2025 Volume 45 Pages 717-726
目的:NICUに入院した低出生体重児の親には,子どもの出生からどのような社会的相互作用が生じ,子どもの在宅移行に至ったのか,その構成概念を明らかにする.
方法:自宅で子どもを養育する母親21名,父親1名へ半構造化面接を行い,グラウンデッド・セオリー・アプローチよる分析を行った.
結果:セレクティブ・コーディングの結果,低出生体重児の在宅移行は,{医療者との折り合い}を中核カテゴリーとする他5つの現象【生まれた子どもの状態と連動する母親の心情】【子どもの状態に合わせるかかわり】【状況に応じた柔軟な切り替え】【現実味のある情報収集】【親からありのまま伝えられた同胞の状態】と関係していた.
結論:在宅移行における{医療者との折り合い}という現象では,子ども・親を中心に医療者と対等な立場で相互作用が生じ,親自身の心情や子どもときょうだいへの柔軟なかかわり,有益な情報収集につながることが示唆された.
Objective: This study aimed to clarify the conceptual framework of social interactions that parents of low-birth-weight infants admitted to the neonatal intensive care unit (NICU) experience from childbirth and how these interactions shape their transition to their child’s home care.
Methods: Semi-structured interviews were conducted with 21 mothers and 1 father raising their children at home, and data were analyzed using a grounded theory approach.
Results: Selective coding revealed that the transition of low-birth-weight infants to home care was associated with five other phenomena centered on the core category of “agreement with medical professionals,” including “the mother’s feelings in relation to the condition of the newborn,” “interaction tailored to the condition of the infant,” “flexible adaptation to the situation,” “realistic information gathering,” and “information about the condition of siblings provided by the parents as it is.”
Conclusion: The phenomenon of “agreement with medical professionals” during the transition to home care suggests that children and parents interact with medical professionals on an equal footing, leading to parents becoming more flexible in their attitudes toward their children and siblings and supported their ability to collect useful information.
日本における全出生数中の低出生体重児(出生体重2,500 g未満,以下子どもも同義語とする)の割合は9.4%と主要先進国7ヵ国の中で最も高く(OECD, 2020),低出生体重児は医療的ケアを必要とする場合が多いことや発育・発達の遅延,障害を有するリスクがあると指摘されている(佐藤ら,2019).またNICU(新生児集中治療室)に1年以上入院をしている子どもの基礎疾患で分類すると,極低出生体重児(出生体重1,500 g未満)が全体の26%を占めている(楠田ら,2011).現状の問題を踏まえ,NICU長期入院患者が在宅移行するための退院・転出が行われ(中村,2020),2021年に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が施行された.その結果,医療的ケアがありながら,自宅で生活する子どもと家族の環境が整備されるようになり,子どもの在宅移行にかかわる親の選択肢は多様となったが,親はNICUから子どもが退院するときに不安な思いを抱いている(森ら,2021).特に子どもが早産で出生体重2,000 g未満の場合,Family Confidenceが有意に低いことが明らかとなっている(岩﨑,2023).このような中,退院支援を行う看護師には,親の思いを聞き出すこと,親に伝える情報を選定しながら関わる難しさ,退院に対して意見のくい違う両親を調整する困難感が生じている(茂本ら,2022).
さらに新型コロナウイルス感染症流行に伴う面会制限下では,子どもの親が退院後の子どもとの生活について,実感を持ちづらい状況を生み,入院期間の延長が実際に生じたことが報告されている(小澤,2023).限られた面会時間の中では,医療者が子どもの親とのかかわりから親のニーズを把握したうえで,効果的な退院支援を行うことは容易ではないことが推察される.一方で,子どもの長期入院が親と医療者の信頼関係構築ではなく,親が医療チームへの依存につながる可能性も否めないことが指摘されている(森永ら,2006;河村,2022).また,堤・前田(2015)は,子どもの母親が医療的ケア提供者としての「決意」と「自信」について,医師,看護師,医療ソーシャルワーカー,地域保健師の医療従事者,子ども,夫,家族に加えて,ピアなど多岐にわたるさまざまな相互作用によって影響を受けていたことを明らかにしている.以上のことから,親が子どもと自宅で生活するためには,子どもの入院中に子どもと親を取り巻く人との相互作用が重要となる.
しかしながら,子どもの在宅移行を経験した低出生体重児の親は,子どもの出生に伴い,どのような人とのかかわりから影響を受けて,子どもの在宅移行に至ったのか,低出生体重児と家族の実態を多数の事例から明らかにした研究は蓄積されていない.そこで本研究の目的は,NICUに入院した低出生体重児を養育する親には,子どもの出生からどのような社会的相互作用が生じ,子どもの在宅移行に至ったのか,その構成概念を明らかにすることとした.
本研究では,自宅退院に向けた準備を整えている期間や退院前後の生活を含めた時期を在宅移行と定義した.
2. 医療者本研究では,低出生体重児とその親,家族に対し,医療行為の提供の有無を問わず,身体的,精神的または社会的な支援を行う専門職を医療者と定義した.
子どもの在宅移行では,子どもと親を取り巻く人との相互作用が生じているため(堤・前田,2015),ストラウスとコービン版のグラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下GTA)を用いた(戈木,2016).
2. 研究参加者出生時に低出生体重児と診断されてNICUに入院したことがある6歳未満の子どもを自宅で養育する母親または父親を研究参加者とした.研究参加者の子どもの年齢を設定するうえで,出産から6年経過後も出産体験を振り返ることが可能であった既存の研究結果から考慮した(我部山ら,2001).
3. データ収集方法2023年12月~2025年3月に,訪問看護ステーション8箇所,患者家族会6団体にて研究参加者募集のチラシを配布した.研究参加者は研究者宛てに直接連絡し,同意が得られた後,半構造化面接をオンライン上で実施した.1人の研究参加者に対し1回,約40~90分,子どもの在宅移行の話を初めて医療者から提示されたときから在宅移行の決心に至るまでの思い,在宅移行の際に行われた支援,医療者に求める支援内容について質問した.
4. 分析方法GTA(戈木,2016)を用いて分析した.インタビューデータを逐語録に起こし,内容把握を行った.オープン・コーディングでは,データを切片化し,それぞれのデータごとにプロパティとディメンションの抽出,ラベル名の命名,その後カテゴリーにまとめた.そしてアキシャル・コーディングでは,パラダイムを用いて,カテゴリーを現象ごとに分類し,カテゴリー関連図およびストーリーラインを作成した.カテゴリー関連図およびストーリーラインは,研究参加者ごとに作成し,プロパティとディメンションが充実するまでデータ収集を行った.カテゴリー関連図は,研究参加者が増えるたびに前の研究参加者のカテゴリー関連図を重ね,カテゴリー関連統合図の作成とストーリーラインの修正,追記を行った.また分析のエラーチェックとして,概念の抽象度を上げる際や研究参加者同士のデータ統合の際,ラベル名やカテゴリー名の修正,プロパティとディメンションの修正,追記を行った.複数の現象が,カテゴリー関連統合図として各々把握できた後,セレクティブ・コーディングとして,各カテゴリー関連統合図の中心となっているプロパティとディメンションで関係づけ,すべての現象と関係するカテゴリーを中核カテゴリーとした.
研究の厳密性や分析の妥当性を確保するため,全ての分析過程で質的研究の経験者に指導を受け,分析結果の検討を重ねた.また研究参加者にセレクティブ・コーディングで生成した現象を提示し,分析結果について疑義がないか確認した.
5. 倫理的配慮研究参加者に研究の主旨を説明し,研究参加は自由意思であること,研究参加への辞退・撤回の自由,データ内容の秘匿性について説明した.また研究参加の可否によって,不利益が生じないことを口頭と文書で説明した後,提示したURLに自由意思の下アクセスしてもらい,研究参加の意思確認を行う設問を設けて同意を得た.なお本研究は,順天堂大学大学院医療看護学研究科研究等倫理委員会の承認(承認番号:順看倫第2023-47号),宮城大学研究倫理専門委員会の承認(承認番号:令和5年度宮城大第469号)を得て実施した.
研究参加者は,平均年齢38.4 ± 5.2歳の母親21名,父親1名であり,0歳6ヶ月~5歳の子どもを自宅で養育していた.子どもの平均出生体重は1,026.4 ± 634.3 gであった(表1).なお研究参加者の父親1名については,父親単独でも毎日面会を行い,他の研究参加者と同程度,子どもや医療者とかかわり,積極的に育児やケアを行っていた状況であった.この父親に生じる社会的相互作用は,他の母親と同様に生じる環境であったことを踏まえ,分析に含めた.
| 研究参加者 | 在胎週数(週) | 出生体重*1(g) | 出生順位 | 入院期間(日) | 退院時の体重*1(g) | 子どもに必要なケア*2 | 家族構成*2 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| A氏・母親 | 24 | 400 | 第2子 | 163 | 3,200 | 内服,在宅酸素療法,リハビリ | 核家族 |
| B氏・母親 | 34 | 2,200 | 第1子 | 366 | 7,400 | 経管栄養,在宅酸素療法,人工呼吸器の装着,喀痰吸引,皮膚への軟膏塗布,唾液瘻の管理 | 拡大家族 |
| C氏・父親 | 30 | 1,200 | 第1子 | 82 | 2,700 | 人工肛門のケア | 核家族 |
| D氏・母親 | 25 | 500 | 第2子 | 123 | 3,300 | 在宅酸素療法 | 核家族 |
| E氏・母親 | 32 | 2,000 | 第1子 | 62 | 3,500 | 内服 | 核家族 |
| F氏・母親 | 30 | 1,400 | 第2子 | 71 | 2,900 | 内服 | 核家族 |
| G氏・母親 | 24 | 600 | 第2子 | 186 | 3,800 | 内服 | 核家族 |
| 600 | 第3子 | 4,200 | 内服 | ||||
| 600 | 第4子 | 4,300 | 内服 | ||||
| H氏・母親 | 24 | 300 | 第1子 | 124 | 2,300 | 内服,浣腸 | 核家族 |
| I氏・母親 | 36 | 1,600 | 第1子 | 41 | 2,100 | ― | 核家族 |
| 35 | 2,200 | 第2子 | 20 | 2,400 | 皮膚への軟膏塗布 | 核家族 | |
| J氏・母親 | 25 | 300 | 第1子 | 319 | 6,400 | 内服,経管栄養,在宅酸素療法 | 核家族 |
| K氏・母親 | 30 | 900 | 第1子 | 70 | 2,400 | ― | 核家族 |
| L氏・母親 | 24 | 500 | 第1子 | 174 | 3,400 | 内服,浣腸 | 核家族 |
| M氏・母親 | 28 | 900 | 第1子 | 97 | 3,600 | 内服 | 核家族 |
| N氏・母親 | 27 | 600 | 第2子 | 97 | 2,100 | 内服,在宅酸素療法 | 核家族 |
| O氏・母親 | 25 | 300 | 第1子 | 150 | 2,200 | 内服 | 核家族 |
| P氏・母親 | 38 | 2,000 | 第2子 | 44 | 3,200 | 内服 | 核家族 |
| Q氏・母親 | 23 | 500 | 第3子 | 170 | 3,500 | 内服,浣腸 | 核家族 |
| R氏・母親 | 23 | 300 | 第1子 | 522 | 8,100 | 内服,浣腸,経管栄養,皮膚への軟膏塗布,リハビリ | 核家族 |
| S氏・母親 | 26 | 900 | 第4子 | 135 | 4,200 | 内服,浣腸,経管栄養,在宅酸素療法,皮膚への軟膏塗布,リハビリ | 拡大家族 |
| T氏・母親 | 32 | 1,800 | 第2子 | 42 | 2,700 | 内服,リハビリ | 核家族 |
| U氏・母親 | 29 | 1,300 | 第1子 | 73 | 3,100 | 内服 | 核家族 |
| V氏・母親 | 24 | 600 | 第1子 | 133 | 2,900 | 内服,浣腸 | 核家族 |
*1:下2桁省略,*2:退院時点
子どもの在宅移行に至る構成概念は,6つの現象から成り立っていた(図1).本稿では,GTAのセレクティブ・コーディングで生成した現象を把握したため,1)現象間の関係にて,現象名であるカテゴリーを用いて6つの現象の関係性を文章で示す.次に2)各現象の概要として,アキシャル・コーディングで明らかにした現象を説明する.なお現象名となる{ }は中核カテゴリー,【 】はカテゴリーで示した.抽出された70のサブカテゴリーは,アキシャル・コーディングの段階で現象の中心となるカテゴリーを説明するカテゴリーという位置づけになるため,《 》で示した.現象名の抽出の根拠となった研究参加者の切片データは「 」で表記し,補足の説明が必要な場合には( )で補った.

NICUに入院した低出生体重児の在宅移行では,{医療者との折り合い}という現象が中核となっていた.親がNICUの中で味わっていた感覚が子ども中心で,主治医に対する印象が完璧に近く,医療者への相談のしやすさがないとき,NICUにいる状況を不測の事態と捉え,【生まれた子どもの状態と連動する母親の心情】と関係していた.さらに面会前の母親が子どもに何事も起こっていないことを願い,面会時に医療者からの明るい報告で心配が拭えた親は,【子どもの状態に合わせるかかわり】を意識することにつながった.そして母親が子どもの容態安定を優先的に望んでいるとき,【状況に応じた柔軟な切り替え】をしていた.これは母親が医療者の説明内容を受け入れることができるくらい,{医療者との折り合い}として医療者への相談のしやすさがあること,親の気持ちも大切にされる感覚を味わうことで可能になった切り替えであった.【状況に応じた柔軟な切り替え】は,医療者と両親間で子どもの医療的ケアの離脱時期を想定した話し合いがされていたとき,【現実味のある情報収集】を行うこと,きょうだいがいる場合は【親からありのまま伝えられた同胞の状態】につながった.【現実味のある情報収集】では,看護師も同席する病状説明時にポジティブまたはネガティブな情報を{医療者との折り合い}の中で得ることをしており,母親は子どもを育てる中でよく起こりうることを情報として求めていた.また{医療者との折り合い}の中で親の気持ちも大切にされていたとき,在宅移行に向けて【状況に応じた柔軟な切り替え】や【子どもの状態に合わせるかかわり】,親からきょうだいへ子どもの状態を隠さずに伝えていた.
2) 各現象の概要 (1) 医療者との折り合い本現象は,子どもの出生直後から,親には《揺れ幅のある感情を伴う退院調整》が始まり,《先が見えない不安と心細さ》がある中での家族内外の調整や{医療者との折り合い}を通じて,退院までに医療者との関係性を構築する過程を表す.そして帰結として《安心して迎えた退院》もしくは《適度な力の入れ具合で行う子どもとの生活》となるか,《再入院や出生した病院での入院継続》に至った.
「ネットでも(分からないことを親自身で)調べたし,新生児科の先生,小児科とかNICUの先生とか,やっぱり小まめに説明してくださるんです,本当に定期的にちゃんと.(F氏)」
「でもみんな(他の親も医療者へ)言いたいことはあるけど,結局子ども.今って家族ケアもすごい(大切と)言ってくださってるんですけど,こっち側はその感覚ないから.(NICUは)子どもをとにかく助けてもらう場所であり,私のケアをする場所ではないって思っているから,自分が辛いのとかどうでもよくて.(H氏)」
(2) 生まれた子どもの状態と連動する母親の心情子どもの出生以前から《自覚する母親の体調不良》が存在し,《突然訪れた出産》後,【生まれた子どもの状態と連動する母親の心情】が生じていた.そして《両親間で異なる状況の受け止め》があった場合も,《諦める選択肢はない子どもの生命力》という思いは共通しており,《配慮が必要な産後の母親》の状態が露わとなるか,《特別視されたくない我が子の存在》となった.
「だんだんと今度は脳とかどっかの体の問題よりも「ミルクを飲みました」とか「ちゃんとうんち出ました」とかいう感じの明るい感じの報告が増えてきたので,(面会に行くたびに)自然と心配なこともなくなってっていう感じで.(G氏)」
「今日はこれをやりに(面会へ)行くっていう目的があるのは,私としても嬉しいし,あとは不安じゃない.何やるんだろう今日は,って思うより,今日はこれ(検査等)があるからとか,もちろん色んなことで変更になることはあったんですけど,それでも(面会の目的があることは良かった).(V氏)」
(3) 子どもの状態に合わせるかかわり本現象は,新興感染症の流行に伴う面会制限や母子分離が生じやすい入院環境による《制限された家族の時間》の中で,親が子どもと過ごす状況から始まっていた.親は《大切にしたい子どもとのつながり》を保ち,【子どもの状態に合わせるかかわり】を見出して,最終的に《子どもと親をつなぐ支援のありがたみ》や《悪いことばかりではない出生時からの入院》として捉えることに至った.
「(面会のルール上)もう2時間で(病棟から)出なきゃいけないのに静かに2時間半とか3時間とか居たり.でもそれも看護師さんもわかってくださって,昨日こういう心配なことがあったから長く居るのかな,よし,そっとしといてあげようみたいな.なので,何にもなかったときはちゃんと2時間なら2時間で出るようにしながら,でもちょっと今日はって思うときは,今日は居させてくださいみたいな感じで静かに居たり.とにかく時間を(入院中の子どもと)共有するようにしてた気がします.(V氏)」
(4) 状況に応じた柔軟な切り替え本現象は,子どもの退院後の親に《退院前後の環境の違いから生じる不安》があった状況から始まっていた.親は《敏感になってしまう子どもの状態》に奔走する中で,《退院後に生じた不安》の直面や《気持ちが救われた退院後の支援》を受けた経験から,【状況に応じた柔軟な切り替え】ができるようになっていた.そして《変わる可能性のある退院の意味》を実感すること,もしくは《払拭できた退院前からあった不安》となった現象である.
「(医師から在宅酸素療法を終了できるのが)早くて3歳って言われてるんで,主人と(母親の職場復帰に)間に合わなくない?っていう話をして.(中略)そのときは申し訳ないけど(母親が仕事を)辞めて,俺(父親)の扶養に入って,この子の育児を優先してあげようっていう形ではあります.別にこの子は悪くないので.全然.(S氏)」
(5) 現実味のある情報収集《低出生体重児の情報に敏感な親》が,【現実味のある情報収集】を医療者や同じような境遇の親から収集し,子どもにできる支援を検討する中で《格差のない環境を望む低出生体重児を見る世間の目》を望むようになっていた.そして親は,子どもに関する情報を得る中で,《子どもの状態や周囲の環境で変わる子どもへの気持ち》や《親として変わらない我が子の受容》に至った.
「なんかやっぱりどうしても調べれば調べるほど色々ネットで(子どもの情報が)出てきたりとか.なので実際に研究結果とかそういったよりも,実際にそうやってSNSとかで報告してて,育ててるママたちの話をちょっと見たりするのは情報としてちょっと知っておきたいなと思って見てはいたんですけど.(O氏)」
「どちらも(ポジティブな情報もネガティブな情報も)一意見で受け止められる時期とかに見れたらと思います.もし悪かったらこうなることも想定しなきゃいけないっていうのも,本当に一例で考えれるぐらいであれば,少し.こういう例もあるけどこういう例もあるからもっと一緒に頑張ろうとか.ポジティブな情報だけっていうのも,小さく生まれたけど大丈夫?っていう不安も少なからずあると思うので.今もなんですけど,良くない情報(ネガティブな情報)も積極的に聞きたいなとは思います.(U氏)」
(6) 親からありのまま伝えられた同胞の状態本現象は,主語が子どものきょうだいとなり,きょうだいにとって《実感が湧かない同胞の存在》がいる状況から始まっていた.きょうだいには同胞である子どもに対し,《きょうだい同士で掴めないお互いの距離感》があったが,【親からありのまま伝えられた同胞の状態】から親を介して,《維持されたきょうだい同士のつながり》を持つことができていた.そしてきょうだいにとって同胞は,《自然に溶け込んだ同胞の存在》となるか,《気が気でない同胞の存在》となった.
「変に赤ちゃんの写真を(子どものきょうだいに)見せなかったりすると「赤ちゃんってどうなったの?」って,変な疑問っていったらあれですけど変に誤解されても,それはそれで,かなと思ったので日々事実を伝えていたところになります.(A氏)」
「ずっと産むまで入院してたんですけど,そのときも赤ちゃんが危ないから,元気に生まれるようにお母さん入院しなきゃいけないんだって(きょうだいに)話して入院して.だから(きょうだいに)頑張ってもらって.(中略)(双胎のI児が)亡くなっちゃったのも(きょうだいに)伝えて,ちゃんと家に連れて帰って,(双胎のI児をきょうだいに)しっかり見てもらって,とかっていうのはしました.(Q氏)」
子どもの在宅移行において生じた6つの現象について,各現象のプロパティとディメンションで関係づけたところ,{医療者との折り合い}という現象は【生まれた子どもの状態と連動する母親の心情】【現実味のある情報収集】【子どもの状態に合わせるかかわり】【状況に応じた柔軟な切り替え】【親からありのまま伝えられた同胞の状態】という5つの現象すべてと関係していることが見出されたため,{医療者との折り合い}が中核カテゴリーとして生成された.Aydon et al.(2018)によると,医療者との効果的なコミュニケーション,情報共有,子どもへのケア参加の促しは,親が子どもを自宅に連れて帰る準備ができたと感じる要因となったことを報告している.また親を介して行う,入院中の子どもときょうだいの看護支援は,退院後も見据えた支援になることが明らかになっている(笹尾ら,2017).そのため{医療者との折り合い}という相互作用によって,子どもの在宅移行に至ることが推察できる.
さらにGTAでは,カテゴリーの確認や理論的検討を行うため,既存の概念・理論とのつながりを明らかにする必要がある(Holloway & Wheeler, 2002/2006).そこで本考察では,{医療者との折り合い}と既存の概念・理論との関係を明らかにするとともに,NICUに入院した低出生体重児の在宅移行における看護への示唆を以下に述べる.
1. {医療者との折り合い}と既存の概念・理論との関係本研究結果から,子どもの在宅移行における{医療者との折り合い}では,子ども・親を中心に医療者と対等な立場で相互作用が生じていることから,shared decision making(以下SDM)の概念に基づく現象と示唆された.SDMとは,治療方針に関する意思決定を行う際,医療者からの情報提供に加え,患者がライフスタイル,価値観などを医療者に伝えて,患者と医療者が合意形成を行う手法であるが(Charles et al.,1997),NICUでは親の役割を果たす育児場面においてもSDMの実践が望まれている(Sullivan & Cummings, 2020).そのため,{医療者との折り合い}という現象において,親が相談しやすい環境の中で医療者からの情報提供が行われていることから,{医療者との折り合い}は【現実味のある情報収集】と関係していると考えられた.また{医療者との折り合い}として,子ども中心を強調したNICUの雰囲気であるとき,親は親の気持ちを大切にされていない感覚を味わい,自己の価値観を医療者へ伝えづらい環境となっていた.このような環境の中,親には【生まれた子どもの状態と連動する母親の心情】が生じていたため,医療者との合意形成が困難な環境という点から考えた場合,{医療者との折り合い}と【生まれた子どもの状態と連動する母親の心情】という現象は関係があるといえる.
さらにFCC(Family Centered Care)の中核概念に協働意思決定(SDM)と親のエンパワメントが含まれており,SDMの支援から家族をエンパワメントする支援につながることが明らかにされている(浅井,2013;2017).浅井(2013)によると,家族をエンパワメントする支援とは,家族メンバーそれぞれが持つ潜在的な力を覚醒させ,前向きに子どもの養育に取り組めるようにすることを意味する.そのため本研究では,【子どもの状態に合わせるかかわり】や【状況に応じた柔軟な切り替え】,【親からありのまま伝えられた同胞の状態】が親の持つ力を発揮させた現象として抽出されたと考える.【子どもの状態に合わせるかかわり】では,母親が子どもに対して,その時に優先すべきことを考え,子どもとのかかわりを通して一緒に過ごす時間を共有していた.【状況に応じた柔軟な切り替え】では,医師からの説明内容を基に,母親と父親が話し合うことができていた.この両親の行動は,家族自身が自らの意思をもち,家族自身を信じる力の源とされているFamily Confidence(岩﨑,2023)を発揮していると推察する.実際に健康状態が良好な家族は,健康上の問題を抱えている家族よりFamily Confidenceは有意に高く(岩﨑ら,2022),家族員のエンパワメントが高まるときにFamily Confidenceにつながることが明らかとなっている(岩﨑,2024).つまり【状況に応じた柔軟な切り替え】である子どもの健康管理を行ううえでの適切な対処行動はFamily Confidenceを発揮し,親自身が自己や子どもを含めた家族全体の状況と向き合う力を備えている状態と考えられた.また【親からありのまま伝えられた同胞の状態】では,親が子どものきょうだいへ,嘘偽りのない情報を含めて説明していた.これは医療的ケア児の母親のエンパワメントの構造を明らかにした研究ではあるが(矢野,2024),苦難などの何らかの変化が生じても,医療的ケア児を優先した生活ではなく,医療的ケア児と家族が生活に折り合いをつける母親の対応と同様であると考えられた.
以上のことから,{医療者との折り合い}という現象は,SDMの概念に該当する現象であり,【生まれた子どもの状態と連動する母親の心情】【現実味のある情報収集】と関係していた.そして【子どもの状態に合わせるかかわり】【状況に応じた柔軟な切り替え】【親からありのまま伝えられた同胞の状態】という現象が親のエンパワメントを表す現象として関係していることがわかった.その結果,親が子どもの入院中に医療者とSDMを構築できた場合,FCCの実践や退院前後に生じる問題と柔軟に向き合う家族のエンパワメントが高まった状態での在宅移行が期待できると示唆された.本研究結果から,子どもの在宅移行におけるSDMとエンパワメントの具合的な関係性が明らかになったことにより,子どもと親が安心して退院後の生活を迎えるための支援の質向上につながると考える.
2. NICUに入院した低出生体重児の在宅移行における看護への示唆NICUに入院した低出生体重児の在宅移行では,子ども・親を中心に医療者と対等な立場で相互作用が生じるSDMの概念に基づく{医療者との折り合い}が重要であることが示唆された.しかしながらSDMの実践では,情報提供の過多による患者の混乱や患者にとって誤解した理解を生む可能性を指摘している(吉田,2025).本研究でも同様に,ポジティブ・ネガティブな両方の情報を得るタイミングは,親が一つの情報として聞き入れることができる精神状態のときであることが明らかとなっている.そのため親へ情報提供を行う医療者は,親の精神状態に応じて情報提供の内容と量に留意する必要がある.
また,本研究では,母親が自己の心情を打ち明けることができない背景には,NICUの雰囲気も重要であることが示唆された.母親がNICUの中で,子どもの疾患ばかりに注目してしまうことが母親にとってストレスであり,在宅移行に向けた育児手技や医療的ケアの手技習得の支援が中心であったとき,傷つき体験をしていたことが報告されている(龜山ら,2024).医療者には,口数が少なく,ストレスを抱え込む親を目の前にしたとき,{医療者との折り合い}のプロパティとして抽出された,医療者への相談のしやすさを親が実感できるようなかかわりが求められる.
そして子どもが退院し,自宅で子どもと過ごす親は,子どもの状況に応じた様々な調整や決断を柔軟に行っていることが明らかとなった.その中でも,子どもの状態変化が退院後も起こりうることを想定し,家族内で調整できていた親は,エンパワメントが高い状態にあることが考えられた.さらに親としての自信や養育への自信を培うためには,医療者が子どもの肯定的な面を捉え,親に肯定的なメッセージを与え続ける必要性があるとされている(浅井,2013).一方で,本研究結果において,親は子どもが小さく生まれた事実から,ポジティブな情報提供のみでは,子どもを育てるうえでの不安は拭いきれていなかった.これらのことから,子どもの入院中から親のエンパワメントを高めるためには,親と医療者が双方向のコミュニケーションを取り,医療者は親の心情に応じて子どもの肯定的な面とネガティブな情報を伝えるかかわりが退院後の親子の生活も支える上で重要である.
さらに,入院中の子どもにきょうだいがいる場合,親はきょうだいへの配慮も考え,きょうだいの同胞である子どもときょうだいのつながりを保つことができるようにしていた.低出生体重児や早産児の出産では,母親の体形変化が外見上分かりづらく,突然の出産に至ることが多い.そのため,きょうだいは同胞が生まれる前後の状況を把握しづらいことから,《実感が湧かない同胞の存在》となってしまっていた.また面会制限上,きょうだいと生まれた子どもが直接会うことができない環境もあり,きょうだいの支援は親にとって,需要が高いと考える.本研究結果では,既存の研究(下野・枝村,2015)と同様に,母親がきょうだいに同胞の存在を認識してもらう働きかけを行っていた.しかし本研究参加者から,きょうだいへの説明内容や範囲に悩む親の語りはなかった.きょうだいが同胞の存在を認識できたのは,実在する同胞の様子を偽りなく,ネガティブな出来事も含む事実を親からきょうだいへ伝えていたことが考えられる.実際に子どものきょうだいが,親から説明される同胞のありのままの状態は,親が子どものきょうだいから一時的に離れて,入院中の同胞の面会に行っている現状を知る機会となっていた.そしてきょうだいと同じように同胞に目を向ける親の姿は,きょうだいにとって家族の状況を理解する一助となり,同胞の存在を意識することに至ると推察されたため,医療者は親が子どものきょうだいへの説明を迷いなく行えているか,気に掛ける必要がある.
以上のことから,本研究で新たに得られた知見として,低出生体重児の在宅移行を経験した親には,ネガティブな情報提供も求める姿や子どものきょうだいへの説明に迷いがないという特徴が見出された.この背景には,親自身のレジリエンスが影響していたと考える.齊藤・岡安(2009)によると,レジリエンスとは,「ストレッサーに曝露されても心理的な健康状態を維持す力,あるいは一時的に不適応状態に陥ったとしても,それを乗り越え健康な状態へ回復していく力」を意味し,本研究では実際に緊張感の高いNICUの環境に置かれていた親は,エンパワメントを高めることまでできていた.南雲ら(2013)は,母親のレジリエンスを高める支援として,FCCを強化することが可能性として考えられると述べていることから,低出生体重児の親がレジリエンスを高めるために,子どもの在宅移行では,親と医療者によるSDMの構築が求められる.
NICUに入院した低出生体重児の在宅移行における,{医療者との折り合い}という現象は,子ども・親を中心に医療者と対等な立場で相互作用が生じ,【生まれた子どもの状態と連動する母親の心情】【現実味のある情報収集】【子どもの状態に合わせるかかわり】【状況に応じた柔軟な切り替え】【親からありのまま伝えられた同胞の状態】という5つの現象と関係していた.さらに本研究結果は,FCCの中核概念に含まれるSDMと親のエンパワメントの関係性を表した現象と同様であった.実際に子どもの在宅移行では,{医療者との折り合い}を中心とし,【子どもの状態に合わせるかかわり】や【状況に応じた柔軟な切り替え】,【親からありのまま伝えられた同胞の状態】が親のエンパワメントとして抽出され,その背景には親自身のレジリエンスの存在があった.そのため低出生体重児の在宅移行における看護では,SDMの概念に基づく{医療者との折り合い}として,親と医療者が双方向のコミュニケーションを取り,医療者への相談のしやすさを親が実感できるかかわりが必要であることが示唆された.
本研究の参加者の多くが母親であり,子どもに関係する医療者などの他者と積極的にかかわる親であったことから,本研究結果の適応には限界がある.また研究参加者が語る当時の心身の健康状態から,想起バイアスが生じている可能性もある.さらに研究参加者の自由意思の下,研究参加者の募集を行ったため,偶発的に収集されたデータを分析対象にせざるを得なかったことから,理論的サンプリングが十分ではない.今後は本研究結果の検証を重ねるため,本研究結果を基にした質問紙調査を実施し,低出生体重児の在宅移行に至る因子構造を明らかにする.
付記:本研究の内容の一部を日本小児看護学会第35回学術集会にて発表した.
謝辞・研究助成:本研究にご協力いただきました研究参加者の皆様,ならびに研究協力施設等の皆様に心より感謝申し上げます.また本研究の実施にあたり,貴重なご意見を賜りました,大重育美先生,倉田慶子先生にお礼申し上げます.本研究は,令和3~6年度科学研究費助成事業基盤研究C(21K10960)の助成を受けて実施した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:YAは研究の着想から原稿作成に至るまで,研究プロセス全体に貢献,EMはデータの分析,研究プロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.