2025 Volume 2025 Issue 1 Article ID: JRJ20250101
世界全体で地球温暖化の対策が進められており,各国においても中長期(2030年~2050年)を対象に温室効果ガス削減目標が設定され,日本でも2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを表明している.カーボンニュートラル達成に向けた目標を設定するためには,各種施策を導入する必要があるが,これらを適切に評価するためにはいろいろな情報(CO2排出量やエネルギー消費量など)が必要である. 温暖化対策の効果評価を行うために必要な統計データは膨大で多様であるため,効率的に活用するには,データベース化を進めることで,データの効率的な整理・保存ができ,その利用価値を大きく高めることができる.また,データベースを活用することで,必要な情報を迅速に抽出,多様な場面で効果的に利用することが可能となる. そこで,自動車の販売台数やガソリンの販売量などの自動車に関する環境・エネルギー分野の基礎データ,燃費基準,排出ガス規制やクリーンエネルギー車補助金などの産業・政策動向を収集してきた. 本報では,これまで構築したデータベース1) を活用し,日本のCO2排出量の約2割を占める運輸部門において,乗用車部門のCO2排出量動向を整理した結果を紹介する.
1. はじめに
世界全体で地球温暖化の対策が進められており,各国においても中長期(2030年~2050年)を対象に温室効果ガス削減目標が設定され,日本は2050年カーボンニュートラルを目指すことを表明している.カーボンニュートラル達成に向けた目標を設定するためには,各種施策を導入する必要があるが,これらを適切に評価するためにはいろいろな情報(CO2排出量やエネルギー消費量など)が必要である.
温暖化対策の効果評価を行うために必要な統計データは膨大で多様であるため,効率的に活用するには,データベース化を進めることで,データの効率的な整理・保存ができ,その利用価値を大きく高めることができる.また,データベースを活用することで,必要な情報を迅速に抽出,多様な場面で効果的に利用することが可能となる. 筆者らはこの認識のもとに,データベースを作成してきた.そこで,自動車の販売台数やガソリンの販売量などの自動車に関する環境・エネルギー分野の基礎データ,燃費基準,排出ガス規制やクリーンエネルギー車補助金などの産業・政策動向を収集してきた.
本報では,これまで構築したデータベースを活用1) し,日本のCO2排出量の約2割を占める運輸部門において,乗用車部門のCO2排出量動向を整理した結果を紹介する(図1).
図1 運輸部門における二酸化炭素排出量(2022年度) 出典:国交省2)
2. 収集データ
自動車産業は,製造から販売,維持,物流,リサイクルに至るまで,さまざまな専門分野にわかれるが,これらは密接に関連しており,情報も広範で多くの分野を対象としている.例えば,自動車部門のCO2排出量変化要因の解析など専門的な研究3) は行われているが,特定の期間におけるデータであり,過去の傾向や各種要因(燃費,走行量など)の関係性が見えにくい部分が多い.そこで,特定時点におけるデータに依存していた問題を解消するため, JARIで収集しているエネルギー,環境に関するデータを基本として,多角的な視点から以下の項目を主な対象としている.時系列データの分析において,データ収集期間は目的や分析内容によって異なるが,2000年以降を対象とし,必要に応じて,それ以前のデータを収集した.
表1 主な収集データ
3. データの利用
本研究は,収集したデータの一例として,乗用車に関する次世代車(ハイブリッド車(HEV),プラグインハイブリッド車(PHEV),電気自動車,クリーンディーゼル車(CDV),燃料電池車(FCV))の販売台数,保有台数,燃費,走行量,燃料消費量の推移について整理したものを紹介する.
図2に国産乗用車の次世代車別販売台数推移を示す.運輸部門のCO2削減目標達成にむけて,2009年以降,次世代車の普及促進に対して補助金や減税措置の導入により,次世代車の販売台数は毎年増加し,軽ハイブリッド車を含めると2022年度は,50%超となった.これに対して従来車は販売台数が減少しており,販売比率は低下している.さらに,2035年以降は政府目標として,従来車の販売禁止を表明しており,今後も次世代車の販売台数が増加すると考えられる.
図2 国産乗用車の次世代車別販売台数 出典:マークラインズ4) のデータより筆者が作成
図3に国産乗用車の次世代車別保有台数を示す.保有台数データにおいては,軽乗用車の次世代車の内訳について詳細な情報が把握できていないため,ここでは,対象外とし,次世代車の内訳は登録車(普通車,小型車)のみとした.
2022年度の保有台数に占める次世代車の割合は19%程度と新車台数と比較して少ない.これは,過去に販売された車両の影響が大きいためである.しかしながら,新車台数の傾向より,今後,さらに保有台数ベースにおいても次世代車の普及が進むことが予想されることから,CO2削減やエネルギー効率の向上が促進されることが期待される.
図3 国産乗用車の次世代車別保有台数 出典:自検協統計5)
図4に乗用車の実走行燃費推移の推移を示す.ここでは,WLTCモード等の公定モード燃費ではなく,実際のエネルギー消費量と保有台数走行量より算出した実走行モード相当の燃費とした.
2030年度燃費基準の策定により,ガソリン車の燃費は年々改善される傾向が見られる.一方で,HEVも燃費改善技術は進展しているが,車種のバリエーションが増加し,さらに車格が大きくなっているため,平均燃費の改善は抑制されているものと推測される.ディーゼル車においては,クリーンディーゼルの普及により燃費が改善される.LPG車においては,車種が限定されており,近年最新車両の販売が開始されたことにより燃費が改善される傾向が見られる.
図4 乗用車の実走行燃費推移 出典:自動車燃料消費量調査6)
図5に乗用車の走行量推移を示す.走行量は自動車の保有台数(台)に年間総走行距離(キロ)を乗じたものと定義する.
乗用車の走行量は2008年以降増加傾向であったが,2019年以降,新型コロナウイルスの感染拡大による影響により急減に減少した.2020年以降は改善されてきているものの,コロナ禍以前の走行量には戻ってきていないが,今後,一定距離まで戻ると推測されるが,コロナ渦以前まで回復するかは今後動向を継続して注視していく必要がある.
図5 乗用車の走行量推移 出典:自動車輸送統計7)
図6に乗用車の燃料消費量の推移を示す.
乗用車の燃料消費量のうち,ガソリンが90%超を占め,2022年は93%となった.2004年以降,横ばいから2020年から2021年はコロナ禍により減少していたが,2022年以降はコロナ影響の軽減により若干増加傾向となった.これは前述した走行量が回復した影響であると考えられる.一方で,軽油は,コロナ禍にあっても消費量がほぼ一定となった.これは業務用車両で多く使われており,こうした車両への次世代車への転換が緩やかにしか進まないためであると推測される.
一方で燃料消費量の総量が減少しているが,走行量が増加しているのは,燃費技術の進化による効率向上の影響と推測される.
今後は,自動車単体技術の向上だけでなく,エコドライブの普及,渋滞緩和,交通流対策や自動車の最適利用などの取り組みがさらに進むことで省エネ対策を促進させ,環境への影響が軽減することが期待される.
図6 乗用車の燃料消費量推移 出典:自動車輸送統76)
図7に乗用車のCO2排出量の推移を示す.ここでのCO2排出量は走行時のみを対象とするTank to Wheelとした.
2022年度の乗用車のCO2排出量は,コロナ禍の行動制限緩和により,2021年度比5.2%増加となったが,2013年度比では,21.5%減少している.乗用車のCO2排出量が減少しているのは,走行量の減少に加え,燃費技術の進化,次世代車普及などによるものと推測される.
図7 乗用車のCO2排出量推移 出典:総合エネルギー統計8)
4. まとめ
本報では,筆者らが収集を進めている自動車データベースより乗用車について分析した結果を紹介した.その結果,国産乗用ハイブリッド車の新車販売台数は年々増加している一方で,保有台数に占める割合は新車販売台数と比較して低い水準にとどまっている.乗用車の燃料消費量は燃費の改善効果や次世代台車の普及により減少傾向にあり,それによって乗用車からのCO2排出量は減少傾向にあることが確認でき,これにより,省エネ効果,CO2排出量の傾向と変化要因について示すことができた.このように,現状の把握に加えて,変化要因の分析結果を活用し,先行した情報の提供が求められている.今後は単なる基礎データの提供だけでなく,基礎データを統合して分析し,ゼロエミッション車の影響を考慮したWell to WheelでのCO2排出量など新たな形での基礎情報の提供を検討していきたい.
近年,統計調査の延期・中止,さらには公表データの有料化といった傾向にあり,データの入手がこれまで以上に困難になってきている.この傾向は,これまで進めてきた自動車の生産,販売,保有などの基礎データにおいても例外ではない.そのため,既存のデータが入手困難な場合には,出典の異なるデータや代替可能な情報源を活用するなど,新たな手法を模索していく必要がある.こうした取り組みにより,引き続き信頼性のあるデータ分析を進めていくことが求められる.