2026 Volume 46 Pages 215-226
目的:NICU・GCU看護師の医療関連機器褥瘡予防における困難感に対し,自己効力感を起点にレジリエンスとネガティブ気分を介して困難感との関連を検討する逐次媒介モデルを検証した.
方法:NICU・GCU看護師対象のWeb調査で自己効力感,レジリエンス,ネガティブ気分,困難感等測定しパス解析を行った.
結果:有効回答354名中248名に困難感があり,これは経験年数等より心理的要因と有意に関連した.困難感への有意な直接効果はネガティブ気分のみ(β = –0.135, p = .045)であった.また,自己効力感からレジリエンスへ,レジリエンスからネガティブ気分の各パスも有意な関連が示された.
結論:仮説とした逐次媒介効果は有意ではなかった.しかし困難感はネガティブ気分と直接関連し,心理的要因の重要性が示唆された.困難感の軽減には,知識研修に留まらず自己効力感を高め対人スキルを育む統合的支援の有効性が示唆された.
Purpose: This study aimed to examine a sequential mediation model that explains the perceived difficulties nurses encounter in preventing medical device-related pressure ulcers (MDRPU) in Neonatal Intensive Care Units (NICU). We hypothesized a pathway in which self-efficacy (professional situations) influences perceived difficulties through resilience (interpersonal skills) and negative mood.
Methods: A cross-sectional, web-based survey was conducted among NICU nurses in Japan. The survey assessed self-efficacy, resilience, negative mood, and perceived difficulties in MDRPU prevention. The relationships among these variables were examined through path analysis.
Results: A total of 354 valid responses were obtained, with 248 nurses (70.1%) reporting difficulties in MDRPU prevention. Perceived difficulties were not significantly associated with demographic factors such as clinical experience but were significantly related to psychological factors. Path analysis demonstrated significant associations: self-efficacy (professional situations) was positively related to resilience (interpersonal skills), which in turn was negatively related to negative mood. Furthermore, negative mood was the only variable with a significant direct effect on perceived difficulties (β = –0.135, p = .045).
Conclusion: The hypothesized sequential mediation effect was not significant. However, perceived difficulties were directly associated with negative mood, suggesting the importance of psychological factors. The findings suggest that integrated support aimed at strengthening self-efficacy and cultivating interpersonal skills, extending beyond knowledge-based training, may be effective for reducing difficulties.
褥瘡は,患児の生活の質(Quality of Life)を著しく損ない,医療関連合併症のリスクを高める主要な有害事象である.一方で,近年,医療機器の持続的な圧迫によって引き起こされる医療関連機器褥瘡(Medical Device Related Pressure Ulcer,以下,MDRPU)が,新たな臨床課題として深刻さを増している(NPIAP et al., 2019).特に,多種多様な医療機器に24時間曝される新生児集中治療室(Neonatal Intensive Care Unit,以下,NICU)・新生児回復治療室(Growing Care Unit,以下,GCU)の患児のような脆弱な患者集団では,この問題は極めて深刻である.MDRPUの好発部位は多様であり,例えば非侵襲的陽圧換気(Nasal Intermittent Positive Pressure Ventilation,以下,NPPV)のマスクや気管内チューブ,パルスオキシメーターのプローブ(Yarkıner et al., 2024),および血管内留置カテーテルのハブ等が報告されている(中村,2022).したがって,その予防には個々の機器の特性を理解した専門的な知識とケアが不可欠となる.
しかし,知識や技術の適用だけではMDRPU予防は完遂できず,その根拠に基づく実践の導入には,看護師個人の知識不足や多忙さ,同僚からの抵抗,組織の支援体制の欠如といった,個人の要因から組織文化にわたる障壁が存在する(Clarke et al., 2021).生命維持が最優先されるNICUの緊迫した状況は,看護師に倫理的な葛藤や心理的負担をもたらしやすい.この知識だけでは解決困難な葛藤状況でケアを遂行するためには,逆境を乗り越え,実践を続けるための基盤となる,看護師個人の内的な強みである心理的資源が重要となる.
心理的資源とは,逆境を乗り越え目標達成を促す個人の内的な強みを指し(Grover et al., 2018),本研究では,この心理的資源の中でも看護実践における行動変容の鍵となる自己効力感とレジリエンスに着目した.
自己効力感とは,特定の状況において必要な行動をうまく遂行できるという個人の能力に対する信念であり,行動変容を促す最も重要な規定要因とされる(Bandura, 1977).また,レジリエンスとは,ストレスの多い状況において,個人の内的な強みを用いて肯定的に適応していくプロセスとして定義される(Wagnild & Young, 1993).自己効力感とレジリエンスの間に正の関連があることは,国内外で広く報告されている(Ghasempour et al., 2024;Zhang et al., 2022;根木・片山,2018).
しかし,これらの心理的要因を統合し,自己効力感を起点としてレジリエンスがネガティブ気分を媒介し,最終的に困難感に至るという一連の具体的なプロセスを実証的に検証した研究は,国内外の主要な文献データベースの範囲では見当たらなかった.本研究ではその媒介要因として,特に困難感と直接的に関連すると考えられるネガティブな感情状態に着目した.事実,ストレスフルな状況下にある看護師のネガティブな情動は,実践におけるリスク認識を悲観的にさせ,実践を妨げる可能性が報告されている(Huff et al., 2023).
そこで本研究では,Fredrickson(2001)の拡張形成理論を理論的枠組みとして設定する.同理論はポジティブ感情が個人の思考や行動の幅を広げ,持続的な資源を構築する上昇スパイラルを生むと提唱するが,本研究ではこの考えを応用し,まずネガティブな感情状態から脱却することが,この「心理的好循環」を生み出すための重要な前提条件になると考えた.この観点から,自己効力感が行動変容の最も重要な規定要因であるとするBandura(1977)の理論に基づき,まず専門的状況における自己効力感をモデルの起点に設定した.そして,先行研究で国内外を問わず広く示されているように,自己効力感がレジリエンスを支えるため,自己効力感はまずレジリエンスを高めると仮定した.特に,多職種連携が必須となるNICU・GCUの臨床現場では,レジリエンスの中でも他者と交渉・調整する対人スキルが重要となる.さらに,円滑な協働は,生命維持を最優先するが故の倫理的葛藤から生じやすいネガティブ気分を軽減させることが期待される(Delgado et al., 2020).そこで本研究では,高められた対人スキルがネガティブ気分を軽減させ,その結果として最終的にMDRPU予防における困難感が軽減されるという,一連の具体的な逐次媒介モデル(以下,本モデル)を想定した(図1).したがって本研究の目的は,この理論的枠組みに基づき,NICU・GCU看護師のMDRPU予防実践における困難感に対し,本モデルの構造的関連を,パス解析を用いて実証的に検証することである.

Webにおける質問紙を用いた量的横断調査研究である.
2. 調査対象者日本周産期・新生児医学会の新生児認定施設のうち補完施設を除く基幹施設と指定施設303施設に所属するNICU・GCU看護師とした.
3. 調査期間と手続き調査期間は,2025年2月1日から3月31日までとした.各施設の看護部長宛に研究協力を依頼し,内諾を得られた施設には,対象看護師への配布を依頼し,二次元バーコードを掲載した研究説明文書を郵送した.各施設の担当者から対象看護師に研究説明文書を配布し,研究への協力を承諾した看護師が,個別に二次元バーコードからWeb上の質問紙より回答を得た.
4. 調査内容基本的属性について,性別,年齢,看護師経験年数,NICU・GCU経験年数,クリニカルラダー,最終学歴を調査した.MDRPU予防の知識,技術は,ない,あまりない,どちらでもない,少しある,ある,の5件法で調査した.さらに,MDRPUに関する院内外の研修受講回数を調査した.研修受講回数は3カテゴリー(未受講,少数回,多数回)に分類し分析に用いた.
また,知識習得への準備状況は,Prochaska & Velicer(1997)の行動変容ステージモデルとしても知られる多理論統合モデルを用いて測定した.MDRPUの知識習得に関する行動変容ステージは,前熟考期,熟考期,準備期,実行期,維持期の5段階で調査した.MDRPU予防における困難感の有無は,困難さは感じていない,困難さを感じているかを調査した.
なお,本研究における困難感とは,MDRPU予防を実践しようとする際に,看護師が理想とするケアと現実とのギャップ,あるいはケアを阻む障壁を認識することで生じる,遂行困難であるという否定的な認知・感情状態を指す.
心理的要因の測定には,信頼性と妥当性が検証されている以下の3つの尺度を採用した.
1) 看護師の自己効力感尺度(Nursing Profession Self-Efficacy Scale,以下,NPSS)NPSSは,専門的状況とケア状況の属性の2つの下位尺度,計19項目から成る.各項目は5件法で評定し,得点が高いほど専門職としての自己効力感が高いことを示す.内的整合性(Cronbach’s α = .925)に加え,確証的因子分析による構成概念妥当性,および他の自己効力感尺度との相関による基準関連妥当性が確認されている(竹内ら,2024).なお,本研究における尺度全体の内的整合性はCronbach’s α = .879であり,下位尺度では専門的状況がα = .859,ケア状況の属性がα = .879であり,いずれも高い値が確認された.
2) 看護師のレジリエンス尺度看護師のレジリエンス尺度は,肯定的な看護への取り組み,対人スキル,プライベートでの支持の存在,新奇性対応力の4つの下位尺度,計22項目から成る.各項目は5件法で評定し,一部逆転項目を処理した上で,得点が高いほどレジリエンスが高いことを示す.尺度全体の内的整合性(Cronbach’s α = .84)に加え,探索的因子分析による構成概念妥当性,および複数の外的尺度との相関による併存的妥当性が確認されている(尾形ら,2010).なお,本研究における尺度全体の内的整合性はCronbach’s α = .911であり,下位尺度では対人スキルがα = .767,プライベートでの支持の存在がα = .681,新奇性対応力がα = .685であった.尺度全体で極めて高い信頼性が示され,各下位尺度もおおむね許容可能な値が確認された.
3) 改訂―いきいき度尺度(Psychological Lively Scale-Revised,以下,PLS-R)PLS-Rは,ネガティブ気分,満足感,チャレンジ精神,気分転換の4つの下位尺度,計14項目から成る.各項目は4件法で評定し,ネガティブ気分の項目を逆転処理した上で,得点が高いほど精神的健康状態が良好であることを示す.各下位尺度の内的整合性(Cronbach’s α = .70~.81)に加え,探索的因子分析による構成概念妥当性が確認されている(田中ら,2006).なお,本研究における尺度全体の内的整合性はCronbach’s α = .903であり,下位尺度ではネガティブ気分がα = .802,満足感がα = .860,チャレンジ精神がα = .715,気分転換がα = .768であり,尺度全体および各下位尺度ともに高い値が確認された.
5. 分析方法第1ステップとして,対象者の基本的属性と,MDRPU予防における困難感の有無による各変数の違いを把握するため,記述統計量を算出し,Mann-WhitneyのU検定,およびχ2検定を行った.なお,心理尺度得点は順序尺度であり,正規分布に従わなかったため,2群間の比較にはノンパラメトリック検定であるMann-WhitneyのU検定を採用した.
第2ステップとして,二項ロジスティック回帰分析を実施し,年齢や経験年数等を統制変数として,心理的要因が困難感の有無を予測するか検討した.
最終ステップとして,本モデルを検証するため,パス解析を用いた.この分析の目的は,自己効力感の専門的状況がレジリエンスの対人スキルとネガティブ気分を介して,間接的に困難感に関連するという心理的プロセスを検証することである.そのために,本モデルにおいて以下の3種類の効果を算出し,変数間の構造的関連を検証した.
(1)各変数が困難感に与える直接効果
(2)各変数が媒介変数(対人スキル,ネガティブ気分)に与える媒介変数への効果
(3)自己効力感が媒介変数を経て困難感に与える間接効果
間接効果の有意性検定には,ブートストラップ法(5,000回)を用いた.全ての分析はJAMOVI(バージョン2.5)およびSEMLモジュール(バージョン1.2.5)を使用し,有意水準は5%とした.
6. 倫理的配慮本研究は,帝京科学大学 人を対象とする研究に関する倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:第24A055).対象者には,二次元バーコードからアクセスするWeb調査の冒頭にて,「研究内容を理解し,研究に参加することに同意します」というチェックボックスへのチェックをもって,自由意思による研究への同意を得た.また,回答者の個人を特定できる情報は一切収集せず,データは統計的に処理するため,回答内容が個人と結びつくことはない.
また,質問内容の妥当性を確保し,対象者の負担を最小限に抑えるため,公認心理師資格を有する研究者にプレテストを実施した.
研究協力の内諾が得られた81施設(施設協力率26.7%)に所属する2,288名の看護師にWeb調査を依頼した.分析対象は,有効回答の得られたNICU・GCU看護師354名(有効回答率15.5%)であった.このうち,MDRPU予防に困難感有り群は248名(70.1%),困難感無し群は106名(29.9%)であった.対象者の属性と困難感の有無との関連を検討した結果,行動変容ステージにおいてのみ有意な関連が認められ(p = .038),他の変数では両群間に有意な差はなかった(表1).
n = 354
| 個人の背景 | 困難感無し群 n = 106 |
困難感有り群 n = 248 |
p | MDRPU関連の背景 | 困難感無し群 n = 106 |
困難感有り群 n = 248 |
p | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 年齢,Median(IQR) | 39.5 | (30.0~46.0) | 37.0 | (29.0~45.0) | .439 | MDRPU予防に関する知識,n(%) | .854 | |||||
| 病院勤務経験年数,Median(IQR) | 16.0 | (7.0~21.0) | 14.0 | (6.0~22.0) | .869 | ない | 2 | (50.0) | 2 | (50.0) | ||
| NICU・GCU経験年数,Median(IQR) | 5.0 | (1.1~9.0) | 5.0 | (2.0~10.0) | .402 | あまりない | 11 | (30.6) | 25 | (69.4) | ||
| クリニカルラダー,n(%) | .273 | どちらでもない | 14 | (32.6) | 29 | (67.4) | ||||||
| クリニカルラダーシステムなし | 6 | (30.0) | 14 | (70.0) | 少しある | 58 | (30.2) | 134 | (69.8) | |||
| ノンラダー | 16 | (37.2) | 27 | (62.8) | ある | 21 | (26.6) | 58 | (73.4) | |||
| クリニカルラダーI | 14 | (22.6) | 48 | (77.4) | MDRPU予防に関する技術,n(%) | .931 | ||||||
| クリニカルラダーII | 31 | (25.6) | 90 | (74.4) | ない | 1 | (33.3) | 2 | (66.7) | |||
| クリニカルラダーIII | 29 | (40.3)a | 43 | (59.7)a | あまりない | 14 | (35.0) | 26 | (65.0) | |||
| クリニカルラダーIV | 8 | (28.6) | 20 | (71.4) | どちらでもない | 13 | (27.7) | 34 | (72.3) | |||
| クリニカルラダーV | 2 | (25.0) | 6 | (75.0) | 少しある | 60 | (30.3) | 138 | (69.7) | |||
| 最終学歴,n(%) | .726 | ある | 18 | (27.3) | 48 | (72.7) | ||||||
| 高等学校専攻科 | 5 | (26.3) | 14 | (73.7) | MDRPUに関する病院内研修参加レベル,n(%) | .055 | ||||||
| 専門学校 | 53 | (29.9) | 124 | (70.1) | 未受講群(0回) | 74 | (32.5) | 154 | (67.5) | |||
| 短期大学 | 10 | (34.5) | 19 | (65.5) | 少数回受講群 | 14 | (23.0) | 47 | (77.0) | |||
| 大学 | 33 | (28.7) | 82 | (71.3) | 1回 | 11 | (29.7) | 26 | (70.3) | |||
| 大学院(修士課程) | 4 | (30.8) | 9 | (69.2) | 2回 | 3 | (12.5) | 21 | (87.5) | |||
| 大学院(博士課程) | 1 | (100.0) | 0 | (0.0) | 多数回受講群 | 18 | (27.7) | 47 | (72.3) | |||
| 3回 | 4 | (21.1) | 15 | (78.9) | ||||||||
| 4回 | 1 | (12.5) | 7 | (87.5) | ||||||||
| 5回 | 1 | (11.1) | 8 | (88.9) | ||||||||
| 6~9回 | 1 | (12.5) | 7 | (87.5) | ||||||||
| 10回以上 | 11 | (52.4)a | 10 | (47.6)a | ||||||||
| MDRPUに関する院外研修参加レベル,n(%) | .636 | |||||||||||
| 未受講群(0回) | 93 | (29.7) | 220 | (70.3) | ||||||||
| 少数回受講群 | 12 | (37.5) | 20 | (62.5) | ||||||||
| 1回 | 8 | (36.4) | 14 | (63.6) | ||||||||
| 2回 | 4 | (40.0) | 6 | (60.0) | ||||||||
| 多数回受講群 | 1 | (11.1) | 8 | (88.9) | ||||||||
| 3回 | 0 | (0.0) | 3 | (100.0) | ||||||||
| 4回 | 0 | (0.0) | 1 | (100.0) | ||||||||
| 5回 | 0 | (0.0) | 3 | (100.0) | ||||||||
| 6~9回 | 0 | (0.0) | 0 | (0.0) | ||||||||
| 10回以上 | 1 | (50.0) | 1 | (50.0) | ||||||||
| MDRPUに関する知識習得の行動変容ステージ,n(%) | .038 * | |||||||||||
| 前熟考期 | 6 | (75.0)a | 2 | (25.0)a | ||||||||
| 熟考期 | 42 | (31.6) | 91 | (68.4) | ||||||||
| 準備期 | 35 | (26.9) | 95 | (73.1) | ||||||||
| 実行期 | 2 | (14.3) | 12 | (85.7) | ||||||||
| 維持期 | 21 | (30.4) | 48 | (69.6) | ||||||||
群間比較には,Mann-WhitneyのU検定およびχ2検定を用いた.
a 残差分析の結果,有意な偏りあり.
* p < .05
次に,困難感の有無と各心理尺度得点との関連を検討した(表2).PLS-Rの総合得点(p = .042)および下位尺度のネガティブ気分(p = .005)においてのみ,困難感有り群と困難感無し群の間に有意な差が認められた.この点を検証するため,続く分析では,まず困難感に対する各要因の影響を多変量解析で検討し,最終的に変数間の構造的関連をパス解析で検証した.
n = 354
| 困難感無し群 n = 106 |
困難感有り群 n = 248 |
p値 | 効果量(r) | |||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 自己効力感尺度総合 | 39.0 | (36.0~44.0) | 38.0 | (35.0~44.0) | .870 | 0.019 |
| 専門的状況 | 16.0 | (14.0~19.0) | 16.0 | (14.0~19.0) | .686 | –0.047 |
| ケア状況の属性 | 23.0 | (20.0~25.0) | 23.0 | (19.0~26.0) | .618 | 0.058 |
| レジリエンス尺度総合 | 56.5 | (48.0~65.0) | 56.0 | (48.0~63.0) | .261 | 0.131 |
| 肯定的な看護への取り組み | 19.5 | (16.0~25.0) | 20.0 | (16.0~24.0) | .975 | –0.004 |
| 対人スキル | 14.0 | (12.0~15.0) | 13.0 | (12.0~15.0) | .074 | 0.208 |
| プライベートでの支持の存在 | 17.0 | (14.0~19.0) | 17.0 | (14.0~19.0) | .587 | 0.063 |
| 新奇性対応力 | 7.0 | (5.0~9.0) | 6.5 | (4.0~8.0) | .055 | 0.223 |
| いきいき度尺度総合 | 21.0 | (16.0~26.0) | 19.0 | (15.0~25.0) | .042* | 0.237 |
| 満足感 | 5.0 | (3.0~6.0) | 4.0 | (3.0~6.0) | .117 | 0.182 |
| ネガティブ気分 | 6.0 | (4.0~6.0) | 5.0 | (3.0~6.0) | .005* | 0.332 |
| チャレンジ精神 | 6.0 | (4.0~8.0) | 6.0 | (4.0~7.0) | .145 | 0.169 |
| 気分の転換 | 5.0 | (3.0~7.0) | 5.0 | (3.0~7.0) | .261 | 0.131 |
値は中央値(IQR: Interquartile Range)を示す.
2群間の比較はMann-WhitneyのU検定を用いた.
ネガティブ気分の項目は逆転処理しており,得点が高いほど精神的健康状態が良好であることを示す.
* p < .05
そこでまず,困難感の有無を予測する独立した要因を明らかにするため,二項ロジスティック回帰分析を実施した(表3).単変量解析の結果に基づき,主要な心理的要因としてネガティブ気分を投入し,年齢,NICU・GCU経験年数,クリニカルラダー,院内研修参加レベルを統制変数とした.
n = 354
| b | SE | p | オッズ比 | 95%信頼区間 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 下限 | 上限 | |||||
| 【統制変数】 | ||||||
| 年齢 | –0.019 | 0.014 | .189 | 0.981 | 0.954 | 1.009 |
| NICU・GCU経験年数 | 0.044 | 0.023 | .055 | 1.045 | 0.999 | 1.094 |
| クリニカルラダー | –0.041 | 0.100 | .684 | 0.960 | 0.790 | 1.167 |
| 院内研修参加レベル | 0.193 | 0.157 | .219 | 1.213 | 0.892 | 1.650 |
| 【心理的要因】 | ||||||
| いきいき度(ネガティブ気分) | –0.180 | 0.065 | .005* | 0.835 | 0.736 | 0.948 |
従属変数:困難感の有無(有り=1,無し=0)
b=非標準化係数,SE=標準誤差
モデル全体の適合度:χ2(5) = 13.8, p = .017, Nagelkerke R2 = .054
* p < .05
その結果,年齢,NICU・GCU経験年数,クリニカルラダー,院内研修参加レベルは困難感の有無を有意に予測しなかった.そして,ネガティブ気分はこれらの統制変数の影響を考慮してもなお,統計的に有意な予測要因であった(b = –0.180, p = .005,オッズ比=0.835).この結果は,困難感が属性要因より情動状態と直接的に関連することを示唆する.この知見に基づき,ネガティブ気分を介した心理的要因の構造的関連をパス解析で検証した.
3. 困難感の心理的要因の逐次媒介モデル二変量解析の結果に基づき,本モデルの検証のためパス解析を行った.まず,モデルの妥当性を検討する一環として,二変量解析で有意な関連が認められた行動変容ステージを共変量としてモデルに投入したが,適合度が著しく低く(CFI = 0.771, RMSEA = 0.293),最終モデルには含めなかった.
そこで最終的に,モデルの簡潔性と理論的妥当性を重視し,研究仮説の核心である心理的プロセス(専門的状況,対人スキル,ネガティブ気分)と,理論的に統制すべき背景要因として年齢,NICU・GCU経験年数,クリニカルラダーおよび研修参加レベルを含む最終モデルを構築した.本研究の最終的な目的は,特定のパスのみを想定した限定的なモデルの適合度を検証することではなく,研究仮説の核心である心理的プロセスと,理論的に統制すべき背景要因との間のすべての直接効果および間接効果を,変数間の関連を飽和させる(すべて推定する)形で同時に検討することにあった.この目的を達成するため,本研究では意図的に飽和モデルを採用した.飽和モデルは定義上,データに完全に適合するためモデル全体の適合度指標(χ2, CFI, RMSEAなど)は解釈に用いられないが,個々のパス係数の推定値とその有意性は解釈可能である.よって,これを本研究の結論を導くためのモデルとして採択した.パス解析の全体像を図2に,各パスの係数の詳細を表4に示す.

n = 354
| b | SE | 95%信頼区間 | β | p | ||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 下限 | 上限 | |||||
| 【困難感への直接効果】 | ||||||
| 専門的状況 | 0.009 | 0.009 | –0.008 | 0.026 | 0.074 | .299 |
| 対人スキル | –0.012 | 0.012 | –0.034 | 0.011 | –0.079 | .317 |
| ネガティブ気分 | –0.032 | 0.016 | –0.063 | –0.001 | –0.135 | .045 * |
| 年齢 | –0.003 | 0.004 | –0.012 | 0.005 | –0.075 | .426 |
| NICU・GCU経験年数 | 0.009 | 0.005 | –0.002 | 0.019 | 0.116 | .118 |
| クリニカルラダー | –0.004 | 0.027 | –0.057 | 0.048 | –0.013 | .869 |
| 院内研修参加レベル | –0.005 | 0.012 | –0.028 | 0.018 | –0.030 | .651 |
| 【媒介変数「対人スキル」への効果】 | ||||||
| 専門的状況 | 0.322 | 0.042 | 0.240 | 0.404 | 0.388 | <.001 * |
| 年齢 | –0.014 | 0.027 | –0.066 | 0.038 | –0.046 | .601 |
| NICU・GCU経験年数 | 0.006 | 0.037 | –0.067 | 0.080 | 0.013 | .865 |
| クリニカルラダー | 0.266 | 0.157 | –0.042 | 0.574 | 0.118 | .090 |
| 院内研修参加レベル | –0.101 | 0.060 | –0.219 | 0.018 | –0.085 | .095 |
| 【媒介変数「ネガティブ気分」への効果】 | ||||||
| 専門的状況 | 0.010 | 0.041 | –0.070 | 0.089 | 0.019 | .807 |
| 対人スキル | 0.221 | 0.055 | 0.113 | 0.329 | 0.350 | <.001 * |
| 年齢 | 0.017 | 0.019 | –0.021 | 0.054 | 0.088 | .380 |
| NICU・GCU経験年数 | 0.007 | 0.027 | –0.045 | 0.059 | 0.023 | .786 |
| クリニカルラダー | –0.101 | 0.124 | –0.344 | 0.142 | –0.071 | .415 |
| 院内研修参加レベル | 0.003 | 0.048 | –0.091 | 0.098 | 0.004 | .949 |
| 【間接効果】 | ||||||
| 専門的状況→対人スキル→ネガティブ気分→困難感(逐次媒介) | –0.002 | 0.001 | –0.005 | 0.000 | –0.018 | .074 |
| 専門的状況を起点とする合計間接効果 | –0.006 | 0.003 | –0.013 | 0.001 | –0.051 | .070 |
| クリニカルラダーを起点とする合計間接効果 | –0.002 | 0.005 | –0.012 | 0.009 | –0.005 | .747 |
| 院内研修参加レベルを起点とする合計間接効果 | 0.002 | 0.002 | –0.002 | 0.006 | 0.010 | .356 |
b=非標準化係数,SE=標準誤差,95% C.I.=95%信頼区間,β=標準化係数
専門的状況は自己効力感,対人スキルはレジリエンス,ネガティブ気分はいきいき度の下位尺度を示す.
* p < .05
最終的な結果変数である困難感に対して,ネガティブ気分のみが統計的に有意な直接効果を示した(β = –0.135, p = .045).ネガティブ気分を除く,専門的状況や対人スキル,および共変量として投入した年齢,経験年数,クリニカルラダーから困難感への直接効果は,いずれも統計的に有意ではなかった.
2) 媒介変数への効果媒介変数に対する効果を見ると,専門的状況から対人スキルへ(β = 0.388, p < .001),そして対人スキルからネガティブ気分へのパスも(β = 0.350, p < .001),統計的に有意な正の効果を示した.
3) 間接効果本研究の主要な仮説であった間接効果について,まず専門的状況を起点とする効果を検討した.その結果,専門的状況が対人スキルとネガティブ気分をこの順に介して困難感に関連する逐次媒介効果(β = –0.018, p = .074, b = –0.002),および専門的状況を起点とする合計の間接効果(β = –0.051, p = .070, b = –0.006)は,いずれも統計的に有意ではなかった.
本研究の主要な仮説であった逐次媒介効果は統計的に有意ではなかったものの,そのプロセスを構成する各直接パスは,それぞれ有意な関連を示した.単純比較では困難感との関連が見られなかった自己効力感の専門的状況が,この一連の連鎖の中で困難感と結びつく点の発見は,本モデルの妥当性を支持する.
さらに,本モデルを構成する各要素の関連性は,先行研究の知見とも整合的である.モデルの起点である自己効力感の専門的状況から対人スキルという有意な正のパスは,日本の中堅看護師においても自己効力感がレジリエンスの重要な関連要因であるとする先行研究の結果と一致する(根木・片山,2018).また,本研究でレジリエンスの下位尺度として用いた対人スキルは,日本の看護師のレジリエンスの主要な構成要素としてソーシャルスキルが挙げられていることからも,本研究における測定の概念的妥当性が裏付けられる(砂見,2018).
2) 困難感の要因としての心理的側面の重要性困難感の要因が,看護師の知識や技術の自己評価と直接的な関連を示さなかった一方で,心理的プロセスとは関連が示されたという結果は,困難感の要因を多角的に捉える上で,心理的側面を考慮する重要性を示唆する.本研究では,MDRPU予防における困難感は,看護師の知識や技術の自己評価とは直接関連せず,むしろネガティブ気分という情動的な側面と有意に関連していることが示された.先行研究においても,看護師による臨床実践ガイドラインの活用における障壁として,知識だけでなく,個人の態度や認識といった内部要因,そして組織文化のような外部要因が複雑に影響することが指摘されている(Fang et al., 2024).本研究で示された知識と実践における困難感の直接的な関連の欠如を裏付けるように,ICU看護師において,知識はまず仕事への態度を向上させ,その態度を介して初めて自己効力感に影響を及ぼすことが報告されている(Yilmaz & Gürlek Kisacik, 2025).これらの知見は,困難感の軽減に関連する介入を考える上で,従来の知識や技術の向上を目指すアプローチに加えて,前節で詳述した自己効力感の専門的状況を起点とする心理的プロセスに働きかける支援が,本質的に重要である可能性を示唆している.
2. モデルの核心的媒介効果とNICUの臨床的特殊性:対人スキルとネガティブ気分の役割本研究の結果,PLS-Rの下位尺度のうちネガティブ気分のみが,またレジリエンス尺度の下位尺度では対人スキルが特に重要な役割を果たした.これは,本研究の対象であるNICUという臨床現場の特殊性を反映していると考えられる.
まず,看護師のネガティブ気分が高いほど,MDRPU予防における困難感が有意に高まるという直接的な影響が示されたのは,知識や技術だけでは解決できない,NICU特有の臨床倫理的な葛藤の存在が推察される.特にNICUでは,患児の生命維持が最優先されるため,例えば気管チューブや動脈ラインの固定が患児の生命に直結する.その状況下で,MDRPUのリスクを認識しつつも,万が一の事故を恐れて容易に機器を動かせないというジレンマが生じやすい.本研究で困難感の直接要因として示されたネガティブ気分の背景には,このような臨床現場特有の葛藤が存在していると考えられる.
また,対人スキルが特に重要であったのは,MDRPU予防が医師等との高度な交渉・調整を要する臨床的背景と関連している可能性が考えられる.特に,NICUは,超低出生体重児に代表される,極めて皮膚が脆弱な患児へのケアが求められる特殊な環境である.MDRPU予防は,単に一つの機器の圧迫を避けるというだけでなく,呼吸管理,循環管理,栄養管理といった,生命維持に直結する多様な治療とのバランスの中で,常にケアの最適解を模索し続ける,高度な臨床判断の連続と言える(NPIAP et al., 2019).
このような状況下では,皮膚排泄ケア認定看護師や医師,臨床工学技士といった多職種と緊密に連携し,協働していくプロセスが不可欠となる.その際,本モデルで示された対人スキルは,単に良好な人間関係を築くだけでなく,MDRPU予防を実践するための具体的な交渉・調整能力として機能している可能性が示唆される.例えば,NPPVマスクによる圧迫リスクと呼吸管理への影響を医師と共有し,協働で安全なケアを模索する場面では,対人スキルが高いほど成功体験を得やすく,ネガティブな感情の軽減に繋がると推察される.
このように,高度な感情労働と多職種連携が同時に求められる環境では,対人スキルが極めて重要となることが指摘されている(Delgado et al., 2020).本研究で示された対人スキルからネガティブ気分への有意なパスは,対人スキルが感情労働の負担に対する緩衝要因として,看護師の感情的安定に関連することを示唆する.
3. 上昇スパイラルとしての心理的プロセス:拡張形成理論に基づくモデルの理論的考察本研究で示されたプロセスは,Fredrickson(2001)の拡張形成理論における上昇スパイラルとして解釈できる.本研究で扱った自己効力感やレジリエンスは心理的資本の中核要素でもあり(Grover et al., 2018),本知見は,これらが連携して機能することを示唆した.
なお,拡張形成理論は主にポジティブ感情の役割を強調するが,本研究ではネガティブ気分の軽減が困難感への直接的な影響要因として示された.これは理論と矛盾せず,ポジティブなスパイラルが駆動するための前提条件として,まずネガティブな感情状態から脱却することの重要性を示唆している.この知見は,ポジティブ感情がネガティブ感情からの心身の回復を促進するとした打ち消し仮説の重要性を(Fredrickson & Levenson, 1998),NICU・GCU看護師がMDRPU予防という葛藤的な実践の中で抱くネガティブ気分と,それが困難感に結びつくという文脈で裏付けるものである.対人スキルという資源が,まず看護師のネガティブ気分を軽減させ,感情的な消耗から守ることで,初めてさらなる資源を構築していくための土台が作られると解釈できる.また,本研究の対人スキルを日々の感情調節能力と捉えると(Huai et al., 2025),その能力の程度がより持続的な気分の安定に関連するという解釈も可能である(Ekman, 1994;Beedie et al., 2005).
4. 困難感の主観的認識:行動変容ステージとの逆説的関連が示唆するもの探索的に行った単変量解析における,行動変容ステージと困難感の間に見られた逆説的な関連は,本研究の結論を別の角度から支持する.特に,残差分析の結果は,前熟考期の看護師が,他の段階の看護師と比較して,有意に困難感無しと回答する傾向にあることを示した.
この一見逆説的な結果は,困難感という主観的指標の本質を示唆している.これは,困難感は,客観的なケアの難易度を反映するのではなく,看護師自身がMDRPUのリスクやケアの複雑性をどの程度深く認識しているかという,認知的な成熟度が関連していると推察される.つまり,前熟考期の看護師は,MDRPU予防の重要性や潜在的なリスクに対する認識がまだ十分ではないため,結果として困難であると感じていない状態にあるのではないかと推察される.なお,パス解析の過程で行動変容ステージをモデルに投入した際に適合度が著しく低下したのは,同変数が本モデルにおける情動的なプロセスとは質的に異なる,こうしたケアに対する認知的な成熟度を反映しているため,単一のモデル内で説明することが統計的に困難になった可能性が示唆される.
本研究において前熟考期に分類された対象者は極めて少数であった.したがって,この逆説的関連に関する解釈は,あくまで探索的な仮説の提示に留めるべきであり,この知見の一般化には最大限の注意が必要である.この点を踏まえれば,この結果は,困難感の主観的認識における今後の検討課題を提示する.
本研究では困難感を軽減すべき要因として捉えたが,ケアの熟慮を促す建設的な側面も持ちうる.前熟考期の看護師が困難を感じていなかった結果は,この困難感の二面性を示唆している.すなわち,MDRPU予防への認識が深まることで生じる困難感は,看護師の心理的資源がそれを上回ればケアの質の向上に繋がるが,下回れば本研究で示されたような遂行を妨げる否定的な状態へと転じる可能性がある.本モデルは,看護師が後者の状態に陥らないための心理的プロセスの重要性を示唆した点で意義がある.
5. 自己効力感を起点とする「心理的好循環」の可能性:臨床・教育への提言本研究から示唆される「心理的好循環」を促す上では,自己効力感を直接高める成功体験の提供が鍵となる可能性がある.その具体的な教育アプローチとして,反転学習やシミュレーション教育が有効である(Chao & Liao, 2025).例えば,反転学習を用いて研修時間をMDRPU予防における困難事例のグループ討議に充てれば,看護師は主体的に解決策を導く成功体験を得られる.また,シミュレーション教育で,生命維持に必要な医療機器がMDRPUの要因となるジレンマが生じる場面における医師との交渉・合意形成を擬似体験させることもできる.このような安全な環境下での協働的な問題解決の成功体験は,本モデルの重要な構成要素であった対人スキルと自己効力感を同時に高める上で極めて有効であると考えられる.
教育的支援は,看護師の実践能力に応じて設計することが効果的であると期待される.新人看護師には心電図の電極やSpO2センサーの交換などの段階的な成功体験を,中堅看護師には医師と対等に議論し合意形成を図る専門的対話の成功体験を意図的に提供することが,「心理的好循環」を促す上で重要であると推察される.例えば,呼吸循環管理に関わる除圧等のケア内容やタイミング,固定方法等について医師と対等に議論し合意形成を図る経験は,自己効力感と対人スキルを同時に高めることが期待される.このような心理的プロセスへの介入は,日本で検証が進むリフレクションプログラムなど(飯岡ら,2023),多様な支援アプローチの有効性を示唆する研究の流れとも一致する(山本ら,2023).
6. 本研究の限界と今後の課題本研究には,いくつかの限界がある.第一に,本研究は横断調査であるため,変数間の因果関係を断定できず,時間的な前後関係も証明できない.第二に,研究協力に同意した施設や看護師のデータのみを分析しており,回答者の特性による偏りの可能性も否定できない.特に,本研究に協力した看護師は,MDRPU予防への関心や自己の心理状態への内省が高い傾向にあった可能性が考えられる.その場合,本研究で示された心理的要因間の関連性の強さは,看護師全体に一般化する際には慎重な解釈が求められる.
今後は,本研究で示唆された心理的プロセスの経時的変化を追う縦断研究や,そのプロセスに基づいた対人スキル向上プログラムを開発し,その効果を検証する介入研究によって,モデルの因果関係をより厳密に検証していく必要がある.第三に,本研究ではMDRPU予防における困難感を有無の二値変数として測定したが,これを多段階のカテゴリカル変数やVAS(Visual Analogue Scale)のような連続変数で測定していれば,より多様で詳細な統計解析が可能であったかもしれない.今後の研究では,困難感の程度や質をより精密に捉える測定方法の検討が必要である.第四に,本研究ではネガティブな感情状態の測定に,PLS-Rを用いた.PLS-Rは,回答時点での一時的な気分状態を反映するため,本モデルで示された職場内の心理的プロセスだけでなく,私生活など職場外の要因からも影響を受ける可能性がある.本研究では,これらの職場外要因を統制できていない点が限界として挙げられる.今後の研究では,職務に特化した感情状態を測定する尺度を用いることで,より精緻なモデルの検証が期待される.
本研究は,パス解析を用いて,NICU・GCU看護師のMDRPU予防における困難感が,属性要因と関連しないことを示した.仮説であった,自己効力感(専門的状況)を起点とし,レジリエンス(対人スキル)とネガティブ気分を介する逐次媒介効果は,統計的に有意ではなかった.しかし,そのプロセスを構成する個別のパスである専門的状況から対人スキルへ,対人スキルからネガティブ気分へ,およびネガティブ気分から困難感への直接効果は,それぞれ有意な関連が認められた.本研究の知見は,NICU・GCU看護師の困難感の軽減に関連しうる,単一的な知識や技術研修に留まらず,自己効力感を起点として,対人スキルや感情の安定を育むような,統合的かつプロセスを重視した支援策が有効である可能性が示唆された.今後の課題は,本研究で示された心理的プロセスの因果関係を介入研究などの縦断研究によって検証することである.
付記:本論文の内容の一部は,第45回日本看護科学学会学術集会において発表した.
謝辞:本研究の実施にあたり,その趣旨にご理解を賜り,ご多忙な業務のなか貴重な時間を割いて調査にご協力いただきました全国のNICU・GCU看護師の皆様に,厚く御礼申し上げます.なお,本研究は日本看護科学学会2024年度 挑戦的課題研究助成を受けて実施した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:本論文作成における各著者の貢献は以下の通りである.ENは,研究コンセプトの立案,研究計画,データ分析,論文の初回草稿執筆を担当した.NTは,研究デザインの構築および論文の知的内容に関する重要な批評と修正を行った.KTは研究尺度の選定,データ分析,結果の解釈および論文の批評・修正に貢献した.KIは,結果の解釈,および論文の批評・修正において貢献を果たした.ATは研究尺度の選定に加え,論文全体に対する批評的な推敲を担った.
なお,著者全員が最終原稿を読みその内容を承認しており,本研究のすべての側面における正確性と公正性について説明責任を負うことに合意している.