石油技術協会誌
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講演
重質油のコールドプロダクションにおけるIOR技術適用について
五十嵐 哲下方 憲昭濱本 伸一畠山 厚志
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2014 年 79 巻 6 号 p. 398-404

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抄録

当社が権益を保有する英領北海の油田は, 1981年に発見されながら, 適切な開発計画が策定できず, 最近まで開発が進まなかった。これは開発対象油層の油の粘度が数十~数百cPであり, 油比重も12~14°APIと重質の油であること, また油層の広がりの不確実性が高かったことなどによる。
その後, 三次元震探の再解釈, 高解像度三次元震探の実施を経て, 新たに開発計画を策定, 開発移行が決定し, 現在開発作業が進んでいる。これを可能としたのは, 坑井間隔を密にした水平坑井・高傾斜井による水攻法, 最適な人工採油法として水中電動ポンプ (ESP) と軽質油圧入の組み合わせ, およびアップサイドポテンシャルとしての増進回収法ポリマー攻法の適用などである。ここでは, これらの技術を紹介する。
本油田は油の粘性が高く, 重質油の範疇に属する流体特性を持つ。まずは水攻法による油回収率がどの程度か解析的手法により検討を行った。次に, さらなる油回収率の向上を検討するため, 増進回収法のスクリーニングスタディを行った。効果的な増進回収法として, 水蒸気攻法やインミシブルガス攻法が候補として挙がったが, 洋上油田開発という制約もあり除かれた。最終的に, 本油田は油層温度が40~50℃と低く, 地層水の塩分濃度も高くないことから, ポリマー劣化の問題もないため, ポリマー攻法が最適であるとの判断に至った。
ポリマー攻法の効果を評価するため, 解析的手法に加えてセクターモデルを用いたシミュレーションを行い, 油回収率がどの程度増加するか検討を行った。また, ポリマー特性による感度分析も行った。
実際の油田は三次元で不均質性があるため, 解析的手法で得られる油回収率は上限値と考えられるので, セクターモデルに不均質性を取り入れて油層の不均一性が油回収率に与える効果についても調べた。
重質油であるため, 生産初期に水のブレークスルーが発生し, 高い含水率での生産となる。十分な生産レートを確保するために, 人工採油法としてESPが採用された。しかし, 高粘性流体の生産によりESPに多大な負荷がかかるため, 近隣油田の軽質油をチュービング内に送り, 重質油を希釈することとしている。本採油法に至るまでのスクリーニング過程および採油法の概念を紹介する。
現在本油田では生産開始に向けて開発作業が進められている。ポリマー攻法は生産開始後できるだけ早い段階から適用を開始した方が油回収率・経済性の観点から得策であるため, 生産開始直後に部分的にパイロット試験, 一定期間の評価を行った後, 油田全体への適用を検討中である。今後も継続してスタディを実施し, 早期にポリマー攻法が効率的に実現できるよう, 技術的検討を実施していく予定である。

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© 2014 石油技術協会
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