JARI Research Journal
Online ISSN : 2759-4602
Survey Report
Overview for Recent Fatal Traffic Accident on Pedestrian
Atsuhiro KONOSU
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2025 Volume 2025 Issue 6 Article ID: JRJ20250602

Details
Abstract

わが国の交通事故による死者数は,各種安全対策の推進によって,2001年以降,着実に減少してきたが,2021年以降,下げ止まり傾向にある.本稿では,交通弱者,かつ状態別で最も死者数が多い歩行者の死亡事故に焦点を当て,近年の死亡事故実態について,さまざまな視点で調査した結果を紹介する.

1. はじめに

わが国において,交通事故による死者数(交通事故発生後24時間以内の死者数,以下,「死者数」という)は,2001年以降,道路交通安全に関わる各種安全対策の推進によって,図1に示すようにおおむね右肩下がりで減少してきた(図1)1), 2).しかしながら,2021年以降は停滞傾向にあり,「第11次交通安全基本計画」に示されたわが国の死者数の削減目標である「2025年までに24時間死者数を2,000人以下とする」3) の達成は,きわめて困難な状況(2024年時点で2,663人であり,1年で663人以上の削減が必要)になっている.

2001年以降の死者数の推移を状態別に見ると,図2に示すように2007年までは自動車乗車中が最も多かったが,2008年以降は歩行中が最も多い状態が続いている1), 2).そのため,歩行中の死者数の削減は,「第11次交通安全基本計画」に掲げられた「世界一安全な道路交通の実現」を目指すうえで,重要な課題の一つであると考えられる.

そこで,本稿では,歩行者の死者数の削減に向けて,交通安全対策の検討に有用となる近年の歩行者の死亡事故実態についてさまざまな視点で調査した結果を紹介する.

図1 我が国の交通事故死者数の年次推移ならびに削減目標

(本グラフは文献1-3)に記載されたデータをもとに作成)

図2 我が国の交通事故死者数の年次推移(状態別)

(本グラフは文献1,2)に記載されたデータをもとに作成)

2. 調査方法

調査は,2019年~2023年(計5か年分)の全国交通事故データを用いて行った.事故データの入手にあたっては,公益財団法人交通事故総合分析センター(ITARDA: Institute for Traffic Accident Research and Data Analysis)が提供する「交通事故集計ツール」4) ならびに同センターが行っている「受託集計業務」5)という業務サービスを活用した.

2.1 調査項目・分類

本調査に用いた調査項目と分類を表1~表5に示す.本調査ではさまざまな視点から事故の発生概況がわかるように,「時間・天候関連」,「道路環境」,「歩行者種別」,「衝突状況」,「傷害関連」,ならびに「法令違反・飲酒関連」に関する数多くの調査項目を採用した.

なお,本調査で用いた分類は,ITARDAのデータベースで用いられている用語6) を基本に設定した.

2.2 調査内容

本調査では,はじめに,各調査項目において「死者数」が多い分類を明らかにした.次に,相対的に死亡率が高く,危険度が高いと考えられる事故を把握するため,「死亡率」が高い分類についても明らかにした.さらに,限られた研究資源の中で実現可能な範囲ではあるが,「死亡率」が高い分類について危険認知速度の累積構成率を用いてその要因分析を実施した.

なお,ここでは「死亡率」は「死者数」を「死傷者数」にて除することで算出している.

2.3 利用データの種別

ここでは,調査項目別に,全事故データまたは第1当事者と第2当事者(以下,「1当+2当」という)の事故データのいずれかを用いて分析をおこなった.

本調査で利用したデータの種別については,表 1~表6の最下段に明記した.

なお,当事者順位は,「過失の軽重」により,重い方を「先位当事者」,軽い方を「後位当事者」とすることが原則となっており,過失の程度が同程度の場合は,人身損傷の程度の軽い方が「先位当事者」,損傷の重い方が「後位当事者」となっている6).そのため,事故の当事者が2人の場合には,「先位当事者」は「第1当事者」となり,「後位当事者」は「第2当事者」となる.当事者が3人以上の場合には,この限りではない.

表1 調査項目と分類(時間・天候関連)

調査項目 分類
時間帯

0時台~1時台,2時台~3時台,4時台~5時台,6時台~7時台,・・・,22時台~23時台

(2時間刻みで全時刻)

昼夜 昼,夜
天候 晴,曇,雨,霧,雪
利用データ種別:全事故データ

表2 調査項目と分類(道路環境)

調査項目 分類
道路種別 高速道等,一般道等
市街地・非市街地 市街地,非市街地
路面状態 乾燥,湿潤,凍結,積雪,非舗装
道路形状 交差点,交差点付近,単路,踏切,一般交通の場所
車道幅員 単路5.5 m未満,単路5.5 m以上~9.0 m未満,単路9.0 m以上~13 m未満,単路13 m以上,交差点5.5 m未満,交差点5.5 m以上~13 m未満,交差点13 m以上,一般交通の場所
中央分離施設 中央分離帯あり,中央線あり,中央分離なし,一般交通の場所
歩車道区分 あり,なし
ゾーン規制 ゾーン30,規制なし
利用データ種別:全事故データ

表3 調査項目と分類(歩行者種別)

調査項目 分類
年齢 4歳以下,5歳~9歳,10歳~14歳,・・・,80歳~84歳,85歳~89歳,90歳以上(5歳刻みを基本とし,全年齢)
性別 男性,女性
利用データ種別:全事故データ

表4 調査項目と分類(衝突状況)

調査項目 分類
事故類型* <人対車両> 対面通行中,背面通行中,横断歩道横断中,その他横断中,路上(遊戯・作業・停止・横臥),人対車両その他
衝突相手(車種他)** バス・マイクロ,普通乗用車,軽乗用車,大型・中型貨物車,準中型貨物車,普通貨物車,軽貨物車,その他四輪車,自動二輪,原付自動車,自転車,歩行者,その他
衝突相手(年齢)**

15歳~19歳,20歳~24歳,・・・,80歳~84歳,85歳~89歳,90歳以上

(5歳刻みを基本とし,車両を運転して歩行者を死亡させる可能性のある15歳以上)

衝突相手(性別)** 男性,女性
危険認知速度** 10 km/h以下,10 km/h超~20 km/h以下,20 km/h超~30 km/h以下,30 km/h超~40 km/h以下,40 km/h超~50 km/h以下,50 km/h超~60 km/h以下,60 km/h超~70 km/h以下,70 km/h超~100 km/h以下,100 km/h超, 停止・不明等
利用データ種別:* 全事故データ,** 1当+2当の事故データ

表5 調査項目と分類(傷害関連)

調査項目 分類
損傷主部位 頭部,顔部,頚部,胸部,腹部,腰部,脚部,その他の部位
加害部位 車外部位,工作物,路面,その他
利用データ種別:全事故データ

表6 調査項目と分類(法令違反(歩行者)・飲酒関連(歩行者・衝突相手))

調査項目 分類
法令違反(歩行者) 法令違反(信号無視),法令違反(通行区分),法令違反(横断違反),法令違反(幼児の一人歩き),法令違反(踏切不注意),法令違反(酩酊,徘徊,寝そべり等),法令違反(路上遊戯),法令違反(路上作業),法令違反(飛び出し),法令違反(その他),調査不能,違反なし
飲酒(歩行者) あり,なし
飲酒(衝突相手) あり,なし
利用データ種別:1当+2当の事故データ

3. 調査結果

以下,調査項目ごとに結果を示す.なお,調査項目が多岐に渡ることもあり,ここでは単純に結果を報告するに留め,深い考察やさらなる調査などは今後の課題と位置付ける.

3.1 時間・天候関連

3.1.1 時間帯

「死者数」については,図3aに示すように「18時台~19時台」が最も多く(897人),次いで「16時台~17時台」(644人)となることが明らかになった.また,「死亡率」については,図3bに示すように「2時台~3時台」が最も高く(11.7%),次いで「4時台~5時台」(8.4%)となることが明らかになった.

加えて,危険認知速度の累積構成率について,死亡率が最も高い「2時台~3時台」の事故と,死者数が最も多い「18時台~19時台」の事故を比較してみると,図4に示すように「2時台~3時台」の方が全体的に高い速度域に分布していることが明らかになった.そのため,「2時台~3時台」の死亡率が高い要因の一つとして,危険認知速度の高さが考えられる.

a) 死者数

b) 死亡率

図3 2019年~2023年の死者数・死亡率(時間帯)

図4 2019年~2023年の危険認知速度の累積構成率(時間帯)

3.1.2 昼夜

前項の時間帯とは別にITARDAのデータベースで用いられている分類の「昼(日の出から日の入り まで)」,「夜(日の入りから日の出まで)」の視点で,歩行者の死亡事故実態を調査した.その結果,図5aに示すように「死者数」については「夜」の方が「昼」よりも多い状況であることが明らかになった(約2倍).また,「死亡率」についても,図5bに示すように「夜」の方が「昼」よりも高い状況であることが明らかになった(約3.2倍).

加えて,危険認知速度の累積構成率について,死亡率が相対的に高い「夜」の事故(4.1%)と,相対的に低い「昼」の事故(1.3%)を比較したところ,図6に示すように「夜」の方が全体的に高い速度域に分布していることが明らかになった.そのため,「夜」の死亡率が高い要因の一つとして,危険認知速度の高さが考えられた.

a) 死者数

b) 死亡率

図5 2019年~2023年の死者数・死亡率(昼夜)

図6 2019年~2023年の危険認知速度の累積構成率(死亡事故:昼夜)

3.1.3 天候

ここでは,天候の視点で,歩行者の死亡事故実態調査を行った.その結果,「死者数」については,図7aに示すように「晴」が最も多く(3,034人),次いで「曇」(1,158人)となることが明らかになった.また,「死亡率」については,図7bに示すように「霧」が最も高く(6.8%),次いで「曇」(3.0%)となることが明らかになった.ただし,「霧」の死者数は5人と極めて少ない為,死亡率の妥当性は低い可能性があることを補記する.

a) 死者数

b) 死亡率

図7 2019年~2023年の死者数・死亡率(天候)

3.2 道路環境

3.2.1 道路種別

ここでは,「道路種別」の視点で,歩行者の死亡事故実態を調査した.その結果,「死者数」については,図8aに示すように「一般道等」の方が「高速道等」よりも多いことが明らかになった(約70倍).また,「死亡率」については,図8bに示すように「高速道等」の方が「一般道等」よりも高いことが明らかになった(約7.9倍).

加えて,危険認知速度の累積構成率について,死亡率が相対的に高い「高速道等」の事故(19%)と,相対的に低い「一般道等」の事故(2.4%)を比較したところ,図9に示すように「高速道等」の方が全体的に高い速度域に分布していることが明らかになった.そのため,道路の性質上,当然の帰結と思われるが,「高速道等」の死亡率が高い要因の一つとして,危険認知速度の高さが考えられた.

a) 死者数

b) 死亡率

図8 2019年~2023年の死者数・死亡率(道路種別)

図9 2019年~2023年の危険認知速度の累積構成率(死亡事故:道路種別)

3.2.2 市街地・非市街地

ここでは,「市街地・非市街地」の視点で,歩行者の死亡事故実態を調査した.その結果,「死者数」については,図10aに示すように「市街地」の方が「非市街地」よりも多いことが明らかになった(約3倍).また,「死亡率」については,図10bに示すように「非市街地」の方が「市街地」よりも高いことが明らかになった(約2.4倍).

加えて,危険認知速度の累積構成率について,死亡率が相対的に高い「非市街地」の事故(4.8%)と,相対的に低い「市街地」の事故(2.0%)を比較したところ,図11に示すように「非市街地」の方が全体的に高い速度域に分布していることが明らかになった.そのため,「非市街地」の死亡率が高い要因の一つとして,危険認知速度の高さが考えられた.

a) 死者数

b) 死亡率

図10 2019年~2023年の死者数・死亡率(市街地・非市街地)

図11 2019年~2023年の危険認知速度の累積構成率(死亡事故:市街地・非市街地)

3.2.3 路面状態

ここでは,「路面状態」の視点で,歩行者の死亡事故実態を調査した.その結果,「死者数」については,図12aに示すように「乾燥」が最も多く(3,920人),次いで「湿潤」(782人)となることが明らかになった.また,「死亡率」については,図12bに示すように「凍結」が最も高く(3.8%),次いで「非舗装」(3.0%)となることが明らかになった.ただし,図12a に示すように「凍結」の死者数は24人と少ない為,死亡率の妥当性は低い可能性があることを補記する.

a) 死者数

b) 死亡率

図12 2019年~2023年の死者数・死亡率(路面状態)

3.2.4 道路形状

ここでは,「道路形状」の視点で,歩行者の死亡事故実態を調査した.その結果,「死者数」については,図13aに示すように「交差点」が最も多く(1,968人),次いで「単路」(1,858人)となることが明らかになった.また,「死亡率」については,図13bに示すように「交差点付近」が最も高く(5.5%),次いで「単路」(2.9%)となることが明らかになった.なお,「交差点付近」とは,基本的に交差点の側端から30メートル以内の道路の部分を指すことを補記する.

加えて,危険認知速度の累積構成率の比較の一例として,死亡率が相対的に高い「交差点付近」の事故(5.5%)と,相対的に低い「交差点」の事故(2.0%)を比較したところ,図14に示すように「交差点付近」の方が全体的に高い速度域に分布していることが明らかになった.そのため,「交差点付近」の死亡率が高い要因の一つとして,危険認知速度の高さが考えられた.

a) 死者数

b) 死亡率

図13 2019年~2023年の死者数・死亡率(道路形状)

図14 2019年~2023年の危険認知速度の累積構成率(死亡事故:道路形状(交差点,交差点付近))

3.2.5 車道幅員

ここでは,「車道幅員」の視点で,歩行者の死亡事故実態を調査した.その結果,「死者数」については,図15aに示すように「単路5.5 m以上~9.0 m未満」が最も多く(1,406人),次いで「交差点5.5 m以上~13 m未満」(1,325人)となることが明らかになった.また,「死亡率」については,図15bに示すように「単路13 m以上」が最も高く(8.7%),次いで「単路9.0 m以上~13 m未満」(5.7%)となることが明らかになった.なお,車道幅員とは,車道のみの幅員をいい,道路種別及び中央分離帯等の有無にかかわらず,すべて(上下線)の車道の合計幅員をいう.

加えて,危険認知速度の累積構成率の比較の一例として,死亡率が相対的に高い「単路13 m以上」の事故(8.7%)と,相対的に低い「単路5.5 m以上~9.0 m未満」の事故(3.9%)を比較したところ,図16に示すように「単路13 m以上」の方が全体的に高い速度域に分布していることが明らかになった.そのため,「単路13 m以上」の死亡率が高い要因の一つとして,危険認知速度の高さが考えられた.

a) 死者数

b) 死亡率

図15 2019年~2023年の死者数・死亡率(車道幅員)

図16 2019年~2023年の危険認知速度の累積構成率

(死亡事故:単路13 m以上,単路5.5 m以上~9.0 m未満)

3.2.6 中央分離施設

ここでは,「中央分離施設」の視点で,歩行者の死亡事故実態を調査した.その結果,「死者数」については,図17aに示すように「中央線あり」が最も多く(2,720人),次いで「中央分離なし」(1,465人)となることが明らかになった.また,「死亡率」については,図17bに示すように「中央線あり」が最も高く(3.5%),次いで「中央分離帯あり」(3.2%)となることが明らかになった.

加えて,危険認知速度の累積構成率の比較の一例として,死亡率が相対的に高い「中央線あり」の事故(3.5%)と,相対的に低い「中央分離なし」の事故(1.8%)を比較したところ,図18に示すように「中央線あり」の方が比較的に高い速度分布であることが明らかになった.そのため,「中央線あり」の死亡率が高い要因の一つとして,危険認知速度の高さが考えられた.

a) 死者数

b) 死亡率

図17 2019年~2023年の死者数・死亡率(中央分離施設)

図18 2019年~2023年の危険認知速度の累積構成率

(死亡事故:中央線あり,中央分離なし)

3.2.7 歩車道区分

ここでは,「歩車道区分」の視点で,歩行者の死亡事故実態を調査した.その結果,「死者数」については,図19aに示すように「歩車道区分あり」の方が「歩車道区分なし」よりも多いことが明らかになった(約7.6倍).また,「死亡率」についても,図19bに示すように「歩車道区分あり」の方が「歩車道区分なし」よりも高いことが明らかになった(約2.6倍).

加えて,危険認知速度の累積構成率について,死亡率が相対的に高い「歩車道区分あり」の事故(2.8%)と,相対的に低い「歩車道区分なし」(1.1%)の事故を比較したところ,図20に示すように「歩車道区分あり」の方が比較的に高い速度分布であることが明らかになった.そのため,「歩車道区分あり」の死亡率が高い要因の一つとして,危険認知速度の高さが考えられた.

a) 死者数

b) 死亡率

図19 2019年~2023年の死者数・死亡率(歩車道区分)

図20 2019年~2023年の危険認知速度の累積構成率(死亡事故:歩車道区分)

3.2.8 ゾーン規制

ここでは,「ゾーン規制」の視点で,歩行者の死亡事故実態を調査した.その結果,「死者数」については,図21aに示すように「規制なし」の方が「ゾーン30」よりも多いことが明らかになった(約226倍).また,「死亡率」についても,図21bに示すように「規制なし」の方が「ゾーン30」よりも高いことが明らかになった(約4倍).ただし,「ゾーン30」の死者数は21人と少ない為,死亡率の妥当性は低い可能性があることを補記する.

a) 死者数

b) 死亡率

図21 2019年~2023年の死者数・死亡率(ゾーン規制)

3.3 歩行者種別

3.3.1 年齢

ここでは,「年齢」の視点で,歩行者の死亡事故実態を調査した.その結果,「死者数」については,図22aに示すように「80歳~84歳」が最も多く(844人),次いで「85歳~89歳」(723人)となることが明らかになった.さらに,「75歳~79歳」と「90歳以上」を合わせると,医療制度などで後期高齢者と定義される「75歳以上」が死者数の半数を占めていることも合わせて確認できる.また,「死亡率」については,図22bに示すように「90歳以上」が最も高く(12.3%),次いで「85歳~89歳」(8.0%)となることが明らかになった.

加えて,危険認知速度の累積構成率を比較する一例として,「75歳~79歳」,「80歳~84歳」,「85歳~89歳」,および「90歳以上」までを合算して後期高齢者の「75歳以上」とした場合と,「60歳~64歳」の場合とを比較すると,図23に示すように後期高齢者の「75歳以上」の方が全体的に低い速度域に分布していることが明らかになった.そのため,「75歳以上」の死亡率が高い要因の一つとして,危険認知速度の高さ以外の要因があるものと考えられる.

a) 死者数

b) 死亡率

図22 2019年~2023年の死者数・死亡率(年齢)

図23 2019年~2023年の危険認知速度の累積構成率(死亡事故:75歳以上,60歳~64歳)

3.3.2 性別

ここでは,「性別」の視点で,歩行者の死亡事故実態を調査した.その結果,「死者数」については,図24aに示すように「男性」の方が「女性」よりも1.1倍多い程度であり,大きな差が無いことが明らかになった.また,「死亡率」については,図24bに示すように「男性」と「女性」で同等であることが明らかになった.

加えて,危険認知速度の累積構成率について,死亡率が同等の「男性」の事故と「女性」の事故を比較したところ,図25に示すように「男性」の方が全体的に高い速度域に分布していることが明らかになった.そのため,「男性」と「女性」で死亡率が同等である要因は,危険認知速度分布の同等性ではないことが明らかになった.

a) 死者数

b) 死亡率

図24 2019年~2023年の死者数・死亡率分布(性別)

図25 2019年~2023年の危険認知速度の累積構成率(死亡事故:性別)

3.4 衝突状況

3.4.1 事故類型

ここでは,「事故類型」の視点で,歩行者の死亡事故実態を調査した.その結果,「死者数」については,図26aに示すように「その他横断中」が最も多く(2,093人),次いで「横断歩道横断中」(1,115人)となることが明らかになった.また,「死亡率」については,図26bに示すように「路上」が最も高く(7.8%),次いで「その他横断中」(4.6%)となることが明らかになった.

加えて,危険認知速度の累積構成率の比較の一例として,死亡率が相対的に高い「路上」の事故(7.8%)と,相対的に低い「横断歩道横断中」の事故(1.7%)を比較したところ,図27に示すように「路上」の方が全体的に高い速度域に分布していることが明らかになった.そのため,「路上」の死亡率が高い要因の一つとして,危険認知速度の高さが考えられた.

a) 死者数

b) 死亡率

図26 2019年~2023年の死者数・死亡率(事故類型)

図27 2019年~2023年の危険認知速度の累積構成率

(死亡事故:事故類型(横断歩道横断中,路上(遊戯・作業・停止・横臥))

3.4.2 衝突相手(車両他)

ここでは,「衝突相手(車両他)」の視点で,歩行者の死亡事故実態を調査した.その結果,「死者数」については,図28aに示すように「普通乗用車」が最も多く(1,860人),次いで「軽乗用車」(1,216人)となることが明らかになった.また,「死亡率」については,図28bに示すように「大型・中型貨物車」が最も高く,次いで「その他四輪車」となることが明らかになった.

加えて,危険認知速度の累積構成率の比較の一例として,死亡率が相対的に高い「大型・中型貨物車」の事故(14.2%)と,相対的に低い「普通乗用車」の事故(2.0%)を比較したところ,図29に示すように必ずしも「大型・中型貨物車」の方が高い速度域に分布しているとはいえず,逆に30 km/h以下では「大型・中型貨物車」の方が危険認知速度が低い速度域に分布していることが明らかになった.そのため,「大型・中型貨物車」の死亡率の高さの要因の一つとして,危険認知速度以外の要因も存在すると考えられた.

a) 死者数

b) 死亡率

図28 2019年~2023年の死者数・死亡率(衝突相手(車両他))

図29 2019年~2023年の危険認知速度の累積構成率

(死亡事故:衝突相手(大型・中型貨物車,普通乗用車))

3.4.3 衝突相手(年齢)

ここでは,「衝突相手(年齢)」の視点で,歩行者の死亡事故実態を調査した.その結果,「死者数」については,図30aに示すように,歩行者に対する衝突相手が「45歳~49歳」が最も多く(589人),次いで「50歳~54歳」(532人)となることが明らかになった.また,「死亡率」については,図30bに示すように,歩行者に対する衝突相手が「25歳~29歳」が最も高く(3.2%),次いで「45歳~49歳」(3.1%)となることが明らかになった.

加えて,危険認知速度の累積構成率の比較の一例として,死亡率が相対的に高い歩行者に対する衝突相手が「25歳~29歳」の事故(3.2%)と,相対的に低い「60歳~64歳」の事故(2.5%)を比較したところ,図31に示すように「25歳~29歳」の方が比較的に高い速度域に分布していることが明らかになった.そのため,歩行者に対する衝突相手が「25歳~29歳」の場合の死亡率が高い要因の一つとして,危険認知速度の高さが考えられた.

a) 死者数

b) 死亡率

図30 2019年~2023年の死者数・死亡率(衝突相手(年齢))

図31 2019年~2023年の危険認知速度の累積構成率(死亡事故:衝突相手(25歳~29歳,60歳~64歳))

3.4.4 衝突相手(性別)

ここでは,「衝突相手(性別)」の視点で,歩行者の死亡事故実態を調査した.その結果,「死者数」については,図32aに示すように,歩行者に対する衝突相手が「男性」の方が「女性」よりも多いことが明らかになった(約3.7倍).また,「死亡率」についても,図32bに示すように,歩行者に対する衝突相手が「男性」の方が「女性」よりも高いことが明らかになった(約1.6倍).

加えて,危険認知速度の累積構成率について,死亡率が相対的に高い歩行者に対する衝突相手が「男性」の事故(2.8%)と,相対的に低い「女性」の事故(1.8%)を比較したところ,図33に示すように「男性」の方が比較的に高い速度域に分布していることが明らかになった.そのため,歩行者に対する衝突相手が「男性」の場合の死亡率が高い要因の一つとして,危険認知速度の高さが考えられた.

a) 死者数

b) 死亡率

図32 2019年~2023年の死者数・死亡率(衝突相手(性別))

図33 2019年~2023年の危険認知速度の累積構成率(死亡事故:衝突相手(性別))

3.4.5 危険認知速度

ここでは,「危険認知速度」の視点で,歩行者の死亡事故実態を調査した.その結果,「死者数」については,図34aに示すように「50 km/h以下」が最も多く(1,178人),次いで「40 km/h以下」(911人)となることが明らかになった.また,「死亡率」については,図34bに示すように「100 km/h以下」が最も高く(57.1%),次いで「100 km/超」(53.3%)となることが明らかになった.

a) 死者数

b) 死亡率

図34 2019年~2023年の死者数・死亡率(危険認知速度)

3.5 傷害関連

3.5.1 損傷主部位

ここでは,「損傷主部位」の視点で,歩行者の死亡事故実態を調査した.その結果,「死者数」については,図35aに示すように「頭部」が最も多く(2,483人),次いで「胸部」(983人)となることが明らかになった.また,「死亡率」については,図35bに示すように「胸部」が最も高く(10.5%),次いで「頭部」(8.3%)となることが明らかになった.

加えて,危険認知速度の累積構成率の比較の一例として,死亡率が相対的に高い「胸部」の事故(10.5%)と,相対的に低い「頭部」の事故(8.3%)を比較したところ,図36に示すように「胸部」の方が比較的に低い速度域に分布していることが明らかになった.そのため,「胸部」の死亡率が高い要因の一つに,危険認知速度以外の要因があると考えられた.

a) 死者数

b) 死亡率

図35 2019年~2023年の死者数・死亡率(損傷主部位)

図36 2019年~2023年の危険認知速度の累積構成率(死亡事故:損傷主部位(頭部,胸部))

3.5.2 加害部位

ここでは,「加害部位」の視点で,歩行者の死亡事故実態を調査した.その結果,「死者数」については,図37aに示すように「車外部位」が最も多く(3,628人),次いで「路面」(1,025人)となることが明らかになった.また,「死亡率」については,図37bに示すように「車外部位」が最も高く(3.1%),次いで「工作物」(2.3%)となることが明らかになった.

加えて,危険認知速度の累積構成率の比較の一例として,死亡率が相対的に高い「車外部位」の事故(3.1%)と,相対的に低い「路面」の事故(1.5%)を比較したところ,図38に示すように「車外部位」の方が全体的に高い速度域に分布していることが明らかになった.そのため,「車外部位」の死亡率が高い要因の一つとして,危険認知速度の高さが考えられた.

a) 死者数

b) 死亡率

図37 2019年~2023年の死者数・死亡率(加害部位)

図38 2019年~2023年の危険認知速度の累積構成率(死亡事故:加害部位(車外部位,路面))

3.6 法令違反(歩行者)・飲酒関連(歩行者・衝突相手)

3.6.1 法令違反(歩行者)

ここでは,「法令違反(歩行者)」の視点で,歩行者の死亡事故実態を調査した.その結果,「死者数」については,図39aに示すように「違反なし」が最も多く(2,001人),次いで「法令違反(横断違反)」(1,272人)となることが明らかになった.また,「死亡率」については,図39bに示すように「法令違反(酩酊,徘徊,寝そべり等)」が最も高く(34.4%),次いで「法令違反(踏切不注意)」(33.3%)となることが明らかになった.

a) 死者数

b) 死亡率

図39 2019年~2023年の死者数・死亡率(法令違反(歩行者))

3.6.2 飲酒(歩行者)

ここでは,「飲酒(歩行者)」の観点で,歩行者の死亡事故実態を調査した.その結果,「死者数」については,図40aに示すように「飲酒なし」の方が「飲酒あり」よりも多いことが明らかになった(約5.2倍).また,「死亡率」については,図40bに示すように「飲酒あり」の方が「飲酒なし」よりも高いことが明らかになった(約5.0倍).

加えて,危険認知速度の累積構成率について,死亡率が相対的に高い「飲酒あり」の事故(10.6%)と,相対的に低い「飲酒なし」の事故(2.1%)を比較したところ,図41に示すように「飲酒あり」の方が全体的に高い速度域に分布していることが明らかになった.そのため,「飲酒あり」の死亡率が高い要因の一つとして,危険認知速度の高さが考えられた.

a) 死者数

b) 死亡率

図40 2019年~2023年の死者数・死亡率(飲酒(歩行者))

図41 2019年~2023年の危険認知速度の累積構成率(死亡事故:飲酒(歩行者))

3.6.3 飲酒(衝突相手)

ここでは,「飲酒(衝突相手)」の視点で,歩行者の死亡事故実態を調査した.その結果,「死者数」については,図42aに示すように「飲酒なし」の方が「飲酒あり」よりも多いことが明らかになった(約48倍).また,「死亡率」については,図42bに示すように「飲酒あり」の方が「飲酒なし」よりも高いことが明らかになった(約3.5倍).

加えて,危険認知速度の累積構成率について,死亡率が相対的に高い「飲酒あり」の事故(8.7%)と,「飲酒なし」の事故(2.5%)を比較したところ,図43に示すように「飲酒あり」の方が全体的に高い速度域に分布していることが明らかになった.そのため,「飲酒あり」の死亡率が高い要因の一つとして,危険認知速度の高さが考えられた.

a) 死者数

b) 死亡率

図42 2019年~2023年の死者数・死亡率(飲酒(衝突相手))

図43 2019年~2023年の危険認知速度の累積構成率(死亡事故:飲酒(衝突相手))

4. おわりに

本稿では,近年の歩行者の死亡事故実態について,さまざまな視点で調査した結果を紹介した.具体的には,時間,天候,道路環境,歩行者種別,衝突状況,傷害関連,法令違反,飲酒関連といった視点で,「死者数」の多い分類を明らかとするとともに,相対的に危険度が高いと考えられる事故を把握するため「死亡率」の高い分類についても明らかとした.さらに限られた研究資源の中で実現可能な範囲ではあるが,「死亡率」が高い分類について危険認知速度の累積構成率を用いて,その要因分析を実施した.

今後は本稿が安全対策を検討するうえでの“きっかけ”となり,さらなる深堀調査や事故実態に基づいた安全対策の検討などに役立つことを願う.

References
 
© Japan Automobile Research Institute
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