Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
Online ISSN : 2432-101X
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ISSN-L : 0918-0621
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Personal Meanings Gained from Psychiatric Nursing Practice
Rie TanakaNobuko Matsuda
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2021 Volume 30 Issue 2 Pages 19-28

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Abstract

本研究は精神科看護師の看護実践におけるやりがいを明らかにすることを目的とし,精神科に勤務する中堅看護師14名に半構成的インタビュー調査票を用いて面接調査を行った.分析した結果,926のコードから27のサブカテゴリーが生成され6つのカテゴリーが抽出された.

精神科看護師の看護実践におけるやりがいとして,【患者の人生に関与する】【人対人の関わり】【患者の思わぬ一面の発見】【看護師の忍耐による患者の変化】【看護師の治療者としての能力と存在意味の実感】【スタッフからの承認】の6つが見出された.このような現象を体験できることによって,精神科看護師は看護への原動力を深められると考えられた.

Translated Abstract

This study sought to clarify the personal meaning that psychiatric nurses gain from nursing practice. We surveyed 14 mid-career psychiatric nurses, using a semi-structured interview script. Results were analyzed based on the qualitative descriptive approach, with 27 subcategories generated from 926 codes and 6 categories extracted.

As experiences related to meaning that psychiatric nurses gain from nursing practice, six categories were extracted. They are “involvement in the patients’ life” “human to human relationships” “discovery of patients’ surprising aspects” “changes in patients due to nurses’ perseverance” “realization of the ability as a therapist of nurses and the meaning of existence” and “approval from staff”. Psychiatric nurse can develop deep nursing motivation by experiencing personal meaning.

Ⅰ  はじめに

平成23年に精神疾患はがん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病に加わり,5大疾病となり政策医療の対象となった.平成26年には,精神疾患の患者数はうつ病などの気分障害やアルツハイマー病などを中心に増加しており,平成29年には精神疾患の患者数が419万人を超えた(厚生労働省,2017).このことから,精神科看護師に期待される役割は大きいといえる.

しかし,精神科は患者看護師関係の複雑さや隔離等の倫理的ジレンマから,精神科看護師の質的負荷は高い傾向にあり(本武,2016),患者の病状把握や看護介入の困難さ,再発をくり返しやすいという疾患の特徴に起因するストレス(野中,2008),形の見えないケア(田上,2013)などから,職業性ストレスは高いと報告されている(松岡,2009).さらに,精神科看護師は,高レベルの情緒疲労,すなわちバーンアウトを経験している可能性が高い(Imai et al., 2004Robinson, Clements, & Land, 2003).このような状況が続くことによって,仕事への意欲が低下し,看護実践の意味や価値を見出すことが難しくなることが考えられる.特に中堅看護師は,「キャリアプランとの不一致」「やりがい不足」「人間関係によるストレス」「労働環境が悪い」「看護実践能力についての不安」などによって離職を考えている一方で,「キャリアプランとの一致」や「やりがいがある」「良好な人間関係」「看護実践能力についての自信」などによって職務継続意志をもっていることが報告されている(中野・岩佐,2019).

このように,中堅看護師が仕事への原動力を高め,継続していく上での重要な要素として,困難な状況を乗り越えたからこそ得られるやりがい(内藤・吉田・佐藤,2014木村ら,2018)がある.また熟練看護師は,患者との関わりの中で自己の存在価値を感じ,やりがいを獲得していることが明らかになっている(原田,2011).精神科看護におけるやりがいに焦点を当てた研究では,「患者の回復」や「患者・家族からの承認」「患者の満足」などが明らかになっている(藤森・片岡・藤代,2017).やりがいと類似した概念として,酒井ら(2013)は精神科看護の魅力について「患者と向き合える職場風土」「患者と独自に編み出す看護実践」「看護師である自分の人間的成長」「看護の治療的意義の実感」があることを明らかにしている.このように,やりがいや魅力を体験することは,職務継続上重要であり,これらは看護師の暗黙知として蓄積されていることが考えられるが,既存の研究では質問紙により導き出された結果であり,個々の精神科看護師がもっているその人固有の経験からの詳細な現象を明らかにした研究はない.そこで,個人が経験した印象に残っている出来事や場面の想起をもとに,そこに暗黙知として潜んでおり,その人固有の精神科看護への原動力となるようなやりがいを明らかにする必要があると考えた.

以上のことから,本研究は精神科看護師の看護実践におけるやりがいを質的に明らかにすることを目的とした.これを明らかにすることで,精神科看護師が看護の意味や価値を見出すことができ,看護実践に深まりがもたらされることが期待できる.

Ⅱ  用語の定義

1. やりがい

本研究ではやりがいについて,精神科看護師が経験の中で見出した看護の原動力になるような看護実践の意味や価値と定義した.

Ⅲ  研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,質的記述的研究である.質的記述的研究を選択した理由として,やりがいは,抽象的なものではなく,個人の経験の文脈から導き出される個別性の高い現象である.そのため,研究参加者のありのままの語りを用い現象が記述できる,質的記述的研究がふさわしいと考えた.

2. 研究対象者および対象者の選定

研究対象者は,2施設の精神科病院に従事している中堅看護師で,看護実践の中でやりがいを感じたことがある人とした.各病院の看護部長に,精神科病棟での看護実践の経験が5年以上あり,かつ精神科看護のやりがいについて語れる看護師を推薦してもらった.

3. データ収集方法

半構成的インタビュー調査票を用いて,インタビューを行った.インタビュー内容は,研究対象者に関する内容(年齢,性別,看護師歴,精神科看護師歴,今までの経験部署,現在の部署)と,精神科看護におけるやりがい獲得につながった看護実践内容とした.やりがいは,自然に備わるものではなく,看護経験の中でリフレクションすることを通して獲得されるものであり,それがさらに自身の看護に影響を与え,やりがいの意味づけを深めると考えた.そのため,インタビュー内容を,①精神科病棟での看護実践の場面でやりがいの獲得につながった出来事や場面,②その時の気持ち,③やりがい獲得に影響を与えたもの,④やりがい獲得後の心境の変化,⑤やりがいを獲得したことが自身の看護にどう影響したかとした.データ収集期間は,平成30年1月~平成30年8月であった.

4. データ分析方法

分析に当たっては,半構成的インタビュー調査で得られた内容をもとに逐語録を作成した.そして,逐語録を繰り返し読み,語られた意味内容を損なわない単位で区切りコード名をつけた.次に,付箋に14名分の全てのコード名を書き込み,意味内容の類似性・差異性に基づきコードを分類した.コード分類したものをサブカテゴリー化し,抽象度をあげカテゴリーを抽出した.全分析過程において,質的研究に精通しているスーパーバイザー2名による助言を受け真実性の確保に努めた.

5. 倫理的配慮

本研究の実施にあたり,各施設の病院長と看護部長に依頼文を配布し,看護部長より推薦された看護師15名のうち,同意が得られた看護師14名に研究の目的,方法に関する説明と依頼を文書と口頭で説明し,同意書に署名を得た.なお,本研究は,関西国際大学研究倫理委員会の審査を受け承諾を得た(承認番号H-29-36号).

Ⅳ  研究結果

1. 対象者の概要

本研究の対象者は,2施設の精神科病院に従事している中堅看護師14名(男性6名,女性8名)であり,年齢は30歳代が4名,40歳代が6名,50歳代が3名,60歳代が1名であった.看護師歴は平均20.5年で精神科の看護師歴は15.6年であった(表1).

表1 対象者の概要
対象者 年齢 性別 看護師歴 精神科の看護師歴 対象者 年齢 性別 看護師歴 精神科の看護師歴
A 50代 17年 9年 H 40代 23年 17年
B 50代 30年 23年 I 40代 20年 20年
C 30代 17年 17年 J 30代 12年 8年
D 40代 18年 18年 K 40代 24年 8年
E 40代 27年 26年 L 50代 12年 10年
F 30代 20年 14年 M 40代 11年 11年
G 60代 40年 22年 N 30代 16年 15年

2. 分析結果

分析の結果,926のコードから27のサブカテゴリーが生成され,そこから6つのカテゴリーを抽出した(表2).以下,文中の【 】はカテゴリーを,〈 〉はサブカテゴリーを,『 』はコードを示す.また,斜体文字は研究対象者の語りを示し,語りの中略や補足は( )で示す.文末の[ ]には,対象者別にアルファベットを振り,アルファベットの後の数字は,データの折半番号を表す.

表2 精神科看護師の看護実践におけるやりがい
カテゴリー サブカテゴリー 代表的なコード
患者の人生に関与する 患者のことが脳裏から離れないほど悩む 患者との出会いで日常が変化する.必死に患者の対応について悩む.不安定な患者の対応に悩む.
患者の苦しみがわかり処遇を変えたいと考える 患者の成育歴を知り何とかしたいと考える.患者は想像もつかないような人生を送っている.病気による患者の生き辛さがわかる.
その人らしい生活について考える 人生を楽しんでほしい思い.その人らしく幸せに生活するにはどうすればいいか考える.人間らしい生活をさせてあげたい.
患者やその家族の思いが伝わり力になりたいと考える 患者の強い思いが伝わる.患者や家族の熱い思いが伝わり自分の気持ちが変化する.患者の言葉に心が動く.
人対人の関わり 病気ではなく人を見る 患者でなく人として見る.看護師ではなく人として関わる.精神科は人間的でやりがいがある.患者を祖母や友人として見る感覚.
患者を自分の家族のように感じ関係性が築ける 患者と何度も喧嘩する.気持ちがあるから喧嘩する.年上や年下になり関われる楽しさ.患者は本当に可愛い.家族のように話せる面白さ.
患者の生活の細部まで看護している実感 患者の細かな部分まで看護している実感.看護師が1番患者の生活レベルをわかっている.
精神を病む患者の理解が深まる 患者の今見えている部分だけで考えてはいけない.精神科の成育歴の大切さがわかる.患者は人として見てほしいと思っている.
患者の思わぬ一面の発見 精神を病んでも他人を思いやれる患者の優しさを実感する 期待していなかった患者の優しさにふれる.辛い処遇の中でも他者を気遣える患者の優しさにふれる.
普段見られない患者の健康的な面を発見する 普段見られない患者の顔や力が見られた時.患者の優しい一面を発見する.
看護師の忍耐による患者の変化 時間をかけて関わることで患者の真意がわかる 話を聞くと相手の真意がわかる.話す時間を増やすことで相手の行動にはそれなりの理由があるとわかる.
諦めずに関わると患者は変化する しんどくても諦めないことで何とかなるとわかる.諦めずに関わるといい変化があると確信を持つ.惨敗しても継続することで見た患者の笑顔.自分達の関わりで何とかできる.
時間をかけて患者と向き合い変化を待つ 時間をかけて相手と向き合う.患者の変化を待つことを意識する.
小さな出来事が達成感につながる 継続し関わることで小さな変化が見れる.小さなことが達成感につながる.小さな目標の達成を共有できる.
看護師の治療者としての能力と存在意味の実感 患者の反応から自分の看護実践の成果が見える 患者の言動から自分の看護の成果がわかる.患者の反応で自分の関わりが間違っていないとわかる.自分の関わりで変化した結果を見た時.
離れても自分の関わりに感謝してくれる患者がいる 退院後も感謝の言葉をかけてくれる喜び.何年か後の再会で患者から感謝される喜び.
看護師の関わりが患者の回復につながる 他科に比べ精神科は看護師の力が大きい.自分の関わりで患者が地域に帰れた喜び.看護のアセスメント能力が患者の回復につながる.
患者の人権について考える 法律があっても最大限の配慮が必要.対人として倫理観をおざなりにしない.違和感を軽視すると精神科看護師としてのプライドがなくな‍る.
精神科看護師としての看護観が定まる 自分なりの看護観が定まる.精神科で寄り添う看護を学ぶ.常に人間対人間を意識した看護観がある.
患者の思いをくみ取り尊重する 患者の訴えを拾い上げることで患者の言葉が生きる.常に患者の言葉や思いを大事にする.
自分が対応すると上手くいく 自分が行くと上手くいく.自分が対応すると患者の自制がきく.患者は自分の言うことは聞いてくれる.
自分の性格を活かした対応が患者に受け入れられる 自分のキャラを活かした対応で上手くいく.自分に合わせてくれる患者がいる.
精神科看護師としての価値を見出す 精神科看護師の必要性を実感する.患者の人生に携われる精神科看護のすごさがわかる.精神科の仕事は天職.
自分に対する視点が変わる 自分に対する客観視の観念が変わる.患者との相性で看護ケアに対し積極的になる.
スタッフからの承認 患者との関わりを見守ってくれるスタッフの存在 スタッフに恵まれる.患者に時間をとられても大丈夫と言ってくれる先輩の存在.上司の協力があること.
周囲と協力し看護展開できる 患者のペースにあわせた看護ケアの統一ができる.スタッフ間で意見が一致することの満足感.
自分の考えが周囲に理解されるよう奮起する 自分の関わりを見せることで周囲が変わる.自分の考えを理解してもらうために頑張る.意思表示することで現状を変える.

1) 精神科看護師の看護実践におけるやりがい

精神科看護師は,看護実践を通して【患者の人生に関与する】ことで,患者のために何とかしたいという援助欲求の高まりがみられた.そして,患者との関わりが進むにつれ,患者対看護師の関係性ではなく,【人対人の関わり】になり,その中で【患者の思わぬ一面の発見】や【看護師の忍耐による患者の変化】にふれ,精神科看護師は【看護師の治療者としての能力と存在意味を実感】し,精神科看護のやりがいを見出していた.また,自身の看護実践について,【スタッフからの承認】を受けることで,やりがいはより強化されていた(図1).

図1

精神科看護師の看護実践におけるやりがい

(1) 【患者の人生に関与する】

これは,1人の人間の人生に関与し,共感することで,患者のために何とかしたいと思う精神科看護師の体験を意味する.このカテゴリーは4つのサブカテゴリーで構成されていた.精神科看護師は,精神を病む患者との関わりを通し,患者の苦しみや生き辛さ,これまで患者が生きてきた人生のあり方に直面していた.そして,〈患者のことが脳裏から離れないほど悩む〉体験を通し,〈患者の苦しみがわかり処遇を変えたいと考える〉ことや〈その人らしい生活について考える〉ようになる.また,患者の回復を望む気持ちや患者の希望,家族の思いを感じ取り,〈患者やその家族の思いが伝わり力になりたいと考える〉ようになる.これらの体験が精神科看護師として,患者に対し何とかしたいという気持ちにつながり,援助の欲求が高まっていた.

Aさんは,希死念慮が強い患者との関わりの中で,患者理解の難しさや対応の困難さを感じ,『患者との出会いで日常が変化する』ほど悩んでいた.

「常に(患者のことが頭から)離れへんかったし,家帰ったら普通ぱんって切り替えれるのよ,目の前に家事があるから(中略).日常の中にぽんっと彼女と出会ったことで,スーパーの中をぶつぶつ言いながら独語しながら歩いてる自分があって,はっと我に返るみたいな.」[A108]

Cさんは,患者との関わりを通し,患者が生きる意味を考え,患者に『人生を楽しんでほしい思い』を抱いていた.

「なんせ,人生楽しんでほしいなと思うんですよね.何のために生きとんかなっていう風になるのはもったいないなっていうかね.本人が思ってなくても,これでこの人幸せなんかなとかね.」[C50]

Kさんは,長期的に行動制限を受けている『患者の言葉に心が動く』体験をしていた.

「その人が私も人間,私は人間ですって言ったんですね,隔離中に.もうそれを聞いたときにみんながよし頑張ろうって,この思いがあるんだったら大丈夫だって言って.」[K5]

(2) 【人対人の関わり】

これは,患者対看護師の関係性でなく,人対人の関わりができる看護師の体験を意味する.このカテゴリーは4つのサブカテゴリーで構成されていた.多くの研究対象者は,患者対看護師の関係性でなく,人対人の関わりをを体験しており,〈病気ではなく人を見る〉ことで,患者のその人らしさを見出すことにつながっていた.そして,〈患者を自分の家族や友人のように感じ関係性を築ける〉ことや〈患者の生活の細部まで看護している実感〉を通し,看護実践の面白さを体験していた.そして,人対人の関りから,〈精神を病む患者の理解が深まる〉ことを体験していた.

Eさんは患者との関わりを通し,家族のような関わりや,『年上や年下になり関われる楽しさ』を感じてい‍た.

「時には年下になってみたり,相手に対して時には年上になってみたり,家族みたいな感じで話してみたりもあるし,いろんなパターンで攻めるからそんなんが面白い.」[E5]

Fさんは,患者の処遇について常に疑問を持っており,患者には人間らしく過ごしてほしいという思いが強かった.そして,『看護師ではなく人として関わる』ことで患者の処遇改善につながりをもたらした.

「人間らしく過ごさしてあげたいっていう,これは看護師としてじゃなく,人として関わったんかなと思うね.」[F52]

(3) 【患者の思わぬ一面の発見】

これは,看護実践を行う中で,患者の健康的な面や普段見られない患者のその人らしさを発見した看護師の体験を意味する.精神科看護師は,看護実践を行う中で,〈精神を病んでも他人を思いやれる患者の優しさを実感する〉ことや〈普段見られない患者の健康的な面を発見する〉喜びを感じていた.

Eさんは,『辛い処遇の中でも他者を気遣える患者の優しさにふれる』ことで,精神科看護をより好きになっ‍た.

「立場的にな,ほんまにしんどい.隔離拘束いうたら世の中で一番ひどい処遇やいうやん.処遇受けとる人がそんだけ優しいこと(落ち込んでいる看護師を気遣ってくれる)してくるわけやん.ありえへんって思うときあるやんな.(中略)相対的に優しい人が多いな.」[E21]

Cさんは,レクリエーションを通して,『普段見られない患者の顔や力が見られた時』の嬉しさを語ってい‍た.

「風船バレーとかしてさ,普段見れないみんなが獣みたいになるわけよ.こんな力(入院生活で見ることのなかった患者の力)あるねんなみたいなね.入院生活で見られへん顔が見れるのはやっぱ嬉しいかな.なんか力持ってるなっていう,そういう力が発揮できるなっていうのは嬉しい気がする.」[C10]

(4) 【看護師の忍耐による患者の変化】

これは,時間をかけて忍耐強く関わることで,患者の変化をもたらせた精神科看護師の喜びを意味する.このカテゴリーは4つのサブカテゴリーで構成されていた.精神科看護師は,〈時間をかけて関わることで患者の真意がわかる〉ようになる.そして,〈諦めずに関わると患者は変化する〉とわかる.そのため,多くの研究対象者は患者の変化を信じながら〈時間をかけて患者と向き合い変化を待つ〉.そのような中で,患者の変化が見れる喜び,〈小さな出来事が達成感につながる〉面白さを精神科看護師は体験していた.

Hさんは,問題行動のある患者に対し,しんどさを感じていたが,諦めずに患者主体の看護を続けていくことで,患者の変化を見ることができた.そして,このようなケースを積み重ねることで,『諦めずに関わるといい変化があると確信を持つ』ようになった.

「なんせ,あきらめないというか,あきらめずに関わっていったら,ちゃんと患者さんはそれなりにいい方に変化があるっていうのをそのへんすごく確信が持てる.」[H32]

Kさんは,精神を病む患者との関わりを通し,一般科では経験していなかった待つ看護の必要性について実感し,『患者の変化を待つことを意識する』ようになった.

「やっぱり待つこと.その人が良くなるのとかその人が落ち着くのとか,その人が話し出してくれるのを待つっていうことをすごく意識するようになりました.待つ看護とかあんまりしたことがなかったんで.」[K45]

(5) 【看護師の治療者としての能力と存在意味の実感】

これは,患者との関わりから目に見えない看護実践の成果を感じ,精神科看護師としての能力と存在意味が実感できた看護師の体験を意味する.このカテゴリーは10のサブカテゴリーで構成されていた.精神科看護師は,〈患者の反応から自分の看護実践の成果が見える〉ことや〈離れても自分の関わりに感謝してくれる患者がいる〉体験を通し,〈看護師の関わりが患者の回復につながる〉実感や,治療者としての能力の実感,精神科看護師としての達成感や喜びを感じていた.また,〈患者の人権について考える〉ことや〈患者の思いをくみ取り尊重する〉ことで,〈精神科看護師としての看護観が定まる〉体験をしていた.そして,精神科看護師は,〈自分が対応すると上手くいく〉や〈自分の性格を活かした対応が患者に受け入れられる〉体験を通し,自分自身や〈精神科看護師としての価値を見出す〉.そのなかで,患者との関わりから〈自分に対する視点が変わる〉ことで,自分自身に対し前向きになっていた.

Bさんは,患者が退院し,地域で生き生きと生活をしている姿を見て,『患者の言動から自分の看護の成果がわかる』ことを実感していた.

「人生の中で入院っていう無駄じゃないんやけど,なんていうたらいいんやろ.もっとこう広い世界で少しでも広い世界で生活できる,生活してくれてる患者さんの表情とか言葉だったりかな.すごくあの時退院に向けて看護計画を立てていろんな調整をかけてやったことは良かったんだなって.」[B25]

Hさんは,『患者の反応で自分の関わりが間違っていないとわかる』ことで,自分自身の関わりにおいて自信が持てるようになった.

「プラスの反応があったら,やっぱりこうやって(時間をかけて患者の話を聞いたり,毎日継続した関わりを行う)自分が関わっていくのってそんなずれてないんやなとか,間違ってないんやなって.」[H31]

Bさんは,精神科は看護師が主体的に計画し関わることから,『他科に比べ精神科は看護師の力が大きい』ことを実感していた.

「他の科に比べて看護の力が大きいのは精神科が1番やと私は思ってます.内科や外科っていうのは医師の力の方が,医師の技術だったり,力量で回復とか今後につながっていくけれども,精神科は先生も薬とか投与とか精神療法とかありますけど,ほぼ全般NSが主体で計画してやっていくのが精神科.」[B23]

Iさんは,精神を病む患者の処遇を目の当たりにし,『法律があっても最大限の配慮が必要』と実感していた.

「最低限の基本的人権っていうか,基本的なあるじゃないですか.国民は文化的な生活をするっていうのはやっぱり大事なところやから,そういう意味でもね,僕らやってることはわりとめちゃくちゃですよ.そこから(法律)考えたらね.精神保健福祉法があるとはいえ,法律で許されたとしても最大限に配慮しなあかんかなっていう,すごい(思う).」[I87]

Dさんは,『対人として倫理観をおざなりにしない』ことを常に意識していた.

「対,人としての一言で言ったら倫理みたいな堅い言葉になってしまうのかもしれないんですけど,そこ(倫理観)はおざなりにしたらあかんというか,やっぱり大事なんだよねっていうのはすごく気持ちとしてはね.常にそういう視点(倫理観をおざなりにしない)というかね,そういうことは頭のどっかに片隅におきながらやっていかなあかんなっていうのはね.」[D59]

Fさんは,『違和感を軽視すると精神科看護師としてのプライドがなくなる』といった考えのもと,看護実践を行っていた.

「おかしいことはおかしいと思わなあかんかったし,これをないがしろにしたら今まで精神(科)看護師としてやってきたプライドもなにも無くなってまうなと思ったね」[F38]

Mさんは,対応困難な患者に対し,自分のコミュニケーションの傾向である低姿勢な対応で患者との関係性を築くことができた.そして,『自分のキャラを活かした対応で上手くいく』経験を通し喜びを感じていた.

「僕もこんなキャラやし,高圧的に出るってことはあんまり少ないんですけど,いいように言ったらちょっと丁寧に下手に出た対応が満足したかもしれないですね.」[M9]

Bさんは,『患者の人生に携われる精神科看護のすごさがわかる』ことで精神科看護への意欲を高めていた.

「患者さんの人生を少しでも光りあるものに,活動的な人生を生きていけるようなお手伝いできたことに対して,やりがいと精神科看護っていうのはすごい仕事なんだなっていう.それでここ(精神科)で頑張ろうって.」[B59]

(6) 【スタッフからの承認】

これは,周囲のスタッフの協力や承認を受け,自分の力を発揮できる看護師の体験を意味する.このカテゴリーは3つのサブカテゴリーで構成されていた.精神科看護師は,〈患者との関わりを見守ってくれるスタッフの存在〉があり,〈周囲と協力し看護展開できる〉体験を通し,安心して看護実践を行っていた.そして,スタッフ間の意見の相違があっても,〈自分の考えが周囲に理解されるよう奮起する〉ことで,周囲の変化をもたらし,患者にとって良いと思う看護を研究対象者は実現することができていた.

Fさんは,周囲の『スタッフに恵まれる』ことで,患者に対する処遇改善ができたことの喜びを感じてい‍た.

「それだけ,人に恵まれとったというのもあるしね,スタッフに.なおかつ,踏み出す時やったんかなっていうふうに思いましたね.」[F27]

Cさんは,患者の気持ちが動く看護実践をしたいと考えていた.そして,看護実践を行う上で,『上司の協力があること』のやりやすさを実感していた.

「上司の協力もあったしね.上司がそういう風に関わること(患者の気持ちが動く看護がしたい)を反対してなかったから,すごいやりやすかった.なんか人としての気持ちが動くみたいなところをすごい大事にしてくれる上司だったので,なおさらやってあげたいなっていう風には思ったけどね.」[C15]

Nさんは,強迫行為の強い患者の関わりに対し,病棟全体で焦らすことなく,『患者のペースにあわせた看護ケアの統一ができる』ことで患者の症状改善につなげた.

「自分というか病棟全体ですけど,ほんとに急がせない.それはもうみんなで統一して,もういいやん自分のペースで.ご飯に2時間かかろうがええやん.放置じゃなくてね,遠目で見守るスタイルで.それが良かったんかなって.」[N15]

Ⅴ  考察

本研究結果から,精神科看護師の看護実践におけるやりがいとして【患者の人生に関与する】【人対人の関わり】【患者の思わぬ一面の発見】【看護師の忍耐による患者の変化】【看護師の治療者としての能力と存在意味の実感】【スタッフからの承認】の6つのカテゴリーが明らかになった.この中でも,〈患者のことが脳裏から離れないほど悩む〉や〈その人らしい生活について考える〉などの【患者の人生に関与する】ことが精神科看護師の援助欲求の基盤にあることが考えられた.これは,既存の精神科看護のやりがいや魅力に関する研究(藤森・片岡・藤代,2017酒井ら,2013)では明らかにされていなかった新たな知見である.〈患者のことが脳裏から離れないほど悩む〉ことは,一見ストレスフルな体験とも解釈できるが,本研究参加者はそのように真剣に【患者の人生に関与する】ことをやりがいと位置付けており,そこから【人対人の関わり】【患者の思わぬ一面の発見】【看護師の忍耐による患者の変化】を体験することができ,酒井ら(2013)が精神科看護の魅力として報告している「看護師である自分の人間的成長」「看護の治療的意義の実感」と類似した現象である【看護師の治療者としての能力と存在意味の実感】を体験していたと考える.すなわち,参加者の経験に根ざした深い語りと結果の関連性を検討する中から見出された新たな知見として,【患者の人生に関与する】ことを通して悩みながらすべてのカテゴリーが相互に影響をしあってやりがいが強化されるという現象があることが考えられた.

Travelbee(1971/1974)は,「患者」対「看護師」ではなく,人間対人間としての関係を結ぶためには,看護師の役割を超越しなければならない.さらに,関係というものが確立されるのは,役割の超越という意味の人間対人間の関係性においてだけであると述べている.このことは,本研究参加者の語りから導き出された【人対人の関わり】と共通しており,精神科看護師はTravelbeeが述べる関係の確立をやりがいとして意味づけていることが考えられる.また精神科看護師は,患者と長い時間をかけて相互作用を営みながら関係を築く中で,日々起こる患者の小さな変化に感動し,喜びを感じるという【患者の思わぬ一面の発見】や【看護師の忍耐による患者の変化】をやりがいと意味づけていた.すなわち,【人対人の関わり】の中で,当たり前のように繰り返される患者とのやりとりの中にも必ず意味があると捉え,小さなことを拾い上げていくことを重視していた.これらは先行研究でやりがいとして報告されている「患者の回復」(藤森・片岡・藤代,2017)と類似する現象と考えられるが,本研究ではその中でも特に当たり前の日常のケアを積み重ねる中で見えてくる患者の思わぬ一面や変化に着目しており,精神科看護師のやりがいとして新たな一面であると考えられる.Mayeroff(1971/1987)は,ケアの本質-生きることの意味の著書の中で,忍耐はケアには重要な要素であることを示している.本研究参加者は,患者とのかかわりに数か月から数年の月日を費やしていた.精神を病む患者は,自分の思いを表出すること,変化が見えるまでに時間を要する.しかし,忍耐強く待つことが,相手の思いを引き出すことにつながり,その変化を受けて看護師はやりがいを感じていることが考えられた.

武井(2013)は,精神看護においては,自分自身がケアの道具となると述べている.本研究参加者は,【看護師の治療者としての能力と存在意味の実感】において自分自身の関わりが患者の回復につながる実感を持っていた.患者の回復において,『他科に比べ精神科は看護師の力が大きい』という結果がみられたように,精神科看護師は自らが治療の道具の一部になっていることにやりがいを見出していることが考えられた.また,精神科看護師は高いレベルの人間的な達成感を有することが報告されている(Robinson, Clements, & Land, 2003).患者との相互作用を通して,【看護師の治療者としての能力と存在意味を実感】できることは,人間的な達成感に通ずる現象であり,酒井ら(2013)が精神科看護師の魅力として「看護師である自分の人間的成長」を挙げているように,精神科看護師は自己の成長をやりがいとして意味づけていることが考えられた.また本研究結果では,精神科看護師としての自己の成長のために,〈患者の人権について考える〉こと,すなわち『対人としての倫理観をおざなりにしない』ことが重要な要素として位置づけられた.倫理的問題に直面することは,援助者にとって苦悩を伴うが,それがまた精神科看護師が人として患者に向き合うための原動力にもなっており,苦悩しながら倫理的ジレンマを解決していく姿勢は,【看護師の治療者としての能力と存在意味を実感】するために不可欠であると考えられた.

以上のことから,本研究結果で精神科看護師のやりがいとして導き出された【患者の人生に関与する】ことや【看護師の治療者としての能力と存在意味の実感】には,情緒的な苦悩も伴うことが考えられた.そのような中でも,6つのカテゴリーが循環することや【スタッフからの承認】があることで,精神科看護師は6つのカテゴリーをやりがいと意味づけていることが考えられた.本研究参加者は,精神科看護師歴が15.6年であり,看護管理者から精神科看護のやりがいについて語ることができる中堅看護師として紹介されている.すなわち,患者の状況を部分的にではなく統合的にとらえることができ(Benner, 1987/2010),かつ長年の豊富な経験を有するという特徴がある.それゆえ,困難なこともやりがいとして意味づけることができたり,看護場面を部分ではなく全体の文脈の中でとらえ,暗黙のうちに自己の体験をリフレクションしながら6つのカテゴリーをやりがいとして意味づけることができていると考えられる.そのため,若手看護師にはやりがいとしての意味づけが難しいことも考えられるが,あらゆる精神科看護師が患者との関係の中でストレスを体験することがあっても,やりがいをもちながらケアし続けることができるよう,自らの看護実践を語り合うことを通してリフレクションできるような職場環境を整えることが有効であると考える.

Ⅵ  本研究の限界と課題

本研究では,質的研究を行うことで,量的研究では導き出せない,精神科病棟での看護実践におけるやりがいの詳細なデータと貴重な真実が得られた.しかし,研究対象施設は2施設で,研究対象者は14名であることから,教育体制やサポート体制の違いから,研究結果に偏りが生じていると考えられ,一般化するには限界がある.今後は,職場環境,経験年数など,様々な理論的サンプリングを行って研究を探求していく必要がある.

Ⅶ  結論

本研究では,精神科に勤務する看護師14名に半構成的面接を行い,質的記述的に分析した結果,精神科看護師の看護実践におけるやりがいとして,【患者の人生に関与する】【人対人の関わり】【患者の思わぬ一面の発見】【看護師の忍耐による患者の変化】【看護師の治療者としての能力と存在意味の実感】【スタッフからの承認】の6つのカテゴリーが抽出された.このような現象を獲得できることによって,精神科看護師は看護への原動力を深めることができると考えられた.

謝辞

本研究にご協力いただきました対象者の皆様,医療機関の皆様,ご指導いただきました先生に深くお礼申し上げます.なお,本研究は,関西国際大学大学院看護学研究科看護学専攻に提出した修士論文を加筆修正したものである.

著者資格

TRは研究の着想およびデザイン,データ収集,分析,論文の作成,MNは研究プロセス全体への指導を行った.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.

利益相反

本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
© 2021 Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
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