの種類,ICU看護師経験年数などの異なる看護師4名により,特性を問う項目を含む全項目の内容の妥当性,表現の明確性,質問の順序,回答のしやすさ,追加すべき項目の有無を検討した.質問がわかりにくいという指摘のあった2質問項目,回答を選択しにくいと指摘のあった特性を問う2質問項目を修正した.

(2) パイロットスタディ

尺度原版を用い,便宜的に抽出したICU看護師70名を対象にパイロットスタディを行った.返送のあった28名(回収率40.0%)は,全質問項目に回答していた.28名の勤務するICUの種類,ICU経験年数などは多様であった.特定の選択肢に回答が偏った項目は1項目であり,選択肢が適切に設定され識別力も備えていることを確認した.そこで,この尺度原版を調査に用いた.実施期間は,2021年11月から12月であった.

3. データ収集

1) 調査1

郵送法による1次調査を行った.各地方厚生局のホームページより2021年8月時点の医療機関名簿をもとに全国の病院から208施設を抽出し(単純無作為抽出法),看護管理責任者に往復葉書を送付して研究協力を依頼した.承諾の得られた82施設の看護管理責任者に,対象者への依頼状と調査票,返信用封筒を送付し,配布を依頼した.配布方法は,看護管理責任者に一任した.依頼状には,研究の目的,意義,倫理的配慮を明記し協力を依頼した.調査票の返送は,無記名個別投函とした.調査期間は,2022年1月6日から2月4日であった.

2) 調査2

安定性の検証を目的に,調査1と同じ尺度を用い郵送法による調査2を行った.同じ尺度に2回の回答を求める調査への協力に承諾の得られた38施設の看護管理責任者に調査1と同様の方法を用いて依頼した.対象者には,2回の回答の間を2週間程度空けるよう依頼した.また,同一回答者であることを確認できるよう,回答時に任意の数字とアルファベットの組み合わせを記載するよう求めた.調査票の回収は,1次調査と同様の方法を用いた.調査期間は,2022年2月18日から3月6日であった.

4. 分析方法

1) 質問項目の選択

ICU看護師の医療事故防止能力を適切に測定するための質問項目は,次のように選択した.第1に,尺度原案への回答に5段階の選択肢すべてが用いられていることを確認するために,1次調査の結果に基づき,各質問項目の得点分布を確認した.第2に,21質問項目からなる尺度がIRT段階反応モデル適用の前提条件である1次元性を有していることを確認するために,ポリコック相関係数行列による固有値の算出およびスクリープロットの描画を行った.第3に,医療事故防止能力向上が期待される,あるいは,その必要性の高い対象者の能力を効率的に測定できるように,対象者の能力を表す潜在特性値θの範囲を–1 ≦ θ ≦ 1と設定した.また,次の要件を設定し,21質問項目からなる尺度の充足状況を確認して再構成した.①各質問項目の識別力が高い.すなわち,–1 ≦ θ ≦ 1において各項目特性曲線が独立かつ山形である.②困難度が高い.すなわち,–1 ≦ θ ≦ 1において「5点」の選択される確率が50%未満である.すなわち,カテゴリ5の項目特性曲線が50%になるときのθが2を超える.これら①②の確認には,IRTを適用し段階反応モデルを用いて潜在特性値の算出,項目特性曲線およびテスト情報曲線の描画,尺度情報量の算出を行った.また,尺度の段階反応モデルへの適合度を確認するために,OutFit・InFitを算出した.分析には,Easy Estimation Ver.2.1.8(熊谷,2023)を用いた.

さらに,選択された質問項目が構成概念の内容領域を網羅するよう,質問項目の内容に偏りがないことを共同研究者と確認した.

2) 尺度完成版の信頼性と妥当性の検討

尺度の信頼性は,クロンバックα信頼性係数(以下,α係数)の算出により内的整合性の側面から検討した.また,調査2に参加した対象者の2回の総得点の相関係数を算出し安定性の側面から検討した.

妥当性は,Messickが提唱する妥当性の4側面(Messick, 1995)の証拠を蓄積し,検討した.内容的側面からの証拠は,尺度の検討会とパイロットスタディ,本質的側面からの証拠は,項目分析による質問項目の適切性検討,構造的側面からの証拠は,主成分分析,確証的因子分析(最尤法),I-T(項目-全体)相関分析,各質問項目を除外した場合のα係数の算出を用いて検討した.また,外的側面からの証拠は,既知グループ技法を用い,先行研究(日本看護協会,2013谷野ら,2017中山ら,2019Eltaybani et al., 2019)に基づき次の4仮説を設定し,検討した.仮説1は,「看護実践能力の高い看護師群は,それが低い看護師群よりも尺度総得点が高い」,仮説2は,「集中治療に携わる看護実践能力の高い看護師群は,それが低い看護師群よりも尺度総得点が高い」,仮説3は,「起こしてしまった事故を上司に報告する看護師群は,報告しない看護師群よりも尺度総得点が高い」,仮説4は,「チームワークが良いと感じている看護師群は,そうでない看護師群よりも尺度総得点が高い」である.分析には,Mann-WhitneyのU検定を用い,有意水準は5%とした.

対象者の特性を問う質問項目への回答は,記述統計量を算出した.

これらの分析には,統計解析ソフトIBM SPSS Statistics ver.29を用いた.確証的因子分析には,IBM SPSS AMOS ver.24を用いた.

3) 完成版尺度の構造の確認

完成した尺度の構造を確認するために,主成分分析による固有値の算出,対象者の特性および尺度の得点分布を把握するために,記述統計量(度数,百分率,中央値,範囲,平均値,標準偏差)の算出,項目分析による質問項目の適切性検討のために,I-T(項目-全体)相関分析,総得点のα係数の算出,各項目を除外した場合のα係数の変化の確認を行った.これらの分析には,統計解析ソフトIBM SPSS Statistics ver.29を用いた.

5. 倫理的配慮

日本看護教育学学会倫理指針(日本看護教育学学会,2022)に基づき,また,新潟県立看護大学倫理委員会の承認(承認番号021-6)を受けて実施した.

Ⅶ. 結果

研究協力を承諾した208施設の看護管理責任者からICU看護師907名に調査票を配布した.1次調査の回収数は353部(回収率38.92%)であった.尺度の全質問項目に回答のあった304部を1次調査の分析対象とした.

1. 1次調査の対象者の特性

1次調査の対象となったICU看護師304名のICU経験年数は,平均6.66年(SD = 5.2)年であった.勤務するICUの種類は,集中治療室が255名(83.88%),PICU(小児ICU)が10名(3.29%),CCU(心臓血管疾患ICU)が6名(1.97%)など,医療安全に関する委員会や係を担った経験のある者が134名(44.08%),ない者が169名(55.59%)など多様であった(表1).

表1 対象者の特性

n = 304

項目 n 範囲 平均値 標準偏差
看護師経験年数 304 1~41 14.29 8.51
ICU看護師経験年数 304 0~32  6.66 5.15
病院の所在地 n %
北海道 19 6.25
東北 19 6.25
東京 17 5.59
関東・甲信越 55 18.09
東海・北陸 59 19.41
近畿 70 23.03
中国・四国 27 8.88
九州・沖縄 36 11.84
無回答 2 0.66
所属部署の種類
ICU 255 83.88
CCU(心臓血管疾患ICU) 6 1.97
SICU(外科系ICU) 4 1.32
SCU(脳卒中ICU) 2 0.66
NICU(新生児ICU) 7 2.30
PICU(小児ICU) 10 3.29
その他 5 1.64
無回答 15 4.93
性別
女性 253 83.22
男性 49 16.12
無回答 2 0.66
年齢
20歳代 84 27.63
30歳代 105 34.54
40歳代 86 28.29
50歳代 26 8.55
60歳以上 2 0.66
無回答 1 0.33
卒業した看護基礎教育機関
大学 69 22.70
短大3年課程 17 5.59
短大2年課程 3 0.99
専門3年課程 181 59.54
専門2年課程 34 11.51
医療安全に関する委員や係の経験
ある 134 44.08
ない 169 55.59
無回答 1 0.33

2. 質問項目の選択

尺度原版の得点分布を算出した.29質問項目のうち,21質問項目は,5段階ある選択肢すべてが回答に用いられていた.一方,8質問項目は,2もしくは3から5が回答に用いられていた.これは,この8質問項目が問う能力を多くのICU看護師がすでに獲得している可能性が高いことを示唆する.そのため,これらを削除し,21質問項目とした.次に,21質問項目からなる尺度の固有値とスクリープロットを算出した.固有値は,9.98,1.26,1.13と推移した.スクリープロットは,第1固有値と第2固有値の差が大きく第2固有値以降の傾斜がなだらかであった.ポリコック相関係数の値は,.21から .76の範囲であった.項目特性曲線は,左から右に単調増加していた.そのため,21質問項目からなる尺度が1次元性を充足していると判断した.21質問項目からなる尺度の段階反応モデルへの適合度は,OutFit0.93から1.44,InFit0.93から1.02,–1 ≦ θ ≦ 1の尺度情報量は,12.25から15.30の範囲にあった.これらの結果を前提に,続く分析を行った.1次調査の対象となったICU看護師304名の潜在特性値θの分布は,–1 ≦ θ ≦ 1の範囲に257名(84.5%)が位置づいた.潜在特性値θは,平均値 0,標準偏差1の標準正規分布を仮定し,この範囲に高い測定精度を備えた尺度は,多くのICU看護師が活用できる可能性が高い.そこで,尺度使用者の潜在特性値を–1 ≦ θ ≦ 1に設定した.設定した基準①②に基づき合計15質問項目を選定し(表2),尺度完成版とした.また,「患者安全のための医療事故防止能力自己診断尺度―ICU看護師用―」と命名した.

表2 尺度原版の質問項目・項目平均値・基準の充足状況

質問項目 平均値 基準① 基準②

〇:充足

×:未充足

〇:充足

×:未充足

問1 指差しや呼称,ダブルチェック,復唱,チェックリストの活用など,状況に適した確認手段を用いる 3.9 ×
問2 治療や検査などの実施に先立ち医師からの指示内容を点検するとともに,進行中も適宜点検する 3.8
問3 問題状況を見逃さないよう始業に先立ち様々な情報を照合して現状把握に努めるとともに終業に先立ち最終点検する 3.7
問4 指示内容,患者の病態,医療機器などへの理解や看護技術に確信がもてるまで確認行動を継続する 3.8
問5 適任者への質問や相談,自己学習を通して疑念を確信に変えてから実行に踏み切る 3.6
問6 他看護師の困難直面や業務失念に伴う事故発生回避に向けて必要な支援を行う 3.4 ×
問7 業務を失念しないようメモやタイマー,目印など状況に応じて必要な対策を講じる 4.0 ×
問8 単独実施や自己判断,業務過剰に伴う事故発生回避に向けて適任者に助力を求め慎重に業務を進める 3.9
問9 あらゆる機会と方法を利用して患者に留置されているチューブ類の状態を点検し問題があれば即刻対処する 4.1
問10 患者に必要最小限の抑制を確実に行うとともに抑制状態を定期的に点検する 3.9 ×
問11 患者の状態変化を見逃さないよう継続的に観察し,予測された患者の異常を医師に報告する 4.0
問12 異常の早期発見のために生体情報モニタアラームの作動原因を即刻追究する 4.0
問13 患者・家族から医療事故防止に向けて必要な情報を意図的に聴取する 3.5
問14 患者に予測される危険行動の高低に基づきベッドの位置や柵の設定,訪室の頻度を決定する 3.9
問15 事故抜去を防止するためにチューブ類を把持するなど細心の対策を講じて体位交換を行う 4.2
問16 医療関連機器圧迫創傷防止に向けて除圧や皮膚保護に必要な患者個別の対策を講じる 3.9
問17 面会者への患者情報漏洩防止に向けてベッドサイドの記録物の向きや置き場所に配慮する 3.6
問18 適切なアセスメントツールを使用して患者の鎮静やせん妄状態を客観的に把握した結果に基づき看護計画を立案,修正する 3.5
問19 せん妄など認知機能障害の出現予測に基づき常に患者のICU退室可能性を評価する 3.3 ×
問20 過去の事故事例の閲読や再発防止対策検討の機会を積極的に設ける 3.2
問21 同一業務に関わるスタッフ個々が全員の行動を共有できるようにタイミングを見計らって自らの行動を周囲に伝える 3.4
問22 指示の誤りや適切性を点検し,必要に応じて医師に再検討を求める 3.5
問23 口頭指示をカルテに入力するよう機を逃さず医師に要請して確実な指示を得る 3.3 ×
問24 医師からの口頭指示に対して,指示内容を記録に記載するなど適切に対処する 4.0
問25 看護記録に事実を正確かつ詳細に記載する 3.9
問26 患者の急変や通常と異なる事態の発生可能性を常に想定し救急カートや環境を整備する 4.1
問27 患者の急変対応の想定や訓練を通して,緊急事態に適切に対処できる能力向上に努める 3.7
問28 業務の進行や確認の手順など,自ら立てた安全確保のための規範に則り行動する 3.8
問29 医療安全に関わるルールやマニュアルに従い行動するとともに,状況に応じて応用する 3.8

注)基準①:–1 < θ < 1において各質問項目の項目特性曲線が独立かつ山形である.

  基準②:–1 < θ < 1において「5点」の選択される確率が50%未満である.

  ※項目反応理論の分析対象外の質問項目,網掛けは,除外された質問項目を示す.

3. 尺度完成版の得点分布

15質問項目からなる尺度完成版の総得点は27点から74点の範囲にあり,平均55.52点(SD = 7.78)であった.正規性の検定結果は,尺度総得点が正規分布に従うとはいえないことを示した(Z = .08, p < .001).各質問項目の得点の平均は,3.23点から4.02点の範囲にあり,その平均は,3.70(SD = 0.57)点であった.

4. 尺度完成版の信頼性・妥当性

1) 信頼性

15質問項目からなる尺度完成版のα係数は,.91であった.再テスト法の対象者は,病院36施設に就業するICU看護師392名であり,このうち2回の調査ともに回答のあった62名の2回の総得点間の相関係数は,rs = .50(p < .001)であった.対象者に2回の調査の間,異動など医療事故防止能力の質に影響を及ぼすような特性の変化が生じていないことを確認した.–1 ≦ θ ≦ 1の尺度情報量は,9.24から11.88の範囲にあった.

2) 妥当性

1次元性の確認に向け,主成分分析を行った.固有値の減衰状況は,7.58,1.09,0.99であり,第1因子から第2因子にかけて大きく値が減少した.得られたスクリープロットは,第1因子から第2因子にかけて大きく落ちこみ,以降なだらかに低下した.また,第1成分への寄与率は44.02%,第2主成分への負荷量は7.45%であった.第1主成分への負荷量は0.59から0.74の範囲にあり,15項目全てが第1主成分に最も高い負荷量を示した.また,IT(項目-全体)相関は,.60から .70の範囲にあった.項目間の相関係数は,.30から .66の範囲にあり,平均値は .40であった.全15質問項目が構成する尺度全体のクロンバックα信頼性係数(以下,α係数)は,.91であり,各質問項目を除外した場合のα係数はすべてこれを下回った(表3).さらに,確証的因子分析(最尤法)を行った.結果は,CFI = 0.88,RMSEA = 0.09であった.

表3 「ICU看護師の医療事故防止能力自己診断尺度―ICU看護師用―」の因子負荷量・I-T相関係数・各質問項目を除外した場合のα係数

質問項目 負荷量 I-T
相関係数
各質問項目を除外した場合のα係数
1 治療や検査などの実施に先立ち医師からの指示内容を点検するとともに,進行中も適宜点検する .59 .50 .90
2 指示内容,患者の病態,医療機器などへの理解や看護技術に確信がもてるまで確認行動を継続する .70 .67 .90
3 適任者への質問や相談,自己学習を通して疑念を確信に変えてから実行に踏み切る .68 .65 .90
4 患者・家族から医療事故防止に向けて必要な情報を意図的に聴取する .66 .66 .90
5 患者に予測される危険行動の高低に基づきベッドの位置や柵の設定,訪室の頻度を決定する .62 .60 .90
6 医療関連機器圧迫創傷防止に向けて除圧や皮膚保護に必要な患者個別の対策を講じる .68 .62 .90
7 面会者への患者情報漏洩防止に向けてベッドサイドの記録物の向きや置き場所に配慮する .59 .62 .90
8 適切なアセスメントツールを使用して患者の鎮静やせん妄状態を客観的に把握した結果に基づき看護計画を立案,修正する .73 .70 .90
9 過去の事故事例の閲読や再発防止対策検討の機会を積極的に設ける .65 .67 .90
10 同一業務に関わるスタッフ個々が全員の行動を共有できるようにタイミングを見計らって自らの行動を周囲に伝える .61 .66 .90
11 指示の誤りや適切性を点検し,必要に応じて医師に再検討を求める .72 .70 .90
12 医師からの口頭指示に対して,指示内容を記録に記載するなど適切に対処する .67 .63 .90
13 看護記録に事実を正確かつ詳細に記載する .64 .60 .90
14 患者の急変対応の想定や訓練を通して,緊急事態に適切に対処できる能力向上に努める .64 .63 .90
15 医療安全に関わるルールやマニュアルに従い行動するとともに,状況に応じて応用する .74 .69 .90
固有値 6.60
寄与率(%) 44.03

外的側面の検討に向け,仮説ごとに対象者を2群に分け(表4),既知グループ技法を用いて4仮説の検証を試みた.結果は,次のとおりであった.仮説①看護実践能力の高い看護師群は,それが低い看護師群よりも医療事故防止能力が高い(U = 4,025.0, p < .001),②集中治療に携わる看護実践能力の高い看護師群は,それが低い看護師群よりも医療事故防止能力が高い(U = 12,285.0, p < .001),③起こしてしまった事故を上司に報告する看護師群は,報告しない看護師群よりも医療事故防止能力が高い(U = 856.5, p = .009),④チームワークが良いと感じている看護師群は,そうでない看護師群よりも医療事故防止能力が高い(U = 1,649.5, p < .001).

表4 各群の「ICU看護師の医療事故防止能力自己診断尺度―ICU看護師用―」得点の比較

質問項目 n 平均値 標準偏差 中央値 四分位範囲 p
看護実践能力の高い群 61 58.90 6.52 59.00 55.00~63.00 < .001
看護実践能力の低い群 87 51.56 8.66 52.00 47.50~58.00
集中治療に携わる看護実践能力の高い群 209 56.72 7.24 57.00 48.00~59.00 < .001
集中治療に携わる看護実践能力の低い群 95 53.37 8.49 53.00 48.00~59.00
事故を上司に報告する群 292 55.69 7.71 56.50 51.00~60.75 .009
事故を上司に報告しない群 11 49.91 7.13 51.00 49.00~55.00
チームワークが良いと感じている群 67 58.63 7.63 58.00 54.00~65.00 < .001
チームワークが良いと感じていない群 33 50.94 9.01 52.00 44.50~57.50

注)Mann-WhitneyのU検定.

Ⅷ. 考察

1. データの適切性

本研究の対象者は,全国の病院に勤務するICU看護師であり,得られたデータは,検証に用いることのできる代表性のあるものである.すなわち,検証に用いることのできる適切なデータであることを示す.

2. 「患者安全のための医療事故防止能力自己診断尺度―ICU看護師用―」の信頼性および妥当性

1) 信頼性

本尺度15質問項目のα係数は,.90であり,内的整合性の判断基準とされる値0.70(Polit & Beck, 2021)を上回った.これは,本尺度が内的整合性による信頼性を備えていることを示す.

また,再テスト法による相関係数は,rs = 0.50(p < .001)であった.これは,安定性判断の基準とされる値0.70(Polit & Beck, 2021)を下回ったものの,尺度完成版が中程度の相関関係を認めることを示す.さらに,尺度完成版の–1 ≦ θ ≦ 1の尺度情報量は9.24から11.88の範囲にあった.これは,測定精度の基準である情報量9(浦上・脇田,2016)を充足していることを示す.加えて,21質問項目からなる尺度のα係数は .93,–1 ≦ θ ≦ 1の尺度情報量は,12.25から15.30の範囲にあった.これらは,本尺度が,21質問項目からなる尺度よりも項目数を71.43%縮小してもα係数が内的整合性の判断基準とされる値0.70(Polit & Beck, 2021)を上回り,かつ,尺度情報量を75.42%から77.64%有していることを示し,15質問項目からなる本尺度が高い信頼性と測定精度を維持していることを支持する.

以上,多側面から多くの証拠を蓄積し検討した結果は,総じて本尺度の信頼性が高いことを示す.

2) 妥当性

尺度の検討会とパイロットスタディにより,質問項目の検討と修正を行った.また,項目が妥当であり,医療事故防止能力を包含していることを確認した.さらに,15質問項目は,「ICU看護師が講じている患者安全のための医療事故防止対策」を網羅する42(上國料・舟島,2023)を基盤に作成されている.これは,本尺度が構成概念の内容領域を十分に代表していることを意味し,本尺度が内容的側面からの証拠(吉田,2006Messick, 1995)を備えていることを示す.I-T(項目-全体)相関分析の結果は,除外対象の基準 .30 もしくは .40以下(河口,1997)を上回り,尺度の一貫性を損なう項目は存在しないことを示した.各項目を除外した場合のα係数が尺度全体のα係数下回り,除外対象となる項目は存在しないことも示した.これらは,尺度の質問項目が適切であることを意味し,本尺度が本質的側面からの証拠(吉田,2006Messick, 1995)を備えていることを示す.

主成分分析の結果は,15質問項目の第1成分への負荷量が0.30(小田,2007)を上回っていることを示した.一方,確証的因子分析の結果は,CFI = 0.88,RMSEA = 0.09であった.確証的因子分析は,想定した因子構造に対する観測データの適合度を判断するために用いる.一般的に,CFIは0.90以上が許容範囲,RMSEAは0.08までが許容範囲,0.10以上だと想定した因子構造へのあてはまりが良くないと判断される(中山,2018).本研究の結果は,CFI,RMSEAともに想定した因子構造へのあてはまりが「良い」とは言えないが許容できる水準にあることを示した.本研究は,「研究方法」の項に述べたとおり,1次元構造を想定している.これらの結果は,総じて尺度構造の想定を支持し,本尺度が構造的側面からの証拠(吉田,2006Messick, 1995)を備えていることを示す.

既知グループ技法の結果は,4つの仮説を支持した.これは,本尺度が既知の特性に基づき差の生じることが予測されるグループを区別できる(Goodwin & Leech, 2003)ことを意味する.このことは,本尺度が外的側面からの証拠(吉田,2006Messick, 1995)を備えていることを示す.

以上,多側面から多くの証拠を蓄積し検討した結果は,総じて本尺度の妥当性が高いことを示す.

3. 「患者安全のための医療事故防止能力自己診断尺度―ICU看護師用―」の活用可能性

次の活用が考えられる.ICU看護師は,本尺度を用いて医療事故を防止する能力を診断することをとおして自身の医療事故防止能力の現状を客観的に把握できる.尺度の総得点は医療事故を防止する能力の程度,尺度の各質問項目の得点は患者安全のための当該対策の実施頻度を示す.ICU看護師は,医療事故防止に対して何となくうまくいっていないと感じたとき,本尺度に回答する.その総得点を,15質問項目からなる尺度完成版の総得点の平均55.52点(SD = 7.78)と比較することにより自身の医療事故防止能力の高低を診断できる.また,各質問項目の得点を表2に示した各質問項目の平均点と比較することによりどのような対策に課題があるのかを診断できる.このような現状の把握は,看護職者が自己の看護活動を改善していくために不可欠である.また,患者安全の実現に向けては,医療事故発生にかかわる行動を直接観察し,評価することが有効である(Vogus & Sutcliffe, 2007).このことは,本尺度を用いた能力の自己診断が,ICU看護師個々の医療事故防止能力の向上とともに,患者安全の実現を期待できることを意味する.

院内教育担当者は,組織に所属するICU看護師の測定結果に基づきICU看護師の医療事故防止能力に応じた教育内容を決定したり,教育の成果を測定したりすることに活用できる.

4. 研究の限界と課題

ポリコック相関係数行列による固有値の算出およびスクリープロットの描画,主成分分析の結果は,尺度の1次元性を支持した一方,確証的因子分析の結果は,想定する構造への適合度の基準を十分に充たさなかった.適合度の基準は,経験的基準であり,基準を満たすことに過度にこだわることは望ましくない(豊田,2007)ともされる.今後も構造的側面の証拠の集積を継続し,妥当性の証拠を積み重ねて妥当性を高めることは課題である.

謝辞:本研究にご協力くださいましたICU看護師の皆様に心より感謝申し上げます.本研究は,JSPS科研費19H03923の助成を受け実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:すべての著者は,研究の全過程に十分参加している.特に貢献した部分は次のとおりである.KMは,データ収集および分析,原稿の作成.NT,UM,YKは,データ収集および分析方法の検討,FNは,研究の着想およびデザイン,研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
© 2025 Japan Academy of Nursing Science
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