2026 Volume 46 Pages 614-627
目的:本研究は国内学士課程で実施された災害看護教育プログラムの内容・方法と学生の学びの特徴を整理することを目的とした.
方法:医学中央雑誌Web,CiNii,PubMedを用いて検索した該当論文から情報を抽出し,内容を整理した.
結果:計31文献が抽出された.教育は講義,学内演習,宿泊演習,病院・地域での訓練参加,被災地・被災者との接点など多様であり,学生は知識・技術に加えて看護師の心構え,倫理的判断の困難性,地域資源の理解の必要性などの態度的学びを得ていた.一方,教育内容は急性期に偏り,慢性期・復興期,災害関連死予防や生活再建を扱う内容は乏しかった.また,学生が災害時の行動をイメージしにくい,宿泊演習のリアリティ不足といった課題も示された.
結論:今後は災害関連死予防を含む長期的視点と地域背景を踏まえた教育,VR/ARを活用した災害状況のイメージ化を補完するプログラム開発が求められる.
Objective: This study aimed to describe the characteristics of disaster nursing education programs implemented in undergraduate nursing curricula in Japan, focusing on their educational content, teaching methods, and students’ learning outcomes.
Methods: Articles were searched in the Ichu-shi Web, CiNii, and PubMed databases, and data on characteristics of the programs and reported student learning outcomes were extracted and organized.
Results: Thirty-one articles met the inclusion criteria. Disaster nursing education programs were provided through diverse formats, such as lectures, on-campus simulations, overnight shelter-based exercises, hospital- and community-based disaster drills, and interactions with disaster-affected areas or survivors. Students acquired not only knowledge and technical skills but also attitudinal learning, including preparedness as nurses, awareness of the difficulty of ethical decision-making, and understanding of community vulnerabilities and resources. However, most programs focused on acute and subacute disaster phases, whereas the educational content addressing the chronic and recovery phases—particularly prevention of disaster-related deaths and support for long-term recovery—was limited. Additionally, students often reported difficulties in visualizing their own actions during disasters, and a lack of realism in shelter-based exercises was identified as a common challenge.
Conclusion: To enhance disaster nursing practice competencies, future undergraduate programs must develop and validate educational programs that incorporate a long-term perspective including disaster-related death prevention and regional context, complemented by education that uses virtual reality and augmented reality technologies to visualize disaster scenarios.
自然災害や人為災害による被害とその対応は重要な社会課題であり,国際社会は仙台防災枠組み(UNISDR, 2015)や人間の安全保障(Commission on Human Security, 2003)を通じ,人間を中心とした災害リスク低減とレジリエンス向上を共通目標としてきた.人々の生命と健康生活を守る看護職もこれに寄与する役割を担い,看護基礎教育段階で災害対応の基礎的能力を育成しておくことは不可欠である.
国内の看護系大学学士課程における災害看護教育は阪神・淡路大震災を契機に発展し,近年の先行調査(田中,2025)では2022年度の科目開講率が90%を超えるなど,その必要性は広く認識されている.一方,開講時間数(コマ数)は1単位15時間が主であり,2018年度以降ほとんど増加していない.また,災害支援経験のある教員不足や,演習時間が十分に確保されにくい構造的課題は依然として残されている(佐藤,2021).このような教育条件の制約下では,限られた時間内で効果的な学習成果を生み出す教育設計が強く求められる.
しかし,これらの教育実践は個別の大学で多様に実施されているにもかかわらず,教育内容・方法と学生が得る学びとの関連が体系的に整理された報告は限られている.災害看護教育の質的向上を図るためには,基礎教育においてどのようなプログラムが,どのような能力の育成に寄与しているのかを提示する必要がある.
そこで本研究は,国内の学士課程で実施されてきた災害看護教育プログラムの現状を把握し,教育内容・方法と学生の学びの特徴を整理することで,災害看護実践に必要な能力育成に資する教育の方向性を検討することを目的として,文献レビューを実施した.
本研究の目的は,国内学士課程科目内でこれまで実施されてきた災害看護教育プログラムの教育内容・方法と学生が得る学びの特徴を整理することで現状を明らかにし,災害看護実践に必要な能力の育成に資する教育の方向性を検討することである.
学び:学生が教育を受けたことで新たに得た知識,態度,技術,行動のこと.
JBIガイドラインのスコーピングレビューの手法(沖田ら,2021)を参考にして文献レビューを実施した.
2. 対象論文の抽出データベースは医学中央雑誌Web,CiNii,PubMedを使用し,学士課程の看護学生と災害をAND検索できるキーワードを用いて検索した.検索時期は2024年3~4月で,検索年数は制限しなかった.
重複を除外し,基準に従い,タイトル,抄録を確認した.包含基準は,対象者(P)を学士課程の看護学生,概念(C)をカリキュラム内で実施されている災害教育の学生の学び,文脈(C)を日本とした.会議録は除外した.全文精読では,概念(C)については,論文のタイトル,目的,結果に「学び」と明示されているものの他に,「学習効果」「学習成果」「教育効果」と明示されているものを含めた.かつ,学生の学びを明確にする目的で実施された調査であり,教育内容が具体的に示され,学生からデータを収集して分析しているものとし,文献を選定した.
3. 分析方法文献本文を精読し,文献情報(公表年次,著者,タイトル,掲載紙),論文で調査対象となったプログラムの情報(科目名,科目の中で特に着目している教育プログラム,該当の科目/教育プログラムの目的目標・内容・実施時間・対象の災害種類・対象の災害サイクル・看護領域以外や学外との協働),受講により得られた学生の学び(対象学年,データ源,分析デザイン,学びの結果など)を抽出し,エクセルにマトリックス表で一覧にした.文献の選定および文献からの情報抽出は,信頼性確保のため,スコーピングレビューに精通している研究者の助言を得て行った.
教育プログラムの内容,災害種類は分類,集計した.災害サイクルも分類集計したが,文中に明確に記載がない場合は,教育プログラムの目標目的や内容から,どの時期の対応能力獲得を目標としているのかを解釈し分類した.例えば,防災訓練に参加するプログラムであれば災害急性期~亜急性期に分類し,訓練立案から実施まで関わるプログラムは準備期~亜急性期に分類した.本文からどうしても対象サイクルが読み取れないものは不明とした.
原論文の主張や記述に忠実であることに努めて,言い換えは最小限にとどめ,剽窃・盗用とならないよう出典を明記し引用した.
文献選定の結果,31件が分析対象となった(図1).発表年は2003年から2023年であり,期間全体に不均等に分布し,2017年までは報告がみられない年も存在した.一方,2017年以降は毎年報告がみられ,特に2019年は5件と最も多かった(図2).


文献の研究デザインは,質的研究17件,量的研究10件,質的・量的混合研究4件で構成されていた.質的研究では,学生レポートや質問紙の自由記述内容から学びの内容を抽出,分類する方法が主に用いられていた.量的研究では,学習達成度自己評価,知識理解度のテスト,災害看護に関する興味関心の程度など,多様な評価指標を用いて学習成果を数値化していた.対象学年は4年生を含むプログラムが最も多かった(20件,64.5%).
2. 教育プログラム内容の全体的傾向教育プログラムの内容は多様であり,その評価対象が科目全体であった文献が10件,科目の一部単元を扱った文献が21件であった(表1).
| 文献No | 著者 | 学びの 評価対象 |
プログラムの 教育期間 |
プログラムの教育形式 | プログラムで扱う災害の種類 | プログラムで扱う災害サイクル | 看護領域以外や 大学以外との協働 |
|||||||||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 学内講義 | 机上演習・グループワーク | 実践演習・技術演習 | 未被災地フィールドワーク | 避難生活体験 | 病院や地域の災害訓練参加 | 病院等関連施設見学 | 被災地・被災者訪問 | 地震・津波 | 水害 | その他自然災害 | 人為災害 | 記載なし | 準備期 | 急/亜急性期 | 中長期 | サイクル全般 | 記載なし | |||||||
| 1 | 松本ら,2003 | 科目全体 | 5日間 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||||||||
| 2 | 石川ら,2006 | 科目全体 | 15時間 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||||||||||
| 3 | 兎澤ら,2006 | 一部 | 2泊3日 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |||||||||||||||
| 4 | 片穂野ら,2006 | 科目全体 | 5日間 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||||||||
| 5 | 兎澤ら,2007 | 一部 | 2泊3日 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |||||||||||||||
| 6 | 田村ら,2008 | 科目全体 | 3週間 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||||||||||||
| 7 | 尾崎,2010 | 一部 | 125分 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |||||||||||||||
| 8 | 百田・中信,2011 | 一部 | 1泊2日 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||||||||||||
| 9 | 梅崎ら,2011 | 科目全体 | 3週間 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |||||||||||||||
| 10 | 臺ら,2011 | 一部 | 270分(3コマ) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |||||||||||||||||
| 11 | 百田・中信,2012 | 一部 | 1泊2日 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |||||||||||||||
| 12 | 松浦ら,2014 | 一部 | 4日間 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||||||||||||
| 13 | 會田ら,2017 | 科目全体 | 45時間 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||||||||||
| 14 | 西上ら,2018 | 一部 | 4時間(宿泊あり) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||||||||||||
| 15 | Yano & Funase, 2018 | 一部 | 2コマ | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||||||||||||||
| 16 | 河村ら,2019 | 一部 | 1日 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |||||||||||||||||
| 17 | 三浦ら,2019 | 一部 | 5日間 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |||||||||||||||
| 18 | 井上ら,2019 | 一部 | 4日間(12コマ) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||||||||||||
| 19 | 山口ら,2019 | 科目全体 | 30時間 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||||||||||||||
| 20 | 谷口ら,2019 | 一部 | 4時間 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||||||||||||
| 21 | 森嶋ら,2020 | 一部 | 記載なし | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |||||||||||||||||
| 22 | 河村ら,2020 | 一部 | 3日間 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||||||||||||
| 23 | 古屋ら,2020 | 科目全体 | 1日 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||||||||||
| 24 | 奥平ら,2020 | 一部 | 記載なし | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||||||||||||
| 25 | 小坂・三浦,2021 | 科目全体 | 15時間(8コマ) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |||||||||||||||
| 26 | 樋本ら,2021 | 一部 | 2時間(1コマ) | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||||||||||||||
| 27 | 山口ら,2021 | 一部 | 2時間(1コマ) | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||||||||||||||
| 28 | 舟木ら,2022 | 一部 | 65分 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |||||||||||||||||
| 29 | 中尾ら,2022 | 一部 | 記載なし | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||||||||||||
| 30 | 池原ら,2022 | 科目全体 | 5日間 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||||||||||
| 31 | 佐藤・宇野,2023 | 一部 | 2日間 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |||||||||||||||
扱われた災害の種類は,地震が16件(51.6%)と最も多く,自然災害(25件)が人為災害(6件)よりも圧倒的に多かった.プログラムの実施において,行政,病院,高齢者施設,自衛隊,民間企業など看護領域以外の機関と連携したことが読み取れた文献は19件であった.教育内容の焦点となった災害サイクルは,急性期・亜急性期が21件(67.7%)と最も多く,準備期が4件,慢性期・復興期(中長期)が1件のみであった.
教育プログラムの形式は,災害図上訓練DIG(Disaster Imagination Game)やエマルゴシミュレーション,救護所設営計画作成などの机上演習・グループワークが17件(54.8%),トリアージや災害場面を想定した実践演習・技術演習も17件(54.8%)と同程度に多かった.一方,講義形式は15件(48.4%),病院・地域の災害訓練等への参加は7件(22.6%),避難生活体験宿泊型プログラムは5件(16.1%)であった.実際の被災地や被災者との直接的関わりを取り入れたプログラムは4件(12.9%)にとどまった.
3. プログラム形式別の学生の学び各文献で特に焦点を当てていたプログラムの形式別に学生の学びを整理し記述した(表2).
| 文献No | 著者 | 学びに関する調査 | ||
|---|---|---|---|---|
| 対象学年 | 分析 デザイン |
主な結果(学び) | ||
| 1 | 松本ら,2003 | 4 | 質的 | ・学生の実習の学びは,〈看護師の被災体験談が深く心に残った〉〈現地実習をすることで学びが深まった〉〈災害時に対する心構えができた〉〈被災者への心のケアの必要性を感じた〉の4つの表題に整理された. |
| 2 | 石川ら,2006 | 4 | 質的 | ・学生は,「災害時支援が必要となる住民の特性」「災害の状況経過により移り変わる健康問題」などの地域住民のヘルスニーズや,「災害発生時の保健師の役割」「平常時の保健師の役割」「病棟看護師の役割」「すべての看護職に共通の役割」などを学んでいた.「看護職の活動内容」に関する学びは,平常時・発災時・平常時発災時どちらもの内容が記述された. |
| 3 | 兎澤ら,2006 | 1 | 量的+質的 | ・外部環境を把握する必要性,住居環境を整える必要性,テント内とゴミ管理の必要性などの日常生活の中での準備に関する学び,水資源に対する工夫,非常食の内容と満足度などのライフラインが絶たれた時の対処法に関する学び,協力し合うことの大切さ,時間を守ることなどの集団の一員としての行動の学びが見られた. |
| 4 | 片穂野ら,2006 | 4 | 量的 | ・救命救急処置対応能力,災害時の救急医療体制への理解,被災者の身体的・心理的・社会的支援活動への理解,日常看護での危機管理への理解に関する4つの学習目標達成度自己評価平均点は3.14~3.24点で,概ね達成されていた. |
| 5 | 兎澤ら,2007 | 3 | 質的 | ・体験学習受講者と未受講者間には災害準備行動実施において有意差が認められた. ・レポートの内容は,「ライフラインの絶たれた生活から自然と人と自分との真剣な向き合い方を学んだ」「相互協力と主体性の大切さと達成する喜びを学んだ」「災害看護の役割認識と準備行動の必要性と行動力を学んだ」の3カテゴリーに分類された. |
| 6 | 田村ら,2008 | 記載なし | 質的 | ・学生は,被災地住民の生活状況の困難な側面を把握するとともに,「住民同士のネットワーク」「今後の生活に前向きな考え」などの地域住民の持つ力を捉えていた. ・学生は被災地で保健活動を「住民が必要時身近に相談できるサービスを創る」「必要な社会資源の利用を勧め,関係職種と連絡・調整する」「保健師も心の自己管理する」など多岐にわたるものと捉えていた. |
| 7 | 尾崎,2010 | 3 | 質的 | ・「シミュレーションの必要性・重要性」「災害や災害救護のイメージ化ができた」「被災者・救援者の両方の気持ちが理解できた」などの総合的な視点の気づきや学びが最多であった. ・「応急手当」「トリアージの実施」「こころのケア」などの技術,「現場での動きや全体の流れ」「冷静な行動」「認識と行動化の違い」などの行動力に関する視点の学びも見られた. |
| 8 | 百田・中信,2011 | 4 | 量的 | ・学生の理解度は,災害の設定,避難所のスペースや配置,避難所の食事や栄養,衛生面,避難所の環境,避難所生活の課題,避難所の看護職の役割などの全ての項目において「だいたい理解できた」が最も多く,70%以上であった.「とてもよく理解できた」との合計は,全ての項目において75%以上であった. |
| 9 | 梅崎ら,2011 | 4 | 量的+質的 | ・学生は,実習の前後で質問紙調査項目20項目全てで理解度に有意差が見られ,災害医療の知識が深まっていた. ・学びは,「トリアージ」「救援医療活動のオペレーション」「自衛隊でのヘリによる患者搬送研修」「被災者と医療者へのメンタルケア」の順に記載項目数が多かった. |
| 10 | 臺ら,2011 | 3 | 質的 | ・学生の今後に生かす学びは,災害・災害看護への関心の高まり,地域の一員としての自覚などの《学生自身の気づき》,地域の特性の理解,地域の社会資源の把握などの《地域アセスメント》,リスクアセスメントに基づく指導,平常時からの防災対策を支援などの《要援護者への具体的な支援》,訓練による技術獲得や心構えなどの《災害時の看護の役割》の4つに大別された. |
| 11 | 百田・中信,2012 | 4 | 量的 | ・演習による避難所の理解については,一部の項目で救援コース履修者の方が一般学生よりも高い傾向が認められたが,すべての項目に有意な差はなかった. |
| 12 | 松浦ら,2014 | 4 | 量的 | ・60.4~86.2%の学生が組織間の情報伝達と連携・救護活動を,80%以上の学生がトリアージタグの運用,トリアージ後の患者の流れを「理解できている」と回答した. ・96.5%の学生が災害救護活動のイメージ化ができていたが,役割行動を起こすことについては,34.5%が自信がある,1.7%がとても自信があると回答した. |
| 13 | 會田ら,2017 | 3 | 質的 | ・学生の学びは,災害急性期に求められる能力への気づきと実践能力の獲得意欲,災害現場で活動することへの困難感,CSCATTTへの理解の深まりから求められる実践能力の自覚,平時と変わらない看護の本質,円滑なTTTを可能にする医療救護所運営,速やかな医療活動につなげるための情報の取捨選択,災害看護サイクルに応じた急性期以外の活動,黒エリアを担当する看護師役割への気づき,命のトリアージをすることへの倫理的葛藤など20項目の分類された. |
| 14 | 西上ら,2018 | 4 | 質的 | ・学びは,【避難生活の困難さを実感する】【被災者の状況がわかる】【支援の方法がわかる】【災害への備えができていない】【災害は身近に起こりうる】【避難所の疑似体験演習でなければわからない】の6カテゴリーに分類された. |
| 15 | Yano & Funase, 2018 | 記載なし | 量的 | ・内容を階層的クラスター分析し,Jaccard距離は,〈訓練〉と〈防災〉の間で0.2,〈自分〉と〈知識〉の間で0.25,〈経験〉と〈必要〉の間で0.33,〈参加〉と〈訓練〉の間で0.33であった.共起ネットワークカテゴリにおいて,最も語数が多いカテゴリーでは,〈訓練〉は〈知る〉〈必要〉〈防災〉〈参加〉〈災害〉とつながり,〈体験〉は〈防災〉〈実際〉〈必要〉〈見る〉とつながっていた. |
| 16 | 河村ら,2019 | 2 | 質的 | ・学習成果は,【看護観が変容する機会】【臨床実習と防災訓練での環境の違い】【地域で生活している住民を知る】【防災訓練の意義】【災害発生時の避難所看護の在り方】【内服薬やお薬手帳の携帯の必要性】【外国人被災者への支援策】の7カテゴリーに分類された. |
| 17 | 三浦ら,2019 | 4 | 量的 | ・「災害看護への興味関心」は実習前後で有意差がなかった. ・「組織間の情報伝達と連携・救護活動の理解の程度」,「トリアージプロセスの理解の程度」,「災害救護活動のイメージ化」「役割行動を起こす自信」のすべての項目で,実習前と比較して実習後の到達度が有意に高い結果であった |
| 18 | 井上ら,2019 | 3 | 量的+質的 | ・学生は災害時の看護職の役割について,「命を守る」「現場の調整」「状況把握し報告」などの行動に関する学びと,「状況に応じた対応」「被災者への身体的処置」「被災者への心のケア」などの技術に関する学びを多くあげていた. ・領域ごとにシミュレーションを用いた発表をしたことで,災害現場でのトリアージや避難所での衛生管理について,広い視野での学びを得ていた.「自分が生活している地域で被害があったと仮定することで想定しやすかった」という記述もあった. |
| 19 | 山口ら,2019 | 4 | 量的 | ・「放射線防護の3原則」「X線照射後の治療室の状態」「職業被ばくの線量限度」など複数の項目の正答率は講義前に比べ講義後に有意に上昇し,項目全体の合計得点も有意に上昇したが,「放射線の影響による悪心・嘔吐が出現し始める線量」の正答率は講義後も約3割と低かった. |
| 20 | 谷口ら,2019 | 4 | 量的 | ・災害時の地域での活動に対するセルフエフィカシー,災害時の地域住民との活動へのモチベーション,地域の災害対策についての関心度は演習前後で全て有意に高まった. ・学生の80%以上が,災害時の自助の重要性,地域資源の活用と共助の重要性を学んでいた.災害時の具体的行動のイメージ化については61%にとどまった. |
| 21 | 森嶋ら,2020 | 4 | 質的 | ・ボランティア・観察者の学生が共通して,安全の確保,情報収集,情報共有,連携,救護活動の実践,精神的なケアを災害時の看護師の役割であると捉えていた. |
| 22 | 河村ら,2020 | 1~4 | 質的 | ・学びは,防災の準備をする,災害時には身近な生活物品を活用できると学ぶなどの【備え意識の向上】,新たな視点を知る,相互に刺激し合うなどの【専門職としての視野の深化】,防災・減災活動への責任を感じる,情報共有の方法をも模索するなどの【学問背景が異なる者への情報提供の配慮】の3カテゴリーに分類された. |
| 23 | 古屋ら,2020 | 4 | 質的 | ・学びは【病院の災害対策の実際】【医療者が置かれる状況】【医療者に求められる務め】【対象者に寄り添ったケア】【情報管理の難しさ】【連携の大切さ】【災害を見据えた心構え】の7テーマに分類された. |
| 24 | 奥平ら,2020 | 4 | 質的 | ・負傷者役を実施した学生の学びは,【災害支援時の具体的活動のイメージ化】,知識・経験不足の認識,訓練の限界などの【演習参加を通して見えてきた課題】,【災害看護への関心の高まり】の3つに分類された. |
| 25 | 小坂・三浦,2021 | 1 | 量的+質的 | ・学生の学びは【非日常の中で生活している被災者への看護活動】【急性状況に対応できる看護師の資質】【災害看護を実践するための看護師の備え】【多職種との協働・連携】【支援者のケア】の5つに分類された |
| 26 | 樋本ら,2021 | 4 | 質的 | ・学生が災害時の看護師に必要だと感じた学びは,【災害現場では倫理的判断が求められる】【最善の冷静な判断が必要】【混乱の中で適切な知識と技術の訓練を行動に繋げる】【災害に耐えられる心の訓練も必要】の4カテゴリーであった. |
| 27 | 山口ら,2021 | 2 | 量的 | ・「後年に生じる健康障害」「次世代以降への影響」が起こる可能性が低いと回答した割合は,ともに講義後が講義前に比較して有意に高く,放射線リスク認知の改善が見られた. ・放射線不安は,講義後は講義前に比較して有意に改善した. |
| 28 | 舟木ら,2022 | 4 | 質的 | ・学生が認識していた災害時の看護師の役割は,【安全確保】【情報収集】【優先順位】【一次救命処置】【プライバシーの配慮】【被災者の心のケア】【応援要請】【チームワーク】の8つに分類された. |
| 29 | 中尾ら,2022 | 4 | 質的 | ・学びは,【病院の災害危機管理】【災害を想定した支援者の備え】などの“平時の備え”と,【院内外の支援者と関係機関同士の連携】【支援者個々の役割遂行】【正確な情報と伝達の大切さ】【医療職の言葉の持つ力】【看護師に求められる姿勢】【看護師の役割】【個別対応できるコミュニケーション力】【遺族への対応】【被災者の心理状態】などの“災害発生時の活動”に大別された. |
| 30 | 池原ら,2022 | 4 | 量的 | ・共起ネットワークで共起関係の強い語の集団は,「災害」,「災害時」,「考える」を中心に構成されたもの,「地域」,「特性」,「住民」,「準備」で構成されたもの,「要配慮者」,「高齢者」,「多い」,「人」を中心に構成されたもの,「感染」と「ウィルス」で構成されたもの,「患者」,「高血圧」,「支援」を中心に構成されたものなどの7つであった. |
| 31 | 佐藤・宇野,2023 | 4 | 質的 | ・学びのテーマは,[災害における救護技術の学び][災害時の多職種との連携と情報共有についての学び][トリアージに関する学び][災害時の精神的ケアに関する学び][災害看護の対象][事前の備え]に分類された. |
講義の学習成果に焦点を当てた文献は3件であった.放射線被ばくと看護に関する講義(山口ら,2019;山口ら,2021)では,講義前後の知識やリスク認知の変化が評価され,「放射線の影響による悪心・嘔吐が出現し始める線量」は講義後も正答率が低かったが,多くの項目で有意な得点上昇が認められた.特に,短時間(2時間)の講義であっても,放射線リスク認知や不安が改善したという結果であった.また,被災地内と被災地外の看護師の活動システムの違いや「時間論」を扱う講義(樋本ら,2021)では,学生は災害時の看護師に求められる倫理的判断力,冷静さ,心の準備の重要性を理解していた.
2) 学内演習中心のプログラム学内演習の成果に焦点を当てた文献は8件であった.
約2時間の災害救護シミュレーション(尾崎,2010)では,交通災害と自然災害の想定で被災者役・救援者役としてトリアージ等を体験することで,総合的視点からの学びが最も多く,技術的学び(トリアージ,応急処置,心のケア)が続いた.トリアージ,DIGの手法を取り入れた地域看護診断,要援護者の健康課題と支援策の検討を含んだ「健康危機管理演習」(270分)(臺ら,2011)では,学生は地域の視点と災害看護の役割を結びつけて理解していた.45時間にわたる災害看護実習(會田ら,2017)では,救護所設営計画机上演習および設営訓練,災害拠点病院見学,包帯法やトリアージ等の技術演習,ディスカッションが含まれ,学生は災害急性期に求められる能力とともに,倫理的葛藤や災害現場で働く際の心理的負担にも気づいていた.複数領域をテーマとした演習(井上ら,2019)は,学生が講義と演習を経て,基礎・成人・在宅・老年・精神など複数の看護領域を災害と結びつけて検討するものであり,その検討結果を共有することで広い視野での学びを獲得し,また大学を避難所とした事例であったため,実際の生活をより現実的に連想できたことが示されていた.発災直後と発災3日後の病棟対応をロールプレイングできる構成の演習(古屋ら,2020)では,学生は病院の災害対策の流れを理解しながら,情報管理の難しさ,連携の大切さ,対象者に寄り添うケアの必要性など,実践に近い学びを多面的に得ていた.個別事例(車中泊避難者の呼吸困難感出現)に基づく演習(舟木ら,2022)も行われ,学生は観察に基づく急変対応という具体的判断を実践し,情報収集やプライバシーの配慮,支援要請といった看護師の役割を理解していた.別の2日間の集中演習(佐藤・宇野,2023)では,トリアージや救護所活動を経験し,救護技術や多職種連携,精神的ケア,トリアージ,事前の備えなど,看護師の複数の役割を体系的に学ぶ機会となっていた.
一方,技術演習ではなくグループ学習を中心とした演習(小坂・三浦,2021)では,過去の災害の調査を通して,災害看護に携わるものとして,被災者の生活状況を踏まえた支援,急性期に対応する看護職の備え,多職種協働,支援者自身のケアが大切であるという学びが生じていた.
これらの学内演習を通して,学生においては,知識・技術の習得に加え,災害場面で生じる問題や看護師役割の多様性,対象者に寄り添う姿勢,倫理的判断の困難性,地域性の理解の必要性など,実践に向けた態度的学びが総合的に促進されていることが示された.
3) 宿泊型演習プログラム宿泊型演習を含む文献は5件であり,いずれも災害時の生活環境を疑似体験することで学びを深めることを目的としたものであった.最も長期間の演習(兎澤ら,2006)は2泊3日で行われ,大学施設内にテントを設営するキャンプ形式での生活を通して,ライフライン途絶,資源不足,集団生活の困難さを体験する構成となっていた.学生は日常生活の中での準備,不自由な生活を乗り切る工夫,集団の中での協力・共有といった多様な学びを得ていた.さらに同プログラムの履修から1年4か月後に未履修者との備え行動を比較し(兎澤ら,2007),履修者の方が災害準備行動を有意に実施していることが示された.
体育館での1泊宿泊を伴う避難所運営演習(百田・中信,2011)では,避難所生活での課題や,要配慮者支援の看護の役割への理解が高かったものの,同じ演習の履修者・未履修者の比較研究(百田・中信,2012)では避難所への理解度や災害看護への興味・意欲に有意差がみられないという結果も得られた.夜間巡回や要配慮者支援を含む演習(西上ら,2018)も報告され,学生は避難生活の困難さや被災者の状況だけでなく,支援者の方法,個人の備えの課題について学んでいた.一方で,学生から「リアリティ不足」の指摘も報告された(百田・中信,2011;西上ら,2018).
4) 病院等学外施設での学習を中心としたプログラム病院での学習を中心的に扱った文献は3件であり,いずれも災害訓練や施設見学,メディカルラリー参加など実践的内容が含まれていた.まず,組織間連携,トリアージプロセス,災害救護活動の学生のイメージ化はいずれも理解度が高かったが,自ら役割行動を起こす自信は相対的に低く,知識やイメージ形成と実践行動の間にギャップが存在することが示されていた(松浦ら,2014).また,学生は災害時の看護師の役割として,安全の確保,情報収集,情報共有,連携,救護活動の実践,精神的なケアをあげたり(森嶋ら,2020),必要な看護活動は,病院の危機管理や看護師自身の備え,住民の知識醸成,院内外の支援者との連携,医療職のコミュニケーション,遺族への対応などであると学んだりしていた(中尾ら,2022).
病院ではなく自衛隊施設での演習(梅崎ら,2011)では,学生の災害医療の知識が有意に深まったことが報告された.
5) 被災経験のない地域の訓練参加等のプログラム地域の防災訓練に参加するプログラム(Yano & Funase, 2018;河村ら,2019;河村ら,2020;奥平ら,2020)では,学生が住民と関わり,模擬被災者としての体験,健康相談,避難所運営などを担うことで,住民理解,個人の備え意識の向上,看護観の変容,地域防災への参加意識,多職種との役割調整などを学んでいた.例えば,Yano & Funase(2018)の階層的クラスター分析では,〈訓練〉〈防災〉〈必要〉〈知識〉〈参加〉などの語が共起し,訓練への参加体験が防災理解に結びついていた.また,河村ら(2019)では,慢性疾患のある人や外国人など要配慮者の課題や備えに学生の関心が向き,地域の多様性への理解が深まっていた.
大学周辺のフィールドワーク(石川ら,2006;谷口ら,2019;池原ら,2022)では,災害リスク,地域資源,建物構造などを地区踏査や住民インタビューで把握し,それらを基に災害対策マップを作成する取り組みが行われていた.学生は災害が住民に与える影響や看護師・保健師の役割を理解し,地域資源や共助の重要性を学んでいたが,災害時の具体的行動のイメージ化の理解度はその他の項目より低い傾向がみられた.
6) 被災者・被災地との接点を含むプログラム被災地・被災者訪問を含む文献は4件であった.雲仙普賢岳噴火災害の被災体験談聞き取りを含む演習(松本ら,2003;片穂野ら,2006)では,「体験談が深く心に残った」「災害時の心構えができた」「被災者の心のケアの必要性を感じた」などの「心」に着目した情動的な学びが得られていた.量的評価(片穂野ら,2006)でも,救命処置対応能力,被災者の身体的・精神的・社会的支援活動理解,日常的な危機管理など,学習目標の達成度は高かった.初日に被災地訪問した後,病院での災害訓練やシミュレーションを行ったプログラム(三浦ら,2019)では,質問紙調査では理解度の有意な向上が示されたが,被災地訪問自体の効果を独立に評価した分析はみられなかった.
能登半島地震(2007年)の被災地域での実習(田村ら,2008)では,仮設住宅訪問や健康相談を通じ,学生は「住民の生活状況の困難」と同時に「地域のつながり」「前向きな考え」などの「住民の力」に気づいていた.また,地域保健活動の役割として,相談支援,社会資源の活用,地域サポート体制づくりなどを挙げていた.
文献数の推移において,2017年以前は断続的であったのに対し,以降は毎年複数の文献が報告され,特に2019年は最多であった.近年の自然災害の激甚化,感染症の拡大,災害医療・防災教育の重要性に対する社会的認識の高まりなどが影響し,看護基礎教育において危機対応能力の育成が必須と認識されてきたことの反映と考えられる.また,看護領域以外との連携プログラムが複数報告されていたことからは,災害看護教育が単独の学内教育にとどまらず,地域・多機関連携を基盤として展開されていることを示している.
研究デザインでは質的研究が最も多く,災害看護教育が学生の価値観の深化,内省,役割理解など,数値化しにくい学習成果を扱う傾向が強いことが示唆される.一方,量的研究は学習達成度や知識理解に焦点をあてており,教育効果の測定に一定の客観性をもたらしている.しかし混合研究は4件のみであり,今後は量的・質的双方を統合し,知識・態度・技術・行動の総合的変容を測定する研究枠組みの必要性が示唆される.
また対象学年では4年生を含むプログラムが半数以上であり,災害看護教育が臨地実習や統合実習との接続を前提とした構造になっていると考えられる.これは災害看護が特殊な環境下での判断力・倫理的思考・実践力を求める領域であることから,基礎看護学習の総まとめとして位置付けられやすいことを示している.
2. 教育形式別にみた学びの特徴 1) 講義形式講義形式は知識習得に一定の効果がみられ,特に放射線被ばくに関する学習では短時間の講義でもリスク認知が改善していた.これは災害看護領域でも認知的学習が講義によって補強されうることを示している.また,倫理的判断や冷静さといった態度に関わる学びも講義から得られており,講義が必ずしも知識習得の受動的学習に留まらない可能性を示唆する.しかし講義のみでは災害場面の複雑性の理解や身体性を伴う学習には限界があり,講義単独では災害のイメージ化や行動レベルの学習が進みにくい点が課題として残る.
2) 学内演習様々な資源を用いて工夫を凝らした学内演習は,技術習得のみならず,看護の役割や態度,倫理観,多職種連携の重要性など,災害看護の基盤となる態度的学びを促進していた.また,支援者の心理的負担や支援者自身のケアの必要性についても学んでおり,学生は災害時の看護職の役割を理解する一方で,その実践に支援者としての厳しい立場や葛藤を伴う可能性を感じ取っているとも考えられる.成人看護学や老年看護学など領域別実習が組まれる専門領域の看護教育では,学内で各領域の看護役割を理解した後,実際に患者を受け持つことで理解を行動へとつなげる機会が提供される.学生はその過程で,自らのストレス耐性や領域との適性,看護職としての実践の見通しを形成していく.しかし災害看護領域では,学内演習の後に実際の災害後状況での実践機会が続かない場合,心理的負担が現実にはどのように生じるのか,また自分がそれに対応できるのかを十分に検討できず,学びが消化不良に終わる可能性がある.とはいえ,災害状況下での実地学習の場を学生に提供することは,その機会の希少さや倫理的観点から実現は難しく,教育上の課題である.
3) 宿泊型演習宿泊型演習では,ライフライン途絶や集団生活など,災害後の不自由な生活を身をもって体験する,身体感覚を伴う理解が可能となり,学生の学びには生活者としての視点,備えの必要性,集団の協働性などが含まれていた.また,2泊の演習履修者において,1年以上経過した後の行動変容が示されていた点は注目すべきであり,疑似体験型学習が長期的な備え行動に寄与する可能性が示唆される.一方で生活体験の「リアリティ不足」が指摘された1泊の宿泊型演習の履修者において,未履修者との学習効果の有意差が無かったことからは,現実の災害と演習状況の乖離が学生のイメージ形成を妨げている状況が推察される.宿泊型演習の限界を超越するような,学生の心身の安全確保と災害場面のリアリティ確保を両立する方法論の検討が求められる.
4) 病院での実践的演習病院内実習では,学生の実践的能動的体験を通して,病院の災害時の機能や組織間連携,トリアージの流れなど,制度的・組織的理解が促進されていた.しかし,実際に「自ら役割行動を起こす自信」は低い傾向が示されており,知識やイメージ形成と実践行動の間にギャップがあると言える.これは,災害看護の実践が高度な判断力を要求することに加え,学生が医療職の実際の動きを間近にみて理解した一方で,自分自身が看護職として行動する経験は十分でないというギャップが影響している可能性があり,これは先述した,演習と実際の災害現場での実践学習の連続性の欠落という課題とも関連している.
5) 地域での訓練参加地域の防災訓練参加やフィールドワークといった能動的学習は,学生に住民の生活背景や脆弱性,地域資源の構造,共助の必要性など,学内では得にくい学びを提供していた.高齢者だけでなく,慢性疾患のある住民や外国人住民など要配慮者への理解が深まった点は,災害関連死予防ケアとの関連性の視点から重要であるが,そこまでの学びに関する記述は見られなかった.一方,学生の「災害時の自らの行動のイメージ化が難しい」という結果からは,災害時の地域の一員としての行動想定が学生にとっては難しい領域であることが示唆され,同時に災害像の不鮮明さが防災学習の限界であると言え,これは教育開発上の課題である.
6) 被災地・被災者との接点現場のリアリティに触れられる,被災者の語りや被災地訪問を含む教育は数が限定されるものの,学生の学びは情動的反応を伴っており,看護職としての心構え(態度的学び)の形成に寄与していた.また,被災地で実際に行われている地域保健活動に触れた実習科目履修学生は,住民の力,コミュニティのつながり,社会資源の重要性に気づき,地域性の理解を深めており,災害看護と地域保健の接続がみられた.被災した人々が実際に被災後にどのようにそれぞれの力を発揮しながら困難な中で生活しているのかを知ることが,地域資源を活用した看護展開につながる教育として有効であることが示された.ただし被災地訪問の効果を厳密に測定する研究は少なく,その教育的価値は今後さらに検証される必要がある.
3. 今後への示唆 1) 「地域の視点」の重要性2025年3月に改訂版「看護学教育モデル・コア・カリキュラム」(文部科学省,2025)(以下,改訂版コアカリ)が公開された.この中で,災害に関する内容は主には,“地域社会における健康支援”の“SO-07地域における健康危機と看護”と,“ケアの質と安全の管理”の“QS-06災害時の対応”に含まれている.特に“SO-07地域における健康危機と看護”は,“健康危機の概念と法制度”の他に“地域における健康危機と予防対策”“地域における健康危機と看護活動”に細分化されており,地域の視点をもって災害看護の対象を理解することや災害前後の看護活動を展開する能力育成が必要であることを示している.
本調査結果では,地域の視点で災害や看護の対象を扱う教育が多数存在し,学生が地域の脆弱性と資源を多面的に把握していることが示された.フィールドワークやDIGを含む演習でも学習効果が見られたが,被災地・被災者訪問を含むプログラムは地域特性に基づく看護支援計画の思考を促進し,学生が災害看護の対象を地域全体として捉える視点を育んでいた.この傾向は,地域包括ケアシステムや地域共生社会の視点での災害対応理解を促進するもので,改訂版コアカリの内容との親和性も高い.今後も地域密着の災害看護教育の学習成果報告が期待される.
2) 慢性期・災害関連死に関する教育成果報告の空白本調査により,災害の慢性期・復興期を扱う教育,および災害関連死に焦点を当てた教育の成果報告の空白が明らかとなった.災害関連死は,避難生活のストレス,慢性疾患悪化,医療福祉アクセス断絶,介護力低下,生活再建過程の経済的課題,社会的孤立など,多面的な生活の困難性から生じる.過去の災害関連死の約4割は災害発生4か月以降の死亡であり(内閣府,2023),予防には急性期の介入だけでなく,年単位の長期的視点も必要である.災害関連死は生活環境や健康課題と密接に関わっており,予防における看護の役割は大きい.改訂版コアカリでも,コンピテンシーの一つに「SO-07-02-02災害関連死の発生要因と予防対策を理解している」がある.
しかし本結果では,これら慢性期の健康問題や生活再建,仮設住宅での支援,要配慮者支援の継続性などを扱う教育成果の報告は数件のみと,急性期への偏りが明確であった.災害慢性期の教授割合の少なさは先行のシラバスレビューでも指摘されており(田中,2025),今回の報告数の偏りとの関連が窺えるが,この背景には災害を“地震直後の救護活動”として狭く捉える傾向だけでなく,慢性期の災害看護教育の検証の難しさが推察される.しかし先行研究においては,看護学生が課外で阪神・淡路大震災(森,1995),新潟県中越地震(林ら,2005),東日本大震災(中島ら,2013;岸田ら,2019),平成30年7月豪雨災害(祝原・渡邉,2019)の発生後,数か月から数年後にボランティア活動を行い一定の学びがあったことが報告されている.災害急性期の病院内ボランティアで傷病者対応することは難しくとも,地域で災害慢性期を生きる人々を支援しながら学習できる現場にアクセスしやすいことは,災害大国の看護学生の強みとも言える.
今後,災害関連死発生機序の理解,在宅避難者を含む多様な場所での長期的な避難生活の実態,生活や地域の視点を踏まえた個別性の高い生活再建プロセス,さらにそれを支える看護介入と多機関連携について体系的に教授し,上記のような課外でのボランティア活動との接続も視野に入れながら,災害慢性期看護教育の学習成果を検証する研究が必要である.
3) 災害のイメージ化の困難の克服調査結果では,学生が災害時の自身の行動を十分イメージできない,自信を持てない,避難所演習のリアリティが乏しいという課題も示された.この背景には,学生の災害経験の欠如,机上演習や模擬実践で再現できる範囲の限界,危険性の高い場面を安全に再現しなければならない教育的制約,災害状況の複雑性(切迫性,混乱,多重課題,感情労働など)が関係していると考えられる.実際に災害を発生させることは不可能であるため,VR(仮想現実)やAR(拡張現実)の活用が期待される.VR/ARは,臨場感のある視覚・聴覚刺激による状況把握能力の強化が期待でき,繰り返し体験できることも強みである.企業や自治体の防災教育現場では,VRゴーグルやタブレット端末などを用いた地震災害や風水害のシミュレーションが導入され始めている.看護領域においても,患者の自宅に看護師が訪問する場面や,難治性がんの告知・積極的治療の中止・看取りの場面など,「学生が同席することが難しい場面」をVRで疑似体験する教育内容や成果が報告されつつあり(高島・新屋,2025),災害看護基礎教育においても補完的手段で応用可能であると考える.例えば,VRを使用することで,避難所や仮設住宅内の生活空間の狭さ,騒音,プライバシーの制約といった環境的困難を体験できたり,被災者とのコミュニケーションを通して生活課題・健康課題の解決過程を没入的にシナリオ分岐型で追体験することも可能になる.こうした経験は,実際の災害現場での実践と同等の学びを達成するまでは難しいが,学生の実践への自信向上や災害状況のリアリティ感向上に寄与する可能性が高く,今後のプログラム開発と教育効果の検証が求められる.
本研究にはいくつかの限界がある.第一に,本調査において検索ワードはシソーラス用語を十分検討して使用したが,対象文献の漏れは完全には否定できない.また,査読なし文献が含まれており,記述の信頼性には一定の限界がある.第二に,多くが記述的研究で,自己評価や自由記述に基づく短期的成果が中心であり,教育効果を厳密に比較検証する研究や縦断的・混合研究法を用いた実証は不足していた.そのため,教育方法ごとの効果差を明確に示すことはできていない.第三に,本研究で抽出された教育的課題はあくまで公開文献ベースで捉えた範囲に留まる.
今後の展開としては,①知識・技術・態度・行動変容を包括的に評価できる混合研究や縦断研究の推進,②災害関連死予防や被災者の生活再建を含む長期的視点で構成された教育プログラムの体系的開発,③VR/ARを活用した没入的学習の導入と効果検証が挙げられる.さらに,基礎教育・卒後教育・継続教育を通じた災害看護人材育成体系を再検討し,教育内容の配置と到達目標を体系的に整理することが求められる.
本研究は,国内学士課程基礎教育における災害看護教育プログラムに関する文献をレビューし,教育内容と方法,および学生の学びの特徴を明らかにすることを目的とした.31件の文献を検討し,災害看護教育は多様な形態で実施され,知識・技術習得に加え,看護師の心構えや倫理的判断,地域性の理解といった態度的学びを促進していることが示された.加えて,学習成果には地域の視点が複数含まれており,改訂版コアカリが目指す“地域における健康危機と看護”の資質・能力育成に資する内容であることが示唆された.一方で,教育内容の多くは急性期に焦点化しており,慢性期や復興期,とりわけ災害関連死や生活再建過程を中心的に扱ったプログラムは限られていた.また,学生が自身の行動を具体的にイメージしにくいことや演習のリアリティ不足は,共通する課題として示された.以上より,今後の基礎教育には,体系的かつ課外活動との接続も視野に入れた災害慢性期看護教育プログラムの開発とその成果の公表や,VR/AR等の技術を活用した災害のイメージ化を助ける教育プログラムの開発とその効果検証を進めることが期待される.
付記:著者田中は本論文のすべての過程に貢献した.
謝辞:本研究はJSPS科研費JP23K16525の助成を受けたものです.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.