2024 Volume 2024 Issue 2 Article ID: JRJ20240212
城里テストセンター(STC)ではADAS(先進運転支援システム)試験研究ニーズの高まりを受け,2015年に第2総合試験路を新設,2018年に外周路を改修,2022年には国内初のADAS試験場を新設した.あわせてADAS試験実施体制についても所内外機関と連携し拡充を図ってきた.ADAS試験研究に対する当研究所の取組みを紹介するために2022年7月に引き続き,2023年11月に第2回ADASテクノフェアを開催した.概要について報告する.
1. 城里テストセンターについて
一般財団法人日本自動車研究所(JARI)は茨城県のつくばと城里の2拠点においてそれぞれテストコースを運営している.図1に示すようにつくばには自動運転評価拠点(Jtown)1),城里には 城里テストセンター(STC)がある.STCの前身は通称「谷田部のテストコース」であり,つくばから城里へ移転した際に「城里テストセンター」と改名し2005年から運営を開始している.STCでは試験研究による利用に加えて試乗会や撮影など様々な利用が可能である.また,STC利用者用としてホテルやレストランを完備しており, 2016年からは24時間・365日・利用が可能な体制とした.
図1 JARIのテストコース(2拠点)
2. ADAS試験研究動向への対応
近年のSTC利用の大きな変化点は,電動化(主にEV)とADAS(先進運転支援システム)普及にともなった試験利用増加の2点である.電動化に対応するためにSTCではこれまで急速充電器を毎年増設してきたが電源インフラ容量面で対応しきれなくなってきており、今後の電源インフラ増強のために2024年に調査・仕様の検討を行う予定である.
一方,ADASに対応するために2015年に第2総合試験路を新設,2018年に外周路に分岐・合流路を追加,2022年に ADAS試験場2) の新設など様々な設備導入を行ってきた.これらの走路増設にあわせて整備工場や車庫等の付帯設備も拡充した.特に試験機材メーカーが長期専有可能な試験車両準備棟も複数増築した.また,今後のV2X試験研究のために通信環境の改善も図った.表1にADAS試験研究動向に対応するために導入した主な設備についてまとめる.
表1 ADAS試験研究動向に対応するために導入した主な設備3)
年度 | 走路 | 建屋 | 通信環境 |
---|---|---|---|
2023 | 試験車両準備棟5,6 | ||
2022 | ADAS試験場(長さ500 m×幅300 mの扇型) | KDDI 5G | |
2021 | 試験車両準備棟4 | NTTドコモ 5G | |
2020 | 試験車両準備棟3 | ||
2019 | |||
2018 | 外周路に分岐・合流路を追加(3か所) | ||
2017 | KDDI LTEエリア拡大 | ||
2016 | NTTドコモ LTE | ||
2015 | 第2総合試験路(長さ520 m×最大幅40 m) | ソフトバンク LTE |
各走路では様々なADAS試験研究が行われており,特に白線認識を必要とするLKAS(車線維持支援制御装置)や,対象物検知を行うAEBS(衝突被害軽減ブレーキ装置)等の走行試験利用が増加している.夜間にはAHB(オートハイビーム)試験利用もされている.
特にAEBS試験実施のためには,図2に示すような専用試験機材が必要となる.各国AEBSに関連する試験法に対応する専用試験機材については,世界的に見ると試験機材メーカー3社が提供している.STCでは,全利用者の利便性を損なわないためには,これら全試験機材を利用できることが望ましい.このため,2023年には,これら試験機材メーカー3社によるSTC内長期専有建屋が完備され,全試験機材の貸出およびSTC現地での不具合対策を迅速に行える体制を構築することができた.
図2 AEBS専用試験機材*の例
*写真は試験機材メーカーより提供
3. ADASテクノフェア概要
2022年7月にADAS試験場の運用開始のタイミングにあわせて第1回ADASテクノフェアを開催した.2023年11月には上述したADAS試験実施体制と新たな試験機材の紹介のために第2回ADASテクノフェアを開催した.表2に第1回と第2回のADASテクノフェアの違いを示す.
表2 第1回と第2回のADASテクノフェアの実施概要
第1回 | 第2回 | |
---|---|---|
開催日程 | 2022年7月1日(1日間) | 2023年11月1-2日(2日間) |
参加者予定数(実績) | 400名(414名) | 400名(491名) |
デモ試験走路 | ADAS試験場 | ADAS試験場,第2総合試験路,総合試験路 |
セミナー会場 | 管理棟大会議室 | 整備工場D |
出展ブース | ADAS試験場に17社 | 管理棟前駐車場に14社 |
来場方法 | 友部駅からの送迎バス,自家用車 | |
全テストコース見学 | 50名限定 | 希望者全員 |
その他 | JSAE見学会を同時開催 | 参加者同士の技術交流会を設定 |
第2回ADASテクノフェアでは試験機材メーカー3社によるデモ試験を実施した.今後試験法として導入が予定されている追従・横断・交差点等の試験シナリオを対象として,日本電計株式会社,株式会社ヒューマネティクス・イノベーティブ・ソリューションズ・ジャパン,エア・ブラウン株式会社が各社で取り扱っている専用試験機材を用いてデモ試験を実施した.ADASのうち特にAEBS試験が頻繁に実施されているADAS試験場,第2総合試験路,総合試験路の3つの走路をデモ試験会場とした.
各デモ試験会場へのシャトルバス発着の拠点となる管理棟前駐車場には14社のADAS試験関連会社のブースが出展された.セミナーではJARI以外にASEAN(東南アジア諸国連合)NCAP動向紹介としてMIROS(Malaysian Institute of Road Safety Research)が話題提供を行った.図3に開催当日のADASテクノフェアの様子を示す.第1回はOEMによる参加が多かったが今回の第2回ではセンサーメーカーの参加が多く見られた.参加者の多くは3社の専用試験機材の違いを比較するとともに新たな試験シナリオについて理解を深めていた.また,台湾やインドなど海外からの来場もあった.
図3 第2回ADASテクノフェアの様子
4. おわりに
STCでは近年のADAS試験研究ニーズに応えていくために,上述したように様々な取組みを行ってきた.設備導入にあたっては,OEM,センサーメーカー,ベンダーなどの利用者だけでなくOEMテストコース管理部署4) とも対話を行うとともに,試験法動向を参考にした.STC自前での設備導入にこだわらずに試験機材メーカーや通信キャリア等と連携することで幅広く設備を準備してきた.
第2回ADASテクノフェアでは利用者,JARI,試験機材メーカー,テストコース管理者,関連会社それぞれが互いに対話する機会ともなり,ADAS試験研究推進に有益な場になったと考える.今後も引き続きADAS試験を通して発生してきた課題をJARIは様々な機関とも協力・解決し、験研究の業界共通プラットフォームとしてSTCおよびJtownを常に更新し利用者に提供し続けていく.
謝辞
第2回ADASテクノフェア開催にあたり、参加者の皆様には城里までご足労いただきまして感謝申し上げます。またブース出展社の皆様には引続き当城里テストセンターの事業活動にご理解・ご協力のほどよろしくお願いいたします。