Journal of Japan Academy of Nursing Science
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
Original Articles
How Parents of Children With Developmental Disabilities Connect Past Experiences to Present Parenting: A Narrative Analysis of Fathers’ and Mothers’ Accounts
Chinatsu Nishida
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2026 Volume 46 Pages 74-83

Details
Abstract

目的:発達障害児の両親が過去の体験と現在の育児をどう結びつけるかについて,ナラティブ分析により検討する.

方法:発達障害のある小学生から中学生までの子どもを育てる両親に半構造化インタビューを実施した.

結果:発達障害児の両親は,過去の体験と現在の育児を【自分の親との体験から形成された育児観や子どもとの関わり方】,【自分の子ども時代と照らし合わせてのわが子の立場への想像】,【職業体験からの育児への葛藤】,【配偶者と共に子どもに関わってきた体験からの育児方法や考え方】,【支援機関での体験が育児に及ぼした影響】のテーマから結びつけていた.過去の体験が現在の育児に結びついている語りには,概要から行動の展開,評価・帰結に進む構造が確認できた.

結論:今後は,発達障害児を育てる両親の過去から現在のつながりを意識した支援や,語ることを支援に活かすための検討が必要である.

Translated Abstract

Purpose: To examine how parents of children with developmental disabilities connect their past experiences with current parenting through narrative analysis.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with parents of elementary to middle school children with developmental disabilities.

Results: Parents of children with developmental disabilities linked their past experiences with current parenting through the following themes: “views on parenting and ways of interacting with children shaped by their own experiences with their parents,” “imagining their child’s position in relation to their own childhood experiences,” “conflicts regarding parenting based on work experience,” “parenting methods and attitudes shaped by experiences of working with children alongside their spouse,” and “the influence of experiences at a support organization on parenting.” The narratives in which past experiences were connected to current parenting showed a structure that facilitated progression from an overview to the development of actions, evaluation, and conclusions.

Conclusion: In the future, it will be necessary to develop support that considers the connections between the past and present of parents raising children with developmental disabilities and explore how narrative approaches can be incorporated into such support.

Ⅰ. 緒言

ASD(Autism Spectrum Disorder:自閉スペクトラム症)やADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder:注意欠如・多動症)などの発達障害児の特徴には,コミュニケーションや情緒的応答の困難さ(別府,2007),母親への愛着反応の見えにさ(数井・遠藤,2007楠,2009),などがある.発達障害児の親は,これら発達障害の特徴から子どもへの対応方法に悩むことも多く(内山,2013),親子関係にストレスが生じやすくなると言われている(定本,2009).

子どもの両親がそろっている場合は父親と母親が育児に携わるが,発達障害児を育てる両親を対象にした研究では,配偶者の育児が不十分と感じることでのストレスや不安は母親よりも父親の方が有意に低く(石田ら,2020),父親の問題認識の低さが母親のストレスを高めるなどの報告がある(岩坂,2010).発達障害の子どもの何に問題を感じるかは父親と母親で違いがあることから(Davis & Carter, 2008),父親と母親が互いの育児に対する考えを知らないことや,自分との考えの違いが受け入れられないことなどは,親子関係や夫婦関係での問題が生じやすくなると考えられる.

親子関係の問題を解決するための支援には,ペアレントトレーニングなどがある.ペアレントトレーニングへの参加は母親が多いが,近年では父親を対象とした育児支援プログラムも実施され(中田・和田,2022),母親に限らず両親や家族のレジリエンスに注目した取り組みが進められてきている(鈴木田,2024).これら家族支援のプログラムには親が自分の育児を振り返る機会があり,自分の体験を物語として表現することで新たな見方や安心感を得られることがある.一例として,発達障害児の母親が自分の体験を過去から現在・未来への物語として語ることで子どもの成長,家族との関係に気づいたという報告や(糟谷ら,2018),自閉スペクトラム症の子どもの親が課題を物語として語ることで,社会文化的背景も含めて経験の意味を再構築した(Liu & To, 2023),などの研究がある.これらの論述から,自分の過去の体験が現在の育児へどのように結びついているかを物語として親自身が捉えることは,現在の状況への意味を見いだす,または再確認することにつながると考えられる.

自分の体験を物語として振り返ることは「ナラティブ」と言われている.ナラティブの意義は,物語的自己を理解することによってある事象への意味や価値を見いだし(野口,2018Riessman, 2008/2014),それまで問題と感じられていたことが問題と感じなくなる(野口,2018),などとされている.したがって,発達障害児の父親と母親も,物語的自己を知ることで,自分や配偶者の育児,子どもの障害などに対して理解が深まる可能性があると考えられる.

以上の背景から本研究では,発達障害児を育てる父親と母親が,過去の体験と現在の育児との関連をどのように結びつけているかをナラティブ分析により明らかにする.本研究によって,発達障害児に携わる看護師等の支援者が親の背景を理解するための示唆を得るとともに,両親の体験を聞くことの意義を見いだしたいと考えている.

Ⅱ. 研究目的

本研究の目的は,同じ子どもを育てる父親と母親が,過去の体験と現在の育児との関連をどのように結びつけているかについて,ナラティブ分析により明らかにすることである.本研究によって,発達障害児に携わる看護師等支援者が親の背景を理解するための示唆を得ることと,両親の体験を聞くことの意義を見いだすことを目指す.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

ナラティブ分析を用いた質的探索的研究

2. 研究対象者

ASDまたはADHDと診断を受けている小学生から中学生までの子を育てる両親とした.本研究は育児に関する過去の体験を語るため,育児経験期間がある程度必要となる.また,学童期から中学生までの間は子どもの社会性が広がり学校生活・学業に伴う困難感の現れやすい時期であるため(倉石,2013),過去の体験から現在につながる気づきが得られると考え,対象者の子どもの年齢を設定した.

3. 調査期間

2022年5月~2022年11月

4. 調査方法・調査方法

質的研究は,個の特徴や過程の深い理解により根底にある普遍的な概念を見いだす研究であるため,研究参加者を増やすことで普遍性のある知見を追究するのではなく,その個別的具体的な対象から深い意味や問題を見いだすことが必要となる(今福,2021).本研究では,それに要する分析期間を踏まえて4~5組8~10名の対象者を設定した.A県の児童精神科医・親の会の会長等に依頼し,同じ発達障害児を育てている両親の協力が得られ別々でのインタビューが可能な対象者(各紹介者を合わせて4組8名)に対して研究概要を説明していただき,全員から同意が得られたため紹介を受けた.分析対象者から研究者から口頭,文書を用いて研究概要を説明の上,研究参加意思のあった研究参加者の都合の良い日時と場所で研究者と一対一で実施した.インタビュー内容のICレコーダーへの録音の許可を得た後,1人につき1回,子どもの特性やこれまでの子育てについての1時間30分~2時間の半構造化インタビューを実施した.インタビュー内容は,子どもの特性やこれまでの子育てについて,配偶者や他の家族に対する思い,自分自身の幼少期や育てられてきた過去の体験等とした.8名を分析した時点で新たなテーマの出現がなかったため,分析対象人数は4組8名とした.

5. 分析方法

本研究は,人の意識,意欲,希望,信念,価値観などの体験の意味を探り,現在への結びつきについて探索するものであるため,質的研究が適していると考えた.分析方法は,ナラティブ分析のテーマ分析と構造分析とする.ナラティブ分析は多様な分析方法の集合体であり,ナラティブという概念の多面性により分析方法は一通りにとどまらない多様な分析方法の集合体とされている(宮坂,2021).焦点としては「語られたもの」と「語るという行為」という2つの大きな側面から捉えられる(宮坂,2021).語られた内容自体に着目する方法としては「テーマ分析」があり,これはストーリーとして語られた内容にどのようなテーマがあるかを探索するものである(Riessman, 2008/2014).自分の体験と現在の育児との結びつきは,過去から現在のストーリーでもあるため,本研究の分析にも適していると考える.本研究のテーマ分析では,親自身の過去の体験から現在の育児に結びついている語りの内容から,テーマを導き出した.さらに,語るという行為に着目するナラティブ分析としては,「構造分析」がある(Riessman, 2008/2014).両親がインタビュー中にどのようにストーリーを構成したかの構造分析によって,語り手が重要視することや,伝えたいことへの洞察ができる.構造としての「オリエンテーション」はインタビューの導入,「概要」は対象者の考える事実の語り,「行動の展開」は事実を他方向から捉え深堀しながら展開される部分,「評価」は語りの内容の意味を対象者が評価し,「帰結」は結論に至る部分とされている.すべての語りの内容を記した逐語録を繰り返し読み,構造の中に現れる会話の特徴を抽出し,テーマ分析で示されたテーマごとに,特徴の抽出された対象者を示した.個別のストーリーに着目して,テーマとその構造の検討を重ねた.

本研究は,インタビュアーと分析者が同一となる.過去には,研究者自身をインタビュープロセスの相互行為の当事者としてリフレクティブに分析することが難しいという考え方もあったが,現在では研究者自身が自分と相手の相互作用からリフレクティブに分析する有用性が示されている(やまだ,2021).したがって本研究では,インタビュアーである研究者による分析とともに,質的研究の実績のある研究者,発達障害児親支援に実績のある実践者にスーパーバイズを得て実施した.

6. 倫理的配慮

本研究は,藍野大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号2021-015).研究参加者には,研究目的・方法を口頭・文書で説明した.研究協力は自由意志であり,研究参加の有無は紹介者に知られることはなく,今後の参加に関して一切の不利益を及ぼさないこと,インタビューでは話したくないことを無理に話さなくてよいことや,いつでも中断できること,話したことを公表されたくない部分は申し出によって削除すること,研究参加意思の撤回の自由と方法,個人情報保護の方法について口頭・文書によって説明し,同意書を提出していただいた.インタビューの場所は,プライバシーの保たれる研究参加者の指定した場所とした.

Ⅳ. 結果

1. 研究参加者の概要

ASDまたはADHDと診断された小学生から中学生までの子どもを育てる両親,4組8名であった.対象者と育てる子どもの概要について,表1に示す.

表1 対象者の属性

A父母 B父母 C父母 D父母
対象者の
年齢・職業
A父:50歳代 自営業
A母:40歳代 フリーライター
B父:40歳代 会社員
B母:40歳代 専業主婦
C父:40歳代 会社員
C母:40歳代 元幼稚園教諭
D父:40歳代 会社員
D母:40歳代 専業主婦
子どもの人数 2人 2人 1人 2人
子どもの年齢と
発達障害特性
小学校高学年
グレーゾーン
中学生
ADHD
小学校低学年
ASD
中学生
ADHD ASD
小学校低学年
ADHD 知的障害
中学生
グレーゾーン
小学校高学年
グレーゾーン

2. テーマ分析の結果

テーマ分析では,両親の過去の体験と現在の育児に結びついているストーリーに着目した.その結果,5つのテーマ,18個の過去の体験,20個の現在の育児の内容が導き出された.表2に抽出されたテーマと対象者を示す.本文中では,テーマを【 】で,過去の体験についての内容を《 》,現在の育児についての内容を『 』,語りの内容を「 」で示す.

表2 テーマ分析結果

テーマ 過去の体験 現在の育児 対象者
自分の親との体験から形成された育児観や子どもとの関わり方 一緒に楽しんで遊んでくれた 子どもと一緒に楽しむ A父
興味がなくても子どもと一緒にやってみる
常に味方でいてくれた 自分の苦手なことがあっても大丈夫 A父
最後は助けてくれて見捨てられなかった
親の考えを子どもに押し付けず自由に選択させてくれた 子どもを束縛しない A母
無理せずできることを選んでいく C父
親に相談せず自分で解決してきた 自分のやり方を子どもにあてはめない B父
両親の祖父母や親戚とたくさん行き来がある中で育った 子どもの障害を家族親戚に分かってもらうよう少しずつ伝えていく B母
自分の親のおおらかさ 自分の母と正反対で細かいことを子どもに求める C母
自分の子ども時代と照らし合わせてのわが子の立場への想像 できないことを学校の先生から責められた 苦手部分に子どもがどう対処しているかを想像 A父
自分の力と周囲の助けで問題解決をはかる 子どもの弱さを想像 B父
学校での授業や友人関係での緊張感 子どもの行動の背景にある辛さへの想像 C父
D父
職業体験からの育児への葛藤 発達障害児に幼稚園教諭として関わってきた 自分がうまく育てられないことを認めたくない思い B母
仕事から自分の苦手なことを意識する 子どもの苦手部分への不安 C父
配偶者と共に子どもに関わってきた体験からの育児方法や考え方 配偶者の方法や考えを取り入れる 子どもの安定と成長につながる関わり A父
A母
配偶者の行動を認める 共に尊重しながらの子育て B父
B母
育児に関する自分と配偶者の立場や考えの違い 違いを知った上での役割の調整 C父
C母
夫婦関係が育児にも影響する D父
D母
支援機関での体験が育児に及ぼした影響 はっきりと診断名や発達の見通しを告げられる 発達を期待し過ぎず発達に応じて焦らず関わる A父
B母
C母
親の会で知り合った親同士,共感し合える関係 子どもの関わり方のヒントを得られる C母
支援方法を実践することによるストレス 子どもは安定する D母

1) 【自分の親との体験から形成された育児観や子どもとの関わり方】

A父は,自分の子どもとの関わりについて,「自分に興味がなくても子どもと一緒にやってみる.そうするとおもしろいと感じることも結構ありますよ」と『子どもと一緒に楽しむ』活動をしていた.自分の親との体験では,《一緒に楽しんで遊んでくれた》があり,それが『興味がなくても子どもと一緒にやってみる』に結びついていると語った.自分の母親が《常に味方でいてくれた》や,父親には反抗していたが《最後は助けてくれて見捨てられなかった》という安心感の得られた体験は,自分の子どもへの『自分の苦手なことがあっても大丈夫』という育児観に直結していることが述べられた.

A母とC父には,「子どもにはあまり束縛したくないかな」(A母),「良くも悪くも,勉強とか母親からはこうしなさいと言われた記憶がなくて.特におやじからは口出しされたことがないですね」(C父)という《親の考えを子どもに押し付けず自由に選択させてくれた》,があり,それが『子どもを束縛しない』(A母),『無理せずできることを選んでいく』(C父)に結びついていることが述べられた.

《親に相談せず自分で解決してきた》というB父は,自分は周囲を見て判断できたが,『自分のやり方を子どもにあてはめない』ようにして,子どものできることを見極めていた.

B母は『子どもの障害を家族親戚に分かってもらうよう少しずつ伝えていく』という現在の行動の理由を,《両親の祖父母や親戚とたくさん行き来がある中で育った》からと述べていた.

C母は,《自分の親のおおらかさ》を自分は全く受け継いでおらず,『自分の母と正反対で細かいことを子どもに求める』という子どもとの関わり方を述べていた.

2) 【自分の子ども時代と照らし合わせてのわが子の立場への想像】

A父は,自分は宿題をせずに先生からクラス全員の前で叱られた《できないことを学校の先生から責められた》体験があり,その語りの後,自分の子どもについて「周囲から責められることは少ないけど,できないことは目立たないようにして過ごしている気がする」と『苦手部分に子どもがどう対処しているかを想像』する語りがあった.

B父は,自分がいじめに遭った時は,周囲を味方につけながら《自分の力と周囲の助けで問題解決をはかる》ことをしてきたが,子どもの性格では「立ち向かう前に心が折れてしまうかも」と,『子どもの弱さを想像』して不安があることを述べていた.

C父,D父は自分に《学校での授業や友人関係での緊張感》があった体験を語り,C父は自分の子が「保育園の発表会で大声で関係のない話をしてお友達から迷惑がられたけど,その理由には緊張があるのではないか」と,『子どもの行動の背景にある辛さへの想像』をしていた.D父も,子どもが学校に行きたくない理由を,「授業で間違うことが辛いのではないか」と想像していた.

3) 【職業体験からの育児への葛藤】

B母は《発達障害児に幼稚園教諭として関わってきた》体験があったが,悩みを誰かに相談することはなく「当時はプライドがあったのだと思う」と,『自分がうまく育てられないことを認めたくない思い』があったと語っていた.

C父からは,自分が人前で話すことが苦手で営業職に向いていないという《仕事から自分の苦手なことを意識する》が語られた.自分のその特徴は子どもも同じであると考えており,「子どもが色々分かるようになるのも良し悪しで,分かると周りと比べることで辛い思いをするかも」と『子どもの苦手部分への不安』があった.

4) 【配偶者と共に子どもに関わってきた体験からの育児方法や考え方】

A父,A母,は,《配偶者の方法や考えを取り入れる》ことで,『子どもの安定と成長につながる関わり』を行っていた.A父は,配偶者の考えに納得して子どもへの関わりを変えていた.A母は,子どもの小学校の先生の厳しい指導方法を良くないと考えていたが,夫の「この先に厳しい人に出会うこともあるのだから,この経験は大事」という考えに触れて,学校の先生に意見することを見合わせた.それにより,「子どもはその先生を信頼するようになっていった」と子どもに変化があったことを語った.

B父,B母は,《配偶者の行動を認める》ことで,『共に尊重しながらの子育て』を実践していた.B父は「子どもがどう大変だったか,あまり細かく覚えていないんですよ.それは,妻が子どもに多くの時間関わって,多くを担ってくれていたから」と語り,B母は「周りに理解を求めて障害のことをオープンにしていこう,と夫と話してやってきました」と夫と共に子どもを育ててきたことを語った.

C父,C母,D父,D母には,《育児に関する自分と配偶者の立場や考えの違い》が語られ,C父とC母は『違いを知った上での役割の調整』を行っていた.D父とD母からは,現在の育児として『夫婦関係が育児にも影響する』ことが語られた.D父と母の子どもは現在不登校で,学校に行っていないことへの打開策が見当たらないことが両者から語られたが,父は「子どもに無理をさせていると思うが,それを妻に言っても通じない.夫婦関係は子どもにも影響するので大事」と語り,母は「自分の大変さは主人に分かってもらいにくい」と語っていた.

5) 【支援機関での体験が育児に及ぼした影響】

《はっきりと診断名や発達の見通しを告げられる》ことは,『発達を期待し過ぎず発達に応じて焦らず関わる』ことに結びついていた.B母は,子どもが発達障害の診断を受けたことで「自分でも,もう本当にすとんって落ちたっていうか.それまで他の子と比べて落ち込んでいたけど,納得して子どもに向き合えるようになりました」,A父は「ある意味,期待しすぎなくなって長い目でみようと思えました」,C母は「行く所ができて助かった,って思った.それまでどこに行くにしても気を使っていて,ほかの子と違うことへの肩身の狭さがあった」と,診断が育児に及ぼした影響について語った.

C母からは,《親の会で知り合った親同士,共感し合える関係》によって,『子どもの関わり方のヒントを得られる』ことが語られていた.一方でD母はペアレントトレーニングを受けてきたが,「(ペアレントトレーニングは)子どもを怒らない方法じゃないですか.そうすると子どもは落ち着きますね.でも,自分のストレスはたまるんです.言いたいことを我慢するので」と,『子どもは安定する』ものの,《支援方法を実践することによるストレス》があった.

6) テーマ全体からの概観

何があっても親が味方になってくれたなどの自分の親との体験は,自分のやり方をあてはめないなど,子どもを尊重する育児に結びついていた.自分の子ども時代との照らし合わせは,子どもの立場を想像することにつながっていた.配偶者と共に子どもに関わってきた体験は,両親のペアで同じテーマについての語りがあり,現在の育児に影響を及ぼし合っていることが示された.支援機関での体験は,子どもの発達に応じた具体的な方法を知ることにつながっていた.

テーマと対象者を照らし合わせると,父親のみに【自分の子ども時代と照らし合わせてのわが子の立場への想像】があり,【支援機関での体験が育児に及ぼした影響】は,ほとんどが母親から抽出された.

3. 構造分析の結果

構造分析では,テーマ分析でのテーマごとのシークエンス(ストーリーの展開上のひとつのまとまり)から,構造のオリエンテーション,概要,行動の展開,評価,帰結の中で,どのような言葉の特徴が表れていたかを検討し,表3に示した.その分析過程の抜粋として,構造の中で一番多く表れていたテーマである【配偶者と共に子どもに関わってきた体験からの育児方法や考え方】のC父・C母のシークエンスを抜粋し,本文中に示す.

表3 構造分析結果

構造における語りの特徴 A父/A母 B父/B母 C父/C母 D父/D母
オリエンテーション ・このテーマに至るまでの展開として,インタビュアーによる質問から始まった /① ①/① ①⑤/① ④⑤/
・このテーマに至るまでの展開として,それ以前の話から対象者自身がつなげていった ①②④/④ ②④/③⑤ ②③④/④⑤ ②/④⑤
・質問内容への疑問点や「例えばどんなことですか」といった問いかけ /①
概要 ・自分自身の行動や思いについて話す「私は~でしたが」「私は~と思っていた」など ①②④/④ ①②④/① ①②③④⑤/①③④⑤ ②④⑤/④⑤
・子どもの現状について話す「子どもは~で」「子どもが~だった時」など ①②④/④ ①②④/③④⑤ ①②④⑤/④⑤ ②④/④⑤
・配偶者や他の家族の言動について話す「妻は~していた」「自分の親は~」 ①②④/①④ ①②④/①④⑤ ①④⑤/ ④⑤/④
・話しながら質問内容を汲もうとする発言「質問の内容に合ってますか」など /① /①
・言い表す言葉を探る「えーっと」「何ていうか」など /① ②/③ ④/ ④/
・思い出しながら話す「どうだったかな」「~だったかな,いや~だったかな」など /① ②/ ⑤/
行動の展開 ・同意の言葉を繰り返す「そうそう」「ありますあります」など ①②/④ ①②/③⑤ ①②④/④⑤ /⑤
・自分自身の言葉に疑問を抱く「いや,そうじゃないか」「ちょっと違うかも」など /①
・別の視点を語る「~とも言えるかな」「見方によれば」など ①②/④ ①④/③ ②④/④
・さらに深く考えようとする「~だったから~だったのかも」など ①②④/①④ ①④/③ ②③④/④⑤ ②/
・当時の自分や,今と比較しての発言「あの時は~だったから」「今思えば~だけど当時は~」など ①②/④ ①②/③⑤ ①②③④⑤/①③④⑤ ②④/⑤
・子どもや家族の思いや立場を想像する「子どもは~と思っていたのかな」「夫も~だからそうしたと思う」など ②④/④ ①②④⑤/④ ①④/④⑤ ②④/
・自分の思いの背景にあることへの気づき「あの時は~したのは,~だったから」 ①②/ ①②④/③ ②④/①④⑤ ②④/
評価 ・納得感があるという言葉「だから~だったということですよね」「こういうことだったんですね」「~だと分かりました」など ①②④/①④ ①②/③④ /①⑤ ②/
・今後に向けた言葉「その後は~しようと思いました」など ④/④ ②/③⑤ ①②④/
帰結 ・意味づけをする言葉「~この関わりにはこういた意味があると思います」など ①②/① ①②/⑤ ①②③④/③⑤

①~⑤はテーマ番号

①【自分の親との体験から形成された育児観や子どもとの関わり方】 ②【自分の子ども時代と照らし合わせてのわが子の立場への想像】 ③【職業体験からの育児への葛藤】 ④【配偶者と共に子どもに関わってきた体験からの育児方法や考え方】 ⑤【支援機関での体験が育児に及ぼした影響】

1) C父・C母の【配偶者と共に子どもに関わってきた体験からの育児方法や考え方】シークエンス抜粋と構造

C父は,現在の育児の分担について「(妻は自分のことを)療育に無関心って言うんですけど,妻が療育に集中できる環境をつくってる.そこは理解されない」と,概要が長く語られた.その後「まぁ,母親同士集まったら,旦那への不満の話になりますよね.自分も父親同士になったらそうですし」と,別の視点を探る「~とも言えるかな」や「見方によれば」の言葉から子どもや家族の思い・立場を想像する行動の展開がみられ,「子どもの苦手な部分を何とかしたい気持ちも分かる.多分自分に似たんです.自分も人前で話せないから.妻も同じ感じで二人ともそうなんだから仕方ないよね,という話にもなる」「今,自分の子も,期待をもつのか諦めるのか,微妙な年齢なんだと思います.だから,療育に希望を持つだろうし」と,療育に力を入れる妻の行動を別の視点からみて「配偶者は自分と同じものが見えている訳ではない」という評価,帰結へと至っていた.

C母は概要で,子どもの現状について「子どもは~で」「子どもが~だった時」という言葉で,子どもがなかなか寝なかったことや,出かけた時のかんしゃくで手に負えなかったことなどを話した.「スーパーへ行くにしても,くるくるとか回ったら,変な子って感じやし,恥ずかしさとか,むなしさを感じながら.主人に言っても分からへんから,親の会に行って,しょっちゅうキレてました.主人は,子どもと二人で出かけることが少ないし,他の子どもを見ている訳ではないから,私の焦りは分からないんです」と,配偶者の言動についての概要が語られた.親の会で出会う他のお母さんのことをしばらく話した後,「とはいっても,うちの主人は子どものことはめちゃくちゃ見てくれるほうなんです.『息抜きで,どっか行ってきていいよ』とか言うんですよ.そこは助かってるんです」と別の視点を探る行動の展開があった.

C父・母ともに,構造としての概要部分では,配偶者との考えの違いが示された.インタビュー以前から互いの考えの違いによるストレスを感じていたが,語ることで「配偶者は自分と同じものが見えている訳ではない」と行動の展開があり,C父は評価・帰結へと至っていた.

2) 構造分析の概観

テーマの【自分の親との体験から形成された育児観や子どもとの関わり方】は,テーマごとの構造を示す結果(表3)から,オリエンテーションでインタビュアーの質問から始まっている対象者が多かった.A母には,このテーマの構造で,質問内容を汲もうとする発言や,言い表す言葉を探る発言,思い出しながら話すという構造の特徴があった.その後の行動の展開では,「子どもにはあまり束縛したくない」と気づく語りを経て,「自分の親からの影響が出ているかも」と語りながら評価に至っていた.

同じA母での【配偶者と共に子どもに関わってきた体験からの育児方法や考え方】は,概要で言葉を探ることが少なかったため,インタビュー前から過去の体験が現在の育児に結びついていたことを表す特徴と捉えられた.父親の考えを取り入れて学校の先生の対応が好転したシークエンスには,別の視点を深く考える行動の展開から,「子どもにとって意味があった」という帰結に至っていた.他の対象者の概要や行動の展開にも,迷いがなく評価・帰結に至る特徴を示すテーマがあった.

一方で,すべてのテーマが評価・帰結に至っている訳ではなく,評価・帰結がなく概要や行動の展開が続く,または話題が変化していく構造もあった.例として,D母は現在の子育ての大変さが概要で多く語られており,過去の体験と現在の育児の結びつきに関する内容や,行動の展開・評価に至る語りが少なかった.

Ⅴ. 考察

1. 過去の体験と育児との結びつき

子どもにとって,恐れや不安が生じている際に誰かから保護してもらえたという体験は,人への信頼感の基盤となる(Bowlby, 1969/1991).そこから自他の心的状態に対する内省機能を獲得し,親として自分の子の内的状態に敏感に気づく力となる(園田ら,2005).本研究結果でも,自分の親との体験で,何があっても親が味方になってくれて束縛されなかった体験は,『自分の苦手なことがあっても大丈夫』と子どもへの信頼となっていた.自己についての物語を作り出すことは,人生で経験する様々な出来事を「統一された理解可能な全体」として統合し個々の意味や価値を見いだすと言われていることからも(宮坂,2021),発達障害児を育てる親が,自分の育てられた体験がどのように現在の育児と結びつけているのか話すことは,過去から現在の統一感につながるものと考える.

本研究では,《たくさんの人との行き来がある中で育つこと》が現在の育児に結びつくことが示唆された.『子どもの障害を家族親戚に分かってもらうよう少しずつ伝えていく』などのように社会での理解を得て発達障害児を育てることは,親の孤立を防ぐうえで重要なことである(井上ら,2019).発達障害児の親が社会で孤立しないためには,子どものことを周囲に話す方法をその親の状況に応じて一緒に考えるなどの支援が必要になると考える.

《親に相談せず自分で解決してきた》対象者は,『自分のやり方を子どもにあてはめない』ようにして,子どものできることを見極めていた.また,《親の考えを子どもに押し付けず自由に選択させてくれた》対象者からは,親への感謝が語られた.西田・倉石(2022)は,親が子どもへ抱く期待などについて“それは自分の考えである”という自覚から子どもの行動の意味や内的状態に気づくことを示しており,Sadler et al., 2006/2011)も,わが子は自分自身と異なるニーズを有する存在であることを認める大切さを述べている.これらから,発達障害児の両親に関わる看護師等支援者は,“子どもと自分は違う存在である”と捉える重要性を,両親に伝えることが必要と考える.

本研究では,父親のみに【自分の子ども時代と照らし合わせてのわが子の立場への想像】があり,【支援機関での体験が育児に及ぼした影響】は,ほとんどが母親から抽出された.父親は母親に比べて親の会やペアレントトレーニングに参加する機会が少ないことからも(Ishida et al., 2022),他の子どもの様子を知る機会が母親よりも少ないと考えられる.父親は比較する対象が現在の他の子どもではなく自分の幼少期になる特徴が示された本研究結果から,父親にも支援機関との関係をつくるとともに,自分の子ども時代の経験から現在の育児への結びつきについて聞くことが,育児への価値を見いだす方略の一つと考える.

2. 構造分析による同じ子どもを育てる両親の語り

発達障害児を育てる両親は,良好な夫婦関係が支えになる一方で(岩崎・海蔵寺,2007),配偶者に子どもの障害を理解してもらえないストレスがある(山根,2013).本研究結果でも,子どもへの接し方の違いはそれぞれの対象者に存在していた.しかしながら,配偶者の考えを取り入れて事態が好転した対象者には,言葉を自分で探すような構造は少なく,自分の考えがどう変わったかという話がスムーズに展開し,評価・帰結に至る構造があった.自分の考えを変えることで現在の育児に意味を見いだせた体験は,ストーリーとして人に語りやすい構造になると考えられた.鈴木田(2024)は,家族が築いてきた強みに焦点を当てることが家族レジリエンスを高めると言及しており,すでにストーリーができている体験でも,あらためて他者に話す機会を持つことで,家族の強みを認識できる機会になると考えられる.

一方で,【配偶者と共に子どもに関わってきた体験からの育児方法や考え方】で,現在の両親それぞれの考えの違いから評価・帰結に至らない構造もあった.現在の育児にどう結びつくかまで自分の中で帰結できていない体験は,自分で評価することは難しい構造になると考えられる.さらに,親が自己反芻(自己の脅威や喪失によって動機づけられた自己への注目)の傾向が強い場合は自己の感情や信念を振り返る際に抑うつに陥る可能性があると言われていることからも(Trapnell & Campbell, 1999),物語としての構造が進みにくい語りは,現在も解決に至っていない状況と考えられる.

本研究結果の構造で,概要や行動の展開に迷いがなく評価・帰結にいたっていた体験は,話す前から過去の体験と現在の育児が結びついていたと考えられるが,話す中で気づくこともあった.インタビューは,インタビュアーとインタビュイーによる「相互行為」「共同生成」であると言われていることからも(やまだ,2021),インタビューによって両親が過去の体験と現在の育児を結びつける機会になることが,本研究で示唆されたと言える.

夫婦仲が悪くなることの原因の一つとしてMurphy(2019/2021)は,相手を知っているという思い込みや,相手も自分と同じものが見えている思い込みがあることを挙げている.本研究からも《育児に関する自分と配偶者の立場や考えの違い》が『夫婦関係が育児にも影響する』結果があったが,語ることで「配偶者は自分と同じものが見えている訳ではない」と気づく対象者もいた.この本研究結果から,今後は発達障害児を育てる両親へ,語りを聴くことでの支援について検討する必要があると考える.

3. 本研究の限界と今後の課題

本研究では,過去から現在を結びつけることができる対象者は現在に意味を見いだし問題解決に至ることが示されたが,物語として語れない対象者にどのように支援するかまでは明らかにできていない.それは,対象者募集を親の会等から依頼したため,すでに社会とのつながりのある対象者であったことと,両親がそろっているケースであったことも考えられる.また,今回は地域を限定したため,他の地域との違いに関する言及もできていない.

この点が本研究の限界であり,今後はさらに対象者の幅を広げ,どのように支援につなげるかを明らかにすることが課題である.

Ⅵ. 結論

本研究では,同じ子どもを育てる父親と母親の語りによるナラティブ分析を実施し,抽出されたテーマ【自分の親との体験から形成された育児観や子どもとの関わり方】,【自分の子ども時代と照らし合わせてのわが子の立場への想像】,【職業体験からの育児への葛藤】,【配偶者と共に子どもに関わってきた体験からの育児方法や考え方】,【支援機関での体験が育児に及ぼした影響】のそれぞれに,過去の体験がどのように現在の育児につながっているかを示した.過去の体験と現在の育児の結びつきの語りには評価・帰結に進む構造があり,語りながら気づく場合もあった.発達障害児を育てる親が過去の体験と現在の育児の結びつきについて話すことは,親にとって自己の統一感や子どもを尊重することにつながる意義があることが本研究で示され,今後は,発達障害児の両親へ,語ること自体を支援に活かす検討が必要であると考える.

付記:本論文の内容の一部は,The 8th World Academy of Nursing Science Congressにて発表した.

謝辞:本研究は,JSPS科研費20K13961の助成を受けて実施した研究の一部である.本研究にご協力いただきました研究参加者の皆様に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
© 2026 Japan Academy of Nursing Science
feedback
Top