2025 Volume 45 Pages 900-915
目的:新人看護師の臨床判断に関する文献を包括的にレビューし,臨床判断の経験および期待される臨床判断能力を明らかにする.
方法:PRISMA-ScRに基づくスコーピングレビューを実施した.PubMed, CINAHLなどのデータベースを使用し,一般病棟での新人看護師の臨床判断に関する研究を対象とした.
結果:15件の文献が採用され,新人看護師の臨床判断の経験として,【患者が表出する反応への臨床判断】【看護ケア実施場面での臨床判断】【安全をまもる場面での臨床判断】【臨床判断のための情報収集と報告】が抽出された.期待される臨床判断能力は,立場や役割により水準が異なった.
結論:新人看護師の臨床判断の経験と期待される能力が明らかになり,現実的で段階的な教育設計への示唆が得られた.今後は多角的手法による発達段階の解明と,発達段階に応じた具体的指標の開発が必要である.
Objective: This study aimed to comprehensively review literature on clinical judgment among new graduate nurses and clarify their experiences and expected competencies in clinical judgment.
Methods: A scoping review was conducted following the PRISMA-ScR. Literature searches were performed using databases, such as PubMed and CINAHL, targeting studies on clinical judgment among new graduate nurses in general hospital wards.
Results: Fifteen studies were included in the analysis. Four categories of clinical judgment experiences were identified: [Clinical judgment for patient-expressed responses], [Clinical judgment in nursing care implementation], [Clinical judgment for safety protection], and [Information gathering and reporting for clinical judgment]. Expected competencies included patient information gathering, needs assessment, and appropriate intervention selection, although expectation levels varied by organizational position and roles.
Conclusions: This review clarified experiences and expected competencies of clinical judgment among new graduate nurses, providing insights for realistic and progressive educational program design. Future research requires detailed investigation of developmental stages through multifaceted approaches and development of specific indicators according to these developmental stages.
医療の高度先進化,超高齢化などを背景に,患者のニーズは複雑化している.そのような社会的状況下において,看護師には患者のニーズや健康問題について早期に気づき,解釈して結論を出し,適切な看護行為について患者の反応に基づきその場で考える臨床判断がより重要となる(Tanner, 2006).社会背景を踏まえた看護師の臨床判断の重要性の拡大により,米国における看護師国家試験NCLEXでは臨床判断が重視され(NCSBN, 2025),わが国においても看護学士課程教育におけるコアコンピテンシー(日本看護系大学協議会,2018),看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン(厚生労働省,2023)に臨床判断力の育成が盛り込まれた.しかし,原則通りにマニュアル的な行動をする「初心者レベル(novice)」の看護学生の特徴を踏まえると(Benner, 2001)臨床に出たばかりの新人看護師も十分な臨床判断能力を備えているとは言いがたく,実際に新人看護師のうち23%しか最低限の臨床判断能力を持たないとされる(Kavanagh & Szweda, 2017).このため新人看護師への臨床判断能力の育成が一層重要視されている(Bashford et al., 2012).
新人看護師の臨床判断に関する先行研究では,意思決定までの知識源として自身の経験や直観を用いる一方,先輩看護師や医師を頼るという行動を示すことが明らかとなっている(Voldbjerg et al., 2016).また,マニュアルや規則と患者ニーズとの板挟みによる制度的制約を受けたり,理想とする看護と現実の乖離による道徳的葛藤が精神的苦痛となり効果的な判断を妨げるなど(Nielsby et al., 2025),新人看護師の臨床判断には特徴があることもうかがえる.しかし,新人看護師の臨床判断に特化した包括的な文献レビューは,評価ツールについて統合したもの(Bussard et al., 2024),臨床判断の影響因子として問題の複雑性や時間的なプレッシャーなどを明らかにしたもの(Muntean, 2012)など限定的であり,臨床現場での実際の経験や,期待される能力の全体像については明らかではない.
看護基礎教育および継続教育における臨床判断の育成には,事例検討やシミュレーション教育が多用されるが(羽入,2019),それらの教材作成には,場面の設定および適切な目標設定が必要である.しかし,教育内容や教育目標は研究者および研究協力者という限られたメンバーの経験や認識に基づいて作成されることが多く,実際の事象や対象者の能力に基づいて作成された記述はない(Bremner & Brannan, 2000;Luo et al., 2021).なお,臨床判断の評価ツールには,タナーの臨床判断モデル(Tanner, 2006)を基盤とし,シミュレーション環境における看護学生の判断を評価して作成されたLasater Clinical Judgment Rubric(LCJR)がある(Lasater, 2007).LCJRは教育的文脈において臨床判断能力を測定することを目的として作成されたツールであり,臨床現場での実際の経験や求められる能力の全体像を反映できていない可能性がある.
効果的な臨床判断能力育成のためには,新人看護師の臨床判断の実際の経験と期待される能力レベルの両方を統合的に理解したうえで教材作成を行うことが不可欠である.その理由として,新人看護師は入職時に期待される臨床判断能力に応えられていないことが明らかになっており(Rush et al., 2019),実際の経験(現状)と期待される能力レベル(目標)の両者を橋渡しする段階的な学習支援を設計するためには,それぞれを明確にする必要があるためである.
以上のように,新人看護師の臨床判断の実態や,期待される臨床判断能力が明らかにされておらず,これらを統合した包括的理解が不足しているため,教育内容や教育目標の設定が困難な現状にある.この課題に対し,多様な研究を概観して全体像を把握でき,同時に研究ギャップを特定できるスコーピングレビューが有用であると考えた.
本研究の目的は,新人看護師の臨床判断に関する文献についてのスコーピングレビューを実施し,新人看護師の臨床判断の経験および,新人看護師に期待される臨床判断能力を概観して整理し,明らかにすることである.
新人看護師;看護師の国家資格を得て入職後,12ヵ月以内の看護師とした.
臨床判断;Tanner(2006)の定義した,患者のニーズ,懸念,健康問題について解釈し結論を出すこと,また行為を起こすか起こさないかの判断,標準的な方法を使うか変更するかの判断,患者の反応から適切にその場で考え出して行う判断,とした.本定義では患者の状態や状況に基づいて看護師が行う判断を対象としており,複数の患者に対する看護介入の優先順位を決定する判断も含む.ただし,本研究では患者ケアに直接関連しない業務や組織運営に関する判断は除外する.
本研究では,研究領域の基盤となる重要な概念や利用可能なエビデンスを概説し,迅速に概観することができるスコーピングレビューを行った(Arksey & O’Malley, 2005).スコーピングレビューは,プロトコルを用いた体系的な手順で幅広い研究領域を概観し,研究ギャップを特定することを目的とする(友利ら,2020).新人看護師の臨床判断の経験および必要とされる能力についての研究は整理されておらず,多様な研究を概観して全体像を把握し研究ギャップを特定するという本研究の目的と合致したため,この手法を用いた.
レビューはPRISMA Extension for Scoping Reviews(PRISMA-ScR)(Tricco et al., 2016)に基づいて実施した.研究疑問は,1)新人看護師が臨床判断を行った経験はどのようなものか,2)新人看護師はどのような臨床判断能力を期待されているか,である.研究疑問の特定においてはPopulation(対象者),Concept(概念),Context(文脈)のフレームワークを活用し,Population:国家資格を得て入職後,12ヵ月以内の新人看護師,Concept:臨床判断,Context:一般病棟,高・中所得国とした.Contextについて,臨床判断の経験は精神科など専門性が高い領域では臨床判断の性質が特異的である可能性がある(川村ら,2021;Rørbech et al., 2022)ため,新人看護師が多く配属される一般病棟に限定した.また,低所得国では基本的な実践の実施率が不足している現状により(English et al., 2014;Assaye et al., 2021),2024年1月時点の世界銀行グループ加盟国の所得水準分類における高・中所得国とした.
1. 文献検索と文献の特定文献検索データベースはPubMed,CINAHL,EMBASE,CENTRAL,ERIC,医学中央雑誌Web版を用い,文献の種類を問わず,英語,日本語で出版された2024年1月までに公開されたすべての既存文献を対象とした.
検索式について表1に示す.臨床判断という概念は,臨床的意思決定,臨床推論,批判的思考,問題解決と相互互換的に使用されることがあるため(Tanner, 2006;Manetti, 2019;Conner et al., 2022;Uppor et al., 2022),これらに該当する用語を検索用語に組み入れた.上記データベースから検索されない追加の文献として,該当文献の引用文献リストおよび,研究疑問に関連があるレビュー文献の引用文献中に研究疑問を含む可能性がある文献があった場合には,文献をハンドサーチで追加し,スクリーニングの対象とした.
| PubMed,CINAHL,EMBASE,CENTRAL,ERIC | 医学中央雑誌Web版 | |
|---|---|---|
| #1新人看護師 | ("newly qualified" OR "newly graduated" OR "new qualified" OR “newly licensed” OR "new graduated" OR "newly qualified registered "OR novice OR "advanced beginner "OR newly) [T/A] AND (nurs*OR nurses) [MT] | (新人OR新卒OR 1年目OR新規) [T/A] AND (看護師 OR 看護職 OR 新人看護師) [TH] |
| #2臨床判断 | ("clinical judgement" OR "clinical judgment" OR "clinical reasoning" OR "Clinical Decision-Making" OR "clinical decision making "OR "problem solving" OR "critical thinking") [T/A] OR "Clinical Decision-Making" [MT] | (臨床判断 OR 臨床推論 OR 臨床的意思決定 OR 批判的思考) [T/A] OR 臨床推論 [TH] |
#1 AND #2として検索した
スクリーニングの適格基準と除外基準について表2に示す.適格基準について,研究疑問1)新人看護師が臨床判断を行った経験はどのようなものか,に沿い,新人看護師の臨床判断の具体的経験が記載されているもの,研究疑問2)新人看護師はどのような臨床判断能力を期待されているか,に沿い,先輩看護師,管理者などが新人看護師に期待する臨床判断の内容が記載されているものとした.また,前述のPopulation(対象者),Concept(概念),Context(文脈)に合致した条件とした.除外基準は,経験や期待ではなく新人看護師がもつ臨床判断の程度を調査したものや,能力向上のための介入プログラムなど,研究疑問に合致しない条件とした.データベースの検索結果は2024年1月にスクリーニングのためのオンラインプラットフォームであるRayyan QCRIツール(Ouzzani et al., 2016)にエクスポートされ,取得した文献リスト全体からAIが特定した重複文書を除外した.重複文献を除外後,臨床経験を10年以上持ち,新人看護師の教育および研究経験を持つ修士号以上の学位を有する2名の研究者が,独立して文献のタイトルと要旨の一次スクリーニングをおこなった.次に,二次スクリーニングとして2名の研究者が独立して全文スクリーニングを行い,適格性を評価した.2名の意見が一致しない場合は,看護教育学の専門家(博士号取得者,看護教育経験15年以上)の意見を得ながら,文献選択プロセスを通じて不一致文献が組み入れられるかどうかコンセンサスが得られるまで議論し,関連性のない文献は除外された.
| 適格基準 | 除外基準 |
|---|---|
| ・入職後12ヵ月以内の看護師について記載されたもの ・一般病棟の看護師について記載されたもの ・臨床判断についての記載があり,研究疑問に合致するもの ・英語または日本語で書かれているもの ・データ収集が世界銀行により高所得国・中所得と定義される国で行われたもの |
・量的研究においては,専門性が高い環境で勤務する新人看護師についてのデータが5割以上を占めるもの(救急救命,ICU,緩和ケア,小児,周産期など) ・質的研究においては,生データとして一般病棟の看護師に関する記述を抜き出せないもの ・研究デザインが臨床判断能力を高めるための介入研究または介入研究後の評価,プログラムの開発を行っているもの ・新人看護師が持つ臨床判断能力の程度を調査したもの ・会議録 ・本文が確認できないもの |
データ抽出は1名が行い,もう1名がデータを検証した.不一致があった場合は協議の上,合意形成を行った.データ抽出フォームには,著者,出版年,国,研究目的,対象者,研究デザイン,データ収集方法,臨床判断に関するデータ収集内容,主な結果を含め,研究疑問に沿って臨床判断の経験と期待される臨床判断に分けて整理した.
新人看護師の臨床判断能力は複雑性や緊急度などの状況に依存する特性があり(Muntean, 2012;Sterner et al., 2019),同じ判断プロセスであっても,異なる看護実践の場面では,必要な知識や技術,判断の複雑さが異なる.そのため,どのような看護実践の場面でどのような判断が行われているかを明確にすることが,場面特性に応じた教育目標設定に重要である.また,臨床判断の教育には事例検討やシミュレーション教育が多用され,これらの教育方法では何に対して臨床判断を行ったのか,という看護実践の具体的な場面設定が教材作成の基盤となる.そのため,第一の研究疑問「新人看護師が臨床判断を行った経験はどのようなものか」については,具体的な場面の記述と各研究で導き出されたカテゴリやテーマを抽出し,抽出された経験について,どのような看護実践の場面の,どのような臨床判断の経験であったかという視点で生データやコードを比較し,Graneheim & Lundman(2004)の質的内容分析の方法を参考に,カテゴリの再統合を行った.第二の研究疑問「新人看護師はどのような臨床判断能力を期待されているか」については,研究疑問一で生成したカテゴリとは異なる視点で選定された文献を整理した.具体的には,「誰が」「新人看護師にどのような能力を期待しているか」という観点から,新人看護師に期待する主体(立場,役割)別に,新人看護師に期待する能力の内容や水準について記述的に整理した.
文献特定のプロセスについて,図1にThe PRISMA 2020 statement; an updated guideline for reporting systematic reviews(Page et al., 2021)に基づいて記した文献選定のフローチャートに示す.

PubMedでは299件,CINAHLでは408件,EMBASEでは379件,CENTRALでは41件,ERICでは22件,医学中央雑誌Web版では66件検索された.文献検索結果から重複文献540件を除いた675件,関連する文献の参考文献リストとレビュー文献の包含文献等よりハンドサーチで得た16件が一次スクリーニングに追加され,691件が一次スクリーニングの対象となった.適格基準および除外基準に基づいてタイトルと要旨を確認し,対象や研究疑問に合致しない654件の文献が除外され,37件の文献が抽出された.そのうち入手可能な35件を二次スクリーニングにて全文を確認し,20件の文献が除外され(異なる対象者が9件,異なる焦点が10件,異なる設定が1件),最終的に15件の文献がレビューの対象となった.採用された文献の要約を表3および表4に示す.15件のうち,研究実施国は日本6件,アメリカ3件,イギリス2件,アイルランド,台湾,南アフリカ共和国,オーストラリアが各1件で,高所得国が5国,高中所得国が2国であった.対象者は新卒または就職1~2年以内の新人看護師で,1年以内のデータのみを使用した.
| 著者,発表年/国 | 目的 | 対象 | 研究デザイン | データ収集方法 | 臨床判断に関するデータ収集内容 | 主な結果 【 】カテゴリまたはテーマ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Gerrish, 2000/イギリス | 教育改革前後の新人看護師の認識を比較すること | 内科・外科病棟勤務の看護師35名 | グラウンデッド・セオリー・アプローチ | 面接 | 認識している看護師の役割など | ・発熱した際など,どのような行動をとるべきか理論的には分かっているが,実際の状況に直面すると行動できなかった. ・創傷処置では技術に自信はあるが,観察の解釈や適した処置の選択には自信がなかった. |
| Duchscher, 2003/アメリカ | 新人看護師が批判的思考をどのように認識しているかを調査する | 新卒の学士号取得者5名 | 現象学とフェミニスト方法論の混合研究法 | 半構造化面接 | 記載なし | ・患者のニーズを理解し,尊重する上での適切な行動の困難な経験をしていた. ・患者の血圧や酸素飽和度の変動に気づいて診察を行い,判断して医師に報告していた. |
| 西田,2006/日本 | 就職直後の新卒看護師が医療チーム内や臨床判断を伴う場面においてどのような看護実践を行うか明らかにすること | 都内1医療施設にて協力が得られた新人看護師6名(全て一般病棟) | 帰納的記述的研究 | 参加観察法 半構成的面接 |
1.日常の看護場面の参加観察 2.参加者に場面を確認しながら行動の意図やその時考えたこと,看護基礎教育や就職後の経験を聴取 |
・発熱患者の体温測定の重要性を認識していたが実行できなかった経験をした. ・吸引を行う際の必要性や患者の苦痛を考慮せずに行う経験をした. ・体位変換の際に,先輩看護師から教えられた手順を軽視し,自身の経験から考えて実施した. ・患者の状態から痙攣のリスクがあったが一人でシャワーを急いで行い,不安があったが先輩看護師に助けを求めなかった. |
| O’Shea & Kelly, 2007/アイルランド共和国 | 新人看護師の臨床配置の経験と,経験が持つ意味を探ること | アイルランド共和国の雇用後6~7か月以内の新人看護師10名 | 現象学的研究 | 面接調査 | 新しく資格を取得した看護師であることがどのようなものか | ・中心静脈ラインを使用する患者がラインの清潔保持や管理について聞かれたが,知識が不足しており方針を調べて対応した. ・これまで経験したことのない臨床状況,特に死に直面する場面に対処する際にトラウマを感じることがあり看取りの際に適切な判断ができるか悩んでいた. |
| 藤内ら,2008/日本 | 健康歴聴取場面で新人看護師が,患者と出会い看護ケアの方向性を定めていく一連の流れを明らかにし,臨床判断の思考の概念を導き出すこと | A市内の病院に就職して2年間以内の看護師12名(1年以内9名). | 修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ | 参加観察 半構造化面接 |
1.参加観察:健康歴聴取時の看護師,患者,家族の会話など 2.面接:事前から聴取後までに考えたこと,配慮したことなど |
狭心症,腸閉塞・脳梗塞などの疾患の病歴聴取において,【情報収集に終始】し,【関係形成の努力】をしてることが明らかになった. |
| 平山ら,2011/日本 | どのようなことが新人看護師の臨床判断をすることの困難性となっているのか,彼らの体験から明らかにすること | 1施設の院内研修を修了した新人看護師29名 | 質的研究 | 記述調査法(集団型宿題調査) | 実際に新人看護師が臨床判断をすることの困難性とはどのような体験か | 新人看護師の臨床判断の困難として,【多忙】,【焦り】,【対応に苦慮する患者】,【想定外の困難な出来事】,【決められない優先順位】が生じていた. |
| 北村ら,2014/日本 | 新人看護師が抱える臨床判断の困難について,一番身近な存在であるプリセプターが捉えた事実から明らかにすること | 北陸地方A病院において平成20年度にプリセプターを担った看護師25名 | 質的記述的研究 | 自由記述法による留置調査 | 新人看護師が患者への看護を実践する上でどのような場面で判断に困ったり,悩んだりしていると感じたか | プリセプターが認識した新人看護師の臨床判断の困難として,【病態アセスメント能力の未熟さ】,【変化する症状への対応困難】,【患者の病態像に応じた投薬指示実行の判断困難】,【看護技術の未熟さによる失敗や戸惑い】,【説明責任能力の不足】,【思考や判断への志向の弱さ】,【新人看護師のキャパシティーを超えた業務への配置】が明らかになった. |
| 木佐貫ら,2016/日本 | 新人看護師が患者対応で困惑した場面において行動や思考を明らかにし,省察状況と省察が促される過程を把握すること | A 病院で循環器系病棟に勤務する新人看護師6 名(就職1 カ月後) | 記述的分析的研究 | 半構造化面接 | 患者対応で困惑した場面について考えたこと,その時の行動など | 患者対応で困惑した場面で【基礎的な知識・技術不足を感じる】,【自分で解決する努力】,【適切な行動がとれない】経験をしていた. |
| Sheldon, 2017/アメリカ | 専門職として働き始めて1年目の看護師の形成過程を明らかにすること | 雇用1年以内の新人看護師10名(うち,一般病棟5名) | 説明的順次混合法 | 質問紙調査 半構造化面接 |
過去3ヶ月間に,担当患者のケアに関して決断を下した時についてどのような困難があったか | 新人看護師の臨床判断の経験がナラティブに多数記載された. |
| Liang et al., 2018/台湾 | 台湾における新人看護師の仕事上の課題の経験を調査すること | 雇用10か月以内新人看護師25名(うち一般病棟15名) | 現象学的研究 | 半構造化面接 | 仕事の様子,課題,対策など | ・患者の個々の状態が予測不可能であり,適切なケアを提供することが困難であると感じることが多かった. ・発生した事態に対処するための知識とスキルが不足していることに気づき,不安と不確実性を経験した. |
| 川瀬ら,2023/日本 | 臨床判断に困難を要する場面に着目し,新人看護師の臨床判断のプロセスを明らかにする | 1県内の卒業後1年未満の看護師5名 | 質的記述的研究 | 半構造化面接 | 臨床判断を行うにあたり困難に感じた場面と実践,その際の思考 | 新人看護師は【患者の異変への気づき】から【分析的思考】による推論を行っていた.一方で【患者の情報の見極めの困難】による【気づきの欠如】や【情報を統合したアセスメントの不足】,【対応への焦り】による【不十分な観察と判断】がみられ,【先輩看護師への相談による判断と対応】,【実践の振り返り】をしていた. |
| 著者,発表年/国 | 目的 | 対象 | 研究デザイン | データ収集方法 | 臨床判断に関するデータ収集内容 | 主な結果 【 】カテゴリ,テーマまたは尺度項目 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Khoza & Ehlers, 1998/南アフリカ共和国 | 新人看護師が職場に入る前に期待される能力を特定すること | 南アフリカの医療サービスが安定している13施設上級専門看護師(SPN※1)259名,(うち一般床136名) | 横断的研究 | 質問紙調査 | コンピテンシー113項目について,新人看護師が職場環境に入る際の期待 | 一般病棟の新人看護師に求められる能力として80%以上の上級専門看護師に求められていたのは,【問題解決】では患者から十分な情報を得る,患者のニーズを把握する,患者の問題を定義する,患者のリスクを最小限に抑えるための予防措置を特定すること,【臨床判断】では看護ケア計画を立てる,看護診断を正確に記録する,優先順位をつけて看護介入を特定することであり,新人看護師が持っている能力よりも高い能力が期待されていた. |
| Roberts & Farrell, 2003/オーストラリア | 入職時と就職後12ヶ月後の新人看護師,プリセプター,臨床看護コンサルタント(CNC※2)の,新人看護師への期待と認識を明らかにすること | タスマニアの新人看護師,プリセプター,および卒業生が働いていた臨床分野CNC176名 | 横断的研究 | 質問紙調査 | Australian Nurse Competency Inc. Competency Standards(ANCI)18項目についての自立度 | プリセプターは半数以上の項目でCNCよりも高レベルの自立度を期待していた.卒業生は半数以上の項目でプリセプターやCNCよりも高レベルの実践を期待していた.3者で期待されるレベルが一致したものは22%であった. |
| Clark & Holmes, 2007/イギリス | 資格取得後の期間に新人看護師の能力がどのように発達するかを理解すること | 新人看護師,役職についている看護師,プリセプター,実践開発看護師(PDN※3)を含む6~10名で構成される計12グループ | 質的探索的研究 | フォーカスグループと個人面接 | 新人看護師は,入職の時点で自律的で独立した実践の準備ができているか,など | 新人看護師の能力発達について【実践の準備はできたか?】,【信頼】,【スタッフ育成のさまざまなモデル】,【看護師育成プログラム】,【コアスキルと専門スキル】,【能力とコンピテンシー】,【プリセプターの役割】が抽出され,入職時点では実践の準備が出来ているとは言えず,6ヵ月程度で仕事の土俵にたつ.新人看護師への期待度は低く,新人看護師が求められているものと自信の認識に齟齬を感じていた. |
| Nielsen et al., 2016/アメリカ | プリセプターの実際の経験から臨床判断の新しい評価プロセスについて知見を得ること | 1施設のプリセプター7名 | 質的記述的研究記述的副次研究 | フォーカスグループによる半構造化面接 | 新卒看護師に対して臨床判断モデルとルーブリックを使用して得た経験について | 【フレームワークの必要性】【臨床判断を促進するためのフレームワークの利用】【能力の評価】というテーマ内に新人看護師に期待する能力が示された. |
※1 SPN: Senior Professional Nurses ※2 CNC: clinical nurse consultants ※3 PDN: practice development nurses
勤務部署について明記されていた研究では,一般病棟(内科・外科病棟を含む)が6件,循環器系病棟が1件であった.残りの研究では複数施設・複数診療科を含むものがあり,適格基準および除外基準に沿って該当する箇所を抽出した.
新人看護師の入職後1年間の臨床判断に関する経験の記載があったものは11件(表3),新人看護師に期待される臨床判断能力について記述のある文献は4件(表4)であった.
2. 新人看護師が臨床判断を行った経験新人看護師の入職後1年間の臨床判断に関する経験の記載があった11文献は,新人看護師の臨床判断の経験を広く捉えようとしたもの(西田,2006;O’Shea & Kelly, 2007;Sheldon, 2017),批判的思考の認識を調査したもの(Duchscher, 2003),新人看護師の困難な場面に焦点をあてたもの(平山ら,2011;北村ら,2014;木佐貫ら,2016;Liang et al., 2018;川瀬ら,2023),特定の状況での臨床判断に焦点をあてたもの(藤内ら,2008),時代による看護師の経験を比較したもの(Gerrish, 2000)とそれぞれの研究目的は異なるが,患者の状態や状況に基づいて看護師が行う判断を記述した箇所を特定し,新人看護師が臨床判断を行った経験が抽出された.
前述の通り,どのような看護実践の場面でどのような判断が行われているかという視点で分類し,4カテゴリと16サブカテゴリが生成された(表5).結果についてカテゴリ毎に記述する.以下,カテゴリを【 】,サブカテゴリを[ ]で示す.
| 再統合した カテゴリ |
再統合した サブカテゴリ |
生データまたは状況の記述 | 各文献でのテーマ名またはカテゴリ名 |
|---|---|---|---|
| 患者が表出する反応への臨床判断 | 身体症状変化への気づきと適切な対応 | 「患者の血圧が急激に下がり,突然体調が悪くなった.その瞬間,私は彼にどう対処するか決断を下すべきか分からなかった.彼をすぐに助けることができなかったことがとても悔しかった」 | 薄氷上を歩くような緊張感(Liang et al., 2018) |
| 「患者の母親の訴えにより医師に報告後,患者は胸痛,血圧上昇,酸素飽和度低下に陥った.患者が“死にそう,死にそう”と言い続けるので,私はベッドサイドで呼吸を促した.私にできることは,バイタルサインを測り,手を握り,呼吸するように言うことだけだった.」 | 代替案と選択肢の探索(Sheldon, 2017) | ||
| テイラーは,脳神経病棟に勤務していたため,多くの看護師が患者の精神状態の変化を神経学的な出来事に帰結させる傾向があったと説明した.しかしテイラーは患者の血糖値を検査する必要性を適切に評価した.テイラーは患者の過去の病歴と現在の評価を結びつけることができたので,患者はブドウ糖を投与され,病状はすぐに改善した. | |||
| 脚から胸にかけて放散痛を訴える男性患者について,2つ目の臨床判断を行った.ポーラは,患者が救急部から病棟に移った後,目視で患者の覚醒,注意力,快適さを確認した.看護助手は,血圧は70/50 mmhgと報告した.ポーラはすぐに血圧を再チェックし,低値であった.ポーラは,血圧は低いが患者の心拍数は毎分70回と正常であったため,困惑していると述べた.彼女は研修医に電話し,患者に輸液をするように言った.この患者には心不全の既往歴があったため心配になったが,患者に心不全の兆候は見られないと判断した. | 結果の評価と再評価(Sheldon, 2017) | ||
| ケビンが心拍数が速く,呼吸数が不規則で,酸素飽和度が低い患者を報告したときに,自信と粘り強さが鮮明に表れた.カルテを調べても,これらの徴候や症状の原因となるような患者の既往歴は見つからなかった. | |||
| 前頚椎離断固定術の術後の患者は通常,硬い頸椎カラーを装着し,頸部に包帯を巻いて病室に来る.患者は頸部ではなく頸部の痛みが増していることを訴えた.薬が効かず,呼吸困難が増している.リアはすぐに医師助手に連絡し,患者を評価し,炎症と腫れを抑える薬を依頼した. | |||
| 患者はII型糖尿病の既往歴があり,経口薬を服用していた.患者は転倒のため救急部で治療を受け,経過観察のためリアの病棟に送られ患者は前夜よく眠れず,非常に疲れていて,救急外来でたくさん眠っていたという報告を受けた.リアは患者が熟睡しているはずがないと判断しベッドサイドの看護師に患者の血糖値を確認させ,血糖値が非常に低いことを確認した.低血糖プロトコールに従ってブドウ糖を投与し,患者の血糖値を頻繁に再確認した.詳しく調べると,患者は救急外来で低血糖となりジンジャエールを飲んだ後,リアの部署に移送されていたことが判明した. | 情報検索と新しい情報の先入観のない統合(Sheldon, 2017) | ||
| 「ステップ1は患者に何か他のことが起こっていることに気づくことだった.ステップ2で患者の血圧が大丈夫か確認する必要があった.ステップ3で患者の酸素飽和度が低下したことを認識し,さらに調査する必要性を認識した.ステップ4で患者の呼吸音を聞くという実践を行った.(中略)もし患者が,「呼吸に問題はない」と言ったら,私は呼吸音を聞いて,患者の空気が減っているという結論を導き出した.そして,気胸を患っているのではないかと思った.患者に空気の吸気が減ったかと聞くのがステップ5だった.次のステップは医師に電話して,「この人を診に来るべきだと思います」と言うことだった. | 批判的思考(Duchscher, 2003) | ||
| 「直観的に見たときに倦怠感が強く,触った時に少し熱があり(体温を)測らせてもらった」 | 患者の異変への気づき(川瀬ら,2023) | ||
| 「いつもより大声がして不審に思って訪室すると,酸素が低下し,チアノーゼがみられた」 | |||
| 「体熱感があるため,もう1回測るように指導を受けて,そのときに気づいて,すぐ先生に報告しようという話になった」 | 先輩看護師への相談による判断と対応(川瀬ら,2023) | ||
| 「その日の日勤の先輩の看護師さんに相談して,ショートカンファレンスを開かせてもらい,せん妄の病態や,その対応について話し合った」 | |||
| 身体症状変化への気づきの遅れと対応困難 | ある看護師は,患者が発熱したときにとりうるさまざまな行動を知っていたが,発熱した患者に直面したとき,どの行動が最も適切か判断できなかったと説明した. | 役割のストレスとなる側面(Gerrish, 2000) | |
| 「患者のバイタルサインに異常があった時(発熱や血圧の変動など)や,嘔気,腹痛の訴えがあり,対処が必要だと思ってはいるが,(医師からの)具体的な指示が無い時に困っていると思うことがよくあった」 | 思考や判断への志向の弱さ(北村ら,2008) | ||
| 「いつもの振戦だと思い,熱もそのときはあまりなかったので大丈夫と思い見過ごした」 | 気づきの欠如(川瀬ら,2023) | ||
| 「意識レベルが低下していることを先生に報告したときに,どういうことが考えられるかあまり考えられていない」 | |||
| 「状態がおちつかない患者を受け持つことになった日,カンファレンスの前に「状態を把握できなかったので見れません」と泣かれた.どこがわからなかったのか尋ねると「全部わかりません」と返事が返ってきた」 | 病態アセスメント能力の未熟さ(北村ら,2008) | ||
| 「夜勤明けの朝の検温時,ある患者の空腹時血糖値が低値であった.その患者に関しては,医師からの低血糖時の指示が出ていなかった.新人看護師は一緒に夜勤をしていた先輩に相談の上,主治医に連絡した.〔…略…〕他の患者からのナースコールにも追われて結局,低血糖発覚から1時間経過し,ようやくブドウ糖を投与することができた」 | 変化する症状への対応困難(北村ら,2008) | ||
| 「予定を立てるとその通りにしか行えず,患者の訴えや状態変化に対応できなかった」 | |||
| 「ただ単にぼうっとしているのか,せん妄の症状でぼうっとしているのか,ガスがたまってレベルが低下しているのか見分けがつかなかった」 | 患者の状態の見極めの困難(川瀬ら,2023) | ||
| 「脳外の患者さんの急変を見たことがあれば,危険な状態を判断できたと思う」 | |||
| 「せん妄の患者さんをその時初めて見たため,焦ってしまい,点滴も抜かれて,マスクを外され,サチュレーションは下がっていく一方だったため,アセスメントどころではなかった」 | 対応への焦り(川瀬ら,2023) | ||
| 患者の要望・苦痛への適切な対応 | ポーラは患者に “No” と言うのが嫌なことがあると回想した.数カ月血糖コントロールが良好だった糖尿病患者がリンゴジュースのおかわりを求めたときのことを話した.彼女は血糖値を上げることを知っていたが,患者にジュースを与えた.翌日主治医が血糖値を見て,ポーラに患者がジュースを飲んでいたかどうか尋ね,自分が患者に飲ませたことを認めた.医師とポーラは患者に果物一片ならば血糖値に影響しにくいことを説明した. | 結果の評価と再評価(Sheldon, 2017) | |
| 「昨晩,彼女が唯一欲しがっていたもの…彼女は欲しいものを表現できないんだけど,シャワーをすごく欲していたんだ.それで夜の11時半にシャワーを浴びさせてあげたら,彼女の表情が明るくなった」 | 目的と価値観の確認(Sheldon, 2017) | ||
| 「夜勤勤務時間の朝の忙しい時間帯,シーツを伸ばしてほしい,枕を動かしてほしいといった,それほど優先度の高くない依頼を何度もされる患者さんがいた」 | 多忙(平山ら,2011) | ||
| 「(人数配置が少ない時間帯に)病室に行くが気がせいて(戸口で)また来ます,安心してください,と声はかけるが,なかなか病室へは入れなかった」 | |||
| 「包帯交換を行っていました.私は今すぐ行うことが重要だと思っておらず,患者は数週間家族に会っていなかったので,交換のために家族を追い出すつもりはありませんでした」 | 知識の開発(Duchscher, 2003) | ||
| 患者の要望・苦痛への対応における困難 | 「(中略)患者は毎日頻回に排尿するが腹水のため,歩行困難であり,ずっとうんざりした顔をしていた.そして,「どうせ俺がこう言ってもするげんろ?患者より医者の言うことを優先すれんろ」と言われた.(中略)私は患者が排尿の機会ごとに大変な思いをしていたことはわかっていたが,治療の効果と主治医の指示にばかり気をとらわれていたためそれは仕方がないと思っていた」 | 決められない優先順位(平山ら,2011) | |
| 「(24時間モニター心電図)電極の位置もはりかえていたが,皮膚に発赤があり,患者は痒みのため外してほしいと言った.突然死のリスクを考えたならば,外せないことは予測できたが(患者の苦痛を考慮し,主治医の許可を得,モニター心電図を外した.)患者からは「何人もの看護師に言ってきたが,あんたが初めてなんとしてくれた」と言われた.しかし,私は(外した後)疾患の特徴から突然死が一番怖いし,24hEKGがなくなるということは,突然死の発見が遅れるのではないかと思った」 | |||
| 「(鎮痛剤を使用しても痛みを訴える)患者にも夜間であるため静かにするよう説明するも理解してもらえなかった」 | 対応に苦慮する患者(平山ら,2011) | ||
| 「(洗髪不可の)必要性を本人に説明し,理解されているが,なお訴えてくる患者に対し判断に困った」 | |||
| 「運動性失語もあり,うまく思っていることを伝えられず,イライラしていることが多かった」 | |||
| 「ある患者は,身体的苦痛がある時はもちろんのこと,普段の何気ない会話でもいつも(どのナースに対しても)攻撃的に話す.身体的に気になることがあれば,その状態を聞くと怒る.症状を医師に伝えろと(言って)怒る.医師に伝えても毎日毎日同じことでナースを怒る」 | |||
| 「(脳梗塞で不全麻痺の)患者さんが歯を食いしばりながら,左手を叩いている姿を見て,どんな言葉かけをしたらいいのか分からなかった」 | |||
| 「夜勤帯のときに痛みを訴えてくる患者がいて鎮静剤などを使用し,疼痛コントロールを行った.しかし,痛みの訴えは続き(自分は)どうすることもできなかった」 | |||
| 「1 人にしないでという患者の訴えを聞き,そばに付き添っていたが自分の仕事をしなければいけないため,席を外した」 | 焦り(平山ら,2011) | ||
| 患者は暖房を入れる時期であるため,4人部屋で暖房を調節できないのだろうか,暖房が入ると体が熱くなり耐えられなくなるので暖房を切ってもらえるだろうかと訴えている.しかし新人看護師はアイスノンを使用することに執着している. | 思い込む(藤内ら,2008) | ||
| 精神状態が不安定な患者への対応における工夫と葛藤 | 患者は認知症の高齢女性で,なだめることができなかった.ポーラは,その状況を心が痛むと表現した.その認知症の患者は,自宅で世話をしてくれていた夫のもとへ帰ろうとしていたが,今は脳卒中で入院中だった.この患者は嗚咽と暴力を交互に繰り返した.治療的に彼女と話すことはできなかった.経験豊富なスタッフのサポートを得て,警備チームと医師を呼び,鎮静剤で患者を医学的に管理した. | 代替案と選択肢の模索(Sheldon, 2017) | |
| 脳損傷のために構音障害の患者がパニック発作を起こしていたと説明した.ポーラが患者の目を見るとただ目を見開いて,泣き叫んでいた.枕元には家族の姿はなく,時間を作ってベッドサイドに座ったと声をかけ,背中をさすった.これらの介入によって,患者は再び落ち着きを取り戻し,眠りについた.ポーラは,患者の不安に対して薬物療法を行わないという臨床判断を下した.ポーラは,患者の部屋を出るとき,患者がどれほど不安だったかと思うと涙が出てきたと述べた.ポーラは,看護師として「仕事中は一日中さまざまな感情を感じている」と述べた. | 目的と価値観の聞き取り(Sheldon, 2017) | ||
| 看護ケア実施場面での臨床判断 | 生活援助における不確実な判断や困難 | 「不安が強いのかよくわからないんですけど…(中略)こちら側がADL をあげようと,ちょっとずつでも,介助するんですけどそれを拒否される感じで…」と患者の症状や反応の観察を行い,患者の状態に疑問を持ち考えていた. | 自分で解決する努力(木佐貫ら,2016) |
| 経管栄養を接続する前に,経鼻からのチューブが胃に挿入されているか,聴診して確認をした.しかし,音が良く聞こえなかったため首をかしげながら何度も確認をしていた.「先輩に聞かないと分からない.自信ない」でも「先輩看護師も忙しそうでつかまらないし…」と思っていた.何度か行ううちに「あ,やっときこえた!」ため,接続した.このようなことは,「よくあるけど,一応確認できたので先輩看護師に報告や相談をしないんです.簡単なことなので,忙しい先輩をつかまえるのは悪いから.(中略)」とのことだった. | 先輩看護師に遠慮する(西田,2006) | ||
| 意識障害があり臥床状態のシャワー浴の際,以前シャワー浴の最中に痙攣を起こしたことがあったので,「また痙攣を起こしたら怖い.」と思っていた.「(中略)患者さんが落ちるわけないけどなんか体格いいから落ちそうで怖いから,早く終わらせて帰らなきゃ.背中とかは次の時に洗ってもらってね」と焦り,急いで体を洗い,「何かあったら怖いから,着替えはお部屋に帰ってゆっくりすればいい」と,患者の体にはバスタオルを1枚だけのせて部屋まで戻り,「やっと帰ってこれましたね~」と患者に向かって安堵したように話しかける.「一人でやるのは不安で,怖いけど,先輩にはもう一緒にやってくださいとは言えない.3ヶ月目だしなんとなく,もう絶対に1人で入れなきゃいけないっていう感じ」だという. | |||
| 看護師Aは先輩看護師と共に,ベッド上で患者の体位変換を行うことになった.(中略)先輩看護師は臥床患者の体位変換の手順をすべて説明した.看護師Aは「確かに集合教育は受けてないけど,学校でいやというほどやってるからやり方はわかってるんだよなぁ.(中略)先輩が言っているようにやらなくたって,一人の時はいつもひょいってできちゃうし….ま,説明してくれるのはいいから適当に聞いておこう」と話し半分に聞いていたこともあり,説明された手順通りには行わなかったため,先輩看護師は再度「そうじゃなくって…」と説明しながら実施してみせた. | 習慣化した方法を優先する(西田,2006) | ||
| 「例えば口腔ケア,食事介助など先輩看護師によってアセスメントや方法が違うため混乱していた」 | 変化する症状への対応困難(北村ら,2014) | ||
| 「日勤帯でケアを拒否する患者に対してどうしていいか困っていた.〔…略…〕患者の同意を得られないが,ケアしない訳にはいかないという風に困っているようだった」 | 看護技術の未熟さによる失敗や戸惑い(北村ら,2014) | ||
| 医療処置実施における対応困難 | 創傷被覆を行うことには自信があるが,創傷治癒の観察を解釈し,適切な処置を講じる能力に自信がなかった. | 役割のストレスとなる側面(Gerrish, 2000) | |
| 「中心静脈ラインを使用して帰宅する患者がいたのですが,彼らはラインを清潔に保つことと,いつ洗浄しなければならないかを知りたがっていた.私は全然分からなくて,方針を調べたら書いてあった」 | 看護師の役割におけるストレスの多い側面(O’Shea & Kelly, 2007) | ||
| 看護計画に吸引時間が書いてあることに目を通していた.そのため,予定時間になるとおもむろに患者のところに行き,(中略)患者の様子はよく観察しないまま口腔にネラトンを挿入し,吸引を始めた.(中略)「ずるずる引けてきているし,ここでやめたらもったいない!長い時間吸引されたら苦しいだろうから自分は嫌だけど,何度も口の中にネラトンを入れられるのは嫌じゃない?だったらちょっと我慢してもらって最小回数でやった方がいいかな.今,時間を測っていないから15秒以上はやっているかどうかはわからないなぁ」と考えていた.「患者さんの様子より,痰のことしかみていなかった」ので「ごめんなさいね~」と言いながら1分程度吸引圧をかけ続けた.「自分の中でサクションって秒で数えるよりも,ある程度引いて(吸引)みて,音が変わった時に終わったって感じが目安になっていたような気がします.(中略)」と話した. | 習慣化した方法を優先する(西田,2006) | ||
| 「女性に尿道カテーテルを挿入したが,〔…略…〕尿の流出はなく違和感を訴えられ,カテーテルを抜去して再挿入をした.この時,膣に入れてしまったため,患者にどのように説明と謝罪をしたらよいか困っていた」 | 説明責任能力の不足(北村ら,2014) | ||
| 「長日勤帯で患者の静脈ラインの接続が外れ,床が血だらけになっている場面.患者の状態把握がすぐに出来ず,どうしてよいか分からず困っていた」 | 新人看護師のキャパシティーを超えた業務への配置(北村ら,2014) | ||
| 与薬における情報活用と判断 | ケビンは,血液製剤の必要性は理解していたが,投与速度がわからないことを懸念していた.「患者は腹水が溜まっていて,サードスペースへの体液移動を起こしていたので,医師たちは体液を必要な場所に戻したかった.方針で指定されていた投与量は,1時間あたり500 ml未満でした.投与方法についてもう少し詳細なアイデアがあればと心から思いました.」 | 情報を探し,新しい情報を偏りなく吸収する(Sheldon, 2017) | |
| 「起きていようがいまいが関係なく,話しかけた.彼女は目を開け,私に微笑みかけた.私はすぐに椅子に座り,彼女はいくつかの質問に答えられた.彼女は痛みは否定し,私に微笑みかけたときの彼女の目を見て,私はただ,彼女は快適なんだと思った.私は彼女の部屋に座り,数分間彼女の手を握った.」と,必要に応じて2時間ごとにモルヒネを投与するように指示されていたが,彼は投薬しないことにした. | 代替案と選択肢の探索結果の評価と再評価(Sheldon, 2017) | ||
| 「何種類か眠剤を飲んでおられるため,高齢の人は薬がたまることがあると考えた」 | 分析的思考(川瀬ら,2023) | ||
| 与薬における判断の困難 | 「血圧高値時(に頓服を服用させる)指示はあったが,(どの時点で)頓服を使用するか判断もできず,他の看護師に相談するわけでもなく,対処していなかった.指示はあるが,どの程度まで様子を見てよいのかがわからず,そのうちに業務に追われて忘れてしまったのではないか」 | 患者の病態像に応じた投薬指示実行の判断困難(北村ら,2014) | |
| 「朝の申し送りの時に(頓服薬について)このように使っていこうとカンファレンスをしていましたが,〔…略…〕他の先輩看護師に聞いたりしてから患者にもう一度説明やいつ頃の方が良いのかと答えるといった対応をしていました」 | |||
| 「患者に起きる症状や業務に慌てて,何回も投薬を間違えていた」 | |||
| 「患者が自分の判断で「この薬は飲みたくない」と拒否した時に,どう説得したらいいのか困っていた.(その患者は)頑固で言い出すと聞かない性格だったので,(新人看護師は)どう対応していいのかわからないようだった」 | 説明責任能力の不足(北村ら,2014) | ||
| 「輸液ポンプと手動用(点滴ルート)の違いが分からずに,手動用のルートを輸液ポンプにセットしていましたが,院内研修と病棟でオリエンテーションを2 度も行いましたが間違えてしまいました」 | 看護技術の未熟さによる失敗や戸惑い(北村ら,2014) | ||
| 看取りのケアにおける戸惑い | 「私は学生として死に遭遇したことはなかったし,学生として人を看取ったことがなかったから,まったく初めての経験で,私はこのやり方でいいのだろうかと不安に思った.」 | 看護師の役割におけるストレスの多い側面(O’Shea & Kelly, 2007) | |
| 安全をまもる場面での臨床判断 | 転倒・離棟対策における解釈の不足と困難 | 「軽度の認知障害を持つ入居者が,ある単語で合図を求めたことがった.だから私は(徘徊リスクのある患者用のブレスレットを)つけなかった.忘れっぽいのしれないと思った.看護師長が一緒に検討してくれて,まずはブレスレットをつけるように言ってくれた.」 | 結果の評価と再評価(Sheldon, 2017) |
| 「ウーゴ君をつけると意図的にひもを引っ張り,何度もナースコールを鳴らし,そのたびに訪室していたので,その他の業務が遅れていってとても困まった」 | 焦り(平山ら,2011) | ||
| 「転倒の危険があるので,ナースコール指導や夜間ウーゴ君の使用を進めるが,ナースコールは押すことなく,また体動コールも強く拒否された」 | 対応に苦慮する患者(平山ら,2011) | ||
| 「ある夜勤の日,患者はトイレへ行った際,転んでしまい,頭部は打たなかったが,膝,腕をぶつけた.その際も,「いい!いい!」と怒鳴るなどあり,なかなか看護師の手を借りたくないという様子で拒否が強かった」 | |||
| 暴力行為への対応における困難と危機的状況 | 「夜間に患者から腕をつかまれ,キスを迫られたこと.(そのような行為は)やめるよう説明し,注意した」 | 想定外の困難な出来事(平山ら,2011) | |
| 「患者は私を殴ったり,蹴ったり,引っ掻こうとしたり,悪態をついたり,倒れそうなほど不安定だった.私は緊急ボタンを押そうとしていたが,作動しなかった.10分経っても誰も来なかった.」 | 夜勤と臨床判断(Sheldon, 2017) | ||
| 臨床判断のための情報収集と報告 | 情報収集における分析的思考 | 「既往がないからこの部分は観察しないというのではなく,目で見てちゃんと調べないといけない」 | 分析的思考(川瀬ら,2023) |
| 情報収集の不足と判断の遅れ | 前日の様子を申し送りで聞いた後,「気をつけて熱をみていきます」とプレゼンテーションをしたが,「朝7時に測って36度台だったので,まさかもう熱はないだろう,変化があったときに測定した方がいいのはわかっていたけど,バイタルサインは各勤務帯1検,という感じをなんとなく自分が持っていたから,午後の締めの時間にみればまぁいいかな」と思って午後まで一度も測定することはなかった.しかし,いざ測定してみると38度を超えており,看護師Eはその様子に驚いて先輩看護師に相談をし,一緒に対処した.この状況について「急なことでびっくりして,こうなると午前中も測れば良かったな~って思ったけど,午前中に全身清拭をした時に熱い感じはなかったので,熱はなかったと思う….でも結局全然測ってないわけだから,なんとも言えないですよね….難しいですよね」 | 知識を実践場面に応用できない(西田,2006) | |
| 「先輩には,尿路感染症などについては特に何かないかと指摘され,全体的なアセスメントが出来ていなかった」 | 情報を統合したアセスメントの不足(川瀬ら,2023) | ||
| 「自分でも,もう少し踏み込むことができれば,もしかしたら(もう少し)聞くこともできるのかもしれないんですけど,技術的なことも,もちろんあると思うんですけど…」など患者へ対応する中で必要な情報を上手く引き出し情報収集をすること | 基礎的な知識・技術不足を感じる(木佐貫ら,2016) | ||
| 「(中略)でも心カテやっていることとか,なにか原因があるはずなので,そこのところは詳しく聞けなかったけれど,また話を聞いて,何かあったりしたら申し送ろうと思います.」 | 判断を後回しにする(藤内ら,2008) | ||
| 患者が訴える症状について,症状の程度はどうか,症状による苦痛の程度はどうか,日常生活への支障はあるのか,症状は悪化しているのか,などの判断に結び付くような情報収集をせずに終了している. | 自己の知識の確認で納得し収束(藤内ら,2008) | ||
| 患者とのコミュニケーションにおける困難 | 「入院してすぐに気管内挿管した患者とのコミュニケーションに戸惑っていたと思います」 | 変化する症状への対応困難(北村ら,2008) | |
| 「同じケアでも,「○さん(別の看護師)はこうだった」と患者より指摘されて困っていた」 | 説明責任能力の不足(北村ら,2008) | ||
| 「自分のことを患者に指摘されたり文句を言われたりすると,真っ白になって対応できないみたいだ」 | |||
| 「(医師の指示を)説明しても,先生がそういうふうにされていますよとか,薬の意味とか説明しても納得が全然いってないというか…」 | 適切な行動がとれない(木佐貫ら,2019) | ||
| 医師への報告における自信と恐怖 | 夜勤では全体像を把握し,医師に電話するような“ちょっとしたこと”をしなければならない.メラニーは,医師や医師助手に電話するときは,自信を持ち,「患者にとって良い結果になるかならないか分からないので,自分の声を積極的に出す」必要があると話した | 代替案と選択肢の検討(Sheldon, 2017) | |
| 進行がんの高齢患者は突然,心房細動になった.ポーラは医師に連絡し,心臓の動きを抑える薬を投与するよう指示された.30分後,患者の心拍数とリズムは相変わらず速かった.ポーラは経験豊富な同僚に相談し,迅速対応チームと医師に連絡するように助言を受けた.「同僚の指導のおかげで,電話することができた」と話し,迅速対応チームを呼ぶのをためらったのは,医師の機嫌を損ねるのが怖かったからだと説明した. | |||
| 「患者は手術しなくないと言っていることを医師に伝えれば,もっとオープンに接することができたのではないかと思う.皆彼を怖がっていて,彼に何かを伝えるのが怖い.患者が望んでいることや必要としているものを手に入れることより,怒られることの方が怖かった」 | 知識の開発(Duchscher, 2003) |
【患者が表出する反応への臨床判断】として身体症状変化,患者の要望や苦痛,精神状態が不安定な患者への対応に関する5つのサブカテゴリが生成された.
[身体症状変化への気づきと適切な対応]の例として,血圧や意識レベルなどから悪化に気づき適切な行動をとれた経験がある一方(Sheldon, 2017;川瀬ら,2023),[身体症状変化への気づきの遅れと対応困難]として悔しさを感じ,自身の能力に限界を感じる経験もしていた(Liang et al., 2018;Sheldon, 2017;北村ら,2014).
[患者の要望・苦痛への適切な対応]では,良い帰結に至る経験もあるが(Sheldon, 2017),[患者の要望・苦痛への適切な対応における困難]として,忙しさなどで患者の要望に応えられない,判断できないなど(平山ら,2011),困難も多くみられた.
[精神状態が不安定な患者への対応における工夫と葛藤]では,周囲の助けを借り,工夫しつつも葛藤する経験をしていた(Sheldon, 2017).
2) 看護ケア実施場面での臨床判断【看護ケア実施場面での臨床判断】として,生活援助,医療処置,与薬,看取りに関する5つのサブカテゴリが生成された.
[生活援助における不確実な判断や困難]では,体位変換などの際に,方法の選択や拒否への対応について,不安や不確かさを持ちながら判断していた(西田,2006;北村ら,2014;木佐貫ら,2016).
[医療処置実施における対応困難]では,吸引などを行う際に,状況に合わせた判断に窮する経験があり(Gerrish, 2000;Duchscher, 2003;西田,2006;O’Shea & Kelly, 2007;北村ら,2014),[与薬における情報活用と判断]では,患者の状態や薬剤の特徴から,投与スピードや投与の可否を判断していた(Sheldon, 2017;北村ら,2014;川瀬ら,2023).
[看取りのケアにおける戸惑い]では,学生時代の経験がなく,戸惑いを持ちながらも判断し行動していた(O’Shea & Kelly, 2007).
3) 安全をまもる場面での臨床判断【安全をまもる場面での臨床判断】として,転倒・離棟対策と暴力行為への対応に関する2つのサブカテゴリが生成された.
[転倒・離棟対策における解釈の不足と困難]では,患者の状態の解釈の不足を補うために看護師長の助言を得て対応する経験や(Sheldon, 2017),対策を拒否され業務が進まない困難を経験していた(平山ら,2011).また,[暴力行為への対応における困難と危機的状況]では,咄嗟に対応しながらも困惑する経験をしていた(Sheldon, 2017;平山ら,2011).
4) 臨床判断のための情報収集と報告【臨床判断のための情報収集と報告】として,情報収集,患者とのコミュニケーション,医師への報告に関する4つのサブカテゴリが生成された.
自身の目で確認する大切さを自覚し(川瀬ら,2023),[情報収集における分析的思考]を持ちながらも,[情報収集の不足と判断の遅れ]として,先輩に促されて情報の不足に気づくなどの経験をしていた(西田,2006;平山ら,2011;木佐貫ら,2016;川瀬ら,2023).
[患者とのコミュニケーションにおける困難]では,気管挿管患者との非言語コミュニケーションへの戸惑いや(北村ら,2014),患者からの指摘への困惑があり(北村ら,2014;木佐貫ら,2016),[医師への報告における自信と恐怖]では,医師の反応を恐れつつも,患者のために伝えようとする経験をしていた(Duchscher, 2003;Sheldon, 2017).
3. 新人看護師に期待される臨床判断能力先輩看護師らが新人看護師に期待する臨床判断能力について記載された文献は4件であった.
4件の対象文献の先輩看護師について,Senior Professional Nursesという上級実践看護師が新人看護師に求める臨床判断能力に関して記述がある文献が1件(Khoza & Ehlers, 1998),プリセプターが求める能力を扱った文献が1件(Nielsen et al., 2016),新人看護師とプリセプターや臨床看護コンサルタントなどの教育担当者,管理者に同時に調査したものが2件(Roberts & Farrell, 2003;Clark & Holmes, 2007)であった.
Khoza & Ehlers(1998)の研究では,80%以上の上級実践看護師が新人看護師に期待する臨床判断能力として,患者から十分な情報を得る,患者のニーズを把握する,優先順位をつけて看護介入を特定するなどの能力が求められていることが明らかとなった.また,新人看護師がこれらの能力を持っていると評価した先輩看護師は40~60.8%であった.
Roberts & Farrell(2003)の研究では,プリセプターと臨床看護コンサルタント(CNC: clinical nurse consultants)が,新人看護師に期待する臨床判断のレベルについて調査され,プリセプターは半数以上の項目でCNCよりも高レベルの自立度を期待していた.また,同研究では新人看護師自身の認識も調査されており,新人看護師,プリセプター,CNCの3者で期待されるレベルが一致したものは22%であり,立場によって期待するレベルに大きな相違があることが示された.
また,プリセプターおよび管理者が,看護技術の実践ばかりではなく,その際の批判的思考や全人的ケアを求める記載がある文献が2件あった.プリセプターは新人看護師が看護技術を遂行することに夢中で患者の反応に目を向けないと感じ,批判的思考を持ちながら看護技術を行うことを求めていた(Nielsen et al., 2016).看護管理者も「彼ら(新人看護師)が本当にやりたいことは,仕事をこなすことなのですから.中略,全人的ケアとは何の関係もないのです」(Clark & Holmes, 2007)というように,新人看護師に対してただ仕事をこなそうとしていることへの懸念を表出し,全人的ケアを意識することが求められていた.
本研究により,新人看護師の臨床判断における重要な知見が明らかになった.まず新人看護師の臨床判断の具体的な経験に関する文献が11件,期待される臨床判断能力に関する文献が4件という限定的な数であったことである.この結果は,臨床判断が看護基礎教育や継続教育において重要視されているにも関わらず,新人看護師の臨床判断に関する研究領域がまだ十分に発展していない段階にあることを示している.
限られた研究数ではあるが,以下の重要な知見が得られた.第一に,新人看護師の臨床判断の経験について,新人看護師の臨床判断の場面と経験の全体像が整理された.第二に,立場や役割によって新人看護師に期待する能力が異なることが判明した.第三に,参加観察による実践現場での実態把握や,期待される能力の詳細な内容・水準に関する研究が不足しているという研究ギャップが明らかになった.臨床判断の教育には,実際の経験の現状把握,目標設定のための求められる能力の明確化,研究課題の特定という段階的なアプローチが必要であり,以下の考察では,本研究によって得られた3つの知見および,本研究の独自性と限界について述べる.
1. 新人看護師の臨床判断の経験新人看護師は患者の身体症状悪化,要望や苦痛など患者から表出される反応に対応する場面で臨床判断を行っていた.中でも,患者の身体症状が悪化の際に判断する経験が11件中6件に記載されていた.これらの経験において,新人看護師は能力が及ばずに悔しい思いをし,戸惑いを感じていた.鶴田ら(2012)の研究では,新人看護師は急変時の対応方法の学習ニードが高いという結果が示されている.これは新人看護師自身も身体症状の急変場面への対応能力の不足を認識していることを示唆しており,本研究で明らかになった【患者が表出する反応への臨床判断】における身体症状悪化場面での困難経験と一致する.新人看護師は失敗体験を振り返ることで,不足していた知識や技術を確認し,看護の責任を強く意識するため(山下・坂井,2020),これらの経験を学習ニードに沿って支援することで,成長を促す機会にもなる可能性がある.
また,新人看護師は生活援助などの看護ケア実施場面や,情報収集と報告の場面で臨床判断を経験していた.看護業務量が多い上位項目には,排泄介助や食事の世話,患者からの情報収集が含まれ(坂本ら,2018),必然的に臨床判断を行う機会が生じていると考えられる.
2. 新人看護師に期待される臨床判断能力新人看護師に期待される臨床判断能力について,既存の研究では新人看護師に期待される臨床判断の具体的内容や到達水準について体系的に検討されていなかった.期待する能力を持つと評価されている新人看護師は40~60.8%に留まるという具体的な数値が示されており(Khoza & Ehlers, 1998),期待と現実の間に大きな乖離が存在することが定量的に明らかとなっている.特に重要な知見は,どの程度の能力を期待するかという点において,役割や立場によって新人看護師に求める能力が異なったことである.本研究に含まれたRoberts & Farrell(2003)の研究では,プリセプターは半数以上の項目でCNCよりも高レベルの自立度を期待していた.このような新人看護師を指導する立場にある者の間での期待の相違は,新人看護師が受ける教育内容の不一致を生じさせ,新人看護師の混乱や適応困難の要因となる可能性がある(Duchscher, 2009).したがって,新人看護師の職場適応を支援するためには,指導者間で期待する能力水準についての共通理解を形成することが重要な課題であると考えられる.
看護管理者やプリセプターは新人看護師に批判的思考や全人的ケアの視点という思考プロセスや包括的視点を含む複合的な臨床判断を求めていた(Clark & Holmes, 2007;Nielsen et al., 2016).しかし,新人看護師の看護ケアはタスク指向となりやすく(Garcia, 2023).批判的思考をして,知識を応用へ移行するのは,6か月から1年を要するため(Tyne, 2018),発達段階を踏まえた段階的な教育支援が必要な課題であると考えられる.
3. 新人看護師の臨床判断に関する研究ギャップ本研究において,新人看護師の臨床判断の経験が記載された11件の文献のうち,9件が新人看護師に面接や質問紙調査で経験を調査したものであり,参加観察研究は2件であった.臨床判断には文化や日常の実践が影響しており(Tanner et al., 2022),看護職の職場文化には潜在的な認識や,無意識に作用する前提が含まれるため(田中,2018),面接のみでは捉えきれない側面がある.一方,参加観察は,看護師自身が言語化困難な暗黙の判断プロセスや職場文化の影響を客観的に記述することを可能にする(Zahle, 2012).今後は,面接調査と参加観察を組み合わせ,対象者が認識していない文化や日常性を共に記述することで,より包括的な新人看護師の臨床判断の経験を明らかにすることができると考えられる.
また,前述の通り,期待する能力を持つと評価されている新人看護師は40~60.8%に留まり(Khoza & Ehlers, 1998),新人看護師を直接指導する立場にある先輩看護師は,現在新人看護師が持っている能力では不十分であると認識し,より高い臨床判断能力を求めていることが示された(Roberts & Farrell, 2003).このような現状の能力と期待される能力との乖離を明らかにするためには,先輩看護師が新人看護師にどのような臨床判断能力を具体的に期待しているのか,その詳細な内容と水準について明らかにすることが求められる.
4. 本研究の独自性と限界本研究の独自性として,体系的な文献選定プロセスにより新人看護師の臨床判断という重要な領域の全体像を把握できたことが挙げられる.
本研究の限界として,一般病棟の看護師に限定したため,クリティカルケア,小児科などの特定の専門領域で働く新人看護師には当てはまらない可能性がある.
また,質的研究の統合における研究者の解釈バイアス,および言語や文化的背景の異なる研究の統合による知見の一般化可能性に制限がある.
ただし,これらの限界への対処として,複数の研究者による分析を実施し,文化的文脈の影響については,例えば医師への報告における心理的障壁など国や文化による影響を受けやすい知見と,身体症状悪化場面での判断経験など比較的普遍性を持つ知見とを考慮し,共通する本質的要素の抽出を行った.
新人看護師に期待される臨床判断能力については先行研究が限定的であったが,新人看護師の臨床判断の経験が場面ごとに整理され,これらの経験場面に対応した能力の必要性が示された.
本研究により明らかになった研究ギャップとして,参加観察による研究が少なく,新人看護師の無意識的な判断プロセスや職場文化の影響については十分に解明されていないこと,役割や立場によって求められる臨床判断能力の程度は異なるが,新人看護師に求められる具体的な能力水準については十分に検討されていないことが明らかとなった.
今後の研究では,特定の専門領域における新人看護師の臨床判断についても調査を行い,領域による特徴を明らかにすることが望まれる.また,参加観察を含む多角的手法による臨床判断プロセスの詳細な解明を行い,その知見に基づいて新人看護師の発達段階に応じた臨床判断能力の具体的指標の開発が必要である.さらに,緒言で述べた臨床判断能力育成のための教育プログラム開発に向けて,これらの研究成果を教育実践に応用する研究も求められる.
付記:本研究は,2025年度聖路加国際大学看護学研究科 博士論文の一部に加筆修正したものであります.本研究の内容の一部は,第29回日本看護管理学会学術集会において発表しました.
謝辞:本研究は科学研究費助成事業基盤研究C(課題番号:22K10640)の助成を受け実施しました.また,本研究を進めるにあたり多くのご指導を下さいました聖路加国際大学看護学研究科の小山田恭子教授に深く感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:ISは研究の着想,研究デザインの確立,文献検索,データの抽出および解釈,原稿の執筆を含む研究全般にわたり主導的な役割を担いました.YKは文献のスクリーニング,データの解釈,研究結果の考察において貢献しました.全共著者が本原稿の投稿を承認しております.