2025 Volume 2025 Issue 10 Article ID: JRJ20251001
JNX(Japanese automotive Network eXchange)は,安全・安心な通信を提供するネットワークサービスであり,日本の自動車業界共通基盤として企業間の商取引を主な用途に,さまざまな企業に利用されている.その運営は,公平性/公益性が担保された団体である一般財団法人日本自動車研究所(JARI)の一事業部門であるJNXセンターが担っている.本記事では,JNXについて紹介する.
1. はじめに
JNX(Japanese automotive Network eXchange)は,安全・安心な通信を提供するためのネットワークサービスである.日本の自動車業界における共通基盤として,多くの企業により,商取引や図面などの電子データを安全かつ確実に送受信するために利用されている.
JNX設立の経緯について説明する.自動車メーカーはサプライヤーから自動車を構成する部品を購入しており,サプライヤーとの受発注・納入指示情報の送受信はEDI(Electronic Data Interchange:電子商取引)を使って1970年代より行われていた.当初のEDIは専用回線やVAN(Value-Added Network:付加価値通信網)を通信インフラとして使用していたため,サプライヤーは,個別の回線と個別のEDIシステムを取引先の自動車メーカーごとに用意する必要があった.業務効率化を目的としてEDIを導入したが,サプライヤー側では多数の回線や端末の準備が必要となり,かえって非効率な対応を強いられる結果となった.
この状況を鑑み,一般社団法人日本自動車工業会(JAMA: Japan Automobile Manufacturers Association)と一般社団法人日本自動車部品工業会(JAPIA: Japan Auto Parts Industries Association)は,国内各自動車メーカーのネットワークの実態および米国の自動車業界情報通信ネットワークであるANX(Automotive Network eXchange)の調査を行い,重複投資の解消,通信コスト低減,インターネットプロトコル(IP: Internet Protocol)ネットワーク化注1) を目標に掲げ日本版ANXとしてJNXを構築し,2000年10月にサービスを開始した.サプライヤーはJNXに加入することにより,単独回線,単独端末による取引が可能となった(図1).
図1 JNXが解決した自動車業界の課題
JNXの運営者としては,自動車メーカーやサプライヤー,サービスプロバイダーから中立・公平・等距離にある組織が望ましいと判断された.経済産業省自動車課などの意向を踏まえて,JAMA,JAPIAの要請に基づき,2000年5月に公益法人であった財団法人日本自動車研究所(JARI;現 一般財団法人日本自動車研究所)内に,JNXの運営組織としてJNXセンターが設立された(図2).なお,「JNX」はJAMAの登録商標である.
図2 JNXセンター設立の経緯
2. JNXが提供するサービスの概要
JNXは,インターネットとは分離された専用の閉域ネットワークとして構成されている.限られた利用者のみがアクセス可能な環境であり,高度なセキュリティ対策を講じることで,高い安全性を実現している.
JNXの利用者はTP(Trading Partner)と呼ばれ,TPに対する直接の窓口となるネットワークサービスプロバイダ―はCSP(Certified Service Provider)と呼ばれている.CSPは,JNXの指定基準をクリアした事業者をJNXセンターが認定し,同センターが四半期ごとにその運用状況を管理・監督している.現在,JNXに認定されているCSPは,株式会社トヨタシステムズ,日本情報通信株式会社,ソフトバンク株式会社の3社である.TPはJNXに加入し,いずれかのCSP経由でJNXネットワークに接続することにより取引先との受発注情報などの送受信を行っている(図3).
図3 JNXセンター,サービスプロバイダー(CSP),利用者(TP)の関係
JNX設立当初は低速な専用線のみのサービス提供であったが,現在では,帯域保証型の「高速専用線」,ベストエフォート型の「ブロードバンド回線」の二つを『コア回線サービス』としてラインナップしており,利用者が必要とする帯域に応じて選択することが可能となっている.その他のサービスとしては,インターネット経由によるJNXへの接続を可能とする『JNXライトアクセスサービス』を提供している.
運用においては,利用者へのサービス提供が滞らないように,24時間,365日の回線監視およびコールセンター対応を行っている.また,災害時でもサービス運用が継続可能となるように,システム設備を東西2拠点のデータセンターに構築することで冗長構成としている.
会員制を採用しており,JNXを利用したいと考える人が申請したらすぐに利用できるわけではない.新規加入を希望する利用者は,取引をしようとする既加入TPから接続承認を受けた後に,JNXセンターの加入審査に合格することでJNXへの加入が許可される.許可された利用者には電子証明書が発行され, JNXへの接続時にはその電子証明書による認証が行われる.この手続きによって,正規に加入した利用者のみがJNXに接続できる仕組みとなっている.すなわち,素性が明らかでない企業の利用者がJNXに接続することはできない.
セキュリティ脅威に対する対策にも万全を期しており,利用者がデータの送受信を行う場合は,VPN(Virtual Private Network)により接続承認を受けた取引先にのみ接続される.さらには,そのデータはすべて暗号化されている.
このようなネットワーク構成,運営体制,セキュリティ対策により,正規に加入した利用者のみがアクセス可能でありかつ取引先との通信では秘匿性の担保されたデータ送受信が可能な環境が実現されている.これにより,安全で安心なネットワークサービスを提供しており,現在では当初のEDI利用のみならず,CAD(Computer-Aided Design)データの送受信などにも活用されている(図4).
図4 JNXが提供するサービスのしくみ
3. JNXの利用者と運営体制
設立当初にJAMA加盟のすべての企業が加入しサービスを開始したJNXは,2003年12月には約700社,2025年現在で約2,400社の企業が利用している.その業種は,自動車メーカー,自動車輸入業者,自動車部品メーカー,電機部品/建機/農機メーカーはもとより,物流,商社,社会システムにいたるまで広範囲にわたっている(図5).
図5 JNXの利用者;CSP3社を介してさまざまな業種の企業が利用(イメージとしてのアイコン配置はランダム)
多くの利用者が加入しているJNXを安定的に維持・運用していくためには,設立当初の趣旨を遵守し,中立的な立場から「ネットワークの品質維持・管理」を継続的に実施することが重要である.このために,JAMA,JAPIA,学識経験者,情報通信/セキュリティ分野の専門家,JARI代表,JNXセンター代表からなる「JNX運営委員会」において,JNXの運営状況を共有し,運営方針や施策の審議・決定が行われている.
JNXセンターは,JNX運営委員会の決定内容に基づき,CSP3社とともにJNXの安定的な運営に努めている(図6).
図6 JNXの運営体制
4. おわりに
JNXは,今後も安全で安心なネットワークサービスの提供を維持することはもちろん,設立当初の趣旨を守り,JAMA,JAPIAとの連携をさらに深めていく.そして,自動車産業からモビリティ産業への変革が進む中,自動車業界のDX(Digital Transformation)推進に寄与するデジタル基盤を創出・提供することにより,自動車業界の発展に貢献していきたいと考えている.