2025 Volume 45 Pages 72-80
目的:中堅看護師におけるキャリア・プラトー測定尺度の得点と現部署での就業継続意思との関連を明らかにする.
方法:中堅看護師528名を対象に就業継続意思とキャリア・プラトー測定尺度を用いて調査した.継続意思に対する尺度のカットオフ値をROC分析にて算出,プラトー群と非プラトー群に分け,継続意思を従属変数,プラトーの有無または尺度の得点と潜在的交絡因子を説明変数とした二項ロジスティック回帰分析を行った.
結果:キャリア・プラトーは現部署での就業継続意思と有意に関連していた(調整済みオッズ比2.70,95%CI 1.83~3.98,p < 0.001).また,尺度得点も有意に関連していた(調整済みオッズ比0.97,95%CI 0.95~0.98,p < 0.001).
結論:中堅看護師のキャリア・プラトー測定尺度における得点は現部署における就業継続意思と関連する有用な評価指標である可能性がある.
Objective: To find an association between career plateau measurement scale scores and the intention to continue working in the current position among mid-career nurses.
Methods: A total of 528 mid-career nurses underwent a survey on the intention to continue working in the current position and career plateau. The career plateau measurement scale for mid-career nurses was used to measure career plateau. The cutoff score of the scale for the intention to continue was calculated through receiver operating characteristic analysis and used to divide the nurses into “plateau group” and “non-plateau group.” Then, a binomial logistic regression analysis was conducted using the intention to continue working in the current position as a dependent variable and the presence or absence of a plateau or scale score and potential confounding factors as explanatory variables.
Results: The career plateau was significantly associated with the intention to continue working in the current position (adjusted odds ratio 2.70, 95% confidence interval [CI] 1.83–3.98, p < 0.001). The scale scores were also significantly associated with the intention to continue working in the current position (adjusted odds ratio 0.97, 95% CI 0.95–0.98, p < 0.001).
Conclusion: The career plateau measurement scale score for mid-career nurses may be a useful measure associated with the intention to continue working in the current position.
近年,医療の高度化,超高齢社会の到来に伴い,看護の質の向上が強く求められている.臨床経験3年以上の中堅看護師と呼ばれる看護師は組織の要であり,看護の質に影響を与える存在(新井ら,2016)であるが,能力,経験,背景,学習ニーズ等が,個性化,多様化し,組織での役割や責務が不明瞭になりやすく,学習経験が知識や技術の体系として集約されにくいといった指摘もある(竹内,2013).また,「自身の目標や役割が見出せず,日々の業務に満足感が得られない現状から,看護にやりがいを持てない」(宮本・藤本,2012),「仕事に慣れ,ひと通りの実践活動ができるようになると,現時点での自分の位置や役割に充実感や満足が得られず,看護を続けることに葛藤を感じるようになってくる」(伊澤,2012)ということも示されている.
アメリカの心理学者であるBardwick(1986/1988)は,これを「内的プラトー現象」と定義し,仕事が3年以上変わらないと,学習感覚が薄れ,この修得感が仕事の行き詰まりによる倦怠感へと変わっていき,プラトー状態に陥ること,このような状況は,あらゆる組織,あらゆる職業にみられる,と述べている.中堅看護師においても,プラトー現象が起こっていることが明らかになっている(木村ら,2003;関,2015;原ら,2016;大賀・吾妻,2019;Zhu & Li, 2023).一方で,長期間同じ業務に従事していても,また,職務の変更が頻繁になくても新たな学習上の課題を見つけ,職務遂行方法を工夫することで,プラトー現象に陥らない者もいることが明らかになっている(山本,2016).
これらのように,キャリア・プラトーは,中堅看護師の多くが直面するキャリア発達における課題であり,このキャリア・プラトーの時期が長期化することは,意欲の減退や離職を招くこととなり,それが看護の質の低下をもたらすことにつながると考えられる.
さらに,Zhu et al.(2021)は,看護師は離職前に強いキャリア・プラトー体験をし,それが実践において一連の否定的感情を引き起こしていたと報告していることから,慢性的な看護師不足の中,部署の看護の質の向上には,中堅看護師の定着化とプラトー状態に陥らないような支援が必要であると考える.大賀・吾妻(2021)は,中堅看護師のキャリア・プラトーの概念分析において,5つの属性(【自己肯定感の低下】,【行き詰まり】,【心身の不調】,【昇進に対する不安】,【再燃性】),4つの先行要件(【単調な日常】,【負担感】,【教育を受ける機会の減少】,【職位の停滞】),3つの帰結(【現状からの脱出】,【現状維持】,【現実からの逃避】)を抽出している.プラトー状態にある場合,帰結に示されているように,キャリア・プラトーの状態になったことが自己を見つめ直す機会となり,新たなことに挑戦するといった【現状からの脱出】となれば,個々のキャリア発達を促すことができる.しかし,変化を回避し,現状を受け入れる【現状維持】や現状から逃げたい,挑戦から回避するといった【現実からの逃避】の状況にある場合もある.このことから,現部署での就業継続意思がある中堅看護師がキャリア・プラトーの状態にあり,【現状維持】や【現実からの逃避】の状態にある場合は,その部署の看護の質に影響を与えるものと考えられる.まずは,個々の中堅看護師の状況を理解している部署の看護管理者が,変化する中堅看護師の状況を把握し支援することが個々のキャリア発達を促し,部署の看護の質の向上,延いては,施設全体の看護の質の向上につながるものと考えられる.先行研究では,離職や就業継続と個人特性や職務満足の関連に関する研究(原,2016;野田,2022;三枝ら,2024)やキャリア・プラトーと個人特性や職場風土,キャリア・コミットメント等との関連に関する研究(髙山・佐々木,2021;齋藤ら,2020;萩原・大西,2024)は行われてきているが,現部署での就業継続意思とキャリア・プラトーとの関連を調査した研究はほとんどみられない.そのため,中堅看護師のキャリア・プラトーの状態と現部署での就業継続意思が関連しているのか,調査する必要があると考えた.
キャリア・プラトーを測定する尺度については,Millimanが開発した階層プラトー化と内容プラトー化尺度をもとに山本(2014)が翻訳・改訂した階層プラトー化尺度,内容プラトー化尺度があるが,看護職に特化したものではない.そのため,中堅看護師に焦点をあて,大賀・吾妻(2022)によって開発された中堅看護師のキャリア・プラトー測定尺度を使用することとした.本尺度は前述の大賀・吾妻(2021)によって導き出されたキャリア・プラトーの5つの概念(【自己肯定感の低下】,【行き詰まり】,【心身の不調】,【昇進に対する不安】,【再燃性】)を測定するために開発された尺度で,近畿圏内500床以上の9病院に勤務する中堅看護師1,409名を対象にした調査で信頼性および妥当性が確認されている(大賀・吾妻,2022).
本研究は,キャリア・プラトーの状態を測る中堅看護師におけるキャリア・プラトー測定尺度得点と現部署での就業継続意思の関連を明らかにすることを目的とした.
先行文献によると,中堅看護師ととらえるもっとも早い時期が3年,終りは25年まで示されるなどかなりばらつきがある(吉田,2015).Benner(2001/2005)は,類似の科の患者を3年から5年ほどケアしてきた看護師を中堅レベルの看護師と定義していることを加味し,本研究においては,できるだけ幅広い対象に対して検討するため,臨床経験3年以上25年までの看護師とした.
2. 中堅看護師のキャリア・プラトー中堅看護師のキャリア・プラトーとは,「中堅看護師において,単調な日常,負担感,教育を受ける機会の減少,職位の停滞を契機に,自己肯定感の低下,行き詰まり,心身の不調,昇進に対する不安をきたしている状態.脱出後の再燃は不可測に起こりうる.」と定義する(大賀・吾妻,2021).
3. 就業継続意思本研究では,この1年以内において,現在の部署(所属病棟など)で働き続けようとするか否かの意思とした.
京都府下にある病床を有する全施設(160施設)に勤務する臨床経験年数3年~25年までの中堅看護師1,898名を対象とした.本研究における曝露因子である中堅看護師のキャリア・プラトー測定尺度とアウトカムである就業継続意思を調査した先行研究がないため,症例数設計に使用する参考値が見当たらなかった.そのため,本尺度の開発の研究で使用された症例数約500名を参考に,回収率30%前後と想定し,1,700部前後の配布が必要と考えた.
調査施設の選定理由は,日本全国の中堅看護師を対象とすることは難しいこと,2021年度の京都府の正規雇用看護職員の離職率は12.0%で,全国平均11.6%とほぼ同程度である(南平,2023)ことから,京都府の状況を確認することで,全国の状況を推測することが可能ではないかと考えた.また,本研究においてはさまざまな要因から検討するために,病床の規模,役職の有無,雇用形態等を限定しないこととした.京都府下の病床を有する病院等160施設(医事日報社,2021)を対象とし,当該施設の看護部長(看護管理者)宛てに研究依頼文,研究協力回答書,中堅看護師への説明文書,調査票を郵送した.看護部長(看護管理者)が研究協力に合意した場合,承諾した旨と協力可能人数を書いた研究協力回答書を返信してもらった.その後,協力に合意した看護部長(看護管理者)へ,対象人数分の中堅看護師への説明文書を送付し,対象者に配布してもらった.研究協力に合意した看護師は,Microsoft FormsのQRコード,もしくはURLよりMicrosoft Formsへ回答を行ってもらった.調査期間は2023年12月~2024年1月であった.
2. 調査項目 1) 基本属性年齢,性別,看護職資格,最終学歴,臨床経験年数,役職の有無,所属施設(病院)の規模・場所,所属部署,雇用形態,現部署での経験年数,部署異動および転職(他施設への就業)の有無と回数,配偶者の有無,子供の有無,家族等の介護・看護の有無を尋ねた.
2) 就業継続意思就業継続意思について「この1年以内での就業に関する意思」として,「継続」,「部署異動」,「転職(他施設への就業)」,「離職あるいは他業種への転職」,「その他」の選択肢から回答を求めた.
3) 中堅看護師のキャリア・プラトー測定尺度(26項目)大賀・吾妻(2022)によって開発された中堅看護師のキャリア・プラトーを測定する尺度で,【モチベーションの低下】【行き詰まり感】【アイデンティティの混乱】【キャリア・プラトーの再燃】の4つの下位尺度から成る26項目の質問紙である.回答法は,「1.そう思う」から「4.そう思わない」の4件法で,点数が低いほどキャリア・プラトーの状態にある.本尺度は信頼性と妥当性が検証されており,本研究においても解析に先立ち内的整合性を確認した(Cronbach’α: 0.81).
3. データ分析方法分析対象者を,就業継続意思を尋ねる項目で,「継続」と回答した者を「継続群」とし,「部署異動」,「転職(他施設への就業)」,「離職あるいは他業種への転職」,「その他」と回答した者を「継続以外群」とした.対象者の背景因子はχ2検定を用いて,「継続群」と「継続以外群」で群間比較を行った.尺度得点はマン・ホイットニ―のU検定を使用して2群間で比較した.次に,就業継続意思と尺度得点を使用して受信者動作特性(ROC)分析を行い,ROC曲線を作成し,就業継続意思に対する尺度得点の曲線下面積(AUC)およびYouden indexを使用してカットオフ値を算出した.ROC曲線とは,ある事象の発生をy = 1,非発生をy = 0とする時,1を1と当てる正解率を感度,0を0とする正解率を特異度といい,縦軸に感度,横軸に1-特異度をとり,点をプロットして曲線を描いたグラフのことで,この曲線の下方の面積(AUC)が広いモデルほど適合度が高いと判断される(内田,2016).また,カットオフ値を上げれば上げるほど感度は低くなり,特異度は上がっていくというトレードオフの関係にある.そのため,感度+特異度が最大となる点を最適点と定義するYouden indexを使用してカットオフ値を設定した.続いて,キャリア・プラトーの有無の影響を見るために,就業継続意思を従属変数とし,尺度得点をカットオフ値で分類したキャリア・プラトーの有無の暴露因子と潜在的交絡因子を説明変数とした二項ロジスティック回帰分析を行った.潜在的交絡因子は「継続群」と「継続以外群」をχ2検定で比較し,p値が0.2未満であったものとした.また,尺度得点の変化が就業継続意思にどの程度影響を与えるのかがわかれば,経時的に本尺度を用いることで,中堅看護師の状況をつかめるのではないかと考え,尺度得点の1点の変化に意味があるのかを検証するために,暴露因子をキャリア・プラトーの有無から尺度得点に変更した解析も行った.検定はすべて両側検定とし,有意水準は5%とした.分析は,統計解析ソフトIBM SPSS Statistics 28.0を使用した.
4. 倫理的配慮本研究は洛和会研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:洛学-倫-01-23-00068号).対象施設の看護部長(看護管理者)に本研究の趣旨について文書で説明し,研究協力の承認を得た施設に,対象人数分の研究説明文書を郵送し,対象者に配布を依頼した.対象者には本研究の趣旨と目的,質問紙は無記名で研究参加は個人の自由意思であり,参加しない場合も不利益を生じないこと,調査参加の有無について調査しないこと,回収した回答はコード化し,統計的に処理するため,個人や施設が特定されることはないこと,質問紙は研究者以外に共有されることはなく,データは厳重に保管・管理し,研究終了後は責任を持って,データを処理すること,また,Microsoft Forms上の質問紙の同意確認欄へのチェックをもって研究協力への同意とみなすこと,データは無記名であるため,提出後は研究協力への撤回はできないことを記載した研究説明文書を配布した.
調査施設160施設のうち,研究同意が得られた43施設,対象者1,898名にMicrosoft FormsのQRコードとURLが記載された研究説明文書を配布し,570名から回答があった(応諾率30.0%).そのうち,研究同意にチェックがない者,経験年数および職種対象外であった者を除いた528名を分析対象とした(有効回答率27.8%).現部署での就業継続の意思について,「継続群」は343名(65.0%),「継続以外群」は185名(35.0%)であった.
1. 対象背景と現部署での就業継続意思との関連(表1)解析対象者は,20歳代と30歳代が65.3%,臨床経験年数10年未満と10年以上がほぼ同程度,現部署での経験年数3年以上が60%以上,部署異動経験者が60%で,転職経験者は30%未満であった.配偶者,こどものいる者の数はそれぞれ50%程度であった.対象者の背景因子を「継続群」と「継続以外群」の2群間で比較した結果を表1に示す.「継続群」と「継続以外群」での群間比較で,性別(p = .03),年齢(p < .01),臨床経験年数(p < .01),配偶者の有無(p < .01),子どもの有無(p = .01)で有意な差が確認された.「継続群」の方が「継続以外群」と比較し,男性(男性79.6%,女性63.5%),「40歳代と50歳代」(「20歳代と30歳代」60.6%,「40歳代と50歳代」73.2%),「臨床経験10年以上」(「10年未満」56.5%,「10年以上」72.3%),配偶者あり(「あり」71.7%,「なし」57.5%),子どもあり(「あり」70.3%,「なし」59.9%)が有意に多かった.
N = 528
合計(N = 528) | 継続群(N = 343) | 継続以外群(N = 185) | χ2値 | p値 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
N | % | N | % | N | % | |||
性別注) | ||||||||
男性 | 49 | 9.3 | 39 | 11.4 | 10 | 5.4 | 5.05 | 0.03* |
女性 | 477 | 90.7 | 303 | 88.6 | 174 | 94.6 | ||
年齢 | ||||||||
20歳代(146人)と30歳代(199人) | 345 | 65.3 | 209 | 60.9 | 136 | 73.5 | 8.40 | 0.00** |
40歳代(161人)と50歳代(22人) | 183 | 34.7 | 134 | 39.1 | 49 | 26.5 | ||
臨床経験年数 | ||||||||
10年未満 | 246 | 46.6 | 139 | 40.5 | 107 | 57.8 | 14.48 | <0.00** |
10年以上 | 282 | 53.4 | 204 | 59.5 | 78 | 42.2 | ||
役職 | ||||||||
役職なし | 396 | 75.0 | 253 | 73.8 | 143 | 77.3 | 0.80 | 0.37 |
役職あり | 132 | 25.0 | 90 | 26.2 | 42 | 22.7 | ||
現部署経験年数 | ||||||||
3年未満 | 209 | 39.6 | 126 | 36.7 | 83 | 44.9 | 3.32 | 0.07 |
3年以上 | 319 | 60.4 | 217 | 63.3 | 102 | 55.1 | ||
施設の規模 | ||||||||
200床未満 | 272 | 51.5 | 178 | 51.9 | 94 | 50.8 | 0.06 | 0.81 |
200床以上 | 256 | 48.5 | 165 | 48.1 | 91 | 49.2 | ||
施設の場所 | ||||||||
京都市内 | 413 | 78.2 | 260 | 75.8 | 153 | 82.7 | 3.36 | 0.07 |
京都市以外 | 115 | 21.8 | 83 | 24.2 | 32 | 17.3 | ||
雇用形態 | ||||||||
常勤 | 495 | 93.8 | 322 | 93.9 | 173 | 93.5 | 0.03 | 0.87 |
常勤以外 | 33 | 6.3 | 21 | 6.1 | 12 | 6.5 | ||
部署異動の経験 | ||||||||
あり | 317 | 60.0 | 206 | 60.1 | 111 | 60.0 | 0.00 | 0.99 |
なし | 211 | 40.0 | 137 | 39.3 | 74 | 40.0 | ||
転職の経験 | ||||||||
あり | 156 | 29.5 | 108 | 31.5 | 48 | 25.9 | 1.77 | 0.18 |
なし | 372 | 70.5 | 235 | 68.5 | 137 | 74.1 | ||
配偶者の有無 | ||||||||
あり | 276 | 52.3 | 198 | 57.7 | 78 | 42.2 | 11.67 | <0.00** |
なし | 252 | 47.7 | 145 | 42.3 | 107 | 57.8 | ||
こどもの有無 | ||||||||
あり | 259 | 49.1 | 182 | 53.1 | 77 | 41.6 | 6.29 | 0.01* |
なし | 269 | 50.9 | 161 | 46.9 | 108 | 58.4 | ||
介護・看護の有無 | ||||||||
あり | 42 | 8.0 | 27 | 7.9 | 15 | 8.1 | 0.01 | 0.92 |
なし | 486 | 92.0 | 316 | 92.1 | 170 | 91.9 |
注)「回答しない」との回答が2名あったため,性別のみN = 526となる
χ2検定を用いた * p < 0.05,** p < 0.01
「継続群」の尺度得点の中央値は68点(四分位範囲59.0~76.0)で,「継続以外群」の中央値は61点(四分位範囲53.0~70.0)であり,2群間で有意差を認めた(p < 0.001)(図1).なお,外れ値が与える影響は統計モデル上では問題にならない範囲であり,外れ値はエラーではなく事実の値であるため除外しなかった.
「継続群/継続以外群」と尺度得点を使用したROC分析の結果,AUC 0.64(95%CI 0.59~0.69, p < 0.001),カットオフ値は63.5点(感度64.4%,特異度59.5%)であった.プラトー群を63点以下,非プラトー群を64点以上と設定したところ,プラトー群232名(43.9%),非プラトー群296名(56.1%)であった.背景因子の2群間比較において,性別,年齢(20歳代・30歳代と40歳代・50歳代の2群),臨床経験年数(10年未満と10年以上の2群),現部署での経験年数(3年未満と3年以上の2群),施設の場所(京都市内とそれ以外の2群),転職の有無,配偶者の有無,子どもの有無がp値0.2未満となり,就業継続意思に対する潜在的交絡因子として設定した(表1).
就業継続意思を従属変数とし,暴露因子であるキャリア・プラトーの有無と潜在的交絡因子を説明変数とした二項ロジスティック回帰分析の結果,キャリア・プラトーの有無は現部署での就業継続意思と有意に関連していた(調整済みオッズ比2.70,95%CI 1.83~3.98,p < 0.001)(表2).加えて,暴露因子を中堅看護師のキャリア・プラトー測定尺度得点にした場合も有意に就業継続意思と関連していた(調整済みオッズ比0.97,95%CI 0.95~0.98,p < 0.001)(表3).
N = 528
係数 | 標準誤差 | 調整済みオッズ比 | 95%CI | p値 | |
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キャリア・プラトー(プラトー) | 0.99 | 0.20 | 2.70 | 1.83~3.98 | <0.001** |
性別(女性)注) | 0.70 | 0.39 | 2.02 | 0.95~4.29 | 0.07 |
年齢(40歳代・50歳代) | –0.31 | 0.25 | 0.73 | 0.45~1.20 | 0.21 |
臨床経験年数(10年以上) | –0.51 | 0.23 | 0.60 | 0.38~0.95 | 0.03* |
現部署での経験年数(3年以上) | –0.51 | 0.20 | 0.60 | 0.41~0.89 | 0.01* |
施設の場所(京都市以外) | –0.39 | 0.25 | 0.68 | 0.42~1.10 | 0.12 |
転職の経験(無) | 0.15 | 0.22 | 1.16 | 0.75~1.80 | 0.49 |
配偶者(無) | 0.55 | 0.27 | 1.74 | 1.04~2.92 | 0.04* |
こども(無) | –0.41 | 0.28 | 0.67 | 0.39~1.15 | 0.15 |
注)「回答しない」との回答が2名あったため「性別」のみN = 526となる
* p < 0.05,** p < 0.01
N = 528
係数 | 標準誤差 | 調整済みオッズ比 | 95%CI | p値 | |
---|---|---|---|---|---|
中堅看護師のキャリア・プラトー測定尺度得点 | –0.04 | 0.01 | 0.97 | 0.95~0.98 | <0.001** |
性別(女性)注) | 0.75 | 0.39 | 2.12 | 0.99~4.51 | 0.05 |
年齢(40歳代・50歳代) | –0.30 | 0.25 | 0.74 | 0.45~1.21 | 0.23 |
臨床経験年数(10年以上) | –0.48 | 0.23 | 0.62 | 0.39~0.97 | 0.04* |
現部署での経験年数(3年以上) | –0.48 | 0.20 | 0.62 | 0.42~0.91 | 0.02* |
施設の場所(京都市以外) | –0.36 | 0.25 | 0.70 | 0.43~1.14 | 0.15 |
転職の経験(無) | 0.17 | 0.22 | 1.18 | 0.76~1.82 | 0.46 |
配偶者(無) | 0.54 | 0.26 | 1.71 | 1.02~2.86 | 0.04* |
こども(無) | –0.37 | 0.28 | 0.69 | 0.40~1.20 | 0.19 |
注)「回答しない」との回答が2名あったため「性別」のみN = 526となる
* p < 0.05,** p < 0.01
単解析において「継続以外群」と比べて「継続群」では,性別では男性,年齢では「40歳代と50歳代」,看護師経験年数では10年以上,そして,配偶者あり,子どもありの者が有意に多かった.従来,看護師の離職の要因として,結婚,妊娠,出産,育児などのライフイベントがあげられてきたが,本研究においては配偶者あり,子供ありが「継続群」に有意に多いという結果であった.これは,岡崎ら(2022)が昨今の社会情勢において子育てのための経済的負担や不安があることを報告しているように,子どもを持つ看護師は,子どもがいるからこそ,経済的な安定を維持するために就業を継続するといった可能性があることが考えられる.三枝ら(2024)の研究によると,看護師の離職意思には「30代」「40代」が有意な正の関連があると報告しているが,今回,「40歳代と50歳代」の9割近くを40歳代が占めていた本研究においては,40歳代が現部署での就業継続を希望している者が多いという結果となった.これは,40歳代の看護師は子育ての時期と重なり,先にも述べたように,経済的な理由による可能性があるのではないかと考えられる.
また,中本ら(2018)は,臨床看護師の職務経験10年のキャリア発達過程について,「第2フェーズ【看護行為に自信は持てるがマンネリ感を抱く】,第3フェーズ【看護師としての存在価値が揺らぐ】というキャリア継続の危機的状況を乗り越えた後,第4フェーズ【培ってきた自分の看護を発展させる】という看護の質の変化がある」ことを明らかにしている.このことから,経験年数10年以上の看護師が現部署での就業継続を希望する者が有意に多かった理由として,中本ら(2018)のいう第2・第3フェーズの危機的状況をうまく乗り切り,職務経験が10年くらいになる頃は,自分の看護における将来像が明確となり,今後の見通しがつき,部署での地盤を固めつつ看護を行っているため,現部署での就業を継続しながら,自らの看護を深めようとしていることが考えられる.
2. 中堅看護師のキャリア・プラトー測定尺度の得点と現部署での就業継続意思との関連本研究の目的は,中堅看護師におけるキャリア・プラトー測定尺度の得点と現部署での就業継続意思との関連を明らかにすることであった.本尺度は得点が低いほど,キャリア・プラトー状態を示すことから,分析結果から,「継続群」の尺度得点が有意に高く,非プラトーの傾向にあることが示唆された.Bardwick(1986/1988)は,仕事が3年以上変わらないと学習感覚が薄れ,この修得感が仕事の行き詰まりによる倦怠感へと変わっていき,プラトー状態に陥ると述べている.一方で,長期間同じ業務に従事していても,また,職務の変更が頻繁になくても新たな学習上の課題を見つけ,職務遂行方法を工夫することで,プラトー状態に陥らない者もいるとの報告もある(山本,2016).本研究の対象者の6割が現部署での経験年数が3年以上で,その6割以上が現部署での就業継続を希望していた.中野・岩佐(2019)は,看護師が離職を考える要因には,キャリアプランや仕事のやりがい,職場の人間関係や労働環境,自身の看護実践能力と自己効力感が大きく関わっており,それらは共通して職務継続の要素にもなっていたと報告している.「継続群」の尺度得点が有意に高く,非プラトーの傾向にあることから考えると,「継続群」は今の職務にやりがいを感じて,就業継続を希望している可能性があることが考えられる.
また,非プラトー群に対してプラトー群は,潜在的交絡因子を考慮しても,現部署での就業継続を希望しないことと関連していた.大賀・吾妻(2021)は,中堅看護師のキャリア・プラトーの概念分析において,帰結として【現状からの脱出】【現状維持】【現実からの逃避】があると述べている.このことから,現部署に長く就業する者の中には,キャリア・プラトー状態にありながら,現状を受け入れ,リスクを回避するため,新しい環境に踏み出すことを躊躇し,【現状維持】を選択して,現部署にとどまるといったプラトー状態の者が少なからず存在すると考えていた.しかし,本研究において,現部署での「継続群」は,非プラトーの者が有意に多いことが明らかになったことから,就業を継続する者たちの多くは,前向きに仕事にやりがいをもって,キャリアを積もうとしていることが示唆された.そして,キャリア・プラトー状態にある者は,【現状からの脱出】や場合によっては,【現実からの逃避】のために,異動や転職,離職を考え,現部署の就業を継続しないことを選択していたことが考えられる.このことから,現部署での就業継続を希望する中堅看護師は非プラトーの状態にある者が多く,今後も継続して就業することで部署の看護の質の向上に寄与するものと考えられる.これらの中堅看護師が継続して同じ部署に就業するためには,キャリア・プラトー状態にならないように,個々の中堅看護師の状況を把握し,支援することが重要であると考えられる.つまり,その職場にやりがいがあり,職場環境を整えることで,中堅看護師は働き続ける可能性があるということを,本研究結果は裏づけるものであると考えられる.看護管理者は,このように現部署での就業継続を希望する中堅看護師を支援することで,部署での看護の質の向上を図ることができると考えられる.
また,潜在的交絡因子を考慮しても,暴露因子を中堅看護師のキャリア・プラトー測定尺度得点にした場合においても有意に継続意思と関連していた(調整済みオッズ比0.97,95%CI 0.95~0.98,p < 0.001)という結果から,尺度得点が1点増加することは,就業継続を希望する確率の上昇と関連があることがわかった.このことから,中堅看護師のキャリア・プラトー測定尺度を用いて,定期的に,中堅看護師のキャリア・プラトーの状態を把握することで,タイムリーにキャリア・プラトーに対する支援を行うことができ,ひいては,有能な中堅看護師を長く就業できるように支援することが可能となると考えられる.
以上のことから,中堅看護師のキャリア・プラトー測定尺度得点は,現部署における就業継続意思と関連する有用な評価指標となることが示唆された.
本研究では調査時点で就業している中堅看護師を対象としており,すでに退職している看護師のデータは反映されていないため,結果に偏りがみられる可能性がある.
現部署での就業継続意思に焦点をあてたが,今後は,現部署での就業継続に限らず,異動,転職,離職等に細分化して調査することで,それぞれについてのキャリア・プラトーの状況が明らかとなり,さらに,細やかな中堅看護師のキャリア支援につながると考える.さらに,勤務態様によっても検討する必要がある.
中堅看護師のキャリア・プラトー測定尺度得点は,現部署での就業継続意思と関連していた.中堅看護師のキャリア・プラトー測定尺度得点は,現部署における就業継続意思を知るための有用な評価指標となることが示唆された.
付記:本論文の一部は,第44回日本看護科学学会学術集会において発表した.
謝辞:本研究にご快諾いただきました対象施設の看護部長様,調査にご協力いただきました中堅看護師の皆様に心より感謝申し上げます.また,研究過程においてご指導くださいました,洛和会学術支援センター学術支援アドバイザーの堺琴美先生に深く感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:大賀は研究全般を実施,吾妻は研究の着想及び研究プロセス,原稿作成への助言を行い,両著者は最終原稿を読み,承認した.