2024 Volume 2024 Issue 12 Article ID: JRJ20241201
自動車産業でのDX(Digital X- (Trans) formation)とSDV(Software Defined Vehicle)の重要性が高まり,自動運転を含む車両開発プロセスが変革しています.海外でのシミュレーションによる開発効率化や,米国・中国での無人自動運転サービスの拡大が進む中,国内でも「モビリティDX戦略」が発表され,SDVやモビリティサービス領域での業種横断的な協力が推進されています.一般財団法人日本自動車研究所(JARI)はSAKURAプロジェクト等の国プロへの参画を通じて,自動運転の技術開発と社会実装の支援に取り組んでおり,本特集ではその一部をご紹介します.
近年,自動車産業におけるDX(Digital X- (Trans) formation:デジタル化により社会や生活の形・スタイルが変わること)への取り組みは,国際的な競争を勝ち抜く上で不可欠な状況となっています.特にSDV(Software Defined Vehicle)の登場によって従来のハードウェア中心の自動車開発から大きく変わりつつあります.具体的には,シミュレーション活用など開発過程のデジタル化により,自動化を含めた自動車技術の高度化が極めて効率的に進められるようになってきました(例えば,欧州Tier1サプライヤを対象とした調査では開発期間の削減効果が従来比で3,4割減といわれています).さらに米国・中国では,実用化の技術的難易度が高い一般道でのロボットタクシーの有償サービスが既に開始されており,無人自動運転によるモビリティサービスの社会実装が急速に拡大しています.
このような海外動向に対して,国内でも自動車産業の競争力を維持・拡大するために政府主導によるさまざまな活動がおこなわれ,直近では2024年5月に経済産業省と国土交通省から新しい産業戦略である「 モビリティDX戦略」が発表されています.そこでは,「SDV」や「モビリティサービス」などの領域において業種を超えた議論を深め,自動車開発に関わる協調的な取り組みを拡大・推進していくという戦略が策定されています.「SDV」の領域については,とりわけコストや時間を要する自動運転開発でのシミュレーション活用促進がうたわれ,開発効率を加速するシミュレーション環境の整備において経済産業省「 SAKURA(Safety Assurance KUdos for Reliable Autonomous Vehicles)プロジェクト」などの成果活用が期待されています.また「モビリティサービス」の領域については,2025年度を目処に無人自動運転サービスの国内50カ所程度での実現や,高速道路でのレベル4トラックの実用化,さらには市街地で歩行者や他車両と混在する空間へのサービス拡張が計画され,省庁連携の国プロジェクトである「 自動運転レベル4等先進モビリティサービス開発・社会実装プロジェクト(RoAD to the L4)」で社会実装への取り組みが進められています.
一般財団法人日本自動車研究所(JARI)では,研究事業戦略での目指す姿として『2050年カーボンニュートラル/ 事故死者ゼロ/ 自由で便利な移動と物流』を掲げて研究・試験に取り組んでおりますが,自動運転における技術開発と社会実装の促進はこれら全てに関連する重要な課題です.JARIは先の「モビリティDX戦略」のSDV領域での貢献が期待されるSAKURAプロジェクト*1での中心的な役割を担い,自動運転システムの安全性に関するシミュレーション評価に資するシナリオデータベースを自動車業界の協力のもとで開発しています.また,同プロジェクトでは社会実装の際に不可欠な安全性評価に関する基準や標準についても一般社団法人日本自動車工業会(JAMA)と緊密な連携のもとで知見を提供しています.さらにはモビリティサービス領域におけるRoAD to the L4 などさまざまな国のプロジェクトに参画しており,国内における自動運転の社会実装に向けた取り組みをおこなっております.
今回の特集号では,上記のプロジェクト成果の一部と共にJARI独自の研究・取り組みの成果についてもまとめております.関係各位の一助となれば幸いです.