Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Experiences During NICU/GCU Visits by Mothers Who Gave Birth to Low Birth Weight Infants
Yumiko Kasai
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2026 Volume 46 Pages 44-52

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Abstract

目的:NICU/GCUに入院した児の母親がどのような体験をしているかを人的環境に焦点をあてて明らかにすること.

方法:低出生体重児を出産した母親を対象に半構造化インタビューを行い,質的記述的に分析した.

結果:対象者は13名で,母親の体験として【NICUという異空間がつくる閉ざされた空気感の察知】,【会話を躊躇させる内的葛藤】,【NICUに面会に来る母親と交流したことで生まれた安堵】,【NICUに面会に来る母親とは交流がない中で,意識し影響し合う存在】,【当事者にしか分からない感情の複雑さが生む孤独】,【医療者とコミュニケーションすることへの期待と躊躇い】,【家族の存在の大きさを認識】が抽出された.

結論:母親に対して,子どものために何かできたと感じる体験,母親のコミュニティを踏まえた支援,母親同士がつながる機会の提供が必要と示唆された.

Translated Abstract

Objective: To clarify the experiences of mothers with children hospitalized in the NICU/GCU, with a focus on the interpersonal environment.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with mothers who gave birth to low birth weight infants, and the results were analyzed qualitatively and descriptively.

Results: A total of 13 mothers were included. The mothers’ experiences extracted were “psychological inhibition caused by the unfamiliar environment of the NICU,” “inner conflict discouraging conversation,” “relief gained from interacting with other mothers visiting the NICU,” “awareness and mutual influence among mothers visiting the NICU despite lack of interaction,” “loneliness stemming from the complexity of emotions that only those involved can understand,” “expectations and hesitations about communicating with healthcare professionals,” and “recognizing the importance of family.”

Conclusion: The results suggest the necessity of providing mothers with experiences that make them feel they have done something for their children, support based on their circle of relationships, and opportunities for them to connect with other mothers.

Ⅰ. 緒言

世界最高水準の新生児医療を有する日本においては,少子化が進行する一方で,低出生体重児の出生割合は,2005年以降約9~10%で大きな変化なく推移している(愛育研究所編,2024).早産や低出生体重児の背景因子として,高齢出産といった年齢的要因,ダイエットや喫煙によるストレスの増加といったストレス要因等があり(斎藤,2008),近年の社会的背景を鑑みると,低出生体重児の割合は今後も一定の水準で推移,あるいは増加する可能性があると考えられる.

我が子が新生児集中治療室(Neonatal Intensive Care Unit:以下NICU)に入院中の母親は,生命維持への不安(佐東,2005),先の見えない不安(石森ら,2019),障害なく大きく育つかなど発達に関することや普通に育てられるかなど不安の内容は多岐にわたることが明らかになっている.また,早産したことへの罪悪感や普通の出産ができなかった喪失感(安積,2003),実感のなさ(西海,2001)などから,愛着形成の難しさ(小泉,2006)が指摘されている.NICUにおける親の経験に関する質的研究の系統レビューにおいても,親はストレスの多い経験をし,子育ての役割変化,心理的苦痛を体験していることが明らかになっている(Al Maghaireh et al., 2016).

このような心情である母親が,心の安定をはかりながら,NICUに入院している子どもに安心して向き合える環境を提供することは重要である.近年では,家族が主体的にケアに参加することで,親役割を実感し家族の不安が軽減するFamily Centered Care(以下,FCC)の重要性が認識され,多くの施設で推進されている.中でも,カンガルーケアに関する系統的レビューとメタ分析の報告では,産後の母親のうつ病やストレス,不安の減少と,母子の愛着形成の向上に関連していると報告されている(Barsha et al., 2023).このような母と子どもとの空間の中で,愛着形成を育む成果や母乳を通しての思い(田中ら,2014岡田・佐々木,2017),未熟な子どもの状態に合わせた育児への戸惑い(藤野・中山,2013),乳児の外見や行動に関するストレスと面会の頻度の関係性(Gonya & Nelin, 2013)といった子どもを通した母親の心情は明らかになっている.

一方で,医療者へ求める支援(永井,2022),医療スタッフによるケアの満足や負担(稲生・石村,2021)といった医療者からの支援に関する報告があるが,医療者を含めたどのような人的な環境を母親が体験しながら,何を感じ,どのような支援が必要であるかに関しては十分に検討されていない.そこで本研究では,NICUやGrowing Care Unit(以下GCU)に入院中の児の母親が,どのような体験をしているかを人的環境に焦点をあてて明らかにすることを目的とした.人的環境という視点を通じて,これまで顕在化していなかった母親の思いや葛藤に気づく手がかりになると考える.

用語の定義

母親を取り巻く人的環境とは,「母親が認識する周囲の人間であり,影響を与えられている人.交流の有無は問わない」とした.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン

半構造化インタビューによる質的記述的研究

2. 研究対象者

研究対象者は,出生体重が2,500 g未満かつNICU/GCUに2週間以上入院し,退院後2か月以上経過していることを条件とした.また,退院時に子どもに明らかな後遺症があった場合と,精神疾患をもつ母親は除外した.

3. データ収集方法

研究対象者のリクルートは,インターネットで「NICU」「親の会」を検索し,活動している4グループの親の会の代表に連絡をとり,返事のあった3グループに研究の趣旨を書面と口頭で説明した.代表者が協力できると判断した場合,親の会開催時に参加メンバーへの研究説明書の配布を依頼した.その後,研究説明書を読み参加意思のあるものが直接研究者に連絡する方法とした.

データは,2019年2月から4月に,半構造化インタビューにより収集した.インタビューガイドは,NICU/GCUに子どもが入院中,母親がどのような体験をしていたのかを語っていただき,中でも周囲の人々の存在や,関わりの中(関わらない場合でも)で感じたこと,印象に残っていることなどの質問項目で構成した.なお,承諾を得てICレコーダーに録音し,逐語録を作成しデータとした.

4. 分析方法

録音データから作成した逐語録を繰り返し読み込み,母親の語りの意図が損なわれないように,母親の体験から周囲の人々の存在や交流に関する認識や思いに焦点をあてて,コードを抽出した.コードの類似点と相違点について比較することにより分類し,サブカテゴリー,カテゴリーへと抽象度を上げた.分析には,質的研究の経験のある小児看護研究者のスーパーバイズを受け,データの信頼性と妥当性を確保した.

5. 倫理的配慮

研究対象者がインタビューに協力する意思がある場合,研究対象者から研究者に直接連絡することで,研究協力の任意性と研究参加への自己決定を遵守し研究を進めた.インタビュー開始前に,改めて文書および口頭で,研究の趣旨,研究参加は自由意志であること,個人情報保護および研究成果の公表について説明し,文書にて同意を得た.本研究は,川崎市立看護短期大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(第R89号).

Ⅲ. 結果

研究協力の同意が得られた中部地方と関東地方在住の13名にインタビューを実施し,結果を分析した.研究対象者(A)~(M)の属性については,表1に示した.なお,インタビューは平均61分であった.

表1 母親と児の属性

ID 母親の
年齢
初産/経産 在胎週数 出生体重 児の入院期間
(月)
A 40代 初産 29週 700 g台 4か月
B 30代 初産 36週 1200 g台 2か月
C 30代 初産 31週 600 g台 4か月
D 40代 経産 27週 1100 g台 2か月
E 40代 初産 35週 2000 g台 3か月
F 30代 初産 28週 800 g台 3か月
G 40代 経産 23週 600 g台 5か月
H 40代 初産 23週 500 g台 6ヶ月
I 20代 初産 25週 700 g台 5か月
J 30代 経産 23週 300 g台 7か月
K 30代 初産 24週 600 g台 5か月
L 30代 初産 26週 600 g台 5か月
M 30代 経産 37週 1100 g台 3か月

児がNICU/GCUに入院中の母親を取り巻く人的環境に焦点をあて,母親の思いを抽出したところ,176コードから7つのカテゴリー,19のサブカテゴリーによって示された(表2).カテゴリーごと延べ,カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを〈 〉で示す.実際の語りは,斜線で「 」で示した.

表2 NICU/GCUに入院した児の母親の体験

カテゴリー サブカテゴリー
NICUという異空間がつくる
閉ざされた空気感の察知
・NICUという異空間が生む振舞いへの戸惑い
・NICU独特の雰囲気で,親同士の交流を控える空気感
・話しかけてはいけないと感じる場の空気を察し,距離を取る親の振る舞い
会話を躊躇させる内的葛藤 ・この先どうなるのかという恐怖に,言葉や気持ちが閉じ込められる感覚
・何もできない自分を責め,無力さと悲観に押しつぶされそうになる感覚
・母親として十分でないのではという不安とプレッシャーに押され,追い詰められていく感覚
NICUに面会に来る母親と交流したことで
生まれた安堵
・相手の情報を得た上での声かけ
・我が子の順調な成長と共に,心に余裕が生まれたことによる他児の母親との交流
・NICUに面会に来る母親を唯一分かり合える存在と認識
・自分だけが辛いのではないと知り,心が少し軽くなる気づき
NICUに面会に来る母親とは交流がない中で,意識し影響し合う存在 ・NICUに面会に来る母親の複雑な心情を深く慮り,その気持ちに寄り添い配慮する姿勢
・NICUに面会に来る母親と自分の状況を比べて感じる自己否定と悲観的感情
・我が子以外の子どもの状況に関する情報探し
当事者にしか分からない感情の複雑さが生む孤独 ・当事者にしか分からない感情の複雑さと,それゆえの孤独な思い
・自らコミュニティの縮小に伴う孤独
医療者とコミュニケーションすることへの
期待と躊躇い
・医療者とコミュニケーションすることへの期待
・医療者とコミュニケーションすることへの躊躇い
家族の存在の大きさを認識 ・辛さを乗り越えられた家族の存在
・心配をかけたくない家族の存在

1. 【NICUという異空間がつくる閉ざされた空気感の察知】

このカテゴリーは,NICUという初めて足を踏み入れた異空間的な場所の影響として〈NICUという異空間が生む振舞いへの戸惑い〉ながら,〈NICU独特の雰囲気で,親同士の交流を控える空気感の察知〉や〈話しかけてはいけないと感じる場の空気を察し,距離を取る親の振る舞い〉といった3サブカテゴリーから構成された.

「NICUが異空間すぎちゃって,医療の場なので,どうしていいのか,どう振舞っていいか分からなくて…」といった〈NICUという異空間が生む振舞いへの戸惑い〉を感じていた.「面会に行っても何をしていいか分からないので,面会が苦痛に感じた時期もあった」と,戸惑いから苦痛を感じる母親もいた.このような戸惑いを感じながら,〈NICU独特の雰囲気で,親同士の交流を控える空気感の察知〉や〈話しかけてはいけないと感じる場の空気を察し,距離を取る親の振る舞い〉をしていた.〈NICU独特の雰囲気で,親同士の交流を控える空気感の察知〉とは,「他のお母さんとは接触しては駄目ですよって言われてて」と,医療者からの説明がある場合や説明がなくても「NICUの時は話してはいけないと思っていた」と認識していた.また,「搾乳の部屋は4人ぐらい入れて…みんな目を合わせないように黙々とやっていた.他の子を見ないようにと言われた延長だと思っていたけど,他のお母さんと話をしてはいけないんだろうなと勝手に思っていた.」といった〈話しかけてはいけないと感じる場の空気を察し,距離を取る親の振る舞い〉をしていた.

2. 【会話を躊躇させる内的葛藤】

このカテゴリーは,母親がさまざまな思いを抱いているものの,〈この先どうなるのかという恐怖に,言葉や気持ちが閉じ込められる感覚〉,〈何もできない自分を責め,無力さと悲観に押しつぶされそうになる感覚〉,〈母親として十分でないのではという不安とプレッシャーに押され,追い詰められていく感覚〉,といった他者との相互作用を避ける理由から成り立ち,3サブカテゴリーから構成された.

〈この先どうなるのかという恐怖に,言葉や気持ちが閉じ込められる感覚〉とは,「頭が大きすぎて大丈夫かしらと思ってて,でも言葉にしちゃいけないと思って…(中略).心配だけど,このままですと言われても怖いし…」,「抱っこできても,ほっとは出来なかった.この先どうなってしまうのか…と誰にも言えなかった」と感じていた.

〈何もできない自分を責め,無力さと悲観に押しつぶされそうになる感覚〉とは,「抱っこしてたら,(子どもが)口をちゅっちゅしてて,自分じゃ(ミルクを)あげられなくて,涙がぽろっとでちゃって」と,母親がミルクをあげたくても主体的に子どもに何もしてあげられないことを悲観したり,「何がいけなかったんだろうって.口にする前に,自分を責めたり,からまわりして…」と,自責の念を感じていた.

〈母親として十分でないのではという不安とプレッシャーに押され,追い詰められていく感覚〉とは,「お母さん明日は来れますか?何時に来れますか?…(中略)…(看護師が)聞いてくれるんだけど,もちろんおかしなことを聞いているわけではないんだけど,プレッシャーで.悪気はないんだけど.もちろん行きたいんだけど,母乳もでなくて,体も動けなくって,追い詰められる感じで…上手くいかなかったんですよね.」,「弱い母親だって思われちゃうのかな」と,追い詰められる感覚を抱いていた.

3. 【NICUに面会に来る母親と交流したことで生まれた安堵】

このカテゴリーは,他児の母親と交流する前提として〈相手の情報を得た上での声かけ〉,〈我が子の順調な成長と共に,心に余裕が生まれたことによる他児の母親との交流〉があった.そして,他児の母親と交流したことで,〈NICUに面会に来る母親を唯一分かり合える存在と認識〉,〈自分だけが辛いのではないと知り,心が少し軽くなる気づき〉から成り立ち,4サブカテゴリーから構成された.

他児の母親との交流から,「(子どもが)元気に見えたけど,いろんな理由で入院していることを知った」,「NICUにいる人はみんな頑張っていると知り,元気をもらえた」といった〈自分だけが辛いのではないと知り,心が少し軽くなる気づき〉が生まれ,「自分だけじゃないんだって思えて,みんな何かしら抱えてここにいるんだな,同士のような…」,「この辛い気持ちは,ここにいる人しか分からないと思った」と,〈NICUに面会に来る母親を唯一分かり合える存在と認識〉していた.これらの交流の始まりは,「GCUは明るくて,開放的になるんでしょうね.コットは,すぐ近いので,話しやすく声をかけやすかった」といった物理的に他の母親と話しやすい環境になったことや「GCUに移れたというのと酸素が取れたので,コットに移れたことや状態がよくなったので,心に余裕がでてきたから隣のママに話しかけたのかな」といった子どもが順調に経過してGCUに移動したことで,〈我が子の順調な成長と共に,心に余裕が生まれたことによる他児の母親との交流〉が生まれたこと,「NICUではキョロキョロできないけど,GCUは他の子が見えたので…」といった〈相手の情報を得た上での声かけ〉といった前提があった.

4. 【NICUに面会に来る母親とは交流がない中で,意識し影響し合う存在】

このカテゴリーは,NICU面会中にすれ違うだけの他児の母親への認識を示す.他児の母親と交流はないが,〈NICUに面会に来る母親の複雑な心情を深く慮り,その気持ちに寄り添い配慮する姿勢〉といった同じ境遇の母親の気持ちを察し,一方で同じ境遇の母親と認識しているからこそ〈NICUに面会に来る母親と自分の状況を比べて感じる自己否定と悲観的感情〉,〈我が子以外の子どもの状況に関する情報探し〉から成り立ち,3サブカテゴリーから構成された.

「いつも会うママがいたけど,(子どもの)状況が分からないので,うかつに話しかけても,死期が近い子のママには話しかけられないし…」「もっと小さく生まれたママには,どう声をかけていいか分からないし」といった他児の母親と交流はないが存在を意識し,〈NICUに面会に来る母親の複雑な心情を深く慮り,その気持ちに寄り添い配慮する姿勢〉を抱いていた.また,「お昼ご飯を持って1日いる方もいたけど,私は体調が悪くてできなかった.あのママは,ずっといるのにな…と思った時もあって」といった〈NICUに面会に来る母親と自分の状況を比べて感じる自己否定と悲観的感情〉や,「他の子を見ないで下さいって言われて.直視することはないんですけど,あの子がここに来たんだとか,あの子退院できたんだ…とか.他の子と比べちゃってました.」といった〈我が子以外の子どもの状況に関する情報探し〉をしていた.

5. 【当事者にしかこの気持ちは理解できない思いから自らコミュニティを縮小】

このカテゴリーは,出産に伴い縮小したコミュニティから抱く思いを示す.〈当事者にしか分からない感情の複雑さと,それゆえの孤独な思い〉といったコミュニティ縮小に至る理由と,コミュニティ縮小により感じる〈コミュニティの縮小に伴う孤独〉から成り立ち,2サブカテゴリーから構成された.

〈当事者にしか分からない感情の複雑さと,それゆえの孤独な思い〉とは,「同じ未熟児のママの方が,気持ちが分かるかなって…(中略).私の妹は子育ての先輩と言う面からは頼れるけど,悩みが違う.(未熟児の母親の)気持ちが分からないじゃないですか」と,相談する人を限定したり,「心理士さんと話しててもどっかで,この人には分からないだろうって思っているんでしょうね」と,医療者に対しても当事者ではない者と当てはめていた.妊娠前のコミュニティに対しても「(職場の)友達には言えなかった」と,当事者にしかこの気持ちは理解できない思いから,自らコミュニティを縮小していた.

このようなコミュニティの縮小に加え,「家では,パパもいないし,一人で悶々としてました.」「話す人がいないので,ネットで調べまくりだった.」,「(看護師は)ママがいない子のお世話をしていて,ママがいるところにくる余裕がないほどだったんです.絶対に来ないので,(我が子のことを)聞きたくてもきけない.誰にも声をかけずに帰ることが結構あって,あっ何もしゃべらなかったなと.ほとんど一人…」と孤独を感じていた.

6. 【医療者とコミュニケーションすることへの期待と躊躇い】

このカテゴリーは,医療者とのコミュニティを示し,〈医療者とコミュニケーションすることへの期待〉と,多忙な医療職と承知であるが故の〈医療者とコミュニケーションすることへの躊躇い〉から成り立ち,2サブカテゴリーから構成された.

〈医療者とコミュニケーションすることへの期待〉とは,「唯一話しかけられるのは,看護師さんだけだった」「看護師とのたわいもない話,医療のことだけでなく,何気ない普通の話が,私の救いでした」と,母親が唯一話せる存在であり,その話の内容は子どもに限った内容ではなかった.一方で,「看護師さんは,忙しそうで話しかけづらい雰囲気であった」「毎日体重を聞くんですけど,それも聞きづらかった」「何かしていると悪いなあと思って,(子どもに)こうしてあげたいとは(看護師に)言えなかった」といった看護師の多忙さや声をかけることが出来ずに帰宅するなど,〈医療者とコミュニケーションすることへの躊躇い〉を抱いていた.

7. 【家族の存在の大きさを認識】

このカテゴリーは,母親にとっての家族の存在を示しており,〈辛さを乗り越えられた家族の存在〉と認識している反面,家族が大切な存在であることから〈心配をかけたくない家族の存在〉から成り立ち,2サブカテゴリーから構成されていた.

「主人が前向きで,どうにかなるって話してて…(中略).私が子どもの顔を見て泣いていたら…そんなに頑張んなくていいんじゃないって.主人の言葉に助けられた」「実家が近かったので帰宅してから,話す相手はいた」といった〈辛さを乗り越えられた家族の存在〉があった.一方で,「家族へは余計な心配をかけたくないなっていう気持ちがあって,話すところがなかった」「(この子の)姉もさびしい思いをさせているかなと,いろいろ思いました」といった大切な存在であるからこその〈心配をかけたくない家族の存在〉と認識していた.

Ⅳ. 考察

1. 思いを表出できない母親の思い

NICU面会中の母親は,【NICUという異空間がつくる閉ざされた空気感の察知】や【会話を躊躇させる内的葛藤】を抱えていた.医療者や他の母親などの存在を感じながらも,こうした状況は,自身の思いを周囲に表出できない状態に追い込んでいた.

母親はNICUを異空間と表現し,その環境はどう振る舞っていいか分からないほどの戸惑いの要因となっていた.先行研究においても医療者や子どもたちをも環境の一部としてとらえNICUを異空間(西田,2006)と表現したり,緊張感や恐怖感を抱かせる場所(立場,2020)と表現するように,本研究においても同様で,初めて足を踏み入れる場所の空気感を察知しながら,他の母親と接触してはいけない,他の子を見てはいけないといった看護師が説明する病棟でのルールに従いながら,慣れない環境に従順する場所であった.

そのようなNICUの特殊な環境の中で,「この先どうなるのか」という恐怖に言葉や気持ちが閉じ込められる感覚を抱き,何もできない自分を責め,追い詰められていく感覚を抱いていた.看護師からの何気ない「明日,何時に来れますか」という問いかけさえも,自分が責められている,あるいは母親としての力量を問われているように受け取り,心理的な負担を強めていた.先行研究では,新生児期にNICUに入院した児の母親の6割は心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic Stress Disorder: PTSD)を認めていることが報告されており(Aftyka et al., 2017),NICU環境が母親の精神的健康に与える深刻な影響が報告されている.本研究の母親は,母親としての役割を十分に果たせていないと感じる自己評価の低下と,それに伴う他者からの否定的評価への過敏さが,助けを求める言葉や思いを表出することを躊躇させていたと考える.これらは母親のストレス耐性の低下に影響し,日常的な医療者からの声かけさえも心理的な負担として受け止めやすい状況を生んでいることがうかがえた.

2. 唯一分かり合える存在

母親は,心のゆとりを失い緊張状態であるも,他児の母親と交流する機会があった母親は,【NICU入院中の他児の母親と交流したことで生まれた安堵】を抱いていた.

NICUで我が子と向き合う母親たちは,不安や孤独に押しつぶされそうになりながらも,他児の母親と出会い,言葉を交わす中で「自分だけが辛いのではない」と気づき,ふっと心が軽くなる瞬間を経験していた.そこには,同じ場所で,同じ苦しみを抱えた母親同士だからこそ分かり合える,特別なつながりがあった.同じ境遇だからこそ深く共感し合える母親同士のつながりは,「唯一分かり合える存在」となり,NICUという特殊な空間の中で,孤独感や不安を和らげ,前を向く力につながっていた.先行研究においても他の母親同士の交流は,他の母親の抱える問題に気づく機会が得られ,他の母親も同じ状況にあること,自分だけに影響を及ぼしているわけではないことを知る機会となり,NICUの乳児を持つことによるストレスの対処を助け,母親としてのアイデンティティの発達を支援していたと報告がある(Nazari et al., 2020Beverly et al., 2015).また,藤野ら(2006)は,超・極低出生体重児を持つ親が否定的感情からの脱出契機の一つとして,同じ経験を持つ超・極低出生体重児の母親との交流や存在であったと報告している.本研究においても母親同士の交流は,NICUでのストレス対処や自分を肯定するきっかけとなることを示していた.そういった交流は,我が子が急性期を脱したこと,GCUへの転床によって母親自身の心に余裕が生まれたといった「我が子の安定」と,「他児の情報を得る」ことで,初めて可能となっていた.このような母親同士の交流の前提については,これまでになかった新たな視点といえる.

「唯一分かり合える存在」については,【NICU入院中の他児の母親とは交流がない中で,意識し影響し合う存在】といった,交流がなくても意識しあう存在であり,面会中にすれ違うだけの他児の母親に対して,子どもの状況や母親の心情をよくよく考え母親を慮っていた.これは,「当事者にしかこの気持ちが分からない」と表現しているように,母親の気持ちが分かるからこそ声をかけられないが,交流がない中でも気持ちは固くつながっている様相であった.また,他児の母親と交流はないが,我が子の出生に伴う不確かな状況の中で,他の子どものわずかな情報を探索し,見通しがもてる何かを探索したり,我が子と比較しながら一喜一憂していた.日本人の特徴として,異質な存在と見なされることを避ける集団主義的傾向があると指摘されており(ベネディクト,1983),本研究においても,母親は「自分だけなのか」,「我が子だけに生じていることなのか」といった不安を強く抱いていると考えられた.また,2005年に個人情報保護に関する法が施行されNICU病棟のようなOpen-Bay Design(OBD)型の病棟における個人情報保護に対する規律が過剰になった印象があるが,そのような中,わずかな我が子以外の情報を探索していたと考えられる.近年では,ファミリーセンタードケアの一環として,OBD型から半個室/個室型NICUへ改築する施設が増えているが,病棟の形態の比較に関する報告では面会への行きづらさに差はないこと(前田ら,2021),個室は面会時間が有意に長かったが,母親のストレスは個室の方が有意に高かったといった報告もある(Pineda et al., 2012).本研究の結果を踏まえると,極端な周囲の情報の遮断は,わずかな探索行動さえも失わせ,日本人の母親にとっては不安を増強させる要因の一つになる可能性があると示唆された.

3. 縮小したコミュニティ

母親のコミュニティは,主にNICUと自宅といった限られた空間であった.【当事者にしか分からない感情の複雑さが生む孤独】な状態であり,「当事者にしか分からない」この気持ちの強さは,これまでのコミュニティを遮断し,出産の出来事や辛い思いを親しい友人などに表出することはなかった.このような限られたコミュニティの中,唯一話せるのが医療者であるが,【医療者とコミュニケーションすることへの期待と躊躇い】を抱いていた.NICU入院中の母親へのサポートの数は最も減り,周囲からの孤立(安積,2003)を感じるものの,医療者のサポートにより満足度は高い(大北・杉本,2011)と報告されている.本研究においても,唯一話せるのは看護師だけ,看護師との何気ない普通の話が救いだったといった医療者とのコミュニケーションへの期待があった.一方で,医療者へ話しかけることへの躊躇いも明らかになった.NICUに入院する子どもを出産した母親は,予期せぬ出産による妊娠の中断や早産したことへの負い目や罪悪感を感じ続けていること,子どもの今後に対する先の見えない不安を募らせている(神田ら,2007石井ら,2008山本,2009田中,2014).そのような心情の中,唯一話せる医療者とコミュニケーションを取ることさえも,自分からは声をかけることを躊躇うほど自己肯定感が低くなっていると推察された.

当事者にしかこの気持ちは理解できない思いから,自らコミュニティを縮小している中で,辛さを乗り越えられた【家族の存在の大きさを認識】していた.家族発達理論でいう養育期では,子どもの出生とともに新しい家族関係を形成する.赤羽ら(2003)によると,養育期にある家族はコミュニケーションをとり家族が相互に結びつくことで安定し,家族機能はポジティブな傾向を示す.しかし柔軟性は低く,状況変化に対応する力が乏しいことを指摘している.本研究においても,大切な家族だからこそ心配をかけたくないという思いが混在しており,十分な対処行動には結びつかずに,母親は孤独な状態であったと考える.これまでハイリスク児の母親を「周りを見ている余裕がなく,外的交流性による交互作用を感じ取れない孤立状態」(今関ら,2002),「子どもとの孤立した世界」(西田,2006)と表現している.本研究においては,NICUという環境や子どもの危機的状態から思いを表出できないこと,当事者にしかこの気持ちは理解できないという思い,家族に心配かけたくない思いを鑑みると,たとえ人に囲まれていても他者とのつながりが乏しいと感じる「孤独な状態」と示唆された.

4. 実践への示唆

橋本(2011)は,親子の関係性の発達にとっての必要条件は,治療によって子どもが生命の危機状態を脱すること,およびケアによって親と子が居心地よく共にいる時間を守られることであり,周囲は「器」のように,親子を守ることの必要性を述べている.その母親にとって心地よい居場所を提供するためには,以下の3点の看護実践の重要性が示唆された.

《子どものために何かできたと感じる積み重ねを支援》

母親の子どもへの受け止め状況に応じて,子どもへのケアを促し,その行為が子どもの発達を促す役割を果たしているといった意味を伝え,子どものために何かできたと感じる体験の積み重ねを支援する.

《母親のコミュニティを踏まえた支援》

面会中のコミュニケーションの量と質を医療者が確保していく.時には子どもの話題に限ったことではなくても,自宅で夫との会話の話題となりうる内容をお土産の感覚で提供することは,家族発達理論(鈴木ら,2019)の視点からも家族の発達課題達成への援助の一助につながると考える.

《母親同士がつながる機会の提供》

児の体調や母親の状況を考慮した柔軟なベッドコントロールにより,母親同士の交流の橋渡しを意図的に実施し,退院前には子育ての楽しさを母親同士が表出し共感できるような母親同士をつなげるように支援する.これは,医療者とだけの縮小したコミュニティだった母親にとっての退院準備の一つとして有用であると考える.また,日本人の特性を鑑みた施設のありようを探索していく必要がある.

5. 研究の限界と今後の課題

本研究の対象者は,患者会に所属している3団体の母親であることから,地域が限局され施設の事情が結果に影響した可能性がある.また,研究対象者の児の出生状況や入院期間,母親の成育歴や家族背景も影響を与えると推察され,母親の思いを包含できていないと考えられる.引き続き,母親の体験について多面的に明らかにし,日本の文化的背景も踏まえた看護実践の示唆を得ていく必要がある.

Ⅴ. 結論

1.NICU/GCUに入院中の児をもつ母親の体験は,【NICUという異空間がつくる閉ざされた空気感の察知】,【会話を躊躇させる内的葛藤】,【NICU入院中の他児の母親と交流したことで生まれた安堵】,【NICU入院中の他児の母親とは交流がない中で,意識し影響し合う存在】,【当事者にしか分からない感情の複雑さが生む孤独】,【医療者とコミュニケーションすることへの期待と躊躇い】,【家族の存在の大きさを認識】の7つのカテゴリーが抽出された.

2.NICU/GCUに入院中の児をもつ母親は,NICUという環境や子どもの危機的状態から気持ちを表出できない心情であること,当事者にしかこの気持ちは理解できないという思い,家族に心配かけたくない思いを抱いていることから,たとえ人に囲まれていても他者とのつながりが乏しいと感じる「孤独な状態」と示唆された.

3.NICU/GCUに入院中の児をもつ母親にとって,心地よい居場所を提供するためには,児の体調や母親の子どもへの受け止め状況に応じて,子どものために何かできたと感じる体験,母親のコミュニティを踏まえた支援,母親同士がつながる機会の提供が重要であることが示唆された.

付記:本研究は,24th EAFONS East Asian Forum of Nursing Scholarsにおいて発表し,新たな分析を加えて修正したものである.

謝辞:本研究にご協力を賜りました研究参加者の皆様,ならびにご指導くださいました順天堂大学大学院医療看護学研究科西田みゆき先生に心より御礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

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