JARI Research Journal
Online ISSN : 2759-4602
Research Activity
[title in Japanese]
Makoto HASEGAWAShinji AKATSUToshihiro HIRAOKAHiroshi TANIGAWA
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2024 Volume 2024 Issue 12 Article ID: JRJ20241206

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Abstract

経済産業省と国土交通省によるRoAD to the L4プロジェクトでは,持続可能なモビリティ社会を目指し,2025年頃までに全国50か所程度で無人自動運転サービス(レベル4)を実現させることを目標として自動運転レベル4の社会実装に取り組んでいます.本稿では,当該プロジェクトにおいて一般財団法人日本自動車研究所(JARI)が担当している,自動運転車両の安全性に係る設計と評価の取組みについてご紹介します.なお,本稿は,JARIシンポジウムの講演を元に再構成したものです.

経済産業省と国土交通省によるRoAD to the L4プロジェクトでは,持続可能なモビリティ社会を目指し,2025年頃までに全国50か所程度で無人自動運転サービス(レベル4)を実現させることを目標として自動運転レベル4の社会実装に取り組んでいます.本稿では,当該プロジェクトにおいて一般財団法人日本自動車研究所(JARI)が担当している,自動運転車両の安全性に係る設計と評価の取組みについてご紹介します.なお,本稿は,JARIシンポジウムの講演を元に再構成したものです*

1. はじめに

自動運転レベル4による移動サービスの社会実装に向けて,一般財団法人日本自動車研究所(JARI)では,「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト (RoAD to the L4: Project on Research, Development, Demonstration and Deployment (RDD&D) of Automated Driving toward the Level 4 and its Enhanced Mobility Services)」1) において,自動運転車両の走行の安全性に係る設計と評価の取り組みを進めています.本稿では,RoAD to the L4プロジェクトを概説し,つづいて,安全性に係る設計および評価の取り組みを説明します.さらに,安全走行戦略の考え方や具体の検討例と,それらを関係者で合意形成する際の支援ツールについても紹介します.

なお,著者らが所属するJARI 新モビリティ研究部は,創設3年目の新しい組織であり,100年に1度と言われる変革期において,モビリティやそのサービスが社会に提供する価値,いわば安全性や環境性に加えて社会性や経済性などの向上に資する価値の創出に向けた新モビリティ分野の研究に挑戦しています.具体的には,自動運転移動サービスの安全設計・評価,地域とモビリティサービスに係る調査研究,機能安全(ISO 26262)やサイバーセキュリティ(ISO/SAE 21434),自動走行システムの国際標準化,モビリティに関する研究会活動等を進めています.

2. RoAD to the L4プロジェクトの概要

RoAD to the L4プロジェクトは,経済産業省および国土交通省の委託事業で,CASE2),カーボンニュートラルといった自動車産業を取り巻く大きな動きを踏まえて,持続可能なモビリティ社会を目指し,自動運転レベル4等のモビリティサービスを実現・普及させることで,環境負荷の低減や移動課題の解決などの各種社会問題の解決を図るものです.その結果として,わが国の経済的価値の向上に貢献することが期待されています.

RoAD to the L4プロジェクトのスコープは多岐に渡りますが,JARIでは,国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)らにより構成されるコーディネート機関の下で,目標・KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)の一つである,「無人自動運転サービスの実現および普及の取組み」に係る事業を受託しています.2022年度を目途に限定エリア・車両での遠隔監視のみ(レベル4)での自動運転サービスを実現し,2025年度までに多様なエリア,多様な車両に自動運転を拡大し,全国50か所程度に展開するなどの活動に注力しています.

上記活動の一環として,レベル4自動運転移動サービスの実証と社会実装の実現に向けてテーマ1からテーマ4までの4件のテーマ活動がありますが,JARIは,テーマ2とテーマ4に参画しています.

テーマ2は, 茨城県日立市のひたちBRT(Bus Rapid Transit:バス高速輸送システム)を実証フィールドとして,一般道との交差点を含む専用道区間等におけるレベル4自動運転サービスの実証と社会実装の実現に取り組んでいます.

鉄道跡地を整備した専用道区間と一般道区間のあるひたちBRTのうち,自動運転を行うのは一般車両や自転車等の存在しない専用道区間となりますが,一般道との交差点や歩道と併走する区間があり,走行には注意が必要です.

テーマ4は,千葉県柏市の柏の葉地域を実証フィールドとして,一般車両や自転車,歩行者等が共存する混在空間でのインフラ協調を活用したレベル4自動運転サービスの実証と社会実装の実現に取り組んでいます.信号交差点の右左折や路上駐車車両の回避走行など多種多様なシーンに対して,車載センサによる自律の走行に加えて,信号やインフラセンサの情報を用いる協調型システムを目指しています.

なお,RoAD to the L4プロジェクトの「人の移動に関するタスクフォース」の傘下には,協調領域の技術要件等を議論するワーキンググループの一つとして安全走行戦略WGがあり,JARIは,安全走行戦略WGの座長と運営を担当しています.

3. RoAD to the L4プロジェクトにおけるJARIの取り組み(1):安全設計支援と安全性評価

レベル4自動運転移動サービスにおいて,乗客や乗員,および他の交通参加者(歩行者,自転車,他の車両)などへの安全性の確保は,最も重要な事項です.テーマ2およびテーマ4では,自動運転車両の自動運行装置は先進モビリティ株式会社によって開発され,その安全に係る設計支援と評価をJARIが担当しています.

3.1 自動運転車両の設計支援と基本性能の評価

安全性の確保に向けたプロセスとして,「想定されるリスクを網羅的に評価し,つづいて,それらに対応した,運行設計領域(ODD: Operational Design Domain)の設定,車両の選定や自動運行装置の検討,遠隔監視など運行形態の設定,運行管理・保守点検体制の整備などに対して,その安全対策をあらかじめ十分に設計の段階で作り込むこと」が求められます.

具体的な取り組み内容を紹介します.まず,想定リスクを網羅的に挙げるにあたって走行環境の精査を行います.テーマ2では,BRT専用区間につき一般車両は進入しませんが,一般道との交差点の通過において「一般車両との交差通行がある」,「歩道脇を走行する区間がある」,「横断歩道や横断指導線の箇所では歩行者等の横断がある」などに留意する必要があります.テーマ4では,一般車両や自転車,歩行者等が共存する混在空間の一般道であり,「対向車両や先行・並走車両,あるいは横断歩行者などがさまざまに交錯する信号交差点での右左折の箇所」,「路上駐車車両の脇を回避して通過する箇所」,「歩道脇を走行する区間」などが交通環境の留意点として挙げられます.(図1)

図1 自動運転車両の設計支援と基本性能の評価

次に,想定されるリスクを網羅的に表現したリスクシナリオを策定します.本プロジェクトでは, SAKURAプロジェクトのような統計的なデータに基づく網羅的なシナリオではなく,実際の交通環境から特徴を抽出して,走行環境を類型化した網羅的な走行分類表を作成し,その分類ごとに想定するリスクを列挙する手法を取っています.リスクが高いシナリオについては,後述するテストコース,および実走行環境で評価を行います.

テーマ2の例では,走路の専用度合い(専用道,一般道との交差点,歩道並走部など),バス動作や道路インフラなどの観点で走行分類を策定して,各分類の特徴に応じた具体的なリスクのシナリオを列挙しています.具体的なシナリオとしては,一般道との交差点において,自動運転バスが通過するタイミングでの交差車両の接近,あるいは,他車両による死角からの車両の飛び出しなどが挙げられます.さらには,一般道との並走部における一般道横断歩道からの歩行者・自転車の横断,一般道と斜めに交差する箇所での複数の交通参加者の交差のシナリオなども抽出されています.(図2)

図2 リスクシナリオ作成

つづいて,前述のリスクシナリオに基づき,テストコース,および実走行環境で評価を行い,自動運行装置が設計どおりに動作すること,および安全走行戦略が妥当であることを確認していきます.(図3)

図3 自動運転車両の設計支援と基本性能の評価

まず,テストコースでの評価では,設計・実装した周辺環境認識系や車両制御系の基本的な性能の確認を目的に,リスクシナリオに列挙した走行環境や他の交通参加者の挙動を再現して,自動運転バスの対応挙動を検証する動的シナリオ試験,雨や霧などの天候条件や逆光・夜間などの日照条件により視界不良な状況を屋内で再現して,車載センサの周辺環境認識性能を検証する特異環境試験の2種類を行います.

本プロジェクトでは,JARIのテストコースJtownにて,自走する台車とそれに搭載したダミー人形・ダミー車両により再現した並走・交差する歩行者や車両の検知と対応の検証や,設置した遮蔽物により交差点の構造物による死角を再現し,その陰から接近して来る交差車両の検知と対応の検証などを実施しています.また,同じくJtownの特異環境試験場では,夜間の照度や逆光,降雨や霧をさまざまに再現して,当該状況下での周辺環境認識性能の検証を行ってきています.

次に,実走行環境における評価では,ODDとして設定している条件下,かつ他の交通参加者と交錯する実際の走行環境で,設計・実装した周辺環境認識系や車両制御系の性能を確認し,設定した安全走行戦略の妥当性を検証することを目的として,走行動画の解析によるドライバの運転介入シーンの評価を行います.

本プロジェクトでは,レベル4対応の車両にドライバが乗車するレベル2状態での走行試験において,走行状況を複数のカメラで撮影した上で,その映像をオフラインで解析し,ドライバ介入シーンに対して,発生要因や車載センサの認識と車両挙動の妥当性を検証しています.例えば,右方から車両が接近してくるシーンにおいて,想定した距離で接近車両を認識できていたか,対応する挙動は妥当かなどを関係者で検証しています.

3.2 機能安全・SOTIF・サイバーセキュリティ

安全設計において,故障によるリスクを扱う機能安全(ISO 26262)や,故障によらない一般性のリスクを扱うSOTIF(ISO 21448),デジタル情報の改ざん,漏洩を防ぐ対策であるサイバーセキュリティに関する取り組みも重要です.機能安全は,いわゆる自動運転車両が機能不全により走行中に予期しない振舞いをしないことを保証すること,一般的にはフェールセーフ/フェールオペレーショナルと言われるような動作が,適切に設計で織り込まれているかの評価を行います.SOTIFでは,環境や使用条件を適切に認識して適切な振る舞いをすることで意図した機能が安全に実現できているかの評価を行います.サイバーセキュリティは,自動運転システムがハッカーやサイバー攻撃から保護されていることの評価を行います.

JARIでは,これら3項目の調査研究に加えて,お客様へのトレーニングやコンサルティングの機会を提供しており,それらの活動で蓄積した知見をRoAD to the L4プロジェクトへ適用しています.(図4)

図4 機能安全・SOTIF・サイバーセキュリティ

4. RoAD to the L4プロジェクトにおけるJARIの取り組み(2):安全走行戦略の検討

自動運転移動サービスに必要な安全性の確保に向けた設計を確実かつ効率的に行うための,一連の実施項目,実施方法,注意点,実施事例等を体系的にまとめた「安全設計・評価ガイドブック」3), 4) では,「安全走行戦略」という単語は,「大局的な視点で,合理的に予見可能で回避可能な事故を回避するための考え方や方策」を指すものとしています.本章では,RoAD to the L4プロジェクトにてJARIが担当している,安全走行戦略に関する取り組みを紹介します.

4.1 安全な走行戦略の基本的な考え方

自動運転車両の安全目標に関して,日本では国土交通省の「自動運転車の安全技術ガイドライン」,国際連合欧州経済委員会(The United Nations Economic Commission for Europe:UNECE)の自動車基準調査世界フォーラム(WP.29)ではフレームワークドキュメント,欧州連合では規則 (EU) 2022/1426 にて,「許容不可能なリスクを生じさせない」との旨で,「自動運転車の安全性を確保するために,合理的に予見可能かつ防止可能な傷害または死亡をもたらす交通事故を起こさないこと」,「自動運転システムが作動中,乗車人員および他の交通の安全を妨げる恐れがないことについて,注意深く有能な運転者と同等以上のレベルであること」が定められています.

この安全目標を達成するための安全走行戦略の検討にあたり,自動運転車両が道路交通法等の関係法令を遵守することを前提条件として,その上で,「合理的に予見可能で防止可能」とは一体どういう状態を指すのか.また,法令違反状態の他の交通参加者への対応はどうあるべきか,を検討する必要があります.具体的には,速度超過で走行してくる他の交通参加者の挙動,信号無視での交差点進入や歩行者の飛び出しをどこまで予測して対応すべきか,などです.これらに関しては,社会全体で許容できるリスクのレベルを,具体的に定義していく必要があります.作る側が一方的に決めるものではなく,社会の受容性がこのレベルを決めていくと認識していて,一概に線が引けるものではないため,今後も社会実装に取り組む関係者で議論と検討がなされていくべき事項と考えます.(図5)

図5 安全な走行方法の基本的な考え方

主要な走行シーンでの安全走行戦略の検討例を紹介します.まず,「歩行者脇通過」のシーンにおいては,歩車分離の状況や歩行者の状態から,歩行者が走行路に飛び出してくるシナリオを想定し,歩行者との衝突リスクを許容可能なレベルに低減できる速度で歩行者に接近し,通過する,とまとめることができます.

この戦略に基づいて,車両の走行速度は,歩行者と車両間の前後距離と横方向距離,さらには車両の制動能力などに基づいて決定されます.歩行者が急に飛び出してくると想定した場合に自動運転車両と接触または衝突が避けられないような危険ゾーンに歩行者がいる状況では,自動運転車両は徐行ないしは停止することで衝突リスクを許容可能なレベルまで低減することができます.歩行者飛び出しの想定範囲(飛び出し速度の値など)は,関係者の議論で定めていくことが重要です.(図6)

図6 主要走行シーンの安全走行ストラテジ:歩行者脇通過

次に,「無信号交差点における直進」のシーンにおいては,交差車両の位置,速度,自車両が交差点を通過するために必要な時間から,交差車両が交差点に到達する前に自動運転車両が交差点を通過可能かについて判断し,交差点進入後は速やかに通過する,とまとめることができます.

ここで,安全走行戦略に影響を与える要因として,交差車両の速度をどのように想定するのか,たとえば,実勢速度(85パーセンタイル速度)を用いたらよいかなどを検討しなければなりません.また,自動運転車両が走行する道路が優先側なのか,それとも非優先側なのかといったことや,見通しの良し悪しも考慮に入れる必要があります.(図7)

図7 主要走行シーンの安全走行ストラテジ:無信号交差点直進

つづいて,「信号交差点における右折」のシーンにおいては,交差点進入かつ右折開始の可否判断は,信号が青であり,走行経路上に障害物がなく,他の優先的な交通参加者(対向直進車・左折車や歩行者など)の通行を妨げない,の三つの条件が全て満たされる必要がある,とまとめることができます.

ここで,安全走行戦略に影響を与える要因として,対向直進車の速度予測や,対向右折待ち車両や先行車両が作る死角をどのように考慮するかなどが挙げられます.(図8)

図8 主要走行シーンの安全走行ストラテジ:信号交差点右折

4.2 安全設計・評価ガイドブック

RoAD to the L4プロジェクトの「人の移動に関するタスクフォース」の傘下には,「安全走行戦略WG」と「車内乗客安全WG」の二つのワーキンググループがあり,ここで議論し合意された内容は,「安全設計・評価ガイドブック」3), 4) にまとめられています.

前節で説明した安全走行戦略に関しても,JARIが座長を務める「安全走行戦略WG」にて,協調領域の技術的な共通課題として議論し,安全設計・評価ガイドブックの第3章に反映しました.

本ガイドブックの想定読者は,レベル4自動運転移動サービスの社会実装に関わる事業者や関係者であり,その中でも,スタートアップ企業,特に自動運行装置に携わる方々に読んで欲しいと考えています.レベル4自動運転移動サービスに必要な安全性を確実かつ効率的に確保するための一連の実施項目,実施方法,注意点,実施事例等を体系的にまとめていて,自動運転車両やサービスのシステム設計を行う上での「手引き書,参考書」として有効活用されることを目指しています.ただし,本ガイドブックを参考にするだけでなく,自動運転移動サービス事業者および自動運転車両開発者自身で,個別状況に応じた安全性の確保に係る精査が必要である点には留意をお願いします.

本ガイドブックは,既に RoAD to the L4のホームページ公開されており,適宜,改訂を行っていきます.(図9)

図9 安全設計・評価ガイドブック

4.3 仮想環境の構築と活用

最後に,関係者間での合意形成を支援する仮想環境の構築と活用の取り組みについて説明します.

JARIでは,サービス提供者と利用者との間で適切な安全走行・運行に関する合意形成を促進するツールとして仮想環境を構築し,関係者間の議論に活用しています.

自動運転の走行環境を仮想空間上に再現することで,自動運転車両の振る舞いを視覚的に理解し,多様な走行シーンを疑似体験することができます.さまざまな視点(ドライバ,歩行者,三人称(鳥瞰など))で映像を表示し,車載センサの検知範囲などの付加情報の重畳表示も可能です.実環境では再現が困難な緊急停止などの事象を含めて,状況に応じて自動運転車両が危険を回避しつつ安全に走行する様子を再現し,関係者間での合意形成を支援します.(図10)

図11 「簡易な仮想環境」→ 関係者間での合意形成を支援

例えば,交差点通過のケースで,自動運転車両が,左右からの交差車両を検知し,自車の交差点通過時間を勘案して一旦停止の判断をして,両車両が通り過ぎた後に,自車が交差点へ進入し通過する再現シーンを紹介します.俯瞰,バス視点,歩行者視点や定点カメラ視点の多様な観点の映像で,自動運転車両の認識性能や走行方法を関係者が理解可能です.(図12~図15)

図12 交差点通過シーンの再現;鳥瞰

図13 交差点通過シーンの再現;バス搭載カメラの視点

図14 交差点通過シーンの再現;交差点方向の定点・歩行者の視点

5. おわりに

本稿では,RoAD to the L4プロジェクトにおいてJARIが担当している,自動運転車両の走行の安全性に係る設計と評価の取り組みについて概説しました.今後も,JARIが蓄積・保有してきた安全設計・評価に係る技術知見やJARIが保有する試験設備である 自動運転評価拠点Jtownを活用して,本プロジェクトの取り組みを進めて,レベル4自動運転移動サービスの実証と社会実装へ貢献していきます.

References
 
© Japan Automobile Research Institute
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