JARI Research Journal
Online ISSN : 2759-4602
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The 30th ITS World Congress Report
Ryo HASEGAWAHiroki NAKAMURA
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2024 Volume 2024 Issue 12 Article ID: JRJ20241207

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Abstract

2024年9月,著者らは自動運転や,つながるクルマといったITS(Intelligent Transportation Systems)技術や政策の国際動向調査を目的として,アラブ首長国連邦ドバイ,および同連邦アブダビに出張した.本稿では,出張の主目的である第30回ITS世界会議の全体概要,自動運転,通信利用型モビリティ,AIとデータ管理に関する発表概要のほか,ドバイの交通事情,アブダビで運行されている自動運転タクシーTXAIについて紹介する.

1. はじめに

2024年9月16日~20日にドバイワールドトレードセンター(ドバイ,アラブ首長国連邦)にて, 第30回ITS世界会議1) が開催された.ITS世界会議は,世界3地域を代表するITS(Intelligent Transportation Systems)団体(ヨーロッパ:ERTICO,アメリカ:ITS America,アジア太平洋:ITS Japan)が連携して1994年から開催している世界会議である.この会議はITSの普及による交通問題の解決およびビジネスチャンスの創出促進を目的としており,シンポジウム,展示,ショーケース(デモンストレーション)といった構成によって技術開発,政策,市場動向などの幅広い観点での情報交換の場を参加者に提供している2)

本稿では,著者らが自動運転や,つながるクルマ(Connected Vehicle)といったITS技術や政策の国際動向調査を目的として参加した第30回ITS世界会議の概要について報告する.また,ドバイの交通事情やアブダビの自動運転タクシーの調査結果も,併せて報告する.

2. 第30回ITS世界会議

2024年のITS世界会議はERTICOが主催し,史上初の中東地域での開催となった.会議の規模としては,アラブ首長国連邦外からの参加者数約2万人,セッション数170件(招待者のみ参加可のセッションを含む),講演者650名,出展者は300以上に上る1).オープニングセレモニー(図1)にはドバイ首長国の王族が参加し,ドバイ道路交通局がメインスポンサーになるなど,政府当局が積極的に当イベントに関与していた.また,日本からの展示も精力的に行われていた(図2).

 

図1 オープニングセレモニー         図2 展示ホールの日本ブース

開催期間の会議プログラムを表1に示す.一般参加が可能なセッションとして,ITS世界会議出席者全員が参加できるPlenary Session(全体会合)4件,国際的なテーマを対象とした公開討論会であるInternational Forum(国際フォーラム)8件,特定の地域のテーマを対象とした公開討論会であるRegional Forum(地域フォーラム)1件のほかに, Specialist Session(分野別発表・討論セッション) が150件開催された.Specialist Sessionの内訳は表2の通りである.今年の会議テーマはMobility Driven by ITS(モビリティを牽引するITS)で,主な議題は自動運転モビリティ,通信(V2X: Vehicle to Everything;車とさまざまなモノをつなぐ技術)を利用した都市交通,AIとデータ管理,環境に負荷をかけないクリーンなモビリティ,物流であった.本稿では,自動運転モビリティ,通信を利用した都市交通,AIとデータ管理に焦点を当てる.

表1 第30回ITS世界会議のプログラム

表2 Specialist Sessionの内訳

2.1 自動運転モビリティ

自動運転モビリティに関するセッションでは,さらなる自動運転の高度化を目的としてインフラなどとの通信を活用した協調型自動運転(CCAM: Connected and Cooperative Automated Mobility)を主軸とした発表が多くみられた.中でも,デジタルインフラの充実に言及する発表が多かったため,今後は自動運転車そのものだけでなく,デジタルインフラの発展が自動運転の高度化に重要な要素になると予想される.その他,日本からは国内での自動運転サービス展開状況や,一般財団法人日本自動車研究所(JARI)も関わる経済産業省のRoAD to the L4プロジェクト3) が紹介された.

2.2 通信を利用した都市交通

通信を利用した都市交通に関するセッションでは,ヨーロッパ,アメリカ,中国の各地域におけるV2X技術の研究開発や,V2X普及に資する政策が紹介された.例として,ヨーロッパからは,V2Xの通信規格や帯域に関するEU規制や標準,および市販車へのV2X機能実装状況が紹介された.一部の車両にV2X機能が搭載されているが,そのユースケース(活用事例)は車両対車両や,インフラ対車両の通信による道路情報の提供が主なものであった.アメリカからは,国が主導するV2X社会実装計画4) や,目標達成に資する研究プロジェクトが紹介された.一方で中国はコネクテッドカー分野で世界をリードすることを目指しており,国内20都市で実施している車両,道路,クラウドの統合システムを構築するためのV2Xインフラ整備計画5) が紹介された.

2.3 AIとデータ管理

AIとデータ管理に関するセッションでは,アメリカや韓国の交通におけるAIの活用例として,交通管理や道路状況のモニタリング技術が紹介された.AIに特化しないセッションでも,自動運転,歩行者や自転車などの交通弱者の検出などさまざまな場面でのAIの活用について言及されており,今後も重要な基幹技術として根付くことが予想される.一方でアメリカからはAI規制動向として,AIを活用したITSアプリケーション開発の際に考慮すべき原則を規定したBlueprint for an AI Bill of Rights (AI権利章典の草案)6) が紹介された.

3. ドバイの交通事情

高速道路について,片側7車線など日本よりも大規模かつ直線的な道路形状が特徴で,制限速度は140 km/hとなっていた(図3).アラブ首長国連邦の首都アブダビなど,連邦内の他の首長国間の連絡路としても機能しており,われわれがドバイからアブダビ国際空港に向かうときに利用した中距離バスもこの高速道路を走行した.一般道では,タクシーは少数見かけたものの,路線バスはほとんど見かけなかった.市内の交通量自体は多いので,ドバイ市民の交通手段は主に自家用車であると予想される.また,日中は気候の関係か歩行者は少なく,夜のほうが歩行者が多いことが特徴的であった.

また,ドバイ内を移動するための公共交通機関として無人自動運転で運行されるメトロがある.路線は2系統あり,ドバイ国際空港からITS世界会議が開催されたドバイ世界貿易センターのある中心街を経由して郊外に至るRed lineと,観光地であるドバイ・クリークからドバイ国際空港付近のエティサラート地区までをU字に結ぶGreen lineから構成されている.全区間が高架あるいは地下となっているため他の交通と交錯する場面はないが,朝と夕方は日本以上に激しい通勤ラッシュに見舞われる.その他,世界最大の人工島であるパーム・ジュメイラ付近ではトラム(LRT)も運行されていた.

図3 ドバイの高速道路

4. アブダビの自動運転タクシー

ドバイでのITS世界会議参加と併せて,アブダビで試験運行されている自動運転タクシーに試乗したため紹介する.当該タクシーサービスはTXAI7) と呼ばれ,アブダビ内で観光開発されているヤス島,およびサディヤット島を対象にサービスが提供されている.車両や自動運転システムは中国の自動運転ベンチャーWeRide社が提供しているが,現在は試験運行という位置づけのため,運転席にセーフティドライバが乗車し,料金は無料で運行されている.

タクシーを呼ぶにはTXAIのスマートフォンアプリを使用し,乗車ポイントと乗車時刻,降車ポイントを指定する.乗降車ポイントはアプリに登録されている地点からのみ選択できるため,タクシーとバスの中間のような利用感覚であった.実際に試乗した際には,乗車ポイントから降車ポイントまでセーフティドライバの介入なしで移動することができた.

なお,アブダビの一般道は日本の一般道よりも歩車分離がなされており,日中は暑い気候の影響もあってか歩行者や自転車といった交通弱者はほとんどいない状況であった.交通弱者が多数存在する混在交通の中を低速で運用されている日本国内の自動運転サービスと比較すると,TXAIは日本よりはシンプルな交通状況で運用されているとはいえ,一般道と自専道を連続的に,かつ高速度域まで対応している点が主な違いであると考えられる.

図4 自動運転タクシーサービスTXAI

5. まとめ

本稿では,アラブ首長国連邦ドバイにて開催された第30回ITS世界会議の概要,ドバイの交通事情,アブダビの自動運転タクシーTXAIについて紹介した.ITS世界会議では主にCCAM,V2Xやそれらの社会実装に必要な要素技術であるデジタルインフラやAIに関する政策動向や技術動向について把握することができた.また,ドバイの交通事情については,特に高速道路が大規模かつ直線的な道路形状である点が特徴的であった.アブダビでは,中国企業と現地企業の連携による自動運転の社会実装に向けた取り組みが実施されていた.

ドバイでは世界規模のITSに関する国際会議が開催されたほか,アブダビでは自動運転の社会実装が進められていることから,今後ともアラブ首長国連邦は石油や観光といった潤沢な資源を背景としたITS技術のショーケースとなることが予想される.

References
 
© Japan Automobile Research Institute
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