Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
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2021 Volume 30 Issue 2 Pages 96-101

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Ⅰ  研修の目的

本事業では,先のガイドライン班と事例班の活動を踏まえた研修を実施すべく研修班が位置づけられた.第1回研修会(2020年12月20日)の準備段階では,ガイドライン班の会議に可能な限り出席し最新情報を得つつ,事例班からは貴重なインタビューデータと分析結果が共有された.研修班の研修目的は,障害福祉施設等で働く管理者と相談に携わる方ならびに本事業の相談員に対して,ガイドラインおよびインタビュー・取組事例調査の結果を生かして研修を企画・実施し,相談支援の質向上を図ることであった.また,研修の構成や内容が,研修対象となる人々のニーズに応え得るものとなるように努めた.

Ⅱ  研修会の概要

研修の対象は,本事業における相談員,施設の管理者や相談に携わる方とし,対象者のニーズに合わせ,研修の回によって対象者の設定を変えて研修を実施した.研修の形式は,全回,オンライン会議システム(Zoom)を用い,1回2時間,計4回行った.

第1回研修会は,2020年12月20日に本事業の相談員を対象として行なった(表1).参加者は22名で,まず本研修の趣旨と本事業のポータルサイトの紹介,コロナ禍での障害者施設等職員の心理的反応,相談員の役割と対応について講義を行った.コロナ禍での障害者施設等職員の心理的反応では,事例班により作成された,職員を中心とする利用者や上司,連携機関等との関係性のなかでの心理的反応(図1)との視点から,複数の事例を紹介した.相談員の役割と対応については,Psychological First Aid(PFA)の方針に則り,「みる」「きく」「つなぐ」かかわりを強調した.

表1 第1・2回研修会の概要
回数 日時・対象者 人数 研修内容
第1回 2020/12/20 13~15時
 
相談員
22名 1.本研修の趣旨
2.ポータルサイトの紹介
3.コロナ禍での障害者施設等職員の心理的反応
4.相談員の役割と対応
5.相談から支援の流れ:共通フロー・電話対応のポイント(ロールプレイ)メール対応のポイント(事前課題の検討)・相談を受けるときにジレンマを感じたら
6.質疑応答
第2回 2021/1/24 13~15時
 
管理者および相談員
115名 1.本研修の趣旨
2.ポータルサイトの紹介
3.コロナ禍での障害者施設等職員の心理的反応
4.管理者・外部相談員の役割と対応
5.相談から支援の流れ:共通フロー・対面/電話(ロールプレイ)メール対応のポイント(事前課題の検討)・相談を受けるときにジレンマを感じたら
6.質疑応答
図1

コロナ禍での障害者施設等職員(スタッフ,管理者)の心理的反応

相談から支援の流れでは,電話・メール等での共通の対応として,相談員は相談される方が安心感を持てるように「伴走者」の役割をとり,「みる」「きく」「つなぐ」の視点から具体的で適切な対処法を提示した.電話とメール対応のポイントについても講義し,その後,ブレイクアウトセッションによるグループ演習を行なった.電話対応の演習ではロールプレイを,メール対応の演習では事前に各自が課題に取り組み,検討内容を持ち寄ってディスカッションし,全体で共有した.また,相談者の立場から相談を受けるに当たって感じるジレンマへの対応方法も講義を行った.

第2回研修会は,2021年1月24日,障害福祉施設等の管理者及び相談員115名を対象に実施した.本研修の趣旨から管理者・相談員の役割と対応,相談から支援の流れの共通フローまでは,第1回の内容と同様だが,第2回からは管理者の状況やストレスの特徴・サポートも追加し,講義を行った.また対面・電話・メール対応のポイントについては,管理者と相談員の2レーンに分けてグループ演習を行った.

管理者対象の演習にあたっては,研修前に,職員から施設管理者に対して相談を持ち掛けられた事例を収集し,その事例を使って管理者の考えや気持ち,対応について全体でディスカッションした後,事例への対応例(シナリオ)も提示した.その後,ブレイクアウトセッションを行い,各ファシリテーターの進行のもと,施設内での対面支援を想定したロールプレイを実施した.一方,相談員対象の演習では,第1回研修会を踏まえて,電話・メール対応のポイントについての講義・演習を実施した.相談を受けるに当たって感じるジレンマへの対応方法も,第1回同様の講義を行った.

第3回研修会は,2021年2月7日,管理者と施設内で相談に携わっている38名を対象に実施した(表2).ここでも,本研修の趣旨から相談から支援の流れの共通フローまでは第2回までと同様とし,演習は,対面対応に焦点を絞り,ロールプレイで行った.

表2 第3・4回研修会の概要
回数 日時・対象者 人数 研修内容
第3回 2021/2/7 13~15時
 
管理者・相談に関わっている人
38名 1.本研修の趣旨
2.ポータルサイトの紹介
3.コロナ禍での障害者施設等職員の心理的反応
4.管理者・普段相談業務に携わる方の役割と対応
5.相談から支援の流れ:共通フロー・対面対応のポイント(ロールプレイ)・相談を受けるときにジレンマを感じたら
6.質疑応答
第4回 2021/2/13 13~15時
 
管理者・相談に関わっている人
14名 1.本研修の趣旨
2.ポータルサイトの紹介
3.コロナ禍での障害者施設等職員の心理的反応
4.管理者・外部相談員の役割と対応
5.相談から支援の流れ
6.困りごと(事前に募集)の共有と意見交換
7.質疑応答

第4回研修会は第3回同様に,管理者と施設内で相談に携わっている方を対象に,これまでの参加者を含めて14名が参加した.この研修会では,本研修の趣旨,相談から支援の流れまでは第3回研修会の動画を使用し,後半は,全体で,相談を受けることに関連する困りごとの共有と意見交換を行った.困りごとの共有と意見交換を行った背景には,第3回研修会のアンケート結果や研修会内の意見として話し合う機会を望む声が挙がったためである.事前に参加者の「困りごと」を募集,演習内で共有し,管理者としての考えや気持ち,対応について全員で意見交換した.また,対応の参考となるポータルサイトの「グッドプラクティス」も提示した.

Ⅲ  具体的な研修内容

1. コロナ禍での障害者施設等職員の心理的反応

毎回の研修ではコロナ禍での障害者施設等職員の心理的反応として,事例班から示された8つの関係性(図1)を軸に,あなたと利用者,あなたと利用者の家族,医療機関・連携機関などとの関係性を意識した心理的反応例を複数提示した.例えば,重度の方が入所するなか,万が一コロナ陽性者が出ると,職員は防護服を着て入所者の面倒を見なければならなくなるため,とにかく感染者を出さないために常にぴりぴりした緊張感があるといった事例,また全介助が必要な家庭に入るヘルパーの派遣にあたり,先方から感染防止対策の保障を求められ,関連機関との調整や配慮に苦慮した事例などを紹介した.

2. 管理者や相談に携わる人の役割と対応,ポイント

第1回研修会では本事業の相談員,第2回研修会以降は管理者や相談に携わる人を含めて役割や対応について講義した.初めに,コロナ禍の管理者が置かれた状況について,これまでの経験知での判断が難しく,緊急の判断が要求されるものの結果が悪ければ自責感を感じやすいこと,管理者のストレスの特徴として,平時と違い交代要員がいない点で遅発性のストレスが生じやすいこと,周囲に弱音を吐けず,サポートも得にくいことを伝えた.さらに管理者へのサポートとして,管理者の体験を表現し共有できる場づくり,同職種や同職位との対話,周囲からの感謝やねぎらい,他愛もない会話が大切であることを強調した.

管理者や相談に携わる人の役割と対応のポイントとして,PFAの行動原則に基づいた「みる」「きく」「つなぐ」役割があること,またそのなかで,対面・電話・メール対応の共通フローとして,相手を温かく迎え安心を与え,受けとめ共感し,労い,共に考えるといった「伴奏者」の役割を果たし,適切に対処することが求められることを強調した.

具体的なPFAの「みる」「きく」「つなぐ」対応は図2の通りである.「みる」では,まずスタッフのいつもと違う様子に気づき,表情や声のトーンから差し迫た状況にあるかを観察すること,「きく」では,寄り添って耳を傾け,気持ちを受け止めること,また努力や強みを承認してフィードバックすること,「つなぐ」では,本事業のポータルサイトの紹介や対応が難しいときに外部相談を活用することも伝えた.

図2

PFA「見る」「聞く」「つなぐ」に基づく具体的な対応

対面対応のポイント(図3)は,ねぎらいと感謝を優先し,共感的態度を示すこと,安心・安全な場であることを保障し,対処するための情報を提供することなどを伝えた.また第2回研修会以降は,図4のように,職場内の事例を提示し,この事例に対して,管理者としてどう考えるか,どんな気持ちになるか,どう対応するかを,全体でディスカッションする機会を設け,対応の一例も紹介した.その後,ロールプレイの時間を設け,ファシリテーターの進行のもと,ブレイクアウトセッションを行った.

図3

対面対応のポイント

図4

対面対応:事例紹介

電話対応のポイントは,相手が見えないため,声のトーンや話す内容等に注意を払った観察や対応が求められるが,ポイントは対面同様PFAを原則とし,その点を踏まえたロールプレイを行った.

メール対応のポイント(図5)も,PFAは原則としつつ,特に,文面から相手の必要としていることや困っていることを把握し,温かさを感じられるようなメール返信をすること,相手が,今必要としていること,困りごとに取り組めるように助けること,「またメールしてもよい」というメッセージで締めることなどを強調した.メール対応の演習では,各参加者が事前課題を持ち寄り,ブレイクアウトセッションのなかで共有,ディスカッションしながら,一つの返信案の作成に取り組み,全体の場で発表した.

図5

メール対応のポイント

3. 相談を受けるときのジレンマへの対処

毎回の研修では,2)の演習後,相談を受けたときに感じやすいジレンマとその対応を紹介した.何か言わなければいけない,ついアドバイスしたくなる,といったジレンマを感じることがあるため,その際には,まず相手の話に耳を傾けること,「伴奏者」の役割をとることを再確認すること,相手の力を信じて相手の思いや感情に関心を持つこと,自身をケアすること,一人で抱え込まずポータルサイト等を活用し,相談支援機関に相談することなどを提示した.

Ⅳ  参加者のアンケート結果

第1回から第4回研修会の参加者のアンケート結果のうち,満足度について表3にまとめた.

表3

第1回から第4回研修会に関する参加者の満足度

*括弧内は研修会の回を示す

研修時間は,ちょうどよいとの回答がほとんどで,講義内容も満足からやや満足,Zoomを使ったオンライン開催については,Wi-Fi環境がよくない,チャットの使用方法がわからなかったという意見は若干あったが,おおむね大きな問題はなく終了できた.またロールプレイは,役割交代の時間が十分とれなかった研修会があり,若干満足度が下がったが,おおむね満足という意見であった.第4回研修会の後半の困りごとの共有と意見交換については,8割弱が満足との回答であった.

表4は,第1回から第4回研修会全ての感想から抜粋したものである.「講義を聞きながら涙があふれてきて,思っている以上にストレスを感じ,1人で抱え込んでいることに気づいた」との感想と共に「同じ立場の方々の悩みや努力されていることを聞くことで,選択肢が増え,励まされる機会をもらった」など,本事業の研修会が,他施設職員との悩みや努力の共有につながり,互いを励ます機会にもなったことが示唆され‍た.

表4

第1回から第4回研修会に関する参加者の感想(自由記載の抜粋)

*括弧内は研修会の回を示す

Zoomを使用したオンライン開催については,電波の調子で左右されるとの指摘がある一方,気軽に参加できる利点も挙げられた.

ロールプレイについては,交代してできたら内容が深まったとの指摘はあったが,ファシリテーターがグループに入るとスムーズに話し合いでき,意見交換できたとの前向きな意見もあり,ブレイクアウトセッションでのグループ演習は参加者にとって有意義なものだったことが示唆された.

Ⅴ  研修班での多職種連携について

本事業の研修班での活動を通して,障害福祉施設の職員・管理者の方々は,感染リスクにさらされるなか,たとえ心折れる出来事があっても常に利用者やその家族にとっての最善策を模索し孤軍奮闘されてきたことを痛感した.このような参加者の思いをできる限り汲み取り,研修内容に生かすことが今回の研修での最重要課題と認識してきたが,その達成のために,多職種連携は重要な役割を果たしたと言える.

今回の研修は初めての試みが多く経験知も少なかったことから,障害福祉施設の方々の意見をできるだけ取り入れ,ガイドライン班,事例班の活動とも連動し意見交換しながら研修を企画し,研修後も参加者の声を反映し,次の研修に向けて修正を繰り返した.これら一連のプロセスが,まさに多職種連携活動の一環であったと考えられる.

本事業を終え,今後,我々精神保健看護に携わる者は,障害福祉施設の方々が置かれている状況に一層意識を向け,今回の研修で培った知識・スキルを生かして支援することが大切であると痛感している.

最後に,本事業の研修参加者の皆様,研修にあたりさまざまなご意見をいただきました障害福祉施設の皆様に心から感謝を申し上げます.

<委員一覧リスト>

岡田佳詠(国際医療福祉大学成田看護学部)

宮本有紀(東京大学大学院)

寺岡征太郎(和洋女子大学)

岡本典子(常葉大学)

三木明子(関西医科大学)

天野敏江(国際医療福祉大学成田看護学部)

根本友見(国際医療福祉大学成田看護学部)

石井歩(聖路加国際大学大学院)

 
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