2021 Volume 30 Issue 2 Pages 102-105
相談班を担当しておりました宇佐美と言います.事業のプロセスと他職種連携ということで,相談班がどう動いたのかについて,ご説明させていただきたいと思います.
まず,相談班の担当一覧ですが,看護師,精神看護専門看護師,慢性疾患看護専門看護師,精神保健福祉士,看護教育者などさまざまな立場の先生方にご協力いただきました(表1).携帯を持ち,メールチェックして頂き,心よく相談を受けて頂きましたこと,この場をお借りしてお礼申し上げます.
石飛マリコ(日本赤十字九州国際看護大学,准教授,災害対策委員) |
青木聖久(日本福祉大学,教授,精神保健福祉士) |
宇佐美しおり(四天王寺大学看護学部・看護実践開発研究センター,日本精神保健看護学会理事,災害対策委員長) |
岡谷恵子(四天王寺大学,教授,看護学部長) |
河野薫梨(福岡県立大学,講師) |
川田陽子(四天王寺大学看護学部,講師,精神看護専門看護師,災害対策委員) |
倉知延章(九州産業大学,教授,精神保健福祉士) |
鴇田百合子(東北大学病院,精神看護専門看護師,災害対策委員) |
寺岡征太郎(和洋女子大学,准教授,日本精神保健看護学会理事) |
橋野明香(広島大学大学院,助教,慢性疾患看護専門看護師) |
松橋美奈(四天王寺大学,助教,精神看護専門看護師) |
山岡由実(神戸市看護大学,准教授) |
事業のプロセスですが,先ほど安保先生がお話をくださったプロセスの中で,ホームページを見て,専用電話へ電話する,もしくはメールでご相談を頂きました.そして対応は,表1の先生方にご対応頂きました.実施期間は,2020年12月20日~2021年3月22日までの14時から20時までの電話を受け,メールは随時受付ました.メールでご相談ただいた場合には,3日から1週間以内に返信するようにしました.
実態ですが,電話14件,メール4件で,リピーターの方々もいらっしゃいました.相談者の方々は,介護福祉士,社会福祉士,看護師,保健師の方々でした.職務は,施設の管理者6名,サービス管理責任者5名,スタッフ1名でした.就労継続支援B型事業所や介護系事業所,通所型障害福祉サービス,放課後等デイサービス等々にお勤めの方々でした.
相談内容をご紹介したいと思います.各事業所による相談の違いがありましたので,各事業所ごとにご説明させて頂きます.また事業所ごとに分類したのは,今後,こういう対応をしていくときに,事業所の特徴に応じた相談体制を展開していく必要があるのではと思ったからです.
まず,就労継続支援B型事業所の場合は,事業所の経営者が,就労継続支援利用者の実態,利用者への対応などは専門外で,経営を中心に行ってらっしゃる方が施設長でいらっしゃったりして,実際の場を動かすリーダーやマネージャーたちと十分なコミュニケーションがとれない.また,十分なコミュニケーションがとれない上に,コロナ禍でのメールのやり取りになってしまって,お互いの理解が得られないので怒りがでて,怒りや気持ちを抑圧して,抑うつが強くなるという悪循環が起きていました.そして,資格を有するスタッフと,そうではないスタッフで構成されているために,専門的な仕事は資格を有するスタッフに多く回ってきていました.さらに,コロナ対応と通常業務ということで業務が増え,怒りや不満が強くなり,同僚や家族にも,コロナ禍でソーシャルディスタンスの影響もあり,話せないことで怒りが継続する,という状況でした.家族に苦しさを話そうとすると,「もう言わないでほしい」といわれ,話す場がないといったことなどがありました.また今の事業所では,仕事がうまくいかないので,職場を変わりたいんだけど,どうしたらいいのだろうかというご相談が多く見られました.
次に,介護系事業所では,利用者が濃厚接触者の疑いが出て,その利用者を事業所では受け入れたくないという感染に関する偏見が起こり,対応について検討したい,偏見の多さやそれへの対応をどうするのか,偏見に満ちた対応になっていないだろうかと非常に葛藤されている中,相談を頂きました.
また,通所型障害福祉サービスでは,一般雇用をしている精神障害のあるスタッフの言動に振り回されていて,それがコロナ禍の閉鎖的な環境のもとで,激しくなりスタッフも疲弊して動きがとれなくなっていました.
さらに放課後等デイサービスでは,子どもたちが対象なので,コロナ感染をさせないように細心の注意を払っているけれども,スタッフ自身が色々な地域に出入りし,スタッフが感染してそれを持ってくる可能性が高く,スタッフ指導をどうしたらいいのかというご相談もありました.
そして,地域活動支援センターでは,入職して間もない職員が,コロナ禍でストレスの強まっている利用者から怒り・不満をぶつけられ,どう対応していいのかわからない,離職したいとご相談がありました.
最後に,障害者センター等では,コロナ対策に関し,上司の理解が得られず,“1人”職種のために周囲の理解も得られず,自分だけがコロナ対応と通常業務で多重の責任を担っていて,抑うつが強くなり,離職したいとの相談もありました.
相談内容を整理しますと,相談をしてくださった方々は,事業所や立場によって内容も異なりますが,基本的には,①周囲のソーシャルサポートネットワークから少し離れた感覚を持たれていて孤立感が強まっており,②加えて,濃厚接触者や感染者への偏見,あるいは,マスクをしない利用者への偏見も強くなり,また,発達障害の人たちだと,特に,スタッフの指導を聞いてもらえない,あるいは,助言を聞いてもらえないので,あきらめも強くなっていました.発達障害だから言ってもしょうがないんだよという偏見がスタッフの中にも充満していて,その偏見が,対応策を考えたい責任ある相談者の孤立感を強いものにしていました.
また③経営者とリーダー,サービス管理者など,立場の違いにより,理念の違いで,対立が起こっていました.例えば,事業所や作業所は集団作業をしますが,コロナ禍によって,その集団作業ができなくなってしまう,そこで,資格のあるスタッフたちは,利用者さんを訪問して,どんな状況なのかを確認したいと思っている.しかし,個別訪問は個別ケアであり,事業所自体は集団ケアで収益を得ているので,経営的には効率が悪い.なので,「そんなことするな」と経営者から言われた.つまり,理念の違いから仕事の仕方も異なりお互いが理解できないまま仕事が進み,組織の凝集性が低下していました.
また④相談する方々のソーシャルサポートネットワークが小さくなっており,困ったときに相談する人がいないため,責任だけが重くのしかかり孤立感が強くなっていました.この孤立感は不安を強め,これまでやってきた自信が低下して自己評価がさがり,自己の安全空間が狭くなり,自我同一性,自分はどうしていったらいいのかと自分に問うようになり,相談にお見えになっていました.これらをまとめたものを図1に示します.
コロナ禍での相談者の状況
こういう状況の中で,対応としては基本的に,①コロナや災害対応のサイコロジカル・ファーストエイドを理解し,②相談班のメンバー間で対応を共有し,コンサルテーションの技法を用いて相談者自身が問題解決し意思決定していけるよう支援をすることとしました.同時に相談者のうつや不安が強い場合には,怒りや不満を十分表現してもらいながら,衝動を解放し,自分の欲求を改めてみつめ,どういう生活や仕事をしていきたいのか,目標を見直し,目標達成のための行動の選択肢を検討し,行動を決定し,セルフケアしていけるよう支援をいたしました.この過程については図2に示します.
相談のプロセス
例えば,濃厚接触者のスタッフやケアができにくい利用者さん・職員への対応方法の相談もありましたし,上司やスタッフ,同僚への怒りや不満と対応方法に関する相談もありました.
相談においては,相談者の怒り・不満・不安の表現を助け,これまでよく対応されてきたことを具体的にかつ肯定的に情動の交換をもとにしたフィードバッグを行いました.そして,本人の体験や気持ち,思考の整理を助け,こういう大変な中でやって来られたのだけど,その中でどうしていきたいのか,怒りの衝動に触れながら欲求を探し,欲求をもとにしたセルフケアの意図的展開を助けていきました.そして同時に困っていらっしゃることや問題と感じていらっしゃることの整理を共に行い,問題を明確にして,どう対処したいのか自己決定を促進し,問題解決策や対応方法について検討しました.
その際,相談者の存在感を示して,一人じゃないということを体験を通じて伝え,内的葛藤の整理を心的安全空間の提供を行いながら支援しました.安全な空間を相談者との間で作り,その上で本人の欲求に基づくセルフケアや問題解決行動がとれるよう自我自律性に働きかけ,セルフケア能力の強化を行いました.
今回の相談事業での中核的課題としては,1)事業所によっては,経営者が福祉や介護,精神障害者の就労支援を理解しているわけではないため,資格を有するスタッフと非資格者がともに仕事をする中で,資格を有するスタッフにコロナ禍での仕事の負担,利用者への対応の負担が生じていました.そこで資格を有するスタッフが業務を一人で抱えすぎずに上司と共同し,自分にやれることとやれないことを明確にし,情報共有を行うことが重要であると考えられました.すなわち「コロナ禍におけるリスク・コミュニケーションの強化/組織の凝集性の促進」が必要と考えられました.
2)さらに危機的状況におけるリスク・コミュニケーションの方法,通常から情報と情緒の相互作用(相互作用メンタルメイトリックス)を行うネットワークづくりを行うことがコロナ禍における不安を乗り越えるために重要と考えられました.すなわち「管理ラインによる縦のラインと同僚や友人などの横のネットワークづくり」が必要と考えられました.
3)さらに就労継続支援事業所や通所型障害福祉サービスでは,スタッフ自身が精神的な問題を有している場合もあり,そのスタッフが自分の精神状態とセルフケアを遂行しながら仕事とむきあえるような支援が特に必要となっていました.すなわち「相談者の精神状態や課題に応じた個別相談が可能な仕組み」が必要と考えられました.
4)また相談事業の利用者は,管理者とサービス管理責任者を兼務し,業務多忙となっており,さらに経営者に努力や成果を認めてもらえない苦痛も強くなっていました.従って,「自分の仕事・成果を自己主張しながら交渉していくスキルや自分を肯定的にとらえて自己を推進させることのできる自己駆動力やアサーテイブな交渉能力」が重要と考えられました.
ご清聴ありがとうございました.