Journal of Japan Academy of Nursing Science
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The Impacts on Nursing Tasks of Delegating Medical Practice From Medical Doctors to Nurses in Advanced Acute Care Hospitals as Perceived by Nursing Managers
Kaya HiguchiHirofumi Takagi
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2025 Volume 45 Pages 592-602

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Abstract

目的:高度急性期病院における医師から看護師への相対的医行為の委譲による看護業務への影響を明らかにする.

方法:看護管理者16人に半構造化面接を行い,質的記述的に分析した.

結果:9サブカテゴリ,4カテゴリを抽出した.医師からの相対的医行為の委譲により,【自律性の向上】,【実践能力の向上】,そして,【提供できる看護サービスの向上】および【必要な看護サービス提供への支障】という変化が生じていた.

結論:医師からの相対的医行為の委譲により,看護師が専門性を発揮できる機会が増える一方,専門性の発揮のために必要な,療養上の世話等が十分にできなくなるという影響も生じていた.医師から看護師へのタスク・シフト/シェアを推進する政策を看護の専門性の発揮に資するものとするためには,看護師が療養上の世話を十分に行える環境を整えることが必要である.

Translated Abstract

Objective: The purpose of this study was to identify the impacts on nursing tasks of delegating medical practice from medical doctors to nurses in advanced acute care hospitals.

Method: Data were generated through semi-structured formal interviews with 16 nursing managers.

Results: From the results of the text interpretation, nine subcategories, and four categories were extracted, including the following: 1) Improvement in autonomy; 2) Improvement in practice skills; 3) Improvement in the nursing services that can be provided; and 4) Obstacles to providing necessary nursing services.

Conclusion: As delegating medical practice from medical doctors to nurses has been promoted, nurses have had more opportunities to demonstrate their expertise; however, they have been unable to adequately assist with patients’ activities of daily life, which is necessary for them to demonstrate their expertise. In order to make policies that promote task shifting and sharing from medical doctors to nurses conducive to the exercise of nursing expertise, it is necessary to create an environment in which nurses can adequately assist with patients’ activities of daily life.

Ⅰ. 緒言

人口減少社会に入っている日本では,医療提供体制の効率化を図るため,医師や看護師の職能範囲の見直しが行われている.これは,2018年に成立した働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律において,医師をも対象とした時間外労働の上限規制の導入が定められたこと等を契機に,急速に進められるようになっている.医師の労働時間短縮の方策の1つとして推進されているのが,医師から看護師へのタスク・シフト/シェア(厚生労働省,2020),すなわち医師から看護師への相対的医行為の委譲である.タスク・シフト/シェアという概念は,主にアフリカにおけるHIVの蔓延と,それに伴う医療従事者不足への対応が喫緊の課題となっていたことを背景に,世界保健機関(World Health Organization: WHO)が提唱したタスク・シフティングに由来している(WHO, 2008).

日本においてタスク・シフト/シェアという語が用いられ,医師から看護師への相対的医行為の委譲が推進されるようになったのは2010年代後半からである.しかし,同様のことは以前から行われており,その代表的なものが,2002年の看護職者の静脈注射の実施に関する行政解釈の変更,2015年から開始となった特定行為に係る看護師の研修(以下,特定行為研修)制度である.2007年と2020年には,医師から看護師への委譲を推進する相対的医行為について,厚生労働省から具体的内容が示されている(厚生労働省,2007, 2020).それは静脈採血,静脈路確保・抜去及び止血,膀胱留置カテーテル挿入等である.

看護師が実施可能な相対的医行為の増加は,「患者の最も身近な存在である看護師の主業務がいま以上に減り,安楽性のケアが損なわれる(川嶋,2015)」といった懸念が示されている.なかでも,高度急性期・急性期医療を提供する現場は,従来から「医療の高度化,患者の重症化と高齢化,病態の複雑化,さらに患者の入退院の高速化とが相まって危機的な状況(日本看護協会,2011)」であり,近年は医療機関の機能分化が求められる中で,診療密度がさらに上昇している.急性期医療を提供する1病院における看護業務量調査を行った三谷・五味(2024)は,業務量に占める割合が最も高かったのは診療の補助であり,2008年と比較して,その割合が最も増加しているのも診療の補助であったことを報告している.看護師が診療の補助としてどのような業務を行い,医師から看護師にどのような相対的医行為が委譲されているのかについては大規模な調査(永井ら,2023)等が行われているが,高度急性期・急性期医療を提供する現場に限られる実態は十分に明らかになっていない.

医師から看護師への相対的医行為の委譲についての検討に際しては,相対的医行為のみに焦点をあてるのではなく,療養上の世話との関係(平林,2017)や,看護師が相対的医行為を実施することにより看護業務全体がどのように変化するのかといった視点から,議論を行う必要性が指摘されている(井上,2011).近年の医師からの相対的医行為の委譲をめぐっては,特定行為研修に焦点をあてた調査が複数行われているが,それらの対象は特定行為研修を修了した看護師であり,かつ,特定行為そのものに焦点があてられている(里光・村上,2019川谷ら,2024).

以上のように,医師から看護師への相対的医行為の委譲が進められることにより,看護師が実施可能な相対的医行為が新たに増加し,看護業務に何らかの影響が生じる可能性があるが,その実態は部分的にしか明らかになっていない.そこで,本研究では,高度急性期病院における医師から看護師への相対的医行為の委譲による看護業務への影響を明らかにすることを目的とする.得られた知見は,医師から看護師へのタスク・シフト/シェアを推進する政策を,看護の専門性の発揮に資するものとする方策を検討するための一資料になると考える.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン

医師から看護師への相対的医行為の委譲による看護業務への影響を,研究参加者の経験に基づいた語りから明らかにするために,質的記述的デザインを用いた.

2. 用語の定義

1) 看護業務

「看護業務基準(2021年改訂版)(日本看護協会,2021a)」において,看護業務とは,「看護の提供者が主体で,『何を』『どのように』すべきかを提示することをいい,『看護実践』とは,看護職が対象に働きかける行為であり,看護業務の主要な部分を成すもの」と説明されている.これを踏まえ,本研究では,看護業務を「看護師が対象に働きかける行為,ならびに,その実施に関連・付随して生じる実務」とする.

2) 相対的医行為

看護師が診療の補助として行う医行為.「診療の補助であって,看護師が手順書により行う場合には,実践的な理解力,思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能が特に必要とされるもの(厚生労働省,2024)」である特定行為も含む.

3) 委譲

WHOはタスク・シフティングについて,“Task shifting involves the rational redistribution of tasks among health workforce teams. Specific tasks are moved, where appropriate, from highly qualified health workers to health workers with shorter training and fewer qualifications in order to make more efficient use of the available human resources for health (WHO, 2008)”と説明している.これを踏まえ,本研究では,委譲を「相対的に専門性が高く,教育期間が長く,職務権限が広い医療従事者が,他の従事者に特定の業務の実施を任せること」とする.なお,この特定の業務の実施および指示の権限は,任せた側に残る.相対的医行為は診療の補助であるため,医師から看護師に委譲されても,実施に際しては医師の指示が必要である.

4) 高度急性期病院

医療法施行規則で定義される,高度急性期機能を担う病棟を有する病院.

3. 研究協力施設と研究参加者

便宜的サンプリングを用いて選出した.

1) 研究協力施設

高度急性期病院とし,令和2年度病床機能報告の報告結果(厚生労働省,n.d.)に掲載されている施設から選出した.研究者の交通アクセスを考慮し,まず近畿圏内の施設に研究依頼を行った.研究参加者が目標数に達しなかったため,近畿圏内以外の施設にも依頼を行った.その際は,研究者がアクセスしやすい施設から依頼を行った.

2) 研究参加者

高度急性期病院において,①主任あるいは師長の職位にある看護管理者で,②医師から看護師への相対的医行為の委譲をその前後も含めて経験している者とした.本研究では,医師から看護師への相対的医行為の委譲により,看護業務にどのような影響が生じたのかを具体的に語ってもらう必要があるため,①および②の要件を設けた.

4. データ収集方法

データ収集期間は2022年9月~2023年3月で,COVID-19の流行状況を考慮し,ビデオ会議ツール(zoom)を用いて半構造化面接を行った.

面接では,①医師から看護師に委譲された相対的医行為は何か,②その相対的医行為の委譲により看護業務にどのような影響があったのか等について,質問を行った.本研究では,医師から看護師への相対的医行為の委譲による看護業務への影響について探索することを目指しているため,研究参加者が看護師として働き始めてから現在までの経験に基づいて幅広く語ってもらった.したがって,研究参加者の語りには,a)スタッフとして働いていた時の経験,b)看護管理者として見聞きした内容等が含まれていた.

5. 分析方法

得られたデータは,質的記述的に分析した.インタビューデータを逐語録にした後,医師から看護師への相対的医行為の委譲による看護業務への影響について,研究参加者の語りを切片化し,意味のあるまとまりごとにコードを付与した.次に,コードの相違点や共通点を比較することにより分類し,サブカテゴリ,カテゴリへと抽象度を上げ,各段階でネーミングを行った.質的研究が科学であるためには,記述的に現象を説明するだけではなく,その現象に関係する概念間の関連を示したモデルを構築する必要がある(髙木,20112022)ため,カテゴリ間の関連性を検討し,構造モデルを作成した.

分析結果の信憑性を高めるため,研究プロセスの明確な記載,およびテクスト解釈のプロセスの適切な開示を行い(髙木,2011),分析の全プロセスにおいて,質的研究方法論に精通し,質的研究の経験が豊富な研究者によるスーパーバイズを受けた.分析結果の信憑性を高める手法とされるメンバーチェッキングは,質的研究全体に普遍的に有効ではなく(Flick, 2007/2011大谷,2019),本研究はメンバーチェッキングが有効とされる実証主義およびポスト実証主義のパラダイムに依拠していないため,行わないこととした.

Ⅲ. 倫理的配慮

研究対象施設の看護部長へ研究協力を依頼し,協力への同意が得られた看護部長から要件を満たす看護管理者の紹介を得た後,その看護管理者へ研究参加を依頼した.看護部長には,研究の趣旨および倫理的配慮等について書面を用いて説明し,研究協力への同意を得た.研究参加者の研究参加への自由意思を保障するために,看護部長には研究参加への同意の有無を知らせないことの承諾を得た.看護部長への倫理的配慮は,以下に述べる研究参加者に対するものと同様である.

研究参加者に対し,研究目的,方法,研究への参加は自由であること,個人情報の取り扱い,データの保管と使用の方法等について書面を用いて説明し,研究参加への同意を得た.

本研究は,神戸市看護大学研究倫理審査委員会の審査で承認の後,学長の研究実施許可を得て研究を実施した(第22205-09号).

Ⅳ. 結果

1. 研究参加者の概要

研究参加者は,近畿あるいは中部地方の10施設に勤務する16人の看護管理者で,13人が師長,3人が主任の職位であった.1施設あたりの研究参加者は1~3人であった.年齢は30歳代が1人,40歳代が7人,50歳代が8人,看護師経験年数は10年以上20年未満が1人,20年以上30年未満が9人,30年以上が6人であった.

研究参加者の所属施設の病床数はすべて500床以上で,16人のうち7人が特定機能病院,7人が地域医療支援病院に所属していた.16人中14人が現在の所属施設以外での勤務経験がなく,残る2人は現在の所属施設への入職前に他施設での勤務経験があったが,インタビューで語られた内容はすべて現在の所属施設におけるものであった.インタビューの平均時間は61.38分/人であった.

2. 医師から看護師に委譲された相対的医行為

研究参加者が入職してから現在までの間に,医師から看護師に委譲されたと語った相対的医行為を表1に示す.この中には,その委譲による看護業務への影響について,研究参加者から語られなかったものも含まれている.医師から看護師に委譲された相対的医行為の件数は,研究参加者1人につき1~4件であった.

表1 看護管理者が認識する医師から看護師に委譲された相対的医行為

静脈注射関連 静脈留置針1)による静脈路確保
静脈採血
ワンショット2)
皮下埋め込み型ポートへの穿刺
ハイリスク薬(抗がん剤,造影剤,麻薬,輸血)の投与
血液培養の採取
膀胱留置カテーテル挿入
褥瘡処置(薬剤の塗布,ガーゼ交換等)
術後の創部の処置(洗浄,消毒,ガーゼ交換等)
一般食に関する食事内容の変更
ストーマのマーキング

1)静脈留置針:金属製の内針とプラスチック製の外針からなり,血管内に穿刺して血液の逆流を確認した後,内針を抜去して外針のみ留置する(日本看護協会,2003).

2)ワンショット:1回のみの薬液投与.静脈に注射針を刺入し,注射器を用いて投与する(日本看護協会,2003).

3. 医師から看護師への相対的医行為の委譲による看護業務への影響

分析の結果,9サブカテゴリ,4カテゴリを抽出した(表2).以下,カテゴリは【 】,サブカテゴリは〈 〉,コードは[ ]として示す.

表2 看護管理者が認識する医師から看護師への相対的医行為の委譲による看護業務への影響

カテゴリ サブカテゴリ コード 語り(一部)
自律性の向上 業務依頼に関連したストレスを感じるやりとりが減る 医師への静脈留置針挿入の依頼に関連するストレスを感じるやりとりが減る 医師から静脈留置針挿入が委譲されたことで,医師に(挿入を)依頼しなければならないことに付随するストレスが軽減される
医師への膀胱留置カテーテル挿入の依頼に関連するストレスを感じるやりとりが減る 医師から膀胱留置カテーテル挿入が委譲されたことで,(医師から)いちいち嫌みを言われながら(挿入の依頼をする)ということがなくなり,医師とやりとりをする負担が減る
相対的医行為を行うタイミングに関する判断の幅が広がる 患者や業務の状況を踏まえて静脈留置針挿入のタイミングを決められる 医師から静脈留置針挿入が委譲されたことで,患者の日常生活を考えながら,看護師が自分のいいタイミングで静脈留置針の抜去や挿入ができる
患者や業務の状況を踏まえて膀胱留置カテーテル挿入のタイミングを決められる 医師から膀胱留置カテーテル挿入が委譲されたことで,看護師の業務や患者の生活を考えて時間を調節し,膀胱留置カテーテルの挿入ができる
実践能力の向上 求められる教育内容が増える 静脈留置針挿入の委譲に伴い教育に必要な時間が増える 医師から静脈留置針挿入が委譲されたことで,その教育のための時間が必要になる
アセスメント能力が向上する 責任を自覚して褥瘡処置を行うことで,観察や評価の力が上がる 医師から褥瘡処置が委譲されたことで,(褥瘡に関することが)看護師の仕事と思えるようになり,観察の精度が上がる
看護師のみで創部の判断をする必要性が生じ,注意して見ることで観察力が上がる 医師から術後の創部の処置が委譲されたことで,看護師1人で創部を見て判断する必要が生じ,より注意を払って創部を観察するようになり,観察力が上がる
相対的医行為に自律的に取り組む 患者の生活を踏まえて点滴の必要性を考え,医師への働きかけができる 医師から静脈留置針挿入が委譲されたことで,患者が水分摂取できているといったことを踏まえて点滴の必要性を考え,医師に問い合わせることが増える
委譲された褥瘡処置の実施にとどまらず,自律的によりよい褥瘡ケアを考える 医師から褥瘡処置が委譲されたことで,個々の患者に合わせた除圧やエアマットの必要性,離床などのケアを考えられる
提供できる看護サービスの向上 患者の苦痛を最小限にできる 点滴投与に伴う合併症発生時に速やかに対応し,苦痛を最小限にできる 医師から静脈留置針挿入が委譲されたことで,夜間に点滴が漏れた場合に看護師がすぐ点滴を入れ直し,患者がすぐに入眠できる環境をつくれる
医師を待たずに化学療法の点滴の繋ぎ替えができ,閉塞等のインシデントが減る 医師から化学療法時の点滴の繋ぎ替えが委譲されたことで,看護師が(化学療法時の点滴の繋ぎ替えを)やるようになり,点滴を繋ぎ替える時に医師がつかまらずにルートが詰まることがなくなる
患者に必要なタイミングで膀胱留置カテーテルを挿入し,苦痛を最小限にできる 医師から膀胱留置カテーテル挿入が委譲されたことで,患者に苦痛がある時に看護師が素早く(膀胱留置カテーテルを挿入)でき,苦痛の時間を短くできる
患者の希望や状態に合わせて速やかに食事形態を変更し,食へのストレスを軽減できる 医師から食事形態の変更(一般食に関する食事内容の変更)が委譲されたことで,看護師が患者の状態や希望に合わせて速やかに(食事形態を)変更できるようになり,食事に関するストレスが大きい抗がん剤治療中の患者は食べやすいものがすぐ食べられるようになる
患者の生活を考慮しながら相対的医行為を行える 患者の生活のしやすさを考えた静脈留置針挿入ができる 医師から静脈留置針挿入が委譲されたことで,患者の行動をよく見守っている看護師だからこそ,患者にとって苦痛が少なく,安楽で,生活しやすい部位に静脈留置針を入れることができる
患者の生活や希望を踏まえた膀胱留置カテーテルの交換や抜去ができる 医師から膀胱留置カテーテル挿入が委譲されたことで,患者の状態を見ながら,患者の希望に合わせながら,(膀胱留置カテーテルを)交換したり,思い切って抜去ができる
必要な看護サービス提供への支障 療養生活への支援が満足にできなくなる 決まった時間に行う必要がある診療の補助に追われ,清潔ケアが後回しになる 医師から静脈留置針挿入などの処置が委譲され,処置に業務(の優先順位)がいってしまうので,清潔ケアが後回しになる
インシデントが誘発される 多重業務に追われる中で採血が委譲され,インシデントにつながる 医師から採血が委譲されたことで,採血に追われて焦り,余裕をもった看護ができなくなり,血糖測定や食前薬の配薬忘れ,手術の前処置が遅れるなどのインシデントにつながる

「語り(一部)」は,研究参加者が実際に語った内容を要約したものである.

研究参加者の語りの意味内容の不足部分を( )で補足した.

1) 【自律性の向上】

このカテゴリは,医師からの相対的医行為の委譲により,看護師がより自律性を発揮できるようになっていることを表す.これは,〈業務依頼に関連したストレスを感じるやりとりが減る〉,〈相対的医行為を行うタイミングに関する判断の幅が広がる〉の2サブカテゴリから構成した.

(1) 〈業務依頼に関連したストレスを感じるやりとりが減る〉

このサブカテゴリは,医師からの相対的医行為の委譲により,その相対的医行為の医師への依頼や,依頼時に医師からネガティブな反応をされるといった業務依頼に関連したストレスを感じるやりとりが減ることを表す.研究参加者は,医師から静脈留置針挿入や膀胱留置カテーテル挿入が委譲されたことで,[医師への静脈留置針挿入の依頼に関連するストレスを感じるやりとりが減る],[医師への膀胱留置カテーテル挿入の依頼に関連するストレスを感じるやりとりが減る]と認識していた.

(2) 〈相対的医行為を行うタイミングに関する判断の幅が広がる〉

このサブカテゴリは,医師からの相対的医行為の委譲により,その相対的医行為に関して医師の都合や動きを気にしながら介助等に入る必要がなくなり,患者や自身の業務の状況を踏まえて,看護師がその実施のタイミングを判断するなど,相対的医行為を行うタイミングに関する判断の幅が広がることを表す.研究参加者は,医師から静脈留置針挿入や膀胱留置カテーテル挿入が委譲されたことで,[患者や業務の状況を踏まえて静脈留置針挿入のタイミングを決められる],[患者や業務の状況を踏まえて膀胱留置カテーテル挿入のタイミングを決められる]と認識していた.

2) 【実践能力の向上】

このカテゴリは,医師からの相対的医行為の委譲により,看護師の実践能力が向上していることを表す.これは,〈求められる教育内容が増える〉,〈アセスメント能力が向上する〉,〈相対的医行為に自律的に取り組む〉の3サブカテゴリから構成した.

(1) 〈求められる教育内容が増える〉

このサブカテゴリは,医師からの相対的医行為の委譲により,その相対的医行為についての教育を行う必要が生じる,すなわち,看護師に求められる教育内容が増えることを表す.研究参加者は,医師から静脈留置針挿入が委譲されたことで,[静脈留置針挿入の委譲に伴い教育に必要な時間が増える]と認識していた.

(2) 〈アセスメント能力が向上する〉

このサブカテゴリは,医師からの相対的医行為の委譲により,その相対的医行為に関連する,看護師が従来から行っていた観察や評価,判断といったアセスメント能力が向上することを表す.研究参加者は,医師から褥瘡や術後の創部の処置が委譲されたことで,[責任を自覚して褥瘡処置を行うことで,観察や評価の力が上がる],[看護師のみで創部の判断をする必要性が生じ,注意して見ることで観察力が上がる]と認識していた.

(3) 〈相対的医行為に自律的に取り組む〉

このサブカテゴリは,医師からの相対的医行為の委譲により,その相対的医行為に関することに自律的に取り組むようになることを表す.研究参加者は,医師から静脈留置針挿入が委譲されたことで[患者の生活の様子を踏まえて点滴の必要性を考え,医師への働きかけができる],褥瘡処置が委譲されたことで[委譲された褥瘡処置の実施にとどまらず,自律的によりよい褥瘡ケアを考える]と認識していた.

3) 【提供できる看護サービスの向上】

このカテゴリは,医師からの相対的医行為の委譲により,看護師が患者に提供できる看護サービスの内容が向上していることを表す.これは,〈患者の苦痛を最小限にできる〉,〈患者の生活を考慮しながら相対的医行為を行える〉の2サブカテゴリから構成した.

(1) 〈患者の苦痛を最小限にできる〉

このサブカテゴリは,医師からの相対的医行為の委譲により,必要時に看護師が速やかに相対的医行為を行うことで,患者の苦痛を最小限にできることを表す.研究参加者は,医師から静脈留置針挿入が委譲されたことで,[点滴投与に伴う合併症発生時に速やかに対応し,苦痛を最小限にできる]と認識していた.また,従来,抗がん剤の投与,具体的には化学療法実施時の輸液バッグの交換等は医師が行っていたため,投与中の点滴が終了し,次の点滴へ繋ぎ替えなければならないタイミングで医師が対応できず,ルートが閉塞するといったインシデントが発生していたが,これらが医師から委譲されたことで[医師を待たずに化学療法の点滴の繋ぎ替えができ,閉塞等のインシデントが減る]と認識していた.研究参加者は,膀胱留置カテーテル挿入が委譲されたことで[患者に必要なタイミングで膀胱留置カテーテルを挿入し,苦痛を最小限にできる],一般食の食事内容の変更が委譲されたことで[患者の希望や状態に合わせて速やかに食事形態を変更し,食へのストレスを軽減できる]と認識していた.

(2) 〈患者の生活を考慮しながら相対的医行為を行える〉

このサブカテゴリは,医師からの相対的医行為の委譲により,患者の生活を考慮しながら,その相対的医行為を行えるようになることを表す.研究参加者は,医師から静脈留置針挿入が委譲されたことで[患者の生活のしやすさを考えた静脈留置針挿入ができる],膀胱留置カテーテル挿入が委譲されたことで[患者の生活や希望を踏まえた膀胱留置カテーテルの交換や抜去ができる]と認識していた.

4) 【必要な看護サービス提供への支障】

このカテゴリは,医師からの相対的医行為の委譲により,患者にとって必要な看護サービスを提供することに支障が生じていることを表す.これは,〈療養生活への支援が満足にできなくなる〉,〈インシデントが誘発される〉の2サブカテゴリから構成した.

(1) 〈療養生活への支援が満足にできなくなる〉

このサブカテゴリは,医師から委譲された相対的医行為や,その他の従来から看護師が担っている,決められた時間に行う必要がある診療の補助に関する業務を優先的に行う中で,患者の療養生活への支援が満足にできなくなることを表す.研究参加者は,静脈留置針挿入等の相対的医行為が委譲されたことで[決まった時間に行う必要がある診療の補助に追われ,清潔ケアが後回しになる]と認識していた.

(2) 〈インシデントが誘発される〉

このサブカテゴリは,医師から委譲された相対的医行為や,その他の従来から看護師が担っている業務を時間に追われながら行っている状況が,インシデントを誘発していることを表す.研究参加者は,医師から静脈採血が委譲されたことで[多重業務に追われる中で採血が委譲され,インシデントにつながる]と認識していた.

Ⅴ. 考察

1. 研究参加者の所属施設の特徴

研究参加者16人のうち,7人が特定機能病院,7人が地域医療支援病院に所属していた.すなわち,16人中14人が,公立・公的医療機関等といわれる施設の所属であった.

公立・公的医療機関等とは,地域医療構想を推進するために導入された概念で,2017年に発出された厚生労働省医政局長通知「地域医療構想を踏まえた『公的医療機関等2025プラン』策定について(厚生労働省,2017)」に基づくものである.地域医療構想とは,「医療機関の機能分化・連携を進め,良質かつ適切な医療を効率的に提供できる体制の確保(厚生労働省,n.d.)」を目的とし,「実績のない高度急性期・急性期病棟を適正化(厚生労働省,2019)」すること等を目指している.

公立・公的医療機関等は,地域で公的な役割を担い,税制や財政上の優遇を受けている等の理由から,地域医療構想の達成に向けた将来の方向性を率先して示すことが求められている(厚生労働省,2017).したがって,本研究の結果は,率先して地域医療構想に取り組むこと,具体的には,高度急性期・急性期病棟の集約化や削減等が求められる施設に勤務する看護管理者を中心に得られたものといえる.

2. 【自律性の向上】と仕事のコントロール感

結果では,医師からの相対的医行為の委譲により,〈業務依頼に関連したストレスを感じるやりとりが減る〉,〈相対的医行為を行うタイミングに関する判断の幅が広がる〉という,【自律性の向上】が生じていることが明らかになった.この2つのサブカテゴリを構成するコードはいずれも,静脈留置針挿入と膀胱留置カテーテル挿入についてのものであった.

医師からこれらが委譲される前,医師への依頼から遂行までの一連の過程においては,看護師がストレスを感じる場面があったことがインタビューで語られていた.このような状況は,看護師にとって,「組織の中で個人の能力に応じて任せられた仕事について,自分のペースで行い,その順番・やり方を自分で決め,職場の仕事の方針に自分の意見を反映できること(日本看護協会,2021b)」,すなわち,仕事のコントロール感の低下につながっていたと考えられる.看護師の業務遂行におけるタイムマネジメントの阻害要因についての調査(織田ら,2022)では,患者の診療に直接関わる医師の指示,処置時間などの時間変更といった医師の都合が,看護師の業務遂行に大きく影響していたことが明らかにされている.これは,静脈留置針挿入等が医師から委譲される前,これらの実施に際して看護師は医師の都合等を気にしなければならなかったという,本研究の結果と類似する.

看護師の自律的な判断の様相を明らかにした調査(朝倉・籠,2013)において,看護師は医師の指示に従うだけではなく,医師の指示を吟味・監視し,必要な場合は修正を依頼するなどの判断を行っていることが明らかになっている.本研究の参加者も,医師からの相対的医行為の委譲が行われる前から,相対的医行為の必要性やタイミング等について自律的にアセスメントを行っていたことがインタビューにおける語りからうかがえたが,医師への〈業務依頼に関連したストレス(を感じるやりとりが減る)〉がある状態であったことからも,医師による相対的医行為の実施に際して,そのアセスメントの活用が困難であったと考えられる.そのような中,医師からの相対的医行為の委譲によって,医師の指示の下ではあるが〈相対的医行為を行うタイミングに関する判断の幅が広がる〉など,自律性が向上し,このことは仕事のコントロール感を高めることにつながったと考えられる.

3. 【自律性の向上】による【実践能力の向上】

結果では,医師からの相対的医行為の委譲により,〈アセスメント能力が向上する〉,〈相対的医行為に自律的に取り組む〉という,【実践能力の向上】が生じていることが明らかになった.

このような結果が得られた背景には,医師からの相対的医行為の委譲による【自律性の向上】があると考えられる.〈相対的医行為を行うタイミングに関する判断の幅が広が(る)〉り,看護師が従来よりも自身のアセスメントを活用しながら相対的医行為を行うという経験を積めるようになったことで,〈アセスメント能力が向上する〉と考えられる.また,看護師の職務における肯定的感情についての具体的内容を明らかにした調査(撫養ら,2011)において,看護師は自らの考えで看護を実践し,手応えを実感すると,仕事のやりがいや面白さを感じるという内発的動機づけを得ること,これらは専門職としての自律と影響し合うことが明らかになっている.これは,医師からの相対的医行為の委譲により,[委譲された褥瘡処置の実施にとどまらず,自律的によりよい褥瘡ケアを考える]など,〈相対的医行為に自律的に取り組む〉という本研究の結果と類似する.以上のように,【実践能力の向上】には,〈相対的医行為を行うタイミングに関する判断の幅が広がる〉といった【自律性の向上】が影響すると考えられる.

4. 正負両面の提供できる看護サービスの変化

1) 看護師としての専門的な判断をもとに業務を行える機会の増加

結果では,医師からの相対的医行為の委譲により,〈患者の苦痛を最小限にできる〉,〈患者の生活を考慮しながら相対的医行為を行える〉という【提供できる看護サービスの向上】が生じていることが明らかになった.これは,医師から看護師へのタスク・シフト/シェアによって,「患者の一番近くにいる看護師が判断可能な範囲を拡大し,さらに専門性を発揮できるようにすることで,患者へのタイムリーな医療提供が可能となる(日本看護協会,n.d.)」という日本看護協会の見解と類似する.つまり,この結果は,医師からの相対的医行為の委譲に伴って生じることが期待されていた現象が,実際に起こっていることを示していると考えられる.

特に,〈患者の生活を考慮しながら相対的医行為を行える〉というサブカテゴリは,看護師が患者の生活過程に働きかけるという視点から,委譲された相対的医行為を実施していることを表しており,医師からの相対的医行為の委譲が,看護師が専門性を発揮しながら業務を行える機会の増加につながっていることを示唆している.

2) 看護業務の過密化・煩雑化の助長と,患者の療養生活への影響

一方,医師からの相対的医行為の委譲により,〈療養生活への支援が満足にできなくなる〉,〈インシデントが誘発される〉という【必要な看護サービス提供への支障】が生じていることも明らかになった.これは,[決まった時間に行う必要がある診療の補助に追われ,清潔ケアが後回しになる],[多重業務に追われる中で採血が委譲され,インシデントにつながる]というコードが示すように,医師からの相対的医行為の委譲により,看護業務の過密化や煩雑化が助長されていることが背景にあると考えられる.

本研究で対象とした高度急性期病院においては,平均在院日数の短縮化が加速する中で,患者の生活の視点を踏まえた個別性に向き合った関わりが十分にできない現状が報告されている(野秋ら,2020).療養上の世話の中でも,例えば食事や排泄に関することはどのような状況でも欠かせないが,清潔ケアはその回数を減らしたり,簡略化したりすることが現実的に可能であり,「手技の省略,改変がされ,清拭そのものが業務的で作業と化す傾向もみられている(川嶋,2017)」という指摘がなされている.これは,本研究で明らかになった[決まった時間に行う必要がある診療の補助に追われ,清潔ケアが後回しになる]ことと類似する.

看護師は,患者の生活に密着し,療養上の世話の実施を通して患者1人ひとりの生活,すなわち「人間の生存そのものであり,各個体の主体的営み(日本看護科学学会看護学学術用語検討委員会,n.d.)」を把握している.したがって,多重業務に追われる中で〈インシデントが誘発される〉ような労働環境や,〈療養生活への支援が満足にできなくなる〉状況は,看護師が患者の安全・安楽をまもり,1人ひとりの患者やその生活を把握することを困難にすると考えられる.そして,これらは,医師からの相対的医行為の委譲により可能となった〈患者の苦痛を最小限にできる〉,〈患者の生活を考慮しながら相対的医行為を行える〉ことにも支障を及ぼすのではないかと考えられる.

5. 医師から看護師への相対的医行為の委譲による看護業務への影響についての構造モデル

ここまでに述べた内容を踏まえ,医師から看護師への相対的医行為の委譲による看護業務への影響についての構造モデルを作成した(図1).医師からの相対的医行為の委譲により,【自律性の向上】,【実践能力の向上】,そして,【提供できる看護サービスの向上】および【必要な看護サービス提供への支障】という変化が生じていた.【自律性の向上】は【実践能力の向上】が生じるための条件,【自律性の向上】や【実践能力の向上】は,【提供できる看護サービスの向上】が生じるための条件であると考えられた.一方,医師からの相対的医行為の委譲により,看護師が相対的医行為を実施する機会が増加することは,【必要な看護サービス提供への支障】が生じることにもつながっていると考えられた(網掛けで表示).

図1  看護管理者が認識する医師から看護師への相対的医行為の委譲による看護業務への影響

6. 医師から看護師へのタスク・シフト/シェアを推進する政策を,看護の専門性の発揮に資するものとするための課題

結果から,医師からの相対的医行為の委譲により,看護師が専門性を発揮できる機会が増加していることが示唆された.しかしながら一方で,看護業務の過密化や煩雑化が助長され,専門性を発揮した看護業務を行うために必要な,療養上の世話等が十分にできなくなるという影響も生じていると考えられた.

日本看護協会は,看護は「“疾病”をみる『医療』の視点だけではなく,生きていく営みである『生活』の視点をも持って“人”をみることにその専門職としての価値をおく(日本看護協会,2025)」と明言し,看護の専門性の発揮に資するよう,タスク・シフト/シェアに取り組む必要性を述べている(日本看護協会,2022).本研究の結果から,医師から看護師へのタスク・シフト/シェアを推進する政策を看護の専門性の発揮に資するものとするためには,看護師がその専門性を保つためにも不可欠である療養上の世話を十分に行える環境を整えることが必要と考える.

Ⅵ. 本研究の限界と課題

本研究では,医師から看護師への相対的医行為の委譲に焦点をあて,看護業務にどのような影響が生じているのかを明らかにすることを目的として調査を行った.ただし,看護業務の実施状況には,施設内の医師数,看護師数やその配置状況,特定行為研修を修了した看護師の所属の有無など,数多くの要素が影響すると考えられる.

看護師は法令で規定された範囲内で業務を行うが,医療現場で働く看護師が実際に何をどこまで,どのように行うのかについては,個々の看護師が所属する施設や病棟の条件により異なっている.したがって,今後は,施設や病棟の特性にも着目しながら,医師からの相対的医行為の委譲による看護業務への影響について,複眼的に明らかにすることが必要と考える.

Ⅶ. 結論

本研究では,高度急性期病院における医師から看護師への相対的医行為の委譲による看護業務への影響を明らかにするために,16人の看護管理者に半構造化面接を行い,9サブカテゴリ,4カテゴリを抽出した.

結果から,医師から看護師への相対的医行為の委譲により,看護師は専門性を発揮できる機会が増加していることが示唆された.一方,看護業務の過密化や煩雑化が助長され,専門性を発揮した看護業務を行うために必要な,療養上の世話等が十分にできなくなるという影響も生じていると考えられた.医師から看護師へのタスク・シフト/シェアを推進する政策を看護の専門性の発揮に資するものとするためには,看護師がその専門性を保つために不可欠である療養上の世話を十分に行える環境を整えることが必要と考える.

付記:本研究は,神戸市看護大学大学院に提出した博士論文に加筆・修正を加えたものである.本論文の内容の一部は,第43回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:本研究にご協力くださったすべての皆さまに深く感謝申し上げます.本研究はJSPS科研費JP24K13656の助成を受けた.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:KHは,研究の着想およびデザイン,データ収集,データ分析,論文執筆のすべてを行った.HTは,研究の全プロセスにおいて助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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